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  • 特許-スパンボンド不織布及び積層不織布 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】スパンボンド不織布及び積層不織布
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/16 20060101AFI20241008BHJP
   D04H 3/018 20120101ALI20241008BHJP
   D01F 8/06 20060101ALI20241008BHJP
   D01F 8/14 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
D04H3/16
D04H3/018
D01F8/06
D01F8/14 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020540357
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2020027160
(87)【国際公開番号】W WO2021010357
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2019130840
(32)【優先日】2019-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶原 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】勝田 大士
(72)【発明者】
【氏名】西口 結香
(72)【発明者】
【氏名】船津 義嗣
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-095847(JP,A)
【文献】特開平06-128855(JP,A)
【文献】特開平09-111635(JP,A)
【文献】特開2019-094584(JP,A)
【文献】国際公開第2018/092444(WO,A1)
【文献】特開平04-174753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00-18/04
D01F 8/00- 8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長繊維を含有するスパンボンド不織布であって、
前記長繊維は、ポリマーA及びポリマーBを含有し、かつ、サイドバイサイド繊維であって、
前記ポリマーAがポリオレフィン系ポリマーであり、前記ポリマーBがポリエチレンテレフタレート及びその共重合体であり、
前記ポリマーBの融解温度が前記ポリマーAの融解温度よりも30℃以上高く、
前記スパンボンド不織布の見掛け密度が0.050g/cm以下である、スパンボンド不織布。
【請求項2】
前記長繊維のうちの任意の2本の長繊維を接続する接続部を複数有し、
前記接続部のうちの少なくとも1つが前記ポリマーAを含む、請求項1に記載のスパンボンド不織布。
【請求項3】
前記長繊維の断面形状がダンベル形である、請求項1又は2に記載のスパンボンド不織布。
【請求項4】
少なくとも表層が、請求項1~のいずれか1項に記載のスパンボンド不織布である、積層不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触り心地に優れ、特に衛生材料用途に好適なスパンボンド不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に紙おむつや生理用ナプキン等の衛生材料用の不織布には、着用時の風合いのため、嵩高性及び柔軟性に優れるという性能が求められている。特に、肌に直接触れる表面部材においては、嵩高性が要求される。
【0003】
従来、衛生材料の表面部材としては、短繊維をカーディングによりシート化した後、熱風処理により自己融着した、いわゆるエアスルー不織布が好適に使用されている。エアスルー不織布は、嵩高性及び柔軟性に優れるため、ソフト感が優れるという特徴を有しており、幅広く採用されているが、製造プロセスが複雑であり、生産速度が遅いといった欠点がある。
【0004】
一方、スパンボンド不織布は、その製造プロセスから生産性が高く、低コストを特徴としている。しかしながら、スパンボンド不織布の製造プロセスは、構成する長繊維が面方向に配向する構造になりやすい製造プロセスであることから、嵩高性及び柔軟性に優れるスパンボンド不織布を得ることが困難である。
【0005】
そこで、長繊維に捲縮を付与して高い嵩高性を得ることで、ソフト感の向上を図る検討が行われている。
【0006】
例えば、特許文献1には、融解温度が10℃以上異なる2成分のポリマーから構成される捲縮複合繊維が提案されている。
【0007】
また、特許文献2には、2成分のポリマーから構成されるウェブを加熱して捲縮付与した後、冷却し、続いて熱風処理により融着させる技術が提案されている。
【0008】
さらに、特許文献3には、2成分のポリマーから構成されるウェブを先行的に圧密、エンボスした後、熱風処理により融着させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】日本国特許第5484564号公報
【文献】日本国特表2005-514528号公報
【文献】日本国特開2018-024965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1で開示されている技術によると、紡糸時の捲縮によって嵩高さを向上する効果が得られる。しかし、圧縮しながら熱融着させるエンボスで形態固定するために、十分な嵩高さを得ることはできなかった。
【0011】
特許文献2で開示されている技術によると、紡糸後の熱処理による捲縮の発現と、その後の熱風での融着を採用することによって、嵩高さが向上する。しかし、熱処理を2度行う必要があるため、生産性が劣るとともに、嵩高さが十分でない問題があった。
【0012】
特許文献3で開示されている技術によると、紡糸時の捲縮によって嵩高さを向上している。しかし、その後、圧密処理を行った後に、更にエンボス加工や熱風処理によって融着するという複雑なプロセスであり、圧密処理による嵩高さの低下があるとともに、やはり、生産性に問題があった。
【0013】
このように、従来、生産性、安定性に優れ、かつ、衛生材料として使用するのに満足のいくレベルの高い嵩高性を有するスパンボンド不織布が得られていなかった。
【0014】
そこで、本発明の目的は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、生産性、安定性に優れ、かつ、衛生材料として使用するのに満足のいくレベルの高い嵩高性を有するスパンボンド不織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を重ねた結果、特定のポリマーの組合せを採用することによって、捲縮の発現や長繊維同士を融着させる工程において、長繊維が十分な剛性を維持することができるため、従来技術の製法に比べてシンプルなプロセスで、高い嵩高性を有するスパンボンド不織布が得られるという知見を得た。
【0016】
本発明は、これら知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0017】
<1>長繊維を含有するスパンボンド不織布であって、
前記長繊維は、ポリマーA及びポリマーBを含有し、
前記ポリマーBの融解温度が前記ポリマーAの融解温度よりも30℃以上高く、
前記スパンボンド不織布の見掛け密度が0.050g/cm以下である、スパンボンド不織布。
<2>前記ポリマーAがポリオレフィン系ポリマーであり、前記ポリマーBがポリエステル系ポリマーである、<1>に記載のスパンボンド不織布。
<3>前記長繊維がサイドバイサイド繊維である、<1>又は<2>に記載のスパンボンド不織布。
<4>前記長繊維のうちの任意の2本の長繊維を接続する接続部を複数有し、
前記接続部のうちの少なくとも1つが前記ポリマーAを含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載のスパンボンド不織布。
<5>前記長繊維の断面形状がダンベル形である、<1>~<4>のいずれか1つに記載のスパンボンド不織布。
<6>少なくとも表層が、<1>~<5>のいずれか1つに記載のスパンボンド不織布である、積層不織布。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、生産性、安定性に優れ、かつ、高い嵩高性を有するスパンボンド不織布を得ることができる。特に、本発明のスパンボンド不織布は、優れた生産性と、高い嵩高性から得られる優れたソフト感を有するという特徴から、高い生産性と触り心地の両立を強く求められる紙おむつや生理用ナプキン等の衛生材料に対し、好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明のスパンボンド不織布に用いられる長繊維の一実施形態の断面図である。図1の長繊維は、断面形状がダンベル形のサイドバイサイド繊維である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のスパンボンド不織布は、ポリマーA及びポリマーBを含有する長繊維を含有し、ポリマーBの融解温度がポリマーAの融解温度よりも30℃以上高く、該スパンボンド不織布の見掛け密度が0.05g/cm以下である。
以下に、この詳細について説明する。
【0021】
[ポリマーA及びポリマーB]
ポリマーA及びポリマーBとしては、例えば、熱可塑性樹脂を用いることができる。
熱可塑性樹脂の例としては、「ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート」等の芳香族ポリエステル系ポリマー及びその共重合体、「ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヒドロキシブチレート-ポリヒドロキシバリレート共重合体、ポリカプロラクトン」等の脂肪族ポリエステル系ポリマー及びその共重合体、「ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド10、ポリアミド12、ポリアミド6-12」等の脂肪族ポリアミド系ポリマー及びその共重合体、「ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン」等のポリオレフィン系ポリマー及びその共重合体、エチレン単位を25モル%から70モル%含有する水不溶性のエチレン-ビニルアルコール共重合体系ポリマー、ポリスチレン系、ポリジエン系、塩素系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、フッ素系のエラストマー系ポリマー等が挙げられる。これらの中から少なくとも2種類を選んでポリマーA及びポリマーBとして用いることができる。
【0022】
ここで、低融解温度成分となるポリマーAとしては、前記の熱可塑性樹脂の中でも比較的融解温度が低いポリマーを選択することが好ましく、「ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン」等のポリオレフィン系ポリマー及びその共重合体を用いることが好ましい。
【0023】
一方、高融解温度成分となるポリマーBとしては、「ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート」等の芳香族ポリエステル系ポリマー及びその共重合体、「ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヒドロキシブチレート-ポリヒドロキシバリレート共重合体、ポリカプロラクトン」等の脂肪族ポリエステル系ポリマー及びその共重合体を用いることが好ましい。
【0024】
特に、優れた強度と、優れた耐毛羽立ち性のスパンボンド不織布を得やすいことから、ポリマーBとしては、「ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート」等の芳香族ポリエステル系ポリマー及びその共重合体を用いることがより好ましい。
【0025】
ここで、前記のとおりポリマーBの融解温度がポリマーAの融解温度よりも30℃以上高い。ポリマーBの融解温度とポリマーAの融解温度との差は、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。このようにすることで、衛生材料用途に好適な嵩高性を有するスパンボンド不織布を得ることができる。
【0026】
本発明で用いられるポリマーAの融解温度及びポリマーBの融解温度は、100℃以上300℃以下であることが好ましく、より好ましくは120℃以上280℃以下である。融解温度を100℃以上とすることにより、実用に耐え得る耐熱性が得られやすくなる。
【0027】
また、ポリマーAの融解温度及びポリマーBの融解温度は、好ましくは300℃以下、より好ましくは280℃以下である。融解温度を300℃以下とすることにより、口金から吐出された糸条を冷却し易くなり、繊維同士の融着を抑制し、得られるスパンボンド不織布は欠点の少ないものとなる。
【0028】
本発明における融解温度とは、示差走査熱量計(例えば、TA Instruments社製「DSCQ2000」など)を用い、窒素雰囲気下において、昇温速度16℃/分の条件で測定された吸熱ピークのピークトップ温度のことを指す。
【0029】
また、ポリマーA及びポリマーBには、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、帯電防止剤、紡曇剤、ブロッキング防止剤、核剤、及び顔料等の添加物、あるいは他の重合体を必要に応じて添加することができる。
【0030】
[長繊維]
本発明のスパンボンド不織布に含まれる長繊維は、前記のポリマーA及びポリマーBを含有し、ポリマーA及びポリマーBからなる長繊維であることが好ましい。この長繊維では、ポリマーA及びポリマーBがそれぞれに領域を形成していて、かつ、ポリマーA及びポリマーBが界面を持って接着している。長繊維は、サイドバイサイド繊維、偏心芯鞘繊維などといった形態の複合繊維から選択することができる。
【0031】
中でも、高度な捲縮を得るという観点では、両ポリマーのポジションや量を制御しやすいことから、長繊維としてはサイドバイサイド繊維を用いることが好ましい。特に、図1に示されるようなダンベル形のサイドバイサイド繊維とすることが、微細な捲縮を付与しやすいことからより好ましい。
【0032】
一方、ポリマーAの溶融粘度とポリマーBの溶融粘度とに差がある場合は、紡糸性の観点から長繊維としては偏心芯鞘繊維を用いることも好ましい態様である。本発明でいう溶融粘度に差があるとは、動的粘弾性評価装置(例えば、UBM社製「Rheosol-G3000」)を用いて紡糸温度にて測定した際の粘度カーブから、せん断速度をゼロに外挿した粘度において、一方が他方よりも10%以上大きいことを指す。
【0033】
[スパンボンド不織布]
本発明のスパンボンド不織布は、単位目付当たりの引張強度が、0.3(N/5cm)/(g/m)以上10.0(N/5cm)/(g/m)以下であることが好ましい。
【0034】
単位目付当たりの引張強度が、0.3(N/5cm)/(g/m)以上であることによって、紙おむつ等を製造する際の工程通過性や製品としての使用に耐え得るものとなる。単位目付当たりの引張強度は、より好ましくは0.4(N/5cm)/(g/m)以上、さらに好ましくは0.5(N/5cm)/(g/m)以上である。
【0035】
一方、単位目付当たりの引張強度が、10.0(N/5cm)/(g/m)以下であることによって、スパンボンド不織布の柔軟性をより兼ね備えさせることができる。単位目付当たりの引張強度は、より好ましくは8.0(N/5cm)/(g/m)以下、さらに好ましくは6.0(N/5cm)/(g/m)以下である。
【0036】
単位目付当たりの引張強度は、前記の熱可塑性樹脂、添加物、繊維径、及び/又は、後述する紡糸速度、目付、見掛け密度、ボンディングの方法によって制御することができる。
【0037】
本発明でいうスパンボンド不織布の単位目付当たりの引張強度は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.3 引張強さ及び伸び率(ISO法)」の「6.3.1 標準時」に準じて実施する、つかみ間隔が少なくとも5cmの引張試験により、直交する2つの方向の、引張強度(サンプルが破断したときの強度)の平均を、後述する方法によって測定される目付で除した値である。
【0038】
本発明のスパンボンド不織布は、厚みが0.05mm以上1.50mm以下であることが好ましい。
【0039】
厚みが0.05mm以上であることによって、スパンボンド不織布が適度なクッション性を有するものとなる。厚みは、より好ましくは0.07mm以上、さらに好ましくは0.09mm以上である。
【0040】
一方、厚みが1.50mm以下であることによって、スパンボンド不織布が曲げ柔軟性に優れたものとなる。厚みは、より好ましくは0.14mm以下、さらに好ましくは0.13mm以下である。
【0041】
本発明におけるスパンボンド不織布の厚みとは、特に限定するものではないが、例えば、形状測定機(例えば、キーエンス社製「VR3050」)で測定した、無荷重での厚みをいう。
【0042】
本発明のスパンボンド不織布は、目付が10g/m以上100g/m以下であることが好ましい。
【0043】
スパンボンド不織布の目付が10g/m以上であることによって、スパンボンド不織布を衛生材料用途に適した厚みとしやすく、実用に供し得る機械強度を有するスパンボンド不織布とすることができる。
【0044】
一方、スパンボンド不織布の目付が100g/m以下であることによって、通気性や柔軟性に優れたスパンボンド不織布とすることができる。スパンボンド不織布の目付は、より好ましくは80g/m以下、さらに好ましくは60g/m以下である。
【0045】
なお、本発明におけるスパンボンド不織布の目付(g/m)とは、JIS L1913:2010の「6.2 単位面積当たりの質量」に基づき、20cm×25cmの試験片を、試料の幅1m当たり3枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、その平均値から算出する1m当たりの質量を指すこととする。
【0046】
本発明のスパンボンド不織布は、見掛け密度が0.050g/cm以下である。
【0047】
スパンボンド不織布の見掛け密度が0.050g/cm以下であることで、通気性や柔軟性に優れたスパンボンド不織布を得やすく、高い嵩高性を感じ取り易くなる。スパンボンド不織布の見掛け密度は、好ましくは0.045g/cm以下、より好ましくは0.040g/cm以下である。
【0048】
スパンボンド不織布の見掛け密度の下限は特に限定するものではないが、例えば、0.01g/cm以上であることで実用に供し得る形態安定性が得やすい。
【0049】
なお、本発明でいうスパンボンド不織布の見掛け密度とは、前記の目付を前記の厚みで除した値である。
【0050】
本発明のスパンボンド不織布は、長繊維のうちの任意の2本の長繊維を接続する接続部を複数有し、接続部のうちの少なくとも1つが前記ポリマーAを含むことが、高い形態安定性を得られるため、好ましい。
【0051】
なお、上記接続部がポリマーAを含む状態とは、ある長繊維とそれに隣接する長繊維とが、ポリマーAによって部分的に融着している状態のことをいい、長繊維同士が連続して融着して一定の幅を有するフィルム状になっている箇所を実質的に有さない状態のことをいう。
【0052】
[スパンボンド不織布の製造方法]
次に、本発明のスパンボンド不織布の製造方法の好ましい態様を、具体的に説明する。
スパンボンド不織布を製造するためのスパンボンド法では、原料である熱可塑性樹脂(ポリマーA、ポリマーB)を溶融し、紡糸口金から紡糸して、冷却固化して糸条を得る。そして、得られた糸条に対し、エジェクターで牽引し延伸して、長繊維を得る。そして、得られた長繊維を移動するネット上に捕集して不織繊維ウェブ化した後、不織繊維ウェブを熱接着する工程を経てスパンボンド不織布が得られる。
【0053】
用いられる紡糸口金やエジェクターの形状としては、丸形や矩形等種々のものを採用することができる。なかでも、圧縮エアの使用量が比較的少なく、糸条同士の融着や擦過が起こりにくいという観点から、矩形口金と矩形エジェクターの組み合わせを用いることが好ましい態様である。
【0054】
本発明で用いられる長繊維の好ましい製造方法を例示すると、ポリマーAとポリマーBをそれぞれ別の押出機において溶融し計量して、サイドバイサイドや偏心芯鞘型の複合紡糸口金へと供給し、長繊維として紡出する。このとき、低融解温度成分となるポリマーAが表面に露出していると、後述の熱接着工程で長繊維同士を接着させやすいため、好ましい。
【0055】
本発明において、紡糸温度は、(原料である熱可塑性樹脂の融解温度+10℃)以上(原料である熱可塑性樹脂の融解温度+100℃)以下とすることが好ましい。紡糸温度を上記範囲内とすることにより、安定した溶融状態とし、優れた紡糸安定性を得ることができるためである。
【0056】
紡出された長繊維の糸条は、次に冷却されるが、紡出された糸条を冷却する方法としては、例えば、冷風を強制的に糸条に吹き付ける方法、糸条周りの雰囲気温度で自然冷却する方法、及び紡糸口金とエジェクター間の距離を調整する方法等が挙げられ、またはこれらの方法を組み合わせた方法を採用することができる。また、冷却条件は、紡糸口金の単孔あたりの吐出量、紡糸する温度及び雰囲気温度等を考慮して適宜調整することができる。
【0057】
次に、冷却固化された糸条は、エジェクターから噴射される圧縮エアによって牽引され、延伸される。
【0058】
紡糸速度は、2000m/分以上であることが好ましく、より好ましくは3000m/分以上であり、さらに好ましくは4000m/分以上である。紡糸速度を2000m/分以上とすることにより、高い生産性を有することになり、また繊維の配向結晶化が進み、高い強度の長繊維を得ることができる。
【0059】
続いて、得られた長繊維を、移動するネット上に捕集して不織繊維ウェブ化する。本発明においては、高い紡糸速度で延伸するため、エジェクターから出た繊維は、高速の気流で制御された状態でネットに捕集されることとなり、繊維の絡みが少なく均一性の高い不織繊維ウェブを得ることができる。
【0060】
このような不織繊維ウェブは、1枚の不織繊維ウェブだけを用いてスパンボンド不織布とすることもできるが、複数の紡糸設備を工程方向に並べて複数のウェブを重ね、スパンボンド不織布を得ることも、生産性を高めることができる点で好ましい態様である。
【0061】
また、このとき不織繊維ウェブごとに原料や工程条件を変えることができる。さらに、積層不織布を得るために、メルトブロー不織布の層を積層することも好ましい態様の一つである。本発明において、これらの積層体もまとめて「不織繊維ウェブ」と呼称する。
【0062】
続いて、得られた不織繊維ウェブを、熱接着により一体化することにより、意図するスパンボンド不織布、あるいは、積層不織布を得ることができる。
【0063】
上記の不織繊維ウェブを熱接着により一体化する方法としては、加熱された空気で熱接着する方法、ロールで熱接着する方法等が挙げられる。
【0064】
熱接着に用いるロールとしては、上下一対のロール表面にそれぞれ彫刻(凹凸部)が施された熱エンボスロール、ロール表面がフラット(平滑)な片方のロールとロール表面に彫刻(凹凸部)が施された他方のロールとの組み合わせからなる熱エンボスロール、及び上下一対のフラット(平滑)ロールの組み合わせからなる熱カレンダーロール等が挙げられる。
【0065】
本発明では、高い嵩高さを得るため、前記のロールによる加圧を伴わない、加熱された空気で熱接着する方法が好ましい。加熱された空気によって熱接着する方法では、ポリマーAの融解温度とポリマーBの融解温度との間の温度に空気を加熱することが、厚みを保持したまま形態固定できるため、好ましい。
【0066】
[積層不織布]
本発明の積層不織布は、少なくとも表層が本発明のスパンボンド不織布である。
【0067】
本発明の積層不織布は、好ましくは、本発明のスパンボンド不織布を表層とし、メルトブロー不織布を内層となるように積層させた積層不織布である。このような構成とすることにより、衛生材料用の積層不織布として、特にウエストギャザー用途に要求されるレベルの耐水性を付与することができる。
【0068】
なお、本発明の積層不織布の好ましい形態においては、表層にスパンボンド不織布の層(S)が配され、かつ内層にメルトブロー不織布の層(M)が配されていればよく、積層不織布の層の数や組み合わせについては、SMS、SMMS、SSMMS、及びSMSMSなどのように、目的に応じて任意の構成を採用することができる。
【0069】
本発明の積層不織布の目付は、10g/m以上100g/m以下とすることが好ましい。
【0070】
積層不織布の目付を10g/m以上とすることにより、実用に供し得る機械的強度の積層不織布を得ることができる。積層不織布の目付は、より好ましくは13g/m以上、さらに好ましくは15g/m以上である。
【0071】
一方、積層不織布の目付を100g/m以下とすることにより、衛生材料用の不織布としての使用に適した適度な柔軟性を有する積層不織布とすることができる。積層不織布の目付は、より好ましくは50g/m以下、さらに好ましくは35g/m以下である。
【0072】
なお、本発明における積層不織布の目付(g/m)とは、JIS L1913:2010の「6.2 単位面積当たりの質量」に基づき、20cm×25cmの試験片を、試料の幅1m当たり3枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、その平均値から算出する1m当たりの質量を指すこととする。
【0073】
本発明のスパンボンド不織布、積層不織布は、前記のとおり、優れた生産性と、高い嵩高性から得られる優れたソフト感を有するという特徴から、高い生産性と触り心地の両立を強く求められる紙おむつや生理用ナプキン等の衛生材料に対し、好適に用いることができる。本発明で言うソフト感とは、表面を撫でたときの触り心地がスムーズで、かつ、厚み方向に適度な弾力を感じる触感である。
【実施例
【0074】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。ただし、本発明はこれらの実施例の記載のみに限定されるものではない。
【0075】
(観察、測定)
長繊維、ポリマー又はスパンボンド不織布について、以下の観察又は測定を行った。結果を表1に示す。
【0076】
(1)長繊維断面
得られた長繊維からランダムに小片サンプル10個を採取し、マイクロスコープで断面を観察し、その形状を確認した。
【0077】
(2)融解温度
ポリマーAの融解温度及びポリマーBの融解温度を、示差走査熱量計〔TA Instruments社製「DSCQ2000」〕を用いて測定した。そして、下記式により、融解温度差(℃)を計算した。
融解温度差(℃)=ポリマーBの融解温度-ポリマーAの融解温度
【0078】
(3)目付
JIS L1913:2010の「6.2 単位面積当たりの質量」に基づき、20cm×25cmの試験片を、得られたスパンボンド不織布の幅1m当たり3枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、その平均値から算出する1m当たりの質量を目付とした。
【0079】
(4)厚み
得られたスパンボンド不織布の無荷重での厚みを、形状測定機(キーエンス社製「VR3050」)で測定した。
【0080】
(5)見掛け密度
JIS L1913:2010の「6.2 単位面積当たりの質量」に基づき、20cm×25cmの試験片を、得られたスパンボンド不織布の幅1m当たり3枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、その平均値から算出する1m当たりの質量を、形状測定機(キーエンス社製「VR3050」)で測定した。得られた値を、スパンボンド不織布の無荷重での厚みで除した値を見掛け密度とした。
【0081】
(6)単位目付当たりの引張強度
JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.3 引張強さ及び伸び率(ISO法)」の「6.3.1 標準時」に準じて実施した、つかみ間隔が少なくとも5cmの引張試験により、直交する2つの方向の、引張強度(スパンボンド不織布が破断したときの強度)の平均を、目付で除した値を単位目付当たりの引張強度とした。
【0082】
(7)ソフト感(級)
任意に選定した10名が得られたスパンボンド不織布を手で触り、それぞれのスパンボンド不織布に対して、下の基準に従って評価した。各スパンボンド不織布について評価結果の平均点をそのスパンボンド不織布のソフト感とした。
【0083】
5:非常に快適で、非常に好きなソフト感であった(表面を撫でたときの触り心地がスムーズで、かつ、厚み方向に適度な弾力を感じる触感であった)。
4:やや快適で、やや好きなソフト感であった。
3:不快ではないが快適でもなく、嫌いではないが好きでもないソフト感であった。
2:やや不快で、やや嫌いなソフト感であった。
1:非常に不快で、非常に嫌いなソフト感であった(表面を撫でたときに引っ掛かりを感じ、押圧した時に強い反発感を感じたか、へたってしまった)。
【0084】
(実施例1)
ポリマーAとしてポリエチレン(PE)を、ポリマーBとしてポリエチレンテレフタレート(PET)を、それぞれ押出機で溶融し、紡糸温度が290℃で、サイドバイサイド型複合繊維(質量比率は1:1)に成形して、孔径φが0.30mmの孔を有する矩形口金から、単孔吐出量が0.6g/分で紡出した。
【0085】
紡出した糸条を、冷却固化した後、矩形エジェクターにおいてエジェクターでの圧力を0.10MPaとした圧縮エアによって、牽引及び延伸し、移動するネット上に捕集して長繊維を得た。続いて、得られた長繊維を150℃の熱風で加熱して熱接着し目付20g/mのスパンボンド不織布を得た。
【0086】
(実施例2)
サイドバイサイド型複合繊維を成形する代わりに、偏心芯鞘型複合繊維を成形した以外は、実施例1と同様にしてスパンボンド不織布を得た。
【0087】
(実施例3)
紡出を以下の条件で行った以外は、実施例1と同様にしてスパンボンド不織布を得た。
矩形口金における孔の形状:長方形の両側にそれぞれ円が配置されている形状
長方形の両側に配置された円の直径φ:0.30mm
長方形の両側に配置された2つの円の中心距離:0.8mm
単孔吐出量:0.6g/分
【0088】
(比較例1)
ポリプロピレン(PP)を、押出機で溶融し、紡糸温度が230℃で、単成分繊維に成形して、孔径φが0.30mmの孔を有する矩形口金から、単孔吐出量が0.6g/分で紡出した。
【0089】
紡出した糸条を、冷却固化した後、矩形エジェクターにおいてエジェクターでの圧力を0.10MPaとした圧縮エアによって、牽引及び延伸し、移動するネット上に捕集して長繊維を得た。続いて、得られた長繊維を上ロール及び下ロールで構成される上下一対の熱エンボスロールで熱接着(線圧:50N/cm、熱接着温度:130℃)し、目付20g/mのスパンボンド不織布を得た。
【0090】
このとき、上ロールには、金属製で水玉柄の彫刻が0.5mmの深さでなされた、接着面積率16%のエンボスロールを用いた。また、下ロールには、金属製フラットロールを用いた。
【0091】
(比較例2)
ポリマーAとして、共重合PPを、ポリマーBとしてPPを、それぞれ押出機で溶融し、紡糸温度が230℃で、サイドバイサイド型複合繊維(質量比率は1:1)に成形して、孔径φが0.30mmの孔を有する矩形口金から、単孔吐出量が0.6g/分で紡出した以外は比較例1と同様にしてスパンボンド不織布を得た。
【0092】
(比較例3)
ポリマーAとして、PEを用いた以外は比較例2と同様にしてスパンボンド不織布を得た。
【0093】
(比較例4)
得られた長繊維を150℃の熱風で加熱して熱接着した以外は比較例1と同様にしてスパンボンド不織布を得た。
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示すとおり、実施例1~3のスパンボンド不織布は、官能評価の結果が4.0~5.0であり、ソフト感に優れる結果であった。よって、実施例1~3のスパンボンド不織布は、衛生材料として使用するのに満足のいくレベルの高い嵩高性を有することが分かった。
【0096】
また、実施例1~3のスパンボンド不織布は、エアスルー不織布に比べて生産性に優れる。さらに、実施例1~3のスパンボンド不織布は、融着していてレベルの高い嵩高性を有するので、形態安定性に優れる。
【0097】
一方、比較例1~4は、官能評価の結果が2.0以下と、ソフト感に劣ることを示す結果だった。
【0098】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2019年7月16日出願の日本特許出願(特願2019-130840)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0099】
A ポリマー
B ポリマー
図1