(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、および、液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20241008BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20241008BHJP
H10N 30/88 20230101ALI20241008BHJP
【FI】
B41J2/14 305
B41J2/14 613
H10N30/20
H10N30/88
(21)【出願番号】P 2020163341
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2023-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古池 晴信
(72)【発明者】
【氏名】沢崎 立雄
(72)【発明者】
【氏名】中山 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】西 智尋
(72)【発明者】
【氏名】清水 稔弘
(72)【発明者】
【氏名】山崎 泰志
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-194832(JP,A)
【文献】特開2019-014229(JP,A)
【文献】特開2014-083761(JP,A)
【文献】特開2010-000728(JP,A)
【文献】特開2001-088294(JP,A)
【文献】特開2005-144594(JP,A)
【文献】特開2005-228983(JP,A)
【文献】特開2007-245567(JP,A)
【文献】米国特許第06478412(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第104772988(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
H10N 30/20
H10N 30/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体吐出ヘッドであって、
圧電素子と、
前記圧電素子の駆動により振動する振動板であって、SiO
2を含む第一層、および前記第一層に積層されるZrO
2を含む第二層を含む振動板と、を備え、
前記第二層は、Zrとは異なる第一不純物元素を含み、
前記第二層のうち前記第一層と接する界面における前記第一不純物元素の濃度は、前記第二層のうち前記界面から前記第二層の表面までに含まれる内部領域における前記第一不純物元素の濃度よりも高
く、
前記第一不純物元素は、Feを含む、液体吐出ヘッド。
【請求項2】
液体吐出ヘッドであって、
圧電素子と、
前記圧電素子の駆動により振動する振動板であって、SiO
2
を含む第一層、および前記第一層に積層されるZrO
2
を含む第二層を含む振動板と、を備え、
前記第二層は、Zrとは異なる第一不純物元素を含み、
前記第二層のうち前記第一層と接する界面における前記第一不純物元素の濃度は、前記第二層のうち前記界面から前記第二層の表面までに含まれる内部領域における前記第一不純物元素の濃度よりも高く、
前記第一不純物元素は、Crを含む
、液体吐出ヘッド。
【請求項3】
液体吐出ヘッドであって、
圧電素子と、
前記圧電素子の駆動により振動する振動板であって、SiO
2
を含む第一層、および前記第一層に積層されるZrO
2
を含む第二層を含む振動板と、を備え、
前記第二層は、Zrとは異なる第一不純物元素を含み、
前記第二層のうち前記第一層と接する界面における前記第一不純物元素の濃度は、前記第二層のうち前記界面から前記第二層の表面までに含まれる内部領域における前記第一不純物元素の濃度よりも高く、
前記第一不純物元素は、Siを含む
、液体吐出ヘッド。
【請求項4】
液体吐出ヘッドであって、
圧電素子と、
前記圧電素子の駆動により振動する振動板であって、SiO
2
を含む第一層、および前記第一層に積層されるZrO
2
を含む第二層を含む振動板と、を備え、
前記第二層は、Zrとは異なる第一不純物元素を含み、
前記第二層のうち前記第一層と接する界面における前記第一不純物元素の濃度は、前記第二層のうち前記界面から前記第二層の表面までに含まれる内部領域における前記第一不純物元素の濃度よりも高く、
前記内部領域は、前記第一不純物元素を含み、
前記内部領域に含まれる前記第一不純物元素は、Siを含み、
前記内部領域におけるSiの濃度分布は、少なくとも一部の濃度が一定となる平坦領域を有する、
液体吐出ヘッド。
【請求項5】
液体吐出ヘッドであって、
圧電素子と、
前記圧電素子の駆動により振動する振動板であって、SiO
2
を含む第一層、および前記第一層に積層されるZrO
2
を含む第二層を含む振動板と、を備え、
前記第二層は、Zrとは異なる第一不純物元素を含み、
前記第二層のうち前記第一層と接する界面における前記第一不純物元素の濃度は、前記第二層のうち前記界面から前記第二層の表面までに含まれる内部領域における前記第一不純物元素の濃度よりも高く、
前記第二層は、さらに、Zrおよび前記第一不純物元素とは異なる第二不純物元素を含み、
前記界面における前記第二不純物元素の濃度と、前記内部領域における前記第二不純物元素の濃度との差は、
前記界面における前記第一不純物元素の濃度と、前記内部領域における前記第一不純物元素の濃度との差よりも小さい、
液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記界面における前記第二不純物元素の濃度と、前記内部領域における前記第二不純物元素の濃度とが等しい、請求項
5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記第二不純物元素は、金属元素を含む、請求項
5または請求項
6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記第二不純物元素は、Hfを含む、請求項
7に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記第二不純物元素は、Tiを含む、請求項
7または請求項
8に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
液体吐出ヘッドであって、
圧電素子と、
前記圧電素子の駆動により振動する振動板であって、SiO
2
を含む第一層、および前記第一層に積層されるZrO
2
を含む第二層を含む振動板と、を備え、
前記第二層は、Zrとは異なる第一不純物元素を含み、
前記第二層のうち前記第一層と接する界面における前記第一不純物元素の濃度は、前記第二層のうち前記界面から前記第二層の表面までに含まれる内部領域における前記第一不純物元素の濃度よりも高く、
前記第二層の前記界面は、圧縮応力を有し、
前記第二層の前記内部領域は、引張応力を有する、
液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記第一層における前記第一不純物元素の濃度は、前記界面における前記第一不純物元素の濃度よりも低く、且つ、前記内部領域における前記第一不純物元素の濃度よりも低い、請求項1から請求項
10までのいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記第二層は、柱状の結晶構造を有するZrO
2を含む、請求項1から請求項
11までのいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
前記第二層は、単斜晶系のZrO
2を含む、請求項1から請求項
12までのいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項14】
請求項1から請求項
13までのいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドからの吐出動作を制御する制御部と、を有する、
液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体吐出ヘッド、液体吐出装置、アクチュエーターに関する。
【背景技術】
【0002】
ZrO2からなる絶縁膜と、SiO2からなる弾性膜とを有する振動板と、振動板を変位させる圧電素子とを備える液体噴射ヘッドが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
絶縁膜は、引張応力等の残留応力を有することがある。そのため、圧電素子の駆動により振動板に外力が加わると振動板が割れることがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1の形態によれば、液体吐出ヘッドが提供される。この液体吐出ヘッドは、圧電素子と、前記圧電素子の駆動により振動する振動板であって、SiO2を含む第一層、および前記第一層に積層されるZrO2を含む第二層を含む振動板と、を備える。前記第二層は、Zrとは異なる第一不純物元素を含み、前記第二層のうち前記第一層と接する界面における前記第一不純物元素の濃度は、前記第二層のうち前記界面から前記第二層の表面までに含まれる内部領域における前記第一不純物元素の濃度よりも高くてよい。
【0006】
本開示の第2の形態によれば、液体吐出装置が提供される。この液体吐出装置は、上記第1の形態における液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドからの吐出動作を制御する制御部と、を有する。
【0007】
本開示の第3の形態によれば、アクチュエーターが提供される。このアクチュエーターは、圧電素子と、前記圧電素子の駆動により振動する振動板であって、SiO2を含む第一層、および前記第一層に積層され、ZrO2を含む第二層を含む振動板と、を備える。前記第二層は、Zrとは異なる第一不純物元素を含み、前記第一不純物元素の濃度は、前記第二層のうち前記第一層と接する界面の方が、前記第二層のうち前記界面から前記第二層の表面までの内部領域よりも高くてよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図5】弾性膜および絶縁体膜に含まれる元素の濃度分布の一例を示す説明図。
【
図6】絶縁体膜の膜厚に対する残留応力の分布を示す説明図。
【
図7】第二不純物元素としてHfを含む振動板における不純物元素の濃度の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
図1は、本実施形態の液体吐出ヘッド1を搭載する液体吐出装置100を示す説明図である。液体吐出装置100は、液体であるインクを吐出するインクジェット方式の印刷装置である。液体吐出装置100は、インクを貯留する液体容器2を備えており、液体容器2内のインクを用いて媒体PM上に画像を形成する。
図1には、互いに直交するX方向、Y方向、ならびにZ方向が模式的に示されている。
図1に示す各方向は、
図1以降の各図において共通する。
【0010】
液体吐出装置100は、液体吐出ヘッド1と、移動機構24と、搬送機構8と、制御ユニット121と、を備えている。液体吐出ヘッド1は、液体容器2から供給されるインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドである。移動機構24は、環状のベルト24bと、液体吐出ヘッド1を保持するキャリッジ24cとを備えている。キャリッジ24cは、ベルト24bに固定されている。移動機構24は、ベルト24bを正転と逆転との双方向に回転させることにより、キャリッジ24cとともに液体吐出ヘッド1を一方向に沿って往復させる。搬送機構8は、液体吐出ヘッド1の移動方向とは交差する向きに沿って媒体PMを搬送する。
【0011】
制御ユニット121は、搬送機構8と、移動機構24と、液体吐出ヘッド1とを協働させることにより、媒体PM上に画像を形成させる制御部として機能する。より具体的には、制御ユニット121は、搬送機構8の駆動制御によって媒体PMを搬送する間に、液体吐出ヘッド1によるインクの吐出制御と、移動機構24の駆動制御による液体吐出ヘッド1の往復移動とを繰り返すことによって、媒体PM上に画像を形成する。
【0012】
図2は、液体吐出ヘッド1の平面図である。
図2には、液体吐出ヘッド1において、媒体PMと対向する面には、ノズルプレート20が備えられている。ノズルプレート20には、複数のノズル21が一方向に沿って配列されている。
【0013】
図3は、
図2のIII-III位置の断面図である。液体吐出ヘッド1は、流路形成基板10と、連通板15と、ノズルプレート20と、コンプライアンス基板49と、振動板50と、アクチュエーター300と、保護基板30と、ケース部材40とを備えている。
図3の例において、ノズル21によるインクの吐出方向と、Z方向とは一致している。技術の理解を容易にするために、以下の説明において、一の基準位置に対するインクの吐出方向側を「下」とも呼び、一の基準位置に対するインクの吐出方向とは逆方向側を「上」とも呼ぶ。
【0014】
流路形成基板10は、平板状の部材である。流路形成基板10は、圧力室12を備えている。連通板15は、流路形成基板10の下面側に配置されている。連通板15は、インク流路を有する第一連通板151および第二連通板152が積層されることによって形成されている。連通板15のインク流路には、第一連通部16、第二連通部17、第三連通部18、第一流路201、第二流路202、ならびに供給路203が含まれる。第一流路201、第二流路202、供給路203、ならびに圧力室12は、互いに連通することによってインクの流路を形成している。第一流路201、第二流路202、供給路203、ならびに圧力室12は、ノズル21の数と同一の数だけ備えられており、ノズル21の配列方向に沿って配列されている。第一流路201、第二流路202、供給路203、ならびに圧力室12を、まとめて「個別流路200」とも呼ぶ。第一連通部16、第二連通部17、ならびに第三連通部18は、それぞれ一つずつ備えられ、複数の個別流路200に対して共通するインク流路として機能する。
【0015】
ノズルプレート20は、連通板15の下面側に配置されている。ノズルプレート20は、連通板15の下面側の開口の一部を塞いでおり、インク流路としての第一流路201、第二流路202、ならびに第三連通部18の内壁として機能する。ノズルプレート20における第一流路201を塞ぐ位置には、ノズル21が形成されている。
【0016】
コンプライアンス基板49は、連通板15の下面側において、ノズルプレート20を囲むように配置されている。コンプライアンス基板49は、連通板15の下面側の開口の一部を塞いでおり、インク流路としての第一連通部16の内壁の一部として機能する。コンプライアンス基板49は、封止膜491と、固定基板492とを備えている。固定基板492は、封止膜491の下面側に配置されている。固定基板492は、第一連通部16を封止する領域にコンプライアンス部494を備えている。コンプライアンス部494は、封止膜491が露出される固定基板492に設けられる開口である。コンプライアンス部494は、連通板15の第一連通部16を封止する領域に配置されている。これにより、封止膜491は、固定基板492の開口内に向かって弾性変形することができ、第一連通部16内の圧力変動を緩和する。
【0017】
保護基板30は、アクチュエーター300を収容する基板である。保護基板30の内部には、凹状のアクチュエーター保持部31を有する。アクチュエーター保持部31は、複数のアクチュエーター300を変形可能に収容するための空間を規定している。
【0018】
ケース部材40は、流路形成基板10、連通板15、ならびに保護基板30の上面を覆う部材である。ケース部材40には、接続孔45と、インク流路とが形成されている。接続孔45は、ケース部材40を上下に貫通する貫通孔である。接続孔45内には、駆動回路126を備えるフレキシブルケーブル120が配置されている。駆動回路126は、圧電素子32を駆動する駆動信号を供給するための半導体素子である。フレキシブルケーブル120は、接続孔45内で、リード電極90と電気的に接続されている。
【0019】
ケース部材40のインク流路には、第一液室部41、第二液室部42、導入口43、排出口44が含まれる。導入口43および排出口44は、図示しないインク貯留室と接続されている。第一液室部41は、連通板15の第一連通部16と連通し、第二液室部42は、連通板15の第二連通部17と連通する。
【0020】
図3には、インクの流動方向が矢印を用いて模式的に示されている。インク貯留部から供給されたインクは、導入口43からケース部材40内の第一液室部41に導入される。第一液室部41に供給されたインクは、連通板15の第一連通部16に流動し、複数の個別流路200のそれぞれに分流する。分流したインクは、供給路203、圧力室12、第二流路202、ならびに第一流路201をこの順に流動して、第三連通部18に至り合流する。第三連通部18に供給されたインクは、第二連通部17を経て、第二液室部42に流動し、排出口44からインク貯留部に排出される。インク貯留部に排出されたインクは、循環されて再び導入口43から導入される。
【0021】
アクチュエーター300は、流路形成基板10の上面に配置されている。アクチュエーター300は、入力された電気信号を物理的運動に変換して圧力室12内のインクに伝達する。アクチュエーター300は、圧電素子32と、振動板50とを備えている。圧電素子32は、第一電極60、圧電体層70、ならびに第二電極80を備えている。
【0022】
圧電体層70は、第一電極60と、第二電極80との間に配置されている。圧電体層70は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる層であり、電圧が印加されることによって変形する。圧電体層70は、PZTには限定されず、その他の強誘電性圧電性材料や、これにニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等を用いてもよい。
【0023】
圧電体層70の下に設けられた第一電極60は、圧電素子32の共通電極であり、圧電体層70の上に設けられた第二電極80は、圧電素子32の個別電極である。第二電極80には、リード電極90が接続されている。駆動回路126から出力される駆動信号は、フレキシブルケーブル120およびリード電極90を介して第二電極80に供給される。第一電極60と、第二電極80とによって圧電体層70に電圧が印加され、圧電体層70は変形する。なお、圧電体層70の下に設けられた第一電極60が個別電極とされ、圧電体層70の上に設けられた第二電極80が共通電極とされてもよい。
【0024】
振動板50は、流路形成基板10の上面において、アクチュエーター300に接する状態で配置されている。振動板50は、圧電素子32の駆動、すなわち圧電体層70の変形によって振動し、圧力室12内のインクに圧力を付与する。圧力室12内のインクの圧力変動が第二流路202および第一流路201内のインクに伝達されることによって、ノズル21からインクが吐出される。
【0025】
振動板50は、絶縁体膜51と、弾性膜52とを備えている。弾性膜52は、二酸化シリコン(SiO2)を含む層である。弾性膜52を、「第一層52」とも呼ぶ。弾性膜52の厚さとしては、0.1μm以上0.5μm以下で設定されることが好ましい。弾性膜52は、流路形成基板10上に配置され、流路形成基板10の上面側の開口を塞いでいる。弾性膜52上には、酸化ジルコニウム(ZrO2)を含む絶縁体膜51が積層されている。絶縁体膜51を、「第二層51」とも呼ぶ。絶縁体膜51の厚みとしては、0.1μm以上1.2μm以下で設定されることが好ましい。本実施形態では、絶縁体膜51は、柱状の結晶構造を有するZrO2を含んでいる。また、絶縁体膜51は、単斜晶系のZrO2を含んでいる。本実施形態では、弾性膜52および絶縁体膜51には、例えば、合計量で10質量%未満の不純物元素が含有されている。弾性膜52および絶縁体膜51に含まれる不純物元素の形態としては、原子や元素であってもよく、酸化物などの分子であってもよい。
【0026】
振動板50の形成方法としては、流路形成基板10を形成するためのシリコンウェハを約1100度の拡散炉で熱酸化し、その表面に弾性膜52としての二酸化シリコン膜を形成する。形成された弾性膜52上に、例えば、スパッタリング法等によりジルコニウム(Zr)層を形成し、500度以上1200度以下の拡散炉で熱酸化することにより酸化ジルコニウムを含む絶縁体膜51を形成する。絶縁体膜51に不純物元素を含有させる方法としては、例えば、スパッタリング法により絶縁体膜51を形成する際に、不純物元素を予め含有させたターゲットを用いてスパッタリングすることにより絶縁体膜51を成膜する方法が挙げられる。絶縁体膜51に含有される不純物元素の濃度は、スパッタリングターゲット内の不純物元素の濃度の増減によって調節することができる。具体的には、不純物元素の濃度は、スパッタリングターゲット内の不純物元素の濃度を高くするほど高くできる。
【0027】
図4は、
図3の範囲ARを拡大して示す説明図である。
図4には、技術の理解を容易にするために、振動板50以外の部材の図示は省略されている。
図4には、絶縁体膜51の界面IF、絶縁体膜51の表面SR1、絶縁体膜51の内部領域IA1、弾性膜52の表面SR2、ならびに弾性膜52の内部領域IA2が模式的に示されている。界面IFは、絶縁体膜51のうち弾性膜52と接する領域を意味する。一般に、複数の層が積層された積層体の界面は、クラックの起点となり積層体の強度を低下させる要因となり得る。絶縁体膜51の表面SR1は、界面領域FAを挟んで弾性膜52と反対側の領域に含まれる面であり、絶縁体膜51における界面IFとは逆側の面である。絶縁体膜51の表面SR1は、
図3に示すように、圧電素子32と接する面である。絶縁体膜51の内部領域IA1は、絶縁体膜51の界面IFから表面SR1までに含まれる領域である。弾性膜52の表面SR2は、弾性膜52のうち絶縁体膜51と接する面とは逆側の面である。弾性膜52の内部領域IA2は、弾性膜52の表面SR2から、絶縁体膜51と接する面までに含まれる領域である。界面IFは、絶縁体膜51のうち弾性膜52と接する領域のみに限らず、絶縁体膜51のうち弾性膜52と接する領域と連続する一部の内部領域IA1が含まれていてもよい。
【0028】
図5は、弾性膜52および絶縁体膜51に含まれる元素の濃度分布の一例を示す説明図である。
図5には、二次イオン質量分析法(SIMS)による振動板50の膜厚に対する各元素および各分子の二次イオン強度の測定結果、すなわち振動板50の膜厚に対する元素および分子ごとの濃度分布が示されている。
図5の縦軸は、二次イオン強度を示し、横軸は、絶縁体膜51の表面SR1からの深さ、すなわち振動板50の膜厚を示している。
図5の横軸には、弾性膜52および絶縁体膜51の表面SR1の位置と、界面IFの位置とが示されている。
図5の横軸の下側には、技術の理解を容易にするために、界面IFの位置と、SiO
2層としての弾性膜52の表面SR2の位置と、ZrO
2層としての絶縁体膜51の表面SR1の位置とが模式的に示されている。
【0029】
二次イオン強度の測定方法としては、2cm角のサイズに切り出した振動板50のサンプルを準備する。振動板50の形成方法としては、上述したように、シリコンウェハの表面に弾性膜52としての二酸化シリコン膜を形成し、形成された弾性膜52上にZr層を形成し、熱酸化により酸化ジルコニウムを含む絶縁体膜51を形成する。準備した振動板50のサンプルを、温度45度かつ湿度95%、ならびに重水が比較的多い環境である重水雰囲気に24時間曝した後に回収する。回収した振動板50のサンプルを二次イオン質量分析装置に投入し、測定した。測定対象とする元素は、例えば、水素、重水素、酸素、シリコン、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、鉄、クロムなどである。
【0030】
本実施形態において、弾性膜52および絶縁体膜51に含まれる不純物元素としては、第一不純物元素と、第二不純物元素とが含まれている。弾性膜52の不純物元素には、Siは含まれず、絶縁体膜51の不純物元素には、Zrは含まれない。第一不純物元素と、第二不純物元素とは、絶縁体膜51内での濃度分布の傾向が異なる点で相違する。
【0031】
第一不純物元素は、絶縁体膜51の内部領域IA1での濃度より、界面IFでの濃度の方が高い不純物元素を意味する。第一不純物元素としては、
図5の例において、クロム(Cr)および鉄(Fe)が該当する。Crは、例えば、組成式CrOとする酸化クロム(II)として存在し、Feは、組成式FeOとする酸化鉄(II)として存在する。Crは、組成式Cr
2O
3とする酸化クロム(III)や組成式CrO
2とする酸化クロム(IV)、組成式CrO
3とする酸化クロム(VI)として存在していてもよい。界面IFでの第一不純物元素の濃度が内部領域IA1よりも高くなる要因としては、弾性膜52上に配置したZr層を熱酸化させて絶縁体膜51を形成する際に、Zr層が表面SR1から界面IFに向かって順に酸化することにともなって、絶縁体膜51内に含まれる第一不純物元素が界面IFに向かって移動するためと考えられる。第一不純物元素は、金属元素であることが好ましい。なお、絶縁体膜51の内部領域IA1には、第一不純物元素が含まれなくてもよい。
【0032】
本実施形態では、絶縁体膜51の第一不純物元素には、CrおよびFeの他に、さらにSiが含まれている。
図5に示すように、Siの濃度分布において、内部領域IA1でのSiの濃度よりも界面IFでのSiの濃度の方が高い。Siの濃度分布では、
図5に領域PAとして示すように、絶縁体膜51の内部領域IA1において、濃度が一定となる平坦領域を有している。この平坦領域を「プラトー領域」とも呼ぶ。また、内部領域IA1でのSiの濃度分布は、界面IFに向かうに従って緩やかに上昇する。
【0033】
本実施形態において、第一不純物元素は、弾性膜52には含まれていない。ただし、第一不純物元素は、弾性膜52に含まれていてもよい。この場合において、弾性膜52内での第一不純物元素の濃度は、界面IFにおける第一不純物元素の濃度よりも低く、且つ、絶縁体膜51の内部領域IA1における第一不純物元素の濃度よりも低くてよい。
【0034】
第二不純物元素は、絶縁体膜51内での濃度が略一定となる傾向を示す元素を意味する。第二不純物元素としては、
図5の例において、Tiが該当する。Tiは、例えば、組成式TiOとする一酸化チタンとして存在する。Tiは、組成式TiO
2とする二酸化チタンや、組成式Ti
2O
3とする酸化チタン(III)として存在していてもよい。第二不純物元素の濃度が一定となる要因としては、スパッタを完了して弾性膜52上に形成されたZr層内に拡散した第二不純物元素の熱酸化がZrとともに進行するためと考えられる。第二不純物元素は、金属元素であることが好ましく、Zrよりも粒径の大きい金属元素であることがより好ましい。
【0035】
絶縁体膜51において、界面IFにおける第二不純物元素の濃度と、内部領域IA1における第二不純物元素の濃度との差DF1は、第一不純物元素であるCrの界面IFでの濃度と、内部領域IA1におけるCrの濃度との差DF2よりも小さい。換言すれば、第二不純物元素は、界面IFでの濃度が内部領域IA1よりも高くならない不純物元素である。界面IFにおける第一不純物元素の濃度と、内部領域IA1における第一不純物元素の濃度とは、互いに等しくてもよい。
【0036】
図6は、絶縁体膜51の膜厚に対する残留応力の分布を示す説明図である。
図6には、第一不純物元素の濃度の異なる4つの絶縁体膜51のサンプルにおける残留応力の測定結果が示されている。
図6の横軸は、絶縁体膜51の界面IFから表面SR1までの膜厚を示しており、
図6の縦軸は、絶縁体膜51の残留応力を示している。残留応力の測定には、薄膜応力測定装置を用いた。残留応力は、サンプルの曲率を取得して応力に変換することによって得られる。絶縁体膜51の各サンプルの残留応力は、絶縁体膜51の表面SR1である残膜厚TH4から、アルゴンイオンを用いたイオンミリングによって内部領域IA1としての残膜厚TH1~TH3、ならびに界面IFである残膜厚TH0まで削り、それぞれ測定した結果である。サンプルS1~S3の第一不純物元素の濃度は、10質量%未満であり、それぞれ異なる。具体的には、サンプルS1の第一不純物元素の濃度が最も小さく、サンプルS3の第一不純物元素の濃度が最も大きく、サンプルS2の第一不純物元素の濃度は、サンプルS1より大きくサンプルS3よりも小さい。
図6には、比較例として、第一不純物元素を含まないサンプルSRの結果が示されている。
【0037】
図6にサンプルSRとして示すように、絶縁体膜51が第一不純物元素を含まない場合、絶縁体膜51の界面IFから表面SR1までのすべての残留応力が引張応力である。
図6に残膜厚TH0でのサンプルS1~S3として示すように、第一不純物元素を含む絶縁体膜51の界面IFは、圧縮応力を有している。界面IFでの圧縮応力は、第一不純物元素の濃度が高くなるに従って大きくなり、第一不純物元素の濃度が最も大きいサンプルS3で最も大きくなる。サンプルS1~S3において、界面IF以外、すなわち絶縁体膜51の表面SR1である残膜厚TH4、ならびに内部領域IA1である残膜厚TH1~TH3の残留応力は、引張応力を有している。サンプルS1~S3において、表面SR1での引張応力は、内部領域IA1での引張応力よりも大きい。
【0038】
以上、説明したように、本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、振動板50は、SiO2を含む弾性膜52と、ZrO2を含む絶縁体膜51を備えている。絶縁体膜51は、第一不純物元素を含んでおり、絶縁体膜51の界面IFにおける第一不純物元素の濃度は、内部領域IA1における第一不純物元素の濃度よりも高い。クラックの起点となりやすい界面IFが残留応力としての圧縮応力を備えることによって、振動板50の強度を向上することができる。
【0039】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、第一不純物元素は、金属元素を含む。したがって、界面IFにおける第一不純物元素の濃度をより高くすることができ、振動板50の強度をより向上することができる。
【0040】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、第一不純物元素は、Feを含む。したがって、界面IFにおける第一不純物元素の濃度をより高くすることができ、振動板50の強度をより向上することができる。
【0041】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、第一不純物元素は、Crを含む。したがって、界面IFにおける第一不純物元素の濃度をより高くすることができ、振動板50の強度をより向上することができる。
【0042】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、第一不純物元素は、Siを含む。したがって、絶縁体膜51と弾性膜52との密着性を向上することができ、振動板50の強度を向上することができる。
【0043】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、絶縁体膜51の内部領域IA1は、第一不純物元素を含んでいる。したがって、絶縁体膜51の内部領域IA1に、第一不純物元素を含む振動板50を得ることができる。
【0044】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、内部領域IA1には、第一不純物元素としてのSiを含んでいる。絶縁体膜51の内部領域IA1におけるSiの濃度分布は、濃度が一定となる平坦領域を有している。したがって、内部領域IA1にSi濃度の平坦領域を有する振動板50を得ることができる。
【0045】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、絶縁体膜51は、さらに、絶縁体膜51内での濃度が略一定となる第二不純物元素を含んでいる。したがって、絶縁体膜51の内部領域IA1において濃度が略一定の第二不純物元素を含む振動板50を得ることができる。
【0046】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、第二不純物元素は、金属元素を含む。したがって、絶縁体膜51の内部領域IA1において濃度が略一定となる金属元素を第二不純物元素として含む振動板50を得ることができる。
【0047】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、第二不純物元素は、Tiを含む。したがって、絶縁体膜51の内部領域IA1において濃度が略一定のTiを含む振動板50を得ることができる。
【0048】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、弾性膜52における第一不純物元素の濃度は、界面IFにおける第一不純物元素の濃度よりも低く、且つ、絶縁体膜51の内部領域IA1における第一不純物元素の濃度よりも低い。弾性膜52での第一不純物元素の濃度を低減することができ、弾性膜52の生産性を高くすることができる。
【0049】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、絶縁体膜51は、柱状の結晶構造を有するZrO2を含む。したがって、絶縁体膜51と弾性膜52との密着性を向上することができ、振動板50の剥離等の発生を低減または防止することができる。
【0050】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、単斜晶系のZrO2を含む。したがって、絶縁体膜51と弾性膜52との密着性を向上することができ、振動板50の剥離等の発生を低減または防止することができる。
【0051】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、絶縁体膜51の界面IFは、圧縮応力を有している。したがって、クラックの起点となりやすい界面IFが残留応力としての圧縮応力を備えることによって、振動板50の強度を向上することができる。また、内部領域IA1が残留応力としての引張応力を有することにより、絶縁体膜51全体の残留応力のバランスを適正にすることができ、より強度の高い振動板50を得ることができる。
【0052】
B.他の実施形態:
(B1)上記各実施形態では、絶縁体膜51には、第二不純物元素としてTiが含まれている例を示した。これに対して、絶縁体膜51には、Ti以外の第二不純物元素が含まれてもよい。絶縁体膜51に含まれる第二不純物元素としては、Tiに代えて、またはTiとともに、Hfが含まれていてもよい。Hfは、組成式HfO
2とする酸化ハフニウムとして存在していてもよい。
図7は、第二不純物元素としてHfを含む振動板50の不純物元素の濃度の一例を示す説明図である。
図7に示すように、Hfは内部領域IA1での濃度が略一定となる。界面IFにおけるHfの濃度と、絶縁体膜51の内部領域IA1におけるHfの濃度との差DF3は、第一不純物元素であるCrの界面IFでの濃度と、内部領域IA1におけるCrの濃度との差DF4よりも小さい。
【0053】
C.他の形態:
本開示は、上述した実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実現することができる。例えば、本開示は、以下の形態によっても実現可能である。以下に記載した各形態中の技術的特徴に対応する上記実施形態中の技術的特徴は、本開示の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、本開示の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0054】
(1)本開示の一形態によれば、液体吐出ヘッドが提供される。この液体吐出ヘッドは、圧電素子と、前記圧電素子の駆動により振動する振動板であって、SiO2を含む第一層、および前記第一層に積層されるZrO2を含む第二層を含む振動板と、を備える。前記第二層は、Zrとは異なる第一不純物元素を含み、前記第二層のうち前記第一層と接する界面における前記第一不純物元素の濃度は、前記第二層のうち前記界面から前記第二層の表面までに含まれる内部領域における前記第一不純物元素の濃度よりも高くてよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、振動板の強度を向上し、圧電素子の駆動により振動板が割れてしまう不具合を低減または防止することができる。
【0055】
(2)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第一不純物元素は、金属元素を含んでよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、振動板の強度をより向上することができる。
【0056】
(3)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第一不純物元素は、Feを含んでよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、振動板の強度をより向上することができる。
【0057】
(4)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第一不純物元素は、Crを含んでよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、振動板の強度をより向上することができる。
【0058】
(5)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第一不純物元素は、Siを含んでよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、第二層と第一層との密着性を向上することができる。
【0059】
(6)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記内部領域は、前記第一不純物元素を含んでよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、第二層の内部領域に、第一不純物元素を含む振動板を得ることができる。
【0060】
(7)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記内部領域に含まれる前記第一不純物元素は、Siを含んでよい。前記内部領域におけるSiの濃度分布は、少なくとも一部の濃度が一定となる平坦領域を有してよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、内部領域にSi濃度の平坦領域を有する振動板を得ることができる。
【0061】
(8)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第二層は、さらに、Zrおよび前記第一不純物元素とは異なる第二不純物元素を含んでよい。前記界面における前記第二不純物元素の濃度と、前記内部領域における前記第二不純物元素の濃度との差は、前記界面における前記第一不純物元素の濃度と、前記内部領域における前記第一不純物元素の濃度との差よりも小さくてよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、第二層の内部領域において濃度が略一定の第二不純物元素を含む振動板を得ることができる。
【0062】
(9)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記界面における前記第二不純物元素の濃度と、前記内部領域における前記第二不純物元素の濃度とが等しくてよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、内部領域において濃度が略一定となる第二不純物元素を含む振動板を得ることができる。
【0063】
(10)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第二不純物元素は、金属元素を含んでよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、内部領域において濃度が略一定となる金属元素を第二不純物元素として含む振動板を得ることができる。
【0064】
(11)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第二不純物元素は、Hfを含んでよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、第二層の内部領域においてHfを含む振動板を得ることができる。
【0065】
(12)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第二不純物元素は、Tiを含んでよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、第二層の内部領域においてTiを含む振動板を得ることができる。
【0066】
(13)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第一層における前記第一不純物元素の濃度は、前記界面における前記第一不純物元素の濃度よりも低く、且つ、前記内部領域における前記第一不純物元素の濃度よりも低くてよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、第一層での第一不純物元素の濃度を低減することができ、第一層の生産性を高くすることができる。
【0067】
(14)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第二層は、柱状の結晶構造を有するZrO2を含んでよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、第二層と第一層との密着性を向上することができ、振動板の剥離等の発生を低減または防止することができる。
【0068】
(15)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第二層は、単斜晶系のZrO2を含んでよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、第二層と第一層との密着性を向上することができ、振動板の剥離等の発生を低減または防止することができる。
【0069】
(16)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第二層の前記界面は、圧縮応力を有し、前記第二層の前記内部領域は、引張応力を有してよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、残留応力としての圧縮応力を界面に備え、引張応力を内部領域に備えることができ、振動板全体の強度を向上することができる。
【0070】
(17)本開示の他の形態によれば、液体吐出装置が提供される。液体吐出装置は、上記形態の液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドからの吐出動作を制御する制御部と、を有する。この形態の液体吐出ヘッドによれば、振動板の強度を向上した液体吐出ヘッドを備える液体吐出装置を得ることができる。
【0071】
本開示は、液体吐出ヘッド以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、アクチュエーター、液体吐出装置、印刷装置、液体吐出装置の制御方法、液体吐出ヘッドの制御方法、アクチュエーターの制御方法、液体吐出方法、それらの方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【符号の説明】
【0072】
1…液体吐出ヘッド、2…液体容器、8…搬送機構、10…流路形成基板、12…圧力室、15…連通板、16…第一連通部、17…第二連通部、18…第三連通部、20…ノズルプレート、21…ノズル、24…移動機構、24b…ベルト、24c…キャリッジ、30…保護基板、31…アクチュエーター保持部、32…圧電素子、40…ケース部材、41…第一液室部、42…第二液室部、43…導入口、44…排出口、45…接続孔、49…コンプライアンス基板、50…振動板、51…絶縁体膜、52…弾性膜、60…第一電極、70…圧電体層、80…第二電極、90…リード電極、100…液体吐出装置、120…フレキシブルケーブル、121…制御ユニット、126…駆動回路、151…第一連通板、152…第二連通板、200…個別流路、201…第一流路、202…第二流路、203…供給路、300…アクチュエーター、491…封止膜、492…固定基板、494…コンプライアンス部、PM…媒体、S1~S3,SR…サンプル