(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ワークの製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
B21J 1/06 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
B21J1/06 Z
(21)【出願番号】P 2020200782
(22)【出願日】2020-12-03
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福村 泰明
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-302384(JP,A)
【文献】特開2011-140043(JP,A)
【文献】特開2007-024273(JP,A)
【文献】特開2019-038029(JP,A)
【文献】特開2019-038096(JP,A)
【文献】特開2002-166365(JP,A)
【文献】特開2005-014078(JP,A)
【文献】特開2007-044764(JP,A)
【文献】特開平10-008136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの製造方法であって、
熱間鍛造温度まで昇温した
ワークを、熱間鍛造装置において、熱間鍛造
する熱間鍛造工程と、
前記熱間鍛造工程の後、
前記ワークを移動し、前記ワークのうちの冷間鍛造を行う第1部分を含む前記ワークの一部分のみを冷間鍛造温度よりも低温のブラスト加工温度に冷却する冷却工程と、
前記第1部分を含む前記ワークの一部分が前記ブラスト加工温度に冷却された後、前記冷却工程を終了し、前記ワークを表面処理装置に移動し、前記ブラスト加工温度で、前記第1部分
の表面に対してブラスト加工を行う表面処理工程と、
前記表面処理工程の後、前記ワークの前記一部分以外の部分である第2部分に残る熱間鍛造の時の残存熱を用いて前記第1部分の温度を冷間鍛造温度まで昇温させ
つつ、前記ワークを冷間鍛造装置に移動する昇温工程と、
前記冷間鍛造装置において、前記冷間鍛造温度で前記第1部分の鍛造を行う冷間鍛造工程と、
を備える、ワークの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のワークの製造方法であって、
前記冷却工程では、前記第1部分の少なくとも一部に冷却用治具を接触させることで前記第1部分を冷却する、ワークの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のワークの製造方法であって、
前記冷却工程では、ノズルから噴射された冷媒を、前記第1部分の少なくとも一部に当てることで前記第1部分を冷却する、ワークの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のワークの製造方法であって、
前記熱間鍛造工程を行う
前記熱間鍛造装置から前記表面処理工程を行う
前記表面処理装置までの間、前記ワークが連続して搬送され、前記ワークが搬送される間に前記冷却工程が実行される、ワークの製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のワークの製造方法であって、
前記表面処理工程では、前記第2部分を覆う保持治具を用いる、ワークの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のワークの製造方法であって、
前記保持治具は、前記ワークの前記第1部分と前記第2部分の境界における断面の形状の穴を有し、前記穴の中に前記第2部分を嵌め込む、ワークの製造方法。
【請求項7】
ワークの製造装置であって、
ワークを搬送する搬送装置と、
前記ワークを熱間鍛造温度まで昇温した後、
熱間鍛造を行う熱間鍛造装置と、
前記ワークのうちの冷間鍛造を行う第1部分を含む前記ワークの一部分のみをブラスト加工温度に冷却する冷却装置と、
前記第1部分を含む前記ワークの一部分が前記ブラスト加工温度に冷却されたのち、前記冷却装置による冷却を終了し、前記第1部分
の表面に対してブラスト加工を実行する表面処理装置と、
前記第1部分の鍛造を行うと冷間鍛造装置と、
を備え、
前記熱間鍛造装置と、前記冷却装置と、前記表面処理装置と、前記冷間鍛造装置とは、前記搬送装置の上流側から下流側に向けて順次配置され、
前記表面処理装置と前記冷間鍛造装置とは予め定めた間隔を空けて配置され、
前記ワーク
を前記表面処理装置から前記冷間鍛造装置に搬送する搬送装置を設け、
前記ワークを前記冷間鍛造装置に移動する間に、前記一部分以外の部分である第2部分に残る熱間鍛造の時の残存熱の前記第1部分への伝導を図
り、前記第1部分の温度を冷間鍛造温度まで昇温する、
ワークの製造装置。
【請求項8】
請求項7に記載のワークの製造装置であって、
前記冷却装置は、前記第1部分を冷却する冷却用治具を有し、前記第1部分の少なくとも一部に前記冷却用治具を接触させることで前記第1部分を冷却する、ワークの製造装置。
【請求項9】
請求項7に記載のワークの製造装置であって、
前記冷却装置は、冷媒を噴射するノズルを有し、前記ノズルから噴射された冷媒を、前記第1部分の少なくとも一部に当てることで前記第1部分を冷却する、ワークの製造装置。
【請求項10】
請求項7から請求項9のいずれか一項に記載のワークの製造装置であって、
前記表面処理装置は、前記第2部分を覆う保持治具を有する、ワークの製造装置。
【請求項11】
請求項10に記載のワークの製造装置であって、
前記保持治具は、前記ワークの前記第1部分と前記第2部分の境界における断面の形状の穴を有し、前記穴の中に前記第2部分を嵌め込む、ワークの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワークの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、熱間鍛造を行った後、ショットブラスト加工を行い、その後、冷間鍛造を行う車輪用転がり軸受装置の軸部材の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ショットブラスト加工を行うときには、装置内に粉塵が舞う。このため、熱間鍛造を行った後、ワークを低温に冷却して、ショットブラスト加工を行う。その後に行う冷間鍛造におけるワークの温度は、ショットブラストを行うときの温度よりも高い。従って、ショットブラスト加工のために一旦ワークの温度を下げ、その後、冷間鍛造時にワークの温度を上げている。そのため、エネルギーロスが大きいという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、ワークの製造方法が提供される。このワークの製造方法は、熱間鍛造温度まで昇温したワークを、熱間鍛造装置において、熱間鍛造する熱間鍛造工程と、前記熱間鍛造工程の後、前記ワークを移動し、前記ワークのうちの冷間鍛造を行う第1部分を含む前記ワークの一部分のみを冷間鍛造温度よりも低温のブラスト加工温度に冷却する冷却工程と、前記第1部分を含む前記ワークの一部分が前記ブラスト加工温度に冷却された後、前記冷却工程を終了し、前記ワークを表面処理装置に移動し、前記ブラスト加工温度で、前記第1部分の表面に対してブラスト加工を行う表面処理工程と、前記表面処理工程の後、前記ワークの前記一部分以外の部分である第2部分に残る熱間鍛造の時の残存熱を用いて前記第1部分の温度を冷間鍛造温度まで昇温させつつ、前記ワークを冷間鍛造装置に移動する昇温工程と、前記冷間鍛造装置において、前記冷間鍛造温度で前記第1部分の鍛造を行う冷間鍛造工程と、を備える、この形態によれば、第2部分に残る熱間鍛造の熱を用いて第1部分の温度を上昇させるので、エネルギーロスを低減できる。
(2)上記形態において、前記冷却工程では、前記第1部分の少なくとも一部に冷却用治具を接触させることで前記第1部分を冷却してもよい。この形態によれば、冷却用治具を用いるので、冷却する部分を限定できる。
(3)上記形態において、前記冷却工程では、ノズルから噴射された冷媒を、前記第1部分の少なくとも一部に当てることで前記第1部分を冷却してもよい。この形態によれば、第1部分の形状によらず第1部分を冷却できる。
(4)上記形態において、前記熱間鍛造工程を行う前記熱間鍛造装置から前記表面処理工程を行う表面処理装置までの間、前記ワークが連続して搬送され、前記ワークが搬送される間に前記冷却工程が実行されてもよい。この形態によれば、熱間鍛造工程から表面処理工程までを一連の工程として連続し、ワークを冷却できる。
(5)上記形態において、前記表面処理工程では、前記第2部分を覆う保持治具を用いてもよい。この形態によれば、第2部分が表面処理工程により処理されることを抑制できる。
(6)上記形態において、前記保持治具は、前記ワークの前記第1部分と前記第2部分の境界における断面の形状の穴を有し、前記穴の中に前記第2部分を嵌め込んでもよい。この形態によれば、第2部分が保持治具の穴の中に嵌め込まれるので、簡易な構成で第2部分を保護できる。
(7)本開示の一形態によれば、ワークの製造装置が提供される。このワークの製造装置は、ワークを搬送する搬送装置と、前記ワークを熱間鍛造温度まで昇温した後、熱間鍛造を行う熱間鍛造装置と、前記ワークのうちの冷間鍛造を行う第1部分を含む前記ワークの一部分のみをブラスト加工温度に冷却する冷却装置と、前記第1部分を含む前記ワークの一部分が前記ブラスト加工温度に冷却されたのち、前記冷却装置による冷却を終了し、前記第1部分の表面に対してブラスト加工を実行する表面処理装置と、前記第1部分の鍛造を行うと冷間鍛造装置と、を備え、前記熱間鍛造装置と、前記冷却装置と、前記表面処理装置と、前記冷間鍛造装置とは、前記搬送装置の上流側から下流側に向けて順次配置され、前記表面処理装置と前記冷間鍛造装置とは予め定めた間隔を空けて配置され、前記ワークを前記表面処理装置から前記冷間鍛造装置に搬送する搬送装置を設け、前記ワークを前記冷間鍛造装置に移動する間に、前記一部分以外の部分である第2部分に残る熱間鍛造の時の残存熱の前記第1部分への伝導を図り、前記第1部分の温度を冷間鍛造温度まで昇温する。この形態によれば、表面処理装置と冷間鍛造装置とは予め定めた間隔を空けて配置されているので、ワークが表面処理装置から冷間鍛造装置に搬送される間に、第2部分に残る熱間鍛造の残存熱の第1部分への伝導を図るので、エネルギーロスを低減できる。
(8)上記形態において、前記冷却装置は、前記第1部分を冷却する冷却用治具を有し、前記第1部分の少なくとも一部に前記冷却用治具を接触させることで前記第1部分を冷却してもよい。この形態によれば、冷却用治具を用いるので、冷却する部分を限定できる。
(9)上記形態において、前記冷却装置は、冷媒を噴射するノズルを有し、前記ノズルから噴射された冷媒を、前記第1部分の少なくとも一部に当てることで前記第1部分を冷却してもよい。この形態によれば、第1部分の形状によらず第1部分を冷却できる。
(10)上記形態において、前記表面処理装置は、前記第2部分を覆う保持治具を有してもよい。この形態によれば、第2部分が表面処理工程により処理されることを抑制できる。
(11)上記形態において、前記保持治具は、前記ワークの前記第1部分と前記第2部分の境界における断面の形状の穴を有し、前記穴の中に前記第2部分を嵌め込んでもよい。この形態によれば、前記第1部分以外が保持治具の穴の中にはめ込まれるので、簡易な構成で第2部分を保護できる。
【0007】
本開示は、ワークの製造方法、製造装置以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、ワークの鍛造方法、鍛造装置等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
・第1実施形態:
図1は、ワーク100の製造装置10を示す説明図である。製造装置10は、ワーク100を上流から下流に搬送する搬送装置20と、搬送装置20の上流側から下流側に向けて順次配置された加熱装置30と、熱間鍛造装置40と、冷却装置50と、表面処理装置60と、冷間鍛造装置70を備える。表面処理装置60と、冷間鍛造装置70とは、予め定めた間隔を空けて配置されており、その間には、ワーク100に対して処理実行する装置が配置されていない。本実施形態では、搬送装置20は、例えばコンベアであり、ワーク100は、搬送装置20に載せられて、加熱装置30から冷間鍛造装置70まで、連続して搬送される。搬送装置20として、ロボットアームを用いてもよい。
【0010】
加熱装置30は、ヒータを用いてワーク100を、ワーク100を構成する材料の変態点温度以上である熱間鍛造温度、例えば1000~1300℃までワーク100を加熱する。
【0011】
熱間鍛造装置40は、加熱されたワーク100に対して鍛造を行う熱間鍛造工程を実行する。
【0012】
冷却装置50は、ワーク100を、冷間鍛造温度よりも低温のブラスト加工温度まで冷却する冷却工程を実行する。ブラスト加工では、粉塵が生じるため、ブラスト加工温度は、例えば、100℃未満の温度が好ましい。なお、冷間鍛造温度は、100~150℃である。また、ブラスト加工時には、後述するように、投射材と呼ばれる粒体が衝突するため、ワーク100の温度が上昇する。そのため、冷却装置は、ブラスト加工時に、ワーク100の温度が100℃を超えないような温度までワーク100を冷却することが好ましい。
【0013】
上述したように、熱間鍛造工程では、ワーク100の温度が、1000~1300℃に加熱される。そのため、ワーク100の表面に酸化皮膜(「スケール」とも呼ぶ。)が生じる。表面処理装置60は、ワーク100の表面に生じた酸化皮膜を、投射材と呼ばれる粒体をワーク100に衝突させることで、除去する表面処理工程を実行する。ブラスト加工は、投射材として細かな鋼球を用いるショットブラスト加工、珪砂を用いるサンドブラスト加工、鋭角な形状をした鉄の粒を用いるグリッドブラスト加工などの総称であり、加工目的により適切な投射材が選択される。本実施形態では、ワーク100の第1部分100aの表面に生じた酸化皮膜をショットブラスト加工により除去する。なお、本実施形態において、サンドブラスト加工や、グリッドブラスト加工を実行してもよい。
【0014】
冷間鍛造装置70は、ワーク100に対して100~150℃の温度で鍛造を行う冷間鍛造工程を実行する。
【0015】
図2は、ワーク100の一例を示す説明図である。ワーク100は金属で形成されており、第1部分100aと第2部分100bとを備える。第1部分100aには、ブラスト加工及び冷間鍛造が行われる部分であり、第2部分100bは、ブラスト加工及び冷間鍛造が行われない部分である。
【0016】
図3は、ワーク100の製造方法を示す説明図である。
図4は、ワーク100の温度の遷移を示す説明図である。時刻t0からt1までのステップS10では、加熱装置30は、ベルココンベア20上を移動するワーク100の全体を加熱する。そのため、ワーク100の全体の温度が上昇していく。ワーク100の温度が1000~1300℃になると、ベルココンベア20上のワーク100は、加熱装置30を出て熱間鍛造装置40に入り、処理はステップS20に移行する。
【0017】
時刻t1からt2のステップS20では、熱間鍛造装置40は、ワーク100に対して熱間鍛造を実行する熱間鍛造工程を実行する。熱間鍛造工程では、ワーク100は、鍛造により衝突エネルギーを受けるが、ワーク100の温度が高いため、両者のバランスにより、ワーク100の温度は、少しずつ低下していく。熱間鍛造工程が終了すると、ベルココンベア20上のワーク100は、熱間鍛造装置40を出て、冷却装置50に入り、処理はステップS30に移行する。
【0018】
ワーク100の第1部分100aと第2部分100bの温度遷移は同じではないので、第1部分100aと第2部分100bの温度遷移を分けて説明する。
【0019】
先ず、第1部分100aについて説明する。ステップS20の熱間鍛造工程の後の時刻t2からt3のステップS30では、冷却装置50は、ワーク100の第1部分100aの少なくとも一部を含むワーク100の一部分を、強制的に冷却する冷却工程を実行する。「ワーク100の第1部分100aの少なくとも一部を含むワーク100の一部分」とは、冷間鍛造される第1部分100aの少なくとも一部であってもよいし、冷間鍛造される第1部分100aより予め定めた範囲だけ大きな部分であってもよい。
図5は、ワーク100と冷却用治具52を示す説明図である。冷却用治具52は、冷間鍛造温度よりも低い温度に冷却されている。冷却装置50は、ワーク100の第1部分100aの内側と外側から第1部分100aに、冷却用治具52を接触させてワーク100の第1部分を冷却する。冷却用治具52は、第2部分100bに接触しないため、第2部分100bを冷却せずに第1部分100aを冷却できる。時刻t3において、ワーク100の第1部分100aの温度が100℃未満となり、ブラスト加工に適した温度になると、ベルココンベア20上のワーク100は、冷却用治具52が外された後冷却装置50を出て、表面処理装置60に入り、処理はステップS40に移行する。なお、冷却用治具52は、第1部分100aの全表面に接触している必要はなく、第1部分100a全体の温度がブラスト加工温度に低下するように、第1部分100aに接触していればよい。また、冷却用治具52は、第2部分100bに少し接触していてもよい。
【0020】
ステップS30の冷却工程の後の時刻t3からt4のステップS40では、表面処理装置60は、ワーク100の第1部分100aの表面に生じた酸化被膜をショットブラスト加工により除去する表面処理工程を実行する。酸化被膜が除去されると、搬送装置20上のワーク100は、表面処理装置60を出て、処理はステップS50に移行する。なお、ブラスト加工時には、冷却用治具52が外されるので、ワーク100の第1部分100aの温度は、第2部分100bからの熱伝導により、少し上昇する。
【0021】
ステップS40の表面処理工程の後の時刻t4からt5のステップS50では、搬送装置20上のワーク100は、冷間鍛造装置70に向けて移動する。この間、第2部分100bに残存する熱が第1部分100aに熱伝導するため、ワーク100の第1部分100aの温度は上昇する。すなわち、ステップS50は、第2部分100bに残る熱間鍛造温度の残存熱を用いて第1部分100aの温度を冷間鍛造温度まで昇温させる昇温工程である。第2部分100bに残存する熱を用いて冷間鍛造温度まで昇温させる際、第2部分100bに残存する熱のみに拠って昇温させても良いし、補助的にヒータなどによる加熱を行なって昇温させても良い。補助的な加熱は、残存熱の総量が第2部分の昇温に足りない場合のみならず、第2部分の昇温に足りている場合であっても、例えば昇温時間の短縮のために行なってもよい。表面処理装置60と冷間鍛造装置70の間に、補助的にヒータなどを設けてもよい。
【0022】
次に、第2部分100bについて説明する。時刻t2からt5のステップS60
では、ワーク100の第2部分100bは、自然放冷される。「第2部分100bの自然放冷」とは、第2部分100bを強制的に冷却しないことを意味する。なお、上述したように、ワーク100の第1部分100aと第2部分100bとは繋がっている。そのため、第1部分100aが冷却装置50の冷却用治具52により冷却されると、第1部分100aの温度が第2部分100bの温度よりも低下する。そのため、第1部分100aの温度が第2部分100bの温度よりも低い間は、第2部分100bは、自然放冷と、第1部分100aへの熱伝導により、温度が低下する。但し、第2部分100bは、第1部分100aよりも低温にはならない。
【0023】
時刻t5になると、第1部分100aの温度は、冷間鍛造に適した冷間鍛造温度まで上昇する。ワーク100は、冷間鍛造装置70に入り、処理はステップS70に移行する。第1部分100aの温度が、第2部分100bの温度よりも低くてもよく、
図4に示すように、第1部分100aの温度と第2部分100bの温度は、ほぼ同じ温度になっていてもよい。
【0024】
ステップS50の昇温工程の後の時刻t5からt6のステップS70では、冷間鍛造装置70は、ワークの第1部分100aに体して鍛造を行う冷間鍛造工程を実行する。なお、
図4では、冷間鍛造工程の間、ワーク100の温度がほぼ変わらないグラフとなっているが、ワーク100から大気への放熱と、鍛造により受ける衝突エネルギーと、のバランスにより、ワーク100の温度は変化する。冷間鍛造工程が終了すると、ワーク100は、冷間鍛造装置70を出て、処理は、ステップS80に移行する。
【0025】
時刻t6からt7のステップS80では、ワーク100は、自然放冷される。
【0026】
以上、第1実施形態によれば、表面処理装置60と冷間鍛造装置70とは、予め定めた間隔を空けて配置されている。そのため、搬送装置20上のワーク100が、表面処理装置60を出て冷間鍛造装置70に入るまでのステップS70の期間、第2部分100bに残る熱間鍛造温度の残存熱を用いて第1部分100aの温度を冷間鍛造温度まで昇温させる昇温工程が実行される。そのため、ヒータを用いて第1部分100aを再加熱する必要が無く、エネルギーロスが生じない。なお、表面処理装置60と冷間鍛造装置70との間は、上述したように、予め定められた間隔を空けて配置されているが、この予め定められた間隔は、ワーク100の第2部分100bの熱が、第1部分100aに伝導して、第1部分100aの温度を冷間鍛造温度まで上昇させるのに必要な間隔であればよい。また、本実施形態によれば、第2部分100bの温度は、ブラスト加工温度まで低下しないので、第1部分100aを再加熱する場合であっても、第2部分100bの温度をブラスト加工温度まで低下させる場合に比べて、第1部分100aを再加熱するより再加熱のエネルギーを少なくできる。
【0027】
・第2実施形態:
図6は、ワーク100とノズル54を示す説明図である。第1実施形態では、冷却装置50は、冷却用治具52をワーク100の第1部分100aに接触させることで、第1部分100aを冷却しているが、第2実施形態では、ノズル54から第1部分100aに冷媒55を噴射することで、第1部分100aを冷却する。冷媒55としては、窒素や、炭酸ガスを利用可能である。低温の冷媒55を準備して第1部分100aに当ててもよく、高圧の冷媒55をノズル54から噴射させることで、断熱膨張させ、冷媒55の温度を下げて、第1部分100aに当ててもよい。
【0028】
第2実施形態によれば、ノズル54から噴射された冷媒55を用いて第1部分100aを冷却するので、第1部分100aの形状が複雑でも、第1部分100aを冷却できる。
【0029】
図7、
図8は、ワーク100と保持治具62を示す説明図である。
図7は、ワーク100と保持治具62を、その中心軸Oを通る平面で切った断面を示し、
図8は、中心軸Oと垂直な平面で切った断面を示している。本実施形態で用いられる保持治具62は、一方に開口部62bを有する円筒形の円筒部62aと、円筒部62aの開口部62bと反対側に設けられた底面62cと、底面62cに形成された穴62dとを備える。穴62dは、ワーク100の第1部分100aと第2部分100bの境界における中心軸Oと垂直な断面の形状に対応しており、保持治具62は、ワーク100の第1部分100aを保持治具62の外側に露出し、第2部分100bを保持治具62の内部に嵌め込んだ状態でワークを格納できる。
【0030】
保持治具62は、ワーク100の第2部分100bを覆っているので、ブラスト加工時に、投射材と呼ばれる粒体は、ワーク100のうち、第1部分100aには当たるが第2部分100bには、当たらないので、第1部分100aのみの酸化皮膜を除去できる。すなわち、第2部分100bが、ブラスト加工されることを保持治具62により抑制できる。
【0031】
保持治具62は、冷却装置50においても使用可能である。例えば、ノズル54から噴射された冷媒55を用いて第1部分100aを冷却する場合、保持治具62により、第2部分100bは、冷媒55が当たらない、そのため、第2部分100bに熱間鍛造工程における熱を保持でき、ステップS50の昇温工程で、第2部分100bの熱を第1部分100aに伝導させる第1部分100aを昇温できる。
【0032】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0033】
10…製造装置、20…搬送装置、30…加熱装置、40…熱間鍛造装置、50…冷却装置、52…冷却用治具、54…ノズル、55…冷媒、60…表面処理装置、62…保持治具、62a…円筒部、62b…開口部、62c…底面、62d…穴、70…冷間鍛造装置、100…ワーク、100a…第1部分、100b…第2部分、O…中心軸、t0~t6…時刻