(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】永久磁石同期電動機の高効率運転制御装置および高効率運転制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 21/24 20160101AFI20241008BHJP
【FI】
H02P21/24
(21)【出願番号】P 2021018673
(22)【出願日】2021-02-09
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢一郎
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-180425(JP,A)
【文献】特開2010-029030(JP,A)
【文献】特開2001-251889(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0099667(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石同期電動機の
定格速度での運転時に励磁電流がゼロとなるように設定したv/f制御パターンによって、周波数指令から、永久磁石同期電動機を駆動するインバータの3相電圧指令を生成するv/f制御部であって、前記設定したv/f制御パターンによって周波数指令から得たδ軸の電圧指令v
δに、推定した永久磁石同期電動機の速度起電力位相に基づいて生成した電圧補正量v
δcorを加算して求めたδ方向の電圧指令と、ゼロに設定したγ軸方向の電圧指令v
γとを、前記周波数指令を積分して求めた出力電圧位相θ
vfによって座標変換してインバータの3相電圧指令を生成するv/f制御部と、
前記生成されたインバータの3相電圧指令および3相検出電流から永久磁石同期電動機の回転子位置を推定する回転子位置推定部と、
前記生成されたインバータの3相電圧指令、インバータの3相検出電流、前記推定された永久磁石同期電動機の回転子位置に基づいて、永久磁石同期電動機駆動時の速度起電力位相を推定する速度起電力位相推定部と、
前記速度起電力位相推定部で推定された速度起電力位相がゼロになるようにPI制御してδ軸方向の電圧補正量v
δcorを生成し、該電圧補正量v
δcorを前記v/f制御部のδ軸の電圧指令に加算する電圧補正量とする電圧補正量生成PI制御器と、を備え、
前記v/f制御部で生成された3相電圧指令によって前記インバータを制御することを特徴とする永久磁石同期電動機の高効率運転制御装置。
【請求項2】
前記回転子位置推定部は、前記インバータの3相電圧指令および3相検出電流をαβ座標軸に変換したα軸電圧vα、β軸電圧vβ、α軸電流iα、β軸電流iβを用いて、(4)式、(5)式、(6)式を演算して回転子位置θを推定し、
【数4】
【数5】
【数6】
(ただし、λαはα軸の磁束ベクトル、λβはβ軸の磁束ベクトル、sはラプラス演算子、ωcは角周波数、R1は永久磁石同期電動機の巻線抵抗、Lqはq軸インダクタンス)
前記速度起電力位相推定部は、前記インバータの3相電圧指令および3相検出電流に対して、前記推定された回転子位置θを用いて(7)式の座標変換を施してd軸電圧vd、d軸電流idを推定し、
【数7】
前記推定されたd軸電圧vd、d軸電流idを用いて(2)式を演算して速度起電力位相を推定することを特徴とする請求項1に記載の永久磁石同期電動機の高効率運転制御装置。
【数2】
(ただし、Ldはd軸インダクタンス)
【請求項3】
v/f制御部が、永久磁石同期電動機の
定格速度での運転時に励磁電流がゼロとなるように設定したv/f制御パターンによって、周波数指令から、永久磁石同期電動機を駆動するインバータの3相電圧指令を生成するステップであって、前記設定したv/f制御パターンによって周波数指令から得たδ軸の電圧指令v
δに、推定した永久磁石同期電動機の速度起電力位相に基づいて生成した電圧補正量v
δcorを加算して求めたδ方向の電圧指令と、ゼロに設定したγ軸方向の電圧指令v
γとを、前記周波数指令を積分して求めた出力電圧位相θ
vfによって座標変換してインバータの3相電圧指令を生成するv/f制御ステップと、
回転子位置推定部が、前記生成されたインバータの3相電圧指令および3相検出電流から永久磁石同期電動機の回転子位置を推定する回転子位置推定ステップと、
速度起電力位相推定部が、前記生成されたインバータの3相電圧指令、インバータの3相検出電流、前記推定された永久磁石同期電動機の回転子位置に基づいて、永久磁石同期電動機駆動時の速度起電力位相を推定する速度起電力位相推定ステップと、
電圧補正量生成PI制御器が、前記速度起電力位相推定部で推定された速度起電力位相がゼロになるようにPI制御してδ軸方向の電圧補正量v
δcorを生成し、該電圧補正量v
δcorを前記v/f制御ステップにおけるδ軸の電圧指令に加算する電圧補正量とするステップと、を備え、
前記v/f制御ステップで生成された3相電圧指令によって前記インバータを制御することを特徴とする永久磁石同期電動機の高効率運転制御方法。
【請求項4】
前記回転子位置推定ステップは、前記インバータの3相電圧指令および3相検出電流をαβ座標軸に変換したα軸電圧vα、β軸電圧vβ、α軸電流iα、β軸電流iβを用いて、(4)式、(5)式、(6)式を演算して回転子位置θを推定するステップを含み、
【数4】
【数5】
【数6】
(ただし、λαはα軸の磁束ベクトル、λβはβ軸の磁束ベクトル、sはラプラス演算子、ωcは角周波数、R1は永久磁石同期電動機の巻線抵抗、Lqはq軸インダクタンス)
前記速度起電力位相推定ステップは、前記インバータの3相電圧指令および3相検出電流に対して、前記推定された回転子位置θを用いて(7)式の座標変換を施してd軸電圧vd、d軸電流idを推定するステップと、
【数7】
前記推定されたd軸電圧vd、d軸電流idを用いて(2)式を演算して速度起電力位相を推定するステップとを含んでいることを特徴とする請求項3に記載の永久磁石同期電動機の高効率運転制御方法。
【数2】
(ただし、Ldはd軸インダクタンス)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ駆動による永久磁石同期電動機の高効率運転制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
省エネ・省スペース化の観点から、誘導電動機に代わり回転子に永久磁石を用いた永久磁石同期電動機(Permanent Magnet Synchronous Motor;以下PMSMと称することもある)が注目されている。このPMSMの簡素な制御手法としてv/f一定制御が知られており、周波数指令に対応した電圧指令をインバータから出力する。この電圧/周波数の比率は、予め取得した電動機のパラメータから効率よく動作する点が設定される。
【0003】
一般に、負荷時において固定子の巻線温度の上昇から回転子に熱が伝わることや回転子に鎖交する磁束により回転子の永久磁石の温度が上昇する。また、高速回転時においては風損やベアリングの摩擦熱等によって無負荷においても磁石の温度上昇が懸念される。
【0004】
永久磁石はある上限温度を超えると減磁するため、回転子磁石の温度上昇を保護する必要がある。
【0005】
また、磁石の温度上昇により誘起電圧が低下し、v/f制御の場合予め設定した動作点から外れるため、運転効率の低下につながる。
【0006】
従来、モータの磁石温度を推定する方法は、例えば特許文献1に記載のものが提案されていた。また、従来、永久磁石が設けられたモータの制御方法として、例えば特許文献2に記載のものが提案されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-28806号公報
【文献】特開2004-015891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、回転子内部に感温磁性体を埋め込む必要があり、電動機の構造が複雑になる。さらに、温度測定用に高周波電圧を重畳する必要があり、異音の発生や効率低下が懸念される。
【0009】
特許文献2には、磁石の温度上昇により誘起電圧が低下したときの高効率運転制御方法は記載されていない。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、磁石の温度変化に不感な永久磁石同期電動機の高効率運転制御装置および高効率運転制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための請求項1に記載の永久磁石同期電動機の高効率運転制御装置は、
永久磁石同期電動機の定格速度での運転時に励磁電流がゼロとなるように設定したv/f制御パターンによって、周波数指令から、永久磁石同期電動機を駆動するインバータの3相電圧指令を生成するv/f制御部であって、前記設定したv/f制御パターンによって周波数指令から得たδ軸の電圧指令vδに、推定した永久磁石同期電動機の速度起電力位相に基づいて生成した電圧補正量vδcorを加算して求めたδ方向の電圧指令と、ゼロに設定したγ軸方向の電圧指令vγとを、前記周波数指令を積分して求めた出力電圧位相θvfによって座標変換してインバータの3相電圧指令を生成するv/f制御部と、
前記生成されたインバータの3相電圧指令および3相検出電流から永久磁石同期電動機の回転子位置を推定する回転子位置推定部と、
前記生成されたインバータの3相電圧指令、インバータの3相検出電流、前記推定された永久磁石同期電動機の回転子位置に基づいて、永久磁石同期電動機駆動時の速度起電力位相を推定する速度起電力位相推定部と、
前記速度起電力位相推定部で推定された速度起電力位相がゼロになるようにPI制御してδ軸方向の電圧補正量vδcorを生成し、該電圧補正量vδcorを前記v/f制御部のδ軸の電圧指令に加算する電圧補正量とする電圧補正量生成PI制御器と、を備え、
前記v/f制御部で生成された3相電圧指令によって前記インバータを制御することを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の永久磁石同期電動機の高効率運転制御装置は、請求項1において、
前記回転子位置推定部は、前記インバータの3相電圧指令および3相検出電流をαβ座標軸に変換したα軸電圧vα、β軸電圧vβ、α軸電流iα、β軸電流iβを用いて、(4)式、(5)式、(6)式を演算して回転子位置θを推定し、
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】
(ただし、λαはα軸の磁束ベクトル、λβはβ軸の磁束ベクトル、sはラプラス演算子、ωcは角周波数、R1は永久磁石同期電動機の巻線抵抗、Lqはq軸インダクタンス)
前記速度起電力位相推定部は、前記インバータの3相電圧指令および3相検出電流に対して、前記推定された回転子位置θを用いて(7)式の座標変換を施してd軸電圧vd、d軸電流idを推定し、
【0017】
【0018】
前記推定されたd軸電圧vd、d軸電流idを用いて(2)式を演算して速度起電力位相を推定することを特徴とする。
【0019】
【0020】
(ただし、Ldはd軸インダクタンス)
請求項3に記載の永久磁石同期電動機の高効率運転制御方法は、
v/f制御部が、永久磁石同期電動機の定格速度での運転時に励磁電流がゼロとなるように設定したv/f制御パターンによって、周波数指令から、永久磁石同期電動機を駆動するインバータの3相電圧指令を生成するステップであって、前記設定したv/f制御パターンによって周波数指令から得たδ軸の電圧指令vδに、推定した永久磁石同期電動機の速度起電力位相に基づいて生成した電圧補正量vδcorを加算して求めたδ方向の電圧指令と、ゼロに設定したγ軸方向の電圧指令vγとを、前記周波数指令を積分して求めた出力電圧位相θvfによって座標変換してインバータの3相電圧指令を生成するv/f制御ステップと、
回転子位置推定部が、前記生成されたインバータの3相電圧指令および3相検出電流から永久磁石同期電動機の回転子位置を推定する回転子位置推定ステップと、
速度起電力位相推定部が、前記生成されたインバータの3相電圧指令、インバータの3相検出電流、前記推定された永久磁石同期電動機の回転子位置に基づいて、永久磁石同期電動機駆動時の速度起電力位相を推定する速度起電力位相推定ステップと、
電圧補正量生成PI制御器が、前記速度起電力位相推定部で推定された速度起電力位相がゼロになるようにPI制御してδ軸方向の電圧補正量vδcorを生成し、該電圧補正量vδcorを前記v/f制御ステップにおけるδ軸の電圧指令に加算する電圧補正量とするステップと、を備え、
前記v/f制御ステップで生成された3相電圧指令によって前記インバータを制御することを特徴とする。
【0021】
請求項4に記載の永久磁石同期電動機の高効率運転制御方法は、請求項3において、
前記回転子位置推定ステップは、前記インバータの3相電圧指令および3相検出電流をαβ座標軸に変換したα軸電圧vα、β軸電圧vβ、α軸電流iα、β軸電流iβを用いて、(4)式、(5)式、(6)式を演算して回転子位置θを推定するステップを含み、
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
(ただし、λαはα軸の磁束ベクトル、λβはβ軸の磁束ベクトル、sはラプラス演算子、ωcは角周波数、R1は永久磁石同期電動機の巻線抵抗、Lqはq軸インダクタンス)
前記速度起電力位相推定ステップは、前記インバータの3相電圧指令および3相検出電流に対して、前記推定された回転子位置θを用いて(7)式の座標変換を施してd軸電圧vd、d軸電流idを推定するステップと、
【0026】
【0027】
前記推定されたd軸電圧vd、d軸電流idを用いて(2)式を演算して速度起電力位相を推定するステップとを含んでいることを特徴とする。
【0028】
【0029】
(ただし、Ldはd軸インダクタンス)
【発明の効果】
【0030】
請求項1~4に記載の発明によれば、v/f制御パターンにより得た電圧指令に、推定した永久磁石同期電動機の速度起電力位相がゼロになるようにPI制御して生成した電圧補正量を加算した電圧指令によって、インバータを制御しているので、磁石温度の変化により誘起電圧が変化しても高効率運転制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施形態例による高効率運転制御装置の構成図。
【
図2】励磁電流がゼロとなるように設定した際のv/f制御における電圧ベクトル図。
【
図3】v/f制御において誘起電圧が低下した際の電圧ベクトル図。
【
図4】v/f制御における、高効率運転のための電圧ベクトル図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。本実施形態例では、誘起電圧の変動から高効率動作点を推定し、磁石の温度変化に不感な高効率運転制御を可能にする。
【0033】
図1に、本実施形態例による高効率運転制御装置の全体構成を示す。
図1において10は、速度起電力位相が常に0となる電圧指令を生成するv/f制御部であり、設定したv/f制御パターンに基づいて、永久磁石同期電動機のパラメータから事前に設定される周波数指令fcomから、後で詳述する構成によりインバータ11の3相電圧指令v
*
uvwを生成する。
【0034】
12は、インバータ11のスイッチング動作により出力される3相の出力電圧vuvwによって駆動される永久磁石同期電動機である。
【0035】
13は、インバータ11の出力電流を検出して3相検出電流iuvwを出力する電流検出器である。
【0036】
14は、インバータ11の3相電圧指令v*
uvwおよび3相検出電流iuvwをαβ座標軸に変換するuvw/αβ変換部である。
【0037】
15は、uvw/αβ変換部14で変換されたα軸電圧vα、β軸電圧vβ、α軸電流iα、β軸電流iβを用いて、後述の(4)式、(5)式、(6)式を演算して回転子位置θを推定する回転子位置推定部である。
【0038】
16は、インバータ11の3相電圧指令v*
uvwおよび3相検出電流iuvwに対して、前記推定された回転子位相θを用いて、後述の(7)式の座標変換を施してd軸電圧vd、d軸電流idを出力(推定)するuvw/dq変換部である。
【0039】
17は、前記出力されたd軸電圧vd、d軸電流idを用いて後述の(2)式を演算し、速度起電力位相θLを推定する速度起電力位相推定部である。
【0040】
前記uvw/αβ変換部14および回転子位置推定部15によって本発明の回転子位置推定部を構成している。
【0041】
前記uvw/dq変換部16および速度起電力位相推定部17によって本発明の速度起電力位相推定部を構成している。
【0042】
18は目標値0と前記速度起電力位相θLの偏差をとる減算器、19は比例ゲインKpを有したPI制御の比例項、20は積分ゲインKiを有したPI制御の積分項、21は積分器、22は比例項19の出力と積分器21の出力を加算してδ軸の電圧補正量vδcorを出力する加算器である。
【0043】
これら減算器18、PI制御の比例項19、積分項20、積分器21、加算器22によって、前記速度起電力位相θLがゼロとなるようにPI制御してδ軸方向の電圧補正量vδcorを生成する電圧補正量生成PI制御器30を構成している。
【0044】
前記v/f制御部10内の31は、PMSM(12)の定格速度での運転時に励磁電流がゼロとなるように設定されたv/f制御パターンであり、入力される周波数指令fcomに対応したδ軸の電圧指令vδを出力する。
【0045】
32は、δ軸の電圧指令vδと電圧補正量生成PI制御器30で生成されたδ軸方向の電圧補正量vδcorを加算する加算器である。
【0046】
33は、周波数指令fcomを積分して出力電圧位相θvfを出力する積分器である。
【0047】
34は、加算器32の加算出力であるδ方向の電圧指令と、ゼロに設定したγ軸方向の電圧指令vγとを、前記出力電圧位相θvfによって座標変換して3相電圧指令v*
uvwを生成するγδ/uvw変換部である。
【0048】
このように、δ軸の電圧補正量vδcorがv/f制御パターン31の出力であるδ軸の電圧指令vδにフィードバックされる(加算器32において加算される)ことによって、速度起電力位相θLが常に0となる電圧指令(v*
uvw)が生成される。
【0049】
v/f制御とは、周波数指令によって出力電圧の大きさを設定することにより、出力電流を一定に制御する手法である。また、電動機駆動のためのトルクに寄与しない励磁電流成分は周波数と電圧の比で決定するため、一般には、電動機の定格速度での運転時において、励磁電流が0となるよう事前にv/fパターンが設定される。
【0050】
ここで、上記の通りに設定した際の電圧ベクトル図を
図2に示す。
図2において、回転子の磁束方向をd軸、直交する方向をq軸として、I1:出力電流、V1:出力電圧、E:誘起電圧、Vr:電圧降下、VL:速度起電力である。
【0051】
励磁電流=0、すなわちd軸方向電流id=0となるよう設定したv/fパターンにおいては、速度起電力VLはd軸方向のみに発生する。
【0052】
これに対して、回転子磁石温度が上昇し、誘起電圧Eが低下した際の電圧ベクトル図を
図3に示す。
図3に示すように、磁石の初期温度で設定した出力電圧V1では誘起電圧Eが低下した際に、d軸に対する速度起電力VLの位相が変化していることがわかる。
【0053】
したがって、電動機の定格速度において励磁電流が0となるように事前に設定したv/fパターンによれば、電動機の定格速度において、速度起電力VLの位相から回転子磁石の温度上昇を推定することができる。
【0054】
次に、速度起電力VLの位相の推定について示す。PMSM(永久磁石同期電動機12)のdq座標軸上の電圧方程式は下記(1)式の通りに表される。
【0055】
【0056】
ここで、vd:d軸の電圧指令、vq:q軸の電圧指令、id:d軸の電流指令、iq:q軸の電流指令、R1:巻線抵抗(定数)、Ld:d軸インダクタンス、Lq:q軸インダクタンス(定数)、ω:回転速度、λ:固定子鎖交磁束(定数)。
【0057】
(1)式より、dq軸上の速度起電力は、次の通り表される。
【0058】
d軸方向の速度起電力:ωLqiqvd-R1id
q軸方向の速度起電力:ωLdid
速度起電力VLの位相θVLは、各軸の逆正接で得られるため次の(2)式となる。
【0059】
【0060】
(ただし、Ldはd軸インダクタンス)
次に、(2)式を導出するためのvd、idの推定について示す。
【0061】
v/f制御は、電動機駆動に回転子位置情報を必要としないため、位置センサが不要な制御手法である。そこで、dq座標軸上の電圧・電流成分を求めるために、回転子位置を推定する必要がある。
【0062】
この回転子位置は、αβ座標軸上の電圧方程式から得られる各軸の鎖交磁束の逆正接から推定できる。αβ座標軸とは、α軸をU相とし、これと直交した方向をβ軸としV相・W相を分解した二相固定座標軸のことである。αβ座標軸上の電圧方程式は次の(3)式の通りである。
【0063】
【0064】
ここで、R1:巻線抵抗(定数)、Lq:q軸インダクタンス(定数、pは微分演算子、λは固定座標軸上で定義した磁束ベクトルである。回転子位置θは、次の(4)式の通り、磁束ベクトルの逆正接から得られる。
【0065】
【0066】
一般にファラデーの法則が示すように、ある種の電圧情報を積分することにより鎖交磁束が得られるが、純粋な積分は電圧誤差や電流検出器のオフセットなどの計測の影響により、演算結果が収束しない問題がある。
【0067】
そこで本実施形態例では、次の(5)式、(6)式に示すローパスフィルタを使用し初期誤差を低減させる。
【0068】
【0069】
【0070】
(ただし、λαはα軸の磁束ベクトル、λβはβ軸の磁束ベクトル、sはラプラス演算子、ωcは角周波数、R1は永久磁石同期電動機の巻線抵抗、Lqはq軸インダクタンス)
前記(5)式、(6)式におけるωcは小さすぎると誤差収束に時間を要し、大きすぎると運転周波数対域で積分特性を失うため、適切な値を選択する必要があるが、今回は例として10rad/sとする。
【0071】
したがって、回転子位置推定部15において、(4)式、(5)式、(6)式を演算することによって回転子位置θが得られる。
【0072】
このようにして得られた回転子位置θを用いて、uvw/dq変換部16が、インバータ11の3相電圧指令v*
uvwおよび3相検出電流iuvwに対して(7)式の座標変換を施すことにより、d軸電圧vd、d軸電流idを推定することができる。
【0073】
【0074】
そして速度起電力位相推定部17が(2)式を演算することによって速度起電力の位相θVLを導出し、該θVLを速度起電力位相θLとして出力する。
【0075】
【0076】
ここで、永久磁石同期電動機12の高効率運転のためには前記
図2に示すように、速度起電力の位相が0°となる必要がある。
図4は高効率運転のための電圧レベルを示しており、
図3と同様にI1は出力電流、V1は出力電圧、Eは誘起電圧、VLは速度起電力である。
図4では出力電圧V1の位相をδ位相と定義している。
【0077】
永久磁石同期電動機12の回転子磁石の温度上昇により誘起電圧Eが低下した際は、
図3に示すように速度起電力VLの位相が正となり、出力電圧V1を減らすことにより速度起電力VLの位相を0°とすることができる。
【0078】
また、負荷の軽減などで磁石温度が低下した際は、誘起電圧Eが上昇し、速度起電力VLの位相が負となるため、出力電圧V1を増やすことにより速度起電力VLの位相を0°とすることができる。
【0079】
したがって、前記速度起電力位相推定部17において速度起電力VLの位相θLを推定し、これが0となるよう次の(8)式の通り電圧補正量生成PI制御器30によりδ軸方向の電圧指令を補正する。
【0080】
【0081】
ここで、Kpは比例ゲイン、Kiは積分ゲイン、vδcorはPI制御により生成される電圧補正量である。これにより、誘起電圧の変動に影響を受けない高効率運転が可能となる。
【0082】
以上のように本発明によれば、磁石温度の変化により誘起電圧が変化したとしても高効率運転制御を行うことができる。
【0083】
また、温度推定用の誘起電圧検出器は不要であり装置を小型化できる。また、回転子内部に感温磁性体を埋め込む必要もなく、構造が簡素である。さらには、温度測定用に高調波電圧を重畳する必要がないため、異音の発生や効率の低下のおそれがない。
【符号の説明】
【0084】
10…v/f制御部
11…インバータ
12…永久磁石同期電動機
13…電流検出器
14…uvw/αβ変換部
15…回転子位置推定部
16…uvw/dq変換部
17…速度起電力位相推定部
18…減算器
19…PI制御の比例項
20…PI制御の積分項
21、33…積分器
22、35…加算器
24…γδ/uvw変換部
31…v/f制御パターン