(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ノイズ抑制部材
(51)【国際特許分類】
H03H 7/09 20060101AFI20241008BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H03H7/09 A
H05K9/00 L
(21)【出願番号】P 2020156365
(22)【出願日】2020-09-17
【審査請求日】2023-03-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志賀 正和
(72)【発明者】
【氏名】本多 哲也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良隆
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-114906(JP,A)
【文献】特開2016-092525(JP,A)
【文献】特開2019-220876(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110577(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H1/00-H03H3/00
H03H5/00-H03H7/13
H05K9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性筐体(100)の外部に設けられた電源(80)に接続可能に、前記導電性筐体(100)の内部に格納され、かつ前記電源(80)に接続されて動作した際にノイズ源となる回路(40)のノイズを抑制するノイズ抑制部材(20)
を備え、
前記ノイズ抑制部材(20)は、
導線性部材を巻回して構成され、かつ前記回路(40)の前記電源(80)の負極(-)に接続される回路部分(62)に、前記回路部分(62)と直列に接続されるノイズ源側インダクタ(24)と、
前記ノイズ源側インダクタ(24)の前記回路部分(62)の側の端部と前記導電性筐体(100)とを接続する接続部(T1)と、
を含み、
前記ノイズ源側インダクタ(24)に生じたインダクタンスと、前記接続部(T1)に生じたインダクタンスとの相互インダクタンス(-M)により前記接続部(T1)に生じる寄生インダクタンスを低減し、前記ノイズ源で生じたノイズ電流を抑制する
モータ駆動装置。
【請求項2】
前記接続部(T1)が接続された前記ノイズ源側インダクタ(24)の端部と前記回路部分(62)とを接続する負極側インダクタ(22)とを含む
請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記負極側インダクタ(22)は、前記ノイズ源側インダクタ(24)よりも高インピーダンスである請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記接続部(T1)と前記導電性筐体(100)との間の電気的な距離が所定値以下になるように電気的に接続
されている請求項2または3に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
一端が前記回路(40)における前記電源(80)の正極(+)に接続される側に接続され、かつ他端が前記ノイズ源側インダクタ(24)の前記電源(80)の負極(-)に接続される側と反対側に接続された平滑用コンデンサ(18)を備え、
前記平滑用コンデンサ(18)の前記他端と前記ノイズ源側インダクタ(24)との間の電気的な距離が所定値以下となるように接続
されている請求項2~4のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
前記ノイズ抑制部材(20)は、前記回路(40)が実装された基板(70)の外側に配置されている請求項2~5のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項7】
前記ノイズ抑制部材(20)は、前記回路(40)が実装された基板(70)に実装されており、前記ノイズ抑制部材(20)が実装された部分に対応する前記基板(70)の下層の接地領域パターンを廃して前記相互インダクタンス(-M)への影響を抑制する請求項2~5のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項8】
前記導電性筐体(100)内における前記ノイズ抑制部材(20)と前記電源(80)の負極(-)側との電気的な距離
が所定値以
下である請求項2~5のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項9】
前記接続部(T1)は、導電性の線状部材を含み、2つのコイルの各々の一端の接続部分に設けられている請求項1に記載の
モータ駆動装置。
【請求項10】
前記接続部(T1)は、導線性の線状部材を含み、コイルの中間部分に設けられている請求項1に記載の
モータ駆動装置。
【請求項11】
前記接続部(T1)は、導電性の平角線及び導線性の平板部材を含み、インダクタの中間部分に設けられている請求項1に記載の
モータ駆動装置。
【請求項12】
前記接続部(T1)は、導線性の波線状及びジグザグ状のいずれかの形状の平板部材を含み、インダクタの中間部分に設けられている請求項1に記載の
モータ駆動装置。
【請求項13】
前記接続部(T1)は、前記導電性筐体(100)からのノイズ電流を導通すると共に、前記回路(40)から前記電源(80)の負極(-)に流れる直流成分の前記導電性筐体(100)への漏洩を防止するために、一端が前記導電性筐体(100)に接続された筐体接地コンデンサ(28)を含む請求項2~8のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズ抑制部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスモータ等の三相同期モータ(以下、「モータ」と略記)を駆動させるインバータ回路は、FET(電界効果トランジスタ)等のスイッチング素子を動作させて直流電源の電力を三相交流様の電流に変換してモータのコイルに供給する。三相交流様の電流が供給されたコイルには、いわゆる回転磁界が発生し、当該コイルに隣接する永久磁石等で構成された回転子を回転させる。
【0003】
しかしながら、スイッチング素子を動作させると電磁ノイズが発生し、当該電磁ノイズが計測系又は制御系等の回路の動作に悪影響を及ぼし得る。スイッチング素子の動作等によって生じる電磁ノイズには、ノイズ源(スイッチング素子等)が電源ラインに対して直列に入り電源電流と同じ方向にノイズ電流が流れるノーマルモードノイズと、浮遊容量等を介してノイズ源から漏洩したノイズ電流が、接地領域を経由して電源ラインに戻ってくるコモンモードノイズと、が存在する。
【0004】
近年は、インバータ回路のスイッチング素子の動作頻度が高まるに従って、発生する電磁ノイズがFM帯(76~108MHz)等の高周波領域に達するようになっている。かかる高周波領域では、ノーマルモードノイズよりもコモンモードノイズの対策が特に重要となってくる。
【0005】
図18は、モータ駆動装置120におけるコモンモードノイズの発生の一例を示したブロック図である。
図18に示したように、ノイズ源であるインバータ回路40で生じた電磁ノイズは、インバータ回路40を実装した基板と、金属等の導電体で構成された筐体100との間に生じたコンデンサ様の構成である浮遊容量34、モータ12のステータ14の中性点14Nと筐体100との間に生じたコンデンサ様の構成である浮遊容量36、及び筐体100と接地領域50との間に生じたコンデンサ様の構成である浮遊容量38により、接地領域50に漏洩する。そして、接地領域50に漏洩したノイズ電流は、接地領域50から計測系回路であるLISN(ラインインピーダンス安定化回路網)82、84を各々介してB端子60及び接地端子62に流れるコモンモードノイズ32となる。
図18に示したように、コモンモードノイズ32は、計測系回路及び制御系回路に悪影響を及ぼし得るのみならず、インバータ回路40に供給される電源80の直流の平滑性を損なう。従って、計測系回路及び制御系回路へのコモンモードノイズの流入を抑制すると共に、コモンモードノイズがインバータ回路40に流入する前にコモンモードノイズを解消又は減衰させることが求められる。
【0006】
下記特許文献1には、2種のコイル間での相互インダクタンスを利用して電磁ノイズを抑制するインダクタンスフィルタの発明が開示されている。
【0007】
また、下記特許文献2には、円環状に成形された磁性体コアにより、当該磁性体コアの中心穴に挿通させたジャンパ線の周囲の磁力線を収束させるノイズフィルタの発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第6937115号明細書
【文献】特開2017-55075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に係る発明は、2種類のコイルを使用していたためコストが高いという問題があった。また、特許文献1に係る発明は、ノーマルモード対策に主眼を置いていたため、コモンモードノイズが支配的であるFM帯での効果が十分でないという問題があった。
【0010】
特許文献2に係る発明は、円環状の磁性体コアに複数のジャンパ線を挿通する立体構造が嵩張るので、回路の小型化を阻害するという問題があった。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みて創作されたものであり、簡易な構成でありながらコモンモードノイズを抑制し得るノイズ抑制部材を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明に係るノイズ抑制部材は、導電性筐体(100)の外部に設けられた電源(80)に接続可能に、前記導電性筐体(100)の内部に格納され、かつ前記電源(80)に接続されて動作した際にノイズ源となる回路(40)のノイズを抑制するノイズ抑制部材(20)であって、導線性部材を巻回して構成され、かつ前記回路(40)の前記電源(80)の負極(-)に接続される回路部分に、前記回路部分(62)と直列に接続されるノイズ源側インダクタ(24)と、前記ノイズ源側インダクタ(24)の前記回路部分(62)の側の端部と前記導電性筐体(100)とを接続する接続部(T1)と、を含み、前記ノイズ源側インダクタ(24)に生じたインダクタンスと、前記接続部(T1)に生じたインダクタンスとの相互インダクタンス(-M)により寄生インダクタンスを低減し、前記ノイズ源で生じたノイズ電流を抑制する。
【0013】
この様に構成することで、導電性筐体(100)に漏洩したノイズ電流を、導電性筐体(100)に電気的に接続された接続部(T1)とノイズ源側インダクタ(24)とに流すことにより、ノイズ電流を抑制している。
【0014】
より具体的には、ノイズ電流が接続部(T1)からノイズ源側インダクタ(24)に流れることにより、接続部(T1)に生じた寄生インダクタンスの磁界とノイズ源側インダクタ(24)に生じた磁界とを打ち消し合う磁界による相互インダクタンス(-M)が生じ、かかる相互インダクタンス(-M)によって、寄生インダクタンスのインダクタンスが減殺される。その結果、コモンモードノイズ等の高周波ノイズを抑制することができる。
【0015】
また、本発明に係るノイズ抑制部材は、導電性筐体(100)に電気的に接続された接続部(T1)とノイズ源側インダクタ(24)とを含む簡易な構成であるが、上述のように、コモンモードノイズを抑制し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態に係るノイズ抑制部材を備えたモータ駆動装置の一例を示したブロック図である。
【
図2】本実施形態に係るノイズ抑制部材の一例を示した概略図である。
【
図3】インバータ回路と電源の負極との間に伝播する伝導ノイズの状態の一例を示した概略図である。
【
図4】(A)は寄生インダクタンスの影響の一例を示した説明図であり、(B)は浮遊容量の影響の一例を示した説明図である。
【
図5】インバータ回路とノイズ源側インダクタとの間の寄生インダクタンスの大きさによる相互インダクタンスの変化を示した説明図である。
【
図6】ノイズ抑制部材と基板との間に形成される浮遊容量の大きさによる相互インダクタンスの変化を示した説明図である。
【
図7】本実施形態に係るノイズ抑制部材の一例を示した概略図である。
【
図8】本実施形態に係るノイズ抑制部材の一例を示した概略図である。
【
図9】本実施形態に係るノイズ抑制部材の一例を示した概略図である。
【
図10】(A)は、本実施形態に係るノイズ抑制部材の一例を示した概略図であり、(B)は、
図7に示したノイズ抑制部材を比較対象として提示したものである。
【
図11】樹脂で封止したノイズ抑制部材の一例を示した概略図である。
【
図12】ノイズ抑制部材の製造方法の一例を示した概略図である。
【
図13】ノイズ抑制部材の製造方法の他の例を示した概略図である。
【
図14】ノイズ抑制部材の実装の一例を示した概略図である。
【
図15】ノイズ抑制部材の実装の一例を示した概略図である。
【
図16】ノイズ抑制部材の実装の他の例を示した概略図である。
【
図17】ノイズ抑制部材の実装の一例を示した概略図である。
【
図18】モータ駆動装置におけるコモンモードノイズの発生の一例を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係るノイズ抑制部材を備えたモータ駆動装置10の一例を示したブロック図である。
図1に示したモータ駆動装置10は、ノイズ抑制部材であるノイズ抑制部材20を備える点で
図18に示したモータ駆動装置120と相違するが、その他の構成は
図18に示したモータ駆動装置120と同一である。
【0018】
図1に示したように、本実施形態に係るモータ駆動装置10はインバータ回路を備え、インバータ回路40は、モータ12のステータ14のコイルに供給する電力をスイッチングする。例えば、FET42U、44UはU相のコイル14Uに、FET42V、44VはV相のコイル14Vに、FET4CW、44WはW相のコイル14Wに、各々供給する電力のスイッチングを行う。
【0019】
FET42U、42V、42Wの各々のドレインは、ノイズ除去用のインダクタ46、B端子60及びLISN82を介して直流を供給する電源80の正極(+)に接続されており、FET42U、42V、42W、44U、44V、44Wが動作すると、電源80の正極(+)から主電流110Aが導通される。また、FET44U、44V、44Wの各々のソースは、接地端子62及びLISN84を介して電源80の負極(-)に接続されており、FET42U、42V、42W、44U、44V、44Wが動作すると、FET44U、44V、44Wの各々のソースと電源80の負極(-)との間には主電流110Bが導通される。そして、FET42U、42V、42Wの各々のソースは、FET44U、44V、44Wの各々のドレインに接続されている。
【0020】
本実施に係るモータ駆動装置10は、一端がインダクタ46とB端子60との間に接続され、他端がノイズ抑制部材20と接地端子62との間に接続された前段コンデンサ16、及び一端がインバータ回路40とインダクタ46との間に接続され、他端がインバータ回路とノイズ抑制部材20との間に接続された後段コンデンサ18を備える。前段コンデンサ16及び後段コンデンサ18の各々は、電源80から供給される電力の平滑化に用いられる。
【0021】
図1に示したように、本実施形態に係るモータ駆動装置10も、
図18に示したモータ駆動装置120と同様に、浮遊容量34、36、28が生じ得る。しかしながら、浮遊容量34、36を介して導電性の筐体100に漏洩したコモンモードノイズ30は、ノイズ抑制部材20を介してインバータ回路40方向に流れるので、筐体100から浮遊容量38を介して接地領域50に漏洩するコモンモードノイズが減少する。その結果、計測系回路であるLISN82、84又は制御系回路へのコモンモードノイズの流入が抑制される。
【0022】
図2は、本実施形態に係るノイズ抑制部材20の一例を示した概略図である。
図2に示したように、ノイズ抑制部材20は、一端である端部T2が接地端子62を介して電源80の負極(-)と前段コンデンサ16の他端とに接続された負極側インダクタ22と、一端である端部T3がノイズ源であるインバータ回路40と後段コンデンサ18の他端とに接続されたノイズ源側インダクタ24と、一端が負極側インダクタ22の他端及びノイズ源側インダクタ24の他端に接続され、他端が筐体100に電気的に接続された端部T1を備える。一例として、負極側インダクタ22及びノイズ源側インダクタ24は、同一方向に巻かれるが、負極側インダクタ22の巻方向と、ノイズ源側インダクタ24の巻方向とが異なっていてもよい。
【0023】
端部T1は、一端が負極側インダクタ22の他端及びノイズ源側インダクタ24の他端に接続され他端が筐体100に接続された筐体接地コンデンサ28を含み、負極側インダクタ22の他端及びノイズ源側インダクタ24の他端と筐体接地コンデンサ28の一端との間には、寄生インダクタンス26が生じている。筐体接地コンデンサ28は、筐体100からのノイズ電流を導通すると共に、インバータ回路40から電源80の負極(-)に流れる直流成分の筐体100への漏洩を防止するために実装される。
【0024】
図2に示した構成では、コモンモードノイズ30が矢印方向に流れることにより、ノイズ源側インダクタ24及び寄生インダクタンス26の各々に磁界が生じ得るが、ノイズ源側インダクタ24と寄生インダクタンス26とを接近させることにより、ノイズ源側インダクタ24に生じた磁界と寄生インダクタンス26に生じた磁界とを打ち消し合う磁界による相互インダクタンス-Mが生じる。例えば、寄生インダクタンス26単体のインダクタンスをL1とすると、相互インダクタンス-Mが生じた場合、寄生インダクタンス26のインダクタンスはL1-Mとなる。本実施形態では、寄生インダクタンス26とノイズ源側インダクタ24とで生じる相互インダクタンス-Mによりコモンモードノイズ等の高周波ノイズを抑制する。
【0025】
図3は、インバータ回路40と電源80の負極(-)との間に伝播する伝導ノイズの状態の一例を示した概略図である。本実施形態に係るノイズ抑制部材20を用いた場合の伝導ノイズ130は、周波数30MHzから周波数80MHzまで、暗ノイズ134と同程度にまで抑制され得るが、従来技術による伝導ノイズ132は、周波数30MHzから周波数110MHzに至るまで暗ノイズ134を上回っている。
【0026】
また、コモンモードノイズ30を筐体100に拡散させないために寄生インダクタンス26のインピーダンスを抑制して、コモンモードノイズ30が優先的にノイズ抑制部材20に流れるようにすることが望ましい。本実施形態では、筐体100に接続する端部T1とノイズ源側インダクタ24との接続を可能な限り短くする等により、寄生インダクタンス26を抑制して、相互インダクタンス-Mによるノイズ電流の抑制効果を向上させる。例えば、端部T1とノイズ源側インダクタ24との接続を、寄生インダクタンス26を抑制し得る所定値以下となるように可能な限り短くする。
【0027】
ノイズ抑制部材20の負極側インダクタ22は、接地端子62側へのノイズ電流の伝搬を抑制するためのものである。従って、負極側インダクタ22は、ノイズ源側インダクタ24に比してインピーダンス、つまりはインダクタンスが大きいことが望ましい。しかしながら、接地端子62側のインピーダンス、つまりはインダクタンスがノイズ源側インダクタ24よりも大きいのであれば、負極側インダクタ22を積極的に実装することを要しない。また、端部T1には、コンデンサ様の浮遊容量が生じる場合があるので、かかる場合であれば、筐体接地コンデンサ28を積極的に実装することを要しない。
【0028】
図4(A)は寄生インダクタンス72Dの影響の一例を示した説明図であり、
図4(B)は浮遊容量70の影響の一例を示した説明図である。
図4(A)、(B)では、インダクタ46は、コンデンサ46C、コイル46L及び抵抗46Rの各々を含み得る構成としている。また、電源80の逆接続がされた場合に回路を保護するための逆接防止FET48がノイズ抑制部材20とGNDコネクタ(接地端子62)との間に設けられている。さらに、インバータ回路40と後段コンデンサ18の他端との間には、電流測定用のシャント抵抗56が設けられている。
【0029】
図2は、説明を明快にするため、ノイズ抑制部材20の端部T1側には、筐体接地コンデンサ28と寄生インダクタンス26とが存在することを述べたが、実際には、
図4(A)、(B)に示したように、寄生インダクタンス26は、パターン寄生インダクタンス26L1、等価直列抵抗26R、等価直列インダクタンス26L2及び部品寄生インダクタンス26L3を含み得る。
【0030】
本実施形態では、端部T1側に生じたパターン寄生インダクタンス26L1、等価直列抵抗26R、等価直列インダクタンス26L2及び部品寄生インダクタンス26L3等による磁界と、ノイズ源側インダクタ24の磁界と、を効果的に打ち消すことができるようにノイズ抑制部材20を構成することを要する。
【0031】
図4(A)、(B)に示したように、回路上には、寄生インダクタンス72A、72B、72C、72D等が生じ得る。
図4(A)に示した場合で、コモンモードノイズの解消に最も影響し得る要素は、後段コンデンサ18の他端とノイズ源側インダクタ24との間に生じ得る寄生インダクタンス72Dである。かかる寄生インダクタンス72Dのインダクタンスが大きいと、寄生インダクタンス26のインダクタンスと、ノイズ源側インダクタ24のインダクタンスとの相互作用が阻害され、コモンモードノイズを効果的に抑制することが困難となる。従って、寄生インダクタンス72Dの発生を抑制するように、後段コンデンサ18の他端とノイズ源側インダクタ24の端部T3との距離をできるだけ短くしてインバータ回路40とノイズ源側インダクタ24との間のインピーダンスを低減することが望ましい。例えば、後段コンデンサ18の他端とノイズ源側インダクタ24の端部T3との距離を、寄生インダクタンス72Dの発生を抑制し得る所定値以下にする。
【0032】
図5は、インバータ回路40とノイズ源側インダクタ24との間の寄生インダクタンス72Dの大きさによる相互インダクタンス-Mの変化を示した説明図である。
図5には、寄生インダクタンス72Dが、0nHの場合の相互インダクタンス140から100nHの場合の相互インダクタンス142まで、相互インダクタンス-Mの変化が段階的に示されている。
図5に示したように、FM帯(76~108MHz)を含む領域では、寄生インダクタンス72Dのインダクタンスが0nHの場合、すなわち、寄生インダクタンス72Dのインダクタンスが最小の場合に、相互インダクタンス-Mによるノイズ抑制が顕著となる。
【0033】
また、
図4(B)に示したように、寄生インダクタンス72Cと、負極側インダクタ22と、ノイズ源側インダクタ24とによって構成される浮遊容量74の影響も問題となる。
図4(B)に示したような浮遊容量74が生じた場合、ノイズ電流の一部が接地領域50を経由して計測系回路又は制御系回路に漏洩するおそれがある。従って、本実施形態では、浮遊容量74を最小にする配慮が必要となる。具合的には、ノイズ抑制部材20が実装された部分の基板70の下層を絶縁性の構成とし、例えば、接地領域の回路パターン等の導電性の構成を配さない等の対策が求められる。又はノイズ抑制部材20と接地端子62との距離を最短にする、換言すれば導電性の筐体100内におけるノイズ抑制部材20の負極(-)側の電気的接続の距離を短縮することにより寄生インダクタンス72Cの発生を抑制して、ノイズ電流がノイズ源側インダクタ24を伝搬しない経路の発生を抑制してもよい。例えば、換言すれば導電性の筐体100内におけるノイズ抑制部材20の負極(-)側の電気的接続の距離を、寄生インダクタンス72Cの発生を抑制し得る所定値以下にする。
【0034】
図6は、ノイズ抑制部材20と基板70との間に形成される浮遊容量の大きさによる相互インダクタンス-Mの変化を示した説明図である。
図6には、浮遊容量が1.8pFの場合の相互インダクタンス150と、浮遊容量が4.5pFの場合の相互インダクタンス152とが示されている。
図6に示したように、FM帯(76~108MHz)を含む領域では、浮遊容量が1.8pFの場合、すなわち、ノイズ抑制部材20と基板70との間に形成される浮遊容量が小さい場合に、相互インダクタンス-Mによるノイズ抑制が顕著となる。
【0035】
図7は、本実施形態に係るノイズ抑制部材20Aの一例を示した概略図である。
図7に示したノイズ抑制部材20Aは、導電性の線状部材を一方向に巻回してコイルを生成し、生成したコイルの両端部を端部T2、T3にすると共に、当該コイルの中間部位に端部T1を接合したものである。端部T1と端部T2との間は負極側インダクタ22Aになり、端部T1と端部T3との間はノイズ源側インダクタ24Aになる。
【0036】
図8は、本実施形態に係るノイズ抑制部材20Bの一例を示した概略図である。
図8に示したノイズ抑制部材20Bは、導電性の平角線を曲げて生成したインダクタの両端部を端部T2、T3にすると共に、当該インダクタの中間部位に端部T1を接合したものである。端部T1と端部T2との間は負極側インダクタ22Bになり、端部T1と端部T3との間はノイズ源側インダクタ24Bになる。
【0037】
図9は、本実施形態に係るノイズ抑制部材20Cの一例を示した概略図である。
図9に示したノイズ抑制部材20Cは、導線性の平板部材を曲げて生成したインダクタの両端部を端部T2、T3にすると共に、当該インダクタの中間部位に端部T1を接合したものである。端部T1と端部T2との間は負極側インダクタ22Cになり、端部T1と端部T3との間はノイズ源側インダクタ24Cになる。
【0038】
図10(A)は、本実施形態に係るノイズ抑制部材20Dの一例を示した概略図であり、
図10(B)は、
図7に示したノイズ抑制部材20Aを比較対象として提示したものである。
図10(A)に示したように、ノイズ抑制部材20Dは、平板部材を波線状及びジグザグ状のいずれかの形状で切り抜いてインダクタを生成したバスバータイプであり、両端部を端部T2、T3にすると共に、生成したインダクタの中間部位に端部T1となる突起を設けたものである。端部T1と端部T2との間は負極側インダクタ22Dになり、端部T1と端部T3との間はノイズ源側インダクタ24Dになり、電気的には、線状部材を巻回して生成したノイズ抑制部材20Aと同等の機能を有する。
【0039】
図11は、ノイズ抑制部材20B又はノイズ抑制部材20Cを樹脂64で封止したノイズ抑制部材20Eの一例を示した概略図である。樹脂64で封止することにより、部材間の短絡、及び部材の結露等を防止することができる。
【0040】
図12は、ノイズ抑制部材20Aの製造方法の一例を示した概略図である。
図12に示した製造方法では、1の線状部材を巻回して負極側インダクタ22Aを、他の線状部材を巻回してノイズ源側インダクタ24Aを各々生成すると共に、各々生成した負極側インダクタ22Aの端部T1とノイズ源側インダクタ24Aの端部T1とを接合することにより、ノイズ抑制部材20Aを生成する。
【0041】
図13は、ノイズ抑制部材20Aの製造方法の他の例を示した概略図である。
図13に示した製造方法では、1の線状部材を円筒状の芯材66に巻回してコイルを生成し、生成したコイルの両端部を端部T2、T3にする。そして、当該コイルの中間部位に引っ掛けた治具68を矢印A方向に引き出すことで端部T1を生成した後、芯材66を例えば矢印B方向に引き抜くことによってノイズ抑制部材20Aを生成する。
【0042】
図14は、ノイズ抑制部材20Aの実装の一例を示した概略図である。
図14では、端部T1、T2、T3を基板70に設けた穴に挿通する。そして、端部T2、T3は回路パターンに電気的接続し、端部T1は基板70を貫通して基板下の筐体に最短で接続する。
【0043】
図15は、ノイズ抑制部材20Bの実装の一例を示した概略図である。
図15では、平角線で構成されたノイズ抑制部材20Bを、基板70に埋め込んでいる。平角線で構成されたノイズ抑制部材20Bは、線状部材を巻回して生成されたノイズ抑制部材20Aよりも形状保持性に優れるので、基板70に埋め込むように実装することができる。
【0044】
図16は、ノイズ抑制部材20Bの実装の他の例を示した概略図である。
図16では、端部T2、T3を基板に挿通し、端部T1を筐体100に電気的に接続している。
図16では、端部T2、T3を除くノイズ抑制部材20Bの構成を基板70の外に配置している。導体である負極側インダクタ22B及びノイズ源側インダクタ24Bを基板70の外に配置することにより、ノイズ抑制部材20Bと基板70の回路パターンとの間に浮遊容量が生じることを防止する。また、
図16では、構図の関係でノイズ抑制部材20Bと導電性の筐体100とが接近しているように見えるが、浮遊容量が意図せずして生じないようにノイズ抑制部材20Bと導電性の筐体100とをある程度隔離することを要する。
【0045】
図17は、ノイズ抑制部材20Cの実装の一例を示した概略図である。
図17に示したノイズ抑制部材20Cは端部T1に筐体接地コンデンサ28を備え、筐体接地コンデンサ28の一端が導電性の筐体100に電気的に接続されている。筐体接地コンデンサ28の一端と筐体との接続は、導電性のボルト、リベット又ははんだ付け等による。
【0046】
図17に示したように、コモンモードノイズ30は、筐体100から筐体接地コンデンサ28と端部T1を介してノイズ抑制部材20Cのノイズ源側インダクタ24Cを流れることにより相互インダクタンス-Mが生じ、コモンモードノイズ30が抑制される。
【0047】
以上説明したように、本実施の形態によれば、浮遊容量34、36等によって筐体100に漏洩したノイズ電流を、筐体100に電気的に接続された端部T1とノイズ源側インダクタ24とに流すことにより、ノイズ電流を抑制している。
【0048】
より具体的には、ノイズ電流が端部T1からノイズ源側インダクタ24に流れることにより、端部T1に生じた寄生インダクタンス26の磁界とノイズ源側インダクタ24に生じた磁界とを打ち消し合う磁界による相互インダクタンス-Mが生じる。かかる相互インダクタンス-Mによって、寄生インダクタンス26のインダクタンスが減殺される。その結果、コモンモードノイズ等の高周波ノイズを抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態に係るノイズ抑制部材20は、
図13に示したように、同一方向に巻回したコイルの中間部位を引き出すこと等により容易に製造できる。従来は部材として2種類のコイルを利用していたが、本発明では1のコイルからノイズ抑制部材20を製造できるので、原材料及び製造工程におけるコスト削減が可能となる。
【符号の説明】
【0050】
18 後段コンデンサ、20、20A、20B、20C、20D、20E ノイズ抑制部材、22、22A、22B、22C、22D 負極側インダクタ、24、24A、24B、24C、24D ノイズ源側インダクタ、26 寄生インダクタンス、28 筐体接地コンデンサ、30 コモンモードノイズ、40 インバータ回路、50 接地領域、80 電源、100 筐体、T1、T2、T3 端部