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  • 特許-熱交換器の異常診断装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】熱交換器の異常診断装置
(51)【国際特許分類】
   F28F 27/00 20060101AFI20241008BHJP
   F28F 11/00 20060101ALI20241008BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20241008BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
F28F27/00 501Z
F28F11/00 A
G01M99/00 Z
G05B23/02 302R
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021026797
(22)【出願日】2021-02-22
(65)【公開番号】P2022128332
(43)【公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071216
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 昌毅
(74)【代理人】
【識別番号】100130395
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】大江 哲之
(72)【発明者】
【氏名】舘林 康
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-121442(JP,A)
【文献】特開2017-223427(JP,A)
【文献】国際公開第2014/203312(WO,A1)
【文献】特開2019-144060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 27/00-27/02,11/00
F28C 1/00-3/18
G05B 23/02
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温流体が圧送される高温流路と低温流体が圧送される低温流路とが隔壁を隔てて隣接して前記高温流体と前記低温流体との間で熱交換を行う熱交換器の異常診断装置であって、
前記熱交換器が収容される外容器内の温度を検出する外容器温度検出手段と、
前記高温流路の入口側の圧力を検出する高温流路入口圧力検出手段と、
前記低温流路の出口側の圧力を検出する低温流路出口圧力検出手段と、
前記外容器の温度と、前記高温流路の入口側の圧力と、前記低温流路の出口側の圧力とを参照して前記熱交換器の異常個所を検出する異常個所判定手段と
を有し、
前記異常個所判定手段が、通常の作動時よりも前記外容器の温度の上昇が検出され、通常の作動時よりも前記高温流路の入口側の圧力又は前記低温流路の出口側の圧力の低下が検出されたときには、前記外容器内の前記熱交換器のケースに漏れがあると判定し、通常の作動時よりも前記高温流路の入口側の圧力の低下があるときには、前記高温流路の破損による漏れがあると判定し、通常の作動時よりも前記低温流路の出口側の圧力の低下があるときには、前記低温流路の破損による漏れがあると判定するよう構成されている装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温流体と低温流体との間にて熱交換を行う熱交換器に係り、より詳細には、かかる熱交換器の異常を診断する装置に係る。
【背景技術】
【0002】
高温流体と低温流体との間にて熱交換を行う熱交換器は、種々の産業用の機械、プラントなどに於いて使用されている。例えば、ガスタービンエンジンに於いては、熱交換器に燃焼器からタービンを経て排出される高温の排ガスと燃焼器へ送られる低温の圧縮空気とを通して、高温の排ガスから低温の圧縮空気へ熱を伝達して、圧縮空気を昇温して、エンジンのエネルギー効率の向上が図られる。かくして、熱交換器に異常があると、それを利用する機械やプラントのエネルギー効率が低下してしまうなどのことが生ずるので、熱交換器の異常を診断するために、種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1に於いては、大型で複雑な系統を有する熱交換器の異常診断方法として、熱交換器の複数の箇所に設けられたセンサからのデータに基づいて、熱交換器における熱媒体の熱吸収量を求め、熱交換器を複数のブロックに分け、各ブロック単位で熱媒体の熱吸収量を求め、熱交換器および各ブロック単位での熱吸収量について基準値を用いて評価する構成が提案されている。また、特許文献2では、燃焼機器の燃焼バーナへ供給される燃焼用空気が流れる第1熱交換流路と、燃焼用空気よりも高温であって燃焼用空気よりも酸素濃度が低い燃焼バーナからの排ガスが流れる第2熱交換流路とが、流路壁を介して積層されている熱交換器に於いて、第2熱交換流路の入口側における排ガスの酸素濃度と、第2熱交換流路の出口側における排ガスGの酸素濃度との差に基づいて、第1熱交換流路と第2熱交換流路との間に、燃焼用空気と排ガスとの混合が生じたか否かを判定することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-190246
【文献】特開2018-190246
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の如きガスタービンエンジンに用いられる熱交換器など、燃焼器へ供給される燃焼用空気と燃焼器からの排ガスとの間で熱交換をする熱交換器に於いては、熱交換性能を良くするために、緻密なロウ付け溶接構造が採用され、また高温で使用されることから、フィンの部分が腐食等により崩壊したり、溶接部等の破壊が起こり、熱交換器内の空気の流路又は排ガスの流路の破損による流体の漏れ(内部短絡)や、更に熱交換器のケースの破損による外部漏れ(外部短絡)などの異常が起き得る。そこで、熱交換器の異常診断に於いては、上記の如き異常の発生の理由或いは異常箇所が特定でき、熱交換器の修理や載せ替えを判断できることが好ましい。この点に関し、熱交換器の異常の検出のためのセンサの数ができるだけ少なくて済み、診断に手間や労力ができるだけ少ない方が好ましい。また、かかる異常の検出のために、熱交換器各部の温度を温度センサで検出することが考えられるところ、温度は場所によるムラあり、異常の検出が困難な場合がある。更に、燃焼器に於ける空燃比センサなどを用いる場合、漏れの空気増加で微妙な差であるために精度のよい診断が困難になり得る。一方、流路の圧力センサで検出される圧力は、流体の漏れなどがあると、比較的に敏感に又は瞬時に変化が表れるので、流路の破損の有無を比較的精度よく検出することが可能である。
【0005】
かくして、本発明の一つの課題は、ガスタービンエンジンなどの燃焼器へ供給される燃焼用空気と燃焼器からの排ガスとの間の熱交換などの高温流体と低温流体との間の熱交換を行う熱交換器の異常を診断する装置に於いて、できるだけ少ないセンサを用いて、異常が発生した場合の理由或いは異常箇所の特定を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記の課題は、高温流体が圧送される高温流路と低温流体が圧送される低温流路とが隔壁を隔てて隣接して前記高温流体と前記低温流体との間で熱交換を行う熱交換器の異常診断装置であって、
前記熱交換器が収容される外容器内の温度を検出する外容器温度検出手段と、
前記高温流路の入口側の圧力を検出する高温流路入口圧力検出手段と、
前記低温流路の出口側の圧力を検出する低温流路出口圧力検出手段と、
前記外容器の温度と、前記高温流路の入口側の圧力と、前記低温流路の出口側の圧力とを参照して前記熱交換器の異常個所を検出する異常個所判定手段と
を有し、
前記異常個所判定手段が、通常の作動時よりも前記外容器の温度の上昇が検出され、通常の作動時よりも前記高温流路の入口側の圧力又は前記低温流路の出口側の圧力の低下が検出されたときには、前記外容器内の前記熱交換器のケースに漏れがあると判定し、通常の作動時よりも前記高温流路の入口側の圧力の低下があるときには、前記高温流路の破損による漏れがあると判定し、通常の作動時よりも前記低温流路の出口側の圧力の低下があるときには、前記低温流路の破損による漏れがあると判定するよう構成されている装置
によって達成される。
【0007】
上記の構成に於いて、熱交換器は、既に述べた如く、典型的には、ガスタービンエンジンなどの燃焼器へ供給される燃焼用空気(低温流体)と燃焼器からの排ガス(高温流体)との間の熱交換を行う熱交換器であってよいが、これに限定されない。かかる熱交換器に於いて、「高温流路」には、その入口から出口へ高温流体が圧送され、「低温流路」には、その入口から出口へ低温流体が圧送され、高温流体が高温流路内を流通し、低温流体が低温流路内を流通する間に、それらの流体が直接に混合しないように隔壁にて隔てられた状態で、熱が高温流体から低温流体へ伝達される。特に、熱交換器がガスタービンエンジンの排ガスと燃焼用空気との間の熱交換に適用される場合には、タービンを通過して排出される排ガスと圧縮機から燃焼器へ向かう途中の圧縮空気との間で熱交換が為される。「熱交換器が収容される外容器」とは、例えば、熱交換器を含めて、それが適用されるガスタービンエンジンなどの機械全体を収容又は包含する容器であってよい。「外容器内の温度」とは、外容器内の任意の部位に於ける温度であってよく、典型的には、ガスタービンエンジン等の機械が安定的に運転されている状況で温度変化のない箇所の温度が、温度センサなどの外容器温度検出手段により逐次的に計測されてよい。「高温流路入口圧力検出手段」と「低温流路出口圧力検出手段」とは、それぞれ、対応する箇所の流体の圧力を逐次的に計測する圧力センサであってよい。特に、熱交換器がガスタービンエンジンに適用される場合、高温流路の入口は、タービンの出口であり、低温流路の出口は、圧縮機に連通する低温流路の出口であって、燃焼器へ供給される直前の箇所であってよい。「異常個所判定手段」は、外容器の温度と、高温流路の入口側の圧力と、低温流路の出口側の圧力とを参照して、熱交換器の異常個所を検出するよう構成される。異常個所判定手段は、コンピュータ装置又は電子回路装置の作動などにより実現されてよい。
【0008】
そして、上記の本発明の装置に於いては、異常個所判定手段は、通常の作動時よりも、外容器の温度の上昇が検出され、通常の作動時よりも高温流路の入口側の圧力又は低温流路の出口側の圧力の低下が検出されたときには、外容器内の熱交換器のケースに漏れがあると判定し、通常の作動時よりも高温流路の入口側の圧力の低下があるときには、高温流路の破損による漏れがあると判定し、通常の作動時よりも低温流路の出口側の圧力の低下があるときには、低温流路の破損による漏れがあると判定する。ここで、「通常の作動時」とは、熱交換器が異常なく安定的に作動している状態であってよい。「熱交換器のケース」とは、高温流路と低温流路とが熱交換するように隣接した構成の外装であってよく、通常は、熱が効率的に高温流路から低温流路へ伝達されるように、ケース外に対してケース内が断熱された状態に構成される。
【0009】
かかる本発明の構成に於いて、高温流路の入口側の圧力が通常の作動時よりも低下している場合は、高温流路に破損箇所があり、そこから高温流体が漏れていると考えられ、同様に、低温流路の出口側の圧力が通常の作動時よりも低下している場合は、低温流路に破損箇所があり、そこから低温流体が漏れていると考えられる。また、上記の如き圧力の低下があるときに、外容器内の温度が通常の作動時より上昇している場合には、更に、熱交換器のケースが破損し、高温流体又は低温流体が熱交換器のケースの外に漏れていると考えられる(外容器内の温度の上昇がないときには、熱交換器のケースの破損はなく、流体が熱交換器内で漏れていると考えられる。また、外容器内の温度の上昇だけ観測され、上記の圧力低下が観測されていない場合には、異常が熱交換器以外である可能性があることとなる。)。かくして、上記の構成によれば、高温流路の入口側の圧力と、低温流路の出口側の圧力と、外容器内の温度とを参照することにより、熱交換器の高温流路、低温流路又は熱交換器ケースに有意な漏れが発生しているか否か、を判定することが可能となり、いずれ圧力又は温度に異常が観測されたかによって、異常のある箇所が特定できることとなる。
【0010】
実施の態様に於いては、高温流路の入口側の圧力が通常の作動時よりも任意に設定されてよい所定の変化幅を越えて低くなったときに、高温流路に漏れがあると判定され、低温流路の出口側の圧力が通常の作動時よりも任意に設定されてよい所定の変化幅を越えてより低くなったときに、低温流路に漏れがあると判定されてよい。また、高温流路の入口側の圧力又は低温流路の出口側の圧力に上記の如き圧力低下があるときに、外容器の温度が通常の作動時の値よりも任意に設定されてよい所定の変化幅を超えて上昇したときには、熱交換器のケースの漏れがあると判定されるようになっていてよい。
【0011】
ところで、熱交換器がガスタービンエンジンなどの内燃機関の燃焼器へ供給される燃焼用空気と燃焼器からの排ガスとの間の熱交換を行う熱交換器である場合、熱交換器の各部の上記の如き漏れの程度が大きくなると、内燃機関の熱効率が低下するので、内燃機関が或る出力を発生するのに要する単位時間当たりの燃料量が増大することとなる。従って、上記の如き構成の熱交換器の場合には、逐次的に燃焼器へ供給される燃料量を観測することで、熱交換器の各部の漏れの程度を把握することが可能である。かくして、本発明の装置に於いて、更に、燃焼器への供給される燃料量を監視する手段が設けられ、熱交換器の各部の漏れの程度を評価できるようになっていてよい。
【0012】
実施の形態に於いて、本発明の異常診断装置は、上記の如く、高温流路の入口側の圧力、低温流路の出口側の圧力、外容器内の温度、又は更に、燃焼器への供給される燃料量を参照して、熱交換器の各部の漏れが相当程度にて存在すると判定されるときに、熱交換器の各部の漏れの程度が熱交換器のメンテナンス又は補修が必要な程度であると判定し、熱交換器のメンテナンス又は補修の必要の提示が為されるように構成されてよい。これにより、使用者は、適時、熱交換器のメンテナンス又は補修を実行することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
かくして、上記の本発明の熱交換器の異常診断装置に於いては、高温流路入口圧力と、低温流路出口圧力と、外容器内の温度とを監視することで、熱交換器の各部に漏れが生じた場合に、その検知と、漏れの生じた部位の特定とが可能となる。本発明の装置で異常診断に必要な検出手段は、比較的少数であり、ガスタービンエンジンなどの内燃機関の制御や監視に於いて通常使用される手段であるので、特別なセンサ、何本もの温度センサを要せず、比較的廉価に構成可能である。本発明の構成は、例えば、小型のコジェネ発電用ガスタービンエンジン等に使用される熱交換器に有利に利用可能である(その場合、外容器内の温度は、ガスタービンエンジンを収容するパッケージ内の温度である。)。
【0014】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1(A)は、本実施形態による熱交換器の異常診断装置が適用されるガスタービンエンジンの概略構成を表わした模式図である。図1(B)は、本実施形態による異常診断装置が適用される熱交換器の模式図である。
図2図2は、本実施形態による熱交換器の異常診断装置に於けるしょりをフローチャートの形式で表わした図である。
【符号の説明】
【0016】
1…ガスタービンエンジン
2…燃焼器
3…圧縮機
4…回転軸
5…タービン
6…熱交換器
6a…熱交換器の圧縮空気流路(低温流路)
6b…熱交換器の排ガス流路(高温流路)
6c…熱交換器のケース
10…ガスタービンエンジン容器(パッケージ)
Ar…空気
pAr…圧縮空気
BG…燃焼ガス
WG…排ガス
50…異常診断装置
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
ガスタービンエンジンと装置の構成
図1(A)を参照して、本実施形態の熱交換器の異常診断装置は、例えば、ガスタービンエンジン1に装備される熱交換器6の異常の検出のために用いられる。ガスタービンエンジン1としては、例えば、小型のコジェネ発電用ガスタービンエンジンであってよい。ガスタービンエンジン1は、より具体的には、燃焼器2、圧縮機3及びタービン5を有する。燃焼器2は、燃料供給ラインから供給される燃料FLと、圧縮機3が大気中から取り込んだ空気Arを圧縮し熱交換器6を通過して供給される圧縮空気pArとを混合して燃焼し、高温高圧の燃焼ガスBGを送出する。燃料としては、ガスタービンエンジンの燃料として通常用いられる任意の燃料であってよいが、工場などの施設の産業機械や運輸機械の排ガスに於ける任意の燃焼余地のあるガス(未燃ガス)であってもよい。タービン5は、燃焼器2からの燃焼ガスBGにより回転され、その回転によって、圧縮機3が回転し、上記の如く大気中から取り込んだ空気Arを圧縮して、燃焼器2へ送出する。また、タービン5の回転軸4には、発電機などの任意の機械器具が接続され、タービン5の回転エネルギーが、発電機等の機械器具にて回収され或いは機械の作動のためのエネルギーとして使用される。更に、タービン5から排出される排出ガスWGは、高温なので、その熱エネルギーを燃焼器2へ与えられる圧縮空気pArの昇温に利用し、エネルギー効率を向上できるように、熱交換器6に於いて、排ガスWGの流路6bと圧縮空気pArの流路6aとが熱的に接触しながら通過し、排ガスWGの熱エネルギーが圧縮空気pArへ伝達される。熱交換器6は、より詳細には、例えば、図1(B)に模式的に描かれている如く、圧縮空気pArの流通する流路6aと排ガスWGの流通する流路6bとが交互に、熱伝導性のある隔壁6wにて物理的に仕切られ、できるだけ広い面積にて、熱的に接触するように延在した構造をケース6c内に収容した構成を有する。かかる構成に於いて、圧縮空気流路6aでは、圧縮機3から圧力により圧縮空気が燃焼器2へ向けて圧送され、排ガス流路6bでは、燃焼器2からタービン5を経て排ガスが圧力を受けて圧送されることとなる。ケース6cは、熱が効率的に高温流路から低温流路へ伝達されるように、ケース外に対してケース内が断熱された状態に構成されていることが好ましい。なお、上記の燃焼器2、圧縮機3、タービン5、熱交換器6及びそれらの間にて流体を移送する流体管は、容器(パッケージ又はキュビクル)10内に収容される。
【0018】
上記のガスタービンエンジンに於いて、その制御や監視に必要な計測項目としては、大気温度T0、パッケージ内の温度Tp、圧縮機出口の圧縮空気温度P3、熱交換器出口の圧縮空気温度T35、圧縮空気圧力P35、タービン出口の排ガス温度T6、排ガス圧力P6、燃焼器への燃料流量Gfが挙げられる。各計測値は、対応するセンサ手段によって計測されてよい。パッケージ内の温度Tpとしては、ガスタービンエンジンが安定的に運転されている状況で温度変化のない箇所の温度が、温度センサなどの外容器温度検出手段により逐次的に計測されてよい。大気温度、圧縮空気と排ガスの温度と圧力とは、通常の態様にて計測されてよい。これらの項目のうち、本実施形態では、後に説明される熱交換器の異常診断のために、熱交換器出口の圧縮空気圧力P35と、タービン出口の排ガス圧力P6と、パッケージ内の温度Tpが、熱交換器に於ける異常の有無と異常部位の検出に用いられ、かかる異常の進み度合を監視するために、燃料流量Gfが用いられてよい。かかる熱交換器に於ける異常診断は、具体的には、異常診断装置50が、それぞれ、センサ手段にて計測された圧縮空気圧力P35、排ガス圧力P6、パッケージ内温度Tp又は更に燃料流量Gfを参照して、後に説明される態様にて実行する。異常診断装置50は、通常の形式の、双方向コモン・バスにより相互に連結されたCPU、ROM、RAM及び入出力ポート装置を有するコンピュータ及び駆動回路を含むコンピュータ装置により構成されてよく、その作動は、プログラムに従ったコンピュータ装置の作動により実現されてよい。
【0019】
熱交換器の異常診断
上記のガスタービンエンジン1の熱交換器6は、典型的には、熱伝達性能を良くするために、緻密なロウ付け溶接構造を採用しており、また高温で使用されることから、腐食等又は高温であるためによる破損又は破壊が起きる可能性があり、その場合、流路6a、流路6b、又はケース6cに於いて流体の漏れが生じることとなる。そうすると、熱交換性能が低下し、これにより、エンジンの燃費が低下し、その際には、早急な修理、部品交換により燃費改善する必要がある。そこで、熱交換器6に於ける流路やケースの破損による漏れの監視・検出(異常診断)が必要となるところ、かかる異常診断に於いては、できるだけ少ないセンサを用いて、異常が発生した場合の理由或いは異常箇所の特定をできることが好ましい。
【0020】
この点に関し、既に触れた如く、圧縮空気流路6aでは、圧縮機3からの圧力を受けて圧縮空気が圧送されるところ、圧縮空気流路6aに漏れがあるときには、圧縮機3は、空気流を増やすように作動が変化し、そうすると、圧縮機3の入口の圧力が低下し、これにより、圧縮空気流路6aに於ける圧損(入口と出口の差圧)が低下し、熱交換器6の出口の圧縮空気の圧力P35が低下することとなるので、熱交換器6の出口の圧縮空気の圧力P35を監視すれば、圧縮空気流路6aの漏れが検出できることなる。また、排ガス流路6bでは、燃焼器2からタービン5を経て圧力を受けて排ガスが圧送されるところ、排ガス流路6bに漏れがあるときには(排ガス流路6bの出口は、大気圧)、排ガス流路6bに於ける圧損が低下し、タービン5出口の圧力が低下するので、タービン5の出口の排ガスの圧力P5を監視すれば、排ガス流路6bの漏れが検出できることなる。更に、上記のいずれかの圧力低下がある状況で、熱交換器6のケース6cにも破損があり、流体が漏れ出しているときには、流体は高温であり、パッケージ内温度Tpが上昇することとなるので、パッケージ内温度Tpを監視すれば、ケース6cの漏れが検出できることなる。また、熱交換器の異常が進むほど、エネルギー効率が低下していき、その場合、内燃機関は、出力を維持すべく、燃焼器へ供給する燃料量を増大することとなる。従って、燃料流量Gfの上昇を監視すれば、熱交換器の異常の進行の度合を検知できることとなる。
【0021】
そこで、本実施形態では、上記の如く、圧縮空気圧力P35、排ガス圧力P6、パッケージ内温度Tp又は更に燃料流量Gfを参照して、熱交換器に於ける異常の有無と異常部位の特定と異常の進み度合の監視が為される。なお、熱交換器内の流路の異常の有無の判定に際して、温度ではなく、圧力を参照することで、温度ムラの影響を受けずに、より精度よく判定がなされることが期待される。
【0022】
センサ手段で計測される検出値の状態と熱交換器に生ずる異常との関係は、以下の通りである。以下に於いて、「通常時」とは、異常がない場合の温度又は圧力である。
(a)パッケージ温度Tpが通常時よりも上昇し、排ガス圧力P6が通常時よりも低下した場合←排ガス流路6bとケース6cが破損して、排ガスがケース外に漏れたために、パッケージ温度Tpが上がり、排ガス圧力P6が低下した。
(b)パッケージ温度Tpが通常時よりも上昇し、圧縮空気圧力P35が通常時よりも低下した場合←圧縮空気流路6aとケース6cが破損して、圧縮空気がケース外に漏れたために、パッケージ温度Tpが上がり、圧縮空気圧力P35が低下した。
(c)排ガス圧力P6が通常時よりも低下した場合(パッケージ温度Tpの上昇なし)←排ガス流路6bが破損して、排ガスがケース内に漏れたため、排ガス圧力P6が低下した(排ガスがケース内に留まっているので、(パッケージ温度Tpは上昇せず。)。
(d)圧縮空気圧力P35が通常時よりも低下した場合(パッケージ温度Tpの上昇なし)←圧縮空気流路6aが破損して、圧縮空気がケース内に漏れたため、圧縮空気圧力P35が低下した(圧縮空気がケース内に留まっているので、(パッケージ温度Tpは上昇せず。)。
かくして、圧縮空気圧力P35、排ガス圧力P6及びパッケージ内温度Tpを参照して、いずれの計測値に変化があったかに基づいて、熱交換器の異常が生じたときに、その異常の発生部位を特定できることとなる。
【0023】
ところで、上記の熱交換器の異常が相当程度に進んだときには、早急な修理、部品交換などのメンテナンスが必要であることが提示されることが好ましい。この点に関し、熱交換器の異常の進み度合は、圧縮空気圧力P35、排ガス圧力P6及びパッケージ内温度Tpの変化幅からも検出できるところ、既に述べた如く、燃料流量Gfの上昇からも検出可能である。従って、本実施形態の異常診断装置に於いては、圧縮空気圧力P35、排ガス圧力P6、パッケージ内温度Tp及び燃料流量Gfのいずれかの通常時からの変化幅が、それぞれの所定の閾値に達したときには、メンテナンスの必要が提示されるようになっていてよい。それぞれの所定の閾値は、実験等により予め決定可能である。
【0024】
異常診断処理
異常診断装置50に於ける処理は、図2の如く実行されてよい。処理に於いては、まず、圧縮空気圧力P35、排ガス圧力P6、パッケージ内温度Tp及び燃料流量Gfがそれぞれ検出される(ステップ1)。次いで、圧縮空気圧力P35と排ガス圧力P6とについて、それぞれ、通常時の値からずれΔP35、ΔP6が適宜設定されてよい有意な負値-εより小さいか否かが判定される(ステップ2、4)。通常時の値とは、ガスタービンエンジンの現在の出力に於いて、熱交換器に異常がない場合に、通常得られる値であり、予め実験等により決定されてよい。ステップ2、4に於ける-εは、同一の値であっても、異なる値であってもよい。ここで、ΔP35<-ε、又は、ΔP6<-εが成立しているときには、上記の検出値の状態と熱交換器に生ずる異常との関係から理解される如く、それぞれ、圧縮空気流路6a又は排ガス流路6bに破損による流体の漏れが有意に発生していると判定できることとなる(ステップ3、5)。なお、圧縮空気流路6a又は排ガス流路6bに破損があると判定されたときには、フラグFが1に設定される(初期状態ではF=0)。
【0025】
次いで、パッケージ内温度Tpについて、通常時の値からずれΔTpが適宜設定されてよい有意な正値εより大きいか否かが判定される(ステップ6)。通常時の値とは、ガスタービンエンジンの現在の出力に於いて、熱交換器に異常がない場合に、通常得られる値であり、予め実験等により決定されてよい。εは、上記と同一の値であっても、異なる値であってもよい。ここで、F=1の状態、即ち、圧縮空気流路6a又は排ガス流路6bに破損による流体の漏れが有意に発生していると判定されているときに、ΔTp>εが成立したときには、ケース6cに破損が生じ、流体が熱交換器6外に漏れていると判定される(ステップ7)。
【0026】
上記までの処理に於いては、圧縮空気流路6a、排ガス流路6b又はケース6cに破損による有意な漏れの発生の有無の判定と異常の発生箇所の特定が為されることとなる。そして、漏れの存在が検出された場合に、その進み度合が相当程度であるときには、メンテナンスの必要が提示される。具体的には、次のいずれかの条件が成立したときに(ステップ8)、メンテナンスの必要が提示されてよい(ステップ9)。
(i)ΔGf>γ
燃焼器への燃料量の通常時からの上昇幅ΔGfが、所定の閾値γ(>0)を超えているとき。
(ii)ΔP35<π35
圧縮空気圧力P35の通常時の値からの減少幅ΔP35が、所定の閾値π35(<0)を下回るとき。
(iii)ΔP6<π6
排ガス圧力P6の通常時の値からの減少幅ΔP6が、所定の閾値π6(<0)を下回るとき。
(iv)ΔTp>τ
パッケージ内温度Tpの通常時の値からの上昇幅ΔTpが、所定の閾値τ(>0)を超えているとき。
上記の所定の閾値は、実験等により適宜決定されてよい。なお、メンテナンスの必要の提示をするか否かの判定(ステップ8)は、(i)の燃料量についての条件を用い、異常個所の特定については、ステップ3、5、7の結果を参照するようになっていてもよい。
【0027】
かくして、上記の本実施形態の装置によれば、特別なセンサを用いずに、熱交換器の故障の有無、発生部位、重篤さが判定され、修理箇所や適切な交換時期を提示することが可能となる。
【0028】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。
図1
図2