(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】リンク部材の形成方法及びリンク部材
(51)【国際特許分類】
F16C 7/02 20060101AFI20241008BHJP
F02B 75/04 20060101ALI20241008BHJP
F02D 15/02 20060101ALI20241008BHJP
F01M 1/06 20060101ALI20241008BHJP
B23K 26/34 20140101ALI20241008BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20241008BHJP
【FI】
F16C7/02
F02B75/04
F02D15/02 C
F01M1/06 B
F01M1/06 Z
B23K26/34
B23K26/21 Z
(21)【出願番号】P 2020206057
(22)【出願日】2020-12-11
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マック ロックヒン
(72)【発明者】
【氏名】塩飽 紀之
(72)【発明者】
【氏名】笹野 秀史
(72)【発明者】
【氏名】熨斗 良次
(72)【発明者】
【氏名】田井中 直也
(72)【発明者】
【氏名】大橋 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】根立 涼介
(72)【発明者】
【氏名】植村 勇太
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-077931(JP,A)
【文献】特開2019-203410(JP,A)
【文献】特開2019-143482(JP,A)
【文献】国際公開第2019/111827(WO,A1)
【文献】米国特許第04567815(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 7/02
F02B 75/04
F02D 15/02
F01M 1/06
B23K 26/34
B23K 26/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部と、連結部と、前記軸部を軸方向に延伸し前記連結部に開口する潤滑油路とを有し、少なくとも前記潤滑油路の一端側領域に油だまり空隙が形成されたリンク部材の形成方法であって、
金属素材を供給し、供給された前記金属素材をレーザ光により溶融固化させて金属層を形成し、前記金属層を所定ピッチで軸方向に複数層積層する3次元造形により
、前記油だまり空隙の少なくとも軸方向外側に階段状内面を形成しつつ前記リンク部材を形成すること、
を含むことを特徴とするリンク部材の形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載のリンク部材の形成方法であって、
前記リンク部材は、機械圧縮比を可変にする可変圧縮比エンジンにおいてピストンとロアリンクを連結し、前記油だまり空隙が少なくとも前記潤滑油路の前記ピストン側端部領域に形成されたアッパーリンクである、
ことを特徴とするリンク部材の形成方法。
【請求項3】
請求項1に記載のリンク部材の形成方法であって、
前記リンク部材は、エンジンのコネクティングロッドである、
ことを特徴とするリンク部材の形成方法。
【請求項4】
請求項1から3いずれか1項に記載のリンク部材の形成方法であって、
前記油だまり空隙を形成するときには前記油だまり空隙以外の他の部分を形成するときより前記所定ピッチを拡大する、
ことを特徴とするリンク部材の形成方法。
【請求項5】
請求項4に記載のリンク部材の形成方法であって、
前記油だまり空隙を形成するときには前記所定ピッチを0.08mmとし、前記他の部分を形成するときには前記所定ピッチを0.05mmとする、
ことを特徴とするリンク部材の形成方法。
【請求項6】
軸部と、連結部と、前記軸部を軸方向に延伸し前記連結部に開口する潤滑油路とを有し、少なくとも前記潤滑油路の一端側領域に油だまり空隙が形成されたリンク部材であって、
前記油だまり空隙の少なくとも軸方向外側に階段状内面を有する、
ことを特徴とするリンク部材。
【請求項7】
請求項6に記載のリンク部材であって、
機械圧縮比を可変にする可変圧縮比エンジンにおいてピストンとロアリンクを連結し、前記油だまり空隙が少なくとも前記潤滑油路の前記ピストン側端部領域に形成されたアッパーリンクである、
ことを特徴とするリンク部材。
【請求項8】
請求項6に記載のリンク部材であって、
エンジンのコネクティングロッドである、
ことを特徴とするリンク部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリンク部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には可変圧縮比エンジンが開示されている。この可変圧縮比エンジンは、下端部がピンを介してロアリンクに連結されるとともに、上端部がピンを介してピストンに連結されるアッパーリンクを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ピンによりリンク部材を連結する連結部ではピンが摺動する。このため、リンク部材の連結部に効率良く潤滑油を供給することが望まれる。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、リンク部材の連結部に効率良く潤滑油を供給することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様のリンク部材の形成方法は、軸部と、連結部と、軸部を軸方向に延伸し連結部に開口する潤滑油路とを有し、少なくとも潤滑油路の一端側領域に油だまり空隙が形成されたリンク部材の形成方法であって、金属素材を供給し、供給された金属素材をレーザ光により溶融固化させて金属層を形成し、金属層を所定ピッチで軸方向に複数層積層する3次元造形により、油だまり空隙の少なくとも軸方向外側に階段状内面を形成しつつリンク部材を形成することを含む。
【0007】
本発明の別の態様によれば、軸部と、連結部と、軸部を軸方向に延伸し連結部に開口する潤滑油路とを有し、少なくとも潤滑油路の一端側領域に油だまり空隙が形成されたリンク部材であって、油だまり空隙の少なくとも軸方向外側に階段状内面を有するリンク部材が提供される。
【発明の効果】
【0008】
これらの態様によれば、油だまり空隙が少なくとも軸方向外側に階段状内面を有するので、油だまり空隙に供給された潤滑油の一部を階段状内面により捕集し、油だまり空隙内に落下させることができる。結果、油だまり空隙に保持され連結部に供給される潤滑油の量が増えるので、リンク部材の連結部に効率良く潤滑油を供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】3次元造形によるワークの形成方法の説明図である。
【
図5】第1オイルポケットによる第1の油捕集態様の説明図である。
【
図6】階段状内面に油が捕集される様子を示す図である。
【
図7】第1オイルポケットによる第2の油捕集態様の説明図である。
【
図8】第1オイルポケットによる第3の油捕集態様の説明図である。
【
図9】アッパーリンクに作用する応力の第1の説明図である。
【
図10】アッパーリンクに作用する応力の第2の説明図である。
【
図11】リンク部材の変形例であるコネクティングロッドを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1はエンジン1の概略構成図である。エンジン1は内燃機関であり、ピストン2、アッパーリンク3、ロアリンク4、クランクシャフト5、コントロールリンク6、コントロールシャフト7、ピニオン8、アクチュエータ9、オイルジェット10、ピストンピン11、連結ピン12、連結ピン13、及び連結ピン14を備える。
【0012】
エンジン1は、ピストン2とクランクシャフト5とをアッパーリンク3及びロアリンク4の2つのリンクで連結する複リンク機構による可変圧縮比エンジンであり、ピストン2の上死点位置を変化させてエンジン1の機械圧縮比を可変にする。エンジン1では、ロアリンク4の姿勢をコントロールリンク6により調整することで、圧縮比が変更される。
【0013】
アッパーリンク3は、上端部でピストンピン11によりピストン2に連結される。ロアリンク4は、一端部で連結ピン12によりアッパーリンク3の下端部と連結され、他端部で連結ピン13によりコントロールリンク6の上端部と連結される。ロアリンク4は中央に連結孔を有し、連結孔にはクランクシャフト5のクランクピン5aが挿入される。クランクピン5aは、クランクシャフト5のクランクジャーナル5bに対して偏心させた位置に設けられ、クランクピン5aを中心として揺動自在にロアリンク4をクランクシャフト5に接続する。
【0014】
コントロールリンク6は、上端部で連結ピン13によりロアリンク4に連結され、下端部で連結ピン14によりコントロールシャフト7に連結される。コントロールシャフト7は、クランクシャフト5と平行に配置され、中心から偏心させた位置に連結ピン14が設けられる。コントロールシャフト7は、外周に形成されピニオン8と係合するギアを有する。アクチュエータ9はピニオン8を回転させることで、コントロールシャフト7を回転させ、連結ピン14の移動を通じてロアリンク4の姿勢を変更する。オイルジェット10はピストン2の冠面裏側及びアッパーリンク3に向けて油を噴射する。油には潤滑油が用いられる。
【0015】
アッパーリンク3は次に説明する3次元造形により形成される。
【0016】
図2は3次元造形によるワークWの形成方法の説明図である。
図2ではワークWが器である場合を示す。第1図、第2図に示すように、3次元造形には3Dプリンタ20が用いられる。3Dプリンタ20は3次元造形装置であり、エレベータ21とローラ22と走査装置23とレーザ光源24とを有する。
【0017】
エレベータ21のテーブル上にはベースBが設置される。ベースBには粉末からなる金属素材がローラ22によって供給され、これにより素材層L1が形成される。ローラ22がベースBに供給する金属素材は別途供給することができる。走査装置23はレーザ光源24からのレーザ光25を走査しながら素材層L1に照射する。走査装置23はワークWの3次元CADデータに基づきレーザ光25の走査を行う。レーザ光25が照射された部分の素材層L1は、第1図の上面図に示すように溶融固化され、金属層L2に形成される。第1図は一層目の金属層L2の形成が概ね完了した状態を示す。
【0018】
一層目の金属層L2が形成されるとエレベータ21が所定ピッチ下降し、二層目の金属層L2が同様にして形成される。結果、金属層L2が積層される。所定ピッチは変更可能な設定値であり、例えば0.05mmに設定される。第2図は金属層L2を複数層積層し、3Dプリンタ20によるワークWの3次元造形が概ね完了した状態を示す。形成されたワークWはレーザ光25が照射されていない素材層L1とともに、第3図に示すように3Dプリンタ20からベースBごと取り出される。その後は第4図に示すように素材層L1の除去が行われ、さらに第5図に示すようにワークWがベースBから切り離されることで、第6図に示すようにワークWが完成する。
【0019】
本実施形態では、アッパーリンク3がこのような3次元造形によりエレベータ21の昇降方向に軸方向を合わせて金属層L2を複数層積層することで形成される。これにより、アッパーリンク3が3Dプリンタ20においていわば竪壁として積層造形される。次にこのように形成されたアッパーリンク3についてさらに説明する。
【0020】
図3はアッパーリンク3の外観図である。
図4はアッパーリンク3のカットモデル図である。
図4では、第1ピン穴321及び第2ピン穴331の延伸方向である第1の幅方向W1に沿った縦断面でアッパーリンク3のカットモデルを示す。第2の幅方向W2は、第1の幅方向W1に直交する幅方向を示す。アッパーリンク3は軸部31、第1連結部32、第2連結部33、第1油穴34、第2油穴35、潤滑油路36、第1オイルポケット37、第2オイルポケット38、第1凹み部39及び第2凹み部40を有する。
【0021】
軸部31は、軸方向中央に向かって次第に細くなる収束形状を有する。軸部31の一端側である上端側には第1連結部32が形成され、他端側である下端側に第2連結部33が形成される。第1連結部32はピストン2との連結部であり、第1ピン穴321を有する。第1ピン穴321にはベアリングメタルを介してピストンピン11が設けられる。第2連結部33はロアリンク4との連結部であり、第2ピン穴331を有する。第2ピン穴331にはベアリングメタルを介して連結ピン12が設けられる。
【0022】
第1油穴34はアッパーリンク3の上端側に設けられ、第2油穴35はアッパーリンク3の下端側に設けられる。第1油穴34はアッパーリンク3内に形成された第1オイルポケット37に連通し、第2油穴35はアッパーリンク3内に形成された第2オイルポケット38に連通する。第1油穴34及び第2油穴35それぞれは、第2の幅方向W2に沿って軸部31を貫通する。第1油穴34及び第2油穴35それぞれは、軸方向中央に向かって次第に幅が狭くなる形状を有する。第1油穴34及び第2油穴35にはオイルジェット10から噴射された油が流入する。
【0023】
潤滑油路36は軸部31を軸方向に延伸し、第2連結部33に開口する。潤滑油路36の上端部領域つまりピストン2側端部領域には、第1オイルポケット37が形成される。潤滑油路36の下端部領域つまりロアリンク4側端部領域には、第2オイルポケット38が形成される。第1オイルポケット37及び第2オイルポケット38はともに油だまり空隙であり、第2連結部33に供給される油を保持する。潤滑油路36は第1オイルポケット37の下端部に開口するとともに、第2オイルポケット38を軸方向に貫通して第2連結部33の第2ピン穴331に開口する。第2ピン穴331に設けられるベアリングメタルには、周方向に沿った油溝が内周面に形成されるとともに、当該油溝と第2ピン穴331に開口する潤滑油路36とを連通する油穴が形成される。
【0024】
第1凹み部39は軸部31の上端部に形成され、第2凹み部40は軸部31の下端部に形成される。第1凹み部39及び第2凹み部40それぞれは、第1の幅方向W1に位置する軸部31の両側面に形成される。第1凹み部39及び第2凹み部40それぞれは、第2の幅方向W2に幅を有する。第1凹み部39及び第2凹み部40それぞれは、軸方向中央に向かって幅が次第に狭くなる形状を有する。
【0025】
図3に示すように、第1ピン穴321が開口する第1連結部32の両端面は、アッパーリンク3の上端側に向かって次第に間隔が狭くなるテーパ状の形状を有する。テーパ状の形状は第1連結部32の両端面上部に形成され、ピストンピン11がピストン2の冠面裏側に供給された油を効率良く受けることを可能にする。
【0026】
図4に示すように、潤滑油路36は第1オイルポケット37及び第2オイルポケット38を連通する。第1オイルポケット37及び第2オイルポケット38にはオイルジェット10から供給された油が保持される。第2オイルポケット38にはさらに第1オイルポケット37から潤滑油路36を介して流入した油が保持される。第1オイルポケット37及び第2オイルポケット38それぞれは、第2連結部33に供給する油を確保することにより、潤滑不足が発生しないよう第2連結部33に油を効率良く供給することを可能にする。
【0027】
図4に示すように、潤滑油路36、第1オイルポケット37及び第2オイルポケット38それぞれは軸方向中央に向かって次第に細くなる収束形状を有する。このため、第1オイルポケット37は漏斗状に形成され、第1オイルポケット37には上端側で漏斗状に形成された潤滑油路36が連通する。これにより、オイルジェット10から第1オイルポケット37内に供給された油が潤滑油路36を介して第2連結部33に効率良く供給される。第1オイルポケット37では、オイルジェット10から噴射された油が以下で説明するように捕集される。
【0028】
図5は第1オイルポケット37による第1の油捕集態様の説明図である。
図6は階段状内面371aに油が捕集される様子を示す図である。
図5では第1オイルポケット37の周辺部を第2の幅方向W2に沿った縦断面で示す。
図5に複数の矢印で示すように、オイルジェット10から第1オイルポケット37に対して噴射された油の噴霧は、アッパーリンク3に衝突せずに進む油と、第1オイルポケット37内に供給される油とを含む。アッパーリンク3に衝突せずに進む油は、ピストン2の冠面裏側に供給される。第1オイルポケット37内に供給される油は、第1オイルポケット37の軸方向外側つまり上側の内面371に到達する。
【0029】
前述したように、アッパーリンク3は3次元造形により形成され、3次元造形では所定ピッチで積層造形が行われる。このため、内面371は積層造形により形成される階段状内面371aを有する。階段状内面371aに到達した油は、
図6に示すように階段状内面371aの段差部により捕集される。階段状内面371aでは、段差部により様々なサイズの油滴を捕集することが可能になる。階段状内面371aに捕集された油は、その後、
図5に示すように第1オイルポケット37内に落下する。これにより、第1オイルポケット37に保持され第2連結部33に供給される油の量が増えるので、第2連結部33に効率良く油が供給される。
【0030】
図6に示すピッチPは、第1オイルポケット37形成時の所定ピッチを示す。所定ピッチは第1オイルポケット37形成時には通常時つまり第1オイルポケット37以外の他の部分を形成するときより拡大される。従って、ピッチPは通常時の所定ピッチより大きい。本実施形態では、所定ピッチは通常時には0.05mmとされ、第1オイルポケット37形成時には0.08mmとされる。結果、成層造形により形成される面は通常時には滑らかとなり、第1オイルポケット37形成時には階段状内面371aの段差が拡大して油を捕集し易くなる。その一方で、所定ピッチが拡大される第1オイルポケット37形成時には通常時よりレーザ光25による照射エネルギが大きくなる。このため、通常時には0.05mmの所定ピッチで積層造形することにより、照射エネルギを抑制しつつ、密度が高く強度が高い竪壁を形成することが可能になる。
【0031】
図7は第1オイルポケット37による第2の油捕集態様の説明図である。
図7では第1オイルポケット37の周辺部を横断面で示す。第1オイルポケット37では、第1オイルポケット37の側面372にも階段状内面372aが形成される。階段状内面372aは各層におけるレーザ光25の走査により形成される。階段状内面372aにより第1オイルポケット37の側面372にも油が捕集され易くなるので、第1オイルポケット37に保持され第2連結部33に供給される油の量が増える。
【0032】
図8は第1オイルポケット37による第3の油捕集態様の説明図である。第1図はピストン2が上死点から下死点に向かって移動している場合を示す。第2図はピストン2が下死点に到達した場合を示す。内面371はさらに平面部371bをさらに有する。平面部371bは階段状内面371aの内側つまり内面371の中央に形成され、潤滑油路36に対向する。平面部371bではピストン2が上死点から下死点に向かって移動している際に、第1図に示されるように油が保持され、これにより第1オイルポケット37に保持され第2連結部33に供給される油の量が増える。平面部371bに保持された油はピストン2が下死点に到達すると、第2図に示されるように慣性力により平面部371bから離れて潤滑油路36に落下し、潤滑油路36を介して第2連結部33に供給される。
【0033】
アッパーリンク3は次に説明するように応力σに対しても強固な形状とされ、且つ軽量化される。
【0034】
図9はアッパーリンク3に作用する応力σの第1の説明図である。
図9ではアッパーリンク3を第1の幅方向W1に沿った縦端面で示す。アッパーリンク3には第1ピン穴321を介してピストンピン11から荷重F1が作用するとともに、第2ピン穴331を介して連結ピン12から荷重F2が作用する。軸部31では、第1オイルポケット37の第1の幅方向W1両側の部分、及び第2オイルポケット38の第1の幅方向W1両側の部分が、軸方向中央且つ内側に向かって延伸する。このため、第1オイルポケット37の第1の幅方向W1両側の部分には、軸方向中央且つ内向きの応力σ1及び応力σ2が荷重F1により発生する。また、第2オイルポケット38の第1の幅方向W1両側の部分には、軸方向中央且つ内向きの応力σ3及び応力σ4が荷重F2により発生する。
【0035】
第1の幅方向W1の一方側(図中左側)の応力σ1及び応力σ3は、一方側から他方側を向く方向(図中右方向)の変位方向D1に軸部31を変位させようとする。第1の幅方向W1の他方側(図中右側)の応力σ2及び応力σ4は、他方側から一方側を向く方向(図中左方向)の変位方向D2に軸部31を変位させようとする。つまり、アッパーリンク3では、収束形状を有する軸部31、第1オイルポケット37及び第2オイルポケット38により4方向にバランス良く分散された応力σ1から応力σ4が軸部31の変位を抑制するように作用し合う。これにより、第1の幅方向W1の軸部31の変位が抑制されるので、応力σに対して強固な形状が得られ、且つ軽量化も図られる。
【0036】
図10はアッパーリンク3に作用する応力σの第2の説明図である。
図10では第1ピン穴321及び第2ピン穴331の軸方向に沿って見たアッパーリンク3を示す。前述した通り、第1凹み部39及び第2凹み部40それぞれは、軸方向中央に向かって幅が次第に狭くなる形状を有する。このため、軸部31では、第1凹み部39の第2の幅方向W2両側の部分、及び第2凹み部40の第2の幅方向W2両側の部分が軸方向中央且つ内側に向かって延伸する。結果、第1凹み部39の第2の幅方向W2両側の部分には、軸方向中央且つ内向きの応力σ5及び応力σ6が荷重F1により発生する。また、第2凹み部40の第2の幅方向W2両側の部分には、軸方向中央且つ内向きの応力σ7及び応力σ8が荷重F2により発生する。
【0037】
第2の幅方向W2の一方側の応力σ5及び応力σ7は、一方側から他方側を向く方向の変位方向D3に軸部31を変位させようとする。第2の幅方向W2の他方側の応力σ6及び応力σ8は、他方側から一方側を向く方向の変位方向D4に軸部31を変位させようとする。つまり、アッパーリンク3では第1凹み部39及び第2凹み部40により4方向にバランス良く分散された応力σ5からσ8が軸部31の変位を抑制するように作用し合う。これにより、第2の幅方向W2の軸部31の変位も抑制されるので、応力σに対してさらに強固な形状が得られ、且つ軽量化も図られる。
【0038】
次に本実施形態の主な作用効果について説明する。
【0039】
本実施形態にかかるリンク部材の形成方法は、軸部31と、第2連結部33と、軸部31を軸方向に延伸し第2連結部33に開口する潤滑油路36とを有し、少なくとも潤滑油路36の一端側領域である上端部領域に第1オイルポケット37が形成されたリンク部材としてのアッパーリンク3で用いられる。本実施形態にかかるリンク部材の形成方法は、金属素材を供給し、供給された金属素材により構成される素材層L1をレーザ光25により溶融固化させて金属層L2を形成し、金属層L2を所定ピッチで軸方向に複数層積層する3次元造形によりリンク部材としてのアッパーリンク3を形成することを含む。
【0040】
また、本実施形態にかかるリンク部材としてのアッパーリンク3は、軸部31と、第2連結部33と、軸部31を軸方向に延伸し第2連結部33に開口する潤滑油路36とを有し、少なくとも潤滑油路36の一端側領域である上端部領域に第1オイルポケット37が形成されたリンク部材であって、第1オイルポケット37の少なくとも上側つまり少なくとも軸方向外側に階段状内面371aを有する。
【0041】
このような方法及びリンク部材によれば、第1オイルポケット37が少なくとも軸方向外側に階段状内面371aを有する。このため、第1オイルポケット37に供給された油の一部を階段状内面371aにより捕集し、第1オイルポケット37内に落下させることができる。結果、第1オイルポケット37に保持され第2連結部33に供給される油の量が増えるので、第2連結部33に効率良く油を供給できる。
【0042】
本実施形態では、機械圧縮比を可変にする可変圧縮比エンジンであるエンジン1においてピストン2とロアリンク4を連結し、第1オイルポケット37が少なくとも潤滑油路36の上端部領域つまりピストン2側端部領域に形成されたアッパーリンク3がリンク部材を構成する。この場合、アッパーリンク3とロアリンク4とを連結する連結ピン12が摺動する構造のエンジン1において、構造上スムーズな油の供給が課題となる第2連結部33に効率良く油を供給できる。
【0043】
本実施形態では、所定ピッチは第1オイルポケット37を形成するときには第1オイルポケット37以外の他の部分を形成するときより拡大される。これにより、第1オイルポケット37形成時に階段状内面371aの段差を拡大して油を捕集し易くすることができる。
【0044】
本実施形態では、第1オイルポケット37を形成するときには所定ピッチは0.08mmとされ、第1オイルポケット37以外の他の部分を形成するときには所定ピッチは0.05mmとされる。これにより、第1オイルポケット37以外の他の部分を形成するときには照射エネルギを抑制しつつ、密度が高く強度が高い竪壁を形成することができる。
【0045】
次にリンク部材の変形例について説明する。
【0046】
図11はリンク部材の変形例であるコネクティングロッド51を示す図である。エンジン50はコネクティングロッド51でピストン52とクランクシャフト53とを連結し、複リンク機構を有しない。コネクティングロッド51は、軸部511と、クランクシャフト53のクランクピン531に連結される連結部512と、軸部511を軸方向に延伸し連結部512に開口する潤滑油路513とを有し、潤滑油路513の一端側領域である上端部領域に油だまり空隙であるオイルポケット514が形成されたリンク部材であって、ロッド本体及びキャップのうち少なくともロッド本体が3次元造形により形成される。コネクティングロッド51は、ロッド本体が3次元造形により形成されることにより、オイルポケット514の少なくとも上側つまり少なくとも軸方向外側に階段状内面514aを有する構成とされる。潤滑油路513及びオイルポケット514は軸方向他端側である下端側に向かって次第に細くなる収束形状を有する。所定ピッチはアッパーリンク3を3次元造形する場合と同様に設定することができる。
【0047】
この場合でも、オイルポケット514に供給された油の一部を階段状内面514aにより捕集し、オイルポケット514内に落下させることができるので、連結部512に効率良く油を供給できる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0049】
1 エンジン(可変圧縮比エンジン)
2 ピストン
20 3Dプリンタ
25 レーザ光
3 アッパーリンク
31 軸部
33 第2連結部(連結部)
36 潤滑油路
37 第1オイルポケット(油溜り空隙)
371a 階段状内面
4 ロアリンク
50 エンジン
51 コネクティングロッド
511 軸部
512 連結部
513 潤滑油路
514 オイルポケット(油溜り空隙)
514a 階段状内面
L1 素材層
L2 金属層