(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ドライアイスブラストシステム及びドライアイスブラスト方法
(51)【国際特許分類】
B24C 1/00 20060101AFI20241008BHJP
B24C 3/32 20060101ALI20241008BHJP
B24C 5/02 20060101ALI20241008BHJP
B24C 5/04 20060101ALI20241008BHJP
B24C 9/00 20060101ALI20241008BHJP
B24C 11/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B24C1/00 A
B24C3/32 B
B24C5/02 A
B24C5/04 Z
B24C9/00 J
B24C11/00 E
(21)【出願番号】P 2021053369
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲金▼偉龍
(72)【発明者】
【氏名】楯 尚史
(72)【発明者】
【氏名】杉山 剛博
(72)【発明者】
【氏名】南畝 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】佐川 英之
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0059681(US,A1)
【文献】特開2011-115886(JP,A)
【文献】特開2002-018717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24C 1/00
B24C 3/32
B24C 5/02
B24C 5/04
B24C 9/00
B24C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを搬送する搬送装置と、
ドライアイス粒を含む圧縮空気を前記搬送装置により搬送される前記ワークに向けて噴射するブラスト装置と、
前記ワークと前記ブラスト装置との間に配置されるメッシュフィルタと、を備え、
前記ワークは、断面形状が楕円形の線材であり、
前記ブラスト装置は、前記線材が備える樹脂被覆の表面に向けて0.6MPa以下の前記圧縮空気を噴射可能であり、
前記メッシュフィルタのそれぞれの編み目は、
前記線材の長径の50%~100%に相当する大きさを有すると共に、粒径が所定の粒径よりも小さい前記ドライアイス粒のみが通過可能な大きさを有する
ドライアイスブラストシステム。
【請求項2】
ワークの表面にドライアイス粒を吹き付けて、前記ワークの表面を処理するドライアイスブラスト方法であって、
前記ワークは、断面形状が楕円形の線材であり、
前記ドライアイス粒を含む圧縮空気を噴射するブラスト装置と前記ワークとの間に、
前記線材の長径の50%~100%に相当する大きさであると共に、粒径が所定の粒径よりも小さい前記ドライアイス粒のみが通過可能な大きさの編み目を有するメッシュフィルタを配置し、
前記線材を長手方向に搬送しながら、当該メッシュフィルタを通過した前記ドライアイス粒だけを前記
線材が備える樹脂被覆の表面に吹き付ける、
ドライアイスブラスト方法。
【請求項3】
前記線材は、導体と、前記導体の周囲に設けられた前記樹脂被覆からなる絶縁体と、を含む電線である、請求項
2に記載のドライアイスブラスト方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状や粉状のドライアイスを用いてワークの表面を処理するドライアイスブラストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
粒状や粉状のドライアイス(以下、“ドライアイス粒”と総称する場合がある。)をノズルの先端から噴射するドライアイスブラスト装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
上記のようなドライアイスブラスト装置は、例えば、ワークの表面処理(ワーク表面の洗浄や粗化など)に用いられる。具体的には、ドライアイスブラスト装置のノズル先端から噴射されるドライアイス粒をシリコンウエハの表面に吹き付けることにより、シリコンウエハの表面に付着している粒子状物質や汚染物質などが除去される。また、ドライアイスブラスト装置のノズル先端から噴射されるドライアイス粒を電線の絶縁被覆の表面に吹き付けることにより、絶縁被覆の表面に微細な凹凸が形成される。
【0004】
ドライアイスブラスト装置は、ドライアイスの塊を粉砕してドライアイス粒を生成する粉砕手段を備えている。従来の粉砕手段の1つは、一対の金属ローラを備え、それら金属ローラの間に供給されるドライアイスの塊をすりつぶして粉砕する。以下の説明では、粉砕手段によって粉砕される前のドライアイスの塊を“ドライアイスペレット”と呼んでドライアイス粒と区別する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ワークの表面処理の質を向上させたり、安定させたりするためには、ワーク表面に吹き付けられるドライアイス粒の大きさを制御する必要がある。
【0007】
本発明の目的は、ワークの表面に吹き付けられるドライアイス粒の大きさを制御可能なドライアイスブラストシステムやドライアイスブレスト方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のドライアイスブラストシステムは、ワークを搬送する搬送装置と、ドライアイス粒を含む圧縮空気を前記搬送装置により搬送される前記ワークに向けて噴射するブラスト装置と、前記ワークと前記ブラスト装置との間に配置されるメッシュフィルタと、を備え、前記メッシュフィルタのそれぞれの編み目は、粒径が所定の粒径よりも小さい前記ドライアイス粒のみが通過可能な大きさを有する。
【0009】
本発明のドライアイスブラスト方法では、ドライアイス粒を含む圧縮空気を噴射するブラスト装置とワークとの間に、粒径が所定の粒径よりも小さい前記ドライアイス粒のみが通過可能な大きさの編み目を有するメッシュフィルタを配置し、当該メッシュフィルタを通過した前記ドライアイス粒だけを前記ワークの表面に吹き付ける。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ワークの表面に吹き付けられるドライアイス粒の大きさを制御可能なドライアイスブラストシステムやドライアイスブレスト方法が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態のドライアイスブラストシステムの構成を示す図である。
【
図2】
図1に示されている粉砕部の構成を示す図である。
【
図3】
図1に示されているメッシュフィルタの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明のドライアイスブラストシステム及びドライアイスブラスト方法の実施形態の一例について説明する。尚、同一又は実質的に同一の構成や要素には同一の符号を用い、原則として再度の説明は行わない。
【0013】
<システムの全体構成>
図1に示されているドライアイスブラストシステム1Aは、搬送装置2と、ブラスト装置3と、メッシュフィルタ4と、を備えている。搬送装置2は、ワークWを搬送する。ブラスト装置3は、搬送装置2によって搬送されるワークWに向けてドライアイス粒100bを含む圧縮空気を噴射する。メッシュフィルタ4は、ワークWの表面に吹き付けられるドライアイス粒100bの大きさを制御する。
【0014】
尚、
図1に示されているワークWは、樹脂被覆を備える線材である。より具体的には、ワークWは、導体と、導体の周囲に設けられた樹脂被覆と、を備える電線である。つまり、ワークWは、導体と、導体を被覆する絶縁体と、を含む電線であり、絶縁体の表面がワークWの表面である。また、ワークWの直径Dは、0.2mmである。
【0015】
<搬送装置>
搬送装置2は、一対のドラム2a,2bを有する。搬送装置2は、一方のドラム2aに巻かれているワークWを他方のドラム2bに巻き取ることにより、ワークWを長手方向に搬送する。別の見方をすると、ワークWは、一方のドラム2aから送り出され、他方のドラム2bに巻き取られる。そこで、以下の説明では、一方のドラム2aを“供給ドラム2a”と呼び、他方のドラム2bを“回収ドラム2b”と呼ぶ場合がある。
【0016】
回収ドラム2bは、不図示の駆動源(例えば、電動モータ)によって回転駆動される。供給ドラム2aに巻かれているワークWの一端を回収ドラム2bに係止させた状態で回収ドラム2bを回転させると、供給ドラム2aからワークWが繰り出されて回収ドラム2bに巻き取られる。つまり、ワークWが長手方向(
図1の上側から下側)に向けて搬送される。
【0017】
<ブラスト装置>
ブラスト装置3は、装置本体10と、圧縮空気供給部20と、噴射部30と、を有する。装置本体10は、ドライアイス粒100bを噴射部30に供給し、圧縮空気供給部20は、圧縮空気を噴射部30に供給する。噴射部30は、装置本体10から供給されるドライアイス粒100bと圧縮空気供給部20から供給される圧縮空気とを合流させ、ワークWに向けて噴射する。別の見方をすると、噴射部30は、ドライアイス粒100bを含む圧縮空気をワークWに向けて噴射する。つまり、ブラスト装置3は、サイフォン式である。
【0018】
<装置本体>
装置本体10は、ホッパー11,搬送部12,粉砕部13,中継パイプ14及びドライアイス供給チューブ15を有する。
【0019】
ホッパー11には、ドライアイスの塊であるドライアイスペレット100aが供給(投入)される。例えば、直径が3.0mm前後のドライアイスペレット100aがホッパー11に投入される。
【0020】
ホッパー11は、上面の大きさに比べて下面の大きさが小さい箱形形状を有し、全体としてすり鉢状の外観を呈している。また、ホッパー11の上面には上方開口部11aが設けられており、ホッパー11の下面には下方開口部11bが設けられている。ドライアイスペレット100aは、上方開口部11aからホッパー11の内部に投入される。ホッパー11内に投入されたドライアイスペレット100aは、下方開口部11bからホッパー11の外部に排出される。そこで、以下の説明では、上方開口部11aを“投入口11a”と呼び、下方開口部11bを“排出口11b”と呼ぶ場合がある。
【0021】
<搬送部>
搬送部12は、ホッパー11の排出口11bから排出されるドライアイスペレット100aを粉砕部13に搬送する。より特定的には、搬送部12は、搬送パイプ12aと、搬送パイプ12a内に設けられたスクリュー12bと、を備えるスクリューフィーダーである。スクリュー12bの周囲には、螺旋状の羽根が形成されている。ホッパー11の排出口11bから搬送パイプ12a内に落下したドライアイスペレット100aは、回転するスクリュー12bによって粉砕部13に向けて(
図1の左側から右側に向けて)搬送される。
【0022】
<粉砕部>
粉砕部13は、搬送部12により搬送されたドライアイスペレット100aを粉砕し、所定の大きさのドライアイスの粒であるドライアイス粒100bを生成する。
【0023】
図2に示されるように、粉砕部13は、一対の粉砕ローラ13a,13bを備えている。粉砕ローラ13a,13bは、金属製のローラであって、回転軸に固定されている。また、粉砕ローラ13a,13bは、隙間を介して対向しており、かつ、互いに逆方向に回転駆動される。ドライアイスペレット100aは、粉砕ローラ13a,13bの間に落下し、回転する粉砕ローラ13a,13bによってすりつぶされる。よって、粉砕ローラ13aと粉砕ローラ13bとの間の隙間を変更することにより、粉砕部13において生成されるドライアイス粒100bの大きさ(粒径)を調節することができる。
【0024】
再び
図1を参照する。粉砕部13において生成されるドライアイス粒100bの粒径は、ワークWの種類やワークWに施す処理の内容などに応じて決定されたり、調節されたりする。例えば、ワークWの硬度が高い場合やワークWの表面に大きな凹凸を形成したい場合などには、ドライアイス粒100bの粒径が大きくされる。また、ワークWの硬度が低い場合やワークWの表面に小さな凹凸を形成したい場合などには、ドライアイス粒100bの粒径が小さくされる。
【0025】
尚、粉砕部13において生成されたドライアイス粒100bの粒径は、噴射部30から噴射されるまでの間に縮小する可能性がある。例えば、粉砕部13から噴射部30に搬送される過程でドライアイス粒100bの一部が昇華し、ドライアイス粒100bが小さくなる可能性がある。そこで、粉砕部13において生成するドライアイス粒100bの粒径は、その後の縮小を見越して決定されることもある。
【0026】
<中継パイプ及びドライアイス供給チューブ>
図1に示されている中継パイプ14及びドライアイス供給チューブ15は、粉砕部13で生成されたドライアイス粒100bを噴射部30に供給するための流路(ドライアイス流路)を形成する。具体的には、中継パイプ14は、ドライアイス流路の一部を形成し、ドライアイス供給チューブ15は、ドライアイス流路の他の一部を形成する。
【0027】
中継パイプ14は、粉砕部13において生成されるドライアイス粒100bの粒径よりも大きな内径を有する樹脂製または金属製のパイプである。中継パイプ14の一端(基端)は、粉砕部13に接続され、中継パイプ14の他端(先端)は、ドライアイス供給チューブ15の一端(基端)に接続されている。
【0028】
ドライアイス供給チューブ15は、ゴム等の弾性材料によって形成されており、粉砕部13において生成されるドライアイス粒100bの粒径よりも大きな内径を有する。ドライアイス供給チューブ15は、ドライアイス粒100bによって冷却されても弾性や可撓性を損なわない弾性材料によって形成されている。また、ドライアイス供給チューブ15は、内圧が所定圧力を下回った場合にも変形しない硬さ(耐圧性能)を備えている。尚、ドライアイス供給チューブ15を形成する弾性材料の一例としては、ガラス転移点がドライアイスの昇華点(摂氏マイナス78.5度)以下の弾性材料が挙げられる。
【0029】
ドライアイス供給チューブ15の先端側は、ホッパー11,搬送部12,粉砕部13等が収容されている筐体10aを貫通して筐体10aの外に引き出され、噴射部30に接続されている。図示は省略されているが、筐体10aの側面には連通孔が設けられており、この連通孔を通じてドライアイス供給チューブ15が筐体10aの外に引き出されている。尚、ドライアイス供給チューブ15と連通孔との間に、隙間を塞ぐシール部材などを設けてもよい。
【0030】
<圧縮空気供給部>
圧縮空気供給部20は、コンプレッサ21と、コンプレッサ21と噴射部30とを繋ぐ空気供給チューブ22と、を備えている。コンプレッサ21によって生成された圧縮空気は、空気供給チューブ22を介して噴射部30に送られる。つまり、空気供給チューブ22は、コンプレッサ21で生成された圧縮空気を噴射部30に供給するための流路(空気流路)を形成する。そこで、空気供給チューブ22は、圧縮空気の圧力によって変形しない硬さ(耐圧性能)を備えている。
【0031】
尚、本実施形態のコンプレッサ21は、アネスト岩田社製のオイルフリースクロールコンプレッサ(Think Air SLP-75EFD)である。もっとも、コンプレッサ21は特定のコンプレッサに限定されるものではない。例えば、コンプレッサ21は、スクロール式を含む回転式(ロータリータイプ)ではなく、ピストン式やダイヤフラム式などの往復式(レシプロタイプ)であってもよい。
【0032】
<噴射部>
噴射部30は、合流部31およびノズル32を備える。噴射部30には、装置本体10及び圧縮空気供給部20が接続されている。より特定的には、ドライアイス供給チューブ15及び空気供給チューブ22が合流部31に接続されている。合流部31は、ドライアイス供給チューブ15を介して供給されるドライアイス粒100bと、空気供給チューブ22を介して供給される圧縮空気と、を合流させる。別の見方をすると、
図2に示されているドライアイス粒100bは、
図1に示されている合流部31において圧縮空気に合流される。
【0033】
ノズル32の一端は合流部31に接続されており、ノズル32の他端には円形のノズル開口32aが設けられている。合流部31において圧縮空気に合流されたドライアイス粒100bは、圧縮空気と一緒にノズル32の先端(ノズル開口32a)から噴射される。よって、ノズル開口32aをワークWに向けると、ノズル開口32aから噴射される所定圧力の圧縮空気(ドライアイス粒100bを含む)がワークWの表面に吹き付けられ、ワークWの表面が処理される。具体的には、ワークWの表面が洗浄されたり、ワークWの表面に微細な凹凸が形成されたりする。
【0034】
尚、ノズル32は、ノズル開口32aをワークWに向けやすくするために、略L字形に曲げられている。また、本実施形態のブラスト装置3は、少なくとも0.1MPa以上0.6MPa以下の圧縮空気を噴射可能であるが、ノズル開口32aから噴射される圧縮空気の圧力は、ワークWの種類やワークWに施される処理の内容などに応じて調節される。尚、ノズル開口32aから噴射される圧縮空気の圧力は、例えば、コンプレッサ21から出力される圧縮空気の圧力を変更することによって調節される。
【0035】
<メッシュフィルタ>
図1に示されるように、メッシュフィルタ4は、ワークWとブラスト装置3との間に配置される。より特定的には、メッシュフィルタ4は、ワークWとブラスト装置3のノズル32との間に配置される。
【0036】
図3に示されるように、メッシュフィルタ4は、平織りされた複数本の金属線40によって形成されており、複数の編み目41を備えている。金属線40の線径dは0.1mmであり、メッシュフィルタ4のメッシュ数Mは84.7である。尚、メッシュ数Mとは、1inch(=25.4mm)中の編み目41の数である。
【0037】
ワークWとブラスト装置3との間に介在するメッシュフィルタ4は、粒径が所定の粒径よりも小さいドライアイス粒100bの通過を許容する一方、粒径が所定の粒径よりも大きいドライアイス粒100bの通過を阻止する。言い換えると、メッシュフィルタ4のそれぞれの編み目41は、粒径が所定の粒径よりも小さいドライアイス粒のみが通過可能な大きさを有する。別の見方をすると、メッシュフィルタ4を通過可能なドライアイス粒100bの粒径(mm)の最大値は、メッシュフィルタ4の目開きA(mm)よりも小さい。
【0038】
ここで、ワークWに吹き付けられるドライアイス粒100bの粒径が大きすぎると、ワークWが破断してしまう虞がある。一方、ワークWに吹き付けられるドライアイス粒100bの粒径が小さすぎると、ワークWが十分に処理されない虞がある。そこで、メッシュフィルタ4の目開きA(≒メッシュフィルタ4を通過可能なドライアイス粒100bの粒径の最大値)は、主にワークWの直径Dに基づいて決定することが好ましい。但し、メッシュフィルタ4の目開きAが小さすぎると、メッシュフィルタ4が詰まりやすくなるので、この点も考慮することが好ましい。上記のような観点に鑑みると、メッシュフィルタ4の目開きAは、ワークWの直径Dの50%~100%に相当することが好ましい。
【0039】
本実施形態のメッシュフィルタ4の目開きA(A=25.4/M-d)は0.2mmである。一方、ワークWの直径Dは0.2mmである。よって、本実施形態のメッシュフィルタ4の目開きAは、ワークWの直径Dの100%に相当する。別の見方をすると、ワークWに吹き付けられるドライアイス粒100bの粒径は、メッシュフィルタによって0.2mm未満に制御され、粒径が0.2mm以上のドライアイス粒100bがワークWに吹き付けられることはない。
【0040】
<ドライアイスブラスト方法>
次に、
図1に示されているドライアイスブラストシステム1Aを用いて同図に示されているワークWの表面を処理する手順の一例について説明する。尚、ワークWが電線であり、電線が備える絶縁体の表面が処理対象であるワーク表面であることは既述のとおりである。
【0041】
ここでは、絶縁体表面にドライアイス粒を吹き付け、絶縁体表面に微細な凹凸を形成する。つまり、絶縁体表面に粗化処理を施す。かかる粗化処理は、絶縁体とめっき(後に絶縁体上に積層される)との密着性を向上させるために行うものである。つまり、粗化処理は、アンカー効果を得るために行うものである。
【0042】
<搬送装置の準備(工程1)>
ワークWが巻かれた供給ドラム2aを用意し、所定位置にセットする。或いは、所定位置にセットした供給ドラム2aにワークWを巻き付ける。次いで、供給ドラム2aからワークWを引き出し、引き出したワークWの一端を回収ドラム2bに係止させる。
【0043】
<ブラスト装置の準備(工程2)>
噴射部30のノズル32(ノズル開口32a)を供給ドラム2aと回収ドラム2bとに跨っているワークWに向ける。また、ワークWとノズル32(ノズル開口32a)との間隔を1.0mm~5.0mmとし、ワークWとノズル32(ノズル開口32a)との間にメッシュフィルタ4を配置する。さらに、ホッパー11内にドライアイスペレット100aを投入する。
【0044】
<ブラストの実施(工程3)>
上記工程1,2が完了した後、搬送装置2およびブラスト装置3を作動させる。具体的には、搬送装置2の回収ドラム2bを回転させてワークWを長手方向に搬送する。また、ブラスト装置3の搬送部12,粉砕部13および圧縮空気供給部20を作動させて、ドライアイス粒100bおよび圧縮空気を噴射部30に供給する。すると、噴射部30のノズル32からドライアイス粒100bを含む圧縮空気が、搬送装置2によって搬送されているワークWに向けて噴射される。このとき、ノズル開口32aから噴射される圧縮空気の圧力が0.6MPa以下となるように、圧縮空気供給部20から噴射部30に供給される圧縮空気の圧力を調節する。例えば、圧縮空気供給部20から噴射部30に供給される圧縮空気の圧力を0.4MPa~0.5MPaに調節する。
【0045】
もっとも、ワークWの手前(ワークWとノズル32との間)にはメッシュフィルタ4が配置されている。よって、ノズル32から噴射された圧縮空気に含まれているドライアイス粒100bのうち、メッシュフィルタ4を通過したドライアイス粒100bだけが絶縁体表面に吹き付けられる。尚、メッシュフィルタ4を通過可能なドライアイス粒100bの粒径が、ワークW(直径0.2mmの電線)を破断させることなく、絶縁体表面を十分に処理可能(粗化可能)な大きさに制御されることは既述のとおりである。
【0046】
尚、工程1および工程2は、どちらを先に実行してもよく、両方を同時並行で実行してもよい。工程3では、ワークWの表面に2以上の異なる方向からドライアイス粒100bを吹き付けてもよい。例えば、ワークWの周囲に等間隔で複数台のブラスト装置3を配置し、2以上の異なる方向からワークWにドライアイス粒100bを同時に吹き付けてもよい。
【0047】
以上のように、本発明が適用されたドライアイスブラストシステムおよびドライアイスブラスト方法では、ワーク表面に吹き付けられるドライアイス粒の大きさを制御可能である。よって、常に粒径が安定したドライアイス粒をワーク表面に吹き付けることができる。この結果、ワークを破断させたり、傷付けたりすることなく、ワーク表面に十分な処理を施すことができる。このような本発明の優れた効果は、ワークの形状や大きさに関わらず有効であるが、ワークが直径0.5mm以下の線材や繊維である場合、或いは厚みが0.5mm以下のシートである場合などに特に有効である。尚、ワークが線材であって、かつ、その断面形状が楕円形である場合、メッシュフィルタの編み目の大きさを定める基準となる線材の直径は、長径である。
【0048】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上記実施形態のメッシュフィルタ4は、綾織された金属線40によって形成されていてもよい。また、金属線40の線径d,メッシュフィルタ4のメッシュ数M,目開きAは、ワークWに応じて適宜変更することができ、ブラスト装置3から噴射される圧縮空気の圧力もワークWに応じて適宜変更することができる。さらに、上記実施形態のブラスト装置3は、直噴式であってもよい。
【0049】
本発明が適用されたドライアイスブラストシステムやドライアイスブラスト方法によって処理可能なワークは電線に限られない。例えば、本発明が適用されたシステムおよび方法は、樹脂製品の処理に用いることもできる。本発明が適用されたシステムおよび方法によって処理される樹脂製品の一例としては、ポリエチレン(PE),ポリプロピレン(PP),フッ素系樹脂などからなる樹脂繊維や樹脂シートが挙げられる。
【符号の説明】
【0050】
1A…ドライアイスブラストシステム,2…搬送装置,2a…ドラム(供給ドラム),2b…ドラム(回収ドラム),3…ブラスト装置,4…メッシュフィルタ,10…装置本体,10a…筐体,11…ホッパー,11a…上方開口部(投入口),11b…下方開口部(排出口),12…搬送部,13…粉砕部,13a(13b)…粉砕ローラ,14…中継パイプ,15…ドライアイス供給チューブ,20…圧縮空気供給部,21…コンプレッサ,22…空気供給チューブ,30…噴射部,31…合流部,32…ノズル,32a…ノズル開口,40…金属線,41…編み目,100a…ドライアイスペレット,100b…ドライアイス粒,W…ワーク