(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】フィールド機器の管理装置及び管理方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
G05B23/02 V
G05B23/02 302S
(21)【出願番号】P 2021054211
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100188307
【氏名又は名称】太田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】平澤 卓也
(72)【発明者】
【氏名】千田 智暁
(72)【発明者】
【氏名】小池 泰美
【審査官】岩▲崎▼ 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-077757(JP,A)
【文献】特開2019-215233(JP,A)
【文献】特開2020-186934(JP,A)
【文献】特開平01-288724(JP,A)
【文献】特開2010-181949(JP,A)
【文献】特表2001-506778(JP,A)
【文献】国際公開第2017/134908(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0192046(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00-23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィールド機器から機器データを取得するデータ入力部と、学習部と、演算部と、判定部とを備え、
前記データ入力部は、前記フィールド機器としての電磁流量計から、前記機器データとして前記電磁流量計の検出電圧を取得し、
前記学習部は、
前記電磁流量計の検出電圧に基づいて機械学習を実行して
前記電磁流量計のSN比を推定するモデルを生成し、
前記演算部は、前記学習部で生成したモデルに基づいて
前記電磁流量計のSN比を推定し、
前記判定部は、前記演算部による
前記電磁流量計のSN比の推定結果に基づいて、
前記電磁流量計又は
前記電磁流量計が設置されているプラントの少なくとも一方のメンテナンスに関する情報を生成して出力する、
フィールド機器の管理装置。
【請求項2】
前記モデルは、前記電磁流量計のSN比を漸化式によって更新する、請求項1に記載のフィールド機器の管理装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記フィールド機器のメンテナンスに関する情報として、前記電磁流量計
の調整可能時期に前記電磁流量計に対して適用するダンピング値の補正値を
算出する、請求項
1又は2に記載のフィールド機器の管理装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記プラントのメンテナンスに関する情報として、前記フィールド機器が取り付けられているプラントのメンテナンス時期を決定する、請求項1から3までのいずれか一項に記載のフィールド機器の管理装置。
【請求項5】
フィールド機器
としての電磁流量計から
、機器データ
として前記電磁流量計の検出電圧を取得する第1ステップと、
前記電磁流量計の検出電圧に基づいて機械学習を実行して
前記電磁流量計のSN比を推定するモデルを生成する第2ステップと、
前記第2ステップで生成したモデルに基づいて
前記電磁流量計のSN比を推定する第3ステップと、
前記第3ステップにおける
前記電磁流量計のSN比の推定結果に基づいて、
前記電磁流量計又は
前記電磁流量計が設置されているプラントの少なくとも一方のメンテナンスに関する情報を生成して出力する第4ステップと
を含む、フィールド機器の管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フィールド機器の管理装置及び管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被測定流体の特性に基づく異常を検出する診断部を備える電磁流量計が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電磁流量計等の種々のフィールド機器を用いているプラントをスムーズに稼働させるために、フィールド機器の管理の利便性の向上が求められる。
【0005】
本開示は、上述の点に鑑みてなされたものであり、プラント等におけるフィールド機器の管理の利便性を向上できる管理装置及び管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
幾つかの実施形態に係るフィールド機器の管理装置は、プラントに設置されているフィールド機器から機器データを取得するデータ入力部と、学習部と、演算部と、判定部とを備える。前記学習部は、前記機器データに基づいて機械学習を実行して前記フィールド機器の状態を表すモデルを生成する。前記演算部は、前記学習部で生成したモデルに基づいて前記フィールド機器の状態を推定する。前記判定部は、前記演算部による前記フィールド機器の状態の推定結果に基づいて、前記フィールド機器又は前記プラントの少なくとも一方のメンテナンスに関する情報を生成して出力する。このようにすることで、属人的な管理作業が減らされ得る。その結果、プラント等におけるフィールド機器の管理の利便性が向上する。
【0007】
一実施形態に係るフィールド機器の管理装置において、前記データ入力部は、前記フィールド機器としての電磁流量計から、前記機器データとして前記電磁流量計の検出電圧を取得してよい。前記演算部は、前記電磁流量計の検出電圧に基づいて機械学習を実行して前記電磁流量計の状態を表すモデルを生成してよい。このようにすることで、電磁流量計の各構成部のうち電磁流量計が取り付けられている測定管の外から見えない部分の状態が推定される。作業者が外から見ることのできない部分の状態が推定されることによって、電磁流量計が容易に管理され得る。その結果、電磁流量計の管理の利便性が向上する。
【0008】
一実施形態に係るフィールド機器の管理装置において、前記判定部は、前記フィールド機器のメンテナンスに関する情報として、前記電磁流量計の検出電圧の補正値を生成して出力してよい。機器データに基づいてフィールド機器のメンテナンス情報が生成されることによって、属人的な判断に頼らずにフィールド機器の状態が良好に維持され得る。その結果、フィールド機器の管理の利便性が向上する。
【0009】
一実施形態に係るフィールド機器の管理装置において、前記判定部は、前記プラントのメンテナンスに関する情報として、前記フィールド機器が取り付けられているプラントのメンテナンス時期を決定してよい。機器データに基づいてプラントのメンテナンス時期が推定されることによって、属人的な判断に頼らずにフィールド機器が設置されているプラントのメンテナンスが実行され得る。その結果、フィールド機器が設置されているプラントの管理の利便性が向上する。また、フィールド機器が設置されているプラントの稼働率が向上し得る。
【0010】
幾つかの実施形態に係るフィールド機器の管理方法は、プラントに設置されているフィールド機器から機器データを取得する第1ステップを含む。前記管理方法は、前記機器データに基づいて機械学習を実行して前記フィールド機器の状態を表すモデルを生成する第2ステップを含む。前記管理方法は、前記第2ステップで生成したモデルに基づいて前記フィールド機器の状態を推定する第3ステップを含む。前記管理方法は、前記第3ステップにおける前記フィールド機器の状態の推定結果に基づいて、前記フィールド機器又は前記プラントの少なくとも一方のメンテナンスに関する情報を生成して出力する第4ステップを含む。このようにすることで、属人的な管理作業が減らされ得る。その結果、プラント等におけるフィールド機器の管理の利便性が向上する。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係るフィールド機器の管理装置及び管理方法によれば、プラントにおけるフィールド機器の管理の利便性が向上される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】比較例に係る管理システムの構成例を示すブロック図である。
【
図2】一実施形態に係る管理システムの構成例を示すブロック図である。
【
図3】クラウド及び処理コンピュータの構成例を示すブロック図である。
【
図4】電磁流量計が取り付けられた測定管の構成の一例を示す断面図である。
【
図5】SN比の推定値を算出する構成の一例を示すブロック線図である。
【
図6】SN比の測定値と推定値との時間変化の一例を表すグラフである。
【
図7】一実施形態に係る管理方法の手順例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(比較例)
図1に示されるように、比較例に係る管理システム9は、ホスト91と、制御ループ92とを備える。
【0014】
制御ループ92は、プラント等の現場に設置されている機器を含んで構成される。制御ループ92は、PLC(Programmable Logic Controller)93と、スイッチ94と、流量計95とを備える。PLC93は、流量計95を制御して流量計95の測定データを取得し、測定データをホスト91に出力する。スイッチ94は、PLC93と流量計95との間の接続を分岐し、PLC93が複数の流量計95のうちどの流量計95から測定データを取得するか切り替える。流量計95は、PLC93による制御に基づいてプラント等に設置されている配管内を流れる液体又は気体の流量を測定し、測定データをPLC93に出力する。
【0015】
ホスト91は、制御ループ92に含まれる流量計95の測定データ等を含む情報を作業者90に通知する。作業者90は、ホスト91から通知された情報に基づいて、制御ループ92のメンテナンスを実行する。作業者90は、ホスト91を介して制御ループ92のメンテナンスを実行してもよい。
【0016】
作業者90は、流量計95の測定データに基づいてプラント等に設置されている機器のメンテナンス時期を判断する。作業者90は、例えば、ある配管の流量が所定値未満になった場合にその配管に対応する機器のメンテナンス時期が近づいていると判断する。作業者90は、例えば、ある配管の流量が所定範囲から外れた場合にその配管に対応する機器に設定する値を変更する。
【0017】
以上述べてきたように、比較例に係る管理システム9において、作業者90がホスト91を介して又は直接、制御ループ92に対して設定値を調整したり、制御ループ92のメンテナンス時期を判断したりする。例えば、作業者90は、流量計95の測定データを見て作業者90の経験に基づく予測と比較してメンテナンス時期を決定したり設置値の変更を決定したりする。作業者90が行う一連の調整作業は、作業者90独自の経験又は思考に基づく、属人的な内容になる。
【0018】
また、作業者90が行う作業は、文書化又は形式化しやすい作業に該当しない。例えば、作業者90によるプラント等の状況の判断は、標準化されにくく、作業者90個人のノウハウになっている場合が多い。したがって、ある作業者90がプラントから離れた場合に、その現場における各種の調整又はメンテナンスの判断が適切に行われず、プラントの操業状態が想定と異なる状態になりうる。その結果、プラントにおける事故又は損失が引き起こされる可能性がある。例えば、プラントにおける調整又はメンテナンスが適切なタイミングで行われないことによって、プラントに含まれる一部の機器の状態が悪化したまま操業することによる品質低下が生じ得る。逆に、機器の状態にまだ余裕があるタイミングでメンテナンスが行われることによる損失が生じ得る。
【0019】
比較例に係る管理システム9における管理は、プラント等の現場の管理の利便性を欠くものであるといえる。そこで、プラント等の現場の管理の利便性の向上が求められる。例えば、プラント等の現場に設置されている機器を、属人的な作業に頼らずに調整したりメンテナンスしたりすることが求められる。
【0020】
そこで、本開示は、プラント等におけるフィールド機器の管理の利便性を向上できる管理装置及び管理方法について説明する。
【0021】
(実施形態)
図2に示されるように、本開示の一実施形態に係る管理システム1は、ゲートウェイ100と、エッジコンピュータ110と、クラウド120と、処理コンピュータ130とを備える。管理システム1は、ゲートウェイ100で制御ループ30と通信可能に接続される。制御ループ30は、PLC31と、スイッチ32と、流量計33とを備える。
図2に示されるように、ゲートウェイ100は、PLC31と通信可能に接続されてよい。ゲートウェイ100は、スイッチ32と通信可能に接続されてもよい。本実施形態において、流量計33は、電磁流量計200(
図4参照)であるとする。
【0022】
流量計33は、電磁流量計200に限られずコリオリ流量計等の他の種々の流量計を含んでよい。制御ループ30は、流量計33に限られず、圧力伝送器等の他の種々のフィールド機器を備えてよい。フィールド機器は、プラント等の生産現場の状況を表す種々のデータを取得するように構成される。
【0023】
管理システム1は、ゲートウェイ100を通じて、制御ループ30が備える種々のフィールド機器を管理する。管理システム1は、フィールド機器を管理することによって、フィールド機器が設置されているプラント等の生産現場の状態を管理できる。管理システム1のうち、処理コンピュータ130は、管理装置とも称される。管理システム1は、ゲートウェイ100で外部コンピュータ140と通信可能に接続されてよい。外部コンピュータ140は、クラウド120と通信可能に接続されてもよい。
【0024】
ゲートウェイ100は、制御ループ30と、エッジコンピュータ110と、処理コンピュータ130と、外部コンピュータ140とを互いに通信可能に接続する。
【0025】
エッジコンピュータ110は、制御ループ30が備えるフィールド機器から取得したデータを収集し、クラウド120に転送する。フィールド機器から取得したデータは、機器データとも称される。
【0026】
クラウド120は、エッジコンピュータ110が収集した機器データを格納する。クラウド120は、
図3に示されるように、リファレンス制御ループデータ121と、リアルタイム制御ループデータ122とを格納する。
【0027】
リファレンス制御ループデータ121は、処理コンピュータ130で用いられるデータであり、管理対象となるフィールド機器の過去の機器データ又はフィールド機器の運転計画を含む。
【0028】
リアルタイム制御ループデータ122は、処理コンピュータ130で用いられるデータであり、制御ループ30からリアルタイムに取得した機器データを含む。
【0029】
処理コンピュータ130は、制御ループ30のフィールド機器が設置されているプラント等の生産現場の状態を表すモデルを生成し、モデルに含まれる状態変数などのパラメータを更新する。処理コンピュータ130は、生産現場の状態を表すモデルを、機械学習を実行することによって機械学習モデルとして生成してもよい。また、処理コンピュータ130は、AI(Artificial Intelligence)技術に基づく処理を実行してもよい。
【0030】
処理コンピュータ130は、データ入力部131と、データ前処理部132と、学習部133と、演算部134と、判定部135と、補正値算出部136と、データ作成部137と、データ出力部138とを備える。
【0031】
データ入力部131は、クラウド120からリファレンス制御ループデータ121及びリアルタイム制御ループデータ122を取得してデータ前処理部132に受け渡す。
【0032】
データ前処理部132は、クラウド120から取得したリファレンス制御ループデータ121を学習部133が用いることができるように加工して学習部133に受け渡す。データ前処理部132は、クラウド120から取得したリアルタイム制御ループデータ122を判定部135が用いることができるように加工して判定部135に受け渡す。
【0033】
学習部133は、リファレンス制御ループデータ121に基づいてフィールド機器の状態を表すモデルの機械学習を実行することによってモデルを生成する。本実施形態において、学習部133は、流量計33としての電磁流量計200の機器データとして取得した流量、流速及び時間と、電磁流量計200が出力する検出電圧の信号のSN比との関係を表す関数モデルを生成する。
【0034】
演算部134は、学習部133で機械学習を実行することによって生成したモデルに基づいて、信号のSN比の演算を実行するとともに、フィールド機器の補正又はメンテナンスの必要性を判定するためのSN比の閾値を計算する。演算部134は、計算結果を判定部135に受け渡す。
【0035】
判定部135は、演算部134から取得した計算結果と、データ前処理部132から取得したリアルタイム制御ループデータ122とに基づいて判定する。判定部135は、判定結果を補正値算出部136及びデータ作成部137に受け渡す。
【0036】
補正値算出部136は、判定部135の判定結果に基づいて、フィールド機器の設定値の補正値又は調整値を算出する。
【0037】
データ作成部137は、判定部135の判定結果と、補正値算出部136の算出結果とを含む通信データを作成する。
【0038】
データ出力部138は、データ作成部137が作成した通信データをゲートウェイ100に出力する。ゲートウェイ100は、通信データを制御ループ30に出力する。
【0039】
外部コンピュータ140は、クラウド120にフィールド機器の運転計画を格納する。
【0040】
エッジコンピュータ110、処理コンピュータ130及び外部コンピュータ140は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含んで構成されてよい。エッジコンピュータ110、処理コンピュータ130及び外部コンピュータ140は、所定のプログラムを実行することによって、管理システム1の種々の機能を実現してよい。
【0041】
また、エッジコンピュータ110、処理コンピュータ130及び外部コンピュータ140は、記憶部を備えてよい。記憶部は、各コンピュータの動作に用いられる各種情報、又は、各コンピュータの機能を実現するためのプログラム等を格納してよい。記憶部は、各コンピュータのワークメモリとして機能してよい。記憶部は、例えば半導体メモリ等で構成されてよい。記憶部は、各コンピュータと別体で構成されてもよい。
【0042】
クラウド120は、記憶装置として構成されてよい。記憶装置は、例えば磁気ディスク等の電磁記憶媒体を含んで構成されてよいし、半導体メモリ又は磁気メモリ等のメモリを含んで構成されてもよい。
【0043】
外部コンピュータ140は、プラント等の現場の作業者に情報を通知するための表示デバイスを備えてよい。表示デバイスは、例えば、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)を含んでよい。表示デバイスは、例えば、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ又は無機ELディスプレイを含んでもよい。表示デバイスは、プラズマディスプレイ(PDP:Plasma Display Panel)を含んでもよい。表示デバイスは、これらのディスプレイに限られず、他の種々の方式のディスプレイを含んでもよい。表示デバイスは、LED(Light Emission Diode)等の発光デバイスを含んでもよい。また、外部コンピュータ140は、スピーカ等の音声出力デバイスを備えてもよい。管理システム1が表示デバイス又は音声出力デバイス等の出力デバイスを備えてもよい。
【0044】
外部コンピュータ140は、プラント等の現場の作業者等からのデータ等の入力を受け付ける入力デバイスを含んでもよい。入力デバイスは、例えば、キーボード又は物理キーを含んでもよいし、タッチパネル若しくはタッチセンサ又はマウス等のポインティングデバイスを含んでもよい。入力デバイスは、これらの例に限られず、他の種々のデバイスを含んでもよい。管理システム1が入力デバイスを備えてもよい。
【0045】
(動作例)
以下、本実施形態に係るフィールド機器の管理システム1の動作例が説明される。管理システム1は、フィールド機器として電磁流量計200を管理する。電磁流量計200は、例えば特許文献1(特開2016-166854号公報)に開示されている構成を有してよい。本実施形態において、管理システム1の管理対象となる電磁流量計200は、
図4に示されるように、測定対象となる配管である測定管300に取り付けられるとする。電磁流量計200は、測定管300の内部を流れる流体の流速を測定できる。
【0046】
電磁流量計200は、励磁コイル210と、第1電極220と、第2電極230と、接地電極240とを備える。測定管300は、接地電極240によって接地されている。電磁流量計200は、励磁コイル210に励磁電流を流すことによって測定管300の内部を流れる流体を励磁する。励磁された流体は、流速に比例した起電力を生じる。電磁流量計200は、第1電極220と第2電極230とによって、励磁された流体が生じた起電力を検出する。第1電極220と第2電極230とによって検出された起電力は、検出電圧とも称される。電磁流量計200は、検出電圧に基づいて、測定管300の内部を流れる流体の流速を算出できる。
【0047】
ここで、電磁流量計200の第1電極220又は第2電極230は、流体によって少しずつ汚れる。具体的に、第1電極220又は第2電極230の表面に絶縁性の物質が付着する。第1電極220又は第2電極230の表面に付着する絶縁性の物質は、絶縁性付着物とも称される。第1電極220又は第2電極230の表面の絶縁性付着物が増えるほど、電磁流量計200の検出電圧に含まれるノイズが増加する。その結果、電磁流量計200による測定管300の内部を流れる流体の流速の測定精度が低下する。
【0048】
プラント等の現場において、このように絶縁性付着物の影響を受けた電圧の測定結果に基づいて測定管300内部の流体の流速が算出される。ノイズを含む電圧の測定結果に基づく流速の算出結果はノイズを含む。流速の算出結果をプラント等の現場で利用するに際して、ノイズを含む流速の算出結果にダンピングをかけることによってノイズが除去される。そして、ノイズが除去された流速の算出結果に基づいてプラントが制御される。ダンピングによるノイズ除去処理は、流速の算出結果の平滑化を含む。流速の算出結果の平滑化の度合いは、ダンピング値によって設定される。ダンピング値が大きいほど流速の算出結果が強く平滑化される。したがって、ダンピングによるノイズ除去処理において、流速の算出結果に含まれるノイズが多いほどダンピング値が大きい値に設定される。そして、ノイズが除去された流速の算出結果に基づいてプラント等が制御される。しかし、絶縁性付着物が増えすぎて、電圧の測定結果に含まれるノイズ量が信号に比べて大きくなった場合、ノイズ除去処理を実行しても流速の算出結果からノイズが十分に除去されなくなる。この場合、電磁流量計200の第1電極220又は第2電極230の清掃等のメンテナンスが必要になる。
【0049】
<初期モデルの生成>
管理システム1は、制御ループ30からフィールド機器の機器データを取得し、ゲートウェイ100及びエッジコンピュータ110を経由して、クラウド120のリファレンス制御ループデータ121に格納する。処理コンピュータ130は、学習部133で、フィールド機器の状態を表す関数モデルを生成するために十分な機器データを制御ループ30から収集する。フィールド機器が電磁流量計200である場合、その機器データは、電極における検出電圧、並びに、流量及び流速を含む。
【0050】
クラウド120に格納された機器データは、処理コンピュータ130のデータ入力部131を経由してデータ前処理部132に入力される。データ前処理部132は、検出電圧の統計処理によって算出した検出信号のSN比に基づいて、励磁電圧のSN比を準備する。ここで、SN比は、測定信号と移動平均処理済みの測定信号との差をノイズとして算出し、移動平均処理済みの測定信号をノイズで割った値として算出される。
【0051】
学習部133は、データ前処理部132で準備されたSN比に基づいて機械学習を実行し、関数モデルを生成する。
【0052】
<SN比の予測>
学習部133は、生成した関数モデルを初期モデルとしてSN比を予測する。学習部133は、SN比の予測値を、関数モデルを含む漸化式によって更新する。時刻nまでのデータを用いて算出されたSN比の予測値がEnで表され、かつ、関数モデルがfで表される場合、関数モデルに基づく漸化式は、En=f+En-1で表される。fは、例えばフィールド機器で測定する流速及び流量、時間、並びに検出電圧等を引数として値を出力する関数である。
【0053】
図5に例示されるブロック線図を参照して、学習部133が漸化式に基づいてSN比の予測値を更新する処理が説明される。学習部133は、時刻kにおける機器データをデータ前処理部132から取得し、機器データを関数モデルfの引数として、時刻kにおける機器データに基づく関数モデルfの出力値f
kを算出する。学習部133は、加算器1332によって、時刻k-1におけるSN比の予測値E
k-1と、時刻kにおける機器データに基づく関数モデルfの出力値f
kとの和を算出し、時刻kにおけるSN比の予測値E
kとして出力する。また、学習部133は、時刻k+1における機器データをデータ前処理部132から取得し、機器データを関数モデルfの引数として、時刻k+1における機器データに基づく関数モデルfの出力値f
k+1を算出する。学習部133は、加算器1332によって、時刻kにおけるSN比の予測値E
kと、時刻k+1における機器データに基づく関数モデルfの出力値f
k+1との和を算出し、時刻k+1におけるSN比の予測値E
k+1として出力する。
【0054】
<プラントの運転時の動作>
管理システム1は、プラントの運転時において、以下のようにフィールド機器を管理する。まず、クラウド120は、運転計画の流量及び流速を外部コンピュータ140から取得して格納する。次に、クラウド120は、運転時の機器データを制御ループ30からゲートウェイ100及びエッジコンピュータ110を経由して取得し、リアルタイム制御ループデータ122として格納する。
【0055】
処理コンピュータ130は、リアルタイム制御ループデータ122としてクラウド120に格納した機器データを、データ入力部131及びデータ前処理部132を経由して学習部133に入力する。学習部133は、入力された機器データを学習データとして機械学習を実行し、関数モデルを初期モデルから更新する。
【0056】
<<フィールド機器の自動調整>>
次に、管理システム1は、プラントの運転予測とフィールド機器のメンテナンスの必要性を判定するためのSN比の閾値とを、クラウド120から、データ入力部131、データ前処理部132及び学習部133を経由して演算部134に入力する。プラントの運転予測とフィールド機器のメンテナンスの必要性を判定するためのSN比の閾値とは、リファレンス制御ループデータ121として外部コンピュータ140からクラウド120に格納されている。また、管理システム1は、学習部133で生成した関数モデルを演算部134に入力する。演算部134は、学習部133で生成した関数モデルと、クラウド120から取得したプラントの運転予測とに基づいて、SN比を推定する。
【0057】
図6に、SN比の推定値の一例が示される。
図6において横軸は時刻を表す。縦軸は各時刻におけるSN比を表す。現在時刻Qより前の期間P1におけるSN比は、制御ループ30から取得した機器データに基づいて算出した実測値である。現在時刻より後の期間P2におけるSN比は、演算部134で推定した推定値である。
図6において、SN比の閾値は、R
THで表されている。
【0058】
判定部135は、外部コンピュータ140からクラウド120に格納されたリファレンス制御ループデータ121に含まれる、フィールド機器の補正の必要性を判定するためのSN比の閾値を、データ入力部131及びデータ前処理部132を経由して取得する。また、判定部135は、制御ループ30からゲートウェイ100とエッジコンピュータ110とを経由してクラウド120にリアルタイム制御ループデータ122として格納された機器データを、データ入力部131とデータ前処理部132とを経由して取得する。
【0059】
判定部135は、機器データに基づいて算出される電磁流量計200の検出電圧の信号のSN比がSN比の閾値未満である場合、電磁流量計200の検出電圧の信号処理を補正する必要があると判定する。検出電圧の信号処理は、具体的に、検出電圧に基づいて流速を算出する処理と、ダンピングによって流速の算出結果からノイズを除去するノイズ除去処理を含む。判定部135は、判定結果を補正値算出部136に出力する。補正値算出部136は、電磁流量計200の信号処理を補正する必要があるとの判定結果を取得した場合、電磁流量計200の検出電圧に基づく流速の算出結果に対して実行するダンピングによるノイズ除去処理において設定されるダンピング値の補正値を算出する。
【0060】
また、判定部135は、演算部134で推定した、現在よりも後の時刻における電磁流量計200のSN比の推定値を閾値と比較し、SN比の推定値が閾値未満になる時刻を算出してよい。例えば、
図6に例示されるグラフにおいて、SN比の推定値が閾値R
THよりも小さくなる時刻を算出してよい。判定部135は、SN比の推定値が閾値未満になる時刻の算出結果を補正値算出部136に出力する。補正値算出部136は、SN比の推定値が閾値未満になる時刻又はその時刻より前に電磁流量計200の検出電圧に基づく流速の算出結果に対して実行するダンピングによるノイズ除去処理において設定されるダンピング値の補正値を算出してよい。
【0061】
また、
図6に例示されるグラフにおいて、プラントの運転状況に基づいて定まるフィールド機器の調整可能時期がP3で表されている。演算部134は、リファレンス制御ループデータ121に含まれる調整可能時期の情報を、データ入力部131とデータ前処理部132と学習部133とを経由して取得する。演算部134は、調整可能時期P3におけるSN比の推定値を算出する。演算部134は、調整可能時期P3におけるSN比の推定値の算出結果を、判定部135を経由して又は判定部135を経由せずに直接、補正値算出部136に入力する。
【0062】
電磁流量計200の信号のSN比の低下に対して、電磁流量計200の測定精度がどの程度低下するかを特定するデータは、あらかじめ開発情報として取得され得るデータであり、精度低下データとも称される。精度低下データを取得する前提として、電磁流量計200による検出電圧と配管内の流速とは関係を有する。具体的に、流速が遅いほど検出電圧が小さい。SN比が小さい場合、配管内の流速が低い状態の検出電圧は、ノイズに埋もれる。精度低下データは、検出電圧に対するSN比の閾値を決定し、数点プロットして補完することによってSN比と測定精度との関係式として表される。
【0063】
補正値算出部136は、精度低下データと、調整可能時期P3におけるSN比の推定値とに基づいて、調整可能時期P3に電磁流量計200に対して適用するダンピング値の補正値の関係式を準備する。補正値算出部136は、リファレンス制御ループデータ121に含まれる補正値の関係式を、データ入力部131とデータ前処理部132と学習部133と判定部135とを経由して取得する。補正値算出部136は、調整可能時期におけるSN比の推定値を、取得した補正値の関係式に適用することによって、調整可能時期に電磁流量計200に適用する補正値を算出する。
【0064】
補正値算出部136が算出した補正値は、データ作成部137に入力される。データ作成部137は、補正値を電磁流量計200が受入可能なデータ形式で表した設定用データを作成する。データ出力部138は、データ作成部137で作成した設定用データを、ゲートウェイ100を経由して制御ループ30に出力する。制御ループ30内の電磁流量計200は、設定用データに基づいて電磁流量計200自身に補正値を適用し、信号の出力を補正する。
【0065】
以上述べてきたように、管理システム1は、フィールド機器としての電磁流量計200に、機器データに基づいて生成した補正値を適用し、SN比の低下に応じて信号の出力を補正させることができる。フィールド機器としての電磁流量計200に適用する補正値は、フィールド機器のメンテナンスに関する情報として出力される。メンテナンスに関する情報は、メンテナンス情報とも称される。機器データに基づいてフィールド機器のメンテナンス情報が生成されることによって、属人的な判断に頼らずにフィールド機器の状態が良好に維持され得る。その結果、フィールド機器の管理の利便性が向上する。
【0066】
<<メンテナンス時期の予測>>
演算部134は、リファレンス制御ループデータ121に含まれる、プラントの運転計画と、フィールド機器のメンテナンスの必要性を判定するためのSN比の閾値とを、データ入力部131とデータ前処理部132と学習部133とを経由して取得する。演算部134は、プラントの運転計画と学習部133で生成した関数モデルとに基づいて、SN比の推定値を算出する。具体的に、演算部134は、プラントの運転実績のデータとSN比との関係に基づいて、プラントの運転計画を実行した場合の運転実績を推定してSN比の推定値を算出する。演算部134は、算出したSN比の推定値と、取得したSN比の閾値とを比較することによって、フィールド機器が取り付けられた配管のメンテナンスが必要な時期を推定する。演算部134は、推定結果をデータ作成部137に入力する。データ作成部137は、外部に出力可能なデータ形式で推定結果の出力データを作成し、データ出力部138に入力する。データ出力部138は、推定結果の出力データを、ゲートウェイ100を経由して外部コンピュータ140に通知する。
【0067】
以上述べてきたように、管理システム1は、機器データに基づいてプラントにおける配管等のメンテナンスの時期を推定できる。プラントのメンテナンスが必要な時期の推定結果は、プラントのメンテナンス情報として出力される。機器データに基づいてプラントのメンテナンス時期が推定されることによって、属人的な判断に頼らずにフィールド機器が設置されているプラントのメンテナンスが実行され得る。その結果、フィールド機器が設置されているプラントの管理の利便性が向上する。また、フィールド機器が設置されているプラントの稼働率が向上し得る。
【0068】
<フィールド機器の管理方法のフローチャート例>
処理コンピュータ130(管理装置)は、フィールド機器の管理方法として、
図7のフローチャートに例示される手順を実行してよい。
図7のフローチャートに例示される手順は、処理コンピュータ130を構成するプロセッサに実行させるフィールド機器の管理プログラムとして実現されてもよい。フィールド機器の管理プログラムは、電磁記憶媒体等の非一時的なコンピュータ読み取り可能な媒体に格納されてもよい。
【0069】
処理コンピュータ130のデータ入力部131は、プラントに設置されているフィールド機器から機器データを取得する(ステップS1)。データ入力部131は、機器データとして電磁流量計200の検出電圧を取得してよい。処理コンピュータ130の学習部133は、データ入力部131で取得したフィールド機器の機器データに基づいて機械学習を実行してフィールド機器の状態を表すモデルを生成する(ステップS2)。学習部133は、電磁流量計200の検出電圧に基づいて機械学習を実行してよい。処理コンピュータ130の演算部134は、学習部133で生成したモデルに基づいてフィールド機器の状態を推定する(ステップS3)。演算部134は、電磁流量計200の状態を推定してよい。処理コンピュータ130の判定部135は、演算部134によるフィールド機器の状態の推定結果に基づいて、フィールド機器又はプラントの少なくとも一方のメンテナンス情報を生成して出力する(ステップS4)。判定部135は、電磁流量計200又は電磁流量計200が取り付けられた測定管300のメンテナンス情報を生成してよい。処理コンピュータ130は、ステップS4の手順の実行後、
図7のフローチャートの手順の実行を終了する。
【0070】
<小括>
以上述べてきたように、本実施形態に係る管理システム1は、制御ループ30から取得した機器データに基づいて機械学習を実行することによってフィールド機器の状態を推定するモデルを生成する。また、管理システム1は、生成したモデルに基づいてフィールド機器の状態を推定できる。管理システム1は、具体的に、電磁流量計200が出力する信号のSN比を推定できる。そして、管理システム1は、SN比の推定値に基づいて電磁流量計200の信号処理における、例えばダンピング値等のパラメータを補正したり電磁流量計200が取り付けられている配管のメンテナンス時期を決定したりできる。このようにすることで、属人的な管理作業が減らされ得る。その結果、プラント等におけるフィールド機器の管理の利便性が向上する。
【0071】
また、電磁流量計200は、測定管300の外から見えない内部に第1電極220及び第2電極230を有する。本実施形態に係る管理システム1は、フィールド機器として電磁流量計200を管理し、電磁流量計200の各構成部のうち測定管300の外から見えない部分の状態を推定できる。作業者が外から見ることのできない部分の状態が推定されることによって、電磁流量計200が容易に管理され得る。その結果、電磁流量計200の管理の利便性が向上する。
【0072】
(他の実施形態)
管理システム1は、流量計33として、コリオリ流量計を管理してもよい。コリオリ流量計は、例えば特開2011-237353号公報に開示されている構成を有してよい。管理システム1は、コリオリ流量計の振動管の状態を診断するように構成されてよい。具体的に、管理システム1は、コリオリ流量計の振動管の振動増減率、ばね定数又は減衰係数と、プラントの運転実績とに基づいて、配管の減衰率と時間との関係を表すモデルを作成する。管理システム1は、作成したモデルと、プラントの運転計画とに基づいて配管のメンテナンスが必要になる時期を推定できる。
【0073】
管理システム1は、フィールド機器として、圧力伝送器を管理してもよい。圧力伝送器は、例えば特開2006-105707号公報に開示されている構成を有してよい。圧力伝送器は、導圧管の圧力を検出し、圧力の揺動の分散に基づいて導圧管の詰まりを診断する。管理システム1は、導圧管の詰まりの状態を診断するように構成されてよい。具体的に、管理システム1は、低周波成分に対する圧力の揺動の第1分散と、高周波成分に対する圧力の揺動の第2分散との算出結果を処理コンピュータ130に入力し、プラントの運転実績に基づいて圧力揺動と時間との関係を表すモデルを作成する。管理システム1は、作成したモデルと、プラントの運転計画とに基づいて、導圧管のメンテナンスが必要になる時期を推定できる。
【0074】
管理システム1は、フィールド機器の機器データとして、例えば、回路のインピーダンス、温度、電圧、周囲温度又は圧力等を取得してよい。管理システム1は、回路のインピーダンスに基づいて機械学習を実行してモデルを生成することによって、回路の劣化を診断してもよい。
【0075】
また、管理システム1は、測定管300の内部の流体の流速だけでなく、流体の密度、質量流量、体積流量、温度、濃度、又は粘度等を測定するセンサをフィールド機器として管理してもよい。管理システム1は、測定管300の内部の流体の流量の積算値を測定するセンサをフィールド機器として管理してもよい。
【0076】
以上、本開示に係る実施形態について、図面を参照して説明してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲においての種々の変更も含まれる。
【符号の説明】
【0077】
1 管理システム
30 制御ループ(31:PLC、32:スイッチ、33:流量計)
100 ゲートウェイ
110 エッジコンピュータ
120 クラウド(121:リファレンス制御ループデータ、122:リアルタイム制御ループデータ)
130 処理コンピュータ(131:データ入力部、132:データ前処理部、133:学習部、134:演算部、135:判定部、136:補正値算出部、137:データ作成部、138:データ出力部)
140 外部コンピュータ