(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 21/16 20060101AFI20241008BHJP
D21H 23/14 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
D21H21/16
D21H23/14
(21)【出願番号】P 2020207295
(22)【出願日】2020-12-15
(62)【分割の表示】P 2020088662の分割
【原出願日】2020-05-21
【審査請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】池田 信乃
(72)【発明者】
【氏名】井出 晴香
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 香帆
(72)【発明者】
【氏名】小林 由典
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-154349(JP,A)
【文献】特開2002-069896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H11/00-27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプスラリーを得る工程と、前記パルプスラリーを抄紙する工程を含む紙の製造方法であって、
前記パルプスラリーを得る工程は、パルプと水を含む分散液をさらに白水希釈する工程を含み、前記白水希釈する工程で得られた分散液にアルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物の混合物を添加する工程
であり、
前記混合物を添加する工程では、前記アルケニル無水コハク酸と前記水溶性アルミニウム化合物を混合して混合物としてから、10秒以内に前記分散液に添加する、紙の製造方法。
【請求項2】
前記パルプスラリーを得る工程は、前記白水希釈する工程の前に、さらに水溶性アルミニウム化合物を添加する工程を含む、請求項1に記載の紙の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性アルミニウム化合物は、硫酸バンドである、請求項1又は2に記載の紙の製造方法。
【請求項4】
前記アルケニル無水コハク酸の添加量は、前記パルプスラリー中のパルプの絶乾質量100質量部に対して0.01~0.30質量部である、請求項1~3のいずれか1項に記載の紙の製造方法。
【請求項5】
前記白水希釈する工程で得られた分散液にアルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物の混合物を添加する工程における前記水溶性アルミニウム化合物の添加量は、前記アルケニル無水コハク酸の添加量に対して0.2~38倍である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の紙の製造方法。
【請求項6】
紙に含まれる灰分は、軽質炭酸カルシウムを含み、前記軽質炭酸カルシウムの含有量は、前記灰分の全質量に対して80質量%以上である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に紙は、パルプ繊維を水中に懸濁させたパルプスラリーから製造され、パルプスラリーには、パルプ繊維の他に必要に応じて各種薬剤が添加される。このような薬剤としては、歩留向上剤、紙力増強剤、填料、サイズ剤、粘剤等が主に使用されている。
【0003】
近年は、物流コストの削減等を目的として、紙の軽量化が検討されている。紙の軽量化の取り組みの一つとして、紙の白色度、不透明性、印刷適性を向上する目的で填料と呼ばれる無機粒子(填料)の含有率を高めることが行われている。
【0004】
また、紙の耐水性を高めたり、インクにじみを抑制したりする目的でパルプスラリーにはサイズ剤が添加される。特許文献1には、ロジン系のサイズ剤を添加したスラリーを抄紙する紙の製造方法が開示されている。ここでは、パルプに対するサイズ剤の定着率を高めるために、硫酸アルミニウムなどのアルミニウム化合物を添加することが検討されている。また、特許文献2には、サイズ剤としてアルケニルコハク酸無水物(ASA)を添加する紙の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-8463号公報
【文献】特開2014-88644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように各種サイズ剤を用いた紙の製造方法が開示されている。しかしながら、従来技術においては、サイズ剤による効果が十分に得られない場合があり、また、マシン汚れの軽減も十分ではなかった。
【0007】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、紙のサイズ性を向上させるとともに、紙の製造工程における抄紙系内での汚れを低減することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、パルプスラリーを得る工程において、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物の混合物を添加するか、もしくは、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物を同時添加することにより、紙のサイズ性を向上させるとともに、紙の製造工程における抄紙系内での汚れを低減できることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0009】
[1] パルプスラリーを得る工程と、パルプスラリーを抄紙する工程を含む紙の製造方法であって、
パルプスラリーを得る工程は、パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物の混合物を添加する工程、もしくは、パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物を同時添加する工程を含む、紙の製造方法。
[2] 水溶性アルミニウム化合物は、硫酸バンドである、[1]に記載の紙の製造方法。
[3] アルケニル無水コハク酸の添加量は、パルプスラリー中のパルプの絶乾質量100質量部に対して0.01~0.30質量部である、[1]又は[2]に記載の紙の製造方法。
[4] パルプスラリーを得る工程は、パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物の混合物を添加する工程であり、
混合物を添加する工程では、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物を混合して混合物としてから、10秒以内に分散液に添加する、[1]~[3]のいずれかに記載の紙の製造方法。
[5] パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物の混合物を添加する工程、もしくは、パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物を同時添加する工程における水溶性アルミニウム化合物の添加量は、アルケニル無水コハク酸の添加量に対して0.2~38倍である、[1]~[4]のいずれかに記載の紙の製造方法。
[6] 灰分は、軽質炭酸カルシウムを含み、軽質炭酸カルシウムの含有量は、灰分の全質量に対して80質量%以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の紙の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、紙のサイズ性を向上させるとともに、紙の製造工程における抄紙系内での汚れを低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
(紙の製造方法)
本発明は、パルプスラリーを得る工程と、パルプスラリーを抄紙する工程を含む紙の製造方法に関する。ここで、本発明におけるパルプスラリーを得る工程は、パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物の混合物を添加する工程、もしくは、パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物を同時添加する工程を含む。本発明では、パルプスラリーを得る工程において、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物の混合物を添加するか、もしくは、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物を同時添加することにより、得られる紙のサイズ性を向上させることができ、さらに、抄紙系内での汚れ(マシン汚れ等)の発生を抑制することができる。
【0013】
パルプスラリーを得る工程では、サイズ剤として、アルケニル無水コハク酸を用いることで、紙のサイズ性を向上させることができる。アルケニル無水コハク酸は、抄紙工程系内において、アルケニル無水コハク酸の加水分解物が凝集することで汚れの原因となる。特に灰分が多い紙の製造工程においては、アルケニル無水コハク酸の添加量を増やした場合に、アルケニル無水コハク酸の加水分解物と灰分が凝集することで汚れの発生が顕著となる場合がある。このように、アルケニル無水コハク酸は加水分解物が凝集するため、アルケニル無水コハク酸は単独で添加された後に、十分な撹拌を行うことが必要であると考えられていた。
【0014】
しかしながら、本発明者らは、紙の製造方法について鋭意検討を進める中で、敢えて、パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物の混合物を添加するか、もしくは、パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物を同時添加することとした。そして、驚くべきことに、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物の混合物を添加するか、もしくは、パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物を同時添加することで、アルケニル無水コハク酸の加水分解物が凝集することを抑制することができ、抄紙系内での汚れ(マシン汚れ等)の発生を抑制できることを見出した。このように本発明は、サイズ剤としてアルケニル無水コハク酸を用いた場合に、紙のサイズ性の向上と、抄紙系内での汚れ(マシン汚れ等)の発生の抑制を両立し得たものである。
【0015】
パルプスラリーを得る工程では、アルケニル無水コハク酸の添加量は、パルプスラリー中のパルプの絶乾質量100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.02質量部以上であることがより好ましく、0.03質量部以上であることがさらに好ましく、0.05質量部以上であることが一層好ましく、0.1質量部以上であることがより一層好ましく、0.5質量部以上であることが特に好ましい。また、アルケニル無水コハク酸の添加量は、パルプスラリー中のパルプの絶乾質量100質量部に対して、0.30質量部以下であることが好ましく、0.25質量部以下であることがより好ましく、0.24質量部以下であることがさらに好ましく、0.22質量部以下であることが特に好ましい。なお、上記添加量は、アルケニル無水コハク酸の固形分換算量である。アルケニル無水コハク酸の添加量を上記範囲内とすることにより、より効果的に紙のサイズ性を向上させるとともに、抄紙系内での汚れをより効果的に低減することができる。
【0016】
パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物の混合物を添加する工程、もしくは、パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物を同時添加する工程における水溶性アルミニウム化合物の添加量は、アルケニル無水コハク酸の添加量に対して0.2倍以上であることが好ましく、0.25倍以上であることがより好ましく、0.3倍以上であることがさらに好ましく、0.5倍以上であることが特に好ましい。また、水溶性アルミニウム化合物の添加量は、アルケニル無水コハク酸の添加量に対して38倍以下であることが好ましく、20倍以下であることがより好ましく、10倍以下であることがさらに好ましく、5倍以下であることがとくに好ましい。パルプスラリーを得る工程における水溶性アルミニウム化合物の添加量とアルケニル無水コハク酸の添加量を上記条件とすることにより、より効果的に紙のサイズ性を向上させるとともに、抄紙系内での汚れをより効果的に低減することができる。
【0017】
パルプスラリーを得る工程では、パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物の混合物を添加する工程、もしくは、パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物を同時添加する工程を含む。中でも、パルプスラリーを得る工程では、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物を予め混合した混合物を添加することが好ましい。すなわち、パルプスラリーを得る工程は、パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物の混合物を添加する工程を含むことが好ましい。
【0018】
パルプスラリーを得る工程が、パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物の混合物を添加する工程を含む場合、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物を混合した後には、すみやかに分散液に該混合物が添加されることが好ましい。具体的には、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物を混合して混合物としてから、60秒以内に分散液に添加することが好ましく、30秒以内に分散液に添加することがより好ましく、10秒以内に分散液に添加することがさらに好ましい。このように、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物を混合後すぐにパルプと水を含む分散液に添加することで、抄紙系内での汚れをより効果的に低減することができる。
【0019】
パルプスラリーを得る工程で用いるアルケニル無水コハク酸は、エマルションとして添加されることが好ましい。例えば、アルケニル無水コハク酸とカチオン化澱粉を混合し、乳化工程を経ることでエマルション溶液(乳化液)とし、このエマルション溶液と水溶性アルミニウム化合物を混合することが好ましい。アルケニル無水コハク酸をエマルション溶液(乳化液)として添加することで、アルケニル無水コハク酸の分散安定性をより効果的に高めることができる。
【0020】
なお、パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物の混合物を添加する工程、もしくは、パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物を同時添加する工程の前には、水溶性アルミニウム化合物をさらに混合する工程が設けられていてもよい。すなわち、パルプスラリーを得る工程は、パルプ、水及び水溶性アルミニウム化合物を含む分散液にアルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物の混合物を添加する工程、もしくは、パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物を同時添加する工程を有するものであってもよい。また、パルプ、水及び水溶性アルミニウム化合物を含む分散液は、後述するような任意成分をさらに含むものであってもよい。
【0021】
アルケニル無水コハク酸のエマルション溶液において、アルケニル無水コハク酸エマルション粒子の粒子径は、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。また、アルケニル無水コハク酸エマルション粒子の粒子径は、5μm以下であることが好ましい。なお、アルケニル無水コハク酸エマルション粒子の粒子径は、光学顕微鏡にて観察し、測定した値である。
【0022】
パルプスラリーを抄紙する工程(以下、抄紙工程ともいう)では、酸性抄紙法、中性抄紙法、アルカリ性抄紙法等の抄紙方法を任意に採用できる。中でも、パルプスラリーを抄紙する工程では、中性抄紙法もしくはアルカリ性抄紙法を採用することが好ましい。抄紙機としては、ツインワイヤー式抄紙機、ギャップフォーマー式抄紙機、長網抄紙機、円網抄紙機、オントップ型抄紙機、ヤンキー抄紙機等を用いることができる。中でも、抄紙工程では、ツインワイヤー式抄紙機又はギャップフォーマー式抄紙機を用いることが好ましく、ギャップフォーマー式抄紙機を用いることが特に好ましい。ツインワイヤー式抄紙機やギャップフォーマー式抄紙機は、原料を2枚のワイヤーに挟みながら走行させることにより、上下両方に脱水する型式の抄紙機である。このため、原料はその両側でほぼ均等に脱水され、脱水速度が高められる。すなわち、ツインワイヤー式抄紙機やギャップフォーマー式抄紙機はでは高速抄紙が可能となり、かつ得られた紙の裏表間の風合いの差が小さくなるという利点がある。
【0023】
本発明の紙の製造工程においては、紙の表面強度を向上させたり、接着剤との接着性を高めるため、紙の表面に平滑化処理を施してもよい。このような平滑化処理は、例えば加圧可能なリール間で紙を加圧処理することにより実施することができる。また、平滑化処理を施す際に、紙の表面に接するロールは平滑な表面を有し、加熱可能な金属製ロールであることが好ましい。
【0024】
また、平滑化処理は、紙を抄紙する過程で、例えば一対の金属製ロールを一組または複数組備えたカレンダーロールによるカレンダー処理(マシンカレンダーによるカレンダー処理)、金属製ロールと樹脂製ロールとを一組または複数組備えたカレンダーロールによるカレンダー処理(ソフトカレンダーによるカレンダー処理)、又はヤンキードライヤーによる乾燥処理等により実施することもできる。このような製造方法とすることにより、紙の表面の平滑性が向上し、より高精度な印刷が可能となる。
【0025】
(紙)
本発明は、上述した製造方法で製造された紙に関するものであってもよい。本発明の製造方法で得られる紙は以下の算出式で算出されるサイズ性指標は、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、20以上であることがさらに好ましい。また、サイズ性指標は、80以下であることが好ましく、75以下であることがより好ましく、70以下であることがさらに好ましい。
サイズ性指標=ステキヒトサイズ度(秒)×100/坪量(g/m2)
なお、紙のステキヒトサイズ度は、JIS P 8122に準拠し測定される値である。
【0026】
紙の灰分は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、16質量%以上であることがさらに好ましく、22質量%以上であることが一層好ましく、24質量%以上であることが特に好ましい。また、紙の灰分は、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましい。このように、本発明の製造方法で得られる紙は高灰分紙であってもよい。なお、灰分の含有量は、JIS P 8251に記載の灰分試験方法(525℃燃焼法)によって測定される値である。
【0027】
ここで、灰分は、軽質炭酸カルシウムを含むことが好ましい。この場合、軽質炭酸カルシウムの含有量は、灰分の全質量に対して80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。軽質炭酸カルシウムの含有量を上記範囲内とすることにより、印刷適性に優れた紙を安価に製造することが可能となる。
【0028】
紙の坪量は特に限定されないが、20g/m2以上であることが好ましく、25g/m2以上であることがより好ましい。また、紙の坪量は200g/m2以下であることが好ましく、170g/m2以下であることがより好ましく、150g/m2以下であることがさらに好ましい。
【0029】
紙の厚みは特に限定されないが、25μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、35μm以上であることがさらに好ましい。また、紙の厚みは250μm以下であることが好ましく、225μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
(水溶性アルミニウム化合物)
パルプスラリーを得る工程では、パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と共に水溶性アルミニウム化合物を添加する。水溶性アルミニウム化合物は、紙力増強剤やサイズ剤等を紙中に定着させるための定着剤として機能する。水溶性アルミニウム化合物としては、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸バンド等が挙げられる。
【0031】
中でも、水溶性アルミニウム化合物は、硫酸バンドであることが好ましい。パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物の混合物を添加する工程、もしくは、パルプと水を含む分散液に、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物を同時添加する工程における水溶性アルミニウム化合物の添加量は、アルケニル無水コハク酸の添加量に対して0.2倍以上であることが好ましく、0.25倍以上であることがより好ましく、0.3倍以上であることがさらに好ましい。また、水溶性アルミニウム化合物の添加量は、アルケニル無水コハク酸の添加量に対して38倍以下であることが好ましく、20倍以下であることがより好ましく、10倍以下であることがさらに好ましい。上記工程における水溶性アルミニウム化合物の添加量とアルケニル無水コハク酸の添加量を上記条件とすることにより、より効果的に紙のサイズ性を向上させるとともに、抄紙系内での汚れをより効果的に低減することができる。
【0032】
パルプスラリーを得る工程では、水溶性アルミニウム化合物を複数回に分けて添加してもよい。例えば、パルプスラリーを得る工程では、水溶性アルミニウム化合物を2回に分けて添加してもよい。この場合、パルプスラリーを白水で希釈する前後に水溶性アルミニウム化合物を添加することが好ましい。なお、水溶性アルミニウム化合物を複数回に分けて添加する場合、いずれかの回の水溶性アルミニウム化合物の添加時において、アルケニル無水コハク酸が共に添加されればよく、水溶性アルミニウム化合物を2回に分けて添加する場合、2回目の水溶性アルミニウム化合物の添加時にアルケニル無水コハク酸が共に添加されることが好ましい。
【0033】
パルプスラリーを得る工程では、アルケニル無水コハク酸と水溶性アルミニウム化合物を含むパルプスラリーが得られる。水溶性アルミニウム化合物の含有量は、パルプスラリー中のパルプの絶乾質量100質量部に対して、0.1~3質量部であることが好ましい。
【0034】
(無機填料)
本発明の紙は、無機填料を含有する。無機填料の含有量は、パルプの絶乾質量100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、16質量部以上であることがさらに好ましく、22質量部以上であることが一層好ましく、24質量部以上であることが特に好ましい。また、無機填料が含有量は、パルプの絶乾質量100質量部に対して、40質量部以下であることが好ましく、35質量部以下であることがより好ましい。また、無機填料は軽質炭酸カルシウムを含有し、軽質炭酸カルシウムの含有量は、灰分の全質量に対して80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。軽質炭酸カルシウムの含有量を上位範囲内とすることにより、印刷適性に優れた紙を安価に製造することが可能となる。
【0035】
無機填料はタルクを含んでいてもよい。タルクは、含水ケイ酸マグネシウム(3MgO・4SiO2・H2O)を主成分とするものである。また、無機填料には、タルク以外の填料が含まれていてもよい。タルク以外の無機填料としては、例えば、重質炭酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、石膏、カオリン、デラミネーテッドカオリン、水和ケイ酸塩、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、若しくは水酸化亜鉛等の無機顔料や尿素・ホルマリン樹脂微粒子、若しくは微小中空粒子等の有機顔料を挙げることができる。また、古紙や損紙等をパルプ原料として用いた場合には、これらに含まれる填料も含有することができる。なお、無機填料は2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
(パルプ原料)
パルプスラリーを得る工程では、まず、パルプと水を含む分散液を得る。本発明で用いることのできるパルプとしては、例えば、広葉樹由来のパルプ、針葉樹由来のパルプ、非木材由来のパルプを挙げることができる。広葉樹クラフトパルプとしては、例えば、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ等を挙げることができる。また、針葉樹クラフトパルプとしては、例えば、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、針葉樹亜硫酸パルプ等を挙げることができる。
【0037】
また、本発明の紙に含まれるパルプには、アカシア由来の広葉樹パルプが含まれることが好ましい。アカシア由来の広葉樹パルプの含有量は、パルプの原材料全体の質量に対して30質量%以上であることが好ましい。アカシア由来の広葉樹パルプの含有量は、パルプの原材料全体の質量に対して30~100質量%であればよく、50~100質量%であることが好ましく、70~100質量%であることがより好ましい。アカシア由来のパルプの含有量を上記範囲内とすることにより、静摩擦係数の小さい紙を製造することができる。さらに、アカシア由来の広葉樹パルプの含有量を上記範囲内とすることにより、製造工程における紙の乾燥時間を短縮することができる。
【0038】
アカシア由来のパルプとしては、例えば、Acacia mangium(アカシアマンギューム)、A.auriculiformis(アカシアアウリカルフォルミス)、A.catechu(アカシアカテキュー)、A.decurrens(アカシアデカレンス)、A.holosericea(アカシアホロセリシア)、A.leptocarpa(アカシアレプトカルパ)、A.maidenii(アカシアマイデニアイ)、A.mearnsii(アカシアメランシー)、A.melanoxylon(アカシアメラノキシロン)、A.neriifolia(アカシアネリフォーラ)、A.silvestris(アカシアシリベストリス)、又はA.peregrinalis(アカシアペレグリナリス)等やこれらの交雑種(hybrid:ハイブリッド)であるアカシアから得られるパルプを用いることができる。
【0039】
本発明では、針葉樹クラフトパルプと広葉樹クラフトパルプに加えて、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ、茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ、または離解・脱墨・漂白古紙パルプ、あるいはケナフ、麻、葦等の非木材繊維から化学的にまたは機械的に製造されたパルプ等の公知の種々のパルプを用いることができる。なお、紙の全質量に対する古紙パルプの含有率は、30質量%未満であることが好ましく、20質量%未満であることがより好ましく、10質量%未満であることがさらに好ましい。
【0040】
本発明で用いるパルプ原料のフリーネスは350~650mlCSFであることが好ましい。パルプスラリーを得る工程の前には、必要に応じて、上記フリーネスとなるように叩解工程を設けてもよい。なお、フリーネスとは、JIS-P8220に準拠して標準離解機にて試料を離解処理した後、JIS-P8121に準拠してカナダ標準濾水度試験機にて測定した濾水度の値である。
【0041】
(任意成分)
本発明では、上述した無機填料以外の内添薬品を加えてもよい。内添薬品としては、例えば、ポリアクリルアマイド、澱粉等の紙力増強剤、ポリアマイド等の濾水度歩留り向上剤、ポリアミド、ポリアミン、エピクロルヒドリン等の耐水化剤、消泡剤、塩基性染料、酸性染料、アニオン性直接染料、カチオン性直接染料等の公知の種々のものを挙げることができる。
【0042】
さらに、本発明では、上述した原料パルプにカチオン化澱粉を含有させてもよい。カチオン化澱粉の含有率は、原料パルプの絶乾質量100質量部に対して、0.1~15質量部であること好ましく、0.1~10質量部であることがより好ましい。カチオン化澱粉の含有率は、カチオン化澱粉を固形分換算した場合の含有率である。カチオン化澱粉を加えることにより、紙の強度が増強され、かつ破断伸びのよい紙を得ることができる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0044】
<アルケニル無水コハク酸(ASA)の乳化方法>
アルケニル無水コハク酸(ファイブラン、荒川化学株式会社製)100質量%溶液と、カチオン化澱粉(P-3Y、ピラースターチ株式会社製)3質量%溶液を混合し、ホモジナイザー(日本精機製作所社製)を用いて、5000rpmで5分間乳化作業を行い、アルケニル無水コハク酸成分が1質量%であって、アルケニル無水コハク酸エマルション粒子の粒子径が2μmのアルケニル無水コハク酸の乳化液を得た。なお、アルケニル無水コハク酸エマルション粒子の粒子径は、光学顕微鏡にて観察し、測定した値である。
【0045】
<実施例1>
原料となるパルプとして、CSF400mLの広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)を用いた。パルプ濃度が3質量%になるよう水で希釈し、パルプスラリーを得た。パルプスラリー中のパルプの絶乾質量100質量部に対して、硫酸バンド(固形物換算)0.4質量部と、カチオン化澱粉(P-3Y、ピラースターチ株式会社製)(固形物換算)1.2質量部となるように硫酸バンドとカチオン化澱粉を添加して希釈前パルプスラリーを得た。次いで、パルプ濃度が0.5質量%となるように白水希釈してパルプスラリーとした。
上記で得たアルケニル無水コハク酸の乳化液を容器に取り分けた後、簡易のマグネティックスターラーで攪拌した。そこへ、硫酸バンド溶液(硫酸バンド成分が3質量%)を硫酸バンド成分とアルケニル無水コハク酸の質量比が10:7になるよう添加し5秒間攪拌した後、即座にピペットマンで混合液を上記希釈後のパルプスラリーに添加した。なお、混合物を添加する工程では、パルプの絶乾質量100質量部に対して、硫酸バンド(固形分換算)が0.2質量部、アルケニル無水コハク酸(固形分換算)が0.14質量部となるように、アルケニル無水コハク酸と硫酸バンド混合液を添加した。また、混合物は、白水希釈の10秒後に添加した。続けて、このパルプスラリーに、パルプの絶乾質量100質量部に対して軽質炭酸カルシウム(タマパールTP-121、奥多摩工業株式会社製)が27質量部、カチオン性歩留剤(ND-300、ハイモ株式会社製)が200ppmとなるように添加し、定法に従い、角型シートマシンで抄紙して坪量60g/m2の手抄き紙を得た。
【0046】
<実施例2>
アルケニル無水コハク酸と硫酸バンド混合液を作製する際に硫酸バンドを硫酸バンド成分とアルケニル無水コハク酸の質量比が5:14になるようになるように添加し、混合物を添加する工程においてパルプの絶乾質量100質量部に対し硫酸バンド(固形物換算)が0.05質量部、アルケニル無水コハク酸(固形物換算)が0.14質量部となるように、アルケニル無水コハク酸と硫酸バンド混合液を添加した以外は実施例1と同様にして、手抄き紙を得た。
【0047】
<実施例3>
アルケニル無水コハク酸と硫酸バンド混合液を作製する際に硫酸バンドを硫酸バンド成分とアルケニル無水コハク酸の質量比が100:14になるようになるように添加し、混合物を添加する工程においてパルプの絶乾質量100質量部対し硫酸バンド(固形物換算)が1.0質量部、アルケニル無水コハク酸(固形物換算)が0.14質量部となるように、アルケニル無水コハク酸と硫酸バンド混合液を添加した以外は実施例1と同様にして、手抄き紙を得た。
【0048】
<実施例4>
実施例1において、アルケニル無水コハク酸の乳化液と硫酸バンドの混合溶液を作製せず、実施例1と同様のアルケニル無水コハク酸の乳化液と硫酸バンド溶液を希釈後のパルプスラリーに対し同時添加した以外は、実施例1と同様にして、手抄き紙を得た。なお、同時添加する工程においては、パルプの絶乾質量100質量部に対し硫酸バンド(固形物換算)が0.2質量部、アルケニル無水コハク酸(固形物換算)が0.14質量部となるように、各溶液を添加した。また、アルケニル無水コハク酸の乳化液と硫酸バンド溶液は、白水希釈の10秒後に同時添加した。
【0049】
<実施例5>
実施例1において、アルケニル無水コハク酸の乳化液と硫酸バンドの混合溶液を作製する際に、アルケニル無水コハク酸の乳化液と硫酸バンドの混合時間を10秒とした以外は、実施例1と同様にして、手抄き紙を得た。
【0050】
<実施例6>
軽質炭酸カルシウムの添加量をパルプの絶乾質量100質量部に対して30質量部に変更以外は、実施例1と同様にして、手抄き紙を得た。
【0051】
<実施例7>
アルケニル無水コハク酸と硫酸バンド混合液を作製する際に硫酸バンドを硫酸バンド成分とアルケニル無水コハク酸の比が1:1になるようになるように添加し、混合物を添加する工程においてパルプの絶乾質量100質量部対し硫酸バンド(固形物換算)が0.2質量部、アルケニル無水コハク酸(固形物換算)が0.2質量部となるように、アルケニル無水コハク酸と硫酸バンド混合液を添加した以外は実施例1と同様にして、手抄き紙を得た。
【0052】
<実施例8>
アルケニル無水コハク酸と硫酸バンド混合液を作製する際に硫酸バンドを硫酸バンド成分とアルケニル無水コハク酸の比が500:14になるようになるように添加し、混合物を添加する工程においてパルプの絶乾質量100質量部に対し硫酸バンド(固形物換算)が5.0質量部、アルケニル無水コハク酸(固形物換算)が0.14質量部となるように、アルケニル無水コハク酸と硫酸バンド混合液を添加した以外は実施例1と同様にして、手抄き紙を得た。
【0053】
<実施例9>
実施例1において、アルケニル無水コハク酸の乳化液と硫酸バンドの混合溶液を作製する際に、アルケニル無水コハク酸の乳化液と硫酸バンドの混合時間を60秒とした以外は、実施例1と同様にして、手抄き紙を得た。
【0054】
<実施例10>
軽質炭酸カルシウムの添加量をパルプの絶乾質量100質量部に対して40質量部に変更以外は、実施例1と同様にして、手抄き紙を得た。
【0055】
<実施例11>
軽質炭酸カルシウムの添加量をパルプの絶乾質量100質量部に対して16質量部に変更以外は、実施例1と同様にして、手抄き紙を得た。
【0056】
<実施例12>
軽質炭酸カルシウムの添加量をパルプの絶乾質量100質量部に対して7質量部に変更以外は、実施例1と同様にして、手抄き紙を得た。
【0057】
<比較例1>
実施例1において、3質量%濃度のパルプスラリーに添加する硫酸バンドの量を、パルプスラリー中のパルプの絶乾質量100質量部に対して、0.6質量部に変更した。その後、実施例1と同様の方法で白水希釈してパルプスラリーを得た。次いで希釈したパルプスラリーにアルケニル無水コハク酸のみをパルプの絶乾質量100質量部に対して0.14質量部となるように添加した。その他は実施例1と同様にして、手抄き紙を得た。
【0058】
<比較例2>
アルケニル無水コハク酸に代えて、ロジン(サイズパインN-788、荒川化学社製)を用いた以外は、実施例7と同様にして、手抄き紙を得た。
【0059】
<比較例3>
パルプスラリーにおけるロジンの含有量をパルプの絶乾質量100質量部に対し、0.3質量部となるようにした変更した以外は、比較例2と同様にして、手抄き紙を得た。
【0060】
(評価)
<紙中の灰分量の測定>
紙中の灰分量は、JIS P 8251に準拠し測定した。
【0061】
<紙中灰分中の軽質炭酸カルシウムの割合>
JIS P 8251に準拠し紙を灰化した後、その灰分の粒度分布をマイクロトラック(MT3000II、マイクロトラック・ベル社製)を用いて測定し、粒子径が1~10μmのものを軽質炭酸カルシウム、11~16μmものをタルクとして、軽質炭酸カルシウムの割合を算出した。
【0062】
<サイズ性指標の測定方法>
ステキヒトサイズ度を、JIS P 8122に準拠し、下記式でサイズ性指標を算出した。
サイズ性指標=ステキヒトサイズ(秒)×100/坪量(g/m2)
【0063】
<ASAの汚れ評価>
角型シートマシンで手抄きを行った後、湿紙に金属板をのせ、4.2kgfで2分間、プレスを行った。金属板を剥離し、金属版への汚れ付着量を4段階で目視評価した。
◎:非常に少ない
〇:やや少ない
△:やや多い
×:非常に多い
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
実施例では、サイズ度の向上とマシン汚れの軽減が両立されていた。