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特許7567267量子ドット、インク組成物、電界発光素子及び光電変換素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】量子ドット、インク組成物、電界発光素子及び光電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/115 20230101AFI20241008BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20241008BHJP
   H05B 33/14 20060101ALI20241008BHJP
   H10K 30/35 20230101ALI20241008BHJP
【FI】
H10K50/115
G02B5/20
H05B33/14 Z
H10K30/35
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020134320
(22)【出願日】2020-08-07
(65)【公開番号】P2021039940
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2019156520
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】土屋 瑞穂
【審査官】小久保 州洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-116394(JP,A)
【文献】特開2018-120134(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043385(WO,A1)
【文献】特表2017-501576(JP,A)
【文献】特開2013-189367(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0057642(KR,A)
【文献】特開2010-209141(JP,A)
【文献】特開2008-214363(JP,A)
【文献】特開2019-108536(JP,A)
【文献】特開2010-067542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC H10K 50/00 - 102/20
H05B 33/14
G02B 5/20
H10K 30/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される化合物を表面に有する半導体微粒子である、量子ドット。
一般式(1)
【化1】
[一般式(1)中、Qは硫黄原子と窒素原子とを環員原子として含む脂肪族複素環基であり、Xは直接結合あり、Aは第三級芳香族アミン又はカルバゾールの単位を含む電荷輸送性基である。]
【請求項2】
前記半導体微粒子が化合物半導体を含む、請求項1に記載の量子ドット。
【請求項3】
前記半導体微粒子がコア・シェル型である、請求項1又は2に記載の量子ドット。
【請求項4】
前記電荷輸送性基が正孔輸送性基である、請求項1~3いずれか1項に記載の量子ドット。
【請求項5】
請求項1~4いずれか1項に記載の量子ドットと溶剤とを含むインク組成物。
【請求項6】
インクジェット方式で用いられる、請求項5に記載のインク組成物。
【請求項7】
基板上に、陽極と、発光層と、陰極と、を備え、前記発光層が、請求項1~4いずれか1項に記載の量子ドットを含む、電界発光素子。
【請求項8】
一対の電極間に光電変換層を有してなる光電変換素子であって、前記光電変換層が、請求項1~4いずれか1項に記載の量子ドットを含む、光電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄原子を含有する脂肪族複素環基と電荷輸送性基を有する化合物で表面処理された半導体微粒子である量子ドット、該量子ドットを含むインク組成物、電界発光素子及び光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
量子ドットは、量子力学に従う独特な光学特性を発現させるために、電子を微小な空間に閉じ込めるために形成された極小さな粒(ドット)である。1つの量子ドットの大きさは直径1nmから数10nmであり、約1万個以下の原子で構成されている。量子ドットは、発する蛍光の波長が粒の大きさで連続的に制御できること、及び、蛍光強度の波長分布が対称性の高いシャープな発光が得られることから近年注目を集めており、人体を透過しやすい波長に蛍光を調整でき体内のあらゆる場所に送達できることより発光材料として生体イメージング用途や、褪色の恐れがない波長変換材料として太陽電池用途、更には、鮮明な発光材料若しくは波長変換材料としてエレクトロニクス・フォトニクス用途等への検討が行われている。
【0003】
一方、上記用途に展開する場合に必要な特性として、蛍光の量子収率が挙げられる。非特許文献1には、半導体微粒子に芳香族系チオールであるベンゼンチオールを被覆した量子ドットを用いて蛍光量子収率を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Nanotechnology 27(24):245203
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載のベンゼンチオールで被覆された量子ドットは、被覆材であるベンゼンチオール自体が比較的酸化されやすく、経時の安定性に課題がある。これにより、当該量子ドットを溶剤やバインダー成分と混合した組成物は経時安定性が不十分であり、量子ドットの凝集や沈殿が発生するという課題がある。また、蛍光の量子収率維持率が大きく低下するという課題がある。
よって本発明の課題は、経時安定性に優れ、経時後も高い蛍光量子収率を維持可能な量子ドット及びインク組成物を提供することにある。また本発明の課題は、経時後も高い蛍光量子収率を維持可能な量子ドットを用いた、信頼性の高い電界発光素子を提供することにある。
【0006】
また本発明の課題は、優れた耐久性を有する光電変換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の発明に関する。
〔1〕 下記一般式(1)で示される化合物で表面処理された半導体微粒子である、量子ドット。
【0008】
一般式(1)
【化1】
[一般式(1)中、Qは硫黄原子を含有する脂肪族複素環基であり、Xは直接結合又は2
価の連結基であり、Aは電荷輸送性基である。]
【0009】
〔2〕 前記半導体微粒子が化合物半導体である、〔1〕に記載の量子ドット。
【0010】
〔3〕 前記半導体微粒子がコア・シェル型である、〔1〕又は〔2〕に記載の量子ドット。
【0011】
〔4〕 前記電荷輸送性基が正孔輸送性基である、〔1〕~〔3〕いずれか1項に記載の量子ドット。
【0012】
〔5〕 〔1〕~〔4〕いずれか1項に記載の量子ドットと溶剤とを含むインク組成物。
【0013】
〔6〕 インクジェット方式で用いられる、〔5〕に記載のインク組成物。
【0014】
〔7〕 基板上に、陽極と、発光層と、陰極と、を備え、 前記発光層が、〔1〕~〔5〕いずれか1項に記載の量子ドットを含む、電界発光素子。
【0015】
〔8〕 一対の電極間に光電変換層を有してなる光電変換素子であって、前記光電変換層が、〔1〕~〔5〕いずれか1項に記載の量子ドットを含む、光電変換素子。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、経時安定性に優れ、経時後も高い蛍光量子収率を維持可能な量子ドット及びインク組成物を提供することができる。また本発明により、経時後も高い蛍光量子収率を維持可能な量子ドットを用いた信頼性の高い電界発光素子を提供することができる。
【0017】
また本発明により、耐久性に優れる光電変換素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<量子ドット>
本発明の量子ドットは、一般式(1)で示される化合物で表面処理された半導体微粒子である。「表面処理された」とは、半導体微粒子表面の少なくとも一部に当該化合物を有していることであり、このような半導体微粒子の表面に存在する化合物をリガンドともいう。一般式(1)で示される化合物は、硫黄原子を含有する脂肪族複素環基と電荷輸送性基を有する。前記硫黄原子を含有する脂肪族複素環基は、高い耐酸化性を有しており、量子ドット表面において経時でも安定して存在することができる。これにより、本願発明の量子ドットは、電荷輸送性に加えて優れた経時安定性を発揮する。その結果、ベンゼンチオール等で被覆された従来の量子ドットと比較して、沈降が発生せず経時安定性に優れ、さらに、高い蛍光量子収率維持率を有し、発光材料として好適である。
以下、本発明を詳細に説明する。特段記載のない限り、「部」及び「%」は「質量部」及び「質量%」を表す。
【0019】
<半導体微粒子>
半導体微粒子の材質としては、炭素(C)(不定形炭素、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ等)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)等の周期表第IV族元素の単体;リン(P)(黒リン)等の周期表第V族元素の単体;セレン(Se)、テルル(Te)等の周期表第VI族元素の単体;酸化錫(IV)、窒化ホウ素(BN)、リン化ホウ素(BP)、砒化ホウ素(BAs)、窒化アルミニウム(AlN)、リン化アルミニウム(AlP)、砒化アルミニウム(AlAs)、アンチモン化アルミニウム(AlSb)、窒化ガリウム(GaN)、リン化ガリウム(GaP)、砒化ガリウム(GaAs)、アンチモン化ガリウム(GaSb)、窒化インジウム(InN)、リン化インジウム(InP)、砒化インジウム(InAs)、アンチモン化インジウム(InSb)等の周期表第III族元素と周期表第V族元素との化合物;硫化アルミニウム(Al23)、セレン化アルミニウム(Al2Se3)、硫化ガリウム(Ga23)、セレン化ガリウム(GaSe、Ga2Se3)テルル化ガリウム(GaTe、Ga2Te3)、酸化インジウム(In23)、硫化インジウム(In23、InS)、セレン化インジウム(In2Se3)、テルル化インジウム(In2Te3)等の周期表第III族元素と周期表第VI族元素との化合物;酸化亜鉛(ZnO)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、テルル化亜鉛(ZnTe)、酸化カドミウム(CdO)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、硫化水銀(HgS)、セレン化水銀(HgSe)、テルル化水銀(HgTe)等の周期表第II族元素と周期表第VI族元素との化合物;酸化銅(I)(Cu2O)、硫化銅(I)(Cu2S)、セレン化銅(I)(Cu2Se)、硫化銀(I)(Ag2S)、セレン化銀(I)(Ag2Se)、テルル化銀(I)(Ag2Te)、硫化金(I)(Au2S)、セレン化金(I)(Au2Se)、テルル化金(I)(Au2Te)等の周期表第I族元素と周期表第VI族元素との化合物;塩化銅(I)(CuCl)、臭化銅(I)(CuBr)、ヨウ化銅(I)(CuI)、塩化銀(AgCl)、臭化銀(AgBr)等の周期表第I族元素と周期表第VII族元素との化合物;硫化スズ(II)(SnS)、セレン化スズ(II)(SnSe)、テルル化スズ(II)(SnTe)、硫化鉛(II)(PbS)、セレン化鉛(II)(PbSe)、テルル化鉛(II)(PbTe)等の周期表第IV族元素と周期表第VI族元素との化合物;硫化アンチモン(III)(Sb23)、硫化ビスマス(III)(Bi23)等の周期表第V族元素と周期表第VI族元素との化合物;硫化鉄(FeS2)、セレン化鉄(FeSe2)、テルル化鉄(FeTe2)等の周期表第VIII族元素と周期表第VI族元素との化合物;硫化ユーロピウム(EuS)、セレン化ユーロピウム(EuSe)、テルル化ユーロピウム(EuTe)等のランタノイド元素と周期表第VI族元素との化合物等が挙げられ、必要によりこれらの2種以上を併用してもよい。これらの半導体は、構成元素以外の元素を含有してもよい。例えばIII-V族を例にとれば、InGaP、InGaNの様な合金系であってもよく、複数の族の元素を含むCuInS2、CuInSe2、CuInTe2のような合金系であってもよい。また上記材料中に、希土類元素あるいは遷移金属元素がドープされた半導体微粒子を用いることができ、例えば、ZnS:Mn、ZnS:Tb、ZnS:Ce、LaPO4:Ce等が挙げられる。
【0020】
更に、半導体微粒子の材質としては、ペロブスカイト結晶も好適に用いることができる。ペロブスカイト結晶は、下記式(I)で表される組成を有し、3次元結晶構造を持つものである。
式(I): AQX3
[式(I)において、Aは、[CH3NH3+、[NH3CHNH]+、Rb+、Cs+またはFr+であり、Qは、Pb2+またはSn2+であり、Xは、I-、Br-、Cl-またはF-である。]
【0021】
電界発光素子に用いられる半導体微粒子としては、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、窒化ガリウム(GaN)、リン化ガリウム(GaP)、砒化ガリウム(GaAs)、窒化インジウム(InN)、リン化インジウム(InP)、砒化インジウム(InAs)、セレン化ガリウム(GaSe、Ga2Se3)、硫化インジウム(In23、InS)、酸化亜鉛(ZnO)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、テルル化亜鉛(ZnTe)、酸化カドミウム(CdO)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、InGaP、InGaN等の合金系が好ましく用いられ、特に、リン化インジウム(InP)、セレン化カドミウム(CdSe)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)が特に好ましく用いられる。とりわけ、InPをコアに、ZnS及び/又はZnSeをシェルに用いることが好ましい。
【0022】
光電変換素子に用いられる半導体微粒子は、波長700~2500nmの電磁波を吸収し得ることが好ましい。例えば、ペロブスカイト結晶構造を有する化合物半導体や金属カルコゲナイド(例えば、酸化物、硫化物、セレン化物、及びテルル化物など)が挙げられる。ペロブスカイト結晶構造を有する化合物半導体としては、具体的には、CH3NH3PbF3、CH3NH3PbCl3、CH3NH3PbBr3、CH3NH3PbI3、CsPbF3、CsPbCl3、CsPbBr3、CsPbI3、RbPbF3、RbPbCl3、RbPbBr3、RbPbI3、KPbF3、KPbCl3、KPbBr3、KPbI3などが挙げられる。また、金属カルコゲナイドとしては、具体的には、PbS、PbSe、PbTe、CdS、CdSe、CdTe、Sb23、Bi23、Ag2S、Ag2Se、Ag2Te、Au2S、Au2Se、Au2Te、Cu2S、Cu2Se、Cu2Te、Fe2S、Fe2Se、Fe2Te、In2S3、SnS、SnSe、SnTe、CuInS2、CuInSe2、CuInTe2、EuS、EuSe、EuTeなどが挙げられる。これらの中でも、PbS、PbSe、Ag2Sが好ましい。
【0023】
電界発光素子に用いられる半導体微粒子は、コア・シェル構造を有するコア・シェル型の半導体微粒子が好ましい。コア・シェル型の半導体微粒子は、コアと、コアを形成する材質と異なる成分からなる材質でコアを被覆したシェルと、を有する構造を備える。シェルにバントギャップの大きい半導体を選択することで、光励起によって生成された励起子(電子-正孔対)はコア内に閉じ込められる。その結果、粒子表面での無輻射遷移の確率が減少し、発光の量子収率及び蛍光特性の安定性が向上する。また、シェルは複数層あってもよい。更に、コアとシェル、及び、あるシェルと他のシェルの境界は明確であっても濃度勾配を設けて徐々に接合されたグラージェント構造であってもよい。更に、シェルはコアの一部だけを被覆しても、全体を被覆していてもよい。
【0024】
コアとシェルとを含めた半導体微粒子の平均粒径は、通常0.5nm~100nmであ
り、好ましくは1~50nmであり、更に好ましくは1~15nmである。
【0025】
ここで平均粒径とは、半導体微粒子を透過型電子顕微鏡で観察し、無作為に30個のサイズを計測してその平均値を採用した値を指す。この際、半導体微粒子は後述の有機リガンドを伴う。これに対し、エネルギー分散型X線分析が付帯した走査型透過電子顕微鏡を用いることで、有機リガンドを除く半導体微粒子を特定し、粒径を計測する。半導体微粒子の特定は、透過型電子顕微鏡像において電子密度の違いから有機リガンドに対し半導体微粒子部分が暗く撮像されることを利用する。半導体微粒子の形状は、球状に限らず、棒状、円盤状、その他形状であってもよい。
【0026】
<リガンド:一般式(1)で示される化合物>
一般式(1)で示される化合物は、前記半導体微粒子表面の少なくとも一部を覆うものであり、半導体微粒子の表面処理に用いられる。
【0027】
一般式(1)
【化2】
[一般式(1)中、Qは硫黄原子を含有する脂肪族複素環基であり、Xは直接結合又は2価の連結基であり、Aは電荷輸送性基である。]
【0028】
硫黄原子を含有する脂肪族複素環基は、少なくとも1つの硫黄原子を環構成ヘテロ原子として含む脂肪族ヘテロ環であり、例えば、硫黄原子を含有し炭素数2~30の脂肪族複素環基であることが好ましく、具体的には、硫黄原子を含有する脂肪族複素環基としては、例えば、エチレンスルフィド環、トリメチレンスルフィド環、テトラヒドロチオフェン環、チアン環、チエパン環、チオカン環、チオナン環、チアゾリジン環、1,2-ジチアン環、1,3-ジチアン環、1,4-ジチアン環、チオモルフォリン環等が挙げられる。
【0029】
前記脂肪族複素環基は、硫黄原子以外のヘテロ原子を環構成に含んでもよく、硫黄原子と窒素原子及び酸素原子から選択される少なくとも1種の原子とを環構成ヘテロ原子として含んでもよい。脂肪族複素環基として、より好ましくは、硫黄原子と窒素原子とを環構成ヘテロ原子として含むものである。
また、脂肪族複素環基の環員数としては、3~8員環が好ましく、5員環又は6員環がより好ましい。
【0030】
2価の連結基としては、2価の炭化水素基、酸素原子、アミド基、カルボニル基、エステル基、イミド基、アゾメチン基、アゾ基、スルフィド基、スルホン基、若しくは、これらを組み合わせてなる2価の連結基が挙げられる。
【0031】
2価の炭化水素基としては、例えば、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基等が挙げられ、これらの内、炭素数1~12のアルキレン基、炭素数5~12のシクロアルキレン基、炭素数6~12のアリーレン基が好ましい。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、へキシレン基、ドデシレン基、シクロヘキシレン基、フェニレン基等を挙げることができる。Xとして好ましくは、直接結合である。
【0032】
電荷輸送性基には、正孔輸送性基と電子輸送性基がある。正孔輸送性基は、主として正孔の輸送を担うため、正孔に対する安定性すなわち酸化安定性が求められ、一方、電子輸送性基は電子の輸送を担うため、電子に対する安定性すなわち還元安定性が求められる。
正孔輸送性基としては、例えば、トリフェニルアミンやジフェニルアミン等の第三級芳香族アミン、カルバゾール、チオフェン等の単位を含む基が使用できる。
電子輸送性基としては、例えば、オキサジアゾール、トリアジン、トリアゾール、オキ
サゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、チアジアゾール、キノキサリン等の単位を含む基が使用できる。
これらの電荷輸送性基は、電荷輸送性を損なわない範囲で置換基を有していてもよい。有してもよい置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、カルボニル基、シアノ基、トリフルオロメチル基又はトリメチルシリル基等が挙げられる。
【0033】
電荷輸送性基として、好ましくは正孔輸送性基であり、より好ましくは、第三級芳香族アミン又はカルバゾールの単位を含む基である。
【0034】
したがって、一般式(1)で示される化合物として、好ましくは、Qが、硫黄原子と窒素原子とを環員原子として含む脂肪族複素環基であり、Xが直接結合であり、Aが第三級芳香族アミン又はカルバゾールの単位を含む電荷輸送性残基である化合物である。
【0035】
さらに、一般式(1)で示される化合物好ましい構造として、下記一般式(2)~(11)で示される化合物が挙げられる。
【0036】
【化3】
【0037】
[一般式(2)中、R1~R14は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、シアノ基、ニトロ基またはトリメチルシリル基であり、X1は、直接結合、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアルキレンオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリーレン基またはアゾメチン基であり、Q1は、置換基を有していてもよいチアゾリジニル基、置換基を有していてもよいチオモルフォリニル基、置換基を有していてもよいテトラヒドロチオピラニル基または置換基を有していてもよい1,3‐ジチアニル基である。]
【0038】
【化4】
【0039】
[一般式(3)中、R15~R24は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、シアノ基、ニトロ基またはトリメチルシリル基であり、X2は、直接結合、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアルキレンオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリーレン基またはアゾメチン基であり、Q2は、置換基を有していてもよいチアゾリジニル基、置換基を有していてもよいチオモルフォリニル基、置換基を有していてもよいテトラヒドロチオピラニル基または置換基を有していてもよい1,3‐ジチアニル基である。]
【0040】
【化5】
【0041】
[一般式(4)中、R25~R32は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、シアノ基、ニトロ基またはトリメチルシリル基であり、X2は、直接結合、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアルキレンオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリーレン基またはアゾメチン基であり、Q3は、置換基を有していてもよいチアゾリジニル基、置換基を有していてもよいチオモルフォリニル基、置換基を有していてもよいテトラヒドロチオピラニル基または置換基を有していてもよい1,3‐ジチアニル基である。]
【0042】
【化6】
【0043】
[一般式(5)中、R33~R40は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、シアノ基、ニトロ基またはトリメチルシリル基であり、X4は、直接結合、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアルキレンオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリーレン基またはアゾメチン基であり、Q4は、置換基を有していてもよいチアゾリジニル基、置換基を有していてもよいチオモルフォリニル基、置換基を有していてもよいテトラヒドロチオピラニル基または置換基を有していてもよい1,3‐ジチアニル基である。]
【0044】
【化7】
【0045】
[一般式(6)中、R41~R43は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、シアノ基、トロ基またはトリメチルシリル基であり、X5は、直接結合、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアルキレンオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリーレン基またはアゾメチン基であり、Q5は、置換基を有していてもよいチアゾリジニル基、置換基を有していてもよいチオモルフォリニル基、置換基を有していてもよいテトラヒドロチオピラニル基または置換基を有していてもよい1,3‐ジチアニル基である。]
【0046】
【化8】
【0047】
[一般式(7)中、R44~R46は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、シアノ基、ニトロ基またはトリメチルシリル基であり、X6は、直接結合、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアルキレンオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリーレン基またはアゾメチン基であり、Q6は、置換基を有していてもよいチアゾリジニル基、置換基を有していてもよいチオモルフォリニル基、置換基を有していてもよいテトラヒドロチオピラニル基または置換基を有していてもよい1,3‐ジチアニル基である。]
【0048】
【化9】
【0049】
[一般式(8)中、R47及びR48は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、シアノ基、ニトロ基またはトリメチルシリル基であり、X7は、直接結合、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアルキレンオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリーレン基またはアゾメチン基であり、Q7は、置換基を有していてもよいチアゾリジニル基、置換基を有していてもよいチオモルフォリニル基、置換基を有していてもよいテトラヒドロチオピラニル基または置換基を有していてもよい1,3‐ジチアニル基である。]
【0050】
【化10】
【0051】
[一般式(9)中、R49及びR50は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、シアノ基、ニトロ基またはトリメチルシリル基であり、X8は、直接結合、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアルキレンオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリーレン基またはアゾメチン基であり、Q8は、置換基を有していてもよいチアゾリジニル基、置換基を有していてもよいチオモルフォリニル基、置換基を有していてもよいテトラヒドロチオピラニル基または置換基を有していてもよい1,3‐ジチアニル基である。]
【0052】
【化11】
【0053】
[一般式(10)中、R51~R55は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、シアノ基、ニトロ基、トリメチルシリル基であり、X9は、直接結合、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアルキレンオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリーレン基またはアゾメチン基であり、Q9は、置換基を有していてもよいチアゾリジニル基、置換基を有していてもよいチオモルフォリニル基、置換基を有していてもよいテトラヒドロチオピラニル基または置換基を有していてもよい1,3‐ジチアニル基である。]
【0054】
【化12】
【0055】
[一般式(11)中、R56及びR57は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、シアノ基、ニトロ基、トリメチルシリル基であり、X10は、直接結合、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアルキレンオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリーレン基またはアゾメチン基であり、Q10は、置換基を有していてもよいチアゾリジニル基、置換基を有していてもよいチオモルフォリニル基、置換基を有していてもよいテトラヒドロチオピラニル基または置換基を有していてもよい1,3‐ジチアニル基である。]
【0056】
以下に、一般式(2)~(11)における基について説明する。
【0057】
アルキル基は、アルカンから形式的に水素原子を一つ取り除いた一価の残基であり、直鎖、分岐であってもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、ヘキシル基、ドデシル基等の直鎖アルキル基、2-エチルヘキシル基等の分岐アルキル基が挙げられる。アルキル基の炭素数は1~6が好ましい。
【0058】
アルコキシ基は、エーテル結合を介してアルキル基が結合した基であり、当該アルキル基としては、上記アルキル基が挙げられる。
【0059】
アミノ基は、アンモニアから形式的に水素原子を一つ取り除いた一価の残基である。
【0060】
アルキルチオ基は、スルフィド結合を介してアルキル基が結合した基であり、当該アルキル基としては、上記アルキル基が挙げられる。
【0061】
1、R2、R4~R7、R9~R16、R18~R21、R23~R26、R28~R57として、好ましくは水素原子である。R3、R8、R17、R22として、好ましくは水素原子、アルキル基またはアルコキシ基であり、より好ましくは水素原子、メチル基またはメトキシ基である。R27として、好ましくは水素原子またはアルキル基であり、より好ましくはエチル基である。
【0062】
アルキレン基は、アルカンから形式的に水素原子を二つ取り除いた二価の残基であり、直鎖、分岐であってもよい。アルキレン基の具体例としては、メチレン基、1,2-エチレン基、1,6-ヘキシレン基、1,12-ドデシレン基等の直鎖アルキレン基、2-エチル-1,6-ヘキシレン基等の分岐アルキレン基が挙げられる。アルキレン基の炭素数は1~6が好ましく、さらに好ましくは1又は2である。
【0063】
アリーレン基は、芳香族炭化水素から形式的に水素原子を二つ取り除いた二価の残基であり、アリーレン基の具体例としては、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基、1,4-ナフチレン基、2,6-ピレニル基等が挙げられる。アリール基の炭素数は6~10が好ましく、更に好ましくは6である。
【0064】
アゾメチン基は、-CR61=N-で表される二価の残基であり、R61は水素原子または上記アルキル基である。R61として好ましくは水素原子である。
【0065】
アルキレンオキシカルボニル基は、-R62O(C=O)-表される二価の残基であり、R62は上記アルキレン基である。
【0066】
チアゾリジニル基は、チアゾリジンから形式的に水素原子を一つ取り除いた一価の残基であり、2-チアゾリジニル基、3-チアゾリジニル基、4-チアゾリジニル基、5-チアゾリジニル基が挙げられる。好ましくは2-チアゾリジニル基である。
【0067】
チオモルフォリニル基は、チオモルフォリンから形式的に水素原子を一つ取り除いた一価の残基であり、2-チオモルフォリニル基、3-チオモルフォリニル基、4-チオモルフォリニル基、5-チオモルフォリニル基、6-チオモルフォリニル基が挙げられる。好ましくは4-チオモルフォリニル基である。
【0068】
テトラヒドロチオピラニル基は、テトラヒドロピランから形式的に水素原子を一つ取り除いた一価の残基であり、2-テトラヒドロチオピラニル基、3-テトラヒドロチオピラニル基、4-テトラヒドロチオピラニル基、5-テトラヒドロチオピラニル基、6-テトラヒドロチオピラニル基が挙げられる。好ましくは4-テトラヒドロチオピラニル基である。
【0069】
1,3-ジチアン環基は、1,3-ジチアンから形式的に水素原子を一つ取り除いた一価の残基であり、(1,3-ジチアニル)-2-イル基、(1,3-ジチアニル)-4-イル基、(1,3-ジチアニル)-5-イル基、(1,3-ジチアニル)-6-イル基が挙げられる。好ましくは(1,3-ジチアニル)-2-イル基である。
【0070】
表1~表4に、一般式(1)で示される化合物の具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
本発明の量子ドットは、一般式(1)で示される化合物に加えて、さらに別の公知リガンドで表面処理されていてもよい。また、一般式(1)で示される化合物以外の公知のリガンドで表面処理された量子ドットを併用してもよい。公知のリガンドとしては、例えば、ドデカンチオール、オレイン酸、オレイルアミン、トリオクチルホスフィン、トリオクチルホスフィンオキシド等を使用することができる。
【0076】
<インク組成物>
本発明のインク組成物は、前記本発明に係る量子ドットと溶剤とを含有し、必要に応じて更に他の成分を含有してもよいものである。本発明のインク組成物は、高い安定性を有する量子ドットを含むため、優れた経時での安定性及び蛍光量子収率を有する。
以下、インク組成物に含まれる各成分について説明する。
【0077】
[溶剤]
本インク組成物において溶剤は、前記半導体微粒子を分散可能な溶剤の中から、インク組成物の用途等に応じて適宜選択できる。溶剤の具体例としては、例えば、1,2,3-トリクロロプロパン、1,3-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコールジアセテート、1,4-ジオキサン、2-ヘプタノン、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3,5,5-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オン、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノン、3-エトキシプロピオン酸エチル、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブ タノール、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート、3-メトキシブタノール、3-メトキシブチルアセテート、4-ヘプタノン、m-キシレン、m-ジエチルベンゼン、m-ジクロロベンゼン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、n-ブチルアルコール、n-ブチルベンゼン、n-プロピルアセテート、N-メチルピロリドン、トルエン、オクタン、ノナン、ヘキサン、o-キシレン、o-クロロトルエン、o-ジエチルベンゼン、o-ジクロロベンゼン、P-クロロトルエン、P-ジエチルベンゼン、sec-ブチルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、γ-ブチロラクトン、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ターシャルターシャルブタノール、イソブチルアルコール、イソホロン、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノールアセテート、シクロヘキサノン、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ダイアセトンアルコール、トリアセチン、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ベンジルアルコール、メチルイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノール、酢酸n-アミル、酢酸n-ブチル、酢酸イソアミル、酢酸イソブチル、酢酸プロピル、及び二塩基酸エステル等が挙げられる。これらの溶剤は、1種を単独で、又は必要に応じて任意の比率で2種以上混合して用いることができる。
【0078】
<インクジェットインキ>
本発明のインク組成物は、溶剤や、後述する樹脂成分あるいは重合性単量体等を用いて、粘度を調整することで、インクジェット方式で用いられるインクジェットインキとして使用することができる。インクジェットインキとして用いる場合は、25℃における粘度を3~50mPa・sに調製することが好ましい。
【0079】
インクジェットインキとする場合には、溶剤は、樹脂に対する溶解性、装置部材に対する膨潤作用、粘度、及びノズルにおけるインキの乾燥性の点から選択され、下記溶剤(A-1)、(A-2)及び(A-3)からなる群から選ばれる、760mmHgでの沸点が135℃以上の1種類以上の有機溶剤を含むことが好ましい。
溶剤(A-1): R1-(O-C24)m-O-C(=O)-CH3
[ただし、R1は炭素原子数1~8のアルキル基であり、C24は直鎖若しくは分岐エチレン鎖であり、1≦m≦3である。]
溶剤(A-2): R2-(O-C36)p-O-C(=O)-CH3
[ただし、R2は炭素原子数1~8のアルキル基であり、C36は直鎖若しくは分岐プロピレン鎖であり、1≦p≦3である。]
溶剤(A-3): アセテート構造を2つ以上持つ有機溶剤
【0080】
溶剤(A-1)~(A-3)の具体例としては、例えば、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、1,3-ブチレングリコールジアセテート、1,6-ヘキサンジオールジアセテート、トリアセチン等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。中でも、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、1,3-ブチレングリコールジアセテートが、吐出安定性の点から好ましい。
また、前記760mmHgでの沸点が135℃以上の溶剤の含有量が、全溶剤中60質量%以上であることが、吐出安定性やノズルにおけるインキの乾燥性の点から好ましい。
【0081】
<その他成分>
本発明のインク組成物は、用いられる用途に応じた要求性能に応じて、樹脂、架橋剤、重合性単量体、光感応性物質、熱感応性物質、光重合開始剤、光酸発生剤、光塩基発生剤、増感剤等を含有してもよい。当該成分は、単独で又は2種以上混合して用いることができ、その含有量は、量子ドット1質量部に対し、好ましくは0~100質量部である。100質量部を超えると、インク組成物中の量子ドット含有率が低くなり、十分な蛍光強度が得られない場合がある。
また、本発明のインク組成物は、光感応性物質又は重合性単量体を含有することで、フォトリソグラフィー法によりパターン形成可能なポジ型レジスト又はネガ型レジストとすることができる。
【0082】
[樹脂]
樹脂としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を用いることができ、例えば、石油系樹脂、マレイン酸樹脂、ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレート、環化ゴム、塩化ゴム、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、ビニル樹脂、又はブチラール樹脂等が挙げられる。当該樹脂は、インク組成物を印刷する基材に応じて、適宜選択することができる。
【0083】
[架橋剤]
架橋剤として好ましくは熱架橋性の架橋剤であり、メラミン化合物、ベンゾグアナミン化合物、アクリレート系モノマー、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキセタン化合物、フェノール化合物、ベンゾオキサジン化合物、ブロック化カルン酸化合物、ブロック化イソシアネート化合物及びシランカップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種が耐熱性に優れる点から好適に用いられる。
【0084】
[重合性単量体]
重合性単量体としては、紫外線や熱等により硬化して樹脂を生成するモノマー又はオリゴマーが含まれ、これらを単独で又は2種以上混合して用いることができる。
重合性単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、エステルアクリレート、メチロール化メラミンの(メタ)アクリル酸エステル、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート等の各種アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、スチレン、酢酸ビニル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル、ペンタエリスリトールトリビニルエーテル、(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ビニルホルムアミド、アクリロニトリル等を挙げることができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。これらは、1種を単独で又は必要に応じて任意の比率で2種以上混合して用いることができる。
【0085】
[熱感応性物質、光感応性物質]
熱感応性物質としては熱重合開始剤が挙げられ、具体的には、有機過酸化物系開始剤、アゾ系開始剤等を用いることができる。また、光感応性物質としては、光重合開始剤、光酸発生剤又は光塩基発生剤が挙げられる。
【0086】
[光重合開始剤、光酸発生剤]
光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン系化合物、ベンゾイン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、トリアジン系化合物、オキシムエステル系化合物、ホスフィン系化合物、キノン系化合物、ボレート系化合物、 カルバゾール系
化合物、イミダゾール系化合物、又はチタノセン系化合物等が挙げられる。
また、光酸発生剤としては、スルホニウム塩、テトラヒドロチオフェニウム塩、 N-スルホニルオキシイミド化合物等が挙げられる。
【0087】
光重合開始剤及び/又は光酸発生剤は、重合性単量体100質量部に対して、0.01~20質量部であることが好ましい。上記範囲内であると、十分な硬化性が得られ、且つ、着色発生や他の諸物性低下が起こらないため、好ましい。
【0088】
[光塩基発生剤]
光塩基発生剤としては、例えば、複素環基含有光塩基発生剤、2-ニトロベンジルシクロヘキシルカルバメート、[[(2,6-ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]シクロヘキシルアミン、ビス[[(2-ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ヘキサン-1,6-ジアミン、トリフェニルメタノール、o-カルバモイルヒドロキシルアミド、o-カルバモイルオキシム、ヘキサアンミンコバルト(III)トリス(トリフェニルメチルボレート)等が挙げられる。
【0089】
[増感剤]
増感剤としては、例えば、カルコン誘導体、ジベンザルアセトン等に代表される不飽和ケトン類、ベンジルやカンファーキノン等に代表される1,2-ジケトン誘導体、ベンゾイン誘導体、フルオレン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、キサンテン誘導体、チオキサンテン誘導体、キサントン誘導体、チオキサントン誘導体、クマリン誘導体、ケトクマリン誘導体、シアニン誘導体、メロシアニン誘導体、オキソノ-ル誘導体等のポリメチン色素、アクリジン誘導体、アジン誘導体、チアジン誘導体、オキサジン誘導体、インドリン誘導体、アズレン誘導体、アズレニウム誘導体、スクアリリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、テトラフェニルポルフィリン誘導体、トリアリールメタン誘導体、テトラベンゾポルフィリン誘導体、テトラピラジノポルフィラジン誘導体、フタロシアニン誘導体、テトラアザポルフィラジン誘導体、テトラキノキサリロポルフィラジン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、サブフタロシアニン誘導体、ピリリウム誘導体、チオピリリウム誘導体、テトラフィリン誘導体、アヌレン誘導体、スピロピラン誘導体、スピロオキサジン誘導体、チオスピロピラン誘導体、金属アレーン錯体、有機ルテニウム錯体、又はミヒラーケトン誘導体、α-アシロキシエステル、アシルフォスフィンオキサイド、メチルフェニルグリオキシレート、ベンジル、9,10-フェナンスレンキノン、カンファーキノン、エチルアンスラキノン、4,4’-ジエチルイソフタロフェノン、3,3’,又は4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン等が挙げられる。
【0090】
本発明のインク組成物は、本発明の目的が損なわれない範囲で、上記以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、消泡剤、レベリング剤、増粘剤等が挙げられる。
【0091】
本発明のインク組成物を用いて量子ドット含有層を形成するための基材としては、特に限定はされず、例えば、ポリカーボネート、硬質塩ビ、軟質塩ビ、ポリスチレン、発砲スチロール、PMMA、ポリプロピレン、ポリエチレン、PET等のプラスチック基材やこれら混合又は変性品、上質紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙等の紙基材、ガラス基材、ステンレス等の金属基材等を用いることができる。当該基材は、インク組成物の用途に応じて適宜選択することができる。また、基材上に、本発明のインク組成物を用いて量子ドット含有層を形成する方法としては、インク組成物を塗工後に溶剤を乾燥して量子ドット含有層を形成する方法や、インク組成物を塗工後に紫外線照射をして硬化膜を形成する方法等が挙げられる。
【0092】
<光波長変換層>
前記量子ドット含有層は、光波長変換層として用いることができる。光波長変換層は、励起光を長波長側の蛍光に変換して放出することが可能であり、励起光波長と放出蛍光波長の関係を維持できれば特に制限はなく、例として、青色や紫外光を励起光として用いて緑色や赤色の蛍光を得ることや、紫外光や可視光を励起光として近赤外領域の蛍光を得る事等を挙げることができる。光波長変換層の厚みは、好ましくは1~500μmであり、より好ましくは1~50μmであり、さらに好ましくは1~10μmである。厚みが1μm以上であると、高い波長変換効果が得られるため、好ましい。また、厚みが500μm以下であると、光源ユニットに組み込んだ場合に、光源ユニットを薄くすることができるため、好ましい。
【0093】
<光波長変換部材>
前述の光波長変換層を用いて、光波長変換部材とすることもできる。
光波長変換部材は、基材の少なくとも片面に光波長変換層が形成されたものである。基材は特に限定されないが、例えば、ポリカーボネート、硬質塩ビ、軟質塩ビ、ポリスチレン、発砲スチロール、PMMA、ポリプロピレン、ポリエチレン、PET等のプラスチック基材やこれら混合又は変性品、上質紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙等の紙基材、ガラス、ステンレス等の金属基材等を使用することができる。当該基材は、用途により適宜選択することができる。例えば、プリペイドカードや通行カード等であれば、プラスチック基材やこれらの混合又は変性品が耐久性の観点から好ましい。情報記録媒体としての1次元バーコード、2次元バーコード、QRコード(登録商標)(マトリックス型2次元コード)であれば、プラスチック基材又は紙基材が好ましい。また、波長変換用カラーフィルタであれば、透明基板が好ましい。
【0094】
<電界発光素子>
本発明の電界発光素子は、基板上に、陽極と、発光層と、陰極とを備え、前記発光層が、前記本発明に係る量子ドットを発光材料として含むことを特徴とする。本発明の電界発光素子は、発光層が前記本発明に係る安定性に優れる量子ドットを含むため、信頼性に優れている。本発明の電界発光素子は、少なくとも基板と、陽極と、発光層と、陰極とを有するものであり、必要に応じて更に他の層を有していてもよい。また、発光層は、単層であっても複層であってもよく、発光層が2層以上ある場合、少なくとも1層が前記本発明に係る発光材料を含んでいればよい。
【0095】
即ち、本発明の電界発光素子としては、陽極と、発光層と、陰極とからなる一層型電界発光素子、及び、他の層を含む多層型電界発光素子が挙げられる。多層型電界発光素子を構成する他の層としては、発光層の他に、発光層への正孔や電子の注入を容易にしたり、発光層内での正孔と電子との再結合を円滑に行わせたりすることを目的とした、正孔注入層、正孔輸送層、正孔阻止層、電子注入層等が挙げられる。また、他の層として、発光層と陽極との間で発光層に隣接して存在し、発光層と陽極、又は発光層と、正孔注入層若しくは正孔輸送層とを隔離する役割をもつ層であるインターレイヤー層等が挙げられる。
【0096】
多層型電界発光素子の代表的な層構成としては、(1)陽極/正孔注入層/発光層/陰極、(2)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極、(3)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極、(4)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極、(5)陽極/正孔注入層/発光層/正孔阻止層/電子注入層/陰極、(6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子注入層/陰極、(7)陽極/発光層/正孔阻止層/電子注入層/陰極、(8)陽極/発光層/電子注入層/陰極(9)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/インターレイヤー層/発光層/陰極、(10)陽極/正孔注入層/インターレイヤー層/発光層/電子注入層/陰極、(11)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/インターレイヤー層/発光層/電子注入層/陰極、等が挙げられる。
【0097】
また、上述した各層は、それぞれ二層以上の層構成により形成されてもよく、いくつかの層が繰り返し積層されていてもよい。そのような例として、近年、光取り出し効率の向上を目的に、上述の多層型電界発光の一部の層を多層化する「マルチ・フォトン・エミッション」と呼ばれる素子構成が提案されている。これは例えば、ガラス基板/陽極/正孔輸送層/電子輸送性発光層/電子注入層/電荷発生層/発光層/陰極から構成される電界発光素子に於いて、電荷発生層/発光層のユニットが複数層積層するもの等が挙げられる。
【0098】
[正孔注入層]
正孔注入層には、発光層に対して優れた正孔注入効果を示し、かつ陽極界面との密着性と薄膜形成性に優れた正孔注入層を形成できる正孔注入材料が用いられる。また、このような材料を多層積層させ、正孔注入効果の高い材料と正孔輸送効果の高い材料とを多層積層させた場合、それぞれに用いる材料を正孔注入材料、正孔輸送材料と呼ぶことがある。これら正孔注入材料や正孔輸送材料は、正孔移動度が大きく、イオン化エネルギーが通常5.5eV以下と小さい必要がある。このような正孔注入層としては、より低い電界強度で正孔を発光層に輸送する材料が好ましく、更に正孔の移動度が、例えば104~106V/cmの電界印加時に、少なくとも10-6cm2/V・秒であるものが好ましい。正孔注入材料及び正孔輸送材料としては、上記の好ましい性質を有するものであれば特に制限はなく、従来、光導伝材料において正孔の電荷輸送材料として慣用されているものや、有機EL素子の正孔注入層に使用されている公知のものの中から任意のものを選択して用いることができる。
【0099】
このような正孔注入材料や正孔輸送材料としては、例えばトリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、ポリシラン系、アニリン系共重合体、特開平1-211399号公報に開示されている導電性高分子オリゴマー(特にチオフェンオリゴマー)等が挙げられる。
【0100】
また、正孔注入材料や正孔輸送材料として、ポルフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物を用いることもできる。例えば、米国特許第5,061,569号に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有する4,4’-ビス(N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ)ビフェニル等や、特開平4-308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4’,4”-トリス(N-(3-メチルフェニル)-N-フェニルアミノ)トリフェニルアミン等をあげることができる。また、正孔注入材料として銅フタロシアニンや水素フタロシアニン等のフタロシアニン誘導体も挙げられる。更に、その他、芳香族ジメチリデン系化合物、p型Si、p型SiC等の無機化合物も正孔注入材料や正孔輸送材料として使用することができる。
【0101】
更に、正孔注入層に使用できる材料としては、酸化モリブデン(MnOx)、酸化バナジウム(VOx)、酸化ルテニウム(RuOx)、酸化銅(CuOx)、酸化タングステン(WOx)、酸化イリジウム(IrOx)等の無機酸化物及びそれらのドープ体も挙げられる。
【0102】
芳香族第三級アミン化合物の具体例としては、例えば、N,N’-ジフェニル-N,N’-(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン、N,N,N’,N’-(4-メチルフェニル)-1,1’-フェニル-4,4’-ジアミン、N,N,N’,N’-(4-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジナフチル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン、N,N’-(メチルフェニル)-N,N’-(4-n-ブチルフェニル)-フェナントレン-9,10-ジアミン、N,N-ビス(4-ジ-4-トリルアミノフェニル)-4-フェニル-シクロヘキサン、N,N’-ビス(4’-ジフェニルアミノ-4-ビフェニリル)-N,N’-ジフェニルベンジジン、N,N’-ビス(4’-ジフェニルアミノ-4-フェニル)-N,N’-ジフェニルベンジジン、N,N’-ビス(4’-ジフェニルアミノ-4-フェニル)-N,N’-ジ(1-ナフチル)ベンジジン、N,N’-ビス(4’-フェニル(1-ナフチル)アミノ-4-フェニル)-N,N’-ジフェニルベンジジン、N,N’-ビス(4’-フェニル(1-ナフチル)アミノ-4-フェニル)-N,N’-ジ(1-ナフチル)ベンジジン等が挙げられ、これらは正孔注入材料、正孔輸送材料いずれにも使用することができる。
【0103】
正孔注入層を形成するには、上述の化合物を、例えば真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、ラングミュア-ブロジェット法(LB法)等の公知の方法により薄膜化する。正孔注入層の膜厚は、特に制限はないが、通常は5nm~5μmである。
【0104】
インターレイヤー層に用いる材料として、ポリビニルカルバゾール及びその誘導体、側鎖又は主鎖に芳香族アミンを有するポリアリーレン誘導体、アリールアミン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体等の芳香族アミンを含むポリマーが例示される。また、インターレイヤー層の成膜方法は、高分子量の材料を用いる場合には、溶液からの成膜による方法が例示される。
【0105】
溶液からのインターレイヤー層の成膜には、公知の湿式成膜法、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法、キャピラリ-コート法、ノズルコート法等の塗布法を用いることができる。
【0106】
インターレイヤー層の厚さは、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよく、通常、1nm~1μmであり、好ましくは2~500nmであり、より好ましくは5~200nmである。
【0107】
[電子注入層]
電子注入層には、発光層に対して優れた電子注入効果を示し、かつ陰極界面との密着性と薄膜形成性に優れた電子注入層を形成できる電子注入材料が用いられる。そのような電子注入材料の例としては、金属錯体化合物、含窒素五員環誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、ジフェノキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ペリレンテトラカルボン酸誘導体、フレオレニリデンメタン誘導体、アントロン誘導体、シロール誘導体、トリアリールホスフィンオキシド誘導体、ポリキノリン及びその誘導体、ポリキノキサリン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体、カルシウムアセチルアセトナート、酢酸ナトリウム等が挙げられる。また、セシウム等の金属をバソフェナントロリンにドープした無機/有機複合材料(高分子学会予稿集,第50巻,4号,660頁,2001年発行)や、第50回応用物理学関連連合講演会講演予稿集、No.3、1402頁、2003年発行記載のBCP、TPP、T5MPyTZ等も電子注入材料の例として挙げられるが、素子作成に必要な薄膜を形成し、陰極からの電子を注入できて、電子を輸送できる材料であれば、特にこれらに限定されるものではない。
【0108】
上記電子注入材料の中で好ましいものとしては、金属錯体化合物、含窒素五員環誘導体、シロール誘導体、トリアリールホスフィンオキシド誘導体が挙げられる。好ましい金属錯体化合物としては、8-ヒドロキシキノリン又はその誘導体の金属錯体が好適である。8-ヒドロキシキノリン又はその誘導体の金属錯体の具体例としては、トリス(8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(2-メチル-8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(4-メチル-8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(5-メチル-8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(5-フェニル-8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、ビス(8-ヒドロキシキノリナート)(1-ナフトラート)アルミニウム、ビス(8-ヒドロキシキノリナート)(2-ナフトラート)アルミニウム、ビス(8-ヒドロキシキノリナート)(フェノラート)アルミニウム、ビス(8-ヒドロキシキノリナート)(4-シアノ-1-ナフトラート)アルミニウム、ビス(4-メチル-8-ヒドロキシキノリナート)(1-ナフトラート)アルミニウム、ビス(5-メチル-8-ヒドロキシキノリナート)(2-ナフトラート)アルミニウム、ビス(5-フェニル-8-ヒドロキシキノリナート)(フェノラート)アルミニウム、ビス(5-シアノ-8-ヒドロキシキノリナート)(4-シアノ-1-ナフトラート)アルミニウム、ビス(8-ヒドロキシキノリナート)クロロアルミニウム、ビス(8-ヒドロキシキノリナート)(o-クレゾラート)アルミニウム等のアルミニウム錯体化合物、トリス(8-ヒドロキシキノリナート)ガリウム、トリス(2-メチル-8-ヒドロキシキノリナート)ガリウム、トリス(4-メチル-8-ヒドロキシキノリナート)ガリウム、トリス(5-メチル-8-ヒドロキシキノリナート)ガリウム、トリス(2-メチル-5-フェニル-8-ヒドロキシキノリナート)ガリウム、ビス(2-メチル-8-ヒドロキシキノリナート)(1-ナフトラート)ガリウム、ビス(2-メチル-8-ヒドロキシキノリナート)(2-ナフトラート)ガリウム、ビス(2-メチル-8-ヒドロキシキノリナート)(フェノラート)ガリウム、ビス(2-メチル-8-ヒドロキシキノリナート)(4-シアノ-1-ナフトラート)ガリウム、ビス(2、4-ジメチル-8-ヒドロキシキノリナート)(1-ナフトラート)ガリウム、ビス(2、5-ジメチル-8-ヒドロキシキノリナート)(2-ナフトラート)ガリウム、ビス(2-メチル-5-フェニル-8-ヒドロキシキノリナート)(フェノラート)ガリウム、ビス(2-メチル-5-シアノ-8-ヒドロキシキノリナート)(4-シアノ-1-ナフトラート)ガリウム、ビス(2-メチル-8-ヒドロキシキノリナート)クロロガリウム、ビス(2-メチル-8-ヒドロキシキノリナート)(o-クレゾラート)ガリウム等のガリウム錯体化合物の他、8-ヒドロキシキノリナートリチウム、ビス(8-ヒドロキシキノリナート)銅、ビス(8-ヒドロキシキノリナート)マンガン、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)ベリリウム、ビス(8-ヒドロキシキノリナート)亜鉛、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)亜鉛等の金属錯体化合物が挙げられる。
【0109】
また、好ましい含窒素五員環誘導体としては、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体があげられ、具体的には、2,5-ビス(1-フェニル)-1,3,4-オキサゾール、2,5-ビス(1-フェニル)-1,3,4-チアゾール、2,5-ビス(1-フェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、2-(4’-tert-ブチルフェニル)-5-(4”-ビフェニル)1,3,4-オキサジアゾール、2,5-ビス(1-ナフチル)-1,3,4-オキサジアゾール、1,4-ビス[2-(5 -フェニルオキサジアゾリル)]ベンゼン、1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサジアゾリル)-4-tert-ブチルベンゼン]、2-(4’-tert- ブチルフェニル)-5-(4”-ビフェニル)-1,3,4-チアジアゾーvル、2,5-ビス(1-ナフチル)-1,3,4-チアジアゾール、1,4-ビス[2-(5-フェニルチアジアゾリル)]ベンゼン、2-(4’-tert-ブチルフェニル)-5-(4”-ビフェニル)-1,3,4-トリアゾール、2,5-ビス(1-ナフチル)-1,3,4-トリアゾール、1,4-ビス[2-(5-フェニルトリアゾリル)]ベンゼン等が挙げられる。
【0110】
更に、電子注入層に使用できる材料としては、酸化亜鉛(ZnOx)、酸化チタン(TiOx)、等の無機酸化物及びそれらのドープ体も挙げられる。
【0111】
更に、正孔阻止層には、発光層を経由した正孔が電子注入層に達するのを防ぎ、薄膜形成性に優れた層を形成できる正孔阻止材料が用いられる。そのような正孔阻止材料の例としては、ビス(8-ヒドロキシキノリナート)(4-フェニルフェノラート)アルミニウム等のアルミニウム錯体化合物や、ビス(2-メチル-8-ヒドロキシキノリナート)(4-フェニルフェノラート)ガリウム等のガリウム錯体化合物、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BCP)等の含窒素縮合芳香族化合物が挙げられる。
【0112】
[発光層]
電界発光素子の発光層としては、以下の機能を併せ持つものが好適である。
注入機能;電界印加時に陽極又は正孔注入層より正孔を注入することができ、陰極又は電子注入層より電子を注入することができる機能
輸送機能;注入した電荷(電子と正孔)を電界の力で移動させる機能
発光機能;電子と正孔の再結合の場を提供し、これを発光につなげる機能
ただし、正孔の注入されやすさと電子の注入されやすさには、違いがあってもよく、また正孔と電子の移動度で表される輸送能に大小があってもよい。
【0113】
本発明の電界発光素子を構成する発光層は少なくとも1層が、本発明の量子ドットからなる発光材料を含む。前記発光材料を含む発光層は、本発明のインク組成物から形成されることが好ましい。また発光層は、本発明の量子ドットのほかに公知の発光材料を含んでもよい。本発明のインク組成物に加えてもよい公知の発光材料として、ベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、ベンゾオキサゾール系等の蛍光増白剤、金属キレート化オキシノイド化合物、スチリルベンゼン系化合物を用いることができる。これら化合物の具体例としては、例えば特開昭59-194393号公報に開示されている化合物が挙げられる。更に他の有用な化合物は、ケミストリー・オブ・シンセティック・ダイズ(1971)628~637頁及び640頁に列挙されている。
【0114】
前記金属キレート化オキシノイド化合物としては、例えば、トリス(8-キノリノール)アルミニウム等の8-ヒドロキシキノリン系金属錯体や、ジリチウムエピントリジオン等が好適な化合物として挙げられる。
【0115】
また、前記スチリルベンゼン系化合物としては、ジスチリルピラジン誘導体又はポリフェニル系化合物も発光層の材料として用いることができる。
【0116】
更に、上述した蛍光増白剤、金属キレート化オキシノイド化合物及びスチリルベンゼン系化合物等以外に、例えば12-フタロペリノン、1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン、1,1,4,4-テトラフェニル-1,3-ブタジエン、ナフタルイミド誘導体、ペリレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、アルダジン誘導体、ピラジリン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ピロロピロール誘導体、スチリルアミン誘導体、クマリン系化合物、国際公開公報WO90/13148号やAppl. Phys. Lett.,vol58,18,P1982(1991)に記載されているような高分子化合物、9,9’,10,10’-テトラフェニル-2,2’-ビアントラセン、PPV(ポリパラフェニレンビニレン)誘導体、ポリフルオレン誘導体やそれら共重合体等、例えば、下記一般式(12)~一般式(14)の構造を持つものが挙げられる。
【0117】
【化13】
【0118】
[一般式(12)中、Rx1及びRX2は、各々独立して、1価の脂肪族炭化水素基を表し、n1は、3~100の整数を表す。]
【0119】
【化14】
【0120】
[一般式(13)中、Rx3及びRX4は、各々独立して、1価の脂肪族炭化水素基を表し、n2及びn3は、各々独立して、3~100の整数を表す。]
【0121】
【化15】
【0122】
[一般式(14)中、RX5及びRX6は、各々独立して、1価の脂肪族炭化水素基を表し、n4及びn5は、各々独立して、3~100の整数を表す。Phはフェニル基を表す。]
【0123】
また、特開平5-258862号公報等に記載されている一般式(Rs-Q)2-Al-O-L3[式中、L3はフェニル部分を含んでなる炭素原子6~24個の炭化水素であり、O-L3はフェノラート配位子であり、Qは置換8-キノリノラート配位子を示し、Rsはアルミニウム原子に置換8-キノリノラート配位子が2個を上回り結合するのを立体的に妨害するように選ばれた8-キノリノラート環置換基を示す]で表される化合物も挙げられる。具体的には、ビス(2-メチル-8-キノリノラート)(パラ-フェニルフェノラート)アルミニウム(III)、ビス(2-メチル-8-キノリノラート)(1-ナフトラート)アルミニウム(III)等が挙げられる。
【0124】
[陽極]
電界発光素子の陽極に使用される材料は、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物又はこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、ITO、SnO2、ZnO等の導電性材料が挙げられる。この陽極を形成するには、これらの電極物質を、蒸着法やスパッタリング法等の方法で薄膜を形成させることができる。この陽極は、上記発光層からの発光を陽極から取り出す場合、陽極の発光に対する透過率が10%より大きくなるような特性を有していることが望ましい。また、陽極のシート抵抗は、数百Ω/□以下としてあるものが好ましい。更に、陽極の膜厚は、材料にもよるが通常10nm~1μm、好ましくは10~200nmの範囲で選択される。
【0125】
[陰極]
電界発光素子の陰極に使用される材料は、仕事関数の小さい(4eV以下)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム・銀合金、アルミニウム/酸化アルミニウム、アルミニウム・リチウム合金、インジウム、希土類金属等が挙げられる。この陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。ここで、発光層からの発光を陰極から取り出す場合、陰極の発光に対する透過率は10%より大きくすることが好ましい。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、更に、膜厚は通常10nm~1μm、好ましくは50~200nmである。
【0126】
電界発光素子を作製する方法については、上記の材料及び方法により陽極、発光層、必要に応じて正孔注入層、及び必要に応じて電子注入層を形成し、最後に陰極を形成すればよい。また、陰極から陽極へ、前記と逆の順序で電界発光素子を作製することもできる。
【0127】
電界発光素子は、透光性の基材上に作製する。透光性基材は電界発光素子を支持する基板であり、その透光性については、400~700nmの可視領域の光の透過率が50%以上、好ましくは90%以上であるものが望ましく、更に平滑な基材を用いるのが好ましい。
【0128】
これら基材は、機械的・熱的強度を有し、透明であれば特に限定されるものではなく、屈曲性を有するフィルム又はシート状の基材であってもよい。基材としては、例えば、ガラス板、合成樹脂板等が好適に用いられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等で成形された板が挙げられる。また、合成樹脂板としては、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルサルファイド樹脂、ポリサルフォン樹脂等の板が挙げられる。
【0129】
電界発光素子の各層の形成方法としては、真空蒸着、電子線ビーム照射、スパッタリング、プラズマ、イオンプレーティング等の乾式成膜法、若しくはスピンコーティング、ディッピング、フローコーティング等の湿式成膜法のいずれかの方法を適用することができる。また、LITI(Laser Induced Thermal Imaging、レーザー熱転写)法や、印刷(オフセット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷)、インクジェット等の方法を適用することもできる。ただし、発光層は湿式成膜法での成膜であることが好ましい。
【0130】
有機層は、特に分子堆積膜であることが好ましい。分子堆積膜とは、気相状態の材料化合物から沈着され形成された薄膜や、溶液状態又は液相状態の材料化合物から固体化され形成された膜のことであり、通常この分子堆積膜は、LB法により形成された薄膜(分子累積膜)とは凝集構造、高次構造の相違や、それに起因する機能的な相違により区分することができる。また、樹脂等の結着剤と材料化合物とを溶剤に溶かして溶液とした後、これをスピンコート法等により薄膜化することによっても有機層を形成することができる。各層の膜厚は特に限定されるものではないが、膜厚が厚すぎると一定の光出力を得るために大きな印加電圧が必要となり効率が悪くなり、逆に膜厚が薄すぎるとピンホール等が発生し、電界を印加しても充分な発光輝度が得にくくなる。したがって、各層の膜厚は、1nmから1μmの範囲が適しているが、10nmから0.2μmの範囲がより好ましい。
【0131】
また、電界発光素子の温度、湿度、雰囲気等に対する安定性向上のために、素子の表面に保護層を設けたり、樹脂等により素子全体を被覆や封止を施したりしてもよい。特に素子全体を被覆や封止する際には、光によって硬化する光硬化性樹脂が好適に使用される。
【0132】
電界発光素子に印加する電流は通常、直流であるが、パルス電流や交流を用いてもよい。電流値、電圧値は、素子破壊しない範囲内であれば特に制限はないが、素子の消費電力や寿命を考慮すると、なるべく小さい電気エネルギーで効率良く発光させることが望ましい。
【0133】
電界発光素子の駆動方法は、パッシブマトリクス法のみならず、アクティブマトリックス法での駆動も可能である。また、本発明の電界発光素子から光を取り出す方法としては、陽極側から光を取り出すボトム・エミッションという方法のみならず、陰極側から光を取り出すトップ・エミッションという方法も使用可能である。
【0134】
電界発光素子のフルカラー化方式の主な方式としては、3色塗り分け方式、色変換方式、カラーフィルタ方式が挙げられる。3色塗り分け方式では、シャドウマスクを使った蒸着法や、インクジェット法や印刷法が挙げられる。また、レーザー熱転写法も用いることができる。色変換方式では、青色発光の発光層を使って、蛍光色素を分散した色変換(CCM)層を通して、青色より長波長の緑色と赤色に変換する方法である。カラーフィルタ方式では、白色発光の有機EL素子を使って、液晶用カラーフィルタを通して3原色の光を取り出す方法であるが、これら3原色に加えて、一部白色光をそのまま取り出して発光に利用することで、素子全体の発光効率をあげることもできる。
【0135】
更に、電界発光素子は、マイクロキャビティ構造を採用しても構わない。これは、有機EL素子は、発光層が陽極と陰極との間に挟持された構造であり、発光した光は陽極と陰極との間で多重干渉を生じるが、陽極及び陰極の反射率、透過率等の光学的な特性と、これらに挟持された有機層の膜厚とを適当に選ぶことにより、多重干渉効果を積極的に利用し、素子より取り出される発光波長を制御するという技術である。これにより、発光色度を改善することも可能となる。
【0136】
以上述べたように、本発明の量子ドットを用いた電界発光素子は、蛍光量子収率及び信頼性に優れるものである。よって、当該電界発光素子は、壁掛けテレビ等のフラットパネルディスプレイや各種の平面発光体として用いることができる。また、複写機やプリンター等の光源、液晶ディスプレイや計器類等の光源、表示板、標識灯等に応用することができる。
【0137】
<光電変換素子>
本発明の光電変換素子は、一対の電極間に上記光電変換層を有するものである。本発明の光電変換素子において、公知の光電変換素子の構成を適用することができる。また、本発明の光電変換素子は、光電変換層以外は公知の方法で製造することができる。
【0138】
ここで、本発明のインク組成物を用いて作成することができる光電変換素子について詳細に説明する。一般的に、半導体粒子を用いた光電変換素子は、少なくとも一対の電極と光電変換層から構成される。光電変換効率の向上などを目的に、電極と半導体粒子のエネルギー的なマッチングや半導体粒子から成る光電変換層の作製方法などによってさまざまな形の素子構造が提案されている。例えば、本発明のインク組成物を用いて以下に示す公知の構成からなる光電変換素子を作製することができる。
【0139】
1.ショットキー型光電変換素子
電子供与性(p型)又は電子受容性(n型)の半導体粒子と電極との界面において形成されるショットキー障壁を利用し、光起電力を得る光電変換素子である。例えば、p型の光電変換層を用いた場合には、一対の電極の内仕事関数が小さいほうの電極との界面にショットキー障壁が形成され、その界面に電荷分離が生じ光電変換が行われる。
【0140】
2.バイレイヤーヘテロ接合型光電変換素子
一対の電極の間に、電子供与性(p型)及び電子受容性(n型)の半導体粒子やその他の半導体材料を個々に形成し、pn接合界面に光電荷分離を生じさせ光電流を得る光電変換素子である。
【0141】
3.バルクヘテロ接合型光電変換素子
一対の電極の間に、電子供与性(p型)及び電子受容性(n型)の半導体粒子やその他の半導体材料を任意の比率で混合させ有機半導体層を形成する。この際、p型及びn型の材料は均一に分散していても、不均一であっても構わない。個々のp型材料、n型材料が形成する界面で光電荷分離が起こるため、バイレイヤーヘテロ接合型よりもpn接合を広く形成させることが出来る。
【0142】
<電極>
光電変換素子を構成する一対の電極の内、少なくとも一つは光を透過することが好ましい。具体的な例としては、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)等の導電性金属酸化物、あるいは金、銀、白金、クロム、ニッケル、リチウム、インジウム、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム等の金属、さらにこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物などが挙げられる。
【0143】
電極の形状としては、フラットな形状が一般的であるが、エネルギー変換効率を向上させるために、波型、ピラミッド型、くし型等の形状であっても良い。これら電極の形成方法としては、一般的な電極の形成方法を用いることができ、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD法、CVD法、化学反応法(ゾルゲル法など)、キャスト法、スプレーコーティング法、インクジェット法、スピンコート法などを挙げることができる。
【0144】
光電変換素子は、一対の電極の間に光電変換層以外の層を備えていてもよく、上記正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、及び/又は、電子注入層を有していてもよい。
【0145】
光電変換素子は、上記の各層以外に、その他の構成部材を備えていても良い。例えば、紫外線を透過させない光学膜(フィルタ)を備えていても良い。紫外線は、エネルギーが高いため有機材料を劣化させる一因となる。この紫外線を遮断することにより、素子を長寿命化させることが出来る。
【0146】
外部からの衝撃に対して光電変換層を保護する目的で、保護膜を備えていても良い。保護膜は、例えば、スチレン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンポリビニルアルコール共重合体等のポリマー膜、酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム等の無機酸化膜や窒化膜、アルミニウム等の金属板もしくは金属箔、あるいはこれらの積層膜などにより構成することができる。なお、これらの保護膜の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上をも良い。
【0147】
一般に半導体微粒子は、空気中の水分や酸素により劣化を招くといわれている。それを防ぐため、バリア膜を備えていても良い。例えば、金属又は無機酸化物が好ましく、Ti、Al、Mg、Zr、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化窒化珪素、酸化窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化イットリウム、酸化ホウ素、酸化カルシウム等を挙げることができる。これら各種機能性膜を積層させる順番は特になく、これらの機能を併せ持つ機能性膜を用いても良い。
【実施例
【0148】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。尚、特に断りの無い場合、実施例及び比較例における「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」を表す。また、質量平均分子量(Mw)は、GPCを用いて測定し、ポリスチレン換算で求めた値である。
【0149】
<一般式(1)で示される化合物の合成>
(化合物1の合成)
ナスフラスコにメタノール80部、4-(N,N-ジフェニルアミノ)ベンズアルデヒド5.5部、2-アミノエタンチオール1.8部を加えた後、3時間加熱還流した。メタノールを減圧留去した後、得られた粗生成物をろ過で回収し、メタノールで洗浄した。得られた固体を減圧乾燥して化合物1を得た。収率は99%であった。
【0150】
(化合物2の合成)
ナスフラスコにメタノール80部、4-(N,N-ジ-p-トリルアミノ)ベンズアルデヒド6.6.0部、2-アミノエタンチオール1.8部を加えた後、3時間加熱還流した。メタノールを減圧留去した後、得られた粗生成物をろ過で回収し、メタノールで洗浄した。得られた固体を減圧乾燥して化合物2を得た。収率は88%であった。
【0151】
(化合物3の合成)
ナスフラスコにメタノール80部、4-(ビス(p-メトキシフェニル)アミノ)ベンズアルデヒド6.7部、2-アミノエタンチオール1.8部を加えた後、3時間加熱還流した。メタノールを減圧留去した後、得られた粗生成物をろ過で回収し、メタノールで洗浄した。得られた固体を減圧乾燥して化合物3を得た。収率は93%であった。
【0152】
(化合物4の合成)
ナスフラスコにメタノール80部、9-エチル-3-カルバゾールカルボキシアルデヒド5.2部、2-アミノエタンチオール1.8部を加えた後、3時間加熱還流した。メタノールを減圧留去した後、得られた粗生成物をろ過で回収し、メタノールで洗浄した。得られた固体を減圧乾燥して化合物4を得た。収率は95%であった。
【0153】
得られた化合物1~4及び比較例に用いた化合物0及び化合物19を表5に示す。
【0154】
【表5】
【0155】
<樹脂の製造>
[樹脂溶液1の調製]
セパラブル4口フラスコに温度計、冷却管、窒素ガス導入管、撹拌装置を取り付けた反応容器にメシチレン70部を仕込み、80℃に昇温し、反応容器内を窒素置換した後、滴下管よりn-ブチルメタクリレート18部、メタクリル酸メチル12部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.4部の混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、更に3時間反応を継続し、質量平均分子量(Mw)26,000のアクリル樹脂の溶液を得た。室温まで冷却した後、樹脂溶液約2gをサンプリングして180℃、20分加熱乾燥して不揮発分を測定し、先に合成した樹脂溶液に不揮発分が30質量%になるようにメシチレンを添加して、アクリル樹脂溶液1を調製した。
【0156】
[樹脂溶液2の調製]
セパラブル4口フラスコに温度計、冷却管、窒素ガス導入管、撹拌装置を取り付けた反応容器に、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(DBCA)70部を仕込み、80℃に昇温し、反応容器内を窒素置換した後、滴下管よりn-ブチルメタクリレート14部、メタクリル酸メチル10部、スチレン6部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.4部の混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、更に3時間反応を継続し、質量平均分子量(Mw)26,000のアクリル樹脂の溶液を得た。室温まで冷却した後、樹脂溶液約2gをサンプリングして180℃、20分加熱乾燥して不揮発分を測定し、先に合成した樹脂溶液に不揮発分が30質量%になるようにジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを添加して、アクリル樹脂溶液2を調製した。
【0157】
[樹脂溶液3の調製]
ノルボルネン200部、シクロペンテン50部、1-ヘキセン180部及びトルエン750部を、窒素置換した反応容器に仕込み、60℃に加熱した。これに、トリエチルアルミニウム(1.5モル/l)のトルエン溶液0.62部、tert-C49OH/CH3OHで変性(tert-C49OH/CH3OH/WCl6=0.35/0.3/1;モル比)したWCl6溶液(濃度0.05モル/l)3.7部を加え、80℃で3時間加熱攪拌して、開環重合反応、水素添加反応を行い、次いでトリメチルベンゼンを用いて不揮発分を30%に調製して、シクロペンタジエン樹脂溶液3を得た。
【0158】
<量子ドットPbS-0の調製>
まず、硫黄源溶液として、単体硫黄0.40部とオレイルアミン6.0部を反応容器中、窒素雰囲気下、120℃に加熱して均一な溶液をした後、25℃に冷却した。次に、鉛源溶液として、塩化鉛0.32部、オレイルアミン6.0部を別の反応容器中、窒素雰囲気下、120℃に加熱した。その後、鉛源溶液を40℃に調製した後、上記の硫黄源溶液1.8部を一気に加えた。30秒間反応させた後、容器を氷浴に漬けて急冷した後、ヘキサン13部で希釈した。遠心分離(4000rpm、5分間)を行って未反応の原料を除去した後、ブタノール:メタノール=2:1(体積比)からなる混合液を12部加えて量子ドットを沈降させ、遠心分離(4000rpm、5分間)を行い、量子ドットを回収した。その後、ヘキサン:オレイン酸=1:2(体積比)からなる混合液を24部加えて30分間攪拌し、遠心分離を行い、上澄みを回収した。量子ドット沈降、再分散、不純物沈降を更に2回繰り返し、最後に量子ドットを沈降させ、真空乾燥した後、n-オクタンを用いて固形分濃度5%に調製し、量子ドットPbS-0を得た(平均粒径3.5nm)。
【0159】
<量子ドットPbSe-0の合成>
鉛源溶液として、酸化鉛0.22部、オレイン酸0.73部、1-オクタデセン10部を反応容器中、窒素雰囲気下、150℃に加熱した。その後、1M-トリオクチルホスフィン-セレン溶液を2.5部とジフェニルホスフィン0.028部からなる混合物を素早く加え、反応溶液を180℃に加熱した後、160℃に保温し、2分間反応させたあと、反応溶液を急冷した。10部のヘキサンで希釈した後、アセトンで沈殿させた。沈殿物をアセトンで5回洗浄し、真空乾燥させて量子ドットPbSe-0を得た(平均粒径2.7nm)。
【0160】
<量子ドットAg2S-0の合成>
0.04部のオレイン酸銀と、8部のオクタンチオールと、4部のドデシルアミンとを反応容器中、Ar雰囲気下、200℃で0.5時間加熱した。この溶液を室温に放冷した後、40部の無水エタノールを添加した。得られた混合物を遠心分離し、真空乾燥させて量子ドットAg2S-0を得た(平均粒径2.5nm)。
【0161】
<量子ドットの製造>
[比較例0](量子ドットQD-0)
無水酢酸亜鉛0.55部、ドデカンチオール(化合物0)7.0部、オレイルアミン5.0部を加熱溶解し添加液を作成した。別途、塩化インジウム0.22部、オクチルアミン8.25部を反応容器に入れ、窒素バブリングを行いながら、165℃に加熱した。塩化インジウムが溶解した後、ジエチルアミノホスフィン0.86部を短時間で注入し、20分間165℃に制御した。その後急冷し、40℃に冷却した。上記添加液を注入し、240℃2時間加熱した後に、室温まで放冷した。放冷後、ヘキサンとエタノールを用いて再沈殿法で精製を行った。沈殿を回収し、減圧乾燥して、コアがInPでシェルがZnSのコア・シェル型半導体微粒子をドデカンチオール(化合物0)で表面処理した量子ドットQD-0を得た。
【0162】
[実施例1](量子ドットQD-1)
量子ドットQD-0を、トルエンに分散させて固形分濃度1%とした。希釈した液と同量の5%化合物1のトルエン溶液を添加し、12時間撹拌した。トルエンとメタノールを用いて再沈殿法で精製を行った。沈殿を回収し、減圧乾燥して、化合物1で表面処理された量子ドットQD-1を得た。
【0163】
[実施例2~4、比較例1](量子ドットQD-2~5)
化合物を表6に示す化合物2~4、19に変更した以外は、QD-1と同様にして、量子ドットQD-2~5を調製した。
【0164】
【表6】
【0165】
<インク組成物の調製>
[実施例101](インク組成物1)
密閉できる容器に、量子ドット(QD-1)2部、n-ヘキサン38部を配合した。その後密閉して撹拌し、孔径1μmのメンブレンフィルターを用いてろ過を行い、インク組成物1を得た。
【0166】
[実施例102~104、比較例101](インク組成物2~4、9)
密閉できる容器に、表7に示した配合組成にて、量子ドット、溶剤の順番で計量した以外は、インク組成物1と同様にしてインク組成物2~4、9を調製した。
【0167】
[実施例105](インク組成物5)
密閉できる容器に、量子ドット(QD-1)2部、樹脂溶液1を60部、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(DBCA)68部を配合した。その後密閉して撹拌し、孔径1μmのメンブレンフィルターを用いてろ過を行い、インク組成物5を得た。
【0168】
[実施例106~108](インク組成物6~8)
密閉できる容器に、表7に示した配合組成にて、量子ドット、樹脂溶液、溶剤の順番で計量した以外はインク組成物5と同様にして、インク組成物6~8を調製した。
【0169】
<インク組成物の評価>
得られたインク組成物について以下の評価を実施した。結果を表7に示す。
【0170】
[経時安定性]
経時安定性は、インク組成物を40℃環境下で7日間保管した後の外観を目視観察して、以下の基準で評価を行った。
A:沈降物なし(使用可能)
C:沈降物あり(使用不可)
【0171】
[蛍光量子収率(QY)維持率]
まず、経時安定性評価で用いた40℃環境下で7日間保管した後のインク組成物を用いて、透明フィルム(東レ(株)社製ポリエステルフィルム ルミラー75S10)基材上に、乾燥後の厚みが6.0μmとなるようにバーコーターにて塗工し、100℃10分間乾燥を行い印刷物を得た。次いで、同インク組成物及び上記印刷物について、下記条件で蛍光量子収率を測定した。インク組成物の蛍光量子収率を1とした場合の、印刷物の蛍光
量子収率の比率を蛍光量子収率維持率とし、下記基準で評価した。蛍光量子収率維持率は1に近い方が好ましく、0.6以上であれば実用上使用可能である。
A: 蛍光量子収率維持率が0.6以上(使用可能)
C: 蛍光量子収率維持率が0.6未満(使用不可)
≪蛍光量子収率測定条件≫
測定機: 量子効率測定システムQE-2000 大塚電子株式会社製
励起波長: 400nm積分範囲 375~425nm
蛍光積分範囲: 430~800nm
【0172】
[吐出性]
インク組成物について、インクジェットプリンター(富士フィルムDimatix社製Materials Printer「DMP‐2831」、カートリッジ:Dimatix Materials Cartriges、10pL)を用いて、吐出試験を実施した。吐出試験では、インク組成物を30秒間連続で吐出させた。なお、インクジェットプリンターの吐出ヘッド部は16個のノズルを有しており、連続吐出が可能なノズル数から下記の基準で吐出性を評価した。
A:10ノズル以上で連続吐出可能(吐出可能)
C:連続吐出可能なノズル数が9ノズル以下(吐出不良)
【0173】
【表7】
【0174】
<電界発光素子の製造>
[実施例201]
(電界発光素子の作製)
特に断りのない限り、蒸着(真空蒸着)は10-6Torrの真空中にて、基板の加熱や冷却といった温度制御はしない条件下で行った。また、素子の発光特性は、発光素子面積2mm×2mmの電界発光素子を用いて特性を測定した。
洗浄したITO電極付きガラス板上に、PEDOT/PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシ)-2,5-チオフェン/ポリスチレンスルホン酸、Heraeus社製CLEVIOUS(登録商標) P VP CH8000)をスピンコート法にて塗工し、110℃にて20分間乾燥させて膜厚35nmの正孔注入層を得た。次いで、ポリ(N-ビニルカルバゾール)を、1.0質量%の濃度でモノクロロベンゼンに溶解させ、スピンコート法で塗工し、110℃にて20分間乾燥させて、35nmの膜厚の正孔輸送層を形成した。その上に、得られたインク組成物1を、35倍に希釈して用いてスピンコート法で塗工し、室温の窒素雰囲気下で5分間保持して乾燥し、20nmの発光層を形成した。その上に、Avantama社製の酸化亜鉛のイソプロパノール分散液N-10を、スピンコート法で塗工し、80℃のホットプレート上で20分間の加熱乾燥を行い、80nmの電子輸送層を形成した。最後に、アルミニウムを200nm蒸着して電極を形成し、電界発光素子を得た。得られた電界発光素子について、電流密度10(mA/cm2)で駆動させたところ、緑色に発光したことを確認した。
【0175】
<インク組成物の調製>
<実施例301>
量子ドットPbS-0を固形分濃度1%のトルエン溶液に調製した。調製した溶液1部と化合物1の5%トルエン溶液1部とを混合した後、12時間撹拌した。トルエンとエタノールを用いて再沈殿法で精製を行った。沈殿を真空乾燥し、オクタンを加えることにより、オクタンの5%溶液として、インク組成物PbS-1を調製した。
【0176】
<実施例302~306、比較例301~303>
化合物1を表8に示す化合物に変更した以外は、実施例301と同様にしてPbS-2~4、PbSe-1、Ag2S-1をそれぞれ調製した。この内、PbS-2~4、PbSe-1及びAg2S-1は、本発明のインク組成物であり、PbS-5、PbSe-2、Ag2S-2は、本発明のインク組成物ではない組成物である。
【0177】
【表8】
【0178】
<実施例401>
(光電変換素子の作製)
以下に光電変換素子の作製と評価について説明する。蒸着は、10-6Torrの真空中にて基板の加熱や冷却等の温度制御は行わない条件下で行った。素子の評価は、素子面積2mm×2mmの光電変換素子を用いて測定した。まず、洗浄したITO電極付きガラス板上に、PEDOT/PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシ)-2,5-チオフェン/ポリスチレンスルホン酸、Heraeus社製CLEVIOUS(登録商標) PVP CH8000)をスピンコート法にて塗工し、110℃にて20分間乾燥させて、厚み35nmの正孔注入層を得た。正孔注入層上に、インク組成物PbS-1をスピンコート法で塗工し、厚み150nmの光電変換層を形成した。次いで、光電変換層上に、Avantama社製ZnO分散液N-10をスピンコートで製膜して厚み50nmの電子輸送層を形成した。次いで、電子輸送層上に、厚み200nmでアルミニウム(以下、Al)を蒸着して電極を形成し、光電変換素子を得た。
【0179】
(光電変換素子の評価)
得られた素子について、以下に示す方法によって耐久性を評価した。素子の保存前後のI-V曲線を測定し、これら測定値の比(保存後の測定値/保存前の測定値)を算出することにより、耐久性を算出した。セルのI-V曲線は、キセノンランプ白色光を光源(ペクセル・テクノロジーズ株式会社製、PEC―L01)とし、太陽光(AM1.5)相当の光強度(100 mW/cm2)にて、光照射面積0.0363 cm2(2 mm角)のマスク下、I-V特性計測装置(ペクセル・テクノロジーズ株式会社製、PECK2400-N)を用いて走査速度0.1V/sec(0.01Vstep)、電圧設定後待ち時間50 msec、測定積算時間50msec、開始電圧-0.1V、終了電圧1.1Vの条件で測定した。耐久性は、光電変換素子を保存前(素子作製直後)、及び遮光、25℃、湿度60%の条件下で4日間保存した後のI―V曲線を測定し、保存前(素子作製直後)の変換効率に対する保存後の変換効率の比として算出した。
(評価基準)
◎:比が95%以上 :良好
○:比が90%以上95%未満 :実用上使用可能
△:比が80%以上90%未満 :実用上使用不可
×:比が80%未満 :不良
【0180】
<実施例402~406>
実施例401で使用したPbS-1の替わりに、PbS-2~4、PbSe-1、Ag2S-1をそれぞれ使用した以外は、実施例401と同様にして光電変換素子をそれぞれ作製、評価した。結果を表9に示した。
【0181】
<比較例401~403>
実施例301で使用したPbS-1の替わりに、PbS-5,PbSe-2,Ag2S-2をそれぞれ使用した以外は、実施例401と同様にして光電変換素子をそれぞれ作製、評価した。結果を表9に示した。
【0182】
【表9】
【0183】
表7において、硫黄原子を含む脂肪族複素環部位と電荷輸送性部位とを有するリガンドで表面処理された量子ドットを用いた本願発明のインク組成物は、優れた経時安定性と蛍光量子収率維持率とを示し、高い信頼性を示した。表9においても、硫黄原子を含む脂肪族複素環部位と電荷輸送性部位とを有するリガンドで表面処理された量子ドットを用いた光電変換素子について、高い耐久性を示した。
上記結果について作用機構は明確ではないが、硫黄原子を含む脂肪族複素環基は、比較例のベンゼンチオールにおけるアルキルチオ基と比べて耐酸化性が優れることにより、量子ドットからリガンドが剥離するのが抑制され、上記効果を発現したと推察している。リガンド剥離は、量子ドットの分散性を低下させ、沈降安定性低下、量子ドット表面の欠陥生成及び酸化による蛍光量子収率低下の原因となるため、リガンド剥離抑制がこれらの低下を抑制したと推察される。
また、同インク組成物は、量子ドットの安定性が良好であるため、インクジェット吐出性を有しており、インクジェットインキとして使用可能である。さらに、本願発明の量子ドットは電界発光素子として使用可能である。