(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】インクジェット捺染用インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/32 20140101AFI20241008BHJP
D06P 5/30 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C09D11/32
D06P5/30
(21)【出願番号】P 2020128441
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】中込 雅俊
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-109733(JP,A)
【文献】特開2020-158725(JP,A)
【文献】特開2009-215506(JP,A)
【文献】特開2019-182941(JP,A)
【文献】特開2004-285215(JP,A)
【文献】特開2018-124495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色粒子と、水性媒体とを含有し、
前記着色粒子は、コアと、前記コアを被覆するシェル層とを備え、
前記コアは、ポリエステル樹脂及び染料を含み、
前記シェル層は、未開環オキサゾリン基及びアミドエステル基を有する特定樹脂を含む、インクジェット捺染用インク。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂は、非晶性ポリエステル樹脂を含む、請求項1に記載のインクジェット捺染用インク。
【請求項3】
前記着色粒子の体積中位径は、20nm以上300nm以下である、請求項1又は2に記載のインクジェット捺染用インク。
【請求項4】
前記特定樹脂は、下記一般式(A)で表される第一繰り返し単位と、下記一般式(B)で表される第二繰り返し単位とを有する、請求項1~3の何れか一項に記載のインクジェット捺染用インク。
【化1】
(前記一般式(A)中、R
1は、水素原子、又はフェニル基で置換されていてもよい炭素原子数1以上10以下のアルキル基を表し、
前記一般式(B)中、R
2は、水素原子、又はフェニル基で置換されていてもよい炭素原子数1以上10以下のアルキル基を表し、*は、前記コアが含有する前記ポリエステル樹脂に含まれる原子との結合部位を表す。
)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット捺染用インクは、吐出安定性に優れ、かつ洗濯堅ろう度に優れる捺染物を形成できることが要求されている。洗濯堅ろう度に優れる捺染物を形成するために、例えば、コアシェル構造を有する着色粒子を含有するインクジェット捺染用インクが提案されている(特許文献1)。また、洗濯堅ろう度に優れる捺染物を形成するために、例えば、未開環オキサゾリン基含有ポリマーを含有するインクジェット捺染用インクで捺染した後に、形成された捺染物を加熱することで未開環オキサゾリン基含有ポリマーを架橋させる方法も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2003/55951号
【文献】特開2000-109733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に記載のインクジェット捺染用インクは、吐出安定性が十分ではない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、吐出安定性に優れ、かつ洗濯堅ろう度に優れる捺染物を形成できるインクジェット捺染用インクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るインクジェット捺染用インクは、着色粒子と、水性媒体とを含有する。前記着色粒子は、コアと、前記コアを被覆するシェル層とを備える。前記コアは、ポリエステル樹脂及び染料を含む。前記シェル層は、未開環オキサゾリン基及びアミドエステル基を有する特定樹脂を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るインクジェット捺染用インクは、吐出安定性に優れ、かつ洗濯堅ろう度に優れる捺染物を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本明細書において、体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、動的光散乱式粒径分布測定装置(例えば、マルバーン社製「ゼータサイザーナノZS」)を用いて測定された値である。アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。本明細書に記載の各成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0009】
<インクジェット捺染用インク>
本発明の実施形態に係るインクジェット捺染用インク(以下、インクと記載することがある)は、着色粒子と、水性媒体とを含有する。着色粒子は、コアと、コアを被覆するシェル層とを備える。コアは、ポリエステル樹脂及び染料を含む。シェル層は、未開環オキサゾリン基及びアミドエステル基を有する特定樹脂を含む。
【0010】
本発明のインクは、ダイレクト捺染(捺染対象に直接インクを吐出する捺染)に用いるインクとして好適である。本発明のインクを用いる捺染対象は、織物であってもよく、編み物であってもよい。捺染対象としては、例えば、綿生地、絹生地、麻生地、アセテート生地、レーヨン生地、ナイロン生地、ポリウレタン生地、及びポリエステル生地が挙げられる。本発明のインクが含有する着色粒子は、ポリエステル樹脂を含有するため、ポリエステル生地との親和性に優れる。そのため、捺染対象としては、ポリエステル生地が好ましい。
【0011】
本発明のインクは、上述の構成を備えることにより、吐出安定性に優れ、かつ洗濯堅ろう度に優れる捺染物を形成できる。その理由は、以下の通りであると推察される。本発明のインクは、コアシェル構造を有する着色粒子を含有する。着色粒子は、染料を含むコアがシェル層によって被覆されているため、染料が着色粒子の表面に露出していない。そのため、本発明のインクにより形成された捺染物は、洗濯時に染料が溶出し難い。また、シェル層に含まれる特定樹脂は、未開環オキサゾリン基を有する。特定樹脂が有する未開環オキサゾリン基は、捺染対象の表面に存在するカルボキシ基と反応して共有結合を形成し、捺染対象及び着色粒子の密着性を向上させる。以上から、本発明のインクにより形成される捺染物は、洗濯堅ろう度に優れる。ここで、着色粒子は、例えば、コアを未開環オキサゾリン基含有ポリマーで処理することにより形成される。未開環オキサゾリン基含有ポリマーは、常温においても緩やかに架橋反応する性質を有する。そのため、未開環オキサゾリン基含有ポリマーそのものを含有するインクは、未開環オキサゾリン基含有ポリマーが凝集することにより、吐出安定性が低下する傾向がある。一方、本発明のインクにおいて、シェル層に含まれる特定樹脂は、コアに含まれるポリエステル樹脂と共有結合している。そのため、本発明のインクにおいて、特定樹脂は、着色粒子に固定されており、水性媒体には遊離していない。また、本発明のインクにおいて、特定樹脂は、上述の共有結合を形成するために未開環オキサゾリン基の一部が消費されているため、架橋反応を生じ難い。以上から、本発明のインクに含まれる特定樹脂は、凝集し難い。そのため、本発明のインクは、吐出安定性に優れる。
【0012】
本発明のインクにおいて、ガスクロマトグラフィー質量分析により測定される未開環オキサゾリン基の含有割合としては、30μmol/g以上100μmol/g以下が好ましく、40μmol/g以上60μmol/g以下がより好ましい。未開環オキサゾリン基の含有割合を30μmol/g以上とすることで、着色粒子及び捺染対象の密着性を向上できる。その結果、本発明のインクにより形成される捺染物の洗濯堅ろう度を更に向上できる。未開環オキサゾリン基の含有割合を100μmol/g以下とすることで、着色粒子の凝集を抑制できる。その結果、本発明のインクの吐出安定性を更に向上できる。
【0013】
[着色粒子]
着色粒子は、コアと、コアを被覆するシェル層とを備える。本発明のインクにおいて、着色粒子の含有割合としては、1.0質量%以上25.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以上10.0質量%以下がより好ましい。
【0014】
着色粒子の体積中位径としては、20nm以上300nm以下が好ましく、80nm以上200nm以下がより好ましい。着色粒子の体積中位径を20nm以上とすることで、着色粒子が凝集することを抑制できる。着色粒子の体積中位径を300nm以下とすることで、本発明のインクの吐出安定性を更に向上できる。
【0015】
(コア)
コアは、ポリエステル樹脂及び染料を含む。コアは、ポリエステル樹脂及び染料のみを含むことが好ましいが、他の成分(例えば、ポリエステル樹脂以外の樹脂、及び添加剤)を更に含んでもよい。コアにおいて、ポリエステル樹脂は、マトリックスを形成する。染料は、ポリエステル樹脂により形成されるマトリックス中に分散している。
【0016】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂は、1種以上の多価アルコールと1種以上の多価カルボン酸とを縮重合させることで得られる。ポリエステル樹脂を合成するための多価アルコールとしては、例えば、2価アルコール(例えば、ジオール化合物、及びビスフェノール化合物)、及び3価以上のアルコールが挙げられる。ポリエステル樹脂を合成するためのカルボン酸としては、例えば、2価カルボン酸及び3価以上のカルボン酸が挙げられる。なお、ポリエステル樹脂の合成では、多価カルボン酸の代わりに、縮重合によりエステル結合を形成できる多価カルボン酸誘導体(例えば、多価カルボン酸ジメチル、多価カルボン酸の無水物、及び多価カルボン酸ハライド)を使用してもよい。
【0017】
ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2-ブテン-1,4-ジオール、1,5-ペンタンジオール、2-ペンテン-1,5-ジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、1,4-ベンゼンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
【0018】
ビスフェノール化合物としては、例えば、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、及びビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0019】
3価以上のアルコールとしては、例えば、ソルビトール、1,2,3,6-ヘキサンテトロール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2-メチルプロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、及び1,3,5-トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。
【0020】
多価アルコールとしては、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物又はエチレングリコールが好ましい。
【0021】
2価カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸(例えば、2,6-ナフタレンジカルボン酸)、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マロン酸、コハク酸、アルキルコハク酸(例えば、n-ブチルコハク酸、イソブチルコハク酸、n-オクチルコハク酸、n-ドデシルコハク酸、及びイソドデシルコハク酸)、及びアルケニルコハク酸(例えば、n-ブテニルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n-オクテニルコハク酸、n-ドデセニルコハク酸、及びイソドデセニルコハク酸)が挙げられる。
【0022】
3価以上のカルボン酸としては、例えば、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,3-ジカルボキシ-2-メチル-2-メチレンカルボキシプロパン、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシ)メタン、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、及びエンポール三量体酸が挙げられる。
【0023】
多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸又は5-スルホイソフタル酸ナトリウムが好ましい。
【0024】
ポリエステル樹脂としては、例えば、非晶性ポリエステル樹脂及び結晶性ポリエステル樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、非晶性ポリエステル樹脂が好ましい。ポリエステル樹脂が非晶性ポリエステル樹脂を含むことで、本発明のインクは、伸縮性に優れる捺染物を形成できる。本発明のインクは、コアが非晶性ポリエステル樹脂を含むことで、画像形成後の加熱処理の際の加熱温度を低減できる。
【0025】
また、非晶性ポリエステル樹脂は、アントラキノン系の分散染料との親和性に優れる性質がある。そのため、ポリエステル樹脂が非晶性ポリエステル樹脂を含み、かつ染料がアントラキノン系の分散染料を含むことで、コアにおける非晶性ポリエステル樹脂及び染料(アントラキノン系の分散染料)の分散性を向上できる。
【0026】
非晶性ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂に非規則的な構造を導入し、ポリエステル樹脂が結晶構造を形成し難くすることにより得ることができる。ポリエステル樹脂に非規則的な構造を導入する具体的な方法としては、例えば、2種類以上の多価アルコールと2種類以上の多価カルボン酸とを組み合わせて用いる方法、立体障害を有する多価アルコール又は多価カルボン酸を用いる方法、奇数個の炭素原子を有する多価アルコール(例えば、1,3-プロパンジオール)又は多価カルボン酸を用いる方法が挙げられる。
【0027】
ポリエステル樹脂の原料は、芳香族ジカルボン酸及び芳香族アルコールを含むことが好ましい。この場合、ポリエステル原料における芳香族ジカルボン酸及び芳香族アルコールの含有割合としては、50質量%以上が好ましい。ポリエステル樹脂の原料が芳香族ジカルボン酸及び芳香族アルコールを含むことで、ポリエステル樹脂及び油性染料(例えば、分散染料)の親和性を向上できる。
【0028】
ポリエステル樹脂としては、以下に示す組み合わせ(a)又は(b)の原料により形成される非晶性ポリエステル樹脂が好ましい。
組み合わせ(a):テレフタル酸ジメチル(例えば、20質量%以上30質量%以下)、イソフタル酸(例えば、15質量%以上25質量%以下)、5-スルホイソフタル酸ナトリウム(例えば、1質量%以上10質量%以下)、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物(例えば、25質量%以上45質量%以下)及びエチレングリコール(例えば、10質量%以上20質量%以下)
組み合わせ(b):テレフタル酸ジメチル(例えば、10質量%以上20質量%以下)、イソフタル酸(例えば、10質量%以上15質量%以下)、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル(例えば、10質量%以上20質量%以下)、5-スルホイソフタル酸ナトリウム(例えば、1質量%以上10質量%以下)、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物(例えば、30質量%以上40質量%以下)及びエチレングリコール(例えば、10質量%以上20質量%以下)
【0029】
ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg)としては、40℃以上75℃以下が好ましい。ポリエステル樹脂のガラス転移点を40℃以上とすることで、本発明のインクの保存安定性を向上できる。ポリエステル樹脂のガラス転移点を75℃以下とすることで、着色粒子の捺染対象に対する密着性を向上できる。
【0030】
コアにおいて、ポリエステル樹脂の含有割合としては、50.0質量%以上90.0質量%以下が好ましく、70.0質量%以上85.0質量%以下がより好ましい。
【0031】
(染料)
染料としては、例えば、黄色染料、橙色染料、赤色染料、青色染料、紫色染料、及び黒色染料が挙げられる。染料としては、分散染料が好ましい。黄色分散染料としては、例えば、C.I.ディスパーイエロー(42、49、76、83、88、93、99、119、126、160、163、165、180、183、186、198、199、200、224及び237)が挙げられる。橙色分散染料としては、例えば、C.I.ディスパースオレンジ(29、30、31、38、42、44、45、53、54、55、71、73、80、86、96、118及び119)が挙げられる。赤色分散染料としては、例えば、C.I.ディスパースレッド(73、88、91、92、111、127、131、143、145、146、152、153、154、179、191、192、206、221、258、283、302、323、328及び359)が挙げられる。紫色分散染料としては、例えば、C.I.ディスパースバイオレット(26、35、48、56、77及び97)が挙げられる。青色分散染料としては、例えば、C.I.ディスパースブルー(27、54、60、73、77、79、79:1、87、143、165、165:1、165:2、181、185、197、225、257、266、267、281、341、353、354、358、364、365、368、359及び360)が挙げられる。
【0032】
また、染料としては、熱転写適正のある染料も好ましい。熱転写適正のある黄色染料としては、例えば、C.I.ディスパースイエロー(51、54及び60)及びC.I.ソルベントイエロー114が挙げられる。熱転写適正のある橙色染料としては、例えば、C.I.ディスパースオレンジ(5、7、20及び23)及びC.I.ソルベントオレンジ67が挙げられる。熱転写適正のある赤色染料としては、例えば、C.I.ディスパースレッド(50、53、59、60、239及び240)及びC.I.ソルベントレッド146が挙げられる。熱転写適正のある紫色染料としては、例えば、C.I.ディスパースバイオレット(8、11、17、26、27、28及び36)が挙げられる。熱転写適正のある青色染料としては、例えば、C.I.ディスパースブルー(3、5、26、35、55、56、72、81、91、108及び359)及びC.I.ソルベントブルー(36、63、83、105及び111)が挙げられる。
【0033】
着色粒子において、ポリエステル樹脂100質量部に対する染料の含有量としては、5質量部以上80質量部以下が好ましく、15質量部以上45質量部以下がより好ましい。
【0034】
本発明のインクにおいて、染料の含有割合としては、0.5質量%以上5.0質量%以上が好ましく、1.5質量%以上3.0質量%以下がより好ましい。
【0035】
(シェル層)
シェル層は、未開環オキサゾリン基及びアミドエステル基を有する特定樹脂を含む。特定樹脂は、例えば、コアに含まれるポリエステル樹脂と共有結合している。シェル層は、例えば、コアを未開環オキサゾリン基含有ポリマーで処理することにより形成される。詳しくは、コアを未開環オキサゾリン基含有ポリマーで処理することにより、未開環オキサゾリン基含有ポリマーがコアを被覆すると共に、未開環オキサゾリン基含有ポリマーに含まれる未開環オキサゾリン基と、コア中のポリエステル樹脂に含まれるカルボキシ基とが共有結合する。その結果、シェル層が形成される。
【0036】
着色粒子において、コア100質量部に対するシェル層の含有量としては、1質量部以上20質量部以下が好ましく、5質量部以上10質量部以下がより好ましい。
【0037】
(特定樹脂)
特定樹脂は、下記一般式(A)で表される第一繰り返し単位(以下、繰り返し単位(1)と記載することがある)と、下記一般式(B)で表される第二繰り返し単位(以下、繰り返し単位(2)と記載することがある)とを有することが好ましい。
【0038】
【0039】
一般式(A)中、R1は、水素原子、又はフェニル基で置換されていてもよい炭素原子数1以上10以下のアルキル基を表す。一般式(B)中、R2は、水素原子、又はフェニル基で置換されていてもよい炭素原子数1以上10以下のアルキル基を表す。*は、コアが含有するポリエステル樹脂に含まれる原子との結合部位を表す。
【0040】
一般式(A)又は(B)において、R1又はR2で表される炭素原子数1以上10以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、直鎖状又は分枝鎖状のヘキシル基、直鎖状又は分枝鎖状のヘプチル基、直鎖状又は分枝鎖状のオクチル基、直鎖状又は分枝鎖状のノニル基、及び直鎖状又は分枝鎖状のデシル基が挙げられる。
【0041】
一般式(A)において、R1は、水素原子、メチル基、エチル基又はイソプロピル基を表すことが好ましい。一般式(B)において、R2は、水素原子、メチル基、エチル基又はイソプロピル基を表すことが好ましい。
【0042】
特定樹脂は、ビニル化合物に由来する繰り返し単位(以下、繰り返し単位(3)と記載することがある)を更に有していてもよい。ここで、ビニル化合物は、ビニル基(CH2=CH-)を有する化合物、又は置換ビニル基(ビニル基の有する水素原子のうち少なくとも1つが置換基で置換された基)を有する化合物である。ビニル化合物としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブタジエン、塩化ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(好ましくは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル)、アクリロニトリル、及びスチレンが挙げられる。
【0043】
特定樹脂は、繰り返し単位(3)として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位又はスチレンに由来する繰り返し単位を更に有していることが好ましい。
【0044】
特定樹脂は、繰り返し単位(1)、繰り返し単位(2)及び繰り返し単位(3)のみを有することが好ましい。但し、特定樹脂は、繰り返し単位(1)、繰り返し単位(2)及び繰り返し単位(3)以外の繰り返し単位を更に有してもよい。
【0045】
[着色粒子の製造方法]
着色粒子の製造方法としては、例えば、ポリエステル樹脂及び染料を混練及び粉砕するコア形成工程と、得られたコアと未開環オキサゾリン基含有ポリマーとを水性媒体中で反応させることでシェル層を形成するシェル層形成工程とを備える製造方法が挙げられる。
【0046】
(コア形成工程)
本工程では、ポリエステル樹脂及び染料を混合する。次いで、得られた混合物を、溶融混練装置(例えば、1軸又は2軸の押出機)を用いて溶融混練する。次いで、得られた混練物を粉砕する。これにより、ポリエステル樹脂及び染料を含むコアが得られる。コアは、必要に応じて、水性媒体に分散させてからシェル層形成工程に供するとよい。
【0047】
なお、コアを形成する別の方法として、例えば、ポリエステル樹脂及び染料を有機溶媒(例えば、酢酸エチル及びメチルエチルケトン)に溶解させながら混合する方法、ポリエステル樹脂のモノマーを含む溶液中に染料を溶解させた後に、モノマーを重合させる方法も挙げられる。但し、上述の粉砕及び混練によりコアを形成する方法は、コアを水性媒体に分散させた際に染料だけが分離して再結晶する現象が発生し難いため好ましい。
【0048】
(シェル層形成工程)
本工程では、粉砕工程で得られたコアと未開環オキサゾリン基含有ポリマーとを水性媒体中で反応させる。未開環オキサゾリン基含有ポリマーは、例えば、上述の繰り返し単位(1)を有する。未開環オキサゾリン基含有ポリマーは、高い親水性を有する基であるオキサゾリン基を含む繰り返し単位(1)を有するため、高い親水性を有する。そのため、未開環オキサゾリン基含有ポリマーは、水性媒体に溶解し易く、水性媒体中でコアと反応し易い。また、未開環オキサゾリン基含有ポリマーは、上述の繰り返し単位(3)を更に有することが好ましい。未開環オキサゾリン基含有ポリマーは、疎水性が比較的高い繰り返し単位(3)を更に有することで、両親媒性を発揮する。両親媒性を有する未開環オキサゾリン基含有ポリマーは、分散剤としても機能し、分散剤(例えば界面活性剤)又は有機溶剤の存在しない水性媒体中でもコアと反応することができる。
【0049】
未開環オキサゾリン基含有ポリマー及び水性媒体を含有する溶液(以下、シェル層形成溶液と記載することがある)としては、例えば、株式会社日本触媒製「エポクロス(登録商標)WS-300」又は「エポクロス(登録商標)WS-700」を使用できる。エポクロス(登録商標)WS-300は、2-ビニル-2-オキサゾリンとメタクリル酸メチルとの共重合体(未開環オキサゾリン基含有ポリマー)を含む。この共重合体を構成するモノマーの質量比は、(2-ビニル-2-オキサゾリン):(メタクリル酸メチル)=9:1である。エポクロス(登録商標)WS-700は、2-ビニル-2-オキサゾリンとメタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとの共重合体(未開環オキサゾリン基含有ポリマー)を含む。共重合体を構成するモノマーの質量比は、(2-ビニル-2-オキサゾリン):(メタクリル酸メチル):(アクリル酸ブチル)=5:4:1である。2-ビニル-2-オキサゾリンは、下記化学式(A-1)で表される化合物である。
【0050】
【0051】
以下、コアとシェル層形成溶液との混合方法の詳細を記載する。コアとシェル層形成溶液との混合では、混合液を加熱することが好ましい。加熱温度としては、未開環オキサゾリン基含有ポリマーの有するオキサゾリン基とポリエステル樹脂の有するカルボキシ基とが反応してアミドエステル基を形成する温度以上の温度が好ましい。具体的な加熱温度としては、例えば、70℃以上100℃以下である。コアとシェル層形成溶液との混合により、コアの表面にシェル層が形成される。その結果、着色粒子及び水性媒体を含む着色粒子分散液が得られる。
【0052】
本工程において、未開環オキサゾリン基含有ポリマーの添加量としては、コア100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下が好ましく、5質量部以上10質量部以下がより好ましい。
【0053】
[水性媒体]
本発明のインクが含有する水性媒体は、水を含む媒体である。水性媒体は、溶媒として機能してもよく、分散媒として機能してもよい。水性媒体の具体例としては、水のみを含む水性媒体、及び水と水溶性有機溶媒とを含む水性媒体が挙げられる。
【0054】
本発明のインクにおいて、水の含有割合としては、30.0質量%以上80.0質量%以下が好ましく、40.0質量%以上60.0質量%以下がより好ましい。水の含有割合を30.0質量%以上80.0質量%以下とすることで、本発明のインクの吐出安定性を向上できる。
【0055】
本発明のインクが含有する水溶性有機溶媒としては、例えば、グリコール化合物、多価アルコールのエーテル化合物、ラクタム化合物、含窒素化合物、アセテート化合物、チオジグリコール、グリセリン及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0056】
グリコール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びテトラエチレングリコールが挙げられる。
【0057】
多価アルコールのエーテル化合物としては、例えば、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。
【0058】
ラクタム化合物としては、例えば、2-ピロリドン及びN-メチル-2-ピロリドンが挙げられる。
【0059】
含窒素化合物としては、例えば、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ホルムアミド及びジメチルホルムアミドが挙げられる。
【0060】
アセテート化合物としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートが挙げられる。
【0061】
本発明のインクが含有する水溶性有機溶媒としては、グリコール化合物又はグリセリンが好ましく、プロピレングリコール又はグリセリンがより好ましい。
【0062】
本発明のインクにおける水溶性有機溶媒の含有割合としては、10.0質量%以上60.0質量%以下が好ましく、20.0質量%以上40.0質量%以下がより好ましい。水溶性有機溶媒の含有割合を10.0質量%以上60.0質量%以下とすることで、本発明のインクの吐出安定性を更に向上できる。
【0063】
[界面活性剤]
本発明のインクは、界面活性剤を更に含有することが好ましい。界面活性剤は、捺染対象に対する本発明のインクの浸透性(濡れ性)を向上させる。界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤が挙げられる。界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤が好ましい。
【0064】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートエーテル、モノデカノイルショ糖、及びアセチレングリコールのエチレンオキシド付加物が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、アセチレングリコールのエチレンオキシド付加物が好ましい。
【0065】
本発明のインクが界面活性剤を含有する場合、本発明のインクにおける界面活性剤の含有割合としては、0.05質量%以上3.0質量%以下が好ましく、0.2質量%以上1.0質量%以下がより好ましい。
【0066】
[その他の成分]
本発明のインクは、必要に応じて、公知の添加剤(より具体的には、例えば、溶解安定剤、乾燥防止剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤及び防カビ剤)を更に含有してもよい。
【0067】
[インクの製造方法]
本発明のインクは、例えば、攪拌機を用いて、着色粒子及び水を含有する着色粒子分散液と、水溶性有機溶媒と、必要に応じて添加される成分(例えば、界面活性剤)とを混合することにより製造される。混合時間としては、例えば、1分以上30分以下である。本発明のインクの調製では、各成分を均一に混合した後、フィルター(例えば、孔径5μmフィルター)により異物及び粗大粒子を除去してもよい。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0069】
実施例において、体積中位径(D50)の測定値は、動的光散乱式粒径分布測定装置(マルバーン社製「ゼータサイザーナノZS」)を用いて測定された値である。
【0070】
[ポリエステル樹脂の合成]
(ポリエステル樹脂(R-1))
留出管、窒素導入管、温度計及び攪拌機を備えた四つ口フラスコを反応容器として用いた。反応容器に、第1原料としてのテレフタル酸ジメチル500質量部、5-ソジウムスルホイソフタル酸50質量部、エチレングリコール300質量部及びビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物700質量部と、反応触媒としての酢酸亜鉛1質量部とを投入した。次いで、反応容器の内温を130℃まで昇温させた。次いで、反応容器の内温を130℃から170℃まで2時間かけて昇温させた。これにより、エステル交換反応を行った。次いで、反応容器の内温を170℃に保持したまま、反応容器に、第2原料としてのイソフタル酸450質量部と、三酸化アンチモン1質量部とを添加した。次いで、反応容器の内温を170℃から200℃まで2時間かけて昇温させた。これにより、エステル化反応を行った。次いで、反応容器の内温が250℃になるまで徐々に昇温させながら、反応容器内の気圧が666.6Paになるまで反応容器の内部を徐々に減圧した。反応容器の内温が250℃に到達し、かつ反応容器内の気圧が666.6Paに到達した後、この温度及び気圧を1時間保持した。これにより、重縮合反応を行なった。その結果、ポリエステル樹脂(R-1)を得た。
【0071】
(ポリエステル樹脂(R-2)~(R-4))
第1原料及び第2原料の種類及び添加量を下記表1に示す通りに変更した以外は、ポリエステル樹脂(R-1)の合成と同様の方法により、ポリエステル樹脂(R-2)~(R-4)を合成した。下記表1において、「DMT」、「NDCN」、「SSPIA」、「BPO-PO」、「EG」及び「IPA」は、それぞれ、テレフタル酸ジメチル、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物、エチレングリコール及びイソフタル酸を示す。
【0072】
ポリエステル樹脂(R-1)~(R-4)のガラス転移点及び融点を、示差走差熱量計(株式会社島津製作所製「DSC-60」)を用いて、JIS(日本産業規格)K7121-2012に準拠する方法により測定した。ポリエステル樹脂(R-1)~(R-4)は、下記表1に示すガラス転移点を有していた。一方、ポリエステル樹脂(R-1)~(R-4)は、明確な融点は測定されなかった。つまり、ポリエステル樹脂(R-1)~(R-4)は、何れも非晶性ポリエステル樹脂であった。
【0073】
【0074】
[着色粒子分散液の調製]
以下の方法により、着色粒子分散液(A-1)~(A-12)を調製した。まず、着色粒子分散液の調製において用いた染料及びシェル層形成溶液を以下に示す。
【0075】
(染料)
染料(D-1):サンタクルーズバイオテクノロジー社製「Disperse Blue 359」
染料(D-2):サンタクルーズバイオテクノロジー社製「Disperse Yellow 54」
染料(D-3):サンタクルーズバイオテクノロジー社製「Disperse Red 60」
【0076】
(シェル層形成溶液)
シェル層形成溶液(S-1):2-ビニル-2-オキサゾリンとメタクリル酸メチルとの共重合体(水溶性架橋剤)を含むエマルション(株式会社日本触媒製「エポクロス(登録商標)WS-300」)、固形分濃度10%
シェル層形成溶液(S-2):2-ビニル-2-オキサゾリンとメタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとの共重合体(水溶性架橋剤)を含むエマルション(株式会社日本触媒製「エポクロス(登録商標)WS-700」)、固形分濃度25%
シェル層形成溶液(S-3):オキサゾリン基を有するスチレン-アクリル樹脂を含むエマルション(株式会社日本触媒製「エポクロス(登録商標)K-2020E」)、固形分濃度40%
シェル層形成溶液(S-4):親水性セグメントが付与されたポリカルボジイミド樹脂を含む溶液(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライト(登録商標)V-04」)、固形分濃度40%
【0077】
(着色粒子分散液(A-1))
ポリエステル樹脂(R-1)100質量部及び染料(D-1)25質量部を、高速ミキサーにて混合した。得られた混合物を、ニーダー(株式会社井上製作所製「KH-2-S」)を用いて、回転速度100rpmかつ温度85℃の条件で第1混練した。第1混練により得られた第1混練物を、二軸連続混練機(株式会社池貝製「PCM-30」)を用いて、材料供給速度5kg/時、軸回転数150rpm及びシリンダー温度150℃の条件で第2混練した。
【0078】
第2混練で得られた第2混練物を冷却した後、粉砕機(フロイント・ターボ株式会社製「ターボミルRS型」)で微粉砕した。これにより、ポリエステル樹脂及び染料を含むコアを得た。
【0079】
熱電対を装備した四つ口フラスコに、コア200g(成分:ポリエステル樹脂(R-1)160g及び染料(D-1)40g)と、イオン交換水700gと、水溶性有機溶媒としてのエチレングリコールモノブチルエーテル100gとを投入した。次いで、上述の四つ口フラスコの内容物を、薄膜旋回型高速ミキサー(プライミクス株式会社製「フィルミックス(登録商標)40-L」)を用いて、攪拌速度10,000rpmかつ温度90℃で2時間混合した。その後、上述の四つ口フラスコの内容物を、攪拌しながら室温まで冷却することにより、コア分散液を得た。
【0080】
温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコを反応容器として用いた。反応容器に、コア分散液100gを投入した。次に、ウォーターバスを用いて、反応容器の内温を30℃に保持した。次に、反応容器に、シェル層形成溶液(S-1)14g(固形分1.4g)を投入し、十分に攪拌した。次に、反応容器の内容物を、150rpmの速度で1時間攪拌した。次に、反応容器に、イオン交換水100gを投入した。次に、反応容器の内容物を250rpmで攪拌しながら、0.5℃/分の昇温速度で、反応容器の内温を80℃まで昇温させた。次に、反応容器の内温を80℃に保持したまま、反応容器の内容物を250rpmで1時間攪拌した。次に、反応容器の内温が常温になるまで冷却した。これにより、着色粒子分散液(A-1)を得た。
【0081】
(着色粒子分散液(A-2)~(A-12))
以下の点を変更した以外は、着色粒子分散液(A-1)の調製と同様の方法により、着色粒子分散液(A-2)~(A-12)を調製した。着色粒子分散液(A-2)~(A-12)の調製では、下記表2~表3に示す通りの組成となるように、ポリエステル樹脂の種類と、染料の種類と、イオン交換水の添加量と、水溶性有機溶媒の種類及び添加量と、シェル層形成溶液の種類及び添加量とを変更した。なお、着色粒子分散液(A-11)の調製では、シェル層の形成を行わなかった。即ち、下記表3に示す組成のコア分散液を、そのまま着色粒子分散液(A-11)として用いた。
【0082】
下記表2~表3において、「EGBE」、「MEK」及び「IPA」は、それぞれ、エチレングリコールモノブチルエーテル、メチルエチルケトン及びイソプロピルアルコールを示す。
【0083】
【0084】
【0085】
[インクの調製]
以下の方法により、実施例に用いるインク(I-1)~(I-10)と、比較例に用いるインク(I-11)~(I-13)とを調製した。
【0086】
(インク(I-1))
着色粒子分散液(A-1)100g(着色粒子10質量%)、プロピレングリコール20g、グリセリン20g、及びノニオン界面活性剤(日信化学工業株式会社製「サーフィノール(登録商標)104」)0.5gを混合し、得られた混合物を5μm孔径のフィルターを用いてろ過した(ろ過処理)。これにより、インク(I-1)を得た。インク(I-1)の粘度は、6.0mPa・sであった。
【0087】
(インク(I-2)~(I-12))
着色粒子分散液の種類を下記表4に示す通りに変更した以外は、インク(I-1)の調製と同様の方法により、インク(I-2)~(I-12)を調製した。
【0088】
(インク(I-13))
分散染料を含む顔料分散体(大日精化工業株式会社製「TB-416 Yellow」)10.0g(固形分換算1.0g)と、プロピレングリコール20.0gと、グリセリン20.0gと、ノニオン界面活性剤(日信化学工業株式会社製「サーフィノール(登録商標)104」)0.5gとをイオン交換水49.5gに添加し、全量100.0gに調製した。得られた混合物を5μm孔径のフィルターを用いてろ過した(ろ過処理)。これにより、イエローインクであるインク(I-13)を得た。
【0089】
(分散性)
インク(I-1)~(I-13)について、上述のろ過処理の際の様子に基づいて分散性を判定した。詳しくは、各インクのろ過処理の際に、5μm孔径フィルターの詰まりの発生の有無を確認した。また、ろ過処理後、5μm孔径フィルターを目視で観察した。インクの分散性は、下記基準に基づいて判定した。判定結果を下記表4に示す。
【0090】
(分散性の基準)
A(良好):フィルター上に粗大粒子が全く残らなかったか、又はフィルター上に粗大粒子が多少残ったもののフィルターの詰まりは発生しなかった。
B(不良):フィルター上に粗大粒子が残り、かつフィルターの詰まりが発生した。
【0091】
(体積中位径の測定)
インク(I-I)~(I-13)が含有する着色粒子及び染料の体積中位径(D50)を測定した。測定結果を下記表4に示す。
【0092】
(未開環オキサゾリン基の量の測定)
以下の方法により、インク(I-I)~(I-13)について、インク1gに含まれる未開環オキサゾリン基(Ox基)の量を測定した。測定結果を下記表4に示す。
【0093】
測定装置として、ガスクロマトグラフ質量分析計(株式会社島津製作所製「GCMS-QP2010 Ultra」)及びマルチショット・パイロライザー(フロンティア・ラボ株式会社製「FRONTIER LAB Multi-functional Pyrolyzer(登録商標)PY-3030D」)を用いた。カラムとしては、GCカラム(アジレント・テクノロジー社製「Agilent(登録商標)J&W ウルトライナートキャピラリGCカラム DB-5ms」、相:シロキサンポリマーにアリレンを導入してポリマーの主鎖を強化したアリレン相、内径:0.25mm、膜厚:0.25μm、長さ:30m)を用いた。
【0094】
(ガスクロマトグラフ)
・キャリアガス:ヘリウム(He)ガス
・キャリア流量:1mL/分
・気化室温度:210℃
・熱分解温度:加熱炉「600℃」、インターフェイス部「320℃」
・カラムオーブン温度条件:40℃で3分間保持した後、40℃から速度10℃/分で300℃まで昇温し、300℃で15分間保持した。
【0095】
(質量分析)
・イオン化法:EI(Electron Impact)法
・イオン源温度:200℃
・インターフェイス部の温度:320℃
・検出モード:スキャン(測定範囲:45m/z~500m/z)
【0096】
上記条件で測定されたマススペクトルを解析することにより、未開環オキサゾリン基に由来するピークを特定した。特定されたピークのピーク面積に基づいて、測定対象(インク)1gに含まれる未開環オキサゾリン基の物質量を求めた。定量には、標準物質に基づく検量線を用いた。
【0097】
<評価>
以下の方法により、インク(I-1)~(I-13)の吐出安定性及び形成される捺染物の洗濯堅ろう度を評価した。評価結果を下記表4に示す。
【0098】
[吐出安定性]
評価機として、4個のライン型記録ヘッド(京セラ株式会社製「KJ4B-QA」、ノズル数:2656本)及び搬送ベルトを備えるインクジェット捺染装置(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の試作機)を用いた。記録ヘッドは、長尺形状を有し、その長手方向が捺染対象の搬送方向に直交していた。評価機の搬送ベルトは、搬送ベルト及び捺染対象を密着させるため、搬送中の捺染対象に負圧をかける吸引ユニットを有していた。評価機の記録ヘッドのうち1個に、評価対象(インク(I-1)~(I-13)の何れか)を充填した。次に、インク一滴あたりのインクの吐出量が10.5pLとなるように、記録ヘッドの吐出条件を設定した。次に、吸引ユニットの負圧を0.6kPaに設定した。
【0099】
評価機を用いて、捺染対象(ポリエステル繊維を用いたテトロンポンジ生地)の全面にソリッド画像を30分間連続で形成し続けた(連続捺染処理)。その後、評価機を10分間放置した。10分後、評価機を用いてノズルチェックパターンを形成した。これにより、連続捺染処理により発生した不吐出ノズルの有無を確認した。インクの吐出安定性は、下記基準に基づいて判定した。
【0100】
(吐出安定性の基準)
A(良好):不吐出ノズルが0~3個
B(不良):不吐出ノズル4個以上
【0101】
[洗濯堅ろう度]
評価機を用いて、捺染対象(ポリエステル繊維を用いたテトロンポンジ生地)の全面にソリッド画像を形成した。次に、ソリッド画像を形成した捺染対象を180℃で60秒間加熱した。これにより、ポリエステル繊維及びインクを一体化させ、捺染物を得た。
【0102】
上述の捺染物に対して、JIS(日本産業規格)L0844:2011に沿って染色堅ろう度試験を行った。詳しくは、まず、石鹸(シャボン玉石けん株式会社製「シャボン玉粉石けん」)を含有する水溶液(石鹸濃度:5g/L)を、洗濯液として用意した。次に、洗濯試験機を用いて捺染物を上述の洗濯液で洗濯処理した後、捺染物の変退色の度合いをJIS(日本産業規格)L0804:2004に規定の変退色用グレースケールを用いて級数を判定した。詳しくは、捺染物の変退色の度合いを、1級、1-2級、2級、2-3級、3級、3-4級、4級、4-5級又は5級の9段階で判定した。上述の判定では、変退色の度合いが最も大きいことを示す級が1級であり、変退色の度合いが最も小さいことを示す級が5級である。洗濯堅ろう度は、下記基準に基づいて判定した。
【0103】
(洗濯堅ろう度の基準)
A(良好):変退色の度合いが4級、4-5級又は5級
B(不良):変退色の度合いが3級又は3-4級
C(特に不良):変退色の度合いが1級、1-2級、2級又は2-3級
【0104】
【0105】
実施例1~10のインク(I-1)~(I-10)は、着色粒子と、水性媒体とを含有していた。着色粒子は、コアと、コアを被覆するシェル層とを備えていた。コアは、ポリエステル樹脂及び染料を含んでいた。シェル層は、未開環オキサゾリン基及びアミドエステル基を有する特定樹脂を含んでいた。実施例1~10のインク(I-1)~(I-10)は、吐出安定性に優れ、かつ洗濯堅ろう度に優れる捺染物を形成できた。
【0106】
一方、比較例1~2のインク(I-11)~(I-13)は、上述の構成を満たさないため、吐出安定性に劣るか、又は洗濯堅ろう度に優れる捺染物を形成できなかった。
【0107】
詳しくは、比較例1のインク(I-11)は、着色粒子がシェル層を備えなかった。比較例1のインク(I-11)により形成された捺染物は、着色粒子のコアから染料が溶出するため、洗濯堅ろう度が不良であったと判断される。
【0108】
比較例2のインク(I-12)は、シェル層が特定樹脂を含まなかった。比較例2のインク(I-12)は、着色粒子が安定したコアシェル構造を有していなかったと判断される。その結果、比較例2のインク(I-12)は、吐出安定性に劣り、かつ洗濯堅ろう度に優れる捺染物を形成できなかった。
【0109】
比較例3のインク(I-13)は、着色粒子の代わりに分散染料を用いたため、洗濯堅ろう度に優れる捺染物を形成できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明に係るインクは、捺染物を形成するために用いることができる。