(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】水中沈殿物回収ロボット
(51)【国際特許分類】
E02F 3/88 20060101AFI20241008BHJP
E02F 3/90 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
E02F3/88 A
E02F3/90 Z
(21)【出願番号】P 2021048192
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2024-02-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2020年9月16日に2020年度 オンライン技術開発報告会にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】阪上 知己
(72)【発明者】
【氏名】西沢 孝壽
(72)【発明者】
【氏名】永喜多 徹
(72)【発明者】
【氏名】花岡 草
(72)【発明者】
【氏名】鎌原 健志
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 茂男
(72)【発明者】
【氏名】吉田 稔
(72)【発明者】
【氏名】四ツ田 裕嗣
(72)【発明者】
【氏名】松平 昌之
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-308818(JP,A)
【文献】特開2014-125754(JP,A)
【文献】特開2014-077264(JP,A)
【文献】特開2017-198067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/88
E02F 3/90
G21F 9/00- 9/36
C02F 11/00-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中を走行可能なロボット本体と、
沈殿物を吸引するためのノズルと、
水中の沈殿物が回収されるコンテナと、
前記ノズルに連通して前記コンテナ内で開口する内部ノズルと、
コンテナの内部に配置された煙突状のスリーブ管と、
前記スリーブ管に連通しコンテナ外部に開口する吐出口と、
前記吐出口から流体を吸引する内蔵ポンプと、
前記コンテナ内を上下に仕切ると共に上下方向の通水穴を有する仕切板と、
を備え、
前記仕切板は前記内部ノズルより上方にあり、
前記スリーブ管は前記仕切板を貫通して該スリーブ管の上端は前記仕切板より上にあることを特徴とする水中沈殿物回収ロボット。
【請求項2】
前記内部ノズルは前記コンテナ内で偏心して開口していて、該コンテナ内に旋回流を生じさせることを特徴とする請求項1に記載の水中沈殿物回収ロボット。
【請求項3】
前記スリーブ管は上下方向に伸縮可能であって、
前記スリーブ管が伸びたときには該スリーブ管は前記仕切板を貫通してその上端が前記仕切板より上に位置し、
前記スリーブ管が縮んだときには該スリーブ管の上端は前記仕切板より下に位置することができることを特徴とする請求項1または2に記載の水中沈殿物回収ロボット。
【請求項4】
水中を走行可能なロボット本体と、
沈殿物を吸引するためのノズルと、
水中の沈殿物が回収されるコンテナと、
前記ノズルに連通して前記コンテナ内で偏心して開口し該コンテナ内部に旋回流を生じさせる内部ノズルと、
コンテナの内部に配置された煙突状のスリーブ管と、
前記スリーブ管に連通しコンテナ外部に開口する吐出口と、
前記吐出口から流体を吸引する内蔵ポンプとを備え、
前記スリーブ管の上端は前記内部ノズルより上方にあり、
前記内部ノズルより下方には旋回流を阻害する邪魔板が配置されていることを特徴とする水中沈殿物回収ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の沈殿物を回収する水中沈殿物回収ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、水質汚染を防止するためや、水中に沈殿している有害物を除去するために、水中の沈殿物を回収することが行われている。沈殿物を回収する手段としては、例えば特許文献1に汚泥回収装置および方法が開示されている。特許文献1の汚泥回収装置は、水中を移動可能であると共に水底の汚泥を吸引して回収可能な浚渫装置と、水中を移動可能であると共に浚渫装置により回収された汚泥から水分を除去した回収物を回収物受槽に貯蔵する処理装置と、処理装置に電力や高圧空気などを供給する設備車とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の汚泥回収装置において、浚渫装置(水中移動船)に吸引ポンプを有していて、さらに処理装置は、液体サイクロン(粒状物除去装置)と中継槽42と脱水機(水分除去装置)と回収物受槽(回収容器)と分離水槽45とを有している。液体サイクロンは、汚泥に含まれる所定粒径以上の粗粒の粒状物(瓦礫や砂利など)を除去するものであると説明されている。すなわち、総ての装置が必須ではないにしても、数多くのモーターを使用していることがわかる。
【0005】
そこで本発明は、このような課題に鑑み、1つのポンプで沈殿物をコンテナに貯留し、またコンテナから排出することが可能であり、かつ貯留の効率を向上させることが可能な水中沈殿物回収ロボットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明にかかる水中沈殿物回収ロボットの代表的な構成は、水中を走行可能なロボット本体と、沈殿物を吸引するためのノズルと、水中の沈殿物が回収されるコンテナと、ノズルに連通してコンテナ内で開口する内部ノズルと、コンテナの内部に配置された煙突状のスリーブ管と、スリーブ管に連通しコンテナ外部に開口する吐出口と、吐出口から流体を吸引する内蔵ポンプと、コンテナ内を上下に仕切ると共に上下方向の通水穴を有する仕切板とを備え、仕切板は内部ノズルより上方にあり、スリーブ管は仕切板を貫通してスリーブ管の上端は仕切板より上にあることを特徴とする。
【0007】
内部ノズルはコンテナ内で偏心して開口していて、コンテナ内に旋回流を生じさせることが好ましい。
【0008】
スリーブ管は上下方向に伸縮可能であって、スリーブ管が伸びたときにはスリーブ管は仕切板を貫通してその上端が仕切板より上に位置し、スリーブ管が縮んだときにはスリーブ管の上端は仕切板より下に位置することができることが好ましい。
【0009】
本発明の他の代表的な構成は、水中沈殿物回収ロボットであって、水中を走行可能なロボット本体と、沈殿物を吸引するためのノズルと、水中の沈殿物が回収されるコンテナと、ノズルに連通してコンテナ内で偏心して開口しコンテナ内部に旋回流を生じさせる内部ノズルと、コンテナの内部に配置された煙突状のスリーブ管と、スリーブ管に連通しコンテナ外部に開口する吐出口と、吐出口から流体を吸引する内蔵ポンプとを備え、スリーブ管の上端は内部ノズルより上方にあり、内部ノズルより下方には旋回流を阻害する邪魔板が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、1つのポンプで沈殿物をコンテナに貯留し、またコンテナから排出することが可能であり、かつ貯留の効率を向上させることが可能な水中沈殿物回収ロボットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】水中沈殿物回収ロボットによって沈殿物を回収する原子力発電所建屋の概略図である。
【
図4】コンテナの構造を説明する部分透視図である。
【
図6】沈殿物回収ロボットの他の態様を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
図1は、水中沈殿物回収ロボットによって沈殿物を回収する原子力発電所建屋10の概略図である。なお、本実施形態では沈殿物を回収する施設として原子力発電所建屋10を例示したが、これに限定するものではない。水中に沈殿物が堆積している施設であれば、他の施設であっても本実施形態の水中沈殿物回収ロボットを好適に用いることが可能である。
【0014】
図1に示すように、原子力発電所建屋10は、地上4階、地下2階建ての建物である。1Fは地上への出入り口であり、最地下のB2Fに汚染水が貯蔵されている。この汚染水の放射性物質を吸着するために、B2Fには袋に吸着材(例えばゼオライト等)を詰めた土嚢12が設置されている。土嚢12は長期の設置により放射線で繊維が崩壊して破れ、内容物である吸着材が散逸して沈殿物となる。本実施形態では、水中に沈殿した吸着材を沈殿物として回収する。
【0015】
原子力発電所建屋10のB2Fには水中沈殿物回収ロボット(以下、回収ロボット100と称する)が配置される。回収ロボット100は、4Fに設置されているクレーン14によってB2Fに搬入される。
【0016】
回収ロボット100はB2Fに到着するとフック16から外れて水中を自走する。回収ロボット100にはフロートケーブル102が接続されて、電源が供給されると共に、カメラの画像データや各種センサーの信号が不図示の制御装置に送信される。
【0017】
図2は沈殿物回収ロボット100の前方斜視図である。
図2に示すように、本実施形態の回収ロボット100は主に、ロボット本体110、および沈殿物が回収されるコンテナ150を含んで構成される。ロボット本体110は下部にクローラ112を有し、設備(原子力発電所建屋10のB2F)の床面に沿って水中を走行可能である。
【0018】
ロボット本体110の前方には、沈殿物を吸引するためのノズル160が配置されている。ロボット本体110に備え付けられた内蔵ポンプ120がコンテナ150から流体(水)を吸引することにより、間接的にノズル160から沈殿物を含んだ水が吸引される。
【0019】
図3は沈殿物回収ロボットの後方斜視図である。ロボット本体110の後方には、コンテナ150と連通する排出ノズル170が備えられている。一方、水中にはステーション200が設置されている。ステーション200は汲み上げポンプ210とソケット220を備えている。回収ロボット100がバックして排出ノズル170とソケット220をドッキングさせると、ステーション200を通じてコンテナ150内の沈殿物を吸引することができる。
【0020】
図1に示すように、コンテナ150内の沈殿物は、汲み上げポンプ210と地上ポンプ240を用いて、吸い上げホース230を通じて原子力発電所建屋10の地上1Fに引き上げられる。そして所定の容器250に回収されると共に、上澄み液は戻り管260によってB2Fに戻される。沈殿物が回収された容器250は放射線漏れを防ぐ遮蔽容器270に収納して、所定の格納庫に移送する。
【0021】
図4はコンテナの構造を説明する部分透視図である。ノズル160からは2本の内部ノズル162がコンテナ150に連通されている。内部ノズル162の先端162aはコンテナ150内で偏心して開口していて、コンテナ150内に旋回流を生じさせる。
【0022】
コンテナ150内に導入された沈殿物混じりの水が旋回することにより、沈殿物は遠心力によってコンテナの外周部に振り分けられてコンテナ内で沈殿する。また、コンテナ150内の水の流れを安定させることができ、コンテナ150内での滞留時間を確保することができるため、沈殿物がコンテナ150内で沈殿する時間を稼ぐことができる。仮に旋回流を生成させない場合は、導入側の内部ノズル162から排出側のスリーブ管180までを直結する流れができてしまうため、沈殿する前に出て行ってしまうおそれがある。
【0023】
コンテナ150の内部の中央には、上下方向に配置された煙突状のスリーブ管180と、スリーブ管180を上下方向に伸縮可能に連結する垂直管182が備えられている。スリーブ管180の上端が開口である。垂直管182は、屈曲管184によってコンテナ外部に連通する吐出口186に接続されている。内蔵ポンプ120は、吐出口186からパイプ188で接続されて、コンテナ150内の流体を吸引する。これにより、内蔵ポンプ120が吸引すると、コンテナ150の内圧が下がるため、ノズル160から外部の流体(沈殿物混じりの水)が吸引される。
【0024】
ステーション200に接続される排出ノズル170は、内蔵ポンプ120のコンテナ側のパイプ188に連結されている。
【0025】
ここでコンテナ150の内部には、コンテナ内を上下に仕切る仕切板190が配置されている。仕切板190は内部ノズル162より上方にある。仕切板190は水平に配置された概ね円盤状の部材であり、コンテナ150の内面に固定されている。仕切板190は、中央にスリーブ管180が貫通する中央穴192を有し、その周囲に上下方向に通水する通水穴194を複数有している。通水穴194の開口率は比較的大きくてよく、フィルターやパンチングメタルより大きく、ストレーナと同等かそれ以上の開口率である。なお、
図4ではレンコン状の通水穴が空いた仕切り板を示しているが、通水穴の形状はこれに限定されるものではなく、例えば中心から放射状に空けられたスリット状の通水穴でもよい。
【0026】
次に、
図4および
図5を用いてスリーブ管の動作について説明する。
図5はスリーブ管の動作を説明する図である。
【0027】
まず
図4に示すように、スリーブ管180が伸びたときには、スリーブ管180は仕切板190の中央穴192を貫通して、その上端が仕切板190より上に位置している。この状態で内蔵ポンプ120が吸引すると、内部ノズル162から導入された流体は旋回流を生成するのであるが、仕切板190があるために、仕切板190の下側に旋回流を生じ、仕切板190の上側の水はほとんど旋回しない。このため沈殿物はコンテナ150の下部に沈み、主に上澄みの水が通水穴194を通って仕切板190の上側に至り、スリーブ管180から外部に排出される。
【0028】
図5に示すように、スリーブ管180が縮んだときには、スリーブ管180は仕切板190の中央穴192を下に抜けて、その上端は仕切板190より下に位置する。するとスリーブ管180の上端は旋回流の領域に位置することになる。そして、沈殿物を回収するときよりも強い勢いで(大きな流量で)流体を吸引することにより、コンテナ150内に貯留した沈殿物を巻き上げて排出することができる。なお排出するときには内蔵ポンプ120に加えてステーション200の汲み上げポンプ210の圧力も補助として利用できることから、無理なく流量を増大させることができる。
【0029】
上記説明したように、本発明にかかる水中沈殿物回収ロボットによれば、1つのポンプ(内蔵ポンプ120)で沈殿物をコンテナ150に貯留し、またコンテナ150から排出することが可能である。また、仕切板190によって主に上澄み液をコンテナ外に排出することができる(沈殿物はコンテナ内に残る)ことから、貯留の効率を向上させることができる。
【0030】
図6は沈殿物回収ロボットの他の態様を説明する図である。上記実施形態と説明の重複する部分については同一の符号を付して説明を省略する。
【0031】
図6に示す回収ロボット100Bは、
図4に示した仕切板190を備えていない。その代わりに、内部ノズル162より下方に、旋回流を阻害する邪魔板300が配置されている。旋回流はスリーブ管180および垂直管182の周囲の円筒空間に生じるので、邪魔板300はその円筒空間に配置された縦板である。邪魔板300は垂直管182に固定するよう図示しているが、コンテナ150の内面に固定してもよい。
【0032】
邪魔板300の大きさ(阻害する範囲)については、内部ノズルの先端162aにあまりに近いと全く旋回流が利用できないので、邪魔板300の上端は内部ノズルの先端162aよりある程度低い方がよい。一方、沈殿物を排出するために、邪魔板300の下端とコンテナ150の底との間にはある程度の隙間があった方がよい。
【0033】
上記構成によれば、旋回流を止めて流れを静める(遅くする)ことにより、沈殿する速度を促進することができると共に、既に沈殿した沈殿物を巻き上げることが少なくなる。したがって貯留の速度と効率を向上させることができる。
【0034】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、水中の沈殿物を回収する水中沈殿物回収ロボットとして利用することができる。
【符号の説明】
【0036】
10…原子力発電所建屋、12…土嚢、14…クレーン、16…フック、100…回収ロボット、102…フロートケーブル、110…ロボット本体、112…クローラ、120…内蔵ポンプ、150…コンテナ、160…ノズル、162…内部ノズル、162a…先端、170…排出ノズル、180…スリーブ管、182…垂直管、184…屈曲管、186…吐出口、188…パイプ、190…仕切板、192…中央穴、194…通水穴、200…ステーション、210…汲み上げポンプ、220…ポンプ吸引口、230…吸い上げホース、240…地上ポンプ、250…容器、260…戻り管、270…遮蔽容器、300…邪魔板