(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ヨーグルト蓋材用ホットメルト組成物、及びそれを用いた蓋材
(51)【国際特許分類】
C09J 123/08 20060101AFI20241008BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20241008BHJP
C09J 133/04 20060101ALI20241008BHJP
C09J 191/06 20060101ALI20241008BHJP
B65D 65/02 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C09J123/08
C09J11/08
C09J133/04
C09J191/06
B65D65/02 E
(21)【出願番号】P 2020215684
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】米村 俊佑
(72)【発明者】
【氏名】大島 健司
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-010769(JP,A)
【文献】特開2013-082914(JP,A)
【文献】特開2000-204336(JP,A)
【文献】特開2016-166304(JP,A)
【文献】特開2017-095181(JP,A)
【文献】特開2009-256497(JP,A)
【文献】特開2003-213242(JP,A)
【文献】特開2017-149850(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0037682(KR,A)
【文献】パラフィンワックス、日本精蝋株式会社ホームページ、代表性状の表の「Paraffin Wax - 155」,2024年05月01日,<URL:https://www.seiro.co.jp/product/list/detail?id=438>
【文献】エバフレックス(R)、三井・ダウ ポリケミカル株式会社ホームページ、銘柄表、銘柄物性一覧の「EV250」,2024年05月01日,インターネット<URL:https://www.mdp.jp/product/eva.php#productTab2>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 123/08
C09J 11/08
C09J 133/04
C09J 191/06
B65D 65/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルトマスフローレイトが3~70g/10分であるエチレン-不飽和エステル共重合体(A1)を含むエチレン-不飽和エステル共重合体(A):25~50質量%、
粘着付与樹脂(B):10~30質量%、
油分含有率が0.2質量%未満であるワックス(C):5~40質量%、及び
油分含有率が0.2質量%以上、4.0質量%以下であるワックス(D):5~40質量%を含有し、
前記ワックス(C)とワックス(D)とを合計で30~50質量%含み、
前記エチレン-不飽和エステル共重合体(A1)を10~50質量%含む、ヨーグルト蓋材用ホットメルト組成物。
【請求項2】
前記エチレン-不飽和エステル共重合体(A)が、エチレン及び不飽和エステル単量体の重合体であり、不飽和エステル単量体に由来する構成単位を、エチレン-不飽和エステル共重合体(A)の質量を基準として、25~35質量%の範囲で含む、請求項1に記載のヨーグルト蓋材用ホットメルト組成物。
【請求項3】
前記ワックス(C)及び前記ワックス(D)が、各々独立して、融点60~100℃のワックスである、請求項1又は2に記載のヨーグルト蓋材用ホットメルト組成物。
【請求項4】
前記ワックス(C)及び前記ワックス(D)が、各々独立して、パラフィンワックス、及びフィッシャー・トロプシュワックスからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3いずれかに記載のヨーグルト蓋材用ホットメルト組成物。
【請求項5】
前記粘着付与樹脂(B)の軟化点が、90~150℃の範囲である、請求項1~4いずれかに記載のヨーグルト蓋材用ホットメルト組成物。
【請求項6】
基材の一方の面に、請求項1~5いずれかに記載のホットメルト組成物からなるホットメルト層を備える、
ヨーグルト蓋材。
【請求項7】
前記基材が、樹脂層、紙、及び金属層からなる群より選ばれる少なくとも2種類以上の層を有する、請求項6に記載の
ヨーグルト蓋材。
【請求項8】
前記樹脂層が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、及びポリエチレンテレフタレート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む、請求項7に記載の
ヨーグルト蓋材。
【請求項9】
容器と、請求項6~8いずれかに記載の
ヨーグルト蓋材とからなる、開封可能な
ヨーグルト密封容器用部材セット。
【請求項10】
容器の開口部が、請求項6~8いずれかに記載の
ヨーグルト蓋材が備えるホットメルト層でヒートシールされてなる、開封可能な
ヨーグルト密封容器。
【請求項11】
前記ホットメルト層の塗布量が10~30g/m
2の範囲であり、JIS S 0021-2:2018に準拠して測定した開封強度が5~20Nの範囲である、請求項10に記載の開封可能な
ヨーグルト密封容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた塗工適性、耐熱性、及び易開封性を有するヨーグルト蓋材用ホットメルト組成物、及びそれを用いた蓋材に関する。
【背景技術】
【0002】
物品包装の分野では、内容物の保護や保存のために、容器の開口部にヒートシール層を介して蓋材を接着する方法が利用されている。
そして、内容物がヨーグルトである場合、ハイインパクトポリスチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の熱可塑性樹脂シートを真空成型して得られた容器に対し、アルミニウム箔、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート等のシート若しくはそれらを成型した蓋材の一方の面に、低密度ポリエチレン、低分子量ポリエステル、エチレン-不飽和エステル共重合体等の低融点樹脂をラミネートした蓋材、又は、シール部分にのみ予めホットメルト接着剤を塗布してなる蓋材を用いて密封する方法がとられている。
【0003】
このような、食品容器のヒートシールに使用するホットメルト接着剤は、内容物を密封するための接着力に加えて、塗工性、気密性、耐水性、耐油性、耐アルカリ性、無毒性等の性能のほか、容易に開封できるような易開封性が要求される。
【0004】
一方、ヨーグルトの製造方法としては、ヒートシールで密封した後に40~45℃の発酵を行う後発酵製法が広く実施されており、ヨーグルト蓋材に使用されるホットメルト接着剤には、後発酵工程時のシール剥がれによる密封性の低下を抑制するような耐熱性が求められる。
【0005】
耐熱性を向上させる手段としては、例えば、特許文献1には、特定の粘着付与樹脂の使用することが開示されている。また特許文献2には、高融点ベースポリマーの使用が開示されている。しかしながら、これらの手法では高分子量化に伴う凝集力の増加、及び接着力の増加により開封強度が高くなり、易開封性が損なわれてしまう。
特許文献3には、ワックスの油分含有率の制御により耐熱性を向上させる手法が開示されているが、油分含有率の低い精製ワックスを用いた場合でも同様に、ホットメルト組成物の硬度増加により開封強度が増加し、易開封性が損なわれてしまう。
そのため、特許文献1~3に記載の手法では、ヨーグルト蓋材用途に要求される耐熱性と易開封性との両立が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平2-55783号公報
【文献】特開平10-130436号公報
【文献】特開2000-204336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ヨーグルト製造時の後発酵工程においてシール剥がれが生じない耐熱性と、開封する際に容易に開封することができる易開封性とを両立するホットメルト組成物、及び該組成物を用いてなる蓋材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意研究した結果、以下に定める構成を有するエチレン-不飽和エステル共重合体と、特定の油分含有率を有するワックスとを含むホットメルト組成物によって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の一態様に係るヨーグルト蓋材用ホットメルト組成物は、メルトマスフローレイトが3~70g/10分であるエチレン-不飽和エステル共重合体(A1)を含むエチレン-不飽和エステル共重合体(A):25~50質量%、粘着付与樹脂(B):10~30質量%、油分含有率が0.2質量%未満であるワックス(C):5~40質量%、及び油分含有率が0.2質量%以上、4.0質量%以下であるワックス(D):5~40質量%を含有し、前記ワックス(C)とワックス(D)とを合計で30~50質量%含み、前記エチレン-不飽和エステル共重合体(A1)を10~50質量%含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係るヨーグルト蓋材用ホットメルト組成物は、エチレン-不飽和エステル共重合体(A)が、エチレン及び不飽和エステル単量体の重合体であり、不飽和エステル単量体に由来する構成単位を、エチレン-不飽和エステル共重合体(A)の質量を基準として、25~35質量%の範囲で含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係るヨーグルト蓋材用ホットメルト組成物は、ワックス(C)及び前記ワックス(D)が、各々独立して、融点60~100℃のワックスであることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係るヨーグルト蓋材用ホットメルト組成物は、ワックス(C)及びワックス(D)が、各々独立して、パラフィンワックス、及びフィッシャー・トロプシュワックスからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係るヨーグルト蓋材用ホットメルト組成物は、粘着付与樹脂(B)の軟化点が、90~150℃の範囲であることを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係る蓋材は、基材の一方の面に、上述するホットメルト組成物からなるホットメルト層を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様に係る蓋材は、基材が、樹脂層、紙、及び金属層からなる群より選ばれる少なくとも2種類以上の層を有することを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様に係る蓋材は、樹脂層が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、及びポリエチレンテレフタレート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明の一態様に係る開封可能な密封容器用部材セットは、容器と、上述する蓋材とからなることを特徴とする。
【0018】
本発明の一態様に係る開封可能な密封容器は、容器の開口部が、上述する蓋材が備えるホットメルト層でヒートシールされてなることを特徴とする。
【0019】
本発明の一態様に係る開封可能な密封容器は、ホットメルト層の塗布量が10~30g/m2の範囲であり、JIS S 0021-2:2018に準拠して測定した開封強度が5~20Nの範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、ヨーグルト製造時の後発酵工程においてシール剥がれが発生しない耐熱性と、開封する際に容易に開封することができる易開封性とを両立するヨーグルト蓋材用ホットメルト組成物、及び該組成物を用いてなる蓋材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のホットメルト接着剤は、ヨーグルト蓋材に用いられるものであり、メルトマスフローレイトが3~70g/10分であるエチレン-不飽和エステル共重合体(A1)を含むエチレン-不飽和エステル共重合体(A)を25~50質量%、粘着付与樹脂(B)を10~30質量%、油分含有率が0.2質量%未満であるワックス(C)を5~40質量%、及び、油分含有率が0.2質量%以上、4.0質量%以下であるワックス(D)を5~40質量%含有し、ワックス(C)とワックス(D)とを合計で30~50質量%含み、エチレン-不飽和エステル共重合体(A1)を10~50質量%含むことを特徴とする。
このような特定のメルトマスフローレイトのエチレン-不飽和エステル共重合体と、油分含有率の異なる2種類のワックスとを、組み合わせることで、蓋材用途における好適な開封強度(易開封性)と、後発酵工程に必要な耐熱性とを有するホットメルト組成物を得ることができる。
以下に、本発明のホットメルト組成物を構成する各成分について、詳細を説明する。
【0022】
<エチレン-不飽和エステル共重合体(A)>
本発明に使用されるエチレン-不飽和エステル共重合体(A)は、ホットメルト組成物における主成分の一つであり、主に接着力、凝集力を付与する役割を担うものである。
エチレン-不飽和エステル共重合体は、エチレン及び不飽和エステル単量体を共重合したものであり、不飽和エステル単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等の不飽和カルボン酸アルキルエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル;が挙げられる。
エチレン-不飽和エステル共重合体において、不飽和エステル単量体は、1種を単独でもしいてもよく、2種以上を併用してもよい。
不飽和エステル単量体として好ましくは、酢酸ビニル、メタクリル酸メチルであり、より好ましくは酢酸ビニルである。
エチレン-不飽和エステル共重合体(A)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明のホットメルト組成物中のエチレン-不飽和エステル共重合体(A)の含有率は、25~50質量%の範囲である。含有率が25質量%未満であると、接着性が不十分となり、耐熱性及び易開封性に劣る。50質量%を超えると、粘度が上昇し、塗工適性が低下する。エチレン-不飽和エステル共重合体(A)の含有率は、好ましくは30~45質量%の範囲である。
【0024】
また、本発明のホットメルト組成物は、エチレン-不飽和エステル共重合体(A)の一成分として、メルトマスフローレイトが3~70g/10分であるエチレン-不飽和エステル共重合体(A1)を、ホットメルト組成物中に10~50質量%含むことが重要である。
メルトマスフローレイトは、JIS K 7210に準拠して測定される、190℃、2160g荷重での10分間の流出量(g/10分)である。メルトマスフローレイトが3g/10分未満であると、ホットメルト組成物の粘度が上昇し、塗工適性が低下する。70g/10分を超えると、耐熱性が不足する。
エチレン-不飽和エステル共重合体(A1)のメルトマスフローレイトは、好ましくは10~70g/10分である。
【0025】
エチレン-不飽和エステル共重合体(A)中の、不飽和エステル単量体に由来する構成単位の含有率は、エチレン-不飽和エステル共重合体(A)の質量を基準として、好ましくは20~40質量%の範囲であり、より好ましくは25~35質量%の範囲である。含有率を上記範囲内とすることで、接着力及び塗工適性に優れる。
【0026】
複数のエチレン-不飽和エステル共重合体を使用した場合の不飽和エステル単量体に由来する構成単位の含有率は、各々のエチレン-不飽和エステル共重合体の不飽和エステル単量体に由来する構成単位の含有率と配合比とから算出することができる。第1のエチレン-不飽和エステル共重合体の不飽和エステル単量体に由来する構成単位の含有率をVA1、配合量をW1とし、第2のエチレン-不飽和エステル共重合体の不飽和エステル単量体に由来する構成単位の含有率をVA2、配合量をW2とした場合、全体としての不飽和エステル単量体に由来する構成単位の含有率VAは、以下の式により求められる。
式) VA=(VA1×W1+VA2×W2)/(W1+W2)
【0027】
<粘着付与樹脂(B)>
本発明に使用される粘着付与樹脂(B)は、公知のものから適宜選択することができる。このような粘着付与樹脂(B)としては、例えば、フェノール樹脂、変性フェノール樹脂、キシレンフェノール樹脂、キシレン樹脂、クマロン・インデン樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペン(α-ピネン、β-ピネン)樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジン、ロジン誘導体(水素化ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、ロジンエステル(アルコール、グリセリン、ペンタエリストール等のエステル化ロジン))、脂肪族系(C5系)石油樹脂、芳香族系(C9系)石油樹脂、共重合系(C5/C9系)石油樹脂、脂環族系石油樹脂(水素添加若しくはDCPD系の石油樹脂)、低分子量ポリスチレン系樹脂が挙げられる。
中でも、ロジン、ロジン誘導体(水素化ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、ロジンエステル(アルコール、グリセリン、ペンタエリストール等のエステル化ロジン))等のロジン系樹脂;脂肪族系(C5系)石油樹脂、芳香族系(C9系)石油樹脂、共重合系(C5/C9系)石油樹脂、脂環族系石油樹脂(水素添加若しくはDCPD系の石油樹脂)等の石油系樹脂;低分子量ポリスチレン系樹脂等のスチレン系樹脂;が好適に用いられ、より好ましくは、ロジン系樹脂、石油系樹脂であり、ロジン系樹脂と石油系樹脂とを併用してもよい。石油系樹脂として好ましくは、脂環族系石油樹脂である。
粘着付与樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
ホットメルト組成物中の粘着付与樹脂(B)の含有率は、10~30質量%であり、好ましくは15~25質量%である。粘着付与樹脂の含有率が10質量%未満であると、耐熱性及び易開封性が低下し、30質量%を超えると、易開封性が低下する。
【0029】
粘着付与樹脂(B)の軟化点は、好ましくは80~160℃の範囲であり、より好ましくは90~150℃の範囲であり、さらに好ましくは100℃~140℃の範囲である。軟化点が上記範囲内であることで、耐熱性が良好となる。
粘着付与樹脂(B)の軟化点は、JIS K 5902及びJIS K 2207に準拠して求めることができる。具体的には、樹脂組成物を充填した規定の環を12時間以上静置させた後、熱媒体中に入れて、規定の球を、樹脂組成物を充填した規定の環の上に置き、一定の割合で熱媒体の温度を上昇させたとき、樹脂組成物の軟化により球が沈み環台の底板に触れたときの温度である。
粘着付与樹脂(B)が複数の粘着付与樹脂を含む場合、粘着付与樹脂(B)の軟化点は、各々の粘着付与樹脂の軟化点とその質量比率から求めることができる。
【0030】
<ワックス(C)及び(D)>
本発明のホットメルト組成物は、油分含有率が0.2質量%未満であるワックス(C)と、油分含有率が0.2~4.0質量%であるワックス(D)を含有する。
油分含有率が0.2質量%未満であるワックス(C)を含むことで、ホットメルト組成物の耐熱性が向上する。また、油分含有率が0.2~4.0質量%であるワックス(D)を含むことで、開封強度が好適な範囲となり易開封性に優れる。
本明細書における油分含有率は、JIS K 2235-5.6に準拠して求められる値である。具体的には、1gの試料を15mlのメチルエチルケトンに溶解した後、-32℃に冷却して、析出したワックスを濾過して得られる濾液の溶剤を蒸発させて得られる残油の質量を測定し、質量%で示したものである。
【0031】
本発明で使用できるワックス(C)及び(D)としては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、カルナバワックス、エチレンワックス、ポリエチレンワックス、プロピレンワックス、ポリプロピレンワックス、エチレン・プロピレンワックス、ポリエチレン・ポリプロピレンワックス、ポリエチレン・ポリプロピレン共重合物にスチレンがグラフトした物等の変性ワックスが挙げられる。中でも、好ましくはパラフィンワックス、フィッシャー・トロプシュワックスである。これらワックスは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
油分含有率が0.2質量%未満のワックス(C)の市販品としては、例えば、日本精蝋製のパラフィンワックス“HNPシリーズ”が挙げられる。また、油分含有率が0.2~4.0質量%のワックス(D)の市販品としては、例えば、Sasol Chemical Industries社製の“サゾールシリーズ”、Qindao Bouni Chemical社製の“FTワックスシリーズ”が挙げられる。
【0033】
上記ワックス(C)及び(D)の融点は、各々独立して、好ましくは60~100℃の範囲であり、より好ましくは70~100℃の範囲である。融点を上記範囲内とすることで、ホットメルト組成物の耐熱性が良好となる。なお、本明細書における融点は、示差走査熱量計(DSC)測定で、10℃/分で昇温した際のピークトップの温度である。
【0034】
本発明のホットメルト組成物中のワックス(C)の含有率は、5~40質量%であり、好ましくは10~35質量%である。5質量%未満であると耐熱性が著しく低下し、40質量%を超えると易開封性が損なわれる。ワックス(D)の含有率は、5~40質量%であり、好ましくは10~35質量%である。5質量%未満であると易開封性が損なわれ、40質量%を超えると耐熱性が低下する。
ワックス(C)及びワックス(D)の合計の含有率は、30~50質量%であり、好ましくは35~45質量%である。30質量%未満であると粘度が上昇し、塗工適性が低下する。50質量%を超えると耐熱性及び易開封性が低下する。
【0035】
<その他成分>
本発明のホットメルト組成物は、任意成分として酸化防止剤、シランカップリング剤、ブロッキング防止剤、疎水性酸化物微粒子等を含有できる。これらその他成分は、各々1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が挙げられ、具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ジエチル〔[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル〕ホスフォネート、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル]プロピオネート、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が好ましく、リン系酸化防止剤としては、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトが好ましい。
【0037】
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトブチルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシランが挙げられる。
【0038】
ブロッキング防止剤としては、例えば、シリコーン;エルカ酸アミド、オレイン酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド;ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等の飽和脂肪酸アミド;が挙げられる。
【0039】
疎水性酸化物微粒子としては、例えば、シリカ(二酸化ケイ素)、アルミナ、チタニア、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウムが挙げられる。
【0040】
上記任意成分の含有率は、ブリードアウトを抑制する観点から、ホットメルト組成物の質量を基準として、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下である。
【0041】
本発明のホットメルト組成物は、エチレン-不飽和エステル共重合体(A)、粘着付与樹脂(B)、ワックス(C)、ワックス(D)、及び必要に応じて用いられる任意成分を、公知の方法で混合して得ることができる。例えば、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、撹拌機を備えた溶融釜、又は、一軸若しくは二軸の押し出し機を用いて加熱混合することで、加熱溶融型のホットメルト組成物を得ることができる。また例えば、公知の溶剤に溶解して撹拌混合することで、溶剤型のホットメルト組成物を得ることができる。
本発明のホットメルト組成物はヨーグルト蓋材用途に用いられるものであり、残留溶剤の観点から、溶剤を使用しない加熱溶融型のホットメルト接着剤であることが好ましい。
【0042】
本発明のホットメルト組成物は、好ましくは160℃における溶融粘度が500~5,000mPa・sの範囲である。本明細書における溶融粘度は、JIS K 6862に準拠して、B型粘度計を用い、160℃、ローターNo.3、12rpm、30秒間の条件で測定した値である。
【0043】
<蓋材>
本発明のホットメルト組成物は、ヨーグルト蓋材用として好適に使用することができる。本発明の蓋材は、基材の一方の面に本発明のホットメルト組成物からなるホットメルト層を備えるものであり、開封可能な容器に用いることができる
蓋材の製造方法は、特に限定されず、既知の製造方法を使用して製造することができる。
ホットメルト層の形成方法は、特に限定されず、接触塗工法、非接触塗工法のいずれもあってもよい。
接触塗工法は、ホットメルト組成物を塗工する際、噴出機を部材やフィルムに接触させる塗工方法であり、例えば、スロットコーター塗工、グラビアコーター塗工、ロールコーター塗工が挙げられる。
非接触塗工法は、ホットメルト組成物を塗工する際、噴出機を部材やフィルムに接触させない塗工方法であり、例えば、螺旋状に塗工できるスパイラル塗工、波状に塗工できるオメガ塗工、コントロールシーム塗工、面状に塗工できるスロットスプレー塗工、カーテンスプレー塗工、点状に塗工できるドット塗工、線状に塗工できるビード塗工が挙げられる。
ホットメルト層の厚みは、通常1~100μmの範囲である。また、ホットメルト層は、加熱又は紫外線照射によって架橋されていてもよい。
【0044】
[基材]
本発明の蓋材に使用できる基材は、特に制限されず、公知の基材から適宜選択できる。ヨーグルト蓋材の基材として好ましくは、樹脂層、紙、金属層からなる群より選ばれる少なくとも2種以上の層を有する基材である。
上記樹脂層として好ましくは、ポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポオリノルボルネン等のポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、アクリル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスチレン樹脂、ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリイミド樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むものであり、より好ましくは、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、及びポリエチレンテレフタレート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むものである。樹脂層は、アルミ等の金属を蒸着させた金属蒸着層、又は、アルミナ、酸化ケイ素等を蒸着させた透明蒸着層を有していてもよい。
上記金属層における金属としては、アルミニウムが好適に用いられ、例えば、アルミニウム箔、アルミ蒸着層が挙げられる。
基材は、さらに、不織布、織布、布、ガラス等のその他層を有していてもよい。
【0045】
基材の構成として好ましくは、例えば、「紙/ポリエチレン樹脂」、「ポリエチレンテレフタレート樹脂/紙/ポリエチレン樹脂」、「ポリエチレンテレフタレート樹脂/アルミ箔/ポリエチレン樹脂」が挙げられる。また、基材の表面は、必要に応じて、コロナ放電処理、プラズマ処理、ブラスト処理、ケミカルエッチング処理のような易接着処理、帯電防止処理、着色処理等がなされていてもよい。基材の厚みは特に制限されず、通常、1~300μmの範囲である。
【0046】
<密封容器用部材セット、密封容器>
上記蓋材は、容器とともに、開封可能な密封容器用部材セットとして好適に使用することができる。また、上記セットは、容器の開口部と蓋材を、ホットメルト層によりヒートシールすることで、開封可能な密封容器として用いることができる。一般的に、開封強度が5~20Nの範囲であれば易開封性が良好であるといえる。
本発明の開封可能な密封容器は、ホットメルト層の塗布量が10~30g/m2の範囲において、開封強度が5~20Nの範囲であることが好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様に過ぎず、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、例中、「部」とあるのは「質量部」を、「%」とあるのは「質量%」をそれぞれ表すものとする。
【0048】
<ホットメルト組成物の作製方法>
表1及び表2に示した配合比(質量)でワックス(C)、及びワックス(D)を、撹拌機の備えられたステンレスビーカーに加え、内容物が180℃以上にならないよう注意して加熱した。内容物の溶融を確認した後、撹拌を開始し、エチレン-不飽和エステル共重合体(A)、粘着付与樹脂(B)、必要に応じて添加剤を添加し、完全に混合するまで撹拌することにより、ホットメルト組成物を得た。
【0049】
<ホットメルト組成物の評価方法>
得られたホットメルト組成物について、以下の評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0050】
[塗工適性(溶融粘度)]
得られたホットメルト組成物について、JIS K 6862に準拠して、溶融粘度を測定した。具体的には、B型粘度計を使用し、温度160℃、ローターNo.3、回転数12rpm、30秒間の条件で測定を行い、以下の基準で評価した。
○:溶融粘度が5,000mPa・s以下(使用可能)
×:溶融粘度が5,000mPa・sを超える(使用不可)
【0051】
[蓋材の作製]
次に、得られたホットメルト組成物を、PET(20μm)、Al(アルミ箔、15μm)、及びPE(ポリエチレン、20μm)がこの順に積層された基材のPE面上に、グラビアコーターを使用して、塗布量16g/m2で塗工し、蓋材を得た。
【0052】
[耐熱性(後発酵での剥離性評価に相当)]
得られた蓋材を70mm×15mmのサイズに断裁した。得られた70mm×15mmのサイズの蓋材の端部を、70mm×15mmのサイズのポリスチレン(PS)基材の中心近くに重ね合わせ、ゲージ圧0.1MPa、シール温度140℃、シール時間1.0秒、接着面積20mm×15mmの条件でヒートシールし、試験片を作製した。
45℃にセットされたオーブン中に、試験片をPS基材側を上面に向けて水平に固定した。蓋材の端部に10gの重りを取り付け、PS基材に対して90度方向に荷重をかけ、1時間経過時の蓋材が剥離した長さ(剥離距離)を測定した。得られた剥離距離を用いて、以下の基準で耐熱性を評価した。なお、この評価は、ヨーグルトの後発酵時の剥離性評価に相当する。
◎:剥離距離が3mm未満(非常に良好)
〇:剥離距離が3mm以上5mm未満(良好)
△:剥離距離が5mm以上7mm未満(使用可能)
×:剥離距離が7mm以上(使用不可)
【0053】
[易開封性]
得られた蓋材を70mm×70mmのサイズに断裁し、開口部の大きさが52mmΦPS容器と、ゲージ圧0.3MPa、140℃、1.0秒の条件でヒートシールして密封し、容器を得た。得られた容器を、温度23℃、湿度65%の恒温恒湿室に24時間静置した後、同室において200mm/分の速度で45度角剥離により剥離強度を測定した。測定は5回行い、開封時の最大荷重(N)の平均値を開封強度とし、以下の基準で易開封性を評価した。
〇:開封強度が10N以上15N未満(良好)
△:開封強度が5N以上10N未満、又は15N以上20N未満(使用可能)
×:開封強度が5N未満、又は20N以上(使用不可)
【0054】
【0055】
【0056】
なお、表1及び2に記載した略称は、以下に示す通りである。
<エチレン-不飽和エステル共重合体(A1)>
・A1-1:ウルトラセン752(東ソー社製エチレン-酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル含量:32%、MFR:60g/10分)
・A1-2:ウルトラセン750(東ソー社製エチレン-酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル含量:32%、MFR:30g/10分)
・A1-3:ウルトラセン633(東ソー社製エチレン-酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル含量:20%、MFR:20g/10分)
【0057】
<(A1)以外のその他エチレン-不飽和エステル共重合体(A2)>
・A2-1:ウルトラセン720(東ソー社製エチレン-酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル含量:28%、MFR:150g/10分)
・A2-2:ウルトラセン722(東ソー社製エチレン-酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル含量:28%、MFR:400g/10分)
【0058】
<粘着付与樹脂(B)>
・B1:アルコンP-140(荒川化学工業社製、脂環族系石油樹脂(水素添加石油樹脂)、軟化点:140℃)
・B2:アルコンP-125(荒川化学工業社製、脂環族系石油樹脂(水素添加石油樹脂)、軟化点:125℃)
・B3:アルコンP-90(荒川化学工業社製、水素添加石油樹脂、軟化点:90℃)
・B4:ハリタックFK125(ハリマ化成社製、ロジンエステル、軟化点:125℃)
・B5:ハリタックF85(ハリマ化成社製、ロジンエステル、軟化点:85℃)
【0059】
<ワックス(C)>
・C1:HNP-9(日本精蝋社製、パラフィンワックス、DSC融点:76℃、油分含有率:0.1%)
・C2:HNP-5(日本精蝋社製、パラフィンワックス、DSC融点:63℃、油分含有率:0.1%)
【0060】
<ワックス(D)>
・D1:FT WAX T-70(Qindao Bouni Chemical社製、フィッシャー・トロプシュワックス、DSC融点:70℃、油分含有率:3.0%)
・D2:サゾールH1(Sasol Chemical Industries社製、フィッシャー・トロプシュワックス、DSC融点:98℃、油分含有率:1.0%)
・D3:Parraffin Wax 130(日本精蝋社製、パラフィンワックス、DSC融点:56℃、油分含有率:0.3%)
【0061】
<添加剤>
・酸化防止剤:Irganox1010(BASFジャパン社製)
・ブロッキング防止剤:シリコーンオイルKF-96-100cs(信越シリコーン社製)
【0062】
評価結果によれば、特定のメルトマスフローレイトのエチレン-不飽和エステル共重合体と、油分含有率の異なる2種類のワックスと、を用いてなる本願のホットメルト組成物は、塗工適性が良好であり、さらに、耐熱性と易開封性に優れており、ヨーグルト蓋材用ホットメルト接着剤として有用であることが示された。
特に、特定のメルトマスフローレイトのエチレン-不飽和エステル共重合体(A1)を15質量%以上、油分含有率の低いワックス(C)、及び油分含有率の高いワックス(D)を各々独立して10質量%以上用いた実施例において、優れた耐熱性と好適な易開封性の両立を達成した。
一方、特定のメルトマスフローレイトのエチレン-不飽和エステル共重合体が10質量%未満である比較例1、2は、耐熱性が不足していた。また、油分含有率の低いワックスのみを用いた比較例5は、優れた耐熱性を示すが、易開封性が不足していた。油分含有率の高いワックスのみを用いた比較例6は、好適な易開封性を示すが、耐熱性が不足していた。