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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04537 20160101AFI20241008BHJP
   H01M 8/04313 20160101ALI20241008BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20241008BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20241008BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20241008BHJP
【FI】
H01M8/04537
H01M8/04313
H01M8/04858
H01M8/00 A
H01M8/10 101
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021037569
(22)【出願日】2021-03-09
(65)【公開番号】P2022137871
(43)【公開日】2022-09-22
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五味 雄一
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴史
(72)【発明者】
【氏名】畑▲崎▼ 美保
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-086692(JP,A)
【文献】特開2006-087297(JP,A)
【文献】特開2013-114855(JP,A)
【文献】特開2018-032498(JP,A)
【文献】特開2017-084451(JP,A)
【文献】特開2016-066574(JP,A)
【文献】特開2013-239350(JP,A)
【文献】特開2004-165058(JP,A)
【文献】特開2009-193900(JP,A)
【文献】特開2009-048816(JP,A)
【文献】特開2004-265862(JP,A)
【文献】特開2004-152532(JP,A)
【文献】特開2008-218050(JP,A)
【文献】特開2008-077911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
B60L 1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
燃料電池セル(C)が複数積層された燃料電池(10)と、
前記燃料電池の出力を監視し、前記燃料電池の出力低下が生じた際、前記燃料電池の負荷に基づいて、前記出力低下が可逆的変化であるか否かを判定する出力監視部(100a)と、を備え、
前記出力監視部は、前記燃料電池の負荷が所定の低負荷閾値以下の低負荷運転であるか否かを監視し、この監視結果に基づいて、前記出力低下が前記可逆的変化であるか否かを判定するものであり、前記低負荷運転の継続時間を計測するとともに、前記継続時間の積算時間が所定の時間閾値を超えると、前記出力低下が前記可逆的変化であると判定する、燃料電池システム。
【請求項2】
前記出力監視部は、前記継続時間の積算を開始した後、前記燃料電池の負荷が前記低負荷閾値以上の値に設定された所定閾値を超える状態になると、前記積算時間をリセットまたは減少させる、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記出力監視部は、前記燃料電池の負荷が所定の高負荷閾値を超える高負荷運転である場合の前記燃料電池の出力特性を監視し、この監視結果に基づいて、前記燃料電池の劣化の進行度合いを推定し、前記進行度合いに応じて前記時間閾値を変化させる、請求項1または2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
燃料電池システムであって、
燃料電池セル(C)が複数積層された燃料電池(10)と、
前記燃料電池の出力を監視し、前記燃料電池の出力低下が生じた際、前記燃料電池の負荷に基づいて、前記出力低下が可逆的変化であるか否かを判定する出力監視部(100a)と、を備え、
前記出力監視部は、前記燃料電池の負荷が所定の低負荷閾値以下の低負荷運転であるか否かを監視し、この監視結果に基づいて、前記出力低下が前記可逆的変化であるか否かを判定するものであり、前記燃料電池の負荷が前記低負荷閾値以下となっている期間に、所定の周期で前記燃料電池の負荷の大きさに対応して予め設定した負荷ポイントを積算し、前記負荷ポイントの積算値が所定の基準閾値を超えた場合に、前記出力低下が前記可逆的変化であると判定する、燃料電池システム。
【請求項5】
前記出力監視部は、前記負荷ポイントの積算を開始した後、前記燃料電池の負荷が前記低負荷閾値以上の値に設定された所定閾値を超える状態になると、前記積算値をリセットまたは減少させる、請求項4に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記出力監視部は、前記出力低下が生じた際、前記燃料電池の負荷に基づいて、前記出力低下が不可逆的変化であるか否かを判定する、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項7】
燃料電池システムであって、
燃料電池セル(C)が複数積層された燃料電池(10)と、
前記燃料電池の出力を監視する出力監視部(100a)と、を備え、
前記出力監視部は、
前記燃料電池の出力低下が生じた際、前記燃料電池の負荷に基づいて、前記出力低下が可逆的変化であるか否かを判定し、
前記出力低下が生じた際、前記燃料電池の負荷に基づいて、前記出力低下が不可逆的変化であるか否かを判定し、
前記燃料電池の負荷が所定の高負荷閾値を超える高負荷運転である場合に、前記出力低下が前記不可逆的変化であると判定する、燃料電池システム。
【請求項8】
燃料電池システムであって、
燃料電池セル(C)が複数積層された燃料電池(10)と、
前記燃料電池の出力を監視し、前記燃料電池の出力低下が生じた際、前記燃料電池の負荷に基づいて、前記出力低下が可逆的変化であるか否かを判定する出力監視部(100a)と、を備え、
前記出力監視部は、
前記燃料電池の負荷が所定の低負荷閾値以下の低負荷運転であるか否かを監視し、この監視結果に基づいて、前記出力低下が前記可逆的変化であるか否かを判定し、
前記燃料電池の負荷が所定の高負荷閾値を超える高負荷運転である場合の前記燃料電池の出力特性を監視し、この監視結果に基づいて前記燃料電池の劣化の進行度合いを推定し、前記進行度合いに応じて前記低負荷閾値を変更する、燃料電池システム。
【請求項9】
前記燃料電池の運転を制御する運転制御部(100b)を備え、
前記運転制御部は、前記出力低下が前記可逆的変化である場合に、前記出力低下を回復する回復運転を行う、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項10】
燃料電池システムであって、
燃料電池セル(C)が複数積層された燃料電池(10)と、
前記燃料電池の出力を監視し、前記燃料電池の出力低下が生じた際、前記燃料電池の負荷に基づいて、前記出力低下が可逆的変化であるか否かを判定する出力監視部(100a)と、
前記燃料電池の運転を制御するものであって、前記出力低下が前記可逆的変化である場合に、前記出力低下を回復する回復運転を行う運転制御部(100b)と、を備え、
前記運転制御部は、前記出力低下が前記可逆的変化である場合であっても、前記燃料電池の負荷が増大すると予測される場合、前記回復運転を行わない、燃料電池システム。
【請求項11】
燃料電池システムであって、
燃料電池セル(C)が複数積層された燃料電池(10)と、
前記燃料電池の出力を監視し、前記燃料電池の出力低下が生じた際、前記燃料電池の負荷に基づいて、前記出力低下が可逆的変化であるか否かを判定する出力監視部(100a)と、
前記燃料電池の運転を制御するものであって、前記出力低下が前記可逆的変化である場合に、前記出力低下を回復する回復運転を行う運転制御部(100b)と、を備え、
前記運転制御部は、前記出力低下が前記可逆的変化である場合であって前記燃料電池の負荷が増大すると予測される場合、前記燃料電池の負荷が増大するタイミングに合わせて前記回復運転を行う、燃料電池システム。
【請求項12】
前記燃料電池が出力する電力を蓄積可能な蓄電機器(14)を備え、
前記運転制御部は、前記回復運転時に前記燃料電池の負荷を増加させるとともに、前記燃料電池が出力する電力の一部を前記蓄電機器に蓄積する、請求項ないし11のいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項13】
前記運転制御部は、前記回復運転時に、前記燃料電池の内部にある水が排出されるように、前記燃料電池への反応ガスの供給量を増加させる、請求項ないし11のいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池に発生する異常を検知する方法として、例えば、下記の特許文献1に記載されているように、燃料電池の交流インピーダンスを利用する方法が知られている。この特許文献1には、燃料電池セルを積層した燃料電池の交流インピーダンスに基づいて、燃料電池の性能劣化を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-48559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃料電池の負荷が小さい低負荷運転では、燃料電池の交流インピーダンスの計測に必要な電流を燃料電池の出力に重畳させることができない。このため、従来技術では、燃料電池の負荷が小さい低負荷運転において燃料電池の出力低下の要因を判定することが困難になってしまう。
【0005】
本開示は、燃料電池の出力低下の要因を適切に判定することが可能な燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1、4、7、1011に記載の発明は、
燃料電池システムであって、
燃料電池セル(C)が複数積層された燃料電池(10)と、
燃料電池の出力を監視する出力監視部(100a)と、を備え、
出力監視部は、燃料電池の出力低下が生じた際、燃料電池の負荷に基づいて、出力低下が可逆的変化であるか否かを判定する。
請求項1に記載の発明では、出力監視部が、燃料電池の負荷が所定の低負荷閾値以下の低負荷運転であるか否かを監視し、この監視結果に基づいて、出力低下が可逆的変化であるか否かを判定するものであり、低負荷運転の継続時間を計測するとともに、継続時間の積算時間が所定の時間閾値を超えると、出力低下が前記可逆的変化であると判定する。
請求項4に記載の発明では、出力監視部が、燃料電池の負荷が所定の低負荷閾値以下の低負荷運転であるか否かを監視し、この監視結果に基づいて、出力低下が可逆的変化であるか否かを判定するものであり、燃料電池の負荷が低負荷閾値以下となっている期間に、所定の周期で燃料電池の負荷の大きさに対応して予め設定した負荷ポイントを積算し、負荷ポイントの積算値が所定の基準閾値を超えた場合に、出力低下が前記可逆的変化であると判定する。
請求項7に記載の発明では、出力監視部は、出力低下が生じた際、燃料電池の負荷に基づいて、出力低下が不可逆的変化であるか否かを判定し、燃料電池の負荷が所定の高負荷閾値を超える高負荷運転である場合に、出力低下が前記不可逆的変化であると判定する。
請求項に記載の発明では、出力監視部は、燃料電池の負荷が所定の低負荷閾値以下の低負荷運転であるか否かを監視し、この監視結果に基づいて、出力低下が可逆的変化であるか否かを判定し、燃料電池の負荷が所定の高負荷閾値を超える高負荷運転である場合の燃料電池の出力特性を監視し、この監視結果に基づいて燃料電池の劣化の進行度合いを推定し、進行度合いに応じて低負荷閾値を変更する。
請求項10に記載の発明は、燃料電池の運転を制御するものであって、出力低下が前記可逆的変化である場合に、出力低下を回復する回復運転を行う運転制御部(100b)と、を備え、運転制御部は、出力低下が可逆的変化である場合であっても、燃料電池の負荷が増大すると予測される場合、回復運転を行わない。
請求項11に記載の発明は、燃料電池の運転を制御するものであって、出力低下が可逆的変化である場合に、出力低下を回復する回復運転を行う運転制御部(100b)と、を備え、運転制御部は、出力低下が可逆的変化である場合であって燃料電池の負荷が増大すると予測される場合、燃料電池の負荷が増大するタイミングに合わせて回復運転を行う。
【0007】
燃料電池の出力低下は、可逆的変化と不可逆的変化とに大別することができる。不可逆的変化は、燃料電池の負荷条件によらず回復しない不可逆な変化である。一方、可逆的変化は、燃料電池の負荷条件によっては回復する可逆的な変化である。そして、可逆的変化は、燃料電池が低負荷となる際に生じ易く、燃料電池が高負荷となる際に生じ難い傾向がある。このことは、本発明者らの鋭意検討の末に見出された。
【0008】
これらを加味して、本開示の燃料電池システムは、燃料電池の負荷に基づいて燃料電池の出力低下が可逆的変化であるか否かを判定する。これによれば、燃料電池の出力低下の要因が可逆的変化であるか否かを適切に判定することができる。
【0011】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る燃料電池システムの概略構成図である。
図2】燃料電池システムの制御装置を示す模式的なブロック図である。
図3】第1実施形態の制御装置が実行する制御処理の一例を示すフローチャートである。
図4】第1実施形態の制御装置が実行する可逆的変化の判定処理の一例を示すフローチャートである。
図5】第1実施形態の制御装置が実行する可逆的変化の判定処理を説明するための説明図である。
図6】第1実施形態の制御装置が実行する不可逆的変化の判定処理の一例を示すフローチャートである。
図7】第1実施形態の制御装置が実行する不可逆的変化の判定処理を説明するための説明図である。
図8】燃料電池が劣化した際の出力特性を説明するための説明図である。
図9】可逆的変化の判定時の低負荷閾値の設定を説明するための説明図である。
図10】第1実施形態の制御装置が実行する回復処理の一例を示すフローチャートである。
図11】第1実施形態の制御装置が実行する回復処理を説明するための説明図である。
図12】第2実施形態の制御装置が実行する可逆的変化の判定処理の一例を示すフローチャートである。
図13】第2実施形態の制御装置が実行する可逆的変化の判定処理を説明するための説明図である。
図14】第2実施形態の可逆的変化の判定処理の変形例を説明するための説明図である。
図15】第3実施形態の制御装置が実行する不可逆的変化の判定処理の一例を示すフローチャートである。
図16】第3実施形態の制御装置が実行する不可逆的変化の判定処理を説明するための説明図である。
図17】第4実施形態の制御装置が実行する可逆的変化の判定処理の一例を示すフローチャートである。
図18】第4実施形態の制御装置が実行する可逆的変化の判定処理を説明するための説明図である。
図19】第5実施形態の制御装置が実行する可逆的変化の判定処理の一例を示すフローチャートである。
図20】第6実施形態の制御装置が実行する回復処理の一例を示すフローチャートである。
図21】第6実施形態の制御装置が実行する回復処理を説明するための説明図である。
図22】第7実施形態の制御装置が実行する制御処理の一例を示すフローチャートである。
図23】第8実施形態の制御装置が実行する制御処理の一例を示すフローチャートである。
図24】第8実施形態の制御装置が実行する制御処理を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態において、先行する実施形態で説明した事項と同一もしくは均等である部分には、同一の参照符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、実施形態において、構成要素の一部だけを説明している場合、構成要素の他の部分に関しては、先行する実施形態において説明した構成要素を適用することができる。以下の実施形態は、特に組み合わせに支障が生じない範囲であれば、特に明示していない場合であっても、各実施形態同士を部分的に組み合わせることができる。
【0014】
(第1実施形態)
本実施形態について、図1図11を参照して説明する。本実施形態では、本開示の燃料電池システム1を、燃料電池10にて車両走行用のモータへ供給する電力を得る車両FCVに適用した例について説明する。FCVは、Fuel Cell Vehicleの略称である。
【0015】
燃料電池システム1は、反応ガスである水素および酸素の電気化学反応を利用して電力を発生させる燃料電池10を備えている。燃料電池10は、インバータINV等の電力変換機器11に電力を供給する。インバータINVは、燃料電池10から供給された直流電流を交流電流に変換して走行用モータ等の負荷機器12に供給して当該負荷機器12を駆動する。
【0016】
電力変換機器11には、DC-DCコンバータ13が含まれている。DC-DCコンバータ13を介して燃料電池10と蓄電機器14とが接続されている。燃料電池システム1は、燃料電池10から出力される電力のうち余剰となる電力が蓄電機器14に蓄積されるように構成されている。
【0017】
燃料電池10は、最小単位となる燃料電池セルCが複数積層されたセルスタックCSとして構成されている。燃料電池セルCは、燃料電池セルCの積層方向に直交する方向に拡がるセル面を有する。燃料電池セルCのセル面における発電に寄与する発電面が「燃料電池セルCの発電面内」に相当する。
【0018】
燃料電池セルCは、電解質膜、触媒、ガス拡散層、セパレータを有する固体高分子電解質型のセル(いわゆる、PEFC)で構成されている。燃料電池セルCは、電解質膜が触媒、ガス拡散層、セパレータで挟持されている。燃料電池セルCは、アノード電極側に水素が供給され、カソード電極側に酸素が供給されると、以下の反応式F1、F2に示す電気化学反応が起きて電気エネルギが発生する。
・アノード電極側:H→2H+2e・・・(F1)
・カソード電極側:2H+1/2O+2e→HO・・・(F2)
上記の電気化学反応が起きるためには、燃料電池セルCの電解質膜は、水を含んだ湿潤状態になっている必要がある。燃料電池システム1は、燃料電池10の内部の電解質膜を加湿する。電解質膜の加湿は、燃料ガスである水素または酸化剤ガスである空気の供給経路に加湿装置等を配置することで実現可能である。
【0019】
燃料電池10は、上記の電気化学反応により発熱する。そして、燃料電池10は、発電効率向上、電解質膜の劣化抑制等の関係で、その作動温度を80℃程度に維持する必要がある。
【0020】
燃料電池システム1は、燃料電池10の温度を適温に調整するための冷却水回路20を備える。冷却水回路20は、ラジエータ21および水ポンプ22が設けられている。ラジエータ21は、燃料電池10の熱によって昇温した冷却水を外気と熱交換させて放熱させる放熱器である。
【0021】
燃料電池システム1は、燃料電池10に向けて酸素を含む空気を供給するための空気供給経路30が設けられている。空気供給経路30には、エアポンプ31が設けられている。エアポンプ31は、燃料電池10に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給部を構成する。エアポンプ31は、後述の制御装置100からの制御信号に基づいて、燃料電池10への空気の供給能力が制御される。
【0022】
燃料電池システム1は、燃料電池10から排出される空気のオフガス(すなわち、オフ空気)を図示しないマフラに流すための空気排出経路32が設けられている。空気排出経路32には、エアバルブ33が設けられている。エアバルブ33は、燃料電池10の内部のエア圧力を調整する調整弁である。
【0023】
燃料電池システム1には、燃料電池10に向けて水素を供給するための水素供給経路40が設けられている。水素供給経路40には、最上流部に高圧水素タンク41が設けられ、高圧水素タンク41の下流に燃料バルブ42が設けられている。
【0024】
燃料電池システム1は、燃料電池10から排出される水素のオフガス(すなわち、オフ燃料)を図示しないマフラに流すための水素排出経路43が設けられている。水素排出経路43には、排気バルブ44が設けられている。水素排出経路43の下流側は、空気排出経路32に接続されている。これにより、水素排出経路43を流れるオフ燃料は、オフ空気と混合されて希釈された後にマフラから排気される。
【0025】
次に、燃料電池システム1の電子制御部について図2を参照しつつ説明する。燃料電池システム1は、図2に示すように、制御装置100を備える。制御装置100は、燃料電池システム1を構成する各種の制御対象機器の作動を制御する。制御装置100は、プロセッサ、メモリを含むマイクロコンピュータとその周辺回路を備えている。制御装置100のメモリは、非遷移的実体的記憶媒体である。
【0026】
制御装置100は、その入力側に、FC電圧検出部101、FC電流検出部102、水温センサ103、エア側監視センサ104、インピーダンス検出部105等が接続されている。
【0027】
FC電圧検出部101およびFC電流検出部102は、燃料電池10とインバータINVとの接続ラインに設けられている。FC電圧検出部101は、燃料電池10が出力する出力電圧(すなわち、FC電圧)を検出するセンサである。FC電流検出部102は、燃料電池10を流れる電流を検出するセンサである。
【0028】
ここで、本実施形態の制御装置100は、FC電圧検出部101の検出値およびFC電流検出部102の検出値に基づいて、燃料電池10の出力低下を検知する。制御装置100は、燃料電池10の出力を監視するための出力監視部100aを構成している。
【0029】
水温センサ103は、冷却水回路20に設けられている。水温センサ103は、燃料電池10を通過直後の冷却水の温度を検出するセンサである。水温センサ103の検出値は、燃料電池10の温度(すなわち、FC温度)に相当する。
【0030】
エア側監視センサ104は、空気供給経路30に配置されるエアフローメータ、エア温度センサ、エア圧力センサを含んでいる。エアフローメータは、空気供給経路30を流れる空気の流量を検出するセンサである。エア温度センサは、空気供給経路30を流れる空気の温度を検出するセンサである。エア圧力センサは、空気供給経路30を流れる空気の圧力を検出するセンサである。
【0031】
インピーダンス検出部105は、燃料電池10のインピーダンスimpを検出する装置である。インピーダンス検出部105は、燃料電池10の出力電流に所定の周波数の交流信号を重畳させて交流重畳部105aおよび交流信号が重畳された出力電流からインピーダンスimpを算出する演算部105bを有する。
【0032】
ここで、燃料電池10が乾燥すると、燃料電池セルCの電解質膜の膜抵抗(すなわち、オーム抵抗)が大きくなることで、燃料電池10のインピーダンスimpが大きくなる。すなわち、燃料電池10のインピーダンスimpは、燃料電池10の温度よりも燃料電池10の乾燥に高い相関性がある物理量である。特に、200Hz以上の高周波数の交流信号を重畳させた際のインピーダンスimpは、燃料電池セルCの電解質膜の膜抵抗と強い相関性を有する。本実施形態のインピーダンス検出部105は、高周波数の交流信号を重畳させた際のインピーダンスimpを燃料電池10の温度よりも燃料電池10の乾燥に高い相関性がある物理量として検出可能になっている。
【0033】
また、インピーダンス検出部105は、燃料電池セルCの面内におけるインピーダンスimpの分布が把握可能に構成されている。例えば、インピーダンス検出部105は、燃料電池セルCの面内におけるエア入口領域、エア出口領域、中間領域それぞれのインピーダンスimpを把握可能になっている。これにより、インピーダンス検出部105では、燃料電池セルCの面内における特定箇所でのインピーダンスimpを検出することができる。特定箇所は、例えば、燃料電池セルCの面内のうち、特に乾燥が生じ易い、空気流路のエア入口側の部位である。燃料電池セルCのエア入口側は、燃料電池10に供給される空気とともに水が下流に押し流されることで乾燥が生じ易い。
【0034】
制御装置100の出力側には、水ポンプ22、エアポンプ31、エアバルブ33、燃料バルブ42、排気バルブ44等の制御対象機器が接続されている。
【0035】
また、制御装置100は、インバータINV、DC-DCコンバータ13等の電力変換機器11が接続されている。制御装置100は、メモリに記憶された制御プログラムに基づいて、出力側に接続される制御対象機器を動作させて、燃料電池10の運転を制御する。本実施形態の制御装置100は、燃料電池10の運転を制御する運転制御部100bを構成している。
【0036】
制御装置100は、燃料電池10への要求電力が大きい場合、燃料電池10への水素および空気の供給量が多くなるように、エアポンプ31の能力および燃料バルブ42の開度を制御する。
【0037】
一方、制御装置100は、燃料電池10への要求電力が小さい場合、燃料電池10への水素および空気の供給量が少なくなるように、エアポンプ31の能力および燃料バルブ42の開度を制御する。
【0038】
このように、燃料電池システム1では、走行用モータ等の負荷機器12からの要求電力に応じた電力が出力されるように、出力側に接続される制御対象機器の作動が制御装置100によって制御される。具体的には、燃料電池システム1では、燃料電池10の負荷に応じて燃料電池10から掃引する目標電流を設定し、燃料電池10からの出力電流が目標電流に維持されるように、制御対象機器の作動を制御する。なお、本開示の「燃料電池10の負荷」は、負荷機器12等から燃料電池10に要求される要求電力または当該要求電力を満足するのに必要な掃引電流である。
【0039】
ところで、燃料電池システム1では、燃料電池10の出力電圧が予め想定される電圧に対して低下することがある。この燃料電池10の出力低下は、可逆的変化と不可逆的変化とに大別することができる。不可逆的変化は、触媒のシンタリングによる有効反応面積減少、電解質膜内の劣化によるプロトン伝導性低下等の劣化に起因するものであって、燃料電池10の負荷条件によらず回復しない不可逆な変化である。一方、可逆的変化は、電解質膜の乾燥によるオーム抵抗増加、生成水の滞留による反応ガスの拡散抵抗増加など、燃料電池10の負荷条件によっては回復する可逆的な変化である。そして、可逆的変化は、燃料電池10が低負荷となる際に生じ易く、燃料電池10が高負荷となる際に生じ難い傾向がある。このことは、本発明者らの鋭意検討の末に見出された。
【0040】
これらを加味して、本実施形態の制御装置100は、燃料電池10の負荷を監視し、この監視結果に基づいて、燃料電池10の出力低下の要因を判定する制御処理を実行する。以下、本実施形態の制御装置100が実行する制御処理について図3図4図6図10を参照しつつ説明する。図3に示す制御処理は、燃料電池10の起動後に周期的または不定期に制御装置100によって実行される。
【0041】
図3に示すように、制御装置100は、ステップS1100にて、FC出力が基準値以下であるか否かを判定する。FC出力は、燃料電池10の出力電圧であり、FC電圧検出部101で計測可能である。また、判定閾値である基準値は、燃料電池10が正常に動作している際に燃料電池10から出力されると予想される電圧に設定されている。この基準値は、固定値であってもよいが、燃料および空気等の反応ガスの供給量に応じて変化させることが望ましい。
【0042】
FC出力が基準値以下でない場合、燃料電池10の出力に異常がなく、燃料電池10が正常に動作していると考えられる。このため、制御装置100は、以降の処理をスキップして、本制御処理を抜ける。
【0043】
一方、FC出力が基準値以下である場合、燃料電池10に何らかの異常が生じていると考えられる。このため、制御装置100は、ステップS1110に移行して、燃料電池10の出力低下の要因を判定する出力低下判定処理を実行する。
【0044】
出力低下判定処理には、燃料電池10の出力低下が可逆的変化である否かを判定する可逆的変化の判定処理が含まれている。以下、制御装置100が実行する可逆的変化の判定処理について、図4のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0045】
図4に示すように、制御装置100は、ステップS1200にて、燃料電池10の負荷であるFC負荷が所定の低負荷閾値以下であるか否かを判定する。低負荷閾値は、例えば、電流密度が0.2A/cm以下となる際の掃引電流(=発電面積×電流密度)に設定される。燃料電池10の負荷は、例えば、停車中等のアクセルオフ時や要求出力が少ない定常走行時に低負荷閾値以下となり易い。本実施形態の低負荷閾値は、燃料電池10の劣化の進行度合いに応じて変更される可変閾値である。このことは、後で詳述する。
【0046】
FC負荷が低負荷閾値よりも大きい場合、反応ガスが燃料電池10に或る程度供給されている状況であり、電解質膜の乾燥や生成水の滞留が生じていないと考えられる。このため、FC負荷が低負荷閾値よりも大きい場合、制御装置100は、ステップS1210にて、後述の積算時間をゼロにリセットし、本処理を抜ける。
【0047】
一方、FC負荷が低負荷閾値以下である場合、燃料電池10への反応ガスの供給量が少ない状況であり、電解質膜の乾燥や生成水の滞留が生じ易い。このため、FC負荷が低負荷閾値以下である場合、制御装置100は、ステップS1220にて、FC負荷が低負荷閾値以下となる低負荷運転の経過時間を積算する。例えば、制御装置100は、前回に引き続いて今回の判定処理でも低負荷閾値以下と判定された場合に、前回の判定処理から今回の判定処理までに経過した時間を継続時間として算出するとともに、当該継続時間を前回までに算出された継続時間に積算する。
【0048】
FC負荷が低負荷になると電解質膜の乾燥や生成水の滞留が生じ易くなるが、この電解質膜の乾燥や生成水の滞留は、FC負荷が低負荷になった直後ではなく、FC負荷が低負荷になってから所定の時間が経過した後に発現し易い。このことは、本発明者らの検討の末に見出された。
【0049】
このため、制御装置100は、ステップS1230にて、積算時間が時間閾値を超えたか否かを判定する。時間閾値は、例えば、低負荷運転が開始されてから電解質膜の乾燥や生成水の滞留が生じ始めるまでに要する時間に設定される。本実施形態の時間閾値は、固定閾値である。
【0050】
積算時間が時間閾値以下の場合、制御装置100は、ステップS1200に戻る。一方、積算時間が時間閾値を超えている場合、制御装置100は、ステップS1240に移行して、燃料電池10の出力低下が可逆的変化であると判定する。例えば、図5に示すように、制御装置100は、積算時間が時間閾値を超えた際に、燃料電池10の出力低下が可逆的変化であることを示す可逆判定フラグをオンにする。ここまでが可逆的変化の判定処理の説明である。
【0051】
また、出力低下判定処理には、燃料電池10の出力低下が不可逆的変化である否かを判定する不可逆的変化の判定処理が含まれている。以下、制御装置100が実行する不可逆的変化の判定処理について、図6のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0052】
図6に示すように、制御装置100は、ステップS1300にて、FC負荷が所定の高負荷閾値よりも大きいか否かを判定する。高負荷閾値は、高速道路の本線への合流時や登板時等のように燃料電池10が高負荷となる際の負荷に設定される。図7に示すように、高負荷閾値は、低負荷閾値よりも大きい値に設定される。高負荷閾値は、例えば、電流密度が1.0A/cm以上となる際の掃引電流(=発電面積×電流密度)に設定される。燃料電池10の負荷は、例えば、登板走行中や要求出力が多い加速走行時に高負荷閾値よりも大きくなり易い。本実施形態の高負荷閾値は、固定閾値であってもよいし、可変閾値であってもよい。
【0053】
FC負荷が高負荷閾値以下の場合、制御装置100は、以降の処理をスキップして本処理を抜ける。
【0054】
一方、FC負荷が高負荷閾値を超えている場合、燃料電池10へ供給する反応ガスの流量が多い状況である。FC負荷が高負荷閾値を超える高負荷運転時は、燃料電池セルCにおける電気化学反応で発生する水の生成量が反応ガスの輸送による排出量と同程度となり、燃料電池セルCの内部の水バランスが良好に維持され易いので、可逆的な出力低下が生じ難い。このため、触媒のシンタリングによる有効反応面積減少、電解質膜内のプロトン伝導性低下等の劣化が生じている可能性がある。
【0055】
FC負荷が高負荷閾値を超えている場合、制御装置100は、ステップS1310に移行して、燃料電池10の出力低下が不可逆的変化であると判定する。例えば、図7に示すように、制御装置100は、FC負荷が高負荷閾値を超えた際に、燃料電池10の出力低下が不可逆的変化であることを示す不可逆判定フラグをオンにする。
【0056】
ここで、燃料電池10は、劣化が進行すると、一定の電力を負荷機器12等に引いた際、初期状態に比べて出力電圧が低下するとともに出力電流が大きくなる。このため、燃料電池10から一定の電力を引いた際の燃料電池10の出力電流は、燃料電池10の劣化の進行度合いと相関性がある。
【0057】
このことを考慮し、制御装置100は、ステップS1320にて、燃料電池10の出力特性を監視し、この監視結果に基づいて、燃料電池10の劣化の進行度合いを推定する。例えば、制御装置100は、燃料電池10から一定の電力を引いた際の燃料電池10の出力電流と劣化の進行度合いとの関係を規定した制御マップを参照し、燃料電池10の出力電流等から燃料電池10の劣化の進行度合いを推定する。
【0058】
続いて、燃料電池10は、ステップS1330にて、燃料電池10の劣化の進行度合いに応じて、図4のステップS1200に判定処理で用いる低負荷閾値を変更する。例えば、図9に示すように、制御装置100は、燃料電池10の劣化の進行度合いが大きくなるに伴って、低負荷閾値を増加させる。ここまでが不可逆的変化の判定処理の説明である。
【0059】
図3のステップS1110の出力低下判定処理が完了すると、制御装置100は、ステップS1120に移行し、燃料電池10の出力低下が可逆的変化であるか否かを判定する。この判定は、可逆判定フラグの状態に基づいて実施される。
【0060】
燃料電池10の出力低下が可逆的変化に起因しない場合、制御装置100は、以降の処理をスキップして本処理を抜ける。一方、燃料電池10の出力低下が可逆的変化に起因する場合、制御装置100は、ステップS1130に移行して回復処理を実行した後、本処理を抜ける。回復処理は、燃料電池10の出力低下を回復させる回復運転を行う処理である。以下、制御装置100が実行する回復処理について、図10のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0061】
図10に示すように、制御装置100は、ステップS1400にて、燃料電池10の負荷をユーザ要求によらず強制的に増加させる。制御装置100は、例えば、燃料電池10から掃引する電流を増加させることで、燃料電池10の負荷を増加させる。これによると、燃料電池10へ供給する反応ガスの流量が多くなって燃料電池セルCの内部の水バランスが改善し、燃料電池10の出力低下が回復する。
【0062】
ここで、燃料電池10の負荷を強制的に増加させると、図11に示すように、燃料電池システム1で消費されない余剰電力が燃料電池10から出力される。このため、制御装置100は、ステップS1410にて、燃料電池10が出力する余剰電力分を蓄電機器14に蓄積する。
【0063】
続いて、制御装置100は、ステップS1420にて、燃料電池10の負荷を増加させてから所定時間が経過したか否かを判定する。この所定時間は、例えば、燃料電池セルCの内部の水バランスが改善するのに要すると考えられる時間に設定される。
【0064】
制御装置100は、燃料電池10の負荷増加から所定時間が経過するまでは待機し、燃料電池10の負荷増加から所定時間が経過すると、ステップS1430に移行して、燃料電池10の負荷を減少させる。具体的には、制御装置100は、ステップS1430の処理で、ステップS1400での負荷増加分を減少させる。すなわち、制御装置100は、燃料電池10の負荷増加から所定時間が経過すると、燃料電池10の負荷を回復処理の実行前の負荷に戻す。
【0065】
以上説明した燃料電池システム1の制御装置100は、燃料電池10の出力低下が生じた際、燃料電池10の負荷に基づいて、燃料電池10の出力低下が可逆的変化であるか否かを判定する。これによれば、燃料電池10のインピーダンスimpを用いた燃料電池10の診断が困難な場合であっても、燃料電池10の出力低下の要因が可逆的変化であるか否かを適切に判定することができる。
【0066】
(1)本実施形態の制御装置100は、燃料電池10の負荷が所定の低負荷閾値以下の低負荷運転であるか否かを監視し、この監視結果に基づいて、燃料電池10の出力低下が可逆的変化であるか否かを判定する。
【0067】
燃料電池10の負荷が小さい低負荷運転時は、燃料電池10へ供給する反応ガスの流量が少ないため、燃料電池セルCにおける電気化学反応で発生する水の生成量が反応ガスの輸送による排出量を上回り、燃料電池セルCの内部の水バランスが悪化する。すなわち、燃料電池セルCの発電面内の生成水の滞留は、水の生成速度が排水速度を上回ることで生じる。低負荷運転時は、燃料電池セルCの発電面内の大部分に生成水が滞留して拡散抵抗が増加したり、一部分が乾燥してオーム抵抗が増加するとともに他の部分で生成水が滞留し拡散抵抗が増加したりすることで、可逆的な出力低下が生じ易い。
【0068】
このため、低負荷運転であるか否かを監視すれば、発電面内の水バランスを把握することが可能となるので、低負荷運転時の監視結果に基づいて、燃料電池10の出力低下の要因が可逆的変化であるか否かを適切に判定することができる。
【0069】
(2)具体的には制御装置100は、低負荷運転の継続時間を計測するとともに、継続時間の積算時間が所定の時間閾値を超えると、出力低下が可逆的変化であると判定する。低負荷運転が或る程度継続されると、燃料電池セルCの内部の水バランスが悪化し、燃料電池10の出力低下が生じ易くなる。このため、低負荷運転の継続時間の積算時間を監視し、この監視結果に基づいて、燃料電池10の出力低下の要因が可逆的変化であるか否かを判定することが望ましい。
【0070】
(3)また、制御装置100は、燃料電池10の出力低下が生じた際、燃料電池10の負荷に基づいて、燃料電池10の出力低下が不可逆的変化であるか否かを判定する。これによれば、燃料電池10の出力低下の要因が不可逆的変化であるか否かを適切に判定することができる。
【0071】
(4)本実施形態の制御装置100は、燃料電池10の負荷が所定の高負荷閾値を超える高負荷運転である場合に、燃料電池10の出力低下が不可逆的変化であると判定する。燃料電池10の負荷が大きい高負荷運転時は、燃料電池10へ供給する反応ガスの流量が多い。この高負荷運転時は、燃料電池セルCにおける電気化学反応で発生する水の生成量が反応ガスの輸送による排出量と同程度となり、燃料電池セルCの内部の水バランスが良好に維持され易いので、可逆的な出力低下が生じ難い。このため、燃料電池10の負荷が高負荷運転であるか否かの判定結果に基づいて、燃料電池10の出力低下の要因が不可逆的変化であるか否かを適切に判定することができる。
【0072】
(5)制御装置100は、燃料電池10の負荷が所定の高負荷閾値を超える高負荷運転である場合の燃料電池10の出力特性を監視し、この監視結果に基づいて燃料電池10の劣化の進行度合いを推定し、当該進行度合いに応じて低負荷閾値を変更する。燃料電池10の劣化が進行するとガス拡散層の撥水性低下、セパレータの親水性低下などにより、より高い負荷でも生成水が排出され難くなる。このため、高負荷運転時の燃料電池10の出力特性から燃料電池10の劣化の進行度合いを推定し、推定した燃料電池10の劣化の進行に合わせて低負荷運転であるか否かを判定する低負荷閾値を変更することで判定精度の向上を図ることができる。
【0073】
(6)制御装置100は、燃料電池10の出力低下が可逆的変化である場合に、出力低下を回復する回復運転を行う。これによると、燃料電池10の可逆的変化による出力低下の影響を排除して精度良く不可逆的変化(すなわち、劣化)を検知したり、効率の良い領域で発電して燃費を向上させたりすることができる。
【0074】
(7)具体的には、制御装置100は、回復運転時に燃料電池10の負荷を増加させるとともに、燃料電池10が出力する電力の一部(本例では余剰電力)を蓄電機器14に蓄積する。このように、回復運転時に燃料電池10の負荷を増加させれば、燃料電池10へ供給する反応ガスの流量が多くなって燃料電池セルCの内部の水バランスが改善するので、燃料電池10の出力特性を適切に回復させることができる。加えて、燃料電池10の負荷を増加させることで余剰な電気エネルギが生じたとしても、当該電気エネルギを蓄電機器14に蓄積するので効率よく燃料電池10を回復させることができる。
【0075】
(第1実施形態の変形例)
上述の第1実施形態では、詳細に述べたが、これ限定されることなく、例えば、以下に示すように種々変形可能である。なお、以下に示す変形例は、第1実施形態以降の実施形態においても同様に適用可能である。
【0076】
第1実施形態の制御装置100は、燃料電池10の出力低下が生じた際の燃料電池10の負荷に基づいて、可逆的変化や不可逆的変化を判定しているが、これに限定されない。制御装置100は、例えば、燃料電池10の出力低下が生じた際の燃料電池10の負荷と燃料電池10のインピーダンスimpに基づいて、可逆的変化や不可逆的変化を判定するようになっていてもよい。なお、制御装置100は、燃料電池10の負荷やインピーダンスimpだけではなく、燃料電池10の運転温度、燃料電池10への反応ガスの供給量、燃料電池10内部の反応ガスの圧力等を加味して、可逆的変化や不可逆的変化を判定するようになっていてもよい。
【0077】
また、制御装置100は、例えば、燃料電池10の負荷に基づく可逆的変化や不可逆的変化の判定結果を、燃料電池10のインピーダンスimpに基づいて補正するようになっていてもよい。
【0078】
さらに、制御装置100は、例えば、燃料電池10のインピーダンスimpに基づく可逆的変化や不可逆的変化の判定を行い、その結果を、燃料電池10の負荷に基づく可逆的変化や不可逆的変化の判定で補うようになっていてもよい。特に、燃料電池10の低負荷運転時は、燃料電池10のインピーダンスimpに基づく可逆的変化や不可逆的変化の判定が困難となるので、燃料電池10の低負荷運転時に燃料電池10の負荷に基づく可逆的変化や不可逆的変化の判定を行うようになっていてもよい。
【0079】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、図12図13を参照して説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0080】
本実施形態の制御装置100は、可逆的変化の判定処理の一部が第1実施形態と異なっている。以下、制御装置100が実行する可逆的変化の判定処理について、図12のフローチャートを参照しつつ説明する。図12は、第1実施形態で説明した図4に対応している。
【0081】
図12に示すように、制御装置100は、ステップS2200にて、燃料電池10の負荷であるFC負荷が所定の低負荷閾値以下であるか否かを判定する。この判定処理は、図4に示すステップS1200の処理と同様である。
【0082】
FC負荷が低負荷閾値よりも大きい場合、制御装置100は、ステップS2210にて、FC負荷が高負荷閾値を超えているか否かを判定する。この判定処理は、図6に示すステップS1300の処理と同様である。
【0083】
FC負荷が高負荷閾値を超えている場合、燃料電池10へ供給する反応ガスの流量が多い状況であり、燃料電池セルCでの水の生成量が反応ガスの輸送による排出量を下回ることで、燃料電池セルCの内部の水バランスが改善していると考えられる。このため、FC負荷が高負荷閾値を超えている場合、制御装置100は、ステップS2220にて、積算時間を減少させた後、ステップS2240の処理に移行する。具体的には、図13に示すように、制御装置100は、FC負荷が高負荷閾値を超えている場合、積算時間をゼロにリセットする。
【0084】
一方、FC負荷が低負荷閾値以下である場合、制御装置100は、ステップS2230にて、FC負荷が低負荷閾値以下となる低負荷運転の経過時間を積算する。そして、制御装置100は、ステップS2240にて、積算時間が時間閾値を超えたか否かを判定する。
【0085】
積算時間が時間閾値以下の場合、制御装置100は、ステップS2200に戻る。一方、積算時間が時間閾値を超えている場合、制御装置100は、ステップS2250に移行して、燃料電池10の出力低下が可逆的変化であると判定する。
【0086】
その他については、第1実施形態と同様である。本実施形態の燃料電池システム1は、第1実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0087】
(1)制御装置100は、継続時間の積算を開始した後、燃料電池10の負荷が高負荷閾値を超える状態になると、継続時間の積算時間をゼロにリセットさせる。燃料電池10の負荷が大きくなると、大流量の反応ガスの供給、発電面内全体での生成水の発生により、燃料電池セルCの内部の水バランスが改善する。このため、燃料電池10の負荷が高負荷閾値を超える状態になると、低負荷運転の継続時間の積算時間をゼロにリセットすることが望ましい。なお、継続時間の積算時間をゼロにリセットさせているタイミングは、燃料電池10の負荷が低負荷閾値以上の値に設定された所定閾値を超える状態であればよい。
【0088】
(第2実施形態の変形例)
第2実施形態の制御装置100は、低負荷運転の継続時間の積算を開始した後、燃料電池10の負荷が高負荷閾値を超える状態になると、継続時間の積算時間をゼロにリセットさせているが、これに限定されない。例えば、図14に示すように、制御装置100は、低負荷運転の継続時間の積算を開始した後、燃料電池10の負荷が高負荷閾値を超える状態になると、継続時間の積算時間を所定時間減少させるようになっていてもよい。継続時間の積算時間の減少量は、一定時間であってもよいし、燃料電池10の負荷や燃料電池10の劣化の進行度合いに応じて変化させてもよい。
【0089】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について、図15図16を参照して説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0090】
本実施形態の制御装置100は、不可逆的変化の判定処理の一部が第1実施形態と異なっている。以下、制御装置100が実行する不可逆的変化の判定処理について、図15のフローチャートを参照しつつ説明する。図15は、第1実施形態で説明した図6に対応している。
【0091】
図15に示すように、制御装置100は、ステップS3300にて、FC負荷が所定の高負荷閾値よりも大きいか否かを判定する。この判定処理は、図6に示すステップS1300の処理と同様である。
【0092】
FC負荷が高負荷閾値以下の場合、制御装置100は、以降の処理をスキップして本処理を抜ける。一方、FC負荷が高負荷閾値を超えている場合、制御装置100は、ステップS3310に移行して、燃料電池10の出力低下が不可逆的変化であると判定する。
【0093】
続いて、制御装置100は、ステップS3320にて、燃料電池10の出力特性を監視し、この監視結果に基づいて、燃料電池10の劣化の進行度合いを推定する。この処理は、図6に示すステップS1320の処理と同様である。
【0094】
続いて、燃料電池10は、ステップS3330にて、燃料電池10の劣化の進行度合いに応じて、図4のステップS1230に判定処理で用いる時間閾値を変更する。例えば、図16に示すように、制御装置100は、燃料電池10の劣化の進行度合いが大きくなるに伴って、時間閾値を減少させる。
【0095】
その他については、第1実施形態と同様である。本実施形態の燃料電池システム1は、第1実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0096】
(1)制御装置100は、燃料電池10の負荷が所定の高負荷閾値を超える高負荷運転である場合の燃料電池10の出力特性を監視し、この監視結果に基づいて、燃料電池10の劣化の進行度合いを推定し、劣化の進行度合いに応じて時間閾値を変化させる。燃料電池10の劣化が進行するとガス拡散層の撥水性低下、セパレータの親水性低下などにより、同じ負荷でも劣化前に比べて生成水が排出され難くなる。このため、燃料電池10の劣化の進行に合わせて水バランス悪化の判定閾値時間を変化させることで精度向上できる。
【0097】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について、図17図18を参照して説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0098】
本実施形態の制御装置100は、可逆的変化の判定処理の一部が第1実施形態と異なっている。以下、制御装置100が実行する可逆的変化の判定処理について、図17のフローチャートを参照しつつ説明する。図17は、第1実施形態で説明した図4に対応している。
【0099】
図17に示すように、制御装置100は、ステップS4200にて、燃料電池10の負荷であるFC負荷が所定の低負荷閾値以下であるか否かを判定する。この判定処理は、図4に示すステップS1200の処理と同様である。
【0100】
FC負荷が低負荷閾値よりも大きい場合、反応ガスが燃料電池10に或る程度供給されている状況である。このため、制御装置100は、ステップS4210にて、後述の負荷ポイントの積算値をゼロにリセットして、本処理を抜ける。
【0101】
一方、FC負荷が低負荷閾値以下である場合、制御装置100は、ステップS4220にて、燃料電池10の負荷の大きさ対応して予め設定した負荷ポイントを積算する。この負荷ポイントは、一定値であってもよいが、図8に示すように、燃料電池10の負荷が小さくなるに伴って高い値となっていてもよい。
【0102】
続いて、制御装置100は、ステップS4230にて、負荷ポイントの積算値が所定の基準閾値を超えたか否かを判定する。基準閾値は、固定閾値であってもよいし、燃料電池10の劣化の進行度合いに応じて変化させてもよい。
【0103】
負荷ポイントの積算値が基準閾値以下の場合、制御装置100は、ステップS4200に戻る。一方、負荷ポイントの積算値が基準閾値を超えている場合、制御装置100は、ステップS4240に移行して、燃料電池10の出力低下が可逆的変化であると判定する。例えば、図18に示すように、制御装置100は、負荷ポイントの積算値が基準閾値を超えた際に、燃料電池10の出力低下が可逆的変化であることを示す可逆判定フラグをオンにする。
【0104】
その他については、第1実施形態と同様である。本実施形態の燃料電池システム1は、第1実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0105】
(1)制御装置100は、燃料電池10の負荷が低負荷運転となっている期間に、所定の周期で燃料電池10の負荷の大きさに対応して予め設定した負荷ポイントを積算する。この負荷ポイントの積算値が所定の基準閾値を超えた場合に、燃料電池10の出力低下が可逆的変化であると判定する。低負荷運転時においても負荷の増減によって反応ガスの供給量、水の生成量がバランスにより、燃料電池セルCの発電面内への生成水の滞留する速度が変化する。このため、低負荷運転時に、燃料電池10の負荷の大きさに対応した負荷ポイントを出力低下に寄与する指標として積算し、その積算値に基づいて、燃料電池10の出力低下の要因が可逆的変化であるか否かを判定することが望ましい。
【0106】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態について、図19を参照して説明する。本実施形態では、第4実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0107】
本実施形態の制御装置100は、可逆的変化の判定処理の一部が第4実施形態と異なっている。以下、制御装置100が実行する可逆的変化の判定処理について、図19のフローチャートを参照しつつ説明する。図19は、第1実施形態で説明した図17に対応している。
【0108】
図19に示すように、制御装置100は、ステップS5200にて、FC負荷が所定の低負荷閾値以下であるか否かを判定する。この判定処理は、図4に示すステップS1200の処理と同様である。
【0109】
FC負荷が低負荷閾値よりも大きい場合、制御装置100は、ステップS4210にて、FC負荷が高負荷閾値を超えているか否かを判定する。この判定処理は、図6に示すステップS1300の処理と同様である。
【0110】
FC負荷が高負荷閾値を超えている場合、燃料電池10へ供給する反応ガスの流量が多い状況であり、燃料電池セルCでの水の生成量が反応ガスの輸送による排出量を下回ることで、燃料電池セルCの内部の水バランスが改善していると考えられる。このため、FC負荷が高負荷閾値を超えている場合、制御装置100は、ステップS5220にて、負荷ポイントの積算値を減少させた後、ステップS5240の処理に移行する。具体的には、制御装置100は、FC負荷が高負荷閾値を超えている場合、負荷ポイントの積算値をゼロにリセットする。なお、ステップS5220の処理では、負荷ポイントの積算値を所定値減少させるようになっていてもよい。積算値の減少量は、一定値であってもよいし、燃料電池10の負荷や燃料電池10の劣化の進行度合いに応じて変化させてもよい。
【0111】
一方、FC負荷が低負荷閾値以下である場合、制御装置100は、ステップS5230にて、負荷ポイントを積算する。そして、制御装置100は、ステップS5240にて、負荷ポイントの積算値が所定の基準閾値を超えたか否かを判定する。この判定処理は、図17のステップS4240の処理と同様である。
【0112】
負荷ポイントの積算値が基準閾値以下の場合、制御装置100は、ステップS5200に戻る。一方、負荷ポイントの積算値が基準閾値を超えている場合、制御装置100は、ステップS5240に移行して、燃料電池10の出力低下が可逆的変化であると判定する。
【0113】
その他については、第4実施形態と同様である。本実施形態の燃料電池システム1は、第4実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第4実施形態と同様に得ることができる。
【0114】
(1)制御装置100は、負荷ポイントの積算を開始した後、燃料電池10の負荷が低負荷閾値以上の値に設定された所定閾値を超える状態になると、積算値をリセットまたは減少させる。燃料電池10の負荷が大きくなると、大流量の反応ガスの供給、発電面内全体での生成水の発生により、燃料電池セルCの内部の水バランスが改善する。このため、燃料電池10の負荷が低負荷閾値以上の値に設定された所定閾値を超える状態になると、負荷ポイントの積算値をリセットしたり、減少させたりすることが望ましい。
【0115】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態について、図20図21を参照して説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0116】
本実施形態の制御装置100は、回復処理の一部が第1実施形態と異なっている。以下、制御装置100が実行する回復処理について、図20のフローチャートを参照しつつ説明する。図20は、第1実施形態で説明した図10に対応している。
【0117】
図20に示すように、制御装置100は、ステップS6400にて、燃料電池10への空気の供給量を通常時に比べて増加させる。制御装置100は、例えば、エアポンプ31の回転数を増加させることで、燃料電池10への空気の供給量を増加させる。これによると、燃料電池10へ供給する反応ガスの流量を多くなって燃料電池セルCの内部の水バランスが改善し、燃料電池10の出力低下が回復する。
【0118】
続いて、制御装置100は、ステップS6410にて、燃料電池10への空気の供給量を増加させてから所定時間が経過したか否かを判定する。この所定時間は、例えば、燃料電池セルCの内部の水バランスが改善するのに要すると考えられる時間に設定される。
【0119】
制御装置100は、燃料電池10の負荷増加から所定時間が経過するまでは待機し、燃料電池10への空気の供給量を増加させてから所定時間が経過すると、ステップS6420に移行して、燃料電池10への空気の供給量を減少させる。具体的には、制御装置100は、ステップS6420の処理で、ステップS6400での空気の供給量増加分を減少させる。すなわち、図21に示すように、制御装置100は、燃料電池10への空気の供給量を増加から所定時間が経過すると、燃料電池10への空気の供給量を回復処理の実行前の量に戻す。
【0120】
その他については、第1実施形態と同様である。本実施形態の燃料電池システム1は、第1実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0121】
(1)制御装置100は、回復運転時に、燃料電池10の内部にある水が排出されるように、燃料電池10への反応ガスの供給量を増加させる。このように、回復運転時に燃料電池10へ供給する反応ガスの供給量を増加させれば、燃料電池セルCの発電面内の滞留水が排出されて拡散抵抗が低減するので、燃料電池10の出力特性を適切に回復させることができる。
【0122】
(第6実施形態の変形例)
第6実施形態の制御装置100は、回復運転時に、燃料電池10への反応ガスの供給量を増加させているが、これに加えて、燃料電池10の負荷を増加させるようになっていてもよい。
【0123】
(第7実施形態)
次に、第7実施形態について、図22を参照して説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0124】
本実施形態の制御装置100は、回復処理を実施するタイミングが第1実施形態と異なっている。以下、制御装置100が実行する制御処理について、図22のフローチャートを参照しつつ説明する。図22は、第1実施形態で説明した図3に対応している。
【0125】
図22に示すように、制御装置100は、ステップS7100にて、FC出力が基準値以下であるか否かを判定する。この判定処理は、図3に示すステップS1100の処理と同様である。
【0126】
FC出力が基準値以下でない場合、燃料電池10の出力に異常がなく、燃料電池10が正常に動作していると考えられる。このため、制御装置100は、以降の処理をスキップして、本制御処理を抜ける。
【0127】
一方、FC出力が基準値以下である場合、燃料電池10に何らかの異常が生じていると考えられるため、制御装置100は、ステップS7110に移行して、燃料電池10の出力低下の要因を判定する出力低下判定処理を実行する。この出力低下判定処理は、図1に示すステップS1110の処理と同様である。
【0128】
続いて、制御装置100は、ステップS7120にて、燃料電池10の出力低下が可逆的変化であるか否かを判定する。この結果、燃料電池10の出力低下が可逆的変化でない場合、制御装置100は、以降の処理をスキップして本処理を抜ける。一方、燃料電池10の出力低下が可逆的変化である場合、制御装置100は、ステップS7130に移行する。
【0129】
制御装置100は、ステップS7130にて、ユーザ要求に起因する燃料電池10の負荷増大が予測されるか否かを判定する。ETCゲートを通過した直後や登坂前等は、アクセルペダルが大きく踏み込まれ易いので、ユーザ要求に起因する燃料電池10の高負荷の出力が予測される。このように、燃料電池10の負荷増大は、車両FCVの走行状態に関する情報やナビゲーションシステムの情報等に基づいて推定することができる。
【0130】
燃料電池10の負荷増大が予測される場合、回復処理を実施しなくても、燃料電池10へ供給する反応ガスの流量が多くなって燃料電池セルCの内部の水バランスが改善することが期待できる。燃料電池10の負荷増大が予測される場合、以降の処理をスキップして本処理を抜ける。
【0131】
一方、燃料電池10の負荷増大が予測されない場合、制御装置100は、ステップS7140にて、回復処理を実行した後、本処理を抜ける。回復処理は、図3に示すステップS1130と同様である。
【0132】
その他については、第1実施形態と同様である。本実施形態の燃料電池システム1は、第1実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0133】
(1)制御装置100は、燃料電池10の出力低下が可逆的変化である場合であっても、燃料電池10の負荷が増大すると予測される場合は回復運転を行わない。ユーザ要求に起因する燃料電池10の高負荷の出力が予測される場合は、回復運転を実施しなくても、燃料電池10の出力低下が解消される。このため、車両FCVの走行情報等から燃料電池10の負荷を予測し、燃料電池10の高負荷の出力が予測される場合に、回復運転を行わないようにすれば、不要な回復運転による燃料消費を抑えて燃費の向上を図ることができる。
【0134】
(第8実施形態)
次に、第8実施形態について、図23図24を参照して説明する。本実施形態では、第7実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0135】
本実施形態の制御装置100は、回復処理を実施するタイミングが第7実施形態と異なっている。以下、制御装置100が実行する制御処理について、図23のフローチャートを参照しつつ説明する。図23は、第7実施形態で説明した図22に対応している。
【0136】
図23に示すように、制御装置100は、ステップS8100にて、FC出力が基準値以下であるか否かを判定する。この判定処理は、図3に示すステップS1100の処理と同様である。
【0137】
FC出力が基準値以下でない場合、制御装置100は、以降の処理をスキップして、本制御処理を抜ける。一方、FC出力が基準値以下でない場合、制御装置100は、ステップS8110に移行して、出力低下判定処理を実行する。この出力低下判定処理は、図1に示すステップS1110の処理と同様である。
【0138】
続いて、制御装置100は、ステップS8120にて、燃料電池10の出力低下が可逆的変化であるか否かを判定する。この結果、燃料電池10の出力低下が可逆的変化でない場合、制御装置100は、以降の処理をスキップして本処理を抜ける。一方、燃料電池10の出力低下が可逆的変化である場合、制御装置100は、ステップS8130に移行して燃料電池10の負荷増大が予測されるか否かを判定する。この判定処理は、図22に示すステップS7130の処理と同様である。
【0139】
燃料電池10の負荷増大が予測される場合、燃料電池10へ供給する反応ガスの流量を多くなって燃料電池セルCの内部の水バランスが改善することが期待できる。例えば、信号待ちによる停車中から車両FCVを発進させる場合には、ユーザ要求に起因する負荷が増大すると予測される。ユーザ要求に起因する負荷が増大するタイミングに合わせて回復運転を実施すれば、回復運転に伴う余分な燃料消費を最小化することが可能となる。
【0140】
これらを加味して、制御装置100は、燃料電池10の負荷増大が予測されない場合はそのまま待機し、燃料電池10の負荷増大が予測される場合にステップS8140に移行する。そして、制御装置100は、ステップS8140にて回復処理を実行した後、本処理を抜ける。回復処理は、図3に示すステップS1130と同様である。
【0141】
ここで、図24に示すように、回復運転時に生ずる余剰電力は、蓄電機器14に蓄積される。ユーザ要求に起因する負荷が増大するタイミングに合わせて回復運転を実施しているので、回復運転時に生ずる余剰電力は、第1実施形態で説明した回復運転時に比べて小さくなる。
【0142】
その他については、第7実施形態と同様である。本実施形態の燃料電池システム1は、第7実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第7実施形態と同様に得ることができる。
【0143】
(1)制御装置100は、燃料電池10の出力低下が可逆的変化である場合であって燃料電池10の負荷が増大すると予測される場合、燃料電池10の負荷が増大するタイミングに合わせて回復運転を行う。このように、ユーザ要求に起因して負荷が増大するタイミングに合わせて回復運転を実施すれば、回復運転に伴う余分な燃料消費を最小化して燃費の向上を図ることができる。
【0144】
(他の実施形態)
以上、本開示の代表的な実施形態について説明したが、本開示は、上述の実施形態に限定されることなく、例えば、以下のように種々変形可能である。
【0145】
上述の実施形態の出力低下判定処理は、主に燃料電池10の負荷に基づいて判定しているが、これに限らず、インピーダンスimpや燃料電池10を通過直後の冷却水の温度等の他の物理量を参照して実施されるようになっていてもよい。
【0146】
出力低下判定処理では、可逆的変化の判定処理と不可逆的変化の判定処理それぞれを実施するものを例示したが、これに限らず、一方の判定処理を実施し、他方の判定処理を実施しないようになっていてもよい。
【0147】
不可逆的変化の判定処理では、燃料電池10の劣化の進行度合いに応じて低負荷閾値や時間閾値等を変化させるものを例示したが、これに限らず、燃料電池10の劣化の進行度合いによらず、低負荷閾値や時間閾値等を変化させないようになっていてもよい。また、不可逆的変化の判定処理では、燃料電池10の劣化の進行度合いをマルチインフォメーションディスプレイに表示したり、計器に設けたLEDランプ等を点灯させたりすることで、ユーザに認識させようになっていることが望ましい。
【0148】
上述の実施形態の回復運転は、燃料電池10の負荷を増大させたり、燃料電池10への空気の供給量を増加させたりしているが、これに限らず、他の手段で実現されていてもよい。また、回復運転の実施は、必須ではなく、省略されていてもよい。
【0149】
上述の実施形態では、本開示の燃料電池システム1を車両FCVに適用した例について説明したが、本開示の燃料電池システム1は、車両FCV以外にも適用することができる。
【0150】
上述の実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0151】
上述の実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されない。
【0152】
上述の実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されない。
【0153】
本開示の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータで、実現されてもよい。本開示の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータで、実現されてもよい。本開示の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせで構成された一つ以上の専用コンピュータで、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0154】
1 燃料電池システム
10 燃料電池
100 制御装置
100a 出力監視部
100b 運転制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24