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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】帯電防止ノンスリップ床の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04F 15/12 20060101AFI20241008BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20241008BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
E04F15/12 M
C09D5/00 D
C09D201/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020139803
(22)【出願日】2020-08-21
(65)【公開番号】P2022035462
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】平山 善男
(72)【発明者】
【氏名】佐野 紀文
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107652845(CN,A)
【文献】特開2003-073454(JP,A)
【文献】特開2020-019924(JP,A)
【文献】特開2016-113890(JP,A)
【文献】特開2014-185436(JP,A)
【文献】特開2001-340806(JP,A)
【文献】特表2012-502144(JP,A)
【文献】若原 章博,カーボンナノチューブの分散安定化,[online],コーティングメディア,2013年04月30日,[2024年3月11日検索],<https://www.coatingmedia.com/special/additive/additive03/web212.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/00- 15/22
C09D 1/00- 10/00
C09D 101/00-201/10
H01B 1/00- 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下塗り材を用いて床下地の上に下塗り層を形成する工程、
前記下塗り層の上に骨材を散布する工程、および
前記骨材が散布された下塗り層の上に、上塗り材を用いて上塗り層を形成する工程
を包含し、
前記下塗り材および前記上塗り材がそれぞれ、常温硬化型樹脂、および導電性フィラーとして単層カーボンナノチューブ(但し、表面がカルボキシル化された変性単層カーボンナノチューブを除く)を含有し、
前記下塗り材および前記上塗り材がそれぞれ、湿潤分散剤、およびフタロシアニン系顔料の少なくとも一方を含有し、
前記湿潤分散剤が、酸性基およびアミノ基を含むポリマー塩であり、
前記フタロシアニン系顔料が、配位金属として銅を含有するフタロシアニングリーンまたは配位金属として銅を含有するフタロシアニンブルーである、
ノンスリップ床の施工方法。
【請求項2】
前記骨材が、絶縁性である、請求項1に記載のノンスリップ床の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性能を有するノンスリップ床の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場を始めとする生産施設等の床には、エポキシ樹脂等の硬化型樹脂を用いた塗り床が多く採用されている。この塗り床について、骨材を利用した凹凸によって滑り止め機能が付与されたノンスリップ床が知られている。このノンスリップ床の施工方法の一つとして、ニート工法が知られている。ニート工法では、床下地に、硬化型樹脂を含む塗り床材を塗布して樹脂材料層を形成し、その上に骨材を散布し、必要に応じてさらに当該骨材の上に塗り床材が塗布される(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
一方で、塗り床に用いる硬化型樹脂は電気的には絶縁性であるため、施工された塗り床上での作業で静電気による障害が発生するという問題が生じる。そこで、塗り床に帯電防止性能を付与するために、硬化型樹脂に導電性フィラーを添加することが行われている。例えば、特許文献4には、導電性フィラーとして導電性酸化チタン粉末と炭素繊維とを用いることが記載されている。特許文献5には、導電性フィラーとして炭素繊維を用いることが記載されている。特許文献6には、導電性フィラーとして導電性酸化亜鉛等の導電性金属酸化物とステンレス繊維とを用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭59-138657号公報
【文献】特開2003-73454号公報
【文献】特開2003-105707号公報
【文献】特開2013-40446号公報
【文献】特開2017-48333号公報
【文献】特開2016-223252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ニート工法によってノンスリップ床に帯電防止性能を付与する場合、硬化型樹脂および導電性フィラーを含有する下塗り材によってまず下塗り層を形成し、その上に骨材を散布した後、骨材が保持されるように、硬化型樹脂および導電性フィラーを含有する上塗り材を塗布して上塗り層を形成するということを行う。ここで、骨材が下塗り層上に点在しており、下塗り層上の骨材が存在していない部分が上塗り層と接触するが、下塗り層と上塗り層との接触界面では、接触抵抗が大きく導電性が得られない。そのため、従来技術においては、下塗り層と上塗り層との間の導電パスを形成するために、骨材として導電性があるものを用いる必要がある。よって、従来技術においては、導電性の骨材が必須であることによって、ノンスリップ床の設計の自由度が小さいという問題、あるいはコスト高を招くという問題がある。
【0006】
かかる事情に鑑み、本発明は、導電性の骨材を用いなくても帯電防止性能を発揮するノンスリップ床を施工可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のノンスリップ床の施工方法は、下塗り材を用いて床下地の上に下塗り層を形成する工程、前記下塗り層の上に骨材を散布する工程、および前記骨材が散布された下塗り層の上に、上塗り材を用いて上塗り層を形成する工程を包含する。前記下塗り材および前記上塗り材がそれぞれ、常温硬化型樹脂、および導電性フィラーとして単層カーボンナノチューブを含有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、導電性の骨材を用いなくても帯電防止性能を発揮するノンスリップ床を施工することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のノンスリップ床の施工方法は、下塗り材を用いて床下地の上に下塗り層を形成する工程(以下、「下塗り層形成工程」ともいう)、当該下塗り層の上に骨材を散布する工程(以下、「骨材散布工程」ともいう)、および当該骨材が散布された下塗り層の上に、上塗り材を用いて上塗り層を形成する工程(以下、「上塗り層形成工程」ともいう)を包含する。ここで、当該下塗り材および当該上塗り材はそれぞれ、常温硬化型樹脂、および導電性フィラーとして単層カーボンナノチューブを含有する。
【0010】
まず、下塗り層形成工程について説明する。床下地は、従来公知の床下地であってよく、典型的にはコンクリート下地である。より高い帯電防止性能の観点から、通常、床下地表面には導電性が付与される。このような床下地として好適には、コンクリート上に導電性プライマー層が形成された下地が挙げられる。当該下地は、コンクリートと導電性プライマー層との密着性を向上させるために、これらの間に、さらにプライマー層を有していてもよい。この導電性プライマー層およびこのプライマー層は、公知のものと同様の構成であってよい。例えば、導電性プライマー層は、常温硬化型樹脂、およびカーボンブラックを含有するプライマーを用いて形成されたものであってよい。
【0011】
本発明においては、下塗り材として、常温硬化型樹脂、および導電性フィラーとして単層カーボンナノチューブを含有する塗り床材が用いられる。
【0012】
常温硬化型樹脂は、施工環境温度である常温(例えば0℃~40℃、特に5℃~35℃)において硬化させることができる樹脂であり、塗り床材用途において公知のものを用いることができる。常温硬化型樹脂としては、2液硬化型タイプ、湿気硬化型タイプ、ラジカル重合性タイプ等のものを用いることができ、なかでも2液硬化型タイプが好ましい。常温硬化型樹脂の具体例としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等が挙げられ、なかでもエポキシ樹脂が好ましい。
【0013】
エポキシ樹脂としては、塗り床材用途において公知のものを使用することができ、常温で液状を示し、硬化剤との反応によって硬化する2液硬化型タイプのものが好ましい。
【0014】
エポキシ樹脂の例としては、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等の脂環式エポキシ樹脂;ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル等のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノールとエピハロヒドリン類とから誘導されるビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ビフェニルノボラック樹脂等のノボラック樹脂のエポキシ化物;水素化ビスフェノールF、水素化ビスフェノールA、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加体等の二価アルコールとエピハロヒドリン類とから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ハイドロキノン、カテコール等の多価フェノールとエピハロヒドリン類とから誘導されるエポキシ樹脂等が挙げられる。なかでも、ビスフェノール型エポキシ樹脂(特に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂)が好ましい。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
硬化剤としては、塗り床材用途において公知のものを使用することができる。その具体例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン等の脂肪族アミン類またはその変成品;m-フェニレンジアミン、m-キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族アミン類またはその変成品;1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソフォロンジアミン等の脂環式アミン類またはその変性品;無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸無水物、ピロメリット酸無水物等の酸無水物類;ポリサルファイド;酸アミド;チオコール等が挙げられる。なかでも、脂環式アミン類、芳香族アミン類、およびこれらの変性品が好ましい。変性品としては、マンニッヒ変性品、アダクト変性品等が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
エポキシ樹脂と硬化剤との混合量は、従来と同様に、エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基のモル量と硬化剤に含まれる活性水素のモル量とが、略等しくなるように設定すればよい。なお、後述の反応性希釈剤を使用する場合には、エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基および反応性希釈剤に含まれるエポキシ基の合計モル量と硬化剤に含まれる活性水素のモル量とが、略等しくなるように設定すればよい。
【0017】
導電性フィラーとして用いられる単層カーボンナノチューブ(SWNT)は、1枚のグラフェンシートが円筒状に巻かれた構造を有する。単層カーボンナノチューブは、アームチェア型、ジグザグ型、およびカイラル型のいずれであってもよい。塗り床材中に容易に分散させることができることから、単層カーボンナノチューブとして、予備分散されたものを用いることが好ましく、特に、常温硬化型樹脂と反応性を有する希釈剤中に予備分散されたものを用いることが好ましい。単層カーボンナノチューブは、公知方法に従い合成することができ、市販品としても入手可能である。予備分散された単層カーボンナノチューブとして好適には、OCSIAL社製「TUBALL MATRIX201」が挙げられる。この「TUBALL MATRIX201」は、反応性希釈剤として、脂肪酸グリシジルエステルを含む。したがって、常温硬化型樹脂としてエポキシ樹脂を用いた場合には、脂肪酸グリシジルエステルが、エポキシ樹脂と共に硬化剤と反応することができる。
【0018】
塗り床材中の単層カーボンナノチューブの含有量は、特に限定されないが、少な過ぎると導電性が不十分となるおそれがある。そのため、塗り床材中(すなわち、塗り床材の全質量に対して;常温硬化型樹脂が2液型の場合には硬化剤の質量も含む塗り床材の全質量に対して)の単層カーボンナノチューブの含有量は、好ましくは0.010質量%以上、より好ましくは0.015質量%以上、さらに好ましくは0.020質量%以上である。一方、塗り床材中の単層カーボンナノチューブの含有量が多過ぎると、塗り床材の増粘を招き仕上がり性を損なうおそれがある。そのため、塗り床材中の単層カーボンナノチューブの含有量は、好ましくは0.040質量%以下、より好ましくは0.035質量%以下、さらに好ましくは0.030質量%以下である。
【0019】
ここで、単層カーボンナノチューブは、高い導電性を有する一方で、非常に凝集を起こしやすい。そのため、導電性向上のために導電性フィラーとして単層カーボンナノチューブを塗り床材に添加しても、単層カーボンナノチューブの凝集が起こる。単層カーボンナノチューブの凝集が起こっても、ノンスリップ床の500Vでの導電性は得られ、現在の市場で求められている帯電防止性能は満たし得るが、低電圧(例えば50V、特に25V)においての導電性が低下する。そこで、本発明においては、単層カーボンナノチューブを分散させる成分として、塗り床材が、湿潤分散剤およびフタロシアニン系顔料の少なくとも一方を含有することが好ましい。この場合には、低電圧(例えば50V、特に25V)においても導電性が得られ、ノンスリップ床の帯電防止性能を一層高めることができる。
【0020】
湿潤分散剤は、塗料分野において、界面活性剤として働き、塗膜の濡れ性を向上させる湿潤剤としての機能と、電気的反発や立体障害などの作用機構により粒子の凝集を防ぐ分散剤としての機能の両方を併せ持つ添加剤である。単層カーボンナノチューブの分散性が特に高いことから、湿潤分散剤の中でも、酸性基およびアミノ基を含むポリマー塩である湿潤分散剤を用いることが好ましい。酸性基およびアミノ基を含むポリマー塩である湿潤分散剤を含有する場合には、施工されるノンスリップ床は、50V、さらには25Vのような低電圧においても特に高い導電性を発揮することができる。
【0021】
酸性基としては、酸性リン酸エステル基が好ましい。ポリマー塩のポリマーは、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。ポリマーは、主鎖(例えばポリウレタン鎖)に、1つまたは複数の側鎖(例えばポリエステル鎖)が導入されたグラフトコポリマーであることが好ましい。このとき、ポリマー鎖の立体障害によって、単層カーボンナノチューブの分散性がより高くなる。ポリマー塩としては、アルキルアンモニウム塩およびリン酸エステル塩が好ましく、アルキルアンモニウム塩がより好ましい。
【0022】
湿潤分散剤は、その酸価およびアミン価がそれぞれ、10mgKOH/g以上であることが好ましい。貯蔵安定性の観点から、湿潤分散剤の酸価およびアミン価がそれぞれ、30mgKOH/g以上であることがより好ましく、35mgKOH/g以上であることがさらに好ましい。なお、酸価とは、高分子分散剤固形分1gあたりの酸価を表し、例えば、JIS K0070に準じ、電位差滴定法によって求めることができる。アミン価とは、高分子分散剤固形分1gあたりのアミン価を表し、例えば、0.1Nの塩酸水溶液を用い、電位差滴定法によって求めた値を、水酸化カリウムの当量に換算することにより求めることができる。
【0023】
湿潤分散剤の好適な具体例としては、ビックケミージャパン社製「BYK-9076」、「BYK-9077」、「DISPERBYK-142」、「DISPERBYK-2152」;楠本化成社製「ディスパロン DA-325」などが挙げられ、仕上がり性の観点から「BYK-9076」、「DISPERBYK-142」、および「ディスパロン DA-325」が好ましく、貯蔵安定性の観点から「BYK-9076」、および「DISPERBYK-142」がより好ましい。湿潤分散剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
塗り床材中の湿潤分散剤の含有量は、特に限定されないが、少な過ぎると、十分な導電性が得られないおそれがある。また、湿潤分散剤の含有量が多い方が貯蔵安定性が高い傾向にある。そのため、塗り床材中の湿潤分散剤の含有量は、好ましくは0.04質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上、さらに好ましくは0.15質量%以上である。一方、塗り床材中の湿潤分散剤の含有量が多過ぎると、導電性が低下するおそれがある。そのため、塗り床材中の湿潤分散剤の含有量は、好ましくは0.40質量%以下、より好ましくは0.32質量%以下、さらに好ましくは0.25質量%以下である。
【0025】
本明細書において「フタロシアニン系顔料」とは、フタロシアニン骨格を有する顔料のことをいう。フタロシアニン系顔料のフタロシアニン骨格により、単層カーボンナノチューブを安定に分散させることができ、これにより、塗り床材を用いて形成される硬化塗膜において、低電圧でも導電パスが形成され、高い導電性を発現することができる。このフタロシアニン系顔料による単層カーボンナノチューブの分散安定化効果は長期にわたって発揮され、これにより塗り床材の貯蔵安定性も高くなる。また、塗り床材に、新たな種類の添加剤を用いる場合、他の成分に悪影響を及ぼすことが起こり得る。しかしながら、顔料は、塗り床材に通常含有される成分であるため、非常に多種類ある顔料の中の1種の顔料であるフタロシアニン系顔料によって、単層カーボンナノチューブを安定に分散させて低電圧での導電性を達成できることは、他の成分への悪影響が防がれているため有利である。
【0026】
フタロシアニン骨格(特に、フタロシアニン環)は、無置換であっても、置換されていてもよい。フタロシアニン骨格が置換されている場合、置換基の例としては、ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)などが挙げられ、なかでも、塩素原子が好ましい。また、フタロシアニン系顔料は、配位金属を有していてもよいし、有していなくてもよい。より高い導電性の観点から、フタロシアニン系顔料は、配位金属を有していることが好ましい。配位金属の例としては、銅(Cu)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)等が挙げられる。配位金属として好ましくは、銅(Cu)である。
【0027】
フタロシアニン系顔料の好適な例としては、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー等が挙げられる。より高い導電性の観点から、これらのうち、フタロシアニングリーンが好ましい。フタロシアニン系顔料の具体例としては、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン38、C.I.ピグメントグリーン58、C.I.ピグメントグリーン59、C.I.ピグメントグリーン62、C.I.ピグメントグリーン63、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー15:6、C.I.ピグメントブルー16等が挙げられる。フタロシアニン系顔料は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
塗り床材中のフタロシアニン系顔料の含有量は、特に限定されないが、少な過ぎると導電性が不十分となるおそれがある。そのため、塗り床材中のフタロシアニン系顔料の含有量は、好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.10質量%以上である。一方、フタロシアニン系顔料は少量でも十分に着色できるため、塗り床材中のフタロシアニン系顔料の含有量は、好ましくは1.00質量%以下、より好ましくは、0.80質量%以下、さらに好ましくは0.60質量%以下である。
【0029】
塗り床材がフタロシアニン系顔料を含有する場合、第2の顔料として酸化鉄系顔料をさらに含有していてもよい。酸化鉄系顔料は、酸化鉄系顔料は組成と結晶構造の違いにより赤色,黄色および黒色のさまざまな色相を呈する。塗り床材は、フタロシアニン系顔料を含有することによって、フタロシアニン系顔料の呈する色調を備える。そこに、酸化鉄系顔料を配合することによって、この色調を整えることができる。また、酸化鉄系顔料は、無機粒子であるため、硬化塗膜の強度等を向上させることができる。酸化鉄系顔料の例としては、赤色酸化鉄顔料(べんがら)、黒色酸化鉄顔料(鉄黒)、黄色酸化鉄顔料(黄鉄)等が挙げられる。酸化鉄系顔料は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
塗り床材中の酸化鉄系顔料の含有量は、特に限定されず、所望の色調に応じて適宜決定すればよい。塗り床材中の酸化鉄系顔料の含有量は、例えば、3質量%以上20質量%以下である。
【0031】
〔レベリング剤〕
塗り床材は、仕上がり性を向上させるために、レベリング剤を含有していてもよい。レベリング剤としては、塗り床材に用いられている公知のものを用いてよい。レベリング剤の例としては、アクリル系ポリマー等が挙げられる。レベリング剤として、共栄社化学社製の「ポリフロー」シリーズを用いてよい。レベリング剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
塗り床材中のレベリング剤の含有量は、特に限定されないが、少な過ぎると仕上がり性が低下するおそれがある。そのため、塗り床材中のレベリング剤の含有量は、好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.07質量%以上である。一方、塗り床材中のレベリング剤の含有量が多過ぎると、導電性が不十分となるおそれがある。そのため、塗り床材中のレベリング剤の含有量は、好ましくは0.40質量%以下、より好ましくは0.30質量%以下、さらに好ましくは0.15質量%以下である。塗り床材がフタロシアニン系顔料を含有する場合には、塗り床材中のレベリング剤の含有量は、好ましくは0.17質量%以下、より好ましくは0.15質量%以下、さらに好ましくは0.13質量%以下である。
【0033】
〔消泡剤〕
塗り床材は、仕上がり性を向上させるために、消泡剤を含有していてもよい。消泡剤としては、塗り床材に用いられている公知のものを用いてよい。消泡剤の例としては、アクリル系ポリマー、ビニルエーテル系ポリマー、およびこれらの混合物等が挙げられる。消泡剤として、共栄社化学社製の「フローレン」シリーズを用いてよい。消泡剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
塗り床材中の消泡剤の含有量は、特に限定されないが、少な過ぎると仕上がり性が低下するおそれがある。そのため、塗り床材中の消泡剤の含有量は、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上、さらに好ましくは0.15質量%以上である。一方、塗り床材中の消泡剤の含有量が多過ぎると、導電性が不十分となるおそれがある。そのため、塗り床材中の消泡剤の含有量は、好ましくは0.60質量%以下、より好ましくは0.40質量%以下、さらに好ましくは0.25質量%以下である。塗り床材がフタロシアニン系顔料を含有する場合には、塗り床材中の消泡剤の含有量は、好ましくは0.25質量%以上、より好ましくは0.30質量%以上、さらに好ましくは0.35質量%以上であり、一方で、好ましくは0.55質量%以下、より好ましくは0.50質量%以下、さらに好ましくは0.45質量%以下である。
【0035】
塗り床材は、色調の調整等を目的として、上記以外の顔料をさらに含有していてもよい。顔料としては、塗り床材に用いられている公知のものを用いてよい。顔料の含有量は、顔料の種類と所望の色調等に応じて適宜設定すればよい。
【0036】
塗り床材は、強度向上、着色性向上等を目的として、絶縁性充填材を含有していてもよい。絶縁性充填材としては、塗り床材に用いられている公知のものを用いてよい。その例としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、アルミナ、シリカ、カオリン、タルク、マイカ、ガラスビーズ、ガラスマイクロバルーン、ガラス繊維等が挙げられ、なかでも炭酸カルシウム(特に、重質炭酸カルシウム)が好ましい。絶縁性充填材の含有量は、所望の強度等に応じて適宜設定すればよい。
【0037】
塗り床材は、粘度調整等を目的として、反応性希釈剤、非反応性希釈剤等を含有していてもよい。反応性希釈剤としては、例えば、常温硬化型樹脂と同種の反応性基を1つ以上有する化合物が挙げられる。具体的に例えば、常温硬化型樹脂がエポキシ樹脂である場合には、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル等のエポキシ基を有する化合物を用いることができる。非反応性希釈剤としては、例えば、常温硬化型樹脂と同種の反応性基を有しない化合物が挙げられる。具体的に例えば、常温硬化型樹脂がエポキシ樹脂である場合には、ベンジルアルコール等を用いることができる。これらの含有量は、所望の粘度等に応じて適宜設定すればよい。
【0038】
塗り床材は、本発明の効果を顕著に阻害しない範囲内で、上記以外の成分をさらに含有していてもよい。
【0039】
塗り床材の調製方法には特に制限はなく、公知方法に従い調製することができる。例えば、塗り床材の各成分を、施工現場等において一度に配合して調製するようにしてもよい。例えば、塗り床材は、硬化剤以外の成分を含有する主剤と、硬化剤とに分けた2液タイプであって、施工現場等で主剤と硬化剤とを混ぜて使用するタイプとして調製してもよい。例えば、2液タイプとして準備し、主剤成分として、絶縁性充填材を配合しないもの、または少な目に配合したものを用意しておき、例えば施工現場等において、下地の状況や塗り床に求められる特性等を考慮して求めた配合量となるように、主剤に絶縁性充填材を追加するようにしてもよい。
【0040】
下塗り層の形成は、上記の塗り床材を下塗り材として用いて、公知方法に従って形成することができる。例えば、床下地に、流し延べ工法によって下塗り材を塗工することにより、下塗り層を形成することができる。下塗り材の塗工量は、従来と同様であってよく、例えば、1mあたり1.0kg以上1.5kg以下の量である。また塗工量に関し、次工程で用いられる骨材の粒径が大きい場合には、塗工量を多めにし、骨材の粒径が小さい場合には、塗工量を少なめにするとよい。
【0041】
ここで、所定時間静置することによって、乾燥および常温硬化型樹脂の硬化を行うことができるが、従来のニート工法と同様に、骨材の粒子の一部が下塗り層に沈み込んで密着性が高まるように、常温硬化型樹脂の硬化が終わる前に、次の骨材散布工程を行うことが好ましい。
【0042】
次に、骨材散布工程について説明する。本発明においては、骨材として導電性骨材を用いる必要がない。よって、絶縁性の骨材を用いることが好ましい。絶縁性の骨材の使用は、ノンスリップ床の設計の自由度が大きくなり得るものであり、またコスト面で有利ともなり得る。
【0043】
絶縁性の骨材の例としては、珪砂、川砂、山砂、海砂、コランダム、ガーネット、エメリーなどの天然骨材;アルミナ、ジルコニア、炭化ホウ素、炭化ケイ素、陶器粉砕物などのセラミック骨材;ガラス粉末などが挙げられる。なかでも、コスト面から、珪砂が好ましい。なお、本発明においては、導電性骨材を用いる必要がないが、導電性骨材(例えば、アルミニウム粉末、上記絶縁性の骨材に導電成分(例、金属等)をコーティングした骨材等)を用いてもよい。
【0044】
骨材の形状および粒径は、特に限定されず、ノンスリップ床の所望の目の粗さに応じて適宜決定することができる。一般に、絶縁性の骨材の方が、導電性の骨材よりも、種々の形状および粒径のものを入手しやすいため、本発明において骨材として絶縁性のものを使用できることは有利である。
【0045】
骨材の散布量には特に制限はなく、骨材の種類や形状、ノンスリップ床の所望の目の粗さなどに応じて適宜決定すればよく、公知の常温硬化型樹脂を用いたノンスリップ床を施工する際の散布量と同様であってよい。
【0046】
下塗り層上に骨材を散布する方法については、特に限定はなく、公知方法に従って、下塗り層上に骨材が点在するように散布してよい。骨材の散布を行った後は、通常、下塗り層の常温硬化型樹脂が硬化するまで放置する。硬化後は、余剰の骨材を除去することが好ましい。
【0047】
次に、上塗り層形成工程について説明する。上塗り層形成工程に用いられる上塗り材としては、常温硬化型樹脂、および導電性フィラーとして単層カーボンナノチューブを含有する塗り床材が用いられる。当該塗り床材としては、上記下塗り材として使用される塗り床材と同様である。上塗り材には、下塗り材と同一の塗り床材を用いてもよいし、常温硬化型樹脂、および導電性フィラーとして単層カーボンナノチューブを含有する限り、下塗り材とは異なる塗り床材を用いてもよい。
【0048】
上塗り層の形成は、公知方法に従って行うことができる。例えば、下塗り層上に、流し延べ工法により、塗工することによって、上塗り層を形成することができる。上塗り材の塗工量は、骨材を十分に覆い、かつ骨材による凹凸が形成されるように適宜決定すればよく、例えば、1mあたり0.5kg以上1.0kg以下の量である。塗工後、所定時間静置することによって、乾燥および常温硬化型樹脂の硬化を行って、帯電防止性能を有するノンスリップ床を完成させることができる。
【0049】
以上のようにして、帯電防止性能を有するノンスリップ床を施工することができる。本発明の方法により施工されるノンスリップ床においては、従来技術と異なり、間に骨材がなく下塗り層と上塗り層とが接触する界面部分においても高い導電性が得られる。よって、導電性の骨材を用いなくても、下塗り層と上塗り層との間で導電パスが形成されるため、帯電防止性能を発揮することができる。したがって、従来技術と比べて、ノンスリップ床の設計の自由度が大きくなり得るものであり、低コストにもなり得るものである。
【0050】
本発明の施工方法は、各種の生産施設の床をはじめ、様々な建物の床に対して実施することができる。本発明の施工方法によって施工されるノンスリップ床は、50Vさらには25Vにおける導電性を示し得るものであり、このような低電圧でも導電性を示すノンスリップ床は、低電圧での電子部品の破壊のような静電気障害をも防止することができる。よって、このような低電圧でも導電性を示すノンスリップ床は、電子部品の研究施設および生産施設に好適である。
【実施例1】
【0051】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0052】
実施例1,2、比較例1および参考例1
表1に記載の各成分を混合することによって、導電性主剤Aおよび導電性主剤Bを作製した。この導電性主剤Aおよび導電性主剤Bを用いて、表2に示す下塗り材および上塗り材を準備することともに、表2に示す骨材を準備した。プライマー層および導電性プライマー層(抵抗:約10Ω)を形成した平板上に、下塗り材を鏝で塗工し、下塗り層を形成した。下塗り層が硬化する前に、下塗り層の上に骨材を散布した。下塗り層が硬化した後、上塗り材をその上にローラーで塗工し、上塗り層を形成した。このようにしてノンスリップ床のサンプルを作製した。
【0053】
このノンスリップ床のサンプルに対し、導電性評価としてNFPA法およびJIS A1454:2016に準じて、絶縁抵抗計を用いて印加電圧を500Vおよび25Vとした場合の抵抗を測定した。なお、電極として2.25kgの鉄製円柱を用い、電極間距離は3フィート(約91cm)とした。測定結果を表2に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表中の各成分の値は、質量部を示す。
ポリフロー#85:共栄社化学社製のレベリング剤「ポリフロー#85」
フローレンAC324:共栄社化学社製の消泡剤「フローレンAC324」
MATRIX201:OCSIAL社製「TUBALL MATRIX201」(単層カーボンナノチューブ:脂肪酸グリシジルエステル(反応性希釈剤)=1:9の質量比で含有)
BYK-9076:ビックケミージャパン社製の湿潤分散剤「BYK-9076」(ポリウレタン主鎖にポリエステル鎖がグラフトされたポリマーのアルキルアンモニウム塩;酸価=38mgKOH/g、アミン価=44mgKOH/g)
【0056】
【表2】
【0057】
表中の各成分の値は、施工面積1mあたりの質量(kg)を示す。
【0058】
表1に示すように、導電性主剤AおよびA'を用いた塗り床材が、常温硬化型樹脂および単層カーボンナノチューブを含有する塗り床材となり、導電性主剤Bを用いた塗り床材が、従来の導電性フィラーを用いた塗り床材となる。
【0059】
比較例1および参考例1が、従来技術の塗り床材を下塗り材および上塗り材に用いた試験例である。比較例1および参考例1の結果が示すように、従来技術の塗り床材を下塗り材および上塗り材を用いた場合、骨材に導電性のアルミニウム粉末を用いることによって、導電性が得られたものの、骨材に絶縁性の珪砂を用いたのでは、導電性が得られなかった。
【0060】
一方で、常温硬化型樹脂および単層カーボンナノチューブを含有する塗り床材を下塗り材および上塗り材に用いた実施例1~4では、骨材に絶縁性の珪砂を用いたのにも関わらず、導電性が得られた。すなわち、実施例1~4では、導電性の骨材を用いなくてもノンスリップ床に帯電防止性能を付与することができた。このことから、本発明によれば、導電性の骨材を用いなくても帯電防止性能を発揮するノンスリップ床を施工可能であることがわかる。また、実施例1および2で用いた5号珪砂と実施例3および4で用いた6号珪砂とは、粒子の粗さが異なっている。このことから、ノンスリップ床を所望の目の粗さとすることが容易であるといえ、本発明によれば、ノンスリップ床設計の自由度が大きくなっていることがわかる。