(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ローラハース式熱処理炉
(51)【国際特許分類】
F27B 9/24 20060101AFI20241008BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
F27B9/24 R
C21D1/00 115Z
(21)【出願番号】P 2020207049
(22)【出願日】2020-12-14
【審査請求日】2023-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 真悟
(72)【発明者】
【氏名】丸山 俊介
(72)【発明者】
【氏名】佐治 秀一
(72)【発明者】
【氏名】松本 則幸
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-096390(JP,A)
【文献】特開2003-105524(JP,A)
【文献】特開2000-111262(JP,A)
【文献】特開2003-240440(JP,A)
【文献】国際公開第03/105176(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 9/24
C21D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を加熱する加熱室と、
該加熱室に配置され前記被処理物を支持し搬送するローラと、
該ローラを駆動させるローラ駆動手段と、
前記被処理物もしくは前記被処理物を載置するトレーを検知する検知装置と、
停止状態にある前記ローラを正転もしくは逆転方向に所定角度回転させるオシレーション動作と、前記検知装置からの信号に基づいて前記ローラを回転させて前記被処理物の位置を補正する位置補正動作とを実行可能な制御部と、
を備え、
前記制御部は前記オシレーション動作を繰り返し実行する際の間隔よりも長い間隔を開けて前記位置補正動作を実行する、ローラハース式熱処理炉。
【請求項2】
前記制御部は前記オシレーション動作を所定の回数実行した後に前記位置補正動作を実行する、請求項1に記載のローラハース式熱処理炉。
【請求項3】
前記オシレーション動作において、前記ローラを停止状態から180度回転させる、請求項1,2の何れかに記載のローラハース式熱処理炉。
【請求項4】
前記検知装置は検知光を投射する投光部と前記検知光を受光する受光部とを備え、
これら投光部および受光部は、
内部に前記検知光を挿通させる検知光通路を有する筒状管と、
前記検知光通路上に配置され前記検知光を透過させる窓と、
該窓よりも前記加熱室側の前記検知光通路上に配置され前記検知光通路を遮蔽可能な遮蔽部材と、
をそれぞれ備えている、請求項1~3の何れかに記載のローラハース式熱処理炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は炉床部分がローラで構成されたローラハース式熱処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば下記特許文献1に記載されているように、炉床部分がローラで構成されたローラハース式の熱処理炉が知られている。ローラハース式熱処理炉では、ローラ上に載置された鋼やセラミックス等の被処理物がローラの回転により加熱室(加熱区間)に搬送され、ローラで支持された状態で熱処理される。このため、ローラの自重および被処理物の荷重によりローラが熱変形する虞がある温度域で熱処理が行われる場合には、ローラの熱変形防止に努める必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、浸炭処理室、降温・保持室等においてトレー等を低速で繰り返し後退、前進動作させるオシレーション運動を行う点が開示されている。例えば、加熱室内で停止状態にあるローラを一定時間経過毎に回転させるオシレーション動作は、ローラに作用する荷重の方向を変えることができローラの熱変形を防止するための手段として有効である。
しかしながら、ローラを回転させるオシレーション動作は被処理物の移動を伴なう。このためオシレーション動作を頻度高く行った場合には、ローラと被処理物との間(トレーが介在している場合はローラとトレーとの間)の滑りにより、被処理物が想定した位置に停止せず位置ずれを起こす場合がある。処理温度が高い場合、また処理時間が長い場合には、熱変形防止のためのオシレーション動作の実行頻度が高くなり、これに伴ない大きな位置ずれが生じ易くなり、被処理物が加熱室を閉鎖する扉等に衝突し破損が生じることも懸念される。
【0005】
一方、センサを用いてオシレーション動作を実行する毎に被処理物の位置を検知し、その位置を修正することで被処理物の位置ずれを防止することも考えられるが、高温の加熱室内では被処理物や炉材起因で発生する蒸発物(コンタミ)が検知光の光軸上に設けられた窓等に付着することによりセンサの検知機能が低下してしまう問題がある。
【0006】
本発明は以上のような事情を背景とし、被処理物を検知する機能の悪化を抑制しつつ高温下におけるローラの熱変形を抑制することができるローラハース式熱処理炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
而して本発明のローラハース式熱処理炉は、被処理物を加熱する加熱室と、該加熱室に配置され前記被処理物を支持し搬送するローラと、該ローラを駆動させるローラ駆動手段と、前記被処理物もしくは前記被処理物を載置するトレーを検知する検知装置と、停止状態にある前記ローラを正転もしくは逆転方向に所定角度回転させるオシレーション動作と、前記検知装置からの信号に基づいて前記ローラを回転させて前記被処理物の位置を補正する位置補正動作と、を実行可能な制御部と、を備え、
前記制御部は前記オシレーション動作を繰り返し実行する際の間隔よりも長い間隔を開けて前記位置補正動作を実行することを特徴とする。
【0008】
ローラハース式熱処理炉において、高温下で停止状態にあるローラには一定方向に継続的にローラの自重および被処理物の荷重が作用するため変形が生じ易いところ、本発明によれば加熱室に配置されたローラを正転もしくは逆転方向に所定角度回転させるオシレーション動作を実行することにより、高温下におけるローラの熱変形を抑制することができる。
一方、オシレーション動作の実行に伴ない懸念される加熱室内での被処理物の位置ずれは、検知装置からの信号に基づいてローラを回転させて被処理物の位置を補正する位置補正動作を実行することにより修正することができる。
そして本発明は、オシレーション動作を繰り返し実行する際の間隔よりも長い間隔を開けて位置補正動作を実行するため、検知装置への蒸発物の付着が低減され、被熱処理物を検知する機能の悪化を抑制することができる。
【0009】
ここで本発明では、前記オシレーション動作を所定の回数実行した後に前記位置補正動作を実行することができる。
【0010】
また本発明では、前記オシレーション動作において、前記ローラを停止状態から180度回転させることが望ましい。オシレーション動作に伴なう被処理物の移動量を抑えつつ熱変形防止効果を得ることができる。
【0011】
また本発明では、前記検知装置が検知光を投射する投光部と前記検知光を受光する受光部とを備えて構成し、
これら投光部および受光部が、内部に前記検知光を挿通させる検知光通路を有する筒状管と、前記検知光通路上に配置され前記検知光を透過させる窓と、該窓よりも前記加熱室側の前記検知光通路上に配置され前記検知光通路を遮蔽可能な遮蔽部材と、をそれぞれ備えるように構成することができる。
このようにすれば、検知光を透過させる窓への蒸発物の付着を筒状管と遮蔽部材により低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態のローラハース式熱処理炉の全体構成を示した図である。
【
図2】同ローラハース式熱処理炉における第1の加熱室の内部を示した断面図である。
【
図4】同加熱室における検知装置の投光部の構成を示した図である。
【
図5】ワイパー装置およびその周辺部を
図4のV方向から示した図である。
【
図6】オシレーション動作に関連する要素について示したブロック図である。
【
図7】同加熱室において実行されるオシレーション動作および位置補正動作の処理手順を示すフローチャートである。
【
図8】
図7に続く処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に本発明の実施形態を以下に詳しく説明する。
【0014】
図1は本発明の一実施形態のローラハース式熱処理炉の概略全体構成を示している。同図において、1はローラハース式熱処理炉(以下、単に熱処理炉と称する場合がある)で、鋼やセラミックス等の被処理物Wをトレー3に載せた状態で連続的に熱処理するものである。
【0015】
同図で示すように、熱処理炉1は略円筒状の鋼製の炉体5を備えている。炉体5の図中左側には装入用の入口6が形成され、また炉体5の図中右側には取出用の出口7が形成されている。これら入口6および出口7には、それぞれエアシリンダ式の開閉装置18により開閉駆動される扉8および扉9が設けられている。即ち、本例では図中左側から装入された被処理物Wが図中右方向に向かって搬送される。
【0016】
炉体5の内部は、被処理物Wが搬送される方向に沿って、前室10、第1の加熱室12、第2の加熱室14、および冷却室16の四つの区間に分けられている。各室の間には、それぞれエアシリンダ式の開閉装置19が設けられ、各室に形成された開口の扉20,21,22を開閉駆動させている。
【0017】
前室10は、加熱室12,14内に大気が侵入するのを防止する区間で、真空ポンプ25に接続された脱気用の配管26および図示を省略したN2供給装置に接続されたN2ガス供給用の配管27がそれぞれ接続されている。入口6から被処理物Wが装入され、扉8が閉じられると、前室10内が雰囲気ガス(N2ガス)で置換される。
【0018】
第1の加熱室12および第2の加熱室14は、予め定められたヒートパターンに基づいて被処理物Wを加熱処理する区間で、内部に耐熱性の断熱材30を有しており、その断熱材30が断熱壁31を構成している。断熱壁31の内側は被処理物Wを収容する収容室32とされており、収容室32には加熱手段としての電熱式のヒータ35が設けられている。
【0019】
冷却室16は被処理物Wを冷却する区間で、雰囲気ガス冷却用のクーラ37と雰囲気ガス循環用のファン(図示省略)を備えている。
【0020】
本例の熱処理炉1では、前室10、第1の加熱室12、第2の加熱室14および冷却室16の各室にそれぞれ一組の被処理物Wおよびトレー3が収容可能とされている。なお本例では、後述するようにオシレーション動作を行う場合があるため、被処理物Wおよびトレー3の前後には、オシレーション動作に伴なう移動で各室を閉鎖する扉と干渉しない程度のスペースが確保されている。
【0021】
熱処理炉1を構成する各室には、搬送用のローラ40が搬送方向に沿って並設されている。ローラ40はステンレス材や耐熱鋳鋼などからなる金属製のローラを用いることもできるが、1100℃以上の温度で使用した場合に変形が生じやすいため、本例では耐熱度が高く2000℃程度まで強度低下が少ないC/Cコンポジット製のローラを用いている。なお、本例ではトレー3についてもC/Cコンポジット製のものを用いている。このようにすることで、ローラ40とトレー3との間の摩擦力を高めることができ、後述するオシレーション動作における位置ずれを抑制することができる。
【0022】
前室10、第1の加熱室12、第2の加熱室14、および冷却室16の各室内に配置された複数のローラ40は、それぞれローラ群42,43,44,45を構成している。これらローラ群42,43,44,45はそれぞれ独立駆動し、トレー3上の被処理物Wを搬送方向下流側(図中右方向)に順次搬送し、また必要に応じて後述するオシレーション動作や位置補正動作を実行する。なお、下流側の処理室に搬送された被処理物Wは各室に設置された検知装置70からの信号に基づいて所定の位置に停止する。
【0023】
次に、第1の加熱室12に設置されたローラおよびローラ群について詳しく説明する。
図2は第1の加熱室12の断面図、
図3は第1の加熱室12に設けられたローラ群43の構成を示した図である。
図2に示すように、全体として棒状をなすローラ40は、その両端部が支持部材52により回転自在に支持されている。軸方向の中央部分には一対の太径部50,50が鏡面対称に形成されており、これら一対の太径部50,50によって形成された凹部51にトレー3が収容可能とされている。また、ローラ40の一方の端部(図中左側の端部)にはスプロケット54と55が固設されている。
60は、ローラ群43に含まれる複数のローラ40を回転させるための駆動モータである。駆動モータ60は正逆回転可能なステッピングモータで構成され、後述する制御部65からの指示に基づいて回転が制御される。
【0024】
図3で示すように、ローラ群43は第1の加熱室12内に配置された7本のローラ40a~40gと第1の加熱室12と第2の加熱室14との間に位置するローラ40fとを含んで構成されている。ローラ40aのスプロケット54と、ローラ40fのスプロケット54と、駆動モータ60の出力軸に固設されたスプロケット61とにチェーン62が巻き掛けられ、駆動モータ60の回転駆動がローラ40aとローラ40fに伝達される。またローラ40a~40gについては、隣り合うローラ同士のスプロケット54または55にそれぞれチェーン63が巻き掛けられ、駆動モータ60の回転駆動がローラ40aを介してこれらローラ40b~40gに伝達される。このように構成されたローラ群43では、駆動モータ60を回転させることにより、各ローラが正転もしくは逆転方向に同量の角度だけ回転する。この実施形態では、これら駆動モータ60,スプロケット54,55,61、チェーン62,63等がローラ駆動手段を成している。
【0025】
以上、第1の加熱室12のローラ群43について説明したが、他の室のローラ群42,44,45についても基本的な構造は同じであり、各室内に配置されたローラは駆動用モータを回転させることにより、各ローラ40は正転もしくは逆転方向に同量の角度だけ回転することができる。
ローラ40とトレー3との間の滑りにより、被処理物Wが想定した位置に停止せず位置ずれを起こすことから、ローラ40の回転速度すなわちローラ40の移動速度は、ローラ40とトレー3との間で滑りが生じ難い速度であることが望ましく、具体的には、2m/min以下であることが望ましい。
【0026】
次に、第1の加熱室12を例にして各室に取り付けられた検知装置70について説明する。
図2に示すように、被処理物Wもしくはトレー3を検知する検知装置70は、検知光を投射する投光部71と、検知光を受光する受光部71Bとを備えている。被処理物Wの移動経路を挟んで投光部71は被処理物Wの上方に、受光部71Bは被処理物Wの下方に配置されている。詳しくは、投光部71から斜め下向きに発せられた検知光がトレー3の幅方向の端部近傍に当るように投光部71の位置が調整され、受光部71Bは検知光の軸上に取り付けられている。
投光部71および受光部71Bは、その主要部分が炉体5の外側に位置するように配置され、棒状に延びる筒状管76の先端部分が第1の加熱室12内に位置している。
【0027】
図4は、第1の加熱室12に取り付けられた投光部71を示した図である。投光部71は、炉体5の外側に配置された投光側センサ74を備え、投光側センサ74の投射側には内部に検知光を挿通させる検知光通路77を有する筒状管76が配置されている。筒状管76の基端側(投光側センサ74に近い側)の検知光通路77上には投光窓78が配置され、投光窓78よりも筒状管76の先端側(加熱室12側)には検知光通路77を遮蔽可能な遮蔽部材80が配置されている。
【0028】
投光窓78は耐熱ガラスで構成され、その周辺部が筒状管76の基端部にて保持されている。
遮蔽部材80はボール弁で構成され、検知光通路77上の弁部を軸81周りに回転させることで検知光通路77を連通状態と遮蔽状態とに切り替え可能とされている。検知光を投射する場合には遮蔽部材80を開いて検知光通路77を連通状態とする一方、検知光を投射しない場合には遮蔽部材80を閉じて検知光通路77を遮蔽状態とすることで被処理物や炉材起因で発生する蒸発物が投光窓78に付着するのを抑制することができる。
【0029】
図5で示すように、投光部71は投光窓78の加熱室12側の面に付着する蒸発物を除去するためのワイパー装置84を備えている。ワイパー装置84は、エアシリンダ85と揺動部材89とを備えている。揺動部材89は基端部89aと被保持部89bと先端部89cとを有し、基端部89aはエアシリンダ85のロッド先端部に支持されたピン87周りに回転可能に連結されている。被保持部89bは断面円形状をなし筒状管76の端部76aにて回転可能に支持されている。先端部89cは投光窓78の加熱室12側の面に対向しており、投光窓78に当接する部分がフッ素ゴム製のスクレイパ部とされている。このように構成されたワイパー装置84は、エアシリンダ85のロッド86が図中上下方向に進退すると、揺動部材89の先端部89cに形成されたスクレイパ部が被保持部89bを中心に揺動して、投光窓78の加熱室12側の面に付着した付着物を除去することができる。
【0030】
受光部71Bにおいても、投光部71と同様に筒状管76と受光窓78と遮蔽部材80を備えている。
図2で示すように、受光部71Bは炉体5の外側に配置された受光側センサ74Bを備え、受光側センサ74Bの受光側(加熱室12側)には内部に検知光を挿通させる検知光通路77を有する筒状管76が配置されている。筒状管76の基端側(受光側センサ74Bに近い側)の検知光通路77上には受光窓78が配置され、受光窓78よりも筒状管76の先端側(加熱室12側)には検知光通路77を遮蔽可能な遮蔽部材80が配置されている。
【0031】
このように構成された検知装置70は、投光部71から投射された検知光がトレー3もしくは被処理物Wによって遮られた際の信号に基づいて、トレー3もしくは被処理物Wを検知する。検知装置70は、第1の加熱室12以外の室10,14、16にも設けられており、各室においてトレー3もしくは被処理物Wを検知することができる。なお本例では、
図1で示すように、各室の搬送方向下流側に検知装置70が設けられているが、更に検知装置70を各室の搬送方向上流側に設けるなどして検知精度を高めることも可能である。
【0032】
図6は、第1の加熱室12におけるオシレーション動作および位置補正動作に関連する要素についてのブロック図である。マイクロコンピュータからなる制御部65は、検知装置70からの検知信号や、操作部66に設けられた各種設定手段(例えば、オシレーション動作を設定するオシレーション動作設定手段等)からの入力を受ける。そして、駆動モータ60、遮蔽部材80、ワイパー装置84への制御信号を出力し、第1の加熱室12におけるオシレーション動作および位置補正動作を制御する。
【0033】
次に、被処理物Wが装入された際の熱処理炉1における一連の熱処理動作について説明する。先ずローラ群42を駆動させ被処理物Wが前室10に装入される。前室10内の被処理物Wの位置は前室10内に設けられた検知装置70からの信号に基づいて規定される。扉8が閉じられると真空ポンプ25を用いて減圧し、室内の大気を室外に放出する。前室10における真空引きが完了した後、前室10内に配管27を通じてN2ガスが供給し、前室10内を雰囲気ガス(N2ガス)で置換する。
【0034】
その後、前室10の出側の扉20および第1の加熱室12の入側の扉20を開いて、ローラ群42,43を駆動させ、被処理物Wを第1の加熱室12内に移送し、扉20を閉じる。第1の加熱室12内に搬送された被処理物Wは第1の加熱室12内に設けられた検知装置70からの信号に基づいて所定の位置に停止する。そして第1の加熱室12内に収容された被処理物Wは、所定のヒートパターンに基づいて加熱処理される。この際の最高処理温度としては2000℃を例示することができる。
【0035】
ここで本例では、第1の加熱室12においてローラ40の熱変形を抑制するためのオシレーション動作および位置補正動作が実行される。
図7および
図8にその処理手順を示すフローチャートが示されている。
図7で示すようにオシレーション動作のための処理が開始されると、ステップS001にて各パラメータの初期値が設定される。ここではオシレーション回数Kに0(回)が設定され、位置補正動作を開始するためのオシレーション動作の設定回数Nに5(回)が設定され、次回オシレーション動作までの待ち時間Tに20(分)が設定されたものとする。またオシレーション動作における最初のローラ回転方向は「正転」とし、1回当りローラの回転角度は180度とする。なおこれら設定は適宜変更可能である。例えば、ここではオシレーション動作における最初のローラ回転方向を「正転」方向としたが、最初のローラ回転方向を「逆転」方向とすることも勿論可能である。
【0036】
続くステップS003ではそれまでに実行されたオシレーション回数Kと設定回数Nとを比較し、オシレーション回数Kが設計回数Nに到達していない場合はステップS005に進み、オシレーション回数Kが設計回数Nに到達している場合は位置補正動作を実行するための
図8で示すステップS201に進む。
【0037】
ステップS005では、オシレーション動作の際のローラ回転方向を決定する。ローラ回転方向はオシレーション動作を繰り返し実行する際に正転と逆転を交互に切り替えるように設定されている(後述のS101およびS110参照)。本例では最初のオシレーション動作の際は正転の方向が選択され、次のオシレーション動作の際は逆転の方向が選択される。ここで正転方向とは被処理物Wを搬送方向に送る際のローラ回転方向で、逆転方向とは被処理物Wを搬送方向とは反対の方向に送る際のローラ回転方向である。
ローラ回転方向が正転である場合はステップS006に進み、ローラ回転方向が逆転である場合はステップS106に進む。
【0038】
ステップS006~S008では、ローラ40が180度回転するのに必要な時間だけタイマ制御により駆動モータ60を駆動させ、ローラ群43に含まれる全てのローラ40を正転方向に180度回転させる。これにより1回分のオシレーション動作が完了する。ローラ回転停止後はオシレーション回数Kに1を加算し(ステップS009)、次回のローラの回転方向を「逆転」に設定する(ステップS010)。そして待ち時間T経過後は再びステップS003を実行する(ステップS011)。
【0039】
一方、ローラ回転方向が逆転である場合に実行されるステップS106~S111の内容は、前述のステップS006~S011と回転方向以外は同じ内容である。
このようにして、本例では待ち時間T(本例の場合20分)の間隔で回転方向を切り替えながらオシレーション動作が繰り返し実行され、高温下におけるローラ40の熱変形を抑制する。
【0040】
そしてオシレーション回数Kが設定回数N(本例の場合5回)に到達した場合(ステップS003)、
図8で示すステップS201に進む。
ステップS201~S204では所定時間、投光部側71側および受光部71B側の遮蔽部材80開いた後、遮蔽部材80を閉じる。その後、ワイパー装置84を作動させ投光窓78および受光窓78Bを清掃する。これらステップS201~S204は、遮蔽部材80が長時間閉じられ通路77内に圧力差が生じている可能性があるため、ワイパ装置84で清掃する前に通路77内を一度均圧とし、ワイパで掻き取った付着物が異常に拡散しないようにすることを目的としている。
【0041】
続くステップS208では、投光部側71側および受光部71B側の遮蔽部材80を開き、被処理物Wもしくはトレー3を検知可能な状態として、続いて
図9(B)で示すように、検知OFFとなるまでローラ40を(ローラ群43を)逆転方向に回転させ(ステップS209、S210)、その後ローラの回転を停止させる(ステップS211)。
【0042】
続くステップS215~217では、
図9(C)で示すように、検知ONとなるまでローラ40を(ローラ群43を)正転方向に回転させ、その後、検知ONになってから所定時間後にローラ40の回転を停止させる。このようにすることで、オシレーション動作により被処理物Wに位置ずれが生じていた場合であっても、被処理物Wを所定の位置に修正することができる。
【0043】
ローラ回転停止後はオシレーション回数Kを0にリセットし(ステップS218)、遮蔽部材80を閉じ(ステップS219)、ワイパー装置84を作動させ投光窓78および受光窓78Bを清掃する(ステップS220)。そして待ち時間T経過後、再びステップS003を実行する(ステップS221)。
【0044】
次に、第1の加熱室12での加熱処理が終了した後は、第1の加熱室12の出側の扉21および第2の加熱室14の入側の扉21を開いて、ローラ群43,44を駆動させ、被処理物Wを第2の加熱室16内に移送し、扉21を閉じる。第2の加熱室14内に搬送された被処理物Wは第2の加熱室14内に設けられた検知装置70からの信号に基づいて所定の位置に停止する。第2の加熱室14内に収容された被処理物Wは、所定のヒートパターンに基づいて引き続き加熱処理される。この第2の加熱室14においても加熱処理中は、第1の加熱室12の場合と同様に、
図8および
図9で示すオシレーション動作および位置補正動作を実行することができる。
【0045】
次に、第2の加熱室14での加熱処理が終了した後、第2の加熱室14の出側の扉22および冷却室16の入側の扉22を開いて、ローラ群44,45を駆動させ、被処理物Wを冷却室16内に移送し、扉22を閉じる。冷却室16内では、雰囲気ガスをクーラ37で冷却しながら加雰囲気ガスを循環させて被処理物Wを冷却する。そして冷却後、扉9を開いて被処理物Wを搬出すれば、被処理物Wの熱処理に関する一連の動作が完了する。
【0046】
以上のように本実施形態の熱処理炉1によれば、第1の加熱室12に配置されたローラ40を待ち時間T(本例の場合20分)の間隔で正転もしくは逆転方向に180度回転させるオシレーション動作を実行することにより、高温下におけるローラ40の熱変形を抑制することができる。
そしてオシレーション動作の実行に伴ない、例えば
図9(A)で示すように、加熱室12内で被処理物Wに位置ずれが生じた場合であっても、検知装置70からの信号に基づいてローラ40を回転させて被処理物Wの位置を補正する位置補正動作を実行することにより被処理物Wの位置を修正することができる。
【0047】
ここで本実施形態の熱処理炉1では、オシレーション動作を繰り返し実行する際の間隔(本例の場合、待ち時間Tである20分)よりも長い間隔を開けて位置補正動作を実行する。詳しくは、オシレーション動作を所定の回数(本例の場合、20分間隔で5回)実行した後に位置補正動作を実行する。このため、例えばオシレーション動作毎に位置補正動作を行なう場合に比べて、検知装置70への蒸発物の付着が低減され、被熱処理物Wを検知する機能の悪化を抑制することができる。
【0048】
本実施形態の熱処理炉1では、オシレーション動作において、ローラ40を停止状態から半回転(180度回転)させることで、オシレーション動作に伴なう被処理物Wの移動量を抑えつつ熱変形防止効果を得ることができる。
【0049】
また本実施形態の熱処理炉1では、検知装置70を構成する投光部71および受光部71Bが、内部に検知光を挿通させる検知光通路77を有する筒状管76と、検知光通路77上に配置され検知光を透過させる窓78,78Bと、窓78,78Bよりも加熱室12側の検知光通路77上に配置された遮蔽部材80,80と、をそれぞれ備えており、検知光を透過させる窓78,78Bへの蒸発物の付着を筒状管76と遮蔽部材80により低減することができる。
【0050】
(変形例)
上記実施形態では被処理物等を検知する検知装置70が光電センサを備えているが、光電センサに替えて機械式のリミットスイッチやマイクロ波センサを用いることも可能である。特にマイクロ波センサは検出媒体として光ではなくマイクロ波(例えば24GHz、波長1.25cm)を使用するため、ガラス製の窓78を必要とせず、マイクロ波を透過しやすい材質(例えばテフロン(登録商標))で代用することができる。光電センサを用いた場合はコンタミの堆積・付着により遮光状態となり誤検知することがあるが、マイクロ波の場合はコンタミ材質によっては透過可能であるため、コンタミに起因する誤検知が生じ難いメリットがある。
【0051】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。例えばオシレーション動作を繰り返し実行する際の間隔、ローラ回転角度、設定回数等の各種パラメータは、加熱処理温度、ローラやトレーの材質、加熱室の大きさ等に基づいて適宜最適化することが可能である。また本発明のローラハース式熱処理炉は、加熱室を1つもしくは3つ以上設けることも可能であるし、バッチ式の熱処理炉として構成することも可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 ローラハース式熱処理炉
3 トレー
12 第1の加熱室
14 第2の加熱室
40 ローラ
54、55、61 スプロケット(ローラ駆動手段)
60 駆動モータ(ローラ駆動手段)
65 制御部
70 検知装置
71 投光部
71B 受光部
76 筒状管
77 検知光通路
78 投光窓
78B 受光窓
80 遮蔽部材
W 被処理物