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特許7567285成形フィルム用導電性組成物、成形フィルムおよびその製造方法、成形体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】成形フィルム用導電性組成物、成形フィルムおよびその製造方法、成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20241008BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20241008BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20241008BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20241008BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20241008BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20241008BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20241008BHJP
   C08K 5/04 20060101ALI20241008BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/01
B32B27/18 J
H01B1/20 A
H01B5/14 B
H01B13/00 503D
C08K5/01
C08K5/04
B29C45/14
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020142037
(22)【出願日】2020-08-25
(65)【公開番号】P2022037748
(43)【公開日】2022-03-09
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】戸崎 広一
(72)【発明者】
【氏名】原田 知明
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-094107(JP,A)
【文献】特開2019-189680(JP,A)
【文献】特開2007-158073(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0308457(US,A1)
【文献】国際公開第2014/073530(WO,A1)
【文献】特開2020-057691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
B32B 27/18
H01B 1/20
H01B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸面または三次元曲面を有する基材表面に導電層を形成するための成形フィルムの製造用の導電性組成物であって、
樹脂(A)と、導電性微粒子(B)と、溶剤(C)と、を含有し、
前記溶剤(C)が、下記条件(1)及び条件(2)を満たす溶剤(C1)と、下記条件(1)及び条件(3)を満たす溶剤(C2)(ただし、溶剤(C1)を除く)とを含み、
溶剤(C1)と溶剤(C2)との質量比率が、15:85~85:15であり、
溶剤(C1)及び溶剤(C2)の合計含有量が、溶剤(C)100質量部中に30質量部以上である、成形フィルム用導電性組成物。
条件(1)沸点180℃以上270℃以下である
条件(2)分子構造中に芳香族構造を有する
条件(3)分子構造中に脂環式構造およびエステル結合を有する
【請求項2】
前記樹脂(A)が、ガラス転移点を0℃以上130℃未満に1つ以上有し0℃未満に有さない樹脂である、請求項1に記載の成形フィルム用導電性組成物。
【請求項3】
前記導電性微粒子(B)が、銀粉、銅粉、銀コート粉、銅合金粉、導電性酸化物粉、およびカーボン微粒子より選択される1種以上の導電性微粒子を含む、請求項1または2に記載の成形フィルム用導電性組成物。
【請求項4】
前記樹脂(A)が、主鎖中に環状構造を有する、請求項1~3のいずれか一項記載の成形フィルム用導電性組成物。
【請求項5】
前記樹脂(A)が、主鎖中に芳香環構造およびエステル結合を有する、請求項1~4のいずれか一項記載の成形フィルム用導電性組成物。
【請求項6】
前記溶剤(C1)及び前記溶剤(C2)の合計含有量が、前記溶剤(C)100質量部中に40質量部以上である、請求項1~5のいずれか一項記載の成形フィルム用導電性組成物。
【請求項7】
ベースフィルム上に導電層を備えた成形フィルムであって、
前記導電層が、請求項1~6のいずれか一項記載の成形フィルム用導電性組成物の硬化物である、成形フィルム。
【請求項8】
ベースフィルム上に、加飾層と、導電層とを有する成形フィルムであって、
前記導電層が、請求項1~6のいずれか一項記載の成形フィルム用導電性組成物の硬化物である、成形フィルム。
【請求項9】
前記ベースフィルムが、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレン及び、ポリエチレンテレフタレートより選択されるフィルム、又はこれらの積層フィルムである、請求項7~8のいずれか一項記載の成形フィルム。
【請求項10】
基材上に、導電層が積層した成形体であって、
前記導電層が、請求項1~6のいずれか一項記載の成形フィルム用導電性組成物の硬化物である、成形体。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか一項に記載の成形フィルム用導電性組成物をベースフィルム上に印刷し、乾燥することにより成形フィルムを製造する工程と、
基材上に前記成形フィルムを配置する工程と、
オーバーレイ成形法により、前記成形フィルムと前記基材とを一体化する工程と、を含む、成形体の製造方法。
【請求項12】
請求項1~6のいずれか一項に記載の成形フィルム用導電性組成物をベースフィルム上に印刷し、乾燥することにより成形フィルムを製造する工程と、
前記成形フィルムを所定の形状に成形する工程と、
成形後の前記成形フィルムを、射出成形用の型内に配置する工程と、
射出成形により基材を成形すると共に、前記成形フィルムと前記基材とを一体化する工程と、を含む、成形体の製造方法。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか一項に記載の成形フィルム用導電性組成物をベースフィルム上に印刷し、乾燥することにより成形フィルムを製造する工程と、
前記成形フィルムを、射出成形用の型内に配置する工程と、
射出成形により基材を成形すると共に、前記成形フィルム中の導電層を基材側に転写する工程と、を含む、成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形フィルム用導電性組成物、成形フィルムおよびその製造方法、成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、樹脂成形体と、当該樹脂成形体の一面に対して面一になるように埋め込まれたベースフィルムと、前記樹脂成形体と前記ベースフィルムとの間に配置された導電回路とを有する特定の導電回路一体化成形品が開示されている。
特許文献1には、当該導電回路一体化成形品の製造方法として、特定の導電回路が形成されたベースフィルムを射出成形用金型のキャビティ面に配置した後、溶融樹脂を射出して、樹脂成形体を射出成形することが記載されている。
特許文献1において、導電回路は、特定の透明金属薄膜をエッチングすることにより形成されている。
【0003】
エッチング法に代わる導電回路の形成方法として、導電性インキを用いた印刷方法が検討されている。導電性インキを印刷する手法によれば、エッチング法と比較して、煩雑な工程がなく、容易に導電回路を形成することができ、生産性が向上し、低コスト化を図ることができる。
例えば特許文献2には、スクリーン印刷によって高精細な導電性パターンを形成することが可能な低温処理型の導電性インキとして、特定の導電性微粒子と、特定のエポキシ樹脂とを含有する特定の導電性インキが開示されている。スクリーン印刷によれば導電パターンの厚膜化が可能であり、導電パターン低抵抗化が実現できるとされている。
【0004】
また、特許文献3には、3次元的な立体感を表現することが可能な加飾シートの製造方法として、透明樹脂層上にパターン状に印刷された印刷層を有する積層体と、ベースフィルム上に装飾層を有する積層シートとを熱圧着させることにより、前記装飾層を前記印刷層のパターンに沿った凹凸形状とする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-11691号公報
【文献】特開2011-252140号公報
【文献】特開2007-296848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の手法によれば、成形体の表面に、容易に導電体を設けることができる。一方、凹凸面や曲面を有する基材など、様々な形状の基材表面に導電回路を形成したいという要望が高まっている。このような基材表面に導電層を有するフィルムを張り合わせて導電回路を形成する場合、当該フィルムは基材の表面形状に合わせて変形する必要がある。当該フィルムの変形時に、導電層には部分的に大きな引張力が生じることがある。当該引張力により導電層の破断などが生じ、導電性の低下が問題となった。さらにそのような凹凸面や曲面を有する基材上に導電回路を形成する際、前記の導電層を有するフィルムを変形させたのち、または変形させるのと同時にフィルムと前記基材とを一体化することが必要となるが、この一体化工程において高温下でプラスチック基材と摩擦されることによる応力ストレスが導電回路に加わる。当該高温下応力ストレスによっても導電層の破断などが生じ、導電性の低下が問題となった。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、引張力および高温下応力ストレスによる導電性の低下が抑制された成形フィルムを製造可能な成形フィルム用導電性組成物、引張力および高温下応力ストレスによる導電性の低下が抑制された成形フィルム、及び、導電性に優れた成形体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施に係る成形フィルム用導電性組成物は、
凹凸面や三次元曲面を有する基材表面に導電層を形成するための成形フィルムの製造用の導電性組成物であって、
樹脂(A)と、導電性微粒子(B)と、溶剤(C)と、を含有し、
前記溶剤(C)が、下記条件(1)及び条件(2)を満たす溶剤(C1)と、下記条件(1)及び条件(3)を満たす溶剤(C2)とを含む。
条件(1)沸点180℃以上270℃以下である
条件(2)分子構造中に芳香族構造を有する
条件(3)分子構造中に脂環式構造およびエステル結合を有する
【0009】
本実施の成形フィルム用導電性組成物の一実施形態は、 前記樹脂(A)が、ガラス転移点を0℃以上130℃未満に1つ以上有し0℃未満に有さない樹脂である。
【0010】
本実施の成形フィルム用導電性組成物の一実施形態は、前記導電性微粒子(B)が、銀粉、銅粉、銀コート粉、銅合金粉、導電性酸化物粉、およびカーボン微粒子より選択される1種以上の導電性微粒子を含む。
【0011】
本実施の成形フィルム用導電性組成物の一実施形態は、前記樹脂(A)が、主鎖中に環状構造を有する。
【0012】
本実施の成形フィルム用導電性組成物の一実施形態は、前記樹脂(A)が、主鎖中に芳香環構造およびエステル結合を有する。
【0013】
本実施の成形フィルム用導電性組成物の一実施形態は、前記溶剤(C1)及び前記溶剤(C2)の合計含有量が、前記溶剤(C)100質量部中に合計40質量部以上である。
【0014】
本実施に係る成形フィルムは、ベースフィルム上に導電層を備えた成形フィルムであって、
前記導電層が、前記本実施の成形フィルム用導電性組成物の硬化物である。
【0015】
本実施の成形フィルムの一実施形態は、ベースフィルム上に、加飾層と、導電層とを有する成形フィルムであって、
前記導電層が、前記本実施の成形フィルム用導電性組成物の硬化物である。
【0016】
本実施の成形フィルムの一実施形態は、前記ベースフィルムが、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレン及び、ポリエチレンテレフタレートより選択されるフィルム、又はこれらの積層フィルムである。
【0017】
本実施に係る成形体は、基材上に、導電層が積層した成形体であって、
前記導電層が、前記本実施の成形フィルム用導電性組成物の硬化物である。
【0018】
本実施に係る成形体の第1の製造方法は、前記本実施の成形フィルム用導電性組成物をベースフィルム上に印刷し、乾燥することにより成形フィルムを製造する工程と、
基材上に前記成形フィルムを配置する工程と、
オーバーレイ成形法により、前記成形フィルムと前記基材とを一体化する工程と、を含む。
【0019】
本実施に係る成形体の第2の製造方法は、前記本実施の成形フィルム用導電性組成物をベースフィルム上に印刷し、乾燥することにより成形フィルムを製造する工程と、
前記成形フィルムを所定の形状に成形する工程と、
成形後の前記成形フィルムを、射出成形用の型内に配置する工程と、
射出成形により基材を成形すると共に、前記成形フィルムと前記基材とを一体化する工程と、を含む。
【0020】
本実施に係る成形体の第3の製造方法は、前記本実施の成形フィルム用導電性組成物をベースフィルム上に印刷し、乾燥することにより成形フィルムを製造する工程と、
前記成形フィルムを、射出成形用の型内に配置する工程と、
射出成形により基材を成形すると共に、前記成形フィルム中の導電層を基材側に転写する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、引張力および高温下応力ストレスによる導電性の低下が抑制された成形フィルムを製造可能な成形フィルム用導電性組成物、引張力および高温下応力ストレスによる導電性の低下が抑制された成形フィルム、及び、導電性に優れた成形体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施の成形フィルムの一例を示す、模式的な断面図である。
図2】本実施の成形フィルムの別の一例を示す、模式的な断面図である。
図3】成形体の第1の製造方法の一例を示す、模式的な工程図である。
図4】成形体の第2の製造方法の別の一例を示す、模式的な工程図である。
図5】成形体の第3の製造方法の別の一例を示す、模式的な工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本実施に係る成形フィルム用導電性組成物、成形フィルム、成形体及びその製造方法について順に詳細に説明する。
なお本実施において、硬化物とは、化学反応により硬化したもののみならず、例えば溶剤が揮発することにより硬くなったものなど、化学反応によらずに硬化したものを包含する。
【0024】
[成形フィルム用導電性組成物]
樹脂(A)と、導電性微粒子(B)と、溶剤(C)と、を含有し、
前記溶剤(C)が、下記条件(1)及び条件(2)を満たす溶剤(C1)と、下記条件(1)及び条件(3)を満たす溶剤(C2)とを含む。
条件(1)沸点180℃以上270℃以下である
条件(2)分子構造中に芳香族構造を有する
条件(3)分子構造中に脂環式構造およびエステル結合を有する。
【0025】
本発明者らは、平坦でない基材表面に適用可能であり、かつプラスチック基材との一体化工程へのプロセス適性を有する成形フィルムを製造するために、スクリーン印刷可能な導電性組成物の検討を行った。成形フィルムの製造に適用するために、樹脂構造と導電性微粒子と溶剤とを各種調整し検討したところ、導電性組成物に含まれる溶剤の種類、とりわけ特定の2種のグループから各々選ばれる複数の溶剤からなる混合溶剤の使用によって、得られた成形フィルムを成形可能な高温下で引張変形させたときに生じるヒビの発生頻度異なり、更には上記混合溶剤と組み合わせる樹脂のガラス転移点や主鎖構造により、高速で印刷した際の欠けや掠れなどの印刷欠陥の発生頻度や、上記高温下での特に変形度が大きい場合の引張変形時の抵抗値変化の大きさが異なるという知見を得た。本発明者らはこのような知見に基づいて検討を行った結果、樹脂フィルム上に芳香族構造を有する高沸点溶剤と脂環式構造とエステル結合を共に有する高沸点溶剤のいずれか1つまたは両方を全く含まない導電性組成物を印刷および加熱乾燥した場合、成形フィルムをその軟化点に当たる高温での引っ張りにより変形させた際に導電層パターンの著しい導電性劣化や導電層の亀裂発生が生じること、さらに上記導電性組成物を印刷する際の印刷速度を上げた際に欠けや掠れなどの印刷欠陥の発生頻度が大きく増大ことが明らかとなった。また、加飾層上に導電層を設ける場合も同様であった。
【0026】
このような高温での引っ張りにより変形させた際に導電層の亀裂発生や大きな抵抗値変化が生じるような導電層を有する成形フィルムであっても、それ単体を平坦なフィルム回路基板などとして使用する場合、また二次元曲面上に曲げた状態で使用する場合には問題とならなった。しかしながら平坦でない基材表面の形状、例えば凹凸形状や三次元曲面形状に追従させ一体化させる成形フィルムとして使用する場合には、成形フィルムは変形を伴うことになる。そのため、樹脂フィルムの変形に対し導電層が追随できずベースフィルムからの剥離乃至断線が起こることにより、導電層の導電性が低下しているものと予測される。
なお、本発明における凹凸面や三次元曲面とは、なだらかな曲線断面を有する面のみでなく、鋭角状の角や矩形形状を有する立体面全般を示す。すなわち、平面を伸縮することなく変形させることのみでは、成立させることのできない立体形状を指し、例えば半球状、円錐状、円柱状、四角柱状等の立体形状を指すものである。なお、ある立体形状が、連続した立体面内に先述の平面または二次元曲面と、三次元曲面の両方の要素を有する場合、例えば平面形状に1か所以上の部分的な半球状形状が組み合わされた立体形状に関しては、全体として平面を伸縮することなく変形させることによって成立させることのできない立体形状であることから、これも三次元曲面であるものとする。即ち本発明における凹凸面や三次元曲面は、フレキシブル基板等を折り曲げることでは実現できないものであり、たとえば、成形性フィルムの加熱下での立体成形による賦形などによって実現可能となる形状である。
【0027】
本発明者らはこれらの知見に基づいて鋭意検討を行った結果、芳香族構造を有する高沸点溶剤と脂環式構造とエステル結合を共に有する高沸点溶剤の両方を含む混合溶剤を含有する際に成形フィルムを特に大きな変形度を伴って引張った際に生じる抵抗値の変化が小さくなり、また上記導電性組成物を印刷する際の印刷速度を上げ、生産性を上げた状態での印刷を行った際に欠けや掠れなどの印刷欠陥の発生が高度に抑制されることを見出して、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明の成形フィルム用導電性組成物は、樹脂と導電性微粒子と、芳香族構造を有する高沸点溶剤と脂環式構造とエステル結合を共に有する高沸点溶剤の両方を含む混合溶剤とを併用することにより、スクリーン印刷等で、導電性に優れた厚膜の導電層を有する成形フィルムを容易に製造することができる。また、当該成形フィルム用導電性組成物を用いて製造された成形フィルムは、平坦でない基材表面に用いた場合であっても導電性の低下が抑制される。更に、当該成形フィルムを用いることで、実用的な強度をもつ立体形状プラスチックからなる基材上の凹凸面や曲面などの任意の面に導電回路が形成された成形体を得ることができる。
【0028】
本実施の成形フィルム用導電性組成物は、少なくとも、樹脂(A)と、導電性微粒子(B)と、溶剤(C)と、を含有するものであり、必要に応じて更に他の成分を含有してもよいものである。以下このような成形フィルム用導電性組成物の各成分について説明する。
【0029】
<樹脂(A)>
本実施の導電性組成物は、成膜性や、ベースフィルム乃至加飾層への密着性を付与するために、バインダー性の樹脂(A)を含有する。また、本実施においては、樹脂(A)を含有することにより、導電層に柔軟性を付与することができる。そのため、樹脂(A)を含有することにより延伸に対する導電層の断線が抑制される。
【0030】
前記樹脂(A)は、導電性組成物用途に用いられる樹脂の中から適宜選択して用いることができる。
樹脂(A)としては、例えば、アクリル系樹脂、ビニルエーテル樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン系ブロック共重合樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂などが挙げられ、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
樹脂(A)の主鎖構造としては、後述する溶剤(C)、特に(C1)および溶剤(C2)との親和性の高さにより、導電性組成物中での樹脂(A)のより大きな分子鎖の広がりと絡み合いにより、成形引張時の導電性維持や印刷時の欠陥抑制性能が高まる点において、主鎖構造が環状構造を含むことが好ましく、主鎖構造が芳香環構造とエステル結合をともに有することが特に好ましい。
なお本発明における環状構造とは、一つの環が4員環~14員環の脂環式構造、芳香環構造またはヘテロ環構造を指す。
上記脂環式構造としては、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環、シクロデカン環、シクロテトラデカン環等の単環式構造や、ボルナン環、イソボルナン環、アダマンタン環、デカリン環、ステロイド骨格などの縮環構造などが挙げられる。
また上記芳香環構造としては、ベンゼン環、フラン環、1,4-ジオキシン環、ピロール環、ピリジン環、ピラジン環、トリアジン環、イミダゾール環、ピラゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、チオフェン環、トリアゾール環、テトラゾール環等の単環式構造や、などのナフタレン環、テトラリン環、アズレン環、アントラセン環、ペリレン環、インダン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンズイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環などの縮環構造などが挙げられる。なお上記例のように、本発明においては芳香環構造が脂環式構造と縮環乃至直接結合している構造や、芳香族性を示すヘテロ環構造は、いずれも芳香環構造とする。
上記ヘテロ環構造としては、本発明においては上記芳香環構造以外の含ヘテロ原子(非炭素原子)環構造を示し、例えばテトラヒドロフラン環、ピラン環、テトラヒドロピラン環、ピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、イソシアヌレート環などが挙げられる。
上記樹脂(A)の主鎖構造中における上記環状構造の連結部位としては特に制限されず、環状構造を構成する任意の1原子乃至2原子から計2つ以上の共有結合を介して主鎖中に連結されていればよい。
【0032】
本実施において樹脂(A)は、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、酸無水物基より選択される置換基を1分子中に2つ以上有することも好ましい。この場合、後述する架橋剤(D)と組み合わせることにより樹脂(A)を3次元架橋することができ、導電層に硬度が求められる用途において好適に用いることができる。
【0033】
樹脂(A)が、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、及び酸無水物基より選択される官能基を有する場合、その官能基価は、1mgKOH/g以上400mgKOH/g以下であることが好ましく、2mgKOH/g以上350mgKOH/g以下であることが好ましい。なお、官能基価の算出方法の詳細は、後述する実施例で説明する。
なお樹脂(A)が複数種類の官能基を有する場合、官能基価はその合計とする。例えば、樹脂(A)がヒドロキシ基と、カルボキシル基とを有する場合には、官能基価は、樹脂(A)の水酸基価と、酸価との合計を表す。
【0034】
樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、成形引張時の導電性維持とプラスチック基材との一体化工程における高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレス耐性の両立の観点から、樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)が0℃以上130℃以下であることが好ましく、5℃以上120℃以下であることがより好ましい。また同様の観点から、樹脂(A)が複数のガラス転移点を有する場合には、いずれのガラス転移点も0℃未満でないことが好ましい。
【0035】
本実施において樹脂(A)は、後述の実施例、その他公知の方法により合成して用いてもよく、また、所望の物性を有する市販品を用いてもよい。本実施において樹脂(A)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
本実施の導電性組成物中の樹脂(A)の含有割合は、用途等に応じて適宜調整すればよく特に限定されないが、導電性組成物に含まれる固形分全量に対し、5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、8質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。樹脂(A)の含有割合が上記下限値以上であれば、成膜性や、ベースフィルム等への密着性向上し、また、導電層に柔軟性を付与することができる。また、樹脂(A)の含有割合が上記上限値以下であれば、相対的に導電性微粒子(B)の含有割合を高めることができ、導電性に優れた導電層を形成することができる。
【0037】
<導電性微粒子(B)>
導電性微粒子(B)は、導電層内で複数の導電性微粒子が接触して導電性を発現するものであり、本実施においては、高温で加熱することなく導電性が得られるものの中から適宜選択して用いられる。
本実施に用いられる導電性微粒子としては、金属微粒子、カーボン微粒子、導電性酸化物微粒子などが挙げられる。
金属微粒子としては、例えば、金、銀、銅、ニッケル、クロム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、インジウム、アルミニウム、タングステン、モルブテン、白金等の金属単体粉のほか、銅-ニッケル合金、銀-パラジウム合金、銅-スズ合金、銀-銅合金、銅-マンガン合金などの合金粉、前記金属単体粉または合金粉の表面を、銀などで被覆した金属コート粉などが挙げられる。また、カーボン微粒子としては、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブなどが挙げられる。また、導電性酸化物微粒子としては、酸化銀、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ルテニウムなどが挙げられる。
【0038】
本実施においては、中でも、銀粉、銅粉、銀コート粉、銅合金粉、導電性酸化物粉、およびカーボン微粒子より選択される1種以上の導電性微粒子を含むことが好ましい。これらの導電性微粒子(B)を用いることにより、焼結することなく、導電性に優れた導電層を形成することができ、さらに後述する成形フィルムとして立体形状に成形した際の延伸性や導電性の保持性能に優れた導電層を形成することができる。
【0039】
導電性微粒子(B)の形状は特に限定されず、球状、フレーク状、連鎖凝集状などのものを適宜使用することができるが、印刷性の保持と成形引張時の導電性維持の観点から特にフレーク状または連鎖凝集状のものが好ましい。
なお本発明における「球状」とは真球上、卵型、潰れた球状、礫状、多面体状のアスペクト比の低い、具体的にはアスペクト比1以上2以下程度の粒子全般を指す。また本発明における「フレーク状」とは、鱗片状、鱗状、板状、扁平状、シート状等と呼称される2次元平面状の扁平形状全般を指し、その中でもアスペクト比が3以上500以下のものが特に好ましい。さらに本発明における「連鎖凝集状」とは上記球状の導電性微粒子が複数個直接融合・結合した、不定形形状全般を指す。
【0040】
導電性微粒子(B)のD50粒子径は特に限定されないが、導電性組成物中での分散性や印刷性の保持、成形時の導電性維持および、溶融樹脂による射出成型プロセス耐性または成形済樹脂へ高温下摩擦耐性の観点から、0.2μm以上30μm未満が好ましく0.7μm以上15μm未満が特に好ましい。なお本実施において導電性微粒子(B)の平均粒子径は以下のように算出する。JISM8511(2014)記載のレーザ回折・散乱法に準拠し、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製:マイクロトラック9220FRA)を用い、分散剤として市販の界面活性剤ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製:トリトンX-100)を0.5体積%含有する水溶液に導電性微粒子(B)を適量投入し、撹拌しながら40Wの超音波を180秒照射した後、測定を行った。求められたメディアン径(D50)の値を導電性微粒子(B)の平均粒径とした。
【0041】
本実施において導電性微粒子(B)は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本実施の導電性組成物中の導電性微粒子(B)の含有割合は、用途等に応じて適宜調整すればよく特に限定されないが、導電性組成物に含まれる固形分全量に対し、50質量%以上90質量%以下であることが好ましく、55質量%以上85質量%以下であることが好ましい。導電性微粒子(B)の含有割合が上記下限値以上であれば、導電性に優れた導電層を形成することができる。また、導電性微粒子(B)の含有割合が上記上限値以下であれば、樹脂(A)の含有割合を高めることができ、成膜性や、ベースフィルム等への密着性が向上し、また、導電層に柔軟性を付与することができる。
【0042】
<溶剤(C)>
本実施では、樹脂(A)を溶解し流動性を与え印刷性を付与したり、樹脂(A)の組成物中での分子鎖の広がりや絡まり合いを調製したりするために、溶剤(C)を含有する。また、本実施においては、溶剤(C)を含有することにより、上記分子鎖の広がりを調製し上記ベースフィルムへの印刷時の濡れ性を付与することで、印刷時のパターニング精度を向上することができる。
【0043】
本発明の溶剤(C)は、芳香族構造を有する高沸点溶剤(C1)と脂環式構造とエステル結合を共に有する高沸点溶剤(C2)の両方を含む。溶剤(C1)と溶剤(C2)の両方を含むことにより、樹脂(A)の溶解性とベースフィルムへの浸潤抑制性に優れるのみならず、印刷時のベースフィルムに対する適度な濡れ性が付与されることで、特に高速での印刷時のパターニング精度を向上し、また樹脂(A)の高分子鎖が溶媒(C)中で広く展開し適度な流動性を発揮しかつ導電層形成時には高分子鎖同士がよく絡まり合うことで、導電層内で導電粒子間の繋がり(導電パス)の切断に繋がるような、ミクロスケールでの局所的応力集中を抑制する効果を得ることができる。
【0044】
本発明の溶剤(C1)は、沸点180℃以上270℃以下でありかつ芳香族構造を有する溶剤であれば、特に制限なく使用することができる。また、溶剤(C1)単独としては常温で固体であっても、後述の溶剤(C2)やその他溶剤との混合溶剤として液体となれば問題なく使用することができる。
上記芳香環構造としては、ベンゼン環、フラン環、1,4-ジオキシン環、ピロール環、ピリジン環、ピラジン環、トリアジン環、イミダゾール環、ピラゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、チオフェン環、トリアゾール環、テトラゾール環等の単環式構造や、などのナフタレン環、テトラリン環、アズレン環、インダン環、インドール環、ベンゾフラン環などの縮環構造などが挙げられる。
このような溶剤(C1)の具体例としては、プレーニテン(1,2,3,4-テトラメチルベンゼン)(192℃)、デュレン(1,2,4,5-テトラメチルベンゼン)(192℃)、イソデュレン(1,2,3,5-テトラメチルベンゼン)(192℃)、テトラリン(1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン)(209℃)などの芳香族炭化水素や、アセトフェノン(202℃)、プロピオフェノン(218℃)、フェニルアセトン(215℃)などの芳香族ケトン、安息香酸メチル(199℃)、安息香酸エチル(213℃)、安息香酸プロピル(230℃)、フェニル酢酸エチル(226℃)、酢酸ベンジル(212℃)などの芳香族エステル、ベンジルアルコール(205℃)、α-メチルベンジルアルコール(204℃)、アニスアルコール(259℃)、2-フェノキシエタノール(247℃)、2-フェノキシプロパノール(244℃)、2-(ベンジルオキシ)エタノール(265℃)などの芳香族アルコールなどが挙げられるが、これらに制限されない(括弧内は各溶剤の沸点を示す)。溶剤(C1)は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
本発明の溶剤(C2)は、沸点180℃以上270℃以下でありかつ脂環式構造とエステル結合を同時に有する溶剤であれば、特に制限なく使用することができる。また、溶剤(C2)単独としては常温で固体であっても、溶剤(C1)や後述のその他溶剤との混合溶剤として液体となれば問題なく使用することができる。
上記脂環式構造としては、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環、シクロデカン環等の単環式構造や、ボルナン環、イソボルナン環、デカリン環などの縮環構造などが挙げられる。
このような溶剤(C2)の具体例としては、酢酸ジヒドロテルピニル(220℃)、酢酸テルピニル(220℃)、酢酸イソボルニル(227℃)、酢酸1-メンチル(215℃)、酢酸l-カルビル(229℃)、シクロヘキサン-1-カルボン酸メチル(183℃)などが挙げられるが、これらに制限されない(括弧内は各溶剤の沸点を示す)。溶剤(C2)は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、前記溶剤(C1)と溶剤(C2)の両方の条件に該当するものについては、溶剤(C1)に属するものとする。
【0046】
本発明の溶剤(C)は、溶剤(C1)と溶剤(C2)以外の溶剤(C3)を含んでもよい。溶剤(C3)としては、沸点180℃以上270℃以下であることが好ましく、例えば酢酸2-エトキシ(2-エトキシ)エチルや酢酸2-エトキシ(2-エトキシ)ブチル等のグリコールエステル、2-エトキシ(2-エトキシ)エタノールや2-ブトキシ(2-エトキシ)エタノール、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどのグリコールエーテルなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0047】
本発明の前記溶剤(C)100質量部中に占める溶剤(C1)及び溶剤(C2)の合計含有量は、前記の高速印刷適性や導電パスの切断抑制特性を効果的に発揮する観点から、40質量部以上100質量部以下であることが好ましい。また、溶剤(C1)と溶剤(C2)の比率は、15:85~85:15(質量比)であることが特に好ましい。
【0048】
<任意成分>
本発明の導電性組成物は、必要に応じてさらに他の成分を含有してもよい。このような他の成分としては、後述する架橋剤(D)のほか、分散剤、耐摩擦向上剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、芳香剤、酸化防止剤、有機顔料、無機顔料、消泡剤、シランカップリング剤、可塑剤、難燃剤、保湿剤等が挙げられる
【0049】
<架橋剤(D)>
【0050】
本実施において前記樹脂(A)を架橋するために架橋剤(D)を、追加で用いてもよい。架橋剤(D)としては、前記樹脂(A)が有する反応性官能基と架橋形成しうる反応性官能基を1分子中に2つ以上有するものの中から適宜選択して用いることができる。このような反応性官能基としては、たとえば、エポキシ基、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、アルキルオキシアミノ基、アジリジニル基、オキセタニル基、カルボジイミド基、β-ヒドロキシアルキルアミド基などが挙げられる。
架橋剤(D)は樹脂(A)100質量部に対して、0.05質量部以上30質量部以下用いることが好ましく、0.3質量部以上25質量部以下用いることがより好ましい。
【0051】
更に本実施においては、前記樹脂(A)として、ヒドロキシ基またはアミノ基より選択される第1の反応性官能基を1分子中に2つ以上有し、架橋剤(D)として、ブロック化イソシアネートを選択し、組み合わせることが特に好ましい。
ブロック化イソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の2官能イソシアネートまたはそれらのアロファネート体、ビウレット体、アダクト体、プレポリマー体、イソシアヌレート体等からなる2官能以上のイソシアネートのイソシアネート基が、ε-カプロラクタムやMEKオキシム等で保護(ブロック化)されたイソシアネート化合物であればよく、特に限定されるものではない。具体的には、上記イソシアネート化合物のイソシアネート基を、ε-カプロラクタム、MEKオキシム、シクロヘキサノンオキシム、ピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール、ジイソプロピルアミン、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、フェノール等でブロックしたものなどが挙げられる。
このような組合せで用いることにより、特に強靭性に優れかつ架橋により発生する架橋点構造により高温下での基材密着性に優れるため、引張力による導電性の低下が特に抑制された導電層を得ることができる。
【0052】
<導電性組成物の製造方法>
本実施の導電性組成物の製造方法は、前記樹脂(A)と、導電性微粒子(B)と、ワイヤー状微粒子(C)と必要により用いられるその他の成分とを、溶解乃至分散する方法であればよく、公知の混合手段により混合することにより製造することができる。
【0053】
[成形フィルム]
本実施の成形フィルムは、ベースフィルム上に導電層を備えた成形フィルムであって、
前記導電層が、前記成形フィルム用導電性組成物の硬化物であることを特徴とする。
本実施の成形フィルムによれば、凹凸面や曲面など任意の基材面に導電回路が形成された成形体を得ることができる。
本実施の成形フィルムによれば、凹凸面や曲面など任意の基材面に導電回路が形成された成形体を得ることができる。
本実施の成形フィルムの層構成について図1及び図2を参照して説明する。図1及び図2は、本実施の成形フィルムの一例を示す、模式的な断面図である。
図1の例に示される成形フィルム10は、ベースフィルム1上に、導電層2を備えている。導電層2は、ベースフィルム1の全面に形成されていてもよく、図1の例のように所望のパターン状に形成されていてもよい。
図2の例に示される成形フィルム10は、ベースフィルム1上に、加飾層3を有し、当該加飾層3上に、導電層2を備えている。また図2の例に示されるように、成形フィルム10は、導電層2上に、電子部品4や、取り出し回路に接続するためのピン5を備えていてもよい。
また、図示はしないが、導電層2上、又は電子部品4上には、当該導電層や電子部品を保護するための樹脂層を備えていてもよく、当該樹脂層が、後述する基材との密着性を向上するための粘着層または接着層となっていてもよい。
また、図示はしないが、本実施の成形フィルム10が加飾層3を備える場合、図2の例のほか、ベースフィルム1の一方の面に加飾層3を有し、他方の面に導電層2を備える層構成であってもよい。
本実施の成形フィルムは、少なくともベースフィルムと、導電層を備えるものであり、必要に応じて他の層を有してもよいものである。以下このような成形フィルムの各層について説明する。
【0054】
<ベースフィルム>
本実施においてベースフィルムは、基材形成時の成形温度条件下で基材表面の形状に追従可能な程度の柔軟性および延伸性を有するものの中から適宜選択することができ、成形体の用途や、成形体の製造方法などに応じて選択することが好ましい。
例えば、成形体の製造方法として、後述するオーバーレイ成形法や、フィルムインサート法を採用する場合には、ベースフィルムが成形体に残ることから、導電層の保護層としての機能を有することなどを考慮してベースフィルムを選択することができる。
一方、成形体の製造方法として後述するインモールド転写法などを採用する場合には、剥離性を有するベースフィルムを選択することが好ましい。
【0055】
ベースフィルムは上記の観点から適宜選択することができ、例えば、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂)、AES(アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合樹脂)、カイダック(アクリル変性塩ビ樹脂)、変性ポリフェニレンエーテル、及びこれら樹脂の2種以上からなるポリマーアロイ等のフィルムや、これらの積層フィルムであってもよい。中でも、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートより選択されるフィルム、又はこれらの積層フィルムであることが好ましい。積層フィルムとしては、中でも、ポリカーボネートとポリメチルメタクリレートの積層フィルムが好ましい。
ポリカーボネートとポリメチルメタクリレートの積層フィルムの製造方法は、特に限定されず、ポリカーボネートフィルムとポリメチルメタクリレートフィルムとを貼り合わせて積層してもよく、ポリカーボネートとポリメチルメタクリレートとを共押出しにより積層フィルムとしてもよい。
また、これらのベースフィルムの表面がコロナ処理等の改質処理が施されていることも好ましい。
【0056】
また、必要に応じ、導電性組成物の印刷性を向上させるなどの目的で、ベースフィルムにアンカーコート層を設け、当該アンカーコート層上に導電性組成物を印刷してもよい。アンカーコート層は、ベースフィルムとの密着性、更には導電性組成物との密着性が良好で成形時にフィルムに追従するものであれば、特に限定されず、また樹脂ビーズ等の有機フィラーや金属酸化物等の無機フィラーも必要に応じて添加してもよい。アンカーコート層を設ける方法は特に限定されず、従来公知の塗工方法にて塗布、乾燥、硬化して得ることができる。
また更に必要に応じ、成形体表面の傷つき防止のため、ベースフィルムにハードコート層を設け、その反対の面に導電性組成物および必要に応じて加飾層を印刷してもよい。ハードコート層は、ベースフィルムとの密着性、更には表面硬度が良好で成形時にフィルムに追従するものであれば、特に限定されず、また樹脂ビーズ等の有機フィラーや金属酸化物等の無機フィラーも必要に応じて添加してもよい。ハードコート層を設ける方法は特に限定されず、従来公知の塗工方法にて塗布、乾燥、硬化して得ることができる。
【0057】
また本実施の成形フィルムが加飾層を有する場合には、透明性を有するベースフィルムを選択することが好ましい。
【0058】
ベースフィルムの厚みは特に限定されないが、例えば、10μm以上500μm以下とすることができ、20μm以上450μm以下が好ましい。
【0059】
<導電層>
本実施の成形フィルムにおいて導電層は、前記導電性組成物の硬化物である。導電層は、パターニングされた導電層であっても、ベタ塗りされた導電層であっても良い。
導電層の形成方法は特に限定されないが、本実施においては、スクリーン印刷法、パッド印刷法、ステンシル印刷法、スクリーンオフセット印刷法、ディスペンサー印刷法、グラビアオフセット印刷法、反転オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法により形成することが好ましく、スクリーン印刷法により形成することがより好ましい。
スクリーン印刷法においては、導電回路パターンの高精細化に対応すべく微細なメッシュ、特に好ましくは300~650メッシュ程度の微細なメッシュのスクリーンを用いることが好ましい。この時のスクリーンの開放面積は約20~50%が好ましい。スクリーン線径は約10~70μmが好ましい。
スクリーン版の種類としては、ポリエステルスクリーン、コンビネーションスクリーン、メタルスクリーン、ナイロンスクリーン等が挙げられる。また、高粘度なペースト状態のものを印刷する場合は、高張力ステンレススクリーンを使用することができる。
スクリーン印刷のスキージは丸形、長方形、正方形いずれの形状であってもよく、またアタック角度(印刷時の版とスキージの角度)を小さくするために研磨スキージも使用することができる。その他の印刷条件等は従来公知の条件を適宜設計すればよい。
【0060】
導電性組成物をスクリーン印刷により印刷後、加熱して乾燥および架橋反応を行い硬化する。
溶剤の十分な揮発および架橋反応のために、加熱温度は80~230℃、加熱時間としては10~120分とすることが好ましい。これにより、パターン状の導電層を得ることができる。
導電層のパターンとしては特に限定されないが、例えば直線、曲線、メッシュや、部分的な四角、丸、ひし形形状等のベタパターンやベタ抜きパターンおよびそれらの任意の組合せ、または導電層全体が一面ベタパターンであってもよく、導電層が導電回路または導電回路の一部としての機能を発揮する限りにおいて限定されない。
パターン状導電層は、必要に応じて、導電パターンを被覆するように、絶縁層を設けてもよい。絶縁層としては、特に限定されず、公知の絶縁層を適用することができる。
【0061】
導電層の膜厚は、求められる導電性等に応じて適宜調整すればよく、特に限定されないが、例えば、0.5μm以上20μm以下とすることができ、1μm以上15μm以下とすることが好ましい。
【0062】
<加飾層>
本実施の成形フィルムは、得られる成形体の意匠性の点から、加飾層を有していてもよい。
加飾層は単色の色味を有する層であってもよく、任意の模様が付されたものであってもよい。
加飾層は、一例として、色材と、樹脂と、溶剤とを含有する加飾インキを調製した後、当該加飾インキを公知の印刷手段によりベースフィルムに塗布することにより形成することができる。
前記色材としては、公知の顔料や染料の中から適宜選択して用いることができる。また樹脂としては、前記本実施の導電性組成物における樹脂(A)と同様のものの中から適宜選択して用いることが好ましい。
加飾層の厚みは特に限定されないが、例えば0.5μm以上10μm以下とすることができ、1μm以上5μm以下とすることが好ましい。
【0063】
[成形体]
本実施の成形体は、基材上に少なくとも導電層が積層した成形体であって、前記導電層が、請求項1~5のいずれか一項記載の成形フィルム用導電性組成物の硬化物であることを特徴とする。本実施の成形体は、前記本実施の成形フィルム用導電性組成物を用いた成形フィルムにより形成されるため、凹凸面や曲面など、任意の面に導電回路が形成された成形体となる。
以下、本実施の成形体の製造方法について、3つの実施形態を説明する。なお、本実施の成形体は、前記本実施の導電性組成物を用いて製造されたものであればよく、これらの方法に限定されるものではない。
【0064】
<第1の製造方法>
本実施に係る成形体の第1の製造方法は、前記本実施の成形フィルム用導電性組成物を、ベースフィルム上に印刷し、乾燥することにより成形フィルムを製造する工程と、
基材上に前記成形フィルムを配置する工程と、
オーバーレイ成形法により、前記成形フィルムと前記基材とを一体化する工程と、を含む。
以下、図3を参照して説明するが、成形フィルムの製造方法は前述のとおりであるので、ここでの説明は省略する。
【0065】
図3は、成形体の第1の製造方法の一例を示す、模式的な工程図である。図3(A)~(C)はそれぞれTOM(Three dimension Overlay Method)成形機のチャンバーボックス内に配置された成形フィルム10と基材20を図示するものであり、図3(B)および(C)ではチャンバーボックスを省略している。
第1の製造方法においては、まず、基材20を下側チャンバーボックス22のテーブル上に設置する。次いで、前記本実施の成形フィルム10を上側チャンバーボックス21と下側チャンバーボックス22との間を通し、基材20上に配置する。この際、成形フィルム10は導電層が基材20側、もしくは基材20とは反対側のどちらと面するように配置されていてもよく、最終的な成形体の用途によって選択される。次いで上側・下側チャンバーボックスを真空状態とした後、成形フィルムを加熱する。次いで、テーブルを上昇することにより基材20を上昇15する。次いで上側チャンバーボックス21内のみを大気開放する(図3(B))。この時、成形フィルムは基材側に加圧16され、成形フィルム10と基材20とが貼り合わされて一体化する(図3(C))。このようにして成形体30を得ることができる。
【0066】
当該第1の製造方法において、基材20は予め任意の方法で準備することができる。当該第1の製造方法において、基材20の材質は特に限定されず、樹脂製であっても金属製であってもよい。
【0067】
なお本第1の製造方法における、前述の基材との一体化工程における高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレスとは、前記図3(C)での成形フィルムが基材側に加圧16され、成形フィルム10と基材20とが貼り合わされて一体化する際の、高温下で成形フィルムの導電回路と基材との間の摩擦応力に起因するものである。即ち本第1の製造方法においては、導電層は成形時の引張応力による負荷と、高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレスを同時に受けることとなる。
【0068】
<第2の製造方法>
本実施に係る成形体の第2の製造方法は、前記本実施の成形フィルム用導電性組成物を、ベースフィルム上に印刷し、乾燥することにより成形フィルムを製造する工程と、
前記成形フィルムを所定の形状に成形する工程と、
成形後の前記成形フィルムを、射出成形用の型内に配置する工程と、
射出成形により基材を成形すると共に、前記成形フィルムと前記基材とを一体化する工程と、を含む。以下、図4を参照して説明する。なお、第2の製造方法をフィルムインサート法ということがある。
【0069】
図4は、成形体の第2の製造方法の一例を示す、模式的な工程図である。第2の製造方法において、成形フィルム10は、金型11により予め所定の形状に成形する(図4(A))。成形フィルム10は加熱して軟化した後に、又は軟化させながら、真空による金型への吸引もしくは圧空による金型への押しつけ、またはその両方を併用して行い、金型11により成形する(図4(B))。この際、成形フィルム10は導電層が後述する基材20側、もしくは基材20とは反対側のどちらと面するように成形されていてもよく、最終的な成形体の用途によって選択される。次いで、成形後の成形フィルム10を射出成形用の金型12内に配置する(図4(C)~図4(D))。次いで、開口部13から樹脂を射出14して、基材20を形成すると共に、前記成形フィルム10と、前記基材20とを一体化して、成形体30が得られる(図4(E))。
【0070】
第2の製造方法において基材20は予め準備する必要はなく、基材の成形と、成形フィルムとの一体化を同時に行うことができる。基材20の材質は、射出成形用に用いられる公知の樹脂の中から適宜選択して用いることができる。
【0071】
なお本第2の製造方法における、前述の基材との一体化工程における高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレスとは、図4(E)で開口部13から樹脂を射出14して、基材20を形成すると共に、前記成形フィルム10と、前記基材20とを一体化する際の、成形フィルム上の導電層が高温の溶融樹脂の型内への射出により受ける摩擦応力に起因するものである。即ち本第2の製造方法においては、導電層は成形時の引張応力による負荷を受けた後、別工程にて高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレスを受けることとなる。
【0072】
<第3の製造方法>
本実施に係る成形体の第3の製造方法は、前記本実施の成形フィルム用導電性組成物を、スクリーン印刷により、ベースフィルム上に印刷し、乾燥することにより成形フィルムを製造する工程と、
前記成形フィルムを、射出成形用の型内に配置する工程と、
射出成形により基材を成形すると共に、前記成形フィルム中の導電層を基材側に転写する工程と、を含む。
以下、図5を参照して説明する。なお、第3の製造方法をインモールド転写法ということがある。
【0073】
図5は、成形体の第3の製造方法の一例を示す、模式的な工程図である。第3の製造方法において成形フィルム10は、ベースフィルムとして剥離性を有するものを選択して用いる。当該成形フィルム10を射出成形用の金型12内に、後述する基材20側に導電層が向くように配置する(図5(A))。次いで、開口部13から樹脂を射出14して、基材20を形成すると共に、前記成形フィルム10と基材20とが密着し、基材20側に、少なくとも導電層が転写され(図5(B))、成形体30が得られる(図5(C))。なお、成形フィルム10が加飾層を有する場合には、加飾層と導電層とが転写される。
【0074】
第3の製造方法においては、ベースフィルムを切断する必要がないため、図5の例に示されるように長尺状のベースフィルムを配置することができる。基材20の材質は、射出成形用に用いられる公知の樹脂の中から適宜選択して用いることができる。
【0075】
なお本第3の製造方法における、前述の基材との一体化工程における高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレスとは、図5(C)で開口部13から樹脂を射出14して、基材20を形成すると共に、前記成形フィルム10と基材20とが密着する際の、成形フィルム上の導電層が高温の溶融樹脂の型内への射出により受ける摩擦応力に起因するものである。即ち本第3の製造方法においては、導電層は成形時の引張応力による負荷と、高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレスを同時に受けることとなる。
【0076】
このようにして得られた成形体は、家電製品、自動車用部品、ロボット、ドローンなどのプラスチック筐体などに、回路やタッチセンサー・各種電子部品の実装を行うことを可能にする。また、電子機器の軽薄短小化および設計自由度の向上、多機能化に極めて有用である。
【実施例
【0077】
以下に、実施例により本発明をより詳細に説明するが、以下の実施例は本発明を何ら制限するものではない。なお、実施例中の「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
また、実施例中の重量平均分子量は、東ソー社製GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)「HLC-8320」を用いた測定におけるポリスチレン換算分子量である。
【0078】
また実施例中の「官能基価」は各原料の官能基1つあたりの分子量(これを官能基当量とする)を基に、以下の計算式によって原料1gあたりの官能基量を等モル量の水酸化カリウム換算質量(mg)として表したものである。
(官能基価)[mgKOH/g]=(56.1×1000)/(官能基当量)
上記官能基価は、例えば官能基がカルボキシル基である場合は酸価、官能基がヒドロキシ基である場合は水酸基価、官能基がアミノ基である場合はアミン価などと表現される量の総称であり、互いに異なる官能基をもつ物質同士の官能基比率を比較する際には、上記官能基価が同じ値であれば同モル量の官能基を有すると考えてよい。
【0079】
上記官能基価は、官能基がカルボキシル基やヒドロキシ基などの定量に水酸化カリウムの滴定を用いる場合は、例えばJIS K 0070に定められた公知公用の測定法を用いて中和に用いた水酸化カリウムの適定量から測定値(酸価および水酸基価)を直接求めることもでき、上記の計算式による計算値と同様に扱うことができる。
また、イソシアネート基など、官能基価の定量に上記の水酸化カリウムによる滴定を使用しない場合にも、官能基量を表すそれぞれの測定値から導かれた上記官能基当量ならびに上記計算式を用いて、便宜的に水酸化カリウム換算量として算出することができる。以下に具体的な計算例を示す。
【0080】
計算例:イソシアネート基を有する化合物として、JIS K 6806(イソシアネート基をn-ジブチルアミンと反応させ、残ったn-ジブチルアミンを塩酸水溶液で滴定する方法)に定められた方法で測定されたイソシアネート量が23%である3官能イソシアネート化合物「X」について計算する。3官能イソシアネート化合物「X」の官能基当量は、上記イソシアネート量(%)とイソシアネート基の分子量(NCO=44g/mоl)から以下のように導かれる。
(「X」の官能基当量)=1/(0.23/44)=191.3
この3官能イソシアネート化合物「X」の官能基当量と上記官能基価の計算式から、下記のように3官能イソシアネート化合物「X」の官能基価を算出することができる。
(3官能イソシアネート化合物「X」の官能基価)[mgKOH/g]
=(56.1×1000)/191.3=293.3
【0081】
<樹脂(A1)~(A4)>
樹脂(A1)~(A4)として以下の樹脂を用いた。
・樹脂(A1):アルケマ社製アクリル系熱可塑性エラストマー、ナノストレングスM22(アクリルモノマーのブロック共重合体(PMMA-b-PBA-b-PMMA;b=ブロック)、重量平均分子量:40,000、ガラス転移点-40℃、105℃(2つのガラス転移点を有する)、主鎖中に環状構造およびエステル結合を有さない。
・樹脂(A2):三菱ケミカル社製アクリル樹脂、ダイヤナールBR-106、重量平均分子量60,000、ガラス転移点50℃、主鎖中に環状構造およびエステル結合を有さない。
・樹脂(A3):InChem社製フェノキシ樹脂、PKHC、重量平均分子量43,000、ガラス転移点67℃、ヒドロキシ基(官能基価198mgKOH/g)を有する、主鎖中に環状構造(芳香環構造)を有しエステル結合を有さない。
・樹脂(A4):イーストマンケミカル社製セルロースエステル樹脂、CAB551-0.2、重量平均分子量70,000、ガラス転移点100℃、ヒドロキシ基(官能基価54mgKOH/g)を有する、主鎖中に環状構造を有しエステル結合を有さない。
・樹脂(A5): 日新化成社製エチルセルロース樹脂、エトセルSTD45、重量平均分子量135,000、ガラス転移点129℃、主鎖中に環状構造を有しエステル結合を有さない。
【0082】
<合成例1:樹脂(A6)の合成>
攪拌機、温度計、精留管、窒素ガス導入管、減圧装置を備えた反応装置に、イソフタル酸ジメチル14.5部、テレフタル酸ジメチル14.5部、エチレングリコール12.0部、ネオペンチルグリコール18.0部、及びテトラブチルチタネート0.03部を仕込み、窒素気流下で攪拌しながら180℃まで徐々に加熱し、180℃で3時間エステル交換反応し、酸価を測定し、15以下になったら反応装置内を徐々に1~2トールまで減圧し、所定の粘度に達した時、反応を停止し取り出した後に表面がフッ素加工されたパレットに移して冷却することで、重量平均分子量45,000、ガラス転移点58℃、ヒドロキシ基(官能基価5mgKOH/g)を有し、主鎖中に芳香環構造およびエステル結合を有するポリエステル樹脂(A6)の固形物を得た。
【0083】
<合成例2:樹脂(A7)の合成>
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、イソフタル酸と3-メチル-1,5ペンタンジオールとから得られるポリエステルポリオール(クラレ社製「クラレポリオールP-2030」)127.0部、イソホロンジイソシアネート19.0部、及びトルエン36.5部を仕込み、窒素気流下にて90℃で3時間反応させ、ついでイソホロンジアミン5.5部を加え更に90℃で2時間反応させたのち、冷却して反応を停止し、最後に取り出した後に表面がフッ素加工されたパレットに移して熱風乾燥オーブンで120℃で5時間、さらに24時間真空乾燥することで、重量平均分子量35,000、ガラス転移点5℃、アミノ基(官能基価4mgKOH/g)を有し、主鎖中に芳香環構造およびエステル結合を有するウレタン樹脂(A7)の固形物を得た。
【0084】
導電性微粒子、溶剤、及び架橋剤として以下のものを用いた。
<導電性微粒子(B1)~(B5)>
・導電性微粒子(B1):福田金属箔粉社製、フレーク状銀粉、平均粒子径5.2μm
・導電性微粒子(B2):福田金属箔粉社製、連鎖凝集銀粉、平均粒子径1.7μm
・導電性微粒子(B3):三井金属鉱業社製、銀コート銅粉、銀被覆量10%、平均粒子径2。0μm
・導電性微粒子(B4):石原産業社製、針状導電性Sbドープ酸化錫粉、平均粒子径2.9μm
・導電性微粒子(B5):伊藤黒鉛社製、膨張化黒鉛、平均粒子径15μm
【0085】
<溶剤(C1-1)~(C1-10)>
・溶剤(C1-1):1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン、沸点209℃
・溶剤(C1-2):東燃ゼネラル石油社製T-SOL150、高沸点芳香族炭化水素の混合物、沸点184℃
・溶剤(C1-3):プロピオフェノン、沸点218℃
・溶剤(C1-4):安息香酸メチル、沸点199℃
・溶剤(C1-5):安息香酸エチル、沸点213℃
・溶剤(C1-6):安息香酸プロピル、沸点230℃
・溶剤(C1-7):フェニル酢酸エチル、沸点226℃
・溶剤(C1-8):酢酸ベンジル、沸点212℃
・溶剤(C1-9):ベンジルアルコール、沸点205℃
・溶剤(C1-10):2-フェノキシプロパノール、沸点244℃
【0086】
<溶剤(C2-1)~(C2-5)>
・溶剤(C2-1):酢酸ジヒドロテルピニル、沸点220℃
・溶剤(C2-2):酢酸テルピニル、沸点220℃
・溶剤(C2-3):酢酸イソボルニル、沸点227℃
・溶剤(C2-4):酢酸-1-メンチル、沸点215℃
・溶剤(C2-5):シクロヘキサン-1-カルボン酸メチル、沸点183℃
【0087】
<その他溶剤(C3-1)~(C3-5)>
・溶剤(C3-1):2-メトキシプロパノール、沸点120℃
・溶剤(C3-2):ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、沸点217℃
・溶剤(C3-3):ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、沸点194℃
・溶剤(C3-4):ジエチレングリコールモノブチルエーテル、沸点230℃
・溶剤(C3-5):エクソンモービルケミカル社製、エクソールD-80、高沸点脂環式炭化水素と高沸点脂肪族炭化水素の混合物、沸点205℃
【0088】
<架橋剤(D1)>
・架橋剤(D1):
Baxeneden Chemicals社製ブロックイソシアネート溶液、Trixene BI7982、ブロック化されているイソシアネート基を1分子中に3つ含有(官能基価195mgKOH/g)、不揮発分70%(溶剤(C3-1):2-メトキシプロパノール)
【0089】
<製造例1:加飾インキ(E1)の作成>
樹脂(A2)80部、溶剤(C3-2)120部からなる樹脂溶液200部(樹脂(A6)のみとして)を準備し、これにフタロシアニンブルー顔料(トーヨーカラー社製LIONOL BLUE FG7351)20部、酸化チタン顔料(石原産業社製TIPAQUE CR-93)10質量部を撹拌混合し、3本ロールミル(小平製作所製)で混練したのち、イソシアネート架橋剤(住化コベストロウレタン社製デスモジュール N3300、不揮発分100%)5部と溶剤(E2)90部を加えて均一に撹拌混合することで加飾インキ(G1)を得た。
【0090】
<実施例1:成形フィルム用導電性組成物(F1)の作成>
樹脂(A1)20.0部を溶剤(C1-1)15.0部および溶剤(C2-1)15.0部からなる混合溶剤に溶解させ、導電性微粒子(B1)80.0部と撹拌混合し、3本ロールミル(小平製作所製)で混練したのち、プラネタリーミキサーにより均一に撹拌混合することで成形フィルム用導電性組成物(F1)を得た。
【0091】
<実施例2~56:成形フィルム用導電性組成物(F2)~(F56)の作成>
実施例1において、樹脂、溶剤、導電性微粒子、架橋剤(架橋剤を用いる場合には、架橋剤はプラネタリーミキサーによる均一撹拌混合の直前に加えた)の種類及び配合量を表1のように変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にして、成形フィルム用導電性組成物(F2)~(F56)を得た。
なお、表1~表4中の各材料の数値はいずれも質量部である。
【0092】
<比較例1~9:成形フィルム用導電性組成物(F57)~(F65)の作成>
実施例1において、樹脂、溶剤、導電性微粒子、架橋剤の種類及び配合量を表4のように変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にして、成形フィルム用導電性組成物(F57)~(F65)を得た。
【0093】
<実施例57~112、および比較例10~18>
ポリカーボネート(PC)ベースフィルム(帝人社製、パンライト2151、厚み300μm、300mm×210mm)上に、成形フィルム用導電性組成物(F1)~(F65)をそれぞれスクリーン印刷機(ミノスクリーン社製、ミノマットSR5575半自動スクリーン印刷機)によって印刷速度100mmで印刷した。次いで、熱風乾燥オーブンで120℃で30分加熱することで、幅15mm、長さ30mm、厚み10μmの四角形ベタ状パターン、線幅3mm、長さ60mm、厚み10μmの直線状のパターンおよび線幅150μm、線間距離150μm、長さ60mmのストライプパターンを有する導電層を備えた成形フィルムを得た。
【0094】
<実施例113>
ポリカーボネートベースフィルム(帝人社製、パンライト2151、厚み300μm、300mm×210mm)上に、加飾インキ(G1)を、ブレードコーターを用いて、乾燥膜厚が2μmとなるように塗工し、120℃で30分加熱して加飾層を形成した。
次いで、前記実施例60において、ポリカーボネートベースフィルムの代わりに上記加飾層付きフィルムを用い、加飾層上に導電層を形成した以外は、前記実施例60と同様にして、ポリカーボネートフィルム、加飾インキ層、導電体がこの順に積層された成形フィルムを得た。
【0095】
<実施例114>
前記実施例60において、ポリカーボネートベースフィルムの代わりに、ポリカーボネート樹脂/アクリル樹脂2種2層共押し出しフィルム(住友化学社製、テクノロイC001、厚み125μm、300mm×210mm)を用い、ポリカーボネート樹脂側に成形フィルム用導電性組成物の印刷を行ったこと以外は、前記実施例60と同様にして、成形フィルムを得た。
【0096】
<実施例115>
前記実施例60において、ポリカーボネートベースフィルムの代わりに、アクリル樹脂フィルム(住友化学社製、テクノロイS001G、厚み250μm、300mm×210mm)を用いたこと、及び、熱風乾燥オーブンでの乾燥条件を80℃で30分としたこと以外は、前記実施例60と同様にして、成形フィルムを得た。
【0097】
<実施例116>
前記実施例60において、ポリカーボネートベースフィルムの代わりに、易成形PET樹脂フィルム(森野加工社製、エムロンPETG樹脂シート、厚み250μm、300mm×210mm)を用いたこと、及び、熱風乾燥オーブンでの乾燥条件を70℃で30分としたこと以外は、前記実施例60と同様にして、成形フィルムを得た。
【0098】
<実施例117>
前記実施例60において、ポリカーボネートフィルムの代わりに、ポリプロピレンフィルム(出光ユニテック社製、ピュアサーモAG-306、厚み200μm、300mm×210mm)を用いたこと、及び、熱風乾燥オーブンでの乾燥条件を80℃で30分としたこと以外は、前記実施例60と同様にして、成形フィルムを得た。
【0099】
[(1)体積固有抵抗測定]
前記実施例57~117、および比較例10~18の成形フィルムに形成された、15mm×30mmの四角形ベタ状の導電層について、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、ロレスタGP MCP-T610型抵抗率計、JIS-K7194準拠、4端子4探針法定電流印加方式)(0.5cm間隔の4端子プローブ)を用いて体積固有抵抗(Ω・cm)を測定した。結果を表1~4に示す。
【0100】
[(2)剥離密着性評価]
前記実施例57~117、および比較例10~18の成形フィルムに形成された、15mm×30mmの四角形ベタ状の導電層に対し、ガードナー社製1mm間隔クロスカットガイドを使用してカッターナイフで当該導電層を貫通するように10x10マスの碁盤目状の切れ込みを入れ、ニチバン社製セロハンテープを貼り付け噛み込んだ空気を抜いてよく密着させたのち、垂直に引きはがした。塗膜の剥離度合いをASTM-D3519規格に従って下記のように評価した。結果を表1~4に示す。
(剥離密着性評価基準)
A:評価5B~4B、密着性に優れる
B:評価上は5B~4Bであるが、塗膜が凝集破壊し、表面側の塗膜の一部が脱離する
C:評価3B以下、密着性に劣る
【0101】
[(3)高速印刷性評価]
前記実施例57~117、および比較例10~18の成形フィルムに形成された、線幅150μm、線間距離150μm、長さ60mmのストライプパターンを、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製VHX-6000)用いて観察し、下記のように評価した。結果を表1~4に示す。
(高速印刷性評価基準)
A:パターンの欠けや掠れが無く、直線性に優れる
B:パターンにやや括れが見られるものの、欠けや掠れが無いか非常に軽微である
C:パターンの欠けや掠れが顕著であり、精細印刷性に劣る
【0102】
[(4)配線抵抗評価]
前記実施例57~117、および比較例10~18の成形フィルムに形成された、3mm×60mmの直線状パターンの導電層が真ん中に来るように長手方向に70mm、幅方向に10mmに切り出し、測定用クーポンとした。この測定用クーポン上の導電層とは反対側の面に、長手方向端から当該導電層と垂直な線を目印として油性マジックで4cm間隔に2本書き加えた。この目印に従い、4cm間隔となる位置を、テスターを用いて抵抗値測定し、これを配線抵抗(Ω)とした。結果を表1~4に示す。
【0103】
[(5)熱延伸評価1]
前記実施例57~114、および比較例10~18の前記測定用クーポンを160℃の加熱オーブン中で、長手方向に引っ張り速度10mm/分で伸長率125%まで引き延ばした。オーブンから取出し、冷却後に光学顕微鏡を用いて断線の有無を評価した。また、上記配線抵抗の測定と同様の方法で、元の目印基準で4cm間隔に相当する位置の配線抵抗(Ω)を測定し、伸縮後の配線抵抗/伸縮前の配線抵抗を熱延伸時抵抗変動率(倍)とし、それぞれ以下の基準で評価した。結果を表1~4に示す。
(断線の有無)
A:断線は見られなかった。
B:1~2個の軽微なヒビが確認された
C:重度の断線または導電塗膜の剥離が確認された
(熱延伸時抵抗変動率)
A:5倍以上10倍未満
B:10倍以上100倍未満
C:100倍以上
【0104】
なお、伸長率は以下のように算出される値である。
(伸長率)[%]={(延伸後の長さ-延伸前の長さ)/(延伸前の長さ)}×100
【0105】
[(6)熱延伸評価2]
前記熱延伸評価1において、伸長率を150%に変更した以外は、前記熱延伸評価1と同様にして、以下の基準で評価した。結果を表1~4に示す。
(断線の有無)
A:断線は見られなかった。
B:1~2個の軽微なヒビが確認された
C:重度の断線または導電塗膜の剥離が確認された
(熱延伸時抵抗変動率)
A:10倍以上100倍未満
B:100倍以上1000倍未満
C:1000倍以上
【0106】
[(7)熱延伸評価3]
前記実施例115~117の前記測定用クーポンを120℃の加熱オーブン中で、長手方向に引っ張り速度10mm/分で伸長率125%まで引き延ばした。オーブンから取出し、冷却後に光学顕微鏡を用いて断線の有無を評価した。また、上記配線抵抗の測定と同様の方法で、元の目印基準で4mm間隔に相当する位置の配線抵抗(Ω)を測定し、伸縮後の配線抵抗/伸縮前の配線抵抗を熱延伸時抵抗変動率(倍)とし、それぞれ以下の基準で評価した。結果を表4に示す。
(断線の有無)
A:断線は見られなかった。
B:1~2個の軽微なヒビが確認された
C:重度の断線または導電塗膜の剥離が確認された
(熱延伸時抵抗変動率)
A:5倍以上10倍未満
B:10倍以上100倍未満
C:100倍以上
【0107】
[(8)熱延伸評価4]
前記熱延伸評価3において、伸長率を150%に変更した以外は、前記熱延伸評価3と同様にして、以下の基準で評価した。結果を表4に示す。
(断線の有無)
A:断線は見られなかった。
B:1~2個の軽微なヒビが確認された
C:重度の断線または導電塗膜の剥離が確認された
(熱延伸時抵抗変動率)
A:10倍以上100倍未満
B:100倍以上1000倍未満
C:1000倍以上
【0108】
[(9)オーバーレイ成形による成形体製造時の工程耐性評価1]
前記実施例57~114および比較例10~18の成形フィルムの3mm×60mmの直線状パターンの位置と重なるように、高さ10mm、縦横30mmx30mmの直方体状のABS樹脂成形物を導電体側の面と向かい合うように合わせ、TOM成形機(布施真空社製)を用いて設定温度160℃でオーバーレイ成形を行うことで、直方体形状に成形された成形フィルムとABS樹脂成形物とが一体化した成形体を得た。この成形体の直線状パターン配線の削れおよび抵抗変動率を確認した。抵抗変動率は元の目印基準で6cm間隔に相当する位置の配線抵抗(Ω)を測定し、伸縮後の配線抵抗/伸縮前の配線抵抗を熱延伸時抵抗変動率(倍)とし、それぞれ以下の基準で評価した。結果を表1~4に示す。
(断線の有無と抵抗変動率)
A:配線の削れが見られず、かつ抵抗変動率が10倍以上50倍未満
B:1~2箇所の配線の削れによる端部欠けが確認される、または抵抗変動率が50倍以上500倍未満
C:配線の削れによる断線が1箇所以上確認される
【0109】
[(10)オーバーレイ成形による成形体製造時の工程耐性評価2]
前記実施例115~117の成形フィルムの3mm×60mmの直線状パターンを使用し、120℃でオーバーレイ成形を行った以外は、前記オーバーレイ成形による成形体製造時の工程耐性評価1と同様に成形体を得て、オーバーレイ成形時の直線状パターン配線の削れおよび抵抗変動率を評価した。結果を表4に示す。
【0110】
[(11)フィルムインサート成形による成形体製造時の工程耐性評価1]
前記実施例57~114および比較例10~18の成形フィルムの3mm×60mmの直線状パターンの位置と重なるように、段差10mm、縦横30mmx30mmの直方体状突起を中央に有するブロック状金属製モールドを導電体側の反対の面と向かい合うように合わせ、TOM成形機(布施真空社製)を用いて設定温度160℃でオーバーレイ成形を行うことで、直方体形状に成形された内側にパターン化導電体を有する成形用フィルムを得た。
次いで、当該直方体形状に成形された成形フィルムを、バルブゲートタイプのインモールド成形用テスト金型が取り付けられた射出成形機(IS170(i5)、東芝機械社製)にセットし、PC/ABS樹脂(LUPOYPC/ABSHI5002、LG化学社製)を射出成形することで、パターン化導電体付き成形用フィルムと一体化された成形体を得た(射出条件:スクリュー径40mm、シリンダー温度260℃ 、金型温度(固定側、可動側)60℃ 、射出圧力160MPa(80%)、保圧力100MPa、射出速度60mm/秒(28%)、射出時間4秒、冷却時間20秒)。この成形体の直線状パターンの溶融樹脂の射出によるウォッシュアウト(溶融熱可塑性樹脂の温度および射出圧による配線パターンの変形や断線)および抵抗変動率を確認した。抵抗変動率は元の目印基準で6cm間隔に相当する位置の配線抵抗(Ω)を測定し、伸縮後の配線抵抗/伸縮前の配線抵抗を熱延伸時抵抗変動率(倍)とし、それぞれ以下の基準で評価した。結果を表1~4に示す。
(断線の有無と抵抗変動率)
A:配線のウォッシュアウトが全く見られず、かつ抵抗変動率が10倍以上50倍未満
B:軽度のウォッシュアウトによる配線の歪みが確認される、または抵抗変動率が50倍以上500倍未満
C:配線のウォッシュアウトによる断線が1箇所以上確認される
【0111】
[(12)フィルムインサート成形による成形体製造時の工程耐性評価2]
前記実施例115~117の成形フィルムの3mm×60mmの直線状パターンを使用し、120℃でオーバーレイ成形を行った以外は、前記オーバーレイ成形による成形体製造時の工程耐性評価1と同様に成形体を得て、フィルムインサート成形時の直線状パターンの溶融樹脂射出によるウォッシュアウトの程度および抵抗変動率を評価した。結果を表4に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
【表2】
【0114】
【表3】
【0115】
【表4】

【0116】
[結果のまとめ]
溶剤成分として溶剤(C1)および溶剤(C2)を同時に含有しない比較例10~18の導電性組成物を用いて形成された導電層は、成型フィルムの立体成型工程の際の高温での引き延ばし時に、特に引き延ばし伸度が大きい場合に破断を生じたり、抵抗値が上昇したりすることが明らかとなった。また、速い印刷速度での印刷の際にパターンの欠けや掠れを生じる傾向が見られた。
【0117】
一方、実施例57~117の結果から、本実施の導電性組成物は、成型フィルムの立体成型工程の際の高温での引き延ばし時に、引き延ばし伸度が大きい場合においても断線が起きず、抵抗値の増大も良好に抑制されていた。これは本実施の導電性組成物の溶剤成分が芳香族構造を有する溶剤(C1)および脂環式構造およびエステル結合を有する溶剤(C2)を含むことにより、樹脂(A)成分の高分子鎖が溶媒(C)中で広く展開しかつ導電層形成時には高分子鎖同士がよく絡まりあうことで、成形時の高温下・大伸度での引き延ばしに耐える優れた導電層の高温時凝集力・導電保持特性を発揮し、かつ速い印刷速度での印刷性をも損なうことなく両立されたものと推定される。また同時に溶剤(C1)および溶剤(C2)の含有により、導電層足場として重要なベースフィルムの導電層との界面近傍における溶剤浸潤が高度に抑制されたことも、成形時の高温下・大伸度での引き延ばしの際の破断抑制や、印刷欠陥の抑制(印刷時の基材接触の瞬間の溶剤吸収による導電性組成物の粘度上昇抑制によると推察される)に奏功したと推察される。このような成形時の高温下・大伸度での引き延ばしと速い印刷速度での印刷性の特性バランス両立は、特にガラス転移点を0℃以上130℃未満に1つ以上有し0℃未満に有さない樹脂と併用した際に抵抗値上昇や破断抑制の点で優れていた。これは、成形温度における軟化時の樹脂(A)高分子鎖の絡まりあいの中から高分子鎖がよりすり抜けにくく、破断の切欠となるボイドが形成されにくくなることによると考えられる。さらに、主鎖中に環状構造を有する樹脂、とりわけ上記環状構造として芳香環構造とエステル結合とを同時に有する樹脂と併用した際に特に、より抵抗値上昇や印刷時の欠陥が生じ難い点で特に優れていた。このような特性を発現する機構には不明な点もあるが、樹脂(A)と溶剤(C1)および溶剤(C2)との構造類似性からくる極性的親和性が高いことにより、より樹脂(A)成分の高分子鎖が溶媒(C)中で広く展開し適度な流動性を発揮しかつ導電層形成時には高分子鎖同士がよく絡まりあい、導電層内で導電粒子間の繋がり(導電パス)の切断に繋がるような、ミクロスケールでの局所的応力集中を抑制可能な強靭性を発現するためと推察している。
【0118】
また上記特性により、本発明の導電性組成物の導電層を備えた成形フィルムによれば、基材面が平坦でない立体形状、とりわけ急峻な段差等がある複雑な立体形状であっても、優れた配線一体型の成形体が得られた。
【0119】
このように、本実施の導電性組成物を用いた成形フィルムおよび配線一体型の成形体は、家電製品、自動車用部品、ロボット、ドローンなどのプラスチック筐体および立体形状部品へ直接、デザイン自由度を損なうことなく軽量かつ省スペースな回路の作り込みやタッチセンサー・アンテナ・発熱体(ヒーター)・電磁波シールド・インダクタ(コイル)・抵抗体の作り込みや、・各種電子部品の実装を行うことを可能にする。また、電子機器の軽薄短小化および設計自由度の向上、多機能化に極めて有用である。
【符号の説明】
【0120】
1 ベースフィルム
2 導電層
3 加飾層
4 電子部品
5 ピン
10 成形フィルム
11 金型
12 射出成形用金型
13 開口部
14 射出
15 上昇
16 加圧
17 樹脂
20 基材
21 上側チャンバーボックス
22 下側チャンバーボックス
30 成形体
図1
図2
図3
図4
図5