IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】樹脂組成物およびそれを用いた硬化膜
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/02 20060101AFI20241008BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20241008BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C08L101/02
C08L79/08
C08K3/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020203876
(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2021095568
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2019227030
(32)【優先日】2019-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】片瀬 郁也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智博
(72)【発明者】
【氏名】玉木 栄一郎
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/154533(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/047521(WO,A1)
【文献】特開2016-127210(JP,A)
【文献】特開2012-188645(JP,A)
【文献】特表2010-506013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン、および、窒素原子を有する耐熱性樹脂を含む樹脂組成物であって、
グラフェンのX線光電子分光法により測定される炭素に対する窒素の元素比(N/C比)が0.005以上0.030以下であり、炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.08以上0.30以下であり、
窒素原子を有する耐熱性樹脂が、アルゴン雰囲気下において200℃で30分間熱処理した後に熱重量分析を行った際に、空気雰囲気下において25℃から昇温速度10℃/分で300℃まで昇温し、300℃で30分間保持したときの重量減少が3重量%未満であり、かつ、示差走査熱量測定を行った際の、25℃から330℃まで10℃/分で昇温したときに得られるDSC曲線において、300℃以下に融点が現れない樹脂であり、
グラフェンの含有量が、窒素原子を有する耐熱性樹脂100重量部に対して、1重量部以上30重量部以下である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記窒素原子を有する耐熱性樹脂がポリイミド樹脂を含む請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記グラフェンの、X線回折測定においてグラフェン結晶の(002)面に対応するピークからScherrerの式により算出される結晶子径が2nm以下である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記グラフェンの面方向の大きさが0.5μm以上5μm以下である請求項1~のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の樹脂組成物の硬化膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェンおよび耐熱性樹脂を含む樹脂組成物およびその硬化膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池や高温駆動半導体の回路、自動車部品の電磁波シールド、ハンダ代替品などの用途において、導電塗料や導電接着剤等の導電性樹脂組成物が広く用いられている。このような用途に用いられる導電性樹脂組成物には、導電性、耐熱性、基材に対する密着性が重要な特性であり、その向上が求められている。特に、高温駆動の半導体回路やハンダの代替などの用途においては、300℃付近で用いられる場合があり、耐熱性のさらなる向上が必要となる。
【0003】
導電性樹脂組成物として、これまでに、例えば、導電性粉、バインダー樹脂及び有機溶剤からなる導電性ペーストにおいて、バインダー樹脂としてブタジエン系ゴム、イソプレン系ゴム、ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム、クロロプレンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリラクトン及びダイマー酸からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の成分を共重合したポリアミドイミド及び/又はポリイミドを含むことを特徴とする導電性ペースト(例えば、特許文献1参照)、ポリビニルアセタール(A)及び硬化性樹脂(B)を含む樹脂成分と、アスペクト比が10~15,000であり、平均繊維径dが5~100nmであるカーボンナノチューブ(C)を含む炭素成分と、を含有する導電性樹脂組成物であって、前記樹脂成分中の前記樹脂(A)の含有量が10~70質量%であり、前記樹脂成分100質量部に対する前記カーボンナノチューブ(C)の含有量が2~70質量部である導電性樹脂組成物(例えば、特許文献2参照)、炭素材料を含む炭素材料複合組成物であって、該炭素材料は、グラフェン骨格を有し、該組成物は、更にポリイミド及び/又はその前駆体を含むことを特徴とする炭素材料複合組成物(例えば、特許文献3参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-221006号公報
【文献】特開2014-28900号公報
【文献】特開2016-127210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された導電性ペーストにより、導電性、密着性などが向上するものの、導電性粉の分散性、耐熱性がなお不十分であり、300℃程度の高温環境下において、樹脂の熱分解やひび割れによって、樹脂組成物から得られる硬化膜の導電性や基材への密着性が低下する課題があった。一方、特許文献2に開示された導電性樹脂組成物により、炭素成分の分散性が向上するものの、耐熱性がなお不十分であり、300℃程度の高温環境下において、基材への密着性および導電性が低下する課題があった。また、特許文献3に開示された炭素材料複合組成物により、熱電性能が向上するものの、炭素成分の分散性が不十分であり、高温環境下における導電性や基材への密着性が低下する課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、耐熱性樹脂に対するグラフェンの分散性を高め、耐熱性、高温環境下における導電性および基材への密着性に優れる硬化膜を得ることのできる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、X線光電子分光法により測定される炭素に対する窒素の元素比(N/C比)が0.005以上0.030以下であるグラフェン、および、窒素原子を有する耐熱性樹脂を含む樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂組成物は、グラフェンの分散性に優れる。本発明の樹脂組成物により、耐熱性、高温環境下における導電性および基材への密着性に優れる硬化膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、X線光電子分光法により測定される炭素に対する窒素の元素比(N/C比)が0.005以上0.030以下であるグラフェンと、窒素原子を有する耐熱性樹脂を含む。N/C比がかかる範囲にあるグラフェンと窒素原子を有する耐熱性樹脂を組み合わせることにより、樹脂組成物中におけるグラフェンの分散性を向上させ、少量のグラフェンにより十分な導電性を発現させることができることから、樹脂組成物から得られる硬化膜の耐熱性、高温環境下における導電性および基材への密着性を向上させることができる。
【0010】
<グラフェン>
グラフェンは、薄く、面形状で、単位質量当りの導電パスが多く、樹脂組成物内において強固な導電ネットワークの核として作用する。グラフェンとは、狭義には1原子の厚さのsp結合炭素原子のシート(単層グラフェン)を指すが、本明細書においては、単層グラフェンが積層した薄片状の形態を持つものも含めてグラフェンと呼称する。さらに、グラフェンには分散性の向上等を目的とした表面処理がなされる場合があるが、本明細書においては、このような表面処理剤が付着したグラフェンも「グラフェン」と呼称するものとする。
【0011】
グラフェンの面方向の大きさは、樹脂組成物中における電子伝導のネットワークを形成しやすくして導電性をより向上させる観点から、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。一方、グラフェンの面方向の大きさは、樹脂組成物中における分散性や高温環境下における基材に対する密着性をより向上させる観点から、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましい。ここでいうグラフェンの面方向の大きさとは、グラフェン面の最長径と最短径の平均値を指す。グラフェンの面方向の大きさは、グラフェンの希薄分散液を基板上に塗布し、電子顕微鏡を用いて、グラフェンが適切な視野に収まる倍率において拡大観察し、無作為に選択した10個のグラフェンについて、その最長径と最短径を測定し、その平均値から個々のグラフェンの面方向の大きさを算出し、その算術平均値を算出することにより求めることができる。なお、樹脂組成物や硬化膜からグラフェンを採取する方法としては、例えば、凍結粉砕機などを用いて樹脂組成物や硬化膜を粉砕した後、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いて抽出したグラフェンを乾燥する方法などが挙げられる。また、グラフェンの面方向の大きさは、一般的な製造方法においては樹脂組成物や硬化膜中においても変化しないことから、樹脂組成物の原料となるグラフェンが既知の場合には、原料グラフェンから直接測定してもよい。
【0012】
グラフェンの面方向の大きさは、例えば、後述するグラフェンの製造方法において、好ましい製造方法を用いること、微細化工程の時間を選択することなどにより、所望の範囲に調整することができる。微細化工程の時間を長くすることにより面方向の大きさを小さくすることができ、微細化工程の時間を短く、もしくは微細化工程を行ないことにより、面方向の大きさを大きく保つことができる。
【0013】
グラフェンの、X線回折法においてグラフェン結晶の(002)面に対応するピークからScherrerの式により算出される結晶子径は、2nm以下が好ましい。このようにグラフェンのベーサル面に対し垂直方向の結晶子サイズが小さい、すなわち厚みが薄いことにより、樹脂組成物中においてグラフェンにより効率的な電子伝導パスが形成され、グラフェン含有量が少ない場合であっても導電性をより向上させることができる。ここで、グラフェンのX線回折測定は、60℃の温度で12時間真空乾燥したグラフェンについて、走査範囲:5°~50°、ステップサイズ:0.016°、走査速度:1ステップ/秒の条件で行い、グラフェン結晶の(002)面に対応するピーク(2θ/θ=25°付近)の半値幅から、Scherrerの式により結晶子サイズを算出することができる。なお、樹脂組成物や硬化膜からグラフェンを採取する方法としては、例えば、凍結粉砕機などを用いて樹脂組成物や硬化膜を粉砕した後、N-メチルピロリドン(NMP)を用いて抽出したグラフェンを乾燥する方法などが挙げられる。また、グラフェンの結晶子径は、一般的な製造方法においては樹脂組成物や硬化膜中においても変化しないことから、樹脂組成物の原料となるグラフェンが既知の場合には、真空乾燥した原料グラフェンから直接測定してもよい。
【0014】
グラフェンの結晶子径の大きさは、例えば、後述するグラフェンの製造方法において、好ましい製造方法や、表面処理剤を用いること、表面処理剤の添加量を好ましい範囲に調整することなどにより、所望の範囲に調整することができる。例えば、好ましい表面処理剤を適量添加し撹拌することにより、グラフェンの剥離を進行させ、結晶子径を小さくすることができる。また、後述するグラフェンの製造工程において、強撹拌工程におけるせん断速度を大きくすることや、撹拌時間を長くすることにより、結晶子径を小さくすることができる。
【0015】
本発明において、グラフェンの、X線光電子分光法により測定される炭素に対する窒素の元素比(N/C比)は、0.005以上0.030以下である。グラフェンが窒素を含有することにより、耐熱性樹脂中の窒素原子とグラフェン上の窒素原子間の相互作用により、樹脂組成物中におけるグラフェンの分散性を高め、少量のグラフェンにより硬化膜の導電性、特に高温環境下での導電性を向上させることができる。N/C比が0.005未満であると、樹脂組成物中におけるグラフェンの分散性が低下するため、硬化膜の導電性、特に高温環境下における導電性が低下する。また、グラフェンの分散性が低下するため、グラフェンの凝集部を起点に硬化膜が基材から剥離しやすくなり、特に高温環境下における硬化膜の密着性も低下する。N/C比は、0.006以上が好ましく、0.008以上がより好ましい。一方、N/C比が0.030を超えると、グラフェン自体の導電性が低下する。また、グラフェンと耐熱性樹脂との界面の接着性が低下するため、界面を起点に剥離が生じやすく、特に高温環境下における硬化膜の密着性も低下する。N/C比は、0.020以下が好ましく、0.018以下がより好ましく、0.016以下がさらに好ましい。ここで、N/C比の測定は、X線光電子分光器、例えばPHI Quantera II(Ulvac-PHI株式会社製)、QuanteraSXM(Ulvac-PHI株式会社製)、JPS-9030(日本電子株式会社製)などを用いて、グラフェンの光電子スペクトルを取得し、そのピーク面積比から元素比を定量することにより求めることができる。X線光電子分光分析では、超高真空中に置いた試料表面に軟X線を照射し、表面から放出される光電子をアナライザーで検出する。この光電子をワイドスキャンで測定し、物質中の束縛電子の結合エネルギー値を求めることにより、物質表面の元素情報が得られる。さらに、ピーク面積比を用いて元素比を定量することができる。なお、樹脂組成物や硬化膜からグラフェンを採取する方法としては、例えば、凍結粉砕機などを用いて樹脂組成物や硬化膜を粉砕した後、N-メチルピロリドン(NMP)を用いて抽出したグラフェンを乾燥する方法などが挙げられる。樹脂組成物や硬化膜からグラフェンを抽出した際は、グラフェンのみの領域を選択的に測定する目的から、ビーム径を10μmまで絞って測定できるX線光電子分光器、例えばPHI Quantera II(Ulvac-PHI株式会社製)を用いて、測定を行うことが好ましい。また、グラフェンのN/C比は、一般的な製造方法においては樹脂組成物や硬化膜中においても変化しないことから、樹脂組成物の原料となるグラフェンが既知の場合には、真空乾燥した原料グラフェンから直接測定してもよい。
【0016】
グラフェンに窒素を導入する方法としては、例えば、グラフェン面内への窒素原子のドープ、グラフェン上に残像する酸素官能基との反応による窒素原子を含む分子の導入、窒素原子を含む分子を非共有結合的にグラフェンに吸着させる表面処理などが挙げられる。これらの中でも、表面処理が好ましく、樹脂組成物中におけるグラフェンの分散性をより向上させることができる。
【0017】
表面処理剤としては、フェニル基および/またはアミノ基を有する化合物が好ましく、例えば、アンチピリン、アミノピリン、4-アミノアンチピリン、1-フェニル-3-メチル-5-ピラゾロン、4-ベンゾイル-3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン、1-(2-クロロフェニル)-3-メチル-2-ピラゾリン-5-オン、5-オキソ-1-フェニル-2-ピラゾリン-3-カルボン酸、1-(2-クロロ-5-スルホフェニル)-3-メチル-5-ピラゾロン、1-(4-クロロフェニル)-3-メチル-2-ピラゾリン-5-オン、1-(4-スルホフェニル)-3-メチル-5-ピラゾロン、3-クロロアニリン、ベンジルアミン、2-フェニルエチルアミン、1-ナフチルアミン、ドーパミン塩酸塩、ドーパミン、ドーパなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。N/C比は、例えば、表面処理剤の種類や量により所望の範囲に調整することができる。
【0018】
本発明において、グラフェンの、X線光電子分光分析により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)は、0.08以上0.30以下が好ましい。グラフェンの分散性をより向上させる観点から、O/C比は、0.09以上がより好ましく、0.12以上がさらに好ましい。一方、グラフェンのπ電子共役構造を回復させ、グラフェンの導電性をより向上させるとともに、高温環境下における官能基由来のガス発生によって生じる基材への密着性低下をより抑制する観点から、O/C比は、0.25以下が好ましく、0.20以下がより好ましく、0.18以下がさらに好ましい。ここで、O/C比は、前述のN/C比と同様に求めることができる。
【0019】
グラフェン表面の酸素原子は、ヒドロキシ基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、エステル結合(-C(=O)-O-)、エーテル結合(-C-O-C-)、カルボニル基(-C(=O)-)、エポキシ基などの酸素原子を含有する極性の高い官能基に由来する。なお、グラフェンに表面処理剤を付与しているが、グラフェン自体の官能基だけでなく、このような表面処理剤が有する官能基に由来する酸素原子も、「グラフェン表面の酸素原子」に含めるものとする。すなわち、表面処理剤が付与されたグラフェンにおいては、表面処理剤処理後の表面のO/C比が上記範囲であることが好ましい。
【0020】
O/C比は、例えば、化学剥離法を用いた場合は、原料となる酸化グラフェンの酸化度を変えたり表面処理剤の量を変えたりすることにより調整することができる。酸化グラフェンの酸化度が高いほど還元後に残る酸素の量も多くなり、酸化グラフェンの酸化度が低いほど還元後の酸素量が低くなる。また、酸性基を有する表面処理剤の付着量が多くなるほど酸素量を多くすることができる。
【0021】
特性の異なる2種以上のグラフェンを含有する場合、グラフェン全体として、上記特性を有することが好ましい。
【0022】
本発明の樹脂組成物中におけるグラフェンの含有量は、導電性、特に高温環境下における導電性をより向上させる観点から、後述する窒素原子を有する耐熱性樹脂100重量部に対して、1重量部以上が好ましく、3重量部以上がより好ましく、5重量部以上がさらに好ましい。一方、グラフェンの含有量は、特に高温環境下における、硬化膜の基材に対する密着性をより向上させる観点から、後述する窒素原子を有する耐熱性樹脂100重量部に対して、30重量部以下が好ましく、20重量部以下がより好ましく、10重量部以下がさらに好ましい。
【0023】
本発明に用いられるグラフェンは、物理剥離法により製造されたものであってもよく、化学剥離法により製造されたものであってもよい。化学剥離法により製造される場合、酸化グラフェンの作製法に特に限定はなく、ハマーズ法等の公知の方法を使用できる。また、市販の酸化グラフェンを用いてもよい。
【0024】
化学剥離法は、黒鉛を酸化剥離して酸化グラフェンを得る工程(黒鉛剥離工程)、還元を行う工程(還元工程)をこの順に有することが好ましい。必要に応じて、黒鉛剥離工程と還元工程の間に、表面処理剤をグラフェンに付着させる工程(表面処理工程)および/またはグラフェンの面方向の大きさを調整する工程(微細化工程)を有してもよい。表面処理グラフェンを用いる場合、表面処理剤はグラフェンに付着させてもよく、酸化グラフェンに付着させた後に還元処理を行って表面処理グラフェンとしてもよい。また、グラフェンを微細化する場合、酸化グラフェンを微細化してもよいし、還元後のグラフェンを微細化してもよい。還元反応の均一性の観点から、酸化グラフェンを微細化した状態で還元工程を行うことが好ましく、微細化工程は還元工程の前または還元工程の最中に行うことが好ましい。このため、黒鉛剥離工程、表面処理工程、微細化工程、還元工程をこの順に有することが好ましい。
【0025】
また、本発明に用いられるグラフェンは、樹脂組成物における分散性をより向上させるために、分散液の状態で用いることが好ましい。分散液を製造する際には、還元工程を経た中間体分散液と有機溶媒とを混合する工程(有機溶媒混合工程)と、有機溶媒を含む中間体分散液をミキサーの回転刃の周速6m/s以上70m/s以下で撹拌処理する工程(強撹拌工程)をさらに有することが好ましい。
【0026】
以下に、各工程の好ましい態様について説明する。
【0027】
[黒鉛剥離工程]
まず、黒鉛を酸化剥離して酸化グラフェンを得る。酸化グラフェンの酸化度は、黒鉛の酸化反応に用いる酸化剤の量を変化させることにより調整することができる。具体的には、酸化反応の際に用いる、黒鉛に対する硝酸ナトリウムおよび過マンガン酸カリウムの量が多いほど、酸化度は高くなり、少ないほど、酸化度は低くなる。黒鉛に対する硝酸ナトリウムの重量比は、0.200以上0.800以下が好ましい。黒鉛に対する過マンガン酸カリウムの比は、1.00以上4.0以下が好ましい。
【0028】
[表面処理工程]
次に、酸化グラフェンと表面処理剤を混合し、グラフェンに表面処理剤を付着させる。混合方法としては、例えば、自動乳鉢、三本ロール、ビーズミル、遊星ボールミル、ホモジナイザー、ホモディスパー、ホモミクサー、プラネタリーミキサー、二軸混練機などのミキサーや混練機を用いて混合する方法などが挙げられる。
【0029】
[微細化工程]
次に、酸化グラフェンを微細化する。微細化方法としては、例えば、超音波を印加する手法、圧力を印加した中間体分散液を単体のセラミックボールに衝突させる手法、圧力を印加した中間体分散液同士を衝突させて分散を行う液-液せん断型の湿式ジェットミルを用いる手法などが挙げられる。特に、超音波処理は、メディアレスな分散手法であることから好ましい。微細化工程においては、酸化グラフェンまたはグラフェンは、出力や処理圧力が高いほど微細化する傾向にあり、処理時間が長いほど微細化する傾向にある。微細化工程における微細化処理の種類・処理条件・処理時間により、還元後のグラフェンの大きさを調製することができる。グラフェン層に平行な大きさを前述の範囲に調整するためには、微細化工程における酸化グラフェンやグラフェンの固形分濃度は、0.01重量%以上2重量%以下が好ましい。また、超音波処理を行う場合の超音波出力は、100W以上3000W以下が好ましい。
【0030】
[還元工程]
次に、微細化した酸化グラフェンを還元する。還元方法としては、化学還元が好ましい。化学還元の場合、還元剤としては、有機還元剤、無機還元剤が挙げられる。これらの中でも、還元後の洗浄の容易さから、無機還元剤が好ましく、亜ジチオン酸ナトリウム、亜ジチオン酸カリウムなどがより好ましい。
【0031】
〔有機溶媒混合工程〕
有機溶媒混合工程においては、還元工程後の中間体分散液中の水を有機溶媒に置換するために、中間体分散液と有機溶媒とを混合する。有機溶媒混合工程においては、還元工程を経て得られた中間体分散液と、有機溶媒とを直接混合する。すなわち、還元工程終了後から有機溶媒混合工程における有機溶媒との混合まで、中間体分散液は常に分散液の状態にあり、中間体分散液から分散媒を除去してグラフェンを粉末状態として回収する凍結乾燥等の操作は行わない。
【0032】
[強撹拌工程]
強撹拌工程においては、高せん断ミキサーを用いて、せん断速度毎秒5,000~毎秒50,000の条件で撹拌処理を行う。強撹拌工程において、高せん断ミキサーを用いてグラフェンを剥離することにより、グラフェン同士のスタックを解消することができる。高せん断ミキサーとしては、薄膜旋回方式、ローター/ステーター式、メディアミル式を採用したものが好ましく、例えば、“フィルミックス”(登録商標)30-30型(プライミクス社)、“クレアミックス”(登録商標)CLM-0.8S(エム・テクニック社)、“ラボスター”(登録商標)ミニLMZ015(アシザワ・ファインテック社)、スーパーシェアミキサーSDRT0.35-0.75(佐竹化学機械工業株式会社)などが挙げられる。
【0033】
強撹拌工程におけるせん断速度は、上述のとおり、毎秒5,000~毎秒50,000が好ましい。せん断速度を毎秒5,000以上とすることにより、グラフェンの剥離を促進し、グラフェンの(002)面に対応するピークの半値幅からScherrerの式により算出される結晶子サイズを、前述の範囲に容易に調整することができる。
【0034】
<窒素原子を有する耐熱性樹脂>
本発明の樹脂組成物には、窒素原子を有する耐熱性樹脂を含有する。耐熱性樹脂を含有することにより、樹脂組成物や硬化膜の耐熱性を向上させることができる。さらに、耐熱性樹脂が窒素原子を有することにより、耐熱性樹脂中の窒素原子とグラフェン上の窒素原子間の相互作用により、樹脂組成物中におけるグラフェンの分散性を高め、少量のグラフェンにより硬化膜の導電性、特に高温環境下での導電性を向上させることができる。ここで、本発明における耐熱性樹脂とは、アルゴン雰囲気下、200℃、30分間熱処理した後のサンプルにおいて、熱重量分析を行った際に、空気雰囲気下、25℃から昇温速度10℃/分で300℃まで昇温し、300℃で30分間保持したときの重量減少が3重量%未満であり、かつ、示差走査熱量測定を行った際の、25℃から330℃まで10℃/分で昇温したときに得られるDSC曲線において、300℃以下に融点が現れない樹脂のことを言う。
【0035】
窒素原子を有する耐熱性樹脂としては、熱硬化性樹脂が好ましく、例えば、ポリイミド樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、窒素原子を有するエポキシ樹脂やこれらの共重合体、これらと他の共重合成分との共重合体などが挙げられる。これらを2種以上含んでもよい。これらの中でも、耐熱性や、樹脂組成物中におけるグラフェンの分散性向上の観点から、ポリイミド樹脂が好ましい。
【0036】
また本発明の樹脂組成物には、耐熱性樹脂以外の樹脂を含んでもよいが、その含有量は少ないほうがよい。具体的には、樹脂組成物中の全樹脂成分の固形分100重量部に対して、耐熱性樹脂以外の樹脂の固形分含有量は、20重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましく、5重量部以下がさらに好ましい。
【0037】
本発明の樹脂組成物は、さらに架橋剤を含んでいてもよく、硬化膜の強度や基材への密着性をより向上させることができる。架橋剤としては、例えば、エポキシ化合物や多官能アミン化合物、アルコール化合物、シリカ化合物などが挙げられる。これらを2種以上含んでもよい。
【0038】
本発明の樹脂組成物は、さらに溶剤を含んでいてもよい。溶剤としては、例えば、NMP、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶剤、ジメチルスルホキシドやスルホランなどの硫黄系溶剤、テトラヒドロフランやジオキサンなどのエーテル系溶剤、シクロヘキサノン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤や、γ-ブチロラクトン、アセトニトリルなどの誘電率の高い溶剤などが挙げられる。これらを2種以上含んでもよい。
【0039】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、例えば、前述のグラフェン、耐熱性樹脂、溶剤および必要に応じてその他の成分を混合する方法などが挙げられる。グラフェンを粉末のまま混合してもよいが、樹脂組成物中におけるグラフェンの分散性をより向上させる観点から、グラフェンを溶剤中に分散させた状態で他の成分と混合することが好ましい。混合装置としては、せん断力を加えることができる装置が好ましく、例えば、プラネタリーミキサー、“フィルミックス”(登録商標)(プライミクス株式会社製)、自公転ミキサーなどが挙げられる。
【0040】
<硬化膜>
次に、本発明の硬化膜について説明する。本発明の硬化膜は、前述の樹脂組成物から膜を形成し、硬化させることにより得ることができる。
【0041】
硬化方法としては、例えば、加熱による硬化や紫外光照射による硬化などが挙げられる。
【実施例
【0042】
以下に実施例を用いて本発明を説明する。まず、各実施例および比較例における評価方法を以下に示す。
【0043】
[測定例1]X線光電子分光分析によるN/C比、O/C比の測定
各実施例および比較例に用いたグラフェン分散液から、凍結乾燥により溶剤を除去して得られたグラフェン粉末について、X線光電子分光器QuanteraSXM(Ulvac-PHI株式会社製)を用いてX線光電子分光分析を行い、炭素原子に基づくC1sメインピークを284.3eVとし、酸素原子に基づくO1sピークを533eV付近のピーク、窒素原子に基づくN1sピークを402eV付近のピークに帰属し、各ピークの面積比からO/C比およびN/C比を算出した。N/C比は、小数点第4位を四捨五入して小数点第3位まで求め、O/C比は、小数点第3位を四捨五入して小数点第2位まで求めた。分析条件とデータ処理条件は以下の通りとした。
<分析条件>
励起X線:Monochromatic AlKα1,2線(1486.6eV)
X線径:200μm
光電子検出角度(試料表面に対する検出器の傾き):45°
<データ処理条件>
スムージング:9-point smoothing
横軸補正:C1sメインピークを284.3eVとした。
【0044】
[測定例2]X線回折測定
各実施例および比較例に用いたグラフェン分散液から、凍結乾燥により溶剤を除去して得られたグラフェン粉末について、60℃、12時間の条件で真空乾燥を行った後、X線回折装置D8 ADVANCE(ブルカー株式会社製)を使用して、以下の条件でX線回折測定を行い、グラフェン結晶の(002)面に対応するピーク(2θ/θ=25°付近)の半値幅から、Scherrerの式を利用して結晶子サイズを算出した。
<分析条件>
走査範囲:5°~50°
ステップサイズ:0.016°
走査速度:1ステップ/秒。
【0045】
[測定例3]SEM観察によるグラフェンの面方向の大きさの測定
各実施例および比較例に用いたグラフェン分散液を0.01重量%に希釈した後、マイカ基板上に滴下して乾燥したサンプルを、走査型電子顕微鏡S-5500(株式会社日立ハイテク製)を使用して、グラフェンが適切な視野に収まる倍率において拡大観察した。無作為に選択した10個のグラフェンについて、その最長径と最短径を測定し、その平均値から個々のグラフェンの面方向の大きさを算出し、その算術平均値を算出することにより、グラフェンの面方向の大きさを求めた。
【0046】
[測定例4]分散性評価
各実施例および比較例により得られた硬化膜を、空気雰囲気下、300℃の温度で30分間熱処理した後、ECLIPSE L200N(ニコンインステック株式会社製)を使用して、接眼レンズ:×10倍、対物レンズ:×10倍の条件下、無作為に選択した5視野について、それぞれ1視野内で観察される凝集物の中で、最長径と最短径の平均値が20μm以上である凝集物を計数し、5視野の平均値を算出し、小数第一位で四捨五入し、凝集物の数とした。凝集物の数が10個以下の場合に分散性○、11~30個の場合に分散性△、31個以上の場合に分散性×と評価した。
【0047】
[測定例5]耐熱性評価
各実施例および比較例により得られた硬化膜を10mg程度秤量してアルミパンにのせ、TG/DTA6200(セイコーインスツル株式会社製)を使用して、空気雰囲気下、昇温速度10℃/分で25℃から300℃まで昇温した後、300℃で30分間保持し、加熱前後の重量を測定した。{(加熱前の重量-加熱後の重量)/加熱前の重量}×100を算出し、重量減少[%]を求めた。
【0048】
一方、各実施例および比較例により得られた硬化膜を10mg程度秤量してアルミニウム製の密閉パンに封止し、DSC6200(セイコーインスツル株式会社製)を使用して、25℃から330℃まで10℃/分で昇温して熱重量分析を行い、DSC曲線を得た。得られたDSC曲線から、融解ピークの有無を観察し、融点を求めた。
【0049】
上記重量減少が3重量%未満であり、かつ、300℃以下に融点が現れない場合に耐熱性〇、それ以外を耐熱性×と評価した。
【0050】
[測定例6]高温環境下における導電性評価
各実施例および比較例により得られた硬化膜を、空気雰囲気下、300℃の温度で30分間熱処理した後、“ロレスタ”(登録商標)GP(MCP-T610)(三菱化学アナリテック株式会社製)を使用して、シート抵抗値を算出した。また、マイクロメーター MDH-25MB(ミツトヨ株式会社製)を使用して、シート抵抗値を算出した箇所の厚みを測定した。得られたシート抵抗値と厚みの積から、体積抵抗率を算出し、高温環境下における導電性を評価した。
【0051】
[測定例7]高温環境下における基材への密着性評価
各実施例および比較例により得られたガラス基板と硬化膜との積層体を、空気雰囲気下、300℃の温度で30分間熱処理した後、クロスカット法により、基材への密着性を評価した。具体的には、ガラス基板上の硬化膜に、縦横方向にそれぞれ間隔1mmの切り込みを基材に到達するまで11本ずつ入れ、1mmの碁盤目領域を100箇所設けた。この碁盤領域に対して“セロテープ”(登録商標)CT-15(ニチバン株式会社製、幅15mm、長さ2cm)を気泡が入らないように貼付けし、ガラス基板の面に対して垂直方向に剥がした後、ガラス基板上に残存した1mmの碁盤目領域の数を計数し、基材への密着性を評価した。
【0052】
[合成例1]酸化グラフェンゲルの調製
1500メッシュの天然黒鉛粉末(上海一帆石墨有限会社製)を原料として、氷浴中の10gの天然黒鉛粉末に、220mlの98%濃硫酸、5gの硝酸ナトリウム、30gの過マンガン酸カリウムを入れ、混合液の温度を20℃以下に保持しながら1時間機械撹拌した。この混合液を氷浴から取り出し、35℃水浴中で4時間撹拌し、その後イオン交換水500mlを入れて得られた懸濁液を90℃で更に15分間撹拌した。最後に600mlのイオン交換水と50mlの過酸化水素を入れ、5分間撹拌し、酸化グラフェン分散液を得た。熱いうちにこれを濾過し、希塩酸溶液で金属イオンを洗浄し、イオン交換水で酸を洗浄し、pHが7になるまで洗浄を繰り返して酸化グラフェンゲルを調製した。調製した酸化グラフェンゲルの、X線光電子分光法により測定される酸素原子の炭素原子に対する元素比は0.53であった。
【0053】
[合成例2]表面処理グラフェン分散液-1の調製
合成例1により調製した酸化グラフェンゲルを、イオン交換水を用いて濃度30mg/mlに希釈し、超音波洗浄機を用いて30分間処理し、均一な酸化グラフェン分散液を得た。得られた酸化グラフェン分散液20mlと、表面処理剤として0.3gのドーパミン塩酸塩を混合し、ホモディスパー2.5型(プライミクス株式会社製)を用いて、回転数3,000rpmで60分間処理した。処理後の酸化グラフェン分散液を、超音波装置UP400S(hielscher株式会社製)を使用して、出力300Wで超音波を30分間印加(微細化工程)した。微細化工程を得た酸化グラフェン分散液を、イオン交換水を用いて5mg/mlに希釈し、希釈した分散液20mlに0.3gの亜ジチオン酸ナトリウムを入れて、40℃で撹拌しながら、1時間還元反応を行った。その後、減圧吸引濾過器を用いて濾過し、さらに水を用いて0.5重量%まで希釈して吸引濾過する洗浄工程を5回繰り返して洗浄して、表面処理グラフェン水分散液を得た。
【0054】
得られた表面処理グラフェン水分散液を、N-メチルピロリドン(NMP)を用いて濃度0.5重量%に希釈し、“フィルミックス”(登録商標)30-30型(プライミクス株式会社製)を用いて回転速度40m/s(せん断速度:毎秒20,000)で60秒間処理(強撹拌工程)した。処理後に減圧吸引濾過により溶剤を除去した。さらに水分を除くために、NMPを用いて濃度0.5重量%に希釈し、ホモディスパー2.5型(プライミクス株式会社製)を使用して回転数3,000rpmで30分間処理し、減圧吸引濾過する工程を2回繰り返したのち、NMPを用いて濃度1.5重量%に希釈することにより、表面処理グラフェン分散液-1を得た。
【0055】
[合成例3]表面処理グラフェン分散液-2の調製
表面処理剤として2-フェニルエチルアミン(PEA)を0.3g用いたこと以外は合成例2と同様にして表面処理グラフェン分散液-2を得た。
【0056】
[合成例4]表面処理グラフェン分散液-3の調製
表面処理剤としてベンジルアミンを0.3g用いたこと以外は合成例2と同様にして表面処理グラフェン分散液-3を得た。
【0057】
[合成例5]表面処理グラフェン分散液-4の調製
亜ジチオン酸ナトリウムの添加量を0.01gに変更したこと以外は合成例2と同様にして表面処理グラフェン分散液-4を得た。
【0058】
[合成例6]表面処理グラフェン分散液-5の調製
表面処理剤としてドーパミン塩酸塩を0.05g用いた以外は合成例2と同じ条件で表面処理グラフェン分散液-5を得た。
【0059】
[合成例7]表面処理グラフェン分散液-6の調製
表面処理剤としてドーパミン塩酸塩を1.0g用いた以外は合成例2と同じ条件で表面処理グラフェン分散液-6を得た。
【0060】
[合成例8]表面処理グラフェン分散液-7の調製
グラフェン粉末(XGScience株式会社製“XGNP”(登録商標)R10)を、イオン交換水を用いて濃度30mg/mlに希釈し、超音波洗浄機を用いて30分間処理し、グラフェン水分散液を得た。得られたグラフェン分散液20mlと、表面処理剤として0.3gのドーパミン塩酸塩を混合し、ホモディスパー2.5型(プライミクス株式会社製)を用いて、回転数3,000rpmで60分間処理した。その後、減圧吸引濾過器を用いて濾過したのちに、凍結乾燥することにより表面処理グラフェンを得た。得られた表面処理グラフェンに、固形分濃度が1.5重量%となるようにNMPを添加し、ホモディスパー2.5型(プライミクス株式会社製)を用いて、回転数3,000rpmで60間分処理することにより、表面処理グラフェン分散液-7を得た。
【0061】
[合成例9]表面処理グラフェン分散液-8の調製
表面処理剤として2-フェニルエチルアミン(PEA)を0.3g用いたこと以外は合成例8と同様にして表面処理グラフェン分散液-8を得た。
【0062】
[合成例10]グラフェン分散液の調製
表面処理剤を用いないこと以外は合成例2と同様にしてグラフェン分散液を得た。
【0063】
[合成例11]表面処理グラフェン分散液-9の調製
超音波装置UP400S(hielscher株式会社製)を使用して、出力300Wで超音波を20分間印加したこと以外は合成例2と同じ条件で表面処理グラフェン分散液-9を得た。
【0064】
[合成例12]表面処理グラフェン分散液-10の調製
超音波装置UP400S(hielscher株式会社製)を使用して、出力300Wで超音波を90分間印加したこと以外は合成例2と同じ条件で表面処理グラフェン分散液-10を得た。
【0065】
[合成例13]表面処理グラフェン分散液-11の調製
超音波装置UP400S(hielscher株式会社製)を使用して、出力300Wで超音波を2分間印加したこと以外は合成例2と同じ条件で表面処理グラフェン分散液-11を得た。
【0066】
[合成例14]ポリアミドイミド/ブタジエン共重合体溶液の調製
反応容器に、トリメリット酸無水物(TMA)(東京化成工業株式会社製 製品番号C0046)192g、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)(東京化成工業株式会社製 製品番号D0897)250g、カルボキシル基末端アクリロニトリル-ブタジエンゴム(日本ゼオン株式会社製“Nipol”(登録商標)LX511A)(ゴム成分)70gとNMP541gをそれぞれ仕込み、120℃で約1時間加熱撹拌した後、170℃に昇温して5時間加熱撹拌することにより重合反応を行った。冷却しながら、さらにNMPを加えて、固形分濃度が20重量%のポリマー溶液を得た。
【0067】
[実施例1]
導電材として合成例2で調製した表面処理グラフェン分散液-1(1.5重量%)をグラフェン固形分として6重量部、耐熱性樹脂としてポリイミド樹脂(東レ株式会社製“セミコファイン”(登録商標)SP-453)のNMP溶液(21重量%)をポリイミド固形分として100重量部加え、自公転ミキサーで2000rpm、5分間撹拌することにより樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をガラス基板上に塗工し、アルゴン雰囲気下、200℃で1時間熱処理を行い、厚み50μmの硬化膜を得た。
【0068】
[実施例2]
導電材として合成例3で調製した表面処理グラフェン分散液-2(1.5重量%)を使用したこと以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物、硬化膜を作製した。
【0069】
[実施例3]
導電材として合成例4で調製した表面処理グラフェン分散液-3(1.5重量%)を使用したこと以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物、硬化膜を作製した。
【0070】
[実施例4]
導電材として合成例8で調製した表面処理グラフェン分散液-7(1.5重量%)を使用したこと以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物、硬化膜を作製した。
【0071】
[実施例5]
導電材として合成例5で調製した表面処理グラフェン分散液-4(1.5重量%)を使用したこと以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物、硬化膜を作製した。
【0072】
参考例1
導電材として合成例9で調製した表面処理グラフェン分散液-8(1.5重量%)を使
用したこと以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物、硬化膜を作製した。
【0073】
[実施例7]
導電材として合成例2で調製した表面処理グラフェン分散液-1(1.5重量%)をグラフェン固形分として3重量部加えた以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物、硬化膜を作製した。
【0074】
[実施例8]
導電材として、合成例2で調製した表面処理グラフェン分散液-1(1.5重量%)をグラフェン固形分として1.5重量部加えた以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物、硬化膜を作製した。
【0075】
[実施例9]
導電材として合成例11で調製した表面処理グラフェン分散液-9(1.5重量%)を使用したこと以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物、硬化膜を作製した。
【0076】
[実施例10]
導電材として合成例12で調製した表面処理グラフェン分散液-10(1.5重量%)を使用したこと以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物、硬化膜を作製した。
【0077】
[実施例11]
導電材として合成例13で調製した表面処理グラフェン分散液-11(1.5重量%)を使用したこと以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物、硬化膜を作製した。
【0078】
[比較例1]
導電材として合成例6で調製した表面処理グラフェン分散液-5(1.5重量%)をグラフェン固形分として6重量部加えた以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物、硬化膜を作製した。
【0079】
[比較例2]
導電材として合成例7で調製した表面処理グラフェン分散液-6(1.5重量%)をグラフェン固形分として6重量部加えた以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物、硬化膜を作製した。
【0080】
[比較例3]
導電材として合成例10で調製したグラフェン分散液を使用した以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物、硬化膜を作製した。
【0081】
[比較例4]
窒素原子を有しない耐熱性樹脂としてポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)(富士フィルム和光純薬株式会社製 製品番号23969-50)のNMP溶液(20重量%)を使用した以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物、硬化膜を作製した。
【0082】
[比較例5]
樹脂成分として300℃以下に融点を有するポリアミド樹脂(東レ株式会社製“AQナイロン”(登録商標)P-70)のNMP溶液(10重量%)を使用した以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物、硬化膜を作製した。
【0083】
[比較例6]
樹脂成分として300℃における重量減少が3重量%以上であるポリビニルアルコール樹脂(PVA)(シグマアルドリッチ株式会社製 製品番号348406)のNMP溶液(50重量%)を使用した以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物、硬化膜を作製した。
【0084】
[比較例7]
導電材としてCNT(シグマアルドリッチ株式会社製多層カーボンナノチューブ 製品番号698849:直径6-13nm 長さ2.5-20μm)を使用したこと以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物、硬化膜を作製した。
【0085】
[比較例8]
導電材としてアセチレンブラック(デンカ株式会社製“デンカブラック”(登録商標))を粉体のまま6重量部使用したこと以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物、硬化膜を作製した。
【0086】
[比較例9]
導電材としてアセチレンブラック(デンカ株式会社製“デンカブラック”(登録商標))を粉体のまま6重量部、樹脂成分として合成例14で作製した300℃における重量減少が3重量%以上であるポリアミドイミド/ブタジエン共重合体のNMP溶液(20重量%)を100重量部使用したこと以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物、硬化膜を作製した。
【0087】
[比較例10]
導電材としてCNT(シグマアルドリッチ株式会社製多層カーボンナノチューブ 製品番号69849:直径6-13nm 長さ2.5-20μm)、耐熱性樹脂としてポリイミド樹脂(東レ株式会社製“セミコファイン”(登録商標)SP-453)のNMP溶液(21重量%)をポリイミド固形分として70重量部、樹脂成分として300℃における重量減少が3重量%以上であるポリビニルブチラール樹脂(積水化学株式会社製“エスレック”(登録商標)BM-2)のNMP溶液を(30重量%)を30重量部使用したこと以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物、硬化膜を作製した。
【0088】
各実施例および比較例の内容と評価結果を表1~2に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】