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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】物体検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 15/46 20060101AFI20241008BHJP
   G01S 15/93 20200101ALI20241008BHJP
【FI】
G01S15/46
G01S15/93
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020102595
(22)【出願日】2020-06-12
(65)【公開番号】P2021196251
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々 浩一
(72)【発明者】
【氏名】菅江 一平
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-080648(JP,A)
【文献】特開2018-105700(JP,A)
【文献】特開2011-128120(JP,A)
【文献】特開平11-271433(JP,A)
【文献】特開2018-115936(JP,A)
【文献】特開平05-197428(JP,A)
【文献】特開2019-074424(JP,A)
【文献】特開2019-196994(JP,A)
【文献】米国特許第04833469(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/64
G01S 13/00 - 17/95
G01C 3/00 - 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1送受信部から送信された送信波が物体に反射され前記第1送受信部により受信された直接波に基づき算出される第1距離情報と、前記第1送受信部とは異なる位置に配置された第2送受信部から送信された送信波が物体に反射され前記第1送受信部により受信された間接波に基づき算出される第2距離情報とに基づき、物体の位置を検出するための三辺測量演算を行う三辺測量演算部と、
前記直接波に基づき算出される物体の速度を示す第1速度情報と、前記間接波に基づき算出される物体の速度を示す第2速度情報との差が所定範囲を超える場合に、前記三辺測量演算を禁止する禁止処理部と、
を備える物体検出装置。
【請求項2】
前記第1速度情報は、前記直接波に基づき算出されるドップラーシフト量であり、
前記第2速度情報は、前記間接波に基づき算出されるドップラーシフト量である、
請求項1に記載の物体検出装置。
【請求項3】
前記第1速度情報は、前記直接波に基づき算出されるドップラーシフト量に基づく相対速度であり、
前記第2速度情報は、前記間接波に基づき算出されるドップラーシフト量に基づく相対速度である、
請求項1に記載の物体検出装置。
【請求項4】
閾値を超える信号レベルの前記直接波又は前記間接波を検出することにより、前記第1距離情報又は前記第2距離情報を取得する取得部と、
所定期間に複数の前記第1距離情報又は前記第2距離情報が取得された場合に、前記第1距離情報又は前記第2距離情報の優先順位を、前記第1距離情報又は前記第2距離情報に対応する信号レベルと前記閾値との差が大きい程高くなるように設定するソート処理部と、
複数の前記第1距離情報又は前記第2距離情報を前記優先順位が高い順に出力する出力制御部と、
を更に備える請求項1~3のいずれか1項に記載の物体検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物体検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波、ミリ波等の送信波を送信し、物体からの反射波を受信することにより物体を検出する装置において、三辺測量演算を利用して物体の位置を検出する技術が利用されている。
【0003】
例えば、長距離センサを利用するシステムにおいて、実際には物体が存在しない位置(虚像)の検出を防ぐことを目的として、2つのセンサの組合せを複数設定し、組合せ毎に三辺測量演算を行う構成が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-4562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような三辺測量演算は、互いに異なる位置に配置された複数のセンサ(送受信部)により取得される直接波と間接波とを利用して行うことができる。直接波とは、第1送受信部から送信された送信波が物体により反射され第1送受信部により受信された反射波である。間接波とは、第1送受信部とは異なる位置に配置された第2送受信部から送信された送信波が物体により反射され第1送信部により受信された反射波である。しかし、物体が複数存在する場合や、物体が相対的に移動している場合等には、直接波に対応する物体と間接波に対応する物体とが異なり、三辺測量演算の結果として虚像が検出される可能性が高くなる。
【0006】
そこで、本開示の課題の一つは、三辺測量による物体の検出精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一例としての物体検出装置は、第1送受信部から送信された送信波が物体に反射され第1送受信部により受信された直接波に基づき算出される第1距離情報と、第1送受信部とは異なる位置に配置された第2送受信部から送信された送信波が物体に反射され第1送受信部により受信された間接波に基づき算出される第2距離情報とに基づき、物体の位置を検出するための三辺測量演算を行う三辺測量演算部と、直接波に基づき算出される物体の速度を示す第1速度情報と、間接波に基づき算出される物体の速度を示す第2速度情報との差が所定範囲を超える場合に、三辺測量演算を禁止する禁止処理部と、を備えるものである。
【0008】
上記構成によれば、直接波に基づく第1速度情報と間接波に基づく第2速度情報との差が大きい場合には、直接波に基づく第1距離情報と間接波に基づく第2距離情報とに基づく三辺測量演算が実行されない。これにより、信頼度が高い距離情報のみを用いて三辺測量演算を行うことができるので、虚像の検出を抑制することが可能となり、物体の検出精度を向上させることが可能となる。
【0009】
また、上記物体検出装置において、第1速度情報は、直接波に基づき算出されるドップラーシフト量であり、第2速度情報は、間接波に基づき算出されるドップラーシフト量であってもよい。
【0010】
また、上記物体検出装置において、第1速度情報は、直接波に基づき算出されるドップラーシフト量に基づく相対速度であり、第2速度情報は、間接波に基づき算出されるドップラーシフト量に基づく相対速度であってもよい。
【0011】
また、上記物体検出装置は、閾値を超える信号レベルの直接波又は間接波を検出することにより、第1距離情報又は第2距離情報を取得する取得部と、所定期間に複数の第1距離情報又は第2距離情報が取得された場合に、第1距離情報又は第2距離情報の優先順位を、第1距離情報又は第2距離情報に対応する信号レベルと閾値との差が大きい程高くなるように設定するソート処理部と、複数の第1位距離情報又は第2距離情報を優先順位が高い順に出力する出力制御部と、を更に備えてもよい。
【0012】
第1距離情報又は第2距離情報に対応する信号レベルと閾値との差が大きい程、当該第1距離情報又は第2距離情報の信頼度が高いと判断できる。そのため、上記構成によれば、信頼度が高い第1距離情報又は第2距離情報を優先的に用いて三辺測量演算を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、第1実施形態に係る車両制御システムを備えた車両の外観の一例を示す上面図である。
図2図2は、第1実施形態に係る車両制御システムのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図3図3は、第1実施形態に係る物体検出装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図4図4は、第1実施形態に係るTOF法の概要を説明するための図である。
図5図5は、第1実施形態に係るソート処理部による処理の一例を示す図である。
図6図6は、第1実施形態に係るソート処理部による処理の他例を示す図である。
図7図7は、第1実施形態に係る距離情報取得部及び出力制御部による処理の一例を示すフローチャートである。
図8図8は、第1実施形態に係る送受信部から送信された送信波と物体からの反射波との間に生じるドップラーシフトの一例を示す図である。
図9図9は、本実施形態に係る演算部による処理の一例を示すフローチャートである。
図10図10は、第2実施形態に係る物体検出装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。以下に記載する実施形態の構成、並びに当該構成によってもたらされる作用及び効果は、あくまで一例であって、以下の記載内容に限られるものではない。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る車両制御システムを備えた車両1の外観の一例を示す上面図である。車両制御システムは、車両1の周囲に存在する物体を検出する物体検出装置、物体検出装置による検出結果に基づき車両1を制御するECU(Electronic Control Unit)等を備えるシステムである。
【0016】
本実施形態に係る物体検出装置は、車両1から超音波等の送信波を送信し、物体からの反射波を受信することにより取得されるTOF(Time Of Flight)情報、ドップラーシフト情報等に基づき、車両1の周囲に存在する物体(他車両、障害物、人等)に関する情報(物体の存否、物体の位置等)を検出する装置である。
【0017】
本実施形態に係る物体検出装置は、複数の送受信部21A~21L(以下、これらの総称として送受信部21と記載する場合がある。)を有する。各送受信部21は、車両1の外装としての車体2に設置され、車体2の外側へ向けて送信波を送信し、車体2の外側に存在する物体からの反射波を受信する。図1に示す例では、車体2の前端部に4つの送受信部21A~21Dが配置され、後端部に4つの送受信部21E~21Hが配置され、右側面部に2つの送受信部21I,21Jが配置され、左側面部に2つの送受信部21K,21Lが配置されている。なお、送受信部21の数及び設置位置は上記例に限定されるものではない。
【0018】
図2は、第1実施形態に係る車両制御システム10のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。本実施形態に係る車両制御システム10は、物体検出装置11及びECU12を有する。
【0019】
物体検出装置11は、複数の送受信部21及び制御部22を有する。
【0020】
図2に例示する各送受信部21は、圧電素子等を利用して構成される振動子31を有し、振動子31の振動により超音波の送受信を実現するものである。具体的には、各送受信部21は、振動子31の振動に応じて発生する超音波を送信波として送信し、当該送信波が物体Xにより反射された反射波によりもたらされる振動子31の振動を検出する。
【0021】
各送受信部21は、自らが送信した送信波に対応する反射波だけでなく、他の送受信部21が送信した送信波に対応する反射波を受信することができる。例えば、図2に示すように、第1送受信部21Aは、第1送受信部21Aから送信された送信波25Aが物体Xにより反射された反射波である直接波26Aと、第2送受信部21Bから送信された送信波25Bが物体Xにより反射された反射波である間接波26Bとを受信する。直接波26Aと間接波26Bとを識別可能にするために、各送信波には適宜な識別化処理(例えば、周波数変調、位相変調等)が施されている。直接波26A及び間接波26Bのそれぞれから、物体Xまでの距離を示すTOF情報、物体Xの速度(相対速度)を示すドップラーシフト情報等を取得することができる。
【0022】
なお、直接波と間接波との関係は、上記例に限定されるものではない。第1送受信部21Aは、物理的に間接波を受信可能な位置関係にある他の送受信部21(例えば、第3送受信部21C、第9送受信部21I等)から間接波を受信するものであってもよい。また、間接波を受信できるのは第1送受信部21Aに限定されるものではなく、他の送受信部21B~21Lも同様に間接波を受信可能であってもよい。また、図2に示す例では、送信波の送信と反射波(直接波及び間接波)の受信との両方が単一の振動子31を利用して行われる構成が例示されているが、送受信部21の構成はこれに限定されるものではない。例えば、送信波の送信用の第1振動子と反射波の受信用の第2振動子とが個別に設けられた構成のように、送信側と受信側とが分離された構成であってもよい。
【0023】
制御部22は、入出力装置41、記憶装置42、及びプロセッサ43を有する。入出力装置41は、制御部22と外部(送受信部21、ECU12等)との間で情報の送受信を実現するためのインターフェースデバイスである。記憶装置42は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の主記憶装置、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等の補助記憶装置を含んでいる。プロセッサ43は、制御部22の機能を実現するための各種処理を実行する集積回路であり、例えばプログラムに従い動作するCPU(Central Processing Unit)、特定用途向けに設計されたASIC(Application Specific Integrated Circuit)等を含んでいる。プロセッサ43は、記憶装置42に記憶されたプログラムを読み出して実行することで各種の演算処理及び制御処理を実行する。
【0024】
ECU12は、物体検出装置11等から取得される各種情報に基づき、車両1を制御するための各種処理を行うユニットである。ECU12は、入出力装置51、記憶装置52、及びプロセッサ53を有する。入出力装置51は、ECU12と外部(物体検出装置11、駆動機構、制動機構、操舵機構等)との間で情報の送受信を実現するためのインターフェースデバイスである。記憶装置52は、ROM、RAM等の主記憶装置、HDD、SSD等の補助記憶装置を含んでいる。プロセッサ53は、ECU12の機能を実現するための各種処理を実行する集積回路であり、例えばCPU、ASIC等を含んでいる。プロセッサ53は、記憶装置52に記憶されたプログラムを読み出して各種の演算処理及び制御処理を実行する。
【0025】
図3は、第1実施形態に係る物体検出装置11の機能構成の一例を示すブロック図である。物体検出装置11は、距離情報取得部101、出力制御部102、及び演算部103を有する。これら各機能部101~103は、図2に示すような物体検出装置11のハードウェア構成要素、及びプログラム等のソフトウェア要素の協働により実現される。
【0026】
距離情報取得部101は、各送受信部21により受信された反射波(直接波及び間接波)の信号レベル(受信強度)の経時的変化に基づき、送受信部21から物体Xまでの距離を示す距離情報を取得する。距離情報とは、例えば、TOF、TOFから算出される距離等である。例えば、距離情報取得部101は、各送受信部21が受信した直接波に基づき算出されるTOFである直接TOFと、各送受信部21が受信した間接波に基づき算出されるTOFである間接TOFとを取得する。
【0027】
出力制御部102は、距離情報取得部101により取得された距離情報の出力を制御する。本実施形態に係る出力制御部102は、複数の距離情報を優先順位(信頼度)が高い順に出力するための処理を行う。出力制御部102は、ソート処理部111を有する。
【0028】
ソート処理部111は、所定期間に複数の距離情報が取得された場合に、距離情報の優先順位を、距離情報に対応する反射波(直接波又は間接波)の信号レベルと、所定の閾値との差が大きい程高くなるように設定する。出力制御部102は、複数の距離情報を優先順位が高い順に演算部103に出力する。所定期間とは、例えば、送信波が送信されてから次の送信波が送信されるまでの期間(1回分の検出周期)等であり得る。所定の閾値とは、例えば、検出対象の物体(例えば他車両、人等)と検出対象外の物体(例えば路面等)とを区別するために設定された閾値等であり得る。
【0029】
反射波の信号レベルと閾値との差が大きい程、検出された距離情報の信頼度が高いと判断できる。そのため、上記差に基づき複数の距離情報の優先順位(出力順)を設定することにより、信頼度が高い距離情報を優先的に出力することが可能となる。
【0030】
演算部103は、出力制御部102から出力された距離情報を用いて、車両1の周囲に存在する物体に関する情報を生成するための演算を行う。本実施形態に係る演算部103は、三辺測量演算部121、速度情報取得部122、及び禁止処理部123を有する。
【0031】
三辺測量演算部121は、直接波に基づき算出された第1距離情報と、間接波に基づき算出された第2距離情報とに基づき、物体の位置を検出するための三辺測量演算を行う。第1距離情報は、上記直接TOF等である。第2距離情報は、上記間接TOF等である。
【0032】
速度情報取得部122は、直接波に基づく第1速度情報と、間接波に基づく第2速度情報とを取得する。第1速度情報は、直接波に基づき算出されるドップラーシフト量、当該ドップラーシフト量に基づき算出される相対速度等であり得る。第2速度情報は、間接波に基づき算出されるドップラーシフト量、当該ドップラーシフト量に基づき算出される相対速度等であり得る。
【0033】
禁止処理部123は、上記第1速度情報と上記第2速度情報との差が所定範囲を超える場合に、三辺測量演算部121による、第1距離情報と第2距離情報とに基づく三辺測量演算の実行を禁止する。
【0034】
直接波に基づく第1速度情報と間接波に基づく第2速度情報との誤差が大きい場合、直接波により捉えられた物体と間接波により捉えられた物体とが異なっている可能性が高い。このような場合、直接波に基づく第1距離情報と間接波に基づく第2距離情報とを用いて行われる三辺測量演算の精度は低いものとなる。そのため、上記のような禁止処理部123による処理を行うことにより、精度が低い三辺測量演算の実施を抑制することが可能となる。
【0035】
本実施形態に係る物体検出装置11は、超音波を用いたTOF法により物体を検出する。TOF法とは、送信波が送信された(より具体的には送信され始めた)タイミングと、反射波が受信された(より具体的には受信され始めた)タイミングとの差に基づき、物体までの距離を算出する技術である。
【0036】
図4は、第1実施形態に係るTOF法の概要を説明するための図である。図4には、送受信部21が送受信する超音波の信号レベルの経時的変化を示す包絡線が示されている。図4に示すブラフにおいて、横軸は時間に対応し、縦軸は信号レベルに対応する。
【0037】
実線L11は、送受信部21が送受信する信号の信号レベル、つまり振動子31の振動の度合の経時的変化を表す包絡線の一例を表している。この実線L11からは、振動子31がタイミングt0から時間Taだけ駆動されて振動することで、タイミングt1で送信波の送信が完了し、その後タイミングt2に至るまでの時間Tbの間、慣性による振動子31の振動が減衰しながら継続する、ということが読み取れる。従って、図4に示されるグラフにおいては、時間Tbが、いわゆる残響時間に対応する。
【0038】
実線L11は、送信波の送信が開始したタイミングt0から時間Tpだけ経過したタイミングt4で、振動子31の振動の度合が、一点鎖線L21で表される所定の閾値を超える(又は以上になる)ピークを迎える。この閾値は、振動子31の振動が、検出対象の物体からの反射波の受信によってもたらされたものか、又は、検出対象外の物体からの反射波の受信によってもたらされたものか、を識別するために予め設定された値である。なお、ここでは一点鎖線L21で表させる閾値が時間経過によらず変化しない一定値として設定された例が示されているが、当該閾値は、時間経過とともに変化する値として設定されてもよい。
【0039】
一点鎖線L21で表される閾値を超えた(又は以上の)ピークを有する振動は、検出対象の物体からの反射波の受信によってもたらされたものだとみなすことができる。一方、閾値以下の(又は未満の)ピークを有する振動は、検出対象外の物体からの反射波の受信によってもたらされたものだとみなすことができる。従って、実線L11からは、タイミングt4における振動子31の振動が、検出対象の物体からの反射波の受信によってもたらされたものである、ということが読み取れる。
【0040】
なお、実線L11においては、タイミングt4以降で、振動子31の振動が減衰している。従って、タイミングt4は、検出対象の物体からの反射波の受信が完了したタイミング、換言すればタイミングt1で最後に送信された送信波が反射波として戻ってくるタイミング、に対応する。
【0041】
また、実線L11において、タイミングt4におけるピークの開始点としてのタイミングt3は、検出対象の物体からの反射波の受信が開始したタイミング、換言すればタイミングt0で最初に送信された送信波が反射波として戻ってくるタイミング、に対応する。従って、タイミングt3とタイミングt4との間の時間ΔTが、送信波の送信時間としての時間Taと等しくなる。
【0042】
上記を踏まえて、TOF法により検出対象の物体までの距離を求めるためには、送信波が送信され始めたタイミングt0と反射波が受信され始めたタイミングt3との間の時間Tfを求めることが必要となる。この時間Tfは、タイミングt0と反射波の信号レベルが閾値を超えたピークを迎えるタイミングt4との差分としての時間Tpから、送信波の送信時間としての時間Taに等しい時間ΔTを差し引くことで求めることができる。
【0043】
送信波が送信され始めたタイミングt0は、物体検出装置11が動作を開始したタイミングとして容易に特定することができ、送信波の送信時間としての時間Taは、設定等によって予め決められている。従って、反射波の信号レベルが閾値を超えたピークを迎えるタイミングt4を特定することにより、検出対象の物体までの距離を求めることが可能となる。
【0044】
本実施形態に係る距離情報取得部101は、各送受信部21から取得される直接波及び間接波のそれぞれについて上記のような処理を行い、直接波に基づく直接TOF(第1距離情報)と間接波に基づく間接TOF(第2距離情報)とを取得する。そして、本実施形態に係るソート処理部111は、所定期間に複数のTOF(直接TOF又は間接TOF)が取得された場合に、各TOFの優先順位を、TOFに対応する信号レベルと閾値との差が大きい程高くなるように設定する。そして、本実施形態に係る出力制御部102は、複数のTOFを設定された優先順位が高い順に演算部103に出力する。
【0045】
図5は、第1実施形態に係るソート処理部111による処理の一例を示す図である。図5において、1回分の検出周期における反射波(直接波又は間接波)の信号レベルの経時的変化を示す包絡線Lと、TOF(直接TOF又は間接TOF)を検出するための閾値を示す閾値線Lthとが示されている。図5において、1回分の検出周期において4つのTOF1~TOF4に対応する4つのピークP1~P4が検出された例が示されている。
【0046】
図5に示すように、TOF1~TOF4のソート前の優先順位は、送信波が送信されたタイミングt0からそれぞれに対応するピークP1~P4が検出されるまでの経過時間が短い順、すなわちピークP1~P4が検出された時刻に基づき定められている。この場合、4つのTOF1~TOF4は、TOF1→TOF2→TOF3→TOF4の順で演算部103に出力されることとなる。
【0047】
これに対し、TOF1~TOF4のソート後の優先順位は、包絡線L上の各ピークP1~P4の信号レベルと、閾値線Lthが表す閾値との差ΔAが大きい順に定められている。この場合、4つのTOF1~TOF4は、TOF3→TOF1→TOF4→TOF2の順で演算部103に出力されることとなる。
【0048】
差ΔAが大きい程、検出されたピークが検出対象の物体に対応するものである可能性が高い(路面クラッタ等のノイズに起因するものである可能性が低い)と判断できる。そのため、上記のように差ΔAに基づき各TOF1~TOF4の優先順位(出力順)を設定することにより、信頼度が高いTOFを優先的に演算部103へ出力することが可能となる。
【0049】
図6は、第1実施形態に係るソート処理部111による処理の他例を示す図である。図6において、1回分の検出周期における反射波(直接波又は間接波)の信号レベルの経時的変化を示す包絡線L´と、TOF(直接TOF又は間接TOF)を検出するための閾値を示す閾値線Lth´とが示されている。図6に示す例における閾値線Lth´は、包絡線L´の移動平均値を利用した処理値である。当該処理値は、検出対象の物体に対応するTOFを検出可能なものであればよいが、例えば、移動平均値に所定の基準に基づく閾値(例えば路面クラッタを除去するための閾値等)を加減算した値等であり得る。各TOF1~TOF4(各ピークP1~P4)の優先順位の設定方法は、図5に示す例と同様である。このように、TOFを検出するための閾値を、移動平均値を利用した処理値とすることにより、路面クラッタ等のノイズを除去する効果を向上させることが可能となる。
【0050】
図7は、第1実施形態に係る距離情報取得部101及び出力制御部102による処理の一例を示すフローチャートである。距離情報取得部101は、送受信部21により受信された反射波(直接波及び/又は間接波)の包絡線を生成し(S101)、TOFを検出するための閾値を設定する(S102)。このとき、距離情報取得部101は、CFAR(Constant False Alarm Rate)処理後のデータに基づき、包絡線の生成及び閾値の設定を行ってもよい。CFAR処理とは、処理対象となる反射波の信号レベルから移動平均値を差し引いた差分信号を取得する処理である。CFAR処理を利用することにより、路面クラッタ等のノイズによる影響を軽減することができる。その後、距離情報取得部101は、閾値を超える信号レベルの反射波からTOFを検出する(S103)。
【0051】
出力制御部102のソート処理部111は、検出されたTOF毎に上記差ΔA(各ピークP1~P4の信号レベルと閾値線Lth,Lth´が表す閾値との差)を算出し(S104)、差ΔAが大きい順に複数のTOFをソートする(S105)。出力制御部102は、ソート順に複数のTOFを演算部103に出力する(S106)。
【0052】
上記のような処理により、信頼度が高いTOFを優先的に演算部103へ出力することが可能となる。
【0053】
演算部103の三辺測量演算部121は、上記のように出力制御部102から出力されたソート後の距離情報、すなわち優先順位(信頼度)が高い第1距離情報(直接TOF)と第2距離情報(間接TOF)とに基づき、物体の位置を検出するための三辺測量演算を行う。また、速度情報取得部122は、上記第1距離情報に基づく第1速度情報(ドップラーシフト量又は相対速度)と、上記第2距離情報に基づく第2速度情報(ドップラーシフト量又は相対速度)とを取得する。また、禁止処理部123は、第1速度情報と第2速度情報との差が所定範囲を超える場合に、第1距離情報と第2距離情報とに基づく三辺測量演算の実行を禁止する。
【0054】
ここで、ドップラーシフトについて説明する。図8は、第1実施形態に係る送受信部21から送信された送信波と物体からの反射波との間に生じるドップラーシフトの一例を示す図である。同図において、送信波に対して周波数が鋸歯状に変化するように周波数変調を施した場合が例示されている。同図における横軸は時間に対応し、縦軸は送信波及び反射波の周波数に対応する。
【0055】
波形W1は送信波の周波数特性を示し、波形W2は反射波の周波数特性を示している。送信波の波形W1は、瞬間周波数がfc-Δfからfc+Δfまでの範囲で変化するチャープ信号に対応する波形となっている。
【0056】
物体と送受信部21との相対距離が減少している場合(車両1又は/及び物体が互いに接近するように移動している場合)、ドップラー効果により、波形W2が示す受信波の周波数帯域は波形W1が示す送信波の周波数帯域より高周波側にシフトする。このとき、波形W1と波形W2との間には、周波数帯域に相違が生じているものの、周波数が時間経過に伴い鋸歯状に変化する共通の波形特性が現れる。従って、送信波の送信後に取得される信号から波形W1と同様の波形特性を有する信号を抽出することで、当該送信波に対応する反射波の波形W2を特定することができる。なお、相対距離が増加している場合(車両1又は/及び物体が互いに離間するように移動している場合)には、波形W2が示す周波数帯域は波形W1が示す周波数帯域より低周波側にシフトする。
【0057】
上記のように、波形W1と波形W2との対応を特定することにより、物体までの距離に対応するTOFと、送信波と反射波との間に生じたドップラーシフト量(周波数差)fdとを取得することができる。そして、ドップラーシフト量fdに基づき物体の車両1(送受信部21)に対する相対速度を算出することができる。
【0058】
図9は、本実施形態に係る演算部103による処理の一例を示すフローチャートである。先ず、速度情報取得部122は、出力制御部102から直接TOF(第1距離情報)を取得したか否かを判定し(S201)、直接TOFを取得していない場合(S201:No)、本ルーチンを終了する。一方、直接TOFを取得している場合(S201:Yes)、速度情報取得部122は、直接波に基づく第1速度情報(ドップラーシフト量又は相対速度)を取得する(S202)。
【0059】
その後、速度情報取得部122は、出力制御部102から間接TOF(第2距離情報)を取得したか否かを判定し(S203)、間接TOFを取得していない場合(S203:No)、演算部103は、直接TOFのみを用いて生成した位置情報をECU12に出力する(S209)。一方、間接TOFを取得している場合(S203:Yes)、速度情報取得部122は、間接波に基づく第2速度情報(ドップラーシフト量又は相対速度)を取得する(S204)。
【0060】
禁止処理部123は、第1速度情報と第2速度情報との差が所定範囲内か否かを判定し(S205)、当該差が所定範囲内でない場合(S205:No)、三辺測量演算部121による三辺測量演算を禁止する(S208)。この場合、演算部103は、直接TOFのみを用いて生成した位置情報をECU12に出力する(S209)。一方、第1速度情報と第2速度情報との差が所定範囲内にある場合(S205:Yes)、三辺測量演算部121は、直接TOFと間接TOFとに基づく三辺測量演算を実行し(S206)、演算部102は、三辺測量演算結果に基づく位置情報をECU12に出力する(S207)。
【0061】
上記のような処理によれば、第1速度情報と第2速度情報との誤差が大きい場合には、第1距離情報(直接TOF)と第2距離情報(間接TOF)とに基づく三辺測量演算が禁止される。これにより、精度が低い三辺測量演算の実施を抑制することが可能となる。
【0062】
上記実施形態における各種機能を実現するための処理をプロセッサ43等に実行させるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD(Compact Disc)-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R(Recordable)、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供することが可能なものである。また、当該プログラムは、インターネット等のネットワーク経由で提供又は配布されてもよい。
【0063】
上記実施形態によれば、物体の検出精度を向上させることが可能となる。
【0064】
以下に、他の実施形態について図面を参照して説明するが、第1実施形態と同一又は同様の作用効果を奏する箇所については同一の符号を付してその説明を省略する場合がある。
【0065】
(第2実施形態)
図10は、第2実施形態に係る物体検出装置61の機能構成の一例を示すブロック図である。本実施形態に係る物体検出装置61は、上述した出力制御部102及びソート処理部111を有しない点で第1実施形態に係る物体検出装置11と相違する。
【0066】
本実施形態においては、距離情報取得部101により取得された複数の第1距離情報(直接TOF)又は複数の第2距離情報(間接TOF)は、優先順位が設定されることなく演算部103に出力される。例えば、本実施形態に係る第1距離情報又は第2距離情報は、図5又は図6に示されるソート前の順番(TOFに対応するピークが検出された時刻に基づく順番)で出力されてもよい。
【0067】
上記のような構成であっても、上述した禁止処理部123の作用により、三辺測量演算の精度を向上させることができ、高い精度で物体を検出することが可能である。
【0068】
以上、本開示の実施形態を説明したが、上述した実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上述した実施形態は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0069】
1…車両、2…車体、10…車両制御システム、11…物体検出装置、12…ECU、21,21A~21L…送受信部、22…制御部、25A,25B…送信波、26A…直接波、26B…間接波、31…振動子、41…入出力装置、42…記憶装置、43…プロセッサ、51…入出力装置、52…記憶装置、53…プロセッサ、101…距離情報取得部、102…出力制御部、103…演算部、111…ソート処理部、121…三辺測量演算部、122…速度情報取得部、123…禁止処理部、L,L´…包絡線、Lth,Lth´…閾値線、P1~P4…ピーク、ΔA…差
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10