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  • 特許-金属溶解装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】金属溶解装置
(51)【国際特許分類】
   F27B 3/28 20060101AFI20241008BHJP
   F27D 11/08 20060101ALI20241008BHJP
   F27D 19/00 20060101ALI20241008BHJP
   H05B 7/06 20060101ALI20241008BHJP
   H05B 7/144 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
F27B3/28
F27D11/08 A
F27D19/00 Z
H05B7/06
H05B7/144
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020115149
(22)【出願日】2020-07-02
(65)【公開番号】P2022012956
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 国雄
(72)【発明者】
【氏名】大脇 智
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 規勝
(72)【発明者】
【氏名】堀 秀幸
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-069606(JP,A)
【文献】特開平09-145254(JP,A)
【文献】特開2020-016345(JP,A)
【文献】特開2013-170748(JP,A)
【文献】特開平08-165510(JP,A)
【文献】特開平10-335058(JP,A)
【文献】特公昭55-017314(JP,B2)
【文献】特公昭50-018217(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 1/00 - 3/28
F27D 11/08
F27D 19/00
H05B 7/06
H05B 7/144
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料を収容する炉体と、
前記炉体内に挿入され、前記金属材料との間にアークを発生させ、前記金属材料を溶解させる電極と、
前記電極を把持部にて把持し、前記炉体に対する前記電極の高さ位置を調整する電極昇降装置と、
前記電極昇降装置の前記把持部から、前記電極の先端までの距離として、電極長を計測する電極測長装置と、
前記炉体における前記金属材料の溶解の進捗状況を判定する炉況判定部と、を有し、
前記電極昇降装置によって、前記電極と前記金属材料の間のインピーダンスの目標値からの変動を所定の閾値以内に抑えるように、前記電極を昇降させる、インピーダンス制御を行い、
前記炉況判定部は、
前記電極測長装置で計測された前記電極長に基づいて、前記電極の先端の高さ位置を示す第一情報と、
前記炉体からの発生音の周波数分布と、前記電極への供給電源の高周波成分の強度と、の少なくとも一方の情報を含む第二情報と、
前記インピーダンス制御における前記電極の昇降の頻度、および昇降幅の少なくとも一方を示す第三情報と、から選択される複数の情報に基づいて評価した、前記炉体に装入した前記金属材料のうち溶解したものの割合を示す溶解の進捗度と、
前記炉体に装入した前記金属材料の総量の情報とから、
前記炉体の中の固体状態および溶湯状態の前記金属材料の量を算出するとともに、
前記算出の結果と、
前記炉体の内部の形および大きさと、に基づいて、
前記電極の下方における前記金属材料の溶解の進捗状況を判定し、
前記炉況判定部によって、前記電極の下方における前記金属材料の溶解が、所定水準以上に進捗していることが判定されると、前記インピーダンス制御のパラメータを変動時用パラメータから安定時用パラメータに変更し、
前記安定時用パラメータにおいては、前記変動時用パラメータと比較して、
前記電極昇降装置による前記電極の昇降速度を小さくした状態、および
前記目標値を小さくすることおよび前記閾値を大きくすることの少なくとも一方により、前記電極の位置を下げた状態、の少なくとも一方とする、金属溶解装置。
【請求項2】
前記炉況判定部は、前記第一情報、前記第二情報、前記第三情報の全てを利用して、前記金属材料の溶解の前記進捗を判定する、請求項1に記載の金属溶解装置。
【請求項3】
前記炉況判定部は、
前記第一情報について、前記電極の先端の高さ位置が低くなっていることにより、
前記第二情報について、前記発生音の周波数分布において、基本周波数の偶数倍の周波数成分の寄与が大きくなっていることにより、また、前記供給電源の高周波成分において、電源周波数の偶数倍の成分の強度が低下していることにより、
前記第三情報について、前記電極の昇降の頻度が小さくなっていることにより、また、前記電極の昇降幅が小さくなっていることにより、前記金属材料の溶解が進んでいると判定する、請求項1または請求項2に記載の金属溶解装置。
【請求項4】
前記電極測長装置は、前記炉体に装入した前記金属材料の溶解を開始する前に実測した前記電極長から、前記電極に投入した電力量に応じた前記電極の消耗量を減じて、前記電極長を推定する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の金属溶解装置。
【請求項5】
前記金属溶解装置は、前記電極を複数有し、
前記炉況判定部は、前記複数の電極のそれぞれに対して、下方における前記金属材料の溶解の前記進捗状況を判定し、
前記複数の電極のそれぞれに対して、独立に、前記変動時用パラメータから前記安定時用パラメータへの変更を実施する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の金属溶解装置。
【請求項6】
前記金属材料の溶解の前記進捗状況は、前記炉体の内部において前記溶湯状態にある前記金属材料が占める高さ位置を示す、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の金属溶解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属溶解装置に関し、さらに詳しくは、電極の高さを制御しながら、アーク放電によって金属材料を溶解させる金属材料溶解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属スクラップ等の金属材料を電極からのアーク放電によって溶解するアーク炉においては、金属材料に対する電極の高さ位置を調整するために、電極昇降装置が設けられることが多い。電極昇降装置を用いて、金属材料に対する電極先端の高さ位置を調整することで、金属材料の溶解にかかる条件を制御することができる。電極先端の高さ位置の制御としては、電極と金属材料の間のインピーダンスが所定の範囲に収まるようにするインピーダンス制御が、広く用いられている。
【0003】
電極は、アーク放電を重ねることで消耗するが、電極先端の高さ位置の調整を適切に行うためには、電極の長さを実測することが重要となる。そこで、例えば特許文献1に、電極測長装置が開示されている。特許文献1では、金属材料の溶解の進行に伴って炉体に収容された未溶解の金属材料の体積が減少し、金属材料の上面の高さ位置が低くなった際に、電極昇降装置を用いて、電極の位置を下降させる制御を行う場合に、電極測長装置を用いて事前に電極の長さを高精度に計測しておくことで、電極の高さ位置を正確に制御し、溶解の効率を高めることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-148465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるものをはじめとする電極測長装置を用いて、電極の長さを実測したうえで、インピーダンス制御による電極の高さ位置の調整を行いながら、アーク放電による金属材料の溶解を進めれば、溶解における安定性の向上や、電力効率の向上が期待できる。しかし、アーク放電の条件は、金属材料と電極先端の間の距離だけではなく、炉内の金属材料の状態にも依存する。例えば、金属スクラップ等の固体金属材料と、溶解して生じた金属溶湯とでは、電極との間のアーク放電の条件が大きく変化する。スクラップ等の固体金属材料は、複雑な表面形状を有することが多く、アーク放電が不規則に起こりやすいのに対し、金属溶湯よりなる溶融プールは、平面的な表面を露出させているため、アーク放電が規則的に起こる。
【0006】
このように、炉内の金属材料の状態によって、アーク放電の条件が変化するため、金属材料と電極先端の間の距離を、インピーダンス制御によって、所定の範囲に保ったとしても、炉内の金属材料の状態が異なる場合に、必ずしも、安定して、また高効率でアーク放電を行える適切な条件が実現できる訳ではない。そこで、アーク放電に関わる多様な現象を考慮しながら、電極の高さ位置を制御することができれば、アーク放電による金属材料の溶解の効率を、さらに高められる可能性がある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、電極からのアーク放電によって金属材料を溶解させる際に、アーク放電に関わる複数の現象を考慮して、電極の高さ位置を制御することができる金属溶解装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる金属溶解装置は、金属材料を収容する炉体と、前記炉体内に挿入され、前記金属材料との間にアークを発生させ、前記金属材料を溶解させる電極と、前記電極を把持部にて把持し、前記炉体に対する前記電極の高さ位置を調整する電極昇降装置と、前記電極昇降装置の前記把持部から、前記電極の先端までの距離として、電極長を計測する電極測長装置と、前記炉体における前記金属材料の溶解の進捗状況を判定する炉況判定部と、を有し、前記電極昇降装置によって、前記電極と前記金属材料の間のインピーダンスの目標値からの変動を所定の閾値以内に抑えるように、前記電極を昇降させる、インピーダンス制御を行い、前記炉況判定部は、前記電極測長装置で計測された前記電極長に基づいて、前記電極の先端の高さ位置を示す第一情報と、前記炉体からの発生音の周波数分布と、前記電極への供給電源の高周波成分の強度と、の少なくとも一方の情報を含む第二情報と、前記インピーダンス制御における前記電極の昇降の頻度、および昇降幅の少なくとも一方を示す第三情報と、から選択される複数の情報と、前記炉体の形状と、に基づいて、前記電極の下方における前記金属材料の溶解の進捗状況を判定し、前記炉況判定部によって、前記電極の下方における前記金属材料の溶解が、所定水準以上に進捗していることが判定されると、前記インピーダンス制御のパラメータを変動時用パラメータから安定時用パラメータに変更し、前記安定時用パラメータにおいては、前記変動時用パラメータと比較して、前記電極昇降装置による前記電極の昇降速度を小さくした状態、および前記目標値を小さくすることおよび前記閾値を大きくすることの少なくとも一方により、前記電極の位置を下げた状態、の少なくとも一方とする。
【0009】
ここで、前記炉況判定部は、前記第一情報、前記第二情報、前記第三情報の全てを利用して、前記金属材料の溶解の進捗状況を判定するとよい。
【0010】
前記炉況判定部は、前記第一情報について、前記電極の先端の高さ位置が低くなっていることにより、前記第二情報について、前記発生音の周波数分布において、基本周波数の偶数倍の周波数成分の寄与が大きくなっていることにより、また、前記供給電源の高周波成分において、電源周波数の偶数倍の成分の強度が低下していることにより、前記第三情報について、前記電極の昇降の頻度が小さくなっていることにより、また、前記電極の昇降幅が小さくなっていることにより、前記金属材料の溶解が進んでいると判定するとよい。
【0011】
前記電極測長装置は、前記炉体に装入した前記金属材料の溶解を開始する前に実測した前記電極長から、前記電極に投入した電力量に応じた前記電極の消耗量を減じて、前記電極長を推定するとよい。
【0012】
前記金属溶解装置は、前記電極を複数有し、前記炉況判定部は、前記複数の電極のそれぞれに対して、下方における前記金属材料の溶解の進捗状況を判定し、前記複数の電極のそれぞれに対して、独立に、前記変動時用パラメータから前記安定時用パラメータへの変更を実施するとよい。
【発明の効果】
【0013】
上記発明にかかる金属溶解装置においては、炉況判定部が、第一情報、第二情報、第三情報から選択される複数の情報と、炉体の形状とに基づいて、電極の下方における金属材料の溶解の進捗状況を判定したうえで、電極の高さ位置を制御するインピーダンス制御のパラメータを選択している。第一情報、第二情報、第三情報は、いずれも、金属材料の溶解の進捗状況、つまり、固体状態から溶湯状態への変化がどの程度起こっているかを、敏感に反映する現象に関わる情報である。それらの情報を複数用い、かつ、炉体の形状を考慮することで、電極の下方において、どのような高さ位置を占めて金属材料が存在しているか、またその金属材料が、固体状態にあるのか溶湯状態にあるのかに関する知見を、正確に得ることができる。そして、その知見に基づいて、下方の金属材料の高さ位置および状態に応じて設定される適切な位置に、電極の先端を配置することができる。このように、金属材料の溶解に関わる複数の現象を考慮しながら、電極の高さ位置を制御することが可能となる。
【0014】
特に、溶解が所定水準以上に進捗している場合に、インピーダンス制御のパラメータを、変動時用パラメータから安定時用パラメータに変更し、電極の昇降速度を小さくした状態、および電極の位置を下げた状態の少なくとも一方とすることにより、金属材料の溶解における電力投入の効率を高めることができる。金属材料の溶解が進捗し、電極の下方の金属材料が、溶湯の状態を多く占めるようになると、固体状態が多くを占めている場合よりも、アーク放電が安定して起こるので、電極の昇降をインピーダンスの変動に対して敏感に行わなくても、安定して金属材料の加熱を進めることができ、少ない電力量でも効率的に金属材料の溶解を進めることができるからである。
【0015】
ここで、炉況判定部が、第一情報、第二情報、第三情報の全てを利用して、金属材料の溶解の進捗状況を判定する場合には、3種の異種の情報を合わせて用いることにより、金属材料の溶解の進捗状況を、特に正確に判定し、電極の高さ位置の制御に用いることができる。
【0016】
炉況判定部が、第一情報について、電極の先端の高さ位置が低くなっていることにより、第二情報について、発生音の周波数分布において、基本周波数の偶数倍の周波数成分の寄与が大きくなっていることにより、また、供給電源の高周波成分において、電源周波数の偶数倍の成分の強度が低下していることにより、第三情報について、電極の昇降の頻度が小さくなっていることにより、また、電極の昇降幅が小さくなっていることにより、金属材料の溶解が進んでいると判定する場合には、それらの現象は、いずれも、金属材料の溶解の進捗度を敏感に反映するものである。よって、それらの現象を利用することで、溶解の進捗状況を特に正確に判定することができる。
【0017】
電極測長装置が、炉体に装入した金属材料の溶解を開始する前に実測した電極長から、電極に投入した電力量に応じた電極の消耗量を減じて、電極長を推定する場合には、金属材料の溶解を開始する前に電極長を実測することで、溶解開始前の電極長を正確に知ることができるとともに、金属材料の溶解を行っている間の電極の消耗を反映させて、溶解中の各時点における電極長を推定することができる。その推定された電極長に基づく電極の先端の高さ位置を、溶解の進捗状況を判定する際に第一情報として用いることにより、また、判定した進捗状況に基づいて、インピーダンス制御によって電極を昇降制御する際に、制御すべき電極の長さとして用いることにより、実際の溶解の進捗状況と電極長に応じて、適切な条件で金属材料の溶解を進めやすくなる。
【0018】
金属溶解装置が、電極を複数有し、炉況判定部が、複数の電極のそれぞれに対して、下方における金属材料の溶解の進捗状況を判定し、複数の電極のそれぞれに対して、独立に、変動時用パラメータから安定時用パラメータへの変更を実施する場合には、各電極について、下方の金属材料の溶解状態に応じて、インピーダンス制御による高さ位置の調整を、独立して行うことになる。電極の下方の金属材料の状態は、電極間で異なっている場合も多く、各電極の下方における溶解の進捗状況に応じて、個別の制御を行うことで、全電極からの放電を効率的に利用して、金属材料の溶解を進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態にかかる金属溶解装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態にかかる金属溶解装置について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
[金属溶解装置の構成]
まず、本発明の一実施形態にかかる金属溶解装置1の構成について、簡単に説明する。図1に、金属溶解装置1の概略を示す。金属溶解装置1は、炉体11および電極15を備えたアーク炉10と、電極昇降装置30と、電極測長装置40と、制御装置50とを有している。制御装置50は、炉況判定部51と、昇降制御部52と、測長部53と、を有している。
【0022】
アーク炉10においては、炉体11に金属スクラップ等の金属材料Mを収容する。そして、蓋12を貫通させて、電極15を炉体11の内部に挿入し、電極15と金属材料Mの間で、アーク放電を行うことで、金属材料Mを加熱し、溶解させる。電極15は、電極昇降装置30の把持部31にて把持され、電極昇降装置30によって、高さ位置を変更可能となっている。図示した形態では、電極15は1本のみとしているが、3本等、複数の電極15を設けてもよい。
【0023】
アーク炉10に電力を供給する電源回路20には、タップチェンジャを備えた炉用変圧器21が設けられており、炉用変圧器21の一次側回路22が商用電源に接続されている。炉用変圧器21の二次側回路23は、電極15に至っており、電極15に電源を供給する。電極15には、二次側回路23から、三相交流が供給される。一次側回路22には、計器用変流器および/または計器用変圧器が設けられており(図では、一次側計測器24として簡略表示している)、一次側回路22における電流および/または電圧を計測可能となっている。一次側計測器24によって計測された一次側回路22の電流および/または電圧は、後に説明する炉況判定において、第二情報の基礎として用いられる。二次側回路23にも、計器用変流器および計器用変圧器が設けられており(図では、二次側計測器25として一括して簡略表示している)、二次側回路23の電流(I)および電圧(V)を計測可能となっている。二次側計測器25によって計測された二次側回路23の電流Iおよび電圧Vは、制御装置50に入力され、後に説明するインピーダンス制御による電極15の昇降制御に用いられる。電極15が複数設けられる場合には、インピーダンス制御による電極15の昇降は、複数の電極15のそれぞれに対して、独立に行われる。
【0024】
さらに、炉体11の近傍には、騒音計16が設置されている。騒音計16は、アーク炉10の炉内発生音を検出し、検出された音の強度に応じた電気信号を、制御装置50に入力する。
【0025】
電極昇降装置30は、把持部31と、駆動部32とを有しており、駆動部32の駆動軸33と把持部31が、支持部材34を介して接続されている。把持部31は、電極15を挟み込んで把持するクランプ状の部材である。駆動部32は、電動機または油圧シリンダ等より構成され、上下方向に駆動軸33の運動を駆動することができる。駆動部32による上下運動の駆動により、把持部31に把持された電極15の昇降運動が駆動され、炉体11に対する電極15の高さ位置を変化させることができる。駆動部32は制御装置50に接続されており、駆動部32による電極15の昇降は、制御装置50の昇降制御部52によって制御される。駆動部32には、リニアエンコーダより構成された位置検知部35が設けられ、駆動軸33が上下方向に移動した距離に基づき、把持部31の上下方向の位置を検知することができる。電極昇降装置は、電極15を保持したまま、軸回転することもできる。
【0026】
電極測長装置40は、電極昇降装置30の把持部31によって把持された電極15に対して、電極昇降装置30の把持部31の位置から電極15の先端までの距離を計測する装置である。電極測長装置40としては、特許文献1に開示された装置等を利用することができる。詳細な説明は省略するが特許文献1の電極測長装置40においては、砂42を充填され、下方からコイルばね43で支持された容器41に、電極昇降装置30による下降を利用して、把持部31にて把持した電極15を上方から進入させる。そして、容器41の下方に取り付けたリミットスイッチ44によって、容器41の下降が検知されるまでの把持部31の移動量に基づいて、電極15の長さを算出するものである。電極15の長さの算出は、リミットスイッチ44からの出力と、電極昇降装置30に設けられた位置検知部35からの出力を、制御装置50の測長部53に入力して行う。測長部53は、位置検知部35の出力値に基づいて、基準位置からの把持部31の移動量を算出し、それをもとに、電極15の長さ、つまり把持部31によって把持された箇所から先端までの長さを評価する。
【0027】
制御装置50は、コンピュータ等の演算・制御装置として構成されており、その機能の一部として、炉況判定部51、昇降制御部52、測長部53を有している。これらのうち測長部53は、上記のように、電極測長装置40および電極昇降装置30からの信号入力を受け、電極15の長さを評価するものである。さらに、測長部53は、電源回路20の二次側回路23に設けられた二次側計測器25から電流値Vと電流値Iの入力を受け、電極15に投入した電力量として算出された電力量に応じた電極15の消耗量を減じて、電極15からのアーク放電によって金属材料Mを溶解させている間の各時点における電極15の長さを、見積もることができる。電極15の消耗量の見積もりには、算出された上記電力量と電極15の消耗量の関係を、事前の試験によって評価しておいた情報を用いればよい。
【0028】
昇降制御部52は、電極昇降装置30の駆動部32に指令信号を発することで、電極15の昇降を駆動することができる。電極15の昇降は、電極を炉体11から引き上げて、電極測長装置40による測長等、炉外での操作を行う場合の他、炉体11の中で金属材料Mを溶解させる間、溶解にかかる条件を制御するために、実施される。溶解中の電極15の昇降制御は、インピーダンス制御によって行われる。つまり、昇降制御部52に二次側計測器25から、二次側回路23における電流値Vと電流値Iが入力され、V/Iとして算出される電極15と金属材料Mの間のインピーダンスを指標として、電極15の高さ位置の制御が行われる。具体的には、そのインピーダンスの変動を、所定の目標値に対して、所定の閾値以内に抑えるように、電極15を昇降させる制御を行う。インピーダンス制御に用いるパラメータは、複数の候補の中から、炉況判定部51による判定結果に基づいて、選択される。
【0029】
炉況判定部51は、アーク炉10の炉況、つまり炉体11の中における金属材料Mの溶解の進捗状況を判定する。金属材料Mの溶解の進捗状況とは、金属スクラップ等、固体金属の状態で炉体11に装入した金属材料Mが、電極15からのアーク放電によって溶解し、金属溶湯となる現象が、炉体11の中でどの程度進行し、固体金属または金属溶湯が、炉体11の内部で、どのような高さ位置まで満たされているかを示すものである。炉況判定部51は、測長部53によって評価された電極15の長さの情報、騒音計16によって検出された炉内発生音の情報、一次側計測器24によって検出される電極15への供給電源に関する情報、昇降制御部52によって駆動される電極15の昇降にかかる情報をそれぞれ入力され、それらの情報と、あらかじめ記憶しておいた炉体11の形状に関する情報に基づいて、炉況の判定を行う。炉況判定部51による炉況の判定方法と、その判定結果に基づいた昇降制御部52による電極15の高さ位置の制御について、以下に詳しく説明する。
【0030】
[炉況とアーク放電]
まず、アーク炉10の炉況、つまり炉体11の内部における金属材料Mの溶解の進捗状況と、アーク放電の状態との関係について説明する。
【0031】
炉体11に装入した金属スクラップ等の固体状の金属材料Mがほぼ溶解していない溶解初期には、金属材料Mが、多数の塊の集合体よりなっており、複雑な形状を有しているため、アーク放電が不規則に起こりやすい。さらに、局所的に溶解が進行することで、それらの塊の崩落が起こると、アーク放電の不規則性が高くなる。そのような状況で、アーク切れが起こらないように、インピーダンス制御によって、電極15の高さ位置を制御すると、アークの不規則な変化に伴って、電極15の高さが頻繁に変更されることになる。電極15の高さの変更幅も大きくなる。
【0032】
そして、溶解初期には、崩落する金属材料Mの塊に電極15が干渉するのを避けるために、また、アーク切れを抑制する効果を高めるために、電極15の昇降を高速で行うことが望ましい。アーク切れを抑制し、アーク放電を安定に継続することで、投入電力の損失を抑制することができる。電極15の昇降を高速で行うためには、インピーダンス制御において、インピーダンスの変動に追随して電極15を昇降させる速度を速く設定しておけばよい。さらに、金属材料Mの塊との干渉の回避およびアーク切れの抑制の効果を高めるために、電極15を金属材料Mの表面から離れた位置で制御することが望ましい。そのためには、インピーダンス制御において、目標とするインピーダンス値を大きく設定すること、および目標とするインピーダンス値に対して変動を許容する閾値を小さく設定することのいずれか少なくとも一方を行えばよい。電極15を金属材料Mの表面から離れた高さ位置に配置すると、高電圧でアーク放電が行われることになる。
【0033】
一方、炉体11の中の金属材料Mのうちの多くが溶解し、金属溶湯の状態になっている溶解後期から、実質的に全ての金属材料Mが溶解した溶け落ち期においては、溶融した金属材料Mが、平面状の表面を露出させたプール状になっており、アーク放電が規則的に、また安定に進行する。このような状況で、インピーダンス制御によって、電極15の高さ位置を制御する場合には、アークの発生が規則的であることにより、電極15の高さの変更が頻繁には行われない。電極15の高さの変更幅も小さく抑えられる。
【0034】
そして、溶解後期から溶け落ち期には、電極15の昇降をそれほど高速で行わなくても、金属材料Mとの干渉等は起こりにくく、安定して金属材料Mの溶解を進めることができる。よって、インピーダンス制御において、不要な電極15の昇降を避ける観点から、インピーダンスの変動に追随して電極15を昇降させる速度を遅く設定しておけばよい。また、電極15を金属材料Mの表面にできるだけ近づけた位置で制御することが望ましい。電極15を金属材料Mに近づけることで、電流量が大きくなり、炉内の雰囲気や金属材料Mが高温に加熱・維持されやすくなる。その結果、少ない投入電力でも効率的に溶解を進めることができ、電力効率が高められる。電極15を金属材料Mに近づけるためには、インピーダンス制御において、目標とするインピーダンス値を小さく設定すること、および目標とするインピーダンス値に対して変動を許容する閾値を大きく設定することのいずれか少なくとも一方を行えばよい。電極15を金属材料Mに近づけると、高電流でアーク放電が行われることになる。大部分が金属溶湯の状態にある金属材料Mの中に、一部、固体状の金属材料Mの塊が存在していたとしても、それらの塊が十分に小さければ、主に金属溶湯の表面によって金属材料M全体としての表面が定まることになり、電極15の先端を近づけても、安定したアーク放電を継続することができる。
【0035】
このように、溶解初期において、アーク放電の条件が変動しやすい時期と、溶解後期から溶け落ち期において、アーク放電が安定して起こる時期とでは、電極15の高さ位置のインピーダンス制御における好ましい条件が異なる。そこで、本実施形態にかかる金属溶解装置1においては、炉況判定部51によって、炉内の金属材料Mの溶解進捗状況を判定して、その進捗状況に応じて、電極15の昇降速度、インピーダンスの目標値および変動を許容する閾値等を含む、インピーダンス制御に用いるパラメータを変更する。具体的には、炉況判定部51による判定結果において、溶解があまり進捗していない場合には、インピーダンス制御に変動時用パラメータを適用する一方、電極15の下方(直下およびその近傍の領域)において、所定水準以上に溶解が進捗していることが判定されると、安定時用パラメータに変更する。
【0036】
変動時用パラメータは、電極15の昇降速度が比較的小さい状態、および電極15の位置を比較的上げた状態の少なくとも一方、好ましくは両方となるように制御を行うパラメータである。電極15の位置を比較的上げた状態とするためには、インピーダンスの目標値を比較的大きく設定すること、および変動を許容する閾値(変動幅)を小さく設定することの少なくとも一方を行えばよい。これらに対し、安定時用パラメータは、変動時用パラメータと比較して、電極15の昇降速度を小さくした状態、および電極15の位置を下げた状態の少なくとも一方、好ましくは両方となるように制御を行うパラメータである。電極15の位置を下げた状態とするためには、変動時用パラメータと比較して、インピーダンスの目標値を小さく設定すること、および変動を許容する閾値(変動幅)を大きくすることの少なくとも一方を行えばよい。
【0037】
このように、金属材料Mの溶解の進捗状況に応じて、電極15の高さ位置のインピーダンス制御に用いるパラメータを、変動時用パラメータと安定時用パラメータの間で切り替えることで、電力を効率よくアーク炉10に投入し、金属材料Mの溶解を安定して進めることができる。変動時用パラメータは、アーク切れによる投入電力の損失を抑制することにより、安定時用パラメータは、金属材料Mに対して近距離からアーク放電を行うことにより、電力効率を高めることに寄与する。特に、安定時用パラメータにおいて、電極15の高さ位置を変動時用パラメータよりも下げるように制御し、金属材料Mに近づけることで、電力効率の向上に高い効果が得られる。
【0038】
本実施形態においては、変動時用パラメータと安定時用パラメータの2種のパラメータを準備し、それらの間で切り替えを行う形態について説明しているが、さらに多数のパラメータを準備し、溶解の進捗状況に応じて、それらを段階的に切り替えて適用するようにしてもよい。その場合には、溶解が進捗したときに適用されるパラメータほど、電極15の昇降速度を小さくする制御、および電極15の位置を下げる制御の少なくとも一方を行うように、各パラメータを設定すればよい。また、選択肢として準備するパラメータの組を、溶解の進捗段階に応じて変更してもよい。なお、上記のような溶解の進捗状況に応じたパラメータの切り替えは、アーク放電を開始した直後の点弧期およびボーリング期には実施せず、ボーリング期が完了して溶解期に達してから、開始するとよい。ボーリング期の完了の判定は、例えば、後に説明する第二情報に基づいて行うことができる。
【0039】
アーク炉10が複数の電極15を備える場合には、電極15の高さのインピーダンス制御、および炉況に基づくインピーダンス制御のパラメータの切り替えを、電極15ごとに、独立して行うことが好ましい。金属材料Mの溶解は、全ての電極15の周囲で均等に起こるとは限らず、電極15ごとに、制御パラメータの選択およびインピーダンス制御を行うことが、アーク炉10全体としての電力効率の向上に効果を有するからである。炉況の判定において、各電極15の下方の金属材料Mにおける溶解の進捗状態を判定し、その電極15の下方で、所定の水準よりも溶解が進捗していれば、パラメータの切り替えを行うようにすればよい。
【0040】
[炉況の判定]
次に、電極15の高さ位置のインピーダンス制御に用いるパラメータを切り替えるための指標となる炉況の判定方法について説明する。本実施形態にかかる金属溶解装置1においては、炉況判定部51が、溶解の進捗度と、炉体11の形状に基づいて、電極15の下方における金属材料Mの溶解の進捗状況を判定する。溶解の進捗度は、炉体11に装入した金属材料Mのうち、どの程度の割合が溶解して金属溶湯の状態になっているかを、例えばパーセントを単位として示すものであり、次に説明する第一情報、第二情報、第三情報の3種から選択される複数の情報に基づいて、判定される。炉体11の形状とは、炉壁や炉底等、炉内の各部の形および大きさを指し、炉体11の設計情報や、プロファイルメータ等を用いて実測した情報を利用することができる。
【0041】
複数の情報に基づいて評価した溶解の進捗度と、金属スクラップ等、炉体11に装入した金属材料Mの総量の情報から、炉体11の中の固体状態および溶湯状態の金属材料Mの量(体積)を算出することができる。その算出結果と、炉体11の形状とから、金属材料Mが占める高さ位置を見積もることができる。その見積もり結果に基づいて、電極15の高さ位置のインピーダンス制御に用いるパラメータが、変動時用パラメータと安定時用パラメータから選択される。以下、溶解の進捗度の判定に用いられる3種の情報について、順に説明する。
【0042】
(1)第一情報:電極先端の高さ位置
上記のように、本実施形態にかかる金属溶解装置1には、電極測長装置40が備えられ、電極15の長さを計測することができる。そして、電極昇降装置30に設けられた位置検知部35の読み取り値から、溶解中の各時点において、電極15を把持する把持部31の高さ位置が分かるので、電極15の長さの情報と合わせて、電極15の先端の高さ位置、つまり、炉体11の底面等、基準面からの電極15の先端の高さが分かる。この電極15の先端の高さ位置が、第一情報として、溶解の進捗度の判定に利用される。
【0043】
電極15と金属材料Mの間のインピーダンスが、目標値に対して所定の閾値を超えて変動しないように、電極15の高さ位置を制御するインピーダンス制御を行っていると、電極15の下方の金属材料Mの状態によって、インピーダンス制御の結果として設定される電極15の先端の高さ位置が変化する。具体的には、上でも説明したように、電極15の下方に存在する金属材料Mが固体状態にある場合の方が、金属溶湯の状態にある場合よりも、電極15が高い位置に制御される傾向がある。金属材料Mが、金属スクラップ等、固体状態をとっている場合の方が、嵩高くなるうえ、金属材料M全体としての表面が凹凸を有しており、その金属材料Mの表面と電極15の先端との間に、所定のインピーダンスを与える距離を確保するために、電極15の先端が高い位置に制御されやすい。一方、金属材料Mが金属溶湯の状態をとっていると、溶湯の表面の位置の低さおよび平滑さに対応して、電極15の先端が低い位置に制御されやすい。よって、電極15の先端の高さ位置が低くなっているのを検出することにより、金属材料Mの溶解が進んでいると判定できる。つまり、金属材料Mのうち、金属溶湯の状態となっているものの割合が多くなり、溶解の進捗度が高くなっていると判定できる。
【0044】
電極15の先端の高さ位置を算出するための電極長としては、例えば、金属材料Mを初装する際、さらには追装する際、また把持部31による電極15の掴み替えや継ぎ足しを行う際に、その後の金属材料Mの溶解を開始する前に、電極15を炉体11から引き上げ、電極測長装置40で実測した電極長を用いることができる。しかし、そのようにして実測を行った後の金属材料Mの溶解で、アーク放電に伴って電極15が消耗することを考慮した電極長を用いる方が好ましい。上記で説明したように、制御装置50の測長部53は、電極15に投入した電力量として算出された電力量に応じて、電極15の消耗量を考慮し、溶解中の各時点における電極長を推定することができる。その推定結果を用いて、溶解中の各時点における電極15の先端の高さ位置を算出し、第一情報として、溶解の進捗度の評価に用いることで、各時点における溶解の進捗度を、適切に見積もることが可能となる。
【0045】
(2)第二情報:炉体からの発生音および供給電源の状態
本実施形態にかかる金属溶解装置1は、騒音計16を備えており、炉体11からの発生音を検出することができる。また、電源回路20に備えられた一次側計測器24によって、電極15に供給される供給電源の状態を検知することができる。金属材料Mの溶解の進捗度を評価するための第二情報として、これら炉体11からの発生音の周波数分布、および供給電源に含まれる高周波成分の強度の少なくとも一方を用いる。
【0046】
出願人らの出願による特開2020-016345号公報に詳しく記載されるように、炉内発生音および供給電源の高周波成分は、炉体11の中の金属材料Mの溶解状態を敏感に反映する情報となり、溶解が完了したか否かの判定等に利用することができる。本実施形態においては、それらの情報を、溶解完了の指標として用いるのに加え、インピーダンス制御にかかるパラメータの選択のための基礎情報としても用いる。
【0047】
具体的には、炉内発生音について、騒音計16で計測された強度を周波数分析し、周波数分布(各周波数ごとの強度の分布)を解析した音周波数データにおいて、基本周波数の偶数倍の周波数を含んだピークの高さに注目する。溶解の初期には、音周波数データにおいて、基本周波数の偶数倍の周波数を含む領域において、信号強度に明確な周波数依存性が見られないのに対し、溶解の終期には、基本周波数の偶数倍の周波数を中心とした一部の周波数領域で信号強度が強くなる一方、その周囲の周波数の信号強度が弱くなり、基本周波数の偶数倍の周波数を中心とした明確なピーク構造が観測されるようになる。そこで、音周波数データにおいて、基本周波数の偶数倍の周波数成分の寄与が大きくなって、その周波数成分を含んだピークの高さが高くなっているのを検出することにより、金属材料Mの溶解が進んでいると判定できる。
【0048】
一方、供給電源の高周波成分については、一次側計測器24によって計測される電源回路20の一次側回路22における電流値または電圧値を周波数分析した電気周波数データにおいて、電源周波数(一次側回路22に入力される商用電源の周波数)の偶数倍の周波数の高調波成分の強度に注目する。炉体11の中で金属材料Mの溶解が進行するのに伴って、アーク炉10から発生する高調波が減少する。アーク炉10から発生する高調波は、電極15に電源を供給する電源回路20の一次側回路22の電流および電圧に、基本周波数の偶数倍の周波数を有する高調波成分として現れる。よって、一次側回路22の電流または電圧において、基本周波数の偶数倍に相当する高調波の強度の時間変化を観察することで、炉体11の中の金属材料Mの溶解の進捗度を判定することができる。その高調波成分の強度が低下しているのを検出することにより、金属材料Mの溶解が進んでいると判定できる。
【0049】
以上のように、炉体11からの発生音および供給電源の状態は、次の工程への移行等のために、金属材料Mの溶解の程度を判断する指標として用いることができるとともに、電極15の高さのインピーダンス制御にかかるパラメータを選択するための基礎となる第二情報としても利用することができる。第二情報としては、炉体11からの発生音および供給電源の状態のいずれか一方を用いても、両方の情報を併用してもよい。
【0050】
(3)第三情報:電極の昇降の頻度および昇降幅
金属溶解装置1において、インピーダンス制御を行い、電極15と金属材料Mの間のインピーダンスについて、所定の目標値に対して、変動幅が所定の閾値の範囲内に収まるように制御している状態では、電極15の下方に存在する金属材料Mの状態によって、電極15が昇降される頻度および昇降幅が変化する。そこで、金属材料Mの溶解の進捗度を評価するための第三情報として、電極15の昇降の頻度、および昇降幅の少なくとも一方を用いる。
【0051】
具体的には、上でも説明したように、電極15の下方に、金属スクラップ等、固体状の金属材料Mが多く存在する状況では、アーク放電が不規則に起こるので、インピーダンス制御において、電極15の高さ位置の調整が頻繁に行われる。また、電極15を昇降させる幅(距離)も大きくなる。一方、電極15の下方に、溶解した液状の金属材料Mが多く存在する状況では、アーク放電が規則的に起こるので、インピーダンス制御において、電極15の高さ位置の調整は頻繁には行われない。また、電極15を昇降させる幅も小さくて済む。
【0052】
このように、電極15の昇降の頻度が小さくなっているのを検出することにより、また、電極15の昇降幅が小さくなっているのを検出することにより、金属材料Mの溶解が進んでいると判定できる。第三情報としては、電極15の昇降の頻度と昇降幅のいずれか一方を用いても、両方の情報を併用してもよい。
【0053】
(4)複数の情報の併用
以上のように、第一情報、第二情報、第三情報はいずれも、金属材料Mの溶解の進捗度、つまり、金属材料Mのうち、どの程度が溶解して、固体状態から金属溶湯の状態に変化しているかに関する情報を与えるものとなる。従来一般には、溶解の進捗度は、設定された溶解電力や、炉体11に設けた補助バーナ(不図示)等、電力以外の手段によるエネルギー投入量に基づいて判定されてきた。しかし、その場合には、溶解しやすさ等、個別の金属材料Mの特性や、酸化エネルギー量、可燃物量等、装入した金属材料Mの溶解性に関して、把握しきれないパラメータが多く、実際の炉内の金属材料Mの状態の変化を、正確に判定するのは難しかった。しかし、上記第一情報、第二情報、第三情報はいずれも、炉体11の内部における金属材料Mの状態が敏感に反映される現象について、実測した結果を示す情報であり、各時点における実際の金属材料Mの溶解の進捗度を、敏感に、また正確に示す指標となりうる。それらの情報と、炉体11の形状に関する情報を合わせて、電極15の下方における金属材料Mの溶解の進捗状況を判定し、電極15の高さのインピーダンス制御にかかるパラメータの選択に用いることで、金属材料Mの溶解における電力効率を高めることができる。なお、上記で説明した第一、第二、第三情報に加えて、溶解電力の設定値や、補助バーナ等によるエネルギー投入量をはじめとする従来用いられていた指標、さらには、炉体11の中の金属材料Mの溶解状態を反映する他の任意のパラメータを、指標として併用して、溶解の進捗状況の判定を行ってもよい。
【0054】
さらに、本実施形態にかかる金属溶解装置1においては、1種類の情報のみによって、溶解の進捗度を推定するのではなく、第一情報、第二情報、第三情報の3種の情報から選択される複数の情報に基づいて、溶解の進捗度の判定を行う。これにより、1種の情報のみを利用する場合よりも、炉内の金属材料Mの状態を、正確に判定することができる。金属材料Mの溶解に関わる複数の現象を考慮して、溶解の進捗状況を適切に推定し、電極15の高さ位置の制御に活用することで、電力効率の向上や溶解の安定性の向上につなげることが可能となる。
【0055】
例えば、第一情報である電極15の先端の高さ位置のみを用いて、溶解の進捗度を推定する場合に、電極15の直下の位置のみで局所的に溶解が進行し、電極15の直下から外れた電極15の周囲の位置では、溶解がほぼ進行していないという状態が生じたとする。この場合には、電極15の先端の高さ位置が、電極15の直下での溶解に伴って、大きく下降するので、低い位置に電極15の先端が存在しているとの第一情報に基づいて、溶解がかなり進捗しているとの判定結果が得られることになる。しかし、実際には、電極15の直下の位置を除いて、溶解がほとんど進行しておらず、実際の溶解の進捗度は、かなり低いため、その判定結果は誤判定となってしまう。そこで、第一情報だけでなく、第二情報および/または第三情報を併用することで、誤判定を抑制することができる。第二情報である炉体11の発生音や供給電源の状態、また第三情報である電極15の昇降の頻度や昇降幅には、電極15の直下の金属材料Mの状態だけでなく、電極15の下側のある程度の範囲にわたる領域の金属材料Mの状態が反映されるからである。
【0056】
複数の情報をどのように組み合わせて溶解の進捗度の判定を行うかは、特に限定されるものではない。例えば、複数の情報のうち、個別の1つの情報から判定される進捗度が、それら複数の情報の間で許容される誤差の範囲で相互に一致していれば、それらの進捗度をそのまま判定結果として採用すればよいし、あるいは、適宜平均をとる等の処理を行ったうえで溶解の進捗度の判定に用いればよい。一方、上記で第一情報だけを用いる場合について例示した形態のように、一部の情報に基づいて判定される進捗度が、他の情報に基づいて判定される進捗度と著しく異なっている場合には、局所的な溶解の進行等、異常が発生していることを考慮して、進捗度を判定するか、異常の考慮や対処を管理者等に促す通知等を制御装置50から発するように、構成すればよい。異常としては、上記で例示した以外にも、様々な形態が想定されるが、それぞれの形態において、各情報がどのような挙動を示すかを、事前の試験等によって把握しておけば、各情報の挙動の組み合わせによって、生じている異常の種類を判定することや、異常の種類に応じて適切に溶解の進捗度を見積もることも、可能となる。
【0057】
第一情報、第二情報、第三情報の3種から、少なくとも2種の情報を利用して溶解の進捗度を判定するようにすれば、いずれの情報を用いるかは、特に限定されるものではなく、金属溶解装置1の具体的な構成や、溶解対象の金属材料Mの特性等に応じて、適宜選択すればよい。好ましくは、3種の情報を全て用いて、溶解の進捗度を判定するとよい。これにより、溶解の進捗度の判定を特に適切に行うことができ、インピーダンス制御のパラメータの選択に利用することで、溶解の効率を高めやすくなる。なお、金属溶解装置1が、電極15を複数有し、溶解の進捗度の判定を電極15ごとに個別に行う場合に、第一情報および第三情報は、各電極15に対して個別に得られるものとなるが、第二情報としては、各電極15について、共通の情報を適用することになる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 金属溶解装置
10 アーク炉
11 炉体
15 電極
16 騒音計
20 電源回路
21 炉用変圧器
24 一次側計測器
25 二次側計測器
30 電極昇降装置
31 把持部
32 駆動部
34 支持部材
35 位置検知部
40 電極測長装置
41 容器
50 制御装置
51 炉況判定部
52 昇降制御部
53 測長部
M 金属材料
図1