(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20241008BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K3/28
(21)【出願番号】P 2020177259
(22)【出願日】2020-10-22
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】吉村 信宏
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-154687(JP,A)
【文献】国際公開第2020/163571(WO,A1)
【文献】特表2022-519130(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0099288(US,A1)
【文献】特開昭60-208357(JP,A)
【文献】特開2017-095549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/00
C08K 3/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)、酸素バリア性付与剤(B)、及びレドックス系酸素吸収剤(C)を含有するポリアミド樹脂組成物であって、酸素バリア性付与剤(B)及びレドックス系酸素吸収剤(C)の含有量が、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、それぞれ0.1~5質量部及び0.1~5質量部の割合であ
り、
前記酸素バリア性付与剤(B)が、下記一般式で示される金属シアン化物塩であり:
A
x
[M(CN)
y
]
式中、Mは、周期表の第5~10族かつ第4~6周期の遷移金属元素のうちの少なくとも1種であり、Aは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうちの少なくとも1種であり、yは、3~6の整数であり、xは、(y-m)/aで求められる数であり、mはMの価数、aはAの価数であり、
前記レドックス系酸素吸収剤(C)が、酸化第二鉄、酸化セリウム、及び水酸化セリウムからなる群から選ばれることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記一般式中のMが、鉄であることを特徴とする、請求項
1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記一般式で示される金属シアン化物塩が、ヘキサシアノ鉄(II)酸アルカリ金属塩、及びヘキサシアノ鉄(III)酸アルカリ金属塩からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1
又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
ポリアミド樹脂組成物が、銅化合物(D)をさらに含有し、銅化合物(D)の含有量が、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、銅元素として0.0001~1質量部の割合であることを特徴とする、請求項1~
3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
ポリアミド樹脂(A)が、ポリヘキサメチレンアジパミドであることを特徴とする、請求項1~
4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広い温度範囲で耐熱老化性を向上させたポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、機械的特性を初めとして、耐薬品性及び成形加工性などに優れた特性を有するため、従来より自動車部品、電気電子部品、工業機械部品などの各種部品の成形材料として広く利用されている。ポリアミド樹脂は、比較的耐熱老化性に優れる部類の樹脂ではあるが、熱の作用による樹脂の劣化に起因する強度保持性の低下は不可避である。このため、ポリアミド樹脂の耐熱老化性を向上させる方法として、ハロゲン化銅、ハロゲン化カリウム、オキサゾール化合物などを熱安定剤として添加する方法が古くから知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これらの技術により、ポリアミド樹脂は、自動車部品や電気、電子部品の分野において、140℃程度の高温環境下に曝される用途の部品の成形材料として用いられている。しかしながら、例えば自動車のエンジンルームに関して、近年、エンジン出力の増加、部品の高密度化などに伴い、エンジンルーム内の環境温度が高くなり、従来想定された温度より高い温度環境での耐熱老化性が求められるようになっている。
【0004】
これに対して、ポリアミドに微粒元素鉄を配合する方法(特許文献2参照)、ポリアミドに微粒分散化金属粉末を配合する方法(特許文献3参照)、融点が異なる2種類のポリアミド混合物に銅化合物と酸化鉄を配合する方法(特許文献4参照)、沃化銅と沃化カリウムなどの熱安定剤と四三酸化鉄(酸化鉄(II)を含む)などの複合酸化物とを配合する方法(特許文献5参照)などが提案され、これらの方法により200℃程度の高温環境下でも耐熱老化性を達成できるとされている。
【0005】
しかしながら、特許文献2や特許文献3の方法では、組成物の製造中に発火する危険性があるため製造が容易でなく、特許文献4の方法では、非常に限定された組成でしか効果が発現しない欠点があり、特許文献5の方法では、耐熱老化性や機械的強度の安定性、再現性が劣ることがあり、いずれの方法を採用しても、それぞれ改善の余地があった。
【0006】
そこで、本発明者は、これらの問題を解消するために、酸素バリア性付与効果を有する金属シアン化物塩を配合する方法(特許文献6参照)を既に提案した。この特許文献6の方法を採用したポリアミド樹脂組成物は、特許文献2~5の方法のような欠点を有することなしに200℃の高温環境下で優れた耐熱老化性を有することが示されている。しかしながら、その後、このポリアミド樹脂組成物をさらに検討すると、意外にも200℃より低い温度、特に150~180℃程度の温度範囲において耐熱老化性の向上効果が低いことが判明した。そのため、かかる低温環境下での耐熱老化性の改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公平7-47690号公報
【文献】特表2006-528260号公報
【文献】特表2008-527127号公報
【文献】特表2008-527129号公報
【文献】特開2010-270318号公報
【文献】特開2017-95549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、200℃程度の高温環境下での耐熱老化性のみならず、それより低い温度、特に150~180℃程度の温度範囲での耐熱老化性も向上させ、従来より広い温度範囲で耐熱老化性を発現できるポリアミド樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述の従来技術の問題を解消するために鋭意研究を重ねた結果、200℃程度の高温環境だけでなく150~180℃程度の低温環境でもポリアミド樹脂の耐熱老化性を向上させるためには、低温環境でのガス(酸素)バリア性を補助できる物質として金属シアン化物塩に加えてレドックス系酸素吸収剤を好適な割合で配合することが有効であることを見出し、本発明の完成に至った。
即ち、本発明は、以下の(1)~(8)を構成とするものである。
(1)ポリアミド樹脂(A)、酸素バリア性付与剤(B)、及びレドックス系酸素吸収剤(C)を含有するポリアミド樹脂組成物であって、酸素バリア性付与剤(B)及びレドックス系酸素吸収剤(C)の含有量が、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、それぞれ0.1~5質量部及び0.1~5質量部の割合であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
(2)前記酸素バリア性付与剤(B)が、下記一般式で示される金属シアン化物塩であることを特徴とする、(1)に記載のポリアミド樹脂組成物:
Ax[M(CN)y]
式中、Mは、周期表の第5~10族かつ第4~6周期の遷移金属元素のうちの少なくとも1種であり、Aは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうちの少なくとも1種であり、yは、3~6の整数であり、xは、(y-m)/aで求められる数であり、mはMの価数、aはAの価数である。
(3)前記一般式中のMが、鉄であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(4)前記一般式で示される金属シアン化物塩が、ヘキサシアノ鉄(II)酸アルカリ金属塩、及びヘキサシアノ鉄(III)酸アルカリ金属塩からなる群から選ばれることを特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(5)前記レドックス系酸素吸収剤(C)が、鉄元素を含む酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、オキシハロゲン化物、各種酸塩、アルコラート化合物、セリウム元素を含む酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、オキシハロゲン化物、各種酸塩、アルコラート化合物、亜ジチオン酸ナトリウム(Na2S2O4)、ランタノイド化合物の酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、オキシハロゲン化物、各種酸塩、アルコラートからなる群から選ばれることを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(6)前記レドックス系酸素吸収剤(C)が、酸化第二鉄、酸化セリウム、及び水酸化セリウムからなる群から選ばれることを特徴とする、(5)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(7)ポリアミド樹脂組成物が、銅化合物(D)をさらに含有し、銅化合物(D)の含有量が、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、銅元素として0.0001~1質量部の割合であることを特徴とする、(1)~(6)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(8)ポリアミド樹脂(A)が、ポリヘキサメチレンアジパミドであることを特徴とする、(1)~(7)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、150~180℃程度の比較的低い温度から200℃程度の高い温度にわたって耐熱老化性が向上したポリアミド樹脂組成物を提供することができる。その結果、本発明のポリアミド樹脂組成物から成形された成形品は、広い温度範囲で高い強度保持性を示し、特に、構造上一般的に強度に劣るとされている成形品のウェルド部においても、広い温度範囲で十分な強度保持性を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例で作成したウェルド部の成形品の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)、酸素バリア性付与剤(B)、及びレドックス系酸素吸収剤(C)を含有するものであり、酸素バリア性付与剤(B)及びレドックス系酸素吸収剤(C)の含有量が、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、それぞれ0.1~5質量部及び0.1~5質量部の割合であることを特徴とするものである。
【0013】
本発明におけるポリアミド樹脂(A)としては、特に限定されるものではないが、例えば、環状ラクタムの開環重合物、アミノカルボン酸の重縮合物、二塩基酸とジアミンとの重縮合物などが挙げられる。具体的にはポリカプロアミド(ポリアミド(PA)6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリ-ラウリルラクタム(ポリアミド12)、ポリ-11-アミノウンデカン酸(ポリアミド11)等の脂肪族ポリアミド、ポリ(メタキシレンアジパミド)(以下MXD6と略す)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)(以下6Tと略す)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)(以下6Iと略す)、ポリ(ノナメチレンテレフタルアミド)(以下9Tと略す)、ポリ(テトラメチレンイソフタルアミド)(以下4Iと略す)などの脂肪族-芳香族ポリアミド、およびこれらの共重合体や混合物を挙げることができる。本発明に好適なポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド6/66共重合体、ポリアミド66/6T共重合体、ポリアミド6T/12共重合体、ポリアミド6T/11共重合体、ポリアミド6T/6I共重合体、ポリアミド6T/6I/12共重合体、ポリアミド6T/610共重合体、ポリアミド6T/6I/6共重合体を挙げることができる。
【0014】
ポリアミド樹脂(A)の分子量は、特に制限はないが、98%(98質量%)硫酸中、濃度1質量%、25℃で測定する相対粘度が1.70~4.50であることが好ましい。ポリアミド樹脂(A)の相対粘度は、より好ましくは、2.00~4.00、さらに好ましくは2.00~3.50である。
【0015】
本発明における酸素バリア性付与剤(B)は、ポリアミド樹脂組成物に添加されたときにポリアミド樹脂組成物の酸素透過速度(透過率)を低下させる能力を有する物質であり、具体的には、ポリアミド樹脂組成物中に5質量%含有させた場合に、実施例で示す方法で測定した該ポリアミド樹脂組成物の酸素透過速度をポリアミド樹脂自体の酸素透過速度の1/5以下に低下させることができる物質である。このように酸素透過速度を低下させる能力を有する酸素バリア性付与剤(B)が成形体の表面に分布することにより、本発明のポリアミド樹脂組成物から成形された成形体では、成形体の表面から成形体の内部への酸素の侵入が効果的に防止され、成形体の内部の酸素濃度が増加しない。そのため、たとえ成形体が200℃程度の高温環境にさらされた場合であっても、高温下での成形体内部での酸化反応が抑制され、その結果として、成形体の耐熱老化性が向上する。
【0016】
なお、ポリアミド樹脂及びポリアミド樹脂組成物の酸素透過速度は、ポリアミドハンドブック(昭和63年1月30日発行 福本修編集 P305)に記載された気体透過性のデータやM.Salame著、「Prediction of gas barrier properties of high polymers」、1986年、ポリマー・エンジニアリング・アンド・サイエンス(Polymer Engineering and Science)、26巻、22号、p.1543-1546やJ.Y.Park,D.R.Poul著、「Correlation and prediction of gas permeability in glassy polymer membrane materials via a modified free volume based group contribution method」、1997年、ジャーナル・オブ・メンブレン・サイエンス(Journal of Membrane Science)、125巻、p.23-39などに教示されているパーマコール値に基づいて判定できる。
【0017】
酸素バリア性付与剤(B)としては、具体的には、フェノール樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、金属シアン化物塩などを挙げることができる。これらの中でも、金属シアン化物塩が、高温環境下での耐熱老化性に優れるため、特に好ましい。
【0018】
金属シアン化物塩は、下記一般式で示されるものである。
Ax[M(CN)y]
(式中、Mは、周期表の第5~10族かつ第4~6周期の遷移金属元素のうちの少なくとも1種であり、Aは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうちの少なくとも1種であり、yは、3~6の整数であり、xは、(y-m)/aで求められる数である。ここで、mはMの価数、aはAの価数である。)
金属シアン化物塩は、水和物であっても構わない。
【0019】
上記式におけるMとしては、例えばFe、Co、Cr、Mn、Ir、Rh、Ru、V、Niが挙げられる。金属元素の価数も考慮すると、Fe(II)、Fe(III)、Co(III)、Cr(III)、Mn(II)、Mn(III)、Ir(III)、Rh(III)、Ru(II)、V(IV)、V(V)、Co(II)、Ni(II)、Cr(II)が好ましく、より好ましくはCo(II)、Co(III)、Fe(II)、Fe(III)、Cr(III)、Ir(III)、Ni(II)であり、特に好ましくは、Fe(II)、Fe(III)である。Mは1種に限られず、例えば、ヘキサシアノコバルト(II)鉄(II)酸カリウムのように2種以上の金属元素が、金属シアン化物塩に存在してもよい。Aとしては、例えばアルカリ金属のLi、Na、K及びアルカリ土類金属のCa、Baが挙げられる。yは、3~6の整数である。xは、金属シアン化物塩が全体的に電気的な中性になるように選択される。つまり、xは、(y-m)/aで求められる数(ここで、mはMの価数、aはAの価数)となる。特に、yは、Mの配位数に対応し、4~6が好ましく、6であることが特に好ましい。
【0020】
本発明で使用できる金属シアン化物塩の例としては、ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム、ヘキサシアノ鉄(II)酸ナトリウム、ヘキサシアノ鉄(III)酸ナトリウム、ヘキサシアノコバルト(III)酸カリウム、ヘキサシアノコバルト(III)酸ナトリウム、ヘキサシアノルテニウム(II)酸カリウム、ヘキサシアノコバルト(III)酸カルシウム、テトラシアノニッケル(II)酸カリウム、ヘキサシアノクロム(III)酸カリウム、ヘキサシアノイリジウム(III)酸カリウム、ヘキサシアノ鉄(II)酸カルシウム、ヘキサシアノコバルト(II)酸カリウム、およびヘキサシアノコバルト(III)酸リチウムが好ましい。より好ましくは、取り扱い性、安全性の点で、ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム、ヘキサシアノ鉄(II)酸ナトリウム、ヘキサシアノ鉄(III)酸ナトリウムなどのヘキサシアノ鉄(II)酸アルカリ金属塩、及びヘキサシアノ鉄(III)酸アルカリ金属塩が挙げられる。
【0021】
本発明におけるレドックス系酸素吸収剤(C)は、酸素バリア性付与剤(B)の耐熱老化性向上作用を補助する役割を有するものであり、特に酸素バリア性付与剤(B)ではカバーできない150~180℃程度の低い温度環境下での耐熱老化性の向上に寄与する。上述の通り、本発明のポリアミド樹脂組成物から成形された成形体では、成形体の表面に酸素バリア性付与剤(B)が分布するため、成形体の表面から成形体の内部への酸素の侵入が効果的に防止されるが、それでも成形体の内部にはある程度の酸素が侵入してしまう可能性がある。この侵入酸素は、本発明では、成形体の内部に分布するレドックス系酸素吸収剤(C)によって効果的に吸収され、成形体の内部の酸素濃度の増加が抑制される。そのため、150~180℃程度の低温下での成形体内部での酸化反応も抑制され、その結果として、広い温度範囲で成形体の耐熱老化性が向上する。なお、作用温度についてみると、酸素バリア性付与剤(B)は主に200℃程度の高温環境下での耐熱老化性に寄与し、一方、レドックス系酸素吸収剤(C)は主に150~180℃程度の低温環境下での耐熱老化性に寄与するが、この理由は、150℃~180℃程度の低温環境下では、ポリアミド樹脂と酸素との反応よりも、レドックス系酸素吸収剤(C)による酸素吸収の速度が上回るためと考えられる。
【0022】
レドックス系酸素吸収剤(C)としては、鉄元素,酸化第二鉄,水酸化鉄,ペンタカルボニル鉄などの鉄元素を含む酸化物,水酸化物,ハロゲン化物,オキシハロゲン化物,各種酸塩,アルコラート化合物;酸化セリウム,水酸化セリウムなどのセリウムを含む酸化物,水酸化物,ハロゲン化物,オキシハロゲン化物,各種酸塩,アルコラート化合物;亜ジチオン酸ナトリウム(Na2S2O4);ランタノイド化合物(ランタン,プラセオジム,ネオジム,プロメチウム,サマリウム,ユーロピウム,ガリドリニウム,テルビウム,ジスプロシウム,ホルミニウムエルビウム,ツリウム,イッテルビウム,ルテチウムなど)の酸化物,水酸化物,ハロゲン化物,オキシハロゲン化物,各種酸塩,アルコラートなどを挙げることができる。これらの中でも、酸化第二鉄、酸化セリウム、及び水酸化セリウムが、低温環境下での耐熱老化性に優れるため、特に好ましい。
【0023】
本発明のポリアミド樹脂組成物では、酸素バリア性付与剤(B)及びレドックス系酸素吸収剤(C)の含有量が、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、それぞれ0.1~5質量部及び0.1~5質量部の割合であることが重要である。酸素バリア性付与剤(B)の含有量は、好ましくはポリアミド樹脂(A)100質量部に対して0.3~4.5質量部であり、より好ましくは0.4~4.2質量部である。また、レドックス系酸素吸収剤(C)の含有量は、好ましくはポリアミド樹脂(A)100質量部に対して0.3~4.5質量部であり、より好ましくは0.4~4.2質量部である。酸素バリア性付与剤(B)及びレドックス系酸素吸収剤(C)の含有量が上記下限未満では、広い温度範囲にわたる耐熱老化性の向上効果に劣るおそれがあり、一方、酸素バリア性付与剤(B)及びレドックス系酸素吸収剤(C)の含有量が上記上限を超えると、耐熱老化性の向上効果が頭打ちになり、さらなる増大は見られない。また、強化のためにガラス繊維をポリアミド樹脂組成物に添加した場合、レドックス系酸素吸収剤(C)の含有量が上記上限を超えると、レドックス系酸素吸収剤(C)は硬度が高いため、ガラス繊維が破損されて、初期の機械的強度が意図したレベルよりも低下するおそれがある。同様の傾向は、酸素バリア性付与剤(B)の含有量が上記上限を超えた場合にも、若干観察される。なお、酸素バリア性付与剤(B)とレドックス系酸素吸収剤(C)の配合比率は、特に限定されないが、高温環境と低温環境の両方での耐熱老化性を効果的に向上させるためには、酸素バリア性付与剤(B)とレドックス系酸素吸収剤(C)を6:1~1:6の質量比率で配合することが好ましい。
【0024】
本発明のポリアミド樹脂組成物では、上述の酸素バリア性付与剤(B)及びレドックス系酸素吸収剤(C)以外に、銅化合物(D)をさらに配合することが好ましい。銅化合物は、熱安定作用を有するので、高温環境下での成形品の変色を防止又は低減することができる。
【0025】
本発明で用いることができる銅化合物(D)としては、酢酸銅、沃化銅、臭化銅、塩化銅、フッ化銅、ラウリン酸銅、ステアリン酸銅等を挙げることができる。これらの銅化合物は単独で用いても良く、また併用しても良い。酢酸銅、沃化銅、臭化銅が好ましく、臭化第二銅が特に好ましく使用される。銅化合物(D)を配合する場合、その配合量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して銅化合物(D)中の銅元素として0.0001~1.0質量部である。より好ましい配合量は、0.0005~0.03質量部であり、さらに好ましい配合量は、0.0005~0.02質量部である。銅化合物(D)の配合量が上記下限未満では、高温雰囲気かつ紫外線照射下のより厳しい環境下における変色防止効果に劣るおそれがあり、一方、上記上限を超えると、前記の厳しい環境下における変色防止の効果が頭打ちになり、さらには金型や押出し機や成形機のスクリュー、シリンダー等を腐蝕する等の問題を発生するおそれがある。
【0026】
また、銅化合物(D)を配合する場合には、沃化カリウム、臭化カリウム等のハロゲン化アルカリ金属化合物を併用することが、銅の析出を防止するために好ましい。銅化合物(D)の配合方法としては、ポリアミド樹脂(A)の製造の任意の段階において添加しても良く、その添加方法は限定されない。例えば、ポリアミドの原料塩水溶液に添加する方法、溶融重合の途中で溶融ポリアミド中に注入添加する方法、重合を終了して造粒したポリアミドペレットと該銅化合物の粉体またはマスターバッチをブレンドした後に押出し機や成形機等を用いて溶融混練する方法等のいずれであっても良い。
【0027】
さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物では、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤などの酸化防止剤、ヒンダードアミン型光安定剤(HALS)などの光安定剤などの補助安定剤を配合することができる。これらの酸化防止剤や光安定剤は、高温環境下での成形品の変色を防止又は低減することができる。
【0028】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、公知の化合物が使用可能である。これらの化合物は単独で、あるいは組み合わせて使用することができる。このようなヒンダードフェノール系酸化防止剤の中でも、2官能以上のフェノールが好ましく、3,9-ビス〔2-{3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル〕2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシシンナムアミド)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタンおよびn-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が特に好ましく、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(IRGANOX245)などのセミヒンダードタイプが変色防止効果に優れる点で好ましい。
【0029】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤を配合する場合、その配合量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、0.05~3質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1~2質量部である。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の配合量が上記下限未満では、熱変色防止効果が不十分であるおそれがあり、一方、上記上限を超えると、効果が飽和に達したり、成形品表面へのブルーミングが生じるおそれがある。
【0030】
リン系酸化防止剤としては、無機系及び有機系のリン系酸化防止剤から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。無機リン系安定剤としては、次亜リン酸ナトリウムなどの次亜リン酸塩、亜リン酸塩などが挙げられる。有機リン系安定剤としては、ホスファイト系の市販されている有機リン系酸化防止剤を用いることができるが、熱分解でリン酸を生成しない有機系リン含有化合物が好ましい。かかる有機系リン含有化合物としては、トリフェニルフォスファイト、ジフェニルイソデシルフォスファイト、トリスノニルフォスファイト、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド(HCA)、10-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド、10-デシルキシ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイドなどを挙げることができる。
【0031】
リン系酸化防止剤を配合する場合、その配合量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、0.05~3質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1~2質量部である。リン系酸化防止剤の配合量が上記下限未満では、熱変色防止効果が不十分であるおそれがあり、一方、上記上限を超えると、成形品にフラッシュが生じるおそれがある。無機系及び有機系のリン系酸化防止剤を併用すると、酸化防止剤の配合量を少なくすることができる。
【0032】
アミン系酸化防止剤としては、公知の化合物が使用可能である。また、第2級アリールアミンもアミン系酸化防止剤として挙げることができる。第2級アリールアミンとは、窒素原子に化学結合した炭素ラジカル2個を含有するアミン化合物であって、少なくとも1つ、好ましくは両方の炭素ラジカルが芳香族である、アミン化合物を意味する。
【0033】
アミン系酸化防止剤を配合する場合、その配合量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、0.05~3質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1~2質量部である。アミン系酸化防止剤の配合量が上記下限未満では、熱変色防止効果が不十分であるおそれがあり、一方、上記上限を超えると、効果が飽和に達したり、成形品表面へのブルーミングが生じるおそれがある。
【0034】
硫黄系酸化防止剤としては、公知の化合物が使用可能である。硫黄系酸化防止剤を配合する場合、その配合量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、0.05~3質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1~2質量部である。硫黄系酸化防止剤の配合量が上記下限未満では、熱変色防止効果が不十分であるおそれがあり、一方、上記上限を超えると、効果が飽和に達したり、成形品表面へのブルーミングが生じるおそれがある。
【0035】
光安定剤は、1種または複数種のヒンダードアミン型光安定剤(HALS)であることが好ましい。好ましくは、HALSは、置換ピペリジン化合物から誘導される化合物、特にアルキル置換ピペリジル、ピペリジニルまたはピペラジノン化合物、および置換アルコキシピペリジニル化合物から誘導される化合物である。かかる化合物としては、公知の化合物が使用可能である。
【0036】
本発明においては、第2級アリールアミンとHALSとの混合物を使用することができる。好ましい実施形態は、少なくとも1つが第2級アリールアミンから選択され、少なくとも1つがHALSの群から選択される、少なくとも2種類の補助安定剤を含む。補助安定剤混合物を配合する場合、その全配合量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、0.5~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~3質量部である。全配合量が上記下限未満では、熱老化性を向上する効果が不足するおそれがあり、一方、上記上限を超えると、効果が飽和したり、成形品表面へブルーミングするおそれがある。
【0037】
本発明のポリアミド樹脂組成物では、充填材をさらに配合することができる。これにより、ポリアミド樹脂組成物から得られる成形体の強度、剛性、耐熱性などを大幅に向上させることができる。充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アラミド繊維、アスベスト、チタン酸カリウムウィスカ、ワラストナイト、ガラスフレーク、ガラスビーズ、タルク、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタンおよび酸化アルミニウムなどが挙げられ、なかでもチョップドストランドタイプのガラス繊維が好ましく用いられる。充填材の配合量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して5~140質量部であることが好ましく、特に好ましくは5~100質量部である。
【0038】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物に対して、本発明の目的を損なわない範囲で、紫外線吸収剤(例えばレゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンなど)、滑剤および離型剤、核剤、可塑剤、帯電防止剤、および染料・顔料を含む着色剤などの通常の添加剤の1種以上を、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して最大5質量部まで配合することができる。
【0039】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、上記で説明した各成分を含有することが可能であるが、上記の充填材を除いた組成物において、ポリアミド樹脂(A)と酸素バリア性付与剤(B)とレドックス系酸素吸収剤(C)の合計で90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましい。
【0040】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、前記酸素バリア性付与剤(B)、レドックス系酸素吸収剤(C)、及び他の添加剤をポリアミド樹脂(A)に含有又は混合させることによって調製されることができる。この方法は、特に制限されるものではなく、例えば全成分を予備混合した後、押出機やニーダ中で混練する方法や、予め任意の一部の成分を押出機やニーダ中で混練して得たペレットに、更に他の成分を混練配合する方法などを採用することができる。
【0041】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、射出成形、押出成形、熱成形、圧縮成形、または、ブロー成形、ダイスライド成形などのいわゆる中空工法などにより成形体にすることができる。また、それら成形体を二次加工、例えば振動溶着、熱板溶着、超音波溶着などを含む溶着工法などに供することによっても成形体とすることができる。成形体は、好ましくは、射出成形またはブロー成形体や、その二次加工による成形体である。
【0042】
本発明のポリアミド樹脂組成物の成形体の用途例としては、自動車、車両分野では、例えば、シリンダー・ヘッド・カバー、エンジン・カバー、インタークーラー用のハウジング、バルブ、エンドキャップ、キャスター、トロリー部品など、さらに、吸気管(エア・ダクト)、特に吸気マニホールドなどの吸気系部品、コネクタ、歯車、ファン・ホイール、冷却材貯蔵コンテナー、熱交換器用のハウジングもしくはハウジング部材、ラジエーター、サーモスタット、クーラント及び送水ポンプ、ヒーター、締結エレメント、油受皿、マフラーなどの排気システムおよび触媒コンバータ用ハウジング、タイミングチェーンベルトフロントカバー、ギアボックス、ベアリングリテイナー、ガソリンキャップ、座席部品、ヘッドレスト、ドアハンドル、ワイパー部品などが挙げられる。電気/電子機器分野では、例えば回路基板の部品、ハウジング、フィルム、コンダクター、スイッチ、ターミナル・ストリップ、リレー、レジスタ、コンデンサ、コイル、ランプ、ダイオード、LED、トランジスタ、コネクタ、コントローラー、メモリ、ボルト、コイルボビン、プラグ、プラグ部品、メカトロニクス部品、調理用機器、洗濯機、冷蔵庫、エアコンなどの家電機器部品、センサーなどが挙げられる。生活関連、家具建材関連分野では、例えば車椅子、ベビーカー部品、椅子脚、肘掛け、手摺り、窓枠、ドアノブなどのための部品などが挙げられる。
【0043】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、上述のような構成を有するので、それから形成される成形体は、後述の実施例の項に記載の耐熱老化試験において、150℃,180℃,200℃の広い高温範囲で1000時間の熱処理後も引張強度保持率が一般部、ウェルド部のいずれにおいても70%以上であるという非常に優れた耐熱老化性を有することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例に記載された測定値は、以下の方法によって測定したものである。
【0045】
(2)耐熱老化性
耐熱老化性の指標として、実施例及び比較例のそれぞれの樹脂組成物から成形品を作製し、200℃、180℃、又は150℃で1000時間処理した後の引張強度保持率を測定した。成形品としては、ウェルドを有さない一般部の成形品、及びウェルドを有するウェルド部の成形品の二種類を作製した。
【0046】
具体的には、一般部の成形品については、東芝機械社IS-100を使用し、シリンダー温度を280℃に設定し、金型温度90℃の条件で成形品(ISO178に準拠の形状:厚み4mm,幅10mm)を得て、この成形品を試験サンプルとした。ウェルド部の成形品については、東芝機械社IS-100を使用し、シリンダー温度を280℃に設定し、金型温度90℃の条件で、中心にウェルドを有するようなISOダンベル成形品(厚み4mm,幅10mm:形状は
図1参照)を得て、この成形品を試験サンプルとした。次に、ISO2578に詳述される手順に従って、再循環エアオーブン(ナガノ科学機械製作所製 熱風循環式乾燥機 NH-401S)中で200℃,180℃又は150℃の環境下で所定の試験時間(1000時間)、試験サンプルを熱処理した。処理後、試験サンプルをオーブンから取り出し、室温に冷却し、引張強度測定の準備ができるまで、アルミニウム裏張りバッグ内に密閉した。次いで、ISO527-1,2に従って、試験サンプルの引張強度を測定した。3つの試験サンプルから得られた平均値を引張強度として採用した。次に、熱処理なしの初期の時点での引張強度に対する熱処理後の時点での引張強度の百分率(%)として、引張強度保持率を計算した。
【0047】
実施例1~17、比較例1~7
使用原料
ポリアミド樹脂(A)
・ポリアミド66:相対粘度RV=2.7 ローディア社製 Stabamid27AE1K
・ポリアミド6:相対粘度RV=2.7 集盛社製 TP-4208
・ポリアミドMXD・6:相対粘度RV=2.1 東洋紡製 T-600
・ポリアミド6I/6T:相対粘度RV=2.1 EMS社製 グリボリーG21
酸素バリア性付与剤(B)
・フェロシアン化カリウム・3水和物(ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム・3水和物):和光純薬社製 純度99%
・フェリシアン化カリウム(ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム):和光純薬社製 純度99%
レドックス系酸素吸収剤(C)
・酸化セリウム:和光純薬社製 純度99.9%
・水酸化セリウム:和光純薬社製 純度99.9%
・酸化第二鉄:和光純薬社製 純度99.9%
銅化合物(D)
・臭化第二銅:和光純薬社製 純度99.9%
酸化防止剤
・ヒンダードフェノール系安定剤:BASF社製 イルガノックス245
充填材
・ガラス繊維:日本電気硝子社製 T-275H
・炭素繊維:帝人ファイバー社製 TENAX-J HT C413
【0048】
上記の原材料を、それぞれ二軸押出機(コペリオン社製STS35)を用いて、以下の表1に記載の割合(質量部割合)で配合し、溶融混練して、実施例1~17、比較例1~7の樹脂組成物のペレット(直径約2.5mm×長さ約2.5mm)を得た。得られたペレットは熱風循環式乾燥機にて100℃で4時間以上乾燥した後に成形品の作製に使用し、上述の方法により酸素透過率及び耐熱老化性を評価した。結果を以下の表2に示す。
【0049】
【0050】
表1中の略称の正式名称は、以下の通りである。
PA66:ポリアミド66
PA6:ポリアミド6
MXD6:ポリ(メタキシレンアジパミド)
PA6I/6T:ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)
【0051】
【0052】
表1及び表2から明らかなように、本発明の要件を全て満たす実施例1~17は200℃,180℃、又は150℃×1000時間処理後の引張強度保持率が一般部、ウェルド部のいずれにおいても70%以上であり、広い温度範囲で高い引張強度保持率を達成し、耐熱老化性が向上している。一方、実施例1と比べて酸素バリア性付与剤(B)の含有量が少なすぎる比較例1は、200℃×1000時間処理後の引張強度保持率が低く、特に一般部と比べてウェルド部の方が明らかに低く、高温環境下での耐熱老化性に劣る。実施例1と比べてレドックス系酸素吸収剤(C)の含有量が少なすぎる比較例2は、150℃及び180℃×1000時間処理後の引張強度保持率が低く、特に一般部と比べてウェルド部の方が明らかに低く、低温環境下での耐熱老化性に劣る。実施例1と比べて酸素バリア性付与剤(B)の含有量が多すぎる比較例3は、耐熱老化性の向上効果の点では実施例1とほぼ同等又はそれ以上であるが、初期の引張強度が劣る。実施例1と比べてレドックス系酸素吸収剤(C)の含有量が多すぎる比較例4は、耐熱老化性の向上効果の点では実施例1とほぼ同等又はそれ以上であるが、初期の引張強度が劣る。実施例1と比べて酸素バリア性付与剤(B)の含有量及びレドックス系酸素吸収剤(C)の含有量のいずれも少なすぎる比較例5は、200℃、180℃、150℃のいずれの温度条件においても、1000時間処理後の引張強度保持率が実施例1と比べて低く、高温環境下及び低温環境下のいずれにおいても耐熱老化性に劣る。実施例1と比べて酸素バリア性付与剤(B)の含有量及びレドックス系酸素吸収剤(C)の含有量のいずれも多すぎる比較例6は、耐熱老化性の向上効果の点では実施例1とほぼ同等又はそれ以上であるが、初期の引張強度が劣る。実施例1と比べて酸素バリア性付与剤(B)及びレドックス系酸素吸収剤(C)のいずれも含有しない比較例7は、200℃、180℃、150℃のいずれの温度条件においても、1000時間処理後の引張強度保持率が実施例1と比べて著しく低く、高温環境下及び低温環境下のいずれにおいても耐熱老化性に著しく劣る。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、150~180℃程度の温度から200℃程度の高い温度にわたって耐熱老化性が向上したポリアミド樹脂組成物を提供することができる。本発明のポリアミド樹脂組成物から成形された成形品は、広い温度範囲で高い強度保持性を示し、特に、構造上一般的に強度に劣るとされている成形品のウェルド部においても、広い温度範囲で十分な強度保持性を示すことができる。従って、本発明のポリアミド樹脂組成物は、高い温度に常時さらされる自動車、電気・電子製品の部品用の成形材料として極めて有用である。