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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】転がり案内装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 29/06 20060101AFI20241008BHJP
   F16C 33/374 20060101ALI20241008BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
F16C29/06
F16C33/374
F16C33/66 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021062328
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022157860
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 努
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-173823(JP,U)
【文献】特開昭63-047516(JP,A)
【文献】特開2009-092158(JP,A)
【文献】国際公開第2016/190147(WO,A1)
【文献】実開昭49-000331(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第106402160(CN,A)
【文献】米国特許第06113274(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 29/00-31/06
F16C 33/30-33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面に第1の軌道溝を有する第1部材と、
前記第1部材に組み付けられ、前記第1の軌道溝に対向する第2の軌道溝を有する第2部材と、
前記第1の軌道溝と前記第2の軌道溝とにより構成される負荷転動路と、前記第2部材に設けられ前記負荷転動路の一端と他端とを連通する無負荷転動路と、からなる転動体転動路に、転動自在に充填された複数個の転動体と、を有し、
前記転動体が転動することにより前記第1部材及び前記第2部材の一方が他方に対して相対移動する転がり案内装置であって、
前記複数個の転動体は、複数個の負荷ボールと、前記負荷ボールよりも弾性率が小さい複数個のスペーサボールにより構成され、
前記スペーサボールは内部に設けられた空隙部と、外周面に設けられ前記空隙部に到達する開口部と、を有し、
前記空隙部と前記開口部とにより、円筒形状に貫通した貫通穴が構成される、転がり案内装置。
【請求項2】
前記空隙部は前記スペーサボールの中心に設けられている、請求項1に記載の転がり案内装置。
【請求項3】
側面に第1の軌道溝を有する第1部材と、
前記第1部材に組み付けられ、前記第1の軌道溝に対向する第2の軌道溝を有する第2部材と、
前記第1の軌道溝と前記第2の軌道溝とにより構成される負荷転動路と、前記第2部材に設けられ前記負荷転動路の一端と他端とを連通する無負荷転動路と、からなる転動体転動路に、転動自在に充填された複数個の転動体と、を有し、
前記転動体が転動することにより前記第1部材及び前記第2部材の一方が他方に対して相対移動する転がり案内装置であって、
前記複数個の転動体は、複数個の負荷ボールと、前記負荷ボールよりも弾性率が小さい複数個のスペーサボールにより構成され、
前記スペーサボールは内部に設けられた空隙部と、外周面に設けられ前記空隙部に到達する開口部と、を有し、
前記空隙部は前記スペーサボールの中心に設けられており、
前記空隙部と前記開口部とにより、円筒形状の止まり穴が構成される、転がり案内装置。
【請求項4】
前記スペーサボールの空隙部には、潤滑剤が封入されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の転がり案内装置。
【請求項5】
前記スペーサボールは、樹脂及び熱可塑性エラストマーから選択された1種からなる、請求項1~のいずれか1項に記載の転がり案内装置。
【請求項6】
前記スペーサボールの直径は、前記負荷ボールの直径に対して、90%以上100%以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の転がり案内装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定機械及び工作機械等に用いられ、往復運動する物体をその移動方向に案内する転がり案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり案内装置としてのリニアガイドは、一般に、レール側転動溝が左右の側面に設けられた案内レールと、この案内レールのレール側転動溝と対向する位置にスライダ側転動溝が設けられたスライダと、レール側転動溝とスライダ側転動溝により構成される負荷転動路及びスライダ内部に設けられた転動体戻し路に充填され、これらの転動路を転動可能な多数の転動体と、を有している。スライダの軸方向両端部にはエンドキャップが装着されており、エンドキャップ内には転動体を方向転換させる方向転換路が形成されている。そして、上記負荷転動路、転動体戻し路及び方向転換路からなる転動路を転動体が転動することで、案内レールに対してスライダが軸方向に沿って相対移動する。転動路を転動する転動体は、エンドキャップ内で方向転換した後、スライダ内に形成された転動体戻し路を通って元の位置に戻る。
【0003】
このようなリニアガイドでは、負荷転動路内では、隣り合う転動体表面の進行方向が互いに逆向きになるため、転動体同士の接触部分において発生する摩擦力によりスライダの円滑な作動が妨げられたり、転動体に競り合いが発生したりすることがある。
また、転動体戻し路及び方向転換路は、転動体の直径よりも大きく形成されているため、転動体戻し路及び方向転換路内の転動体は、負荷転動路内の転動体によって押されることで動き、負荷転動路と同様に、転動体に競り合いが発生して作動性が低下する。
そこで、転がり案内装置の作動性を向上させるため、隣り合う転動体の間に種々の形状のスペーサが配置されたものが開示されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、隣り合う循環ボール間に保持器を介在させた直動装置が記載されている。保持器は、凹形状のボール受部を背中合わせに2つ有する形状であり、ボール受部の中心部には、ボール孔が設けられている。そして、ボール孔には、循環ボールに比べてはるかに径の小さいスペーサボールが両側を露出させた形で回転自在に嵌め込まれている。上記特許文献1に記載の直動装置では、隣り合う循環ボールがスペーサボールに同時に接触すると、循環ボールとボール受部の摺動抵抗が減少し、結果として直動装置のトルク変動を抑制している。
【0005】
また、特許文献2には、転動体が、複数の第1転動体と、弾性材料からなる複数の第2転動体(弾性ボール)とで構成され、スライダの作動性を向上させた転がり案内装置が開示されている。上記弾性ボールは、樹脂ボールの表面に、ボールの弾性率を小さくするための突起、溝又は穴を設けたものである。上記弾性ボールを使用することにより、循環路内の負荷ボールの押し合いを、弾性ボールの弾性変形によって解消し、直動案内装置の動作不良等を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-247619号公報
【文献】国際公開第2016/190147号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載された直動装置においては、通常時には、スペーサボールが隣り合う循環ボールに同時に接触しないように保持され、循環ボールの押圧力によりボール受部が所定量変形した時のみ、隣り合う循環ボールがスペーサボールに接触するような形状に設定する必要がある。従って、スペーサの設計が煩雑になると共に、保持器が摩耗により倒れることがあり、作動不良が生じる虞がある。
また、直動装置の組立時に、循環ボールとスペーサとを交互にスライダに挿入する必要があると共に、スペーサがその両側の循環ボールに正確に保持されるように配置する必要があるため、組立時における作業効率が低下する。
【0008】
更に、特許文献2に記載の転がり案内装置においては、樹脂ボールの表面のみに突起、溝又は穴を設けているため、弾性率が小さい部分は表面のみであり、ボール全体として弾性率を小さくすることは困難である。また、長期の使用に伴って、ボール表面は経年劣化や油脂により劣化して硬くなり、弾性率が大きくなる。従って、長期にわたって小さい弾性率を維持することができない。
なお、上記特許文献2には、ボール本体部とボール本体部の表面を隙間なく覆うカバー部とからなる弾性ボール、及び、このカバー部のみからなる弾性ボールも提案されている。しかしながら、カバー部は隙間なくボール本体を覆うものであるため、カバー部のみとした弾性ボールは製造方法が煩雑となり、製造コストも上昇する。
【0009】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、組立作業が容易であると共に、優れた作動性が得られ、製造コストを低減することができる転がり案内装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 側面に第1の軌道溝を有する第1部材と、
前記第1部材に組み付けられ、前記第1の軌道溝に対向する第2の軌道溝を有する第2部材と、
前記第1の軌道溝と前記第2の軌道溝とにより構成される負荷転動路と、前記第2部材に設けられ前記負荷転動路の一端と他端とを連通する無負荷転動路と、からなる転動体転動路に、転動自在に充填された複数個の転動体と、を有し、
前記転動体が転動することにより前記第1部材及び前記第2部材の一方が他方に対して相対移動する転がり案内装置であって、
前記複数個の転動体は、複数個の負荷ボールと、前記負荷ボールよりも弾性率が小さい複数個のスペーサボールにより構成され、
前記スペーサボールは内部に設けられた空隙部と、外周面に設けられ前記空隙部に到達する開口部と、を有する、転がり案内装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、負荷ボールと、負荷ボールよりも弾性率が小さくなるように形状を特定したスペーサボールとが転動体転動路に充填されているため、組立作業が容易であると共に、転動路内における転動体の競り合いを抑制することによって、優れた作動性が得られ、製造コストを低減することができる転がり案内装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る転がり案内装置を、転動体転動路を一部破断して示す斜視図である。
図2図1に示す転がり案内装置を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る転がり案内装置のスペーサボールを示す図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)におけるIII-III断面を示す図である。
図4図2におけるIV-IV断面を模式的に示す図であり、(a)は移動前を表し、(b)は移動後を表す。
図5】本発明の第2実施形態に係る転がり案内装置のスペーサボールを示す断面図である。
図6】本発明の第3実施形態に係る転がり案内装置のスペーサボールを示す断面図である。
図7】本発明の第4実施形態に係る転がり案内装置のスペーサボールを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る転がり案内装置について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0014】
まず、図1図3を参照して、本発明の第1実施形態に係る転がり案内装置について説明する。なお、本実施形態においては、転がり案内装置として、リニアガイド装置を例示している。
【0015】
リニアガイド装置(転がり案内装置)10は、一方向に延びる金属製の案内レール(第1部材)1と、案内レール1を跨ぐように組み付けられ、この案内レール1に対して軸方向に移動可能な断面略コの字状のスライダ(第2部材)2と、を備える。なお、本願明細書において、前後方向とは、スライダ2が案内レール1に沿って移動する方向を表し、左右方向とは、案内レール1に取り付けられたスライダ2の幅方向を表す。
【0016】
案内レール1の左右側面には、軸方向に延びる上下2本の軌道溝(第1の軌道溝)3がそれぞれ形成されている。スライダ2は、案内レール1の左右両側に袖部4を有するスライダ本体9と、スライダ本体9の前後方向の一端と他端に装着された一対のエンドキャップ5と、を備える。
【0017】
スライダ本体9における袖部4の内側面には、案内レール1の軌道溝3と対向する軌道溝(第2の軌道溝)7が左右両側に2本ずつ形成されている。そして、対向して配置された軌道溝3と軌道溝7とにより、左右両側に各2本の負荷転動路22が構成されている。
スライダ2には、負荷転動路22の一端と他端とを連通する無負荷転動路21が設けられており、負荷転動路22及び無負荷転動路21により転動体転動路23が構成されている。
【0018】
エンドキャップ5は、スライダ本体9の前後両端にそれぞれボルト12により固定されている。エンドキャップ5は、例えば、合成樹脂材の射出成形品であって、スライダ本体9と同様に断面略コの字状に形成されている。
なお、エンドキャップ5は、図示しないリターンガイドと共に、無負荷転動路21のうちの方向転換路を構成する。
【0019】
スライダ2の内部に合計で4本設けられた転動体転動路23内には、複数個の鋼球(負荷ボール)6と、複数個のスペーサボール16が転動自在に充填されている。図3に示すように、スペーサボール16の中心には、空隙部17が設けられているとともに、その外周面16aには、対向する2方向から空隙部17に到達する開口部18a及び18bが形成されている。即ち、本実施形態では、空隙部17、開口部18a及び18bにより、円筒形状の貫通穴19が構成されており、この貫通穴19により、鋼球6よりも弾性率が小さくなっている。そして、これら複数の鋼球6及びスペーサボール16は、案内レール1とスライダ2との相対移動に伴って、転動体転動路23内を転動しながら無限循環する。
【0020】
本実施形態では、無負荷転動路内において鋼球6が競り合うことにより作動性が低下することを防止するため、スペーサボール16を特定の形状としている。先ず、鋼球6の競り合いにより生じる作動性の低下について、図4を用いて以下に詳細に説明する。なお、図4は、図1及び2に示すリニアガイド装置10の転動体転動路23を表している。
【0021】
転動体転動路23内には、転動体として、鋼球6のみが充填されているものとする。無負荷転動路21は鋼球6の無限循環を実現するための経路であり、鋼球6の直径よりも大きく形成され、直線部と曲線部の組み合わせからなる。負荷転動路22は、案内レールの軌道溝3とスライダの軌道溝7に挟まれ、鋼球6が予圧荷重や外部荷重を受ける経路である。このような転動体転動路23においては、負荷転動路22から無負荷転動路21に入る鋼球6(入口側転動体)と、無負荷転動路21から負荷転動路22に出る鋼球6(出口側転動体)とで移動量が変化する。以下、この移動量の変化を出入り量変化という。
【0022】
負荷転動路22内に位置する鋼球6は、スライダの動きにより自転と公転をする。また、無負荷転動路21内に位置する鋼球6は、負荷転動路22内の鋼球6に押されて移動することになる。図4(a)及び図4(b)は同じ転動体転動路23を示しているが、スライダが図中に矢印で示す方向に移動する前後で、基準とする鋼球6の位置が若干ずれた状態を示している。上述の通り、無負荷転動路21内の鋼球6は押されて移動するため、隙間なく配置される。このとき、無負荷転動路21内に存在する鋼球6の数は、基準とする鋼球6aの位置により若干異なる。例えば、図4(a)では、無負荷転動路21内に10.42個の鋼球6が存在し、図4(b)では10.4個の鋼球6が存在する。このように、スライダが矢印で示す方向に移動すると、無負荷転動路21内に存在できる鋼球6の数が減るため、出入り量変化が生じ、負荷転動路22内の鋼球6が一定速度で動けなくなる。その結果、一時的に鋼球6が回りにくくなり、スライダ2と案内レール1との間の見かけの摩擦力が一瞬大きくなる。
【0023】
また、負荷転動路22内においても、溝形状のわずかな誤差などによって、鋼球6ごとに若干の速度差が発生する。このとき、速度の速い鋼球は遅い鋼球を押すことになり、鋼球6同士が競合う状態となる場合がある。その結果、無負荷転動路21内と同様に、一時的に鋼球6が回りにくくなり、スライダ2と案内レール1との間の見かけの摩擦力が一瞬大きくなる。
【0024】
このように、ほぼ剛体である鋼球6のみを使用した場合には、無負荷転動路21に存在できるボール数のわずかな違いが、負荷転動路22内に存在する鋼球6の動きを妨害することになる。そこで、本実施形態においては、鋼球6同士の競り合いを緩和し、摩擦力の変化を吸収し、鋼球6の公転を阻害しないようにするために、鋼球6よりも弾性率が小さいスペーサボール16を転動体転動路23内に配置している。
【0025】
なお、鋼球6よりも弾性率が小さいスペーサボールとして、例えば合成ゴムのように、材料自体の弾性率が小さいものを使用した場合であっても、鋼球6同士の競り合いを緩和し、リニアガイド装置の作動性は向上させることができる。しかし、弾性率を小さくするためにスペーサボールの材料を選択すると、リニアガイド装置の耐久性が低下してしまう。これは、弾性率が小さい材料は、一般的に耐摩耗性が低いからである。スペーサボールは、リニアガイド装置10の転動体転動路23内で、鋼球6と共に循環し、鋼球6及び転動体転動路23内の他部品と衝突したり、接触すべりを伴いながら循環する。従って、弾性率が小さい材料で形成されたスペーサボールは、転動体転動路23を構成する循環部品等に衝突した際に、削れたり、摩耗したりすることがある。一方、削れ及び摩耗に対する耐久性が高い材料を用いてスペーサボールを作成しようとすると、一般的に弾性率が大きくなってしまう。
【0026】
本実施形態では、スペーサボール16の体積のより多くの部分をくり貫いて空隙部17を設け、これにより、スペーサボール全体で弾性率を小さくし、外力(鋼球の押し合い)に対する変形を大きくしている。即ち、転動体転動路23内に、上記のような形状を有するスペーサボール16を配置することにより、わずかな出入り量変化を弾性で吸収することができる。その結果、負荷転動路22内の鋼球6の動きをスムーズにすることができ、優れた作動性を有する転がり案内装置を得ることができる。
また、スペーサボールの表面に凹凸を形成する、又はスペーサボールの材料を選定することにより弾性を付与するのではなく、内部に空隙部を設けることによりスペーサボール全体で弾性率を小さくしているため、長期にわたって弾性率が小さい状態を維持することができる。
更に、スペーサボール16の形状を適切に選択し、弾性率をより小さくすることにより、鋼球6の競り合いの緩衝材としての効果をより一層向上させることができる。従って、リニアガイド装置の耐久性を向上させることができる。
【0027】
ここで、スペーサボール16に貫通穴を形成する場合、球体の外周面の一部が平坦化するため、回転の阻害が懸念されるが、図3(b)に示す第1実施形態では、スペーサボール16の真球度が大きく低下しないように形成されている。具体的には、直径が6.35mmのスペーサボール16に、直径が2mmであって、中心を通る円筒形状の貫通穴を形成した場合に、ボール径で最も小さくなる部分の幅は5.84mmとなり、元のボール径から約8%小さくなるにとどまる。従って、弾性率の低減を実現できるとともに、スペーサボール16が回転するという機能を維持することができる。
なお、貫通穴19は必ずしも中心を通る必要はなく、円筒形状の貫通穴の直径、及び形成する貫通穴の数を適切に選択することにより、弾性率の低減と回転機能の維持とを同時に実現できるスペーサボール16を得ることができる。
【0028】
以下、本発明に係る第2~第4実施形態で使用されるスペーサボールの形状について、図5図7を用いて具体的に説明する。
図5に示す第2実施形態においても、スペーサボール26の中心には空隙部27が設けられており、スペーサボール26の外周面26aには、空隙部27に到達する開口部28が形成されている。即ち、第2実施形態では、空隙部27及び開口部28により、円筒形状の止まり穴29が構成されており、この止まり穴29により、鋼球6よりも弾性率を小さくすることができる。
【0029】
また、図6に示す第3実施形態では、スペーサボール36には球形状の空隙部37が設けられており、スペーサボール36の外周面36aには、空隙部37に到達する開口部38が設けられている。また、スペーサボール36の外径Dと内径dとの差を2等分することで得られる厚みtは、開口部38を除く領域で均一となるように形成されている。このような構成のスペーサボール36は、ブロー成型により容易に低コストで製造することができる。また、厚みtが開口部38を除く領域で均一となっているため、いずれの方向でも優れた弾性を得ることができ、回転機能を向上させるために開口部38の直径を小さくした場合であっても、厚みtの調整により、所望の弾性率を得ることができる。
なお、厚みtは開口部38を除く領域で正確に均一である必要はなく、製造時に形成される厚みの誤差等は本発明に含まれるものとする。
【0030】
更に、図7に示す第4実施形態では、スペーサボール46には、中心を通る3本の貫通穴49a,49b,49cが設けられており、これらの貫通穴49a,49b,49cが交わっている中心には、空隙部47が形成されている。即ち、開口部48a及び48bと空隙部47とにより、貫通穴49aが構成され、開口部48c及び48dと空隙部47とにより、貫通穴49bが構成され、開口部48e及び48fと空隙部47とにより、貫通穴49cが構成されている。このようなスペーサボール46は、金型の構成は複雑となるが、射出成型により容易に低コストで製造することができる。
【0031】
上記の通り、第1~第4実施形態に係る転がり案内装置に用いられるスペーサボール16,26,36,46は、いずれも鋼球よりも弾性率が小さいものとなっている。従って、無負荷転動路21又は負荷転動路22内に鋼球とともに存在することにより、鋼球同士の競り合いの緩衝材として機能し、良好な作動性を得ることができる。
【0032】
また、上記各実施形態に係る転がり案内装置のスペーサボール16,26,36,46は、内部に空隙部17,27,37,47を有するため、この空隙部17,27,37,47に潤滑剤を封入することができる。従って、潤滑剤が封入されたスペーサボール16,26,36,46を用いることで、より一層優れた作動性を得ることができる。
【0033】
上記各実施形態において、スペーサボール16,26,36,46の材料等については特に限定されないが、滑りや衝突に対する耐性(耐摩耗性)が高い材料を選択することが好ましく、例えば、樹脂(ポリアセタールなど)、及び熱可塑性エラストマーから選択された1種であることが好ましい。このような材料からなるスペーサボール16,26,36,46は、射出成型で製造することができるため、製造コストを低減することができる。
【0034】
上記各実施形態に係る転がり案内装置のスペーサボール16,26,36,46は、負荷ボールよりも大きくすると、スペーサボール16,26,36,46が無負荷転動路21から負荷転動路22に移動する際に抵抗となり、著しく作動性が悪くなる。また、スペーサボール16,26,36,46の直径が負荷ボールの直径の90%以上であれば、負荷転動路内において、転動体同士の接触部分において発生する摩擦力を低減することができる。従って、スペーサボール16,26,36,46の直径は、負荷ボールの直径に対して、90%以上100%以下であることが好ましい。
【0035】
また、上記各実施形態に係る転がり案内装置において、スペーサボール16,26,36,46の数は複数個(2個以上)とする。これにより、無負荷転動路21内には常に少なくとも1個のスペーサボールが存在することになるため、鋼球6の競り合いを吸収する効果を十分に得ることができる。一方、スペーサボール16,26,36,46の数が多くなりすぎると、負荷容量が低下してしまうので、スペーサボール16,26,36,46の数は負荷ボールの数よりも少ないことが好ましい。
【0036】
更に、複数個のスペーサボール16,26,36,46は、鋼球6の間に略等間隔で配置されていることが好ましい。これにより、少なくとも1個のスペーサボール16,26,36,46は無負荷転動路内に配置され、少なくとも1個のスペーサボール16,26,36,46が負荷転動路内に配置される確率が高くなる。その結果、負荷転動路内においても、鋼球同士の摩擦を抑制し、競り合いを低減することができる。
なお、略等間隔とは、隣り合うスペーサボール16,26,36,46の間に存在する鋼球の数がn個又はn+1個(nは任意の整数)であるものとする。
【0037】
なお、上記実施形態では、負荷ボールとして鋼球6を用いたが、負荷ボールは金属製に限定されず、セラミック等を用いてもよい。また、上記実施形態では、転がり案内装置としてリニアガイド装置の例を挙げたが、本発明はボールねじにも応用することができる。
【0038】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 側面に第1の軌道溝を有する第1部材と、
前記第1部材に組み付けられ、前記第1の軌道溝に対向する第2の軌道溝を有する第2部材と、
前記第1の軌道溝と前記第2の軌道溝とにより構成される負荷転動路と、前記第2部材に設けられ前記負荷転動路の一端と他端とを連通する無負荷転動路と、からなる転動体転動路に、転動自在に充填された複数個の転動体と、を有し、
前記転動体が転動することにより第1部材及び第2部材の一方が他方に対して相対移動する転がり案内装置であって、
前記複数個の転動体は、複数個の負荷ボールと、前記負荷ボールよりも弾性率が小さい複数個のスペーサボールにより構成され、
前記スペーサボールは内部に設けられた空隙部と、外周面に設けられ前記空隙部に到達する開口部と、を有する、転がり案内装置。
この構造によれば、組立作業が容易であると共に、優れた作動性が得られ、転がり案内装置の製造コストを低減することができる。
【0039】
(2)前記スペーサボールの空隙部には、潤滑剤が封入されている、(1)に記載の転がり案内装置。
この構成によれば、転がり案内装置の作動性をより一層向上させることができる。
【0040】
(3)前記空隙部は前記スペーサボールの中心に設けられている、(1)又は(2)に記載の転がり案内装置。
この構成によれば、弾性率を低減しつつ、スペーサボールの回転性能を維持することができる。
【0041】
(4)前記空隙部と前記開口部とにより、円筒形状に貫通した貫通穴が構成される、(1)~(3)のいずれか1つに記載の転がり案内装置。
この構成によれば、転がり案内装置を容易に低コストで製造することができる。
【0042】
(5)前記空隙部と前記開口部とにより、円筒形状の止まり穴が構成される、(3)に記載の転がり案内装置。
この構成によれば、転がり案内装置を容易に低コストで製造することができる。
【0043】
(6)前記空隙部は球形状であり、前記スペーサボールにおける前記開口部を除く領域は均一な厚みを有する、(3)に記載の転がり案内装置。
この構成によれば、容易に低コストで製造することができるとともに、いずれの方向でも優れた弾性を得ることができ、厚みを調整することにより、所望の弾性率を得ることができる。
【0044】
(7)前記スペーサボールは、樹脂及び熱可塑性エラストマーから選択された1種からなる、(1)~(6)のいずれか1つに記載の転がり案内装置。
この構成によれば、スペーサボールは、弾性及び耐久性を兼ね備えた構成とすることができる。
【0045】
(8)前記スペーサボールの直径は、前記負荷ボールの直径に対して、90%以上100%以下である、(1)~(7)のいずれか1つに記載の転がり案内装置。
この構成によれば、負荷転動路内における負荷ボール同士の摩擦を抑制し、転がり案内装置の作動性をより一層向上させることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 案内レール(第1部材)
2 スライダ(第2部材)
3 軌道溝(第1の軌道溝)
4 袖部
5 エンドキャップ
6,6a 鋼球(負荷ボール)
7 軌道溝(第2の軌道溝)
9 スライダ本体
10 リニアガイド装置(転がり案内装置)
16,26,36,46 スペーサボール
17,27,37,47 空隙部
18a,18b,28,38,48a,48b 開口部
19,49a,49b,49c 貫通穴
29 止まり穴
21 無負荷転動路
22 負荷転動路
23 転動体転動路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7