(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】半導体光素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/12 20210101AFI20241008BHJP
H01S 5/026 20060101ALI20241008BHJP
G02F 1/025 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
H01S5/12
H01S5/026 616
G02F1/025
(21)【出願番号】P 2020210233
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2023-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友樹
(72)【発明者】
【氏名】江川 満
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-248364(JP,A)
【文献】特開2001-274515(JP,A)
【文献】国際公開第2018/079112(WO,A1)
【文献】特開平11-068222(JP,A)
【文献】特開2009-182234(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0185689(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1426138(CN,A)
【文献】特開2011-258810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を出射する発光領域と、前記光を変調する変調器領域とを集積した半導体光素子であって、
前記発光領域に設けられ、前記光の伝搬方向に延伸し、前記光の伝搬方向に交差する方向に突出し、活性層を含む第1メサと、
前記光の伝搬方向に交差する方向における前記第1メサの両側に設けられ、前記第1メサの突出方向に順に積層された第1埋込層および第2埋込層と、
前記第1メサおよび前記第2埋込層の上に設けられた第1半導体層と、
前記変調器領域に設けられ、前記光の伝搬方向に延伸し、前記光の伝搬方向に交差する方向に突出し、光吸収層を含む第2メサと、
前記発光領域および前記変調器領域に設けられ、前記変調器領域では前記第2メサの両側に
設けられ、前記発光領域では前記第1埋込層および前記第2埋込層の前記第1メサとは反対の位置に設けられた第3埋込層と、を具備し、
前記第1半導体層および前記第1埋込層は第1の導電型を有し、
前記第2埋込層は前記第1の導電型とは異なる第2の導電型を有し、
前記第3埋込層は半絶縁性の半導体層
であり、鉄がドープされた半絶縁性のインジウムリンで形成されている半導体光素子。
【請求項2】
前記第1メサは、順に積層された第2半導体層および前記活性層を含み、
前記第2メサは、順に積層された第3半導体層、前記光吸収層および第4半導体層を含み、
前記第2半導体層および前記第3半導体層は前記第2の導電型を有し、
前記第4半導体層は前記第1の導電型を有する請求項1に記載の半導体光素子。
【請求項3】
前記第2メサの両側であって、前記第3埋込層の外側に設けられた樹脂層を具備する請求項1または請求項2に記載の半導体光素子。
【請求項4】
前記第1半導体層および前記第1埋込層はp型のインジウムリンを含み、
前記第2埋込層はn型のインジウムリンを含む請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の半導体光素子。
【請求項5】
前記発光領域と前記変調器領域との間に設けられた導波路領域を具備し、
前記第2メサは前記変調器領域と前記導波路領域とに設けられ、
前記第2メサは、前記光の伝搬方向において前記
導波路領域側から前記発光領域側に向けて先細りの第1テーパ部と、前記
導波路領域側から前記変調器領域側に向けて先細りの第2テーパ部と、を
有し、
前記第1テーパ部の両側に前記第1埋込層および前記第2埋込層が設けられ、
前記第2テーパ部の両側に前記第3埋込層が設けられている請求項1から
請求項4のいずれか一項に記載の半導体光素子。
【請求項6】
前記光の伝搬方向に対する前記第1テーパ部および前記第2テーパ部の傾斜角度は10°以下である請求項5に記載の半導体光素子。
【請求項7】
前記第1メサは前記光の伝搬方向に延伸する回折格子を有する請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の半導体光素子。
【請求項8】
光を出射する発光領域と、前記光を変調する変調器領域とを集積した半導体光素子の製造方法であって、
前記発光領域に活性層を含む第1メサを形成する工程と、
前記光の伝搬方向に交差する方向における前記第1メサの両側に、第1埋込層および第2埋込層を、前記第1メサの突出方向に順に積層する工程と、
前記第1メサおよび前記第2埋込層の上に第1半導体層を形成する工程と、
前記変調器領域に光吸収層を含む第2メサを形成する工程と、
前記第2メサの両側
、および前記第1埋込層および前記第2埋込層の前記第1メサとは反対の位置に、第3埋込層を設ける工程と、を有し、
前記第1半導体層および前記第1埋込層は第1の導電型を有し、
前記第2埋込層は前記第1の導電型とは異なる第2の導電型を有し、
前記第3埋込層は半絶縁性の半導体層
であり、鉄がドープされた半絶縁性のインジウムリンで形成されている半導体光素子の製造方法。
【請求項9】
前記第2メサを形成する工程は、前記第1メサよりも大きな幅を有する前記第2メサを形成する工程であり、
前記第1埋込層および前記第2埋込層を積層する工程は、前記第1メサおよび前記第2メサの両側に前記第1埋込層および前記第2埋込層を積層する工程を含み、
前記第2メサの両側の前記第1埋込層および前記第2埋込層を除去し、かつ前記第2メサを細くする工程を有し、
前記第3埋込層を設ける工程は、前記細くする工程後の前記第2メサの両側に前記第3埋込層を設ける工程
を含む請求項8に記載の半導体光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は半導体光素子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信などの光源として、半導体レーザ素子と他の光学素子とをバットジョイント方式で集積した半導体光素子が知られている。例えば、分布帰還型(DFB:Distributed Feed-back)発光領域と、電界吸収型(EA:Electro Absorption)光変調器とを集積する技術が開発されている(特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-324936号公報
【文献】特開2011-29595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発光領域と変調器領域に、例えば多重井戸量子(MQW:Multi Quantum Well)構造のコア層を含むメサを設ける。半絶縁性埋込ヘテロ(SIBH:Semi-Insulator Buried Hetero)構造では、メサを半絶縁性の半導体層で埋め込む。半絶縁性の埋込層を用いることで変調器領域の容量が低下するため、SIBH構造は高速変調に適している。その一方で、半絶縁性の埋込層では発光領域における電流狭窄が不十分であり、電流が埋込層にリークする。このため光出力の増加が難しく、特に高温において高出力の動作が困難である。そこで、高出力化および高速変調が可能な半導体光素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る半導体光素子は、光を出射する発光領域と、前記光を変調する変調器領域とを集積した半導体光素子であって、前記発光領域に設けられ、前記光の伝搬方向に延伸し、前記光の伝搬方向に交差する方向に突出し、活性層を含む第1メサと、前記光の伝搬方向に交差する方向における前記第1メサの両側に設けられ、前記第1メサの突出方向に順に積層された第1埋込層および第2埋込層と、前記第1メサおよび前記第2埋込層の上に設けられた第1半導体層と、前記変調器領域に設けられ、前記光の伝搬方向に延伸し、前記光の伝搬方向に交差する方向に突出し、光吸収層を含む第2メサと、前記第2メサの両側に設けられた第3埋込層と、を具備し、前記第1半導体層および前記第1埋込層は第1の導電型を有し、前記第2埋込層は前記第1の導電型とは異なる第2の導電型を有し、前記第3埋込層は半絶縁性の半導体層である。
【0006】
本開示に係る半導体光素子の製造方法は、光を出射する発光領域と、前記光を変調する変調器領域とを集積した半導体光素子の製造方法であって、前記発光領域に活性層を含む第1メサを形成する工程と、前記光の伝搬方向に交差する方向における前記第1メサの両側に、第1埋込層および第2埋込層を、前記第1メサの突出方向に順に積層する工程と、前記第1メサおよび前記第2埋込層の上に第1半導体層を形成する工程と、前記変調器領域に光吸収層を含む第2メサを形成する工程と、前記第2メサの両側に第3埋込層を設ける工程と、を有し、前記第1半導体層および前記第1埋込層は第1の導電型を有し、前記第2埋込層は前記第1の導電型とは異なる第2の導電型を有し、前記第3埋込層は半絶縁性の半導体層である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば高出力化および高速変調が可能な半導体光素子およびその製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】
図1Aは実施形態に係る半導体光素子を例示する斜視図である。
【
図4】
図4は半導体光素子の特性を例示する模式図である。
【
図5A】
図5Aは半導体光素子の製造方法を例示する平面図である。
【
図6】
図6は半導体光素子の製造方法を例示する平面図である。
【
図7A】
図7Aは半導体光素子の製造方法を例示する平面図である。
【
図8A】
図8Aは半導体光素子の製造方法を例示する平面図である。
【
図9A】
図9Aは半導体光素子の製造方法を例示する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0010】
本開示の一形態は、(1)光を出射する発光領域と、前記光を変調する変調器領域とを集積した半導体光素子であって、前記発光領域に設けられ、前記光の伝搬方向に延伸し、前記光の伝搬方向に交差する方向に突出し、活性層を含む第1メサと、前記光の伝搬方向に交差する方向における前記第1メサの両側に設けられ、前記第1メサの突出方向に順に積層された第1埋込層および第2埋込層と、前記第1メサおよび前記第2埋込層の上に設けられた第1半導体層と、前記変調器領域に設けられ、前記光の伝搬方向に延伸し、前記光の伝搬方向に交差する方向に突出し、光吸収層を含む第2メサと、前記第2メサの両側に設けられた第3埋込層と、を具備し、前記第1半導体層および前記第1埋込層は第1の導電型を有し、前記第2埋込層は前記第1の導電型とは異なる第2の導電型を有し、前記第3埋込層は半絶縁性の半導体層である半導体光素子である。発光領域に第1埋込層および第2埋込層を積層することで、強く電流狭窄することができる。活性層に選択的に電流を注入するため、高出力化が可能である。変調器領域に半絶縁性の第3埋込層を設けることで、寄生容量を低減することができ、高速変調が可能である。
(2)前記第1メサは、順に積層された第2半導体層および前記活性層を含み、前記第2メサは、順に積層された第3半導体層、前記光吸収層および前記第4半導体層を含み、前記第2半導体層および前記第3半導体層は前記第2の導電型を有し、前記第4半導体層は前記第1の導電型を有してもよい。活性層の上に第1導電型の第1半導体層が設けられ、活性層の下に第2導電型の第2半導体層が設けられることで、活性層に電流を注入することができる。光吸収層の上に第1導電型の第1半導体層が設けられ、光吸収層の下に第2導電型の第3半導体層が設けられることで、光吸収層に電圧を印加することができる。
(3)前記第2メサの両側であって、前記第3埋込層の外側に設けられた樹脂層を具備してもよい。寄生容量がさらに低下するため、より高速な変調が可能である。
(4)前記第1半導体層および前記第1埋込層はp型のインジウムリンを含み、前記第2埋込層はn型のインジウムリンを含んでもよい。第1メサの両側にp型の第1埋込層とn型の第2埋込層を設けるpn埋込構造により、効果的に電流狭窄を行い、出力を高めることができる。
(5)前記第3埋込層は半絶縁性のインジウムリンを含んでもよい。半絶縁性のインジウムリンにより寄生容量を低下させることで、高速変調が可能となる。
(6)前記第2メサは、前記光の伝搬方向において前記変調器領域側から前記発光領域側に向けて先細りの第1テーパ部と、前記発光領域側から前記変調器領域側に向けて先細りの第2テーパ部と、を有してもよい。第1テーパ部および第2テーパ部により、第1メサと第2メサとの光結合を強め、発光領域と変調器領域との間での光の戻りなどを抑制することができる。
(7)前記第1メサは前記光の伝搬方向に延伸する回折格子を有してもよい。発光領域はDFBレーザとして機能する。
(8)光を出射する発光領域と、前記光を変調する変調器領域とを集積した半導体光素子の製造方法であって、前記発光領域に活性層を含む第1メサを形成する工程と、前記光の伝搬方向に交差する方向における前記第1メサの両側に、第1埋込層および第2埋込層を、前記第1メサの突出方向に順に積層する工程と、前記第1メサおよび前記第2埋込層の上に第1半導体層を形成する工程と、前記変調器領域に光吸収層を含む第2メサを形成する工程と、前記第2メサの両側に第3埋込層を設ける工程と、を有し、前記第1半導体層および前記第1埋込層は第1の導電型を有し、前記第2埋込層は前記第1の導電型とは異なる第2の導電型を有し、前記第3埋込層は半絶縁性の半導体層である半導体光素子の製造方法である。発光領域に第1埋込層および第2埋込層を積層することで、強く電流狭窄することができる。活性層に選択的に電流を注入するため、高出力化が可能である。変調器領域に半絶縁性の第3埋込層を設けることで、寄生容量を低減することができ、高速変調が可能である。
(9)前記第2メサを形成する工程は、前記第1メサよりも大きな幅を有する前記第2メサを形成する工程であり、前記第1埋込層および前記第2埋込層を積層する工程は、前記第1メサおよび前記第2メサの両側に前記第1埋込層および前記第2埋込層を積層する工程を含み、前記第2メサの両側の前記第1埋込層および前記第2埋込層を除去し、かつ前記第2メサを細くする工程を有し、前記第3埋込層を設ける工程は、前記細くする工程後の前記第2メサの両側に前記第3埋込層を設ける工程でもよい。第2メサの両側から第1埋込層および第2埋込層が除去され、第3埋込層が形成されるため、寄生容量を効果的に低減することができる。
【0011】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る半導体光素子およびその製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0012】
(半導体光素子)
図1Aは実施形態に係る半導体光素子100を例示する斜視図である。
図1Bは
図1Aの線A-Aに沿ったXZ平面内の断面図である。
図2Aは
図1Aの線B-Bに沿った断面図である。
図2Bは
図1Aの線C-Cに沿った断面図である。埋込層などに生じる傾斜は斜視図では省略している。
図3は
図1Aの線A-Aに沿ったXY平面内の断面図である。X軸方向は光の伝搬方向である。Z軸方向は層の積層方向であり、X軸方向に直交する。Y軸方向はX軸方向およびZ軸方向に直交する。
【0013】
図1Aおよび
図1Bに示すように、半導体光素子100は発光領域10、導波路領域52および変調器領域50を有する、バットジョイント構造の素子である。発光領域10、導波路領域52および変調器領域50はX軸方向に沿って順に並ぶ。
図1Bに示す発光領域10のX軸方向の長さL1は例えば300μm以上、600μm以下である。変調器領域50のX軸方向の長さL2は例えば50μm以上、200μm以下である。導波路領域52のX軸方向の長さL3は例えば20μm以上、150μm以下である。
【0014】
図2Aは発光領域10の断面図である。発光領域10は分布帰還型(DFB)レーザとして機能する。発光領域10において、基板12の上にメサ13(第1メサ)、埋込層24、26および32、クラッド層28が設けられている。メサ13は、基板12の上面から順に積層された回折格子層14、クラッド層16(第2半導体層)、活性層18、およびクラッド層20で形成されている。メサ13は基板12のY軸方向の中央付近に位置し、発光領域10をX軸方向に延伸する。メサ13の幅W1は例えば1μm~2μmである。
【0015】
基板12の上であってメサ13のY軸方向の両側には2つの埋込層24(第1埋込層)が設けられている。2つの埋込層24はメサ13を挟む。埋込層24の上に2つの埋込層26(第2埋込層)が設けられている。2つの埋込層26は互いに離間し、Y軸方向においてメサ13を挟む。クラッド層28はメサ13および埋込層26の上に設けられ、2つの埋込層26の間においてクラッド層20に接触する。クラッド層20の上にコンタクト層30が設けられている。
【0016】
埋込層32(第3埋込層)は、基板12の上に設けられ、メサ13、埋込層24および26、クラッド層28をY軸方向の両側から挟む。コンタクト層30および埋込層32の上に絶縁膜34および35が順に設けられている。電極38は絶縁膜35の上に設けられ、絶縁膜34および35の開口部を通じてコンタクト層30に接触し、コンタクト層30と電気的に接続される。電極38は例えばチタン、白金および金の積層体(Ti/Pt/Au)などの金属で形成される。電極36は基板12の下面に設けられ、基板12と電気的に接続される。電極36は例えば金、ゲルマニウムおよびNiの合金(AuGeNi)などの金属で形成される。
【0017】
活性層18は、複数の井戸層およびバリア層を含み、多重量子井戸構造(MQW:Multi Quantum Well)を有する。井戸層およびバリア層は、例えばアンドープのガリウムインジウム砒素リン(i-GaInAsP)、またはアルミニウムガリウムインジウム砒素(i-AlGaInAs)で形成される。回折格子層14は例えばインジウムガリウム砒素リン(InGaAsP)で形成されている。基板12およびクラッド層16は例えばn型のインジウムリン(n-InP)で形成され、n型のクラッド層として機能する。埋込層26はn-InPで形成されている。InPに添加されるn型のドーパントは例えばシリコン(Si)である。クラッド層20および28(これらは第1半導体層に対応する)、埋込層24は例えばp-InPで形成されている。p型のドーパントは例えば亜鉛(Zn)である。埋込層32は例えば鉄(Fe)がドープされた半絶縁性のInPで形成されている。コンタクト層30は例えばp++型のInGaAsで形成されている。絶縁膜34および35は例えば酸化シリコン(SiO2)などの絶縁体で形成されている。
【0018】
n型のクラッド層16、MQWの活性層18、p型のクラッド層20および28が積層されることで、Z軸方向にメサ13を含むp-i-n構造が形成される。メサ13の両側には、p型の埋込層24、n型の埋込層26、およびp型のクラッド層28が積層され、pn埋込構造が形成される。
【0019】
図2Bは変調器領域50の断面図である。変調器領域50は電界吸収型(EA)変調器として機能する。変調器領域50においては、基板12の上にメサ43(第2メサ)、埋込層32、樹脂層44が設けられている。メサ43は基板12のY軸方向の中央付近に位置し、変調器領域50および導波路領域52をX軸方向に延伸する。変調器領域50において、メサ43は、基板12側から順に積層された回折格子層14、クラッド層16(第3半導体層)、光吸収層40、クラッド層20、クラッド層28(この2つの層は第4半導体層に対応する)、およびコンタクト層30で形成されている。メサ43の幅W2は例えば1μm~2μmである。基板12の上であってメサ43の両側に埋込層32が設けられている。2つの埋込層32はメサ43を挟む。
図3に示すように導波路領域52においてメサ43は光吸収層40に代えて導波路層54を有する。
【0020】
絶縁膜34は基板12の上面、埋込層32の側面および上面を覆う。絶縁膜34の上であって埋込層32の外側に樹脂層44が設けられている。2つの樹脂層44は、メサ43および埋込層32をY軸方向において挟む。樹脂層44の上に絶縁膜35が設けられている。絶縁膜35の上に電極48が設けられている。電極48は絶縁膜35の開口部を通じてコンタクト層30に接触し、コンタクト層30に電気的に接続される。
【0021】
光吸収層40は,例えば複数の井戸層およびバリア層を含み、多重量子井戸構造を有する。井戸層およびバリア層は、例えばアンドープのガリウムインジウム砒素リン(i-GaInAsP)またはアルミニウムガリウムインジウム砒素(i-AlGaInAs)で形成される。n型のクラッド層16、MQWの光吸収層40、p型のクラッド層20が積層されることで、Z軸方向にメサ43を含むp-i-n構造が形成される。樹脂層44は例えばベンゾシクロブテン(BCB:Benzocyclobutene)などで形成されている。電極48は例えばTi/Pt/Auなど金属で形成される。
【0022】
図1Bに示すように、X軸方向に沿って、変調器領域50の光吸収層40、導波路領域52の導波路層54、発光領域10の活性層18が並ぶ。導波路領域52の導波路層54は例えばInGaAsPで形成され、活性層18および光吸収層40に光結合する。Z軸方向においてクラッド層16とクラッド層20との間に設けられている。
【0023】
導波路領域52にコンタクト層30は設けられていない。変調器領域50のコンタクト層30および電極48と、発光領域10のコンタクト層30および電極38との間は、絶縁膜34および35によって絶縁されている。電極36は発光領域10、導波路領域52および変調器領域50に設けられている。回折格子層14のうち発光領域10内の部分に、X軸方向に沿って延伸する周期的な凹凸が設けられている。当該凹凸が回折格子15として機能する。活性層18に回折格子が設けられてもよい。
【0024】
図3は活性層18、光吸収層40および導波路層54を含む断面を図示する。
図3に示すように、メサ43のうち導波路領域52の部分はテーパ部43aおよび43bを有する。具体的には、回折格子層14、クラッド層16および20、導波路層54にテーパ部43aおよび43bが形成されている。2つのテーパ部のうちテーパ部43aは、発光領域10側に位置し、X軸方向に沿って、変調器領域50側から発光領域10側に向けて先細りである。テーパ部43bは、変調器領域50側に位置し、X軸方向に沿って、発光領域10側から変調器領域50側に向けて先細りである。テーパ部43aおよび43bのX軸方向に対する傾斜角度は例えば10°以下である。
【0025】
X軸方向において、樹脂層44は半導体光素子100の端部からテーパ部43bの中央付近まで延伸する。樹脂層44と光吸収層40との間における埋込層32の幅W3は例えば0.3μmである。
【0026】
電極38および36を用いて発光領域10の活性層18に電流を注入することで、X軸方向に光が出射される。回折格子15によって発振波長は例えば1.55nmに制御される。導波路層54のバンドギャップは光のエネルギーより大きいため、導波路層54は光を吸収しにくい。電極48および電極36を用いて変調器領域50の光吸収層40に電圧を印加することで、光吸収層40の吸収率を変化させ、光を変調する。変調光は半導体光素子100の端面から出射される。テーパ部43bが設けられているため、発光領域10と変調器領域50との結合が強くなり、光の損失が抑制される。テーパ部43aが設けられているため、変調器領域50から発光領域10への光の戻りが抑制される。
【0027】
図2Aに示すように、発光領域10においては、p型の埋込層24、n型の埋込層26およびp型のクラッド層28を積層しているため、電流が埋込層26でブロックされ埋込層26および24を通じてZ軸方向に流れにくい。一方、活性層18の上にはp型のクラッド層20および28が積層され、下にはn型のクラッド層16が設けられている。pn埋込構造によって効果的な電流狭窄を行い、クラッド層28を通じて活性層18に選択的に電流を入力することで、高出力化が可能である。
【0028】
図4は半導体光素子の特性を例示する模式図である。横軸は発光領域10に入力する電流を表し、縦軸は光出力を表す。実線は実施形態の特性を表す。破線は比較例の特性を表す。比較例では、発光領域10および変調器領域50の両方に半絶縁性の埋込層32が設けられ、発光領域10に埋込層24および26が設けられていない。
【0029】
電流が増加するにつれて光出力は増加する。しかし、比較例においては電流がI1以上になると光出力が線形に増加しなくなり、さらに電流が増加すると光出力が減少する。半絶縁性の埋込層32による電流狭窄が不十分であり、電流がリークし、効率的な電流注入が困難になる。例えば75℃など室温(約25℃)よりも高温において、光出力の低下が発生しやすい。
【0030】
一方、実施形態においては、電流がI1以上においても光出力は線形に増加する。埋込層24および26によるpn埋込構造によって、埋込層32よりも強い電流狭窄が可能であり、光出力を高めることができる。例えば高温においても高出力動作を行い、高い光出力を得ることが可能である。
【0031】
図2Bに示すように、変調器領域50においては、メサ43の両側に半絶縁性の埋込層32が設けられている。pn埋込構造の発光領域10に比べて変調器領域50の寄生容量が低下し、高速変調が可能である。
【0032】
【0033】
図5Aおよび
図5Bに示すように、有機金属気相成長法(OMVPE:Organometallic Vapor Phase Epitaxy)などにより、基板12の上に、回折格子層14、クラッド層16、および活性層18を順にエピタキシャル成長する。
【0034】
図6に示すように、活性層18の上に例えば酸化シリコン(SiO
2)のマスク60を設ける。活性層18のうち発光領域10のメサ13となる部分はマスク60に覆われる。活性層18のうちマスク60から露出する部分をエッチングで除去し、エッチング後に光吸収層40および導波路層54をエピタキシャル成長する。光吸収層40および導波路層54の厚さは活性層18の厚さに等しい。その後、マスク60を取り除き、
図6では不図示のp-InPのクラッド層20を成長する。
【0035】
図7Aから
図7Cに示すように、クラッド層20の上にマスク62を設ける。マスク62はX軸方向において基板12の一端から他端まで延伸し、クラッド層20のY軸方向の中央部を覆う。変調器領域50におけるマスク62のY軸方向の幅は例えば10μmであり、発光領域10における幅は例えば1~2μmである。マスク62の幅は、変調器領域50から発光領域10に向けて徐々に小さくなる。すなわち、マスク62はX軸方向に沿って先細りのテーパ部62aを有する。回折格子層14、クラッド層16および20、活性層18、光吸収層40のうち、マスク62から露出する部分をエッチングで除去する。エッチングは例えば反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)などのドライエッチング、またはウェットエッチングなどである。
図7Bに示すように、発光領域10にメサ13が形成される。
図7Cに示すように、変調器領域50にメサ43が形成される。メサ13および43の両側に基板12が露出する。メサ43の幅はメサ13の幅より大きい。メサ43にはマスク62のテーパ部62aが転写され、
図3のテーパ部43aが形成される。
【0036】
図8Aから
図8Cに示すように、例えばOMVPE法などにより、マスク62から露出する基板12の表面に、埋込層24および26を順にエピタキシャル成長する。原料ガスとともにp型のドーパントを成長装置に導入することで、p-InPの埋込層24を成長する。ドーパントをn型のドーパントに切り替え、n-InPの埋込層26を成長する。成長の後、マスク62は除去する。
【0037】
図9Aから
図9Cに示すように、例えばOMVPE法などにより、メサ13および43、埋込層26の上に、クラッド層28およびコンタクト層30を順にエピタキシャル成長する。
【0038】
図10Aから
図10Cに示すように、コンタクト層30の上にマスク64を設ける。
図10Aに示すように、マスク64の幅は、発光領域10から変調器領域50に向けて徐々に小さくなり、例えば10μmから1~2μmに変化する。すなわち、マスク64はX軸方向に沿って先細りのテーパ部64aを有する。
図10Bに示すように、マスク64の幅はメサ13の幅より大きい。
図10Cに示すように、マスク64の幅はメサ43の幅より小さい。
【0039】
図11Aから
図11Cに示すように、エッチングにより、埋込層24および26、クラッド層28、コンタクト層30のうちマスク64から露出する部分を除去する。
図11Bに示すように、マスク64の幅はメサ13の幅より大きいため、メサ13の両側に埋込層24および26が残存する。メサ13および埋込層26の上にはクラッド層28およびコンタクト層30が残存する。
図11Cに示すように、メサ43は細く加工され、メサ43の両側から埋込層24および26、クラッド層28ならびにコンタクト層30は除去される。メサ43の上にはクラッド層28およびコンタクト層30が残存する。メサ43にはマスク64のテーパ部64aが転写され、
図3のテーパ部43bが形成される。
【0040】
図12Aから
図12Cに示すように、マスク64から露出する基板12の表面に、半絶縁性の埋込層32をエピタキシャル成長する。
図12Bに示すように、Y軸方向において、埋込層32はメサ13の両側であって、埋込層24および26、クラッド層28およびコンタクト層30の外側に位置する。
図12Cに示すように、埋込層32はメサ43の両側に設けられる。埋込層32の形成後、マスク64は除去する。
【0041】
図13Aから
図13Cに示すように、マスク66を設ける。
図13Bに示すように、マスク66は発光領域10の全体を覆う。
図13Cに示すように、マスク66はメサ43の全体および埋込層32の一部を覆う。埋込層32のうちY軸方向外側はマスク66から露出する。
【0042】
図14Aおよび
図14Bに示すように、エッチングを行い、埋込層32のうちY軸方向外側の部分を除去する。埋込層32のうちマスク66に覆われた部分は残存する。エッチングによって基板12の上面および埋込層32の側面が露出する。エッチング後、マスク66は除去する。
【0043】
図15Aおよび
図15Bに示すように、例えば化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)などにより、コンタクト層30の上面、埋込層32の上面および側面、基板12の上面に絶縁膜34を設ける。マスク66を除去せず、絶縁膜34の一部として利用してもよい。
【0044】
図16Aおよび
図16Bに示すように、樹脂層44を絶縁膜34の上面および側面に設ける。
図16Bに示すように、樹脂層44は、メサ43および埋込層32の両側を埋め込む。
【0045】
図17Aに示すように、例えば研磨などで樹脂層44のうち上側の部分を除去し、樹脂層44の上面と発光領域10の絶縁膜34の上面とを同程度の高さとする。その後、コンタクト層30のうち、発光領域10と変調器領域50との間の部分をエッチングなどで除去し、発光領域10と変調器領域50との間で絶縁する(
図1B参照)。
図17Aから
図17Cに示すように、樹脂層44および絶縁膜34の上面に絶縁膜35を設ける。
【0046】
図18Aに示すように、電極36、38および48を設ける。
図18Bおよび
図18Cに示すように、レジストパターニングおよびエッチングなどで、絶縁膜34および35に開口部を設ける。蒸着などで絶縁膜35の上に電極38および48を設け、基板12の裏面に電極36を設ける。以上の工程で半導体光素子100が形成される。
【0047】
本実施形態によれば、
図2Aに示すように、発光領域10に活性層18を含むメサ13が設けられている。p型のクラッド層28を通じて、活性層18に電流を注入する。メサ13の両側にp型の埋込層24とn型の埋込層26とが積層したpn埋込構造によって、埋込層への電流のリークは抑制され、電流狭窄を強めることができる。メサ13の活性層18に選択的に電流を注入することで、高い光出力を得ることができる。特に
図4に示したように、高温・高出力でも良好な特性を発揮することができる。例えばデータセンタなどにおける光通信に半導体光素子100を用いることができる。
【0048】
図2Bに示すように、変調器領域50に光吸収層40を含むメサ43の両側に半絶縁性の埋込層32が設けられている。変調器領域50の寄生容量は発光領域10に比べて低下するため、高速での変調が可能である。実施形態によれば、高出力化および高速変調の両立が可能である。
【0049】
図2Aおよび
図2Bに示すように、活性層18および光吸収層40の下にn型のクラッド層16が
設けられ、活性層18および光吸収層40の上にp型のクラッド層20および28が設けられる。発光領域10のメサ13には、活性層18を含むp-i-n構造が形成される。一方、メサ13の両側にはp型の埋込層24とn型の埋込層26とを積層したpn埋込構造が設けられる。このため活性層18に集中的に電流を注入することができる。変調器領域50のメサ43には、光吸収層40を含むp-i-n構造が形成される。メサ43の両側には半絶縁性の埋込層32が設けられている。寄生容量を低下させ、かつ光吸収層40に電圧を印加することができる。高出力化と高速変調の両立が可能である。
【0050】
図2Bに示すように、メサ43の両側には樹脂層44が設けられている。樹脂層44によって寄生容量をさらに低下させることができるため、より高速での光変調が可能である。
【0051】
埋込層24、クラッド層20および28はp-InPで形成されている。基板12、埋込層24およびクラッド層16はn-InPで形成されている。InPによりpn埋込構造を形成することができる。埋込層32はFeをドープした半絶縁性のInPで形成されており、寄生容量を低減することができる。これらの層にはInP以外の化合物半導体を用いてもよい。p型の層とn型の層とは交互に積層すればよく、積層の順番は実施形態とは逆にしてもよい。
【0052】
図11Cに示すようにメサ43の両側の埋込層24および26を除去し、メサ43を細く加工した後、
図12Cに示すようにメサ43の両側に埋込層32を設ける。メサ43の両側にpn埋込構造が残存せず、埋込層32が形成されるため、寄生容量を効果的に低減することができる。
【0053】
図7Bおよび
図7Cに示す工程において、メサ13の幅はメサ43より小さい。
図11Cに示す工程で、変調器領域50のメサ43はメサ13と同程度に細く加工される。こうした工程において、
図3に示すテーパ部43aおよび43bが形成される。メサ13と、変調器領域50のメサ43との間に例えば数μm以下のわずかな位置ずれが生じる恐れがある。テーパ部43aおよび43bによって、発光領域10と変調器領域50との光結合を強め、変調器領域50から発光領域10への光の戻りを抑制することができる。テーパ部43aおよび43bのX軸方向に対する傾斜角度は例えば5°以上、10°以下である。埋込層の異常成長を抑制することができる。
【0054】
図3では導波路層54のX軸方向の一端がテーパ部43bの先端に位置し、導波路層54の他端がテーパ部43aの先端よりも発光領域10側に例えば5μmほど突出する。導波路層54の一端がテーパ部43bの先端より変調器領域50側に突出してもよいし、発光領域10側に位置してもよい。導波路層54の他端がテーパ部43aの先端と同じ位置にあってもよいし、テーパ部43aの先端より変調器領域50側にあってもよい。
【0055】
メサ13の回折格子層14には回折格子15が設けられている。発光領域10はDFBレーザとして機能する。回折格子15は回折格子層14以外の層に設けられてもよい。発光領域10はDFBレーザ以外のレーザとして機能してもよい。変調器領域50はEA変調器以外の変調器として機能してもよい。
【0056】
以上、本開示の実施形態について詳述したが、本開示は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本開示の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 発光領域
12 基板
13、43 メサ
14 回折格子層
16、20、28 クラッド層
18 活性層
24、26、32 埋込層
30 コンタクト層
34、35 絶縁膜
36、38、48 電極
40 光吸収層
44 樹脂層
50 変調器領域
52 導波路領域
54 導波路層
43a、43b、62a、64a テーパ部
60、62、64、66 マスク
100 半導体光素子