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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/72 20060101AFI20241008BHJP
   B60K 6/365 20071001ALI20241008BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20241008BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20241008BHJP
   B60K 6/485 20071001ALI20241008BHJP
【FI】
F16H3/72 A
B60K6/365 ZHV
B60K6/48
B60K6/54
B60K6/485
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021045019
(22)【出願日】2021-03-18
(65)【公開番号】P2022144137
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】小河内 康弘
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 真也
(72)【発明者】
【氏名】内田 晃裕
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2016/104281(JP,A1)
【文献】特開2020-104671(JP,A)
【文献】特開2021-903(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0225069(US,A1)
【文献】特開2001-286003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/72
B60K 6/365
B60K 6/48
B60K 6/54
B60K 6/485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、電動機と、変速機とを遊星歯車機構で連結するように構成されたハイブリッド車両の動力伝達装置であって、
前記内燃機関をハウジングに対して断接するブレーキを有し、
前記電動機のみを駆動源とするEV走行時に前記ブレーキを締結し、
前記EV走行から前記内燃機関と前記電動機とを駆動源とするHEV走行への切り替え時に前記ブレーキを解放すると共に前記内燃機関を始動させるように構成され
前記遊星歯車機構は、少なくとも3個の回転要素を有し、
前記回転要素の回転数を幾何学的に表す速度線図上に、前記回転要素を表すと共に縦に延びる速度軸を、前記遊星歯車機構の歯数比に応じた間隔で一方の端から他方の端へ向かって横軸に沿って並べ、前記一方の端から順番に第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素としたとき、
前記電動機が、前記第2回転要素に接続され、
前記第1回転要素は、前記遊星歯車機構のサンギヤで構成されると共に前記変速機が接続され、
前記第2回転要素は、前記遊星歯車機構のキャリヤで構成されると共に前記電動機が接続され、
前記第3回転要素は、前記遊星歯車機構のリングギヤで構成されると共に前記内燃機関が接続されたハイブリッド車両の動力伝達装置。
【請求項2】
前記電動機は、前記内燃機関と前記変速機との間で軸方向に並べて配置されている請求項1に記載のハイブリッド車両の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両は、駆動源として内燃機関としてのエンジンと、電動発電機としてのモータと、エンジンとモータの少なくとも一方の駆動力を変速機に伝達可能とする動力伝達経路やモータの駆動力をエンジンに伝達してエンジンを始動させる動力伝達経路を構成して、エンジンとモータと変速機との間の動力伝達状態を切り換える動力伝達装置とを備える。
【0003】
ハイブリッド車両は、エンジンを停止状態でモータを駆動させてモータのみで走行するEV走行(電気自動車走行)と、モータとエンジンとを駆動させてモータとエンジンの両方で走行するHEV走行(ハイブリッド自動車走行)とを切り換える場合がある。
【0004】
特許文献1に開示されているハイブリッド車両は、動力伝達装置としてエンジンとモータを断接するエンジン側クラッチと、モータと変速機を断接する変速機側クラッチと、を備えており、EV走行からHEV走行への切り換え時には、変速機側クラッチを締結させた状態でエンジン側クラッチを締結させて、モータの駆動力を変速機に伝達しつつ、モータの駆動力をエンジンに伝達させることでエンジンを始動させるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4265567号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のハイブリッド車両は、エンジン側クラッチをスリップ制御しながら締結させることで、ショックを抑制しながら停止中のエンジンを始動できるものの、エンジン側クラッチをスリップ制御しながらエンジンを始動させた場合、エンジン側クラッチの発熱によりエネルギーロスが生じる。
【0007】
本発明は、EV走行中における内燃機関の始動時にスリップ制御によるエネルギーロスを抑制できるハイブリッド車両の動力伝達装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、遊星歯車機構で連結された内燃機関と、電動機と、変速機とを備えたハイブリッド車両の動力伝達装置であって、
前記内燃機関をハウジングに対して断接するブレーキを有し、
前記電動機のみを駆動源とするEV走行時に前記ブレーキを締結し、
前記EV走行から前記内燃機関と前記電動機とを駆動源とするHEV走行への切り替え時に前記ブレーキを解放することで前記内燃機関を始動させるように構成され
前記遊星歯車機構は、少なくとも3個の回転要素を有し、
前記回転要素の回転数を幾何学的に表す速度線図上に、前記回転要素を表すと共に縦に延びる速度軸を、前記遊星歯車機構の歯数比に応じた間隔で一方の端から他方の端へ向かって横軸に沿って並べ、前記一方の端から順番に第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素としたとき、
前記電動機が、前記第2回転要素に接続され、
前記第1回転要素は、前記遊星歯車機構のサンギヤで構成されると共に前記変速機が接続され、
前記第2回転要素は、前記遊星歯車機構のキャリヤで構成されると共に前記電動機が接続され、
前記第3回転要素は、前記遊星歯車機構のリングギヤで構成されると共に前記内燃機関が接続され、
前記遊星歯車機構は、少なくとも3個の回転要素を有し、
前記回転要素の回転数を幾何学的に表す速度線図上に、前記回転要素を表すと共に縦に延びる速度軸を、前記遊星歯車機構の歯数比に応じた間隔で一方の端から他方の端へ向かって横軸に沿って並べ、前記一方の端から順番に第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素としたとき、
前記電動機が、前記第2回転要素に接続され、
前記第1回転要素は、前記遊星歯車機構のサンギヤで構成されると共に前記変速機が接続され、
前記第2回転要素は、前記遊星歯車機構のキャリヤで構成されると共に前記電動機が接続され、
前記第3回転要素は、前記遊星歯車機構のリングギヤで構成されると共に前記内燃機関が接続されたハイブリッド車両の動力伝達装置。
【0009】
本発明によれば、内燃機関と電動機と変速機は常時噛合っている遊星歯車機構に連結されているので、ブレーキをスリップ制御することなくブレーキを解放するだけで、電動機の駆動力を内燃機関に伝達させて、内燃機関を始動させることができる。
【0010】
内燃機関と電動機とを断接するクラッチを備えた動力伝達装置のように、回転差のある内燃機関と電動機とをスリップ制御させながら締結する場合に比べて、電動機の駆動力のエネルギーロスを抑制できる。
また、エンジン始動時に、電動機の駆動力を第1回転要素側及び第3回転要素側に効率よく分配することができる。
具体的には、例えば、第2回転要素に内燃機関を接続する場合に、駆動状態を一定としながら内燃機関を始動させようとすると、第1又は第3回転要素の一方の回転数を一定に保持しながら第2回転要素の回転数を上昇させるため、第2回転要素に電動機を接続する場合に比べて、第1又は第3回転要素の他方に接続された電動機の回転数の増大代を大きくする必要がある。
また、例えば、第2回転要素に変速機を接続する場合に、駆動状態を一定としながら内燃機関を始動させるために、内燃機関の回転数を上げようとすると、第2回転要素の回転数を一定に保持しながら第1又は第3回転要素の一方の回転を上昇させるため、第2回転要素に電動機を接続する場合に比べて、第1又は第3回転要素の他方に接続された電動機の回転数の増大代を大きくする必要がある。
また、キャリヤに入力された電動機の回転が、リングギヤで減速されて内燃機関に伝達されるので、内燃機関がサンギヤに接続される場合に比べて内燃機関を始動させるためのトルクが得られやすい。
【0017】
前記電動機は、前記内燃機関と前記変速機との間で軸方向に並べて配置されている。
【0018】
本構成によれば、電動機の駆動力は、遊星歯車機構を介して内燃機関及び変速機に伝達されるので、電動機を、軸方向に並べて配置された内燃機関と変速機における内燃機関の反変速機側の位置や変速機の反内燃機関側の位置に配置される場合に比べて、電動機と内燃機関及び変速機を接続するための動力伝達経路を短くすることができる。その結果、動力伝達経路を構成する動力伝達部材の長さが短くできるので、動力伝達装置の軽量化及びコンパクト化が図りやすい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るハイブリッド車両の動力伝達装置によれば、EV走行中における内燃機関の始動時にスリップ制御によるエネルギーロスを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係るハイブリッド車両の動力伝達装置の骨子図である。
図2】動力伝達装置の締結表である。
図3】動力伝達装置及びその周辺の断面図である。
図4】動力伝達装置及びその周辺の拡大断面図である。
図5】動力伝達装置及びその周辺の他の断面の拡大断面図である。
図6】動力伝達装置及びその周辺の他の断面の拡大断面図である。
図7】動力伝達装置の第1ブレーキ及びその周辺の斜視図である。
図8図4におけるVIII-VIII線に沿った断面図である。
図9図6におけるIX-IX線に沿った断面図である。
図10】動力伝達装置のEV走行時の速度線図である。
図11】動力伝達装置のエンジン始動時の速度線図である。
図12】動力伝達装置のHEV走行中の速度線図である。
図13】EV走行からエンジンを始動してHEV走行に移行する場合における動作タイムチャートである。
図14】動力伝達装置のエンジン始動時の速度線図である。
図15】動力伝達装置の第1変形例の骨子図及び速度線図である。
図16】動力伝達装置の第2変形例の骨子図及び速度線図である。
図17】動力伝達装置の第3変形例の骨子図及び速度線図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係るハイブリッド車両の動力伝達装置の骨子図である。図1に示すように、本発明の実施形態に係る動力伝達装置5を備えるハイブリッド車両1は、内燃機関としてのエンジン2と、エンジン2にトルクコンバータなどの流体伝動装置を介することなく連結される自動変速機4と、エンジン2と自動変速機4との間に配置される電動機としてのモータ3とを備える。
【0023】
ハイブリッド車両1は、駆動源としてのエンジン2及びモータ3の少なくとも一方によって自動変速機4を介して駆動輪が駆動されるようになっている。エンジン2は、これに限定されるものではないが、4つの気筒が直列に配置された直列4気筒エンジンであり、エンジン2の出力軸21であるクランクシャフトが1回転する間に2回のトルク変動が生じることとなる。
【0024】
エンジン2と自動変速機4との間には、エンジン2とモータ3と自動変速機4とが動力伝達可能に連結された動力伝達装置5が配置されている。
【0025】
本実施形態に係る動力伝達装置5は、ハウジングとしての変速機ケース10内に、エンジン2に接続されて駆動源側(図の右側)に配設された入力軸51と、入力軸51と平行かつ反駆動源側(図の左側)に配設されると共に自動変速機4に接続された出力軸52と、入力軸51及び出力軸52の軸線上に配設された遊星歯車機構PG1,PG2及び複数のブレーキBR1,BR2とを有する。遊星歯車機構は、第1プラネタリギヤセット(第1ギヤセット)PG1と第2プラネタリギヤセット(第2ギヤセット)PG2とを有し、駆動源側から順に配設されている。
【0026】
複数のブレーキは、エンジン2を変速機ケース10に対して断接する第1ブレーキBR1と、後述のイナーシャ部材Inを変速機ケース10に対して断接するイナーシャ用ブレーキとしての第2ブレーキBR2とを有する。変速機ケース10内において、第1ブレーキBR1は第1ギヤセットPG1の径方向外側に配設され、第2ブレーキBR2は第2ギヤセットPG2の反駆動源側に配設されている。第2ギヤセットPG2の径方向外側には、モータ3が配設されている。
【0027】
第1及び第2ギヤセットPG1,PG2は、いずれも、キャリヤに支持されたピニオンがサンギヤとリングギヤに直接噛合するシングルピニオン型である。第1、第2ギヤセットPG1,PG2はそれぞれ、回転要素として、サンギヤS1,S2と、リングギヤR1,R2と、キャリヤC1,C2とを有している。
【0028】
動力伝達装置5では、第1ギヤセットPG1のサンギヤS1と第2ギヤセットPG2のキャリヤC2とが常時連結され、第1ギヤセットPG1のキャリヤC1と第2ギヤセットPG2のリングギヤR2とが常時連結されている。
【0029】
入力軸51は、第1ギヤセットPG1のリングギヤR1に常時連結され、出力軸52は、第1ギヤセットPG1のサンギヤS1及び第2ギヤセットPG2のキャリヤC2に常時連結されている。
【0030】
第1ブレーキBR1は、変速機ケース10と入力軸51及び第1ギヤセットPG1のリングギヤR1との間に配設されて、これらを断接するようになっている。第2ブレーキBR2は、変速機ケース10と第2ギヤセットPG2のサンギヤS2との間に配設されて、これらを断接するようになっている。
【0031】
遊星歯車機構PG1,PG2は、第1ギヤセットPG1のサンギヤS1と第2ギヤセットPG2のキャリヤC2で構成される第1回転要素X1と、第1ギヤセットPG1のキャリヤC1と第2ギヤセットPG2のリングギヤR2で構成される第2回転要素X2と、第1ギヤセットPG1のリングギヤR1で構成される第3回転要素X3と、第2ギヤセットPG2のサンギヤS2で構成される第4回転要素X4とを有する。
【0032】
第1回転要素X1には出力軸52を介して自動変速機4が接続され、第2回転要素X2にはモータ3が接続され、第3回転要素X3には第1ブレーキBR1と入力軸51及び後述のダンパ装置6を介してエンジン2が接続され、第4回転要素X4には第2ブレーキBR2が接続されている。
【0033】
以上の構成によって、動力伝達装置5は、第1ブレーキBR1、第2ブレーキBR2の締結状態の組み合わせにより、図2に示すように、モータ3のみで走行するEV走行と、EV走行中にエンジン2を始動させるエンジン始動と、モータ3及びエンジン2で走行するHEV走行とが選択できるようになっている。図2では、〇印で締結状態が示され、×印で解放状態が示しされている。
【0034】
具体的には、モータ3のみを駆動源とするEV走行(電気自動車走行)時には、第1ブレーキBR1を締結して、第1ブレーキBR1に連結されている第1ギヤセットPG1のリングギヤR1及びエンジン2を固定する。モータ3の駆動力は、第1ギヤセットPG1のキャリヤC1と、第2ギヤセットPG2のリングギヤR2に入力される。第1ギヤセットPG1のキャリヤC1に入力された駆動力はリングギヤR1の反力を受けてサンギヤS1から出力軸52を介して自動変速機4に伝達され、第2ギヤセットPG2のリングギヤR1に入力されたモータ3の駆動力はキャリヤC2から第1ギヤセットPG1のサンギヤS1及び出力軸52を介して自動変速機4に伝達されるようにEV走行用の動力伝達経路が構成されている。なお、EV走行時、第2ブレーキBR2は解放されているため、第2ギヤセットPG2のサンギヤS2は、リングギヤR2及びキャリヤC2の回転によって決まる回転数で回転している。
【0035】
EV走行からエンジン2とモータ3とを駆動源とするHEV走行(ハイブリッド走行)への切り替える時には、第1ブレーキBR1を解放して、第1ギヤセットPG1のキャリヤC1に入力されたモータ3の駆動力がリングギヤR1を介してエンジン2に伝達されて、エンジン2を始動させるようにエンジン始動用の動力伝達経路が構成されている。
【0036】
エンジン始動後のHEV走行時には、EV走行用の動力伝達経路に加えて、第1ブレーキBR1を解放した状態で第2ブレーキBR2を締結して、エンジン2の駆動力が第1ギヤセットPG1のリングギヤR1に入力されると共にサンギヤS1及び出力軸52を介して自動変速機4に伝達されるように動力伝達経路が構成されている。
【0037】
図3は、動力伝達装置5及びその周辺の断面図を示している。図3に示すように、本実施形態においては、エンジン2の出力軸21には、エンジン2のトルク変動を吸収するためのダンパ装置6が連結されている。ダンパ装置6は、出力軸21と同一軸線上に配置されると共に、固定して取り付けられている。
【0038】
モータ3、自動変速機4、動力伝達装置5及びダンパ装置6は、略円筒状に形成された変速機ケース10内に収容されている。
【0039】
変速機ケース10は、ダンパ装置6を内部に収容する円筒状の第1ケース部材11と、動力伝達装置5及びモータ3を内部に収容する円筒状の第2ケース部材12及び第3ケース部材13と、自動変速機4を内部に収容する円筒状の第4ケース部材14とを有する。
【0040】
第2ケース部材12内には動力伝達装置5を構成する第1ギヤセットPG1及び第1ブレーキBR1が収納され、第3ケース部材13内にはモータ3と動力伝達装置5を構成する第2ギヤセットPG2及び第2ブレーキBR2とが収納されている。
【0041】
第1ケース部材11の反駆動源側の端部には、径方向に延びて第2ケース部材12の駆動源側を閉塞する第1縦壁部11aが設けられている。第1縦壁部11aの径方向外側の部位には、軸方向に貫通する貫通穴11bが設けられている。第1ケース部材11は、エンジン2の図示しないシリンダブロックに固定されている。
【0042】
第2ケース部材12の駆動源側の端部には、第1ケース部材11をボルト11cで固定するための軸方向に延びるねじ穴12aが設けられている。第1ケース部材11と第2ケース部材12とは、第1縦壁部11aの駆動源側から貫通穴11bにボルト11cを貫通させると共にねじ穴12aに螺合させることで連結されている。
【0043】
第2ケース部材12の反駆動源側には、径方向に延びて第3ケース部材13の駆動源側を閉塞する第2縦壁部12bが設けられている。第2縦壁部は、第1ケース部材11との連結部よりも径方向内側に延びる第2内側縦壁部12cと、第1ケース部材11との連結部よりも径方向外側に配置されて径方向に延びる第2外側縦壁部12dとを備え、第2外側縦壁部12dの反駆動源側の端部には軸方向に貫通する貫通穴12eが設けられている。
【0044】
第3ケース部材13の反駆動源側には、径方向内側に配置されて径方向に延びて第4ケース部材14の駆動源側を閉塞する第3縦壁部13aと、径方向外側に配置されて径方向に延びて第3ケース部材13を第4ケース部材14と連結するための被固定部13bとが設けられている。被固定部13bには、軸方向に貫通する貫通穴13cが設けられている。
【0045】
第3ケース部材13の駆動源側の端部には、径方向外側に突出すると共に第2ケース部材12の貫通穴12eに対応する位置に設けられて内部にねじ穴13eを有する突出部13dが設けられている。第2ケース部材12と第3ケース部材13とは、第2外側縦壁部12dの駆動源側から貫通穴12eにボルト12fを貫通させると共にねじ穴13eに螺合させることで連結されている。
【0046】
第4ケース部材14の駆動源側の端部には、径方向外側に突出すると共に第3ケース部材13の貫通穴13cに対応する位置に設けられて内部にねじ穴14bを有する突出部14aが設けられている。第3ケース部材13と第4ケース部材14とは、駆動源側から貫通穴13cにボルト13fを貫通させると共にねじ穴14bに螺合させることで連結されている。
【0047】
ダンパ装置6は、エンジン2のトルク変動に起因する振動を抑制するためにエンジン2と動力伝達装置5との間に介設され、エンジン2からの動力が入力されるドライブプレート61と、ドライブプレート61の反駆動源側に配置されてドライブプレート61に固定された保持プレート62と、ドライブプレート61と保持プレート62との間に配置されたドリブンプレート63とを有している。
【0048】
ドライブプレート61とドリブンプレート63とは、相対回転可能に設けられ、ドライブプレート61と保持プレート62との間に周方向の複数の箇所に周方向に沿って配置された弾性部材としてのコイルスプリング64を介して回転伝達可能に連結されている。
【0049】
ドライブプレート61は、駆動源側に配置されてクランクシャフト21に締結ボルト65を用いて固定されて径方向に延びている。ドリブンプレート63には、リベット66によって連結プレート67が取り付けられている。連結プレート67は、ドライブプレート61の反駆動源側に配置され、径方向内端部が動力伝達装置5の入力軸51にスプライン嵌合されて連結されている。
【0050】
ダンパ装置6は、ドライブプレート61からコイルスプリング64を介してドリブンプレート63にエンジン2からの動力が伝達されるときコイルスプリング64の圧縮によってエンジン2のトルク変動を抑制するようになっている。ダンパ装置6は、エンジン2からの動力をドライブプレート61、コイルスプリング64、ドリブンプレート63及び連結プレート67を介して動力伝達装置5の入力軸51に伝達するようになっている。
【0051】
モータ3は、変速機ケース10に結合されたモータハウジング31に固定されたステータ32と、動力伝達装置5の出力軸52に結合されたロータ支持部材34に支持されてステータ32の径方向内側に配置されたロータ33とを有している。ステータ32は、磁性体から成るステータコアにコイルが巻回されて構成されている。ロータ33は、筒状の磁性体で構成されている。モータ3は、ステータ32に電力が供給されるとステータ32に生じる磁力によってロータ33が回転するようになっている。
【0052】
自動変速機4は、変速機ケース10に回転可能に支持された入力軸40を備えている。自動変速機4はまた、図示されていないが、複数のプラネタリギヤセット(遊星歯車機構)とクラッチやブレーキなどの複数の摩擦締結要素とを有する変速機構と、出力軸とを備えている。前記変速機構は、複数の摩擦締結要素を選択的に締結することにより各プラネタリギヤセットを経由する動力伝達経路を切り換えて車両の運転状態に応じた所定の変速段を達成するように構成されている。
【0053】
自動変速機4は、エンジン2及びモータ3から駆動輪に動力を伝達する動力伝達経路を形成し、複数の摩擦締結要素を選択的に締結することにより各遊星歯車機構を経由する動力伝達経路を選択的に切り換えて車両の運転状態に応じた変速段を達成するように構成されている。
【0054】
動力伝達装置5の入力軸51は、第1ケース部材11の第1縦壁部11aを貫通すると共に、第1縦壁部11aの内端部から軸方向に延びる第1軸方向部11dにベアリングを介して回転可能に支持されている。
【0055】
入力軸51の駆動源側の端部は、エンジン2の出力軸21の反駆動源側の端部に設けられたボス部22にベアリングを介して回転可能に支持されている。入力軸51の反駆動源側の端部は、第2ケース部材12の第2内側縦壁部12cの内端部から軸方向に延びる第2軸方向部12gと軸方向位置がオーバラップする位置まで延びている。
【0056】
動力伝達装置5の出力軸52は、入力軸51の外周側に配置されると共に、入力軸51にベアリングを介して回転可能に支持されている。動力伝達装置5の出力軸52の駆動源側の端部の外周側には、第1ギヤセットPG1のサンギヤS1がスプライン嵌合されている。
【0057】
出力軸52の反駆動源側の端部は、第3ケース部材13の内端部から軸方向に延びる第3軸方向部13gと軸方向位置がオーバラップする位置まで延びている。出力軸52の内周側には、自動変速機4の入力軸40がスプライン嵌合されている。動力伝達装置5の入力軸51と出力軸52とは、第2ケース部材12の内周側において軸方向位置がオーバラップしている。
【0058】
図4図9を参照しながら、第1ブレーキBR1及び第1ギヤセットPG1の構成について説明する。
【0059】
図4に示すように第1ブレーキBR1は、第1ギヤセットPG1のリングギヤR1に結合されたハブ部材41と、変速機ケース10より詳しくは第1ケース部材11の縦壁部11aから反駆動源側に突出するようにして設けられたドラム部材42と、ハブ部材41とドラム部材42との間に配置された複数の摩擦板43と、ハブ部材41とドラム部材42とに交互にスプライン嵌合される複数の摩擦板43と、複数の摩擦板43の反駆動源側に配置されたピストン44と、ピストン44の反駆動源側に設けられた油圧室45と、リターンスプリング46とを有している。
【0060】
第1ブレーキBR1は、油圧室45に締結用油圧が供給されるときに、ピストン44が駆動源側に締結方向に移動して複数の摩擦板43を押圧し、ハブ部材41とドラム部材42とを結合することにより、第1ブレーキBR1が締結されるようになっている。
【0061】
第1ブレーキBR1はまた、油圧室45から締結用油圧が排出されるときに、ピストン44がリターンスプリング46によって反駆動源側に解放方向に移動し、ハブ部材41とドラム部材42との結合を解除することにより、第1ブレーキBR1が解放されるようになっている。
【0062】
ハブ部材41は、摩擦板43がスプライン嵌合される内側円筒部41aと、内側円筒部41aの駆動源側の端部から第1ケース部材11の第1縦壁部11aに沿って径方向内側に延びる円盤部41bとを備える。円盤部41bの内端部は、動力伝達装置5の入力軸51の外周面に溶接等によって接合されて固定されて、入力軸51に入力された動力がハブ部材41に伝達されるようになっている。円盤部41bは、円盤部41bの駆動源側の面と第1縦壁部11aの反駆動源側の面との間に配置されたベアリングを介して、第1縦壁部11aに回転可能に支持されている。
【0063】
内側円筒部41aの反駆動源側の端部には、第1ギヤセットPG1のリングギヤR1が溶接等で接合されることによって固定されている。円盤部41bの径方向外側の部位には、外周端部を周方向に複数個所切欠くことで形成された櫛歯部41cが設けられている。櫛歯部41cには、リングギヤR1の駆動源側の端部を周方向に複数個所切欠くことで形成された櫛歯部R11が係合されている。これにより、入力軸51とハブ部材41とリングギヤR1とが一体的に回転するようになっている。
【0064】
ドラム部材42は、第1縦壁部11aから反駆動源側に向かって延びる突出部42aによって構成されている。本実施形態においては、突出部42aは、図8及び図9に示すように、周方向に略均一に並べて配置される12個の突出部42aを有する。突出部42aの内周側には、摩擦板43がスプライン嵌合されるスプライン部42bが設けられている。突出部42aの一部には、ねじ穴42cが設けられている。突出部42aの反駆動源側には、油圧室45を形成するための油圧室構成部材45aが配設されている。
【0065】
油圧室構成部材45aは、軸方向に延びる外側軸方向部45bと、外側軸方向部45bの反駆動源側の端部から径方向内側に延びる径方向部45cと、径方向部45cの内端部から駆動源側に向かって軸方向に延びる内側軸方向部45dと、外側軸方向部45bから径方向外側に突出するフランジ部45eとを有する。
【0066】
フランジ部45eは、ねじ穴42bに対応する周方向位置に複数設けられている(図7参照)。フランジ部45eには、図4に示すように、軸方向に貫通する貫通穴45fが設けられており、油圧室構成部材45aは、貫通穴45fにボルト45gを挿通すると共にねじ穴42bに螺合することで変速機ケース10(突出部42a)に固定されている。
【0067】
ピストン44は、複数の摩擦板43の反駆動源側に配置されて、締結時に摩擦板43を押圧する円板状の押圧部44aと、押圧部44aの径方向外側の端部から反駆動源側に延びる第1円筒部44bと、径方向内側の端部から反駆動源側に延びる第2円筒部44cとを有する。
【0068】
油圧室45は、径方向部45cの駆動源側の面と、ピストン44の押圧部44aの反駆動源側の面と、外側軸方向部45bの内周面と内側軸方向部45dの外周面とによって形成されている。
【0069】
油圧室構成部材45aのフランジ部45e内には、図6に示すように、油圧室45に締結用作動油を供給する締結油路45hが設けられている。図6及び図7に示すように、第2ケース部材12には、油圧室構成部材45aのフランジ部45eに対向する位置で径方向内側に突出するように設けられると共に内部に締結油路12hを備えた連絡部12iが設けられている。第2ケース部材12の連絡部12iの内周面と、油圧室構成部材45aのフランジ部45eの外周面とは、互いに当接し合うように設けられていると共に、第2ケース部材12の締結油路12hと油圧室構成部材45aの締結油路45hとが連通するように配置されている。第2ケース部材12の締結油路12hは、油圧室構成部材45aの締結油路45hとの接続部はシール部材45iによってシールされている。締結油路45h,12hは、第2ケース部材12に設けられたバルブボディ接続部12jを介して、バルブボディ(図示せず)に接続されるようになっている。
【0070】
複数の摩擦板43は、ハブ部材41の径方向外側にスプライン嵌合される複数の内側摩擦板43aと、ドラム部材42の径方向内側にスプライン嵌合される複数の外側摩擦板43bとを備える。内側摩擦板43aと外側摩擦板43bとは、軸方向に交互に配置されている。
【0071】
複数の外側摩擦板43bのうち最も駆動源側に位置する駆動源側摩擦板43cは、リテーニングプレートとして機能する。駆動源側摩擦板43cは、外側摩擦板43aよりも径方向外側まで延びる複数のスプライン歯43dを有し、ドラム部材42の突出部42aにスプライン嵌合されている。本実施形態においては、駆動源側摩擦板43cの複数のスプライン歯43dは、10箇所設けられると共に周方向に略均等に並べて配置されている。
【0072】
駆動源側摩擦板43cのスプライン歯43dは、駆動源側摩擦板43cを除く外側摩擦板43bのスプライン歯43eよりも周方向幅が広くなるように形成されている。駆動源側摩擦板43cのスプライン歯43dは、駆動源側摩擦板43cを除く外側摩擦板43bのスプライン歯43eの歯先に対して、周方向にずれた位置に配置されている。駆動源側摩擦板43cの歯先は、駆動源側摩擦板43cを除く外側摩擦板43bの歯底に対応した周方向位置に配置されている。
【0073】
複数の摩擦板43の反駆動源側には、図5に示すように、リターンスプリング46の反駆動源側の端部を保持するための保持プレート46aが配設されている。保持プレート46aは、駆動源側摩擦板43cと同様に、駆動源側摩擦板43cを除く外側摩擦板43bよりも径方向外側まで延びる複数のスプライン歯46bを有し、ドラム部材42の突出部42aにスプライン嵌合されている。本実施形態においては、保持プレート46aのスプライン歯46bは、駆動源側摩擦板43cのスプライン歯43dに対応させて、10箇所設けられると共に周方向に略均等に並べて配置されている。
【0074】
駆動源側スプライン歯43cと保持プレート46aとの間には、軸方向に延びるコイルスプリングからなる複数のリターンスプリング46が周方向に並べて配置されている。
【0075】
保持プレート46aのスプライン歯46bには、駆動源側に円筒状に突出して複数のリターンスプリング46がそれぞれ装着される複数のスプリングガイド部46cが設けられている。駆動源側摩擦板43cのスプライン歯43dには、反駆動源側に突出して複数のリターンスプリング46がそれぞれ装着される複数のスプリングガイド部43fが設けられている。複数のリターンスプリング46は、軸方向及び径方向にオーバラップする位置に配置されている。なお、ドラム部材42の複数の突出部42aの隣接する突出部42a同士が離間する幅は、リターンスプリング46の径よりも大きくなるように設定されている。
【0076】
油圧室45から締結用油圧が排出されるときには、リターンスプリング46によって、保持プレート46aを介してピストン44を反駆動源側の解放方向に移動させ、ハブ部材41とドラム部材42との結合を解除することにより、第1ブレーキBR1が解放されるようになっている。
【0077】
第1ブレーキBR1の径方向内側には、図4に示すように、第1ギヤセットPG1が配置されている。前述のように、第1ギヤセットPG1のリングギヤR1は、ハブ部材41と一体的に回転するようになっている。リングギヤR1は、リングギヤR1の径方向内側に配置されると共にキャリヤC1で連結される複数のピニオンギヤC11に噛合されている。ピニオンギヤC11は、ピニオンギヤC11の径方向内側に配置されたサンギヤS1に噛合されている。
【0078】
キャリヤC1は、動力伝達部材47を介してロータ33に接続されたロータ支持部材34に連結されている。動力伝達部材47は、図3に示すように、動力伝達装置5の出力軸52の外周側に配置されると共に、第2ケース部材12の第2内側縦壁部12cを軸方向に貫通して、第3ケース部材13内に延びている。
【0079】
動力伝達部材47は、キャリヤC1に接続されて径方向に延びるキャリヤ接続部47aと、キャリヤ接続部47aの径方向内側の端部に設けられたスプライン部にスプライン嵌合されると共に反駆動源側に延びる軸方向部47bと、軸方向部47bの反駆動源側の端部から径方向外側のモータ3に向かって延びるモータ接続部47cとを有する。
【0080】
動力伝達部材47は、軸方向部47bの内周面と出力軸52の外周面との間に配設されたベアリングを介して出力軸52に対して回転可能に支持されている。動力伝達部材47はまた、軸方向部47bの外周面と第2ケース部材12の第2軸方向部12gの内周面との間に配設されたベアリングを介して第2ケース部材12に対して回転可能に支持されている。
【0081】
動力伝達部材47の径方向外側には、軸方向に延びると共にモータ3のロータ支持部材34の内周面に設けられたスプライン部に嵌合されるスプライン部47dが設けられている。
【0082】
モータ3のロータ支持部材34は、軸方向に延びる円筒部34aと、円筒部34aの駆動源側の端部から径方向内側に延びる円盤部34bとを有する。ロータ33は、ロータ支持部材34の円盤部34bの内端部と第2ケース部材12の軸方向部12gの外周面との間に配設されたベアリングを介して、第2ケース部材12に対して回転可能に支持されている。
【0083】
図3に示すように、モータ3の径方向内側には、第2ギヤセットPG2が配置されており、第2ギヤセットPG2のリングギヤR2の駆動源側の端部と、動力伝達部材47のスプライン部47dとが溶接等によって接合されている。モータ3(ロータ33)は、リングギヤR2と一体的に回転するようになっている。
【0084】
リングギヤR2は、リングギヤR2の径方向内側に配置されると共にキャリヤC2で連結される複数のピニオンギヤC21に噛合されている。ピニオンギヤC21は、ピニオンギヤC21の径方向内側に配置されたサンギヤS2に噛合されている。
【0085】
キャリヤC2は、径方向内側の端部から反駆動源側に延びる動力伝達部48を介して動力伝達装置5の出力軸52に連結されている。動力伝達部48の内周面に設けられたスプライン部と出力軸52の外周面に設けられたスプライン部とがスプライン嵌合されて、キャリヤC2と出力軸52とが一体的に回転するようになっている。
【0086】
サンギヤS2には、サンギヤS2の反駆動源側に配置された第2ブレーキBR2のハブ部材71が接続されている。サンギヤS2の反駆動源側の端部には、ハブ部材71の後述する径方向部71bが溶接等によって接続されている。
【0087】
第2ブレーキBR2は、ハブ部材71と、変速機ケース10(より詳しくは第3ケース部材13の縦壁部13a)から駆動源側に突出するようにして設けられたドラム部材72と、ハブ部材71とドラム部材72との間に配置されて、ハブ部材71とドラム部材72とに交互にスプライン嵌合される複数の摩擦板73と、複数の摩擦板73の駆動源側に配置されたピストン74と、ピストン74の駆動源側に設けられた油圧室75と、リターンスプリング(図示せず)とを有する。
【0088】
第2ブレーキBR2は、油圧室75に締結用油圧が供給されるときに、ピストン74が反駆動源側に締結方向に移動して複数の摩擦板73を押圧し、ハブ部材71とドラム部材72とを結合することにより、第2ブレーキBR2が締結されるようになっている。
【0089】
第2ブレーキBR2はまた、油圧室75から締結用油圧が排出されるときに、ピストン74がリターンスプリング76によって駆動源側に解放方向に移動し、ハブ部材71とドラム部材72との結合を解除することにより、第2ブレーキBR2が解放されるようになっている。
【0090】
ハブ部材71は、摩擦板73がスプライン嵌合される内側円筒部71aと、内側円筒部71aの駆動源側の端部から第3ケース部材13の第3縦壁部13aに沿って径方向内側に延びる径方向部71bと、径方向部71bの径方向内端部から駆動源側及び反駆動源側に延びる軸方向部71cとを有する。
【0091】
軸方向部71cは、駆動源側の内周面と出力軸52の外周面との間に配置されたベアリングを介して出力軸52に対して回転可能に支持され、反駆動源側の外周面と第3ケース部材13の第3軸方向部13gの内周面との間に配置されたベアリングを介して第3ケース部材13に対して回転可能に支持されている。ハブ部材71は、第2ギヤセットPG2のサンギヤS2と一体的に回転するようになっている。
【0092】
ドラム部材72は、図3に示すように、第3縦壁部13aから駆動源側に向かって延びる突出部72aによって構成されている。本実施形態においては、突出部72aは、第1ブレーキBR1同様に、周方向に略均一に並べて配置された複数の突出部72aで形成されている。突出部72aの内周側には、摩擦板73がスプライン嵌合されるスプライン部72bが設けられている。突出部72aの一部にはねじ穴72cが設けられ、突出部72aの駆動源側には油圧室75を形成するための油圧室構成部材75aが配設されている。油圧室構成部材75aは、第1ブレーキBR1同様に、油圧室構成部材75aに設けられた貫通穴75fにボルト75gを挿通させてねじ穴72cに螺合することで変速機ケース10(突出部72a)に固定されている。
【0093】
複数の摩擦板73は、ハブ部材71の径方向外側にスプライン嵌合される複数の内側摩擦板73aと、ドラム部材72の径方向内側にスプライン嵌合される複数の外側摩擦板73bとを備える。内側摩擦板73aと外側摩擦板73bとは、軸方向に交互に配置されている。
【0094】
なお、第2ブレーキBR2の詳細構造は、第1ブレーキBR1に対して、締結方向が駆動源側から反駆動源側になること及びハブ部材71が第2プラネタリギヤPG2のサンギヤS2に接続されていることが異なるが、他の構造は第1ブレーキBR1と略同様の構成を有する。したがって、油圧室構成部材45a、ピストン74、油圧室75、摩擦板73の構成については説明を省略する。
【0095】
図10から図12は、第1ギヤセットPG1と第2ギヤセットPG2の6つの回転要素S1,S2,C1,C2,R1,R2の回転数ωr,ωm,ωe,ωiの関係を説明する、いわゆる速度線図(共線図)である。周知のように速度線図は、遊星歯車における各回転要素を示す速度軸を各回転要素のギヤ比に応じた間隔をあけて互いに平行に引き、これらの速度軸に直交する基準線(各回転要素の回転数がゼロとなる線)からの距離をそれぞれの回転要素の回転数として示す図である。本実施形態においては、第1サンギヤS1の歯数Zs1に対するリングギヤR1の歯数Zr1の比(Zs1/Zr1)を第1ギヤ比としての遊星歯車比λ1と記し、第2サンギヤS2の歯数Zs2に対するリングギヤR2の歯数Zr2の比(Zs2/Zr1)を第2ギヤ比としての遊星歯車比λ2と記す。
【0096】
前述のように、本実施形態では、第1ギヤセットPG1のサンギヤS1と第2ギヤセットPG2のキャリヤC2とが機械的に結合されて第1回転要素X1が構成され、第1ギヤセットPG1のキャリヤC1と第2ギヤセットPG2のリングギヤR2とが機械的に結合されて第2回転要素X2が構成され、第1ギヤセットPG1のリングギヤR1によって第3回転要素X3が構成され、第2ギヤセットPG2のサンギヤS2によって第4回転要素X4が構成されている。言い換えると、動力伝達装置5は、複数の回転要素として第1~第4回転要素X1,X2,X3,X4を備える。
【0097】
図10のように、本実施形態における動力伝達装置5の第1~第4回転要素X1,X2,X3,X4を速度線図上に示すと、第1及び第2ギヤセットPG1,PG2の関係から、一方の端から順番に第1回転要素X1、第2回転要素X2、第3回転要素X3とし、第1回転要素X1よりも一方側の端側に第4回転要素X4が配置される。本実施形態ではまた、図10に示すように、第1~第4回転要素X1,X2,X3,X4は、遊星歯車機構の特性から、速度線図上での互いの回転数が、第4回転要素X4、第1回転要素X1、第2回転要素X2、第3回転要素X3の順に同一直線上に並ぶように構成されている。
【0098】
第4回転要素X4(第2ギヤセットPG2のサンギヤS2)及びサンギヤS2に連結されている第2ブレーキBR2のハブ部材71は、第3回転要素X3に接続されているエンジン2の回転変動によって、第2回転要素X2に接続されているモータ3の回転を変動させづらくするためのイナーシャ部材Inとして機能する。
【0099】
図10図13を参照しながら、図1に示す動力伝達装置5を備えたハイブリッド車両1が緩やかに加速しながらEV走行モードで走行中を例に、本実施形態によるエンジン始動方法を実行する場合の作用について説明する。
【0100】
図10の実線91は、モータ3のみを動力源として走行するEV走行が可能な走行モードであるEV走行モードでの各回転要素X1~X4の相対速度の一例を示している(図13の時点t2以前の状態)。図11の実線93は、EV走行モードからモータ3及びエンジン2を駆動源として走行するハイブリッド走行が可能な走行モードであるHEV走行モードに切り替えるためにエンジン2を始動させる際のエンジン始動時における各回転要素X1~X4の相対速度の一例を示している(図13の時点t2から時点t3までの期間の所定の時点)。図11の破線95は、エンジン2の完爆(時点t2)後から第2ブレーキBR2締結時点t5に至るまでの間でエンジン2の回転数の上昇に伴って第1~第4回転要素X1~X4の回転数が一定となる状態を示している。図12の実線96は、HEV走行モードにおける各回転要素X1~X4の相対速度の一例を示している(図13の時点t5以降の状態)。図13は、ハイブリッド車両1がEV走行からエンジン2を始動してHEV走行に移行する場合における動作タイムチャートである。
【0101】
図13は、第1ブレーキBR1を締結し、第2ブレーキBR2を解放し、モータ3を駆動させてEV走行中に、停止しているエンジン2を始動させるときにおける、エンジン2の出力軸21に接続される動力伝達装置5の入力軸51(第3回転要素X3)と、モータ3(第2回転要素X2)と、自動変速機4の入力軸40に接続される動力伝達装置5の出力軸52(第1回転要素X1)と、イナーシャ部材In(第4回転要素X4)についてのトルクTe,Tm,Tr,Tiと回転数ωe,ωm,ωr,ωi、及び、第1ブレーキBR1と第2ブレーキBR2の締結容量を示すタイムチャートである。
【0102】
EV走行中の時点t2以前では、第1ブレーキBR1が締結され、第2ブレーキBR2が完全解放されると共に、エンジン2が停止状態とされ、モータ3は、EV走行するために必要な変速機トルクが出力されるように制御される。これにより、図10の実線91で示されるように、エンジン2に接続された第3回転要素X3の回転数(以下、エンジン回転数ともいう)ωe=0と、車両を走行させるためのモータ3に接続された第2回転要素X2の回転数ωm(以下、モータ回転数ともいう)とから、自動変速機4に接続された第1回転要素X1の回転数ωr(以下、変速機回転数ともいう)及び第4回転要素X4の回転数ωi(以下、イナーシャ回転数ともいう)が決まる。なお、時点t1は、EV走行状態において、運転者によるアクセル操作によりアクセル開度が増大された時点を示し、時点t1から時点t2までの期間はEV走行によって加速が可能な期間を示している。
【0103】
時点t2は、アクセル開度から求められる運転者の加速要求(要求トルク)が所定値(例えば、EV走行可能なトルクの上限値)を上回り、車両をEV走行からHEV走行に移行させるためにエンジン2の始動要求があった時点を示している。
【0104】
時点t2に示すように、EV走行からHEV走行に移行する際には、第1ブレーキBR1の締結によって停止状態とされていたエンジン2を始動させるために、第1ブレーキBR1が解放される。第1ブレーキBR1が解放されると、モータ3のトルクがエンジン2の出力軸21に伝達され始める。
【0105】
このとき、モータ3がエンジン2エンジン2をクランキングするためのトルクを出力すると、t2時点からエンジン2が完爆する時点t3までの期間においては、エンジン2の回転が次第に増大する(図11の実線93)と共に、エンジン2が回転することに伴うフリクショントルクやイナーシャトルクなどが発生し、エンジン2のトルクは負トルクとなる(図13矢印a2)。
【0106】
モータ3の回転数は、時点t2から時点t3の期間では、車両の車速に応じた回転数に維持され、モータ3のトルクは、クランキングに要するトルク分、変化する。そのため、エンジン2をクランキングすることに伴うフリクショントルクやイナーシャトルクなどによって駆動力が低下することがあり、その場合にはモータ3のトルクはフリクショントルクやイナーシャトルクなどに応じて増大される(図13矢印a3)。
【0107】
このとき、図11の実線93で示すように、変速機回転数ωr及び変速機トルクTrを一定に保持したままエンジン回転数ωeを上昇させるために、モータ回転数ωm及びモータトルクTmが増大するように制御される。
【0108】
これにより、例えば、モータ3の出力を一定とし、図10に仮想線94で示すように、第1ブレーキBR1を解放してエンジン回転数ωeを上昇させると、遊星歯車機構の速度線図の特性からモータ回転数ωmを支点に変速機回転数ωrが減少することで、加速時における走行状態が保持されず、乗員に違和感を与えることが抑制されている。
【0109】
クランキング中のエンジン2には、所定のタイミングで燃料が供給されて着火される。時点t3は、エンジン回転数ωeがアイドル回転数まで上昇されたときなどに完爆された時点を示している。
【0110】
エンジン2の完爆後には、エンジン2が自らトルクを出力するので、エンジントルクTeの増大に合わせてモータトルクTmを下げるように、エンジン2とモータ3の協調制御が実行されて、自動変速機4に伝達される変速機トルクTrがコントロールされている。
【0111】
エンジン2の完爆後にはまた、エンジン2の始動によって、エンジン回転数ωeが上昇すると共にモータ回転数ωmが上昇し、一定になるように制御された変速機回転数ωrを支点にイナーシャ回転数ωiが減少し、図11の破線95に示すように、エンジン回転数ωeが変速機回転数ωrとモータ回転数ωm及びイナーシャ回転数ωiが一致する状態となる(図13矢印a6)。
【0112】
第1~第4回転要素X1,X2,X3,X4が同一回転となる状態を経由した後も、エンジン回転数ωe及びモータ回転数ωmが増大を続け、イナーシャ回転数ωiは減少を続け、図12の実線96で示すように、イナーシャ回転数ωi=0となる時点t4で、第2ブレーキBR2が完全締結されて、エンジン2とモータ3とを駆動源とするHEV走行状態となる。なお、第2ブレーキBR2は、エンジン2の完爆後から、スリップさせながらイナーシャ回転数ωiがゼロとなるときに完全締結されるように制御されてもよい。
【0113】
第2ブレーキBR2の締結によってイナーシャ部材Inを固定することで、エンジントルクTe及びモータトルクTmがイナーシャ部材Inの反力を介して自動変速機4に伝達される。
【0114】
図13の拡大図に破線で示すように、エンジン2の始動時には、トルク変動が生じる。エンジン2とモータ3と自動変速機4とは、遊星歯車機構PG1,PG2で連結されているため、エンジン2のトルク変動が自動変速機4側に伝達される。自動変速機4側に伝達されたトルク変動は引いては車体振動を発生させる場合がある。
【0115】
これに対して本実施形態は、上述のように第2ギヤセットPG2のサンギヤS2に接続されたイナーシャ部材Inによって、エンジン始動時のトルク変動の自動変速機4側への伝達が抑制できるように構成されている。
【0116】
図14を参照しながら、イナーシャ部材Inを配置することによる作用を説明する。図14の実線93は図11の実線93と同様に、EV走行中からHEV走行に移行する際のエンジン始動時の各回転要素の速度線図を示している。
【0117】
図14に示すように、エンジンの回転方向をプラス方向とする場合、エンジン2の始動時のトルク変動によって、第3回転要素X3にはプラス方向のトルク変動Y1が入力されると、第3回転要素X3に入力されたトルク変動Y1が、第2回転要素X2の慣性質量Imに応じた反力を得て、第1回転要素X1をマイナス方向に変動させようとするが、本実施形態においては、速度線図上において、第1回転要素X1の一方側には所定の慣性質量Iiを有する第4回転要素X4が配置されているので、第1回転要素X1のマイナス方向へのトルク変動が抑制される。
【0118】
本実施形態においては、第4回転要素X4には、第2回転要素X2及び第2回転要素X2に連結されるモータ3の慣性質量Imに釣り合う慣性質量Iiとなるようにハブ部材71が連結されている。これにより、第4回転要素X4の回転変動が抑制でき、第1回転要素X1の一方側に配置されている第4回転要素X4と、第1回転要素X1の他方側に配置されている第2回転要素X2とによって、第1回転要素X1の回転変動が抑制される。
【0119】
ここでは、エンジン2のプラス方向のトルク変動時の作用について説明したが、図14の破線矢印で示すように、エンジン2のマイナス方向のトルク変動時についても同様に、第4回転要素X4及びハブ部材71の慣性質量Iiによって、エンジン2の減速側の回転変動による第1回転要素X1の増速側の回転変動を抑制できる。
【0120】
イナーシャ部材Inの慣性質量Iiは、モータ3の慣性質量Imと、変速機4に接続される第1ギヤセットPG1のサンギヤS1の歯数Zs1に対するエンジン2に接続されるリングギヤR1の歯数Zr1の比としての第1ギヤ比(Zs1/Zr1)λ1と、第2ギヤセットPG2のサンギヤS3の歯数Zs2に対するモータ3に接続されるリングギヤR1の歯数Zr2の比(Zs2/Zr2)としての第2ギヤ比λ2とによって設定することで、より効果的にエンジン2のトルク変動の変速機4側への伝達が抑制できる。
【0121】
例えば、イナーシャ部材Inの慣性質量Ii及び第2ギヤ比λ2は、モータ3の慣性質量Imと第1ギヤ比λ1との関係に対してつり合うように設定される。イナーシャ部材Inの慣性質量Ii及び第2ギヤ比λ2は、モータ3の慣性質量Imと第1ギヤ比λ1との関係のつり合いを数式を用いて説明する。
【0122】
図14に示す動力伝達装置5についてプラネタリの基礎式に基づいて示すと、下記の数式(1)及び数式(2)で表すことができる。なお、第1回転要素X1(変速機4の入力軸40及び動力伝達装置5の出力軸52)の角加速度をωr´、第2回転要素X2(モータ3)の角加速度をωm´、第3回転要素X3(動力伝達装置5の入力軸51)の角加速度をωe´、第4回転要素X4(イナーシャ部材In)の角加速度をωi´、第1回転要素X1のトルクをTr、第2回転要素X2のトルクをTm、第3回転要素X3のトルクをTe、第4回転要素X4のトルクをTiで示す。
Tr+(Tm-Imωm´)+(Te-Ieωe´)+(-Iiωi´)=0・・・(1)
(Tm-Imωm´)+(λ1+1)(Te-Ieωe´)+(1/λ2)(-Iiωi´)=0・・・(2)
【0123】
変速機4の角加速度の変動を0(ωr´=0)すると、ωe´=(λ1+1)ωm´、ωi´=(1/λ2)ωm´となって、変速機4のトルクは数式(3)となる。
-Tr=(((λ1+1)λ1)Ie)+(1/λ2)((1/λ2)+1)Ii)Tm+(-λ1・Im+(1/λ2)((1/λ2)+(λ1+1))Ii)Te)/(Im+(λ1+1)Ie+(1/λ2)Ii)・・・(3)
【0124】
数式(3)のうち、エンジン2のトルク変動に寄与する係数である-λ1・Im+(1/λ2)((1/λ2)+(λ1+1))Ii=0にすることで、エンジン2のトルク変動が変速機4側に伝達されることを抑制することができる。すなわち、数式(4)を成立させることで、エンジン2のトルク変動を相殺することができる。
λ1・Im=(1/λ2)・(1/λ2+(λ1+1))・Ii・・・(4)
【0125】
イナーシャ部材Inの慣性質量Ii及び第2ギヤ比λ2を、数式(4)を満足するように設定することで、第3回転要素X3に入力されるエンジン2のトルク変動による変速機4側にトルク変動が伝達されることが抑制できる。
【0126】
以上の構成のように、エンジン2とモータ3と自動変速機4は、常時噛合っている遊星歯車機構PG1,PG2に連結されているので、第1ブレーキBR1をスリップ制御することなく解放するだけで、モータ3の駆動力をエンジン2に伝達させて、エンジン2を始動させることができる。
【0127】
例えば、エンジン2とモータ3とを断接するクラッチを備えた動力伝達装置5のように、回転差のあるエンジン2とモータ3とをスリップ制御させながら締結する場合に比べて、モータ3の駆動力のエネルギーロスが抑制される。
【0128】
また、モータ3が、第2回転要素X2に接続されているので、モータ3の駆動力を第1回転要素X1側及び第3回転要素X3側に効率よく分配することができる。
【0129】
具体的には、例えば、第2回転要素X2にエンジン2を接続する場合に、駆動状態を一定としながらエンジン2を始動させようとすると、第1又は第3回転要素X1,X3の一方の回転数を一定に保持しながら第2回転要素X2の回転数を上昇させるためには、第2回転要素X2にモータ3を接続する場合に比べて、第1又は第3回転要素X1,X3の他方に接続されたモータ3の回転数の増大代を大きくする必要がある。
【0130】
同様に、例えば、第2回転要素X2に自動変速機4を接続する場合に、駆動状態を一定としながらエンジン2を始動させようとすると、第2回転要素X2の回転数を一定に保持しながら第1又は第3回転要素X1,X3の一方の回転を上昇させるためには、第2回転要素X2にモータ3を接続する場合に比べて、第1又は第3回転要素X1,X3の他方に接続されたモータ3の回転数の増大代を大きくする必要がある。
【0131】
また、第1回転要素X1は第1ギヤセットPG1のサンギヤS1を有すると共に自動変速機4が接続され、第2回転要素X2は第1ギヤセットPG1のキャリヤC2を有し、第3回転要素X3は、第1ギヤセットPG1のリングギヤR1を有すると共にエンジン2が接続されているので、キャリヤC1に入力されたモータ3の回転が、リングギヤR1で減速されてエンジン2に伝達されるので、エンジン2がサンギヤS1に接続される場合に比べてエンジン2を始動させるためのトルクが得られやすい。
【0132】
モータ3は、エンジン2と自動変速機4との間で軸方向に並べて配置されているので、モータ3の駆動力は、遊星歯車機構を介してエンジン2及び自動変速機4に伝達されるため、モータ3を、軸方向に並べて配置されたエンジン2と自動変速機4におけるエンジン2の反自動変速機4側の位置や自動変速機4の反エンジン2側の位置に配置される場合に比べて、モータ3とエンジン2及び自動変速機4を接続するための動力伝達経路を短くすることができる。その結果、動力伝達経路を構成する動力伝達部材の長さが短くできるので、動力伝達装置5の軽量化及びコンパクト化が図りやすい。
【0133】
また、遊星歯車機構PG1,PG2は、速度線図上において、第4回転要素X4が第1回転要素X1の一方側に配置されているので、始動時のエンジン2のトルク変動によって、第3回転要素X3にプラス方向のトルク変動が入力されると、第3回転要素X3に入力されたトルク変動が、第2回転要素X2の慣性質量Imに応じた反力を得て、第1回転要素X1をマイナス方向に変動させようとするが、第1回転要素X1の一方側には所定の慣性質量Iiを有する第4回転要素X4が配置されているので、第1回転要素X1のマイナス方向へのトルク変動が抑制される。
【0134】
第4回転要素X4には、第2回転要素X2及び第2回転要素X2に連結されるモータ3の慣性質量Imに釣り合う慣性質量Iiが設定されているので、第4回転要素X4の回転変動を抑制できる。これにより、第1回転要素の一方側に配置されている第4回転要素X4と、第1回転要素X1の他方側に配置されている第2回転要素X2とによって、第1回転要素X1の回転変動が抑制される。
【0135】
第1~第4回転要素X1~X4の各歯数及びモータ3の慣性質量Imによってイナーシャ部材Inの慣性質量Iiが設定されているので、より効果的に内燃機関のトルク変動を抑制することができる。
【0136】
イナーシャ部材Inの慣性質量Ii及び第2ギヤ比λ2を、エンジン2のトルク変動の変速機4側への伝達に寄与するモータ3の慣性質量Imと第1ギヤ比λ1との関係に対してつり合うように設定するので、より効果的にエンジン2のトルク変動を抑制することができる。
【0137】
また、HEV走行時に締結されるとともに、第4回転要素X4を変速機ケース10に対して断接する第2ブレーキBR2を備えているので、HEV走行時に、エンジン2と自動変速機4との間で回転数を変化させることができる。これにより、エンジン2と自動変速機4の効率を考慮して、エンジン2の回転を増速又は減速させて自動変速機4側に伝達することができる。
【0138】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
【0139】
本実施形態のハイブリッド車両1では、ダンパ装置6を搭載する構成を説明したが、ダンパ装置6を搭載しなくてもよい。その場合、エンジン2の出力軸21が動力伝達装置5の入力軸51に直接接続される構成にすればよい。
【0140】
本実施形態のハイブリッド車両1では、自動変速機4を搭載する構成を説明したが、動力伝達装置5に接続される変速機はこれに限られるものではなく、手動変速機、デュアルクラッチ、CVT等であってもよい。
【0141】
本実施形態では、速度線図上において第4回転要素が第1回転要素よりも一方側に配置される構成について説明したが、第4回転要素は第3回転要素よりも他方側に配置されてもよい。この場合、イナーシャ部材Inの慣性質量Ii及び第2ギヤ比λ2は、数式(5)を満足するように設定すればよい。
λ1・Im=1/λ2(1/λ2-(1+λ1))・Ii・・・(5)
これにより、第3回転要素X3に入力されるエンジン2のトルク変動による変速機4側にトルク変動が伝達されることが抑制できる。
【0142】
本実施形態においては、第2ブレーキBR2を締結することでHEV走行状態を得る構成について説明したが、第2ブレーキBR2に代えて、図15に示すように、動力伝達装置105は、イナーシャ部材Inと第2ギヤセットPG2のリングギヤR2の間に設けられてイナーシャ部材InとリングギヤR2を断接するクラッチCL1を備えてもよい。なお、クラッチCL1は、イナーシャ部材InとリングギヤR2を断接するものに限られるものではなく、第1~第4回転要素のうちのいずれか2つの回転を同期するものであればよい。
【0143】
本構成によれば、第1~第4回転要素X1,X2,X3,X4のいずれか2つの回転要素が締結されると、第1~第4回転要素X1,X2,X3,X4の回転数が一致する。これにより、第1~第4回転要素X1,X2,X3,X4にそれぞれ連結されているエンジン2とモータ3と自動変速機4の回転が一致する直結状態でのHEV走行が可能となる。図15に示す第1変形例のように、クラッチCL1の締結時、イナーシャ部材In(第4回転要素X4)と第2ギヤセットPG2のリングギヤR2の回転が一致し、遊星歯車機構PG1,PG2の各回転要素が速度線図上で一直線上に並ぶ特性によって、第1~第4回転要素X1,X2,X3,X4の回転数が一致する。これにより、第1~第4回転要素X1,X2,X3,X4にそれぞれ連結されている内燃機関と電動機と変速機の回転が一致する直結状態でのHEV走行が可能となる。
【0144】
本実施形態においては、動力伝達装置5は、第1ギヤセットPG1と第2ギヤセットPG2を備える構成について説明したが、第1ギヤセットPG1又は第2ギヤセットPG2のいずれか一方を備えると共に、第1ギヤセットPG1又は第2ギヤセットPG2のいずれか一方のキャリヤに支持されるピニオンギヤをステップドピニオンギヤSP1,SP2で構成すると共に、ステップドピニオンギヤSP1,SP2に噛合うリングギヤSR2を備えてもよい。
【0145】
図16に示す第2変形例のように、動力伝達装置205は、第1ギヤセットPG1を備え、第1ギヤセットPG1のキャリヤC1に結合されるピニオンギヤがステップドピニオンギヤSP1,SP2で構成されている。ステップドピニオンギヤSP1,SP2は、第1ピニオンSP1と、第2ピニオンSP2とを有している。第1ピニオンSP1と第2ピニオンSP2とは、一体的に形成されている。第1ピニオンSP1と第2ピニオンSP2とは、一体的に同方向に回転するように形成されている。
【0146】
第2ピニオンSP2は、第1ピニオンSP1と同軸に配置されているとともに、第1ピニオンSP1より大径に形成されている。第2ピニオンSP2は、リングギヤSR2に噛み合う外歯を有している。第1ピニオンSP1は、第2ピニオンSP2と同軸に配置されているとともに、第2ピニオンSP2より小径に形成されている。第1ピニオンSP1は、第1ギヤセットPG1又は第2ギヤセットPG2の一部を構成している。第1ピニオンSP1は、第2ピニオンSP2よりも反駆動源側に配置されている。図16には、説明のために、第1ピニオンSP1と、第2ピニオンSP2のみを示しているが、第1ピニオンSP1と、第2ピニオンSP2はそれぞれ第1キャリヤSC1と第2キャリヤSC2によって支持されている。
【0147】
動力伝達装置205では、遊星歯車機構PG1,SC2,SR2は、第1キャリヤSC1と第2キャリヤSC2で構成される第1回転要素X1と、第1ギヤセットPG1のリングギヤR1で構成される第2回転要素X2と、第2リングギヤSR2で構成される第3回転要素X3と、第1ギヤセットPG1のサンギヤS1d得構成される第4回転要素X4とを有する。
【0148】
第1回転要素X1には出力軸52を介して自動変速機4が接続され、第2回転要素X2にはモータ3が接続され、第3回転要素X3には第1ブレーキBR1と入力軸51を介してエンジン2が接続され、第4回転要素X4には第2ブレーキBR2が接続されている。これにより、実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0149】
また、第2ブレーキBR2に代えて、図16に仮想線で示すように、動力伝達装置205は、イナーシャ部材Inと第1ギヤセットPG1のリングギヤR1の間に設けられてイナーシャ部材InとリングギヤR1を断接するクラッチCL1を備えてもよい。なお、クラッチCL1は、イナーシャ部材InとリングギヤR2を断接するものに限られるものではなく、第1~第4回転要素のうちのいずれか2つの回転を同期するものであればよい。これにより、図16の下図に示すように、クラッチCL1の締結時、イナーシャ部材In(第4回転要素X4)と第2ギヤセットPG2のリングギヤR2の回転が一致し、遊星歯車機構PG1,PG2の各回転要素が速度線図上で一直線上に並ぶ特性によって、第1~第4回転要素X1,X2,X3,X4の回転数が一致する。これにより、第1~第4回転要素X1,X2,X3,X4にそれぞれ連結されているエンジン2とモータ3と自動変速機4の回転が一致する直結状態でのHEV走行が可能となる。
【0150】
本実施形態においては、第1ギヤセットPG1と第2ギヤセットPG2を備える構成について説明したが、図17に示す第3変形例のように、第1ギヤセットPG1又は第2ギヤセットPG2のいずれか一方をのみ備えるように構成されてもよい。この場合、キャリヤC1と入力軸51とを断接するクラッチCL1を設けると共に、HEV走行時にクラッチCL1を締結するように構成されてもよい。
【0151】
本構成によれば、スリップ制御することなくエンジン2を始動させつつ、図17の下図の破線で示すように、HEV走行時に第1~3回転要素のいずれか2つの回転要素(本実施形態においては、キャリヤC1とリングギヤR1)が締結されることで、第1~第3回転要素の回転数が一致させて、第1~第3回転要素にそれぞれ連結されているエンジン2とモータ3と自動変速機4の回転が一致する直結状態でのHEV走行が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0152】
以上のように、本発明によれば、EV走行中における内燃機関の始動時にスリップ制御によるエネルギーロスを抑制できる動力伝達装置が搭載されるハイブリッド車両において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0153】
1 ハイブリッド車両
2 エンジン(内燃機関)
3 モータ(電動機)
4 自動変速機(変速機)
5 動力伝達装置
10 変速機ケース(ハウジング)
BR1 第1ブレーキ(ブレーキ)
BR2 イナーシャ用ブレーキ(第2ブレーキ)
C1 キャリヤ
CL1 クラッチ
PG1 第1プラネタリギヤセット
PG2 第2プラネタリギヤセット
R1 リングギヤ
S1 サンギヤ
X1 第1回転要素
X2 第2回転要素
X3 第3回転要素
X4 第4回転要素
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17