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特許7567390液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20241008BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B41J2/14 305
B41J2/14 613
B41J2/16 507
B41J2/16 305
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020191472
(22)【出願日】2020-11-18
(65)【公開番号】P2021079698
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2019207880
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼部 本規
(72)【発明者】
【氏名】平井 栄樹
(72)【発明者】
【氏名】奥井 宏明
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-096034(JP,A)
【文献】特開2009-083262(JP,A)
【文献】特開2006-231530(JP,A)
【文献】特開2000-326503(JP,A)
【文献】特開2008-296417(JP,A)
【文献】特開2003-053974(JP,A)
【文献】特開2000-094688(JP,A)
【文献】特開2009-016606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体と、
前記圧電体に対して第1方向の一方側に設けられた振動板と、
前記振動板に対して前記一方側に設けられた圧力室基板であって、液体に圧力を付与する圧力室を区画する複数の区画壁を備える圧力室基板と、
が前記第1方向に並んで設けられた液体吐出ヘッドであって、
前記圧力室内の前記第1方向と交差する第2方向における2つの位置のうち、前記第2方向において最も近い位置に位置する前記区画壁までの前記第2方向の距離が長い1つの位置を第1位置とし、該距離が短い1つの位置を第2位置としたとき、
前記第1位置および前記第2位置には、いずれも、前記圧電体と前記振動板との両方が設けられ、
前記第2位置における前記振動板の厚さは、前記第1位置における前記振動板の厚さよりも小さく、
前記第2位置における前記圧電体の厚さは、前記第1位置における前記圧電体の厚さよりも小さく、
前記第2位置において、前記圧電体の厚さは、前記振動板の厚さよりも大きく、
前記第1位置において、前記圧電体の厚さは、前記振動板の厚さよりも小さく、
前記第2位置における前記振動板の厚さと前記圧電体の厚さとの差分は、前記第1位置における前記振動板の厚さと前記圧電体の厚さとの差分よりも小さい
液体吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドであって、
前記第2位置における前記振動板の厚さと前記圧電体の厚さとの合計は、前記第1位置における前記振動板の厚さと前記圧電体の厚さとの合計よりも小さい、
液体吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項1または請求項に記載の液体吐出ヘッドであって、
前記第2位置における前記振動板の厚さと前記圧電体の厚さとの合計は、前記第1位置における前記振動板の厚さよりも大きく、且つ、前記第1位置における前記圧電体の厚さよりも大きい、
液体吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドであって、
前記第2位置における前記振動板の前記一方側の端部は、前記第1位置における前記振動板の前記一方側の端部と同じ位置に配置され、
前記第2位置における前記振動板の他方側の端部は、前記第1位置における前記振動板の前記他方側の端部よりも前記一方側に配置されている、
液体吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドであって、
前記振動板は、弾性体層と、前記弾性体層に対して前記第1方向の他方側に設けられた絶縁層とを有し、
前記第2位置における前記絶縁層の厚さは、前記第1位置における前記絶縁層の厚さと等しく、
前記第2位置における前記弾性体層の厚さは、前記第1位置における前記弾性体層の厚さよりも小さい、
液体吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドであって、
前記振動板は、弾性体層と、前記弾性体層に対して前記第1方向の他方側に設けられた密着層と、前記密着層に対して前記他方側に設けられた絶縁層とを有し、
前記第2位置における前記絶縁層の厚さは、前記第1位置における前記絶縁層の厚さと等しく、
前記第2位置における前記弾性体層の厚さは、前記第1位置における前記弾性体層の厚さと等しく、
前記第2位置における前記密着層の厚さは、前記第1位置における前記密着層の厚さよりも小さい、
液体吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項または請求項に記載の液体吐出ヘッドであって、
前記弾性体層は、二酸化珪素により構成され、
前記絶縁層は、酸化ジルコニウムにより構成されている、
液体吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドであって、
前記圧電体に対して前記一方側に設けられ、複数の前記圧力室に対して個別に設けられる個別電極と、
前記圧電体に対して前記第1方向の他方側に設けられ、複数の前記圧力室に対して共通に設けられる共通電極と、
をさらに有する、
液体吐出ヘッド。
【請求項9】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドであって、
前記圧電体に対して前記一方側に設けられ、複数の前記圧力室に対して共通に設けられる共通電極と、
前記圧電体に対して前記第1方向の他方側に設けられ、複数の前記圧力室に対して個別に設けられる個別電極と、
をさらに有する、
液体吐出ヘッド。
【請求項10】
請求項または請求項に記載の液体吐出ヘッドであって、
前記液体の吐出量に応じて異なる駆動電圧を前記個別電極に印加し、かつ、前記液体の吐出量によらず一定の保持電圧を前記共通電極に印加することにより、前記圧電体を駆動する駆動制御部を、さらに有する、
液体吐出ヘッド。
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドであって、
前記第2方向において前記区画壁と重なる位置を第3位置としたとき、
前記第3位置には、前記圧電体と前記振動板との両方が設けられ、
前記第3位置における前記振動板の厚さは、前記第1位置における前記振動板の厚さよりも小さい、
液体吐出ヘッド。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドであって、
前記第1位置は、前記圧力室内の前記第2方向における中央部であり、
前記第2位置は、前記圧力室内の前記第2方向における端部である、
液体吐出ヘッド。
【請求項13】
圧電体と、
前記圧電体に対して第1方向の一方側に設けられた振動板と、
前記振動板に対して前記一方側に設けられた圧力室基板であって、液体に圧力を付与する圧力室を区画する複数の区画壁を備える圧力室基板と、
が前記第1方向に並んで設けられた液体吐出ヘッドであって、
前記圧力室内の前記第1方向と交差する第2方向における中央部を第1位置とし、
前記第2方向において前記区画壁と重なる位置を第3位置としたとき、
前記第1位置および前記第3位置には、いずれも、前記圧電体と前記振動板との両方が設けられ、
前記第3位置における前記振動板の厚さは、前記第1位置における前記振動板の厚さよりも小さく、
前記第3位置における前記圧電体の厚さは、前記第1位置における前記圧電体の厚さよりも小さく、
前記第3位置において、前記圧電体の厚さは、前記振動板の厚さよりも大きく、
前記第1位置において、前記圧電体の厚さは、前記振動板の厚さよりも小さく、
前記第3位置における前記振動板の厚さと前記圧電体の厚さとの差分は、前記第1位置における前記振動板の厚さと前記圧電体の厚さとの差分よりも小さい
液体吐出ヘッド。
【請求項14】
圧電体と、
前記圧電体に対して第1方向の一方側に設けられた振動板と、
前記振動板に対して前記一方側に設けられた圧力室基板であって、液体に圧力を付与する圧力室を区画する複数の区画壁を備える圧力室基板と、
が前記第1方向に並んで設けられた液体吐出ヘッドであって、
前記圧力室内の前記第1方向と交差する第2方向における2つの位置のうち、前記第2方向において最も近い位置に位置する前記区画壁までの前記第2方向の距離が長い1つの位置を第1位置とし、該距離が短い1つの位置を第2位置としたとき、
前記第1位置および前記第2位置には、いずれも、前記圧電体と前記振動板との両方が設けられ、
前記第2位置における前記振動板の厚さは、前記第1位置における前記振動板の厚さよりも小さく、
前記振動板は、弾性体層と、前記弾性体層に対して前記第1方向の他方側に設けられた密着層と、前記密着層に対して前記他方側に設けられた絶縁層とを有し、
前記第2位置における前記絶縁層の厚さは、前記第1位置における前記絶縁層の厚さと等しく、
前記第2位置における前記弾性体層の厚さは、前記第1位置における前記弾性体層の厚さと等しく、
前記第2位置における前記密着層の厚さは、前記第1位置における前記密着層の厚さよりも小さい、
液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンターなどの液体吐出装置は、インクを収容する圧力室の容積を圧電アクチュエーターにより変化させ、圧力室と連通するノズルからインクを吐出する液体吐出ヘッドを備えている。圧電アクチュエーターは、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの圧電効果を示す材料により形成された圧電体と、圧電体の一方の面に形成された第1電極と、圧電体の他方の面に形成された第2電極と、振動板とを備える。例えば、特許文献1に記載の圧電アクチュエーターは、両電極に挟まれた領域であって両電極への電圧の印加により撓みが生じる領域である能動部に圧電体が設けられており、例えば、振動板と第2電極とに挟まれる領域のように、能動部ではない領域である非能動部には、圧電体が設けられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-58467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、非能動部には圧電体が設けられていないので、圧電体が変形する際に能動部と非能動部との境界近傍に応力が集中して、圧電アクチュエーターにクラックが生じるおそれがある。したがって、能動部に加えて、非能動部にも圧電体を設けることが好ましい。また、非能動部にも圧電体を設けるに当たっては、振動板の剛性を高める等の更なる改善が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一実施形態によれば、液体吐出ヘッドが提供される。この液体吐出ヘッドは、圧電体と、前記圧電体に対して第1方向の一方側に設けられた振動板と、前記振動板に対して前記一方側に設けられた圧力室基板であって、液体に圧力を付与する圧力室を区画する複数の区画壁を備える圧力室基板と、が前記第1方向に並んで設けられた液体吐出ヘッドであって、前記圧力室内の前記第1方向と交差する第2方向における2つの位置のうち、前記第2方向において最も近い位置に位置する前記区画壁までの前記第2方向の距離が長い1つの位置を第1位置とし、該距離が短い1つの位置を第2位置としたとき、前記第1位置および前記第2位置には、いずれも、前記圧電体と前記振動板との両方が設けられ、前記第2位置における前記振動板の厚さは、前記第1位置における前記振動板の厚さよりも小さく、前記第2位置における前記圧電体の厚さは、前記第1位置における前記圧電体の厚さよりも小さく、前記第2位置において、前記圧電体の厚さは、前記振動板の厚さよりも大きく、前記第1位置において、前記圧電体の厚さは、前記振動板の厚さよりも小さく、前記第2位置における前記振動板の厚さと前記圧電体の厚さとの差分は、前記第1位置における前記振動板の厚さと前記圧電体の厚さとの差分よりも小さい
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本開示の一実施形態としての液体吐出ヘッドを備える液体吐出装置の概略構成を示すブロック図。
図2】液体吐出ヘッドの詳細構成を示す分解斜視図。
図3】液体吐出ヘッドの詳細構成を示す断面図。
図4】圧電アクチュエーターの詳細構成を模式的に示す断面図。
図5】圧電アクチュエーターの拡大図。
図6】液体吐出ヘッドの製造方法を示す工程図。
図7】液体吐出ヘッドの製造方法を示す工程図。
図8】液体吐出ヘッドの製造方法を示す工程図。
図9】液体吐出ヘッドの製造方法を示す工程図。
図10】第2実施形態における圧電アクチュエーターの詳細構成を模式的に示す断面図。
図11】第3実施形態における圧電アクチュエーターの詳細構成を模式的に示す断面図。
図12】第4実施形態における圧電アクチュエーターの詳細構成を模式的に示す断面図。
図13】第5実施形態における圧電アクチュエーターの詳細構成を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
A.第1実施形態:
A1.液体吐出装置の全体構成:
図1は、本開示の一実施形態としての液体吐出ヘッド26を備える液体吐出装置100の概略構成を示すブロック図である。本実施形態において、液体吐出装置100は、インクジェット式プリンターとして構成され、印刷用紙Pにインクを吐出して画像を形成する。なお、印刷用紙Pに代えて、樹脂フィルム、布帛等の任意の種類の媒体を、インクの吐出対象としてもよい。図1には、相互に直交する3つの軸であるX軸、Y軸およびZ軸が表されている。Z軸は、例えば、鉛直方向と平行に設定してもよい。他の図面に記載のX軸、Y軸およびZ軸は、いずれも図1のX軸、Y軸およびZ軸に対応する。向きを特定する場合には、正の方向を「+」、負の方向を「-」として、方向表記に正負の符合を併用する。正の方向および負の方向を「軸方向」とも呼ぶ。なお、Z軸方向は、本開示における第1方向の下位概念に相当し、X軸方向は、本開示における第2方向の下位概念に相当する。また、+Z方向は第1方向の一方側の下位概念に、-Z方向は第1方向の他方側の下位概念に、それぞれ相当する。なお、X軸、Y軸およびZ軸は、直交に限らず、任意の角度で交差していてもよい。
【0008】
液体吐出装置100は、液体吐出ヘッド26と、インクタンク50と、搬送機構60と、移動機構70と、制御ユニット80とを備える。
【0009】
液体吐出ヘッド26は、多数のノズルを有し、-Z方向にインクを吐出して印刷用紙P上に画像を形成する。液体吐出ヘッド26の詳細構成は後述する。吐出するインクとしては、例えば、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの合計4色のインクを吐出してもよい。なお、上記4色に限らずライトシアン、ライトマゼンタ、ホワイトなど、任意の色のインクを吐出してもよい。液体吐出ヘッド26は、移動機構70が有する後述のキャリッジ72に搭載され、キャリッジ72の移動と共に主走査方向に往復移動する。本実施形態において、主走査方向は、+Y方向および-Y方向である。+Y方向および-Y方向を「Y軸方向」とも呼ぶ。
【0010】
インクタンク50は、液体吐出ヘッド26から吐出するインクを収容する。インクタンク50は、キャリッジ72には搭載されていない。インクタンク50と液体吐出ヘッド26とは、樹脂製のチューブ52によって接続されており、かかるチューブ52を介してインクタンク50から液体吐出ヘッド26へとインクが供給される。なお、インクタンク50に代えて、可撓性フィルムで形成された袋状の液体パックを用いてもよい。
【0011】
搬送機構60は、印刷用紙Pを副走査方向に搬送する。副走査方向は、主走査方向であるY軸方向と直交する方向であり、本実施形態では、+X方向および-X方向である。+X方向および-X方向を「X軸方向」とも呼ぶ。搬送機構60は、3つの搬送ローラー62が装着された搬送ロッド64と、搬送ロッド64を回転駆動する搬送用モーター66とを備える。搬送用モーター66が搬送ロッド64を回転駆動することにより、複数の搬送ローラー62が回転して印刷用紙Pが副走査方向である+Y方向に搬送される。なお、搬送ローラー62の数は3つに限らず任意の数であってもよい。また、搬送機構60を複数備える構成としてもよい。
【0012】
移動機構70は、上述のキャリッジ72に加えて、搬送ベルト74と、移動用モーター76と、プーリー77とを備える。キャリッジ72は、インクを吐出可能な状態で液体吐出ヘッド26を搭載する。キャリッジ72は、搬送ベルト74に取り付けられている。搬送ベルト74は、移動用モーター76とプーリー77との間に架け渡されている。移動用モーター76が回転駆動することにより、搬送ベルト74は、主走査方向に往復移動する。これにより、搬送ベルト74に取り付けられているキャリッジ72も、主走査方向に往復移動する。
【0013】
制御ユニット80は、液体吐出装置100の全体を制御する。例えば、制御ユニット80は、キャリッジ72の主走査方向に沿った往復動作や、印刷用紙Pの副走査方向に沿った搬送動作を制御する。本実施形態において、制御ユニット80は、後述の圧電アクチュエーターの駆動制御部としても機能する。すなわち、制御ユニット80は、液体吐出ヘッド26に駆動信号を出力して圧電アクチュエーターを駆動させることにより、印刷用紙Pへのインク吐出を制御する。制御ユニット80は、例えば、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の処理回路と半導体メモリー等の記憶回路とにより構成されてもよい。
【0014】
A2.液体吐出ヘッドの詳細構成:
図2は、液体吐出ヘッド26の詳細構成を示す分解斜視図である。図3は、液体吐出ヘッド26の詳細構成を示す断面図である。図3では、図2に示す3-3断面を表している。なお、図2では、一色分の液体吐出ヘッド26の構成を例示している。したがって、吐出するインクの色数に応じて図2に示す液体吐出ヘッド26を複数備える構成としてもよい。また、各色について図2に示す液体吐出ヘッド26を複数備える構成としてもよい。
【0015】
図2に示すように、液体吐出ヘッド26は、ノズル板46と、吸振体48と、流路基板32と、圧力室基板34と、筐体部42と、封止体44と、圧電アクチュエーター20とを備える。
【0016】
ノズル板46は、多数のノズルNがY軸方向に沿って一列に並んで形成されている薄板状の部材である。なお、ノズルNの列の数は、1つに限らず任意の数であってもよい。ノズルNは、ノズル板46において厚さ方向(Z軸方向)の貫通孔として形成されている。ノズルNは、液体吐出ヘッド26からのインクの吐出口に相当する。ノズル板46は、液体吐出ヘッド26において最も-Z方向に位置する。ノズル板46は、本実施形態では、ステンレス鋼(SUS)により形成されている。なお、ステンレス鋼に限らず、ニッケル(Ni)合金などの他の種類の金属、ポリイミドやドライフィルムレジストなどの樹脂材料、および珪素の単結晶基板などの無機材料等により形成されてもよい。
【0017】
吸振体48は、弾性変形可能な可撓性を有するシート状の部材である。吸振体48は、ノズル板46と同様に液体吐出ヘッド26において最も-Z方向に位置し、ノズル板46と並んで配置されている。図3に示すように、吸振体48は、筐体部42の内部と流路基板32とに亘って形成される液体貯留室R1の圧力変形を吸収する。吸振体48は、流路基板32に形成された後述の開口部322と中継流路328と複数の供給流路324とを閉塞して、液体貯留室R1の底面を形成する。吸振体48としては、例えば、樹脂製のシート部材により構成してもよい。吸振体48は、コンプライアンス基板とも呼ばれる。
【0018】
流路基板32は、インクの流路を形成するための板状部材である。図3に示すように、流路基板32の-Z方向の面は、ノズル板46と吸振体48とにそれぞれ接合されている。かかる接合は、例えば、接着剤を用いて実現されてもよい。本実施形態において、流路基板32は、珪素(Si)の単結晶基板により構成されている。なお、珪素の単結晶基板に限らず、珪素を主成分とする基板により形成されてもよい。図2および図3に示すように、流路基板32には、開口部322と供給流路324と連通流路326とが形成されている。
【0019】
図2に示すように、開口部322は、Z軸方向に見たときに、X軸方向を長手方向とする略矩形の平面視形状を有する貫通孔として形成されている。開口部322は、各ノズルNに対応する供給流路324とY軸方向に対応する位置をすべて含むような1つの貫通孔として形成されている。図3に示すように、開口部322は、筐体部42の後述する収容部422と共に液体貯留室R1を形成する。液体貯留室R1は、チューブ52を介してインクタンク50から供給されるインクを一時的に貯留する。液体貯留室R1は、リザーバーとも呼ばれる。
【0020】
図2に示すように、供給流路324は、各ノズルNと+Y方向において対応する位置にそれぞれ形成されている。したがって、各供給流路324は、ノズルNと同様にX軸方向に並んで一列に配置されている。供給流路324は、流路基板32を厚さ方向に貫く貫通孔として形成されている。図3に示すように、流路基板32における-Z方向の表面、より詳細には、流路基板32における吸振体48側の表面には、開口部322と供給流路324との間に溝が形成されている。かかる溝と吸振体48とで囲まれる領域は、中継流路328として機能する。中継流路328により開口部322(液体貯留室R1)と供給流路324とは互いに連通する。中継流路328は、液体貯留室R1から供給流路324へとインクを中継する。供給流路324は、圧力室341と連通し、圧力室341にインクを供給する。
【0021】
図2に示すように、連通流路326は、各ノズルNと+Z方向において対応する位置、および各供給流路324と-Y方向において対応する位置にそれぞれ形成されている。したがって、各連通流路326は、ノズルNおよび供給流路324と同様にX軸方向に並んで一列に配置されている。図3に示すように、連通流路326は、ノズルNおよび圧力室341とそれぞれ連通し、圧力室341のインクをノズルNに供給する。
【0022】
圧力室基板34は、圧力室341を形成するための板状部材である。図3に示すように、圧力室基板34の-Z方向の面は、流路基板32の+Z方向の面と接合されている。かかる接合は、接着剤を用いて実現されてもよい。本実施形態において、圧力室基板34は、流路基板32と同様に珪素の単結晶基板により構成されている。なお、珪素の単結晶基板に限らず、珪素を主成分とする基板により形成されてもよい。図2および図3に示すように、圧力室基板34には、複数の圧力室形成部342が形成されている。
【0023】
各圧力室形成部342は、Z軸方向に見たときに、Y軸方向を長手方向とする略矩形の平面視形状を有する貫通孔として形成されている。各圧力室形成部342は、各ノズルNと+Z方向において対応する位置にそれぞれ形成されている。したがって、各圧力室形成部342は、ノズルNと同様にX軸方向に並んで一列に形成されている。圧力室形成部342は、圧電アクチュエーター20が備える後述の振動板24と接合することにより、圧力室341を形成する。各圧力室形成部342のY軸方向の側壁345および346は、圧力室341を区画する区画壁として機能する。圧力室341は、供給流路324と連通流路326とに連通し、供給流路324から供給されるインクを収容する。圧力室341の容積は、後述の振動板24が変形することにより変化する。
【0024】
筐体部42は、一面が開口した中空の略四角柱状の外観形状を有する。本実施形態において、筐体部42は、樹脂により形成されている。図3に示すように、筐体部42は、流路基板32の+Z方向の面に接合されている。筐体部42の内側には収容部422が形成されている。収容部422の-Z方向は開口しており、収容部422は、かかる開口において開口部322と連通して液体貯留室R1を形成している。図2および図3に示すように、筐体部42の+Z方向の端部(天井部)には、導入口424が形成されている。導入口424は、筐体部42の+Z方向の端部を厚さ方向(Z軸方向)に貫き、液体貯留室R1と連通する。導入口424には、図1に示すチューブ52が接続される。なお、導入口424には、図示しないチューブを介して図示しないインク貯留部(例えば、サブタンク)が接続されてもよい。この構成では、インクタンク50からチューブ52を介してかかるインク貯留部にインクが供給されてもよい。
【0025】
封止体44は、一面が開口した中空の略四角柱状の外観形状を有する。本実施形態において、封止体44は、樹脂により形成されている。図3に示すように、筐体部42は、自身の内側の空間に後述の圧電部22が収容されるように配置され、後述の振動板24の+Z方向の面に接合されている。封止体44は、圧電部22を保護すると共に、圧力室基板34、振動板24の一部の機械的強度を補強する。
【0026】
図3に示すように、液体吐出ヘッド26において、振動板24の+Z方向の面には、配線基板90が接続されている。配線基板90には、制御ユニット80および図示しない電源回路と接続するための複数の配線が形成されている。本実施形態において、配線基板90は、例えば、FPC(Flexible Printed Circuit)により構成されている。なお、FPCに代えて、FFC(Flexible Flat Cable)など、可撓性を有する任意の基板により構成されてもよい。配線基板90は、圧電アクチュエーター20を駆動するための駆動信号を各圧電アクチュエーター20に供給する。
【0027】
圧電アクチュエーター20は、自身が変形することによって圧力室341の容積を変化させ、圧力室341からインクを流出させる。
【0028】
図4は、圧電アクチュエーター20の詳細構成を模式的に示す断面図である。図4では、説明の便宜上、液体吐出ヘッド26の圧力室基板34も図示している。圧電アクチュエーター20は、振動板24と、複数の圧電部22とを備える。
【0029】
振動板24は、弾性体層241と、絶縁層242とを備える。振動板24は、弾性体層241と絶縁層242とがZ軸方向に積層された構造を有する。弾性体層241は、圧力室基板34の+Z方向の面上に配置されている。絶縁層242は、弾性体層241の+Z方向の面上に配置されている。弾性体層241は、二酸化珪素(SiO)により形成されている。絶縁層242は、酸化ジルコニウム(ZrO)により形成されている。
【0030】
圧電部22は、圧電体220と、第1電極221と、第2電極222とを備える。圧電部22は、振動板24と同様に、圧電体220、第1電極221および第2電極222の各層がZ軸方向に積層された構造を有する。
【0031】
圧電体220は、圧電効果を有する材料により形成された膜状の部材であり、第1電極221および第2電極222に印加される電圧に応じて変形する。圧電体220は、振動板24の絶縁層242の+Z方向の一部の面と、第1電極221の+Z方向の面とを覆うように、配置されている。圧電体220は、X軸方向における中央近傍の部分において、+Z方向の面が+Z方向に若干突出しており、+Z方向から-Z方向に向かうにしたがってX軸方向の寸法が大きくなるテーパー形状に形成されている。
【0032】
本実施形態において、圧電体220は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)によって形成されている。なお、圧電体220は、チタン酸ジルコン酸鉛に代えて、ABO型のペロブスカイト構造を有する他の種類のセラミックス、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、タングステン酸ナトリウム、酸化亜鉛、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)、タンタル酸ストロンチウムビスマス(SBT)、メタニオブ酸鉛、亜鉛ニオブ酸鉛、スカンジウムニオブ酸鉛等によって形成されてもよい。また、圧電体220は、セラミックスに限らず、ポリフッ化ビニリデン、水晶など、圧電効果を有する任意の材料により形成されてもよい。
【0033】
第1電極221および第2電極222は、圧電体220を挟む一対の電極である。第1電極221は、圧電体220に対して振動板24側に位置し、振動板24の絶縁層242の+Z方向の面に設けられている。第1電極221は、圧力室341のX軸方向における中央を覆うように配置されている。第1電極221は、+Z方向から-Z方向に向かうにしたがってX軸方向の寸法が大きくなるテーパー形状に形成されている。第2電極222は、圧電体220に対して振動板24側とは反対側に位置し、圧電体220の+Z方向の面に設けられている。第2電極222は、圧電体220の外形を覆っている。
【0034】
第1電極221および第2電極222は、いずれも配線基板90と電気的に接続され、配線基板90から供給される駆動信号に応じた電圧を、圧電体220に印加する。第1電極221には、インクの吐出量に応じて異なる駆動電圧が供給され、第2電極222には、インクの吐出量にかかわらず、一定の保持電圧が供給される。これにより、第1電極221と第2電極222との間に電位差が生じて、圧電体220が変形する。その結果、圧力室341が変形して、圧力室341に収容されているインクに圧力が付与され、連通流路326を介してノズルNからインクが吐出される。
【0035】
本実施形態において、第1電極221は、配線基板90から各圧電アクチュエーター20に延びる個別配線に接続されている。第1電極221は、各圧電アクチュエーター20に個別に設けられる、いわゆる個別電極である。これに対して、第2電極222は、各圧電アクチュエーター20に共通する共通電極であり、配線基板90から延びる1つの共通配線に接続されている。上述の個別配線は、例えば、第1電極221の外側面に形成された絶縁層242に予めコンタクトホールを設けておき、かかるコンタクトホールを介して第1電極221と接してもよい。また、上述の共通電極は、例えば、第2電極222を-Z方向に見たときに圧電体220よりも若干大きく形成し、第2電極222における+Z方向に圧電体220が存在しない部分に絶縁層を形成し、かかる絶縁層に予めコンタクトホールを設けておき、かかるコンタクトホールを介して各圧電アクチュエーター20の第2電極222と接してもよい。
【0036】
本実施形態において、第1電極221および第2電極222は、白金(Pt)により形成されている。なお、白金に代えて、金(Au)やイリジウム(Ir)などの導電性を有する任意の材料で形成されてもよい。
【0037】
図4に示すように、圧力室341内のX軸方向における中央部の領域Ar1には、-Z方向から+Z方向に向かって順に、振動板24、第1電極221、圧電体220および第2電極222が並んで設けられている。また、圧力室341内のX軸方向における端部の2つの領域Ar2には、それぞれ、-Z方向から+Z方向に向かって順に、振動板24、圧電体220および第2電極222が並んで設けられている。すなわち、領域Ar1および領域Ar2には、いずれも、振動板24と圧電体220との両方が設けられている。
【0038】
本実施形態において、領域Ar1は、第1電極221および第2電極222への電圧の印加により撓みが生じる能動部に対応する領域であり、例えば、圧力室341のX軸方向における中央部の領域である。領域Ar1のX軸方向の長さは、第1電極221のX軸方向の長さとほぼ同じである。また、領域Ar2は、領域Ar1に対してX軸方向外側、すなわち、領域Ar1に対して-X方向と、領域Ar1に対して+X方向とに位置し、領域Ar1よりも圧力室341の区画壁345、346に近い領域である。領域Ar2は、非能動部に対応する領域でもある。領域Ar2としては、例えば、圧力室341のX軸方向における2つの端部の領域とすることができる。図4に示すように、領域Ar1には、圧力室341内のX軸方向の中央の位置P1が含まれる。領域Ar2には、X軸方向において区画壁345と重なる位置P3と、領域Ar1内の位置P1よりも区画壁345に近い位置に位置する位置P2とが含まれる。位置P1および位置P2は、圧力室341内のX軸方向における或る2つの位置のうち、X軸方向において最も近い位置に位置する区画壁345までのX軸方向の距離が長い位置が位置P1であり、かかる距離が短い位置が位置P2である。以降の説明において、領域Ar1を第1領域Ar1、領域Ar2を第2領域Ar2、位置P1を第1位置P1、位置P2を第2位置P2、位置P3を第3位置P3とも呼ぶ。
【0039】
図4に示すように、振動板24は、第1領域Ar1における+Z方向の面が、第2領域Ar2における+Z方向の面よりも+Z方向に若干突出した凸形状となるように形成されている。したがって、振動板24は、第1領域Ar1における厚さと、第2領域Ar2における厚さとが異なっている。また、圧電体220も同様に、第1領域Ar1における+Z方向の面が、第2領域Ar2における+Z方向の面よりも+Z方向に若干突出した凸形状となるように形成され、第1領域Ar1における厚さと、第2領域Ar2における厚さとが異なっている。本実施形態において、振動板24および圧電体220の厚さを、第1領域Ar1と第2領域Ar2とで異ならせるのは、以下の理由による。
【0040】
本開示の発明者らは、圧電体220を第1領域Ar1および第2領域Ar2に設けることを前提とした上で、振動板24の剛性を向上させることにより、クラックの発生をより抑制することを考えた。そして、本開示の発明者らは、振動板24の剛性を高めるために単に振動板24の厚さを大きくする場合、様々な不具合が生じ得ることを見出した。例えば、圧力室基板34に圧力室341を形成する際に、振動板24に反りが生じて製造工程が複雑化するといった問題や、圧電アクチュエーター20の中立軸、例えば、第2領域Ar2における中立軸が振動板24側に配置されると、振動板24の弾性体層241と絶縁層242との境界面において、絶縁層242が弾性体層241側に引っ張られてクラックが発生するといった問題が生じ得る。なお、以降の説明における中立軸とは、Z軸方向における位置を示しているが、単に中立軸と記載する。
【0041】
研究の結果、本開示の発明者らは、以下の4つのことを見出した。
(1)クラックの発生を抑制するためには、第1領域Ar1および第2領域Ar2に圧電体220と振動板24との両方を設けることが好ましいこと、
(2)第1領域Ar1においては、中立軸を圧電体220よりも振動板24側に寄った位置に配置することにより、液体吐出ヘッド26の吐出特性を保てること、
(3)第2領域Ar2においては、中立軸を振動板24よりも圧電体220側に寄った位置に配置することにより、クラックの発生を抑制できること、
(4)上記(2)および(3)を実現するために圧電体220の厚さを従来から大きく変更する場合には、圧電部22の圧電性能が低下し、また、製造工程が複雑になること。
【0042】
そして、本開示の発明者らは、振動板24の厚さを制御することにより、第1領域Ar1における中立軸の配置位置と、第2領域Ar2における中立軸の配置位置とを別々に制御可能であるとの新たな知見を得た。具体的には、第2領域Ar2における振動板24の厚さを、第1領域Ar1における振動板24の厚さよりも小さくすることにより、上記(2)および(3)を充足できる、というものである。以下、具体的に説明する。
【0043】
図5は、圧電アクチュエーター20の拡大図である。なお、説明の便宜上、図5では、ハッチングの図示を省略している。図5に示すように、第2位置P2における振動板24の厚さd2は、第1位置P1における振動板24の厚さd1よりも小さい。具体的には、第2位置P2における弾性体層241の厚さd21は、第1位置P1における弾性体層241の厚さd11よりも小さい。また、第2位置P2における絶縁層242の厚さd22は、第1位置P1における絶縁層242の厚さd12と等しい。なお、第1位置P1において、弾性体層241の厚さd11は、例えば、1600ナノメートルであり、絶縁層242の厚さd12は、例えば、100ナノメートルである。第2位置P2において、弾性体層241の厚さd21は、例えば、400ナノメートルであり、絶縁層242の厚さd22は、例えば、100ナノメートルである。
【0044】
第2領域Ar2において、第3位置P3における振動板24の厚さd3は、第2位置P2における振動板24の厚さd2と同じである。具体的には、第3位置P3における弾性体層241の厚さd31は、第2位置P2における弾性体層241の厚さd21と同じである。また、第3位置P3における絶縁層242の厚さd32は、第2位置P2における絶縁層242の厚さd22と同じである。したがって、第3位置P3における振動板24の厚さd3は、第2位置P2と同様に、第1位置P1における振動板24の厚さd1よりも小さい。
【0045】
図4および図5に示すように、振動板24の-Z方向の面、すなわち、弾性体層241の-Z方向の面は、X軸方向と平行である。したがって、図5に示すように、第1位置P1、第2位置P2および第3位置P3において、振動板24の-Z方向の端部E5は、Z軸方向において同じ位置に配置されている。
【0046】
これに対して、振動板24の+Z方向の面、すなわち、絶縁層242の+Z方向の面は、第1領域Ar1において、第2領域Ar2における+Z方向の位置よりも更に+Z方向に位置している。具体的には、第1位置P1における絶縁層242の+Z方向の端部E1は、第2位置P2における絶縁層242の+Z方向の端部E3よりも、圧電体220側に配置されている。換言すると、第2位置P2における絶縁層242の+Z方向の端部E3は、第1位置P1における絶縁層242+Z方向の端部E1よりも、-Z方向に配置されている。
【0047】
また、弾性体層241の+Z方向の面も同様に、第1領域Ar1において、第2領域Ar2における+Z方向の位置よりも更に+Z方向に位置している。具体的には、第1位置P1における弾性体層241の+Z方向の端部E2は、第2位置P2における弾性体層241の+Z方向の端部E4よりも、圧電体220側に配置されている。換言すると、第2位置P2における弾性体層241の+Z方向の端部E4は、第1位置P1における弾性体層241の+Z方向の端部E2よりも、-Z方向に配置されている。
【0048】
したがって、本実施形態では、振動板24の-Z方向の端部E5よりも+Z方向において、第1領域Ar1の+Z方向の端部E1を第2領域Ar2の+Z方向の端部E3よりも+Z方向に配置することにより、第2領域Ar2における振動板24の厚さを、第1領域Ar1における振動板24の厚さよりも小さくしていると言うことができる。
【0049】
圧電体220の厚さについても、振動板24と同様に、第2位置P2における圧電体220の厚さd5は、第1位置P1における圧電体220の厚さd4よりも小さい。第2位置P2における圧電体220の厚さd5は、第2位置P2における振動板24の厚さd2よりも大きい。第1位置P1における圧電体220の厚さd4は、第1位置P1における振動板24の厚さd1よりも小さい。なお、第3位置P3における圧電体220の厚さd6は、第2位置P2における圧電体220の厚さd5と同じである。なお、第1位置P1における圧電体220の厚さd4は、例えば、1200ナノメートルであり、第2位置P2における圧電体220の厚さd5および第3位置P3における圧電体220の厚さd6は、例えば、600ナノメートルである。
【0050】
したがって、第2領域Ar2における振動板24の厚さd2と圧電体220の厚さd5との合計は、第1領域Ar1における振動板24の厚さd1と圧電体220の厚さd4との合計よりも小さくなる。また、第2位置P2における振動板24の厚さd2と第2位置P2における圧電体220の厚さd5との合計は、第1位置P1における振動板24の厚さd1よりも大きく、第1位置P1における圧電体220の厚さd4よりも大きい。したがって、第2位置P2における振動板24の厚さd2と圧電体220の厚さd5との差分は、第1位置P1における振動板24の厚さd1と第1位置P1における圧電体220の厚さd4との差分よりも小さくなる。
【0051】
以上説明したように、このような構成の圧電アクチュエーター20では、第1位置P1を含む第1領域Ar1においては、中立軸を、圧電体220よりも振動板24側に寄った位置に配置することができるとともに、第2位置P2および第3位置P3を含む第2領域Ar2においては、中立軸を、振動板24よりも圧電体220側に寄った位置に配置することができる。なお、第1領域Ar1における圧電アクチュエーター20の中立軸は振動板24内に位置し、第2領域Ar2における圧電アクチュエーター20の中立軸は圧電体220内に位置することがより好ましい。
【0052】
A3.液体吐出ヘッドの製造方法:
図6図7図8および図9は、液体吐出ヘッド26の製造方法を示す工程図である。図6図7図8および図9では、液体吐出ヘッド26の製造工程のうち、圧電アクチュエーター20の製造工程を示している。図6に示すように、工程P105において、圧力室形成部342が形成される前の圧力室基板34の+Z方向の面に、振動板24が形成される。具体的には、振動板24は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の製造に係る微細加工技術を用いて形成される。まず、熱酸化により圧力室基板34の表面に弾性体層241を形成する。弾性体層241の厚さは、例えば、1700ナノメートルに形成されることが好ましい。なお、熱酸化に代えてCVD(Chemical Vapor Deposition)法により弾性体層241を形成してもよい。
【0053】
次に、弾性体層241をパターニングする。具体的には、フォトリソグラフィを用いたレジストPrの形成、エッチング、およびレジストPrの剥離といった、公知の加工技術を用いて、弾性体層241の、X軸方向における中央部(上述の第1領域Ar1に相当する部分)に、圧力室基板34に対して凸となる段差が形成される。より具体的には、弾性体層241における中央部のX軸方向外側の端部(上述の第2領域Ar2に相当する部分)の厚さが、中央部における厚さよりも小さくなるように、端部の表面が削られる。弾性体層241の端部における厚さは、例えば、500ナノメートルに形成されることが好ましい。なお、エッチングとしては、フッ化水素(HF)を含むエッチング液を用いた液体エッチングでもよいし、ドライエッチングでもよい。
【0054】
次に、弾性体層241の表面をエッチングして表面を滑らかにする。具体的には、弾性体層241のパターニングによって形成された段差の角部や、レジストPrが載置されていた部分の表面が平滑になるように加工される。このとき、弾性体層241の厚さは、例えば、中央部が1700ナノメートル、端部が400ナノメートルに形成されることが好ましい。
【0055】
次に、段差が形成された弾性体層241の表面に、絶縁層242をCVD法により形成する。絶縁層242は、100ナノメートルの厚さに形成されることが好ましい。このようにして、圧力室基板34の表面に振動板24が形成される。
【0056】
図7に示すように、工程P110において、振動板24の+Z方向の表面に第1電極221が形成される。具体的には、白金をターゲット材としたスパッタリングにより第1電極221を形成する。第1電極221は、200ナノメートルの厚さに形成されることが望ましい。
【0057】
工程P115において、第1電極221の+Z方向の表面に圧電体220の第1層L21が形成される。圧電体220は、ゾルゲル法を用いて形成される。具体的には、圧電体220の基材としての鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)およびチタン(Ti)を含有する有機金属化合物を溶媒に溶解させた溶液を、第1電極221の表面にスピンコートし、その後、固化のための焼成を行う。これによりチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の層が一層分形成される。圧電体220の第1層L21は、200ナノメートルの厚さに形成されることが好ましい。
【0058】
工程P120において、第1電極221および圧電体220の第1層L21がパターニングされる。工程P120は、上述の工程P105における振動板24の弾性体層241のパターニングと同様の手順により行われる。このとき、第1電極221および圧電体220の第1層L21の形状が、+Z方向から-Z方向に向かうにしたがってX軸方向の寸法が大きくなるテーパー形状となるように、第1電極221および圧電体220の表面が加工される。
【0059】
図8に示すように、工程P125において、圧電体220の第2層以降の層L2nが形成される。工程P125は、上述の工程P115と同様の手順により行われる。具体的には、段差が形成された状態の振動板24の+Z方向の表面と、圧電体220の第1層L21の+Z方向の表面とに、上述の溶液のスピンコートおよび固化のための焼成を複数回繰り返し行ってチタン酸ジルコン酸鉛の層を複数形成し、その後、結晶化のための焼成を行う。このような工程を所定の厚さを得るまで繰り返し実行することにより、圧電体220の層を複数積層する。圧電体220は、1000ナノメートルの厚さに形成されることが好ましい。
【0060】
工程P130において、圧電体220の+Z方向の表面に第2電極222の第1層L31が形成される。具体的には、白金をターゲット材としたスパッタリングにより第2電極222を形成する。第2電極222の第1層L31は、10ナノメートルの厚さに形成されることが好ましい。
【0061】
工程P135において、圧電体220および第2電極222の第1層L31がパターニングされる。パターニングは、上述の工程P105および工程P120と同様の手順により行われる。工程P135では、圧電体220のX軸方向における中央部の形状が、+Z方向から-Z方向に向かうにしたがってX軸方向の寸法が大きくなるテーパー形状となるように、圧電体220の端部の表面が削られる。また、第2電極222が、X軸方向における中央部にのみ配置されるように、すなわち、Z軸方向において第1電極221と対応する位置にのみ配置されるように、第2電極222の端部が圧電体220の+Z方向の表面から剥離される。圧電体220における端部は、600ナノメートルの厚さに形成されることが好ましい。なお、工程P135では、第2電極222のアニール処理を行ってもよい。
【0062】
図9に示すように、工程P140において、圧電体220の+Z方向の表面および第2電極222の第1層L31の+Z方向の表面に、第2電極222の第2層L32が形成される。工程P140は、上述の工程P130と同様の手順により行われる。第2電極222の第2層L32は、30ナノメートルの厚さに形成されることが好ましい。
【0063】
工程P145において、圧力室基板34に圧力室形成部342を形成する。圧力室形成部342の形成は、例えば、フォトリソグラフィを用いたレジストの形成、エッチング、およびレジストの剥離といった、公知の加工技術を用いて実行される。
【0064】
図示は省略しているが、工程P145の後、次の手順により液体吐出ヘッド26が製造される。具体的には、予め開口部322、供給流路324、連通流路326、および中継流路328を構成する溝が形成された流路基板32を、圧力室基板34に接合する。開口部322等の形成は、上述の供給流路324の形成と同様に公知の加工技術を用いて実行される。流路基板32と圧力室基板34との接合は、例えば接着剤を用いて実行されてもよい。次に、ノズル板46および吸振体48が、流路基板32に接合される。次に、予め収容部422および導入口424が形成された筐体部42が流路基板32の+Z方向の表面に接合される。次に、封止体44が振動板24の+Z方向の表面に接合される。次に、配線基板90が振動板24の+Z方向の表面に接合される。このようにして、液体吐出ヘッド26が完成する。
【0065】
液体吐出ヘッド26を備えた液体吐出装置100の製造の際には、配線基板90と制御ユニット80とが接続され、導入口424とチューブ52とが接続される。
【0066】
以上説明した本実施形態の液体吐出ヘッド26によれば、圧力室341内におけるX軸方向の中央の領域を第1領域Ar1とし、第1領域Ar1のX軸方向外側の端部の領域を第2領域Ar2としたとき、第1領域Ar1および第2領域Ar2には、いずれも圧電体220と振動板24との両方が設けられているので、第1領域Ar1に圧電体220および振動板24の両方が設けられ、第2領域Ar2には圧電体220のみが設けられている構成に比べて、圧電体220が変形する際に、第1領域Ar1と第2領域Ar2との境界近傍において振動板24に応力が集中して、振動板24にクラックが発生することを抑制できる。また、この形態の液体吐出ヘッド26によれば、第2領域Ar2における振動板24の厚さd2は、第1領域Ar1における振動板24の厚さd1よりも小さいので、第1領域Ar1における中立軸を圧電体220よりも振動板24側に寄った位置に、また、第2領域Ar2における中立軸を振動板24よりも圧電体220側に寄った位置に、それぞれ配置できる。したがって、振動板24の中立面、すなわち、圧電体220により振動板24に曲げモーメントが加えられた際に振動板24が負荷を受けない部分が、第1領域Ar1においては圧電体220側の場所に位置し、第2領域Ar2においては、振動板24側の場所に位置することになる。このため、第1領域Ar1と第2領域Ar2とで、圧電体220が変形する際に応力の影響を受けない部分を異なる位置に配置することができるので、振動板24全体として剛性を高めることができる。
【0067】
第2領域Ar2における振動板24の厚さd2と圧電体220の厚さd5との合計は、第1領域Ar1における振動板24の厚さd1と圧電体220の厚さd4との合計よりも小さいので、振動板24と圧電体220との全体の厚さに着目した場合であっても、振動板24の厚さのみに着目した場合や、圧電体220の厚さのみに着目した場合と同様に、第1領域Ar1における厚さを第2領域Ar2における厚さよりも大きくすることができる。
【0068】
第2領域Ar2における圧電体220の厚さd5は、第1領域Ar1における圧電体220の厚さd4よりも小さいので、第1領域Ar1および第2領域Ar2に同じ厚さの圧電体を備える構成に比べて、圧電体220の変形効率の低下を抑制できる。
【0069】
第2領域Ar2における振動板24の厚さd2と圧電体220の厚さd5との差分は、第1領域Ar1における振動板24の厚さd1と圧電体220の厚さd4との差分よりも小さいので、第2領域Ar2における中立軸を振動板24よりも圧電体220側に寄った場所に配置できる。
【0070】
第2領域Ar2における振動板24の厚さd2と圧電体220の厚さd5との合計は、第1領域Ar1における振動板24の厚さd1よりも大きく、且つ、圧電体220の厚さd4よりも大きいので、第2領域Ar2における振動板24および圧電体220の全体の厚さを、第1領域Ar1における振動板24の厚さd1と、第1領域Ar1における圧電体220の厚さd4と、のそれぞれの厚さよりも大きくすることができる。
【0071】
第2領域Ar2における振動板24の-Z方向の端部E5は、第1領域Ar1における振動板24の-Z方向の端部E5と同じ位置に配置され、第2領域Ar2における振動板24の+Z方向の端部E3は、第1領域Ar1における振動板24の+Z方向の端部E1よりも-Z方向に配置されているので、振動板24の+Z方向において振動板24の厚みを形成できる。このため、振動板24と圧力室基板34との物理的な密着度の低下を抑制できる。
【0072】
第2領域Ar2における絶縁層242の厚さd22は、第1領域Ar1における絶縁層242の厚さd12と等しく、第2領域Ar2における弾性体層241の厚さd21は、第1領域Ar1における弾性体層241の厚さd11よりも小さいので、弾性体層241の厚さを第1領域Ar1と第2領域Ar2とで異ならせることにより、振動板24全体の厚さを第1領域Ar1と第2領域Ar2とで異ならせることができる。
【0073】
絶縁層242が酸化ジルコニウムにより構成されているので、振動板24の機械的強度を向上できる。
【0074】
複数の圧力室341に対して個別に設けられる第1電極221と、複数の圧力室341に対して共通に設けられる第2電極222とを有しているので、第1電極221と第2電極222とを別々に駆動制御することにより、複数の圧力室341を別々に制御する構成と、複数の圧力室341を一括して制御する構成とを容易に実現できる。
【0075】
インクの吐出量に応じて異なる駆動電圧を第1電極221に印加し、かつ、インクの吐出量によらず一定の保持電圧を第2電極222に印加することにより、圧電体220を駆動するので、第1電極221と第2電極222との間に電位差を発生させることができる。したがって、かかる電位差により圧電体220を変形させることができるので、圧力室341に収容されているインクに圧力を付与できる。
【0076】
X軸方向において区画壁345と重なる位置を第3位置P3としたとき、第3位置P3には、圧電体220と振動板24との両方が設けられ、第3位置P3における振動板24の厚さd3は、第1領域Ar1における振動板24の厚さd1よりも小さいので、第3位置P3における中立軸の位置を、第1領域Ar1における中立軸の位置よりも振動板24側の位置に配置できる。
【0077】
第1領域Ar1は、圧力室341内のX軸方向における中央部であり、第2領域Ar2は、圧力室341内のX軸方向における端部であるので、圧力室341内のX軸方向における中央部と端部とで、振動板24の中立面の場所を異ならせることができる。このため、圧電体220が変形する際に、中央部と端部との境界近傍に応力が集中した場合であっても、かかる境界近傍において振動板24にクラックが発生することを抑制できる。
【0078】
以上説明した本実施形態の液体吐出ヘッド26の製造方法によれば、圧力室基板34の+Z方向の面に弾性体層241を形成し、形成された弾性体層241をエッチングすることにより、X軸方向の中央部が圧力室基板34に対して凸となるように段差を形成し、段差が形成された弾性体層241の+Z方向に圧電体220を形成するので、圧電体220におけるX軸方向の中央部が圧力室基板34に対して凸となるように圧電体220を形成できる。また、X軸方向の中央部における弾性体層241の厚さがX軸方向の端部における弾性体層241の厚さよりも大きくなるように段差が形成されるので、X軸方向の中央部の厚さがX軸方向の端部の厚さに比べて大きな振動板24を容易に形成できる。
【0079】
B.第2実施形態:
以下では、上述の第1実施形態と同様の構成には同じ符号を用い、説明を省略する。図10は、第2実施形態における液体吐出ヘッドが備える圧電アクチュエーター20aの詳細構成を模式的に示す断面図である。図10では、図4に示す圧電アクチュエーター20の構成に対応する構成を示している。なお、後に参照する図においても同様である。第2実施形態の圧電アクチュエーター20aは、振動板24に代えて振動板24aを備える点において、第1実施形態の圧電アクチュエーター20と異なる。振動板24aは、弾性体層241に代えて弾性体層241aを備える点において、第1実施形態の振動板24と異なる。
【0080】
図4および図5と、図10とを比較して理解できるように、第1領域Ar1において、第1位置P1における振動板24aの厚さd1aは、第1実施形態の振動板24の厚さd1に比べて大きい。具体的には、第1位置P1における弾性体層241aの厚さd11aは、第1実施形態の弾性体層241の厚さd11に比べて大きい。本実施形態では、第1位置P1における弾性体層241aの厚さd11aは、弾性体層241aの第2位置P2における+Z方向の端部E4よりも+Z方向において、弾性体層241aの厚さを大きくすることにより、第1実施形態の厚さd11よりも大きくしている。第1位置P1における弾性体層241aの厚さd11aは、第2位置P2における弾性体層241aの厚さd21よりも大きい。また、第1位置P1における弾性体層241aの厚さd11aは、第2位置P2における絶縁層242の厚さd22よりも大きい。したがって、第2実施形態においても、第2領域Ar2における振動板24aの厚さd2は、第1領域Ar1における振動板24aの厚さd1aよりも小さい。
【0081】
第2実施形態の圧電アクチュエーター20aは、図6に示す工程P105において、弾性体層241aのパターニングを省略することにより形成できる。したがって、弾性体層241aのエッチングを行うことによって生じる振動板24aの変位量のばらつきを低減できる。
【0082】
C.第3実施形態:
図11は、第3実施形態における液体吐出ヘッドが備える圧電アクチュエーター20bの詳細構成を模式的に示す断面図である。第3実施形態の圧電アクチュエーター20bは、圧電部22に代えて圧電部22bを備える点において、第1実施形態の圧電アクチュエーター20と異なる。圧電部22bは、第1電極221に代えて第1電極221bを備える点において、第1実施形態の圧電部22と異なる。第1電極221bは、形状と、X軸方向における長さとが第1実施形態の第1電極221と異なる。
【0083】
第1電極221bは、第1領域Ar1における振動板24の+Z方向を覆い、また、X軸方向において第1領域Ar1と第2領域Ar2とに挟まれる部分における振動板24の+Z方向を覆っている。すなわち、第1電極221bは、振動板24の+Z方向に突出した凸状の部位の外形を覆っている。第1電極221bは、第1実施形態の第1電極221に比べて、X軸方向の長さ(幅)が大きい。第1電極221bの-X方向の端部は、第1領域Ar1の-X方向に位置する第2領域Ar2の+X方向の端部と同じ位置に配置され、第1電極221bの+X方向の端部は、第1領域Ar1の+X方向に位置する第2領域Ar2の-X方向の端部と同じ位置に配置されている。したがって、第1電極221bは、第1領域Ar1と第2領域Ar2との境界近傍を覆っている。このため、かかる境界近傍において、第1電極221bが振動板24を保護することができるので、圧電体220が変形する際に振動板24にクラックが発生することを抑制できる。
【0084】
第3実施形態の圧電アクチュエーター20bは、図7に示す工程P120において、第1電極221bの形状と同じ形状のマスクパターンを準備して、パターニングを行うことにより形成できる。
【0085】
D.第4実施形態:
図12は、第4実施形態における液体吐出ヘッドが備える圧電アクチュエーター20cの詳細構成を模式的に示す断面図である。第4実施形態の圧電アクチュエーター20cは、振動板24に代えて振動板24cを備える点において、第1実施形態の圧電アクチュエーター20と異なる。振動板24cは、弾性体層241に代えて弾性体層241cを備える点と、密着層243を追加して備える点とにおいて、第1実施形態の振動板24と異なる。
【0086】
第1実施形態において弾性体層241の+Z方向の面は、+Z方向に突出する凸状に形成されていた。これに対して、第4実施形態の弾性体層241cは、-Z方向の面と同様に、X軸方向と平行である。したがって、弾性体層241cの厚さは、X軸方向において一定である。すなわち、第1領域Ar1における弾性体層241cの厚さd11cは、第2領域Ar2における弾性体層241cの厚さd21と等しい。
【0087】
密着層243は、弾性体層241cと絶縁層242との間に設けられている。具体的には、密着層243は、弾性体層241cの+Z方向の面に配置され、絶縁層242は、密着層243の+Z方向の面に配置されている。密着層243は、例えば、酸化チタン(TiO)や、酸化アルミニウム(Al)により形成されている。密着層243は、図4に示す第1実施形態の弾性体層241と同様に、第1領域Ar1における+Z方向の面が、第2領域Ar2における+Z方向の面よりも+Z方向に若干突出した凸形状となるように形成されている。したがって、第2領域Ar2における密着層243の厚さd23は、第1領域Ar1における密着層243の厚さd13より小さい。
【0088】
したがって、第4実施形態においても、第2領域Ar2における振動板24cの厚さd2cは、第1領域Ar1における振動板24cの厚さd1cよりも小さい。
【0089】
第4実施形態の圧電アクチュエーター20cは、図6に示す工程P105において、圧力室基板34の表面に弾性体層241cを形成する際に弾性体層241のパターニングを省略し、形成された弾性体層241cの+Z方向の表面に熱酸化や、CVD法により密着層243を形成する。そして、形成された密着層243をパターニングする。密着層243のパターニングでは、第1実施形態の弾性体層241のパターニングに用いるマスクパターンと同じマスクパターンを用いてもよい。次に、密着層243上に絶縁層242を形成する。このようにして、密着層243を備える振動板24cが形成される。
【0090】
以上説明した第4実施形態の液体吐出ヘッドによれば、第2領域Ar2における絶縁層242の厚さはd22、第1領域Ar1における絶縁層242の厚さd12と等しく、第2領域Ar2における弾性体層241cの厚さd21は、第1領域Ar1における弾性体層241cの厚さd11cと等しく、第2領域Ar2における密着層243の厚さd23は、第1領域Ar1における密着層243の厚さd13よりも小さいので、密着層243の厚さを第1領域Ar1と第2領域Ar2とで異ならせることにより、振動板24c全体の厚さを第1領域Ar1と第2領域Ar2とで異ならせることができる。
【0091】
E.第5実施形態:
図13は、第5実施形態における液体吐出ヘッドが備える圧電アクチュエーター20dの詳細構成を模式的に示す断面図である。第5実施形態の圧電アクチュエーター20dは、圧電部22に代えて圧電部22dを備える点において、第1実施形態の圧電アクチュエーター20と異なる。圧電部22dは、第1電極221に代えて第1電極221dを備える点と、第2電極222に代えて第2電極222dを備える点とにおいて、第1実施形態の圧電部22と異なる。
【0092】
第1実施形態では、第1電極221が個別電極であり、第2電極222が共通電極であった。これに対して、第5実施形態では、第1電極221dが共通電極であり、第2電極222dが個別電極である。第1電極221dは、共通配線により配線基板90と接続され、第2電極222dが個別配線によりそれぞれ配線基板90と接続されている。第1電極221dは、振動板24の絶縁層242の+Z方向の面に設けられ、X軸方向の全域に亘って絶縁層242の外形を覆っている。第2電極222dは、第1領域Ar1において圧電体220の+Z方向の面に設けられ、+Z方向から-Z方向に向かうにしたがってX軸方向の寸法が大きくなるテーパー形状に形成されている。
【0093】
第5実施形態の圧電アクチュエーター20dは、以下の手順により形成できる。具体的には、第1電極221dは、上述の工程P120において第1電極221dのパターニングを省略することにより形成できる。すなわち、上述の工程P110において第1電極221dを形成し、上述の工程P115において圧電体220の第1層L21を形成し、上述の工程P120において圧電体220のみをパターニングする。また、第2電極222dは、上述の工程P135と、上述の工程P140との実行順序を入れ替えることにより形成できる。すなわち、上述の工程P130において第2電極222dの第1層L31を形成し、上述の工程P140において第2電極222dの第2層L32を形成し、上述の工程P135において圧電体220と第2電極222dとをパターニングする。このようにして、第1電極221dが共通電極であり、第2電極222dが個別電極である圧電部22dが形成される。
【0094】
以上説明した第5実施形態の液体吐出ヘッドによれば、複数の圧力室341に対して個別に設けられる第2電極222dと、複数の圧力室341に対して共通に設けられる第1電極221dとを有しているので、第1電極221dと第2電極222dとを別々に駆動制御することにより、複数の圧力室341を別々に制御する構成と、複数の圧力室341を一括して制御する構成とを容易に実現できる。
【0095】
F.他の実施形態:
(F1)上記各実施形態において、第1領域Ar1は、圧力室341内のX軸方向における中央部の領域であり、第2領域Ar2は、圧力室341内のX軸方向における端部の領域であったが、本開示はこれに限定されない。具体的には、第1領域Ar1を、圧力室341におけるX軸方向の中央部よりも端部に寄った領域、例えば、圧電体220のテーパー状に形成された部分に対応する領域とし、第2領域Ar2を、かかる第1領域Ar1よりも区画壁345、346に近い位置を含む領域としてもよい。すなわち、一般には、第1領域Ar1を圧力室341内のX軸方向における任意の領域とし、第2領域Ar2を第1領域Ar1のX軸方向外側の領域とする構成であればよい。
【0096】
(F2)上記各実施形態において、第1位置P1は、圧力室341におけるX軸方向の中央の位置であったが、中央の位置に限らず、圧力室341におけるX軸方向の任意の位置としてもよい。このとき、第2位置P2は、圧力室341において第1位置P1よりも区画壁345、346に近い位置であれば、他の任意の位置としてもよい。
【0097】
(F3)上記各実施形態において、第2領域Ar2における圧電体220の厚さd5は、第1領域Ar1における圧電体220の厚さd4より大きくてもよい。
【0098】
(F4)上記各実施形態において、第2領域Ar2における振動板24の厚さd2と圧電体220の厚さd5との合計は、第1領域Ar1における振動板24の厚さd1と圧電体220の厚さd4との合計より小さくなくてもよい。
【0099】
(F5)上記各実施形態において、第2領域Ar2における振動板24の厚さd2と圧電体220の厚さd5との差分は、第1領域Ar1における振動板24の厚さと圧電体220の厚さd4との差分より小さくなくてもよい。
【0100】
(F6)上記各実施形態において、第2領域Ar2における振動板24の厚さd2と圧電体220の厚さd5との合計は、第1領域Ar1における振動板24の厚さd1以下の値、または、圧電体220の厚さd4以下の値であってもよい。
【0101】
(F7)上記各実施形態において、第2領域Ar2において、圧電体220の厚さd5は、振動板24の厚さd1よりも大きくなくてもよい。
【0102】
(F8)上記各実施形態において、第2領域Ar2における振動板24の+Z方向の端部E1は、第1領域Ar1における振動板24の+Z方向の端部E3よりも-X方向に配置されていなくてもよい。
【0103】
(F9)上記各実施形態において、第2領域Ar2における絶縁層242の厚さd22は、第1領域Ar1における絶縁層242の厚さd12と等しくなくてもよい。また、第2領域Ar2における弾性体層241の厚さd21は、第1領域Ar1における弾性体層241の厚さd11よりも小さくなくてもよい。
【0104】
(F10)上記第4実施形態において、第2領域Ar2における絶縁層242の厚さd22は、第1領域Ar1における絶縁層242の厚さd12と等しくなくてもよい。また、第2領域Ar2における弾性体層241の厚さd21は、第1領域Ar1における弾性体層241cの厚さd11cと等しくなくてもよい。また、第2領域Ar2における密着層243の厚さd23は、第1領域Ar1における密着層243の厚さd13より小さくなくてもよい。
【0105】
(F11)上記各実施形態において、弾性体層241は、二酸化珪素により構成され、絶縁層242は、酸化ジルコニウムにより構成されていたが、弾性体層241および絶縁層242をいずれも二酸化珪素により構成してもよいし、弾性体層241および絶縁層242をいずれも酸化ジルコニウムにより構成してもよい。
【0106】
(F12)上記第1実施形態において、第3位置P3に振動板24の厚さd3は、第1領域Ar1における振動板24の厚さd1よりも小さくなくてもよい。
【0107】
(F13)上記各実施形態において、ノズルNから噴射される液体は、インク以外の他の液体であってもよい。例えば、
(1)液晶ディスプレー等の画像表示装置用のカラーフィルターの製造に用いられる色材
(2)有機EL(Electro Luminescence)ディスプレーや、面発光ディスプレー(Field Emission Display、FED)等の電極形成に用いられる電極材
(3)バイオチップ製造に用いられる生体有機物を含む液体
(4)精密ピペットとしての試料
(5)潤滑油
(6)樹脂液
(7)光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂液等の透明樹脂液
(8)基板などをエッチングするために酸性又はアルカリ性のエッチング液を噴射する液体
(9)他の任意の微小量の液滴
であってもよい。
【0108】
なお、「液滴」とは、液体吐出装置100から噴射される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう「液体」とは、液体吐出装置100が消費できるような材料であればよい。例えば、「液体」は、物質が液相であるときの状態の材料であれば良く、粘性の高い又は低い液状態の材料、及び、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような液状態の材料も「液体」に含まれる。また、物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散または混合されたものなども「液体」に含まれる。液体の代表的な例としてはインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インクおよび油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種の液体状組成物を包含するものとする。これらの構成においても、各実施形態と同様の効果を奏する。
【0109】
(F14)上記各実施形態においては、振動板24の厚さおよび圧電体220の厚さを、第1領域Ar1と第2領域Ar2とでそれぞれ異ならせていたが、本開示はこれに限定されない。具体的には、第1領域Ar1の全域、あるいは、第2領域Ar2の全域において、上述の振動板24の厚さの大小関係、および圧電体220の厚さの大小関係を満たしていなくてもよい。少なくとも、第1位置P1における振動板24の厚さおよび圧電体220の厚さと、第2位置P2における振動板24の厚さおよび圧電体220の厚さとが、上述の振動板24の厚さの大小関係、および圧電体220の厚さの大小関係を満たしていれば、上記各実施形態と同様な効果を奏する。また、振動板24の厚さの大小関係と、圧電体220の厚さの大小関係とをいずれも満たしていなくてもよく、少なくとも、第1位置P1における振動板24の厚さと、第2位置P2における振動板24の厚さとが、上述の振動板24の厚さの大小関係を満たしていればよい。
【0110】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0111】
G.他の形態:
(1)本開示の一実施形態によれば、液体吐出ヘッドが提供される。この液体吐出ヘッドは、圧電体と、前記圧電体に対して第1方向の一方側に設けられた振動板と、前記振動板に対して前記一方側に設けられた圧力室基板であって、液体に圧力を付与する圧力室を区画する複数の区画壁を備える圧力室基板と、が前記第1方向に並んで設けられた液体吐出ヘッドであって、前記圧力室内の前記第1方向と交差する第2方向における2つの位置のうち、前記第2方向において最も近い位置に位置する前記区画壁までの前記第2方向の距離が長い1つの位置を第1位置とし、該距離が短い1つの位置を第2位置としたとき、前記第1位置および前記第2位置には、いずれも、前記圧電体と前記振動板との両方が設けられ、前記第2位置における前記振動板の厚さは、前記第1位置における前記振動板の厚さよりも小さい。
【0112】
この形態の液体吐出ヘッドによれば、圧力室内の第1方向と交差する第2方向における2つの位置のうち、第2方向において最も近い位置に位置する区画壁までの第2方向の距離が長い1つの位置を第1位置とし、該距離が短い1つの位置を第2位置としたとき、第1位置および第2位置には、いずれも圧電体と振動板との両方が設けられているので、第1位置に圧電体および振動板の両方が設けられ、第2位置には圧電体のみが設けられている構成に比べて、圧電体が変形する際に、第1位置と第2位置との境界近傍において振動板に応力が集中して、振動板にクラックが発生することを抑制できる。また、この形態の液体吐出ヘッドによれば、第2位置における振動板の厚さは、第1位置における振動板の厚さよりも小さいので、第1位置における中立軸を圧電体よりも振動板側に寄った位置に、また、第2位置における中立軸を振動板よりも圧電体側に寄った位置に、それぞれ配置できる。したがって、振動板の中立面、すなわち、圧電体により振動板に曲げモーメントが加えられた際に振動板が負荷を受けない部分が、第1位置においては圧電体側の場所に位置し、第2位置においては、振動板側の場所に位置することになる。このため、第1位置と第2位置とで、圧電体が変形する際に応力の影響を受けない部分を異なる位置に配置することができるので、振動板全体として剛性を高めることができる。
【0113】
(2)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第2位置における前記振動板の厚さと前記圧電体の厚さとの合計は、前記第1位置における前記振動板の厚さと前記圧電体の厚さとの合計よりも小さくてもよい。
この形態の液体吐出ヘッドによれば、第2位置における振動板の厚さと圧電体の厚さとの合計は、第1位置における振動板の厚さと圧電体の厚さとの合計よりも小さいので、振動板と圧電体との全体の厚さに着目した場合であっても、振動板の厚さのみに着目した場合や、圧電体の厚さのみに着目した場合と同様に、第1位置における厚さを第2位置における厚さよりも大きくすることができる。
【0114】
(3)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第2位置における前記圧電体の厚さは、前記第1位置における前記圧電体の厚さよりも小さくてもよい。
この形態の液体吐出ヘッドによれば、第2位置における圧電体の厚さは、第1位置における圧電体の厚さよりも小さいので、第1位置および第2位置に同じ厚さの圧電体を備える構成に比べて、圧電体の変形効率の低下を抑制できる。
【0115】
(4)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第2位置における前記振動板の厚さと前記圧電体の厚さとの差分は、前記第1位置における前記振動板の厚さと前記圧電体の厚さとの差分よりも小さくてもよい。
この形態の液体吐出ヘッドによれば、第2位置における振動板の厚さと圧電体の厚さとの差分は、第1位置における振動板の厚さと圧電体の厚さとの差分よりも小さいので、第2位置における中立軸を振動板よりも圧電体側に寄った位置に配置できる。
【0116】
(5)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第2位置における前記振動板の厚さと前記圧電体の厚さとの合計は、前記第1位置における前記振動板の厚さよりも大きく、且つ、前記第1位置における前記圧電体の厚さよりも大きくてもよい。
この形態の液体吐出ヘッドによれば、第2位置における振動板の厚さと圧電体の厚さとの合計は、第1位置における振動板の厚さよりも大きく、且つ、第1位置における圧電体の厚さよりも大きいので、第2位置における振動板および圧電体の全体の厚さを、第1位置における振動板の厚さと、第1位置における圧電体の厚さと、のそれぞれの厚さよりも大きくすることができる。
【0117】
(6)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第2位置において、前記圧電体の厚さは、前記振動板の厚さよりも大きくてもよい。
【0118】
(7)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第1位置において、前記圧電体の厚さは、前記振動板の厚さよりも小さくてもよい。
【0119】
(8)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第2位置における前記振動板の前記一方側の端部は、前記第1位置における前記振動板の前記一方側の端部と同じ位置に配置され、
前記第2位置における前記振動板の他方側の端部は、前記第1位置における前記振動板の前記他方側の端部よりも前記一方側に配置されていてもよい。
この形態の液体吐出ヘッドによれば、第2位置における振動板の一方側の端部は、第1位置における振動板の一方側の端部と同じ位置に配置され、第2位置における振動板の他方側の端部は、第1位置における振動板の他方側の端部よりも一方側に配置されているので、振動板の他方側において振動板の厚みを形成できる。このため、振動板と圧力室基板との物理的な密着度の低下を抑制できる。
【0120】
(9)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記振動板は、弾性体層と、前記弾性体層に対して前記第1方向の他方側に設けられた絶縁層とを有し、前記第2位置における前記絶縁層の厚さは、前記第1位置における前記絶縁層の厚さと等しく、前記第2位置における前記弾性体層の厚さは、前記第1位置における前記弾性体層の厚さよりも小さくてもよい。
この形態の液体吐出ヘッドによれば、第2位置における絶縁層の厚さは、第1位置における絶縁層の厚さと等しく、第2位置における弾性体層の厚さは、第1位置における弾性体層の厚さよりも小さいので、弾性体層の厚さを第1位置と第2位置とで異ならせることにより、振動板全体の厚さを第1位置と第2位置とで異ならせることができる。
【0121】
(10)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記振動板は、弾性体層と、前記弾性体層に対して前記第1方向の他方側に設けられた密着層と、前記密着層に対して前記他方側に設けられた絶縁層とを有し、前記第2位置における前記絶縁層の厚さは、前記第1位置における前記絶縁層の厚さと等しく、前記第2位置における前記弾性体層の厚さは、前記第1位置における前記弾性体層の厚さと等しく、前記第2位置における前記密着層の厚さは、前記第1位置における前記密着層の厚さよりも小さくてもよい。
この形態の液体吐出ヘッドによれば、第2位置における絶縁層の厚さは、第1位置における絶縁層の厚さと等しく、第2位置における弾性体層の厚さは、第1位置における弾性体層の厚さと等しく、第2位置における密着層の厚さは、第1位置における密着層の厚さよりも小さいので、密着層の厚さを第1位置と第2位置とで異ならせることにより、振動板全体の厚さを第1位置と第2位置とで異ならせることができる。
【0122】
(11)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記弾性体層は、二酸化珪素により構成され、前記絶縁層は、酸化ジルコニウムにより構成されていてもよい。
この形態の液体吐出ヘッドによれば、絶縁層が酸化ジルコニウムにより構成されているので、振動板の機械的強度を向上できる。
【0123】
(12)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記圧電体に対して前記一方側に設けられ、複数の前記圧力室に対して個別に設けられる個別電極と、前記圧電体に対して前記第1方向の他方側に設けられ、複数の前記圧力室に対して共通に設けられる共通電極と、をさらに有していてもよい。
この形態の液体吐出ヘッドによれば、複数の圧力室に対して個別に設けられる個別電極と、複数の圧力室に対して共通に設けられる共通電極とを有しているので、個別電極と共通電極とを別々に駆動制御することにより、複数の圧力室を別々に制御する構成と、複数の圧力室を一括して制御する構成とを容易に実現できる。
【0124】
(13)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記圧電体に対して前記一方側に設けられ、複数の前記圧力室に対して共通に設けられる共通電極と、前記圧電体に対して前記第1方向の他方側に設けられ、複数の前記圧力室に対して個別に設けられる個別電極と、をさらに有していてもよい。
この形態の液体吐出ヘッドによれば、複数の圧力室に対して個別に設けられる個別電極と、複数の圧力室に対して共通に設けられる共通電極とを有しているので、個別電極と共通電極とを別々に駆動制御することにより、複数の圧力室を別々に制御する構成と、複数の圧力室を一括して制御する構成とを容易に実現できる。
【0125】
(14)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記液体の吐出量に応じて異なる駆動電圧を前記個別電極に印加し、かつ、前記液体の吐出量によらず一定の保持電圧を前記共通電極に印加することにより、前記圧電体を駆動する駆動制御部を、さらに有していてもよい。
この形態の液体吐出ヘッドによれば、液体の吐出量に応じて異なる駆動電圧を第1電極に印加し、かつ、液体の吐出量によらず一定の保持電圧を第2電極に印加することにより、圧電体を駆動するので、第1電極と第2電極との間に電位差を発生させることができる。したがって、かかる電位差により圧電体を変形させることができるので、圧力室に収容されている液体に圧力を付与できる。
【0126】
(15)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第2方向において前記区画壁と重なる位置を第3位置としたとき、前記第3位置には、前記圧電体と前記振動板との両方が設けられ、前記第3位置における前記振動板の厚さは、前記第1位置における前記振動板の厚さよりも小さくてもよい。
この形態の液体吐出ヘッドによれば、第2方向において区画壁と重なる位置を第3位置としたとき、第3位置には、圧電体と振動板との両方が設けられ、第3位置における振動板の厚さは、第1位置における振動板の厚さよりも小さいので、第3位置における中立軸の位置を、第1位置における中立軸の位置よりも振動板側の位置に配置できる。
【0127】
(16)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第1位置は、前記圧力室内の前記第2方向における中央部であり、前記第2位置は、前記圧力室内の前記第2方向における端部であってもよい。
この形態の液体吐出ヘッドによれば、第1位置は、圧力室内の第2方向における中央部であり、第2位置は、圧力室内の第2方向における端部であるので、圧力室内の第2方向における中央部と端部とで、振動板の中立面の位置を異ならせることができる。このため、圧電体が変形する際に、中央部と端部との境界近傍に応力が集中した場合であっても、かかる境界近傍において振動板にクラックが発生することを抑制できる。
【0128】
(17)本開示の他の形態によれば、液体吐出ヘッドが提供される。この液体吐出ヘッドは、圧電体と、前記圧電体に対して第1方向の一方側に設けられた振動板と、前記振動板に対して前記一方側に設けられた圧力室基板であって、液体に圧力を付与する圧力室を区画する複数の区画壁を備える圧力室基板と、が前記第1方向に並んで設けられた液体吐出ヘッドであって、前記圧力室内の前記第1方向と交差する第2方向における中央部を第1位置とし、前記第2方向において前記区画壁と重なる位置を第3位置としたとき、前記第1位置および前記第3位置には、いずれも、前記圧電体と前記振動板との両方が設けられ、前記第3位置における前記振動板の厚さは、前記第1位置における前記振動板の厚さよりも小さくてもよい。
この形態の液体吐出ヘッドによれば、圧力室内の第1方向と交差する第2方向における中央部を第1位置とし、第2方向において区画壁と重なる位置を第3位置としたとき、第1位置および第3位置には、いずれも、圧電体と振動板との両方が設けられているので、第3位置に圧電体のみが設けられている構成に比べて、圧電体が変形する際に第1位置と第3位置との境界近傍に応力が集中した場合に、振動板にのみ応力が集中することによってクラックが発生することを抑制できる。また、第3位置における振動板の厚さは、第1位置における振動板の厚さよりも小さいので、第1位置における中立軸を圧電体よりも振動板側に寄った位置に、第3位置における中立軸を振動板よりも圧電体側に寄った位置に、それぞれ配置できる。したがって、振動板の中立面、すなわち、圧電体により振動板に曲げモーメントが加えられた際に振動板が負荷を受けない部分が、第1位置においては圧電体側の場所に位置し、第3位置においては、振動板側の場所に位置することになる。このため、第1位置と第3位置とで、圧電体が変形する際に応力の影響を受けない部分を異なる位置に配置することができるので、振動板全体として剛性を高めることができる。
【0129】
(18)本開示の他の形態によれば、液体吐出ヘッドの製造方法が提供される。この製造方法は、液体に圧力を付与する圧力室を区画する複数の区画壁が形成される圧力室基板に対して第1方向の一方側の面に弾性体層を形成し、形成された前記弾性体層をエッチングすることにより、前記第1方向と交差する第2方向の中央部が前記圧力室基板に対して凸となるように段差を形成し、前記段差が形成された前記弾性体層に対して前記第1方向の一方側に圧電体を形成する。
この形態の製造方法によれば、圧力室基板に対して第1方向の一方側の面に弾性体層を形成し、形成された弾性体層をエッチングすることにより、第1方向と交差する第2方向の中央部が圧力室基板に対して凸となるように段差を形成し、段差が形成された弾性体層に対して第1方向の一方側に圧電体を形成するので、圧電体における第2方向の中央部が圧力室基板に対して凸となるように圧電体を形成できる。
【0130】
(19)上記形態の製造方法において、前記第2方向の中央部における前記弾性体層の厚さが前記第2方向の端部における前記弾性体層の厚さよりも大きくなるように、前記段差を形成してもよい。
この形態の製造方法によれば、第2方向の中央部における弾性体層の厚さが第2方向の端部における弾性体層の厚さよりも大きくなるように段差が形成されるので、第2方向の中央部の厚さが第2方向の端部の厚さに比べて大きな振動板を容易に形成できる。
【0131】
本開示は、上述した液体吐出ヘッドとしての形態に限らず、圧電アクチュエーター、液体吐出ヘッドを備える液体吐出装置、液体吐出ヘッドの製造方法などの種々の形態として実現可能である。
【符号の説明】
【0132】
20,20a,20b,20c,20d…圧電アクチュエーター、22,22b,22d…圧電部、24,24a,24c…振動板、26…液体吐出ヘッド、32…流路基板、34…圧力室基板、42…筐体部、44…封止体、46…ノズル板、48…吸振体、50…インクタンク、52…チューブ、60…搬送機構、62…搬送ローラー、64…搬送ロッド、66…搬送用モーター、70…移動機構、72…キャリッジ、74…搬送ベルト、76…移動用モーター、77…プーリー、80…制御ユニット、90…配線基板、100…液体吐出装置、220…圧電体、221,221b,221d…第1電極、222,222d…第2電極、241,241a,241c…弾性体層、242…絶縁層、243…密着層、322…開口部、324…供給流路、326…連通流路、328…中継流路、341…圧力室、342…圧力室形成部、345,346…区画壁、422…収容部、424…導入口、Ar1…第1領域、Ar2…第2領域、E1,E2,E3,E4,E5…端部、L21…第1層、L2n…第2層以降の層、L31…第1層、L32…第2層、N…ノズル、P…印刷用紙、P1…第1位置、P2…第2位置、P3…第3位置、Pr…レジスト、R1…液体貯留室
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