(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】糊付け装置
(51)【国際特許分類】
B31B 50/62 20170101AFI20241008BHJP
B65B 51/02 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B31B50/62
B65B51/02 A
(21)【出願番号】P 2020164686
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】江原 弘隆
(72)【発明者】
【氏名】松山 竜太
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 誠
(72)【発明者】
【氏名】村上 信二
【審査官】佐藤 秀之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-016324(JP,A)
【文献】実開平01-085023(JP,U)
【文献】実開昭59-031466(JP,U)
【文献】実開昭60-048422(JP,U)
【文献】特開平09-161175(JP,A)
【文献】特開2016-140949(JP,A)
【文献】特開昭51-037575(JP,A)
【文献】特開平03-043180(JP,A)
【文献】特開2017-081002(JP,A)
【文献】米国特許第04710257(US,A)
【文献】米国特許第05613932(US,A)
【文献】中国実用新案第205631511(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B31B 50/00
B65B 51/00
B41F 9/00
B42C 9/00
B42D 3/00
B05C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糊が充填される糊壺と、
前記糊壺に回転可能に取り付けられ、一部が前記糊壺内に位置する円盤状のプーリと、
溝を有し、前記プーリの周縁部が前記溝内に位置するように前記糊壺内に配置されたスクレーパと、
を備え、
前記プーリは、厚さ方向の一方の面が他方の面よりも前記糊壺の内面に接近して配置され、
前記一方の面が接近して配置された前記内面は、
上部と、
前記上部に連なり、前記上部よりも前記一方の面から離間した下部と、
を有し、
前記下部の高さは、前記プーリの下端よりも高い、
糊付け装置。
【請求項2】
前記糊壺は、前面及び後面を備えて略直方体の内部空間を有し、
前記プーリは、前記前面よりも前記後面に近い位置に配置されている、
請求項1に記載の糊付け装置。
【請求項3】
前記スクレーパの溝は、開口に連なる第一領域と、前記第一領域に連なり、前記第一領域よりも最大幅の狭い第二領域とを有する、
請求項1に記載の糊付け装置。
【請求項4】
前記糊壺の内面は、隅部の少なくとも一部が角を有さないように丸められている、
請求項1に記載の糊付け装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糊付け装置、より詳しくは、自動製函機に適用される糊付け装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紙製のブランクに糊付けし、折り曲げて貼り合わせる自動製函機が知られている。
自動製函機では、搬送される紙製のブランクが糊付け装置を通過する際に、糊がブランクに塗布される。
【0003】
特許文献1に記載の糊付け装置は、糊貯槽と、糊付けローラを備えている。糊付けローラが糊貯槽内で回転されると、糊付けローラの周面に糊が付着する。周面に付着した糊をブランクに転接することにより、糊付けが行われる。
糊付けローラに付着した余分な糊は、スクレーパにより掻き取られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
糊付け装置では、糊付けローラに付着して固化した糊に起因する糊カスが、製品不良を生じたり、メンテナンス頻度を増大させたりする。
特許文献1に記載の糊付け装置は、糊カスを低減することを目的としているが、製造効率を上げるために運転を高速化すると、糊カスの発生を十分に抑制できなくなる。
【0006】
上記事情を踏まえ、本発明は、高速運転時も糊カス発生を好適に抑制できる糊付け装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、糊が充填される糊壺と、糊壺に回転可能に取り付けられ、一部が糊壺内に位置する円盤状のプーリと、溝を有し、プーリの周縁部が溝内に位置するように糊壺内に配置されたスクレーパとを備える 糊付け装置である。
プーリは、厚さ方向の一方の面が他方の面よりも前記糊壺の内面に接近して配置される。
プーリの一方の面が接近して配置された糊壺の内面は、上部と、上部に連なり、上部よりも一方の面から離間した下部とを有し、下部の高さは、プーリの下端よりも高い。
【発明の効果】
【0008】
本発明の糊付け装置によれば、高速運転時も糊カス発生を好適に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る糊付け装置の斜視図である。
【
図4】同糊付け装置のスクレーパを示す斜視図である。
【
図5】同スクレーパとプーリとの位置関係を示す図である。
【
図7】糊壺内におけるプーリおよび糊の状態を示す図である。
【
図8】高速運転時における糊の挙動を示す図である。
【
図9】同糊付け装置の断面図であり、
図3と異なる断面を示している。
【
図10】同糊付け装置の高速運転時における糊の挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について、
図1から
図10を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る糊付け装置1の斜視図である。
図2は、糊付け装置1の左側面図である。糊付け装置1は、糊壺10と、プーリ30と、スクレーパ50(後述)と、上側コロ70とを備えている。
【0011】
糊壺10は、略直方体の外観を有し、互いに平行な前面11および後面12を有する。糊壺10の内部空間も略直方体であり、内部に糊が充填される。糊壺10の前面11には回転軸20が貫通して配置され、糊壺10の内部に延びている。回転軸20は、前面11および後面12と概ね直角をなしている。
糊付け装置1における特徴の一つは、糊壺10の内部空間の形状にある。詳細については後述する。
【0012】
図3は、糊付け装置1の断面図であり、糊壺10の内部を示している。プーリ30は、一定の厚さ(例えば数mm程度)を有する円盤状の部材であり、回転軸20と同軸に連結されて糊壺10内に配置されている。プーリ30は、糊壺10内において、概ね前面11および後面12と平行であり、かつ後面12により近い位置に配置されている。プーリ30の一部は、糊壺10の天面13に形成されたスロット13aから突出している。
【0013】
図4は、スクレーパ50を示す図である。スクレーパ50は、天面13付近に取り付けられるベース51と、ベース51から延びる掻き取り部52とを有する。掻き取り部52は、先端に開口する溝52aを有している。溝52aの幅は、先端で最も広く、徐々に幅を減少させながら延びる第一領域R1と、第一領域R1の最小幅と同一の幅で第一領域R1から一定の長さ延びる第二領域R2とを有する。第二領域R2の幅(溝52aの最小幅に等しい)は、プーリ30の厚さよりわずかに大きい。
プーリ30およびスクレーパ50は、
図5に示すように、プーリの30の周縁部が溝52aの第二領域R2内に位置する位置関係で配置されている。
スクレーパ50の前後方向(前面11と後面12とを結ぶ方向)および左右方向(前後方向と直角をなす水平方向)における位置は、ゲージ61および62を回すことにより調節できる。
【0014】
上側コロ70は、ローラ71を備える。ローラ71は、スロット13aの上方に配置され、かつスロット13aから突出するプーリ30と概ね平行に配置されている。これにより、プーリ30との間に紙製のブランク等のワークを挟みつつ、ワークを送ることができる。
ローラ71の左右方向および上下方向(前後方向および左右方向に直交する方向)における位置は、ゲージ63および64を操作することにより調節できる。
【0015】
糊付け装置1は、ワークを送りながら折り曲げて貼り合わせる自動製函機に組み込まれ、ワークに糊を塗るために使用される。
糊壺10内に糊を充填し、プーリ30の下側一定範囲を糊内に位置させる。モーターやベルト等により回転軸20を駆動すると、プーリ30が回転し、糊が付着した周縁部が上方に移動する。
糊が付着した周縁部は、スロット13aに到達する前に、スクレーパ50の溝52aを通過する。これにより、プーリの厚さ方向両側の面(側面)、および周面に付着した余分な糊が掻き取り部52によって除去される。
【0016】
糊付け装置1の上流側から搬送されてきたワークは、上側コロ70のローラ71とスロット13aから突出するプーリ30との間に進入する。このときワークは、上側がローラ71によって支持されつつ、ワークの下面にプーリ30の周面が接触または接近しながらローラ71とプーリ30との間を通過する。これにより、プーリ30の周面に付着した糊がワークに対して線状に塗布される。
【0017】
糊付け装置においては、上述したように、糊カス等の発生を抑制することが糊付けされるワークの品質保持に重要であるが、自動製函機の生産性を高めるためにワークを高速で送ると、これに伴い糊付け装置も高速で回転することになるため、糊カス等が発生しやすくなった。
発明者らは、高速運転時における糊付け装置内部の状態を検討し、糊カス等を発生させる要因のいくつかを突き止めた。
【0018】
糊カスの一部は、プーリ30に付着して乾燥した糊をスクレーパ50が掻き取ることにより発生する。プーリ30の周縁部は、毎回充填された糊に浸されるため乾燥しにくいが、糊の一部がプーリの周縁部から少し離れた部位に付着すると、その部位は回転しても糊に浸されないため、そのまま乾燥しやすくなる。プーリ30の回転速度が上がると、糊はさらに乾燥しやすくなるため、糊カスが発生しやすくなることが分かった。
まず発明者らは、スクレーパ50の溝52aに第一領域R1を設けることにより、周縁部から少し離れた部位に付着して乾燥した糊と掻き取り部52とが接触することを抑制し、糊カスの発生の一部を防止することに成功した。
【0019】
溝52aにおいては、プーリの寸法および配置、並びに糊壺内における糊の液面高さ等に基づいて、第二領域R2の長さと、第一領域R1における幅とを適宜設定することにより、糊カス防止効果を最適化できる。本実施形態では、第一領域R1の幅が第二領域R2との接続部から徐々に広がる例を示しているが、これは必須ではなく、
図6に示す変形例の様に、第一領域R1が第二領域R2よりも大きい一定の幅を有し、第一領域R1と第二領域R2との境界に段差を有してもよい。
【0020】
発明者らは、糊カス等の発生をさらに抑えるため、高速運転時の糊壺10内における糊の挙動を解析した。その結果、プーリ30の前面11側と後面12側とでは、糊の挙動が大きく異なっていることを発見した。
【0021】
糊に浸されたプーリ30が糊壺10内で回転すると、糊は糊壺10内で流動する。
図7に模式的に示すように、プーリ30と前面11との間には、充分な距離が保持されているが、後面との距離はかなり(例えば10mm以下)短くなっている。
【0022】
上述したプーリの配置位置は、自動製函機に組み込まれた際に小さいワークにも糊付けを可能にするために重要であるが、この位置関係により、プーリ30の前面11側と後面12側とでは、運転時における糊の挙動が大きく異なっていることがシミュレーションを用いた解析により明らかになった。
【0023】
図8に、高速運転時における糊の挙動を模式的に示す。
プーリ30の回転により、プーリの前面側では、プーリ側面付近の糊の流速が増加するが、後面側では、プーリ側面付近においても糊の流速はそれほど増加しない。この速度差により、前面11側と後面12側とで圧力差が生じる結果、後面側に位置していた糊GLの一部が前面側に移動する。さらに、後面側空間の圧力状況により、後面側の糊GLの一部は後面12の内面に沿って上方に延びるように広がる。
その結果、後面12側ではプーリ側面付近における糊GLの液面が低下し、糊が付着する周縁部の幅が減少する。これにより、乾燥して固化した糊がスクレーパの溝の第二領域R2の範囲内に発生してしまい、糊カス発生の原因になることが分かった。対策として、スクレーパの溝の形状を左右非対称として後面側のみ第一領域を長くすることも考えられたが、液面の低下により後面側で糊が付着する周縁部の幅がかなり小さくなることがあるため、スクレーパの溝の形状変更のみでは制御が難しい場合があることも分かった。
【0024】
発明者らは種々検討し、糊壺の内部形状を変更することにより上記問題を解決した。
図9に、本実施形態に係る糊付け装置1の異なる断面を示す。糊壺10の後面12の内面は、上部12aと、上部12aと連なる下部12bとを有し、下部12bは、上部12aよりも後方に位置してよりプーリ30から離間している。これにより、糊壺10としては、後面12の内面において、上部12aと前面11の内面との距離よりも、下部12bと前面11の内面との距離が長くなっている。また、上部12aとプーリ30の後面側側面(一方の面)との距離よりも、下部12bとプーリ30の後面側側面との距離が長くなっている。
【0025】
図10に、糊付け装置1の高速運転時における糊の挙動を示す。後面12が下部12bを有することにより、糊に浸されたプーリ30の下部においては、プーリ30と後面の内面との距離が他の部位よりも大きくなっている。これにより、プーリの前面側と後面側とで糊GLの流速の差が小さくなり、前面側と後面側との圧力差も小さくなる。その結果、後面側における糊GLの液面低下が緩和され、固化した糊がスクレーパ50に掻き取られることを抑制する。
【0026】
上述した糊カス発生抑制効果は、下部12bとプーリ30の後面側側面との距離が増加するほど高まるが、発明者らの検討では、上部12aとプーリ30の後面側側面との距離よりも10mm以上大きいことが好ましく、20mm以上で十分な効果が得られること、および30mm以上に増加させても効果はあまり変わらないことが分かった。したがって、装置を過度に大型化させない観点からは、下部12bとプーリ30の後面側側面との距離と上部12aとプーリ30の後面側側面との距離との差分は、20mm以上30mm以下が好ましい。
【0027】
また、下部12bの高さは、プーリ30の下端よりも高いことが好ましく、充填される糊の液面以上であることがより好ましい。発明者らの検討では、下部の高さをそれ以上にしても効果はあまり変わらないことが分かった。したがって、下部12bがこのような高さを有していれば、上部12aをプーリに十分接近させても、糊カスの発生を好適に抑制できる。上部12aをプーリに十分接近させることは、糊付け装置1を自動製函機に組み込む際の干渉を低減し、小さいワークへの糊付けと糊カスの発生抑制とを好適に両立することに寄与する。
【0028】
本実施形態に係る糊付け装置1は、上述したように、優れた糊カス抑制効果を奏し、例えばブランクの搬送速度が200m/分以上の高速で自動製函機が運転されても、糊塗布の品質を維持しつつ、プーリや糊壺内部の清掃等のメンテナンス頻度を抑えることができる。
【0029】
上述した糊の挙動は、プーリが後面にかなり接近して配置されているときに特有の現象であり、後面とプーリとの距離が十分確保されている場合は発生しない。また、プーリの径を大きくすれば、回転速度(rpm)を下げても同じ周速を実現できるため、上記挙動は緩和される。
すなわち、本実施形態に係る技術思想は、小さいワークへの糊付けを可能にしつつ、かつ糊付け装置のサイズを過度に大きくしたくない場合に特に著しい効果を発揮する。
【0030】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。以下にいくつか変更を例示するが、これらはすべてではなく、それ以外の変更も可能である。これらの変更は自由に組み合わせることができる。
【0031】
・
図3や
図9に示すように、糊壺10内の隅部は、面取り等により角を有さないように丸められてもよい。このようにすると、隅部に固化した糊やごみ等がたまりにくくなり、メンテナンス性が向上する。
発明者らの検討では、糊壺の平面視における隅部を丸めることにより、糊付け装置の運転時において、隅部における糊の流れがよくなり、滞留することによる固化や凝集等を抑制できることが確認されている。
【0032】
・スクレーパの第二領域におけるプーリと掻き取り部との距離は、0.05mm以上0.10mm以下であることが好ましい。このようにすると、運転時におけるプーリとスクレーパとの接触を防ぎつつ、プーリの厚さ方向両面に付着した糊が遠心力によりワークに飛沫状に付着する糊飛びを好適に抑制できる。
【0033】
・本発明において、糊壺の外観および内部空間の形状は、上述した略直方体には限られない。本発明に係る技術思想は、糊壺の外観および内部空間にかかわらず、プーリの側面の一方が他方よりも糊壺の内面に接近して配置された糊付け装置に広く適用できる。
【0034】
・上述したスクレーパの溝形状による糊カス発生抑制効果と、後面が下部を備えることによる糊カス発生抑制効果とは、互いに独立している。したがって、それぞれ単独でも一定の効果を奏するため、本発明に係る実施形態には、これらのいずれか一方のみを備えたものが含まれる。
【符号の説明】
【0035】
1 糊付け装置
10 糊壺
11 前面
12 後面
12a 上部
12b 下部
30 プーリ
50 スクレーパ
52a 溝
R1 第一領域
R2 第二領域