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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】無線通信装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 1/48 20060101AFI20241008BHJP
   H01Q 1/24 20060101ALI20241008BHJP
   H01Q 13/08 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H01Q1/48
H01Q1/24 Z
H01Q13/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020213995
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099919
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】角谷 祐次
(72)【発明者】
【氏名】池田 正和
(72)【発明者】
【氏名】三治 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮下 智和
(72)【発明者】
【氏名】藤井 亮三
(72)【発明者】
【氏名】浦辺 賢志
(72)【発明者】
【氏名】内藤 博道
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/135173(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/135400(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/141698(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0220962(US,A1)
【文献】実開平06-041216(JP,U)
【文献】国際公開第2020/195109(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/48
H01Q 1/24
H01Q 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の対象周波数の電波を送受信するための無線通信装置であって、
短手方向の長さがλ/2未満であって、且つ、長手方向の長さがλ/2以上に設定された矩形状の導体板である地板(10)と、
前記地板の中心から長手方向に所定量ずれた位置に配置された0次共振アンテナ素子(ANT)と、
前記0次共振アンテナ素子で送受信するための信号処理を行う回路モジュール(50)と、を含み、
前記0次共振アンテナ素子と前記回路モジュールは前記地板の長手方向に並ぶように配置されており、
前記0次共振アンテナ素子は、
前記地板と所定の間隔をおいて設置された平板状の導体部材であって、給電線(51)と電気的に接続する給電点(31)が設けられている対向導体板(30)と、
前記対向導体板の中央領域に設けられてあって、前記対向導体板と前記地板とを電気的に接続する短絡部(40)と、を備え、
前記短絡部が備えるインダクタンスと、前記地板と前記対向導体板とが形成する静電容量とを用いて前記対象周波数で並列共振するように構成されており、
前記地板の長手方向の長さ(Lg)がLg=λ/4×N+α(Nは自然数、λは対象周波数の波長、αは0.025λ以上0.225λ以下の所定値)を充足するように設定されている無線通信装置。
【請求項2】
所定の対象周波数の電波を送受信するための無線通信装置であって、
短手方向の長さがλ/2未満であって、且つ、長手方向の長さがλ/2以上に設定された矩形状の導体板である地板(10)と、
前記地板の中心から長手方向に所定量ずれた位置に配置された0次共振アンテナ素子(ANT)と、
前記0次共振アンテナ素子で送受信するための信号処理を行う回路モジュール(50)と、を含み、
前記0次共振アンテナ素子と前記回路モジュールは前記地板の長手方向に並ぶように配置されており、
前記0次共振アンテナ素子は、
前記地板と所定の間隔をおいて設置された平板状の導体部材であって、給電線(51)と電気的に接続する給電点(31)が設けられている対向導体板(30)と、
前記対向導体板の中央領域に設けられてあって、前記対向導体板と前記地板とを電気的に接続する短絡部(40)と、を備え、
前記短絡部が備えるインダクタンスと、前記地板と前記対向導体板とが形成する静電容量とを用いて前記対象周波数で並列共振するように構成されており、
前記対向導体板は、前記地板の長手方向の端部のうち前記対向導体板に近いほうの端部であるアンテナ近傍端(11)から、前記対向導体板までの距離である端部オフセット量が0.075λ(λは対象周波数の波長)以上に設定されている無線通信装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の無線通信装置であって、
前記対向導体板は、正方形又は円形であって、前記地板と同心となる位置から長手方向に所定量ずれた位置に設けられており、
前記給電点は、前記対向導体板において、前記地板の中心が存在する方向の縁部に設けられている無線通信装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の無線通信装置であって、
前記地板の長手方向の端部のうち前記対向導体板から遠い方の端部であるアンテナ遠方端(12)には、前記地板の長手方向の端部のうち前記対向導体板に近いほうの端部であるアンテナ近傍端(11)に向かって伸びる導体部材である折り返し部(93)が設けられている無線通信装置。
【請求項5】
請求項1から3の何れか1項に記載の無線通信装置であって、
前記地板の長手方向の端部のうち前記対向導体板に近い方の端部であるアンテナ近傍端(11)には、前記地板の長手方向の端部のうち前記対向導体板から遠いほうの端部であるアンテナ遠方端(12)に向かって伸びる導体部材である折り返し部(93)が設けられている無線通信装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載の無線通信装置であって、
前記対向導体板の側方又は下側には、板状導体部材である付加導体(71、71A)が前記対向導体板と所定の間隔をおいて、前記地板と平行となるように設けられてあって、
前記付加導体は導電性の部材である短絡ピン(72、72A)で前記地板と電気的に接続されている無線通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、0次共振アンテナを用いた無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、グランド電位を提供するための平板状の金属導体(以降、地板)と、当該地板に対向するように配置されるとともに給電点が設けられた平板状の金属導体(以降、対向導体板)と、地板と対向導体板とを電気的に接続する短絡部と、を備えるアンテナ装置が開示されている。
【0003】
この種のアンテナでは、地板と対向導体板との間に形成される静電容量と、短絡部が備えるインダクタンスとによって、その静電容量とインダクタンスに応じた周波数において並列共振を生じさせる。地板と対向導体板との間に形成される静電容量は、対向導体板の面積に応じて定まる。
【0004】
上記構成におけるアンテナ装置は、対向導体板の面積を調整したり、地板と対向導体板との距離を調整したりすることで、当該アンテナ装置において送受信の対象とする周波数(以降、対象周波数)を所望の周波数とすることができる。
【0005】
以降では便宜上、地板と対向導体板との間に形成される静電容量と、短絡部が備えるインダクタンスとによって生じるLC共振を利用したアンテナ装置のことを0次共振アンテナとも記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-61137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では0次共振アンテナの構成が開示されているにすぎず、送受信回路や電源回路などといった回路モジュールとアンテナモジュールとを一体的に備えた、無線通信装置としての具体的な構成については検討されていない。
【0008】
本開示の開発者らは、車両への搭載性等を鑑み、無線通信装置として、地板としての導体パターンを矩形状に形成するとともに、対向導体板を含むアンテナ素子と回路モジュールとが地板の長手方向に並ぶように配置した構成を検討した。このような構成は、アンテナ素子の地板を回路グランドとしても利用可能なように、回路モジュールの下側まで拡張した構成に相当する。
【0009】
一般的に、地板は大きいほどアンテナとしての動作が安定する。そのため、上記検討構成によればアンテナとしての動作の安定性は維持されることが期待できる。しかしながら、上記開発者らが上記検討構成の作動を検証したところ、地板の寸法及び地板に対する対向導体板の位置が特定の条件を満たす場合には、対象周波数付近の周波数で地板自体が共振してしまい、通信ケーブルへの漏洩電流が増大することがあるといった知見を得た。
【0010】
本開示は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、0次共振アンテナを用いた構成において、通信ケーブルへの漏洩電流を抑制可能な無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
その目的を達成するための第1の無線通信装置は、所定の対象周波数の電波を送受信するための無線通信装置であって、短手方向の長さがλ/2未満であって、且つ、長手方向の長さがλ/2以上に設定された矩形状の導体板である地板(10)と、地板の中心から長手方向に所定量ずれた位置に配置された0次共振アンテナ素子(ANT)と、0次共振アンテナ素子で送受信するための信号処理を行う回路モジュール(50)と、を含み、0次共振アンテナ素子と回路モジュールは地板の長手方向に並ぶように配置されており、0次共振アンテナ素子は、地板と所定の間隔をおいて設置された平板状の導体部材であって、給電線(51)と電気的に接続する給電点(31)が設けられている対向導体板(30)と、対向導体板の中央領域に設けられてあって、対向導体板と地板とを電気的に接続する短絡部(40)と、を備え、短絡部が備えるインダクタンスと、地板と対向導体板とが形成する静電容量とを用いて対象周波数で並列共振するように構成されており、地板の長手方向の長さ(Lg)がLg=λ/4×N+α(Nは自然数、λは対象周波数の波長、αは0.025λ以上0.225λ以下の所定値)を充足するように設定されている。
【0012】
上記構成は地板の長手方向の長さがλ/4の整数倍となる場合には、上記漏洩電流が顕著となる傾向が見られるといった知見に基づくものである。上記の構成によれば、地板の長さがモノポールアンテナとして動作する条件であるλ/4の整数倍から所定量ずれることとなり、地板が共振しなくなる。よって、地板に励起される電流も抑制されることとなり、通信ケーブルへの漏洩電流を抑制することが可能となる。
【0013】
また、上記目的を達成するための第2の無線通信装置は、所定の対象周波数の電波を送受信するための無線通信装置であって、短手方向の長さがλ/2未満であって、且つ、長手方向の長さがλ/2以上に設定された矩形状の導体板である地板(10)と、地板の中心から長手方向に所定量ずれた位置に配置された0次共振アンテナ素子(ANT)と、0次共振アンテナ素子で送受信するための信号処理を行う回路モジュール(50)と、を含み、0次共振アンテナ素子と回路モジュールは地板の長手方向に並ぶように配置されており、0次共振アンテナ素子は、地板と所定の間隔をおいて設置された平板状の導体部材であって、給電線(51)と電気的に接続する給電点(31)が設けられている対向導体板(30)と、対向導体板の中央領域に設けられてあって、対向導体板と地板とを電気的に接続する短絡部(40)と、を備え、短絡部が備えるインダクタンスと、地板と対向導体板とが形成する静電容量とを用いて対象周波数で並列共振するように構成されており、対向導体板は、地板の長手方向の端部のうち対向導体板に近いほうの端部であるアンテナ近傍端(11)から、対向導体板までの距離である端部オフセット量が0.075λ(λは対象周波数の波長)以上に設定されている。
【0014】
上記構成は、矩形状の地板の中心からずれた位置に0次共振アンテナを設けた構成において、端部オフセット量が0.075λ以上に設定した場合には、地板に励起する電流を抑制できるといった知見に基づくものである。上記の構成によれば、地板に励起される電流も抑制されることとなり、通信ケーブルへの漏洩電流を抑制することが可能となる。
【0015】
なお、特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】無線通信装置1の外観斜視図である。
図2図1に示すII-II線での断面を概念的に示す図である。
図3】無線通信装置1の平面図である。
図4】地板10が励振する条件を説明するための図である。
図5】地板共振時の電流分布を説明するための図である。
図6】比較構成におけるLC並列共振時の電流分布をシミュレーションした結果を示す図である。
図7】提案構成におけるLC並列共振時の電流分布をシミュレーションした結果を示す図である。
図8】比較構成と提案構成の周波数ごとの反射特性を示す図である。
図9】車両への搭載例を示す図である。
図10】コネクタ60の設置位置の変形例を示す図である。
図11】コネクタ60の設置位置の変形例を示す図である。
図12】対向導体板30の形状の変形例を示す図である。
図13】給電点31の形成位置の変形例を示す図である。
図14】対向導体板30の近傍に付加導体71を設けた構成を示す図である。
図15】対向導体板30の近傍に内部付加導体71Aを設けた構成を示す図である。
図16】アンテナ近傍端11に折り返し部73を設けた構成を示す図である。
図17】アンテナ遠方端12に折り返し部73を設けた構成を示す図である。
図18】折り返し部73を支持部20の内部に形成した構成を示す図である。
図19】ケース80を備える無線通信装置1の全体構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
以下、本開示の第1実施形態について図を用いて説明する。なお、以降において同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については先に説明した実施形態の構成を適用することができる。
【0018】
図1は、本実施形態に係る無線通信装置1の概略的な構成の一例を示す外観斜視図である。図2は、図1に示すII-II線における無線通信装置1の断面図である。無線通信装置1は、例えば、車両などの移動体に搭載されて用いられる。
【0019】
この無線通信装置1は、所定の対象周波数Ftの電波を送受信するように構成されている。もちろん、他の態様として無線通信装置1は、送信と受信の何れか一方のみに利用されても良い。電波の送受信には可逆性があるため、或る周波数の電波を送信可能な構成は、当該周波数の電波を受信可能な構成でもある。
【0020】
対象周波数Ftは、ここでは一例として2.45GHzとする。もちろん、対象周波数Ftは適宜設計されれば良く、他の態様として例えば300MHzや、760MHz、850MHz、900MHz、1.17GHz、1.28GHz、1.55GHz、5.9GHz等としてもよい。無線通信装置1は、対象周波数Ftだけでなく、対象周波数Ftを基準として定まる所定範囲内の周波数の電波もまた送受信可能である。例えば無線通信装置1は、2400MHzから2500MHzまでの帯域(以降、2.4GHz帯)に属する周波数を送受信可能に構成されている。
【0021】
つまり、無線通信装置1は、Bluetooth(登録商標) Low Energyや、Wi-Fi(登録商標)、ZigBee(登録商標)等といった、近距離無線通信で使用される周波数帯の電波を送受信可能に構成されている。換言すれば、無線通信装置1は、国際電気通信連合によって規定されている、産業、科学、医療分野で汎用的に使うために割り当てられた周波数の帯域(いわゆるISMバンド)の電波を送受信可能に構成されている。
【0022】
以降における「λ」は、対象周波数Ftの電波の波長(以降、対象波長とも記載)を表す。例えば「λ/2」及び「0.5λ」は対象波長の半分の長さを指し、「λ/4」及び「0.25λ」は対象波長の4分の1の長さを指す。なお、真空中及び空気中における2.4GHzの電波の波長(つまりλ)は125mmである。無線通信装置1を構成する部材の寸法の例示において、λを用いた表現は、電気的な長さと解する事ができる。ここでの電気的な長さとは、フリンジング電界や、誘電体による波長短縮効果などを考慮した、実効的な長さである。電気的な長さは実効長と呼ばれることもある。もちろん、波長の短縮効果等を受けない部分については、λは真空中あるいは空気中の長さと解することができる。
【0023】
無線通信装置1は、例えば通信ケーブル61を介して、車両に搭載されている通信用のECU(Electronic Control Unit)と接続されており、無線通信装置1が受信した信号は通信用ECUに逐次出力される。また、無線通信装置1は通信用ECUから入力される電気信号を電波に変換して空間に放射する。通信用ECUは、無線通信装置1が受信した信号を利用するとともに、当該無線通信装置1に対して送信信号に応じたベースバンド信号を入力するものである。無線通信装置1が接続される通信用ECUは、例えば、スマートエントリーシステムを提供するスマートECUとすることができる。スマートECUはスマートフォンから発せられる信号の受信状況に基づいて車両の施開錠等といった制御を実行するECUである。
【0024】
ここでは一例として無線通信装置1と通信用ECUとを接続する通信ケーブル61として、AV線が用いられる場合を想定して説明する。AV線は、自動車用低圧電線であって、軟銅より線を例えば塩化ビニルなどの絶縁材料で被覆することによって実現されている。AV線の「A」は自動車用低圧電線を指し、「V」はビニルを指す。無線通信装置1に接続するAV線としては、接地電位を提供するためのAV線である接地用ケーブルと、信号が流れるAV線である信号用ケーブルとがある。なお、無線通信装置1と通信用ECUとの接続ケーブルとしては、自動車用薄肉低圧電線(AVSSケーブル)や、自動車用圧縮導体超薄肉塩化ビニル絶縁低圧電線(CIVUSケーブル)なども採用可能である。AVSSの「SS」は極薄肉型を指す。CIVUSの「C」は圧縮導体型、「I」はISO規格、「V」はビニル、「US」は超極薄肉型を指す。もちろん、無線通信装置1と通信用ECUとを接続する通信ケーブル61としては同軸ケーブルやフィーダ線などを用いることができる。
【0025】
以下、無線通信装置1の具体的な構成について述べる。図1に示すように無線通信装置1は、地板10、支持部20、対向導体板30、短絡部40、制御回路50、及びコネクタ60を備える。支持部20は別途後述するように板状の部材であって、一方の面には地板10が形成されている。また、支持部20の他方の面には、対向導体板30と制御回路50とが設けられている。
【0026】
便宜上以降では、地板10に対して対向導体板30が設けられている側を、無線通信装置1にとっての上側として各部の説明を行う。つまり、地板10から対向導体板30に向かう方向が無線通信装置1にとっての上方向に相当する。また、対向導体板30から地板10に向かう方向が無線通信装置1にとっての下方向に相当する。以降では、支持部20において対向導体板30が配置されている側の面のことを、アンテナ形成面20Aとも記載する。
【0027】
地板10は、銅などの導体を素材とする板状の導体部材である。地板10は、支持部20の下側面に沿って設けられている。ここでの板状には金属箔のような薄膜状も含まれる。つまり、地板10はプリント配線板等の樹脂製の板の表面に電気メッキ等によってパターン形成されたものでもよい。また、地板10は、複数の導体層及び絶縁層を含む多層基板の内部に配置された導体層(いわゆる内層)を用いて実現されていても良い。この地板10は、通信ケーブル61と電気的に接続されて、無線通信装置1におけるグランド電位(換言すれば接地電位)を提供する。地板10は、後述する制御回路50にとってのグランド電位を提供する。故に、地板10は回路グランド部と呼ぶこともできる。地板10がグランド部に相当する。
【0028】
地板10は、長方形状に形成されている。地板10の短辺の長さは、例えば、電気的に0.2λに相当する値に設定されている。また、地板10の長辺の長さは、0.75λに設定されている。当該構成は、短手方向の長さが0.5λ(特に0.25λ)よりも短く、かつ、長手方向の長さは短手方向の2倍以上に設定されている長方形状の地板10に相当する。なお、地板10の長手方向の長さは、短手方向よりも長ければよく、0.6λや、0.8λ、1.0λ、1.5λなどであってもよい。地板10の短辺と長辺の長さの比は、概ね1:2、1:3、1:4、2:3、2:5などとすることができる。
【0029】
図1等の種々の図に示すX軸は地板10の長手方向を、Y軸は地板10の短手方向を、Z軸は上下方向をそれぞれ表している。Y軸方向が所定方向に相当する。これらX軸、Y軸、及びZ軸を備える3次元座標系は、無線通信装置1の構成を説明するための概念である。
【0030】
なお、地板10は、少なくとも対向導体板30よりも大きければよい。地板10の寸法は適宜変更可能である。また、地板10を上側から見た形状(以降、平面形状)は適宜変更可能である。図面では一例として地板10の四隅が直角に形成されている態様を示しているが、地板10の角部は丸められていても良い。また、地板10の縁部は、部分的に又は全体的にミアンダ形状に形成されていても良い。矩形状には、その縁部に微小な凹凸が設けられている形状も含まれる。また、地板10にはスリットが設けられていても良い。地板10の縁部に設けられた凹凸や、地板10の縁部から離れた位置に形成されているスリットは、アンテナ動作に影響を与えない限りにおいては、地板10の外観形状を定義する上で無視することができる。ここでの微小な凹凸とは数mm程度の凹凸を指す。
【0031】
支持部20は、地板10と対向導体板30とを、所定の間隔をおいて互いに対向配置するための板状部材である。支持部20は矩形平板状であり、支持部20の大きさは上面視において地板10とほぼ同じ大きさである。支持部20は、所定の比誘電率を有する誘電体を用いて実現されている。ここでは一例として支持部20は比誘電率2.3のポリテトラフロオロエチレン(PTFE)を用いて実現でされている。なお、支持部20が比誘電率2.3の誘電体を用いて形成されている場合、支持部20内部等でのλは、誘電体の波長短縮効果によって約82mmとなる。もちろん、支持部20の材料としては多様な樹脂材料、あるいはセラミックなどを採用可能である。例えば支持部20の材料は、比誘電率4.3~4.9程度のガラスエポキシ樹脂(換言すれば、FR4:Flame Retardant Type 4)であってもよい。また、支持部20は複数種類の樹脂部材が組み合わさった構成を有していても良い。
【0032】
本実施形態では一例として支持部20の厚さHは、例えば1.5mmに形成されている。支持部20の厚さHは、地板10と対向導体板30との間隔に相当する。支持部20の厚さHを調整することで、対向導体板30と地板10との間隔を調整することができる。支持部20の厚さHの具体的な値はシミュレーションや試験によって適宜決定されれば良い。もちろん、支持部20の厚さHは、1.0mmや、2.0mm、3.0mmなどであってもよい。
【0033】
なお、支持部20は前述の役割を果たせればよく、支持部20の形状は適宜変更可能である。対向導体板30を地板10に対向配置するための構成は、複数の柱であってもよい。また、本実施形態において地板10と対向導体板30の間は、支持部20としての樹脂が充填された構成を採用するが、これに限らない。地板10と対向導体板30の間は、中空や真空となっていてもよい。支持部20としては、ハニカム構造などを採用することもできる。さらに、以上で例示した構造が組み合わさっていてもよい。無線通信装置1がプリント配線板を用いて実現される場合には、プリント配線板が備える複数の導体層を、地板10や、対向導体板30として利用するとともに、導体層を隔てる樹脂層を支持部20として利用してもよい。
【0034】
支持部20の厚さHは、後述するように短絡部40の長さに対応する。換言すれば、支持部20の厚さHは、短絡部40が提供するインダクタンスを調整するパラメータとして機能する。加えて厚さHは、地板10と対向導体板30とが対向することによって形成する静電容量を調整するパラメータとしても機能する。
【0035】
アンテナ形成面20Aには、対向導体板30に加えて、制御回路50が形成されている。制御回路50は、対向導体板30から見てX軸正方向に位置する領域に配置されている。制御回路50は、例えば送受信回路と電源回路とを含む。送受信回路は、信号の送信、及び、信号の受信の少なくとも何れか一方に係る信号処理を実施する回路モジュールである。送受信回路は、変調、復調、周波数変換、増幅、デジタルアナログ変換、及び検波の少なくとも何れか1つを実施する。制御回路50は、ICや、アナログ回路素子、コネクタなど、多様な部品の電気的集合体である。制御回路50が回路モジュールに相当する。
【0036】
制御回路50は、給電線路51としてのマイクロストリップ線路で対向導体板30と接続されている。また、制御回路50は、ビアまたは短絡ピン等を介して地板10とも接続されている。制御回路50は、コネクタ60を介して、信号用ケーブルとしてのAV線とも電気的に接続されている。つまり、制御回路50は信号用ケーブルを介して通信用ECUと接続されている。コネクタ60は、信号用ケーブルや接地用ケーブルと無線通信装置1とを電気的に接続するための構成である。コネクタ60は、例えば、地板10のX軸正方向の端部に配置されている。なお、コネクタ60の設置位置は適宜変更可能であって、地板10の短辺沿いであってもよいし、長辺沿いであってもよい。
【0037】
対向導体板30は、銅などの導体を素材とする板状の導体部材である。ここでの板状には、前述の通り、銅箔などの薄膜状も含まれる。対向導体板30は、支持部20を介し、地板10と対向するように配置されている。対向導体板30もまた地板10と同様にプリント配線板等の、樹脂製の板の表面にパターン形成されたものでもよい。また、ここでの「平行」とは完全な平行状態に限らない。数度から30度程度傾いていても良い。つまり概ね平行である状態(いわゆる略平行な状態)を含みうる。本開示における「垂直」という表現についても、完全に垂直な状態に限らず、数度~30度程度傾いている態様も含まれる。
【0038】
対向導体板30と地板10とは、互いに対向配置されることで、対向導体板30の面積や、対向導体板30と地板10との間隔に応じた静電容量を形成する。対向導体板30は、短絡部40が備えるインダクタンスと対象周波数Ftにおいて並列共振する静電容量を形成する大きさに形成されている。対向導体板30の面積は、所望の静電容量を提供するように適宜設計されればよい。所望の静電容量とは、短絡部40のインダクタンスとの協働により対象周波数Ftで動作する静電容量である。なお、短絡部40が備えるインダクタンスをL、対向導体板30が地板10との間に形成する静電容量をCとすると、Ft=1/{2π√(LC)}の関係が成り立つ。当業者であれば、当該関係式をもとに、適正な対向導体板30の面積を決定することは可能である。
【0039】
例えば対向導体板30は、一辺が電気的に12mmmの正方形状に形成されている。もちろん、対向導体板30の一辺の長さは適宜変更可能であり、14mmや、15mm、20mm、25mmなどであっても良い。対向導体板30の平面形状は、円形や、正八角形、正六角形などであってもよい。また、対向導体板30は、長方形状や長楕円形などであってもよい。なお、支持部20の波長短縮効果によって支持部20の内部及び対向導体板30の表面でのλは82mm程度となる。そのため、支持部20内を伝搬する電界にとって12mmという値は、電気的に0.13λに相当する。
【0040】
対向導体板30には給電点31が形成されている。給電点31は給電線路51と対向導体板30とが電気的に接続される部分である。ここでは一例として対向導体板30が備える縁部のうち、制御回路50が存在する方の縁部の中央に給電点31が形成されている。このような構成は、もっとも制御回路50から近い縁部において、対向導体板30の中心を通りかつX軸に平行な直線上となる位置に給電点31を設けた構成に相当する。なお、給電点31は、任意の位置に配置可能である。給電線路51とのインピーダンスの整合が取れる位置に設けられればよい。換言すれば給電点31は、リターンロスが所定の許容レベルとなる位置に設けられればよい。給電点31は、例えば対向導体板30の縁部や中央領域など、任意の位置に配置されてもよい。また、給電点31は、X軸に平行な縁部に設けられていても良い。
【0041】
対向導体板30への給電方式としては、直結給電方式や電磁結合方式など多様な方式を採用可能である。直結給電方式は、給電線路51と対向導体板30とが直接接続される方式を指す。電磁結合方式は、給電用のマイクロストリップ線路等と対向導体板30との電磁結合を利用した給電方式を指す。
【0042】
短絡部40は、地板10と対向導体板30とを電気的に接続する導電性の部材である。短絡部40は、導電性のピン(以降、ショートピン)を用いて実現されれば良い。短絡部40としてのショートピンの径や長さを調整することによって、短絡部40が備えるインダクタンスを調整することができる。短絡部40の長さ、換言すれば、支持部20の厚さHは、アンテナの高さを抑制するために0.05λ以下に設定されていることが好ましい。ここでは一例として短絡部40の長さは0.01λに設定されているものとする。
【0043】
なお、短絡部40は、一端が地板10と電気的に接続され、他端が対向導体板30と電気的に接続された線状の部材であればよい。無線通信装置1がプリント配線板を基材として用いて実現される場合には、プリント配線板に設けられたビアを短絡部40として利用することができる。
【0044】
短絡部40は、例えば対向導体板30の中心(以降、導体板中心)に位置するように設けられている。故に、対向導体板30における短絡部40との接続点から給電点31までの距離Laは、対向導体板30の一辺の長さをLpとした場合、Lp/2となる。なお、短絡部40の形成位置は、厳密に導体板中心と一致している必要はない。短絡部40は導体板中心から数mm程度ずれていてもよい。短絡部40は、対向導体板30の中央領域に形成されていれば良い。対向導体板30の中央領域とは、導体板中心から縁部までを1:5に内分する点を結ぶ線よりも内側の領域を指す。中央領域は、別の観点によれば、対向導体板30を6分の1程度に相似縮小した同心図形が重なる領域に相当する。
【0045】
<地板10に対する対向導体板30の位置について>
対向導体板30は、図3に示すように、或る1組の対辺がX軸と平行となり、かつ、他の組の対辺がY軸に平行となる姿勢で地板10と対向配置されている。例えば、対向導体板30は、その中心が地板10の中心から所定の中心オフセット量DcだけX軸負方向にずれた位置に配置されている。中心オフセット量Dcは例えば、0.125λ、0.25λ、0.5λなどとすることができる。
【0046】
図3のLpは対向導体板30の一辺の長さ、換言すればX軸方向の長さを表している。Deは上面視におけるアンテナ近傍端11から対向導体板30のX軸負方向側の端部までの距離である、端部オフセット量を示している。
【0047】
中心オフセット量Dcは、上面視において対向導体板30が地板10の外側にはみ出さない範囲において適宜変更可能である。対向導体板30は、少なくとも全領域(換言すれば全面)が地板10と対向するように配置されている。中心オフセット量Dcは、地板10の中心と対向導体板30の中心のずれ量に相当する。中心オフセット量Dcは、後述するように、端部オフセット量Deが0.075λ以上となるように設定されていることが好ましい。なお、他の態様として対向導体板30は、地板10のX軸負方向(紙面左端)の端部に沿うように配置されていても良い。
【0048】
以降では便宜上、地板10の長手方向の2つの端部のうち、X軸負方向側の端部をアンテナ近傍端11と称する。アンテナ近傍端11は、地板10が備える長手方向端部のうち、相対的に対向導体板30に近い方の端部に相当する。また、地板10の長手方向の2つの端部のうち、アンテナ近傍端11とは反対側の端部のことをアンテナ遠方端12とも称する。アンテナ遠方端12は、地板10が備える長手方向端部のうち、相対的に対向導体板30から遠い方の端部に相当する。
【0049】
なお、図3では地板10と対向導体板30の位置関係を明示するために、支持部20及び制御回路50等は透過させている。つまり図示を省略している。図3に示す一点鎖線Lx1は、地板10の中心を通ってX軸に平行な直線を表しており、一点鎖線Ly1は、地板10の中心を通ってY軸に平行な直線を表している。二点鎖線Ly2は、対向導体板30の中心を通ってY軸に平行な直線を表す。直線Lx1は、別の観点によれば、地板10や対向導体板30にとっての対称軸に相当する。直線Ly1は地板10にとっての対称軸に相当する。直線Ly2は対向導体板30にとっての対称軸に相当する。一点鎖線Lx1は、対向導体板30の中心も通る。つまり、一点鎖線Lx1は、X軸に平行な直線であって地板10と対向導体板30の中心を通る直線に相当する。直線Lx1と直線Ly1との交点が地板中心に相当し、直線Lx1と直線Ly2の交点が対向導体板30の中心(以降、導体板中心)に相当する。導体板中心は、対向導体板30の重心に相当する。本実施形態では対向導体板30が正方形状であるため、導体板中心とは、対向導体板30の2つの対角線の交点に相当する。なお、地板10と対向導体板30とが同心となる配置態様とは、上面視において対向導体板30の中心と地板10の中心とが重なる配置態様に相当する。
【0050】
<無線通信装置1の動作原理について>
ここでは無線通信装置1の動作を説明する。無線通信装置1は、対向導体板30はその中央領域に設けられた短絡部40で地板10に短絡されており、かつ、対向導体板30の面積は、短絡部40が備えるインダクタンスと対象周波数Ftにおいて並列共振する静電容量を形成する面積となっている。
【0051】
このため、制御回路50から高周波信号が入力されると、インダクタンスと静電容量との間のエネルギー交換によってLC並列共振が生じ、地板10と対向導体板30との間には、地板10および対向導体板30に対して垂直な電界が発生する。この垂直電界は、短絡部40から対向導体板30の縁部に向かって伝搬していき、対向導体板30の縁部において、垂直電界は地板10に垂直な偏波面を持つ直線偏波(以降、地板垂直偏波)になって空間を伝搬していく。つまり、短絡部40及び対向導体板30を含む構成が、0次共振アンテナ素子ANTとして機能する。なお、ここでの地板垂直偏波とは、電界の振動方向が地板10や対向導体板30に対して垂直な電波を指す。
【0052】
このような無線通信装置1は、対象周波数Ftにおいてアンテナ水平方向に指向性を有する。故に、地板10が水平となるように配置されている場合、無線通信装置1は水平方向にメインビームを備えるアンテナとして機能する。ここでのアンテナ水平方向とは、対向導体板30の中心からその縁部に向かう方向を指す。アンテナ水平方向は、別の観点によれば、短絡部40に直交する方向を指す。アンテナ水平方向は、無線通信装置1にとっての横方向(換言すれば側方)に相当する。
【0053】
なお、無線通信装置1が電波を送信(放射)する際の作動と、電波を受信する際の作動は、互いに可逆性を有する。つまり上記無線通信装置1によれば、アンテナ水平方向から到来する地板垂直偏波を受信できる。
【0054】
<地板10が副次的に共振する条件について>
ここでは、0次共振アンテナ素子ANTの励振に付随して地板10が副次的に共振する条件について、図4図5を説明する。図4図5は、図3の直線Lx1を通るXZ平面に平行な断面における地板10、対向導体板30、及び短絡部40の位置関係を概念的に示した図である。図4に示すLaは、給電点31から短絡部40までの距離を表しており、Hは支持部20の高さ、換言すれば厚さを表している。地板長Lgや、端部オフセット量Deは前述の通りである。なお、本開示におけるLaは、Lp/2に相当する。また、De=Lg/2-Dc-Lp/2の関係を有する。図4図5において、支持部20の厚さHは誇張して大きく示している。Hは、Lgに比べて無視できるほど十分に小さい値である。
【0055】
前述の通り、本開示における対向導体板30及び短絡部40を含む構成は、給電点31から入力された高周波信号によって0次共振アンテナとして動作する。その際、給電点31から入力された電流は、図5に示すように短絡部40を通って地板10に流れる。シミュレーションによれば、LC並列共振によって地板10に流れる電流は、短絡部40から地板10の各方面の縁部に向かって流れることが確認されている。また、対向導体板30から短絡部40を通って地板10に流れ込んだ電流は、主として、短絡部40から地板10の長手方向の両側に流れる。つまり、地板10に流れる電流は、短絡部40からアンテナ近傍端11及びアンテナ遠方端12のそれぞれに向かって流れうる。
【0056】
ここで、地板長Lgが、仮にλ/4×N(N:整数)となっている場合、地板10が励振し、不要電波を放射したり、漏洩電流を増大させたりしてしまう。便宜上、地板10に流れる電流に由来する共振のことを地板共振とも称する。つまり、Lg=λ/4×Nの関係を充足する場合、地板共振が生じてしまう。
【0057】
また逆説的に、Lg=λ/4×Nの関係を充足しないように地板長Lgを設定すれば、地板共振による漏洩電流を抑制することができる。例えば、地板長Lgを次の関係式で表現される非共振条件を充足する値に設定することにより、通信ケーブル61への漏洩電流を抑制可能となる。
【0058】
Lg=λ/4×N+α(0.025λ≦α≦0.225λ)
なお、αの範囲は、給電点31からアンテナ遠方端までの電流分布を共振分布から崩すためのパラメータである。αが小さすぎると、共振を崩すことができない。αの具体的な値の範囲はシミュレーションによって特定されたものである。例えばαは、0.05λや0.1λ、0.125λ、0.15λ、0.2λとすることができる。αは予め設定された値とすることができる。Nは、地板長Lgを基準として、λ/4×(N-1)≦Lg≦λ/4×Nを充足する値に設定されうる。以上を踏まえ、本開示の地板長Lgは、λ/4×N+αを充足する値に設定されているものとする。
【0059】
<本開示の効果について>
ここでは、本開示にかかる構成である提案構成の効果について、比較構成を用いて説明する。なお、ここでの比較構成及び提案構成の詳細は次の通りである。比較構成は、正方形状の対向導体板30を備え、地板長Lgが82mmに設定されている。各種導体表面でのλは支持部20での波長短縮効果によって82mmであるため、比較構成の地板長Lgは、λ/4×4=1λと概ね一致する。つまり、比較構成は地板共振条件を充足する構成に相当する。なお、地板長Lgがλ/4×Nを充足する長さから0.02λ程度異なる場合も地板共振条件を充足する場合に含めることができる。換言すれば、上述したαは、地板共振を生じさせないための設計上の尤度に相当する。
【0060】
一方、提案構成は、地板長Lgが90mmに設定されている。また、端部オフセット量Deが8mmに設定されている。つまり、提案構成における地板長Lgは、共振条件を充足する82mmから8mm程度ずれた値に設定されている。提案構成は、非共振条件を充足するように地板長Lgを設定した構成に相当する。
【0061】
図6及び図7は、非共振条件を充足しているか否かによる地板10に流れる電流の分布を解析した結果を示す図である。具体的には図6は比較構成における電流分布を示しており、図7は、提案構成における電流分布を示している。
【0062】
図6に示すように比較構成においては、アンテナ遠方端12までλ/4毎に腹と節が交互に生じるように電流が分布しており、共振が生じていることがわかる。なお、アンテナ遠方端12が共振電流の節となるように共振電流は分布しうる。一方、提案構成では図7に示すように、地板10において電流が流れる範囲は0次共振にかかる領域、すなわち対向導体板30と対向する部分に概ね限定されており、地板共振が生じていないことがわかる。また、比較構成における地板10の表面電流の平均値が22.0dBA/mであるのに対し、提案構成における地板10の表面電流の平均値は-1.8dBA/mであった。つまり、提案構成によれば地板10の表面電流の平均値を23.8dB程度低減可能となる。
【0063】
また、図8は、比較構成と提案構成におけるSパラメータ(反射特性)をシミュレーションした結果を示したものである。図8の反射特性のシミュレーション結果が示すように、比較構成では、対象周波数である2.4GHz付近でのLC共振(換言すれば0次共振)のほかに、2.7GHz付近で共振が生じることがわかる。2.7GHz付近での共振は地板共振に対応するものである。これに対し、提案構成では、対象周波数の近傍領域において地板共振の発生を示唆する反射特性は観測されなかった。提案構成によれば対象周波数の近傍領域で地板共振が生じる恐れを低減できる。また、その結果として通信ケーブル61への漏洩電流を抑制することができる。なお、ここでの対象周波数の近傍領域とは、例えば対象周波数から±0.4GHz以内となる範囲を指す。
【0064】
なお、通信ケーブル61への漏洩電流を抑制するための他の構成としては、通信ケーブル61との接続箇所にローパスフィルタやハイパスフィルタ等の回路素子を設ける構成も考えられる。しかしながら当該想定構成では、フィルタ回路として機能する素子又はパターンを設ける分だけ、コストが増大してしまう。そのような課題に対し、本開示の構成によればコストの増大を抑制しつつ、通信ケーブル61への漏洩電流を抑制できるといった利点を有する。
【0065】
<無線通信装置1の車両への取り付け例について>
上述した無線通信装置1は、例えば図9に示すように、車両が備えるBピラー91の車室外側の面に、無線通信装置1にとっての上方向が車室外方向となる姿勢で取り付けて使用されうる。具体的には、地板10がBピラー91の外側面と対向し、且つ、X軸方向がBピラー91の長手方向(換言すれば車両高さ方向)に沿う姿勢で取り付けられる。なお、無線通信装置1はドアパネル内部において、Bピラー91と重なる部分に上記の姿勢にて取り付けられていても良い。
【0066】
以上の取り付け姿勢によれば、無線通信装置1にとっての上方向であるZ軸正方向が、車幅方向に略一致し、アンテナ水平方向は、車両側面部に沿う(換言すれば平行な)方向となる。当該取り付け姿勢によれば、車両側面部に沿うように通信エリアを形成する事ができる。
【0067】
なお、無線通信装置1の取付位置及び取付姿勢は上記の例に限定されない。無線通信装置1は、Aピラー92やCピラーの車室外側の面、ロッカー部(換言すればサイドシル)94、アウタードアハンドル95の内部/付近など、車両外面部の任意の位置に取り付けることができる。例えば、無線通信装置1は、アウタードアハンドル95の内部に、X軸方向がハンドルの長手方向に沿い、かつ、Y軸が車両高さ方向に沿う姿勢で収容されていても良い。また、無線通信装置1はルーフ部93に搭載されても良い。
【0068】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の補足や変形例も本開示の技術的範囲に含まれる。さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。例えば下記の種々の変形例は、技術的な矛盾が生じない範囲において適宜組み合わせて実施することができる。
【0069】
<コネクタ60の取り付け位置についての補足>
以上ではコネクタ60をアンテナ遠方端12に沿うように設けた例を開示したがこれに限らない。例えばコネクタ60は、図10に示す通り、支持部20のY軸正方向または負方向側の縁部に沿う位置及び姿勢で設けられていても良い。
【0070】
また、コネクタ60は、図11に示すようにアンテナ遠方端12から、λ/4のM倍(M:奇数)だけ離れた位置に設けられていても良い。なお、図11に示す50Aは例えば変復調などを行う送受信回路を表し、50Bは電源回路を表す。もちろん、50A、50Bが指す回路の内容は適宜変更可能である。制御回路50は、図11に示すように複数のブロックに分けて形成されていても良い。
【0071】
また、地板10が多層基板の内層を用いて形成されている場合、制御回路50の一部は、地板10の更に下側に位置する基板表面(以降、基板裏側面)に形成されていてもよい。なお、無線通信装置1が複数の導体層を含む多層基板を用いて実現されている場合、アンテナ形成面20Aが多層基板の表側面に相当する。例えば送受信回路50Aはアンテナ形成面20Aとしての基板表側面に形成されている一方、電源回路50Bは基板裏側面に形成されていてもよい。制御回路50は、基板の表側と裏側に分散配置されていても良い。なお、基板の表側面だけでなく裏側面にも回路を形成すると、コンデンサやICチップなどの電子部品はある程度の高さを有するため、無線通信装置1の高さが増大しうる。そのような課題に対し、アンテナ形成面20Aに制御回路50の大部分又は全部を設けた構成によれば、無線通信装置1の高さをより一層抑制できる。なお、上記構成において制御回路50を実装する前の構成、換言すれば、上記構成から制御回路50を取り除いた構成がアンテナモジュールに相当する。
【0072】
<地板10及び対向導体板30の形状及び位置関係の補足>
対向導体板30にはスリットが設けられたり、対抗導体板30の角部は丸められたりしていても良い。例えば1対の対角部分に縮退分離素子としての切り欠き部が設けられていてもよい。対向導体板30の縁部は、部分的に又は全体的にミアンダ形状に設定されていても良い。対向導体板30の縁部に設けられた、動作に影響を与えない程度の凹凸は無視して取り扱うことができる。また、対向導体板30は図12に示すように円形などであってもよい。
【0073】
また、給電点31の位置は必ずしも対向導体板30の縁部に限定されない。例えば図13に示すように給電点31は対向導体板30の縁部から離れた位置に形成されていても良い。また、図13では、地板10の長軸Lx上に給電点31を設けた態様を開示しているが、これに限らない。給電点31は地板10の長軸Lxから外れた位置に設けられていてもよい。
【0074】
<変形例(1)>
対向導体板30及び短絡部40を含む0次共振アンテナ素子ANTを、地板10の長手方向端部から離して配置することによって生じるスペースには、回路素子などが配置されても良い。また、当該スペースには図14に示すように、短絡ピン72で地板10と電気的に接続された付加導体71が配置されていても良い。付加導体71は、板状導体部材であって、対向導体板30よりもX軸負方向側となるアンテナ形成面20A上に、対向導体板30と所定の間隔Gpをおいて対向配置されている。短絡ピン72としては例えば回路基板に形成されているビアなどを援用することができる。付加導体71は、パターン形成されたものであってもよいし、ランドを流用して実現されてもよい。
【0075】
当該構成によれば、付加導体71と対向導体板30との間隔Gpに応じた静電容量によって、LC並列共振に寄与する静電容量成分が大きくなる。その結果、対向導体板30のサイズをより一層低減可能となる。なお、対向導体板30と付加導体71との間隔Gpは、対向導体板30と付加導体71とが電磁気的に結合しない程度の値に設定されている。例えば間隔Gpはλ/100以上に設定されていることが好ましい。
【0076】
また、図15に示すように、対向導体板30と地板10との間に、それらと平行な導体板である内部付加導体71Aが形成されていてもよい。内部付加導体71Aは、短絡ピン72Aを用いて地板10と電気的に接続されている。無線通信装置1が多層基板を用いて実現されている場合、内部付加導体71Aとしては多層基板の内部導体層を援用して実現可能である。短絡ピン72Aもビアとしての構成を流用して実現可能である。ここでのビアの概念には、基板全層を貫通するスルーホールビアだけでなく、一部の層間を接続するインタースティシャル(インナー)ビア、ブラインドビア、内層同士を接続するベリッドビアなどを含めることができる。
【0077】
図15に示す構成によれば、内部付加導体71Aと対向導体板30との間隔GpA、及び、上面視において内部付加導体71Aと対向導体板30とが重なる部分の面積に応じて、LC並列共振に寄与する静電容量成分が大きくなる。故に、上記構成によっても対向導体板30の面積を低減可能となる。
【0078】
<変形例(2)>
地板長Lgは車両への搭載性、及び、制御回路50の必要スペースを鑑みて適宜決定される値である。故に、地板長Lgを、地板非共振条件を充足する適正な長さに設定することが難しい場合も有る。また、地板長Lgを一方向に、換言すると同一平面内において長くすると、無線通信装置1の体積が増加してしまい、車両への搭載性が劣化する。また、地板長Lgを短くすると、制御回路50を実装する上で必要な面積が確保できなくなる可能性がある。
【0079】
そのような事情に基づいて、例えば図16に示すように、アンテナ近傍端11に、地板長Lgを伸ばす役割を果たす折り返し部73が形成されていても良い。
【0080】
折り返し部73は、地板拡張部731と、ブリッジ部732を含む。地板拡張部731は、アンテナ近傍端11側のアンテナ形成面20Aに形成されている平板状の導体である。ブリッジ部732は、地板拡張部731と地板10とをアンテナ近傍端11付近で接続する。
【0081】
当該構成によれば、地板10のアンテナ遠方端まで達した電流は、ブリッジ部732を介して地板拡張部731のX軸正方向側の端部に向かって流れるようになる。つまり、短絡部40から地板10に流入した電流の経路長を実質的に伸ばすことができる。故に、X軸方向における地板10の長さを抑制する事ができる。例えば、車両への搭載スペース等の事情により、所望の地板長Lgを確保することが困難な場合であっても、折り返し部73を設けることにより、実質的な地板長Lgが非共振条件を充足するように構成できる。つまり、上面視における地板長Lgを変えることなく、対象周波数付近における地板共振の発生を抑制することができる。なお、上記構成においては、地板拡張部731のX軸正方向側の端部が事実上の地板10の長手方向端部に相当する。1つの観点において、地板拡張部731やブリッジ部732も地板10の一部と解する事ができる。
【0082】
さらに、地板長Lgを伸ばす役割を果たす折り返し部73は、図17に示すようにアンテナ遠方端12側に形成されていても良い。その場合、ブリッジ部732は、地板拡張部731と地板10とをアンテナ遠方端12付近で接続する構成に相当する。上記構成においては、地板拡張部731のX軸負方向側の端部が事実上の地板10の長手方向端部に相当する。以降では便宜上、折り返し部73の長さ、換言すれば、折り返し部73によって拡張される電流の経路長のことを折り返し長とも称する。仮に地板長Lgがλ/4の整数倍に設定されている場合、折り返し長は0.025λ以上に設定されていることが好ましい。
【0083】
ところで、地板10に流れる電流の密度は、短絡部40に近いほど高い。また、アンテナ遠方端12では電流密度は疎となる。つまり、アンテナ遠方端12側よりもアンテナ近傍端11のほうが電流密度は高い。故に、折り返し長を一定とする場合、アンテナ近傍端11側に折り返し部73を設けた構成の方が、アンテナ遠方端12側に折り返し部73を設けた構成よりも共振抑制効果が高くなる傾向がある。つまり、地板10の長さがλ/4の整数倍である場合に、必要となる折返し長は、折り返し部73をアンテナ遠方端12側に設ける場合よりもアンテナ近傍端11側に設けたほうが小さくなりうる。単位長さあたりの電流減衰量が異なるためである。
【0084】
図16及び図17では地板拡張部731をアンテナ形成面20A上、換言すれば対向導体板30と同層に形成した態様を開示したがこれに限らない。例えば図18に示すように地板拡張部731は、対向導体板30よりも下側、換言すれば支持部20の内部に形成されていてもよい。例えば地板拡張部731は、多層基板の内部導体層を援用して実現可能である。ブリッジ部732は、ビアとしての構成を流用して実現可能である。当該構成によれば、アンテナ形成面20AのX軸正方向側の端部にコネクタ60を設置可能となる。
【0085】
<第2実施形態>
上述した実施形態では、地板長Lgがλ/4の整数倍である場合に地板10が共振しやすいといった知見に対応する構成である。一方、地板10が共振することを回避/抑制可能な構成は、上記構成に限定されない。開発者らが検討を進めたところ、地板長Lgがλ/4の整数倍であっても、端部オフセット量Deが0.075λ以上である場合には、地板10が共振しない、或いは、地板10からの漏洩電流が許容レベルに収まりうることもわかった。第2実施形態としての無線通信装置1は当該新たな知見に対応するものである。第2実施形態の無線通信装置1は、図4等に示す端部オフセット量Deが0.075λ以上に設定されている。
【0086】
なお、0次共振アンテナ素子ANTは、地板10の中心から長手方向にずれた位置に配置されていることを前提としているため、端部オフセット量Deの上限値は、Lg/2-Lp/2となる。つまり、端部オフセット量Deは、0.075λ以上、Lg/2-Lp/2未満に設定されている。
【0087】
当該構成によれば、仮に地板長Lgがλ/4の整数倍に相当する場合であっても、地板10の励振に起因して、通信ケーブル61への漏洩電流が増大することを抑制することができる。また、上述した通り、地板10におけるλの実効長は、地板10と当接する樹脂材料によって短縮される。仮に地板10の周りに複数種類の樹脂部材が設けられている場合には、複数の樹脂材料の波長短縮効果が複合的に作用するため、正確な実効長を特定することは難しい。つまり、地板10の周りに比誘電率が異なる複数種類の樹脂部材が存在する場合には、λ/4が正確に特定することが困難となる。その結果、上述した第1実施形態のように地板10の寸法をλ/4を基準として調整することが難しい。
【0088】
そのような課題に対し、第2実施形態の構成によれば、端部オフセット量Deが0.075λ以上、より好ましくは0.1λ以上であればよいため、λの実効長の推定値に多少の誤差が含まれていても問題になりにくい。例えば端部オフセット量Deを0.075λの推定値よりも大きめに設定することで非共振条件を充足させることが可能となる。つまり第2実施形態の構成によればλの概算値に基づいて地板10を共振しにくくすることができる。このように第2実施形態によれば第1実施形態よりも製造上の困難性を低減しつつ、通信ケーブル61への漏洩電流を抑制することが可能となる。なお、この第2実施形態に対しても、第1実施形態に対する種々の補足説明や、変形例(1)、(2)として上述した構成を適用可能である。
【0089】
<無線通信装置1全体構成の補足>
無線通信装置1は、0次共振アンテナ素子ANTや制御回路50等が実装された回路基板を収容するケース80を備える。なお、図19はケース80内部の構成を概念的に示す図である。図の視認性確保のため、一部の部材について材料種別を示すハッチングを省略している場合がある。また、給電点31等の一部の構成の図示を省略している。
【0090】
ケース80は例えば上下方向に分離可能に構成されているアッパーケースとロアケースとが組み合わさることで構成されている。ケース80は、例えばポリカーボネート(PC:polycarbonate)樹脂を用いて構成されている。なお、ケース80の材料としては、PC樹脂にアクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(いわゆるABS)を混ぜた合成樹脂や、ポリプロピレン(PP:polypropylene)など、多様な樹脂を採用できる。ケース80は、ケース底部81、側壁部82、及びケース天板部83を備える。ケース底部81は、ケース80の底を提供する構成である。ケース底部81は、平板状に形成されている。ケース80内において回路基板は、地板10がケース底部81と対向するように配置されている。
【0091】
側壁部82は、ケース80の側面を提供する構成であって、ケース底部81の縁部から上方に向かって立設されている。側壁部82の高さは、例えば、ケース天板部83の内面と対向導体板30との離隔がλ/25以下となるように設計されている。ケース天板部83は、ケース80の上面部を提供する構成である。本実施形態のケース天板部83は平板状に形成されている。なお、ケース天板部83の形状としては、その他、ドーム型など多様な形状を採用することができる。ケース天板部83は、内面がアンテナ形成面20Aと対向するように構成されている。側壁部82には、通信ケーブル61等を引き出すための穴であるケーブル引出し部84が設けられている。ケーブル引出し部84を側壁部82に設けた構成によれば、Bピラー91等への搭載性を高めることができる。
【0092】
上記構成のようにケース天板部83が対向導体板30の近くに存在する場合には、LC共振モードによって放射される垂直電界が、対向導体板30の縁部から上側に回り込むことを抑制し、アンテナ水平方向への放射利得を高めることができる。ここでの対向導体板30の近くとは、例えば対向導体板30からの距離が電気的に対象波長の25分の1以下となる領域を指す。
【0093】
加えて、ケース天板部83には、図19に示すように、対向導体板30の縁部と当接する上側リブ831が形成されていても良い。上側リブ831は、ケース天板部83の内側面に、下方向かって形成された凸状の構成である。上側リブ831は、対向導体板30の縁部と当接するように設けられている。上側リブ831は、ケース80内における支持部20の位置を固定するとともに、対向導体板30の端部から上側への地板垂直偏波の回り込みを抑制し、アンテナ水平方向への放射利得を向上させる効果を奏する。上側リブ831において対向導体板30の縁部と連接する垂直面(つまり外側面)には、銅箔等の金属パターンが付与されていても良い。
【0094】
加えて、ケース80の内部には、シリコン等のシール材を充填されていることが好ましい。シール材としてはポリウレタンプレポリマーなど、ウレタン樹脂を採用することができる。もちろん、シール材としては、その他、エポキシ樹脂やシリコン樹脂など多様な材料を採用することができる。図19では図の視認性を確保するために、シール材の図示は省略している。ケース80内にシール材を充填した構成によれば、対向導体板30の上方に位置するシール材が、対向導体板30の端部から上側への地板垂直偏波の回り込みを抑制し、アンテナ水平方向への放射利得を向上させる効果を奏する。ケース80は、少なくとも側面部及び上面部が所定の比誘電率を有する樹脂又はセラミックにて形成されていれば良い。また、ケース80内にシール材を充填した構成によれば、防水性や防塵性、耐振動性も向上させる事ができる。
【0095】
もちろん、ケース80内におけるシール材の充填は任意の要素である。上側リブ831もまた任意の要素である。なお、ケース天板部83や上側リブ831、シール材は、LC共振モードによって放射される垂直電界が、対向導体板30の縁部から上側に回り込むことを抑制する役割を担う構成(以降、電波遮断体)に相当する。上記構成は、対向導体板30の上側に、導体又は誘電体を用いて構成されている電波遮断体を配置した構成に相当する。
【0096】
ケース80が備えるケース底部81及びケース天板部83の何れか一方は省略されていても良い。ケース底部81及びケース天板部83の何れか一方が省略される場合、シール材は無線通信装置1が使用される環境の温度として想定される範囲(以降、使用温度範囲)において固形を維持する樹脂を用いて実現されていることが好ましい。使用温度範囲は例えば-30℃~100℃とすることができる。なお、ケース底部81及びケース天板部83の何れか一方が省略された構成は、ケースの上面又は底面を開口部としたケースとなる。
【0097】
<付言>
本開示には以下の構成も含まれる。
【0098】
[構成(1)]
所定の対象周波数の電波を送受信するためのアンテナモジュールであって、
短手方向の長さがλ/2未満であって、且つ、長手方向の長さがλ/2以上に設定された矩形状の導体板である地板(10)と、
地板と所定の間隔をおいて地板の中心から長手方向にずれた位置に設置された平板状の導体部材であって、給電線(51)と電気的に接続する給電点(31)が設けられている対向導体板(30)と、
対向導体板の中央領域に設けられてあって、対向導体板と地板とを電気的に接続する短絡部(40)と、を備え、
短絡部が備えるインダクタンスと、地板と対向導体板とが形成する静電容量とを用いて対象周波数で並列共振するように構成されており、
地板の長手方向の長さ(Lg)が次式:Lg=λ/4×N+α(Nは自然数、λは対象周波数の波長、αは0.025λ以上0.225λ以下の所定値)を充足するように設定されているアンテナモジュール。
【0099】
[構成(2)]
所定の対象周波数の電波を送受信するためのアンテナモジュールであり、
短手方向の長さがλ/2未満であり、且つ、長手方向の長さがλ/2以上に設定された矩形状の導体板である地板(10)と、
地板と所定の間隔をおいて地板の中心から長手方向にずれた位置に設置された平板状の導体部材であり、給電線(51)と電気的に接続する給電点(31)が設けられている対向導体板(30)と、
対向導体板の中央領域に設けられており、対向導体板と地板とを電気的に接続する短絡部(40)と、を備え、
短絡部が備えるインダクタンスと、地板と対向導体板とが形成する静電容量と、を用いて対象周波数で並列共振するように構成されており、
対向導体板は、地板の長手方向の端部のうち対向導体板に近いほうの端部であるアンテナ近傍端(11)から、対向導体板までの距離である端部オフセット量(De)が0.075λ(λは対象周波数の波長)以上に設定されているアンテナモジュール。
【符号の説明】
【0100】
1 無線通信装置、10 地板、11 アンテナ近傍端、12 アンテナ遠方端、20 支持部、30 対向導体板、31 給電点、40 短絡部、50 制御回路、51 給電線路、60 コネクタ、71 付加導体、71A 内部付加導体、72・72A 短絡ピン、73 折り返し部、80 ケース、81 ケース底部、82 ケース側壁部、83 ケース天板部、Lg 地板長、ANT アンテナ素子(0次共振アンテナ素子)、De 端部オフセット量
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