(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】操作対象装置
(51)【国際特許分類】
E02F 9/20 20060101AFI20241008BHJP
E02F 3/43 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
E02F9/20 M
E02F3/43 A
(21)【出願番号】P 2021024859
(22)【出願日】2021-02-19
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136250
【氏名又は名称】立石 博臣
(74)【代理人】
【識別番号】100198719
【氏名又は名称】泉 良裕
(72)【発明者】
【氏名】平岡 京
(72)【発明者】
【氏名】島津 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】永井 政樹
(72)【発明者】
【氏名】吉原 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】小岩井 一茂
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-082752(JP,A)
【文献】特開2007-051781(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0004778(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
E02F 3/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作対象装置であって、
特定操作を繰り返す特定作業において操作対象の最適又は準最適な最適動特性を演算し、前記操作対象の動特性を前記最適動特性に更新する動特性更新部と、
前記特定作業が行われている間に取得した作業軌跡データを用いて作業軌跡分散値を演算する作業軌跡分散値演算部と、
前記作業軌跡分散値演算部で演算された前記作業軌跡分散値を生産性
として取得する生産性取得部と、
を備え、
前記動特性は、オペレータの操作に対する前記操作対象の反応の高低に関する変数である応答性であり、
前記動特性更新部は、第1動特性を前記動特性に設定し、
前記作業軌跡分散値演算部は、前記動特性が前記第1動特性に設定されている状態で前記特定作業が行われている間に取得した作業軌跡データを用いて第1作業軌跡分散値を演算し、
前記生産性取得部は、前記第1作業軌跡分散値を第1生産性として取得し、
前記動特性更新部は、前記第1動特性とは異なる第2動特性を前記動特性に設定し、
前記作業軌跡分散値演算部は、前記動特性が前記第2動特性に設定されている状態で前記特定作業が行われている間に取得した作業軌跡データを用いて第2作業軌跡分散値を演算し、
前記生産性取得部は、前記第2作業軌跡分散値を第2生産性として取得し、
前記動特性更新部は、前記第1動特性と前記第2動特性と前記第1生産性と前記第2生産性とに基づいて前記最適動特性を演算することを特徴とする操作対象装置。
【請求項2】
操作対象装置であって、
特定操作を繰り返す特定作業において操作対象の最適又は準最適な最適動特性を演算し、前記操作対象の動特性を前記最適動特性に更新する動特性更新部と、
前記特定作業が行われた場合の作業安定性を演算する作業安定性演算部
と、
前記作業安定性演算部で演算された前記作業安定性を生産性
として取得する生産性取得部と、
を備え、
前記動特性は、オペレータの操作に対する前記操作対象の反応の高低に関する変数である応答性であり、
前記動特性更新部は、第1動特性を前記動特性に設定し、
前記作業安定性演算部は、前記動特性が前記第1動特性に設定されている状態で前記特定作業が行われた場合の第1作業安定性を演算し、
前記生産性取得部は、前記第1作業安定性を第1生産性として取得し、
前記動特性更新部は、前記第1動特性とは異なる第2動特性を前記動特性に設定し、
前記作業安定性演算部は、前記動特性が前記第2動特性に設定されている状態で前記特定作業が行われた場合の第2作業安定性を演算し、
前記生産性取得部は、前記第2作業安定性を第2生産性として取得
し、
前記動特性更新部は、前記第1動特性と前記第2動特性と前記第1生産性と前記第2生産性とに基づいて前記最適動特性を演算することを特徴とする
操作対象装置。
【請求項3】
過去に設定された前記最適動特性である設定済最適動特性を作業毎に記憶する記憶部と、
作業を特定する作業特定部と、
を更に備え、
前記動特性更新部は、前記作業特定部で特定された作業に対応する一の設定済最適動特性を前記記憶部から取得し、前記一の設定済最適動特性を前記第1動特性として用いることを特徴とする
請求項1又は2に記載の操作対象装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作対象装置に関し、より詳細には、特定操作を繰り返す特定作業において操作対象の動特性を最適動特性に更新する操作対象装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建設機械の操作を自動または半自動で行うマシンコントロール機能を有する建設機械が知られている(例えば、特許文献1)。当該特許文献1では、マシンコントロール機能の実行中に、自動操作の操作量及び手動操作の操作量を表示装置に表示することが開示されている。
【0003】
また、自動運転技術の分野において、車両の走行軌跡の分散を走行シーンごとに演算する技術が知られている(例えば、特許文献2)。当該特許文献2において、走行軌跡の分散は、周知の手法により演算されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-108721号公報
【文献】特開2017-138282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載の発明では、単に自動操作と手動操作との差分をオペレータに教示するものであるから、オペレータの操作技量が低ければ、教示された通りに操作できないという問題がある。すなわち、特許文献1では、操作技量に適した操作性をオペレータに提供することが困難である。そのため、最終的な生産性も向上せず、オペレータの技術向上を図ることもできない。
【0006】
そこで、本発明は、オペレータの操作技量に適した操作性を当該オペレータに提供することが可能な操作対象装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、操作対象装置であって、特定操作を繰り返す特定作業において操作対象の最適又は準最適な最適動特性を演算し、前記操作対象の動特性を前記最適動特性に更新する動特性更新部と、前記特定作業が行われた場合の生産性を取得する生産性取得部と、を備え、前記動特性更新部は、第1動特性を前記動特性に設定し、前記生産性取得部は、前記動特性が前記第1動特性に設定されている状態で前記特定作業が行われた場合の生産性を第1生産性として取得し、前記動特性更新部は、前記第1動特性とは異なる第2動特性を前記動特性に設定し、前記生産性取得部は、前記動特性が前記第2動特性に設定されている状態で前記特定作業が行われた場合の生産性を第2生産性として取得し、前記動特性更新部は、前記第1動特性と前記第2動特性と前記第1生産性と前記第2生産性とに基づいて前記最適動特性を演算することを特徴とする操作対象装置を提供している。
【0008】
ここで、前記特定作業が行われている間に取得した作業軌跡データを用いて作業軌跡分散値を演算する作業軌跡分散値演算部を更に備え、前記作業軌跡分散値演算部は、前記動特性が前記第1動特性に設定されている状態で前記特定作業が行われている間に取得した作業軌跡データを用いて第1作業軌跡分散値を演算し、前記生産性取得部は、前記第1作業軌跡分散値を第1生産性として取得し、前記作業軌跡分散値演算部は、前記動特性が前記第2動特性に設定されている状態で前記特定作業が行われている間に取得した作業軌跡データを用いて第2作業軌跡分散値を演算し、前記生産性取得部は、前記第2作業軌跡分散値を第2生産性として取得するのが好ましい。
【0009】
また、前記特定作業が行われた場合の作業安定性を演算する作業安定性演算部を更に備え、前記作業安定性演算部は、前記動特性が前記第1動特性に設定されている状態で前記特定作業が行われた場合の第1作業安定性を演算し、前記生産性取得部は、前記第1作業安定性を第1生産性として取得し、前記作業安定性演算部は、前記動特性が前記第2動特性に設定されている状態で前記特定作業が行われた場合の第2作業安定性を演算し、前記生産性取得部は、前記第2作業安定性を第2生産性として取得するのが好ましい。
【0010】
更に、過去に設定された前記最適動特性である設定済最適動特性を作業毎に記憶する記憶部と、作業を特定する作業特定部と、を更に備え、前記動特性更新部は、前記作業特定部で特定された作業に対応する一の設定済最適動特性を前記記憶部から取得し、前記一の設定済最適動特性を前記第1動特性として用いるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第1動特性と、当該第1動特性で特定の操作を行った場合の第1生産性と、第2動特性と、当該第2動特性で特定の操作を行った場合の第2生産性とに基づいて最適動特性が演算される。そのため、オペレータの操作技量に適した操作性を当該オペレータに提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施形態による油圧ショベル(操作対象装置)を示す図。
【
図3】積込み掘削作業(特定作業)における1サイクルの操作を示した概念図。
【
図4】積込み掘削作業における熟練者の作業軌跡を示すグラフ。
【
図5】積込み掘削作業における非熟練者の作業軌跡を示すグラフ。
【
図6】応答性(動特性)と生産性(作業軌跡分散値)との関係を示すグラフ。
【
図7】動特性更新処理(第1実施形態)を示すフローチャート。
【
図8】第2実施形態による油圧ショベルのコントローラを示すブロック図。
【
図9】作業安定性の演算式に用いられるパラメータを説明するための図。
【
図10】応答性(動特性)と生産性(作業安定性)との関係を示すグラフ。
【
図11】動特性更新処理(第2実施形態)を示すフローチャート。
【
図12】変形例に係る油圧ショベルの機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<1.第1実施形態>
本発明の第1実施形態による操作対象装置について、
図1から
図7を参照しながら説明する。以下では、操作対象装置の一例として、
図1に示す建設機械(油圧ショベル1)を例示する。
【0014】
図1に示すように、油圧ショベル1は、下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に搭載される上部旋回体3と、ブームやアームを含むアタッチメント4とを備えて構成される。アタッチメント4の先端には、掘削や排土を行うためのバケット41が設けられている。
【0015】
また、
図2に示すように、油圧ショベル1は、コントローラ5を備えて構成される。コントローラ5は、操作対象の動特性をオペレータにとって最適又は準最適な動特性(以下、単に「最適動特性」とも称する)に更新する動特性更新プログラムを実行可能な制御装置である。
【0016】
図2に示すように、コントローラ5は、動特性更新部51と、作業軌跡分散値演算部53と、生産性取得部55とを備えて構成される。
【0017】
動特性更新部51は、特定操作を繰り返す特定作業において操作対象の最適動特性を演算し、当該操作対象の動特性を最適動特性に更新する処理部である。
【0018】
本実施形態では、特定作業の一例として、積込み掘削作業を例示する。
図3に示すように、積込み掘削作業は、掘削、持上げ旋回、排土、復帰を1サイクルの操作として繰り返す作業である。
【0019】
作業軌跡分散値演算部53は、積込み掘削作業が行われている期間中に取得した作業軌跡データを用いて、込み掘削作業における作業軌跡分散値を演算する処理部である。
【0020】
積込み掘削作業が行われている期間中に取得される作業軌跡データは、バケット41の爪先の移動軌跡である。
図4及び
図5は、積込み掘削作業におけるバケット41の爪先の移動軌跡をグラフに描画したものである。
図4のグラフは、熟練者による移動軌跡を描画したものであり、サイクル毎のばらつきが小さい。一方、
図5のグラフは、非熟練者による移動軌跡を描画したものであり、サイクル毎のばらつきが大きい。
【0021】
作業軌跡分散値演算部53は、上述した作業軌跡データ(バケット41の爪先の移動軌跡)に基づいて、積込み掘削作業の各サイクルにおける移動軌跡の分散値を作業軌跡分散値として演算する。なお、積込み掘削作業の各サイクルにおける移動軌跡の分散値は、周知の手法によって演算される。
【0022】
生産性取得部55は、特定作業(積込み掘削作業)が行われた場合の生産性を取得する処理部である。本実施形態では、生産性取得部55は、作業軌跡分散値演算部53によって演算された作業軌跡分散値を、積込み掘削作業の生産性として取得する。
【0023】
ところで、上述した積込み掘削作業においては、
図6に示すように、バケット41の応答性(動特性X)と生産性(作業軌跡分散値Y)とは、技量にかかわらず下に凸な関数F(X)で近似されることが分かっている。よって、関数F(X)が最小となる(つまり、作業軌跡分散値Yが最も小さくなる)動特性Xが最適動特性になる。
【0024】
公知の技術として、関数の傾き(一階微分)のみから、関数の最小値を探索するアルゴリズムの一つとして「最急降下法」が知られている。以下では、公知の「最急降下法」のアルゴリズムを利用し、動特性を変数とする生産性(作業軌跡分散値Y)の関数が不明な場合に最適な動特性を演算する手順について説明する。
【0025】
以下では、
図7に示すフローチャートに沿って、積込み掘削作業における操作対象の最適動特性を演算し、操作対象の動特性を最適動特性に更新する手順について説明する。
【0026】
まず、ステップS1において、動特性更新部51は、初期値として動特性X1を動特性Xに設定する。なお、動特性X1には、ランダムな初期値が設定される。
【0027】
次に、動特性Xが動特性X1に設定されている状態で積込み掘削作業が実施される。積込み掘削作業が行われている期間中、作業軌跡データとしてバケット41の爪先の移動軌跡が取得される。積込み掘削作業が完了とすると、作業軌跡分散値演算部53は、積込み掘削作業の各サイクルにおける移動軌跡の分散値を作業軌跡分散値Y1として演算する。そして、生産性取得部55は、作業軌跡分散値演算部53で演算した作業軌跡分散値Y1を動特性X1における積込み掘削作業の生産性として取得する(ステップS2)。
【0028】
次に、ステップS3において、動特性更新部51は、動特性X1(初期値)とは異なる動特性X2を新たな動特性Xに設定する。なお、ここでは、動特性X2にランダムな値が設定される場合を想定しているが、例えば、動特性X1に所定値δXを加算した値が設定されるようにしてもよい。
【0029】
動特性Xが動特性X2に設定されている状態で積込み掘削作業が再度実施される。積込み掘削作業が行われている期間中、作業軌跡データとしてバケット41の爪先の移動軌跡が取得される。積込み掘削作業が完了とすると、作業軌跡分散値演算部53は、積込み掘削作業の各サイクルにおける移動軌跡の分散値を作業軌跡分散値Y2として演算する。そして、生産性取得部55は、作業軌跡分散値演算部53で演算した作業軌跡分散値Y2を動特性X2における積込み掘削作業の生産性として取得する(ステップS4)。
【0030】
そして、ステップS5において、動特性更新部51は、下記の数式1を用いて更新用の動特性X
t+1を演算する。なお、「t」の初期値は「2」である。
【数1】
【0031】
上記の数式1において、「Xt」は現在設定されている動特性X2であり、「Xt-1」は前回設定されていた動特性X1である。また、「Yt」は動特性X2における作業軌跡分散値Y2であり、「Yt-1」は動特性X1における作業軌跡分散値Y1ある。なお、「η」は、学習速度(更新速度)を決定するための学習率である。
【0032】
つまり、動特性更新部51は、動特性Xの増加量(Xt-Xt-1)に対する作業軌跡分散値Yの増加量(Yt-Yt-1)に基づく勾配(Yt-Yt-1/Xt-Xt-1)に学習率ηを掛けたもので現在設定されている動特性Xtを更新して更新用の動特性Xt+1を演算する。
【0033】
ここでは、動特性更新部51は、上記の数式1に従って、動特性X1と動特性X2との増加量(X2-X1)に対する作業軌跡分散値Y1と作業軌跡分散値Y2との増加量(Y2-Y1)に基づく勾配(Y2-Y1/X2-X1)に学習率ηを掛けたもので現在設定されている動特性X2を更新して更新用の動特性X3を演算する。そして、動特性更新部51は、ステップS5で演算した更新用の動特性X3を動特性Xに設定する(ステップS6)。
【0034】
ステップS7において、動特性更新部51は、更新用の動特性X3が最適動特性に収束したか否かを判定する。なお、最適動特性に収束したか否かは、例えば、勾配が所定値以下になったか否かに基づき判定される。
【0035】
ここで、動特性X3が最適動特性に収束したと判定された場合には処理が終了する。なお、動特性X3が最適動特性に収束したと判定された場合には動特性X3が最適動特性ということになる。
【0036】
一方、動特性X3が収束していないと判定された場合には処理がステップS8に進む。
【0037】
ステップS8においては、動特性Xが動特性X3に設定されている状態で積込み掘削作業が再度実施される。積込み掘削作業が行われている期間中、作業軌跡データとしてバケット41の爪先の移動軌跡が取得される。積込み掘削作業が完了とすると、作業軌跡分散値演算部53は、積込み掘削作業の各サイクルにおける移動軌跡の分散値を作業軌跡分散値Y3として演算する。そして、生産性取得部55は、作業軌跡分散値演算部53で演算した作業軌跡分散値Y3を動特性X3における積込み掘削作業の生産性として取得する(ステップS8)。
【0038】
この後、ステップS9において「t」がインクリメントされ、「t」に「3」が設定される。
【0039】
この後、処理はステップS5に戻り、動特性更新部51は、上記の数式1を用いて更新用の動特性X4を演算する。詳細には、動特性更新部51は、動特性X3と動特性X2との増加量(X3-X2)に対する作業軌跡分散値Y3と作業軌跡分散値Y2との増加量(Y3-Y2)に基づく勾配(Y3-Y2/X3-X2)に学習率ηを掛けたもので現在設定されている動特性X3を更新して更新用の動特性X4を演算する。
【0040】
そして、ステップS6において、動特性更新部51は、ステップS5で演算した更新用の動特性X4を動特性Xに設定する。そして、動特性更新部51は、更新用の動特性X4が最適動特性に収束したか否かを判定する(ステップS7)。動特性X4が最適動特性に収束したと判定された場合には処理が終了し、収束していない場合は処理がステップS8に進み、上述した処理が再度実行される。
【0041】
以上の処理は、ステップS7において動特性Xt+1が最適動特性に収束したと判定されるまで繰り返される。
【0042】
上述した第1実施形態によれば、動特性X1と作業軌跡分散値Y1と動特性X2と作業軌跡分散値Y2とに基づいて最適動特性Xt+1が演算される。そのため、オペレータの操作技量に応じて作業軌跡分散値Yが最も小さくなる最適動特性Xt+1を動特性Xに設定することが可能である。よって、オペレータの操作技量に適した操作性を当該オペレータに提供することが可能である。
【0043】
また、上述した第1実施形態によれば、積込み掘削作業における各サイクルの作業軌跡分散値Yが生産性として取得される。そして、作業軌跡分散値Yは、バケット41の爪先の移動軌跡に基づいて演算される。作業軌跡分散値Yは、オペレータの技量が高いほど小さく、オペレータの技量が低いほど大きくなる傾向にある。そのため、作業軌跡分散値Yを生産性として取得し、最適動特性の演算に用いれば、オペレータの技量に応じたより適切な最適動特性を演算できる可能性が高い。
【0044】
<2.第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態による操作対象装置について、
図8から
図11を参照しながら説明する。
【0045】
上述した第1実施形態では、作業軌跡分散値演算部53で演算された作業軌跡分散値Yが積込み掘削作業における生産性として取得される場合を例示した。
【0046】
第2実施形態では、油圧ショベル1の作業安定性を示す作業安定度Zが積込み掘削作業における生産性として取得される場合を例示する。以下では、上述した第1実施形態と相違する部分について説明を行い、上述した第1実施形態との重複箇所については説明を省略する。
【0047】
図8に示すように、第2実施形態では、コントローラ5は、動特性更新部51と作業安定度演算部54と生産性取得部55とを備えて構成される。
【0048】
作業安定度演算部54は、積込み掘削作業における油圧ショベル1の作業安定度Zを演算する処理部である。
【0049】
作業安定度Zは、油圧ショベル1の車体重量をM、重力加速度をg、掘削力をFとした場合に、演算式「Z=M×g×L1-F×L2」によって算出される。
【0050】
上述した演算式において、L1は、
図9に示すように、油圧ショベル1の重心から下ろした垂線と地面との交点と、クローラと地面とが接地する部分のうちの最前端の点とを結んだ長さである。
【0051】
また、L2は、
図9に示すように、バケット41の爪先に発生する力のベクトル方向に直交し且つ当該爪先を通る直線が地面と交差する交点と、バケット41の爪先位置とを結んだ長さである。
【0052】
上述した演算式によって算出されたZの値が0未満になると、油圧ショベル1は不安定な状態になる。一方、Zの値が0よりも大きくなると、油圧ショベル1は安定した状態になる。
【0053】
作業安定度演算部54は、上述した演算式を用いて、積込み掘削作業の作業期間中に油圧ショベル1の作業安定度zi(i=1,2,3,…)を所定の間隔で算出する。そして、積込み掘削作業が完了した後、作業安定度演算部54は、作業期間中に演算した作業安定度ziから積込み掘削作業における作業安定度Zを演算する。
【0054】
ここでは、作業安定度演算部54は、作業期間中に演算した作業安定度ziの平均値を積込み掘削作業における作業安定度Zとして演算する。
【0055】
ただし、これに限定されず、作業安定度演算部54は、作業期間中に演算した作業安定度ziのうち最大の作業安定度zmaxを積込み掘削作業における作業安定度Zとして取得してもよい。
【0056】
生産性取得部55は、作業安定度演算部54で演算された作業安定度Zを積込み掘削作業における生産性として取得する。
【0057】
ところで、積込み掘削作業においては、
図10に示すように、バケット41の応答性(動特性X)と生産性(作業安定度Z)とは、技量にかかわらず上に凸な関数G(X)に近似されることが分かっている。よって、関数G(X)が最大となる(すなわち、作業安定度Zが最も大きくなる)動特性Xが最適動特性になる。
【0058】
以下では、第1実施形態と同様に、公知の「最急降下法」のアルゴリズムを利用し、動特性を変数とする生産性(作業安定度Z)の関数が不明な場合に最適な動特性を演算する手順を例示する。
【0059】
以下では、
図11に示すフローチャートに沿って、積込み掘削作業における操作対象の最適動特性を演算し、操作対象の動特性を最適動特性に更新する手順について説明する。
【0060】
なお、
図11のフローチャートでは、ステップS20,S40,S50,S80の処理が
図6のステップS2,S4,S5,S8の処理と相違する。そこで、以下では、ステップS20,S40,S50,S80の処理についてのみ説明する。
【0061】
ステップS20では、生産性取得部55は、作業安定度演算部54で演算した作業安定度Z1を動特性X1における積込み掘削作業の生産性として取得する。
【0062】
ステップS40では、生産性取得部55は、作業安定度演算部54で演算した作業安定度Z2を動特性X2における積込み掘削作業の生産性として取得する。
【0063】
ステップS50では、動特性更新部51は、下記の数式2を用いて更新用の動特性(動特性X
t+1)を演算する。なお、「t」の初期値は「2」である。
【数2】
【0064】
上記の数式2において、「Xt」は現在設定されている動特性X2であり、「Xt-1」は前回設定されていた動特性X1である。また、「Zt」は動特性X2における作業安定度Z2であり、「Zt-1」は動特性X1における作業安定度Z1である。なお、「η」は、学習速度(更新速度)を決定するための学習率である。
【0065】
つまり、動特性更新部51は、動特性Xの増加量(Xt-Xt-1)に対する作業安定度Zの逆数の増加量(1/Zt-1/Zt-1)に基づく勾配に学習率ηを掛けたもので現在設定されている動特性Xtを更新して更新用の動特性Xt+1を演算する。
【0066】
なお、数式2において、「Z
t」の逆数「1/Z
t」及び「Z
t-1」の逆数「1/Z
t-1」が用いられているのは、
図10に示すように、バケット41の応答性(動特性X)と生産性(作業安定度Z)とが上に凸の関数で近似されることが分かっているためである。
【0067】
ステップS80では、生産性取得部55は、作業安定度演算部54で演算した作業安定度Zt+1を動特性Xt+1における積込み掘削作業の生産性として取得する。
【0068】
上述した第2実施形態によれば、動特性X1と作業安定度Z1と動特性X2と作業安定度Z2とに基づいて最適動特性Xt+1が演算される。そのため、オペレータの操作技量に応じて作業安定度Zが最も高くなる最適動特性Xt+1を動特性Xとして設定することが可能である。よって、オペレータの操作技量に適した操作性を当該オペレータに提供することが可能である。
【0069】
また、上述した第2実施形態によれば、積込み掘削作業における作業安定度Zが生産性として取得される。そして、作業安定度Zは、演算式「Z=M×g×L1-F×L2」によって算出される。作業安定度Zは、オペレータの技量が高いほど大きく、オペレータの技量が低いほど小さくなる傾向がある。そのため、作業安定度Zを生産性として取得し、最適動特性の演算に用いることで、オペレータの技量に応じた適切な最適動特性を演算できる可能性が高い。また、作業安定度Zは、機体の足場が劣悪であれば小さく、機体の足場が良好であれば大きくなる傾向になる。よって、作業安定度Zを生産性として取得し、最適動特性の演算に用いれば、機体の足場に応じた適切な最適動特性を演算できる可能性が高い。
【0070】
<3.変形例>
本発明による操作対象装置は上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。
【0071】
例えば、上述した各実施形態では、ステップS1においてランダムな値が動特性X1(初期値)として設定される場合を例示したが、これに限定されず、過去に設定された最適動特性が初期値の動特性X1として設定されるようにしてもよい。
【0072】
具体的には、
図12に示すように、油圧ショベル1は、コントローラ5と記憶部7とを備えるように構成すればよい。
【0073】
ここで、コントローラ5は、動特性更新部51と、作業特定部52と、生産性取得部55とを備える。
【0074】
作業特定部52は、油圧ショベル1で行われている現在の作業(掘削作業、吊り荷作業など)を特定する処理部である。具体的には、作業特定部52は、油圧ショベル1に設けられたセンサの値を入力値、作業種類を出力値として機械学習を行った学習済みプログラムを用いて油圧ショベル1の現在の作業を特定する。
【0075】
記憶部7は、過去に設定された最適動特性(以下、単に「設定済最適動特性」とも称する)を作業毎に記憶した設定済最適動特性テーブルTB(
図13参照)を記憶する記憶装置である。
【0076】
図13に示すように、設定済最適動特性テーブルTBでは、作業(詳細には作業内容)と設定済最適動特性とが関連付けられて記憶されている。
【0077】
そして、
図7及び
図11のステップS1において、動特性更新部51は、作業特定部52で特定された作業に関連付けられた設定済最適動特性を動特性X
1として設定する。
【0078】
かかる変形例によれば、作業に適した初期動特性が設定されるため、ランダムな値が初期値の動特性X1として設定される場合(上記各実施形態)に比べて、動特性をいち早く最適動特性に収束させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上のように本発明に係る操作対象装置は、油圧ショベルの動特性を設定するのに適している。
【符号の説明】
【0080】
1 油圧ショベル
2 下部走行体
3 上部旋回体
4 アタッチメント
5 コントローラ
7 記憶部
41 バケット
51 動特性更新部
52 作業種類特定部
53 作業軌跡分散値演算部
54 作業安定度演算部
55 生産性取得部
TB 設定済最適動特性テーブル