(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】音響変換器用磁気回路
(51)【国際特許分類】
H04R 9/02 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
H04R9/02 102D
H04R9/02 102B
(21)【出願番号】P 2021037777
(22)【出願日】2021-03-09
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】寺田 隆洋
(72)【発明者】
【氏名】涌井 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】佐野 常典
(72)【発明者】
【氏名】野呂 正夫
【審査官】▲高▼橋 真之
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-88595(JP,U)
【文献】特開平9-51597(JP,A)
【文献】実開昭53-132333(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨーク、磁石、及びトッププレートを備える音響変換器用の磁気回路であって、
前記ヨークが、底面部と、この底面部に垂直に設けられているポールピースとを含み、
前記底面部に前記磁石と、前記トッププレートとがこの順に設けられ、
ボイスコイルが配置される磁気ギャップが、前記ポールピースと、前記トッププレートとの間に形成され、
前記ポールピース又は前記トッププレートの一方が、前記磁気ギャップと対向する位置に複合材部分と、少なくとも前記複合材部分の表面を被覆する保護層とを有し、
前記複合材部分が、軟磁性複合材料で形成され、
前記保護層の材料が、前記軟磁性複合材料と異なる音響変換器用磁気回路。
【請求項2】
前記保護層の材料が、非磁性材料である請求項1に記載の音響変換器用磁気回路。
【請求項3】
前記保護層の平均厚さが、200μm以下である請求項1又は請求項2に記載の音響変換器用磁気回路。
【請求項4】
前記保護層が、前記ポールピース及び前記トッププレートのうち前記複合材部分を有する部材の表面全体を被覆している請求項1、請求項2又は請求項3に記載の音響変換器用磁気回路。
【請求項5】
前記軟磁性複合材料が、リン酸系化成被膜又はシリコン系樹脂被膜で表面が被覆されている磁性粉末を含む請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の音響変換器用磁気回路。
【請求項6】
フレームと、
前記フレームに外周が固定されている振動板と、
前記振動板を振動させるボビンと、
前記ボビンに巻かれているボイスコイルと、
請求項1に記載された磁気回路と
を備えるスピーカユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響変換器用磁気回路に関する。
【背景技術】
【0002】
電気信号を音響に変換する機器には磁気回路が備えられている。この磁気回路に用いられる磁性材として、強磁性粉末の表面を絶縁被覆して成形した軟磁性複合材料を用いることにより磁気回路中に発生する渦電流を抑制する技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、磁石と、この磁石を間に挟んでいる上部プレート及び下部プレートとを備えるスピーカ用磁気回路が記載されている。特許文献1は、上記上部プレートと下部プレートの少なくとも一方を樹脂で被覆した磁性粉体を射出成形工法で形成することで、上記スピーカ用磁気回路の軽量化を図ることができるとしている(国際公開第2013/140719号)。
【0004】
特許文献2には、ボイスコイルが挿入される間隙を形成する部材に鉄粉の表面をより高い導電率を有する非磁性体の金属である銅で被覆し、焼結することにより形成した焼結金属を用いた音響変換器用の磁気回路が記載されている(特開平5-60317号公報)。この磁気回路は、磁石、トッププレート及びこのトッププレートに対してボイスコイルが挿入される間隙を有して相対向するポールピースを有するヨークを備え、前記トッププレートと前記ポールピースとの少なくとも相対向する部分が、焼結金属で形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/140719号
【文献】特開平5-60317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の上部プレート又は下部プレートは、磁性粉体が樹脂で被覆されているため、高温で焼結して形成することができない。このため、上記上部プレート又は下部プレートは、脆く、磁気ギャップで発生する強い磁界によって、その表面が剥離するおそれがある。
【0007】
特許文献2の焼結金属は、鉄等の磁性粉末材料が非磁性体の金属で覆われているため、個々の磁性粉末がショートリングされ、ボイスコイルに流れる音声電流によって発生する交流磁束を打ち消し、電流歪を低減できるとされている。一方、前記焼結金属は鉄粉粒子のそれぞれが非磁性体の金属で被覆されることになるため焼結金属全体として非磁性金属の割合が増加し、磁束密度が低下してしまうという問題がある。
【0008】
上述のような事情を鑑み、本発明は、軟磁性複合材を圧縮成形した部材の表面が剥離することを抑制できる音響変換器用の磁気回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するためになされた本発明は、ヨーク、磁石、及びトッププレートを備える音響変換器用の磁気回路であって、前記ヨークが、底面部と、この底面部に垂直に設けられているポールピースとを含み、前記底面部に前記磁石と、前記トッププレートとがこの順に設けられ、ボイスコイルが配置される磁気ギャップが、前記ポールピースと、前記トッププレートとの間に形成され、前記ポールピース又は前記トッププレートが、前記磁気ギャップと対向する位置に複合材部分と、少なくとも前記複合材部分の表面を被覆する保護層とを有し、前記複合材部分が、軟磁性複合材料で形成され、前記保護層の材料が、前記軟磁性複合材料と異なる。
【0010】
前記保護層の材料が非磁性材料であることが好ましい。
【0011】
前記保護層の平均厚さが200μm以下であることが好ましい。
【0012】
前記保護層が、前記ポールピース及び前記トッププレートのうち前記複合材部分を有する部材の表面全体を被覆していることが好ましい。
【0013】
前記軟磁性複合材料が、リン酸系化成被膜又はシリコン系樹脂被膜で表面が被覆されている磁性粉末を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
当該磁気回路は、底面部及びポールピースを含むヨークと、磁石と、トッププレートとを備え、前記ポールピースと前記トッププレートとの間には、ボイスコイルが配置される磁気ギャップが形成されている。前記ポールピース又は前記トッププレートは、前記磁気ギャップと対向する位置に複合材部分と保護層とを有している。前記複合材部分は、軟磁性複合材料で形成されているため、前記ボイスコイルの電流の変化による渦電流を抑制して前記電流の歪を低減できる。前記保護層は、前記軟磁性複合材料と異なる材料であり、前記複合材部分の表面を被覆している。前記保護層は、前記複合材部分の表面における前記軟磁性複合材料の間隙に侵入して、前記軟磁性複合材料の結合力を向上させる。このため、前記保護層は、前記表面の剥離を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る音響変換器用の磁気回路を有するスピーカを示す模式的端面図である。
【
図2】
図2は、
図1のトッププレートの一部を拡大した模式的断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の他の実施形態に係るヘッドホン本体を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0017】
[第一実施形態]
本発明の音響変換器用の磁気回路(以下、単に「磁気回路」ともいう)を備える音響変換器の一実施形態として、スピーカ1について説明をする。
【0018】
<スピーカ>
図1に、スピーカ1の模式的端面図を示す。スピーカ1は、略円錐状のフレーム11と、フレーム11に外周が固定されている振動板12と、振動板12の略中央に接続されているボビン13と、ボビン13に巻かれているボイスコイル14と、磁気回路15とを主に有する。スピーカ1は、ボイスコイル14に電流を流すことにより発生する磁束と、磁気回路15の磁束との間に生じる吸引力及び排斥力によってボビン13及び振動板12を所望する振幅で移動させる。この振動板の移動によって空気が振動して音が発生する。
【0019】
フレーム11、振動板12、ボビン13、及びボイスコイル14としては、特に限定されるものでなく、公知の技術を用いて構成することができる。
【0020】
〔磁気回路〕
磁気回路15は、ヨーク151、磁石152、及びトッププレート153を備える。ヨーク151は、底面部151aと、この底面部151aに略垂直に設けられるポールピース151bとを含む。底面部151aに磁石152と、トッププレート153とがこの順に設けられている。換言すると、下から上に向かって底面部151a、磁石153、及びトッププレート153が、重ねられて構成されている。ボイスコイル14が配置される磁気ギャップ141が、ポールピース151bと、トッププレート153との間に形成されている。
【0021】
具体的には、ヨーク151は、例えば、略円盤状の底面部151aと、略柱状であり、この底面部151aの略中央で、長手方向を底面部151aの上面(ボイスコイル13が設けられている側の面)に対して垂直になるように設けられている円柱状のポールピース151bとを含む。底面部151a及びポールピース151bは、一体で形成されているものであってもよいし、個別に形成されて接合されたものであってもよい。磁石152及びトッププレート153は、例えば、中心部に貫通孔を有する略円盤状であり、底面部151aの上面に磁石152が配置され、この磁石152にトッププレート153が設けられる。前記貫通孔内には、ポールピース151bが貫通する。
【0022】
本実施形態では、
図1で示すように、ポールピース151b及びトッププレート153が、複合材部分154及び保護層155を有している。ポールピース151b又はトッププレート153のいずれか一方が、磁気ギャップ141と対向する位置に複合材部分154と、少なくとも複合材部分154の表面を被覆する保護層155とを有してもよい。
【0023】
保護層155は、
図2で示すように、少なくとも複合材部分154の表面を被覆している。複合材部分154は、軟磁性複合材料で形成される。
【0024】
保護層155は、少なくとも複合材部分154の表面における前記軟磁性複合材料の間隙に侵入している。このため、保護層155は、前記表面における前記軟磁性複合材料の結合力を向上し、前記表面の剥離を抑制できる。
【0025】
ボイスコイル14が配置される磁気ギャップ141は、ポールピース151bの保護層155と、トッププレート153の保護層155との隙間である。ポールピース151b及びトッププレート153の複合材部分154以外の残部は、鉄等の金属を鋳造等して形成されている。ポールピース151bの全部、若しくはポールピース151bを含むヨーク151の全部、又はトッププレート153の全部が複合材部分154で形成されてもよい。
【0026】
(複合材部分)
複合材部分154は、磁性粉末154aを非磁性材料で被覆した軟磁性複合材料を圧縮して成形される。軟磁性複合材料を圧縮成形で高密度化することにより、ボイスコイル14の電流の変化による渦電流を抑制して、電気歪を抑制できる。なお、後述する保護層155にも非磁性材料が用いられるため、複合材部分154に用いられる非磁性材料のことを「粉末用非磁性材料」ということがある。
【0027】
〈磁性粉末〉
磁性粉末154aの材料としては、磁性材料であれば特に限定されるものでなく、例えば、純鉄の他、Fe-Al合金、Fe-Si合金、パーマロイ、センダスト等の鉄基合金を粉末状にしたものを採用することができる。磁性粉末154aの平均粒子径としては、特に限定されるものではないが、50μm以上150μm以下であることが好ましい。なお、「平均粒子径」とは、ふるい分け法で評価される粒度分布で累積粒度分布が50%になる粒子径を意味する。
【0028】
〈粉末用非磁性材料〉
粉末用非磁性材料は、リン酸系化成被膜又はシリコン系樹脂被膜を含むことが好ましい。個々の磁性粉末154aが、前記リン酸系化成被膜又はシリコン系樹脂被膜で被覆されることにより、磁性粉末154a同士の電気絶縁性を確保して前記渦電流をより抑制できる。磁性粉末154aを被覆する粉末用非磁性材料の厚みとしては、磁束密度の低下を抑制するため、250μm以下とすることが好ましい。
【0029】
前記リン酸系化成被膜は、Co(コバルト)、Na(ナトリウム)、S(硫黄)、W(タングステン)、Si(ケイ素)、Mg(マグネシウム)、B(ホウ素)の一種以上を含むことが好ましい。このような元素を含むことにより、前記リン酸系化成被膜の耐熱性を向上できると共に、前記リン酸系化成被膜の電気絶縁性を維持できる。
【0030】
前記リン酸系化成被膜の厚さとしては、1nm以上250nm以下が好ましい。前記リン酸系化成被膜の厚さが上記下限値に満たないと、電気絶縁性が十分に発揮できないおそれがある。前記リン酸系化成被膜の厚さが上記上限値を超えると、上記軟磁性複合材料を高密度に圧縮成形することが困難になるおそれがある。
【0031】
前記リン酸系化成被膜で被覆された磁性粉末154aは、例えば、オルトリン酸(H3PO4)を主成分とする溶媒に所望する元素を含む化合物を溶解させた処理液と磁性粉末とを混合し、その後乾燥することで得られる。
【0032】
前記シリコン系樹脂被膜のシリコン樹脂としては、特に限定されるものではなく、公知のシリコン樹脂を採用することができる。前記シリコン系樹脂被膜で被覆された磁性粉末154aは、例えば、シリコン樹脂をトルエン等の石油系有機溶剤等に溶解させた溶液と鉄粉とを混合し、その後前記溶液を揮発させることで得られる。揮発後には、前記シリコン系樹脂被膜で被覆された磁性粉末を加熱して前記シリコン系樹脂被膜を予備硬化させることが好ましい。
【0033】
前記シリコン系樹脂被膜の厚さとしては、1nm以上200nm以下が好ましい。前記シリコン系樹脂被膜の厚さが上記下限値に満たないと、電気絶縁性が十分に発揮できないおそれがある。前記シリコン系樹脂被膜の厚さが上記上限値を超えると、上記軟磁性複合材料を高密度に圧縮成形することが困難になるおそれがある。
【0034】
前記非磁性材料は、リン酸系化成被膜及びシリコン系樹脂被膜の双方を含んでもよい。前記非磁性材料がリン酸系化成被膜及びシリコン系樹脂被膜の双方を含む場合、磁性粉末154aにリン酸系化成被膜を形成し、このリン酸系化成被膜にシリコン系樹脂被膜を形成することが好ましい。このようにすることで、内側のリン酸系化成被膜が磁性粉末154a同士の電気絶縁性を確保しつつ、外側のシリコン系樹脂被膜が、軟磁性複合材料同士を接着する接着剤のように機能し、圧縮成形した前記軟磁性複合材料の機械的強度を向上することができる。リン酸系化成被膜及びシリコン系樹脂被膜の双方を含む前記非磁性材料の厚さの上限値としては、250nmが好ましい。
【0035】
(保護層)
保護層155の材料は、複合材部分154と異なる。軟磁性複合材料を圧縮成形した複合材部分154は、上記粉末用非磁性材料を用いるため高温での焼結ができず、比較的脆い。このため、特に磁気ギャップ141及びその周辺で発生する強い磁界により複合材部分154の表面が剥離するおそれがある。保護層155は、複合材部分154の表面を被覆し、複合材部分154の剥離を抑制する。
【0036】
保護層155の材料が、非磁性材料であることが好ましい。このようにすることで複合材部分154から発生する磁界に影響を与えることなく、複合材部分の剥離を抑制することができる。なお、複合材部分に用いられる非磁性材料と区別するため、保護層に用いられる非磁性材料のことを「保護層用非磁性材料」ということがある。
【0037】
保護層用非磁性材料としては、シリコーン系の樹脂や、非磁性金属などを用いることができ、渦電流をより抑制するため、非磁性金属を用いることが好ましい。非磁性金属としては、前記軟磁性複合材料の導電率より高い導電率を有する銅、銀等が好ましく、中でも銅が好ましい。保護層の155の材料に銅を用いることにより複合材部分154を有する部材の渦電流をさらに抑制して、前記電気歪を効果的に低減できる。また、高調波領域におけるインピーダンスを抑制して、前記高調波領域の音圧を向上することができる。
【0038】
保護層155の厚さを大きくすることで、前記渦電流をさらに低減できる。複合材部分154が磁性粉末154aの個々の粒子を前記粉末用非磁性材料で被覆して形成される場合、磁性粉末154a同士の距離が前記粉末用非磁性材料によって大きくなり、複合材部分154における鉄の割合が低下するため、磁気ギャップ141における磁束密度が低下するおそれがある。当該磁気回路15の保護層155は、複合材部分154の表面を被覆するものであるため、磁性粉末154a同士の距離を大きくすることなく、厚さを比較的大きくすることができる。保護層155の厚さを大きくすることで、前記渦電流をさらに低減しつつ、磁気ギャップ141における磁束密度を大きくすることができる。
【0039】
保護層155の平均厚さは、200μm以下であることが好ましく、磁束密度の低下をより効果的に抑えるため100μm以下がより好ましい。保護層155の平均厚さが前記上限値を超えると、磁気ギャップにおける軟磁性体の距離が大きくなるため、磁気ギャップにおける磁束密度が低下する恐れがある。保護層155の平均厚さの下限値としては、特に限定されるものではないが、例えば、1μmが好ましく、3μmがより好ましく、5μmがさらに好ましい。保護層155の平均厚さが前記下限値に満たないと、複合材部分154の表面の剥離を効果的に抑制できないおそれがある。また、前記渦電流を効果的に低減できず、前記磁束密度を十分に確保できないおそれがある。なお、保護層の平均厚さとは、任意の10点で計測した保護層の厚さの平均値を意味する。
【0040】
保護層155が、ポールピース151b及びトッププレート153のうち複合材部分154を有する部材の表面全体を被覆していることが好ましい。すなわち、保護層155が、複合材部分154の表面だけではなく、複合材部分154を有するポールピース151bの表面全体を被覆し、複合材部分154を有するトッププレート153の表面全体を被覆することが好ましい。このようにすることで、前記渦電流をさらに低減することができる。
【0041】
[利点]
当該音響変換器用の磁気回路は、ヨークのポールピース又はトッププレートが、磁気ギャップに対向する位置に、軟磁性複合材料で形成されている複合材部分及び保護層を有する。このため、前記磁気ギャップ付近で発生する渦電流を低減してボイスコイルの電流の歪を抑制できるので、当該音響変換器が再生する音の歪を低減できる。また、当該音響変換器用の磁気回路は、少なくとも前記複合材部分の表面を被覆し、非磁性材料で形成されている保護層を有する。このため、前記複合材部分の表面が剥離することを抑制できる。
【0042】
[第二実施形態]
本発明の他の実施形態として、ヘッドホンのドライバ用の磁気回路が挙げられる。ヘッドホンは、例えば、使用者の頭部に装着されるヘッドバンドと、このヘッドバンドにイヤパッドと共に一対で設けられるヘッドホン本体とを有し、このヘッドホン本体にヘッドホンドライバが内蔵されている。
【0043】
<ヘッドホン本体>
図3に、ヘッドホン本体2の模式的断面図を示す。ヘッドホン本体2は、前記イヤパッドが装着されるプロテクタ21と、ヘッドホンドライバ22とを主に有する。ヘッドホンドライバ22は、プロテクタ21に外周が固定されている振動板23と、この振動板23に接続されているボイスコイル24と、磁気回路25とを有する。ヘッドホンドライバ22は、ボイスコイル24に電流を流すことにより発生する磁束と、磁気回路25の磁束との間に生じる吸引力及び排斥力によって振動板23を所望する振幅で移動させる。この移動によって空気が振動して音が発生する。
【0044】
振動板23及びボイスコイル24としては、特に限定されるものでなく、公知の技術を用いて構成することができる。
【0045】
〔磁気回路〕
磁気回路25は、ヨーク251、磁石252、及びトッププレート253を備える。ヨーク251は、底面部251aと、この底面部251aに垂直に設けられているポールピース251bとを含む。底面部251aに磁石252と、トッププレート253とがこの順に設けられている。磁気回路25は、底面部251aに磁石252と、トッププレート253と固定する固定部材256を有してもよい。ボイスコイル24が配置される磁気ギャップ241が、ポールピース251bと、トッププレート253との間に形成されている。
【0046】
具体的には、ヨーク251は、例えば、中心部に貫通孔を有する略円盤状の底面部251aと、この底面部251aの外周縁部に垂直に設けられているポールピース251bとを含む。ヨーク251の底面部251a及びポールピース251bは、一体で形成されたものであってもよいし、個別に形成されて接合されたものであってもよい。磁石252及びトッププレート253は、例えば、中心部に貫通孔を有する略円盤状であり、前記底面部の貫通孔の中心軸と、磁石252及びトッププレート253の前記貫通孔の中心軸とが重なるように配置される。
【0047】
本実施形態では、
図3で示すように、ポールピース251b及びトッププレート253が、複合材部分254及び保護層255を有している。ポールピース251b又はトッププレート253のいずれか一方が、磁気ギャップ241と対向する位置に複合材部分254と、少なくとも複合材部分254の表面を被覆する保護層255とを有してもよい。
【0048】
保護層255は少なくとも複合材部分154の表面を被覆している。複合材部分254は、軟磁性複合材料で形成され、保護層255の材料は、前記軟磁性複合材料と異なる。
【0049】
複合材部分254の表面は、保護層255に被覆されている。保護層255は、少なくとも複合材部分254の表面における前記軟磁性複合材料の間隙に侵入している。このため、保護層255は、前記表面における前記軟磁性複合材料の結合力を向上し、前記表面の剥離を抑制できる。
【0050】
保護層155の材料が、非磁性材料であることが好ましい。このようにすることで複合材部分154から発生する磁界に影響を与えることなく、複合材部分の剥離を抑制することができる。保護層用非磁性材料としては、渦電流をより抑制するため、非磁性金属を用いることが好ましく、中でも銅が好ましい。保護層の155の材料に銅を用いることにより渦電流を効果的に抑制でき、高調波領域におけるインピーダンスを抑制して、前記高調波領域の音圧を向上することができる。
【0051】
ボイスコイル24が配置される磁気ギャップ241は、ポールピース251bの保護層255と、トッププレート253の保護層255との隙間である。ポールピース251b及びトッププレート253の複合材部分254以外の残部は、鉄等の金属を鋳造等して形成されている。ポールピース251bの全部、若しくはポールピース251bを含むヨーク251の全部、又はトッププレート253の全部を前記軟磁性複合材料で形成してもよい。
【0052】
ヘッドホンドライバ2の磁気回路25における複合材部分254及び保護層255は、スピーカ1の複合材部分154及び保護層155と同様に構成されている。
【0053】
[その他の実施形態]
前記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、前記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて前記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0054】
上述の実施形態では、スピーカ1におけるヨーク151が、板状の底面部151aと、この底面部151aの略中央に位置するポールピース151bとを有するもので説明したが、底面部151aに磁石152及びトッププレート153を配置でき、ポールピース151bとトッププレート153との間で好適に磁気ギャップ141を形成できるものであれば、ヨーク151の形状は、特に限定されるものではない。
【0055】
同様に、ヘッドホンドライバ2におけるヨーク251の形状も、底面部251aに磁石252及びトッププレート253を配置でき、ポールピース251bとトッププレート253との間で好適に磁気ギャップ241を形成できるものであれば、特に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明の音響変換器用の磁気回路は、複合材部分の表面が剥離することを抑制できると共に、渦電流の低減を図ることができるので、音響特性に優れるスピーカ、ヘッドホン等の音響変換器に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0057】
1 スピーカ
11 フレーム
12 振動板
13 ボビン
14 ボイスコイル
141 磁気ギャップ
15 磁気回路
151 ヨーク
151a 底面部
151b ポールピース
152 磁石
153 トッププレート
154 複合材部分
154a 磁性粉末
154b 被膜(リン酸系化成被膜又はシリコン系樹脂被膜)
155 保護層
2 ヘッドホン本体
21 プロテクタ
22 ヘッドホンドライバ
23 振動板
24 ボイスコイル
241 磁気ギャップ
25 磁気回路
251 ヨーク
251a 底面部
251b ポールピース
252 磁石
253 トッププレート
254 複合材部分
255 保護層
256 固定部材