(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】操作対象装置
(51)【国際特許分類】
E02F 9/20 20060101AFI20241008BHJP
E02F 3/43 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
E02F9/20 M
E02F3/43 A
(21)【出願番号】P 2021024894
(22)【出願日】2021-02-19
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136250
【氏名又は名称】立石 博臣
(74)【代理人】
【識別番号】100198719
【氏名又は名称】泉 良裕
(72)【発明者】
【氏名】吉原 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】小岩井 一茂
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-051781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
E02F 3/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作対象装置であって、
オペレータによって操作される被操作部と、
前記被操作部の操作量に対応する操作対象の
アクチュエータ速度を決定する速度特性決定部と、
前記操作対象に対して特定操作を行った場合の作業軌跡の分散値を演算する作業軌跡分散値演算部と、
前記作業軌跡分散値演算部で演算された前記
分散値を生産性
として取得する生産性取得部と、
前記
アクチュエータ速度を最適又は準最適な最適
アクチュエータ速度に更新する速度特性更新部と、
を備え、
前記速度特性更新部は、前記
アクチュエータ速度を第1
アクチュエータ速度に変更し、
前記生産性取得部は、前記
アクチュエータ速度が前記第1
アクチュエータ速度に変更された状態で前記特定操作が行われた場合に前記作業軌跡分散値演算部で演算した分散値を第1生産性として取得し、
前記速度特性
更新部は、前記
アクチュエータ速度を前記第1
アクチュエータ速度とは異なる第2
アクチュエータ速度に変更し、
前記生産性取得部は、前記
アクチュエータ速度が前記第2
アクチュエータ速度に変更された状態で前記特定操作が行われた場合に前記作業軌跡分散値演算部で演算した分散値を第2生産性として取得し、
前記速度特性更新部は、前記第1
アクチュエータ速度と前記第2
アクチュエータ速度と前記第1生産性と前記第2生産性とに基づいて前記
アクチュエータ速度を前記最適
アクチュエータ速度に更新することを特徴とする操作対象装置。
【請求項2】
前記速度特性更新部は、前記
アクチュエータ速度の増加量に対する前記生産性の増加量に基づく勾配に学習率を掛けたもので現在設定されている
アクチュエータ速度を更新して更新用
アクチュエータ速度を演算する処理を、前記更新用
アクチュエータ速度が前記最適
アクチュエータ速度に収束するまで繰り返し実行することを特徴とする請求項1に記載の操作対象装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作対象装置に関し、より詳細には、被操作部の操作量に対する速度特性を操作者に適した速度特性に更新する操作対象装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建設機械の操作を自動または半自動で行うマシンコントロール機能を有する建設機械が知られている(例えば、特許文献1)。当該特許文献1では、マシンコントロール機能の実行中に、自動操作の操作量及び手動操作の操作量が表示装置に表示されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の発明では、単に自動操作と手動操作との差分をオペレータに教示するものであるから、オペレータの操作技量が低ければ、教示された通りに操作できないという問題がある。すなわち、特許文献1では、操作技量に適した操作性をオペレータに提供することができないため、最終的な生産性も向上せず、オペレータの技術向上を図ることもできない。
【0005】
これに対して、油圧ショベルの操作レバーの応答性をオペレータの操作技量に応じて最適化することなどが検討されている。動特性とは、一定値に落ち着くまでの、制御対象の入力と出力の時間を考慮した関係であり、時間要素を含む制御対象の特性である。
【0006】
ただ、操作レバーの応答性(動特性)のみが最適化されたとしても、操作レバーの操作量に応じたアクチュエータ(油圧モータや油圧シリンダ)の速度(静特性)が最適化されていなければ、最終的な生産性は向上しない。静特性とは、時間要素を含まない、一定値に落ち着いた状態における、制御対象の入力と出力の関係であり、定常状態での制御対象の特性である。
【0007】
そこで、本発明は、被操作部の操作量に対応する速度特性をオペレータの操作技量に適した速度特性に更新することが可能な操作対象装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、操作対象装置であって、オペレータによって操作される被操作部と、前記被操作部の操作量に対応する操作対象の速度特性を決定する速度特性決定部と、前記操作対象に対して特定操作を行った場合の生産性を取得する生産性取得部と、前記速度特性を最適又は準最適な最適速度特性に更新する速度特性更新部と、を備え、前記速度特性更新部は、前記速度特性を第1速度特性に変更し、前記生産性取得部は、前記速度特性が前記第1速度特性に変更された状態で前記特定操作が行われた場合の生産性を第1生産性として取得し、前記速度特性設定部は、前記速度特性を前記第1速度特性とは異なる第2速度特性に変更し、前記生産性取得部は、前記速度特性が前記第2速度特性に変更された状態で前記特定操作が行われた場合の生産性を第2生産性として取得し、前記速度特性更新部は、前記第1速度特性と前記第2速度特性と前記第1生産性と前記第2生産性とに基づいて前記速度特性を前記最適速度特性に更新することを特徴とする操作対象装置を提供している。
【0009】
ここで、前記速度特性更新部は、前記速度特性の増加量に対する前記生産性の増加量に基づく勾配に学習率を掛けたもので現在設定されている速度特性を更新して更新用速度特性を演算する処理を、前記更新用速度特性が前記最適速度特性に収束するまで繰り返し実行するのが好ましい。
【0010】
また、前記特定操作を行った場合の作業軌跡の分散値を演算する作業軌跡分散値演算部を更に備え、前記生産性取得部は、前記速度特性が前記第1速度特性に変更された状態で前記特定操作が行われた場合に前記作業軌跡分散値演算部で演算した分散値を第1生産性として取得し、前記生産性取得部は、前記速度特性が前記第2速度特性に変更された状態で前記特定操作が行われた場合に前記作業軌跡分散値演算部で演算した分散値を第2生産性として取得するのが好ましい。
【0011】
更に、前記特定操作を行った場合の疲労度を判定する疲労度判定部を更に備え、前記生産性取得部は、前記速度特性が前記第1速度特性に変更された状態で前記特定操作が行われた場合に前記疲労度判定部で判定した疲労度を第1生産性として取得し、前記生産性取得部は、前記速度特性が前記第2速度特性に変更された状態で前記特定操作が行われた場合に前記疲労度判定部で判定した疲労度を第2生産性として取得するのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、現在設定されている速度特性が最適速度特性演算部で演算された最適速度特性に変更されるため、被操作部の操作量に対応する速度特性をオペレータの操作技量に適した速度特性に更新することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る油圧ショベル(操作対象装置)を示す図。
【
図3】レバー操作量とアクチュエータ速度との関係を示したグラフ。
【
図4】速度特性(アクチュエータ速度)と生産性(作業軌跡分散値)との関係を示すグラフ。
【
図5】速度特性を最適速度特性に更新する手順を示すフローチャート。
【
図6】更新式を用いて速度特性が更新される過程を示したイメージ図。
【
図7】最適速度特性に収束する様子を示したイメージ図。
【
図8】第2実施形態に係る油圧ショベルの主要機能ブロック図。
【
図9】速度特性(アクチュエータ速度)と生産性(疲労度)との関係を示したグラフ。
【
図10】第2実施形態において速度特性を最適速度特性に更新する手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<1.第1実施形態>
本発明の第1実施形態による操作対象装置について、
図1から
図7に基づき説明する。以下では、操作対象装置の一例として、
図1に示す油圧ショベル1を例示する。
【0015】
図1に示すように、油圧ショベル1は、下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に搭載される上部旋回体3と、ブームやアームを含む作業アタッチメント4と、コントローラ5とを備えて構成される。
【0016】
図2に示すように、油圧ショベル1は、各部を制御するコントローラ5と、油圧ショベル1の各部を操作する操作レバー6とを備えて構成される。
【0017】
コントローラ5は、操作レバー6の操作量に対応するアクチュエータ速度X(速度特性X)をオペレータにとって最適又は準最適なアクチュエータ速度(以下、単に「最適速度特性」とも称する)に更新するためのプログラムを実行可能な制御装置である。
【0018】
詳細には、コントローラ5は、速度特性決定部51と、作業軌跡分散値演算部53と、生産性取得部55と、速度特性更新部57とを備えて構成される。
【0019】
速度特性決定部51は、操作レバー6の操作量uに対応するアクチュエータ速度X(速度特性)を方程式EQに基づいて決定する処理部である。方程式EQは、操作量uとアクチュエータ速度Xとの関係を示す直線の方程式である。
【0020】
図3に示すように、初期状態において、操作量uに対するアクチュエータ速度X(速度特性)は、2つの代表点PT
a,PT
bを結ぶ直線LN
0で定義されている。つまり、速度特性決定部51は、直線LN
0に対応する方程式EQ
0に基づいて特定の操作量uに対応するアクチュエータ速度Xを決定することが可能である。
【0021】
作業軌跡分散値演算部53は、同じ作業を繰り返し行う特定操作に関して作業軌跡分散値Yを演算する処理部である。作業軌跡分散値演算部53は、車両(自動車等)の走行軌跡(プローブ情報)の分散を演算する周知の手法を用いて作業軌跡分散値Yを演算するものとする。
【0022】
生産性取得部55は、油圧ショベル1の操作対象に対して特定の操作を行った場合の生産性を取得する処理部である。第1実施形態では、生産性取得部55は、作業軌跡分散値演算部53で演算した作業軌跡分散値Yを生産性として取得する。
【0023】
速度特性更新部57は、現在設定されている速度特性を最適速度特性に更新する処理部である。
【0024】
続いて、油圧ショベル1において特定操作が行われた場合にアクチュエータ速度(速度特性)を最適な値(最適速度特性)に更新する手順について説明する。
【0025】
なお、油圧ショベル1における特定操作として、第1実施形態では、例えば、土砂を掘削した後、旋回して土砂を放す作業を繰り返す操作を例示する。また、アクチュエータ速度として、油圧モータ速度を例示する。
【0026】
図4に示すように、上述した特定操作に関して、速度特性(アクチュエータ速度X)と生産性(作業軌跡分散値Y)とは、技量の高低にかかわらず下に凸な関数F(X)で近似されることが分かっている。よって、関数F(X)が最小となる(作業軌跡分散値Yが最も小さくなる)速度特性(アクチュエータ速度X)が最適速度特性になる。
【0027】
公知の技術として、関数の傾き(一階微分)のみから、関数の最小値を探索するアルゴリズムの一つとして「最急降下法」が知られている。
【0028】
以下では、公知の「最急降下法」のアルゴリズムを利用し、速度特性を変数とする生産性(作業軌跡分散値Y)の関数が不明な場合に速度特性(アクチュエータ速度X)を演算する手順について説明する。
【0029】
まず、
図5のステップS1において、速度特性更新部57は、
図3に示す2つの代表点2つの代表点PT
a,PT
bのうち代表点PT
bの速度特性X
bを速度特性X
1に変更する。
【0030】
代表点PTbの速度特性Xbが速度特性X1に変更されると、操作量uに対するアクチュエータ速度X(速度特性)は、代表点PTaと新たな代表点PT1とを結ぶ直線LN1で定義される。つまり、速度特性決定部51は、直線LN1に対応する方程式EQ1に基づいて特定の操作量uに対応するアクチュエータ速度Xを決定することが可能である。
【0031】
直線LN1を示す新たな方程式EQ1によって速度特性Xが定義された状態でオペレータによって特定操作が行われると、作業軌跡分散値演算部53は、当該特定操作における作業軌跡分散値Y1を演算する。そして、ステップS2において、生産性取得部55は、作業軌跡分散値Y1を生産性として取得する。
【0032】
ステップS3において、速度特性更新部57は、
図3に示す代表点PT
1の速度特性X
1を速度特性X
2に変更する。これに伴い、代表点PT
aと新たな代表点PT
2とを結ぶ直線LN
2の方程式EQ
2が新たな速度特性として定義される。
【0033】
直線LN2を示す新たな方程式EQ2によって速度特性Xが定義された状態でオペレータによって特定操作が行われると、作業軌跡分散値演算部53は、当該特定操作における作業軌跡分散値Y2を演算する。そして、ステップS4において、生産性取得部55は、作業軌跡分散値Y2を生産性として取得する。
【0034】
ステップS5において、速度特性更新部57は、下記の更新式1を用いて更新用の速度特性(速度特性X
t+1)を演算する。なお、「t」の初期値は「2」である。
【数1】
【0035】
上記の更新式において、「Xt」は現在設定されている速度特性X(X2)であり、「Xt-1」は前回設定されていた速度特性X(X1)である。また、「Yt」は速度特性Xt(X2)における作業軌跡分散値Y(Y2)であり、「Yt-1」は速度特性Xt-1(X1)における作業軌跡分散値Y(Y1)ある。なお、「η」は、学習速度(更新速度)を決定するための学習率である。
【0036】
つまり、速度特性更新部57は、速度特性Xの増加量(Xt-Xt-1)に対する作業軌跡分散値Yの増加量(Yt-Yt-1)に基づく勾配(Yt-Yt-1/Xt-Xt-1)に学習率ηを掛けたもので現在設定されている速度特性Xtを更新して更新用の速度特性Xt+1を演算する。
【0037】
ここでは、速度特性更新部57は、
図6の式(1)に従って、速度特性X
1と速度特性X
2との増加量(X
2-X
1)に対する作業軌跡分散値Y
1と作業軌跡分散値Y
2との増加量(Y
2-Y
1)に基づく勾配(Y
2-Y
1/X
2-X
1)に学習率ηを掛けたもので現在設定されている速度特性X
2を更新して更新用の速度特性X
3を演算する。そして、速度特性更新部57は、ステップS5で演算した更新用の速度特性X
3を速度特性Xに設定する(ステップS6)。
【0038】
ステップS7において、速度特性更新部57は、更新用の速度特性X3が最適速度特性に収束したか否かを判定する。なお、最適速度特性に収束したか否かは、例えば、勾配が所定値以下になったか否かに基づき判定される。
【0039】
ここで、速度特性X3が最適速度特性に収束したと判定されると(ステップS7:YES)、処理は終了する。なお、速度特性X3が最適速度特性に収束したと判定された場合には速度特性X3が最適速度特性ということになる。
【0040】
一方、速度特性X3が収束していないと判定されると、速度特性更新部57は、代表点PT2の速度特性X2を速度特性X3(図示せず)に変更する。これに伴い、代表点PTaと新たな代表点PT3(図示せず)とを結ぶ直線LN3(図示せず)の方程式EQ3が新たな速度特性として定義される。
【0041】
新たな方程式EQ3によって速度特性Xが定義された状態でオペレータによって特定操作が行われると、作業軌跡分散値演算部53は、当該特定操作における作業軌跡分散値Y3を演算する。そして、ステップS4において、生産性取得部55は、作業軌跡分散値Y3を生産性として取得する。そして、ステップS8において、生産性取得部55は、作業軌跡分散値Y3を生産性として取得する。
【0042】
この後、ステップS9において「t」がインクリメントされ、「t」に「3」が設定される。
【0043】
この後、処理はステップS5に戻り、速度特性更新部57は、上記の更新式1を用いて更新用の速度特性(速度特性X
4)を演算する。詳細には、速度特性更新部57は、
図7の式(2)に従って、速度特性X
3と速度特性X
2との増加量(X
3-X
2)に対する作業軌跡分散値Y
3と作業軌跡分散値Y
2との増加量(Y
3-Y
2)に基づく勾配(Y
3-Y
2/X
3-X
2)に学習率ηを掛けたもので現在設定されている速度特性X
3を更新して更新用の速度特性X
4を演算する。
【0044】
そして、ステップS6において、速度特性更新部57は、ステップS5で演算した更新用の速度特性X4を速度特性Xに設定する。そして、速度特性更新部57は、更新用の速度特性X4が最適速度特性に収束したか否かを判定する(ステップS7)。速度特性X4が最適時定数に収束したと判定された場合には処理が終了し、収束していない場合は処理がステップS8に進み、上述した処理が再度実行される。
【0045】
図6に示す例では、更新用の速度特性X
t+1は、速度特性X
3(式(1))、速度特性X
4(式(2))、速度特性X
5(式(3))の順に更新され、最終的に速度特性X
5が最適速度特性に収束した(
図6のステップS7でYES)と判定される場合が示されている。
【0046】
図7に示すイメージ図は、速度特性Xが初期値の速度特性X
1から最適な速度特性X
5に順次に更新されて収束する様子が示されている。なお、説明の都合上、
図8では、下に凸のグラフを破線で便宜的に示しているが、そもそも最適速度特性を変数とする生産性の関数は不明であるため、正確なグラフではない。
【0047】
上述した第1実施形態によれば、速度特性X1と、速度特性X1で特定操作が行われた場合の作業軌跡分散値Y1と、速度特性X2と、速度特性X2で特定操作が行われた場合の作業軌跡分散値Y2とに基づいて最適速度特性Xt+1が演算される。
【0048】
そのため、オペレータの操作技量に応じて作業軌跡分散値Yが最も小さくなる最適速度特性Xt+1を速度特性Xとして設定することが可能である。すなわち、操作レバー6の操作量に対応するアクチュエータ速度をオペレータの操作技量に適した値に更新することが可能である。
【0049】
また、上述した第1実施形態によれば、特定操作の生産性として作業軌跡分散値Yが取得されるため、客観的なデータに基づいて最適速度特性Xt+1を演算することが可能である。
【0050】
また、上述した第1実施形態によれば、直線LN上の1点(ここでは、代表点PTb)の速度特性Xbが速度特性X1,X2,…,Xt+1に更新される。そのため、直線LN上の複数の点を更新する場合に比べて、速度特性が最適化速度特性Xt+1に収束するまで学習時間を短縮することが可能である。
【0051】
<2.第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態による操作対象装置について、
図8から
図10を参照しながら説明する。
【0052】
上述した第1実施形態では、作業軌跡分散値演算部53で演算された作業軌跡分散値Yが生産性として取得される場合を例示した。一方、第2実施形態では、後述の疲労度判定部54によって判定される疲労度Zが生産性として取得される場合を例示する。
【0053】
図8に示すように、第2実施形態では、コントローラ5は、速度特性決定部51と、疲労度判定部54と、生産性取得部55と、速度特性更新部57とを備えて構成される。ここで、速度特性決定部51、生産性取得部55及び速度特性更新部57に関しては上述した第1実施形態と同じものであるから、説明を省略する。
【0054】
疲労度判定部54は、特定操作における作業サイクル時間(詳細には繰り返し作業における1サイクルの所要時間)に応じて疲労度を判定する処理部である。詳細には、疲労度判定部54は、作業サイクル時間の長さに応じて疲労度をレベル1~5の5段階に判定する。なお、レベル5が最も疲労度が高く、レベル1が最も疲労度が低い。
【0055】
図9に示すように、上述した特定操作に関して、速度特性(アクチュエータ速度X)と生産性(疲労度Z)とは、技量の高低にかかわらず下に凸な関数G(X)で近似されることが分かっている。よって、関数G(X)が最小となる(疲労度Yが最も低くなる)速度特性(アクチュエータ速度X)が最適速度特性になる。
【0056】
以下では、第1実施形態と同様に、公知の「最急降下法」のアルゴリズムを利用し、速度特性を変数とする生産性(疲労度Z)の関数が不明な場合に最適速度特性(速度特性X)を演算する方法を例示する。
【0057】
以下では、
図10に示すフローチャートに沿って、最適又は準最適な速度特性を設定する手順について説明する。
【0058】
なお、
図10のフローチャートでは、ステップS20,S40,S50,S80の処理が
図5のステップS2,S4,S5,S8の処理と相違する。そこで、以下では、ステップS20,S40,S50,S80の処理について説明する。
【0059】
ステップS20、S40では、生産性取得部55は、疲労度判定部54で判定した疲労度Z1及び疲労度Z2をそれぞれ生産性として取得する。
【0060】
ステップS50では、速度特性更新部57は、下記の更新式2を用いて更新用の速度特性(速度特性X
t+1)を演算する。なお、「t」の初期値は「2」である。
【数2】
【0061】
上記の更新式において、「Xt」は現在設定されている速度特性X(X2)であり、「Xt-1」は前回設定されていた速度特性X(X1)である。また、「Yt」は速度特性Xt(X2)における疲労度Z(Z2)であり、「Yt-1」は速度特性Xt-1における疲労度Z(Z1)ある。なお、「η」は、学習速度(更新速度)を決定するための学習率である。
【0062】
つまり、速度特性更新部57は、速度特性Xの増加量(Xt-Xt-1)に対する疲労度Zの増加量(Zt-Zt-1)に基づく勾配(Zt-Zt-1/Xt-Xt-1)に学習率ηを掛けたもので現在設定されている速度特性Xtを更新して更新用の速度特性Xt+1を演算する。
【0063】
ステップS80では、生産性取得部55は、疲労度判定部54で判定した疲労度Zt+1を生産性として取得する。
【0064】
上述した第2実施形態によれば、速度特性X1と、速度特性X1で特定操作が行われた場合の疲労度Z1と、速度特性X2と、速度特性X2で特定操作が行われた場合の疲労度Z2とに基づいて最適速度特性Xt+1が演算される。
【0065】
そのため、オペレータの操作技量に応じて疲労度Zが最も低くなる最適速度特性Xt+1を速度特性Xとして設定することが可能である。すなわち、上述した第1実施形態と同様に、操作レバー6の操作量に対応するアクチュエータ速度をオペレータの操作技量に適した値に更新することが可能である。
【0066】
<3.変形例>
本発明による操作対象装置は上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。
【0067】
例えば、上述した第1及び第2実施形態では、本発明に係る被操作部の一例として操作レバー6に本発明の思想を適用する場合を例示したが、これに限定されない。操作量に応じてアクチュエータ速度が定まる他の被操作部(走行ペダルなど)に本発明の思想を適用するようにしてもよい。
【0068】
また、上述した第1実施形態では作業軌跡分散値Y、上述した第2実施形態では疲労度Zがそれぞれ生産性として取得される場合を例示したが、これに限定されない。例えば、作業軌跡分散値Yと疲労度Zとの双方が生産性として取得されるようにしてもよい。
【0069】
その場合、速度特性更新部57は、下記の更新式3を用いて更新用の速度特性(速度特性X
t+1)を演算するようにすればよい。
【数3】
【0070】
また、上述した第1及び第2実施形態では、2つの代表点PTa,PTbのうち一方の代表点PTbの速度特性Xbを更新する場合を例示したが、これに限定されない。直線LN0上の点であれば、2つの代表点PTa,PTb以外の任意の点の速度特性を更新するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上のように本発明に係る操作対象装置は、油圧ショベルにおいて操作レバーや走行ペダルに対するアクチュエータ速度を設定するのに適している。
【符号の説明】
【0072】
1 油圧ショベル
2 下部走行体
3 上部旋回体
4 作業アタッチメント
5 コントローラ
6 操作レバー
51 速度特性決定部
53 作業軌跡分散値演算部
54 疲労度判定部
55 生産性取得部
57 速度特性更新部