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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】動力伝達装置の潤滑構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20241008BHJP
【FI】
F16H57/04 P
F16H57/04 Q
F16H57/04 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020186540
(22)【出願日】2020-11-09
(65)【公開番号】P2022076221
(43)【公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桐山 啓
(72)【発明者】
【氏名】大石 綾子
(72)【発明者】
【氏名】葦名 右京
(72)【発明者】
【氏名】村松 拓也
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-022466(JP,A)
【文献】実開昭64-045054(JP,U)
【文献】実開昭58-065492(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルを貯留するオイル貯留空間が底部に形成されたケースと、前記オイル貯留空間のオイルを掻き上げる回転体と、を有し、前記回転体を含む複数の被潤滑部位にオイルを供給する動力伝達装置の潤滑構造であって、
前記オイル貯留空間のオイルを前記被潤滑部位に圧送するオイルポンプと、
前記オイルポンプから前記被潤滑部位にオイルを配送する油路と、
前記油路から分岐する分岐油路と、
前記分岐油路を流れるオイルを貯留するオイルタンクと、を備え、
前記オイルタンクは
前記オイル貯留空間におけるオイルの油面位置よりも下方に配置され、前記オイル貯留空間と連通する連通孔と、
前記分岐油路からオイルを受け入れるオイル流入口と、
前記オイル流入口よりも上方に延びるオイル通路部と、
前記オイル通路部の上端部に形成されたオイル吐出口と、を有し、
前記オイル流入口から前記オイルタンクに流れ込んだオイルが、前記オイル通路部を上昇して前記オイル吐出口から吐出されることを特徴とする動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項2】
前記回転体は、ギヤを含み、
前記オイルタンクは、前記ギヤの外周側に配置され、かつ、前記ギヤの外周に沿う形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項3】
前記ギヤはリダクションギヤからなり、
前記回転体は、前記リダクションギヤよりも大径で前記リダクションギヤと軸方向に隣接して一体回転するベベルギヤを含み、
前記オイルタンクは、前記リダクションギヤの外周と前記ベベルギヤと前記ケースの内面とに囲まれた空間に配置され、
前記リダクションギヤの軸方向から見て前記ベベルギヤと前記オイルタンクとが重なっていることを特徴とする請求項2に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項4】
前記オイル吐出口は、正転時の前記ギヤと周方向で対向するように開口していることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置の潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に搭載される動力伝達装置にあっては、ギヤの回転により掻き上げられたオイルを捕集して一時的に貯留するキャッチタンクをケースの内部の上部に備えるようにした技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の技術によれば、動力伝達装置内を流動するオイルの量を制限でき、ギヤによるオイルの撹拌抵抗を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-337485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の動力伝達装置は、オイルポンプおよびギヤの停止中はキャッチタンクにオイルが全く貯留されないため、ギヤの回転開始時に早期にキャッチタンクにオイルを貯留してオイルの撹拌抵抗を低減することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記のような事情に着目してなされたものであり、駆動開始後に確実かつ早期にオイルの撹拌抵抗を低減できる動力伝達装置の潤滑構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、オイルを貯留するオイル貯留空間が底部に形成されたケースと、前記オイル貯留空間のオイルを掻き上げる回転体と、を有し、前記回転体を含む複数の被潤滑部位にオイルを供給する動力伝達装置の潤滑構造であって、前記オイル貯留空間のオイルを前記被潤滑部位に圧送するオイルポンプと、前記オイルポンプから前記被潤滑部位にオイルを配送する油路と、前記油路から分岐する分岐油路と、前記分岐油路を流れるオイルを貯留するオイルタンクと、を備え、前記オイルタンクは前記オイル貯留空間におけるオイルの油面位置よりも下方に配置され、前記オイル貯留空間と連通する連通孔と、前記分岐油路からオイルを受け入れるオイル流入口と、前記オイル流入口よりも上方に延びるオイル通路部と、前記オイル通路部の上端部に形成されたオイル吐出口と、を有し、前記オイル流入口から前記オイルタンクに流れ込んだオイルが、前記オイル通路部を上昇して前記オイル吐出口から吐出されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このように上記の本発明によれば、駆動開始後に確実かつ早期にオイルの撹拌抵抗を低減できる動力伝達装置の潤滑構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施例に係る潤滑構造を備える動力伝達装置の左側面図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る潤滑構造を備える動力伝達装置の第2ケースの左側面図である。
図3図3は、図1に示す動力伝達装置のIII-III方向の矢視断面図である。
図4図4は、図1に示す動力伝達装置のIV-IV方向の矢視断面図である。
図5図5は、図1に示す動力伝達装置のV-V方向の断面の右後方から見た斜視図である。
図6図6は、本発明の一実施例に係る潤滑構造を備えた動力伝達装置のオイルタンクの左前方から見た斜視図である。
図7図7は、本発明の一実施例に係る潤滑構造を備えた動力伝達装置のオイルタンクの右後方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造は、オイル(潤滑油)を貯留するオイル貯留空間が底部に形成されたケースと、オイル貯留空間のオイルを掻き上げる回転体と、を有し、回転体を含む複数の被潤滑部位にオイルを供給する動力伝達装置の潤滑構造であって、オイル貯留空間のオイルを被潤滑部位に圧送するオイルポンプと、オイルポンプから被潤滑部位にオイルを配送する油路と、油路から分岐する分岐油路と、分岐油路を流れるオイルを貯留するオイルタンクと、を備え、オイルタンクは、オイル貯留空間におけるオイルの油面位置よりも下方に、オイル貯留空間と連通する連通孔を有していることを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造は、駆動開始後に確実かつ早期にオイルの撹拌抵抗を低減することができる。
【実施例1】
【0010】
以下、本発明の一実施例に係る動力伝達装置の潤滑構造について、図面を用いて説明する。図1から図7は、本発明の一実施例に係る動力伝達装置の潤滑構造を示す図である。図1から図7において、上下前後左右方向の表示は、車両に搭載した状態における上下前後左右を示している。
【0011】
まず、構成を説明する。図1において、動力伝達装置1は、図示しない車両の前部のエンジンルームに図示しないエンジン、変速機およびフロントディファレンシャル装置と一体で搭載されている。詳しくは、動力伝達装置1は、FF(Front Engine Front Drive)式の車両の前部にいわゆる横置きの姿勢で搭載されている。動力伝達装置1は、トランスファとして構成されており、図示しないフロントディファレンシャル装置の図示しないリングギヤから受け取った動力を、車両後部の図示しないリヤディファレンシャル装置に伝達している。
【0012】
動力伝達装置1は、リダクションドライブ軸6と、リダクションドリブン軸8と、ピニオン軸11とを備えている。リダクションドライブ軸6は、車両幅方向に延びており、左端部においてフロントディファレンシャル装置のデフケースにスプラインで連結されている。ピニオン軸11は車両前後方向に延びており、その後端部に取付けられたフランジを介してプロペラシャフトが連結されている。プロペラシャフトはリヤディファレンシャル装置に連結されており、ピニオン軸11から受け取った動力を、車両後部のリヤディファレンシャル装置に伝達している。動力伝達装置1は、リダクションドライブ軸6に入力された回転を減速し、ピニオン軸11から出力している。
【0013】
動力伝達装置1はケース2を備えている。ケース2は、リダクションドライブ軸6、リダクションドリブン軸8、および、ピニオン軸11等の回転要素を収納し、これらの回転要素を回転可能に支持している。なお、リダクションドライブ軸6は中空の筒状に形成されており、その中空部分には右前輪用のドライブシャフト5が挿通されている。
【0014】
図2に示すように、動力伝達装置1は、リダクションドリブン軸8を備えており、リダクションドリブン軸8は、リダクションドライブ軸6の後上方に配置され、リダクションドライブ軸6と平行に車両幅方向に延びている。リダクションドライブ軸6の外周にはリダクションドライブギヤ7が形成されている。リダクションドリブン軸8の外周にはリダクションドリブンギヤ9が形成されている。リダクションドリブンギヤ9は、リダクションドライブギヤ7と噛み合っている。
【0015】
図2において、車両の前進時は、リダクションドライブ軸6およびリダクションドライブギヤ7は矢印R1で示す反時計回りの方向に回転し、リダクションドリブン軸8およびリダクションドリブンギヤ9は、矢印R2で示す時計回りの方向に回転する。本実施例では、車両の前進時のリダクションドライブギヤ7の矢印R1の回転方向、および、車両の前進時のリダクションドリブンギヤ9の矢印R2の回転方向を、各ギヤの正転方向としている。
【0016】
図3に示すように、リダクションドリブン軸8にはベベルギヤ10が一体回転可能に設けられている。ベベルギヤ10は図2において破線で表されている。ベベルギヤ10の歯面は図2における手前側(左方)を向いている。ベベルギヤ10は、リダクションドリブン軸8におけるリダクションドリブンギヤ9の左側の位置に固定されている。
【0017】
ピニオン軸11の先端にはピニオンギヤ12が形成されている。ピニオンギヤ12は図2において破線で表されている。ピニオンギヤ12は、図2におけるベベルギヤ10の手前側(左方)に配置されており、ベベルギヤ10と噛み合っている。ピニオン軸11の軸はリダクションドリブン軸8の軸よりも高い位置で車両前後方向に延びる様に配置されている。つまり、動力伝達装置1におけるギヤの配置は、軸方向(左右方向)で右側から、リダクションドライブギヤ7とリダクションドリブンギヤ9、ベベルギヤ10、ピニオンギヤ12の順に配置されている。そして、前後方向で前からリダクションドライブ軸6、リダクションドリブン軸8、ピニオン軸11の順に配置され、リダクションドライブ軸6、リダクションドリブン軸8、ピニオン軸11の順に高い位置となるように配置されている。
【0018】
動力伝達装置1において、リダクションドライブ軸6に入力された回転は、リダクションドライブギヤ7とリダクションドリブンギヤ9との噛み合いによる動力伝達、およびベベルギヤ10とピニオンギヤ12との噛み合いによる動力伝達によって、ピニオン軸11に伝達され、ピニオン軸11から出力される。
【0019】
図3図4に示すように、ケース2は、左右方向に垂直な合わせ面にて分割されて第1ケース3と第2ケース4とから構成されている。つまり、第1ケース3はケース2の左側の部分を構成し、第2ケース4はケース2の右側の部分を構成している。
【0020】
リダクションドリブン軸8の左端部は、軸受8Aを介して第1ケース3に支持されており、リダクションドリブン軸8の右端部は、軸受8Bを介して第2ケース4に支持されている。なお、図3図4に表れていないリダクションドライブ軸6の左右の端部も同様に、図示しない軸受によって第1ケース3および第2ケース4に支持されている。ピニオン軸11は、軸受11Aを介して第1ケース3に支持されている(図5参照)。
【0021】
図2図3図4に示すように、ケース2の底部には、オイルが集まるオイル貯留空間2Aが形成されている。車両の停車時において、オイル貯留空間2Aには、所定の油面位置OLまでオイルが貯留されている。オイル貯留空間2Aのオイルは、回転体としてのリダクションドライブギヤ7、リダクションドリブンギヤ9およびベベルギヤ10の回転によって上方に掻き上げられ、リダクションドリブンギヤ9およびベベルギヤ10を含む複数の被潤滑部位に供給される。そして、掻き上げられたオイルは、これらの被潤滑部位を潤滑しながら流下し、オイル貯留空間2Aに戻る。
【0022】
オイル貯留空間2Aにおけるオイルの油量、つまり油面位置OL(車両の停車時の油面位置)は、第2ケース4の右側面に形成されたオイル充填口の位置により定められている。オイル充填口の開口の下端縁の位置が、油面位置OLとなっている。オイル充填口は、フィラープラグ13が装着されて閉じられている。フィラープラグ13は、整備等でケース2内へのオイルの充填時に取り外される。そして、フィラープラグ13が塞いでいたオイル充填口から規定量のオイルの充填が行われる。また、このオイル充填口から溢れ出るまでオイルを充填することで規定量のオイルが充填されたこととなるため、必要以上の量のオイルを充填することが抑制され、オイルが規定量の充填状態となったことの確認を容易に行うことができる。
【0023】
オイルの油面位置OL(オイル量)は、高負荷時のオイルの最高温度、耐久試験での潤滑不足の有無等を考慮して決められる。また、車両の駐車状態が長期に及んでもオイルシールのリップにオイルが達する位置に設定される。これは、少なくともリップの一部に常にオイルを供給しておくことにより、走行開始時により早く潤滑できるように準備しておくことによりオイルシールのリップの摩耗を抑制してその耐久性を向上させるためである。
【0024】
図5において、動力伝達装置1は、オイル貯留空間2Aのオイルを被潤滑部位に圧送するオイルポンプ22と、オイルポンプ22から被潤滑部位にオイルを配送する油路23、24、25と、を備えている。オイルポンプ22および油路23、24は、第2ケース4に設けられており、油路25は第1ケース3に設けられている。
【0025】
オイルポンプ22は、トロコイドポンプからなり、リダクションドリブン軸8の右端部側の軸線上に配置されている。オイルポンプ22は、ハウジング22Aと、このハウジング22Aの内部に回転可能に保持されたインナロータ22Bおよびアウタロータ22Cとを有している。ハウジング22Aは、アウタロータ22Cを収納する凹部を有し、第2ケース4に取付けられてオイルポンプ22の収納空間を隔成する。また、ハウジング22Aは、開口を有し、この開口にてインナロータ22Bを回転可能に軸支している。インナロータ22Bは、リダクションドリブン軸8の左端部に連結されており、リダクションドリブン軸8とともに回転する。したがって、オイルポンプ22は、リダクションドリブン軸8の回転によって駆動される。オイルポンプ22が配置される個所の第2ケース4には、吸入ポートと排出ポート(吐出口22D)、および、それらに連通している油路(油路23等)が形成されており、オイルポンプ22へのオイルの出入り経路が形成されている。
なお、車両が後進する時は、リダクションドリブン軸8が逆転(正転の反対)するので、オイルポンプ22の吸入と吐出しの関係が逆となる。
【0026】
第2ケース4には、ストレーナ21が取付けられている。そして、第2ケース4に形成されたオイルポンプ22の吸入側の油路はストレーナ21に連通している。ストレーナ21は、オイル貯留空間2Aの底部に配置されており、オイルポンプ22がオイル貯留空間2Aから吸い上げるオイルを濾過する。オイルポンプ22は、吐出口22Dを有しており、ストレーナ21を介してオイル貯留空間2Aから吸い上げたオイルを、吐出口22Dに吐出する。
【0027】
油路23は、オイルポンプ22の吐出口22Dに連通しており、吐出口22Dから第2ケース4の右側面に沿って第2ケース4の外周近傍まで後上方に向って直線状に延びている。油路23は、オイル充填口の上方を通過するように形成されている。油路24は、油路23に連通しており、第2ケース4の外周に沿って第1ケース3側(左方)に向かって直線状に延びている。この左右方向に沿って延びる油路24に関し、第1ケース3側となる左端部は第1ケース3と第2ケース4との合わせ面に開口しており、反対側となる右端部が油路23に連通するように第2ケース4の外周壁に形成されている。また、油路25は、油路24に連通しており、第1ケース3の外周に沿って左方に延びている。この左右方向に沿って延びる油路25に関し、第2ケース4側となる右端部は第2ケース4と第1ケース3との合わせ面に開口しており、油路25の下流側端部(左側端部)は、ピニオン軸11を支持する軸受11Aに連通している。これらの油路23、24、25は、吐出口22Dから軸受11Aまでのオイル通路(油路)を構成し、オイルポンプ22が吐出するオイルを軸受11Aに供給している。
【0028】
このように、本実施例の動力伝達装置1は、リダクションドリブンギヤ9とベベルギヤ10によるオイルの掻き上げと、オイルポンプ22によるオイルの圧送とによって、複数の被潤滑部位にオイルを供給している。
【0029】
動力伝達装置1にあっては、オイルポンプ22によるオイルの圧送と併用して、いわゆる掻き上げ式の潤滑手法も用いているため、被潤滑部位の潤滑不足を回避しつつ、オイルの掻き上げによる撹拌抵抗を低減することが望ましい。また、本実施例の動力伝達装置1において、ピニオン軸11の軸心が、リダクションドリブン軸8の軸心よりも高い位置に配置されており、ピニオン軸11の軸受11Aやオイルシールがケース2内の高い位置に配置されている。このため、ピニオン軸11の軸受11Aやオイルシールの潤滑を維持するためにオイルの油面位置OLを高い位置に設定しつつ、オイルの撹拌抵抗を低減することが望ましい。したがって、油面位置OLを高い位置に設定する等によりケース2内のオイルの総量を維持したまま、リダクションドリブンギヤ9およびベベルギヤ10と連れ回るオイルの量、つまりオイル貯留空間2Aのオイルの量を低減することが好ましい。
【0030】
また、動力伝達装置1が冷機時駆動する場合は、メカロスを最も低減することが求められるため、冷機時にオイルが低温で高粘度であることに起因する撹拌抵抗の増大と、駆動開始後の低回転の状態であることに起因するオイルの掻き上げ量不足とを、早期に解消することが好ましい。
【0031】
そこで、本実施例の動力伝達装置1は、油路23から分岐する分岐油路26と、分岐油路26から流れ込むオイルを貯留するオイルタンク30と、を備えており、オイルポンプ22が圧送するオイルの一部を分岐油路26を使ってオイルタンク30に導き、オイルタンク30に貯留するようになっている。したがって、動力伝達装置1において、オイルポンプ22は、オイルを所定の被潤滑部位へ供給する機能と、オイルをオイルタンク30に貯留させる機能とを有している。
【0032】
分岐油路26は、油路23の途中に連通しており、第1ケース3側(左方)に延びている。一方、オイルタンク30は、この分岐油路26に連通する導入通路32が形成された筒状の導入管31を有している。導入通路32は、その右端部側の開口部であるオイル入口32Aを有している。分岐油路26の左端部となる第2ケース4の部位には接続孔が形成されており、この接続孔に導入管31が挿入されることで第2ケース4とオイルタンク30が接続され、分岐油路26と導入通路32が連通する。そして、油路23から分岐油路26に流れ込んだオイルは、オイル入口32Aを通って導入通路32に導入される。一方、オイルタンク30の導入通路32の左端はオイル流入口32Bとなっている。オイルタンク30は、分岐油路26から導入通路32に導入されたオイルを、オイル流入口32Bからオイルタンク30の内部空間に受け入れるようになっている。オイル流入口32Bは、フィラープラグ13よりも上側であって、オイルタンク30における上下方向の概ね中間位置に配置されている。
【0033】
図2図6図7において、オイルタンク30におけるオイル流入口32Bよりも下方の部位は、オイルが貯留される貯留部33となっている。貯留部33の下部には、内部空間が拡張された膨出部33Aが形成されている。膨出部33Aは、その内部空間を拡張するように、軸方向の右方およびラジアル方向の外方(ケース2の内面に近づく方向)に膨出している。膨出部33Aは、リダクションドリブン軸8の軸方向で、軸受8Bよりも右方に膨出している。つまり、膨出部33Aは、リダクションドリブン軸8の軸受8Bの側方(詳細には後下方)を横切るように、右方に膨出している(図4参照)。オイルタンク30により大きな膨出部33Aを形成するために、第2ケース4には膨出部33Aを収容する膨出形状が形成されている。なお、オイルタンク30の貯留部33の大部分は、車両の停止中の油面位置OLよりも下方に配置されている。膨出部33Aはオイルの中に沈んでおり、このため、車両の停止中は、オイルタンク30の内部には少なくとも油面位置OLまでオイルが貯留される。
【0034】
貯留部33の下端部(膨出部33A)の前方側の傾斜した側壁33B(図2参照)は、ストレーナ21の近傍(後上方)に配置されており、リダクションドリブンギヤ9の外周の歯面の移動方向(回転方向)に垂直な壁となっている。貯留部33のこの側壁33Bによって、オイル貯留空間2Aのオイルの後方への移動を規制してオイルの位置を安定させることができ、オイル貯留空間2Aにおいてストレーナ21によるエアの吸い込みを抑制でき、潤滑性能を向上させることができる。図2に示すように、ストレーナ21は、オイル貯留空間2Aの下部でケース2の凹部内に配置されている。詳細には、ストレーナ21の前後には第1ケース3と第2ケース4を結合する為の締め付け箇所が配置されており、ストレーナ21は、これらの締め付け箇所の間に配置されている。更に、ストレーナ21とリダクションドライブギヤ7の間には、リダクションドライブギヤ7の外径形状に沿って円弧状に形成されたオイルの連れ回りを抑制するリブが存在している。このリブと側壁33Bによって、オイル貯留空間2Aのオイルの位置を安定させることができ、ストレーナ21によるエアの吸い込みを抑制でき、潤滑性能を向上させることができる。
【0035】
貯留部33の左側面の下部には、貯留部33の内部空間をオイル貯留空間2Aと連通する連通孔34が形成されている。連通孔34は、オイル貯留空間2Aにおけるオイルの油面位置OLよりも下方に配置されている。連通孔34は、オイルタンク30のオイル貯留機能を損なうことがないように分岐油路26や導入通路32よりも小径に形成されている。このため、オイルポンプ22の駆動中は、オイルタンク30から連通孔34を通ってオイル貯留空間2Aへ流出するオイルの量は導入通路32から流入するオイルの量に比較して少なくなり、オイルタンク30内のオイルの量が増加する。そして、オイルポンプ22の停止中は、オイルタンク30から連通孔34を通ってオイル貯留空間2Aへ流出するオイルの量は導入通路32や分岐油路26から流出するオイルの量に比較して少なくなり、オイルタンク30内のオイルは主に油路23に流出することになる。
【0036】
また、オイルタンク30に連通孔34が設けられていることにより、オイルタンク30とオイル貯留空間2Aとの間で、連通孔34を通してオイルが行き来することができる。このため、整備等で動力伝達装置1のオイルを抜く場合は、オイルタンク30内のオイルも連通孔34、および、図示せぬドレン孔から排出することができる。また、逆に動力伝達装置1にオイルを注入する場合は、車両の長期の停止時のように、ギヤによるオイルの掻き上げがされておらずオイルポンプ22もオイルを送り出していないが、オイル充填口から注入されたオイルがオイル貯留空間2Aに貯留され、オイル貯留空間2Aのオイルが連通孔34を通ってオイルタンク30内に流入し、オイルタンク30に貯留される。このため、ケース2内のオイルの総量を維持したまま、オイル貯留空間2Aのオイルの量が低減される。
【0037】
オイルタンク30は、オイル流入口32Bよりも上方に延びるオイル通路部35を有している。オイル通路部35は、リダクションドリブンギヤ9の周囲に配置され、リダクションドリブンギヤ9の外径に沿って円弧状に形成されている。円弧状に上方に延びるオイルタンク30の上端部(オイル通路部35の上端部)は、リダクションドリブンギヤ9の最上部の上方に配置されている。オイル通路部35の上端部にはオイル吐出口36が形成されている。オイル流入口32Bからオイルタンク30に流れ込んだオイルは、まず、オイル流入口32Bよりも下方の貯留部33に流れ落ちて貯留され、貯留部33を満たした後にオイル通路部35を下部から満たしてその液面(油面)が上昇し、上端部に達してオイル通路部35を満たした後にオイル吐出口36から吐出される。
【0038】
ここで、オイル通路部35の流路断面積(流れ方向に直交する断面積)は、オイル流入口32Bの流路断面積と比較して十分に大きく形成されている。つまり、オイル通路部35が比較的長く円弧状に上方に延び形状を有することもあり、オイル通路部35は比較的大きな内部空間を有している。このため、オイル通路部35は、単なる油路としての機能だけでなく、オイルを貯留する機能も有している。そして、オイル通路部35は、油路23、24、25よりも高い位置に配置されている。
【0039】
したがって、オイル通路部35に貯留されているオイルは、車両の停車中(オイルポンプ22の停止中)に、自重によってオイル流入口32Bから導入通路32を逆流して油路23に排出され、油路24、25を通って被潤滑部位(例えば、軸受11A)に供給される。そして、被潤滑部位を潤滑したオイルは、ケース2内を流下してオイル貯留空間2A内に戻る。
【0040】
図2図3図4に示すように、オイルタンク30は、リダクションドリブンギヤ9の外側に、リダクションドリブンギヤ9の後側を取り囲む様に配置されている。そして、オイルタンク30は、リダクションドリブンギヤ9の外周に沿う形状に形成されている。本実施例では、オイルタンク30は、円弧状に形成されており、その内側面はリダクションドリブンギヤ9の外径に近接配置されてその外径形状に沿い、その外周面はベベルギヤ10の外径寸法とほぼ同じ寸法に形成されている。また、オイルタンク30の左右方向の幅は、膨出部33Aの部分を除き、リダクションドリブンギヤ9とほぼ同じ寸法となっている。詳細には、リダクションドリブン軸8の軸方向で、オイルタンク30の左側面はリダクションドリブンギヤ9の左側端縁(左側面)とほぼ同じ位置からやや右側となる位置に位置しており、オイルタンク30の右側面はリダクションドリブンギヤ9の右側端縁(右側面)とほぼ同じ位置からやや右側となる位置に位置している。
【0041】
図3図4に示すように、ベベルギヤ10は、その外径がリダクションドリブンギヤ9よりも大径に形成されている。また、ベベルギヤ10は、リダクションドリブンギヤ9の左側面に隣り合う位置で、リダクションドリブン軸8に固定されている。このように、ベベルギヤ10はリダクションドリブンギヤ9と軸方向に隣接している。
【0042】
動力伝達装置1において、ベベルギヤ10がリダクションドリブンギヤ9よりも大径に形成されていることにより、ベベルギヤ10の右方には、リダクションドリブンギヤ9の周囲に余剰の空間Sが存在する。この空間Sは、リダクションドリブンギヤ9の外周とベベルギヤ10とケース2の内面とに囲まれた空間である。オイルタンク30は、この余剰の空間Sに配置されている。図2に示すように、リダクションドリブンギヤ9の軸方向(リダクションドリブン軸8の軸方向)から見て、ベベルギヤ10とオイルタンク30とが重なっている。言い換えれば、オイルタンク30は、ベベルギヤ10の軸方向(リダクションドリブン軸8の軸方向)で、ベベルギヤ10の背面と対向している。
【0043】
図2に示すように、オイル吐出口36は、正転時のリダクションドリブンギヤ9の回転方向と周方向で対向するように開口している。詳しくは、リダクションドリブンギヤ9が正転時に矢印R2の方向に回転するため、リダクションドリブンギヤ9の最上部において歯面は後方に移動する。一方、リダクションドリブンギヤ9の最上部において、オイル吐出口36は、前方を向いて開口しており、正転時のリダクションドリブンギヤ9に連れ回るオイルの流れ方向と周方向で対向している。
【0044】
このように、本実施例では、オイルタンク30のオイル通路部35の上端部が、リダクションドリブンギヤ9の最上部の上方に配置されているため、リダクションドリブンギヤ9により掻き上げられたオイル貯留空間2Aのオイルは、リダクションドリブンギヤ9の最上部において、オイル通路部35の上端部に形成されたオイル吐出口36からオイルタンク30内に取り込まれ、またはオイル通路部35によってリダクションドリブンギヤ9の表面から掻き落とされる。このため、リダクションドリブンギヤ9の表面を連れ回るオイルの量を減らすことができ、オイルの撹拌抵抗を低減することができる。なお、図3図4に示すように、ベベルギヤ10の歯面側(オイルタンク30が配置されない側)には空間が確保されており、オイルはベベルギヤ10の歯に連れ回ることができる。ベベルギヤ10の歯に連れ回るオイルにて、ベベルギヤ10とピニオンギヤ12との噛み合い箇所の潤滑を良好に行うことができる。特に、当該噛み合い箇所に上方からオイルが供給されるので、潤滑性能を向上させることができる。
【0045】
図2図6図7に示すように、オイルタンク30には2つの固定部30A、30Bが設けられている。オイルタンク30は、これらの固定部30A、30Bにおいて第2ケース4側にボルト14の締結により固定されている。したがって、本発明の潤滑構造を構成するオイルタンク30、ストレーナ21、オイルポンプ22および油路23、24、26は、第2ケース4側に集約されている。
【0046】
以上説明したように、本実施例の動力伝達装置1は、オイル貯留空間2Aのオイルを被潤滑部位に圧送するオイルポンプ22と、オイルポンプ22から被潤滑部位にオイルを配送する油路23、24、25と、油路23から分岐する分岐油路26と、分岐油路26を流れるオイルを貯留するオイルタンク30と、を備えている。そして、オイルタンク30は、オイル貯留空間2Aにおけるオイルの油面位置OLよりも下方に、オイル貯留空間2Aと連通する連通孔34を有している。
【0047】
これにより、ケース2の底部のオイル貯留空間2Aとオイルタンク30とに分けてオイルがそれぞれ貯留されるため、ケース2内のオイルの総量を維持したまま、ギヤによって撹拌されギヤに連れ回り流動することとなるオイル貯留空間2Aのオイルの量を減らすことができる。このため、オイルの撹拌抵抗を低減することができる。
【0048】
また、オイル貯留空間2Aのオイルをオイルポンプ22によってオイルタンク30に圧送して貯留することができるので、オイルを掻き上げてオイルタンク30に貯留する場合と比較して、オイルを確実にオイルタンク30に貯留できる。このため、確実にオイルの撹拌抵抗を低減できる。また、オイルタンク30の連通孔を介してオイルがオイル貯留空間2Aとオイルタンク30との間で流通できるので、オイルポンプ22が停止中であっても所定量のオイルをオイルタンク30に貯留しておくことができ、早期にオイルの撹拌抵抗を低減できる。この結果、駆動開始後に確実かつ早期にオイルの撹拌抵抗を低減できる。
【0049】
本実施例の動力伝達装置1において、オイルタンク30は、分岐油路26からオイルを受け入れるオイル流入口32Bと、オイル流入口32Bよりも上方に延びるオイル通路部35と、オイル通路部35の上端部に形成されたオイル吐出口36と、を有している。そして、オイル流入口からオイルタンク30に流れ込んだオイルが、オイル通路部35を上昇してオイル吐出口36から吐出される。
【0050】
これにより、オイル流入口よりも上方に延びるオイル通路部35の上端部にオイル吐出口36が形成されているので、オイルポンプ22の作動中は、オイルがオイル通路部35に一時的に貯留された後にオイル吐出口36から吐出される。このため、オイル通路部35を、オイルの通路としてだけでなく、オイルの貯留部分としても機能させることができ、オイルポンプ22の作動中のオイル貯留空間2Aのオイルの量を減少させることができ、オイルの撹拌抵抗を低減できる。また、オイルタンク30を、オイルを貯留するだけでなく、オイル通路部35の上端部のオイル吐出口36にオイルを導く油路として機能させることができるので、ケース2内の高い位置にオイルを供給できる。
【0051】
本実施例の動力伝達装置1において、オイルタンク30は、リダクションドリブンギヤ9の外周側に配置され、かつ、リダクションドリブンギヤ9の外周に沿う形状に形成されている。
【0052】
これにより、オイルタンク30によって、オイルタンク30の内部のオイルとリダクションドリブンギヤ9とを仕切ることができ、オイルタンク30をオイルセパレータとして機能させることができる。このため、リダクションドリブンギヤ9の外周側においてリダクションドリブンギヤ9に連れ回るオイルの量を減らすことができ、撹拌抵抗を低減できる。
【0053】
本実施例の動力伝達装置1において、回転体としてのベベルギヤ10は、リダクションドリブンギヤ9よりも大径でリダクションドリブンギヤ9と軸方向に隣接して一体回転する。また、オイルタンク30は、リダクションドリブンギヤ9の外周とベベルギヤ10とケース2の内面とに囲まれた空間Sに配置されている。そして、リダクションドリブンギヤ9の軸方向から見てベベルギヤ10とオイルタンク30とが重なっている。
【0054】
このように、オイルタンク30が配置される空間Sは、リダクションドリブンギヤ9の外周とベベルギヤとケース2の内面とに囲まれており、いわゆるデッドスペースであるので、オイルタンク30の設置による動力伝達装置1の大型化を回避できる。また、オイルタンク30は、上方から流下するオイルを捕集する必要がなく、その形状や位置が制限されないため、デッドスペースである空間Sを最大限に利用して容量を確保することにより、オイルタンク30を大型化することができる。
【0055】
本実施例の動力伝達装置1において、オイル吐出口36は、正転時のリダクションドリブンギヤ9と周方向で対向するように開口している。
【0056】
これにより、オイルポンプ22によってオイルをオイルタンク30に圧送するだけでなく、正転時のリダクションドリブンギヤ9が掻き上げたオイルも、オイル吐出口36を介してオイルタンク30内に受け入れることができ、速やかにオイルをオイルタンク30に貯留することができる。したがって、リダクションドリブンギヤ9の回転に連れ回るオイルを早期に低減でき、早期に撹拌抵抗を低減できる。
【0057】
本発明の本実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0058】
1...動力伝達装置、2...ケース、2A...オイル貯留空間、9...リダクションドリブンギヤ(回転体)、10...ベベルギヤ(回転体)、22...オイルポンプ、23,24,25...油路、26...分岐油路、30...オイルタンク、32B...オイル流入口、34...連通孔、35...オイル通路部、36...オイル吐出口、OL...油面位置、S...空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7