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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】軸受装置及びスピンドル装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20241008BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20241008BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20241008BHJP
   F16C 33/38 20060101ALI20241008BHJP
   F16C 35/12 20060101ALI20241008BHJP
   F16N 31/00 20060101ALI20241008BHJP
   B23Q 11/12 20060101ALI20241008BHJP
   B23B 19/02 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C19/16
F16C33/58
F16C33/38
F16C35/12
F16N31/00 B
B23Q11/12 E
B23B19/02 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021014410
(22)【出願日】2021-02-01
(65)【公開番号】P2022117742
(43)【公開日】2022-08-12
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】小栗 翔一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 修
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-038205(JP,A)
【文献】特開2002-361540(JP,A)
【文献】特開平11-166547(JP,A)
【文献】実公昭39-001309(JP,Y1)
【文献】国際公開第2013/002252(WO,A1)
【文献】特開2004-332928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/66
F16C 19/16
F16C 33/58
F16C 33/38
F16C 35/12
F16N 31/00
B23Q 11/12
B23B 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受と、前記転がり軸受の内輪に隣接して配置された内輪間座と、を備え、潤滑剤供給経路を介して外部から前記転がり軸受の内部へ潤滑剤を供給する軸受装置であって、
前記内輪間座は、径方向外方に突出して形成されるつば部を備え、
前記つば部の根元部は、前記内輪と当接する前記内輪間座の端面から軸方向に離間し、
前記つば部の前記転がり軸受側の側面は、前記つば部の根元部から径方向外方に沿って延びる円盤状の平坦面を有し、
前記つば部の前記根元部の前記転がり軸受側の側面と、前記転がり軸受の外輪の軸方向端面との軸方向隙間は、0.5mm~50mmであり、
前記つば部の前記根元部には、前記転がり軸受の内部から軸方向外側に排出された前記潤滑剤を貯留可能な空間が形成される、ことを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
前記転がり軸受の外輪が内嵌されると共に、排出された前記潤滑剤を貯蔵可能な貯蔵空間を有するハウジングと、
前記転がり軸受の外輪に隣接して配置され、前記貯蔵空間に連通する開口部を備える外輪間座と、
をさらに備え、
前記開口部は、前記内輪間座のつば部の径方向外側に形成される、請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
前記開口部は、前記外輪間座の円周方向の一部を、前記外輪と当接する端面から軸方向に切り欠くことで形成され、
前記つば部の前記転がり軸受側の側面の最外径部は、前記開口部の軸方向端面よりも前記転がり軸受側に位置する、請求項2に記載の軸受装置。
【請求項4】
前記つば部の前記転がり軸受側の側面は、径方向外方に向かって前記転がり軸受から軸方向に離間するテーパ部を備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の軸受装置。
【請求項5】
前記転がり軸受は、前記外輪が外輪軌道面に対して軸方向一方側の内周面にカウンタボアを有する、アンギュラ玉軸受であり、
前記カウンタボア寄りの前記内輪間座の前記つば部の外径は、前記外輪の前記カウンタボアの端部内径より大きい、請求項1~4のいずれか1項に記載の軸受装置。
【請求項6】
前記転がり軸受の保持器は、外周面が軸方向外側に向かって大径となる傾斜面を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の軸受装置。
【請求項7】
前記潤滑剤はグリースである、請求項1~6のいずれか1項に記載の軸受装置。
【請求項8】
スピンドルが、請求項1~7のいずれか1項に記載の軸受装置によって回転自在に支持された工作機械主軸用スピンドル装置。
【請求項9】
スピンドルが、請求項1~7のいずれか1項に記載の軸受装置によって回転自在に支持された高速モータ用スピンドル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受装置及びスピンドル装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸用スピンドル等を支持する軸受装置は、従来からジェット潤滑、オイルミスト、オイルエア等の油潤滑やグリース潤滑が用いられている。近年、スピンドルの高速化に伴い、微量な潤滑油を高速で間欠的に転がり軸受の軌道面や転動面に付着させるリーン潤滑や、グリースを間欠的に転がり軸受空間内に補給する潤滑法が開発され、dmN100万以上(dm:転がり軸受のピッチ円直径(mm)、N:回転速度(min-1))の高速化に対する性能が向上している。上記のような軸受に潤滑油やグリース等の潤滑剤を供給あるいは補給する潤滑装置においては、供給された潤滑剤を適切に排出することが、スピンドルの回転に伴う潤滑剤の撹拌抵抗を小さく抑えて軸受の温度上昇やトルク増大を避ける重要な要素である。
【0003】
特許文献1には、外部よりアンギュラ玉軸受内部へ潤滑剤を供給する潤滑剤供給経路と、アンギュラ玉軸受側面の内外輪の近傍に配置された回転体としての排出間座とを備え、排出間座の回転によって潤滑剤をアンギュラ玉軸受の外部へ排出するようにした軸受装置およびスピンドル装置が記載されている。これにより、長時間の連続運転が安定して可能となり、良好なグリース潤滑状態を保つことで軸受の長寿命化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-332928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の軸受装置及びスピンドル装置は、連続供給により潤滑剤で充満された軸受空間内へ、さらに潤滑剤を供給することにより潤滑剤を軸受の外部へ押し出すように構成されているため、潤滑剤を軸受外部へ排出させる力が小さい。特に、排出間座の排出つばと軸受外輪端面との径方向隙間が0.1~3mmで規定されているが(図1)、排出つばの転がり軸受側の側面と軸受外輪端面とが面一である場合には、潤滑剤は、排出つばの転がり軸受側の側面で跳ね返って戻され、軸受外部へ排出させる力が小さい。したがって、ハウジングに構成された貯蔵空間に潤滑剤が十分に排出され、長時間潤滑剤を補給し続けるには、さらなる改善の余地があった。
また、特許文献1には、排出つばがテーパ面を有する構成が開示されているが、テーパ面の先端と軸受外輪端面との間に、十分な距離を確保することができない。つまり、貯蔵空間に至るまでのグリースを収容する空間を十分に確保することができない。
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、供給された潤滑剤を継続的に排出でき、良好な潤滑状態を保って、長時間の連続運転が安定して可能であり、軸受の長寿命化を図ることができる、メンテナンスの容易な軸受装置およびスピンドル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 転がり軸受と、前記転がり軸受の内輪に隣接して配置された内輪間座と、を備え、潤滑剤供給経路を介して外部から前記転がり軸受の内部へ潤滑剤を供給する軸受装置であって、
前記内輪間座は、径方向外方に突出して形成されるつば部を備え、
前記つば部の根元部は、前記内輪と当接する前記内輪間座の端面から軸方向に離間し、
前記つば部の前記転がり軸受側の側面は、前記つば部の根元部から径方向外方に沿って延びる円盤状の平坦面を有する、ことを特徴とする軸受装置。
【0008】
(2) スピンドルが、(1)に記載の軸受装置によって回転自在に支持された工作機械主軸用スピンドル装置。
【0009】
(3) スピンドルが、(1)に記載の軸受装置によって回転自在に支持された高速モータ用スピンドル装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の軸受装置によれば、つば部の根元部は、内輪と当接する内輪間座の端面から軸方向に離間し、つば部の転がり軸受側の側面は、つば部の根元部から径方向外方に沿って延びる円盤状の平坦面を有することで、潤滑剤の供給により、転がり軸受の内部に滞留する潤滑剤は、転がり軸受の外部へ押し出されて排出されるとともに、内輪間座のつば部に付着した潤滑剤は、遠心力で外径側へ弾き飛ばされて、強制的かつ継続的に軸受外部へ排出される。これにより、供給された潤滑剤を継続的に排出でき、良好な潤滑状態を保って、長時間の連続運転が安定して可能となる。潤滑剤はグリース、オイルどちらでも有効であり、撹拌抵抗が減少して発熱を押さえることができ、軸受の長寿命化が図られる。
【0011】
また、本発明の工作機械主軸用スピンドル装置及び高速モータ用スピンドル装置によれば、スピンドルが、上記の軸受装置によって回転自在に支持されているので、スピンドルの回転に伴う潤滑剤の撹拌抵抗を小さく抑えて軸受の温度上昇やトルク増大を抑制することができ、軸受の長寿命化が図られ、メンテナンスが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係る軸受装置の要部断面図である。
図2】第1実施形態の第1変形例に係る軸受装置のカウンタボア側の潤滑剤排出構造の要部断面図である。
図3】第1実施形態の第2変形例に係る軸受装置の要部断面図である。
図4】第1実施形態の第3変形例に係る軸受装置の要部断面図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る軸受装置の要部断面図である。
図6】本発明の第3実施形態に係る軸受装置の要部断面図である。
図7】第3実施形態の変形例に係る軸受装置のカウンタボア側の潤滑剤排出構造の要部断面図である。
図8】本発明の第4実施形態に係る軸受装置の要部断面図である。
図9】本発明の変形例に係る軸受装置の要部断面図である。
図10】本発明の軸受装置が適用された工作機械主軸用スピンドル装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の各実施形態に係る軸受装置を図面に基づいて詳細に説明する。また、各実施形態の軸受装置は、工作機械主軸用スピンドルや、ACサーボモータ等の高速モータ用スピンドルを支持するスピンドル装置に好適に用いられる。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る軸受装置の要部断面図である。本実施形態の軸受装置10は、転がり軸受20と、転がり軸受20の内輪21に隣接して軸方向両側に配置された内輪間座30A,30Bと、外輪22に隣接して軸方向両側に配置された外輪間座40A,40Bと、外輪22及び外輪間座40A,40Bが内嵌されるハウジング50と、内輪21及び内輪間座30A,30Bが外嵌されるスピンドル(回転軸)60と、を備える。
【0015】
本実施形態の転がり軸受20はアンギュラ玉軸受であり、内輪21と、外輪22と、内輪21の内輪軌道面(内輪軌道溝)21aと外輪22の外輪軌道面(外輪軌道溝)22aとの間に接触角θを持って転動自在に配置された転動体である複数の玉23と、複数の玉23を回動自在に保持する保持器24と、を備える。外輪22は、外輪軌道面22aに対して軸方向一方側の内周面にテーパ状のカウンタボア25を有すると共に、径方向に貫通し、外輪軌道面22a寄りのカウンタボア25に開口する給油孔26を備える。
また、本実施形態の転がり軸受20は、内輪21及び外輪22の各軸方向端面の軸方向位置が同じであり、また、シール部材を有さず、内輪21の外周面と外輪22の内周面との間の軸受空間を軸方向両側で外部に開放した構成としている。
【0016】
内輪間座30A,30Bは、スピンドル60と嵌合する円筒部35と、該円筒部35の外周面から径方向外方に突出して形成されたつば部31とをそれぞれ有する。つば部31の根元部31aは、内輪21と当接する円筒部35の端面33から軸方向に離間しており、つば部31の転がり軸受側の側面32は、つば部31の根元部31aから径方向外方に沿って延びる円盤状の平坦面に形成されている。
これにより、内輪間座30A,30Bのつば部31と転がり軸受20の軸方向端面(外輪22の軸方向端面22b)との間には、つば部31の転がり軸受側の側面32と転がり軸受20の軸方向端面との間に所定の軸方向隙間C1、C2を持った空間が、内輪間座30A,30Bの円筒部35aの外周面から外径側に亘って形成される。
なお、転がり軸受20は、外輪幅と内輪幅が公差範囲内でほぼ同一なものを採用しているため、本実施形態において、所定の軸方向隙間C1は、外輪22の軸方向端面22b、又は内輪21の軸方向端面のいずれから起算しても同じである(軸方向隙間C2もC1と同様)。
また、本実施形態では、カウンタボア寄りの内輪間座30Bのつば部31は、反カウンタボア側の内輪間座30Aのつば部31よりも大径に形成されている。
【0017】
外輪間座40A,40Bは、その円周方向の複数か所に、外輪22と当接する端面43から軸方向に切り欠くことで形成される複数の切り欠き(開口部)41を備える。また、切り欠き41と軸方向において重なる、外輪間座40A,40Bの転がり軸受側の内周面には、内輪間座30A,30Bのつば部31との干渉を防止するように、残りの内周面よりも大径に形成された大径部42がそれぞれ形成されている。
なお、各大径部42の内径は、外輪22の両肩部の内周面に付着した潤滑剤Gが転がり軸受20の外部に押し出されやすいように、外輪22の対向する軸方向端面の内径(以下、端部内径とも称する)Da,Db以上に設定されている。
しがたって、外輪間座40A,40Bの内径が、外輪22の端部内径Da,Db以上で、且つ、内輪間座30A,30Bのつば部31との干渉しない場合には、大径部42が形成されなくてもよい。
【0018】
また、ハウジング50は、内周面に形成される一対の潤滑剤貯蔵空間51,51と、外輪22の給油孔26と外部に設けられた潤滑剤供給部201(図10参照)とを接続し、外部から転がり軸受20の内部へ潤滑剤Gを供給する潤滑剤供給経路52と、を備えている。潤滑剤貯蔵空間51は、切り欠き41の外周側に形成された環状空間であり、したがって、転がり軸受20の軸受空間は、内輪間座30A,30Bの外周面と外輪間座40A,40Bの内周面との間の空間、及び切り欠き41を介して潤滑剤貯蔵空間51に連通する。
【0019】
このように構成された軸受装置10では、外部から供給される潤滑剤Gが、潤滑剤供給経路52及び外輪22の給油孔26を介して転がり軸受20に供給される。例えば、潤滑剤Gがグリースの場合、所定の量のグリースが所定の間隔で定期的に補給される。転がり軸受20の内部へ供給された潤滑剤Gは、転がり軸受20の各部を潤滑し、その一部は転がり軸受20の内部に滞留される。転がり軸受20の内部に滞留された潤滑剤Gのうち、不要となった潤滑剤Gは、転がり軸受20の外部へ押し出されて排出され、軸受近傍に配置された内輪間座30A,30Bのつば部31に付着する。
【0020】
つば部31に付着した潤滑剤Gは、遠心力により外径側へ弾き飛ばされ、外輪間座40A,40Bの切り欠き41を介して潤滑剤貯蔵空間51に、強制的かつ継続的に排出されて潤滑剤貯蔵空間51に貯留される。
【0021】
また、軸受空間から軸方向外側へ押し出された潤滑剤Gは、つば部31の根元部31aに形成された空間にも貯留されるので、この空間に貯留された潤滑剤Gもつば部31に付着し、外径側に効率良く弾き飛ばされる。
【0022】
また、つば部31による排出は、転がり軸受20の回転速度の違いによる潤滑剤Gの供給量と排出量のバランスを取ることも可能である。例えば、高速回転の場合は、発熱による潤滑剤Gの枯渇化による早期損傷を防止するために、潤滑剤Gの供給量を増やす必要がある。しかし、むやみに供給量を増加すると、潤滑剤Gが過剰となり、昇温不安定や異常発熱などの恐れがある。しかし、内輪間座30A,30B(つば部31)は高速回転しているため遠心力が大きく、その分、潤滑剤Gの排出量も増加することから、供給量を増やしても転がり軸受20の内部に留まる潤滑剤Gの量は増加せず、転がり軸受20の内部および近傍に適量の潤滑剤Gを留めておくことができる。
【0023】
一方、低速回転の場合は、供給量を少なくしても、内輪間座30A,30B(つば部31)の遠心力が小さくなるため、潤滑剤Gの排出量も増加せず、潤滑剤Gを余計に排出させることは無い。このように、内輪間座30A,30Bにつば部31を設けることで、潤滑剤Gの供給量と排出量が回転速度に応じて適切に連動し、常時、良好な潤滑環境が得られる。
【0024】
なお、潤滑剤Gとしては、グリース、オイルどちらであっても有効であり、攪拌抵抗が減少することで発熱を抑えることができる。また、潤滑剤貯蔵空間51が潤滑剤Gで満たされた場合、軸受装置10の外部へ排出する必要があるが、本実施形態によれば、ハウジング50に設けられた潤滑剤貯蔵空間51と外部空間を連通する不図示の排出通路を設け、外部から吸引することにより、潤滑剤Gをほとんど排出させることができるので、メンテナンスが容易になる。特に、オイル補給潤滑の場合、外部空間との排出通路は有効である。
【0025】
特許文献1に記載の従来の排出間座は、排出つばの転がり軸受側の側面と転がり軸受の端面が面一であり、潤滑剤の排出が必ずしも良好でないケースも考えられる。これは、貯蔵空間へ通ずる軸受と排出つばとの隙間が非常に狭いことにより、潤滑剤がハウジング側へ排出されずに軸受へ戻ってしまう。この影響で急激に攪拌抵抗が大きくなると異常発熱が発生する場合もある。具体的には、回転する排出間座に付着した潤滑剤は、遠心力により排出間座から飛ばされた際に、外輪内径面に付着してしまうケースも多く、ハウジング側の貯蔵空間に移動しにくい。
【0026】
一方、本実施形態の軸受装置10では、つば部31の転がり軸受側の側面32及び外輪22の軸方向端面22b間の軸方向隙間C1,C2は、C1,C2=0.5~50mm、望ましくは0.5~20mm、より望ましくは0.5~5mmに設定される。軸方向隙間C1,C2が0.5mmより小さいと、上記で述べた潤滑剤Gの排出が困難である上、内輪21と外輪22の熱膨張差により、外輪22とつば部31が接触する虞がある。また、50mmより大きいと、潤滑剤Gがつば部31に辿り着き難く、即ち、つば部31による潤滑剤Gの排出がされず、軸受近傍に大量の潤滑剤Gが留まってしまう可能性がある。
【0027】
また、内輪間座30A,30Bのつば部31は、いわゆるスリンガー効果によっても潤滑剤Gを効果的に排出する。ここで、スリンガー効果とは、つば部31の外径側の周速度が、内径側の周速度より速くなるため、外径側での空気の圧力が下がることによってつば部31の内径側から外径側に向かって空気の流れが生じる効果を言う。
【0028】
なお、つば部31の転がり軸受側の側面32に、スリット、螺旋状の溝、その他潤滑剤の流動性を加速する凹凸を設けてもよい。つば部31にスリットや溝を設けて空気の乱流を作ることで、転がり軸受20内の空気が循環されて熱がこもりにくくなり、温度上昇が軽減される効果もある。さらに本実施形態の軸受装置10では、軸方向隙間C1,C2を設けたため、空気の循環がより促進され、油膜の粘度低下やグリースの蒸発等による早期劣化が抑制される。
【0029】
以上説明したように、本実施形態の軸受装置10によれば、転がり軸受20の内部に供給された潤滑剤Gは、つば部31の転がり軸受側の側面32と外輪22の軸方向端面22bとの間の軸方向隙間C1,C2によって転がり軸受20の外部へ押し出されて排出され、転がり軸受20近傍に配置され内輪間座30A,30Bのつば部31に付着し、遠心力の作用によって外径側へ弾き飛ばされ、潤滑剤貯蔵空間51に貯留される。また、潤滑剤貯蔵空間51からは、排出通路により外部へ排出される。これにより、潤滑剤Gの撹拌抵抗が減少して発熱が抑制され、良好な潤滑状態が維持され、結果として転がり軸受20の寿命が長くなる。また、転がり軸受20、即ち、内輪間座30A,30Bの回転速度に応じて潤滑剤Gを弾き飛ばす遠心力の大きさが変わるため、回転速度に応じた適切な潤滑剤供給が可能となる。
【0030】
図2は、第1実施形態の第1変形例に係る軸受装置のカウンタボア側の潤滑剤排出構造の要部断面図である。第1変形例の軸受装置10aでは、つば部31は、C1=0.5~50mmの範囲で、つば部31の転がり軸受側の側面32及び外輪22の軸方向端面22b間の軸方向隙間C1を大きく確保するように形成される。これにより、この軸方向隙間C1によって、内輪間座30Aの外周面と外輪間座40Aの内周面との間に形成された空間に、転がり軸受20から排出された潤滑剤Gを十分に貯留でき、且つ、つば部31に付着した潤滑剤Gを、遠心力の作用によって外径側へ弾き飛ばし、潤滑剤貯蔵空間51に排出できる。
【0031】
また、外輪間座40Aの内径より大きなつば部31が外輪間座40Aと干渉するのを防止するため、外輪間座40Aの大径部42は、切り欠き41の軸方向端面41aを超えた軸方向位置まで形成されている。
【0032】
さらに、つば部31の転がり軸受側の側面32の最外径部及び側面32の延長線L1は、切り欠き41の軸方向端面41aよりも転がり軸受20側に配置される(即ち、δ1>0)。これにより、つば部31に付着し、弾き飛ばされた潤滑剤Gは、切り欠き41を介して確実に潤滑剤貯蔵空間51へ排出される。
なお、断面矩形状の潤滑剤貯蔵空間51の転がり軸受20から離れた軸方向端面51aは、切り欠き41の軸方向端面41aと同一な軸方向位置に形成されており、切り欠き41を介して潤滑剤貯蔵空間51へ確実に排出される。
また、この変形例のつば部31のレイアウトは、反カウンタボア側にも適用されてもよい。
【0033】
図3は、第1実施形態の第2変形例に係る軸受装置の要部断面図である。この軸受装置10bでは、つば部31及び切り欠き41は、軸方向において、カウンタボアが形成される側の内輪間座30A及び外輪間座40Aのみに形成され、ハウジング50の潤滑剤貯蔵空間51もカウンタボア側に形成される。内輪21の外周面と外輪22の内周面との間の軸受空間は、反カウンタボア側に比べて、カウンタボア側が広く、カウンタボア側において貯留される潤滑剤Gの量が多くなり、転がり軸受の外部に排出される潤滑剤Gの量も多くなる。このため、カウンタボア側のみに、つば部31や切り欠き41を設けてもよい。
【0034】
図4は、第1実施形態の第3変形例に係る軸受装置の要部断面図である。転がり軸受20は、この軸受装置10cのように、内周面の内径が軸方向に亘って等しい、ストレート形状のカウンタボア25Aを有するものであってもよい。
この場合も、転がり軸受の内部に供給された潤滑剤Gは、転がり軸受の外部へ排出されるとともに、内輪間座30A,30Bのつば部31に付着した潤滑剤Gは、遠心力で外径側へ弾き飛ばされて、強制的かつ継続的に潤滑剤貯蔵空間51に貯蔵される。
【0035】
(第2実施形態)
次に、図5を参照して、第2実施形態の軸受装置について説明する。この軸受装置10dでは、内輪間座30Aのつば部31の外径Dfaが、カウンタボア25Aの端部内径Daより大きく設定されている。同様に、内輪間座30Bのつば部31の外径Dfbも、反カウンタボア側の端部内径Dbより大きく設定されている。
【0036】
これにより、外輪22の内周面に沿って転がり軸受20の外部に排出される潤滑剤Gがつば部31の転がり軸受側の側面32に付着しやすくなり、付着した潤滑剤Gは外径側に弾き飛ばされるので、潤滑剤Gの排出性をより向上させることができる。また、つば部31の外径Dfa、Dfbが大きいため、つば部31の外周部の周速がより速くなり、潤滑剤Gを弾き飛ばす遠心力の大きさが大きくなって、潤滑剤Gを確実に排出することができる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0037】
(第3実施形態)
次に、図6を参照して、第3実施形態の軸受装置について説明する。この軸受装置10eでは、内輪間座30A、30Bのつば部31の転がり軸受側の側面32の外径側部分に、径方向外方に向かって転がり軸受20から軸方向に離間するテーパ部34を備える。これにより、つば部31の転がり軸受側の側面と転がり軸受20の軸方向端面との軸方向隙間C1,C2がつば部31の外径側で大きくなり、転がり軸受20から押し出された潤滑剤Gを容易に排出できる。また、つば部31の転がり軸受側の側面32に付着した潤滑剤Gは、遠心力により、つば部31の転がり軸受側の側面32の円盤状の平坦面及びテーパ部34に沿って径方向外方に案内されて、確実に潤滑剤貯蔵空間51へ排出され、排出性が向上する。なお、テーパ部34は、必ずしも円すい面とする必要はなく、緩やかな曲面状とすることも可能である。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0038】
図7は、第3実施形態の変形例に係る軸受装置のカウンタボア側の潤滑剤排出構造の要部断面図である。この変形例の軸受装置10fでは、第1実施形態の第1変形例と同様に、つば部31は、C1=0.5~50mmの範囲で、つば部31の転がり軸受側の側面32及び外輪22の軸方向端面22b間の軸方向隙間C1をより大きく確保するように形成されている。これにより、この軸方向隙間C1によって、内輪間座30Aの外周面と外輪間座40Aの内周面との間に形成された空間に、転がり軸受20から排出された潤滑剤Gを十分に貯留でき、且つ、つば部31に付着した潤滑剤Gを、遠心力の作用によって外径側へ弾き飛ばし、潤滑剤貯蔵空間51に排出できる。
【0039】
また、外輪間座40Aの内径より大きなつば部31が外輪間座40Aと干渉するのを防止するため、外輪間座40Aの大径部42も、切り欠き41の軸方向端面41aを超えた軸方向位置まで形成されている。
【0040】
この変形例でも、つば部31は、転がり軸受側の側面32の外径側部分にテーパ部34を備えるが、テーパ部34の最外径部の軸方向位置が、切り欠き41の軸方向端面41aより転がり軸受20側となるように(即ち、δ2>0)、接触角αが設定されている。これにより、つば部31に付着し、弾き飛ばされた潤滑剤Gは、切り欠き41を介して確実に潤滑剤貯蔵空間51へ排出される。
なお、この変形例のつば部31のレイアウトも、反カウンタボア側にも適用されてもよい。
【0041】
(第4実施形態)
次に、図8を参照して、第4実施形態の軸受装置について説明する。この軸受装置10gでは、転がり軸受20の保持器24は、外周面に、転がり軸受20の中心から軸方向に離間するに従って、次第に大径となる傾斜面24aを有する。これにより、潤滑剤供給経路52及び外輪22の給油孔26を介して供給されて転がり軸受20内に貯留する潤滑剤Gは、保持器24の回転に伴う遠心力の作用により、傾斜面24aに沿って径方向及び軸方向外方に案内され、転がり軸受20から外部に排出され、つば部31に付着しやすくなる。つば部31に付着した潤滑剤Gは、遠心力によって径方向外方に弾き飛ばされて潤滑剤貯蔵空間51に貯蔵されるので、より効率的に潤滑剤Gを転がり軸受20から排出できる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0042】
なお、本発明は、前述した各実施形態及び変形例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【0043】
例えば、上記実施形態及び変形例では、アンギュラ玉軸受が用いられているが、本発明の転がり軸受は、これに限定されない。具体的に、図9に示す軸受装置10hのように、転がり軸受120として、円筒ころ軸受が使用されてもよく、その場合も、転がり軸受120以外の部分は、上記実施形態の構成を適用することができる。即ち、転がり軸受120においても、内輪121は、つば部31を有する内輪間座30A,30B間に配置され、外輪122は、切り欠き41を有する外輪間座40A,40B間に配置され、さらに、外輪122は、径方向に貫通して、潤滑剤供給経路52からの潤滑剤Gを軸受空間内に供給するための給油孔126を有する。この場合、転がり軸受120の形状は、左右対称であるので、内輪間座30A,30Bのつば部31の形状も同一であってもよい。
【0044】
図10は、上述した実施形態の軸受装置10が適用された工作機械主軸用スピンドル装置200を示す断面図である。スピンドル装置200は、モータビルトイン方式のものであり、スピンドル60が、モータ70に対して前方に配置される複数のアンギュラ玉軸受20と、モータ70に対して後方に配置される円筒ころ軸受120とによってハウジング50に対して回転自在に支持されている。また、ハウジング50には、ハウジング50の軸方向後方から各軸受20,120の外輪22,122の給油孔26,126までそれぞれ連通する複数の潤滑剤供給経路52が形成されている。ハウジング50の外部には、潤滑剤供給部201が設けられており、ハウジング50の軸方向後端面には、潤滑剤供給部201からの配管を通すための開口部202、又は、潤滑剤供給部201からの配管を中継する中継ジョイント等が設けられている。
したがって、複数のアンギュラ玉軸受20への潤滑剤供給は、開口部202に潤滑剤供給部201が接続されることで、複数の潤滑剤供給経路52を介して行われる。また、円筒ころ軸受120への潤滑剤供給は、潤滑剤供給部201が外輪間座40Aの軸方向後端面に設けられた開口部203に接続され、外輪間座40Aに形成された連通孔204を含む潤滑剤供給部52を介して行われる。
【0045】
さらに、ハウジング50には、各軸受20,120に対応する軸方向両側の内周面に一対の潤滑剤貯蔵空間51,51が形成されている。各軸受20,120の軸方向両側に位置する内輪間座30A,30B及び外輪間座40A,40Bには、つば部31,31及び切り欠き41,41がそれぞれ形成される。
【0046】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 転がり軸受と、前記転がり軸受の内輪に隣接して配置された内輪間座と、を備え、潤滑剤供給経路を介して外部から前記転がり軸受の内部へ潤滑剤を供給する軸受装置であって、
前記内輪間座は、径方向外方に突出して形成されるつば部を備え、
前記つば部の根元部は、前記内輪と当接する前記内輪間座の端面から軸方向に離間し、
前記つば部の前記転がり軸受側の側面は、前記つば部の根元部から径方向外方に沿って延びる円盤状の平坦面を有する、ことを特徴とする軸受装置。
この構成によれば、つば部の根元部は、内輪と当接する内輪間座の端面から軸方向に離間し、つば部の転がり軸受側の側面は、つば部の根元部から径方向に沿って延びる円盤状の平坦面を有することで、潤滑剤の供給により、転がり軸受の内部に滞留する潤滑剤は、転がり軸受の外部へ押し出されて排出されるとともに、内輪間座のつば部に付着した潤滑剤は、遠心力で外径側へ弾き飛ばされて、強制的かつ継続的に軸受外部へ排出される。これにより、供給された潤滑剤を継続的に排出でき、良好な潤滑状態を保って、長時間の連続運転が安定して可能となる。
【0047】
(2) 前記転がり軸受の外輪が内嵌されると共に、排出された前記潤滑剤を貯蔵可能な貯蔵空間を有するハウジングと、
前記転がり軸受の外輪に隣接して配置され、前記貯蔵空間に連通する開口部を備える外輪間座と、
をさらに備え、
前記開口部は、前記内輪間座のつば部の径方向外側に形成される、(1)に記載の軸受装置。
この構成によれば、転がり軸受から排出された潤滑剤を、外輪間座の開口部を介してハウジングの貯蔵空間に貯蔵できる。
(3) 前記開口部は、前記外輪間座の円周方向の一部を、前記外輪と当接する端面から軸方向に切り欠くことで形成され、
前記つば部の前記転がり軸受側の側面の最外径部は、前記開口部の軸方向端面よりも前記転がり軸受側に位置する、(2)に記載の軸受装置。
この構成によれば、つば部に付着した潤滑剤が、開口部内を確実に通過させることができる。
【0048】
(4) 前記つば部の前記転がり軸受側の側面と、前記転がり軸受の軸方向端面との軸方向隙間は、0.5mm~50mmである、(1)~(3)のいずれかに記載の軸受装置。
この構成によれば、転がり軸受内の潤滑剤を、外部に排出でき、また、潤滑剤をつば部に付着させることができる。
【0049】
(5) 前記つば部の前記側面は、径方向外方に向かって前記外輪の前記側面から軸方向に離間するテーパ部を備える、(1)~(4)のいずれかに記載の軸受装置。
この構成によれば、つば部に付着した潤滑剤を、効率よく排出できる。
【0050】
(6) 前記前記つば部の外径は、前記転がり軸受の外輪の内径より大きい、(1)~(5)のいずれかに記載の軸受装置。
この構成によれば、外輪の内周面に沿って転がり軸受の外部に排出される潤滑剤もつば部の転がり軸受側の側面に付着しやすくなり、付着した潤滑剤は外径側に弾き飛ばされるので、潤滑剤の排出性をより向上させることができる。
【0051】
(7) 前記転がり軸受の保持器は、外周面が軸方向外側に向かって大径となる傾斜面を有する、(1)~(6)のいずれかに記載の軸受装置。
この構成によれば、保持器に付着した潤滑剤を、遠心力により転がり軸受から外部へ効率よく排出できる。
【0052】
(8) 前記潤滑剤はグリースである、(1)~(7)のいずれかに記載の軸受装置。
この構成によれば、グリース潤滑される転がり軸受を良好な潤滑状態に維持できる。
【0053】
(9) スピンドルが、(1)~(8)のいずれかに記載の軸受装置によって回転自在に支持された工作機械主軸用スピンドル装置。
この構成によれば、高速回転する工作機械主軸用スピンドル装置のスピンドルを、長寿命化が図られた軸受により支持でき、メンテナンスが容易となる。
【0054】
(10) スピンドルが、(1)~(8)のいずれかに記載の軸受装置によって回転自在に支持された高速モータ用スピンドル装置。
この構成によれば、高速回転する高速モータ用スピンドル装置のスピンドルを、長寿命化が図られた軸受により支持でき、メンテナンスが容易となる。
【符号の説明】
【0055】
10,10a~10h 軸受装置
20,120 転がり軸受
21 内輪
22 外輪
24 保持器
24a 傾斜面
30A,30B 内輪間座
31 つば部
32 転がり軸受側の側面
33 内輪と当接する端面
34 テーパ部
35 円筒部
40A,40B 外輪間座
41 切り欠き(開口部)
50 ハウジング
51 潤滑剤貯蔵空間
52 潤滑剤供給経路
60 スピンドル
C1,C2 つば部の転がり軸受側の側面と転がり軸受の軸方向端面との軸方向隙間
Da,Db 外輪の端部内径
Dfa,Dfb つば部の外径
G 潤滑剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10