(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】レドックスフロー電池用高分子電解質膜
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1025 20160101AFI20241008BHJP
C08G 65/40 20060101ALI20241008BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20241008BHJP
H01M 8/1039 20160101ALI20241008BHJP
H01M 8/1067 20160101ALI20241008BHJP
H01M 8/18 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H01M8/1025
C08G65/40
H01B1/06 A
H01M8/1039
H01M8/1067
H01M8/18
(21)【出願番号】P 2020107426
(22)【出願日】2020-06-23
【審査請求日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2019116987
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 毅
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 瑛子
(72)【発明者】
【氏名】出原 大輔
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-066273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/10
H01M 8/18
H01B 1/06
C08G 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(Q1)で表される芳香族ジハライド化合物に由来する繰り返し単位の含有モル分率が15モル%以上25モル%以下、一般式(Q2)で表される化合物に由来する繰り返し単位の含有モル分率が25モル%以上35モル%以下、かつ、一般式(Q3)で表される芳香族ジオール化合物に由来する繰り返し単位の含有モル分率が20モル%以上50モル%以下、一般式(X-1)で表される化合物または(X-2)で表される化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物に由来する繰り返し単位の含有モル分率が30モル%以下からなり、重量平均分子量Mwが42万以上
56万以下である高分子電解質材料を用いることを特徴とするレドックスフロー電池用高分子電解質膜。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
(一般式(Q1)~(Q3)中、X
1およびX
2は電子吸引性基、Yはイオン性基、Z
1およびZ
2はハロゲン、D
3は酸素または硫黄、A
3は芳香環を含む2価の有機基を表す。ただし、A
3は保護基を有する。)
【請求項2】
25℃において、4価バナジウム濃度1.5mol・L
-1、硫酸濃度3.0mol・L
-1水溶液に対する活物質透過量が800×10
-7cm/min以下である請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項3】
前記高分子電解質材料がイオン性基を有する炭化水素系ポリマーを含有することを特徴とする請求項1または2に記載のレドックスフロー電池用高分子電解質膜。
【請求項4】
前記イオン性基がスルホン酸基であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のレドックスフロー電池用高分子電解質膜。
【請求項5】
前記高分子電解質材料のスルホン酸基密度が1.0~3.0mmol/gであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のレドックスフロー電池用高分子電解質膜。
【請求項6】
前記高分子電解質材料が架橋構造を含有しないことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のレドックスフロー電池用高分子電解質膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックスフロー電池の高効率化、長期耐久性を達成することができる実用性に優れたレドックスフロー電池用高分子電解質膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの活用が増加している。一方で、日射しや風速など発電量の変動が大きく、再生可能エネルギーの出力安定化や電力負荷平準化、電力系統の安定化を実現する大型蓄電池システムが求められている。これら大型蓄電池の中でも、レドックスフロー電池は大容量で安全性が高く、耐久性に優れているため、利用拡大が進んでいる。
【0003】
レドックスフロー電池は、バナジウムやチタン、マンガンなどの活物質とした電極上での酸化還元反応を利用し、電池内のポンプ循環により充放電を繰り返す電池である。バナジウム系の電解液の場合、1種類の元素のみを用いるため、電解液の劣化がなく、半永久的に再利用が可能となる。
【0004】
レドックスフロー電池では、価数の異なる2種類の電解液を隔てる隔膜として高分子電解質膜が利用されている。レドックスフロー電池用高分子電解質膜の要求特性としては、高いプロトン伝導性や活物質のクロスオーバーによる電池出力およびエネルギー効率の低下を防止するバリア層としての機能を担うための高い活物質遮断性、強い酸化雰囲気に耐えるための化学的安定性、寸法安定性や使用に耐えうる機械強度などが挙げられる。
【0005】
これまでレドックスフロー電池用電解質膜には、パーフルオロスルホン酸系ポリマーであるナフィオン(登録商標)(Nafion(登録商標)、デュポン社製)が広く用いられてきた。ナフィオン(登録商標)は多段階合成を経て製造されるため非常に高価であり、かつ、クラスター構造を形成するためにクロスオーバーが大きいという課題があった。また、膜の機械強度が低いという問題や寸法安定性が悪く、ハンドリング性が悪いという問題、さらに、使用後の廃棄処理の問題や材料のリサイクルが困難といった課題もあった。パーフルオロスルホン酸系膜は高分子電解質膜として概ねバランスのとれた特性を有するが、当該電池の実用化が進むにつれて、さらなる特性の改善が要求されるようになってきた。
【0006】
このような欠点を克服するために非パーフルオロ系ポリマーの炭化水素系ポリマーをベースとした高分子電解質材料についても既にいくつかの取り組みがなされている。ポリマー骨格としては、耐熱性、化学的安定性の点から芳香族ポリエーテルケトンや芳香族ポリエーテルスルホンについて特に活発に検討がなされてきた(特許文献1~3、非特許文献1~3)。
【0007】
特許文献4,5では、プロトン伝導性とメタノール遮断性を両立した炭化水素系の高分子電解質材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平6-93114号公報
【文献】特表2004-528683号公報
【文献】米国特許出願公開第2002/0091225号明細書
【文献】特開2008-66273号公報
【文献】特開2008-239963号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Polymer,1987,vol.28,p-1009
【文献】Journal of Membrane Science,83(1993)p-211~220
【文献】Macromolecules,1987,vol.20,p-1204
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1~3や非特許文献1~3に記載の高分子電解質材料をレドックスフロー電池に用いた場合、プロトン伝導性を高めるためにイオン性基含有量を増加すると、膜の膨潤が大きくなり、活物質のクロスオーバー増加や機械強度低下が問題となり、プロトン伝導性と活物質遮断性・機械強度を両立することが困難であった。また、化学耐久性について、強い酸化雰囲気下で炭化水素系のポリマー骨格が分解するという問題もあった。
【0011】
特許文献4,5に記載の高分子電解質材料をレドックスフロー電池に用いた場合、レドックスフロー電池の強い酸化雰囲気下では化学的安定性が不十分であるという問題があった。
【0012】
このように、従来技術による高分子電解質材料はプロトン伝導性、活物質遮断性、寸法安定性、機械強度、化学的安定性を向上する手段としては不十分であり、産業上有用なレドックスフロー電池用高分子電解質材料とはなり得ていなかった。
【0013】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、プロトン伝導性に優れ、かつ、活物質遮断性、機械強度、化学的安定性に優れる上に、レドックスフロー電池としたときに高効率、自己放電抑制、長期耐久性を達成することができる実用性に優れたレドックスフロー用高分子電解質膜を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため本発明のレドックスフロー電池用高分子電解質膜は、次の構成を有する。すなわち、
下記一般式(Q1)で表される芳香族ジハライド化合物に由来する繰り返し単位の含有モル分率が15モル%以上25モル%以下、一般式(Q2)で表される化合物に由来する繰り返し単位の含有モル分率が25モル%以上35モル%以下、かつ、一般式(Q3)で表される芳香族ジオール化合物に由来する繰り返し単位の含有モル分率が25モル%以上50モル%以下、一般式(X-1)で表される化合物または(X-2)で表される化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物に由来する繰り返し単位の含有モル分率が30モル%以下からなり、重量平均分子量Mwが42万以上である高分子電解質材料を用いることを特徴とするレドックスフロー電池用高分子電解質膜、である。
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
(一般式(Q1)~(Q3)中、X1およびX2は電子吸引性基、Yはイオン性基、Z1およびZ2はハロゲン、D3は酸素または硫黄、A3は芳香環を含む2価の有機基を表す。ただし、A3は保護基を有する。)
ただし、ここで用いた重量平均分子量Mwは、N-メチル-2-ピロリドン溶媒(臭化リチウムを10mmol・L-1含有するN-メチル-2-ピロリドン溶媒)を移動相とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー法で求めた、標準ポリスチレンの分子量に対する相対的な重量平均分子量を示す。
【0020】
本発明のレドックスフロー電池用高分子電解質膜は、25℃において、4価バナジウム濃度1.5mol・L-1、硫酸濃度3.0mol・L-1水溶液に対する活物質透過量が800×10-7cm/min以下であることが好ましい。
【0021】
本発明のレドックスフロー電池用高分子電解質膜は、前記高分子電解質材料がイオン性基を有する炭化水素系ポリマーを含有することが好ましい。
【0022】
本発明のレドックスフロー電池用高分子電解質膜は、前記イオン性基がスルホン酸基であることが好ましい。
【0023】
本発明のレドックスフロー電池用高分子電解質膜は、前記高分子電解質材料のスルホン酸基密度が1.0~3.0mmol/gであることが好ましい。
【0024】
本発明のレドックスフロー電池用高分子電解質膜は、前記高分子電解質材料が架橋構造を含有しないことが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、本発明は、高効率、自己放電抑制、長期耐久性を達成することができる実用性に優れたレドックスフロー電池用高分子電解質材料ならびにそれを用いたレドックスフロー用高分子電解質膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0027】
従来のスルホン化芳香族ポリエーテルケトン、スルホン化芳香族ポリエーテルスルホンを高分子電解質材料として用いた場合には、プロトン伝導性を高めるためにイオン性基の含有量を増加すると膜が膨潤し、ハンドリング性が悪化するという問題、ポリマー分子鎖の凝集力が低いためにポリマー高次構造の安定性に乏しく、膜の機械強度や物理的耐久性が不十分という問題があった。
【0028】
また、芳香族ポリエーテルケトン(PEK)系ポリマーはそのパッキングの良さおよび極めて強い分子間凝集力から結晶性を示し、一般的な溶剤に全く溶解しない性質がある。これに対し、本発明の高分子電解質材料は、ポリマー中に保護基を含有させることにより、特にこれまで製膜が困難なものが多かったPEKポリマー等の結晶性ポリマーの結晶性を低減させることで溶解性を付与し、製膜に使用できるようにしたものである。
【0029】
また、膜状等に成形された後には、該ポリマーの分子鎖のパッキングを良くし、分子間凝集力や再び結晶性を付与させるために保護基の一部を脱保護せしめ、耐熱水性、引張強伸度、引裂強度や耐疲労性等の機械特性、バナジウムやチタン、マンガンなどの活物質遮断性を大幅に向上させた高分子電解質材料を得るものである。この製造工程を経た場合に、特に本発明の高分子電解質膜は高いプロトン伝導性に加え、製膜性(加工性)、製造コストならびに耐熱水性、活物質遮断性、機械特性を両立できるという特徴を有する。
【0030】
また、本発明によって得られる高分子電解質膜は、その強い分子間凝集力から含水状態であっても非常に破れにくい性質、すわなち、高引裂強度を有しており、レドックスフロー電池においても極めて優れた長期耐久性を達成できるという特徴を有する。
【0031】
さらに、溶解性が不十分であるためにこれまで使用できなかった低いスルホン酸基密度を有する結晶性ポリマーの製膜が可能となり、プロトン伝導性と活物質遮断効果を両立し、耐熱水性、機械特性、物理的耐久性および長期耐久性に優れた本発明の高分子電解質膜を得ることに成功したものである。
【0032】
なお、本発明者らは既に少なくとも保護基とイオン性基を含有する高分子電解質材料について報告しているが、本発明においては、なかでも高分子電解質材料の寸法安定性、活物質遮断性および長期耐久性の性能が、脱保護させる前の成型用可溶性高分子電解質材料の構造に大きく依存することを見出し、保護基を含む基とともに保護基を含まない基を導入する試みや、保護基を含む基と保護基を含まない基の割合の検討、イオン性基量と保護基量の関係、ならびに使用するそれらの構造と膜性能の関係についても詳細に検討し、本発明を完成するに至った。
【0033】
本発明の高分子電解質膜は、25℃における4価バナジウム(活物質)濃度1.5mol・L-1、硫酸濃度3.0mol・L-1水溶液に対する単位面積当たりの活物質透過量が800×10-7cm/min以下であることが好ましい。レドックスフロー電池において、活物質透過量が低いほど、すなわち活物質遮断性が高いほど活物質クロスオーバーによる自己放電を抑制できるため、電流効率および充放電を繰り返した際のエネルギー効率を向上させることができる。バナジウムイオン(IV価)透過量は、25℃の活物質濃度1.5mol・L-1、硫酸濃度3.0mol・L-1水溶液に高分子電解質膜を24時間浸漬した後で測定する。かかる観点からは、500×10-7cm/min以下がより好ましく、200×10-7cm/min以下がさらに好ましい。下限は特に限定されないが、プロトン伝導性を確保する観点からは1×10-7cm/min以上が好ましく、10×10-7cm/min以上がより好ましい。
【0034】
本発明のレドックスフロー電池用高分子電解質膜は、優れたイオン選択透過性を有し、上述したような低い活物質透過量と高いプロトン伝導性を同時に達成することができ、充放電のエネルギー効率を向上できる点で優れている。
【0035】
レドックスフロー電池において、特に活物質がバナジウムイオンの場合、充電時に正極側で5価のバナジウムイオンが生成する。5価バナジウムイオンは非常に酸化力が高いため、一般的に炭化水素系の高分子電解質膜を容易に分解してしまい、性能と耐酸化性を両立することは極めて困難であるため、炭化水素系高分子電解質膜の耐酸化性を改良することは非常に有効である。耐酸化性を向上させるためには、電子密度を低減したポリマー構造設計が必要であり、本発明では高い耐酸化性を有するレドックスフロー電池用高分子電解質材料および高分子電解質膜を達成したため、詳細を以下に示す。
【0036】
本発明に用いる高分子電解質材料としては、一般式(Q1)で表される芳香族ジハライド化合物に由来する繰り返し単位の含有モル分率が15モル%以上、25モル%以下、一般式(Q2)で表される化合物に由来する繰り返し単位の繰り返し単位の含有モル分率が25モル%以上35モル%以下、かつ、一般式(Q3)で表される芳香族ジオール化合物に由来する繰り返し単位の含有モル分率が25モル%以上50モル%以下、一般式(X-1)で表される化合物または(X-2)で表される化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物に由来する繰り返し単位の含有モル分率が30モル%以下である必要がある。なかでも、一般式(Q1)で表される芳香族ジハライド化合物に由来する繰り返し単位の含有モル分率としては、プロトン伝導性と寸法安定性や機械強度とのバランスから、より好ましくは17モル%以上、23モル%以下、さらに好ましくは19モル%以上、21モル%以下である。また、一般式(Q3)で表される芳香族ジハライド化合物に由来する繰り返し単位の含有モル分率としては、加工性や濾過性と寸法安定性や機械強度とのバランスから、より好ましくは30モル%以上、45モル%以下、さらに好ましくは35モル%以上、40モル%以下である。なお、一般式(X-1)または(X-2)で表される化合物は剛直な骨格を有する高分子電解質材料の加工性と濾過性を改良する効果があり、電解質膜として用いられる使用環境や品位により、これら化合物に由来する繰り返し単位の含有モル分率が変化するため、含有モル分率は0モル%を含む。
【0037】
一般式(Q1)で表される芳香族ジハライド化合物に由来する繰り返し単位の含有モル分率が15モル%未満であれば、プロトン伝導性が不足する場合があり、当該繰り返し単位の含有モル分率が25モル%を越えると、寸法安定性や分子量が不足する場合がある。また、一般式(Q3)で表される芳香族ジオール化合物に由来する繰り返し単位の含有モル分率が25モル%未満であれば、加工性が不足する場合があり、当該繰り返し単位の含有モル分率が50モル%を超えると、寸法安定性、機械特性、耐久性が不足する場合がある。
【0038】
本発明に用いる高分子電解質材料としては、一般式(Q1)で表される芳香族ジハライド化合物に由来する繰り返し単位も可溶性を付与する効果があることから、一般式(Q1)で表される芳香族ジハライド化合物に由来する繰り返し単位が多いときには、一般式(Q3)で表される芳香族ジオール化合物に由来する繰り返し単位の共重合割合を減らすことが可能である。つまり、一般式(Q3)で表される芳香族ジオール化合物に由来する繰り返し単位を加工性に必要な量だけ共重合させることが好ましい。
【0039】
本発明において、芳香族ポリエーテル系重合体とは、主として芳香環から構成される重合体において、芳香環ユニットが連結する様式としてエーテル結合またはチオエーテル結合が含まれているものを意味する。エーテル結合、チオエーテル結合以外に、直接結合、ケトン、スルホン、各種アルキレン、イミド、アミド、エステル、ウレタン等、芳香族系ポリマーの形成に一般的に使用される結合様式が存在していても良い。エーテル、チオエーテル結合は主構成成分の繰り返し単位あたり1個以上あることが好ましい。芳香環は炭化水素系芳香環だけでなく、ヘテロ環などを含んでいても良い。また、芳香環ユニットと共に一部脂肪族系ユニットがポリマーを構成していてもかまわない。芳香族ユニットは、アルキル基、アルコキシ基、芳香族基、アリロキシ基等の炭化水素系基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン化アルキル基、カルボキシル基、ホスホン酸基、水酸基等、任意の置換基を有していても良い。
【0040】
また、芳香族ポリエーテルケトン系重合体とは、その分子鎖に少なくともエーテル結合またはチオエーテル結合と、ケトン結合を有しているポリマーの総称であり、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホン、ポリエーテルケトンホスフィンオキシド、ポリエーテルケトンニトリルなどを含むとともに、特定のポリマー構造を限定するものではない。ホスフィンオキシドやニトリルを少量含有するものは、保護基を有するイオン性基含有ポリマーにおける溶剤可溶性が十分あるので好ましく、また、スルホンを少量含む場合は結晶性や耐熱水性等の耐溶剤性が十分あるので好ましい。
【0041】
本発明に用いる高分子電解質材料に使用されるイオン性基Yは、負電荷を有する原子団であれば特に限定されるものではないが、プロトン交換能を有するものが好ましい。このような官能基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基が好ましく用いられる。ここで、スルホン酸基は下記一般式(f1)で表される基、スルホンイミド基は下記一般式(f2)で表される基[一般式中Rは任意の原子団を表す。]、硫酸基は下記一般式(f3)で表される基、ホスホン酸基は下記一般式(f4)で表される基、リン酸基は下記一般式(f5)または(f6)で表される基、カルボン酸基は下記一般式(f7)で表される基を意味する。
【0042】
【0043】
かかるイオン性基は前記官能基(f1)~(f7)が塩となっている場合を含むものとする。前記塩を形成するカチオンとしては、任意の金属カチオン、NR4
+(Rは任意の有機基)等を例として挙げることができる。金属カチオンの場合、その価数等特に限定されるものではなく、使用することができる。好ましい金属イオンの具体例を挙げるとすれば、Li、Na、K、Rh、Mg、Ca、Sr、Ti、Al、Fe、Pt、Rh、Ru、Ir、Pd等を挙げることができる。中でも、高分子電解質材料としては、安価で、溶解性に悪影響を与えず、容易にプロトン置換可能なNa、Kがより好ましく使用される。
【0044】
これらのイオン性基は前記高分子電解質材料中に2種類以上含むことができ、組み合わせることにより好ましくなる場合がある。組み合わせはポリマーの構造などにより適宜決められる。中でも、高プロトン伝導度の点から少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基を有することがより好ましく、耐加水分解性の点から少なくともスルホン酸基を有することが最も好ましい。
【0045】
これら電解質ポリマーに対してイオン性基を導入する方法は、イオン性基を有するモノマーを用いて重合する方法と、高分子反応でイオン性基を導入する方法を挙げることができるが、本発明はイオン性基を有するモノマーを用いて重合する方法を使用する。
【0046】
イオン性基を有するモノマーを用いて重合する方法としては、繰り返し単位中にイオン性基を有したモノマーを用いれば良く、必要により適当な保護基を導入して重合後脱保護基を行えばよい。かかる方法は例えば ジャーナル オブ メンブレン サイエンス(Journal of Membrane Science), 197, 2002, p-231~242に記載がある。
【0047】
イオン性基を導入する方法について例を挙げて説明すると、芳香族環へのホスホン酸基の導入は、例えばポリマー プレプリンツ(Polymer Preprints), 51, 2002, p-750等に記載の方法によって可能である。芳香族環へのリン酸基の導入は、例えばヒドロキシル基を有する芳香族系高分子のリン酸エステル化によって可能である。芳香族環へのカルボン酸基の導入は、例えばアルキル基やヒドロキシアルキル基を有する芳香族系高分子を酸化することによって可能である。芳香族環への硫酸基の導入は、例えばヒドロキシル基を有する芳香族環の硫酸エステル化によって可能である。芳香族環をスルホン化する方法、すなわちスルホン酸基を導入する方法としては、たとえば特開平2-16126号公報あるいは特開平2-208322号公報等に記載の方法が公知である。
【0048】
具体的には、例えば、芳香族環をクロロホルム等の溶媒中でクロロスルホン酸のようなスルホン化剤と反応させたり、濃硫酸や発煙硫酸中で反応することによりスルホン化することができる。スルホン化剤には芳香族環をスルホン化するものであれば特に制限はなく、上記以外にも三酸化硫黄等を使用することができる。この方法により芳香族環をスルホン化する場合には、スルホン化の度合いはスルホン化剤の使用量、反応温度および反応時間により、容易に制御できる。芳香族系高分子へのスルホンイミド基の導入は、例えばスルホン酸基とスルホンアミド基を反応させる方法によって可能である。
【0049】
本発明において、一般式(Q1)および(Q2)で表される芳香族ジハライド化合物中の電子吸引性基X1およびX2の好ましい具体例としては、ケトン、スルホン、ホスフィンオキシド等を挙げることができる。なお、ホスフィンオキシドの置換基の好ましい例は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、ビニル基、アリル基、ベンジル基、フェニル基、ナフチル基、フェニルフェニル基等である。工業的な入手の容易さの点では置換基として最も好ましいのはフェニル基である。
【0050】
なかでも、結晶性、機械強度、耐久性、寸法安定性の観点から、X1およびX2がケトンである、下記一般式(Q4)および(Q5)で表される芳香族ジハライド化合物がさらに好ましい。
【0051】
【0052】
(一般式(Q4)および(Q5)中、Z5およびZ6はハロゲン、M5またはM6は水素、金属カチオン、アンモニウムカチオンを表す。)
一般式(Q1)で表される芳香族ジハライド化合物の具体例としては、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジクロロジフェニルスルホン、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジクロロジフェニルケトン、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロジフェニルケトン、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジクロロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロジフェニルフェニルホスフィンオキシド等を挙げることができる。中でも、一般式(Q1)で表される芳香族活性ジハライド化合物としては、製造コスト、活物質透過抑制効果の点から3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジクロロジフェニルケトン、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロジフェニルケトンがより好ましく、重合活性の点から3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロジフェニルケトンが最も好ましい。
【0053】
また、一般式(Q2)で表される芳香族活性ジハライド化合物としては、4,4’-ジクロロジフェニルスルホン、4,4’-ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’-ジクロロジフェニルケトン、4,4’-ジフルオロジフェニルケトン、4,4’-ジクロロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、4,4’-ジフルオロジフェニルフェニルホスフィンオキシド等を挙げることができる。中でも、一般式(Q2)で表される芳香族ジハライド化合物としては、4,4’-ジクロロジフェニルケトン、4,4’-ジフルオロジフェニルケトンが結晶性付与、機械強度、活物質透過抑制効果の点からより好ましく、重合活性の点から4,4’-ジフルオロジフェニルケトンが最も好ましい。これら芳香族活性ジハライド化合物は、単独で使用することができるが、複数の芳香族活性ジハライド化合物を併用することも可能である。
【0054】
次に、本発明に使用する一般式(Q3)で表される芳香族ジオール化合物について説明する。本発明において、芳香族ジオール化合物とは、フェノール性-OH基を2個有する化合物に加え、そのヘテロ原子類似体である-SH基を2個有する化合物を含むものと定義する。以後、フェノール性-OH基で具体例を挙げるが、そのヘテロ原子誘導体も同様に好ましく使用することができる。しかしながら、製造コストの観点から、-OH基の方が-SH基よりもより好ましく使用できる。
【0055】
一般式(Q3)で表される芳香族ジオール化合物に使用する保護基としては、有機合成で一般的に用いられる保護基を挙げることができ、該保護基とは、後の段階で除去することを前提に、一時的に導入される置換基であり、反応性の高い官能基を保護し、その後の反応に対して不活性とするものであり、反応後に脱保護して元の官能基に戻すことのできるものである。すなわち、保護される官能基と対となるものであり、例えばt-ブチル基を水酸基の保護基として用いる場合があるが、同じt-ブチル基がアルキレン鎖に導入されている場合は、これを保護基とは呼ばない。保護基を導入する反応を保護(反応)、除去する反応を脱保護(反応)と呼称される。
【0056】
このような保護反応としては、例えば、セオドア・ダブリュー・グリーン(Theodora W. Greene)、「プロテクティブ グループス イン オーガニック シンセシス」(Protective Groups in Organic Synthesis)、米国、ジョン ウイリー アンド サンズ(John Wiley & Sons, Inc)、1981に詳しく記載されており、これらが好ましく使用できる。保護反応および脱保護反応の反応性や収率、保護基含有状態の安定性、製造コスト等を考慮して適宜選択することが可能である。また、重合反応において保護基を導入する段階としては、モノマー段階からでも、オリゴマー段階からでも、ポリマー段階でもよく、適宜選択することが可能である。
【0057】
保護反応の具体例を挙げるとすれば、ケトン部位をケタール部位で保護/脱保護する方法、ケトン部位をケタール部位のヘテロ原子類似体、例えばチオケタールで保護/脱保護する方法を挙げることができる。これらの方法については、前記「プロテクティブ グループス イン オーガニック シンセシス」(Protective Groups in Organic Synthesis)のチャプター4に記載されている。また、スルホン酸と可溶性エステル誘導体との間で保護/脱保護する方法、芳香環に可溶性基としてt-ブチル基を導入および酸で脱t-ブチル化して保護/脱保護する方法等が挙げられる。しかしながら、これらに限定されることなく、好ましく使用できる。一般的な溶剤に対する溶解性を向上させ、結晶性を低減する点では、立体障害が大きいという点で脂肪族基、特に環状部分を含む脂肪族基が保護基として好ましく用いられる。
【0058】
保護基を導入する官能基の位置としては、ポリマーの主鎖であることがより好ましい。本発明の高分子電解質材料は、加工性向上を目的としてパッキングが良いポリマーに保護基を導入することから、ポリマーの側鎖部分に保護基を導入しても本発明の効果が十分に得られない場合がある。ここで、ポリマーの主鎖に存在する官能基とは、その官能基を削除した場合にポリマー鎖が切れてしまう官能基と定義する。例えば、芳香族ポリエーテルケトンのケトン基を削除するとベンゼン環とベンゼン環が切れてしまうことを意味するものである。
【0059】
本発明において、ポリマーが結晶性であるとは、ポリマーがなんらかの条件で結晶化されうる、結晶化可能な性質を有することを意味する。また、ポリマーが非晶であるとはポリマーの結晶性の有無にかかわらず、使用する際のポリマーの状態として非晶であることを意味するものである。これらポリマーの結晶性の有無、結晶と非晶の状態については、広角X線回折(XRD)における結晶由来の鋭いピークや示差走査熱量分析法(DSC)における結晶化ピーク等によって評価することができる。
【0060】
また、本発明において耐熱水性に優れるとは高温水中での寸法変化(膨潤)が小さいことを意味する。この寸法変化が大きい場合には、高分子電解質膜として使用している途中の膜破損や抵抗増加の原因となるので好ましくない。これら耐熱水性の特性はレドックスフロー電池に使用される電解質ポリマーに要求される重要な特性である。
【0061】
本発明に用いる高分子電解質材料に使用する保護反応としては、反応性や安定性の点で、さらに好ましくは、ケトン部位をケタール部位で保護/脱保護する方法、ケトン部位をケタール部位のヘテロ原子類似体、例えばチオケタールで保護/脱保護する方法である。
【0062】
一般式(Q3)で表される芳香族ジオール化合物の好適な具体例としては、下記一般式(P1)で表される化合物および(P2)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0063】
【0064】
(一般式(P1-1)および(P2-1)において、Ar1~Ar4は任意の2価のアリーレン基、R1およびR2はHおよびアルキル基から選ばれた少なくとも1種の基、R3は任意のアルキレン基、EはOまたはSを表す。一般式(P1-1)および一般式(P2-1)で表される化合物は任意に置換されていてもよい。)
なかでも、化合物の臭いや反応性、安定性等の点で、前記一般式(P1-1)および(P2-1)において、EがOである、すなわち、ケトン部位をケタール部位で保護/脱保護する方法が最も好ましい。
【0065】
本発明に用いる一般式(P1-1)で表される芳香族ジオール化合物中のR1およびR2としては、安定性の点でアルキル基であることがより好ましく、さらに好ましくは炭素数1~6のアルキル基、最も好ましく炭素数1~3のアルキル基である。また、一般式(P2-1)で表される芳香族ジオール化合物中のR3としては、安定性の点で炭素数1~7のアルキレン基であることがより好ましく、最も好ましくは炭素数1~4のアルキレン基である。R3の具体例としては、-CH2CH2 -、-CH(CH3 )CH2 -、-CH(CH3 )CH(CH3)-、-C(CH3 )2CH2 -、-C(CH3 )2CH(CH3)-、-C(CH3)2 O(CH3 )2-、-CH2CH2CH2-、-CH2 C(CH3)2CH2-等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
本発明に用いる高分子電解質材料としては、なかでも、耐加水分解性などの安定性の点から少なくとも前記式(P3)を有するものがより好ましく用いられる。さらに、前記一般式(P2)のR3としては炭素数1~7のアルキレン基、すなわち、Cn1H2n1(n1は1~7の整数)で表される基であることが好ましく、安定性、合成の容易さの点から-CH2CH2 -、-CH(CH3 )CH2 -、または-CH2CH2CH2-から選ばれた少なくとも1種であることが最も好ましい。
【0067】
前記一般式(P1-1)および(P2-1)中のAr1~Ar4として好ましい有機基は、フェニレン基、ナフチレン基、またはビフェニレン基である。これらは任意に置換されていてもよい。本発明の芳香族ポリエーテル系重合体としては、溶解性および原料入手の容易さから、前記一般式(P2-1)中のAr3およびAr4が共にフェニレン基である、すなわち下記一般式(P3)で表される芳香族ジオール化合物を含有することがより好ましく、最も好ましくはAr3およびAr4が共にp-フェニレン基である。
【0068】
【0069】
(一般式(P3)中のn1は1~7の整数である。一般式(P3)で表される構成単位は任意に置換されていてもよい。)
本発明に使用する、一般式(P3)で表される芳香族ジオール化合物の好適な具体例としては、下記一般式(r1)~(r10)で表される化合物、ケタール部位のヘテロ原子類似体、並びにこれらの2価フェノール化合物由来の誘導体を挙げることができる。
【0070】
【0071】
これら芳香族ジオール化合物のなかでも、安定性の点から一般式(r4)~(r10)で表される化合物がより好ましく、さらに好ましくは一般式(r4)、(r5)および(r9)で表される化合物、最も好ましくは一般式(r4)で表される化合物である。
【0072】
本発明において、ケトン部位をケタールで保護する方法としては、ケトン基を有する前駆体化合物を、酸触媒存在下で1官能および/または2官能アルコールと反応させる方法を挙げることができる。例えば、ケトン前駆体の4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンと1官能および/または2官能アルコール、脂肪族又は芳香族炭化水素などの溶媒中で臭化水素などの酸触媒の存在下で反応させることによって製造できる。アルコールは炭素数1~20の脂肪族アルコールである。本発明に使用するケタールモノマーを製造するための改良法は、ケトン前駆体の4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンと2官能アルコールをアルキルオルトエステル及び固体触媒の存在下に反応させることからなる。
【0073】
2官能アルコールの具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、2,3-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2-メチル-2,3-ブタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。なかでも、安定性から、エチレングリコール、プロピレングリコール、2-メチル-1,2-プロパンジオールが最も好ましい。
【0074】
アルキルオルトエステルとしては、オルトぎ酸トリメチル、オルトぎ酸トリエチル、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、オルトけい酸テトラメチル、オルトけい酸テトラエチルなどが挙げられる。また、メタノール、エタノール、アセトン等のような揮発性生成物を形成する2,2-ジメトキシプロパン、2,2-ジメチル-1,3-ジオキソランのような容易に加水分解される化合物もオルトエステルに代えて用いることができる。
【0075】
固体触媒としては、好ましくは微粒状酸性アルミナ-シリカ化合物、最も好ましくはK-10(例えば、アルドリッチ社製試薬)と称されるモンモリロナイトにより例示されるようなモンモリロナイトクレイである。モンモリロナイトクレイが好ましいが、高い表面積を持つ他の固体酸性触媒も触媒として有効に機能できる。これらには酸性アルミナ、スルホン化重合体樹脂などが含まれる。
【0076】
反応は、ケトン前駆体、約1当量又は好ましくは過剰量の2官能アルコール、約1当量又は好ましくは過剰量のオルトエステル及びケトン1当量につき少なくとも1gの固体触媒、好ましくはケトン1当量につき10モル以上の固体触媒を一緒に混合することによって行われる。反応は必要に応じて不活性溶媒の存在下に行われる。触媒は再使用するために濾過により容易に除去されるので、大過剰の固体を用いることができる。反応は、約25℃から用いたオルトエステルの沸点付近までの温度で行われるが、好ましくはオルトエステルの沸点より低いがオルトエステル反応生成物の沸点より高い温度で行われる。例えば、反応生成物がメタノール(沸点65℃)及びぎ酸メチル(沸点34℃)であるオルトぎ酸トリメチル(沸点102℃)を用いるときは約65℃~102℃の反応温度が好適である。もちろん、反応温度は、反応を減圧又は昇圧下に実施するときは適当に調節することができる。
【0077】
最も好ましいケタールモノマーは、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、過剰のグリコール、過剰のオルトぎ酸トリアルキル及びケトン1gにつき約0.1~約5gのモンモリロナイトクレイK-10、好ましくはケトン1gにつき約0.5~約2.5gのクレイの混合物を該オルトぎ酸エステルから得られるアルコールを留去するように加熱することによって製造される。ケタール含有モノマーの2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソランは、48時間以内の反応時間で優れた収率(60%~ほとんど定量的)で得ることができる。
【0078】
ケタールモノマーと未反応ケトンを回収するためには、系内を酸性にしないように適切に注意を払えば、標準的な単離方法を用いることができる。ポリケタールの製造に使用する前に、単離反応生成物の再結晶、又は他の大かがりは精製は不必要である。例えば、反応混合物を酢酸エチル溶媒で希釈し、固体触媒を過して除去し、溶液を塩基性の水で抽出して過剰のアルコールを除去し、無水硫酸ナトリウムのような慣用の乾燥剤で水分を除去し、溶媒と揮発物を真空下に除去し、次いで生じた固体を塩化メチレンのような溶媒で洗浄して微量汚染物を除去した後には、主にケタールモノマーを含有するが、まだ若干の未反応ケトン前駆体を含有し得る反応生成物が得られる。しかし、この反応生成物は、さらに精製しないで高分子量ポリケタールの製造に用いることができる。また、トルエン等の一般的な溶剤で再結晶し、未反応ケトン前駆体を除去することも可能である。
【0079】
本発明においては、保護基を含む基と保護基を含まない基の割合が重要であることから、ケタールモノマーの純度としては98%以上が好ましく、さらに好ましくは99%以上である。
【0080】
次に、一般式(X-1)または(X-2)で表される芳香族ジオール化合物について説明する。
【0081】
本発明に用いる高分子電解質材料においては、保護基による成型性付与と脱保護前の成型用可溶性高分子電解質材料としてポリマーのパッキング性のバランスを図り、結晶性と加工性や濾過性を両立できる基という観点から、一般式(X-1)または(X-2)で表される芳香族ジオール化合物が必要である。寸法安定性、製造コストおよび結晶性の観点から一般式(X-1)で表される芳香族ジオール化合物は保護基としてケタール基を使用した場合に、脱保護後のケトン基と同構造を有するために、規則性や結晶性が高く使用できる。一般式(X-2)で表される芳香族ジオール化合物は高い耐酸化性と濾過性の観点から、より好ましくは式(X-2)で表される芳香族ジオール化合物である。以上の効果により、得られる高分子電解質材料は、機械特性、活物質遮断性、長期耐久性等に優れた性能を発揮できる。
【0082】
本発明に使用する芳香族ポリエーテル系重合体の重合方法については、実質的に十分な高分子量化が可能な方法であれば特に限定されるものではないが、例えば芳香族ジハライド化合物と芳香族ジオール化合物の芳香族求核置換反応を利用して合成することができる。また、ハロゲン化芳香族フェノール化合物の芳香族求核置換反応を利用して、第5成分を導入することも可能である。
【0083】
本発明に用いる高分子電解質材料を得るために行う、芳香族求核置換反応による芳香族ポリエーテル系重合体の重合は、上記モノマー混合物を塩基性化合物の存在下で反応させることで重合体を得ることができる。重合は、0~350℃の温度範囲で行うことができるが、50~250℃の温度であることが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める傾向がある。反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒等を挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。
【0084】
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等を挙げることができるが、芳香族ジオール類を活性なフェノキシド構造にしうるものであれば、これらに限定されず使用することができる。
【0085】
芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際は、重合溶媒とは関係なく、トルエンなどを反応系に共存させて共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水剤を使用することもできる。反応水又は反応中に導入された水を除去するのに用いられる共沸剤は、一般に、重合を実質上妨害せず、水と共蒸留し且つ約25℃~約250℃の間で沸騰する任意の不活性化合物である。普通の共沸剤には、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、塩化メチレン、ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼンなどが含まれる。もちろん、その沸点が用いた双極性溶媒の沸点よりも低いような共沸剤を選定することが有益である。共沸剤が普通用いられるが、高い反応温度、例えば200℃以上の温度が用いられるとき、特に反応混合物に不活性ガスを連続的に散布させるときにはそれは常に必要ではない。一般には、反応は不活性雰囲気下に酸素が存在しない状態で実施するのが望ましい。
【0086】
芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5~50重量%となるようにモノマーを仕込むことが好ましい。5重量%よりも少ない場合は、重合度が上がりにくい傾向がある。一方、50重量%よりも多い場合には、反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる傾向がある。
【0087】
重合反応終了後は、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄することによって、所望のポリマーが得られる。また、反応溶液を、ポリマーの溶解度が低く、副生する無機塩の溶解度が高い溶媒中に加えることによって、無機塩を除去、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。回収されたポリマーは場合により水やアルコール又は他の溶媒で洗浄され、乾燥される。所望の分子量が得られたならば、ハライドあるいはフェノキシド末端基は場合によっては安定な末端基を形成させるフェノキシドまたはハライド末端封止剤を導入することにより反応させることができる。
【0088】
本発明においては、加工性の観点から製膜段階まで保護基を脱保護させずに導入しておく必要があることから、保護基が安定に存在できる条件を考慮して、重合および精製を行う必要がある。例えば、ケタールを保護基として使用する場合には、酸性下では脱保護反応が進行してしまうため、系を中性あるいはアルカリ性に保つ必要がある。
【0089】
本発明において、ケタールで保護したケトン部位の少なくとも一部を脱保護せしめ、ケトン部位とする方法は特に限定されるものではない。前記脱保護反応は、不均一又は均一条件下に水及び酸の存在下において行うことが可能であるが、機械強度や耐溶剤性の観点からは、膜状等に成型した後で酸処理する方法がより好ましい。具体的には、成型された膜を塩酸水溶液中に浸漬することにより脱保護することが可能であり、酸の濃度や水溶液の温度については適宜選択することができる。
【0090】
ポリマーに対して必要な酸性水溶液の重量比は、好ましくは1~100倍であるけれども更に大量の水を使用することもできる。酸触媒は好ましくは存在する水の0.1~50重量%の濃度において使用する。好適な酸触媒としては、塩酸、硝酸、フルオロスルホン酸、硫酸等のような強鉱酸、及びp-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンルスホン酸等のような強有機酸を挙げることができる。ポリマーの膜厚等に応じて、酸触媒及び過剰水の量、反応圧力などは適宜選択できる。
【0091】
例えば、膜厚50μmの膜であれば、6N塩酸水溶液に例示されるような酸性水溶液中に浸漬し、95℃で1~48時間加熱することにより、容易にほぼ全量を脱保護することが可能である。また、25℃の1N塩酸水溶液に24時間浸漬しても、大部分の保護基を脱保護することは可能である。ただし、脱保護の条件としてはこれらに限定される物ではなく、酸性ガスや有機酸等で脱保護したり、熱処理によって脱保護しても構わない。
【0092】
本発明に用いるレドックスフロー電池用電解質材料の重量平均分子量は、42万以上であることが必要である。重量平均分子量が低いと、成型した膜にクラックが発生するなど機械強度が不十分となることや化学安定性が悪化するため、45万以上であることが好ましく、50万以上であることがより好ましい。一方、重量平均分子量の上限は特に制限されないが、500万を超えると、溶解性が不充分となり、また溶液粘度が高く、加工性が不良になるなどの問題がある場合がある。ここで用いた重量平均分子量Mwは、N-メチル-2-ピロリドン溶媒(臭化リチウムを10mmol/L含有するN-メチル-2-ピロリドン溶媒)を移動相とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー法で求めた、標準ポリスチレンの分子量に対する相対的な重量平均分子量を示す。なお、本発明によって得られる高分子電解質材料の分子量については、溶剤不溶性のために測定が困難な場合があるが、前記分子量の成型性可溶性高分子電解質材料から得られることが必要である。
【0093】
なお、本発明に用いる高分子電解質材料の化学構造は、赤外線吸収スペクトルによって、1,030~1,045cm-1、1,160~1,190cm-1 のS=O吸収、1,130~1,250cm-1 のC-O-C吸収、1,640~1,660cm-1のC=O吸収などにより確認でき、これらの組成比は、スルホン酸基の中和滴定や、元素分析により知ることができる。また、核磁気共鳴スペクトル( 1 H-NMR)により、例えば6.8~8.0ppmの芳香族プロトンのピークから、その構造を確認することができる。また、溶液13C-NMRや固体13C-NMRによって、スルホン酸基の付く位置や並び方を確認することができる。
【0094】
本発明に用いる高分子電解質材料は、重水素化ジメチルスルホキシドや重水素化クロロホルムに例示される一般的な有機溶剤に不溶な場合があるが、重水素化硫酸を用いれば測定が可能である。これにより、モノマー段階でスルホン化され、スルホン化位置が制御されたポリマーであるか、あるいはスルホン化位置の制御されていない後スルホン化ポリマーかを見極めることが可能である。ただし、ケトン基やスルホン基のような電子吸引性の基が隣接していない場合には、サンプル作成中や測定中にスルホン化反応が進行してしまうので、サンプルの正確なスルホン化位置を断定することが困難となる。
【0095】
かかる高分子電解質材料の化学構造についてのNMR測定は、実施例に記載の方法で行う。
【0096】
本発明に用いる高分子電解質材料とするポリマー中のスルホン酸基はブロック共重合で導入しても、ランダム共重合で導入しても構わない。用いるポリマーの化学構造や結晶性の高さによって適宜選択することができる。燃料遮断性や低含水率が必要である場合にはランダム共重合がより好ましく、プロトン伝導性や高含水率が必要である場合にはブロック共重合がより好ましく用いられる。
【0097】
本発明に用いる高分子電解質材料を膜に転化する方法に特に制限はないが、ケタール等の保護基を有する段階で、溶液状態より製膜する方法あるいは溶融状態より製膜する方法等が可能である。前者では、たとえば、該高分子電解質材料をN-メチル-2-ピロリドン等の溶媒に溶解し、その溶液をガラス板等の上に流延塗布し、溶媒を除去することにより製膜する方法が例示できる。
【0098】
製膜に用いる溶媒としては、高分子電解質材料を溶解し、その後に除去し得るものであればよく、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ-ブチロラクトン、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、あるいはイソプロパノール等のアルコール系溶媒、水およびこれらの混合物を好適に用いることができるが、非プロトン性極性溶媒が最も溶解性が高く好ましい。
【0099】
必要な固形分濃度に調製したポリマー溶液を常圧の濾過もしくは加圧濾過等に供し、高分子電解質溶液中に存在する異物を除去することは強靱な膜を得るために好ましい方法である。ここで用いる濾材は特に限定されるものではないが、ガラスフィルターや金属性フィルターが好適である。該濾過で、ポリマー溶液が通過する最小のフィルターの孔径は、1μm以下が好ましい。濾過を行わないと異物の混入を許すこととなり、膜破れが発生したり、耐久性が不十分となるので好ましくない。
【0100】
次いで、得られた高分子電解質膜はイオン性基の少なくとも一部を金属塩の状態にしてから熱処理することが好ましい。用いる高分子電解質材料が重合時に金属塩の状態で重合するものであれば、そのまま製膜、熱処理することが好ましい。金属塩の金属はスルホン酸と塩を形成しうるものであればよいが、価格および環境負荷の点からはLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、W等が好ましく、これらの中でもLi、Na、K、Ca、Sr、Baがより好ましく、Li、Na、Kがさらに好ましい。この熱処理の温度は好ましくは150~550℃、さらに好ましくは160~400℃、特に好ましくは180~350℃である。
【0101】
熱処理時間は、好ましくは10秒~12時間、さらに好ましくは30秒~6時間、特に好ましくは1分~1時間である。熱処理温度が低すぎると、燃料透過性の抑制効果や弾性率、破断強度が不足する。一方、高すぎると膜材料の劣化を生じやすくなる。熱処理時間が10秒未満であると熱処理の効果が不足する。一方、12時間を超えると膜材料の劣化を生じやすくなる。熱処理により得られた高分子電解質膜は必要に応じて酸性水溶液に浸漬することによりプロトン置換することができる。この方法で成形することによって本発明の高分子電解質膜はプロトン伝導度と活物質遮断性、ならびに機械特性、長期耐久性をより良好なバランスで両立することが可能となる。
【0102】
本発明に用いる高分子電解質材料を膜へ転化する方法の具体例としては、該芳香族ポリエーテル系重合体から構成される膜を前記手法により作製後、ケタールで保護したケトン部位の少なくとも一部を脱保護せしめ、ケトン部位とするものである。この方法によれば、溶解性に乏しい低スルホン酸基量ポリマーの溶液製膜が可能となり、プロトン伝導性と活物質遮断性効果の両立、優れた機械特性、寸法安定性を達成可能となる。
【0103】
本発明において、ケタールで保護したケトン部位の一部または全部を脱保護せしめ、ケトン部位とする方法は特に限定されるものではないが、成型した後で、酸処理する方法が挙げられる。具体的には、成型された膜を塩酸や硫酸水溶液中に浸漬することにより脱保護することが可能であり、酸の濃度や水溶液の温度については成型体への染みこみ安さ等を考慮して適宜選択することができる。例えば、膜厚50μmの膜であれば6N塩酸水溶液に例示されるような酸性水溶液中に浸漬し、95℃で8時間加熱することにより、容易に脱保護することが可能である。ただし、脱保護の条件としてはこれらに限定される物ではなく、酸性ガスや有機酸等で脱保護しても構わない。
【0104】
本発明の高分子電解質膜の膜厚としては、好ましくは1~2,000μmのものが好適に使用される。実用に耐える膜の強度を得るには1μmより厚い方がより好ましく、膜抵抗の低減つまり電圧効率の向上のためには2,000μmより薄い方が好ましい。かかる膜厚のさらに好ましい範囲は3~500μm、特に好ましい範囲は5~250μmである。かかる膜厚は、溶液濃度あるいは基板上への塗布厚により制御することができる。
【0105】
また、本発明に用いる高分子電解質材料には、通常の高分子化合物に使用される結晶化核剤、可塑剤、安定剤あるいは離型剤、酸化防止剤等の添加剤を、本発明の目的に反しない範囲内で添加することができる。
【0106】
また、本発明に用いる高分子電解質材料には、前述の諸特性に悪影響をおよぼさない範囲内で機械的強度、熱安定性、加工性などの向上を目的に、各種ポリマー、エラストマー、フィラー、微粒子、各種添加剤などを含有させてもよい。また、微多孔膜、不織布、メッシュ等で補強しても良い。
【0107】
高分子電解質材料中のスルホン酸基の量は、スルホン酸基密度(mmol/g)の値として示すことができる。本発明に用いる高分子電解質材料のスルホン酸基密度は、プロトン伝導性、活物質遮断性および機械強度の点から1.0~3.0mmol/gであることが好ましく、活物質遮断性の点から1.1~2.5mmol/gであることがより好ましく、1.2~2.0mmol/gであることがさらに好ましい。スルホン酸基密度が、1.0mmol/gより低いと、プロトン伝導性が低いため十分な電圧効率が得られないことがあり、3.0mmol/gより高いと燃料電池用電解質膜として使用する際に、含水時の機械的強度が十分に得られないことがある。
【0108】
ここで、スルホン酸基密度とは、乾燥した高分子電解質材料1グラムあたりに導入されたスルホン酸基のモル数であり、値が大きいほどスルホン酸基の量が多いことを示す。スルホン酸基密度は、元素分析、中和滴定により求めることが可能である。これらの中でも測定の容易さから、元素分析法を用い、S/C比から算出するのが好ましいが、スルホン酸基以外の硫黄源を含む場合などは、中和滴定法によりイオン交換容量を求めることもできる。本発明の高分子電解質材料は、後述するようにイオン性基を有するポリマーとそれ以外の成分からなる複合体である態様を含むが、その場合もスルホン酸基密度は複合体の全体量を基準として求めるものとする。
【0109】
本発明に用いる高分子電解質材料には本発明の目的を阻害しない範囲において、他の成分、例えば導電性若しくはイオン伝導性を有さない不活性なポリマーや有機あるいは無機の化合物、が含有されていても構わない。
【0110】
本発明に用いる高分子電解質材料において、保護基を有する基の含有量は特に限定されるものではないが、機械特性、活物質遮断性ならびに化学的安定性の点から、より少量であることが好ましく、全て脱保護されているものが最も好ましい。本発明の高分子電解質材料において、保護基の含有量は、核磁気共鳴スペクトル(NMR)、熱重量減少測定(TGA)、昇温熱脱離-質量分析法(TPD-MS)による発生ガス分析、熱分解ガスクロマトグラフ、熱分解GC-MS、赤外吸収スペクトル(IR)等によって測定することが可能である。
【0111】
本発明に用いる高分子電解質材料中に含有する保護基の量が多い場合には、溶剤溶解性があるため核磁気共鳴スペクトル(NMR)が保護基の定量に好適である。しかしながら、保護基の量がごく少量で溶剤不溶性である場合には、NMRで正確に定量することは困難な場合がある。そうした場合には、昇温熱脱離-質量分析法(TPD-MS)による発生ガス分析、あるいは熱分解ガスクロマトグラフ、熱分解GC-MSが好適な定量方法となる。
【実施例】
【0112】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各物性の測定条件は次の通りである。また、本実施例中には化学構造式を挿入するが、該化学構造式は読み手の理解を助ける目的で挿入するものであり、ポリマーの重合成分の化学構造、正確な組成、並び方、スルホン酸基の位置、数、分子量などを必ずしも正確に表すわけではなく、これらに限定されるものでない。
【0113】
(1)核磁気共鳴スペクトル(NMR)
下記の測定条件で、1H-NMRの測定を行い、構造確認、およびイオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)のモル組成比の定量を行った。該モル組成比は、8.2ppm(ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン由来)と6.5~8.0ppm(ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを除く全芳香族プロトン由来)に認められるピークの積分値から算出した。
【0114】
装置 :日本電子(株)製EX-270
共鳴周波数 :270MHz(1H-NMR)
測定温度 :室温
溶解溶媒 :DMSO-d6
内部基準物質:TMS(0ppm)
積算回数 :16回
(2)重量平均分子量
ポリマーの重量平均分子量をGPCにより測定した。紫外検出器と示差屈折計の一体型装置として東ソー製HLC-8022GPCを、またGPCカラムとして東ソー(株)製TSK gel SuperHM-H(内径6.0mm、長さ15cm)2本を用い、N-メチル-2-ピロリドン溶媒(臭化リチウムを10mmol/L含有するN-メチル-2-ピロリドン溶媒)にて、サンプル濃度0.1wt%、流量0.2mL/min、温度40℃で測定し、標準ポリスチレン換算により重量平均分子量を求めた。
【0115】
(3)膜厚
(株)ミツトヨ製グラナイトコンパレータスタンドBSG-20にセットした(株)ミツトヨ製ID-C112型を用いて測定した。
【0116】
(4)純度の測定方法
下記条件のガスクロマトグラフィー(GC)により定量分析した。
カラム:DB-5(アジレント・テクノロジー(株)製) L=30m Φ=0.53mm D=1.50μm
キャリヤー:ヘリウム(線速度=35.0cm/sec)
分析条件
Inj.temp. 300℃
Detct.temp. 320℃
Oven 50℃×1min
Rate 10℃/min
Final 300℃×15min
SP ratio 50:1
(5)バナジウムイオン(IV)透過量
H型セル間に電解質膜(6.6cm2)を挟み、片側に1.5mol・L-1硫酸マグネシウム/3.5mol/L硫酸水溶液、もう片側に1.5mol・L-1硫酸バナジウム(IV)/3.5mol・L-1硫酸水溶液を各70mL入れた。マグネチックスターラーを用いて、25℃、300rpmで攪拌した。4日後の硫酸マグネシウム溶液中に溶出した4価のバナジウム濃度をUV分光光度計((株)日立製作所製、U-3010)で765nmの吸光度を測定した。
【0117】
あらかじめ、濃度の異なる硫酸バナジウム(IV)の3.5mol・L-1硫酸水溶液を調製し、上記UV分光高度計により吸光度を測定し、濃度と吸光度の関係から得られる検量線を作成し、この検量線から透過した4価のバナジウム濃度を定量した。
【0118】
次いで、下記式により4価のバナジウムイオン透過量を算出した。ここで、使用した硫酸水溶液の比重(密度)は水と同じとする。
【0119】
4価バナジウムイオン透過量(×10-10cm2/分)=透過したバナジウム濃度(mol)/(膜面積(cm2)×透過時間(分))/1.5(mol/m3)×膜厚(m)
(6)熱水試験による寸法変化率(λxy)測定
複合電解質膜を約5cm×約5cmの正方形に切り取り、温度23℃±5℃、湿度50%±5%の調温調湿雰囲気下に24時間静置後、ノギスでMD方向の長さとTD方向の長さ(MD1とTD1)を測定した。該電解質膜を80℃の熱水中に8時間浸漬後、再度ノギスでMD方向の長さとTD方向の長さ(MD2とTD2)を測定し、面方向におけるMD方向とTD方向の寸法変化率(λMDとλTD)および面方向の寸法変化率(λxy)(%)を下式より算出した。
【0120】
λMD=(MD2-MD1)/MD1×100
λTD=(TD2-TD1)/TD1×100
λxy=(λMD+λTD)/2
(7)イオン交換容量(IEC)
プロトン置換し、純水で十分に洗浄した電解質膜の膜表面の水分を拭き取った後、100℃にて12時間以上真空乾燥し、乾燥重量を求めた。次に、電解質に5重量%硫酸ナトリウム水溶液を50mL加え、12時間静置してイオン交換した。続いて、0.01mol・L-1水酸化ナトリウム水溶液を用いて、生じた硫酸を滴定した。指示薬として市販の滴定用フェノールフタレイン溶液0.1w/v%を加え、薄い赤紫色になった点を終点とした。最終的に、下記の式によりイオン交換容量を算出した。
【0121】
イオン交換容量(meq/g)=〔水酸化ナトリウム水溶液の濃度(mmol/mL)×滴下量(mL)〕/試料の乾燥重量(g)
(8)引張強伸度測定
検体となる高分子電解質膜を25℃、60%RHに24時間放置した後、装置にセットし、以下の条件にて引張測定を行った。引張強度および引張伸度の値は試験中に最大点応力を示した瞬間の値とする。弾性率はひずみの差が3%となる任意の二点を用いて、算出される値が最大となるようにした値とする。最大点応力、弾性率は下記式を用いて試験回数5回の平均値で算出した。
【0122】
測定装置: オートグラフAG-IS((株)島津製作所製)
荷重:100N
引張り速度:10mm/min
試験片:幅5mm×長さ50mm
サンプル間距離:20mm
試験温度:25℃
試験数:n=5
(9)耐酸化性評価
高分子電解質膜(78cm2)を1.7molバナジウム溶液(SOC44%)225mLに75℃で30日間浸漬し、浸漬前後の高分子電解質膜を(8)記載の方法で引張測定を行った。浸漬前の引張強度をA、浸漬後の引張強度をBとして、下式により引張強度維持率を算出し、下記基準で耐酸化性を評価した。
【0123】
引張強度維持率=B/A×100
良:引張強度維持率が95%以上
可:引張強度維持率が80%以上、95%未満
不可:引張強度維持率が80%未満
合成例1
下記一般式(G1)で表される2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン(K-DHBP)の合成
【0124】
【0125】
攪拌器、温度計及び留出管を備えた 500mLフラスコに、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン49.5g、エチレングリコール134g、オルトギ酸トリメチル96.9g及びp-トルエンスルホン酸1水和物0.50gを仕込み溶解する。その後78~82℃で2時間保温攪拌した。更に、内温を120℃まで徐々に昇温、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルの留出が完全に止まるまで加熱した。この反応液を室温まで冷却後、反応液を酢酸エチルで希釈し、有機層を5%炭酸カリウム水溶液100mlで洗浄し分液後、溶媒を留去した。残留物にジクロロメタン80mLを加え結晶を析出させ、濾過し、乾燥して2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン52.0gを得た。この結晶をGC分析したところ99.8%の2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソランと0.2%の4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンであった。
【0126】
合成例2
下記一般式(G2)で表されるジソジウム 3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの合成
【0127】
【0128】
4,4’-ジフルオロベンゾフェノン109.1g(アルドリッチ試薬)を発煙硫酸(50%SO3)150mL(和光純薬工業(株)試薬)中、100℃で10h反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、上記一般式(G2)で示されるジソジウム 3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを得た。純度は99.3%であった。構造は1H-NMRで確認した。不純物はキャピラリー電気泳動(有機物)およびイオンクロマトグラフィー(無機物)で定量分析を行った。
(実施例1)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム13.82g(アルドリッチ試薬、100mmol)、一般式(Q3)として前記合成例1で得たK-DHBP20.66g(80mmolmmol、50mol%)、一般式(Q1)として前記合成例2で得たジソジウム 3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン12.02g(28mmol、17.5mol%)、および一般式(Q2)として4,4’-ジフルオロベンゾフェノン11.34g(アルドリッチ試薬、52mmol、32.5mol%)を入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)90mL、トルエン45mL中、180℃で脱水後、昇温してトルエン除去、200℃で3時間重合を行った。多量の水で再沈殿することで精製を行い、高分子電解質材料を得た。
【0129】
高分子電解質材料を溶解させた25重量%N-メチルピロリドン(NMP)溶液をガラス繊維フィルターを用いて加圧ろ過後、ガラス基板上に流延塗布し、100℃にて4h乾燥し、ポリケタールケトン膜を得た。10重量%硫酸水溶液に80℃で24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、レドックスフロー電池用高分子電解質膜を得た。
(実施例2~13および比較例1~3)
用いる化合物の種類、製造条件を表1および2に示すように変更した以外は、実施例1と同様に行った。
(比較例4)
市販のナフィオン(登録商標)212膜(デュポン社製)を用い、各種特性を評価した。ナフィオン(登録商標)212膜は100℃の5%過酸化水素水中にて30分、続いて100℃の5%希硫酸中にて30分浸漬した後、100℃の脱イオン水でよく洗浄した。
(比較例5)
市販のナフィオン(登録商標)211膜(デュポン社製)を用い、各種特性を評価した。ナフィオン(登録商標)212膜は100℃の5%過酸化水素水中にて30分、続いて100℃の5%希硫酸中にて30分浸漬した後、100℃の脱イオン水でよく洗浄した。
【0130】
【0131】
【0132】
表1および2に記載の通り、実施例1~13の高分子電解質膜は、比較例1~5の高分子電解質膜に比べて、低い活物質透過性であり、寸法安定性、機械強度、耐酸化性に優れる結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の電解質膜は、種々の電気化学装置(例えば、燃料電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置等)に適用可能である。これら装置の中でも、燃料電池用に好適であり、特にメタノール水溶液を燃料とする燃料電池に好適である。
【0134】
本発明の固体高分子型燃料電池の用途としては、特に限定されないが、携帯電話、パソコン、PDA、ビデオカメラ、デジタルカメラなどの携帯機器、コードレス掃除機等の家電、玩具類、電動自転車、自動二輪、自動車、バス、トラックなどの車両や船舶、鉄道などの移動体の電力供給源、据え置き型の発電機など従来の一次電池、二次電池の代替、もしくはこれらとのハイブリット電源として好ましく用いられる。