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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】車体のルーフ構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/06 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
B62D25/06 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021007765
(22)【出願日】2021-01-21
(65)【公開番号】P2022112107
(43)【公開日】2022-08-02
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大井 宏一郎
(72)【発明者】
【氏名】福西 崇
【審査官】大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-139379(JP,U)
【文献】実開昭62-020969(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2007/0228777(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体のルーフパネルと、
前記ルーフパネルに対し車幅方向に向かって伸長し、且つ前記車体の車長方向に間隔をけて配置され、前記ルーフパネルを前記車体の内部側から補強する複数のルーフメンバーと、
前記ルーフパネルおよび各前記ルーフメンバーを接合する接着剤と、
各前記ルーフメンバーのうちの前記車長方向に隣り合う一対の前記ルーフメンバー間に架設され、前記一対のルーフメンバーのそれぞれに結合することにより、当該ルーフメンバー同士を連結する補強パネルと、を備え、
前記補強パネルは、
長手方向を前記車長方向に向けて伸長して配置し、且つ前記車体の内部側から前記ルーフパネルに向けて湾曲した形状をなし、
前記補強パネルと前記一対のルーフメンバーのそれぞれとの結合部と、前記ルーフパネルと、の間に、前記接着剤を保持するとともに、前記ルーフパネルに対して緩衝材を介して組み付けられる、車体のルーフ構造。
【請求項2】
前記ルーフパネルは、
前記車体の内部側から外部側へ向けて湾曲した形状をなし、
前記ルーフパネルの前記湾曲した曲率半径より、前記補強パネルの前記湾曲した曲率半径の方が小さい、請求項1に記載の車体のルーフ構造。
【請求項3】
前記補強パネルは、
前記長手方向に向かって伸長して形成され、前記緩衝材を配置する窪み部を有する、請求項1または2に記載の車体のルーフ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体のルーフ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体のルーフパネルは、外郭を構成し、軽量化およびデザイン的な観点から、形状付与が容易な薄板で構成される。その際、薄板化による剛性低下を補うために、ルーフパネルに車長方向に伸長する複数条のビードや段差が設けられる場合がある。この構成は、ルーフパネルの車長方向における断面性能に有効である反面、車幅方向にはビードや段差が蛇腹のように機能することでパネルの固有振動数が下がるため、低周波帯域における共振が生じ易くなり、べかつきやパネル面の振動等が発生するという点が懸念される。
【0003】
そのため、一般的に車体では、ルーフパネルが配置される車体の左右のルーフサイドレール間に、補強部材であるルーフメンバーを複数架設し、これらのルーフメンバーによってルーフパネルを下方から支持することで、前述した振動を抑制していた。ルーフパネルとルーフメンバーとは、ダストシーラーやマスチックシーラーと呼ばれる熱硬化型の弾性接着剤を用いて接着されることで剛性を確保している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5079042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、マスチックシーラーは、塗装工程での焼き付け乾燥で硬化して接着力を発揮するものである。そのため、塗装工程で硬化する前の搬送中における振動、塗装工程での洗浄、または、塗装槽内での水流等の影響を受けることにより、ルーフパネルが上下に動かされ、マスチックシーラーが押し潰されて脱落し、ルーフパネルとルーフメンバーとの接着がはがれてしまう場合がある。そのため、車体のルーフ構造としては、ルーフパネルとルーフメンバーとを接着するマスチックシーラーが押し潰されて脱落することのない更なる形状の改良が求められている。
【0006】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、ルーフパネルとルーフメンバーとの間に配置された接着剤の脱落を防止し、ルーフパネルとルーフメンバーとの接合の信頼性を確保することで、剛性の低下を抑制可能な車体のルーフ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車体のルーフ構造は、車体のルーフパネルと、前記ルーフパネルに対し車幅方向に向かって伸長し、且つ前記車体の車長方向に間隔をけて配置され、前記ルーフパネルを前記車体の内部側から補強する複数のルーフメンバーと、前記ルーフパネルおよび各前記ルーフメンバーを接合する接着剤と、各前記ルーフメンバーのうちの前記車長方向に隣り合う一対の前記ルーフメンバー間に架設され、前記一対のルーフメンバーのそれぞれに結合することにより、当該ルーフメンバー同士を連結する補強パネルと、を備え、前記補強パネルは、長手方向を前記車長方向に向けて伸長して配置し、且つ前記車体の内部側から前記ルーフパネルに向けて湾曲した形状をなし、前記補強パネルと前記一対のルーフメンバーのそれぞれとの結合部と、前記ルーフパネルと、の間に、前記接着剤を保持するとともに、前記ルーフパネルに対して緩衝材を介して組み付けられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ルーフパネルおよびルーフメンバー間に配置された接着剤の脱落を防止し、ルーフパネルおよびルーフメンバーの接合の信頼性を確保することで、剛性の低下を抑制可能な車体のルーフ構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係るルーフ構造の実施形態が適用された車体を概略的に示す斜視図。
図2図1のA-A視野における車体のルーフ構造を示す断面図。
図3】実施形態の車体のルーフ構造における補強パネルを示す平面図。
図4】実施形態の車体のルーフ構造における補強パネルを示す側面図。
図5】実施形態の車体のルーフ構造における補強パネルを示す斜視図。
図6】実施形態の車体のルーフ構造における補強パネルの窪み部の拡大図。
図7】(a)他の実施形態における車体のルーフ構造を示す断面図、(b)(a)の要部を示す拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明に係るルーフ構造の実施形態が適用された車体を概略的に示す斜視図である。図2は、図1のA-A視野における車体のルーフ構造を示す断面図である。図3は、実施形態の車体のルーフ構造における補強パネルを示す平面図である。図4は、実施形態の車体のルーフ構造における補強パネルを示す側面図である。図5は、実施形態の車体のルーフ構造における補強パネルを示す斜視図である。図6は、実施形態の車体のルーフ構造における補強パネルの窪み部の拡大図である。なお、図面においては、車体の前後方向を車長方向X、車体の左右方向を車幅方向Y、および、車体の上下方向を車高方向Zとして示す。また、以下の説明において、車体は乗用車の車体を図示して説明するが、本発明に係る車体のルーフ構造は、これに限ることはない。
【0012】
図1図3に示すように、本実施形態の場合、車体1は、天部を構成するルーフ部2を有している。ルーフ部2は、アウターパネルとしてのルーフパネル3と、インナーパネルとしてのルーフメンバー4とを含む車体パネルによって構成される。
【0013】
ルーフパネル3とルーフメンバー4とは、マスチックシーラーと呼ばれる熱硬化型の弾性接着剤5を用いて接合される。
【0014】
車体1の天部外郭を構築するルーフパネル3には、薄板化による剛性低下を補うために、車長方向Xに伸長する複数条のビードと呼ばれる段差(不図示)が設けられている。なお、ビードは、十分な剛性の確保や、デザイン的な観点から設けられない場合もある。
【0015】
また、ルーフ部2は、ルーフパネル3が配置される車体1の車幅方向Yにおける左右のルーフサイドレール(図示省略)間に、複数のルーフメンバー4が架設されている。複数のルーフメンバー4は、車長方向Xに間隔をあけて配置されている。複数のルーフメンバー4は、ルーフパネル3を下方(車体1の内部側)から支持する補強部材である。
【0016】
ルーフメンバー4は、図2に示すように、長手方向である車幅方向Yに向かって伸長して配置される断面凹形状の溝部41を有している。また、ルーフメンバー4は、幅方向(車長方向X)における両側部に複数の弾性接着剤5が、車幅方向Yに向かって間隔をあけて配置されている。
【0017】
各ルーフメンバー4のうちの車長方向Xに隣り合うルーフメンバー4、4間には、これらルーフメンバー4、4同士を連結する補強パネル6が架設されている。補強パネル6は、長手方向を車長方向Xに向けて伸長して配置され、且つ車体1の内部側からルーフパネル3に向けて湾曲した形状をなし、ルーフパネル3に対して緩衝材7を介して組み付けられる。なお、緩衝材7としては、前述した弾性接着剤5を用いても良い。
【0018】
図3図5に示すように、補強パネル6は、車体1の内部側から外部側へ向けて湾曲した形状をなす。なお、ルーフパネル3は湾曲して形成されていてもよい。この場合、ルーフパネル3の湾曲した曲率半径より、補強パネル6の湾曲した曲率半径の方が小さいことが好ましい。
【0019】
補強パネル6は、長手方向(車長方向X)に向かって伸長して形成され、緩衝材7を配置する窪み部61を有する。本実施形態の場合、補強パネル6は、長手方向(車長方向X)に沿った凹条の窪み部61が、短手方向(車幅方向Y)に平行して3つ形成されている。これにより、ルーフパネル3に外部から加わる外力W1を緩衝材7によって受け止め、緩衝材7が押し潰されることによる変形によって、長手方向(車長方向X)に応力W2を分散させる。そして、補強パネル6の長手方向両端部がルーフパネル3側に押し付けられることで弾性接着剤5の脱落を抑制できる効果を得られる。
【0020】
ここで、補強パネル6の湾曲した頂部の窪み部61には緩衝材7が配置され、ルーフパネル3に組み付けられる。このとき、図6に示すように、緩衝材7には、凹条の窪み部61における底面61a側と両側部61b側とにそれぞれ圧力が加わると共に、常温硬化により車体1の車長方向Xへの動きも抑制される。
【0021】
なお、補強パネル6の形状としては、これに限ることはない。
【0022】
図7(a)は、他の実施形態における車体のルーフ構造を示す断面図であり、(b)は、(a)の要部を示す拡大図である。
【0023】
例えば、図7に示すように、補強パネル6は、長手方向(車長方向X)の端部に、ルーフメンバー4に対して着脱自在なフック部62を有していてもよい。このように、アーチ状の補強パネル6にフック部62を備えることで、ルーフメンバー4に対する組み付け、および、取り外しを容易に行うことが可能となる。
【0024】
以上のように構成されたことから、本実施形態の車体1のルーフ構造によれば、次の効果(1)~(9)を奏する。
(1)車体1の内部からルーフパネル3側に向けてアーチ状に湾曲した補強パネル6により、ルーフ部2の剛性を向上できる。アーチ状の補強パネル6のルーフパネル3との接触箇所(緩衝材7の部分)に入力される下方向の圧力を湾曲した補強パネル6により水平方向に分散させることができる。これにより、ルーフ部2の上下運動を抑制可能となり、弾性接着剤5(マスチックシーラー)が押し潰されて脱落するのを抑制できる。
【0025】
したがって、車体の製造工程中の塗装工程で硬化する前の搬送中における振動、塗装工程での洗浄、または、塗装槽内での水流等の影響を受けることにより、ルーフパネル3とルーフメンバー4との間の弾性接着剤5(マスチックシーラー)が押し潰されて脱落するのを防止し、ルーフパネル3とルーフメンバー4との接合がはがれることを未然に回避できる。よって、ルーフパネル3とルーフメンバー4との間の接合の信頼性を確保することで、ルーフ部2における剛性の低下を抑制できる。
【0026】
(2)また、ルーフメンバー4、4間の距離が離れている場合に補強パネル6の湾曲を小さくするとアーチ状の補強パネル6の長手方向両端部におけるルーフパネル3までの距離が長くなってしまい、車室の天井高が低くなってしまう。これに対し、ルーフパネル3が平坦であったり、軽量化で薄くなったりする場合には、特に剛性を上げるためルーフメンバー4の数が多くなる。このような場合、ルーフ部2では、車長方向Xに隣接するルーフメンバー4、4間の距離も短くなることからアーチ状の補強パネル6の湾曲をより小さくできる。そのため、ルーフ部2における上下方向Zの振動の抑制効果をさらに向上できる。
【0027】
(3)ルーフパネル3の上下方向Zの振動が最も顕著なのはルーフパネル3の真ん中、且つルーフメンバー4、4間であるため、この部位を効果的に抑えることにより、アーチ状の補強パネル6をよりコンパクト化しながら、上下方向Zの振動を効果的に抑制することができる。実際には、水圧によりルーフパネル3の変位が最も大きくなる部分にアーチ状の補強パネル6の中央が組み付けられるようにすることが好ましい。
【0028】
(4)緩衝材7としての弾性接着剤5(マスチックシーラー)には、凹条の窪み部61における底面61a側と両側部61b側とにそれぞれ圧力が加わると共に、この位置で常温硬化するため、窪み部61に配置された緩衝材7としての弾性接着剤5(マスチックシーラー)が車長方向Xおよび車幅方向Yへ移動するのを抑制できる。よって、ルーフパネル3と補強パネル6とを安定して組み付けることができる。
【0029】
(5)また、窪み部61により緩衝材7としての弾性接着剤5(マスチックシーラー)が底面61aと、両側部61bとで固定できるため、結果的にルーフパネル3の上下方向Zの振動の入力により、外力W1が加えられて水平方向に応力W2を分散しても、弾性接着剤5の両サイドとクロスする車長方向Xでも弾性接着剤5の動きを抑制でき、シーラー切れの抑制を可能とする。
【0030】
(6)加えて、窪み部61以外に緩衝材7としての弾性接着剤5を塗布し、ルーフパネル3の自重で圧着すると、組み付け時に弾性接着剤5を潰しきれず圧着できない恐れがある。しかしながら、複数個所で弾性接着剤5が塗布されていることから、弾性接着剤5間の曲げモーメントが弾性接着剤5間の中央付近で最も大きくなるため、弾性接着剤5の動きを抑制できる傾向となり、ルーフパネル3全体としてもたわみを抑制できる。
【0031】
(7)ルーフパネル3の湾曲した曲率半径により、下方向に加わる外力W1を水平方向の応力W2として分散させることができる。さらに、補強パネル6の湾曲した曲率半径により、下方向に加わる外力W1を水平方向の応力W2として分散させることができる。このように、ルーフメンバー4、4間にアーチ状の補強パネル6を組み付けるため、アーチ状の補強パネル6をコンパクト化しつつ、ルーフパネル3の曲率半径よりアーチ状の補強パネル6の曲率半径の方が小さいため、アーチ状の補強パネル6をコンパクト化してもルーフパネル3との接触部分の剛性を効率よく向上することができる。
【0032】
(8)ルーフパネル3とルーフメンバー4との接合に加えて補強パネル6を設けるため、ルーフ部2全体の強度や剛性の低下を抑制できる。
【0033】
(9)ルーフパネル3に補強パネル6を配置するための余分な座面を設ける必要がないため、ルーフ部2の重量や製造コストの増加を回避できる。
【0034】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0035】
1…車体、2…ルーフ部、3…ルーフパネル、4…ルーフメンバー、41…溝部、5…弾性接着剤、6…補強パネル、61…窪み部、61a…底面、61b…両側部、62…フック部、7…緩衝材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7