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特許7567589熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物、及びそれからなる発泡成形体
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  • 特許-熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物、及びそれからなる発泡成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物、及びそれからなる発泡成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/04 20060101AFI20241008BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20241008BHJP
   B29C 45/56 20060101ALI20241008BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C08J9/04 101
B29C44/00 D
B29C45/56
C08J9/04 CFD
C08L67/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021044015
(22)【出願日】2021-03-17
(65)【公開番号】P2022143482
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森尾 恵梨
(72)【発明者】
【氏名】赤石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】大谷 顕三
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-067878(JP,A)
【文献】特開昭52-058767(JP,A)
【文献】特開2020-012040(JP,A)
【文献】国際公開第2018/012089(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0259753(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110128639(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 44/00-44/60
B29C 45/56
B29C 67/20
C08J 9/00-9/42
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸と脂肪族及び/又は脂環族ジオールとを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、及び脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種のソフトセグメントが結合され、前記ソフトセグメントの数平均分子量が1000未満であり、ソフトセグメントの含有量が10~80質量%である熱可塑性ポリエステルエラストマーを含む発泡成形用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物からなる発泡成形体。
【請求項3】
反発弾性率が50~90%であることを特徴とする請求項2に記載の発泡成形体。
【請求項4】
平均セル径が10~400μmであり、最大セル径が10~500μmである独立した発泡セルからなる発泡層を有し、密度が0.01~0.40g/cmであることを特徴とする請求項2又は3に記載の発泡成形体。
【請求項5】
表層に厚みが100~800μmの非発泡スキン層を持ち、内層に樹脂連続相と独立した平均セル径が10~400μmの発泡セルからなる発泡層を持ち、厚み方向に非発泡スキン層と発泡層のサンドイッチ構造を持つ、請求項2~4のいずれかに記載の発泡成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反発弾性率が高く機械的特性に優れた熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物とその発泡成形体に関するものである。さらに詳しくは、発泡成形性に優れた熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物であり、本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー組成物から得られる発泡成形体は、軽量かつ高い反発性を有し、さらに低温での成形で良質の発泡成形品の提供が可能である。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステルエラストマーは、射出成形性、押出成形性に優れ、機械的強度が高く、弾性回復性、耐衝撃性、柔軟性などのゴム的性質、耐寒性に優れる材料として、自動車部品、電気・電子部品、繊維、フィルム、スポーツ部品などの用途に使用されている。
【0003】
熱可塑性ポリエステルエラストマーは、耐熱老化性、耐光性、耐摩耗性に優れていることから、自動車部品、特に高温環境下で使用される部品や自動車内装部品に採用されている。さらに近年樹脂部品の軽量化が進められており、目的を達成する手段の一つとして発泡成形品の適用を挙げることができる。
【0004】
発泡成形には、用途に応じて様々な成形工法があり、化学発泡剤や物理発泡剤を用いることで発泡させているが、その際、融点や成形温度は高倍発泡を行う上で重要となる。超臨界流体を用いた発泡においては、一般的に低温、高圧ほど発泡剤の樹脂への溶解度が上がるため、低温での成形により高倍発泡化が期待できる。
【0005】
また、加熱水蒸気圧によって発泡させる型内発泡成形では、昨今の燃料価格の高騰により、より低温での成形が求められている。特許文献1では、二つの融解ピークを有するポリプロピレン系樹脂を提案しており、より低温での成形を可能にしている。
【0006】
また、融点が高いと発泡剤の選定においても制限が出てくる。特許文献2では、発泡剤として最大発泡温度が180℃以上の優れた耐熱性を有する熱膨張マイクロカプセルについて提案されている。しかし、融点がそれよりも高い樹脂においては、成形温度が高温になるため、膨張したマイクロカプセルが破裂または収縮してしまい発泡倍率が低下する。
【0007】
特許文献3では、発泡成形用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物に関して提案されており、高品質な発泡成形体の製造がなされているものの、融点や成形時の温度については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5841076号公報
【文献】特開2011-74282号公報
【文献】特許第6358368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の現状に鑑みなされたものであり、その目的は、軽量性かつ反発弾性率に優れた、より低温での成形が可能な発泡成形用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物、及びそれからなる発泡成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するため、熱可塑性ポリエステルエラストマーの組成について鋭意検討した。その結果、熱可塑性ポリエステルエラストマーのソフトセグメントに数平均分子量が1000未満のものを使用し、ソフトセグメントの含有量を特定の範囲内にすることにより、高反発弾性率を保持したまま低温での成形が可能となることを見出した。さらに、射出成形によって金型に樹脂を充満した後で金型のコアバックによってキャビティ拡張するプロセスを適用することで、良質なポリエステルエラストマー発泡成形体を容易に製造し提供できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、[1]~[5]を構成するものである。
[1] 芳香族ジカルボン酸と脂肪族及び/又は脂環族ジオールとを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、及び脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種のソフトセグメントが結合され、前記ソフトセグメントの数平均分子量が1000未満であり、ソフトセグメントの含有量が10~80質量%である熱可塑性ポリエステルエラストマーを含む発泡成形用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
[2] [1]に記載の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物からなる発泡成形体。
[3] 反発弾性率が50~90%であることを特徴とする[2]に記載の発泡成形体。
[4] 平均セル径が10~400μmであり、最大セル径が10~500μmである独立した発泡セルからなる発泡層を有し、密度が0.01~0.40g/cmであることを特徴とする[2]又は[3]に記載の発泡成形体。
[5] 表層に厚みが100~800μmの非発泡スキン層を持ち、内層に樹脂連続相と独立した平均セル径が10~400μmの発泡セルからなる発泡層を持ち、厚み方向に非発泡スキン層と発泡層のサンドイッチ構造を持つ、[2]~[4]のいずれかに記載の発泡成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明の発泡成形用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物は、より低温での成形が可能であることから、様々な発泡成形工法において成形性に優れる。また、本発明の発泡成形体は軽量性に優れるのみならず、高い反発性を発現することが出来る。さらに、高い発泡倍率にもかかわらず均一な発泡状態と、高い耐熱性、耐水性、成形安定性を持つため、高い信頼性の必要な部品にも適用の可能なポリエステル発泡成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の発泡成形体の製造方法の一例を説明するための概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の発泡成形用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物およびそれを用いた発泡成形体について詳述する。
【0015】
[熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)]
本発明で使用する熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)は、ハードセグメントとソフトセグメントが結合してなる。ハードセグメントは、ポリエステルからなる。ハードセグメントのポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸としては、通常の芳香族ジカルボン酸が広く用いられ、特に限定されないが、主たる芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸又はナフタレンジカルボン酸(異性体の中では2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい)であることが望ましい。これらの芳香族ジカルボン酸の含有量は、ハードセグメントのポリエステルを構成する全ジカルボン酸中、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましい。その他のジカルボン酸成分としては、ジフェニルジカルボン酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロ無水フタル酸などの脂環族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。これらは、樹脂の融点を大きく低下させない範囲で用いられることができ、その量は全酸成分の30モル%以下、好ましくは20モル%以下である。
【0016】
また、本発明で使用する熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)において、ハードセグメントのポリエステルを構成する脂肪族又は脂環族ジオールとしては、一般の脂肪族又は脂環族ジオールが広く用いられ、特に限定されないが、主として炭素数2~8のアルキレングリコール類であることが望ましい。具体的には、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。これらの中でも、エチレングリコール、1,4-ブタンジオールのいずれかであることが好ましい。
【0017】
上記のハードセグメントのポリエステルを構成する成分としては、ブチレンテレフタレート単位(テレフタル酸と1,4-ブタンジオールからなる単位)あるいはブチレンナフタレート単位(2,6-ナフタレンジカルボン酸と1,4-ブタンジオールからなる単位)よりなるものが、物性、成形性、コストパフォーマンスの点から好ましい。
【0018】
また、本発明で使用する熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)におけるハードセグメントを構成するポリエステルとして好適な芳香族ポリエステルを事前に製造し、その後ソフトセグメント成分と共重合させる場合、該芳香族ポリエステルは、通常のポリエステルの製造法に従って容易に得ることができる。また、かかるポリエステルは、数平均分子量10000~40000を有しているものが望ましい。
【0019】
本発明で使用する熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)のソフトセグメントは、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、及び脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種である。
【0020】
脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、ポリ(トリメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体などが挙げられる。これらの中でも、弾性特性の点から、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物が好ましい。
【0021】
脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペートなどが挙げられる。これらの中でも、弾性特性の点から、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリブチレンアジペートが好ましい。
【0022】
脂肪族ポリカーボネートは、主として炭素数2~12の脂肪族ジオール残基からなるものであることが好ましい。これらの脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオールなどが挙げられる。特に、得られる熱可塑性ポリエステルエラストマーの柔軟性や低温特性の点から、炭素数5~12の脂肪族ジオールが好ましい。これらの成分は、以下に説明する事例に基づき、単独で用いてもよいし、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明で使用する熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)のソフトセグメントを構成する、低温特性が良好な脂肪族ポリカーボネートジオールとしては、融点が低く(例えば、70℃以下)かつ、ガラス転移温度が低いものが好ましい。一般に、熱可塑性ポリエステルエラストマーのソフトセグメントを形成するのに用いられる1,6-ヘキサンジオールからなる脂肪族ポリカーボネートジオールは、ガラス転移温度が-60℃前後と低く、融点も50℃前後となるため、低温特性が良好なものとなる。その他にも、上記脂肪族ポリカーボネートジオールに、例えば、3-メチル-1,5-ペンタンジオールを適当量共重合して得られる脂肪族ポリカーボネートジオールは、元の脂肪族ポリカーボネートジオールに対してガラス転移点が若干高くなるものの、融点が低下もしくは非晶性となるため、低温特性が良好な脂肪族ポリカーボネートジオールに相当する。また、例えば、1,9-ノナンジオールと2-メチル-1,8-オクタンジオールからなる脂肪族ポリカーボネートジオールは、融点が30℃程度、ガラス転移温度が-70℃前後と十分に低いため、低温特性が良好な脂肪族ポリカーボネートジオールに相当する。
【0024】
本発明で使用する熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)のソフトセグメントの数平均分子量は、1000未満である。ソフトセグメントの数平均分子量は、300以上1000未満が好ましく、400以上950以下がより好ましく、500以上900以下がさらに好ましい。一般的には1000以上2500以下のものを用いることが多いが、1000未満のものを使用することで、高い反発弾性率を損なうことなく、融点を下げることが可能となる。一方、数平均分子量が300未満であると、エラストマー特性を発現しにくい場合がある。
なお、ソフトセグメントの数平均分子量は、異なる数平均分子量のものを併用して調整しても良い。例えば、数平均分子量500のものと数平均分子量900のものを50/50の質量比で用いて、数平均分子量700としても良い。
【0025】
本発明で使用する熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)のソフトセグメントとしては、本発明の課題を解決する観点から、脂肪族ポリエーテルが好ましい。
【0026】
本発明で使用する熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)は、テレフタル酸、1,4-ブタンジオール、及びポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを主たる成分とする共重合体であることが好ましい。熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)を構成するジカルボン酸成分中、テレフタル酸が40モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)を構成するグリコール成分中、1,4-ブタンジオールとポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールの合計が40モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。
【0027】
本発明で使用する熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)において、ソフトセグメントの含有量は、10~80質量%が好ましく、より好ましくは20~80質量%、さらに好ましくは30~75質量%である。ソフトセグメントの含有量が10質量%よりも低いと、結晶性が高すぎるため、反発性に劣り、80質量%を超えると、結晶性が低下しすぎるため、発泡成形性に劣る傾向にある。
【0028】
本発明で使用する熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の融点は、205℃以下が好ましい。融点は、120~205℃がより好ましく、130~195℃がさらに好ましい。
【0029】
本発明で使用する熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)は、公知の方法で製造することができる。例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコール、およびソフトセグメント成分を触媒の存在下エステル交換反応させ、得られる反応生成物を重縮合する方法、ジカルボン酸と過剰量のグリコールおよびソフトセグメント成分を触媒の存在下でエステル化反応させ、得られる反応生成物を重縮合する方法、あらかじめハードセグメントのポリエステルを作っておき、これにソフトセグメント成分を添加してエステル交換反応によりランダム化させる方法、ハードセグメントとソフトセグメントを鎖連結剤でつなぐ方法、さらにポリ(ε-カプロラクトン)をソフトセグメントに用いる場合は、ハードセグメントにε-カプロラクトンモノマーを付加反応させる方法などのいずれの方法をとってもよい。
【0030】
[その他の成分]
熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)に、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて架橋剤を配合してもよい。このような架橋剤としては、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の持つ水酸基やカルボキシル基と反応する架橋剤である限り特に限定されず、例えばエポキシ系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、酸無水物系架橋剤、シラノール系架橋剤、メラミン樹脂系架橋剤、金属塩系架橋剤、金属キレート系架橋剤、アミノ樹脂系架橋剤などが挙げられる。なお、架橋剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
エポキシ系架橋剤としては、分子中に2つ以上のエポキシ基(グリシジル基)を持つ多官能エポキシ化合物なら特に制限されず、具体的には、2つのエポキシ基を持つ1,6-ジハイドロキシナフタレンジグリシジルエーテルや1,3-ビス(オキシラニルメトキシ)ベンゼン、3つのエポキシ基を持つ1,3,5-トリス(2,3-エポキシプロピル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンやジグリセロールトリグリシジルエーテル、4つのエポキシ基を持つ1-クロロ-2,3-エポキシプロパン・ホルムアルデヒド・2,7-ナフタレンジオール重縮合物やペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルが挙げられる。中でも、骨格に耐熱性を保有した多官能のエポキシ化合物であることが好ましい。特に、ナフタレン構造を骨格にもつ2官能、もしくは4官能のエポキシ化合物、またはトリアジン構造を骨格にもつ3官能のエポキシ化合物が好ましい。熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の溶液粘度上昇の程度や、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の酸価を効率良く低下させることができる効果や、エポキシ自身の凝集・固化によるゲル化の発生程度を考慮すると、2官能または3官能のエポキシ化合物が好ましい。
【0032】
その他にも、グリシジル基を1分子あたり2個以上含有し重量平均分子量が4000~25000であり、かつ(X)20~99質量%のビニル芳香族モノマー、(Y)1~80質量%グリシジル(メタ)アクリレート、および(Z)0~79質量%のエポキシ基を含有していない(X)以外のビニル基含有モノマーからなるスチレン系共重合体を挙げることができる。より好ましくは(X)が20~99質量%、(Y)が1~80質量%、(Z)が0~40質量%からなる共重合体であり、さらに好ましくは(X)が25~90質量%、(Y)が10~75質量%、(Z)が0~35質量%からなる共重合体である。前記(X)ビニル芳香族モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン等が挙げられる。前記(Y)グリシジルアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルやシクロヘキセンオキシド構造を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルグリシジルエーテル等が挙げられ、これらの中でも、反応性の高い点で(メタ)アクリル酸グリシジルが好ましい。前記(Z)その他のビニル基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル等の炭素数が1~22のアルキル基(アルキル基は直鎖、分岐鎖でもよい)を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ベンジルエステル、(メタ)アクリル酸フェノキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸イソボルニルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシシリルアルキルエステル等が挙げられる。また(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルジアルキルアミド、酢酸ビニル等のビニルエステル類、ビニルエーテル類、(メタ)アリルエーテル類等の芳香族系ビニル系単量体、エチレン、プロピレン等のα-オレフィンモノマーなども前記(Z)その他のビニル基含有モノマーとして使用可能である。
前記共重合体の重量平均分子量は、4000~25000であることが好ましい。重量平均分子量は、より好ましくは5000~15000である。共重合体のエポキシ価は、400~2500当量/1×10gである事が好ましく、より好ましくは500~1500当量/1×10g、さらに好ましくは600~1000当量/1×10gである。
【0033】
カルボジイミド系架橋剤としては、1分子内にカルボジイミド基(-N=C=N-の構造)を2つ以上有するポリカルボジイミドであれば特に制限されず、例えば、脂肪族ポリカルボジイミド、脂環族ポリカルボジイミド、芳香族ポリカルボジイミドやこれらの共重合体などが挙げられる。好ましくは脂肪族ポリカルボジイミド化合物又は脂環族ポリカルボジイミド化合物である。
【0034】
ポリカルボジイミド化合物としては、例えば、ジイソシアネート化合物の脱二酸化炭素反応により得ることができる。ここで使用できるジイソシアネート化合物としては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3,5-トリイソプロピルフェニレン-2,4-ジイソシアネートなどが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を共重合させて用いることもできる。また、分岐構造を導入したり、カルボジイミド基やイソシアネート基以外の官能基を共重合により導入したりしてもよい。さらに、末端のイソシアネートはそのままでも使用可能であるが、末端のイソシアネートを反応させることにより重合度を制御してもよいし、末端イソシアネートの一部を封鎖してもよい。
【0035】
ポリカルボジイミド化合物としては、特に、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどに由来する脂環族ポリカルボジイミドが好ましく、特に、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネートに由来するポリカルボジイミドがよい。
【0036】
ポリカルボジイミド化合物は、1分子あたり2~50個のカルボジイミド基を含有することが、安定性と取り扱い性の点で好ましい。より好ましくは1分子あたりカルボジイミド基を5~30個含有するのがよい。ポリカルボジイミド分子中のカルボジイミドの個数(すなわちカルボジイミド基数)は、ジイソシアネート化合物から得られたポリカルボジイミドであれば、重合度に相当する。例えば、21個のジイソシアネート化合物が鎖状につながって得られたポリカルボジイミドの重合度は20であり、分子鎖中のカルボジイミド基数は20である。通常、ポリカルボジイミド化合物は、種々の長さの分子の混合物であり、カルボジイミド基数は、平均値で表される。前記範囲のカルボジイミド基数を有し、室温付近で固形であると、粉末化できるので、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)との混合時の作業性や相溶性に優れ、均一反応性、耐ブリードアウト性の点でも好ましい。なお、カルボジイミド基数は、例えば、常法(アミンで溶解して塩酸で逆滴定を行う方法)を用いて測定できる。
【0037】
ポリカルボジイミド化合物は、末端にイソシアネート基を有し、イソシアネート基含有率が0.5~4質量%であることが、安定性と取り扱い性の点で好ましい。より好ましくは、イソシアネート基含有率は1~3質量%である。特に、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネートに由来するポリカルボジイミドであって、前記範囲のイソシアネート基含有率を有することが好ましい。なお、イソシアネート基含有率は常法(アミンで溶解して塩酸で逆滴定を行う方法)を用いて測定できる。
【0038】
イソシアネート系架橋剤としては、上記したイソシアネート基を含有するポリカルボジイミド化合物や、上記したポリカルボジイミド化合物の原料となるイソシアネート化合物を挙げることができる。
【0039】
酸無水物系架橋剤としては、1分子あたり、2~4個の無水物を含有する化合物が、安定性と取り扱い性の点で好ましい。このような化合物として例えば、フタル酸無水物や、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物などが挙げられる。
【0040】
架橋剤の使用量(含有量)は、押出条件、所望する発泡倍率等によって適宜調整されるが、例えば、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)100質量部に対して、0.1~4.5質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1~4質量部であり、さらに好ましくは0.1~3質量部である。
【0041】
架橋剤としては、エポキシ系架橋剤、特に、グリシジル基を1分子あたり2個以上含有し重量平均分子量が4000~25000であり、かつ(X)20~99質量%のビニル芳香族モノマー、(Y)1~80質量%グリシジル(メタ)アクリレート、および(Z)0~79質量%のエポキシ基を含有していない(X)以外のビニル基含有モノマーからなるスチレン系共重合体が好ましい。しかし、カルボジイミド基等の反応性の速い官能基を有する化合物をエポキシ化合物と併用して用いた場合は、架橋後の樹脂組成物の分子量分布が狭くなる傾向にある。そのため、射出成形時の射出圧が高くなり、発泡核が消失し、発泡倍率が低くなる可能性がある。したがって、本発明に用いる樹脂組成物においては、架橋剤としてエポキシ系架橋剤とカルボジイミド系架橋剤を併用しないことが好ましい。
【0042】
さらに、本発明に用いる熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)には、上記架橋剤以外にも、目的に応じて種々の添加剤を配合することができる。このような添加剤の種類は特に限定されず、発泡成形に通常使用される各種添加剤を用いることができる。具体的には、添加剤として、公知のヒンダードフェノール系、硫黄系、燐系、アミン系の酸化防止剤、ヒンダードアミン系のほかベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、トリアゾール系、ニッケル系、サリチル系等の光安定剤、滑剤、充填剤、難燃剤、難燃助剤、離型剤、帯電防止剤、過酸化物等の分子調整剤、金属不活性剤、有機および無機系の核剤、中和剤、制酸剤、防菌剤、蛍光増白剤、有機および無機系の顔料のほか、難燃性付与や熱安定性付与の目的で使用される有機および無機系の燐化合物などが挙げられる。添加剤の添加量は、気泡の形成等を損なわない範囲で適宜選択することができ、通常の熱可塑性樹脂の成形に用いられる添加量を採用することができる。
【0043】
[熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物]
本発明において、発泡成形体を形成するのは、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)のみであっても、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)に上記の架橋剤や添加剤を含んだものであっても良い。そのため便宜上、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)のみの場合も、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)に上記の架橋剤や添加剤を含む場合も、「熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物」と称する。熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)に上記の架橋剤や添加剤を含む場合、熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物中に、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)を70質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、95質量%以上含むことが特に好ましい。
【0044】
[発泡成形体]
本発明の発泡成形体は、上述した本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物を用いて得られたものである。かかる本発明の発泡方法については、特に限定されないが、樹脂組成物に高圧のガスを含浸させた後、減圧する(圧力を解放する)発泡方法が好ましい。なかでも、成形サイクル性やコスト、均質発泡を得られる成形方法として発泡剤と本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物を溶融混合して射出成形する際にキャビティの容積を拡張させて発泡成形体を得る方法が好ましい。具体的には、図1に示すように、型締めされた複数の金型1、2で形成されるキャビティ3内に、溶融状態のポリエステルエラストマー樹脂組成物を化学発泡剤および/または超臨界状態の不活性ガス(以下、まとめて「発泡剤」と称することもある)とともに射出、充填し、表層に厚み100~800μmの非発泡スキン層が形成された段階で少なくとも一つの金型2を型開き方向へ移動してキャビティ3の容積を拡大させることにより、発泡成形体を得る方法である。詳しくは、ポリエステルエラストマー樹脂組成物と発泡剤とをキャビティ3内に充填後、所定の温度で冷却することにより、キャビティ3内に充填されたポリエステルエラストマー樹脂組成物の表層に非発泡スキン層が形成される。この非発泡スキン層が所定の厚み(100~800μm)になった段階で、金型2を型開き方向へ移動してキャビティ3の容積を拡大させるのである。なお、発泡成形用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物と発泡剤は、キャビティ3内に充填する前に射出成形機4の可塑化領域4aで混合しておくことができる。本発明の発泡成形体は、通常、発泡層の両面に非発泡スキン層が設けられたサンドイッチ構造(換言すれば、発泡層が両面から非発泡スキン層に挟まれた構造)を有するものとなる。発泡成形体のサイズに関しては、特に制限は無いが、サンドイッチ構造の厚み方向は、1~30mm程度が想定される。
【0045】
発泡層は、樹脂連続相と独立した発泡セルとから構成される。ここで、樹脂連続相とは、硬化したポリエステルエラストマー樹脂組成物で形成される空洞をもたない部分を意味する。発泡セルの径(セル径)は、均一でばらつきがない限り、サイズによって特性が異なる。高反発弾性を発現させるには、セル径が小さい方が有利であり、具体的には、平均セル径が10~400μmが好ましい。より好ましくは100~400μm、さらに好ましくは、200~400μmである。平均セル径が10μm未満である場合、成形体の内圧が低く非発泡スキン層形成時の圧力が不足し、ヒケ等の外観が悪くなる傾向にある。一方、平均セル径が400μmを超える場合、耐荷重性が低く、反発性が低くなる傾向にある。
【0046】
本発明の発泡成形体の最大セル径は、10~500μmであり、より好ましくは400μm以下である。本発明の発泡成形体は、最大セル径が500μm以下であるので、セル構造の均一性に優れ、また、粗大セルを含まないことから、反発弾性に優れる。
【0047】
非発泡スキン層は、発泡層に積層されており、厚みが100~800μmであることが好ましい。非発泡スキン層の厚みが100μm未満である場合、良好な外観が得られない傾向があり、一方、800μmを超えると、発泡層の比重が低くなりすぎるため、発泡成形体全体として後述する密度0.01~0.40g/cmである発泡構造体を均一なセル状態で得られない傾向がある。非発泡スキン層の厚みは、より好ましくは200~600μm、さらに好ましくは300~450μmである。
【0048】
本発明の発泡成形体の密度は、0.01~0.40g/cmであることが好ましい。一般的なポリエステルエラストマーの密度は凡そ1.0~1.4g/cm前後であるから、本発明の発泡成形体は十分に軽量化されていると言える。より好ましくは、0.1~0.35g/cmであり、さらに好ましくは、0.18~0.30g/cmである。密度が0.01g/cm未満であると十分な反発性や強度が得られず、機械的特性に劣る傾向にあり、0.40g/cmを超えると、十分な柔軟性が得られない傾向にある。優れた高反発性と柔軟性を両立させるには、発泡成形体の密度は、0.01~0.25g/cmであることがより好ましい。
【0049】
本発明の発泡成形体は、平均セル径が特定の範囲内であり、最大セル径が特定の範囲内であり、粗大セルを含まず、密度が特定の範囲内であることから、均一で微細なセル構造を有する。その結果、上述した本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物の特性である高い反発弾性率を発泡時にも実現することができる。本発明の発泡成形体は、反発弾性率が、40~90%である発泡成形体である。反発弾性率は、好ましくは50~90%であり、より好ましくは60~90%である。
【0050】
本発明の発泡成形体を得る際に用いることのできる化学発泡剤は、発泡核となるガス成分もしくはその発生源として成形機の樹脂溶融ゾーンで溶融している樹脂に添加するものである。
具体的には、化学発泡剤としては、炭酸アンモニウム及び重炭素酸ソーダ等の無機化合物、並びにアゾ化合物、スルホヒドラジド化合物、ニトロソ化合物、アジド化合物等の有機化合物等が使用できる。上記アゾ化合物としては、ジアゾカルボンアミド(ADCA)、2,2-アゾイソブチロニトリル、アゾヘキサヒドロベンゾニトリル、及びジアゾアミノベンゼン等が例示でき、中でもADCAが好まれて活用されている。上記スルホヒドラジド化合物としては、ベンゼンスルホヒドラジド、ベンゼン1,3-ジスルホヒドラジド、ジフェニルスルホン-3,3-ジスルホンヒドラジド及びジフェニルオキシド-4,4-ジスルホンヒドラジド-等が例示でき、上記ニトロソ化合物としては、N,N-ジニトロソペンタエチレンテトラミン(DNPT)等が例示でき、上記アジド化合物としては、テレフタルアジド及びP-第三ブチルベンズアジド等が例示できる。
【0051】
発泡剤として化学発泡剤を用いる場合、化学発泡剤は、本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物に均一に分散させるために、当該化学発泡剤の分解温度よりも融点が低い熱可塑性樹脂をベース材とした発泡剤マスターバッチとして使用することもできる。ベースとなる熱可塑性樹脂は、化学発泡剤の分解温度より低い融点であれば特に制限なく、例えばポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、等が挙げられる。この場合、化学発泡剤と熱可塑性樹脂の配合比率は、熱可塑性樹脂100質量部に対して化学発泡剤が10~100質量部であるのが好ましい。化学発泡剤が10質量部未満の場合は、本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物に対するマスターバッチの量が多くなりすぎて物性低下を起す可能性がある。100質量部を超えると、化学発泡剤の分散性の問題よりマスターバッチ化が困難になる。
【0052】
発泡剤として超臨界状態の不活性ガスを用いる場合、不活性ガスとしては二酸化炭素および/または窒素が使用可能である。発泡剤として超臨界状態の二酸化炭素および/または窒素を用いる場合、それらの量は、本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物100質量部に対して0.05~30質量部が好ましく、0.1~20質量部であることがより好ましい。超臨界状態の二酸化炭素および/または窒素が0.05質量部未満であると均一かつ微細な発泡セルが得られにくくなり、30質量部を超えると成形体表面の外観が損なわれる傾向にある。
【0053】
なお、発泡剤として用いられる超臨界状態の二酸化炭素または窒素は単独で使用できるが、二酸化炭素と窒素を混合して使用してもよい。ポリエステルエラストマー樹脂組成物に対して窒素はより微細なセルを形成するのに適している傾向があり、二酸化炭素はよりガスの注入量を比較的多くできるためより高い発泡倍率を得るのに適しているため、調整した発泡構造体の状態に対して任意で混合してもよく、混合する場合の混合比率はモル比で1:9~9:1の範囲であることが好ましい。
【0054】
また、その他の発泡剤として、プロパン、n-ブタン、i―ブタン、n-ペンタン、i―ペンタン、ネオペンタンなどの炭化水素系発泡剤、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、イソプロピルエーテル、n-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、フラン、フルフラール、2-メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランなどのエーテル系発泡剤なども挙げられ、発泡剤は熱膨張性のマイクロカプセルに封入されていても良い。
【0055】
本発明で使用する発泡剤としては、均一な微細発泡という観点から、超臨界状態の窒素がより好ましい。
【0056】
溶融状態のポリエステルエラストマー樹脂組成物を発泡剤とともにキャビティ3内に射出するには、射出成形機4の可塑化領域4a内で溶融状態のポリエステルエラストマー樹脂組成物と発泡剤とを混合すればよい。特に、発泡剤として超臨界状態の二酸化炭素および/または窒素を用いる場合には、例えば図1に示すようにガスボンベ5から気体状態の二酸化炭素および/または窒素を直接あるいは昇圧ポンプ6で加圧して射出成形機4内に注入する方法等が採用できる。これらの二酸化炭素および/または窒素は、溶融状態のポリエステルエラストマー樹脂組成物中への溶解性、浸透性、拡散性への観点から、成形機内部で超臨界状態となっている必要がある。
【0057】
ここで、超臨界状態とは、気相と液相とを生じている物質の温度および圧力を上昇させていくに際し、ある温度域および圧力域で前記気相と液相との区別をなくし得る状態のことをいい、この時の温度、圧力を臨界温度、臨界圧力という。すなわち超臨界状態において物質は気体と液体の両方の特性を併せ持つので、この状態で生じる流体を臨界流体という。このような臨界流体は気体に比べて密度が高く、液体に比べて粘性が小さいため、物質中をきわめて拡散しやすいという特性を有する。
【実施例
【0058】
本発明の効果を実証するために以下に実施例を挙げるが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0059】
以下の実施例、比較例においては下記の原料を用いた。
[熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)]
(ポリエステルエラストマーA-1)
特開平9-59491号公報に記載の方法に準じて、ジメチルテレフタレート、1,4-ブタンジオール、及び数平均分子量450のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール(PTMG)を原料として、ソフトセグメント含有量が44質量%の熱可塑性ポリエステルエラストマーを製造して、これをポリエステルエラストマーA-1とした。
(ポリエステルエラストマーA-2)
特開平9-59491号公報に記載の方法に準じて、ジメチルテレフタレート、1,4-ブタンジオール、及び数平均分子量650のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを原料として、ソフトセグメント含有量が44質量%の熱可塑性ポリエステルエラストマーを製造して、これをポリエステルエラストマーA-2とした。
(ポリエステルエラストマーA-3)
特開平9-59491号公報に記載の方法に準じて、ジメチルテレフタレート、1,4-ブタンジオール、及び数平均分子量850のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを原料として、ソフトセグメント含有量が44質量%の熱可塑性ポリエステルエラストマーを製造して、これをポリエステルエラストマーA-3とした。
(ポリエステルエラストマーA-4)
特開平9-59491号公報に記載の方法に準じて、ジメチルテレフタレート、1,4-ブタンジオール、及び数平均分子量850のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを原料として、ソフトセグメント含有量が72質量%の熱可塑性ポリエステルエラストマーを製造して、これをポリエステルエラストマーA-4とした。
(ポリエステルエラストマーA-5)
特開平9-59491号公報に記載の方法に準じて、ジメチルテレフタレート、1,4-ブタンジオール、及び数平均分子量450のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを原料として、ソフトセグメント含有量が25質量%の熱可塑性ポリエステルエラストマーを製造して、これをポリエステルエラストマーA-5とした。
(ポリエステルエラストマーA-6)
特開平9-59491号公報に記載の方法に準じて、ジメチルテレフタレート、1,4-ブタンジオール、及び数平均分子量650のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを原料として、ソフトセグメント含有量が25質量%の熱可塑性ポリエステルエラストマーを製造して、これをポリエステルエラストマーA-6とした。
(ポリエステルエラストマーA-7)
特開平9-59491号公報に記載の方法に準じて、ジメチルテレフタレート、1,4-ブタンジオール、及び数平均分子量1000のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを原料として、ソフトセグメント含有量が44質量%の熱可塑性ポリエステルエラストマーを製造して、これをポリエステルエラストマーA-7とした。
(ポリエステルエラストマーA-8)
特開平9-59491号公報に記載の方法に準じて、ジメチルテレフタレート、1,4-ブタンジオール、及び数平均分子量2000のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを原料として、ソフトセグメント含有量が44質量%の熱可塑性ポリエステルエラストマーを製造して、これをポリエステルエラストマーA-8とした。
(ポリエステルエラストマーA-9)
特開平9-59491号公報に記載の方法に準じて、ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、1,4-ブタンジオール、及び数平均分子量2000のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを原料として、ソフトセグメント含有量が44質量%の熱可塑性ポリエステルエラストマーを製造して、これをポリエステルエラストマーA-9とした。ジカルボン酸成分で、テレフタル酸成分/イソフタル酸成分は、75/25(モル比)である。
(ポリエステルエラストマーA-10)
特開平9-59491号公報に記載の方法に準じて、ジメチルテレフタレート、1,4-ブタンジオール、及び数平均分子量2000のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを原料として、ソフトセグメント含有量が25質量%の熱可塑性ポリエステルエラストマーを製造して、これをポリエステルエラストマーA-10とした。
なお、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール(PTMG)の数平均分子量は、末端の水酸基量を定量することにより求められた値である。
【0060】
[架橋剤(B)]
(スチレン系共重合体1(B―1))
オイルジャケットを備えた容量1リットルの加圧式攪拌槽型反応器のオイルジャケット温度を、200℃に保った。一方、スチレン(St)89質量部、グリシジルメタクリレート(GMA)11質量部、キシレン(Xy)15質量部及び重合開始剤としてジターシャリーブチルパーオキサイド(DTBP)0.5質量部からなる単量体混合液を原料タンクに仕込んだ。これを一定の供給速度(48g/分、滞留時間:12分)で原料タンクから反応器に連続供給し、反応器の内容液質量が約580gで一定になるように反応液を反応器の出口から連続的に抜き出した。その時の反応器内温は、約210℃に保った。反応器内部の温度が安定してから36分経過後から、抜き出した反応液を減圧度30kPa、温度250℃に保った薄膜蒸発機に導き、連続的に揮発成分を除去して、スチレン系共重合体(B―1)を得た。このスチレン系共重合体(B―1)は、GPC分析(ポリスチレン換算値)によると重量平均分子量8500、数平均分子量3300であった。また、下記の測定方法によれば、エポキシ価は670当量/1×10g、エポキシ価数(1分子当りの平均エポキシ基の数)は2.2であり、グリシジル基を1分子中に2個以上有するものである。
【0061】
[エポキシ価の測定方法]
100mlのエチレンマイヤーフラスコにサンプルを秤量し、10~15mlのメチレンクロライドを加えて、マグネチックスターラーにて攪拌溶解した。10mlのテトラエチレンアンモニウムブロマイド試薬を加え、さらに6~8滴のクリスタルバイオレット指示薬を加え、0.1規定パークロリック酸で中和した。終点は青から緑に変色して2分間安定な点とした。滴定に要したパークロリック酸の量(ml)をA、サンプル質量をW(g)、パーロリック酸試薬の規定度をNとして、下記式に基づきエポキシ価を算出した。
エポキシ価(当量/1×10g)=(N×A×1000)/W
【0062】
実施例1~6、比較例1~4
表1に記載の配合組成に従って熱可塑性ポリエステルエラストマー100質量部に対して各種成分を、二軸スクリュー式押出機を用いて溶融混練した後、ペレット化して、実施例1~6及び比較例1~4のペレットを得た。
【0063】
次に、上記で得られた熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物を用いて上述した金型拡張法にて発泡成形体を作製した。金型としては、型締めすると幅100mm、長さ100mm、厚み3mmのキャビティを形成することができ、型開き方向へコアバックさせると同幅、同長さで厚みが3mm+コアバック量(mm)であるキャビティを形成することができる固定用金型および稼働用金型からなる平板作製用の金型を用いた。具体的には、金型の型締め力が1800kN、スクリュー径40mm、スクリューストローク180mmのスクリューを持つ電動射出成形機の可塑化領域で、超臨界状態とした窒素を注入し、表面温度50℃に温調された金型に射出充填後、射出外圧と内部からの発泡圧力によって100~800μmの非発泡スキン層が形成された段階で、稼働用金型を型開き方向へ、表1にコアバック量(mm)として示す長さだけ移動させて、キャビティの容積を拡大させて、発泡成形体を得た。
【0064】
実施例1~6、比較例1~4で得られた発泡成形用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物と、該樹脂組成物から得られた発泡成形体について、下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0065】
[融点]
セイコー電子工業株式会社製の示差走査熱量分析計「DSC220型」にて、測定試料5mgをアルミパンに入れ、蓋を押さえて密封し、窒素中にて250℃で2分間溶融した後、降温速度20℃/分で50℃まで降温し、さらに50℃から250℃まで20℃/分で昇温し、得られたサーモグラム曲線から融解による、吸熱ピークを融点とした。
【0066】
[密度(見かけ密度)]
発泡成形体の寸法をノギスで測定し、その質量を電子天秤にて測定し、次式により算出した。
密度(g/cm)=試験片の質量/試験片の体積
【0067】
[平均セル径]
日立ハイテクノロジーズ製の走査電子顕微鏡SU1510により撮影した断面観察用サンプルの発泡断面の写真を画像処理し、少なくとも100個の隣接するセルの円相当径をセル径とし、ノギスで測定した。それら100個の平均値を求め、これを任意の三箇所において行い、三箇所で得られた3つの平均値を平均した値を平均セル径とした。
【0068】
[スキン層厚み]
日立ハイテクノロジーズ製の走査電子顕微鏡SU1510により撮影した断面観察用サンプルの発泡断面の写真を画像処理し、表層部にみられる一体化した非発泡層の厚みをスキン層厚みとして測定した。
【0069】
[反発弾性率]
JIS K 6400に記載されている方法にて測定を実施した。手動計測試験機を用い、規定高さから試験片に鋼球を落下させ、跳ね返った最大の高さを読み取った。一分間以内に3回の測定を行い、その中央値を求め、反発弾性率を算出した。
【0070】
【表1】
【0071】
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物は、低温で成形可能であり、得られた発泡成形体は軽量で高い反発弾性率を示すものであるが、用途によっては、その他にも機械物性等様々な特性が求められる。そのため、評価結果は、ソフトセグメント量が同一のもの同士で対比する。
表1から明らかなように、本発明の範囲内である実施例1~6はいずれも、軽量で高い反発弾性率を示しつつ、より低温で成形可能である。特に実施例1~4は、これらのバランスが優れている。これに対し、比較例1、2は、実施例1~3と同様のソフトセグメント量であり、軽量かつ高い反発弾性率を示すものの、融点が高いため、成形温度が高くなる。比較例3においては、ジメチルイソフタレートを使用して、同じソフトセグメント量で融点を実施例1と同様にまで下げているが、反発弾性に劣る。比較例4は、実施例5、6と同様のソフトセグメント量であり、軽量かつ高い反発弾性率を示すものの、融点が非常に高い。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の発泡成形用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物、及びそれからなる発泡成形体は、より低温での成形が可能であることから、様々な発泡成形工法において成形性に優れる。また、発泡成形体は軽量性に優れるのみならず、高い反発性を発現することが出来る。さらに、高い発泡倍率にもかかわらず均一な発泡状態と、高い耐熱性、耐水性、成形安定性を持つため、高い信頼性の必要な部品にも適用の可能なポリエステル発泡成形体を提供することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 金型(固定用)
2 金型(稼働用)
3 キャビティ
4 射出成形機
4a 可塑化領域
5 ガスボンベ
6 昇圧ポンプ
7 圧力制御バルブ
図1