(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】試薬担持基材、試薬入りマイクロ流路構造体、及び試薬入りマイクロ流路デバイス
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20241008BHJP
C12M 1/40 20060101ALI20241008BHJP
A61M 37/00 20060101ALI20241008BHJP
G01N 37/00 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
G01N35/08 A
C12M1/40 B
A61M37/00 550
G01N37/00 101
(21)【出願番号】P 2020139512
(22)【出願日】2020-08-20
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 正直
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/057225(WO,A1)
【文献】特開2011-069674(JP,A)
【文献】特開2009-031102(JP,A)
【文献】特開2004-150805(JP,A)
【文献】特開平02-283779(JP,A)
【文献】特開昭60-195158(JP,A)
【文献】特表2016-535992(JP,A)
【文献】国際公開第03/093835(WO,A1)
【文献】特開2008-275523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00 - 35/10
G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料を含む
多孔基材と、
前記多孔基材の空隙に担持された、凍結乾燥製剤と、を有し、
前記
多孔基材は、目付が8g/m
2 以上700g/m
2以下のガラスペーパーであ
り、
前記多孔基材の熱伝導率が、0.5W・m
-1
・K
-1
以上である、試薬担持基材。
【請求項2】
基材と、
前記基材の一方の面側に配置されたカバー材と、
前記基材と前記カバー材との間に配置されたスペーサーと、
前記基材と、前記カバー材と、前記スペーサーとにより区画され、前記基材の厚み方向に対し、垂直方向に延伸されたマイクロ流路と、を有し、
前記マイクロ流路に、
請求項1に記載の試薬担持基材が配置された、試薬入りマイクロ流路構造体。
【請求項3】
基材と、
前記基材の一方の面側に配置されたカバー材と、
前記基材と前記カバー材との間に配置されたスペーサーと、
前記基材と、前記カバー材と、前記スペーサーとにより区画され、前記基材の厚み方向に対し、垂直方向に延伸されたマイクロ流路と、
前記マイクロ流路が形成された領域の前記基材上に配置された導体層と、を有し、
前記マイクロ流路に、
請求項1に記載の試薬担持基材が配置された、試薬入りマイクロ流路デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試薬担持基材、試薬入りマイクロ流路構造体、及び試薬入りマイクロ流路デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品を安定的に保持するための手法として、従来、医薬品を凍結乾燥する方法が用いられている。凍結乾燥によって得られた薬剤(以下、凍結乾燥製剤とする場合がある)は、物質の組織変化が少ない、原形を保ち復元性が良い等の利点を有する。また、凍結乾燥製剤は、液剤と比較して、長期保存が可能であり、常温での保存も可能である。
【0003】
凍結乾燥の一般的方法としては、まず、溶解した薬剤をバイアル等に充填し、ゴム栓を半打栓状態として低温で凍結させる(予備凍結)。次に、減圧下で、予備凍結物から自由水を昇華させて除去する(一次乾燥)。次いで、予備凍結物から一次乾燥後に残存している結合水を昇華させて除去する(二次乾燥)。これによって、凍結物の水分が除去された、綿飴状や蜘蛛の巣状の高い空隙率のケーキと呼ばれる固体が得られ、陰圧下で打栓され、保存される。
【0004】
近年、凍結乾燥製剤や粉体などの試薬が充填されている試薬入りシリンジ(試薬充填済注射器)が流通しているが、薬剤や検体量の使用量削減のため、試薬入り容器の更なる小型化が求められており、シリンジサイズよりも小さい試薬入り容器が求められている。
【0005】
このような試薬入り容器の小型化の要請に伴い、例えば、特許文献1には、マイクロ流路デバイスに試薬を固定化することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、マイクロ流路内に試薬液を導入し、凍結し、高真空下で乾燥する場合、マイクロ流路内における凍結時の温度制御や乾燥時の氷の昇華量等の制御が困難となり、これによって乾燥時に試薬がマイクロ流路構造体の開口部等から噴き出す場合がある。また、バイアルで作製したケーキ粉体を小型の容器に充填する方法も考えられるが多くの課題があり、汎用されていない。そこで、試薬液を常温、低真空下で乾燥することも考えられたが、これにより得られたタンパク質被膜は嵩高さに劣り、表面積が小さく再溶解に時間を要することとなる。
【0008】
そのため、凍結乾燥された試薬を、小型の容器に固定可能な方法が求められていた。
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、シリンジサイズよりも小さい小型容器(例えば、マイクロ流路構造体)に対しても、凍結乾燥製剤を固定化することができる試薬担持基材、および凍結乾燥製剤が固定化されたマイクロ流路を有する試薬入りマイクロ流路構造体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示では、無機材料を含む多孔基材と、上記多孔基材の空隙に担持された、凍結乾燥製剤と、を有する、試薬担持基材を提供する。
また、本開示では、熱伝導率が、0.5W・m-1・K-1以上である材料を有する多孔基材と、上記多孔基材の空隙に担持された、凍結乾燥製剤と、を有する、試薬担持基材を提供する。
【0010】
本開示では、さらに、基材と、上記基材の一方の面側に配置されたカバー材と、上記基材と上記カバー材との間に配置されたスペーサーと、上記基材と、上記カバー材と、上記スペーサーとにより区画され、上記基材の厚み方向に対し、垂直方向に延伸されたマイクロ流路と、を有し、上記マイクロ流路に、上述した試薬担持基材が配置された、試薬入りマイクロ流路構造体を提供する。
【0011】
本開示では、基材と、上記基材の一方の面側に配置されたカバー材と、上記基材と上記カバー材との間に配置されたスペーサーと、上記基材と、上記カバー材と、上記スペーサーとにより区画され、上記基材の厚み方向に対し、垂直方向に延伸されたマイクロ流路と、を有し、上記基材および上記カバー材の少なくとも一方が、孔径が2.0μm以下の多孔質材であり、上記マイクロ流路に、凍結乾燥製剤が固定化されている、試薬入りマイクロ流路構造体を提供する。
【0012】
本開示では、さらに、基材と、上記基材の一方の面側に配置されたカバー材と、上記基材と上記カバー材との間に配置されたスペーサーと、上記基材と、上記カバー材と、上記スペーサーとにより区画され、上記基材の厚み方向に対し、垂直方向に延伸されたマイクロ流路と、上記マイクロ流路が形成された領域の上記基材上に配置された導体層と、を有し、上記マイクロ流路に、上述した試薬担持基材が配置された、試薬入りマイクロ流路デバイスを提供する。
【0013】
本開示では、また、基材と、上記基材の一方の面側に配置されたカバー材と、上記基材と上記カバー材との間に配置されたスペーサーと、上記基材と、上記カバー材と、上記スペーサーとにより区画され、上記基材の厚み方向に対し、垂直方向に延伸されたマイクロ流路と、上記マイクロ流路が形成された領域の上記基材上に配置された導体層と、を有し、上記基材および上記カバー材の少なくとも一方が、孔径が2.0μm以下の多孔質材であり、上記マイクロ流路に、凍結乾燥製剤が固定化されている、試薬入りマイクロ流路デバイスを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本開示の試薬担持基材によれば、シリンジサイズよりも小さい小型容器(例えば、マイクロ流路構造体)に対しても、凍結乾燥された試薬を固定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の試薬担持基材を例示する概略断面図である。
【
図2】本開示における第一実施形態の試薬入りマイクロ流路構造体を例示する概略平面図および断面図である。
【
図3】本開示におけるマイクロ流路を例示する概略平面図である。
【
図4】本開示におけるマイクロ流路を例示する概略平面図である。
【
図5】本開示の試薬入りマイクロ流路構造体(第一実施形態)を例示する概略断面図である。
【
図6】本開示のマイクロ流路構造体(第一実施形態)の製造方法を例示する概略工程図である。
【
図7】本開示のマイクロ流路構造体(第一実施形態)の別の製造方法を例示する概略工程図である。
【
図8】本開示における第二実施形態の試薬入りマイクロ流路構造体を例示する概略平面図および断面図である。
【
図9】本開示の試薬入りマイクロ流路デバイス(第一実施形態)を例示する概略断面図である。
【
図10】本開示の試薬入りマイクロ流路デバイス(第二実施形態)を例示する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
下記に、図面等を参照しながら本開示の実施の形態を説明する。ただし、本開示は多くの異なる態様で実施することが可能であり、下記に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、図面は説明をより明確にするため、実際の形態に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表わされる場合があるが、あくまで一例であって、本開示の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0017】
本明細書において、ある部材の上に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」、あるいは「下に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上、あるいは直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方、あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含むものとする。また、本明細書において、ある部材の面に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「面側に」または「面に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上、あるいは直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方、あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含むものとする。
【0018】
以下、本開示の試薬担持基材、試薬入りマイクロ流路構造体及び試薬入りマイクロ流路デバイスについて、詳細に説明する。
【0019】
A.試薬担持基材
A-1.第1態様
本態様における試薬担持基材は、無機材料を含む多孔基材と、上記多孔基材の空隙に担持された、凍結乾燥製剤と、を有することを特徴とする。
本態様における試薬担持基材について、図面を参照して説明する。
図1は本開示における試薬担持基材の一例を示す概略断面図である。本開示における試薬担持基材10は、無機材料を含む多孔基材1と、上記多孔基材1の空隙に担持された、凍結乾燥製剤Rと、を有する。
【0020】
本態様における試薬担持基材における多孔基材は、多孔基材に含まれる無機材料の熱伝導性が良好であるため、試薬液を凍結乾燥する際の温度制御が容易となる。さらに、凍結乾燥製剤は無機材料の空隙に捕捉され、担持されるため、確実に固定化されたものとなる。また、本開示における試薬担持基材は、切断することによりサイズを容易に調整することができるため、例えばマイクロ流路構造体のマイクロ流路内に配置可能なサイズに切断し、マイクロ流路内に挿入し、配置することで、上記凍結乾燥製剤をマイクロ流路内に固定化することができる。
【0021】
1.多孔基材
本態様における多孔基材は、内部に複数の空隙を含み、これらの空隙は通常はマイクロ流路の送液方向に連通していることが好ましい。試薬液やその他の液体を効率的に送液することができるためである。
上記多孔基材の空隙率は特に限定されないが、50%以上が好ましく、特に好ましくは75%以上である。上記値以上であれば、十分な量の凍結乾燥製剤を担持させることができる。一方、99%以下が好ましく、特に好ましくは97%以下である。上記値以下であれば、無機材料の含有量が十分であり、無機材料による優れた熱伝導性を確保することできる。
【0022】
本態様において、空隙率とは、多孔基材に占める空隙の割合をいい、
以下のように算出することができる。
Pv(%)={(Va-Vt)/Va}×100 (1)
Pv(%):多孔基材の空隙率(体積%)
Va:多孔基材の見かけ体積
Vt:多孔基材の理論体積
ここで、Vaは無機多孔基材の縦、横、および厚みの値により算出することができ、Vtは多孔基材の重量、構成材料の重量割合および構成材料それぞれの真比重の値により算出することができる。
【0023】
多孔基材の熱伝導率は、例えば0.5W・m-1・K-1以上が好ましく、特に好ましくは0.7W・m-1・K-1以上である。上記値以上であれは、多孔基材の熱伝導率が十分に高いため、凍結乾燥時の温度制御が容易となる。
一方、熱伝導率の上限は特に限定されないが、例えば、500W・m-1・K-1以下、特に好ましくは250W・m-1・K-1以下である。
【0024】
無機材料としては、無機材料一般、特に金属酸化物類からなるセラミクス類の他、金属、炭素材料が挙げられる。無機材料の形状としては、その形状が繊維状または針状であることが好ましい。強度が高く、また、多孔基材を構成しやすいためである。
【0025】
さらに、多孔基材は、無機繊維を抄造した無機繊維成形体や、ネット形状に成形した無機繊維成形体が好ましい。無機繊維としては、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、セラミック繊維などが挙げられる。
【0026】
具体的な無機繊維成形体としては、ガラスペーパー、アルミナ繊維ペーパー、炭素繊維ペーパー、セラミック繊維ペーパー、上記無機繊維をネット状に成型したフィルム・シートなどを挙げることができ、中でも、ガラスペーパーが好ましい。
【0027】
多孔基材を構成する無機繊維の大きさは、特に限定されるものではなく、例えば、繊維径は0.1μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好適である。また、繊維径は50μm以下が好ましく、20μm以下がより好適である。なお、繊維径は、無機繊維の長手方向に対する垂直断面における最大径である。
さらに、無機繊維の長手方向長さ(無機繊維長さ)は、0.1mm以上が好ましく、0.5mm以上とするとより好適である。また、無機繊維長さは50mm以下が好ましく、20mm以下とするとより好適である。
【0028】
無機繊維成形体を構成する無機繊維同士はその交点で接触しているが、その交点がバインダーにより接着されていてもよく、バインダーなしで繊維自体が絡み合っていてもよい。バインダーは、水溶性樹脂を含むことが好ましい。水溶性樹脂の具体例としては、ポリビニルアルコール樹脂、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂等を用いることができる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」又はそれに対応する「メタクリル」を意味する。
【0029】
多孔基材としては、上述したように、特にガラスペーパーが好ましい。ガラスペーパーは、ガラス繊維がバインダー(水溶性樹脂)により結着した構成を有している。ガラスペーパーとしては、目付が、好ましくは、8g/m2以上、より好ましくは、15g/m2以上である。上記値以上であれば、ガラス繊維の量が十分であり、優れた熱伝導性を確保することできる。好ましくは、700g/m2以下、より好ましくは、400g/m2以下である。上記値以下であれば、物理的に液体の流動を妨げる恐れがなく、また、軽量化の妨げとなる恐れがない。
【0030】
無機材料を含む多孔基材、例えばガラスペーパー等は、樹脂等に比べ、耐熱性が高く、乾熱滅菌処理に対する耐性を有する。そのため、凍結乾燥製剤を担持させる前に、予め多孔基材を乾熱滅菌処理して滅菌状態とすることができる。このような滅菌状態の多孔基材であれば、例えば、エンドトキシン等の微生物夾雑物の検出試験に使用するマイクロ流路デバイス等の製造に使用した場合、検出試験の精度が向上する。また、エンドトキシン等によるマイクロ流路内において行う反応への意図しない悪影響を抑制することができる。
【0031】
2.凍結乾燥製剤
本態様における試薬担持基材は、多孔基材の空隙に担持された、凍結乾燥製剤を有する。凍結乾燥製剤は、通常、多孔質構造を有する。多孔質構造は、非多孔質構造よりも表面積が大きいため、試薬と検体等とを速やかに混合することができ、また、復元性(再溶解性)が良い等の利点を有する。
ここで、本態様における凍結乾燥製剤とは、凍結乾燥製剤として特有の含水率および形状を有するものであればよいが、特に、含水率が、3.0質量%以下、好ましくは1.0質量%以下であり、かつ、壁厚が0.1μmから10μmの範囲内であり、かつ空隙の径が10μmから500μmの範囲内である発泡ケーキ構造を有し、顕微鏡観察において、壁構造(蜂の巣状やトラス状)が観察されるものであれば、本態様における凍結乾燥製剤であるものとすることができる。
なお、通常、風乾によって得られた薬剤は、はじめから水を気化させるため、数十ミクロン以上の製剤層の含水率は高く、水飴状態をとり、上記のような壁構造は観察されない。
【0032】
本開示に用いられる試薬は、試薬担持基材の用途に応じて適宜選択され、特に限定されない。本開示においては、凍結乾燥される観点から、タンパク質や、液剤として不安定な高次構造の化学物質であることが好ましい。上記タンパク質としては、酵素や抗体、細胞またはその一部であるタンパク質製剤、ワクチン等が挙げられ、上記高次構造の化学物質としては、抗生物質、マイクロRNA、アプタマー等が挙げられる。試薬は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
例えば、近年、転移性の癌が危惧される時に、臓器から血液に飛散したがん細胞について、癌特有の細胞表面抗原を認識して吸着する抗体などをマイクロ流路チャンバー内に担持体として広い吸着面積をもって貯留したマイクロ流路が求められている。本開示におけるマイクロ流路構造体は、流路内における多孔基材にこのような抗体を担持することができるため、癌細胞の検査センサーとして好適に使用することができる。
【0034】
本開示における試薬担持基材は、上記多孔基材に、試薬液を含侵させ、通常の方法により凍結乾燥して得ることができる。多孔基材への試薬液の含侵は、多孔基材に試薬液を塗布することにより、または多孔基材を試薬液に浸漬することによって行うことができる。上記塗布は、多孔基材の主面全体に行ってもよいし、一部(例えばパターン状)に行ってもよい。試薬液は、少なくとも、試薬と、試薬を溶解または分散させる溶媒とを含有する。
【0035】
凍結乾燥は、通常、試薬液を凍結させる予備凍結、減圧下で予備凍結物から自由水を昇華させて除去する一次乾燥、凍結乾燥ケーキから一次乾燥後に残存している結合水を昇華させて除去する二次乾燥により行われる。
これらの条件は、試薬の種類によって適宜設定される。例えば、-210~-25℃で10分~2時間で予備凍結し、5Pa~20Paの減圧下、-50~-10℃で4~24時間乾燥(一次乾燥)させ、更に、-20~55℃で1~36時間乾燥(二次乾燥)することによって、凍結乾燥体が得られる。
【0036】
3.用途
本開示における試薬担持基材は、適当なサイズに切断することによって、シリンジサイズよりも小さい小型容器に挿入することができ、小型容器に凍結乾燥された試薬液を固定化することができる。具体的には、マイクロ流路構造体のマイクロ流路内に、適当なサイズに切断した試薬担持基材を挿入し、配置することで、マイクロ流路に凍結乾燥された試薬を固定化することができる。
他の用途としては、皮下インプラント用の試薬担持基材がある。この場合、治療や一時的な体調管理等を目的とした、バイオ医薬品やホルモンを凍結乾燥固定した試薬担持基材とすることができる。このような試薬担持基材は、アプリケータに挿入できるサイズとし、皮下に挿入したアプリケータを通して皮下に留置される。試薬は皮下で徐放して静脈吸収される。
【0037】
A-2.第2態様
本態様の試薬担持基材は、熱伝導率が、0.5W・m-1・K-1以上である材料を有する多孔基材と、上記多孔基材の空隙に担持された、凍結乾燥製剤と、を有することを特徴とする。
【0038】
本態様の試薬担持基材と、上記第1態様の試薬担持基材との相違点は、上記第1態様では、多孔基材が、無機材料を含む点を必須とするのに対し、本態様の試薬担持基材は、多孔基材が、熱伝導率が、0.5W・m-1・K-1以上である材料を有する点である。
【0039】
このような材料としては、特に限定されるものではなく、有機材料であっても、無機材料であってもよい。
無機材料としては、上記第1態様で記載されたものを用いることができる。
一方、有機材料としては、例えば、熱可塑性樹脂にカーボングラファイトを含有させると見かけの熱伝導度が上がるため、これをスパンボンドなどの繊維として用いても良い。
本態様の試薬担持基材のその他の点は、上記第1態様と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0040】
B.試薬入りマイクロ流路構造体(第一実施形態)
本開示では、基材と、上記基材の一方の面側に配置されたカバー材と、上記基材と上記カバー材との間に配置されたスペーサーと、上記基材と、上記カバー材と、上記スペーサーとにより区画され、上記基材の厚み方向に対し、垂直方向に延伸されたマイクロ流路と、を有し、上記マイクロ流路に、上記「A.試薬担持基材」で示された試薬担持基材が配置されていることを特徴とする試薬入りマイクロ流路構造体を提供する。
【0041】
図2(a)は本開示における試薬入りマイクロ流路構造体の一例を示す概略平面図、
図2(b)は
図2(a)のA-A断面図、
図2(c)、(d)は
図2(a)のB-B断面図である。尚、
図2(a)~(c)では、凍結乾燥製剤は省略し、
図2(d)では凍結乾燥製剤Rを省略せずに記載している。
図2に示す試薬入りマイクロ流路構造体100は、基材11と、基材11の一方の面側に配置されたカバー材12と、基材11とカバー材12との間に配置されたスペーサー13と、マイクロ流路14とを有するマイクロ流路構造体におけるマイクロ流路14に、凍結乾燥製剤Rを担持した、上述した多孔基材15が配置されている。
【0042】
図2においては、多孔基材15は、平面視において、マイクロ流路14の全体に配置されている。また、基材11の厚み方向において、マイクロ流路14の全体に配置されている。以下、各部材について詳細に説明する。
【0043】
本開示における試薬入りマイクロ流路構造体は、マイクロ流路に、上述した試薬担持基材が配置されている。上記試薬担持基材における多孔基材は、熱伝導性が良好であるため、多孔基材の空隙に導入された試薬を凍結乾燥する際の温度制御が容易となり、マイクロ流路内での凍結乾燥を容易に行うことができる。さらに、凍結乾燥製剤は多孔基材の空隙に捕捉され、担持されるため、確実に固定化されたものとなる。従って、本開示における試薬入りマイクロ流路構造体は開口部からの試薬の噴き出し等が抑制されたものとなる。
【0044】
1.マイクロ流路
マイクロ流路は、基材と、カバー材と、スペーサーとによって区画され、基材の厚み方向に対して垂直方向に延伸しており、延伸方向に液体を送液する機能を有する。本開示におけるマイクロ流路は、熱伝導性の良好な多孔基材が配置されている。そのため、上述した理由により、本開示における試薬入りマイクロ流路構造体は、開口部からの試薬の噴き出し等が抑制されたものとなる。
【0045】
(1)多孔基材
上記多孔基材は内部に複数の空隙を含むものであり、無機材料を含有したもの、もしくは、熱伝導率が、0.5W・m-1・K-1以上である材料を有するものであり、マイクロ流路内に配置される層である。多孔基材としては、上述した「A.試薬担持基材」に記載のものと同様のものが挙げられる。
【0046】
さらに、本開示における多孔基材が無機材料である場合は、例えばPETなどの樹脂材料と比較して、液体に対する濡れ性が良好である。そのため、このような多孔基材の空隙を通過する液体は、濡れ広がりやすくなり、毛細管現象によって液体が流路内に引き込まれやすく、また液体がマイクロ流路内を流れやすくなる。さらに、マイクロ流路内に無機材料を含む多孔基材が配置されていることで、従来のマイクロ流路よりも使用する各種検体量や試薬量を削減することができる。
【0047】
上記多孔基材は、平面視において、マイクロ流路の一部に配置されていてもよいし、全体に配置されていてもよいが、通常の用途においては、マイクロ流路全体に配置されていることが好ましい。なお、本開示において、平面視とは、基材の厚み方向から見ることを意味する。
【0048】
上記マイクロ流路の一部に配置されているとは、マイクロ流路の送液方向に対して垂直方向の断面における一部に配置されている場合であってもよく、マイクロ流路の送液方向に対し、平行な方向の断面における一部に配置されている場合であってもよい。
【0049】
また、基材の厚み方向において、マイクロ流路の一部に配置されていてもよいし、全体に配置されていてもよいが、通常は、全体に配置されていることが好ましい。
【0050】
(2)凍結乾燥製剤
上記試薬担持基材には、凍結乾燥製剤が担持されている。凍結乾燥製剤としては、上述した「A.試薬担持基材 2.凍結乾燥製剤」で詳述したものと同様のものが挙げられるため、ここでの説明は省略する。
本開示において、上記凍結乾燥製剤が多孔基材に担持される領域は、上記多孔基材の全体であってもよく、一部であってもよい。
【0051】
(3)マイクロ流路
マイクロ流路とは、液体の搬送に際し、マイクロ効果が生じるような微細な流路をいう。このようなマイクロ流路では、液体は、表面張力の影響を強く受け、通常の大寸法の流路を流れる液体とは異なる挙動を示す。
【0052】
本開示におけるマイクロ流路の流路幅(
図2(b)におけるW)は、50mm以下であることが好ましく、特に好ましくは20mm以下である。一方、20μm以上であることが好ましく、特に好ましくは50μm以上である。上記範囲内であれば、多孔基材の配置が容易となり、また、毛細管現象を生じさせることができる。なお、流路幅とは、マイクロ流路の延伸方向とは垂直に切断した流路断面における、マイクロ流路の幅である。
【0053】
マイクロ流路の高さ(
図2(b)におけるH)は、10mm以下であることが好ましく、特に好ましくは5mm以下である。一方、50μm以上であることが好ましく、特に好ましくは100μm以上である。上記範囲内であれば、多孔基材の配置が容易となり、また、毛細管現象を生じさせることができる。
【0054】
マイクロ流路の幅は、一定であってもよく、不定であってもよい。例えば、マイクロ流路が後述する配置部を有する場合には、配置部を幅広とし、配置部以外の領域を幅狭としてもよい。具体的には、マイクロ流路における配置部以外の領域の幅は、上述したマイクロ流路の幅であり、マイクロ流路における配置部の幅は、20μm以上とすることができ、また50mm以下とすることができる。マイクロ流路における配置部の幅が上記範囲であれば、毛細管現象により液体がマイクロ流路を安定して流れることができるとともに、感度良く検査することができる。
【0055】
マイクロ流路の長さは、固定化される試薬や、送液される液体の種類、マイクロ流路構造体の用途等に応じて適宜設定されるものであり、例えば、5mm以上とすることができ、25mm以上であることが好ましい。また、上記長さは、1000mm以下とすることができ、500mm以下であることが好ましい。マイクロ流路の送液方向に対し垂直に切断した流路断面の形状は、通常、長方形状であるが、例えば、アーチ形状、台形状、三角形状等であってもよい。
【0056】
マイクロ流路の平面視形状は、特に限定されず、直線状、曲線状、分岐状、およびこれらが組み合わされた形状であってもよい。1つのマイクロ流路構造体に含まれるマイクロ流路は、1以上であってもよく、2以上であってもよい。マイクロ流路構造体に含まれる具体的なマイクロ流路の態様を、
図3、4に示す。
図3(a)~(c)及び
図4(a)~(c)のそれぞれは、カバー材およびマイクロ流路内の多孔基材および凍結乾燥製剤を省略した概略平面図である。
【0057】
図3(a)は、複数の直線状のマイクロ流路が並列に配置されている態様である。この場合、N数を増やすことができ、検査精度を向上することができる。
図3(b)、(c)は、2または3のマイクロ流路が1のマイクロ流路に合流する態様である。この場合、2以上の液体を混合したり、反応させたりすることが可能となる。
図4(a)は、1つのマイクロ流路が複数のマイクロ流路に段階的に分岐する態様である。この場合、液体を段階的に分離したりすることが可能となる。
図4(b)は蛇行した形状を有する態様である。この場合は、長時間マイクロ流路内に液体を保持することができることから、例えば反応時間を保持したり、二以上の物質をより均一に混合することが可能とすることができる。
【0058】
本開示においては、
図4(c)に示されるように、マイクロ流路14の途中に、微粒径体、細胞または試薬等を捕捉して配置するための配置部Sが設けられていてもよく、この場合、配置部内には、多孔基材が配置されていてもよいし、配置されていなくてもよい。マイクロ流路は、1つの配置部を有していてもよく、複数の配置部を有していてもよい。配置部の数は、試薬等の数やマイクロ流路構造体の用途等に応じて適宜選択される。配置部の配置位置としては、特に限定されるものではなく、例えば、マイクロ流路の中間位置とすることができる。配置部の平面視形状は、特に限定されるものではなく、例えば、円形状、楕円形状、長方形状、菱形状、多角形等が挙げられる。
【0059】
2.基材
本開示における基材は、スペーサを支持する部材である。基材の材料としては、例えば、有機材料および無機材料が挙げられる。有機材料の一例としては、樹脂が挙げられる。また、樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂が挙げられる。一方、無機材料としては、例えば、ガラス、シリコンが挙げられる。本開示におけるマイクロ流路構造体がセンサーとして使用される場合、基材は、少なくとも導体層側の面が絶縁性を有することが好ましい。
【0060】
基材の平面視形状は、特に限定されず、任意の形状を採用できるが、例えば、矩形、円形、楕円形が挙げられる。また、基材の厚さは、マイクロ流路構造体の用途に応じて適宜設定できる。
【0061】
基材のスペーサー側の表面は、表面処理または修飾処理されていてもよい。表面処理または修飾処理を行うことで、例えば、後述する導体層との密着性向上を図ることができる。表面処理としては、例えば、コロナ処理、UV処理、防曇処理が挙げられる。修飾処理としては、例えば、スルホン酸基を有する材料のコーティングによる修飾処理が挙げられる。
【0062】
3.カバー材
本開示におけるカバー材の材料としては、例えば、樹脂、セラミック、ガラス、半導体、金属が挙げられる。上記樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、塩化ビニル、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)が挙げられる。また、カバー材は、透明であってもよく、不透明であってもよいが、前者が好ましい。液体の導入や流動の様子を目視することができるからである。
【0063】
カバー材の平面視形状は、特に限定されないが、例えば、所望の構造を有するマイクロ流路を得ることが可能な形状であることが好ましい。また、カバー材は、必要に応じて、開口部を有していてもよい。
【0064】
4.スペーサー
本開示におけるマイクロ流路構造体は、基材とカバー材との間に配置されたスペーサーを有する。基材およびカバー層の間にスペーサーを設けることで、試薬液やその他液体を送液するマイクロ流路を形成することができる。スペーサーとしては、無機材料を含む多孔基材と、多孔基材に含侵された熱可塑性樹脂とを有するスペーサー(第一のスペーサー)、上記無機材料を含む多孔基材を含まないスペーサー(第二のスペーサー)が挙げられる。いずれのスペーサーも、平面視形状は、特に限定されないが、例えば、所望の構造を有するマイクロ流路を得ることが可能な形状であることが好ましい。また、いずれのスペーサーも、必要に応じて、開口部を有していてもよい。
【0065】
(1)第一のスペーサー
第一のスペーサーは、上述した無機材料を含む多孔基材と、多孔基材における空隙に含侵された熱可塑性樹脂とを有する。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン樹脂等が挙げられる。本開示においては、ポリスチレン、ポリエステル樹脂が特に好ましい。上記熱可塑性樹脂は耐薬品性を有し、また、溶出物の低減が可能となるからである。
【0066】
上記熱可塑性樹脂としては、融点が60℃~160℃の範囲内であるものが好ましく、特に75℃~120℃の範囲内であるものが好ましい。上記熱可塑性樹脂の融点が上記範囲よりも高いと、カバー材および基材と熱融着させる際の加熱温度が高くなってしまい、基材等が熱損傷を受けてしまう場合があるからである。また、熱可塑性樹脂が多孔基材に十分に含侵されない場合があるからである。また、融点が上記範囲よりも低いと、スペーサー形成領域以外の領域(例えば、マイクロ流路を形成する領域)にまで、熱可塑性樹脂が含侵されてしまう恐れがあるからである。
【0067】
熱可塑性樹脂のメルトマスフローレート(MFR)としては、特に制限されないが、多孔層芯材に対して含侵させる観点から、好ましくは5g/10分以上、より好ましくは15g/10分以上である。一方、多孔層芯材のスペーサー形成領域以外の領域には含侵させないことが好ましい観点から、好ましくは150g/10分以下、より好ましくは100g/10分以下である。上記メルトマスフローレート(MFR)は、JIS K7210:2014の規定に準拠した方法により、測定温度190℃、加重2.16kgで測定した値である。
【0068】
第一のスペーサーにおいては、上述した熱可塑性樹脂のうち、1種類のみを用いても良く、2種類以上を混合して用いても良い。
【0069】
第一のスペーサーの形成は、多孔基材が配置されたマイクロ流路の形成と同時に行うことができる。第一のスペーサーの形成方法については、後述する「7.試薬入りマイクロ流路構造体(第一実施形態)の第一の製造方法」に記載するため、ここでの説明は省略する。
【0070】
(2)第二のスペーサー
第二のスペーサーの材料としては、無機材料を含む多孔基材を含まないものであれば特に限定されず、例えば樹脂が挙げられる。樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、塩化ビニル、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂が挙げられる。また、上記樹脂は、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂等の硬化性樹脂であってもよい。
一方、無機材料としては、例えば、ガラス、石英等を挙げることができる。
【0071】
第二のスペーサーの形成方法としては、例えば、スペーサー用基材をプロッター等を使用しレーザーカッター等で所望形状に切断する方法が挙げられる。また、成形金型を作製して樹脂モールドをする方法が挙げられる。また、印刷法により所望形状の硬化性樹脂層を形成し、その後、硬化性樹脂層を光または熱により硬化し、所望形状のスペーサーを形成する方法が挙げられる。また、光硬化性樹脂を用いる場合には、例えば、基材の表面に光硬化性樹脂を塗工し、フォトリソグラフィ法により、所望形状のスペーサーを形成する方法が挙げられる。
【0072】
第二のスペーサーの配置方法としては、接着剤や粘着剤を介して所望形状の樹脂シートを基材の一方の面側またはカバー材の一方の面側に貼り合せる方法が挙げられる。また、ヒートシール層を介して、熱ラミネートにより基材の一方の面側またはカバー材の一方の面側に貼り合わせる方法を用いてもよい。ヒートシール層としては、従来ヒートシール層として使用されるものと同様のものを使用することができる。
【0073】
また、第二のスペーサーとして両面テープを使用することができる。両面テープを用いる場合、両面テープに打ち抜き加工等によりマイクロ流路を形成した後、基材の一方の面側およびカバー材の一方の面側に両面テープを貼付する方法が挙げられる。
【0074】
また、第二のスペーサーは基材と一体化していてもよく、この場合、材質は上述した「2.基材」で例示したものと同様のものを使用することができる。
【0075】
5.その他構成
本開示のマイクロ流路構造体は、通常、マイクロ流路に接続される2以上の開口部を有する。開口部の開口形状は特に限定されず、任意の形状を採用できるが、例えば、矩形、円形、楕円形が挙げられる。開口部のサイズは特に限定されない。開口部は、液体(試薬液や検体)を投入する投入口であってもよい。
【0076】
開口部が投入口である場合、
図5(a)、(d)に示すように、投入口O
1はカバー材12に設けることができる。投入口をカバー材に形成することにより、投入口に液体を滴下しやすく、また滴下した液体に加わる重力によってマイクロ流路内に液体を圧入することができるからである。
【0077】
また、
図5(b)、(c)に示すように、投入口O
1はマイクロ流路構造体の側面に形成されていてもよい。この場合、マイクロ流路構造体を液体を含む容器内で垂直方向に立てることで、液体をマイクロ流路内に導入することができるからである。
【0078】
また、投入口以外の開口部は、空気孔であってもよいし、外部に排出する排出口であってもよい。投入口以外の開口部O
2は、カバー材に設けられていても良いし(
図5(a)、(c))、マイクロ流路構造体の端面やスペーサーに設けられていても良い(
図5(b)、(d))。また、基材に設けられていても良い。
【0079】
6.用途
本開示における試薬入りマイクロ流路構造体は、試薬と、マイクロ流路に送液される液体との反応を必要とする用途、例えば、各種抗原抗体反応や酵素反応等を利用した検査デバイス用のマイクロ流路構造体に使用することができる。このような検査においては、光学的手法を用いてもよく、電気化学的手法を用いてもよい。また、試薬の保管容器(リザバー)として使用することができる。
【0080】
本開示におけるマイクロ流路に適用される液体としては、特に限定されず、例えば、水やpH緩衝液、リンゲル液、等張液、生理食塩水などの水溶液が挙げられる。また、溶解性を変化させるため、または溶解性の異なる液体側へ抽出するために、アルコールや油などの有機溶媒を一部または全部置き換えたものが挙げられる。また、各種検体や検体以外の試料等が挙げられ、血液(全血)、血漿、血清、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、うがい液、鼻汁、尿、唾液、洗浄液、抗体溶液、基質溶液等が挙げられる。これらは必要に応じて希釈して用いてもよい。
【0081】
7.試薬入りマイクロ流路構造体(第一実施形態)の第一の製造方法
本実施形態における試薬入りマイクロ流路構造体は、以下の方法で製造することができる。
図6は、本実施形態における試薬入りマイクロ流路構造体の製造方法の一例を示す概略工程図である。
図6に示すように、基材11、カバー材12、無機材料を含む多孔基材51を準備し(
図6(a))、基材11と多孔基材51との間、及びカバー材12と多孔基材51との間に熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂層52を配置する準備工程(
図6(b))と、上記基材11と上記カバー材12と上記多孔基材51とを上記熱可塑性樹脂層52を介して熱圧着させる熱圧着工程(
図6(c)、(d))とを有し、上記準備工程において、上記熱可塑性樹脂層は、上記スペーサー13が形成される領域と平面視上重なる領域に配置され、上記熱圧着工程により、熱可塑性樹脂が含侵された多孔基材を有するスペーサー13(第一のスペーサー131)と、上記熱可塑性樹脂含侵されていない多孔基材15を有するマイクロ流路14とを、形成することによりマイクロ流路構造体を製造し、更に、上記マイクロ流路14に配置された上記多孔基材15に、試薬液を含侵させ、凍結乾燥する凍結乾燥工程を行うことで、多孔基材15に凍結乾燥製剤Rが担持された試薬担持基材を有する、試薬入りマイクロ流路構造体100を得ることができる(
図6(e))。
【0082】
このようなマイクロ流路構造体の製造方法によれば、多孔基材を使用することで、多孔基材と、基材とカバー材とを熱可塑性樹脂層を介して熱圧着することでマイクロ流路構造体を製造することができ、製造工程が簡単となる。また、多孔基材を使用して製造されたマイクロ流路は、多孔基材の厚みに相当するマイクロ流路高さとすることができ、マイクロ流路構造体のサイズ制御が容易となる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0083】
(1)準備工程
本工程は、基材、カバー材、及び無機繊維を含む多孔基材を準備し、さらに基材とカバー材との間、及びカバー材と多孔基材との間に熱可塑性樹脂層を配置する工程である。
上記基材、上記カバー材としては、それぞれ、上述した「B.試薬入りマイクロ流路構造体(第一実施形態) 2.基材」、「B.試薬入りマイクロ流路構造体(第一実施形態) 3.カバー材」で説明したものと同様のものを用いることができる。上記多孔基材としては、上述した「A.試薬担持基材 1.多孔基材」と同様のものが挙げられる。多孔基材は、後述する熱可塑性樹脂が含侵されることにより、スペーサーを構成可能なものとなる。
【0084】
上記熱可塑性樹脂層は、基材と多孔基材との間、及びカバー材と多孔基材との間において、スペーサーが形成される領域と平面視上重なる領域、即ち、マイクロ流路が形成される領域以外の領域に配置される。
【0085】
例えば、多孔基材の両主面の、スペーサーが形成される領域(
図6においてP)と平面視上重なる領域上に、熱可塑性樹脂層を配置する方法が挙げられる。また、基材の一方の面およびカバー材の一方の面におけるスペーサー形成領域と平面視上重なる領域上に形成してもよい。
【0086】
熱可塑性樹脂層の配置方法としては、例えば、マイクロ流路が形成される領域に開口部を有する熱可塑性樹脂からなるドライフィルムをあらかじめ作製しておき、上記ドライフィルムを、多孔基材の両主面、または、基材の一方の面側およびカバー材の一方の面側に貼り付ける方法があげられる。また、基材の一方の面側およびカバー材の一方の面側、または多孔基材の両主面全体に熱可塑性樹脂層を形成し、スペーサーが形成される領域にマスクを形成し、エッチング加工によりマスク形成領域以外の熱可塑性樹脂層を除去する方法が挙げられる。
【0087】
本開示における熱可塑性樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂としては、上述した「B.試薬入りマイクロ流路構造体(第一実施形態) 4.スペーサー (1)第一のスペーサー」に記載したものと同じ樹脂が挙げられるため、ここでの説明は省略する。
【0088】
(2)熱圧着工程
本工程は、上記基材と上記カバー材と上記多孔基材とを上記熱可塑性樹脂層を介して熱圧着させる工程であり、これにより、スペーサー形成領域に配置されていた熱可塑性樹脂が多孔基材のスペーサー形成領域に含侵し、熱可塑性樹脂が含侵された多孔基材を有するスペーサーが形成される。そしてこれに伴い、熱可塑性樹脂が含侵されていない多孔基材を有するマイクロ流路が形成され、マイクロ流路構造体となる。
【0089】
具体的な熱圧着方法としては、熱ラミロールを使用する方法が好ましい。この際の熱圧着条件としては、具体的には、温度を例えば、60℃以上250℃以下、好ましくは75℃以上210℃以下の範囲内で、圧力を例えば0kg/cm2より大きく40kg/cm2以下、好ましくは0.5kg/cm2以上10kg/cm2以下の範囲内とすることができる。
【0090】
上述した「(1)準備工程」および「(2)熱圧着工程」は、独立して行ってもよいし、連続して行ってもよい。
【0091】
ただし、上記方法に限定されるものではなく、例えば、片面を面状の支持体でサポートし、他方の面をロールでプレスする方法も用いることができる。また、熱源は片面であっても良く、または、両面であっても良い。
【0092】
また、基材(またはカバー材)と多孔基材とを熱可塑性樹脂層を介して圧着した積層体を製造し、その後、該積層体とカバー材(または基材)とを熱可塑性樹脂層を介して圧着させてもよい。この場合、次工程までの移送または保管中に、傷や塵から保護するために積層体に離型材を設けても良い。
また、この状態で多孔基材に対し、試薬液を部分的に滴下し、後述する試薬凍結乾燥工程により、部分的に凍結乾燥製剤と担持させることも可能である。
【0093】
(3)試薬凍結乾燥工程
本工程は、マイクロ流路に配置された多孔基材に、試薬液を含侵させ、凍結乾燥する工程である。投入口がマイクロ流路構造体の側面にある場合には、マイクロ流路構造体を、試薬液を含む容器内で垂直方向に立てることで、試薬液を、マイクロ流路に配置された多孔基材に含侵させることができる。凍結乾燥方法としては、上述した「A.試薬担持基材 2.凍結乾燥製剤」に記載の方法と同様に行うことができる。
【0094】
8.試薬入りマイクロ流路構造体(第一実施形態)の第二の製造方法
本実施形態における試薬入りマイクロ流路構造体は、以下の方法で製造することもできる。
図7は、本実施形態における試薬入りマイクロ流路構造体の別の製造方法の一例を示す概略工程図である。
図7に示すように、例えば、基材11の一方の面側およびカバー材12の一方の面側を対向させ、上述した第二のスペーサー132を介して貼り付けることで、中空構造Xであるマイクロ流路14を有するマイクロ流路構造体を作製する工程(
図7(a)、(b))と、マイクロ流路内に、適当なサイズに切断した、凍結乾燥製剤Rが担持された上記多孔基材15を配置する工程(
図7(c))により、試薬入りマイクロ流路構造体100を得ることができる。この凍結乾燥製剤Rが担持された多孔基材15としては、上述した「A.試薬担持基材」を適当なサイズに切断したものを使用することができる。
【0095】
また、その他の製造方法として、
図7(b)に示されるような中空構造Xであるマイクロ流路14を有するマイクロ流路構造体を製造した後、適当なサイズに切断した多孔基材をマイクロ流路内に挿入することにより配置し、その後多孔基材に試薬液を含侵させ、凍結乾燥を行ってもよい。
本開示における多孔基材としては、「A.試薬担持基材 1.多孔基材」と同様のものを使用することができる。
【0096】
C.試薬入りマイクロ流路構造体(第二実施形態)
本開示では、基材と、上記基材の一方の面側に配置されたカバー材と、上記基材と上記カバー材との間に配置されたスペーサーと、上記基材と、上記カバー材と、上記スペーサーとにより区画され、上記基材の厚み方向に対し、垂直方向に延伸されたマイクロ流路と、を有し、上記基材および上記カバー材の少なくとも一方が、孔径が2.0μm以下の多孔質材であり、上記マイクロ流路に、凍結乾燥製剤が固定化されている、試薬入りマイクロ流路構造体を提供する。
【0097】
図8(a)は本実施形態におけるマイクロ流路構造体の一例を示す概略平面図、
図8(b)は
図8(a)のA-A断面図、
図8(c)、(d)は
図8(a)のB-B断面図である。尚、
図8(a)~(c)では、凍結乾燥製剤は省略し、
図8(d)では凍結乾燥製剤Rを省略せずに記載している。
図8に示すマイクロ流路構造体200は、基材11と、基材11の一方の面側に配置された孔径が2.0μm以下の多孔質材であるカバー材22と、基材11とカバー材22との間に配置されたスペーサー13と、マイクロ流路14とを有し、マイクロ流路14に、凍結乾燥された凍結乾燥製剤Rが固定化されている。
【0098】
本実施形態におけるマイクロ流路構造体は、孔径が2.0μm以下の多孔質材を用いる。このような多孔質材は、孔径が小さいために凍結乾燥前の試薬液(液体)は通過できず、凍結乾燥時に昇華された水蒸気(気体)のみが、乾燥、減圧により通過可能である。多孔質材の孔径が上記値より大きい場合、多孔質材における孔から凍結乾燥前の試薬液が噴き出す場合があり、また多孔質材を用いない場合、水蒸気の出入りがマイクロ流路構造体の開口部のみで行われるため、開口部から凍結乾燥中もしくは凍結乾燥後の試薬の噴き出しが生じる場合がある。
この傾向は、マイクロ流路内の熱伝導性が低い場合に顕著となる。熱伝導性が低い場合は、試薬液を凍結させた後、減圧下で昇温させて水分を昇華しようとした際に、試薬液を均一な温度で昇温することが難しいことから、試薬液に温度分布が生じてしまう。このため、孔径が2.0μmを超えるような大きな孔径の多孔質材を用いた場合は、部分的に高温となった領域において、液化した試薬液が噴出してしまう等の不具合が生じる。
一方、孔径が2.0μm以下であれば、マイクロ流路内の熱伝導性が低い場合にも、多孔質材の孔からは、水蒸気(気体)のみが通過可能であるので、試薬液が噴出する等の問題が生じることなく、乾燥工程を進行させることができ、試薬液を凍結乾燥によりマイクロ流路内に固定化することができる。
また、カバー材に孔径2.0μm以下の多孔質材料を用いなくても、上述した第一実施形態の試薬入りマイクロ流路構造体のように、マイクロ流路に配置された多孔基材が無機材料を含有したもの、もしくは、熱伝導率が、0.5W・m-1・K-1以上である材料を有するものであれば、凍結乾燥機のプロファイル内で安定して、減圧下で昇華した水蒸気をマイクロ流路の解放した通気孔から放出でき、試薬が噴き出るような不安定な蒸発を抑制することができる。
【0099】
1. 多孔質材
本開示における多孔質材は、カバー材に用いられることが好ましいが、これに限定されるものではなく、基材として多孔質材が用いられてもよく、また基材およびカバー材が共に多孔質材であってもよい。
【0100】
本開示における多孔質材は、内部に空隙を有する。空隙の孔径は、2.0μm以下であればよく、好ましくは1.5μm以下、更に好ましくは1.0μm以下である。上記値より大きいと、多孔質材の孔から、充填された試薬が噴き出す場合がある。多孔質材の孔径の下限は特に限定されないが、例えば、0.01μm以上が好ましく、特に好ましくは0.1μm以上である。上記値より小さいと、十分な乾燥を行うことができない。本明細書において多孔質材の孔の「孔径」とは、多孔質材(カバー材または基材)の厚み方向に対して垂直方向に沿った面における孔の最小孔径の平均値を意味する。多孔質材の空隙の孔径は、例えば、電子顕微鏡(SEM)等を用いて測定され得る。
【0101】
多孔質材の空隙率は、特に限定されないが、例えば0.1%以上が好ましく、0.5%以上が特に好ましい。一方、例えば40%以下が好ましく、10%以下が特に好ましい。
なお、多孔質材の空隙率は、上述した「A.試薬担持基材」で説明した方法により算出することができる。
【0102】
多孔質材の形状としては、孔径が上記特定の値以下である膜、フィルム、シートが挙げられる。多孔質材の材質としては、樹脂を有するものであることが好ましい。樹脂としては、PTFE、PFA、PCTFE、ETFE等のフッ素樹脂が挙げられ、本開示においては多孔質PTFEシートが特に好ましい。樹脂製のフィルム又はシートは、無延伸のものであってもよいし、延伸させたものであってもよい。延伸により多孔質化させたものである場合、通常、多孔質材の厚み方向に対して垂直方向に沿った面において、孔は短径および長径を有する。また、多孔質材は多層構造であってもよく、例えば多孔質樹脂シート(例えば、ハイボアシート(多孔質オレフィンフィルム、穴径1.0μm以下:旭化成社製))の表面に、フッ素樹脂含有の撥水コートが形成されたものは、安価であるため好適に使用することができる。
【0103】
多孔質材の厚みとしては、特に限定されないが、例えば10μm以上が好ましく、30μm以上が更に好ましい。一方、例えば800μm以下が好ましく、250μm以下が更に好ましい。
【0104】
2. 凍結乾燥製剤の固定
本実施形態における凍結乾燥製剤は、上記マイクロ流路内に固定されていればよく、上述した多孔基材に固定されたものであってもく、樹脂で構成された多孔基材に固定されたものであってもよく、さらには、マイクロ流路内の基材表面、カバー材表面、もしくはスペーサー表面に配置されたものであってもよい。
基材およびカバー材の少なくとも一方が、上述した多孔質材で構成されているので、マイクロ流路内における熱伝導率が低い場合でも、マイクロ流路内で凍結乾燥が可能であり、問題無く試薬入りマイクロ流路構造体を得ることが可能であるからである。
【0105】
3.その他構成
本実施形態における基材、カバー材、スペーサー、マイクロ流路、及び凍結乾燥製剤は、上述の「B.試薬入りマイクロ流路構造体(第一実施形態)」と同様であるため、ここでの説明は省略する。
また、本実施形態における試薬入りマイクロ流路構造体のマイクロ流路には、上述した
「B.試薬入りマイクロ流路構造体(第一実施形態) 1.マイクロ流路 (1)多孔基材」で記載した多孔基材が配置されていてもよい。
【0106】
3.製造方法
本実施形態における試薬入りマイクロ流路構造体は、以下の方法で製造することもできる。例えば、基材の一方の面側および多孔質材であるカバー材の一方の面側を対向させ、上述した第二のスペーサーを介して貼り付けることでマイクロ流路が中空構造であるマイクロ流路構造体を作製する工程と、マイクロ流路内に試薬液を導入し、凍結乾燥する凍結乾燥工程と、により製造することができる。
【0107】
D.試薬入りマイクロ流路デバイス(第一実施形態)
本開示における試薬入りマイクロ流路デバイスについて、図面を参照して説明する。
図9は本開示における試薬入りマイクロ流路デバイスの一例を示す概略断面図である。
図9に示すマイクロ流路デバイス300は、基材11と、上記基材の一方の面側に配置されたカバー材12と、基材11とカバー材12との間に配置されたスペーサー13と、基材11と、カバー材12と、スペーサー13とに囲まれた、基材11の厚み方向に対し垂直方向に延伸し、延伸方向に液体を送液するマイクロ流路14と、上記基材11上に配置された導体層16と、を有し、マイクロ流路14には、無機材料を含む多孔基材15が配置され、多孔基材15には、凍結乾燥製剤Rが担持されている。
図9においては、導体層16は、電極部16aおよび端子部16bを有している。
【0108】
本開示におけるマイクロ流路デバイスにおける基材、カバー材、スペーサー、マイクロ流路、多孔基材及び凍結乾燥製剤としては、上述した「B.試薬入りマイクロ流路構造体(第一実施形態)」と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0109】
本開示において導体層は、少なくとも電極部および端子部を有する層であることが好ましい。電極部および端子部は、電気的に接続されており、両者は、直接接続されていてもよく、配線部を介して電気的に接続されていてもよい。
【0110】
電極部は、通常、電流値を測定する部材である。電極部としては、一般的な電気化学測定に用いられる電極を用いることができる。電極部の材料としては、例えば、Au、Pt、Ag、Pd、Ni等の安定な金属元素を有する金属材料、グラッシーカーボン、カーボンペースト、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン等の炭素材料が挙げられる。
【0111】
導体層は、一または二以上の電極部を有する。複数の電極部の組み合わせとしては、例えば、作用極および対極の組み合わせ(2電極方式)、作用極、対極および参照極の組み合わせ(3電極方式)、2つの作用極、対極および参照極の組み合わせ(4電極方式)が挙げられる。作用極となる電極部の平面視形状は、特に限定されないが、例えば、矩形、櫛形が挙げられる。電極部の形成方法としては、例えば、フォトリソグラフィ法、マスク蒸着法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット法が挙げられる。
【0112】
端子部は、外部の測定装置と電気的に接続される部材である。端子部の材料としては、上述した電極部の材料と同様の材料を用いることができるが、中でも金属材料が好ましい。導電性が高いからである。なお、端子部の材料は、電極部の材料と同じであってもよく、異なっていてもよい。また、端子部は、電極部と同時に形成してもよく、電極部とは別に形成してもよい。また、測定装置としては、一般的な電気化学測定に用いられる装置を用いることができ、例えば、ポテンショスタット、電流増幅器が挙げられる。
【0113】
配線部は、電極部および端子部を電気的に接続する部材である。配線部の材料としては、上述した電極部の材料と同様の材料を用いることができるが、中でも金属材料が好ましい。導電性が高いからである。なお、配線部の材料は、電極部の材料と同じであってもよく、異なっていてもよい。また、端子部は、電極部と同時に形成してもよく、電極部とは別に形成してもよい。
【0114】
本開示における試薬入りマイクロ流路デバイスは、上述した「B.試薬入りマイクロ流路構造体(第一実施形態) 6.用途」に記載のような種々の用途、特に検査デバイスとして使用することができる。
【0115】
E.試薬入りマイクロ流路デバイス(第二実施形態)
本実施形態における試薬入りマイクロ流路デバイスについて、図面を参照して説明する。
図10は本開示における試薬入りマイクロ流路デバイスの一例を示す概略断面図である。
図10に示すマイクロ流路デバイス400は、基材11と、上記基材の一方の面側に配置され、多孔質材で構成されたカバー材22と、基材11とカバー材22との間に配置されたスペーサー13と、基材11と、カバー材22と、スペーサー13とに囲まれた、基材11の厚み方向に対し垂直方向に延伸し、延伸方向に液体を送液するマイクロ流路14と、上記基材11上に配置された導体層16と、を有し、マイクロ流路14には、凍結乾燥製剤Rが固定化されている。
図10においては、導体層16は、電極部16aおよび端子部16bを有している。
【0116】
本開示におけるマイクロ流路デバイスにおける基材、多孔質材、カバー材、スペーサー、マイクロ流路、及び凍結乾燥製剤としては、上述した「C.試薬入りマイクロ流路構造体(第二実施形態)」と同様であるため、ここでの説明は省略する。導体層としては、上述した「D.試薬入りマイクロ流路デバイス(第一実施形態)」と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0117】
本開示におけるマイクロ流路デバイスは、上述した「B.試薬入りマイクロ流路構造体(第一実施形態) 6.用途」に記載のような種々の用途、特に検査デバイスとして使用することができる。
【0118】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0119】
以下に実施例を示し、本開示をさらに詳細に説明する。
【0120】
(実施例1)エンドトキシンセンサー
30μm厚のアルミ箔(三菱アルミ社製)、450μm厚のガラスペーパー1(FAP-50、オリベスト社製)、100μm厚の多孔質PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)(SEF-010:中興化成工業社製)を積層させ3層構造とし、オーブン内で200℃、90分乾熱滅菌した。室温まで十分に放置してからエンドスペシーES-24S(生化学工業社製)のLAL凍結乾燥試薬1テストチューブに、エンドトキシンを含まない水である大塚水(大塚製薬工場社製)0.5mL加えて溶解したものを、PTFEシートの下のガラスペーパーにライン状に塗布、自然拡散させた。
PTFEシートを戻し、3層重ねのまま凍結乾燥機内で凍結し、真空乾燥(5時間)を経て、乾燥窒素ガス置換して解放した。LAL試薬は、ガラスペーパーに包摂・再凍結乾燥が観察された(試薬担持基材)。
【0121】
上記試薬が担持されたガラスペーパー(試薬担持基材)を、2mm×10mmにカットし、特開2019-52921に記載された、PETシートに蒸着金属配線をパターニングして作製した積層マイクロ流路デバイスのマイクロ流路に挿入・充填し、本開示における試薬入りマイクロ流路デバイス(エンドトキシンセンサー)を得た。
【0122】
得られたエンドトキシンセンサーを使用し、エンドトキシン試験を行った。即ち、緩衝液で日本薬局方エンドトキシン標準品を0.005、0.01、0.02EU/mLに調製し、検量線(電流値-エンドトキシン濃度曲線)を作成し、ポテンシオスタット(MAS社製)の電圧0.5Vを印加して、対応する電流値を計測した。このセンサーは窒素充填のアルミ包装袋で4℃、3ヶ月保管した場合と同等のエンドトキシン試験結果を示した。
【0123】
(実施例2)
200μm厚ガラスペーパー(ガラスペーパー2 型番SMK-025:オリベスト社製、容積空隙率90%)の両面に、5mm巾の70μm厚スチレン系エラストマーフィルムを5mm間隔で接着した。次いで、これを、基材及びカバー材としての2枚の100μm厚PETシート(コスモシャイン:東洋紡社製)間に配置し、熱シールで接着し、流路高さ220μm、流路幅5mmの模擬流路を有する総厚420μmのマイクロ流路構造体を製造した。これを30mmにカットし、両端に開口部を有する(両端オープン型)マイクロ流路構造体とし、グルコースオキシダーゼ(GLO-201:東洋紡社製)を50mMトリス塩酸(純正化学社製)pH7.2水溶液に50unit/mL濃度で溶解して、流路内に充填して、凍結乾燥機内で凍結、25時間で乾燥し、本開示における試薬入りマイクロ流路構造体(第一実施形態)を得た。
【0124】
(実施例3)
実施例2の流路デバイスの片面のPETシート(カバー材)を、100μm厚の多孔質PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シート(シポラス(登録商標)SEF-010:孔径(厚み方向に対して垂直方向に沿った面における孔の短径の平均値)0.7μm、中興化成工業社製)に変えてカバー材とした以外は、実施例2と同様にして、両端オープン型のマイクロ流路構造体を作製し、グルコースオキシダーゼ溶解液を流路内に充填して凍結乾燥し、本開示における試薬入りマイクロ流路構造体(第一実施形態および第二実施形態)を得た。
【0125】
(比較例1)
100μm厚のPETシートの芯材(コスモシャイン:東洋紡社製)の両面に70μm厚スチレン系エラストマーフィルム(スペーサー)(40%開口 直径0.7mm多孔:明和グラビア社製)を接着し、5mm幅とし、2枚の100μm厚PETシート(コスモシャイン:東洋紡社製)間に5mm幅の間隔で配置し、熱シールで接着し、スペーサーで空いた流路高さ220μm、流路幅5mmの模擬流路を有する総厚420μmのマイクロ流路構造体を製造した。
これを30mmにカットし、両端に開口部を有する(両端オープン型)マイクロ流路構造体とし、グルコースオキシダーゼ(GLO-201:東洋紡社製)を50mMトリス塩酸(純正化学社製)pH7.2水溶液に50unit/mL濃度で溶解して、流路内に充填して、凍結乾燥機内で凍結、25時間で乾燥した。
【0126】
(実施例4)
比較例1のマイクロ流路構造体の片面のPETシート(カバー材)を、100μm厚の多孔質PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)(SEF-010:中興化成工業社製)に代えて多孔質材とした以外は、比較例1と同様にして、両端オープン型のマイクロ流路構造体を作製し、グルコースオキシダーゼ溶解液を流路内に充填して凍結乾燥し、本開示における試薬入りマイクロ流路構造体(第二実施形態)を得た。
【0127】
[試薬の噴き出し観察]
実施例2~4、比較例1の各10個の流路デバイスについて、試薬の噴き出しを観察したところ、比較例1の流路デバイスは10個中9個で凍結試薬の噴き出しが観察されたが、実施例2~4では噴き出しは観察されなかった。なお、仮着していたPTFEシートを剥がして、PETシート(カバー材)を重ねて熱ラミシート上を4mm幅のライン熱ラミネートしたものは、再接着が確認された。
【0128】
(実施例5)グルコースセンサーの製造
ガラスペーパー(FAP-50、オリベスト社製)をアルミホイルで包み、200℃、90分乾熱滅菌した。基材であるPETシートの一方の面上に、Pdを含む蒸着膜を形成した。次に、Pd層上に、ポジ型の感光性レジスト層を形成し、フォトマスクを用いて露光し、その後、現像することで、レジストパターンを形成した。次に、レジストパターンから露出するPd層をエッチングにより除去し、レジストパターンを剥離した。これにより、電極部、端子部および配線部を有する導体層を形成した。この導体層が形成された基材および乾熱滅菌したガラスペーパーを用いた以外は、実施例2と同様の方法で、
図9に示すマイクロ流路デバイスを作製した。尚、カバー材であるPETシートにはセンサー検出電極部より上に空気抜きの穴(開口部O
2)を配した。
【0129】
50mMトリス塩酸(純正化学社製)pH7.2、20mM 塩化カリウム(純正化学社製)、100mM フェリシアン化カリウム(純正化学社製)水溶液 10μLを検体添加側(
図9における開口部O
1)から展開した。また、空気抜きの穴からも50unit/mLグルコースオキシダーゼ(GLO-201:東洋紡社製)水溶液を20μL添加してガラスペーパーに展開し、凍結乾燥して、グルコースセンサを作製した。
【0130】
血糖値の測定は、作製したセンサーをポテンシオスタット(MAS社製)の電圧0.5Vの電流値で計測した。検体は、指先から採取した血液、および血液にブドウ糖(純正化学社製)添加したもの(市販血糖値測定器、ワンタッチウルトラとLFSセンサー(ライフスキャン社製)で血糖値確認した52mg/dL全血、98mg/dL全血、200mg/dL調整血)を使用し、対応する電流値を得た。
【0131】
(実施例6~10、比較例2~5)
下記表1に示すカバー材と芯材とを使用し、マイクロ流路構造体を得た。カバー材としては、PETシート、1.5mm角菱形開口率7%の50μm厚の穴ポリシート(新日本アルク工業社製)、100μm厚の多孔質PTFEシート(シポラス(登録商標)SEF-010:孔径(厚み方向に対して垂直方向に沿った面における孔の短径の平均値)0.7μm、中興化成工業社製)の3種類を使用した。
また、芯材としては、200μm厚のガラスペーパー(ガラスペーパー2 型番SMK-025:オリベスト社製、容積空隙率90%、ガラス繊維に用いたガラスの熱伝導率 1.0W・m-1・K-1)の他に、160μm厚のPP不織布シート(PPスパンポンド:東レ社製)、中空構造を構成するPETシートを使用し、実施例2や比較例1と同様に、基材シート、芯材、カバーシートとそれを溶着する熱溶融樹脂フィルムで、9種類、各々10個の中空または繊維充填のマイクロ流路デバイス用のマイクロ流路構造体を作製した。
これを長さ30mmにカットした両端オープン型とし、グルコースオキシダーゼ(GLO-201:東洋紡社製)を50mMトリス塩酸(純正化学社製)pH7.2水溶液に50unit/mL濃度で溶解して、各々の流路内に充填して、凍結乾燥機内で凍結、25時間で乾燥した。表1に、試薬の噴き出しが観察された個数(10個中)を示す。
【0132】
【0133】
表1の結果より、すべてのマイクロ流路構造体で酵素液は再凍結されたが、多孔質PTFEシートをカバー材として使用したもの(実施例8~10)、ガラスペーパーを流路内に充填材にしたもの(実施例6~8)以外では、表に記した場所(カバー材および開口部)と頻度で凍結乾燥時の内容物の一部噴き出しが観察された。
【符号の説明】
【0134】
1、15 … 多孔基材
10 … 試薬担持基材
11 … 基材
12 … カバー材
13 … スペーサー
14 … マイクロ流路
22 … 多孔質材(カバー材)
100、200 … 試薬入りマイクロ流路構造体
300、400 … 試薬入りマイクロ流路デバイス