(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】光素子、及び、光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/786 20060101AFI20241008BHJP
B82Y 20/00 20110101ALI20241008BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20241008BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20241008BHJP
C01B 32/186 20170101ALI20241008BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20241008BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20241008BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20241008BHJP
H01L 31/08 20060101ALI20241008BHJP
H10K 10/46 20230101ALI20241008BHJP
【FI】
H01L29/78 618C
B82Y20/00
B82Y30/00
B82Y40/00
C01B32/186
G01J1/02 R
H01L29/78 301H
H01L29/78 613Z
H01L29/78 618B
H01L31/08 Z
H10K10/46
(21)【出願番号】P 2021049148
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2023-10-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 大雄
【審査官】市川 武宜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/178558(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0357504(US,A1)
【文献】特開2017-092210(JP,A)
【文献】特開2012-138451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 31/08
H01L 29/786
H10K 10/46
B82Y 20/00
B82Y 30/00
B82Y 40/00
C01B 32/186
G01J 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上に設けられ、厚さが5nm以下の第1多層グラフェンと、
前記第1多層グラフェンに接続される第1電極と、
前記第1多層グラフェンに接続される第2電極と
を含
み、
前記第1多層グラフェンは、前記第1多層グラフェンの上面から凹み、平面視で円形の開口形状を有する複数の第1凹部を有する、光素子。
【請求項2】
前記第1多層グラフェンの上に設けられる第1ゲート絶縁層と、
前記第1ゲート絶縁層の上に設けられる第1ゲート電極であって、平面視で前記第1電極と前記第2電極との間に設けられる第1ゲート電極と
をさらに含む、請求項1に記載の光素子。
【請求項3】
前記第1ゲート電極の平面視でのサイズは、前記第1多層グラフェンの平面視でのサイズの半分以下である、請求項2に記載の光素子。
【請求項4】
前記第1ゲート電極は、平面視で前記第1多層グラフェンの中心に対して前記第1電極側又は前記第2電極側にオフセットして設けられる、請求項2又は3に記載の光素子。
【請求項5】
前記第1ゲート電極は、厚さが10nm以下の金、白金、パラジウム、又は銀で作製される電極である、請求項2乃至4のいずれか1項に記載の光素子。
【請求項6】
前記第1ゲート電極は、厚さが10nm以下の多層グラフェン又はカーボンナノチューブで作製される電極である、請求項2乃至4のいずれか1項に記載の光素子。
【請求項7】
前記複数の第1凹部の内周面は、前記第1多層グラフェンの上面側から下方に向かって直径が段階的に小さくなる階段状の形状を有する、請求項1
乃至6のいずれか1項に記載の光素子。
【請求項8】
前記第1多層グラフェンの上に設けられる絶縁層と、
前記絶縁層の上に設けられ、厚さが5nm以下の第2多層グラフェンと、
前記第2多層グラフェンに接続される第3電極と、
前記第2多層グラフェンに接続される第4電極と
をさらに含む、請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の光素子。
【請求項9】
前記第2多層グラフェンの上に設けられる第2ゲート絶縁層と、
前記第2ゲート絶縁層の上に設けられる第2ゲート電極であって、平面視で前記第3電極と前記第4電極との間に設けられる第2ゲート電極と
をさらに含む、請求項
8に記載の光素子。
【請求項10】
前記第2ゲート電極の平面視でのサイズは、前記第2多層グラフェンの平面視でのサイズの半分以下である、請求項
9に記載の光素子。
【請求項11】
前記第2ゲート電極は、平面視で前記第3電極と前記第4電極との間で前記第3電極側又は前記第4電極側にオフセットして設けられる、請求項
9又は
10に記載の光素子。
【請求項12】
前記第2ゲート電極は、厚さが10nm以下の金、白金、パラジウム、又は銀で作製される電極である、請求項
9乃至
11のいずれか1項に記載の光素子。
【請求項13】
前記第2ゲート電極は、厚さが10nm以下の多層グラフェン又はカーボンナノチューブで作製される電極である、請求項
9乃至
11のいずれか1項に記載の光素子。
【請求項14】
前記第2多層グラフェンは、
前記第2多層グラフェンの上面から凹み、平面視で円形の開口形状を有する複数の第2凹部を有する、請求項
8乃至
13のいずれか1項に記載の光素子。
【請求項15】
前記複数の第2凹部の内周面は、前記第2多層グラフェンの上面側から下方に向かって直径が段階的に小さくなる階段状の形状を有する、請求項
14に記載の光素子。
【請求項16】
基板と、
前記基板の上に設けられ、厚さが5nm以下の多層グラフェンを形成する工程と、
マスクを利用したエッチング処理によって前記多層グラフェンをパターニングして第1多層グラフェンを形成する工程と、
前記第1多層グラフェンの上面から凹み、平面視で円形の開口形状を有する複数の第1凹部を形成する工程と、
前記第1多層グラフェンに接続される第1電極及び第2電極を形成する工程と
を含む、光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光素子、及び、光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板の上に複数のグラフェン層と複数のバンドパスフィルタ層とを交互に積層した熱イメージングシステムがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の熱イメージングシステムは、グラフェン層の吸光効率が低いため、光の吸収効率が低い。このため、光熱電効果によって得られる電流が少ない。
【0005】
そこで、光の吸収効率を向上させた光素子、及び、光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の光素子は、基板と、前記基板の上に設けられ、厚さが5nm以下の第1多層グラフェンと、前記第1多層グラフェンに接続される第1電極と、前記第1多層グラフェンに接続される第2電極とを含む。
【発明の効果】
【0007】
光の吸収効率を向上させた光素子、及び、光素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態1の光素子100を示す断面図である。
【
図2】実施形態1の光素子100を示す平面図である。
【
図5】実施形態1の変形例の光素子100Aを示す断面図である。
【
図6】実施形態2の光素子200を示す断面図である。
【
図7】実施形態2の光素子200を示す平面図である。
【
図10】実施形態2の変形例のアンチドット280Mを示す図である。
【
図11】実施形態2の変形例の光素子200Aを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の光素子、及び、光素子の製造方法を適用した実施形態について説明する。
【0010】
<実施形態1>
図1は、実施形態1の光素子100を示す断面図である。
図2は、実施形態1の光素子100を示す平面図である。
図1は、
図2のA-A矢視断面を示す。以下では、XYZ座標系を定義して説明する。また、以下では、説明の便宜上、-Z方向側を下側又は下、+Z方向側を上側又は上と称すが、普遍的な上下関係を表すものではない。
【0011】
光素子100は、基板110、絶縁層120、多層グラフェン130、電極140、電極150、絶縁層160、及びゲート電極170を含む。また、絶縁層160はゲート絶縁層160Aを有する。光素子100は、上方から光が入射することによって、多層グラフェン130が光熱電効果で電流を出力し、電極140及び電極150から電流を出力するデバイスである。
【0012】
また、一般的に、多層グラフェンは紫外線から赤外線までの光スペクトルの全体にわたって吸収可能であるが、実施形態1では、一例として、光素子100の多層グラフェン130は、波長が8μmの赤外線を吸収して電流を出力することを想定している。このような光素子100は、例えば赤外線センサとして利用可能であり、人感センサ、又は、温度分布を検出するセンサ等として利用可能である。ただし、光素子100の用途は、これらに限られるものではない。
【0013】
光素子100は、一例として、多層グラフェン130、電極140、電極150、絶縁層160、及びゲート電極170を4段重ねた構成を有し、最も下の1段目から最も上の4段目まで同様の構成を有する。4つの多層グラフェン130のうちのいずれか2つのうちの下側に位置する多層グラフェン130は第1多層グラフェンの一例であり、上側に位置する多層グラフェン130は第2多層グラフェンの一例である。
【0014】
第1多層グラフェンとしての多層グラフェン130と同一の段に含まれる電極140、電極150、ゲート絶縁層160A、及びゲート電極170は、それぞれ、第1電極、第2電極、第1ゲート絶縁層、第1ゲート電極の一例である。また、第2多層グラフェンとしての多層グラフェン130と同一の段に含まれる電極140、電極150、ゲート絶縁層160A、及びゲート電極170は、それぞれ、第3電極、第4電極、第2ゲート絶縁層、第2ゲート電極の一例である。
【0015】
基板110は、一例としてシリコン(Si)製の基板である。基板110は、平坦な上面を有していればよい。基板110の上面には絶縁層120が設けられる。なお、基板110の材質はシリコンに限られず、樹脂等でもよい。
【0016】
絶縁層120は、基板110の上面に設けられ、一例として酸化シリコン(SiO2)膜である。絶縁層120の上面には多層グラフェン130が形成されるため、絶縁層120は基板110と多層グラフェン130とを絶縁するためと、基板110から多層グラフェン130への異物の混入を抑制するために設けられる。なお、基板110が樹脂製である場合には、絶縁層120の代わりに反射層を設けてもよい。多層グラフェン130を透過した光を多層グラフェン130に戻すことにより、光の吸収効率をさらに向上させるためである。
【0017】
次に、多層グラフェン130、電極140、電極150、絶縁層160、及びゲート電極170について説明する。ここでは、4段構成のうちの最も下の1段目の構成について説明する。
【0018】
多層グラフェン130は、絶縁層120の上において、絶縁層120のX方向の長さとY方向の幅との中央部分に設けられている。多層グラフェン130は、一例として触媒金属の上にCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法で形成したランダム多層グラフェンを絶縁層120の上に転写することによって、絶縁層120の上に設けられている。ランダム多層グラフェンは、層と層をランダムに積層して多層化したものであり、単層グラフェンと同様の電子特性を示す。この点において、ランダム多層グラフェンは、HOPG(Highly Oriented Pyrolytic Graphite:高配向性熱分解グラファイト)から作製されるグラフェンとは異なる。
【0019】
ここで、多層グラフェン130における光の吸収率を向上させるためには、多層グラフェン130を厚くして層数を多くすることが考えられる。しかしながら、多層グラフェン130の各層は電気的に独立している。また、多層グラフェン130は数nmから数10nmの厚さであるのに対して、電極140及び150の厚さは約60nm以上であり、電極140及び150の方が多層グラフェン130よりも厚い。このため、多層グラフェン130のX方向の両端の側面と上面に電極140及び150を接続すると、多層グラフェン130のうちの上層部分は電極140及び150との平面的な接続部分があることで接触抵抗が低くなる。電極140及び150が多層グラフェン130の上を覆う部分のX方向の長さ及びY方向の幅は数μm程度である。しかしながら、多層グラフェン130のうちの中層及び下層の部分は層間抵抗が高く、側面だけが電極140及び150と接続するため、接触抵抗が高くなる。
【0020】
多層グラフェン130における光の吸収効率を増大させるには多層グラフェン130の厚さを厚くすることが求められる。一方で、多層グラフェン130が出力する電流を電極140及び150で効率的に取り出すには、多層グラフェン130と電極140及び150との接触抵抗が小さいことが求められる。多層グラフェン130を厚くすると、電極140及び150との接触抵抗が大きい中層及び下層の部分が増える。
【0021】
実施形態1では、光の吸収効率を増大と、電極140及び150との接触抵抗の低減とのバランスを取る観点から、各多層グラフェン130の厚さを5nm以下とする。厚さが2.7nm程度の8層の多層グラフェンでHOPGから作製されるグラフェンと同程度の抵抗率(56μΩcm)が得られることが過去に報告されており、また、厚さを30nmにした多層グラフェンは673μΩcmという非常に高い抵抗率を示すことが確認できていることから、各多層グラフェン130の厚さは1nm以上、30nm以下であることが好ましい。また、各多層グラフェン130の厚さは2nm以上、5nm以下であることがより好ましい。
【0022】
厚さが5nmの多層グラフェン130は、層数が10層から15層程度である。厚さが2nmの多層グラフェン130の層数は、4層から6層程度である。実施形態1では、多層グラフェン130とは、一例として4層以上のグラフェンが重なったものをいう。
【0023】
電極140は、多層グラフェン130の-X方向側に接続されている。電極150は、多層グラフェン130の+X方向側に接続されている。上述したように電極140及び150は多層グラフェン130よりも厚いため、多層グラフェン130の側面から上面を覆っている。電極140のうちの多層グラフェン130の上に位置する部分と、電極150のうちの多層グラフェン130の上に位置する部分とは、X方向において離間している。また、電極140及び150の一部は絶縁層120の上に位置する。
【0024】
電極140及び150としては、例えば、チタン(Ti)層と金(Au)層の積層体を用いることができる。電極140及び150としては、一例として、多層グラフェン130の側面及び上面と絶縁層120の上面とに厚さ10nmのチタン層を作製し、チタン層の上に厚さ50nmの金層を作製した積層体を用いることができる。
【0025】
絶縁層160は、多層グラフェン130と電極140及び150との上に設けられている。絶縁層160には、ゲート電極170が埋め込まれている。絶縁層160のうちゲート電極170の下にある部分は、ゲート絶縁層160Aである。ゲート絶縁層160Aは、絶縁層160の中に示す破線よりも下の部分である。
【0026】
絶縁層160としては、例えばアルミナ(Al2O3)層を用いることができる。絶縁層160の厚さは、一例として10nmである。絶縁層160には、少なくとも多層グラフェン130が吸収する波長の光を透過することが求められる。厚さ10nmの絶縁層160は、多層グラフェン130が吸収する波長が8μmの赤外線に対して透明であり、光を殆ど吸収しない。
【0027】
ゲート電極170は、絶縁層160の上に設けられている。すなわち、ゲート電極170は、絶縁層160を介して多層グラフェン130の上に設けられている。ゲート電極170は、平面視で多層グラフェン130の中心から+X方向側にオフセットして設けられており、所定の電圧が印加される。平面視で多層グラフェン130の中心からオフセットした位置に設けたゲート電極170に電圧を印加すると、多層グラフェン130に電位勾配が生じ、光熱電効果で生じた電流を取り出しやすくなるからである。多層グラフェン130に電位勾配が生じさせることで、電気的なドーピング効果が得られる。なお、所定の電圧は、一例として30V程度でよい。なお、ゲート電極に印加する電圧範囲としては、絶縁膜にも依存するが、-40Vから40Vの範囲が一例として挙げられる。
【0028】
実施形態1では、電極140及び150は、多層グラフェン130の上で-X方向側と+X方向側とにそれぞれ設けられており、X方向において電極140及び150が多層グラフェン130と重なる部分のX方向の長さは等しい。このため、ゲート電極170は、電極140と電極150とを結ぶ方向(X方向)において、電極150側にオフセットして設けられている。ゲート電極170に所定の電圧として正電圧を印加すれば、多層グラフェン130の内部において、電流は、電極140及び150のうち電位が高い方から低い方に流れることになる。
【0029】
ゲート電極170の平面視でのサイズは、多層グラフェン130に電位勾配を生じさせるために、多層グラフェン130の平面視でのサイズの半分以下であることが好ましい。また、実施形態1では、ゲート電極170は、電極140と電極150とを結ぶ方向(X方向)において、電極150側にオフセットして設けられている形態について説明するが、電極150側にオフセットしていてもよい。すなわち、ゲート電極170は、多層グラフェン130の平面視での中心から-X方向側にオフセットしていてもよい。
【0030】
ゲート電極170は、多層グラフェン130と重ねて設けられるため、少なくとも多層グラフェン130が吸収する波長の光を透過することが求められる。すなわち、ゲート電極170には、多層グラフェン130が吸収する波長が可視光や赤外線に対して透明であり、光を殆ど吸収しないことが求められる。可視光を対象とする場合、ゲート電極170としては、金(Au)、クロム(Cr)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、及び銀(Ag)等の金属を用いることができる。これらの金属は放射率が0.01~0.03程度である。また、赤外線を対象とする場合、ゲート電極170としては、酸化インジウム―酸化亜鉛(IZO)や酸化亜鉛(ZnO)や酸化インジウム(In2O3)、酸化スズ(SnO2)等の酸化物系金属材料を用いることができる。これらの金属製の透明電極をゲート電極170として用いる場合には、厚さは10nm以下でよい。
【0031】
また、ゲート電極170として、多層グラフェン又はカーボンナノチューブのようなナノカーボン材料を用いることもできる。多層グラフェン又はカーボンナノチューブは、可視光から赤外光領域まで吸収はするものの(可視光領域ではグラフェン1層辺り2.3%程度)、金属電極ほどの厚みは不要であるため最小限の透過量を保持しつつ透明電極として適用可能である。多層グラフェン又はカーボンナノチューブをゲート電極170用の透明電極として用いる場合には、厚さは5nm以下でよい。さらに、ナノ材用であれば、銀ナノワイヤ―などのナノ金属ワイヤーも適用可能である。その場合も、ゲート電極170用の厚みとしては、5nm以下でよい。
【0032】
2段目の多層グラフェン130と電極140及び150とは、1段目の絶縁層160の上に設けられる。2段目及び3段目の多層グラフェン130、電極140、電極150、絶縁層160、及びゲート電極170の構成は、1段目の構成と同様である。4段目の多層グラフェン130、電極140、電極150、及びゲート電極170の構成は、1段目の構成と同様であるが、4段目は最上段であるため、多層グラフェン130の上には絶縁層160ではなく、ゲート絶縁層160Aのみが設けられている。
【0033】
4段の構成に含まれる4つの多層グラフェン130の平面視におけるサイズは等しく、厚さも等しい。また、4つの電極140の構成及び位置はすべて等しく、4つの電極150の構成及び位置はすべて等しい。4つのゲート絶縁層160Aの構成及び位置はすべて等しく、4つのゲート電極170のサイズ及び位置は等しい。4つのゲート電極170には同一の所定電圧を印加することが好ましい。
【0034】
以上のような4段構成の光素子100は、4段の光素子を電気的に並列に接続することによって、光熱電効果で出力する電流を増やしており、より高い光の吸収効率が得られるようにしている。
【0035】
次に、
図3及び
図4を用いて光素子100の製造方法について説明する。
図3及び
図4は、光素子100の製造工程を示す図である。
【0036】
まず、
図3(A)に示すように、基板110の上に設けられた絶縁層120の上面に、多層グラフェン130Aを転写する。多層グラフェン130Aは、触媒金属の上にCVD法で形成したランダム多層グラフェンである。
【0037】
触媒金属として、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)のいずれか1つ、又は、いずれか2つ以上を含む合金を用いることができる。このような触媒金属は、熱酸化膜(例えば厚さ300nm)付きのシリコン基板又はサファイア基板上に、スパッタ法又は蒸着法によって堆積した触媒金属層を用いればよい。触媒金属層の厚さは、例えば50nmから1000nmである。触媒効果を高めるために、触媒金属層の下地金属として、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)等の金属(単体)、酸化物、又は窒化物を熱酸化膜付きのシリコン基板又はサファイア基板上に堆積してもよい。
【0038】
多層グラフェンの合成を熱CVD法で行う場合は、アセチレン混合ガス(アセチレンにアルゴン(Ar)を混合した混合ガス)を用い、一例として混合比はアセチレンが10%である。成長炉の温度を約700℃に設定し、アルゴンガスで一定圧力(1kPa)に保持した状態で、アセチレンガスを導入する。アセチレン混合ガスの割合は総圧に対して、500ppm程度である。合成温度は、700℃に限定されず、500℃から1200℃まで幅広い温度領域にて多層グラフェンの合成が可能である。ただし、900℃以上の高温の場合はアセチレンよりもメタンの方がグラフェン合成に適している。なお、触媒金属の厚さについては、合成温度が高温の場合には触媒金属が薄いと金属の凝集が生じるため、合成温度が900℃以上の高温の場合には300nm以上の厚さが適している。
【0039】
また、合成方法としては、熱CVD法以外にもホットフィラメントCVD法又はリモートプラズマCVD法を用いてもよく、原料ガスとして、アセチレン以外にメタン、エチレン等の炭化水素系ガス、エタノール又はメタノール等のアルコール系ガスを使用してもよい。希釈ガスとして、アルゴン以外にヘリウム又は水素を用いることも可能である。
【0040】
以上のようにして触媒金属層の上に形成した多層グラフェンを基板110の上に設けられた絶縁層120の上面に転写することで、
図3(A)に示すように、多層グラフェン130Aを基板110の上に設けられた絶縁層120の上面に設けた積層体が得られる。
【0041】
次に、
図3(A)に示す多層グラフェン130Aを
図3(B)に示す多層グラフェン130に加工する。具体的には、
図3(A)に示す多層グラフェン130Aに対して、フォトリソグラフィで作製したレジストを利用して、酸素を用いたRIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)等によるパターニングを行うことによって、
図3(B)に示す多層グラフェン130に加工する。パターニングを行った後に、レジストを除去する。
【0042】
次に、
図3(C)に示すように、電極140及び150を作製する。例えば、電子ビーム蒸着装置でチタン層(10nm)と金層(50nm)とを連続的に堆積し、リフトオフによって
図3(C)に示す電極140及び150の部分を残すことによって作製することができる。
【0043】
次に、
図4(A)に示すように多層グラフェン130の上にゲート絶縁層160Aを作製する。フォトリソグラフィで作製したレジストを利用して、多層グラフェン130のうちの電極140及び150の間から露出する部分の上面に、例えば熱ALD(Atomic layer deposition:原子層堆積)法で、アルミナ(Al
2O
3)等のゲート絶縁層160Aを作製する。ゲート絶縁層160Aの厚さは10nm程度でよい。ゲート絶縁層160Aの作製後にレジストを除去する。
【0044】
次に、
図4(B)に示すようにゲート絶縁層160Aの上にゲート電極170を作製する。
図4(A)に示す絶縁層120、電極140、電極150、ゲート絶縁層160Aの上に、ゲート電極170用の金属層を形成し、フォトリソグラフィ又はEB(Electron Beam)リソグラフィで作製したレジストを用いてパターニングを行うことで、ゲート電極170を作製することができる。なお、パターニングを行った後に、レジストを除去する。
【0045】
次に、
図4(C)に示すように、絶縁層160を作製する。フォトリソグラフィで作製したレジストを利用して、絶縁層120、電極140、電極150、ゲート絶縁層160A、ゲート電極170の上に、例えば熱ALD法で、アルミナ(Al
2O
3)等の絶縁層を作製すれば、ゲート絶縁層160Aを含む絶縁層160を作製することができる。絶縁層160を作製することにより、ゲート電極170は埋め込みゲート電極になる。
図4(C)の工程で作製する絶縁層の厚さは、例えば20nm程度でよい。絶縁層160の作製後にレジストを除去する。
【0046】
以上で1段目の光素子が完成する。2段目の光素子を作製するには、1段目についての
図4(C)の工程が終了した後に、
図3(A)~
図4(C)の工程と同様の工程を行えばよい。このときに、
図3(A)に対応する工程では、1段目の絶縁層160の上に多層グラフェン130Aを転写すればよい。3段目及び4段目の光素子は、2段目と同様の工程を繰り返し行うことで作製することができる。
【0047】
以上のように、光素子100では、4つの多層グラフェン130が積層されて電気的に並列に接続されている。また、ゲート電極170が平面視で多層グラフェン130の中心からオフセットして設けられ、所定の電圧が印加されるため、多層グラフェン130に電位勾配が生じ、光熱電効果で生じた電流を取り出しやすくなる。このため、光素子100の光の吸収効率を向上させることができる。
【0048】
したがって、光の吸収効率を向上させた光素子100、及び、光素子100の製造方法を提供することができる。
【0049】
また、多層グラフェン130の上にゲート絶縁層160Aを介して設けられるゲート電極170を含むので、多層グラフェン130に電位勾配を生じさせることができ、光熱電効果で生じた電子を効率的に取り出すことができる。
【0050】
また、ゲート電極170の平面視でのサイズは多層グラフェン130の半分以下であるため、多層グラフェン130に電位勾配を生じさせ易くなり、光熱電効果で生じた電子を効率的に取り出すことができる。
【0051】
また、ゲート電極170は、平面視で多層グラフェン130の中心に対して電極150側にオフセットして設けられるので、電極140及び150を結ぶ方向において多層グラフェン130に電位勾配を生じさせることができ、光熱電効果で生じた電子を効率的に取り出すことができる。なお、ゲート電極170は、平面視で多層グラフェン130の中心に対して電極140側にオフセットして設けられていてもよく、同様に電位勾配を生じさせることができる。
【0052】
また、ゲート電極170は、可視光領域の光素子の場合、厚さが10nm以下の金、白金、パラジウム、又は銀で作製される電極であるので、多層グラフェン130が吸収する可視光を殆ど吸収しない透明電極である。このため、多層グラフェン130における光の吸収効率を増大させることができる。また、ゲート電極170は、赤外領域の光素子の場合、厚さが10nm以下の酸化インジウム―酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化インジウムや酸化スズで作製される電極であるので、多層グラフェン130が吸収する赤外光を殆ど吸収しない電極である。
【0053】
また、ゲート電極は、厚さが10nm以下の多層グラフェン又はカーボンナノチューブで作製される電極であるので、多層グラフェン130が吸収する光を殆ど吸収しない透明電極である。このため、多層グラフェン130における光の吸収効率を増大させることができる。
【0054】
なお、以上では、4つの多層グラフェン130が積層されて電気的に並列に接続されている4段構成の光素子100について説明したが、段数は何段であってもよい。また、1段でも十分な電流が得られる場合には1段の構成であってもよい。
【0055】
図5は、実施形態1の変形例の光素子100Aを示す断面図である。光素子100Aは1段構成である。光素子100Aは、基板110、絶縁層120、多層グラフェン130、電極140、電極150、ゲート絶縁層160A、及びゲート電極170を含む。1段の多層グラフェン130で十分電流が得られる場合には、
図5に示す光素子100Aの構成であってよい。
【0056】
また、ゲート電極170を含まずに、基板110の下側に設けたバックゲート電極から多層グラフェン130に電圧を印加してもよい。この場合には、光素子100Aはゲート電極170を含まなくてよい。また、
図1に示すように複数段を含む光素子100においても、基板110の下側に位置するバックゲート電極から各段の多層グラフェン130に電圧を印加可能である場合には、
図1に示す光素子100は、4つのゲート電極170を含まなくてもよい。
【0057】
<実施形態2>
図6は、実施形態2の光素子200を示す断面図である。
図7は、実施形態2の光素子200を示す平面図である。
図6は、
図7のB-B矢視断面を示す。以下では、XYZ座標系を定義して説明する。また、以下では、説明の便宜上、-Z方向側を下側又は下、+Z方向側を上側又は上と称すが、普遍的な上下関係を表すものではない。
【0058】
光素子200は、基板110、絶縁層120、多層グラフェン230、電極140、電極150、絶縁層160、及びゲート電極170を含む。光素子200は、実施形態1の光素子100の多層グラフェン130を多層グラフェン230に置き換えた構成を有する。多層グラフェン230は、複数のアンチドット280を有する点が実施形態1の多層グラフェン130と異なる。その他の構成は、実施形態1の光素子100と同様であるため、同様の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0059】
実施形態2においても、一例として、光素子200の多層グラフェン230は、波長が8μmの赤外線を吸収して電流を出力することを想定している。このような光素子200は、例えば赤外線センサとして利用可能であり、人感センサ、又は、温度分布を検出するセンサ等として利用可能である。ただし、光素子200の用途は、これらに限られるものではない。
【0060】
格段の多層グラフェン230には、上面から凹み、平面視で円形の開口形状を有する複数のアンチドット280が設けられている。4つの多層グラフェン230のうちのいずれか2つのうちの下側に位置する多層グラフェン230は第1多層グラフェンの一例であり、上側に位置する多層グラフェン230は第2多層グラフェンの一例である。第1多層グラフェンの一例としての多層グラフェン230に設けられる複数のアンチドット280は、複数の第1凹部の一例であり、第2多層グラフェンの一例としての多層グラフェン230に設けられる複数のアンチドット280は、複数の第2凹部の一例である。
【0061】
アンチドット280は、多層グラフェン230の上面から円柱状に凹んでおり、多層グラフェン230の厚さの約半分に相当する深さを有する。アンチドット280は多層グラフェン230を貫通しておらず、穴状の凹みである。多層グラフェン230のうち、下側の約半分を多層グラフェン部231、アンチドット280が形成された上半分を多層グラフェン部232と区別して説明する。多層グラフェン部231にはアンチドット280は形成されておらず、アンチドット280は多層グラフェン230のうちの多層グラフェン部231よりも上側の多層グラフェン部232の内部に形成されている。また、一例として、アンチドット280は、多層グラフェン部232のうちの-X方向側の約1/3の部分に形成されている。
【0062】
アンチドット280に光が入射すると、表面プラズモン共鳴によってプラズモンが励起される。すなわち、多層グラフェン230には局所プラズモンが励起される。局所プラズモンが励起されると、光の吸収効率が格段に増大する。一方で、アンチドット280は、例えばリアクティブイオンエッチング(RIE)装置によるエッチング処理で形成されるため、多層グラフェン部232はアンチドット280が形成されることによってダメージを受け、キャリアの移動度が約20%~約30%低下する。
【0063】
また、多層グラフェン230の下半分の多層グラフェン部231は、アンチドット280が形成されておらず、ダメージを受けていないので、高い光の吸収効率が得られるとともに、多層グラフェン部232よりもキャリアの移動度が高く、良好な電気的特性が得られる。
【0064】
実施形態2の光素子200は、アンチドット280で局所プラズモンを利用して光の吸収効率を増大させ、主に下半分の多層グラフェン部231で効率的にキャリアを電極140及び150に移動させる。一例として、多層グラフェン230の厚さは、2nm~5nm程度であり、多層グラフェン部231及び232の厚さは略等しい。また、多層グラフェン230を実施形態1の多層グラフェン130よりも厚くする場合には、基板110側からの異物の侵入等の影響を抑制することができる。
【0065】
また、アンチドット280の直径と間隔によって、多層グラフェン230に吸収される光の波長を設定することができる。光素子200の多層グラフェン230は、波長が8μmの赤外線を吸収して電流を出力することを想定しているため、波長が8μmの赤外線の吸収効率が向上するように、アンチドット280の直径と間隔を設定すればよい。アンチドット280の直径とは、円形の開口形状を有するアンチドット280の開口の直径である。アンチドット280の間隔とは、複数のアンチドット280のうち、隣り合うアンチドット280同士の間隔(開口同士の間隔)である。
【0066】
ここでは、多層グラフェン230は、波長が8μmの赤外線を吸収して電流を出力する形態について説明するが、多層グラフェン230が吸収する光の波長は8μmに限定されるものではない。アンチドット280の直径は、例えば10nm~1000nmであればよく、複数のアンチドット280の間隔は、10nm~1000nmであればよい。
【0067】
このようにアンチドット280を有する多層グラフェン230は、微弱な光でも吸収可能なので、より高感度になる。
【0068】
次に、
図8及び
図9を用いて光素子200の製造方法について説明する。
図8及び
図9は、光素子200の製造工程を示す図である。
【0069】
まず、
図8(A)に示すように、基板110の上に設けられた絶縁層120の上面に、多層グラフェン230Aを転写する。多層グラフェン230Aは、触媒金属の上にCVD法で形成したランダム多層グラフェンである。
図8(A)に示す製造工程は、
図3(A)に示す製造工程と同様である。
【0070】
次に、
図8(A)に示す多層グラフェン230Aを
図8(B)に示す多層グラフェン230に加工する。
図8(B)に示す製造工程は、
図3(B)に示す製造工程と同様である。
【0071】
次に、
図8(C)に示すように、多層グラフェン230の上にレジスト290を作製する。レジスト290には、アンチドット280形成するための貫通孔291が形成されている。このようなレジスト290の作製は、例えばEBリソグラフィで行えばよい。
【0072】
次に、レジスト290を用いて、一例としてリアクティブイオンエッチング装置によるエッチング処理でアンチドット280を作製する。貫通孔291を有するレジスト290を利用してエッチングすることによって、複数の貫通孔291の下方に複数のアンチドット280がそれぞれ形成される。その後、有機溶剤を用いてレジスト290をリフトオフすることにより、
図8(D)に示す積層体が得られる。
【0073】
例えばリアクティブイオンエッチング(RIE)装置を用いて加速電圧400Vとした場合に、平均の電流密度が0.160mA/cm2程度で、100秒程度の時間でアンチドット280を加工することができる。エッチング処理に用いるガスは、アルゴン等のガスを用いることができる。一例として、アンチドット280の直径は400nmで間隔は600nmである。なお、多層グラフェン230は酸素又は酸素プラズマによって除去可能であるため、アッシング装置で加工してもよい。
【0074】
次に、
図9(A)に示すように、電極140及び150を作製する。例えば、電子ビーム蒸着装置でチタン層(10nm)と金層(50nm)とを連続的に堆積し、リフトオフによって
図9(A)に示す電極140及び150の部分を残すことによって作製することができる。
図9(A)に示す製造工程は、
図3(C)に対応する製造工程である。
【0075】
次に、
図9(B)に示すように多層グラフェン230の上にゲート絶縁層160Aを作製する。フォトリソグラフィで作製したレジストを利用して、多層グラフェン230のうちの電極140及び150の間から露出する部分の上面に、例えば熱ALD法で、アルミナ(Al
2O
3)等のゲート絶縁層160Aを作製する。ゲート絶縁層160Aの厚さは10nm程度でよい。ゲート絶縁層160Aの作製後にレジストを除去する。
図9(B)に示す製造工程は、
図4(A)に対応する製造工程である。
【0076】
次に、
図9(C)に示すようにゲート絶縁層160Aの上にゲート電極170を作製する。
図9(A)に示す絶縁層120、電極140、電極150、ゲート絶縁層160Aの上に、ゲート電極170用の金属層を形成し、フォトリソグラフィ又はEBリソグラフィで作製したレジストを用いてパターニングを行うことで、ゲート電極170を作製することができる。なお、パターニングを行った後に、レジストを除去する。
図9(C)に示す製造工程は、
図4(B)に対応する製造工程である。
【0077】
次に、
図9(D)に示すように、絶縁層160を作製する。フォトリソグラフィで作製したレジストを利用して、絶縁層120、電極140、電極150、ゲート絶縁層160A、ゲート電極170の上に、例えば熱ALD法で、アルミナ(Al
2O
3)等の絶縁層を作製すれば、ゲート絶縁層160Aを含む絶縁層160を作製することができる。絶縁層160を作製することにより、ゲート電極170は埋め込みゲート電極になる。
図9(D)の工程で作製する絶縁層の厚さは、例えば20nm程度でよい。絶縁層160の作製後にレジストを除去する。
図9(D)に示す製造工程は、
図4(C)に対応する製造工程である。
【0078】
以上で1段目の光素子が完成する。2段目の光素子を作製するには、1段目についての
図9(D)の工程が終了した後に、
図8(A)~
図9(D)の工程と同様の工程を行えばよい。このときに、
図8(A)に対応する工程では、1段目の絶縁層160の上に多層グラフェン230Aを転写すればよい。3段目及び4段目の光素子は、2段目と同様の工程を繰り返し行うことで作製することができる。
【0079】
以上のように、光素子200では、4つの多層グラフェン230が積層されて電気的に並列に接続されている。また、ゲート電極170が平面視で多層グラフェン230の中心からオフセットして設けられ、所定の電圧が印加されるため、多層グラフェン230に電位勾配が生じ、光熱電効果で生じた電流を取り出しやすくなる。また、多層グラフェン230にはアンチドット280が設けられているため、局所プラズモンを利用して光の吸収効率をさらに増大させることができる。このため、光素子200の光の吸収効率を向上させることができる。
【0080】
したがって、光の吸収効率を向上させた光素子200、及び、光素子200の製造方法を提供することができる。
【0081】
なお、以上では、アンチドット280が円柱状の凹部である形態について説明したが、アンチドット280を有する多層グラフェン230の代わりに、
図10に示すアンチドット280Mを有する多層グラフェン230Mを用いてもよい。
図10は、実施形態2の変形例のアンチドット280Mを示す図である。
図10には、アンチドット280MのZ軸に平行な中心軸を通り、XZ平面に平行な断面を示す。
【0082】
アンチドット280Mは、多層グラフェンの上面側から下方に向かって直径が段階的に小さくなる階段状の形状を有する。
図10には、一例として10段の階段状に形成したアンチドット280Mを示す。局所プラズモンは、アンチドット280Mの角(エッジ)で励起される。アンチドット280Mは、RIE法で多層グラフェン230Mの表面側からアンチドット280Mを形成する際に、直径が段々と小さくなるようにエッチングすることによって作製することができる。
【0083】
例えば、アンチドット280Mの階段状の内周面の直径を波長が8μm~12μmの赤外線に対応させれば、波長は8μm~12μmの赤外線の吸収効率を向上させることができる。このようなアンチドット280Mを有する多層グラフェン230Mを用いることにより、光の吸収効率がより良好な光素子、及び、光素子の製造方法を提供することができる。
【0084】
一例として、8μm~12μmの赤外線の表面プラズモン共鳴を得るためには、一例として、アンチドット280Mの最上部における直径を400nm、間隔を600nmに設定し、最下部における直径を200nm、間隔を800nmに設定すればよい。アンチドット280Mの最上部と最下部との間では、直径が400nm~200nm、間隔が600nm~800nmの範囲で段階的(離散的)な値を取る。
【0085】
また、アンチドット280を形成する際のエッチング処理では、加工精度によってアンチドット280の直径に誤差が生じる場合がある。
図10に示すように階段状の内周面を有するアンチドット280Mを用いることによって表面プラズモン共鳴が生じる波長に幅を持たせることができ、エッチング処理における直径の誤差を吸収し、所望の波長の光をより確実に吸収する構成を実現することができる。
【0086】
また、格段の多層グラフェン230のアンチドット280の直径とピッチがことなるようにしてもよい。このようにすることで、階段状の内周面を有するアンチドット280Mと同様に、複数の波長の光の吸収効率を向上させることができる。
【0087】
また、以上では、4つの多層グラフェン230が積層されて電気的に並列に接続されている4段構成の光素子200について説明したが、段数は何段であってもよい。また、1段でも十分な電流が得られる場合には1段の構成であってもよい。
【0088】
図11は、実施形態2の変形例の光素子200Aを示す断面図である。光素子200Aは1段構成である。光素子200Aは、基板110、絶縁層120、多層グラフェン230、電極140、電極150、ゲート絶縁層160A、ゲート電極170、及びアンチドット280を含む。
図11では、多層グラフェン部231と多層グラフェン部232を示す破線を省いて示す。1段の多層グラフェン130で十分電流が得られる場合には、
図11に示す光素子200Aの構成であってよい。
【0089】
なお、
図11に示す光素子200Aでは、
図6及び
図7に示す光素子200よりも多くのアンチドット280が設けられており、多層グラフェン230のうちの電極140及び150の間から露出する部分の全体に設けられている。アンチドット280は、このように多層グラフェン230のうちの電極140及び150の間から露出する部分の全体に設けられていてもよい。より多くのアンチドット280により、局所プラズモンがより広い範囲に発生し、光の吸収効率をより向上させることができる。
【0090】
また、ゲート電極170を含まずに、基板110の下側に設けたバックゲート電極から多層グラフェン230に電圧を印加してもよい。この場合には、光素子200Aはゲート電極170を含まなくてよい。また、
図6に示すように複数段を含む光素子200においても、基板110の下側に位置するバックゲート電極から各段の多層グラフェン230に電圧を印加可能である場合には、
図6に示す光素子200は、4つのゲート電極170を含まなくてもよい。
【0091】
以上、本発明の例示的な実施形態の光素子、及び、光素子の製造方法について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
以上の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記1)
基板と、
前記基板の上に設けられ、厚さが5nm以下の第1多層グラフェンと、
前記第1多層グラフェンに接続される第1電極と、
前記第1多層グラフェンに接続される第2電極と
を含む、光素子。
(付記2)
前記第1多層グラフェンの上に設けられる第1ゲート絶縁層と、
前記第1ゲート絶縁層の上に設けられる第1ゲート電極であって、平面視で前記第1電極と前記第2電極との間に設けられる第1ゲート電極と
をさらに含む、付記1に記載の光素子。
(付記3)
前記第1ゲート電極の平面視でのサイズは、前記第1多層グラフェンの平面視でのサイズの半分以下である、付記2に記載の光素子。
(付記4)
前記第1ゲート電極は、平面視で前記第1多層グラフェンの中心に対して前記第1電極側又は前記第2電極側にオフセットして設けられる、付記2又は3に記載の光素子。
(付記5)
前記第1ゲート電極は、厚さが10nm以下の金、白金、パラジウム、又は銀で作製される電極である、付記2乃至4のいずれか1項に記載の光素子。
(付記6)
前記第1ゲート電極は、厚さが10nm以下の酸化インジウム―酸化亜鉛(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム(In2O3)、又は酸化スズ(SnO2)で作製される電極である、付記2乃至4のいずれか1項に記載の光素子。
(付記7)
前記第1ゲート電極は、厚さが10nm以下の多層グラフェン、カーボンナノチューブ、又は銀ナノワイヤ―で作製される電極である、付記2乃至4のいずれか1項に記載の光素子。
(付記8)
前記第1多層グラフェンは、前記第1多層グラフェンの上面から凹み、平面視で円形の開口形状を有する複数の第1凹部を有する、付記1乃至7のいずれか1項に記載の光素子。
(付記9)
前記複数の第1凹部の直径は、10nm~1000nmである、付記8に記載の光素子。
(付記10)
前記複数の第1凹部の間隔は、10nm~1000nmである、付記8又は9に記載の光素子。
(付記11)
前記複数の第1凹部の内周面は、前記第1多層グラフェンの上面側から下方に向かって直径が段階的に小さくなる階段状の形状を有する、付記8乃至10のいずれか1項に記載の光素子。
(付記12)
前記第1多層グラフェンの上に設けられる絶縁層と、
前記絶縁層の上に設けられ、厚さが5nm以下の第2多層グラフェンと、
前記第2多層グラフェンに接続される第3電極と、
前記第2多層グラフェンに接続される第4電極と
をさらに含む、付記1乃至11のいずれか1項に記載の光素子。
(付記13)
前記第2多層グラフェンの上に設けられる第2ゲート絶縁層と、
前記第2ゲート絶縁層の上に設けられる第2ゲート電極であって、平面視で前記第3電極と前記第4電極との間に設けられる第2ゲート電極と
をさらに含む、付記12に記載の光素子。
(付記14)
前記第2ゲート電極の平面視でのサイズは、前記第2多層グラフェンの平面視でのサイズの半分以下である、付記13に記載の光素子。
(付記15)
前記第2ゲート電極は、平面視で前記第3電極と前記第4電極との間で前記第3電極側又は前記第4電極側にオフセットして設けられる、付記13又は14に記載の光素子。
(付記16)
前記第2ゲート電極は、厚さが10nm以下の金、白金、パラジウム、又は銀で作製される電極である、付記13乃至15のいずれか1項に記載の光素子。
(付記17)
前記第2ゲート電極は、酸化インジウム―酸化亜鉛(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム(In2O3)、又は酸化スズ(SnO2)で作製される電極である、付記13乃至15のいずれか1項に記載の光素子。
(付記18)
前記第2ゲート電極は、厚さが10nm以下の多層グラフェン、カーボンナノチューブ、又は銀ナノワイヤ―で作製される電極である、付記13乃至15のいずれか1項に記載の光素子。
(付記19)
前記第2多層グラフェンは、第2多層グラフェンの上面から凹み、平面視で円形の開口形状を有する複数の第2凹部を有する、付記12乃至18のいずれか1項に記載の光素子。
(付記20)
前記複数の第2凹部の直径は、10nm~1000nmである、付記19に記載の光素子。
(付記21)
前記複数の第2凹部の間隔は、10nm~1000nmである、付記19又は20に記載の光素子。
(付記22)
前記複数の第2凹部の内周面は、前記第2多層グラフェンの上面側から下方に向かって直径が段階的に小さくなる階段状の形状を有する、付記19乃至21のいずれか1項に記載の光素子。
(付記23)
基板と、
前記基板の上に設けられ、厚さが5nm以下の多層グラフェンを形成する工程と、
マスクを利用したエッチング処理によって前記多層グラフェンをパターニングして第1多層グラフェンを形成する工程と、
前記第1多層グラフェンに接続される第1電極及び第2電極を形成する工程と
を含む、光素子の製造方法。
【符号の説明】
【0092】
100、100A、200、200A 光素子
110 基板
120 絶縁層
130、230、230M 多層グラフェン
140、150 電極
160 絶縁層
160A ゲート絶縁層
170 ゲート電極
280 アンチドット