(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】液体吐出装置、液体吐出方法、および液体吐出プログラム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20241008BHJP
B41J 2/015 20060101ALI20241008BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B41J2/01 403
B41J2/015 101
B41J2/14 305
B41J2/01 401
(21)【出願番号】P 2020216112
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神▲崎▼ 貴士
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 脩平
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-008451(JP,A)
【文献】特開平09-029958(JP,A)
【文献】特開2002-192714(JP,A)
【文献】特開2014-065149(JP,A)
【文献】特開2020-104461(JP,A)
【文献】特開2013-111869(JP,A)
【文献】特開2019-177690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル、前記ノズルに連通する圧力室、及び、前記圧力室の液体に圧力を付与するアクチュエータ、を有する吐出ヘッドと、
前記アクチュエータを駆動するための駆動信号の波形を生成する波形生成回路と、
制御装置と、を備え、
前記駆動信号は、前記ノズルから液滴を吐出させるように前記圧力室の液体に圧力を付与する吐出駆動信号、及び、前記ノズルから前記液滴を吐出させずに前記ノズルのメニスカスを振動させるように前記圧力室の液体に圧力を付与する非吐出駆動信号を含み、
前記制御装置は、
前記ノズルと被吐出媒体との間のギャップに応じた複数の印刷モードのうち、何れの印刷モードであるかを判定するモード判定処理と、
判定した印刷モードに基づき、前記吐出駆動信号として、前記ギャップが大きい印刷モードであるほど振幅が大きい波形を前記波形生成回路に生成させる吐出信号生成処理と、
判定した印刷モードに基づき、前記非吐出駆動信号として、前記アクチュエータが前記液体に圧力を付与するタイミングが他の印刷モードとは異なる波形を前記波形生成回路に生成させる非吐出信号生成処理と、を実行する、
液体吐出装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記吐出信号生成処理にて生成した前記吐出駆動信号の波形の振幅が大きいほど、前記非吐出信号生成処理において、前記非吐出駆動信号として、周期に対するパルス幅の比率であるデューティー比が小さいパルス波を前記波形生成回路に生成させる、請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記吐出駆動信号の波形の振幅が大きいほど、前記振幅の増加量に対する、前記非吐出駆動信号の前記デューティー比の減少量の比率を小さくする、請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記吐出信号生成処理にて生成した前記吐出駆動信号の波形の振幅が大きいほど、前記非吐出信号生成処理において、前記非吐出駆動信号として、1つの液滴を吐出させる周期である1吐出周期に含まれる波数が少ない波形を前記波形生成回路に生成させる、請求項1~3の何れかに記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記吐出駆動信号の波形の振幅が大きいほど、前記振幅の増加量に対する、前記非吐出駆動信号における前記波数の減少数の比率を小さくする、請求項4に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記吐出信号生成処理にて生成した前記吐出駆動信号の波形の振幅が大きいほど、前記非吐出信号生成処理において、前記非吐出駆動信号として、前のパルス波の電圧印加終了後から次のパルス波の電圧印加開始までの間隔とアコースティックレングスとの差が大きい波形を前記波形生成回路に生成させる、請求項1~5の何れかに記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記吐出駆動信号の波形の振幅が大きいほど、前記振幅の増加量に対する、前記非吐出駆動信号における前記差の増加量の比率を小さくする、請求項6に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記印刷モードは、
前記ノズルと被吐出媒体との距離がローギャップとなる印刷モードであるローギャップ印刷モード、及び、
前記距離が前記ローギャップよりも大きいハイギャップとなる印刷モードであるハイギャップ印刷モードを含み、
前記制御装置は、
前記吐出ヘッドの周囲の温度を取得する温度取得処理と、
前記ハイギャップ印刷モードのときに、前記非吐出信号生成処理にて生成した前記非吐出駆動信号の波形を、取得した前記温度に応じて異なる波形に補正する非吐出信号補正処理と、を実行する、
請求項1~7の何れかに記載の液体吐出装置。
【請求項9】
ノズル、前記ノズルに連通する圧力室、及び、前記圧力室の液体に圧力を付与するアクチュエータ、を有する吐出ヘッドと、
前記アクチュエータを駆動するための駆動信号の波形を生成する波形生成回路と、
制御装置と、を備え、
前記駆動信号は、前記ノズルから液滴を吐出させるように前記圧力室の液体に圧力を付与する吐出駆動信号、及び、前記ノズルから前記液滴を吐出させずに前記ノズルのメニスカスを振動させるように前記圧力室の液体に圧力を付与する非吐出駆動信号を含み、
前記制御装置は、
前記ノズルと被吐出媒体との距離がローギャップとなる印刷モードであるローギャップ印刷モード、及び、前記距離が前記ローギャップよりも大きいハイギャップとなる印刷モードであるハイギャップ印刷モードのうち、何れの印刷モードであるかを判定するモード判定処理と、
前記ハイギャップ印刷モードのときの方が前記ローギャップ印刷モードのときよりも、前記吐出駆動信号として、振幅が大きい波形を前記波形生成回路に生成させる吐出信号生成処理と、
前記ハイギャップ印刷モードのときの方が前記ローギャップ印刷モードのときよりも、前記非吐出駆動信号として、振幅が大きい波形を前記波形生成回路に生成させると共に、前記ハイギャップ印刷モードのときと前記ローギャップ印刷モードのときの、前記吐出駆動信号の振幅差をΔV1、前記非吐出駆動信号の振幅差をΔV2としたときに、前記非吐出駆動信号として、ΔV1がΔV2よりも大きくなる波形を前記波形生成回路に生成させる非吐出信号生成処理と、を実行する、
液体吐出装置。
【請求項10】
ノズル、前記ノズルに連通する圧力室、及び、前記圧力室の液体に圧力を付与するアクチュエータ、を有する吐出ヘッドと、前記アクチュエータを駆動するための駆動信号の波形を生成する波形生成回路と、制御装置とを備える液体吐出装置による液体吐出方法であって、
前記駆動信号は、前記ノズルから液滴を吐出させるように前記圧力室の液体に圧力を付与する吐出駆動信号、及び、前記ノズルから前記液滴を吐出させずに前記ノズルのメニスカスを振動させるように前記圧力室の液体に圧力を付与する非吐出駆動信号を含み、
前記ノズルと被吐出媒体との間のギャップに応じた複数の印刷モードのうち、何れの印刷モードであるかを判定するモード判定工程と、
判定した印刷モードに基づき、前記吐出駆動信号として、前記ギャップが大きい印刷モードであるほど振幅が大きい波形を前記波形生成回路に生成させる吐出信号生成工程と、
判定した印刷モードに基づき、前記非吐出駆動信号として、前記アクチュエータが前記液体に圧力を付与するタイミングが他の印刷モードとは異なる波形を前記波形生成回路に生成させる非吐出信号生成工程と、を有する、
液体吐出方法。
【請求項11】
ノズル、前記ノズルに連通する圧力室、及び、前記圧力室の液体に圧力を付与するアクチュエータ、を有する吐出ヘッドと、前記アクチュエータを駆動するための駆動信号の波形を生成する波形生成回路と、制御装置とを備える液体吐出装置におけるコンピュータに実行させる液体吐出プログラムであって、
前記駆動信号は、前記ノズルから液滴を吐出させるように前記圧力室の液体に圧力を付与する吐出駆動信号、及び、前記ノズルから前記液滴を吐出させずに前記ノズルのメニスカスを振動させるように前記圧力室の液体に圧力を付与する非吐出駆動信号を含み、
前記コンピュータを、
前記ノズルと被吐出媒体との間のギャップに応じた複数の印刷モードのうち、何れの印刷モードであるかを判定するモード判定手段、
判定した印刷モードに基づき、前記吐出駆動信号として、前記ギャップが大きい印刷モードであるほど振幅が大きい波形を前記波形生成回路に生成させる吐出信号生成手段、
判定した印刷モードに基づき、前記非吐出駆動信号として、前記アクチュエータが前記液体に圧力を付与するタイミングが他の印刷モードとは異なる波形を前記波形生成回路に生成させる非吐出信号生成手段、として機能させる、
液体吐出プログラム。
【請求項12】
ノズル、前記ノズルに連通する圧力室、及び、前記圧力室の液体に圧力を付与するアクチュエータ、を有する吐出ヘッドと、前記アクチュエータを駆動するための駆動信号の波形を生成する波形生成回路と、制御装置と、を備える液体吐出装置による液体吐出方法であって、
前記駆動信号は、前記ノズルから液滴を吐出させるように前記圧力室の液体に圧力を付与する吐出駆動信号、及び、前記ノズルから前記液滴を吐出させずに前記ノズルのメニスカスを振動させるように前記圧力室の液体に圧力を付与する非吐出駆動信号を含み、
前記ノズルと被吐出媒体との距離がローギャップとなる印刷モードであるローギャップ印刷モード、及び、前記距離が前記ローギャップよりも大きいハイギャップとなる印刷モードであるハイギャップ印刷モードのうち、何れの印刷モードであるかを判定するモード判定工程と、
前記ハイギャップ印刷モードのときの方が前記ローギャップ印刷モードのときよりも、前記吐出駆動信号として、振幅が大きい波形を前記波形生成回路に生成させる吐出信号生成工程と、
前記ハイギャップ印刷モードのときの方が前記ローギャップ印刷モードのときよりも、前記非吐出駆動信号として、振幅が大きい波形を前記波形生成回路に生成させると共に、前記ハイギャップ印刷モードのときと前記ローギャップ印刷モードのときの、前記吐出駆動信号の振幅差をΔV1、前記非吐出駆動信号の振幅差をΔV2としたときに、前記非吐出駆動信号として、ΔV1がΔV2よりも大きくなる波形を前記波形生成回路に生成させる非吐出信号生成工程と、を実行する、
液体吐出方法。
【請求項13】
ノズル、前記ノズルに連通する圧力室、及び、前記圧力室の液体に圧力を付与するアクチュエータ、を有する吐出ヘッドと、前記アクチュエータを駆動するための駆動信号の波形を生成する波形生成回路と、制御装置と、を備える液体吐出装置におけるコンピュータに実行させる液体吐出プログラムであって、
前記駆動信号は、前記ノズルから液滴を吐出させるように前記圧力室の液体に圧力を付与する吐出駆動信号、及び、前記ノズルから前記液滴を吐出させずに前記ノズルのメニスカスを振動させるように前記圧力室の液体に圧力を付与する非吐出駆動信号を含み、
前記コンピュータを、
前記ノズルと被吐出媒体との距離がローギャップとなる印刷モードであるローギャップ印刷モード、及び、前記距離が前記ローギャップよりも大きいハイギャップとなる印刷モードであるハイギャップ印刷モードのうち、何れの印刷モードであるかを判定するモード判定手段と、
前記ハイギャップ印刷モードのときの方が前記ローギャップ印刷モードのときよりも、前記吐出駆動信号として、振幅が大きい波形を前記波形生成回路に生成させる吐出信号生成手段と、
前記ハイギャップ印刷モードのときの方が前記ローギャップ印刷モードのときよりも、前記非吐出駆動信号として、振幅が大きい波形を前記波形生成回路に生成させると共に、前記ハイギャップ印刷モードのときと前記ローギャップ印刷モードのときの、前記吐出駆動信号の振幅差をΔV1、前記非吐出駆動信号の振幅差をΔV2としたときに、前記非吐出駆動信号として、ΔV1がΔV2よりも大きくなる波形を前記波形生成回路に生成させる非吐出信号生成手段と、として機能させる、
液体吐出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェットプリンタ等の画像記録装置に用いられる液体吐出装置、液体吐出方法、および液体吐出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されたプリンタが知られている。この特許文献1には、インク滴が吐出されるヘッドのノズル面から媒体上のインク滴の着弾位置までの距離であるプラテンギャップが、媒体の変更等に起因して変化しうることが記載されている。また、プリンタにおいて、ノズル孔から露出しているインクは乾燥して増粘しやすく、増粘が進むとインクの吐出特性に影響が生じる。そこで、増粘したインクをヘッド内のインクに拡散させるため、ノズル孔から露出しているインクを吐出しない程度に微振動させる制御(非吐出振動制御)を実施することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ノズル面から媒体までの距離が相対的に大きくなると、インク滴を媒体まで到達させるために、アクチュエータにより高い電圧を印加してインク滴を吐出させる必要がある。しかしながら、このような高い電圧でアクチュエータを駆動している最中に、非吐出振動制御を行った場合は、インクが微振動するだけに収まらず、ノズル孔からインクが漏れ出てしまい、媒体あるいはプリンタの周囲を汚してしまう可能性がある。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、ノズル面から媒体までの距離に応じて液体の吐出電圧を変化させる場合に、非吐出振動により液体が漏れ出るのを防止できる液体吐出装置、液体吐出方法、および液体吐出プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、本発明に係る液体吐出装置は、ノズル、前記ノズルに連通する圧力室、及び、前記圧力室の液体に圧力を付与するアクチュエータ、を有する吐出ヘッドと、前記アクチュエータを駆動するための駆動信号の波形を生成する波形生成回路と、制御装置と、を備え、前記駆動信号は、前記ノズルから液滴を吐出させるように前記圧力室の液体に圧力を付与する吐出駆動信号、及び、前記ノズルから前記液滴を吐出させずに前記ノズルのメニスカスを振動させるように前記圧力室の液体に圧力を付与する非吐出駆動信号を含み、前記制御装置は、前記ノズルと被吐出媒体との間のギャップに応じた複数の印刷モードのうち、何れの印刷モードであるかを判定するモード判定処理と、判定した印刷モードに基づき、前記吐出駆動信号として、前記ギャップが大きい印刷モードであるほど振幅が大きい波形を前記波形生成回路に生成させる吐出信号生成処理と、判定した印刷モードに基づき、前記非吐出駆動信号として、前記アクチュエータが前記液体に圧力を付与するタイミングが他の印刷モードとは異なる波形を前記波形生成回路に生成させる非吐出信号生成処理と、を実行する。
【0007】
このような構成により、ノズルと被吐出媒体との間のギャップに応じて吐出駆動信号の波形の振幅を変更することで、印刷時にはギャップにかかわらず液滴の適切な着弾を実現しつつ、ギャップに応じて非吐出駆動信号による圧力付与タイミングも異ならせることで、メニスカスの増粘防止の際に意図せず液滴がノズルから漏れ出るのを防止することができる。すなわち、本発明によれば、ノズルと被吐出媒体との間のギャップにかかわらず、適切な印刷とメニスカスの適切な増粘防止とを実現することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ノズルと被吐出媒体との間のギャップにかかわらず、適切な印刷とメニスカスの適切な増粘防止とを実現することができる液体吐出装置、液体吐出方法、および液体吐出プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係る液体吐出装置の概略構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、
図1の液体吐出装置を備えた画像記録装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、実施の形態1に係る液体吐出方法を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、ハイギャップ印刷モードで波形生成回路が生成する非吐出駆動信号を説明するための模式図である。
【
図6】
図6は、実施の形態2に係る液体吐出装置を備えた画像記録装置の構成を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、実施の形態2に係る液体吐出方法を示すフローチャートである。
【0010】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態に係る液体吐出装置、液体吐出方法、及び液体吐出プログラムについて図面を参照しつつ説明する。なお、以下に説明する液体吐出装置、液体吐出方法、及び液体吐出プログラムは、本発明の一実施形態に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除及び変更が可能である。
【0011】
[液体吐出装置]
図1に示すように、本実施形態の液体吐出装置10は、液体の一例としてインクを吐出するものであって、貯留タンク12、キャリッジ16、吐出ヘッド20、一対の搬送ローラ15、一対のガイドレール17、およびサブタンク18を備えている。なお、液体吐出装置10において図略のプラテン上に用紙14が配置される。
【0012】
キャリッジ16には吐出ヘッド20が搭載されている。キャリッジ16は、用紙14の搬送方向に直交する主走査方向に延在し、かつ、搬送方向に平行に並べて配置された一対のガイドレール17に支持されている。このキャリッジ16は、キャリッジモータ33(
図3参照)の駆動により、ガイドレール17に沿って主走査方向に往復動する。これにより、吐出ヘッド20は主走査方向に往復動する。また、キャリッジ16には、例えば4つのサブタンク18が搭載されている。各サブタンク18はチューブを介して対応する貯留タンク12にそれぞれ接続されている。
【0013】
一対の搬送ローラ15は、軸心を主走査方向に沿うようにして配置され、かつ、搬送方向に互いに平行に配置されている。搬送ローラ15は、搬送モータ31(
図3参照)の駆動により軸心を中心にして回転し、これによりプラテン上の用紙14が搬送方向に搬送されるようになっている。また、上記キャリッジ16は一対の搬送ローラ15の間に位置する。従って、キャリッジ16と共に吐出ヘッド20が主走査方向へ移動しつつ、プラテン上の用紙14にインクを吐出し、かつ、搬送ローラ15によりこの用紙14が搬送方向へ搬送されることで、用紙14の全面に画像を印刷することができる。
【0014】
貯留タンク12にはインクが貯留されている。貯留タンク12は、吐出ヘッド20にインクを供給すべくインク流路を介してキャリッジ16に搭載されたサブタンク18に接続され、このサブタンク18から吐出ヘッド20にインクが供給される。また、貯留タンク12及びサブタンク18は、インクの種類ごとに設けられている。貯留タンク12及びサブタンク18は、それぞれ例えば4つ設けられ、各貯留タンク12及び各サブタンク18には、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタのインクが貯留されている。
【0015】
図2に示すように、吐出ヘッド20はインクを吐出する複数のノズル21を有する。吐出ヘッド20は積層体から成る流路形成体を有している。流路形成体には、その内部に液体流路が形成され、その下面である吐出面40aに複数のノズル孔21aが開口して設けられている。また、流路形成体上には、振動板55を介してアクチュエータ60が積層され、このアクチュエータ60が駆動すると液体流路の容積が変更する。このとき、ノズル孔21aではメニスカスが振動してインクが吐出される。以下、吐出ヘッド20の構成について説明する。
【0016】
[吐出ヘッド]
図2に示すように、吐出ヘッド20が有する流路形成体は複数のプレートの積層体で構成され、流路形成体上には振動板55およびアクチュエータ(圧電素子)60が更に積層されている。振動板55の上には絶縁膜56が接続されており、当該絶縁膜56の上には後述の共通電極61が接続されている。
【0017】
複数のプレートは、ノズルプレート46、スペーサプレート47、第1流路プレート48、第2流路プレート49、第3流路プレート50、第4流路プレート51、第5流路プレート52、第6流路プレート53、および第7流路プレート54を含み、これらのプレートは下からこの順で積層されている。
【0018】
各プレートには、大小様々の孔および溝が形成されている。各プレートが積層された流路形成体の内部では孔および溝が組み合わされて、複数のノズル21、複数の個別流路64およびマニホールド22が液体流路として形成されている。
【0019】
ノズル21はノズルプレート46を積層方向に貫通して形成されている。ノズルプレート46の吐出面40aには、ノズル21の先端である複数のノズル孔21aが配列方向に複数並んでノズル列を形成している。上記の配列方向は積層方向に直交する方向である。
【0020】
ノズルプレート46はスペーサプレート47の下方に配置されている。そのスペーサプレート47は例えばステンレス鋼材で形成される。スペーサプレート47は、例えばハーフエッチングによりノズルプレート46側の面からスペーサプレート47の厚み方向に凹むことで、ダンパ部47aを成す薄肉部分とダンパ空間47bとが形成される凹部45を有している。このような構成により、マニホールド22とノズルプレート46との間には、バッファー空間としてのダンパ空間47bが形成される。
【0021】
マニホールド22は、液体の吐出圧力が付与される後述する複数の圧力室28に連通し、各圧力室28に対して供給される液体を貯留する。すなわち、マニホールド22は、配列方向に延在しており、複数の個別流路64の各一端にそれぞれ接続されており、各個別流路64を流れる液体の共通流路として機能する。このようなマニホールド22は、スペーサプレート47の上方に形成されている。具体的には、第1流路プレート48~第4流路プレート51を積層方向に貫通した貫通孔および第5流路プレート52の下面から窪んだ窪みが積層方向に重なって形成されている。
【0022】
また、マニホールド22には供給ポート22aが連通している。供給ポート22aは例えば筒状に形成され、配列方向(マニホールド22の長手方向)の一方端に設けられている。なお、マニホールド22と供給ポート22aとは、第5流路プレート52の上側部分、第6流路プレート53、および第7流路プレート54をそれぞれ貫通して設けられた図略の流路により繋がっている。
【0023】
複数の個別流路64はマニホールド22にそれぞれ接続されている。個別流路64は、その上流端がマニホールド22に接続され、その下流端がノズル21の基端に接続されている。個別流路64は、第1連通孔25、個別絞り路である供給絞り路26、第2連通孔27、圧力室28、およびディセンダ29で構成されており、これらの構成要素はこの順で配置される。
【0024】
第1連通孔25は、第5流路プレート52に形成された積層方向の貫通孔により構成されている。第1連通孔25は、その上流端(下端)がマニホールド22の上部にて開口して接続されている。供給絞り路26の上流端は第1連通孔25の下流側(上端)に接続されている。供給絞り路26は、例えばハーフエッチングにより形成され、第6流路プレート53の下面から窪んだ溝により構成されている。
【0025】
第2連通孔27は、第6流路プレート53に形成された積層方向の貫通孔により構成されている。第2連通孔27は、その上流端(下端)が供給絞り路26の下流端に接続されている。圧力室28は、第7流路プレート54を積層方向に貫通させた開口として形成されている。圧力室28は、その上流端が第2連通孔27の下流端(上端)に接続されている。
【0026】
ディセンダ29は、複数のプレート47~53を積層方向に貫通して形成され、幅方向(マニホールド22の短手方向)においてマニホールド22の近くに設けられている。ディセンダ29の上流端は圧力室28の下流端に接続され、ディセンダ29の下流端はノズル21の基端に接続されている。ノズル21は、例えば積層方向においてディセンダ29に重なり、当該積層方向に直交する方向(幅方向)においてディセンダ29の中央に配置されている。
【0027】
振動板55は、第7流路プレート54の上に積層されており、圧力室28の上端開口を覆っている。
【0028】
アクチュエータ60は、共通電極61、圧電層62及び個別電極63を含み、これらは下からこの順で配置されている。共通電極61は、絶縁膜56を介して振動板55の全面を覆っている。圧電層62は、圧力室28ごとに設けられ、当該圧力室28に重なるように共通電極61上に配置されている。個別電極63は、圧力室28ごとに設けられ、圧電層62上に配置されている。1つの個別電極63、共通電極61および両電極で挟まれた部分の圧電層62により1つのアクチュエータ60が構成される。
【0029】
個別電極63はヘッドドライバIC74(
図3参照)に電気的に接続されている。このヘッドドライバIC74は、制御装置71(
図3参照)から制御信号を受けて、駆動信号(電圧信号)を生成し、個別電極63に印加する。これに対し、共通電極61は常にグランド電位に保持されている。このような構成において、駆動信号に応じて、圧電層62の活性部が、2つの電極61,63と共に面方向に伸縮する。これに応じて、振動板55が協働して変形し、圧力室28の容積を増減する方向に変化する。これにより、液体をノズル21から吐出させる吐出圧力が圧力室28に付与される。
【0030】
以上のような吐出ヘッド20において、供給ポート22aは配管を介してサブタンク18に接続されている。配管に設けられた加圧ポンプが駆動すると、液体はサブタンク18から配管を通り、供給ポート22aを介してマニホールド22に流入する。そして、液体はマニホールド22から第1連通孔25を介して供給絞り路26に流入し、供給絞り路26から第2連通孔27を介して圧力室28に流入する。そして、液体はディセンダ29を流れ、ノズル21に流入する。ここで、アクチュエータ60により圧力室28に吐出圧力が付与されると、液体はノズル孔21aから吐出される。
【0031】
[画像記録装置]
次いで、本実施形態の液体吐出装置10を備える、例えばインクジェットプリンタ等の画像記録装置1について、図面を参照しつつ説明する。
【0032】
図3に示すように、画像記録装置1は、上記の液体吐出装置10の他に、ネットワークインターフェース(I/F)70、CPU等で構成される制御装置71、RAM72、ストレージ73、ヘッドドライバIC74、温度センサ75、波形生成回路76、記録媒体読取り装置77、モータドライバIC30,32、搬送モータ31、およびキャリッジモータ33を備えている。
【0033】
RAM72は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータである外部装置200からネットワークインターフェース70を介して受信した印刷ジョブや、ユーザが外部装置200等を介して入力した操作情報を一時的に記憶する。ストレージ73は、例えばSSDなどから成り、本実施形態の液体吐出プログラムや各種データ処理を行うための制御プログラム、及び、当該制御プログラムの実行に要する各種データを記憶する。
【0034】
波形生成回路76はアクチュエータ60を駆動するための駆動信号の波形を生成する。例えば、波形生成回路76は、それぞれ供給電圧が異なる複数の電源回路(不図示)から選択した1の電源回路に対応する電圧と、予めストレージ73等に記憶された複数の互いに異なる波形のパルス信号あるいはこれを修正した修正信号とに基づき、所望の駆動信号の波形を生成する。本実施形態において、この駆動信号には、ノズル21から液滴を吐出させるように圧力室28の液体に圧力を付与する吐出駆動信号、ノズル21から液滴を吐出させずノズル21のメニスカスを振動させるように圧力室28の液体に圧力を付与する非吐出駆動信号、および圧力室28の液体の圧力に変化を与えない非振動信号が含まれる。なお、非吐出駆動信号により、ノズル21から液滴が吐出せずに振動するメニスカスの動作態様を、以下では非吐出振動と称する。
【0035】
ヘッドドライバIC74は、制御装置71からの指示を受けて吐出ヘッド20を駆動し、ノズル21から液滴を吐出させ、あるいは、ノズル21のメニスカスを非吐出振動させる。モータドライバIC30は、制御装置71からの指示を受けて搬送モータ31の駆動制御を行う。その結果、搬送モータ31が搬送ローラ15を動作させることで、用紙14は搬送方向に搬送される。また、もう1つのモータドライバIC32は、制御装置71からの指示を受けてキャリッジモータ33の駆動制御を行う。その結果、キャリッジモータ33がキャリッジ16を動作させることで、吐出ヘッド20は主走査方向に移動する。
【0036】
記録媒体読取り装置77は、例えば、フレキシブルディスク、CD(CD-ROM,CD-R,CD-RW等)、DVD(DVD-ROM,DVD-RAM,DVD-R,DVD+R,DVD-RW,DVD+RW等)、ブルーレイディスク、磁気ディスク、光ディスク、および光磁気ディスク等のコンピュータによる読取が可能な記録媒体80から液体吐出プログラムを読み出す装置である。この記録媒体読取り装置77は、例えばUSBフラッシュメモリ等の記録媒体から液体吐出プログラムを読み出す装置であってもよい。読み出された液体吐出プログラムはストレージ73に保存され、制御装置71により実行される。なお、本実施形態の液体吐出プログラムは、外部装置200からネットワークインターフェース70を介してストレージ73に保存してもよいし、或いはインターネットからダウンロードしてストレージ73に保存してもよい。
【0037】
制御装置71は、本発明に係るコンピュータを成す。制御装置71は、その機能的構成として、モード判定部71a、吐出信号生成部71b、及び、非吐出信号生成部71cを有している。これらの各機能は、制御装置71が所定のプログラムを実行することにより実現される。従って、モード判定部71aは、制御装置71を成すコンピュータをモード判定手段として機能させ、同様に、吐出信号生成部71bは吐出信号生成手段、非吐出信号生成部71cは非吐出信号生成手段として、それぞれコンピュータを機能させる。
【0038】
このうちモード判定部71aは、ノズル21と用紙14等の被吐出媒体との間のギャップに応じた複数の印刷モードのうち、何れの印刷モードであるかを判定するモード判定処理を実行する。本実施の形態に係る画像記録装置1は、一例として、
図2に示すようにノズル21と被吐出媒体との距離がローギャップGLとなる印刷モードであるローギャップ印刷モード、及び、この距離がローギャップGLよりも大きいハイギャップGHとなる印刷モードであるハイギャップ印刷モード、の2つの印刷モードを有している。そして、印刷モードを指定する情報は、例えば印刷ジョブの中に含まれている。従って、モード判定部71aは、外部装置200から送信されてきた印刷ジョブを受信し、この印刷ジョブに含まれる情報に基づいて印刷モードを判定する。
【0039】
なお、印刷モードとして、ノズル21と被吐出媒体との距離に応じて3つ以上の印刷モードが存在していてもよい。また、印刷モードは1つの印刷ジョブに対して1又は複数種類が含まれ得る。例えば、1つの印刷ジョブにおいて、異なる印刷領域に対して異なる印刷モードが設定され得る。この場合、モード判定部71aは、印刷領域ごとに何れの印刷モードで印刷を実行すべきかを判定する。また、印刷モードを指定する情報は、印刷ジョブに含まれる態様に限定されない。例えば、印刷ジョブの実行時に、ユーザが印刷モードを指定する情報を外部装置200等から入力し、モード判定部71aは、ネットワークインターフェース70を介して入力されたこの情報に基づき、この印刷ジョブを実行するときの印刷モードを判定するようにしてもよい。
【0040】
吐出信号生成部71bは、モード判定部71aが判定した印刷モードに基づき、吐出駆動信号として、ギャップが大きい印刷モードであるほど振幅が大きい波形を、波形生成回路76に生成させる、吐出信号生成処理を実行する。すなわち、印刷モードがハイギャップ印刷モードであるときの方がローギャップ印刷モードであるときよりも、吐出駆動信号として振幅が大きい波形(電圧波形)を波形生成回路76に生成させる。
【0041】
非吐出信号生成部71cは、モード判定部71aが判定した印刷モードに基づき、非吐出駆動信号として、アクチュエータ60が圧力室28内のインクに圧力を付与するタイミングが他の印刷モードとは異なる波形を、波形生成回路76に生成させる、非吐出信号生成処理を実行する。なお、非吐出信号生成部71cによる波形の生成の具体的な態様については後述する。
【0042】
[液体吐出方法]
次に、画像記録装置1の動作、すなわち、画像記録装置1が備える液体吐出装置10により実行される液体吐出方法について、
図4のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0043】
図4に示すように、制御装置71は、印刷ジョブを受信したか否かを判定する(ステップS1)。印刷ジョブを受信すると(S1:YES)、この印刷ジョブを実行する印刷モードを判定する(ステップS2)。本実施の形態では、ハイギャップ印刷モードか、ローギャップ印刷モードか、を判定する。
【0044】
ここで、ステップS2でハイギャップ印刷モードと判定した場合(S2:YES)、制御装置71は、吐出駆動信号として振幅の大きい波形(印加する電圧VH)を波形生成回路76に生成させ(ステップS3)、かつ、ハイギャップ用の非吐出駆動信号を波形生成回路76に生成させる(ステップS4)。一方、ステップS2でローギャップ印刷モードと判定した場合(S2:NO)は、吐出駆動信号として振幅の小さい波形(印加する電圧VL;VL<VH)を波形生成回路76に生成させ(ステップS5)、かつ、ハイギャップ用の非吐出駆動信号を波形生成回路76に生成させる(ステップS6)。
【0045】
このように、ギャップが大きい印刷モードであるほど、吐出駆動信号として、振幅(電位差)が大きい波形が波形生成回路76により生成される(ステップS3,S4)。また、ステップS3,S4にて印刷モードに応じて決定された信号の振幅は、ステップS5,S6にて生成される非吐出駆動信号の波形の振幅にも適用される。これに対し、ステップS5,S6にて生成される非吐出駆動信号は、吐出ヘッド20のアクチュエータ60がインクに圧力を付与するタイミング(例えば、パルス波のオン/オフのタイミング)が、印刷モードに応じて異なっている。この点は
図5を参照して後述する。
【0046】
上述したように、印刷モードに応じた吐出駆動信号及び非吐出駆動信号が波形生成回路76によって生成されると(ステップS3~S6)、はじめの1パス分の印刷が実行される(ステップS7)。すなわち、ハイギャップ印刷モードの場合、制御装置71は、ステップS3で生成された電圧VHの振幅を有する吐出駆動信号によりアクチュエータ60を駆動し、ノズル21からインクが吐出され、被吐出媒体に1パス分の画像が形成される。一方、ローギャップ印刷モードの場合、制御装置71は、ステップS5で生成された電圧VLの振幅を有する吐出駆動信号によりアクチュエータ60を駆動し、ノズル21からインクが吐出され、被吐出媒体に1パス分の画像が形成される。これにより、ギャップに応じた速度によりインクを吐出させ、被吐出媒体上の適切な位置にインクを着弾させることができる。
【0047】
次に、1パス分の印刷が完了したか否かを判定する(ステップS8)。そして、完了していないと判定した場合(S8:NO)は、ステップS8の処理を繰り返して、1パス分の印刷が完了するまで待機する。そして、1パス分の印刷が完了したと判定した場合(S8:YES)は非吐出駆動を開始する(ステップS9)。この非吐出駆動では、ハイギャップ印刷モードの場合、制御装置71はステップS4で生成されたハイギャップ用の非吐出駆動信号によりアクチュエータ60を駆動し、ノズル21からインクを吐出させずにメニスカスを振動させる。一方、ローギャップ印刷モードの場合、制御装置71は、ステップS6で生成されたローギャップ用の非吐出駆動信号によりアクチュエータ60を駆動し、ノズル21からインクを吐出させずにメニスカスを振動させる。
【0048】
制御装置71は、非吐出駆動(ステップS9)の実行と並行して、印刷ジョブに含まれる全てのパスの印刷が完了したか否かを判定する(ステップS10)。完了していると判定した場合(S10:YES)は、ステップS9で開始した非吐出駆動を終了して、
図4の印刷処理を終了する。具体的には、キャリッジ16を所定の待機位置へ移動させ、吐出ヘッド20の吐出面40aをキャッピングしてメニスカスの乾燥を防止する。また、これと合わせて、非吐出駆動も終了させる。
【0049】
全パスの印刷が完了していないと判定した場合(S10:NO)は、次のパスの印刷を開始したか否かを判定し(ステップS11)、これを開始する場合(S11:YES)は、非吐出駆動を終了して(ステップS12)、ステップS7からの処理を再び実行する。なお、各ステップS1~S12の順序は
図4に示したものに限定されず、例えば、ステップS4,6での非吐出駆動信号の生成は、非吐出駆動を開始するステップS9より前に完了していればよく、従って、吐出駆動信号を用いて1パス分の印刷(ステップS7,8)を実行している間に行ってもよい。
【0050】
[非吐出駆動信号]
上述したステップS4,6で、制御装置71の非吐出信号生成部71cが波形生成回路76に生成させる非吐出駆動信号について、
図5を参照しつつ説明する。
【0051】
図5には5種類のパルス信号PS1~PS5を表す波形が示されている。このうち紙面最上部のパルス信号PS1は、ローギャップ印刷モードのときに波形生成回路76が生成する非吐出駆動信号の一例である。パルス信号PS2は、比較例であり、パルス信号PS1の振幅のみを大きくしたものである。パルス信号PS3~PS5は、ハイギャップ印刷モードのときに波形生成回路76が生成する非吐出駆動信号の例である。以下、パルス信号PS1をローギャップ非吐出信号PS1とも称し、パルス信号PS3~PS5をハイギャップ非吐出信号PS3~PS5とも称する。各信号PS1~PS5について詳述する。
【0052】
ローギャップ非吐出信号PS1は、吐出ヘッド20がノズル21からインクを1回吐出する周期である吐出周期T0の間に、複数のパルス波PW1を有している。
図5の例では、吐出周期T0の間に4つのパルス波PW1が含まれている。従って、パルス波PW1の周期T1は吐出周期T0の4分の1である。また、パルス波PW1は、基準電位Vrefに対して電圧VLの振幅と、時間T11のパルス幅(T11<T1)とで規定されるパルスP1を有している。このようなパルスP1が、アクチュエータ60を圧力室28の内方へ変位させ、インクに圧力を付与する。
【0053】
上述したように、ローギャップ非吐出信号PS1の波形の振幅は、
図4のステップS5にてローギャップ印刷モードのときに吐出駆動信号に適用される振幅(電圧VL)と同じである。つまり、ローギャップ印刷モードのとき、吐出駆動信号と非吐出駆動信号は、波形の振幅が同一(電圧VL)である。そして、ハイギャップ印刷モードのときも同様に、吐出駆動信号と非吐出駆動信号(ハイギャップ非吐出信号PS3~PS5)は、波形の振幅が同一(電圧VH)である。ただし、ハイギャップ非吐出信号PS3~PS5は、ローギャップ非吐出信号PS1に比べて、パルス波のオン/オフのタイミングが異なっている。
【0054】
これらローギャップ非吐出信号PS1とハイギャップ非吐出信号PS3~PS5との関係を説明するために、
図5にパルス信号PS2を比較例として示している。パルス信号PS2は、ローギャップ非吐出信号PS1の振幅のみを、ローギャップ印刷モードに対応する電圧VLから、ハイギャップ印刷モードに対応する電圧VHに修正した波形である。従って、このパルス信号PS2は、吐出周期T0中に4つのパルス波PW2を有し、このパルス波PW2の周期T2は周期T1と同一であり、パルス波PW2が有するパルスP2のパルス幅T21も上記パルス幅T11と同一である。
【0055】
インクを吐出して画像を形成する場合、ノズル21と被吐出媒体とのギャップが大きいほど、インクを適切に被吐出媒体に着弾させるために、吐出駆動信号の波形の振幅(印加する電圧)を大きくする必要がある。そこで、本実施の形態では、ハイギャップ印刷モードのときはローギャップ印刷モードのときよりも大きい電圧VHを振幅とする吐出駆動信号を生成する(
図4のステップS3,S5)。
【0056】
しかしながら、非吐出駆動時においても振幅の大きい非吐出駆動信号をアクチュエータ60に印加すると、インクに付与される圧力が大きくなり過ぎて、意図せずノズル21からインクが漏れ出てしまう可能性がある。すなわち、
図5のパルス信号PS2を非吐出駆動信号として用いると、メニスカスを非吐出振動させることができず、インクを吐出させてしまう可能性がある。
【0057】
そこで本実施の形態に係る液体吐出装置10は、ハイギャップ印刷モードの場合、アクチュエータ60がインクに圧力を付与するタイミングをローギャップ印刷モードの場合とは異ならせた波形を生成することで、メニスカスを非吐出振動させるときのインクの漏れを防止する。
図5に示すハイギャップ非吐出信号PS3~PS5は、このように、ローギャップ印刷モードの場合とは前記タイミングを異ならせた、ハイギャップ印刷モードでの非吐出駆動信号の例である。
【0058】
ハイギャップ非吐出信号PS3は、比較例のパルス信号PS2におけるパルスP2のパルス幅T21を短縮したような波形を有している。すなわち、ハイギャップ非吐出信号PS3は、ローギャップ非吐出信号PS1よりも振幅が大きい一方で、パルス波の周期に対するパルス幅の比率であるデューティー比が小さい波形となっている。具体的には、ハイギャップ非吐出信号PS3は、吐出周期T0中に4つのパルス波PW3を有しており、このパルス波PW3はその周期T3がローギャップ非吐出信号PS1の周期T1と同一である。また、パルス波PW3は、電圧VHの振幅と時間T31のパルス幅とで規定されるパルスP3を有している。そして、このパルス幅T31が、ローギャップ非吐出信号PS1のパルス幅T11に対してΔT31だけ短くなっている。
【0059】
このように、ハイギャップ非吐出信号PS3は、ローギャップ非吐出信号PS1と比べて振幅が大きい一方でパルス幅が短縮され、パルス波のデューティー比が小さくなっている。これにより、非吐出駆動時にインクに付与する圧力が過大になるのを防止でき、メニスカスを非吐出振動させるときのインクの吐出を防止できる。
【0060】
ハイギャップ非吐出信号PS4は、比較例のパルス信号PS2における一部のパルス波PW2を間引いたような波形を有している。すなわち、ハイギャップ非吐出信号PS4は、ローギャップ非吐出信号PS1よりも振幅が大きい一方で、吐出周期T0に含まれるパルス波の波数が少ない波形となっている。具体的には、ハイギャップ非吐出信号PS4は、吐出周期T0中に2つのパルス波PW4を有しており、従って、このパルス波PW4はその周期T4がローギャップ非吐出信号PS1の周期T1よりも長く、周期T1の2倍となっている。また、パルス波P4は、電圧VHの振幅と時間T41のパルス幅とで規定されるパルスP4を有している。このうちパルス幅T41は、ローギャップ非吐出信号PS1のパルスP1のパルス幅T11と同一である。
【0061】
このように、ハイギャップ非吐出信号PS4は、ローギャップ非吐出信号PS1と比べて振幅が大きい一方で吐出周期T0中のパルス数が削減されている。これにより、非吐出駆動時にインクに付与する圧力が過大になるのを防止でき、メニスカスを非吐出振動させるときのインクの吐出を防止できる。
【0062】
ハイギャップ非吐出信号PS5は、比較例のパルス信号PS2に対し、連続する2つのパルスP2の間隔を、所定のルールに従って変更したような波形を有している。具体的に説明する。前のパルス波PW5の電圧印加終了後(すなわち、前のパルスP5がオンからオフに切り替わった後)から、次のパルス波PW5の電圧印加開始(すなわち、次のパルスP5がオンになる)までの間隔をT52とする。なお、この間隔T52は、ハイギャップ非吐出信号PS5が有するパルス波PW5の周期T5と、パルス波PW5が有するパルスP5のパルス幅T51とで、T52=T5-T51と表される。また、吐出ヘッド20の個別流路64のうち圧力室28からノズル21までの部分に対応するアコースティックレングスをALとする。このとき、ハイギャップ非吐出信号PS5は、ローギャップ非吐出信号PS1と比べて振幅が大きい一方で、間隔T52とアコースティックレングスALとの差ΔT52が、ローギャップ非吐出信号PS1の場合に比べて、より大きくなった波形を有している。
【0063】
このように、ハイギャップ非吐出信号PS5は、連続する2つのパルスP5の間隔T52とアコースティックレングスALとの差ΔT52がより大きくなる波形を有している。これにより、非吐出駆動時にインクに付与する圧力が過大になるのを防止でき、メニスカスを非吐出振動させるときのインクの吐出を防止できる。なお、
図5の例では、差ΔT52を大きくするに際し、間隔T52をアコースティックレングスALに対してより大きくする方向へ波形を変更することで、これを実現している。
【0064】
ここで、各ハイギャップ非吐出信号PS3~PS5の波形における、ローギャップ非吐出信号PS1の波形からの変形量は、任意に設定することができる。ただし、ハイギャップ印刷モードでの吐出駆動信号の波形の振幅(電圧VH)が大きいほど、振幅の増加量に対する、ハイギャップ非吐出信号PS3~PS5の波形の変形量の増加量の比率は小さくするのが好ましい。
【0065】
具体的には、ハイギャップ非吐出信号PS3については、ハイギャップ印刷モードでの吐出駆動信号の波形の振幅(電圧VH)が大きいほど、振幅の増加量に対する、ハイギャップ非吐出信号PS3の上記デューティー比の減少量の比率を小さくする。ハイギャップ非吐出信号PS4については、同様に振幅(電圧VH)が大きいほど、振幅の増加量に対する、ハイギャップ非吐出信号PS4の上記波数の減少数の比率を小さくする。ハイギャップ非吐出信号PS5については、同様に振幅(電圧VH)が大きいほど、振幅の増加量に対する、ハイギャップ非吐出信号PS5の上記差の増加量の比率を小さくする。
【0066】
これにより、非吐出駆動時におけるインクの吐出を防止しつつ、メニスカスに与える非吐出振動が小さくなり過ぎるのを防止できる。
【0067】
なお、上述した振幅の増加量に対する各パラメータの変化量(すなわち、デューティー比の減少量、波数の減少量、差の増加量)の比率を小さくする例として、より具体的にはログ関数を適用することができる。例えば、パラメータの変化量をYとしたときに、当該Yを、1より大きい数を底aとし、振幅(電圧VH)の増加量を真数Xとしたときの対数で規定することができる。
【0068】
(実施の形態2)
非吐出駆動時のノズル21からのインクの出やすさはインクの粘性により異なり、インクの粘性を決定する要因の1つにインクの温度がある。そこで、実施の形態2に係る画像記録装置1Aは、ハイギャップ印刷モードにおいて、インクの温度の高低に応じて、ハイギャップ非吐出信号の波形を補正する構成となっている。このような画像記録装置1Aについて以下に説明する。
【0069】
図6に示す画像記録装置1Aは、
図3に示した画像記録装置1と比べて、温度センサ75を備える点、並びに、制御装置71が温度取得部71d及び非吐出信号補正部71eを有する点で異なり、その他の構成は実質的に同じである。なお、本実施の形態において、これら制御装置71及び温度センサ75は液体吐出装置10が備えている。従って、画像記録装置1,1Aの相違点は、それぞれが備える液体吐出装置10の相違点に対応する。
【0070】
温度センサ75は、例えばキャリッジ16上に設けられ、吐出ヘッド20が主走査方向に移動するときにこれと共に主走査方向に移動する。温度センサ75は、キャリッジ16付近の雰囲気温度を、吐出ヘッド20の周囲温度として検知する。
【0071】
温度取得部71dは、吐出ヘッド20の周囲の温度を取得する温度取得処理を実行する。本実施の形態の画像記録装置1はキャリッジ16に搭載された温度センサ75を備えているため、温度取得部71dは、この温度センサ75が検知した温度を、吐出ヘッド20の周囲の温度として取得する。なお、温度取得部71dによる温度の取得は、画像記録装置1が備える温度センサ75からに限られず、外部の温度センサにて検知された温度に基づいて吐出ヘッド20の周囲の温度を取得する構成としてもよい。あるいは、温度センサに依らず、吐出ヘッド20の動作状態(例えば、連続印刷時間、換言すればアクチュエータ60の連続駆動時間)に基づいて、吐出ヘッド20の周囲の温度を予測してもよい。
【0072】
非吐出信号補正部71eは、ハイギャップ印刷モードのときに、非吐出信号生成部71cが生成した非吐出駆動信号の波形を、温度取得部71dが取得した温度に応じて異なる波形に補正する、非吐出信号補正処理を実行する。
【0073】
このような画像記録装置1Aは、
図7のフローチャートに示されるような各工程の流れに従って動作する。すなわち、画像記録装置1Aが備える制御装置71は、実施の形態1で
図4を参照して説明したステップS1~S12の動作を実行する。ただし、このうちステップS4とステップS7との間で、温度に応じた非吐出駆動信号の波形の補正を実行する(ステップS20,S21)。
【0074】
具体的には、制御装置71は、ハイギャップ印刷モードと判定した場合(ステップS2:YES)に、振幅の大きい吐出駆動信号を生成し(ステップS3)、ハイギャップ用の非吐出駆動信号(ハイギャップ非吐出信号)を生成する(ステップS4)。次に、温度取得部71dが、温度センサ75により検知された温度から吐出ヘッド20の周囲の温度を取得する(ステップS20)。そして、非吐出信号補正部71eは、この温度に基づき、ステップS4で生成されたハイギャップ非吐出信号を補正する(ステップS21)。その後は、
図4で説明したステップS7以降の動作を実行する。
【0075】
ここで、ステップS21でのハイギャップ非吐出信号の補正においては、ステップS4でのハイギャップ非吐出信号の生成と同じ考え方を適用することができる。その場合、吐出駆動信号の波形の振幅が大きくなることを、温度が高いことに置き換えればよい。
【0076】
具体的には、取得した温度が高いほど、パルス波の周期に対するパルス幅の比率であるデューティー比が更に小さい波形となるように、ハイギャップ非吐出信号の波形を補正する。または、取得した温度が高いほど、吐出周期に含まれるパルス波の波数が更に少ない波形となるように、ハイギャップ非吐出信号の波形を補正する。または、取得した温度が高いほど、連続する2つのパルスの間隔とアコースティックレングスとの差が更に大きい波形となるように、ハイギャップ非吐出信号の波形を補正する。すなわち、取得した温度に応じて補正前のハイギャップ非吐出信号と異なる波形にハイギャップ非吐出信号の波形を補正する。
【0077】
これにより、吐出ヘッド20の周囲の温度が高くなってインクの粘性が低下して流動性が高くなった場合であっても、アクチュエータ60が圧力室28内のインクに付与する圧力を抑制でき、非吐出駆動時にインクが意図せず吐出してしまうのを防止できる。
【0078】
(実施の形態3)
ところで、上述した実施の形態1,2に係る液体吐出装置10は、アクチュエータ60が圧力室28内のインクに圧力を付与するタイミングを変更することで、ハイギャップ印刷モードでの非吐出駆動時におけるインクの吐出を防止している。これに対し、アクチュエータ60に印加する非吐出駆動信号(ハイギャップ非吐出信号)の振幅を調整することで、ハイギャップ印刷モードでの非吐出駆動時におけるインクの吐出を防止してもよい。
【0079】
この場合の液体吐出装置及び画像記録装置の構成には
図1~3に示したものを適用でき、画像記録装置の動作は
図4に示したフローチャートにより説明される。ただし、実施の形態3に係る液体吐出装置10の構成及び動作には、
図1~4を参照した説明とは異なるところがあるので、以下では主にこの点について説明する。
【0080】
実施の形態3に係る液体吐出装置10の制御装置71は、実施の形態1と同様に、モード判定部71a、吐出信号生成部71b、及び非吐出信号生成部71cを有している(
図3参照)。このうちモード判定部71aは、ローギャップ印刷モード及びハイギャップ印刷モードのうち、何れの印刷モードであるかを判定する(
図4のステップS2参照)。また、吐出信号生成部71bは、ハイギャップ印刷モードのときの方がローギャップ印刷モードのときよりも、吐出駆動信号として、振幅が大きい波形を、波形生成回路76に生成させる。
【0081】
一方、非吐出信号生成部71cは、実施の形態1と異なる。具体的には、非吐出信号生成部71cは、ハイギャップ印刷モードのときの方がローギャップ印刷モードのときよりも、非吐出駆動信号として、振幅が大きい波形を波形生成回路76に生成させると共に、ハイギャップ印刷モードのときとローギャップ印刷モードのときの、吐出駆動信号の振幅差をΔV1、非吐出駆動信号の振幅差をΔV2としたときに、非吐出駆動信号として、ΔV1がΔV2よりも大きくなる波形を波形生成回路76に生成させる。
【0082】
すなわち、ハイギャップ印刷モードのときは、吐出駆動信号及び非吐出駆動信号を共に、ローギャップ印刷モードのときよりも信号の振幅を大きくする。ただし、ハイギャップ印刷モードのときとローギャップ印刷モードのときの振幅の差については、吐出駆動信号の差ΔV1よりも非吐出信号ΔV2の方が小さい波形とする。これにより、アクチュエータ60が圧力室28内のインクに付与する圧力を抑制でき、非吐出駆動時にインクが意図せず吐出してしまうのを防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、液体吐出装置、液体吐出方法、および液体吐出プログラムに適用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 画像記録装置
10 液体吐出装置
20 吐出ヘッド
21 ノズル
28 圧力室
60 アクチュエータ
71 制御装置
71a モード判定部
71b 吐出信号生成部
71c 非吐出信号生成部
71d 温度取得部
71e 非吐出信号補正部
75 温度センサ
76 波形生成回路