(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】品質予測システム、モデル生成装置、品質予測方法、及び品質予測プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20241008BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20241008BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G06Q50/04
(21)【出願番号】P 2021009843
(22)【出願日】2021-01-25
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】太田 雄也
(72)【発明者】
【氏名】服部 玲子
(72)【発明者】
【氏名】宮本 真実
(72)【発明者】
【氏名】藤井 徹
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-286880(JP,A)
【文献】特開2020-086784(JP,A)
【文献】国際公開第2020/194534(WO,A1)
【文献】特開2012-220978(JP,A)
【文献】特開2013-143009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
G06Q 50/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1製造設備において収集された、第1製造設備の各調整項目及び第1製造設備により製造される第1製品の品質指標の間の関係を示す第1学習データを取得するように構成される第1データ取得部と、
第2製造設備において収集された、第2製造設備の各調整項目及び第2製造設備により製造される第2製品の品質指標の間の関係を示す第2学習データを取得するように構成される第2データ取得部と、
転移学習を実施するために、取得された前記第1学習データを前記第2学習データに適合するように変換するように構成されるデータ転移部と、
変換された前記第1学習データ及び前記第2学習データを使用して、前記第2製造設備の前記各調整項目から前記第2製品の品質指標を予測するための品質予測モデルの機械学習を実施するように構成される機械学習部と、
訓練済みの前記品質予測モデルを使用して、前記第2製品の予測される品質指標が品質基準を満たすように前記第2製造設備の前記各調整項目の調整量を特定するように構成される特定部と、
特定された前記第2製造設備の前記各調整項目の調整量を出力するように構成される出力部と、
を備
え、
取得された前記第1学習データ及び前記第2学習データに含まれる各サンプルを統計的に解析することで、前記各調整項目のうち前記品質指標の予測に貢献しない調整項目が存在するか否かを確認するように構成される確認部を更に備え、
前記各サンプルを統計的に解析することは、
前記第1学習データ及び前記第2学習データに含まれる各サンプルの各調整項目の値を標準化すること、
前記各サンプルの標準化された値から前記各調整項目の分散を算出すること、及び
算出された分散の値が0である調整項目を前記品質指標の予測に貢献しない調整項目として認定すること、
により構成される、
品質予測システム。
【請求項2】
前記第2データ取得部は、前記確認部により前記品質指標の予測に貢献しない調整項目が存在すると判定された場合に、前記品質指標の予測に貢献しない調整項目について複数の条件で前記第2製造設備による前記第2製品の製造を実験することで収集された追加の第2学習データを取得するように更に構成され、
前記機械学習部は、取得された前記追加の第2学習データを更に使用して、前記品質予測モデルの機械学習を実施するように構成される、
請求項
1に記載の品質予測システム。
【請求項3】
前記データ転移部は、Frustratingly Easy Domain Adaptation法又はCorrelation Alignment法により、取得された前記第1学習データを前記第2学習データに適合するように変換するように構成される、
請求項
1または2に記載の品質予測システム。
【請求項4】
前記第2データ取得部は、前記特定部により特定された調整量に前記各調整項目の調整量が設定された前記第2製造設備により製造された前記第2製品の品質指標が前記品質基準を満たさない場合に、前記第2製造設備において更に収集された追加の第2学習データを取得するように更に構成され、
前記機械学習部は、取得された前記追加の第2学習データを更に使用して、前記品質予測モデルの機械学習を再度実施するように更に構成され、
前記特定部は、再訓練済みの前記品質予測モデルを使用して、前記第2製品の予測される品質指標が品質基準を満たすように前記第2製造設備の前記各調整項目の調整量を特定するように更に構成される、
請求項1から
3のいずれか1項に記載の品質予測システム。
【請求項5】
所定の評価基準に従って、前記第1学習データ及び前記第2学習データに対して前記品質予測モデルの予測精度の向上に貢献するサンプルを得る、前記第2製造設備における各調整項目の条件を特定し、かつ特定された前記条件を提示するように構成された候補提示部を更に備える、
請求項
4に記載の品質予測システム。
【請求項6】
前記第1製造設備は、他の製造ラインの基礎となる基礎製造ラインであり、
前記第2製造設備は、前記基礎製造ラインを複製することで構成された複製製造ラインである、
請求項1から
5のいずれか1項に記載の品質予測システム。
【請求項7】
前記第1製造設備は、状態変化する前の製造ラインであり、
前記第2製造設備は、前記状態変化した後の製造ラインである、
請求項1から
5のいずれか1項に記載の品質予測システム。
【請求項8】
前記品質予測モデルは、ニューラルネットワーク、サポートベクタマシン、又は回帰モデルにより構成される、
請求項1から
7のいずれか1項に記載の品質予測システム。
【請求項9】
第1製造設備において収集された、第1製造設備の各調整項目及び第1製造設備により製造される第1製品の品質指標の間の関係を示す第1学習データを取得するように構成される第1データ取得部と、
第2製造設備において収集された、第2製造設備の各調整項目及び第2製造設備により製造される第2製品の品質指標の間の関係を示す第2学習データを取得するように構成される第2データ取得部と、
転移学習を実施するために、取得された前記第1学習データを前記第2学習データに適合するように変換するように構成されるデータ転移部と、
変換された前記第1学習データ及び前記第2学習データを使用して、前記第2製造設備の前記各調整項目から前記第2製品の品質指標を予測するための品質予測モデルの機械学習を実施するように構成される機械学習部と、
を備
え、
取得された前記第1学習データ及び前記第2学習データに含まれる各サンプルを統計的に解析することで、前記各調整項目のうち前記品質指標の予測に貢献しない調整項目が存在するか否かを確認するように構成される確認部を更に備え、
前記各サンプルを統計的に解析することは、
前記第1学習データ及び前記第2学習データに含まれる各サンプルの各調整項目の値を標準化すること、
前記各サンプルの標準化された値から前記各調整項目の分散を算出すること、及び
算出された分散の値が0である調整項目を前記品質指標の予測に貢献しない調整項目として認定すること、
により構成される、
モデル生成装置。
【請求項10】
コンピュータが、
第1製造設備において収集された、第1製造設備の各調整項目及び第1製造設備により製造される第1製品の品質指標の間の関係を示す第1学習データを取得するステップと、
第2製造設備において収集された、第2製造設備の各調整項目及び第2製造設備により製造される第2製品の品質指標の間の関係を示す第2学習データを取得するステップと、
転移学習を実施するために、取得された前記第1学習データを前記第2学習データに適合するように変換するステップと、
変換された前記第1学習データ及び前記第2学習データを使用して、前記第2製造設備の前記各調整項目から前記第2製品の品質指標を予測するための品質予測モデルの機械学習を実施するステップと、
訓練済みの前記品質予測モデルを使用して、前記第2製品の予測される品質指標が品質基準を満たすように前記第2製造設備の前記各調整項目の調整量を特定するステップと、
特定された前記第2製造設備の前記各調整項目の調整量を出力するステップと、
を実行
し、
取得された前記第1学習データ及び前記第2学習データに含まれる各サンプルを統計的に解析することで、前記各調整項目のうち前記品質指標の予測に貢献しない調整項目が存在するか否かを確認するステップを更に実行し、
前記各サンプルを統計的に解析することは、
前記第1学習データ及び前記第2学習データに含まれる各サンプルの各調整項目の値を標準化すること、
前記各サンプルの標準化された値から前記各調整項目の分散を算出すること、及び
算出された分散の値が0である調整項目を前記品質指標の予測に貢献しない調整項目として認定すること、
により構成される、
品質予測方法。
【請求項11】
コンピュータに、
第1製造設備において収集された、第1製造設備の各調整項目及び第1製造設備により製造される第1製品の品質指標の間の関係を示す第1学習データを取得するステップと、
第2製造設備において収集された、第2製造設備の各調整項目及び第2製造設備により製造される第2製品の品質指標の間の関係を示す第2学習データを取得するステップと、
転移学習を実施するために、取得された前記第1学習データを前記第2学習データに適合するように変換するステップと、
変換された前記第1学習データ及び前記第2学習データを使用して、前記第2製造設備の前記各調整項目から前記第2製品の品質指標を予測するための品質予測モデルの機械学習を実施するステップと、
訓練済みの前記品質予測モデルを使用して、前記第2製品の予測される品質指標が品質基準を満たすように前記第2製造設備の前記各調整項目の調整量を特定するステップと、
特定された前記第2製造設備の前記各調整項目の調整量を出力するステップと、
を実行さ
せ、
取得された前記第1学習データ及び前記第2学習データに含まれる各サンプルを統計的に解析することで、前記各調整項目のうち前記品質指標の予測に貢献しない調整項目が存在するか否かを確認するステップを更に実行させ、
前記各サンプルを統計的に解析することは、
前記第1学習データ及び前記第2学習データに含まれる各サンプルの各調整項目の値を標準化すること、
前記各サンプルの標準化された値から前記各調整項目の分散を算出すること、及び
算出された分散の値が0である調整項目を前記品質指標の予測に貢献しない調整項目として認定すること、
により構成される、
品質予測プログラム。
【請求項12】
第1製造設備において収集された、第1製造設備の各調整項目及び第1製造設備により製造される第1製品の品質指標の間の関係を示す第1学習データを取得するように構成される第1データ取得部と、
第2製造設備において収集された、第2製造設備の各調整項目及び第2製造設備により製造される第2製品の品質指標の間の関係を示す第2学習データを取得するように構成される第2データ取得部と、
取得された前記第1学習データ及び前記第2学習データを使用して、前記第2製造設備の前記各調整項目から前記第2製品の品質指標を予測するための品質予測モデルの機械学習を実施するように構成される機械学習部と、
訓練済みの前記品質予測モデルを使用して、前記第2製品の予測される品質指標が品質基準を満たすように前記第2製造設備の前記各調整項目の調整量を特定するように構成される特定部と、
特定された前記第2製造設備の前記各調整項目の調整量を出力するように構成される出力部と、
を備える品質予測システムであって、
前記品質予測モデルは、カーネル関数を含み、
前記機械学習は、前記第2学習データに対するカーネル関数に重み付けすることで、前記第1学習データに対するカーネル関数を構成すること、及び統計的な基準に基づいて、前記品質予測モデルの各パラメータの値を調整すること、を含
み、
前記品質予測システムは、
取得された前記第1学習データ及び前記第2学習データに含まれる各サンプルを統計的に解析することで、前記各調整項目のうち前記品質指標の予測に貢献しない調整項目が存在するか否かを確認するように構成される確認部を更に備え、
前記各サンプルを統計的に解析することは、
前記第1学習データ及び前記第2学習データに含まれる各サンプルの各調整項目の値を標準化すること、
前記各サンプルの標準化された値から前記各調整項目の分散を算出すること、及び
算出された分散の値が0である調整項目を前記品質指標の予測に貢献しない調整項目として認定すること、
により構成される、
品質予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、品質予測システム、モデル生成装置、品質予測方法、及び品質予測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
製造現場では、製造ライン等の製造設備により製造される製品の品質を調整するために、各調整項目の調整量を変動させながら製品の製造を試行する実験を行い、実験により得られたデータ(学習データ)を使用して、各調整項目と品質指標との関係をモデル化する場合がある。この場合、得られたモデルを使用することで、品質基準を満たす品質指標の製品を製造するための各調整項目の調整量を特定することができる。
【0003】
このとき、品質指標への影響の大きい調整項目に限定することで、モデル化に使用するデータを得るための実験の工数を削減することがある。例えば、特許文献1では、効率的に設計パラメータを決定する方法が提案されている。具体的には、特許文献1で提案されるシステムは、製品機能及び設計パラメータ間の相互作用の構造化を行い、相互作用の少ない設計パラメータグループを抽出し、抽出された設計パラメータグループに基づいた実験計画を作成する。そして、提案されるシステムは、作成された計画に従って行われた実験の結果から製品機能及び設計パラメータ間の品質影響度のモデル化を行い、得られたモデルを使用して、設計パラメータを適正化する。この方法によれば、モデルを得るための実験工数を削減することができるため、製造設備の各調整項目の調整量を特定するためにかかるコスト(時間、作業量及び費用)を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本件発明者らは、特許文献1等で提案される従来の方法には次のような問題点があることを見出した。すなわち、従来の方法では、条件を変動させる調整項目を限定するため、生成されるモデルの推定精度が低くなってしまう可能性がある。これに起因して、精度の低いモデルを使用して、調整項目の調整量を決定することで、所望の基準を満たす製品を製造できない等の不具合が生じる可能性がある。
【0006】
例えば、基礎製造ラインを複製して、新たな製造ラインを構築する場合がある。また、例えば、製造する製品の変更、使用する機械の取り換え、製造仕様の修正、製造条件の変更等により、構築済みの既存の製造ラインに対して何らかの意図的な変更により状態変化を加える場合がある。更に、製造設備の状態変化は、意図的な変更に限られず、環境変化(例えば、季節変動等)、構成装置の経年劣化等の意図しない要因により生じる場合もある。これらの場合に、実験回数を制限して実験工数を減らし、コストを抑える要望が特に強いが、それにより実験工数を減らし、精度の低いモデルを生成してしまうと、複製された製造ライン、変更後の製造ライン等で不具合が生じる可能性が高くなってしまう。
【0007】
本発明は、一側面では、このような事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、モデルの生成にかかるコストの低減を図ると共に、生成されるモデルの推定精度が低下するのを抑制する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0009】
すなわち、本発明の一側面に係る品質予測システムは、第1製造設備において収集された、第1製造設備の各調整項目及び第1製造設備により製造される第1製品の品質指標の間の関係を示す第1学習データを取得するように構成される第1データ取得部と、第2製造設備において収集された、第2製造設備の各調整項目及び第2製造設備により製造される第2製品の品質指標の間の関係を示す第2学習データを取得するように構成される第2データ取得部と、転移学習を実施するために、取得された前記第1学習データを前記第2学習データに適合するように変換するように構成されるデータ転移部と、変換された前記第1学習データ及び前記第2学習データを使用して、前記第2製造設備の前記各調整項目から前記第2製品の品質指標を予測するための品質予測モデルの機械学習を実施するように構成される機械学習部と、訓練済みの前記品質予測モデルを使用して、前記第2製品の予測される品質指標が品質基準を満たすように前記第2製造設備の前記各調整項目の調整量を特定するように構成される特定部と、特定された前記第2製造設備の前記各調整項目の調整量を出力するように構成される出力部と、を備える。
【0010】
当該構成では、第1製造設備で得られた第1学習データ(転移元)を第2製造設備で得られる第2学習データ(転移先)に適合するように変換することで、品質予測モデルの生成に使用する学習データのサンプル数を増やすことができる。そのため、第2学習データとして得るサンプルの数を抑える、すなわち、第2学習データを得るために第2製造設備で行う実験の工数を減らしても、第1学習データを転移した分だけ、品質予測モデルの生成に十分なサンプル数の学習データを確保することができる。これにより、生成される品質予測モデルの推定精度の向上(推定精度の低下の抑制)を期待することができる。したがって、当該構成によれば、品質予測モデルの生成にかかるコストの低減を図ると共に、生成される品質予測モデルの推定精度が低下するのを抑制することができる。また、生成された品質予測モデルを使用することで、第2製造設備の調整項目の調整量を適切に決定することができる。
【0011】
上記一側面に係る品質予測システムは、取得された前記第1学習データ及び前記第2学習データに含まれる各サンプルを統計的に解析することで、前記各調整項目のうち前記品質指標の予測に貢献しない調整項目が存在するか否かを確認するように構成される確認部を更に備えてもよい。第1学習データを転移しても、推定精度の良い品質予測モデルを得るために、学習データが不足している可能性がある。例えば、第1学習データ及び第2学習データ共に、特定の調整項目について調整量を変動させた(すなわち、条件の異なる)サンプル数が少ない場合に、当該特定の調整項目に関して品質予測モデルの推定精度が悪くなってしまう可能性がある。当該構成によれば、そのような品質予測モデルの推定精度の低下が生じるか否かを事前に確認し、精度の低い品質予測モデルを使用することによる不具合の発生を防止することができる。
【0012】
上記一側面に係る品質予測システムにおいて、前記第2データ取得部は、前記確認部により前記品質指標の予測に貢献しない調整項目が存在すると判定された場合に、前記品質指標の予測に貢献しない調整項目について複数の条件で前記第2製造設備による前記第2製品の製造を実験することで収集された追加の第2学習データを取得するように更に構成されてよく、前記機械学習部は、取得された前記追加の第2学習データを更に使用して、前記品質予測モデルの機械学習を実施するように構成されてよい。当該構成によれば、上記のように品質予測モデルの推定精度の低下が予測される場合に、追加の第2学習データを得て、得た追加の第2学習データを機械学習に使用することで、生成される品質予測モデルの推定精度の向上(推定精度の低下の抑制)を期待することができる。
【0013】
上記一側面に係る品質予測システムにおいて、前記各サンプルを統計的に解析することは、前記第1学習データ及び前記第2学習データに含まれる各サンプルの各調整項目の値を標準化すること、前記各サンプルの標準化された値から前記各調整項目の分散を算出すること、及び算出された分散の値が0である調整項目を前記品質指標の予測に貢献しない調整項目として認定すること、により構成されてよい。当該構成によれば、品質指標の予測に貢献しない調整項目を適切に特定することができ、これにより、品質予測モデルの精度向上に役立つ追加の第2学習データを適切に収集することができる。
【0014】
上記一側面に係る品質予測システムにおいて、前記各サンプルを統計的に解析することは、前記第1学習データ及び前記第2学習データに含まれる各サンプルを主成分分析すること、及び主成分分析により得られた各主成分のうち寄与率が閾値より低い主成分に対応する調整項目を前記品質指標の予測に貢献しない調整項目として認定すること、により構成されてよい。当該構成によれば、品質指標の予測に貢献しない調整項目を適切に特定することができ、これにより、品質予測モデルの精度向上に役立つ追加の第2学習データを適切に収集することができる。
【0015】
上記一側面に係る品質予測システムにおいて、前記データ転移部は、Frustratingly Easy Domain Adaptation法又はCorrelation Alignment法により、取得された前記第1学習データを前記第2学習データに適合するように変換するように構成されてよい。当該構成によれば、第1学習データの転移を簡易な方法で実現することができ、これにより、品質予測システムの構築にかかるコストを低減することができる。
【0016】
上記一側面に係る品質予測システムにおいて、前記第2データ取得部は、前記特定部により特定された調整量に前記各調整項目の調整量が設定された前記第2製造設備により製造された前記第2製品の品質指標が前記品質基準を満たさない場合に、前記第2製造設備において更に収集された追加の第2学習データを取得するように更に構成されてよく、前記機械学習部は、取得された前記追加の第2学習データを更に使用して、前記品質予測モデルの機械学習を再度実施するように更に構成されてよく、前記特定部は、再訓練済みの前記品質予測モデルを使用して、前記第2製品の予測される品質指標が品質基準を満たすように前記第2製造設備の前記各調整項目の調整量を特定するように更に構成されてよい。
【0017】
品質予測モデルの精度が、ある程度の基準を満たしているが、品質基準を満たすための各調整項目の真の調整量を適切に特定するには不足している可能性がある。このような場合、第2製造設備の各調整項目の調整量を、訓練済みの品質予測モデルを使用して特定された最適な調整量に設定しても、品質基準を満たす第2製品を製造できない可能性がある。当該構成によれば、このようなケースに、追加の第2学習データを取得し、品質予測モデルの精度の向上を図ることで、品質基準を満たすための各調整項目の真の最適な調整量を特定できる可能性を高めることができる。
【0018】
上記一側面に係る品質予測システムは、所定の評価基準に従って、前記第1学習データ及び前記第2学習データに対して前記品質予測モデルの予測精度の向上に貢献するサンプルを得る、前記第2製造設備における各調整項目の条件を特定し、かつ特定された前記条件を提示するように構成された候補提示部を更に備えてよい。当該構成によれば、上記品質予測モデルの精度の向上を図る際に、追加の第2学習データを収集する作業の効率化し、これにより、品質予測モデルの生成にかかるコストの低減を図ることができる。
【0019】
上記一側面に係る品質予測システムにおいて、前記第1製造設備は、他の製造ラインの基礎となる基礎製造ラインであってよく、前記第2製造設備は、前記基礎製造ラインを複製することで構成された複製製造ラインであってよい。当該構成によれば、基礎製造ラインを複製して、新たな製造ラインを構築する場面で、品質予測モデルの生成にかかるコストの低減を図ると共に、生成される品質予測モデルの推定精度が低下するのを抑制することができる。また、生成された品質予測モデルを使用することで、複製製造ラインの調整項目の調整量を適切に決定することができる。
【0020】
上記一側面に係る品質予測システムにおいて、前記第1製造設備は、状態変化する前の製造ラインであってよく、前記第2製造設備は、前記状態変化した後の製造ラインであってよい。当該構成によれば、既存の製造ラインに対して何らかの意図的な変更を行う場面及び意図しない要因で状態変化が生じた場面で、品質予測モデルの生成にかかるコストの低減を図ると共に、生成される品質予測モデルの推定精度が低下するのを抑制することができる。また、生成された品質予測モデルを使用することで、状態変化後の製造ラインの調整項目の調整量を適切に決定することができる。
【0021】
上記一側面に係る品質予測システムにおいて、前記品質予測モデルは、ニューラルネットワーク、サポートベクタマシン、又は回帰モデルにより構成されてよい。当該構成によれば、品質予測モデルを簡単に用意することができ、これにより、品質予測システムの構築にかかるコストを低減することができる。
【0022】
上記各形態に係る品質予測モデルでは、第1学習データは、第2学習データに適合するように転移されることで、第2学習データと共に機械学習に使用される。しかしながら、転移学習の方法は、このような構成に限られなくてよい。品質予測モデルが、第1学習データ及び第2学習データのドメイン(各データを取得した環境)の差を考慮可能に構成されている場合には、第1学習データの上記変換は、省略されてよい。
【0023】
例えば、本発明の一側面に係る品質予測システムは、第1製造設備において収集された、第1製造設備の各調整項目及び第1製造設備により製造される第1製品の品質指標の間の関係を示す第1学習データを取得するように構成される第1データ取得部と、第2製造設備において収集された、第2製造設備の各調整項目及び第2製造設備により製造される第2製品の品質指標の間の関係を示す第2学習データを取得するように構成される第2データ取得部と、取得された前記第1学習データ及び前記第2学習データを使用して、前記第2製造設備の前記各調整項目から前記第2製品の品質指標を予測するための品質予測モデルの機械学習を実施するように構成される機械学習部と、訓練済みの前記品質予測モデルを使用して、前記第2製品の予測される品質指標が品質基準を満たすように前記第2製造設備の前記各調整項目の調整量を特定するように構成される特定部と、特定された前記第2製造設備の前記各調整項目の調整量を出力するように構成される出力部と、を備える。前記品質予測モデルは、カーネル関数を含み、前記機械学習は、前記第2学習データに対するカーネル関数に重み付けすることで、前記第1学習データに対するカーネル関数を構成すること、及び統計的な基準に基づいて、前記品質予測モデルの各パラメータの値を調整すること、を含む。カーネル関数は、非線形写像を行うために使用される。機械学習において、カーネル関数の重み付けは、第1学習データ及び第2学習データのドメインの差が考慮されるように適宜設定されてよい。
【0024】
本発明の形態は、上記品質予測システムに限られなくてもよい。本発明の一側面に係る装置は、上記各形態に係る品質予測システムから、例えば、品質予測モデルの機械学習を実施する部分、訓練済みの品質予測モデルを使用して第2製造設備における各調整項目の調整量を特定する部分等の一部分を抽出することにより構成されてよい。品質予測モデルの機械学習を実施する部分に対応する装置は、例えば、学習装置、モデル生成装置等と称されてよい。訓練済みの品質予測モデルを使用する部分に対応する装置は、例えば、推定装置、予測装置、品質予測装置、調整量特定装置等と称されてよい。
【0025】
一例として、本発明の一側面に係るモデル生成装置は、第1製造設備において収集された、第1製造設備の各調整項目及び第1製造設備により製造される第1製品の品質指標の間の関係を示す第1学習データを取得するように構成される第1データ取得部と、第2製造設備において収集された、第2製造設備の各調整項目及び第2製造設備により製造される第2製品の品質指標の間の関係を示す第2学習データを取得するように構成される第2データ取得部と、転移学習を実施するために、取得された前記第1学習データを前記第2学習データに適合するように変換するように構成されるデータ転移部と、変換された前記第1学習データ及び前記第2学習データを使用して、前記第2製造設備の前記各調整項目から前記第2製品の品質指標を予測するための品質予測モデルの機械学習を実施するように構成される機械学習部と、を備える。また、一例として、本発明の一側面に係る品質予測装置は、訓練済みの品質予測モデルを使用して、第2製品の予測される品質指標が品質基準を満たすように第2製造設備の各調整項目の調整量を特定するように構成される特定部と、特定された前記第2製造設備の前記各調整項目の調整量を出力するように構成される出力部と、を備える。
【0026】
なお、上記各形態に係る品質予測システム及び装置の別の態様として、本発明の一側面は、以上の各構成の全部又はその一部を実現する情報処理方法であってもよいし、プログラムであってもよいし、このようなプログラムを記憶した、コンピュータその他装置、機械等が読み取り可能な記憶媒体であってもよい。ここで、コンピュータ等が読み取り可能な記憶媒体とは、プログラム等の情報を、電気的、磁気的、光学的、機械的、又は、化学的作用によって蓄積する媒体である。以上の各構成の全部又はその一部を実現する情報処理方法は、含む演算内容に応じて、例えば、品質予測方法、モデル生成方法、学習方法、調整量特定方法等と称されてよい。同様に、以上の各構成の全部又はその一部を実現するプログラムは、例えば、品質予測プログラム、モデル生成プログラム、学習プログラム、調整量特定プログラム等と称されてよい。
【0027】
例えば、本発明の一側面に係る品質予測方法は、コンピュータが、第1製造設備において収集された、第1製造設備の各調整項目及び第1製造設備により製造される第1製品の品質指標の間の関係を示す第1学習データを取得するステップと、第2製造設備において収集された、第2製造設備の各調整項目及び第2製造設備により製造される第2製品の品質指標の間の関係を示す第2学習データを取得するステップと、転移学習を実施するために、取得された前記第1学習データを前記第2学習データに適合するように変換するステップと、変換された前記第1学習データ及び前記第2学習データを使用して、前記第2製造設備の前記各調整項目から前記第2製品の品質指標を予測するための品質予測モデルの機械学習を実施するステップと、訓練済みの前記品質予測モデルを使用して、前記第2製品の予測される品質指標が品質基準を満たすように前記第2製造設備の前記各調整項目の調整量を特定するステップと、特定された前記第2製造設備の前記各調整項目の調整量を出力するステップと、を実行する、情報処理方法である。
【0028】
また、例えば、本発明の一側面に係る品質予測プログラムは、コンピュータに、第1製造設備において収集された、第1製造設備の各調整項目及び第1製造設備により製造される第1製品の品質指標の間の関係を示す第1学習データを取得するステップと、第2製造設備において収集された、第2製造設備の各調整項目及び第2製造設備により製造される第2製品の品質指標の間の関係を示す第2学習データを取得するステップと、転移学習を実施するために、取得された前記第1学習データを前記第2学習データに適合するように変換するステップと、変換された前記第1学習データ及び前記第2学習データを使用して、前記第2製造設備の前記各調整項目から前記第2製品の品質指標を予測するための品質予測モデルの機械学習を実施するステップと、訓練済みの前記品質予測モデルを使用して、前記第2製品の予測される品質指標が品質基準を満たすように前記第2製造設備の前記各調整項目の調整量を特定するステップと、特定された前記第2製造設備の前記各調整項目の調整量を出力するステップと、を実行させるための、プログラムである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、モデルの生成にかかるコストの低減を図ると共に、生成されるモデルの推定精度が低下するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、本発明が適用される場面の一例を模式的に示す。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る品質予測システムのハードウェア構成の一例を模式的に示す。
【
図3】
図3は、実施の形態に係る品質予測システムのソフトウェア構成の一例を模式的に示す。
【
図4】
図4は、実施の形態に係る学習データの構成の一例を模式的に示す。
【
図5A】
図5Aは、実施の形態に係る品質予測システムの処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5B】
図5Bは、実施の形態に係る品質予測システムの処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6A】
図6Aは、実施の形態に係る解析処理(サブルーチン)の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6B】
図6Bは、実施の形態に係る解析処理(サブルーチン)の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、実施の形態に係る学習データの変換方法の一例を示す。
【
図8】
図8は、実施の形態に係る条件特定処理(サブルーチン)の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、実施の形態に係る条件特定処理において複数の条件候補を得る方法の一例を模式的に示す。
【
図10】
図10は、他の形態に係る品質予測システムの構成の一例を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。なお、本実施形態において登場するデータを自然言語により説明しているが、より具体的には、コンピュータが認識可能な疑似言語、コマンド、パラメータ、マシン語等で指定される。
【0032】
§1 適用例
図1は、本発明を適用した場面の一例を模式的に示す。本実施形態に係る品質予測システム1は、製造設備において製造される製品の品質を予測するための品質予測モデルを機械学習により生成し、生成された訓練済みの品質予測モデルを使用して、品質基準を満たす製品が製造されるよう製造設備の調整量を決定するように構成されたコンピュータである。
【0033】
まず、品質予測システム1は、第1製造設備20において収集された第1学習データ30を取得する。第1学習データ30は、第1製造設備20の各調整項目及び第1製造設備20により製造される第1製品の品質指標の間の関係を示すように構成される。また、品質予測システム1は、第2製造設備25において収集された第2学習データ35を取得する。第2学習データ35は、第2製造設備25の各調整項目及び第2製造設備25により製造される第2製品の品質指標の間の関係を示すように構成される。品質予測システム1は、転移学習を実施するために、取得された第1学習データ30を第2学習データ35に適合するように変換する。この変換により、品質予測システム1は、変換された第1学習データ31を取得する。品質予測システム1は、変換された第1学習データ31及び第2学習データ35を使用して、第2製造設備25の各調整項目から第2製品の品質指標を予測するための品質予測モデル5の機械学習を実施する。品質予測システム1は、訓練済みの品質予測モデル5を使用して、第2製品の予測される品質指標が品質基準を満たすように第2製造設備25の各調整項目の調整量を特定する。そして、品質予測システム1は、特定された第2製造設備25の各調整項目の調整量を出力する。
【0034】
以上のとおり、本実施形態では、第1製造設備20で得られた第1学習データ30(転移元)を第2製造設備25で得られる第2学習データ35(転移先)に適合するように変換することで、品質予測モデル5の生成に使用する学習データのサンプル数を増やすことができる。そのため、第2学習データ35を得るために第2製造設備25で行う実験の項数を減らし、第2学習データ35として得るサンプルの数を抑えても、第1学習データ30を転移した分だけ、品質予測モデル5の生成に十分なサンプル数の学習データを確保することができる。これにより、生成される訓練済みの品質予測モデル5の推定精度の向上(すなわち、推定精度の低下の抑制)を期待することができる。したがって、本実施形態によれば、品質予測モデル5の生成にかかるコストの低減を図ると共に、生成される品質予測モデル5の推定精度が低下するのを抑制することができる。また、生成された品質予測モデル5を使用することで、第2製造設備25の調整項目の調整量を適切に決定することができる。
【0035】
なお、各製造設備(20、25)は、例えば、製造ライン等の製品の製造に関する設備であれば、その種類は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。各製造設備(20、25)は、製造ライン全体(検査工程を含んでよい)であってもよいし、或いは製造ラインの一部(例えば、製造ラインを構成する1又は複数の装置)であってもよい。第1製造設備20は、転移学習の転移元となる元ドメインの設備である。第2製造設備25は、第1学習データ30の転移先となる目標ドメインの設備であり、転移学習により品質予測モデル5を生成し、生成された品質予測モデル5を使用して調整項目を調整する対象となる設備である。第1製造設備20及び第2製造設備25の間に、例えば、生産対象の製品仕様の大部分が一致する、同様の物理現象又はメカニズムに基づく製造工程を含む等の何らかの類似性が存在していれば、第1製造設備20及び第2製造設備25の種類は、必ずしも一致していなくてもよい。
【0036】
一例では、第1製造設備20は、他の製造ラインの基礎となる基礎製造ライン(マザーライン)であってよく、第2製造設備25は、基礎製造ラインを複製することで構成された複製製造ライン(コピーライン)であってよい。この場合、マザーラインを複製して、新たな製造ラインを構築する場面で、品質予測モデル5の生成にかかるコストの低減を図ると共に、生成される品質予測モデル5の推定精度が低下するのを抑制することができる。また、生成された品質予測モデル5を使用することで、コピーラインの調整項目の調整量を適切に決定することができる。
【0037】
その他の一例では、第1製造設備20は、状態変化する前の製造ラインであってよく、第2製造設備25は、状態変化した後の同一の製造ラインであってよい。この場合、既存の製造ラインに対して何らかの変更を行う場面及び意図しない要因で状態変化が生じた場面で、品質予測モデル5の生成にかかるコストの低減を図ると共に、生成される品質予測モデル5の推定精度が低下するのを抑制することができる。また、生成された品質予測モデル5を使用することで、状態変化後の製造ラインの調整項目の調整量を適切に決定することができる。なお、既存の製造ラインに対する意図的な変更は、例えば、製造する製品の変更、使用する機械の取り換え、製造仕様の修正、製造条件の変更等の調整量の修正が生じ得る事象であってよい。また、既存の製造ラインに状態変化を生じさせる意図しない要因は、例えば、環境変化(例えば、季節変動等)、構成装置の経年劣化等であってよい。
【0038】
各製造設備(20、25)の調整項目は、例えば、処理速度、処理温度、室温、装置の位置、ロボットアームの角度、トルク、圧力、流量、材料の投入角度・位置・量、電流・電圧、周波数、各種制御パラメータ(PID制御等)等の製品の製造に際して調整する対象となる項目であれば、その種類は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。第1製造設備20の調整項目及び第2製造設備25の調整項目は、少なくとも部分的に重複していれば、完全に一致していなくてもよい。以下では、説明の便宜のため、共通の調整項目に関して処理が実行されていると仮定する。第1製品及び第2製品はそれぞれ、各製造設備(20、25)に応じて適宜選択されてよい。第1製品及び第2製品の種類は、必ずしも一致していなくてよい。各製品は、例えば、食品(例えば、お菓子、パン等)、化粧品、医薬品、電子部品、化学材料・化学製品(例えば、電池等)、半導体、自動車部品等であってよい。品質指標は、例えば、引張強度(ヒートシール強度)、質量(ウェイトチェッカー)、圧力(エアリーク検査)、光学特性(例えば、光量、透過率等)、位置、寸法、電気特性(例えば、抵抗値、静電容量等)、処理時間等の製品の品質の評価に使用可能な指標であれば、その種類は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0039】
§2 構成例
[ハードウェア構成]
図2は、本実施形態に係る品質予測システム1のハードウェア構成の一例を模式的に示す。
図2に示されるとおり、本実施形態に係る品質予測システム1は、制御部11、記憶部12、通信インタフェース13、外部インタフェース14、入力装置15、出力装置16、及びドライブ17が電気的に接続されたコンピュータである。なお、
図2では、通信インタフェース及び外部インタフェースをそれぞれ「通信I/F」及び「外部I/F」と記載している。
【0040】
制御部11は、ハードウェアプロセッサの一例であるCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を含み、プログラム及び各種データに基づいて情報処理を実行するように構成される。記憶部12は、メモリの一例であり、例えば、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等で構成される。本実施形態では、記憶部12は、品質予測プログラム81、第1学習データ30、第2学習データ35、学習結果データ125等の各種情報を記憶する。
【0041】
品質予測プログラム81は、品質予測モデル5の機械学習及び訓練済みの品質予測モデル5を使用した第2製造設備25の調整量の決定に関する後述の情報処理(
図5A及び
図5B)を品質予測システム1に実行させるためのプログラムである。品質予測プログラム81は、当該情報処理の一連の命令を含む。学習結果データ125は、訓練済みの品質予測モデル5に関する情報を示す。本実施形態では、学習結果データ125は、品質予測プログラム81を実行した結果として生成される。詳細は後述する。
【0042】
通信インタフェース13は、例えば、有線LAN(Local Area Network)モジュール、無線LANモジュール等であり、ネットワークを介した有線又は無線通信を行うためのインタフェースである。外部インタフェース14は、例えば、USB(Universal Serial Bus)ポート、専用ポート等であり、外部装置と接続するためのインタフェースである。品質予測システム1は、通信インタフェース13及び外部インタフェース14のいずれか一方を介して、各製造設備(20、25)に接続されてよい。
【0043】
入力装置15は、例えば、マウス、キーボード等の入力を行うための装置である。出力装置16は、例えば、ディスプレイ、スピーカ等の出力を行うための装置である。ユーザ等のオペレータは、入力装置15及び出力装置16を利用することで、品質予測システム1を操作することができる。
【0044】
ドライブ17は、例えば、CDドライブ、DVDドライブ等であり、記憶媒体91に記憶されたプログラム等の各種情報を読み込むためのドライブ装置である。記憶媒体91は、コンピュータその他装置、機械等が、記憶されたプログラム等の各種情報を読み取り可能なように、当該プログラム等の情報を、電気的、磁気的、光学的、機械的又は化学的作用によって蓄積する媒体である。上記品質予測プログラム81、第1学習データ30、及び第2学習データ35のうちの少なくともいずれかは、記憶媒体91に記憶されていてもよい。品質予測システム1は、この記憶媒体91から、品質予測プログラム81、第1学習データ30、及び第2学習データ35のうちの少なくともいずれかを取得してもよい。なお、
図2では、記憶媒体91の一例として、CD、DVD等のディスク型の記憶媒体を例示している。しかしながら、記憶媒体91の種類は、ディスク型に限られなくてもよく、ディスク型以外であってもよい。ディスク型以外の記憶媒体として、例えば、フラッシュメモリ等の半導体メモリを挙げることができる。ドライブ17の種類は、記憶媒体91の種類に応じて任意に選択されてよい。
【0045】
なお、品質予測システム1の具体的なハードウェア構成に関して、実施形態に応じて、適宜、構成要素の省略、置換及び追加が可能である。例えば、制御部11は、複数のハードウェアプロセッサを含んでもよい。ハードウェアプロセッサは、マイクロプロセッサ、FPGA(field-programmable gate array)、DSP(digital signal processor)等で構成されてよい。記憶部12は、制御部11に含まれるRAM及びROMにより構成されてもよい。通信インタフェース13、外部インタフェース14、入力装置15、出力装置16及びドライブ17の少なくともいずれかは省略されてもよい。品質予測システム1は、複数台のコンピュータで構成されてもよい。この場合、各コンピュータのハードウェア構成は、一致していてもよいし、一致していなくてもよい。また、品質予測システム1は、提供されるサービス専用に設計された情報処理装置の他、汎用のサーバ装置、汎用のPC(Personal Computer)、産業用PC(IPC)、PLC(programmable logic controller)等であってもよい。
【0046】
[ソフトウェア構成]
図3は、本実施形態に係る品質予測システム1のソフトウェア構成の一例を模式的に示す。品質予測システム1の制御部11は、記憶部12に記憶された品質予測プログラム81をRAMに展開する。そして、制御部11は、RAMに展開された品質予測プログラム81に含まれる命令をCPUにより解釈及び実行して、各構成要素を制御する。これにより、本実施形態に係る品質予測システム1は、第1データ取得部111、第2データ取得部112、確認部113、データ転移部114、機械学習部115、特定部116、出力部117、及び候補提示部118をソフトウェアモジュールとして備えるコンピュータとして動作する。すなわち、本実施形態では、品質予測システム1の各ソフトウェアモジュールは、制御部11(CPU)により実現される。
【0047】
第1データ取得部111は、第1製造設備20において収集された、第1製造設備20の各調整項目及び第1製造設備20により製造される第1製品の品質指標の間の関係を示す第1学習データ30を取得するように構成される。第2データ取得部112は、第2製造設備25において収集された、第2製造設備25の各調整項目及び第2製造設備25により製造される第2製品の品質指標の間の関係を示す第2学習データ35を取得するように構成される。
【0048】
データ転移部114は、転移学習を実施するために、取得された第1学習データ30を第2学習データ35に適合するよう変換するように構成される。機械学習部115は、変換された第1学習データ31及び第2学習データ35を使用して、第2製造設備25の各調整項目から第2製品の品質指標を予測するための品質予測モデル5の機械学習を実施するように構成される。加えて、機械学習部115は、機械学習の結果、すなわち、生成された訓練済み品質予測モデル5に関する情報を学習結果データ125として生成し、生成された学習結果データ125を所定の記憶領域に保存するように構成される。学習結果データ125は、訓練済み品質予測モデル5を再生するための情報を含むように適宜構成されてよい。
【0049】
ここで、第1学習データ30を転移しても、推定精度の良い品質予測モデル5を得るために、学習データが不足している可能性がある。例えば、第1学習データ30及び第2学習データ35共に、特定の調整項目について調整量を変動させた(すなわち、条件の異なる)サンプル数が少ない場合に、当該特定の調整項目に関して品質予測モデル5の推定精度が悪くなってしまう可能性がある。これに対応するため、本実施形態に係る品質予測システム1は、確認部113を備えている。
【0050】
確認部113は、取得された第1学習データ30及び第2学習データ35に含まれる各サンプルを統計的に解析することで、各調整項目のうち品質指標の予測に貢献しない調整項目が存在するか否かを確認するように構成される。これに応じて、第2データ取得部112は、確認部113により品質指標の予測に貢献しない調整項目が存在すると判定された場合に、当該品質指標の予測に貢献しない調整項目について複数の条件で第2製造設備25による第2製品の製造を実験することで収集された追加の第2学習データ37を取得するように更に構成されてよい。機械学習部115は、変換された第1学習データ31及び第2学習データ35に加えて、取得された追加の第2学習データ37を更に使用して、品質予測モデル5の機械学習を実施するように構成されてよい。
【0051】
特定部116は、訓練済みの品質予測モデル5を使用して、第2製品の予測される品質指標が品質基準を満たすように第2製造設備25の各調整項目の調整量を特定するように構成される。出力部117は、特定された第2製造設備25の各調整項目の調整量を出力するように構成される。出力処理の一例として、品質予測システム1が第2製造設備25に接続される場合、出力された調整量は、直接的に第2製造設備25に反映されてよい。その他の一例では、特定された調整量はディスプレイ等に出力され、それを閲覧したオペレータの操作等により、出力された調整量は、間接的に第2製造設備25に反映されてよい。
【0052】
なお、第1学習データ30を転移しても、生成された訓練済みの品質予測モデル5の精度が、第2製造設備25において品質基準を満たすための各調整項目の真の調整量を適切に特定するには不足することが生じ得る。このような場合、第2製造設備25の各調整項目の調整量を、訓練済みの品質予測モデル5を使用して特定された最適な調整量に設定しても、品質基準を満たす第2製品を製造できない可能性がある。
【0053】
そこで、第2データ取得部112は、特定部116により特定された調整量に各調整項目の調整量が設定された第2製造設備25により実際に製造された第2製品の品質指標が品質基準を満たさない場合に、第2製造設備25において更に収集された追加の第2学習データ39を取得するように更に構成されてよい。機械学習部115は、変換された第1学習データ31及び第2学習データ35(更に、追加の第2学習データ37)に加えて、取得された追加の第2学習データ39を更に使用して、品質予測モデル5の機械学習を再度実施するように更に構成されてよい。特定部116は、再訓練済みの品質予測モデル5を使用して、第2製品の予測される品質指標が品質基準を満たすように第2製造設備25の各調整項目の調整量を特定するように更に構成されてよい。
【0054】
候補提示部118は、所定の評価基準に従って、第1学習データ31(30)及び第2学習データ35に対して品質予測モデル5の予測精度の向上に貢献するサンプルを得る、第2製造設備25における各調整項目の条件を特定し、かつ特定された条件を提示するように構成される。追加の第2学習データ39は、提示された条件に従って収集されてよい。
【0055】
図4は、本実施形態に係る各学習データ(30、35、37、39)の構成の一例を模式的に示す。
図4で例示される各学習データ(30、35、37、39)は、テーブル形式のデータ構造を有している。1つのレコード(行データ)が、各調整項目の調整量を指定して製品を製造し、製造された製品の品質指標を評価する実験を行うことで得られる1つのサンプルに対応する。各レコードは、各調整項目の調整量及びその調整量で製造された製品の品質指標の値をそれぞれ格納するフィールドを有している。これにより、本実施形態に係る各学習データ(30、35、37、39)は、各調整項目の調整量とその調整量で製造された製品の品質指標の値との間の関係を示すように構成されている。ただし、各調整項目の調整量から品質指標の値を推定する推定モデル(品質予測モデル5)の機械学習に使用可能であれば、各学習データ(30、35、37、39)のデータ構造は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜決定されてよい。
【0056】
品質予測システム1の各ソフトウェアモジュールに関しては後述する動作例で詳細に説明する。なお、本実施形態では、品質予測システム1の各ソフトウェアモジュールがいずれも汎用のCPUによって実現される例について説明している。しかしながら、上記ソフトウェアモジュールの一部又は全部が、1又は複数の専用のプロセッサにより実現されてもよい。すなわち、上記各モジュールは、ハードウェアモジュールとして実現されてもよい。また、品質予測システム1のソフトウェア構成に関して、実施形態に応じて、適宜、ソフトウェアモジュールの省略、置換及び追加が行われてもよい。
【0057】
§3 動作例
図5A及び
図5Bは、本実施形態に係る品質予測システム1の処理手順の一例を示すフローチャートである。以下の品質予測システム1の処理手順は、品質予測方法の一例である。ただし、以下の品質予測システム1の処理手順は、一例に過ぎず、各ステップは可能な限り変更されてよい。また、以下の品質予測システム1の処理手順について、実施の形態に応じて、適宜、ステップの省略、置換、及び追加が可能である。
【0058】
<ステップS101>
ステップS101では、制御部11は、第1データ取得部111として動作し、第1学習データ30を取得する。
【0059】
第1学習データ30は、第1製造設備20の各調整項目及び第1製造設備20により製造される第1製品の品質指標の間の関係を示すように第1製造設備20において適宜収集されてよい。第1学習データ30を得る各調整項目の条件は適宜決定されてよい。一例として、第1学習データ30は、例えば、完全実施要因計画(一元配置、多元配置)、一部実施計画(直交表、Plackett and Burman計画、混合水準計画、過飽和計画、一葉計画)、乱塊法、応答曲面計画(中心複合計画、Box-Behnken計画)、パラメータ設計、最適計画(D-最適、G-最適)、スクリーニング計画、ラテン超方格計画等の公知の実験計画法に基づいて作成された実験計画に従って収集されてよい。第1学習データ30は、コンピュータにより自動的に収集されてもよいし、或いは少なくとも部分的にオペレータの操作により手動的に収集されてもよい。
【0060】
第1学習データ30は、任意の理由で収集されてよい。一例では、本実施形態に係る品質予測モデル5と同様に、第1製造設備20の各調整項目から第1製品の品質指標を予測するための推定モデルが生成されてよい。第1学習データ30は、この推定モデルの生成(機械学習)に使用する目的で収集されてよい。この場合、生成された推定モデルは、第1製造設備20の各調整項目の調整量を決定するのに使用されてよい。他の一例では、第1学習データ30は、推定モデルの生成には使用されず、第1製造設備20の動作を単に確認する目的で得られてもよい。
【0061】
第1学習データ30を取得する経路は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。一例では、品質予測システム1と第1製造設備20とが接続される場合、制御部11は、第1製造設備20から直接的に第1学習データ30を取得してもよい。なお、品質予測システム1は、第1製造設備20に直接的に接続されてもよい。或いは、第1製造設備20を制御するように構成されたPLCを第1製造設備20が備える場合、品質予測システム1は、このPLCに接続されてもよい。他の一例では、制御部11は、他のコンピュータ、記憶部12、記憶媒体等を介して、第1学習データ30を取得してよい。第1学習データ30を取得すると、制御部11は、次のステップS102に処理を進める。
【0062】
<ステップS102>
ステップS102では、制御部11は、第2データ取得部112として動作し、第2学習データ35を取得する。
【0063】
第2学習データ35は、第2製造設備25の各調整項目及び第2製造設備25により製造される第2製品の品質指標の間の関係を示すように第2製造設備25において適宜収集されてよい。第2学習データ35を得る各調整項目の条件は、例えば、現場の知見等に基づいて適宜決定されてよい。第1学習データ30と同様に、第2学習データ35を得る各調整項目の条件は、実験計画法に基づいて決定されてもよい。このとき、第1学習データ30の収集時に採用された調整項目の条件は、第2学習データ35を得る条件から省略されてよい。第2学習データ35は、コンピュータにより自動的に収集されてもよいし、或いは少なくとも部分的にオペレータの操作により手動的に収集されてもよい。
【0064】
第1学習データ30と同様に、第2学習データ35を取得する経路は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。一例では、制御部11は、第2製造設備25から直接的に第2学習データ35を取得してもよい。他の一例では、制御部11は、他のコンピュータ、記憶部12、記憶媒体等を介して、第2学習データ35を取得してよい。第2学習データ35を取得すると、制御部11は、次のステップS103に処理を進める。なお、ステップS101及びステップS102の処理順序は、本実施形態の例に限定されなくてよく、任意に変更されてよい。
【0065】
<ステップS103>
ステップS103では、制御部11は、取得された第1学習データ30及び第2学習データ35に含まれる各サンプルを統計的に解析することで、各調整項目のうち品質指標の予測に貢献しない調整項目が存在するか否かを確認する。統計的な解析方法は、各調整項目のうち条件の異なるサンプルが不足している(すなわち、学習データの空間網羅性が不足している)調整項目を評価する方法であればよく、その具体的な処理内容は、実施の形態に応じて適宜決定されてよい。本実施形態では、以下の2つの処理手順のうちのいずれかが採用されてよい。
【0066】
(1)第1の方法
図6Aは、本実施形態に係る第1の方法による統計的な解析処理(サブルーチン)の手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態に係るステップS103の処理は、以下のステップS201~ステップS204の処理を含んでよい。ただし、
図6Aで示される処理手順は一例に過ぎず、各処理は可能な限り変更されてよい。また、
図6Aで示される処理手順について、実施の形態に応じて、適宜、ステップの省略、置換、及び追加が可能である。
【0067】
ステップS201では、制御部11は、第1学習データ30及び第2学習データ35それぞれに含まれる各サンプルの各調整項目の値を標準化する。標準化は、平均値を一定の値に変換する正規化処理である(例えば、平均値を0のデータに変換する)。ステップS202では、制御部11は、第1学習データ30及び第2学習データ35を統合する。すなわち、制御部11は、各レコードのフィールドを揃えて、第1学習データ30及び第2学習データ35を1つのデータになるように結合する。
【0068】
ステップS203では、制御部11は、各サンプルの標準化された値から各調整項目の分散を算出する。算出された分散の値が0であることは、対象の調整項目に割り振られた条件が単一である、すなわち、条件の異なるサンプルが得られていないことを示す。そこで、ステップS204では、制御部11は、算出された分散の値が0である調整項目を品質指標の予測に貢献しない調整項目として認定する。算出された分散の値が0である調整項目が存在しない場合、制御部11は、品質指標の予測に貢献しない調整項目は存在しないと認定する。当該認定が完了すると、制御部11は、第1の方法による解析処理を終了する。
【0069】
(2)第2の方法
図6Bは、本実施形態に係る第2の方法による統計的な解析処理(サブルーチン)の手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態に係るステップS103の処理は、以下のステップS211~ステップS212の処理を含んでよい。ただし、
図6Bで示される処理手順は一例に過ぎず、各処理は可能な限り変更されてよい。また、
図6Bで示される処理手順について、実施の形態に応じて、適宜、ステップの省略、置換、及び追加が可能である。
【0070】
ステップS211では、制御部11は、第1学習データ30及び第2学習データ35に含まれる各サンプルの主成分分析を行う。主成分分析により得られる主成分の寄与率が低い(例えば、寄与率が0である)ことは、学習データの情報を殆ど欠落することなく、その主成分に対応する調整項目を省略して次元圧縮を行うことができる(すなわち、その調整項目に関して空間網羅性が低い)ことを示す。そこで、ステップS212では、制御部11は、主成分分析により得られた各主成分のうち寄与率が閾値より低い主成分に対応する調整項目を品質指標の予測に貢献しない調整項目として認定する。一例では、制御部11は、寄与率が閾値よりも低い主成分として寄与率が0である主成分を抽出してもよい。このケースでは、制御部11は、寄与率の高い主成分から順に加算することで累積寄与率を算出し、算出された累積寄与率が100%となるまでに加算した主成分の数が各学習データ(30、35)の調整項目の数よりも少ない場合に、品質指標の予測に貢献しない調整項目が存在すると認定してもよい。このとき、制御部11は、累積寄与率100%を構成する主成分を除いた他の主成分に対応する調整項目を前記品質指標の予測に貢献しない調整項目として認定してもよい。該当する主成分が存在しない場合、制御部11は、品質指標の予測に貢献しない調整項目は存在しないと認定する。なお、主成分に対応する調整項目(及びその調整量の方向)は、当該主成分の固有ベクトルから推定することができる。当該認定が完了すると、制御部11は、第2の方法による解析処理を終了する。
【0071】
(小括)
上記第1の方法及び第2の方法によれば、品質指標の予測に貢献しない調整項目を適切に特定することができる。本実施形態では、上記第1の方法及び第2の方法の処理のうちの少なくともいずれかがステップS103の処理として採用されてよい。採用する方法は、オペレータにより選択されてもよい。各調整項目のうち品質指標の予測に貢献しない調整項目が存在するか否かの確認が完了すると、制御部11は、次のステップS104に処理を進める。
【0072】
<ステップS104>
図5A及び
図5Bに戻り、制御部11は、確認結果が許容できるか否かを判定する。
【0073】
一例では、制御部11は、品質指標の予測に貢献しない調整項目が存在するか否かに応じて、確認結果が許容できるか否かを自動的に判定してもよい。すなわち、制御部11は、品質指標の予測に貢献しない調整項目が存在する場合に確認結果は許容できないと判定し、品質指標の予測に貢献しない調整項目が存在しない場合に確認結果は許容できると判定してもよい。
【0074】
その他の一例では、制御部11は、例えば、出力装置16、他のコンピュータ(例えば、ユーザ端末)等を介して、ステップS103の確認結果をオペレータに対して提示してもよい。そして、制御部11は、入力装置15、他のコンピュータの入力装置等を介したオペレータの操作に応じて、確認結果が許容できるか否かを判定してもよい。
【0075】
なお、いずれのケースでも、品質指標に影響のない調整項目のみが品質指標の予測に貢献しない調整項目として抽出される場合がある。例えば、包装機では、包装の長さ(調整項目)は、センターシールの強度(品質指標)に影響しないことが知られている。このような場合、制御部11は、確認結果は許容できると判定してもよい。
【0076】
確認結果が許容できると判定した場合、制御部11は、次のステップS105に処理を進める。他方、確認結果が許容できないと判定した場合、制御部11は、ステップS102に処理を戻し、ステップS102~ステップS104の処理を再度実行する。再度のステップS102では、制御部11は、品質指標の予測に貢献しない調整項目について複数の条件で第2製造設備25による第2製品の製造を実験することで収集された追加の第2学習データ37を取得する。品質指標の予測に貢献しないと認定された調整項目に関して、追加の第2学習データ37を得る実験の条件は、各学習データ(30、35)と同様に適宜決定されてよい。ステップS103の処理において、品質指標の予測に貢献しない調整項目が適切に特定されていることで、品質予測モデル5の精度向上に役立つ追加の第2学習データ37を適切に収集することができる。
【0077】
<ステップS105>
ステップS105では、制御部11は、データ転移部114として動作し、転移学習を実施するために、第2学習データ35に適合するように第1学習データ30を変換する。この演算結果として、制御部11は、変換された第1学習データ31を取得する。転移学習を実施可能であれば、第1学習データ30の変換方法は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。変換方法には、公知の転移学習の方法が採用されてよい。一例では、制御部11は、Frustratingly Easy Domain Adaptation法又はCorrelation Alignment法により、第2学習データ35に適合するように第1学習データ30を変換してもよい。
【0078】
図7は、Frustratingly Easy Domain Adaptation法により、第1学習データ30及び第2学習データ35を変換する方法の一例を模式的に示す。Frustratingly Easy Domain Adaptation法は、参考文献1「H. Daume III (University of Utah), "Frustratingly Easy Domain Adaptation", in Proceedings of the 45tt, Annual Meeting of the Association of Computational Linguistics, pp.256-263 (2007)」に開示される方法である。この方法を採用する場合、制御部11は、各学習データ(30、35)の各サンプルを長さが3倍のベクトルに変換する。追加の第2学習データ(37、39)が得られている場合、制御部11は、追加の第2学習データ(37、39)も第2学習データ35と同様に変換する。
【0079】
図7のX
(S)は、第1学習データ30のサンプル値を示し、X
(T)は、第2学習データ(35、37、39)のサンプル値を示す。この変換の際、
図7に示されるとおり、制御部11は、3つの部分のうちの2つの部分に元のサンプル値を代入し、残りの1つの部分に0を代入する。そして、制御部11は、元のサンプル値同士が重なる部分「X
(S),X
(T)」、及びいずれか一方のサンプル値のみが重なる部分「X
(S),0」「0,X
(T)」を形成する。これにより、制御部11は、変換された第1学習データ31(X
(S),X
(S),0)を得ることができる。
【0080】
なお、この方法によれば、両方のサンプル値が重なる部分「X(S),X(T)」から第1製造設備20及び第2製造設備25に共通の要因に関する予測を行うことができる。第1学習データ30のサンプル値のみが重なる部分「X(S),0」から第1製造設備20(元ドメイン)固有の要因に関する予測を行うことができる。第2学習データ(35、37、39)のサンプル値のみが重なる部分「0,X(T)」から第2製造設備25(目標ドメイン)固有の要因に関する予測を行うことができる。
【0081】
Correlation Alignment法は、参考文献2「B. Sun, J. Feng, K. Saenko (University of Massachusetts Lowell), "Return of Frustratingly Easy Domain Adaptation", in Proceedings of 30th AAAI Conference on Artificial Intelligence, pp.2058-2065 (2016)」に開示される方法である。この方法を採用する場合、制御部11は、第1学習データ30及び第2学習データ35の共分散行列を算出する。追加の第2学習データ(37、39)が得られている場合、追加の第2学習データ(37、39)を第2学習データ35に統合した後に、制御部11は、第2学習データ(35、37、39)の共分散行列を算出する。次に、制御部11は、第2学習データ35(37、39)の共分散行列を用いて、第1学習データ30を正規化する。そして、制御部11は、第1学習データ30の共分散行列を用いて、正規化された第1学習データ30を更に変換する。これにより、制御部11は、変換された第1学習データ31を得ることができる。
【0082】
これらの方法によれば、第1学習データ30の転移を簡易な方法で実現することができ、これにより、品質予測システム1の構築にかかるコストを低減することができる。ステップS105の処理が完了し、変換された第1学習データ31を取得すると、制御部11は、次のステップS106に処理を進める。
【0083】
<ステップS106>
図5A及び
図5Bに戻り、ステップS106では、制御部11は、機械学習部115として動作し、変換された第1学習データ31及び第2学習データ35を使用して、第2製造設備25の各調整項目から第2製品の品質指標を予測するための品質予測モデル5の機械学習を実施する。追加の第2学習データ37が取得されている場合、制御部11は、取得された追加の第2学習データ37を更に使用して、品質予測モデル5の機械学習を実施する。
【0084】
【数1】
品質予測モデル5は、推論結果を導出するための1つ以上の演算パラメータを備える。一例では、品質予測モデル5は、上記式1の回帰式により表現される。式1のxには、各調整項目の調整量が入力され、品質指標(y)が導出される。関数f(x)内のパラメータ及び定数項(ε)が演算パラメータの一例である。なお、予測(推論)対象の品質指標の数は、1つに限られなくてよく、品質予測モデル5は、複数の品質指標それぞれの値を予測するように構成されてもよい。機械学習は、変換された第1学習データ31及び第2学習データ35(更に、追加の第2学習データ37)に含まれる各サンプルについて、各調整項目の調整量から品質予測モデル5が品質指標の値を予測した結果が対応する品質指標の真値(正解)に適合するように品質予測モデル5を訓練する(すなわち、演算パラメータの値を調整する)ことにより構成される。
【0085】
この品質予測モデル5は、回帰分析に利用可能な機械学習モデルであればよく、その種類は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。また、機械学習の方法は、採用された機械学習モデルの種類に応じて適宜選択されてよい。一例として、品質予測モデル5は、ニューラルネットワーク、サポートベクタマシン、又は回帰モデルにより構成されてよい。
【0086】
ニューラルネットワークを採用する場合、各ニューロン間の結合の重み、各ニューロンの閾値等が、上記演算パラメータの一例である。制御部11は、機械学習の処理として、誤差逆伝播法により、各サンプルの各調整項目の調整量を入力したときに得られる予測値と対応する品質指標の真値との誤差が小さくなるように演算パラメータの値を調整する。
【0087】
サポートベクタマシンを採用する場合、サポートベクタマシンを構成する回帰式のパラメータが、上記演算パラメータの一例である。制御部11は、機械学習の処理として、最適化問題を解くことで、各サンプルの各調整項目の調整量を入力したときに得られる予測値と対応する品質指標の真値との誤差が小さくなるように演算パラメータの値を調整する。
【0088】
回帰モデルを採用する場合、回帰モデル(回帰式)を構成するパラメータが、上記演算パラメータの一例である。制御部11は、機械学習の処理として、重回帰分析等の回帰分析を行うことで、各サンプルの各調整項目の調整量を入力したときに得られる予測値と対応する品質指標の真値との誤差が小さくなるように演算パラメータの値を調整する。その他の一例では、回帰モデルは、ガウス過程回帰の演算を実行するように構成されてよい。この場合、制御部11は、機械学習の処理の一例として、最尤推定に基づいて事後確率が最大になるようにパラメータの値を特定してよい。品質予測モデル5は、事後確率分布における平均値の分布により構成される。
【0089】
これらの構成によれば、品質予測モデル5を簡単に用意することができ、これにより、品質予測システム1の構築にかかるコストを低減することができる。機械学習の処理が完了すると、訓練済みの品質予測モデル5を生成することができる。制御部11は、生成された訓練済みの品質予測モデル5を示す学習結果データ125を生成する。上記推論(品質指標の予測)の演算に実行するための情報を保持可能であれば、学習結果データ125の構成は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜決定されてよい。一例として、学習結果データ125は、品質予測モデル5の構成(例えば、ニューラルネットワークの構造等)及び上記調整により得られた演算パラメータの値を示す情報により構成されてよい。制御部11は、生成された学習結果データ125を所定の記憶領域に保存する。
【0090】
所定の記憶領域は、例えば、制御部11内のRAM、記憶部12、外部記憶装置、記憶メディア又はこれらの組み合わせであってよい。記憶メディアは、例えば、CD、DVD等であってよく、制御部11は、ドライブ17を介して記憶メディアに学習結果データ125を格納してもよい。外部記憶装置は、例えば、NAS(Network Attached Storage)等のデータサーバであってよい。この場合、制御部11は、通信インタフェース13を利用して、ネットワークを介してデータサーバに学習結果データ125を格納してもよい。また、外部記憶装置は、例えば、外部インタフェース14を介して品質予測システム1に接続された外付けの記憶装置であってもよい。なお、この学習結果データ125の保存処理は省略されてもよい。学習結果データ125の保存が完了すると、制御部11は、次のステップS107に処理を進める。
【0091】
<ステップS107>
ステップS107では、制御部11は、特定部116として動作し、訓練済みの品質予測モデル5を使用して、第2製品の予測される品質指標が品質基準を満たすように第2製造設備25の各調整項目の調整量を特定する。
【0092】
各調整項目の調整量を特定する方法は、訓練済みの品質予測モデル5を使用して、最適な調整量を推定する方法であればよく、その具体的な方法は、実施の形態に応じて適宜決定されてよい。一例として、制御部11は、最急降下法、ニュートン法等の公知の方法により、訓練済みの品質予測モデル5を使用して、第2製造設備25の各調整項目の最適な調整量を推定してもよい。そして、制御部11は、各調整項目について推定された最適な調整量を各調整項目の調整量として特定してもよい。なお、調整量は、対象の調整項目の値を直接的に示すように構成されてもよいし、或いは、基準値からの変動値等のように対象の調整項目の値を間接的に示すように構成されてよい。各調整項目の調整量の特定が完了すると、制御部11は、次のステップS108に処理を進める。
【0093】
<ステップS108>
ステップS108では、制御部11は、出力部117として動作し、第2製造設備25の各調整項目の特定された調整量を出力する。
【0094】
出力先及び出力形式は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。一例では、制御部11は、出力装置16、他のコンピュータの出力装置等に、第2製造設備25の各調整項目の特定された調整量をそのまま出力してもよい。これにより、品質予測システム1は、特定された調整量に各調整項目を設定して、第2製造設備25を稼働させるようにオペレータに促してもよい。他の一例では、品質予測システム1と第2製造設備25とが接続される場合、制御部11は、各調整項目の特定された調整量を第2製造設備25に出力し、特定された調整量で稼働するように第2製造設備25の各調整項目を設定してもよい。なお、品質予測システム1は、第2製造設備25に直接的に接続されてもよい。或いは、第2製造設備25を制御するように構成されたPLCを第2製造設備25が備える場合、品質予測システム1は、このPLCに接続されてもよい。
【0095】
第2製造設備25の各調整項目の特定された調整量の出力が完了すると、制御部11は、次のステップS109に処理を進める。
【0096】
<ステップS109>
ステップS109では、制御部11は、特定された調整量に各調整項目の調整量が設定された第2製造設備25により実際に製造された第2製品の品質指標を評価した結果を取得する。
【0097】
第2製品の品質指標の評価には、品質指標に応じた任意の測定器が用いられてよい。測定器には、例えば、引張試験機、ウェイトチェッカー、エアリーク検査器、画像検査装置、光特性計測器、マイクロゲージ、デジタルノギス、電気特性計測器等が用いられてよい。この場合、測定器により得られる測定値が評価結果の一例である。品質予測システム1が第2製造設備25に接続される場合、制御部11は、第2製品の品質指標の評価結果を第2製造設備25から直接的に取得してもよい。或いは、制御部11は、オペレータの入力により第2製品の品質指標の評価結果を取得してもよい。第2製品の品質指標を評価した結果を取得すると、制御部11は、次のステップS110に処理を進める。
【0098】
<ステップS110>
ステップS110では、制御部11は、取得された評価結果に基づいて、特定された調整量に各調整項目の調整量が設定された第2製造設備25により実際に製造された第2製品の品質指標が品質基準を満たすか否かを判定する。品質基準は、閾値等により予め指定されてよい。一例では、制御部11は、測定器により得られた測定値と閾値とを比較することで、第2製品の品質指標が品質基準を満たすか否かを判定してもよい。第2製品の品質指標が品質基準を満たす場合、制御部11は、本動作例に係る処理手順を終了する。一方、第2製品の品質指標が品質基準を満たさない場合、制御部11は、次のステップS111に処理を進める。
【0099】
<ステップS111>
ステップS111では、制御部11は、候補提示部118として動作し、所定の評価基準に従って、第1学習データ31(30)及び第2学習データ35(37)に対して品質予測モデル5の予測精度の向上に貢献するサンプルを得る、第2製造設備25における各調整項目の条件(以下、「最適条件」とも記載する)を特定する。所定の評価基準に従い最適条件を特定する方法は、実施の形態に応じて適宜決定されてよい。
【0100】
図8は、本実施形態に係る条件特定処理(サブルーチン)の手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態に係るステップS111の処理は、以下のステップS301~ステップS304の処理を含んでよい。ただし、
図8で示される処理手順は一例に過ぎず、各処理は可能な限り変更されてよい。また、
図8で示される処理手順について、実施の形態に応じて、適宜、ステップの省略、置換、及び追加が可能である。
【0101】
ステップS301では、制御部11は、各調整項目の調整範囲内に複数の条件候補を生成する。各調整項目の調整範囲は、例えば、予め指定される数値範囲等により任意に設定されてよい。また、複数の条件候補は、例えば、ランダム、所定の規則等に従って、各調整項目の調整範囲内に任意に指定されてよい。
【0102】
図9は、複数の条件候補を得る方法の一例を模式的に示す。
図9のx1及びx2はそれぞれ、調整項目に対応する。
図9の各点が、生成された条件候補に対応する。
図9に例示されるとおり、制御部11は、各調整項目の調整範囲内に一定の間隔で調整量を割り振ることで、複数の条件候補をメッシュ状に指定してもよい。
【0103】
図8に戻り、ステップS302では、制御部11は、所定の評価基準に従って、各条件候補を評価する。所定の評価基準は、各学習データ(30、35、37)に対して、品質予測モデル5の予測精度の向上に貢献するサンプルを得る可能性の高い条件を評価するように適宜設定されてよい。
【0104】
例えば、各学習データ(30、35、37)に含まれる各サンプルからの距離が遠いサンプルほど、各学習データ(30、35、37)に表れない知見を当該サンプルが与える可能性が高いため、当該サンプルは、品質予測モデル5の予測精度の向上に貢献すると考えられる。そこで、一例では、所定の評価基準は、各学習データ(30、35、37)に含まれる各サンプルからの距離に基づく第1基準を含むように構成されてよい。また、訓練済みの品質予測モデル5により予測される品質指標が品質基準からかけ離れている(特に、品質基準に対して予測される品質指標が極めて悪い)場合、その予測される品質指標に対応するサンプルは、品質基準を満たすよう各調整項目の調整量を特定するための予測に貢献しないと考えられる。そこで、一例では、所定の評価基準は、訓練済みの品質予測モデル5により予測される品質指標及び品質基準の間の差分に基づく第2基準を更に含むように構成されてよい。
【0105】
この場合、制御部11は、例えば、k近傍法、LOF(Local Outlier Factor)等の方法で、各条件候補と各学習データ(30、35、37)に含まれる各サンプルとの距離を算出する。そして、制御部11は、算出される距離に応じて、各条件候補を評価する。すなわち、制御部11は、算出される距離が大きいほど対象の条件候補を高く評価し、算出される距離が小さいほど対象の条件候補を低く評価する。また、制御部11は、訓練済みの品質予測モデル5を使用して、各条件候補に対応する品質指標を予測する(品質指標の予測値を算出する)。続いて、制御部11は、予測される品質指標(予測値)及び品質基準の間の差分(一例では、差分の絶対値)を算出する。そして、制御部11は、算出される差分が小さいほど対象の条件候補を高く評価し、算出される差分が大きいほど対象の条件候補を低く評価する。
【0106】
ステップS303では、制御部11は、評価結果に基づいて、複数の条件候補のうち、評価の高い条件候補を抽出する。一例では、上記評価結果を評価値として算出する場合、制御部11は、各条件候補と閾値とを比較して、閾値よりも評価値の高い条件候補を評価の高い条件候補として抽出してよい。閾値は適宜設定されてよい。他の一例では、制御部11は、評価の高いものから順に各条件候補を整列し、評価の高いものから所定個数又は所定割合の条件候補を評価の高い条件候補として抽出してもよい。所定個数又は所定割合は適宜設定されてよい。更に他の一例では、制御部11は、最も評価の高い条件候補を評価の高い条件候補として抽出してもよい。
【0107】
ステップS304では、制御部11は、抽出された条件候補を最適条件として認定する。当該認定が完了すると、制御部11は、ステップS111の条件特定処理を終了する。ステップS111の処理による第2製造設備25における各調整項目の最適条件の特定が完了すると、制御部11は、次のステップS112に処理を進める。
【0108】
<ステップS112>
図5A及び
図5Bに戻り、ステップS112では、制御部11は、候補提示部118として動作し、特定された最適条件を提示する。特定された最適条件に従った追加の第2学習データ39の収集を促すような方法であれば、最適条件を提示する具体的な方法は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。一例では、制御部11は、出力装置16、他のコンピュータの出力装置等を介して最適条件を提示することで、特定された最適条件に従った追加の第2学習データ39の収集をオペレータに促してもよい。他の一例では、品質予測システム1と第2製造設備25とが接続される場合、制御部11は、特定された最適条件を第2製造設備25に出力し、特定された最適条件で第2製造設備25を稼働させてもよい。これにより、制御部11は、第2製造設備25に対して追加の第2学習データ39を収集させてもよい。特定された最適条件の提示が完了すると、制御部11は、次のステップS113に処理を進める。
【0109】
<ステップS113>
ステップS113では、制御部11は、第2データ取得部112として動作し、第2製造設備25において更に収集された追加の第2学習データ39を取得する。追加の第2学習データ39を取得すると、制御部11は、ステップS106に処理を戻し、ステップS106から再度処理を実行する。
【0110】
再度のステップS106では、制御部11は、機械学習部115として動作し、変換された第1学習データ31及び第2学習データ35(更に、追加の第2学習データ37)に加えて、取得された追加の第2学習データ39を更に使用して、品質予測モデル5の機械学習を再度実施する。再度のステップS107では、制御部11は、特定部116として動作し、再訓練済みの品質予測モデル5を使用して、第2製品の予測される品質指標が品質基準を満たすように第2製造設備25の各調整項目の調整量を特定する。ステップS108以降の処理も同様に実行される。
【0111】
ステップS110の処理において、第2製品の品質指標が品質基準を満たすと判定されるまで、追加の第2学習データ39の取得、品質予測モデル5の再学習、及び再訓練済みの品質予測モデル5による調整量の特定を含む上記一連の処理が繰り返される。これにより、品質予測モデル5の予測精度の向上を図ることで、品質基準を満たすための各調整項目の真の最適な調整量を特定できる可能性を高めることができる。なお、品質予測モデル5を複数回再学習しても、品質基準を満たす調整量が特定できない場合、品質予測モデル5の予測精度以外に問題が生じている可能性があるため、制御部11は、一連の処理の繰り返しを打ち切り、本動作例に係る処理手順を終了してもよい。
【0112】
ステップS112の処理で提示された最適条件を参照することで、追加の第2学習データ39を収集する作業の効率化し、これにより、品質予測モデル5の生成にかかるコストの低減を図ることができる。そのため、ステップS113の処理で得られる追加の第2学習データ39は、ステップS112の処理で提示された最適条件に従って収集されるのが好ましい。ただし、追加の第2学習データ39を得る各調整項目の条件は、必ずしもこのように決定されなければならない訳ではない。追加の第2学習データ39を得る各調整項目の条件は、各第2学習データ(35、37)と同様に、例えば、現場の知見等に基づいて適宜決定されてよい。
【0113】
なお、ステップS113の処理を実行した後の処理の戻り先は、ステップS106に限られなくてもよい。一例では、制御部11は、ステップS103から再度処理を実行してもよい。また、ステップS105の処理において、第1学習データ30の変換に第2学習データ35が関与する場合、制御部11は、ステップS113の処理を実行した後、得られた追加の第2学習データ39を更に使用して、ステップS105の処理を再度実行してもよい。Frustratingly Easy Domain Adaptation法を採用した場合、制御部11は、第2学習データ35と同様に、追加の第2学習データ39を変換する。Correlation Alignment法を採用した場合、制御部11は、追加の第2学習データ39を追加した上で、ステップS105の処理を再度実行してもよい。
【0114】
[特徴]
以上のとおり、本実施形態では、ステップS105の処理により、第1製造設備20で得られた第1学習データ30を転移する分だけ、品質予測モデル5の生成に使用する学習データのサンプル数を増やすことができる。そのため、第2学習データ35を得るために第2製造設備25で行う実験の項数を減らし、ステップS102の処理において第2学習データ35として得るサンプルの数を抑えても、品質予測モデル5の生成に十分なサンプル数の学習データを確保することができる。これにより、ステップS106の処理では、生成される訓練済みの品質予測モデル5の推定精度の向上(すなわち、推定精度の低下の抑制)を期待することができる。したがって、本実施形態によれば、品質予測モデル5の生成にかかるコストの低減を図ると共に、生成される品質予測モデル5の推定精度が低下するのを抑制することができる。また、ステップS107の処理では、生成された品質予測モデル5を使用することで、第2製造設備25の調整項目の調整量を適切に決定することができる。
【0115】
また、本実施形態では、ステップS103の処理により、品質予測モデル5の推定精度の低下が生じるか否かを事前に確認し、精度の低い品質予測モデルを使用することによる不具合の発生を防止することができる。更に、ステップS103の処理の結果、確認結果が許容できない場合に、再度のステップS102の処理により追加の第2学習データ37を取得し、取得された追加の第2学習データ37をステップS106の機械学習に使用することで、生成される品質予測モデル5の推定精度の向上(推定精度の低下の抑制)を期待することができる。
【0116】
§4 変形例
以上、本発明の実施の形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良又は変形を行うことができることは言うまでもない。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、上記実施形態と同様の点については、適宜説明を省略した。以下の変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0117】
<4.1>
上記実施形態では、品質予測システム1は、品質予測モデル5の生成処理(学習処理)及び訓練済みの品質予測モデル5を使用して、各調整項目の調整量を特定する処理(推論処理)の両方を実行するように構成されている。しかしながら、品質予測システム1の構成は、このような例に限定されなくてもよい。その他の一例では、学習処理及び推論処理はそれぞれ、別個独立の1又は複数台のコンピュータにより実行されてもよい。
【0118】
図10は、本変形例に係る品質予測システム1Aの構成の一例を模式的に示す。本変形例では、品質予測システム1Aは、モデル生成装置101及び品質予測装置102を備える。モデル生成装置101は、品質予測モデル5の生成処理を実行するように構成された1又は複数台のコンピュータである。品質予測装置102は、訓練済みの品質予測モデル5を使用して、各調整項目の調整量を特定する処理を実行するように構成された1又は複数台のコンピュータである。
【0119】
モデル生成装置101及び品質予測装置102それぞれのハードウェア構成は、上記品質予測システム1Aのハードウェア構成と同様であってよい。モデル生成装置101及び品質予測装置102は、直接的に接続されてもよいし、或いはネットワークを介して接続されてもよい。モデル生成装置101及び品質予測装置102がネットワークを介して接続される場合、ネットワークの種類は、特に限定されなくてよく、例えば、インターネット、無線通信網、移動通信網、電話網、専用網等から適宜選択されてよい。ただし、モデル生成装置101及び品質予測装置102の間でデータをやり取りする方法は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、モデル生成装置101及び品質予測装置102の間では、記憶媒体を利用して、データがやりとりされてよい。
【0120】
モデル生成装置101は、品質予測プログラム81の学習処理に関する部分を実行することで、第1データ取得部111、第2データ取得部112、確認部113、データ転移部114、及び機械学習部115をソフトウェアモジュールとして備えるコンピュータとして動作する。品質予測プログラム81の学習処理に関する部分は、モデル生成プログラム、学習プログラム等と称されてよい。品質予測装置102は、品質予測プログラム81の推論処理に関する部分を実行することで、特定部116及び出力部117をソフトウェアモジュールとして備えるコンピュータとして動作する。候補提示部118は、モデル生成装置101及び品質予測装置102のいずれかに備えられてよい。
【0121】
本変形例では、モデル生成装置101は、ステップS101~ステップS106の処理を実行することで、訓練済みの品質予測モデル5を生成する。生成された訓練済みの品質予測モデル5は、任意のタイミングで品質予測装置102に提供されてよい。品質予測装置102は、ステップS108~ステップS110の処理を実行する。ステップS111及びステップS112の処理は、モデル生成装置101及び品質予測装置102のいずれかで実行されてよい。ステップS113の処理は、モデル生成装置101で実行される。本変形例によれば、モデル生成装置101において、品質予測モデル5の生成にかかるコストの低減を図ると共に、生成される品質予測モデル5の推定精度が低下するのを抑制することができる。また、品質予測装置102において、生成された品質予測モデル5を使用することで、第2製造設備25の調整項目の調整量を適切に決定することができる。
【0122】
<4.2>
上記実施形態において、品質予測システム1のソフトウェア構成から候補提示部118が省略されてよい。これに応じて、上記実施形態に係る処理手順からステップS111及びステップS112の処理が省略されてよい。一例では、ステップS111及びステップS112の処理が省略された場合でも、品質予測システム1は、ステップS109、ステップS110及びステップS113の処理を実行するように構成されてよい。他の一例では、ステップS111及びステップS112の処理が省略される場合、ステップS109、ステップS110及びステップS113の処理も省略されてよい。上記品質予測システム1Aにおいても同様である。
【0123】
また、上記実施形態に係る処理手順において、ステップS103の処理を実行した後、ステップS104によるループ処理(すなわち、再度のステップS102の処理)は省略されてもよい。一例では、品質指標の予測に貢献しないと認定された調整項目は、品質予測モデル5の説明変数(すなわち、入力)から除外されてよい。この品質指標の予測に貢献しないと認定された調整項目の取り扱いについては、オペレータに委ねられてもよい。上記品質予測システム1Aにおいても同様である。
【0124】
また、上記実施形態において、品質予測システム1のソフトウェア構成から確認部113が省略されてよい。これに応じて、上記実施形態に係る処理手順からステップS103及びステップS104の処理が省略されてよい。上記品質予測システム1Aにおいても同様である。
【0125】
<4.3>
上記実施形態では、第1学習データ30は、第2学習データ35に適合するように転移されることで、第2学習データ35と共に機械学習に使用される。しかしながら、転移学習の方法は、このような例に限定されなくてよい。品質予測モデル5が、第1学習データ30及び第2学習データ35のドメイン(各データを取得した環境)の差を考慮可能に構成されている場合には、第1学習データ30の上記変換は、省略されてよい。すなわち、品質予測システム1(及びモデル生成装置101)のソフトウェア構成において、データ転移部114は、省略されてよい。上記処理手順において、ステップS105の処理は省略されてよい。
【0126】
この場合、上記ステップS106では、制御部11は、機械学習部115として動作し、取得された第1学習データ30及び第2学習データを35使用して、第2製造設備25の各調整項目から第2製品の品質指標を予測するための品質予測モデル5の機械学習を実施する。品質予測モデル5は、カーネル関数を含む。機械学習は、第2学習データ35に対するカーネル関数に重み付けすることで、第1学習データ30に対するカーネル関数を構成すること、及び統計的な基準に基づいて、品質予測モデル5の各パラメータの値を調整することを、を含む。カーネル関数は、非線形写像を行うために用いられる。カーネル関数の重み付けは、第1学習データ30及び第2学習データ35のドメインの差が考慮されるように適宜設定されてよい。一例では、カーネル関数は、各学習データ(30、35)に対する非線形写像による特徴量及びパラメータにより構成される回帰式であってよい。機械学習では、制御部11は、第1学習データ30に対する非線形写像を、第2学習データ35に対する非線形写像に重み付けすることで構成した上で、統計的な基準(例えば、最尤推定、誤差最小化等)に基づいて、パラメータ及び重みを調整してよい。具体的な手法として、例えば、上記参考文献1におけるカーネル関数の手法、参考文献3「B. Cao, S.J. Pan, Y. Zhang, D.Y. Yeung, Q. Yang, "Adaptive Transfer Learning",in Proceedings of the 24th AAAI Conference on Artificial Intelligence (AAAI-10), pp.407-412 (2010)」で提案される手法等が採用されてよい。その他の構成は、上記実施形態と同様であってよい。
【符号の説明】
【0127】
1…品質予測システム、
11…制御部、12…記憶部、13…通信インタフェース、
14…外部インタフェース、
15…入力装置、16…出力装置、17…ドライブ、
81…品質予測プログラム、91…記憶媒体、
111…第1データ取得部、112…第2データ取得部、
113…確認部、114…データ転移部、
115…機械学習部、116…特定部、
117…出力部、118…候補提示部、
20…第1製造設備、25…第2製造設備、
30…第1学習データ、35…第2学習データ、
5…品質予測モデル