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特許7567432絶縁回路基板、および、絶縁回路基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】絶縁回路基板、および、絶縁回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/05 20060101AFI20241008BHJP
   H05K 3/44 20060101ALI20241008BHJP
   H01L 23/14 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H05K1/05 Z
H05K3/44 Z
H01L23/14 M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020207670
(22)【出願日】2020-12-15
(65)【公開番号】P2022094661
(43)【公開日】2022-06-27
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】石川 史朗
(72)【発明者】
【氏名】坂庭 慶昭
(72)【発明者】
【氏名】山口 朋彦
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-149460(JP,A)
【文献】特開2014-060216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/05
H05K 3/44
H01L 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板と、前記金属基板の一方の面に備えられた絶縁層と、前記絶縁層の前記金属基板とは反対側の面に備えられた回路層と、を備えた絶縁回路基板であって、
前記絶縁層は、絶縁樹脂、または絶縁樹脂と無機物フィラーとを含む絶縁性樹脂組成物で形成されており、
前記回路層は回路パターンを有し、
前記回路パターンは2枚以上の銅板が積層された銅板積層体を含み、
前記銅板積層体は、前記絶縁層とは反対側の面に位置する銅板の厚みが0.5mm以上3.0mm以下の範囲内にあることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項2】
前記銅板積層体は、前記絶縁層に接する銅板の厚みが0.01mm以上2.0mm以下の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の絶縁回路基板。
【請求項3】
前記2枚以上の銅板が互いに接合材を介して接合されていて、前記接合材は、熱伝導度が80W/mK以上で、接合温度が200℃以上400℃以下の範囲内にある金属であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の絶縁回路基板。
【請求項4】
前記2枚以上の銅板が互いに接合材を介して接合されていて、前記接合材は、純度99.99質量%以上のアルミニウムであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の絶縁回路基板。
【請求項5】
前記回路パターンは、素子が搭載される素子搭載領域を含み、前記素子搭載領域は前記銅板積層体とされていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の絶縁回路基板。
【請求項6】
前記銅板積層体は、前記絶縁層とは反対側の面に位置する銅板が最も厚いことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の絶縁回路基板。
【請求項7】
金属基板と、前記金属基板の一方の面に備えられた絶縁層と、を備えた絶縁層付き金属基板の前記絶縁層の上に、回路パターン状に形成された銅板を接合する工程と、
前記銅板の前記絶縁層とは反対側の面に、別に用意した銅板を接合して銅板積層体を形成する工程と、を含む請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の絶縁回路基板の製造方法。
【請求項8】
少なくとも1枚が回路パターン状に形成された銅板を2枚以上積層方向に接合して、銅板積層体を作製する工程と、
前記銅板積層体を、金属基板と、前記金属基板の一方の面に備えられた絶縁層と、を備えた絶縁層付き金属基板の前記絶縁層の上に接合する工程と、を含む請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の絶縁回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁回路基板、および、絶縁回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール、LEDモジュール及び熱電モジュールにおいては、絶縁層の一方の面に導電材料からなる回路層を形成した絶縁回路基板に、パワー半導体素子、LED素子及び熱電素子などの素子が接合された構造とされている。
絶縁回路基板では、素子で発生した熱の放熱特性を向上させるために回路層の厚くすることが検討されている。
【0003】
特許文献1には、回路層が金属材料からなり、厚みが0.05mm以上2.0mm以下の範囲内とされている絶縁回路基板が記載されている。特許文献1には、回路層の形成方法として、絶縁層の一方の面に、複数の金属片を回路パターン状に配置する方法が記載されている。特許文献1には、回路層を構成する金属片の製造方法として、打ち抜き加工が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-169540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年のパワー半導体素子、LED素子及び熱電素子などの素子の高集積化や高出力化に伴って、絶縁回路基板においては、放熱特性の向上が望まれている。さらに、素子の高集積化に伴って、回路パターンの精細化も求められている。絶縁回路基板の放熱特性を向上させるために、回路層、特に熱源である素子が搭載される素子搭載領域の回路層の厚みを厚くすることは有効である。しかしながら、特許文献1に記載されている打ち抜き加工では、回路層の厚みが厚くなるに伴って精細な回路パターンを形成することが難しくなる傾向がある。このため、放熱特性の向上と回路パターンの精細化の両者を満足させることは困難であった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、放熱特性に優れ、精細な回路パターンが形成可能な回路層を備えた絶縁回路基板、および、この絶縁回路基板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る絶縁回路基板は、金属基板と、前記金属基板の一方の面に備えられた絶縁層と、前記絶縁層の前記金属基板とは反対側の面に備えられた回路層と、を備えた絶縁回路基板であって、前記絶縁層は、絶縁樹脂、または絶縁樹脂と無機物フィラーとを含む絶縁性樹脂組成物で形成されており、前記回路層は回路パターンを有し、前記回路パターンは2枚以上の銅板が積層された銅板積層体を含み、前記銅板積層体は、前記絶縁層とは反対側の面に位置する銅板の厚みが0.5mm以上3.0mm以下の範囲内にあることを特徴としている。
【0008】
この構成の絶縁回路基板によれば、回路層は2枚以上の銅板が積層された銅板積層体を含む回路パターンを有するので、銅板の枚数を増やすことによって、回路層の厚みを厚くすることができる。回路層の厚みが厚くなることによって、回路層に伝わった熱が絶縁回路基板の積層方向と共に面方向にも拡がり、熱が回路層全体に拡がりやすくなるため、回路層の熱抵抗が低くなる。また、銅板積層体は、絶縁層とは反対側の面に位置する銅板、すなわち素子が搭載される銅板の厚さが0.5mm以上3.0mm以下の範囲内と厚くなっている。これにより、回路層に伝わった熱が回路層全体により早く拡がるため、回路層の熱抵抗がより低くなる。よって、この構成の絶縁回路基板は、放熱特性が優れたものとなる。さらに、1枚ごとの銅板は、厚みを厚くしなくともよいので、精細な回路パターンを形成することができる。なお、素子が搭載される銅板の厚さが3.0mmを超えると打ち抜きによる形成が困難になり、0.5mm未満であると伝熱速度がやや劣るため、絶縁回路基板としての熱抵抗が大きくなる。
【0009】
ここで、本発明の一態様に係る絶縁回路基板においては、前記銅板積層体は、前記絶縁層に接する銅板の厚みが0.01mm以上2.0mm以下の範囲内にあることが好ましい。
この場合、絶縁層に接する銅板の厚みが0.01mm以上2.0mm以下の範囲内と薄いので、精細な回路パターンを形成することが可能となる。
【0010】
また、本発明の一態様に係る絶縁回路基板においては、前記2枚以上の銅板が互いに接合材を介して接合されていて、前記接合材は、熱伝導度が80W/mK以上で、接合温度が200℃以上400℃以下の範囲内にある金属である構成とされていてもよい。
この場合、2枚以上の銅板が、熱伝導度が80W/mK以上で、接合温度が200℃以上400℃以下の範囲内にある金属で接合されているので、銅板間の熱伝導性が高くなり、回路層の熱抵抗をさらに低下させることができる。
【0011】
また、本発明の一態様に係る絶縁回路基板においては、前記2枚以上の銅板が互いに接合材を介して接合されていて、前記接合材は、純度99.99質量%以上のアルミニウムである構成とされていてもよい。
この場合、2枚以上の銅板が、純度99.99質量%以上のアルミニウムである接合材で接合されているので、銅板間の熱伝導性が高くなり、回路層の熱抵抗をさらに低下させることができる。
【0012】
また、本発明の一態様に係る絶縁回路基板において、前記回路パターンは、素子が搭載される素子搭載領域を含み、前記素子搭載領域は前記銅板積層体とされていることが好ましい。
この場合、回路パターンの素子が搭載される素子搭載領域が銅板積層体とされているので、素子搭載領域の厚みを厚くすることができ、回路層の熱抵抗をさらに低下させることができる。よって、この構成の絶縁回路基板は、放熱特性がさらに優れたものとなる。また、素子が搭載されていない領域は、銅板積層体とせずに、厚みの薄い銅板を用いることができるので、さらに精細な回路パターンを形成することが可能となる。
【0013】
さらに、本発明の一態様に係る絶縁回路基板において、前記銅板積層体は、前記絶縁層とは反対側の面に位置する銅板が最も厚いことが好ましい。
この場合、銅板積層体の絶縁層とは反対側の面に位置する銅板、すなわち素子に接する銅板は、厚さが最も厚く、熱が伝わりやすいので、銅板積層体に伝わった熱が絶縁層に伝わりやすくなる。よって、この構成の絶縁回路基板は、放熱特性がさらに優れたものとなる。
【0014】
本発明の一態様の絶縁回路基板の製造方法は、金属基板と、前記金属基板の一方の面に備えられた絶縁層と、を備えた絶縁層付き金属基板の前記絶縁層の上に、回路パターン状に形成された銅板を接合する工程と、前記銅板の前記絶縁層とは反対側の面に、別に用意した銅板を接合して銅板積層体を形成する工程と、を含む。
この構成の絶縁回路基板の製造方法によれば、絶縁層付き金属基板の絶縁層の上に、回路パターン状に形成された銅板を接合し、その銅板の上に別の銅板を順次接合して銅板積層体を形成するので、1枚ごとの銅板の厚みを厚くしなくとも厚みの厚い銅板積層体(回路層)を有する絶縁回路基板を工業的に安定して製造することができる。銅板は、厚みを厚くしなくともよいので、精細な回路パターンを形成することができる。よって、本実施形態の絶縁回路基板の製造方法を用いて製造された絶縁回路基板は、回路層は、厚みが厚く、かつ精細な回路パターンを有し、放熱特性に優れたものとなる。
【0015】
本発明の別の一態様の絶縁回路基板の製造方法は、少なくとも1枚が回路パターン状に形成された銅板を2枚以上積層方向に接合して、銅板積層体を作製する工程と、前記銅板積層体を、金属基板と、この金属基板の一方の面に備えられた絶縁層と、を備えた絶縁層付き金属基板の前記絶縁層の上に接合する工程と、を含む。
この構成の絶縁回路基板の製造方法によれば、回路パターン状に形成された銅板を2枚以上接合して銅板積層体を作製し、次いで銅板積層体を絶縁層付き金属基板の絶縁層の上に接合するので、1枚ごとの銅板の厚みを厚くしなくとも厚みの厚い銅板積層体(回路層)を有する絶縁回路基板を工業的に安定して製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、放熱特性に優れ、精細な回路パターンが形成可能な回路層を備えた絶縁回路基板、および、この絶縁回路基板の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの平面図である。
図2図1のII-II線断面図である。
図3】本発明の他の一実施形態に係る絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの平面図である。
図4図3のIV-IV線断面図である。
図5】本発明のさらに他の一実施形態に係る絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの断面図である。
図6】本発明のさらに他の一実施形態に係る絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの断面図である。
図7】本発明のさらに他の一実施形態に係る絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの断面図である。
図8】本発明の一実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法を説明する断面図である。
図9】本発明の他の一実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法を説明する断面図である。
図10】本発明例1~4、11で作製した絶縁回路基板の断面図である。
図11】本発明例5~10で作製した絶縁回路基板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態について添付した図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの平面図であり、図2は、図1のII-II線断面図である。
【0019】
図1及び図2において、パワーモジュール1aは、絶縁回路基板10aと、はんだ層2を介して絶縁回路基板10aに搭載された素子3と、を備える。絶縁回路基板10aは、金属基板20と、金属基板20の一方の面に備えられた絶縁層30と、絶縁層30の金属基板20とは反対側の面に備えられた回路層40と、を備える。
【0020】
金属基板20は、絶縁回路基板10aのベースとなる部材である。金属基板20は、例えば、銅基板もしくはアルミニウム基板である。銅基板は、銅及び銅合金を含む。アルミニウム基板は、アルミニウム及びアルミニウム合金を含む。
【0021】
絶縁層30は、金属基板20と回路層40とを絶縁するための層である。絶縁層30は、例えば、絶縁樹脂、または絶縁樹脂と無機物フィラーとを含む絶縁性樹脂組成物から形成されている。絶縁層30を、絶縁樹脂と熱伝導度が高い無機物フィラーとを含む絶縁性樹脂組成物から形成することによって、絶縁性を維持しつつ、絶縁層30の熱伝導性を向上させることができる。
【0022】
絶縁樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂を用いることができる。これらの樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。絶縁樹脂は、耐熱性が高い樹脂であることが好ましい。絶縁樹脂は、熱分解温度が400℃以上であってもよい。絶縁樹脂は、ポリイミド樹脂を含んでいてもよい。
【0023】
無機物フィラーとしては、例えば、アルミナ(Al)粒子、アルミナ水和物粒子、窒化アルミニウム(AlN)粒子、シリカ(SiO)粒子、炭化珪素(SiC)粒子、酸化チタン(TiO)粒子、窒化硼素(BN)粒子を用いることができる。これらの無機物フィラーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。アルミナ(Al)粒子としてはα-アルミナ単結晶粒子を用いてもよい。無機物フィラーは、平均粒子径が0.1μm以上20μm以下の範囲内にあってもよい。
絶縁層30の無機物フィラーの含有量は、例えば、50体積%以上85体積%以下の範囲内にあってもよく、50体積%以上80体積%以下の範囲内にあってもよい。
【0024】
回路層40は、回路パターンを有する。回路層40の一部が回路パターンとされていてもよいし、回路層40全体が回路パターンとされていてもよい。本実施形態では、回路層40全体が回路パターンとされている。
【0025】
回路層40(回路パターン)は、絶縁層30の金属基板20とは反対側の面に備えられた第1銅板41と、第1銅板41の絶縁層30とは反対側の面に備えられた第2銅板42とが積層された銅板積層体45からなる。第1銅板41及び第2銅板42はそれぞれ、素子搭載領域41a、42aと、配線領域41b、42bと、を有する。素子3は、はんだ層2を介して第2銅板42の素子搭載領域42aの上に接続されている。素子3は、リード線4を介して、第2銅板42の配線領域42bと電気的に接続されている。
第2銅板42の厚さは、0.5mm以上3.0mm以下の範囲内にある。第1銅板41の厚さは、例えば、0.01mm以上2.0mm以下の範囲内、好ましくは0.01mm以上1.5mmの範囲内にあり、第2銅板42よりも薄くてもよい。
【0026】
第2銅板42の素子搭載領域42aは、素子3にて発生した熱が直接伝わる。このため、素子搭載領域42aの表面サイズは、素子3の素子搭載領域42aに搭載される側の搭載面のサイズと同じ又はそれよりも広くして、素子搭載領域42aの熱抵抗を低くしてもよい。また、第1銅板41の素子搭載領域41aの表面サイズは、第2銅板42の素子搭載領域42aのサイズと同じ又はそれよりも広くして、素子搭載領域41aの熱抵抗を低くしてもよい。本実施形態では、第2銅板42の素子搭載領域42aと第1銅板41の素子搭載領域41aは同じサイズであり、素子3の搭載面のサイズよりも広い構成とされている。また、素子搭載領域41a、42aの厚み(第1銅板41の素子搭載領域41aと第2銅板42の素子搭載領域42aの合計の厚み)は、1mm以上3mm以下の範囲内にあってもよい。素子搭載領域41a、42aの厚みが上記の範囲とされていることによって、素子搭載領域41a、42aに伝わった熱が絶縁回路基板10aの積層方向と共に面方向にも拡がり、素子搭載領域41a、42aに伝わった熱が素子搭載領域41a、42aの全体に拡がりやすくなる。このため、回路層40の熱抵抗が低くなる。素子搭載領域41a、42aの表面サイズは、素子3の搭載面のサイズを100として、200以上5000以下の範囲内にあることが好ましく、300以上4000以下の範囲内にあることがより好ましく、500以上3000以下の範囲内にあることが特に好ましい。また、素子搭載領域41a、42aの合計厚みは1mm以上8mm以下の範囲内にあることがより好ましく、2mm以上6mm以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0027】
第1銅板41と第2銅板42とは、接合材50を介して接合されている。接合材50は、熱伝導度が80W/mK以上で、接合温度(焼結温度)が200℃以上400℃以下の範囲内にある金属(焼結接合材)であることが好ましい。接合温度が上記の範囲内にあると、絶縁層30の絶縁樹脂として使用可能な樹脂の種類が多くなる。焼結接合材の例としては、熱伝導性に優れる銀あるいは銅を母材とした金属粒子が挙げられる。この焼結接合材は、金属粒子を微細化することにより、金属粒子表面の反応性を向上させたものであり、被接合材料(銅板)を融解させることのない比較的低い接合温度で、焼結接合材に含まれる金属の物性に由来する熱的及び電気的な特性を発現できる。また、接合材50は純度99.99質量%以上のアルミニウム箔であってもよい。この場合、焼結接合材に比べて接合温度が高くなるため、絶縁層30の絶縁樹脂として使用可能な樹脂の種類は限定されるが、さらに高い放熱性を示す。
【0028】
素子3としては、半導体素子、LED素子、熱電素子抵抗、キャパシタ、水晶発振器などを用いることができる。半導体素子の例としては、MOSFET(Metal-oxide-semiconductor field effect transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、LSI(Large Scale Integration)を挙げることができる。LED素子(発光ダイオード)の例としては、LEDチップ、LED-CSP(LED-Chip Size Package)を挙げることができる。
【0029】
はんだ層2の材料としては、例えば、Sn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-In系、もしくはSn-Ag-Cu系などのはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)を用いることできる。
【0030】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁回路基板10aによれば、回路層40は第1銅板41と第2銅板42が積層された銅板積層体45を含む回路パターンを有するので、回路層40の厚みを厚くすることができる。回路層40の厚みが厚くなることによって、回路層40に伝わった熱が絶縁回路基板10aの積層方向と共に面方向にも拡がり、回路層40に伝わった熱が回路層40の全体に拡がりやすくなるため、回路層の熱抵抗を低くすることができる。また、銅板積層体45は、絶縁層30とは反対側の面に位置する第2銅板42、すなわち素子3がはんだ層2を介して接続される第2銅板42の厚みが0.5mm以上3.0mm以下の範囲内と厚くなっている。これにより、回路層40に伝わった熱が回路層40全体により早く拡がるため、回路層40の熱抵抗をより低くすることができる。よって、本実施形態の絶縁回路基板10aは、放熱特性が優れたものとなる。さらに、第1銅板41と第2銅板42は、厚みを過度に厚くしなくともよいので、精細な回路パターンを形成することができる。
【0031】
また、本実施形態の絶縁回路基板において、銅板積層体45の第1銅板41の厚みが0.01mm以上2.0mm以下の範囲内と薄い場合には、より精細な回路パターンを形成することが可能となる。
【0032】
また、本実施形態の絶縁回路基板10aにおいて、第1銅板41と第2銅板42とを接合している接合材50が、熱伝導度が80W/mK以上で、接合温度が200℃以上400℃以下の範囲内にある金属である場合、あるいは純度99.99質量%以上のアルミニウムである場合は、第1銅板41と第2銅板42との間の熱伝導性が高くなり、回路層40の熱抵抗をさらに低くすることができる。
【0033】
また、本実施形態の絶縁回路基板10aにおいて、回路層40の素子3が搭載される素子搭載領域が銅板積層体45とされている場合は、素子搭載領域42aの厚みを厚くすることができるので、回路層40の熱抵抗をさらに低くすることができるので、絶縁回路基板の放熱特性がさらに優れたものとなる。
【0034】
さらに、本実施形態の絶縁回路基板において、銅板積層体45の絶縁層30とは反対側の面に位置する第2銅板42の厚さが最も厚い場合は、素子3に接する銅板に熱が伝わりやすいので、銅板積層体45に伝わった熱が絶縁層30に伝わりやすくなる。よって、この構成の絶縁回路基板10aは、放熱特性がさらに優れたものとなる。また、素子が搭載されていない領域は、銅板積層体とせずに、厚みの薄い銅板を用いることができるので、さらに精細な回路パターンを形成することが可能となる。
【0035】
以上、本発明の実施形態に係る絶縁回路基板について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、回路層40の第1銅板41及び第2銅板42はそれぞれ、素子搭載領域41a、42aと、配線領域41b、42bと、を有する構成とされているが、これに限定されるものではない。例えば、第2銅板42は素子搭載領域42aのみを有する構成、すなわち、素子搭載領域を第1銅板41と第2銅板を含む銅板積層体45で形成し、配線領域を第1銅板41のみで形成する構成とされていてもよい。
【0036】
また、本実施形態では、回路層40の素子搭載領域41a、42aの表面サイズが同一とされているが、これに限定されるものでない。例えば、絶縁層30と接する銅板(第1銅板41)の素子搭載領域41aの表面サイズを、絶縁層30とは反対側の面に位置する銅板(第2銅板42)の素子搭載領域42aの表面サイズより広い構成とされていてもよい。
【0037】
さらに、本実施形態では、回路層40の銅板積層体45は、第1銅板41と第2銅板42の2枚の銅板が積層された構成とされているが、銅板の枚数は2枚以上であれば、その枚数に制限はない。例えば、銅板の枚数は3枚以上であってもよい。なお、銅板の枚数は6枚以下であってもよい。なお、銅板の枚数は3枚以上の場合でも、素子と接合する銅板の厚みが0.5mm以上3.0mm以下の範囲内となる。
以下に、本発明の他の実施形態である絶縁回路基板について、図3図7を用いて説明する。なお、以下の説明において、図1及び図2に示すパワーモジュール1aと同一の構成については同一の符号を付して、詳細な説明は省略することがある。
【0038】
図3は、本発明の他の一実施形態に係る絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの平面図であり、図4は、図3のIV-IV線断面図である。
図3及び図4に示すパワーモジュール1bは、絶縁回路基板10bの第2銅板42が素子搭載領域42aのみを有する点、すなわち、素子搭載領域が第1銅板41と第2銅板を含む銅板積層体45で形成され、配線領域が第1銅板41のみで形成されている点において、図1及び図2に示すパワーモジュール1aと相違する。このため、第1銅板41の厚みを薄くすることによって、十分な放熱特性を有すると共に、配線領域41bの精細化、細線化が可能となる。
【0039】
また、パワーモジュール1bは、絶縁回路基板10bの第1銅板41の素子搭載領域41aの表面サイズが、第2銅板42の素子搭載領域42aより広い構成とされている点において、パワーモジュール1aと相違する。素子搭載領域41aの表面サイズが、素子搭載領域42aより広い構成とされているので、素子3から素子搭載領域42aに伝わった熱が素子搭載領域41aに伝わりやすくなる。
したがって、絶縁回路基板10bは、絶縁回路基板10aの有する効果と共に、配線領域41bのさらなる精細化や細線化が可能となり、放熱特性がさらに向上するという効果を有する。
【0040】
図5は、本発明のさらに他の一実施形態に係る絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの断面図である。
図5に示すパワーモジュール1cは、絶縁回路基板10cの素子搭載領域が第1銅板41と第2銅板を含む銅板積層体45で形成され、配線領域が第1銅板41のみで形成されている点で図1及び図2に示すパワーモジュール1aと相違する。
したがって、絶縁回路基板10cは、絶縁回路基板10aの有する効果と共に、配線領域41bのさらなる精細化や細線化が可能となるという効果を有する。
【0041】
図6は、本発明のさらに他の一実施形態に係る絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの断面図である。
図6に示すパワーモジュール1dは、絶縁回路基板10dの素子搭載領域が、第1銅板41と、第2銅板42と、第3銅板43とを含む銅板積層体45とされている点において、図1及び図2に示すパワーモジュール1aと相違する。第1銅板41と第2銅板42、及び第2銅板42と第3銅板43は互いに、接合材50を介して接合されている。第2銅板42及び第3銅板43は、厚みが0.5mm以上3.0mm以下の範囲内とされている。絶縁回路基板10dは、素子搭載領域を構成する銅板積層体45が3枚の銅板から形成されているので、銅板積層体45を構成する各銅板の厚みを薄くすることができる。このため、十分な放熱特性を有すると共に、素子搭載領域41a、42a、43aの精細化、細線化が可能となる。なお、素子搭載領域を構成する銅板積層体45は必要とされる伝熱量に応じて4枚以上であってもかまわないが、放熱特性と精細化とのバランスを考慮すると10枚以内が望ましい。
【0042】
また、パワーモジュール1dは、絶縁回路基板10dの配線領域が第1銅板41のみで形成されている点において、図1及び図2に示すパワーモジュール1aと相違する。このため、第1銅板41の厚みを薄くすることによって、配線領域41bの精細化、細線化が可能となる。
したがって、絶縁回路基板10dは、絶縁回路基板10aの有する効果と共に、素子搭載領域41a、42a、43aと配線領域41bのさらなる精細化、細線化が可能となり、放熱特性がさらに向上するという効果を有する。
【0043】
図7は、本発明のさらに他の一実施形態に係る絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの断面図である。
図7に示すパワーモジュール1eは、絶縁回路基板10eの第1銅板41の素子搭載領域41aと第2銅板42の素子搭載領域42aの表面サイズが、第3銅板43の素子搭載領域43aより広い構成とされている点において、図6に示すパワーモジュール1dと相違する。素子搭載領域41aの表面サイズが、素子搭載領域42aより広い構成とされているので、素子3から素子搭載領域43aに伝わった熱が素子搭載領域42aに伝わりやすくなる。
したがって、絶縁回路基板10eは、絶縁回路基板10dの有する効果と共に、放熱特性がさらに向上するという効果を有する。
【0044】
次に、本実施形態である絶縁回路基板の製造方法について、図8及び図9を用いて説明する。
【0045】
図8は、本発明の一実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法を説明する断面図である。
本実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法は、第1銅板接合工程と、第2銅板接合工程と、を含む。
【0046】
第1銅板接合工程は、図8(a)に示すように、絶縁層付き金属基板60の絶縁層30の上に第1銅板41を接合する工程である。絶縁層付き金属基板60は、金属基板20と、金属基板20の一方の面に備えられた絶縁層30と、を備える。第1銅板41は、素子搭載領域41aと配線領域41bとを有する回路パターン状に形成されている。
【0047】
絶縁層付き金属基板60の製造方法は、特に制限はない。絶縁層付き金属基板60の製造方法として、例えば、金属基板20の一方の面に樹脂シートを積層する方法を用いることができる。樹脂シートは、無機物フィラーを含有していてもよい。また、絶縁層付き金属基板60の製造方法として、金属基板20の一方の面に樹脂を含む塗布液を塗布し、得られた塗布膜を乾燥し、加熱して焼き付ける方法を用いることができる。塗布液は、無機物フィラーを含有していてもよい。さらに、絶縁層付き金属基板60の製造方法として、金属基板20の一方の面に、帯電した樹脂粒子を含む電着液を用いて、樹脂粒子を電着させ、得られた電着膜を乾燥し、加熱して焼き付ける方法を用いることができる。電着液は、無機物フィラーを含有していてもよい。
【0048】
回路パターン状に形成された第1銅板41の製造方法は、特に制限はない。例えば、エッチング法や抜き打ちなど銅板の加工方法として利用されている各種の方法を用いることができる。
【0049】
絶縁層付き金属基板60の絶縁層30と第1銅板41とを接合する方法としては、例えば、圧着法を用いることができる。絶縁層付き金属基板60の絶縁層30の上に第1銅板41を積載し、圧着装置を用いて、加圧しながら加熱することによって、絶縁層付き金属基板60の絶縁層30と第1銅板41とを接合することができる。圧着法による絶縁層30と第1銅板41との接合に際は、第1銅板41の酸化を抑制するために、減圧雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下で行なってもよい。
【0050】
第2銅板接合工程は、図8(b)に示すように、第1銅板41の絶縁層30とは反対側の面に、別に用意した第2銅板42を接合する工程である。第2銅板42は、素子搭載領域42aと配線領域42bとを有する回路パターン状に形成されている。
【0051】
回路パターン状に形成された第2銅板42の製造方法は、第1銅板41の場合と同様に、例えば、エッチング法や抜き打ちなど銅板の加工方法として利用されている各種の方法を用いることができる。
【0052】
第1銅板41と第2銅板42とは、接合材50を用いて接合することができる。接合材50の材料としては、例えば、銀、銅、純度99.99質量%以上のアルミニウムを用いることができる。接合材50は、これらの金属の薄膜であってもよいし、粒子でもよい。第1銅板41と第2銅板42とは、第1銅板41の上に接合材50を配置し、接合材50の上に第2銅板42を積載し、圧着装置を用いて、加圧しながら加熱することによって、第1銅板41と第2銅板42とを接合することができる。接合材50として、金属の粒子を用いる場合は、金属粒子の分散液を調製し、第1銅板41の上に金属粒子分散液を塗布し、得られた塗布膜を乾燥することによって、第1銅板41の上に金属粒子層を形成してもよい。圧着法による第1銅板41と第2銅板42との接合に際は、第1銅板41及び第2銅板42の酸化を抑制するために、減圧雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下で行なってもよい。
【0053】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁回路基板の製造方法によれば、絶縁層付き金属基板60の絶縁層30の上に、回路パターン状に形成された第1銅板41を接合し、次いで回路パターン状に形成された第2銅板42を順次接合することによって銅板積層体45を形成するので、第1銅板41と第2銅板42の厚みは過度に厚くしなくとも、厚みの厚い回路層40を有する絶縁回路基板を工業的に安定して製造することができる。第1銅板41と第2銅板42は、厚みを厚くしなくともよいので、精細な回路パターンを形成することができる。よって、本実施形態の絶縁回路基板の製造方法を用いて製造された絶縁回路基板は、回路層40は、厚みが厚く、かつ精細な回路パターンを有し、放熱特性に優れたものとなる。
【0054】
図9は、本発明の他の一実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法を説明する断面図である。
本実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法は、銅板積層体作製工程と、銅板積層体接合工程と、を含む。
【0055】
銅板積層体作製工程は、図9(a)に示すように、第1銅板41と第2銅板42とを接合して、銅板積層体45を作製する工程である。第1銅板41及び第2銅板42は、それぞれ素子搭載領域41a、42aと配線領域41b、42bとを有する回路パターン状に形成されている。
【0056】
第1銅板41と第2銅板42とは、接合材50を用いて接合することができる。接合材50を用いた第1銅板41と第2銅板42の接合方法は、上述の第2銅板接合工程の場合と同じである。
【0057】
銅板積層体接合工程は、図9(b)に示すように、銅板積層体45の第1銅板41を、絶縁層付き金属基板60の絶縁層30の上に接合する工程である。
銅板積層体45の第1銅板41と、絶縁層付き金属基板60の絶縁層30とを接合する方法としては、圧着法を用いることができる。圧着法を用いた第1銅板41と絶縁層30との接合方法は、上述の第1銅板接合工程の場合と同様である。
【0058】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁回路基板の製造方法によれば、回路パターン状に形成された第1銅板41と回路パターン状に形成された第2銅板42とを接合して、銅板積層体45を形成し、次いで銅板積層体45を絶縁層付き金属基板60の絶縁層30の上に接合するので、第1銅板41と第2銅板42の厚みは過度に厚くしなくとも、厚みの厚い銅板積層体45(回路層40)を有する絶縁回路基板を工業的に安定して製造することができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、第1銅板41と第2銅板42の2枚の銅板を用いて銅板積層体45を形成しているが、銅板の枚数は2枚以上であれば、その枚数に制限はない。例えば、銅板の枚数は3枚以上であってもよい。
【実施例
【0060】
[本発明例1]
(1)絶縁層付き銅基板の作製工程
銅基板(縦:100mm、横:100mm、厚み:1.0mm)の一方の表面に、アルミナと窒化アルミニウムとをフィラーとするフィラー入りエポキシ樹脂シート(絶縁層A、縦:100mm、横:100mm、厚み:120μm、熱伝導度:10W/mK)を積載して、絶縁層付き銅基板を作製した。なお、熱伝導度は熱圧着後の物性であり、測定はレーザーフラッシュ法にて行った。
【0061】
(2)第1銅板の接合工程
(第1銅板の作製)
銅板(縦:100mm、横:100mm、厚み:1.0mm)を、打ち抜き処理して、素子搭載領域と配線領域とを有する第1銅板を作製した。素子搭載領域のサイズは、30mm×30mmとした。
【0062】
(第1銅板の接合)
上記(1)で作製した絶縁層付き銅基板の絶縁層の上に、上記の第1銅板を積載し、圧着装置に配置した。次いで、圧着装置を真空引きして減圧雰囲気とした後、10MPaの圧力で加圧しながら180℃の温度で60分間加熱して、絶縁層に第1銅板を接合した。
【0063】
(3)第2銅板の接合工程
(銅粒子ペーストの調製)
室温のイオン交換水を撹拌しながら、そのイオン交換水に、クエン酸銅・2.5水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)を投入して、濃度30質量%のクエン酸銅水性分散液を調製した。得られたクエン酸銅水性分散液は、クエン酸アンモニウム水溶液を加えて、pHを3以上7未満に調整した。次いで、pH調整したクエン酸銅水性分散液を50℃に保持しつつ、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら、そのクエン酸銅水性分散液に、ヒドラジン一水和物水溶液を添加して、混合液を得た。ヒドラジン一水和物水溶液は、ヒドラジン一水和物を水で2倍希釈したものを用いた。また、ヒドラジン一水和物水溶液の添加量は、クエン酸銅水性分散液中の銅を銅イオンとして溶出させるのに必要な量の1.2倍当量分とした。次に、得られた混合液を窒素ガス雰囲気下で70℃まで昇温し、70℃(最高温度)で2時間保持した後、20℃まで冷却して、銅粒子スラリーを得た。得られた銅粒子スラリーを遠心分離機に投入し、1000rpmの回転速度で10分間処理して、銅粒子を回収した。回収した銅粒子を減圧乾燥法により10時間乾燥して、接合材用銅粒子を得た。得られた接合材用銅粒子8.5gと、エチレングリコール(関東化学株式会社製)1.4gと、グリセリン(関東化学株式会社製)0.1gとを混合して銅粒子ペーストを調製した。
【0064】
(第2銅板の作製)
銅板(縦:100mm、横:100mm、厚み:1mm)を、打ち抜き処理して、素子搭載領域と配線領域とを有する第2銅板を作製した。素子搭載領域のサイズは、第1銅板と同様に30mm×30mmとした。
【0065】
(第2銅板の接合)
上記(2)で接合した第1銅板の上に、上記の銅粒子ペーストを厚さ50μmとなるように塗布した。次いで、塗布した銅粒子ペーストの上に、上記の第2銅板を積載した。次いで、窒素雰囲気下、10MPaの圧力で加圧しながら300℃の温度で5分間加熱し、銅粒子を焼結させて、第1銅板と第2銅板とを接合した。
以上のようにして、本発明例1の絶縁回路基板を作製した。
【0066】
[本発明例2]
本発明例1の(3)第2銅板の接合工程において、銅粒子ペーストの代わりに、下記の方法により調製した銀粒子ペーストを用いたこと以外は、本発明例1と同様にして、本発明例2の絶縁回路基板を作製した。
【0067】
(銀粒子ペーストの調製)
1200gのイオン交換水を50℃に保持しつつ、撹拌しながら、そのイオン交換水に50℃に保持した900gの硝酸銀水溶液と、50℃に保持した600gのクエン酸ナトリウム水溶液とを、5分かけて同時に滴下し、クエン酸銀スラリーを調製した。硝酸銀水溶液中の硝酸銀の濃度は66質量%であり、クエン酸ナトリウム水溶液中のクエン酸の濃度は56質量%とした。次いで、得られたクエン酸銀スラリーを50℃に保持しつつ、撹拌しながら、そのクエン酸銀スラリーに、50℃に保持した300gのギ酸ナトリウム水溶液を30分かけて滴下して混合スラリーを得た。このギ酸ナトリウム水溶液中のギ酸の濃度は58質量%とした。次に、得られた混合スラリーを昇温速度10℃/時間で温度60℃まで昇温し、60℃(最高温度)で30分保持した後に、60分間かけて20℃まで冷却して、銀粒子スラリーを得た。得られた銀粒子スラリーを遠心分離機に投入し、1000rpmの回転速度で10分間処理して銀粒子を回収した。回収した銀粒子を凍結乾燥法により30時間乾燥して、接合材用銀粉末を得た。得られた接合材用銀粉末8.5gと、エチレングリコール(関東化学株式会社製)2.5gを混合してペーストを調製した。
【0068】
[本発明例3]
本発明例1の(1)絶縁層付き銅基板の作製工程において、絶縁層(絶縁層B)を下記の塗布法により形成したこと以外は、本発明例1と同様にして、本発明例3の絶縁回路基板を作製した。
(塗布液の調製)
ポリアミック酸(宇部興産社製、ユピアST)とNMP(N-メチル-2-ピロリドン)とを混合し、ポリイミドを溶解させることによって、ポリイミド濃度が10質量%のポリイミド溶液を調製した。また、α-アルミナ粉末(結晶構造:単結晶、平均粒子径:1.6μm)とNMPとを混合し、30分間超音波処理を行なうことによって、α-アルミナ粒子濃度が10質量%のα-アルミナ粒子分散液を調製した。
【0069】
ポリイミド溶液とα-アルミナ粒子分散液とを、樹脂膜中のα-アルミナ濃度が60体積%となる割合で混合した。得られた混合物を、株式会社スギノマシン社製スターバーストを用い、圧力50MPaの高圧噴射処理を10回繰り返すことにより分散処理を行なって、塗布液を調製した。なお、α-アルミナ濃度は、塗布液を加熱して乾燥したときに生成する固形物中のα-アルミナ粒子の含有量である。
【0070】
(絶縁層付き銅基板の作製)
銅基板(縦:100mm、横:100mm、厚み:1mm)の一方の表面に、上記の塗布液を、バーコート法により塗布して塗布膜を形成した。次いで、塗布膜を形成した銅基板をホットプレート上に配置して、室温から昇温速度3℃/分で60℃まで昇温し、60℃で100分間加熱した後、さらに昇温速度1℃/分で120℃まで昇温し、120℃で100分間加熱して、塗布膜を乾燥させた。次いで、銅基板を250℃で5分間加熱した後、窒素雰囲気下、400℃で60分間加熱した。こうして、銅基板の表面に、α-アルミナ単結晶粒子が分散されたポリイミド樹脂からなる絶縁層が形成された絶縁層付き銅基板を作製した。なお、得られた絶縁層は、膜厚が50μmで、熱伝導度が2W/mKであった。
【0071】
[本発明例4]
本発明例1の(1)絶縁層付き銅基板の作製工程において、絶縁層を本発明例3と同様に形成した。また、本発明例1の(3)第2銅板の接合工程において、銅粒子ペーストの代わりに、4Nアルミニウム薄膜(厚み:400μm)を用い、下記のようにして第2銅板を接合した。以上のこと以外は、本発明例1と同様にして、本発明例4の絶縁回路基板を作製した。
【0072】
(第2銅板の接合)
第1銅板の上に、この4Nアルミニウム薄膜と第2銅板とを積載して圧着装置に配置し、真空引きして減圧雰囲気とした後、1MPaの圧力で加圧しながら540℃の温度で60分間加熱して、第1銅板と第2銅板とを接合した。
【0073】
[本発明例5]
本発明例1の(3)第2銅板の接合工程において、第2銅板の素子搭載領域のサイズを15mm×15mmとした。そして、第1銅板の素子搭載領域の中央と、第2銅板の素子搭載領域の中央とが重ねるように、第1銅板と第2銅板とを接合したこと以外は、本発明例1と同様にして、本発明例5の絶縁回路基板を作製した。
【0074】
[本発明例6~10]
第1銅板又は第2銅板の厚みを下記の表1に示す厚みに変えたこと以外は、本発明例5と同様にして、本発明例6~10の絶縁回路基板を作製した。
【0075】
[本発明例11]
接合材として、熱伝導度が7W/mKのエポキシペーストを用い、第1銅板の上に、エポキシペーストを厚み50μmで塗布して、第1銅板と第2銅板とを結合したこと以外は、本発明例1と同様にして、本発明例11の絶縁回路基板を作製した。
【0076】
[比較例1~3]
第2銅板を接合しなかったこと、第1銅板の厚みを下記の表1に示す厚みに変えたこと以外は、本発明例1と同様にして、比較例1~3の絶縁回路基板を作製した。
【0077】
[比較例4~6]
第2銅板を接合しなかったこと、第1銅板の厚みを下記の表1に示す厚みに変えたこと以外は、本発明例3と同様にして、比較例4~6の絶縁回路基板を作製した。
【0078】
[比較例7]
第2銅板の厚みを0.3mmとしたこと以外は、本発明例5と同様にして、比較例7の絶縁回路基板を作製した。
【0079】
[評価]
素子搭載領域の表面に、Sn-Ag-Cuはんだを塗布して、厚み100μmのはんだ層を形成した。次いで、はんだ層の上に、搭載面のサイズが6mm×6mmの素子を搭載して、図10又は図11に示すパワーモジュールを得た。素子3を搭載した絶縁回路基板を、素子3の上部からトルク40Ncmのねじによって積層方向に加圧した。過渡熱測定装置(T3Ster、メンター・グラフィクス社製)100を、素子3と第2銅板の素子搭載領域42aとに接続した。そして、過渡熱測定装置100を用いて、素子3から銅基板10までの熱抵抗を測定した。素子の発熱条件は10A、180秒とし、熱抵抗の測定条件は、0.1A、測定時間300秒とした。同様の測定を、絶縁層を形成していない銅基板単体に対して行い、その熱抵抗を絶縁回路基板の測定値から減じた値を、熱抵抗とした。その結果を、下記の表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
回路層の回路パターンが第1銅板と、厚みが本発明の範囲内にある第2銅板とを積層した銅板積層体とされた本発明例1~11の絶縁回路基板は、回路層の回路パターンが第1銅板のみからなる比較例1~6の絶縁回路基板と比較して熱抵抗が低減することがわかる。特に、接合材として、銅粒子、銀粒子、アルミニウム薄膜を用いた本発明例1~10の絶縁回路基板は、熱抵抗が顕著に低減することがわかる。また、発明例8~10と比較例7を比べることで、第2銅板の厚みが0.5mm以上必要であることがわかる。
【符号の説明】
【0082】
1a、1b、1c、1d、1e パワーモジュール
2 はんだ層
3 素子
4 リード線
10a、10b、10c、10d、10e 絶縁回路基板
20 金属基板
30 絶縁層
40 回路層
41 第1銅板
42 第2銅板
43 第3銅板
41a、42a、43a 素子搭載領域
41b、42b 配線領域
45 銅板積層体
50 接合材
60 絶縁層付き金属基板
100 過渡熱測定装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11