(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】繊維散布ブースおよびそれを用いた強化繊維マット製造装置
(51)【国際特許分類】
D04H 1/732 20120101AFI20241008BHJP
D04H 1/736 20120101ALI20241008BHJP
D01G 9/04 20060101ALI20241008BHJP
D01G 25/00 20060101ALI20241008BHJP
B27N 3/12 20060101ALI20241008BHJP
B27N 3/14 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
D04H1/732
D04H1/736
D01G9/04
D01G25/00 E
B27N3/12
B27N3/14
(21)【出願番号】P 2020534640
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2020023939
(87)【国際公開番号】W WO2021010084
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2019130839
(32)【優先日】2019-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】河原 好宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 保
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-151773(JP,A)
【文献】特開平07-016836(JP,A)
【文献】特表2003-520912(JP,A)
【文献】実開昭53-035209(JP,U)
【文献】特開昭53-028779(JP,A)
【文献】国際公開第2019/142851(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00-18/04
D01G 1/00-99/00
B27N 3/12
B27N 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維束を散布して強化繊維マットを製造する強化繊維マット製造装置に用いられる繊維散布ブースであって:
上方から落下する強化繊維束を分散する回転可能な分散ローラーと;
前記分散ローラーの回転軸に垂直な方向に面方向を有する整流板と;
を内部に有する繊維散布ブース。
【請求項2】
少なくとも前記分散ローラーの回転により描かれる円の高さ方向の範囲内に前記整流板が存在する、請求項1に記載の繊維散布ブース。
【請求項3】
前記整流板の前記分散ローラーの回転軸方向から見た投影面積が、前記分散ローラーの回転により描かれる円の面積よりも大きい、請求項1または2に記載の繊維散布ブース。
【請求項4】
前記整流板が、前記分散ローラーと接触する部分を除く略全面に設置されている、請求項2または3に記載の繊維散布ブース。
【請求項5】
前記分散ローラーの回転軸方向から見て、前記回転軸を挟んだ水平方向の両側に前記整流板が設置されている、請求項1~4のいずれかに記載の繊維散布ブース。
【請求項6】
前記整流板が前記分散ローラーの回転軸方向に複数配置されている、請求項1~5のいずれかに記載の繊維散布ブース。
【請求項7】
前記複数の整流板の自由端同士を連結する振動防止部材を有する、請求項
6に記載の繊維散布ブース。
【請求項8】
前記分散ローラーは、前記上方から落下する強化繊維束と接触して、該強化繊維束を細く分割して分散する、請求項1~7のいずれかに記載の繊維散布ブース。
【請求項9】
前記分散ローラーは、前記上方に設けられたカッターロールとニップロールの間で切断されてから落下する強化繊維束と接触する、請求項8に記載の繊維散布ブース。
【請求項10】
シート材上に強化繊維束を散布して強化繊維マットを製造するための強化繊維マット製造装置であって、前記シート材の載置面の上方に、請求項1~
9のいずれかに記載の繊維散布ブースが設置されてなる強化繊維マット製造装置。
【請求項11】
前記シート材の載置面から前記整流板の最下端までの距離が200mm~1000mmである、請求項
10に記載の強化繊維マット製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維マットを製造する強化繊維マット製造装置に用いられる繊維散布ブースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化プラスチックは、比強度、比弾性率が高いことなど、優れた機械特性を持つことから広く産業用途で使用されている。その中でも複雑な形状に成形することを目的として、不連続の強化繊維束(例えば、炭素繊維)とマトリックス樹脂からなる成形材料を用いて、加熱、加圧成形により、所望形状の成形品を製造する技術が知られており、SMC(Sheet Molding Compound)やスタンパブルシートが主なものとして挙げられる。
【0003】
不連続の強化繊維束を用いた繊維強化プラスチックにおいて、強化繊維をランダムに分散させた強化繊維マットの性状は、機械特性に大きな影響を与える要因である。この強化繊維マット中の繊維束の太さや、目付けムラの程度により、繊維強化プラスチックの機械特性は大きく影響を受けるため、繊維束を所望の束太さに分散し、かつ分散された繊維束を均一に散布することは、優れた強化繊維マットを製造する上で重要である。
【0004】
また、昨今ではその優れた機械特性と成形のしやすさから、炭素繊維を用いたSMCが、大量生産される自動車向けの材料として採用される事例も出てきている。しかし、さらなるSMCの普及には、優れた機械特性を損なうことなく、低コスト化することが必須の状況である。
【0005】
一般的に、強化繊維束がより細束であるほど、また、より強化繊維マットの目付けムラが少ないほど、繊維強化プラスチックの機械特性は高くなることが知られている。より細束の強化繊維束を得る方法としては、以下の2つが考えられる。1つ目は、不連続に切断する前の連続繊維が巻かれたボビンに細い束のボビンを用いること、2つ目は、太い束のボビンから得た太束を分散して細束を得る方法である。
【0006】
2つの方法を比較した場合、既存の設備を用いつつ優れた機械特性を有する材料を製造するには、前者が容易な方法となる。しかし、一般に細束のボビンは太束のボビンに対してコストが高いため、低コスト化を進める上では、後者の太束を分散して細束を得る技術が有位である。
【0007】
太束の強化繊維束を分割して細束とした上で散布し、強化繊維マットを製造する技術として、特許文献1には、スパイクローラーを回転させ、強化繊維束に接触させることにより繊維束を分散させ、その後、回転するスラット(薄板)を連続的に回転させることで生成される乱流によって、スパイクローラーによって分散された繊維を調整する繊維散布ブース(成形箱体)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1のように回転するスラットを設置するためには、モーターやそれを駆動するための電気配線を設置する必要があり、繊維散布ブース自体の製造コストや、強化繊維マット製造装置の稼動コストが高くなる問題があった。
【0010】
本発明は、より簡便な構造で、細束でかつ目付けムラの小さい強化繊維マットを製造することが可能な繊維散布ブースを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、下記の通りである。
(1)強化繊維束を散布して強化繊維マットを製造する強化繊維マット製造装置に用いられる繊維散布ブースであって:
上方から落下する強化繊維束を分散する回転可能な分散ローラーと;
前記分散ローラーの回転軸に垂直な方向に面方向を有する整流板と;
を内部に有する繊維散布ブース。
(2)少なくとも前記分散ローラーの回転により描かれる円の高さ方向の範囲内に前記整流板が存在する、(1)に記載の繊維散布ブース。
(3)前記整流板の前記分散ローラーの回転軸方向から見た投影面積が、前記分散ローラーの回転により描かれる円の面積よりも大きい、(1)または(2)に記載の繊維散布ブース。
(4)前記整流板が、前記分散ローラーと接触する部分を除く略全面に設置されている、(2)または(3)に記載の繊維散布ブース。
(5)前記分散ローラーの回転軸方向から見て、前記回転軸を挟んだ水平方向の両側に前記整流板が設置されている、(1)~(4)のいずれかに記載の繊維散布ブース。
(6)前記整流板が前記分散ローラーの回転軸方向に複数配置されている、(1)~(5)のいずれかに記載の繊維散布ブース。
(7)前記整流板が20mm以上300mm以下のピッチで略等間隔に配置されている、(6)に記載の繊維散布ブース。
(8)前記複数の整流板の自由端同士を連結する振動防止部材を有する、(6)または(7)に記載の繊維散布ブース。
(9)シート材上に強化繊維束を散布して強化繊維マットを製造するための強化繊維マット製造装置であって、前記シート材の載置面の上方に、(1)~(8)のいずれかに記載の繊維散布ブースが設置されてなる強化繊維マット製造装置。
(10)前記シート材の載置面から前記整流板の最下端までの距離が200mm~1000mmである、(9)に記載の強化繊維マット製造装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の繊維散布ブースを用いることで、細束でかつ目付けムラが小さい強化繊維マットを、低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施態様に係る強化繊維マット製造装置の断面図である。
【
図2】
図1の強化繊維マット製造装置の斜視図である。
【
図3】本発明の一実施態様に係る繊維散布ブースの底面図である。
【
図4】本発明の他の実施態様に係る繊維散布ブースにおける分散ローラーを示し、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【
図5】本発明のさらに他の実施態様に係る繊維散布ブースにおける分散ローラーを示し、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【
図6】
図3の繊維散布ブースにおける分散ローラーの描く円Dを説明するための概念図である。
【
図7】
図6における円Dの面積と整流板の面積の関係を説明するための概念図である。
【
図9】本発明のさらに他の実施態様に係る繊維散布ブースの底面図である。
【
図10】
図3の繊維散布ブースにおける整流板の一変形例を示し、(A)は断面図、(B)は(A)のA方向矢視図である。
【
図11】
図3の繊維散布ブースにおける整流板の他の変形例を示し、(A)は断面図、(B)は(A)のB方向矢視図である。
【
図12】
図3の繊維散布ブースにおける整流板のさらに他の変形例を示し、(A)は断面図、(B)は(A)のC方向矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。個々の実施形態の説明の中で付記させた図面中の符号は、理解を容易にするための配慮であって、各々の用語の意味を図面に示す実施形態に限定するものではない。従って、以下の実施形態についての説明は、同時に上位概念としての本発明の説明と解釈し得るものである。
【0015】
図1および
図2は、本発明の繊維散布ブースを備えた強化繊維マットの製造装置の一実施形態を示しており、
図1は装置側面からの断面図、
図2は斜視図である。ここで、シート材上に均一に強化繊維束を堆積させるため、本装置は水平に設置されることが通常であるため、
図1の上側を「上」、下方を「下」と表現する場合がある。さらに、特に断りがなければ、繊維散布ブースの「断面」は、
図1に示す装置側面からの断面、すなわち分散ローラーの回転軸に垂直な方向の断面を指すものとする。
【0016】
図1に示す強化繊維マット製造装置において、装置の最上部には、強化繊維糸条1をガイドするガイドロール10、その直下にニップロール11とカッターロール12が設置されている。図示しない動作機構によりニップロール11とカッターロール12とは互いに押付け合う、または離間する動作が可能である。
【0017】
ニップロール11およびカッターロール12の周囲およびその下方にはシューター20が設置され、シューター20の下端の開口部が繊維散布ブース30と接続されている。繊維散布ブース30内部には、繊維束を分割し、分散させる分散ローラー40が設置されている。分散ローラー40は、図示しない回転機構によって回転を与えられる回転軸41と、回転軸41から放射状に伸びる複数の棒状の突起部材43を備えている。
【0018】
上述の装置を用いて強化繊維マットを製造する際は、ガイドロール10を経由して強化繊維糸条1をニップロール11に案内し、強化繊維糸条1は、図示しない動作機構により互いに押付けられたニップロール11、カッターロール12間にて切断され、切断された強化繊維束2となる。
【0019】
続いて、強化繊維束2はシューター20内を落下し、シューター20下端の開口部を通過して繊維散布ブース30内に進入する。そして、回転する分散ローラー40の突起部材43と接触することで、接触前よりも細い細束強化繊維束3へと分割されるとともに、突起部材43から受けた力、あるいは分散ローラー40の回転により生じた気流によって、繊維散布ブース内の広い範囲に散布される。(なお、回転ローラーによって必ずしも全ての強化繊維束が細く分割されるとは限らないが、本明細書においては、便宜上回転ローラー設置部を通過した強化繊維束を総じて「細束強化繊維束」と呼称するものとする。)散布された細束強化繊維束3は、繊維散布ブース30の下端の開口部を通過して繊維散布ブース30外へ排出され、走行方向Yへ走行するシート材50の上に落下して積み重なり、強化繊維マット4を形成する。
【0020】
本実施形態においては、分散ローラー40は、
図1および
図3に示すように、回転軸41から多数の突起部材43が放射状に伸びるものであるが、分散ローラーの形状は特に限定されず、
図4に示すように、回転軸41を中心に固定された1対あるいはそれ以上の数の回転板42の間に、回転軸41と平行方向に張った複数の棒状部材44を備えた形態や、
図5に示すように、回転軸41から板状部材45を放射状に等間隔に配置し、固定された形態など、回転運動に起因して強化繊維束に作用し、強化繊維束を分割・分散することが可能な部材であれば特に限定されない。
【0021】
分散ローラー40の回転方向は特に限定されないが、細束強化繊維束は回転方向(
図1においては時計回り方向)の前方(
図1においては回転軸の右側)に多く飛散する。そのため、分散ローラー40に接触して弾き飛んだ細束強化繊維束3が繊維散布ブース30のハウジングになるべく接触しないように、
図1に示すように、分散ローラー40の回転方向前方における回転軸41から繊維散布ブース30のハウジングまでの距離を、回転方向後方における回転軸41からハウジングまでの距離より長く取ることが好ましい。弾き飛んだ細束強化繊維束3が繊維散布ブース30のハウジングに衝突すると、細束強化繊維束3が回転軸41の軸方向を向いてしまい、強化繊維マット4を構成する細束強化繊維束3のランダム性が失われやすくなる。従って、分散ローラー40の回転方向前方における回転軸41から繊維散布ブース30のハウジングまでの距離は、細束強化繊維束3の弾き飛ぶ距離以上とすることが好ましい。
【0022】
ここで、一般に、分散ローラー40の回転速度が大きいほど、強化繊維束をより細い束に分割することができる。一方、回転速度を大きくすると、分散ローラー40の回転に伴って生じる随伴気流が強くなるため、繊維散布ブース30内で気流の乱れが発生しやすくなる。乱れた気流が、分散ローラー40の回転軸方向に流れた場合、細束強化繊維束3がその流れによって移動してしまうため、シート材50に散布された際に、繊維の目付けムラの悪化につながってしまう。
【0023】
本発明の繊維散布ブースは、分散ローラーの回転軸に垂直な方向に面方向を有する整流板を内部に有する。すなわち、整流板は、中心平面が分散ローラーの回転軸と略垂直な方向(90±15°以内)の面に設置することができる。本実施形態においては、繊維散布ブース30の内部に、分散ローラーの回転軸に垂直な方向に面方向を有する整流板31a,31bが、ハウジングから立設されるように設置されている。整流板31a,31bは、分散ローラー40の回転によって発生する気流が回転軸41の軸方向への流れを遮るよう設置されているため、分散した細束強化繊維束3の回転軸41の軸方向への移動が抑制され、結果的に、形成される強化繊維マット4の幅方向の目付けムラを抑制することに繋がる。
【0024】
整流板31(以下、整流板が複数存在する形態において、特定の整流板ではなく全ての整流板を包括的に説明する場合には、「31」の符号で表す。)は、
図6に示すように、繊維散布ブース40の断面において、分散ローラー40の回転により描かれる円Dの高さ方向の範囲内、すなわち、両方向矢印Kで示される範囲内に少なくとも存在することが好ましい。この範囲内に整流板が存在することで、分散ローラー40によって分散された細束強化繊維束3が分散された直後に整流板31で仕切られた空間に進入するため、分散ローラー40の回転軸方向への気流の影響を効果的に抑制できる。
【0025】
また、
図6に示すように、整流板31は分散ローラー40の回転により描かれる円Dに接触しない範囲で、なるべく近い位置に(すなわち、Waで示す距離がなるべく小さくなるように)設置されていることが好ましい。Waは、300mm以下が好ましく、より好ましくは100mm以下で、さらに好ましくは30mm以下である。Waが小さいほど、分散ローラー40の回転によって発生した気流が、回転軸41の軸方向に移動することを効果的に抑制することができる。
【0026】
また、同断面を見た場合において、整流板31の回転軸41の軸方向から見た投影面積は、分散ローラー40の回転により描かれる円Dの面積よりも大きいことが好ましい。すなわち、
図7で示すように、繊維散布ブース30を回転軸41方向から見た整流板31aの投影面積Gaと整流板31bの投影面積Gbの面積の合計が円Dの面積よりも大きいことが好ましい。
【0027】
整流板31の数は特に限定されず、製造しようとする強化繊維マットの幅に応じて適宜選択されるべきであるが、
図3および
図8に示すように、分散ローラー40の回転軸方向に複数配置することが好ましい。
図8においては、分散ローラー40の回転方向側のハウジングから5枚の整流板31a1~31a5、分散ローラー40の回転方向と反対側のハウジングから5枚の整流板31b1~31b5が、それぞれ立設されている。このように複数に整流板を配置することにより、より分散ローラー40による気流の影響を抑制することが可能になる。
【0028】
図8においては、整流板31a1~31a5、および31b1~31b5は、それぞれ略等間隔で設置されている。分散ローラー40の回転軸方向に複数の整流板を設置する場合、必ずしも等間隔である必要はないが、より均一に細束強化繊維束を分散させる観点からは、複数の整流板を略等間隔で設置することが好ましい。このように整流板を設置する際のピッチPは、特に限定されないが、20mm以上300mm以下であることが好ましい。
【0029】
さらに、
図8に示す実施形態においては、分散ローラー40の回転方向前方と、分散ローラー40の回転軸方向後方のハウジングの両側に、整流板が設置されている。すなわち、分散ローラー40の回転軸方向から見て、分散ローラー40の回転軸を挟んだ水平方向の両側に整流板31が設置されている。このように分散ローラーの両側に整流板を設置することで、繊維散布ブース内における分散ローラーの回転方向後方の空間における気流の影響も抑制することが可能である。ただし、整流板は分散ローラー40の回転軸前方のみ(
図6においては回転軸の右奥側のみ)に設けられていてもよい。
【0030】
また、繊維散布ブース30の底面図として
図9に示すように、整流板31aは、分散ローラー40を挟んで反対側に設置している整流板31bと、回転軸41方向にずれて、いわゆる千鳥関係で配置されていてもよい。このように整流板が千鳥関係で配置されている場合であっても、
図7で示すように、繊維散布ブース30を回転軸41方向から見た整流板31aの投影面積Gaと整流板31bの投影面積Gbの面積の合計が円Dの面積よりも大きいことが好ましい。
【0031】
図10は、整流板31の一変形例を示している。本実施形態の整流板31cは、繊維散布ブース30の断面において、分散ローラー40と接触する部分を除く略全面に設置されている。言い換えると、整流板31cには、繊維散布ブース30の断面において、分散ローラーの回転領域をくり抜くよう配置された抜き穴32が形成されている。このように設置することで、さらに気流の影響を小さく抑えることができる。さらに、
図11に示すように、分散ローラーが突起部材43を備える場合には、さらに設置領域を拡大し、突起部材43との接触を避けつつ、回転軸41と接触する部分を除く略全面に整流板31cを設置してもよい。
【0032】
図12は、整流板31aに、振動防止部材33を設置した例である。
図12に示す実施形態においては、整流板31a、31bは、その端部がハウジングに溶接等によって固定されることによりハウジングから立設する形で設置されているが、繊維散布ブース30の下部にはハウジングが存在しないため、整流板31a、31bの下端部は固定されていない自由端となっている。そのため、振動防止部材33が存在しない場合、装置の振動が整流板31a、31bに伝わって振動することによる耐久性の低下等が懸念される。
図12に示す実施形態において、振動防止部材33は、複数の整流板31aを挟持する複数のスリット36を備えた棒状の部材であり、整流板31aの下端におけるハウジングから離れた位置に設置し、複数の整流板31を挟持しつつ連結することによって、整流板31aの振動を抑制している。振動防止部材33は、本実施形態においては整流板31の下端部に設置されているが、必ずしも下端部に設置する必要はなく、整流板の自由端、すなわちハウジング等に固定されていない端部同士を連結するものであれば特に限定されない。また、同様に本実施形態においては前方の整流板31aのみに振動防止部材が設置されているが、後方の整流板31bに振動防止部材を設けることもできる。
【0033】
なお、
図12に示す実施形態においては、繊維散布ブース30は、断面においてその上端から中段に向けて徐々に幅が広くなっている。言い換えれば、繊維散布ブース30のハウジングは、上方が狭く、中段に向けて徐々に広くなるよう傾斜が設けられている。このように形成することで、細束強化繊維束の分散を阻害することなく、繊維散布ブース全体を小型化することができる。
図12においては、繊維分散ローラー40の片側(
図12における右側)のみにこのような傾斜が設けられているが、両側にこのような傾斜を設けることもできる。
【0034】
上記の繊維分散ブースは、
図1に示すように、強化繊維マットの製造装置において、シート材50の載置面の上方に設置される。このとき、シート材50の載置面から整流板31の最下端までの距離Hが小さすぎると整流板の直下に繊維が散布されにくくなる。また、逆に距離Hが大きすぎると、軽い強化繊維は落下してゆく間に繊維散布ブース30の直下から外へはみ出して散布されやすくなり、いずれにせよ強化繊維マットに目付けムラが生じやすくなる。そこで、シート材50の載置面から整流板の最下端までの距離は、200mm~1000mmであることが好ましく、より好ましくは200mm~800mm、更に好ましくは200mm~600mmである。
【0035】
なお、シート材としては表面に強化繊維マットを形成することが可能な限り特に限定されず、材質も樹脂、金属に限定しないが、樹脂製フィルムや、金属製の鎖で面を構成したチェーンシートや、金属製の金網で構成したメッシュシート、また、単なる金属シート等を用いることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 :強化繊維糸条
2 :強化繊維束
3 :細束強化繊維束
4 :強化繊維マット
10:ガイドロール
11:ニップロール
12:カッターロール
20:シューター
30:繊維散布ブース
31、31a~31c、31a1~31a5、31b1~31b5:整流板
32:抜き穴
33:振動防止部材
36:スリット
40:分散ローラー
41:回転軸
42:回転板
43:突起部材
44:棒状部材
45:板状部材
50:シート材