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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】作業車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20241008BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20241008BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
A01B69/00 303Q
A01B69/00 303Z
B62D6/00
B62D101:00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021063533
(22)【出願日】2021-04-02
(65)【公開番号】P2022158551
(43)【公開日】2022-10-17
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅生 雄基
(72)【発明者】
【氏名】平井 誠
(72)【発明者】
【氏名】沼倉 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友大
(72)【発明者】
【氏名】樋口 大河
(72)【発明者】
【氏名】東 浩之
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-208424(JP,A)
【文献】特開昭64-016504(JP,A)
【文献】特開2020-103110(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0383260(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0113123(US,A1)
【文献】国際公開第2019/003712(WO,A1)
【文献】特開2018-097408(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0000006(US,A1)
【文献】特開2020-002593(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0128933(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
B62D 6/00
G05D 1/43
B62D 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機と、前記原動機の動力に基づいて作業機を駆動する駆動機構と、を備える作業車両の制御装置であって、
前記制御装置は、
前記作業車両の舵角を取得し、
前記舵角が、前記作業車両が圃場内で行う作業の切り替わりを表す所定角以上である場合に、前記切り替わりを検出し、
前記作業車両の走行に基づいて検出又は算出可能な走行情報を取得し、
前記切り替わりを検出してから次の前記切り替わりを検出するまでの前記走行情報に基づいて、前記作業車両の走行中の作業内容を特定する、
ことを特徴とする作業車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記作業車両のイグニッションスイッチがオンされてからオフされるまでの車両稼時間を取得し、前記車両稼働時間に基づいて、前記作業車両が稼働する季節を推定し、推定した前記季節と前記走行情報とに基づいて、前記作業内容を特定する、
ことを特徴とする請求項に記載の作業車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記作業車両の走行中に前記作業車両の異常を検出した場合、特定した前記作業内容に基づいて、前記作業車両を安全な場所まで退避させる退避走行の退避走行モードを変更する、
ことを特徴とする請求項又はに記載の作業車両の制御装置。
【請求項4】
前記走行情報は、前記原動機の消費エネルギー、前記作業車両の移動距離、前記作業車両の車速の少なくとも1つを含む、
ことを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載の作業車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記作業機を駆動する駆動力と前記作業車両の車速との関係を前記作業内容毎に定める複数の駆動力マップのいずれかを、特定した前記作業内容に応じた前記駆動力マップに変更する、
ことを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載の作業車両の制御装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記作業車両がGPS(グローバルポジショニングシステム)を備えているか否かに関わらず、前記圃場内では前記舵角が前記所定角以上である場合に、前記切り替わりを検出する、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の作業車両の制御装置。
【請求項7】
前記作業車両は、エンジンを備えずにモータを備える電動車両である、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の作業車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GPS(Global Positioning System)の位置情報に基づき、トラクタが走行している現在位置が圃場の境界線の近傍である場合、肥料や薬剤等の散布物を散布する回転体の回転速度を0とする(停止する)制御技術が知られている。これにより、境界線を越えた道路等への散布物の散布を避けることができる(以上、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2019/003712号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、圃場内ではトラクタといった作業車両が境界線で折り返す度に作業の切り替わりが発生することがある。例えば、作業車両は境界線で折り返す前までは圃場に肥料を散布し、境界線で折り返した後は圃場に薬剤を散布することがある。
【0005】
上述したGPSの位置情報の場合、通信周期の関係で作業車両の圃場内での折り返しを正確に測位できないことがある。この結果、境界線で折り返す前に薬剤を散布し始めることもあれば、折り返した後においても肥料を散布し続けることもある。このように、GPSの位置情報の場合、作業車両が圃場内で行う作業の切り替わりを精度良く検出することができない。
【0006】
そこで、本発明では、作業車両が圃場内で行う作業の切り替わりを精度良く検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る作業車両の制御装置は、原動機と、前記原動機の動力に基づいて作業機を駆動する駆動機構と、を備える作業車両の制御装置であって、前記制御装置は、前記作業車両の舵角を取得し、前記舵角が、前記作業車両が圃場内で行う作業の切り替わりを表す所定角以上である場合に、前記切り替わりを検出し、前記作業車両の走行に基づいて検出又は算出可能な走行情報を取得し、前記切り替わりを検出してから次の前記切り替わりを検出するまでの前記走行情報に基づいて、前記作業車両の走行中の作業内容を特定する。
【0009】
上記構成において、前記制御装置は、前記作業車両のイグニッションスイッチがオンされてからオフされるまでの車両稼時間を取得し、前記車両稼働時間に基づいて、前記作業車両が稼働する季節を推定し、推定した前記季節と前記走行情報とに基づいて、前記作業内容を特定してもよい。
【0010】
上記構成において、前記制御装置は、前記作業車両の走行中に前記作業車両の異常を検出した場合、特定した前記作業内容に基づいて、前記作業車両を安全な場所まで退避させる退避走行の退避走行モードを変更してもよい。
【0011】
上記構成において、走行情報は、前記原動機の消費エネルギー、前記作業車両の移動距離、前記作業車両の車速の少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0012】
上記構成において、前記制御装置は、前記作業機を駆動する駆動力と前記作業車両の車速との関係を前記作業内容毎に定める複数の駆動力マップのいずれかを、特定した前記作業内容に応じた前記駆動力マップに変更してもよい。
【0013】
上記構成において、前記制御装置は、前記作業車両がGPSを備えているか否かに関わらず、前記圃場内では前記舵角が前記所定角以上である場合に、前記切り替わりを検出してもよい。
【0014】
上記構成において、前記作業車両は、エンジンを備えずにモータを備える電動車両であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、作業車両が行う作業の切り替わりを精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は作業車両の構成を示すブロック図である。
図2図2は第1実施形態に係るHVECUが実行する処理を例示するフローチャートである。
図3図3は作業車両の走行例を説明する図である。
図4図4(a)は第2実施形態に係るHVECUが実行する処理の一部を例示するフローチャート(その1)である。図4(b)は第2実施形態に係るHVECUが実行する処理の一部を例示するフローチャート(その2)である。
図5図5は公道用の駆動力マップの一例である。
図6図6(a)は第1の作業内容に応じた圃場用の駆動力マップの一例である。図6(b)は第2の作業内容に応じた圃場用の駆動力マップの一例である。図6(c)は第3の作業内容に応じた圃場用の駆動力マップの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図1に示すように、作業車両100は、バッテリ34から供給される電力を駆動力として用いて作業機24を牽引しながら走行するPHV(Plug-in Hybrid Vehicle:プラグインハイブリッド自動車)型の農業車両である。農業車両としては、例えばトラクタ、コンバインや田植機等がある。
【0019】
本実施形態では、作業車両100の型式の一例として、PHV型を説明するが、HV(Hybrid Vehicle:ハイブリッド自動車)型であってもよい。また、作業車両100の型式は、EV(Electric Vehicle:電気自動車)型であってもよいし、FCV(Fuel Cell Vehicle:燃料電池自動車)型であってもよい。
【0020】
作業車両100では、原動機としてのエンジン10及びモータ(具体的にはモータジェネレータ)12が動力伝達経路上に直列に配置されている。エンジン10は燃料の燃焼エネルギーを消費することによって回転動力を出力する。モータ12は電気エネルギーを消費することによって回転動力を出力する。モータ12と後方駆動輪14,16との間に、クラッチ18、変速機20、及びデファレンシャルギア22が設けられている。変速機20と作業機24との間にPTO(Power Take Off)機構(図1では単にPTOと表記)26が設けられている。
【0021】
エンジン10は、燃料(例えばガソリンや軽油等の炭化水素系)の燃焼によって、クランクシャフト28から回転動力を出力する。クランクシャフト28の回転動力は、モータ12の回転軸に伝達されると共に、クラッチ18を介して変速機20の入力軸に伝達される。エンジン10は、各種センサ(エンジン回転センサ等)、アクチュエータ(スロットバルブを駆動させるアクチュエータ等)を有する。エンジン10はエンジンECU(Electronic Control Unit)30に接続されている。エンジン10はエンジンECU30によって制御される。
【0022】
モータ12は、電動機として駆動すると共に発電機としても駆動する。モータ12の回転軸は、エンジン10のクランクシャフト28と一体に回転し、クラッチ18の入力側部材と一体に回転する。モータ12はインバータ32を介してバッテリ34と電力のやり取りを行う。モータ12はエンジン10からクランクシャフト28に出力された回転動力を用いて発電し、バッテリ34を充電することができる。モータ12は変速機20からの回転動力を用いて回生し、バッテリ34を充電することもできる。モータ12はバッテリ34からの電力を用いて回転動力をクランクシャフト28及び変速機20に出力することもできる。
【0023】
クラッチ18は、モータ12から変速機20への回転動力を段接する装置である。クラッチ18は変速機ECU36に接続されている。クラッチ18は変速機ECU36によって制御される。
【0024】
変速機20は、エンジン10及びモータ12の一方又は両方から出力された回転電力がクラッチ18を介して入力されると共に、入力された回転電力を変速してデファレンシャルギア22を介して後方駆動輪14,16に伝達する機構である。変速機20は、入力された回転電力をデファレンシャルギア22又はPTO機構26に向けて選択的に出力することができる。変速機20はギア比の異なる歯車機構を同期装置によって選択可能な構成を有している。変速機20に入力された回転電力は、選択された歯車機構によって変速されてデファレンシャルギア22に出力される。また、同期装置によってPTO機構26が選択された場合、変速機20は、変速機20に入力された回転電力をPTO機構26を介して作業機24に出力する。変速機20は同期装置を駆動するアクチュエータを有している。変速機20は変速機ECU36に接続されている。変速機20は変速機ECU36によって制御される。
【0025】
PTO機構26は変速機20から出力された回転動力を取り出して、作業機24駆動する駆動機構である。作業機24は圃場における各種の作業を行う装置である。作業機24の種類は特に限定されない。例えば、作業機24は肥料や薬剤等の散布物を散布する回転体を含む散布装置であってもよいし、農作物等の種を圃場にまく播種装置であってもよい。作業機24は耕耘する耕耘装置であってもよいし、収穫を行う収穫装置であってもよい。作業機24は牧草等の刈取を行う刈取装置であってもよいし、牧草等の拡散を行う拡散装置であってもよい。作業機24は牧草等の集草を行う集草装置であってもよいし、牧草等の成形を行う成形装置であってもよい。PTO機構26から出力された回転動力が、作業機24における油圧ポンプや歯車機構等に入力されることで、作業機24が作動する。作業機24はバッテリ34が供給する電力を用いて作動することもできる。
【0026】
インバータ32は、モータECU38からの制御信号に応じて、モータ12の各種動作(例えば駆動動作、発電動作、回生動作など)を制御する。インバータ32はコンバータを介してバッテリ34に接続されている。バッテリ34は充電と放電が可能な充電装置である。バッテリ34としては例えばリチウムイオン二次電池がある。バッテリ34はリチウムイオン二次電池以外の二次電池であってもよい。バッテリ34は電力を主駆動力として走行するために十分な充電容量と放電能力とを有する。また、バッテリ34は大きな電力を有する作業機24を連続して動作させるために十分な充電容量と放電能力とを有する。
【0027】
エンジンECU30はエンジン10の動作を制御する。エンジンECU30は、エンジン10に内蔵された各種アクチュエータ、各種センサ、及び、HVECU44に接続されている。モータECU38はインバータ32を介してモータ12の動作を制御する。また、モータECU38はバッテリ34のSOC(State of Charge:蓄電割合)を検出する。モータECU38は、インバータ32、充電器40、及び、HVECU44に接続されている。
【0028】
なお、作業車両100にバッテリECUを設け、バッテリECUがバッテリ34のSOC(State of Charge:蓄電割合)を算出し、モータECU38がバッテリECUのSOCを検出してもよい。例えばバッテリECUは後述する電流センサ52により検出された入出力電流の積算値に基づいてそのときのバッテリ34から放電可能な電力の容量の全容量に対する割合であるSOC(State of Charge:蓄電割合)を算出することができる。バッテリECUは後述する電圧センサ54により検出された端子間電圧と、端子間電圧とSOCの関係を示した所定のマップに基づいてSOCを算出することもできる。バッテリECUはこれら2種類のSOCを比較して、一定以上の差異が発生した場合には、一方のSOCを補正した補正後のSOCを採用することもできる。なお、バッテリECUはパワースイッチを含む後述するイグニッションスイッチがオンされた時刻とオフされた時刻も計測することができ、これにより、作業車両100の車両稼働時間を特定することができる。
【0029】
充電器40は外部電源(例えば商用電源)と接続可能な電源ケーブル42が接続されている。充電器40は外部電源から供給された電力によってバッテリ34を充電する。充電器40はバッテリ34を充電するための十分な充電能力を有し、また、PTO機構26の最大出力に必要な電力を供給する能力を有する。
【0030】
変速機ECU36は、クラッチ18と変速機20の動作を制御する。変速機ECU36は、各種アクチュエータ、各種センサ、及び、HVECU44に接続されている。HVECU44は、エンジンECU30、変速機ECU36、及び、モータECU38の動作を制御する。HVECU44は、舵角センサ48、車速センサ50、電流センサ52、電圧センサ54といった各種センサや、GPS56、不図示のナビゲーション装置に接続されている。なお、図1では、HVECU44にGPS56及びナビゲーション装置が接続されているが、作業車両100にGPS56及びナビゲーション装置を設けなくてもよい。この場合、HVECU44にGPS56及びナビゲーション装置は接続されない。
【0031】
舵角センサ48は不図示の前方駆動輪又は操舵機構の操舵角を検出するセンサである。車速センサ50は作業車両100の走行情報の1つである車速を検出するセンサである。電流センサ52はバッテリ34の出力端子に接続された電力ラインに取り付けられており、バッテリ34の入出力電流(具体的には充電電流や放電電流)を検出するセンサである。電圧センサ54はバッテリ34の端子間に設置されており、バッテリ34の端子間電圧を検出するセンサである。GPS56はGPS衛星が発信する電波を受信し、受信した電波に基づいて地表又は地図上における作業車両100の現在位置を測位する装置である。ナビゲーション装置は道路情報や地図情報などを記憶する。
【0032】
また、HVECU44は、例えばイグニッションスイッチを含む各種スイッチ、操作部46、エンジンECU30、変速機ECU36、及び、モータECU38に接続されている。HVECU44は、作業車両100の状況に応じて、後述するフローチャートに応じたプログラムを実行することで、エンジンECU30、変速機ECU36、及び、モータECU38に対して制御信号を出力する。HVECU44は、エンジンECU30を介してエンジン10の始動や停止を制御し、モータECU38を介してモータ12の駆動や発電や回生を制御する。
【0033】
なお、エンジンECU30、モータECU38、変速機ECU36、及びHVECU44はいずれもCPU(Central Processing Unit)を中心とするマイクロプロセッサとして構成されている。これらの各ECUは、CPUの他に、プログラムや各種のマップを記憶するROM(Read Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)、入力ポート、出力ポート、通信ポートなどを備える。なお、ROMはEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)といった不揮発性メモリを含んでいる。
【0034】
エンジンECU30はHVECU44からの制御信号に応じて、予め定められたプログラムを実行することでエンジン10の動作を制御する。モータECU38は、HVECU44からの制御信号に応じて、予め定められたプログラムを実行することでモータ12の動作を制御する。モータECU38は、HVECU44からの制御信号に応じて、予め定められたプログラムを実行することで充電器40の動作を制御する。変速機ECU36は、HVECU44からの制御信号に応じて、予め定められたプログラムを実行することでクラッチ18と変速機20を制御する。
【0035】
操作部46はPTO機構26におけるPTO軸の回転速度(又は駆動速度)を調整又は設定するPTO変速レバーを含んでいる。PTO変速レバーによりPTO軸の回転速度を回転速度が最遅の第1速から回転速度が最速の第4速までの4段階で調整することができる。また、PTO変速レバーによりPTO軸の回転速度を0(ゼロ)とする中立(ニュートラル)に設定することもできる。
【0036】
なお、図1において、作業車両100の型式がEV型又はPEV(Plug-in Electric Vehicle:プラグイン電気自動車)型である場合には、HVECU44に代えて、作業車両100にEVECUを設ければよい。この場合、作業車両100はエンジン10、エンジンECU30、クランクシャフト28を備えていなくてもよい。
【0037】
次に、図2及び図3を参照して、第1実施形態に係るHVECU44が実行する処理について説明する。HVECU44は、イグニッションスイッチがオンとなっている間、作業車両100の走行及び停車に関わらず、定期的に(例えば1秒周期など)各種の処理を実行する。
【0038】
まず、図2に示すように、HVECU44は圃場での作業を開始したか否かを判断する(ステップS1)。例えば、図3に示すように、作業車両100が公道を走行する場合、作業車両100が圃場内を走行する場合に比べて、車速が高速になる。したがって、作業車両100の車速が公道の走行を表す所定値以上であれば、HVECU44は圃場での作業を開始していないと判断し(ステップS1:NO)、処理を終了する。なお、作業車両100がGPS56を搭載している場合には、HVECU44はGPS56の位置情報とナビゲーション装置の地図情報とに基づく圃場への入場の有無により、作業を開始したか否かを判断してもよい。
【0039】
一方、作業車両100の車速が上記所定値未満であれば、HVECU44は圃場での作業を開始したと判断する(ステップS1:YES)。この場合、HVECU44は舵角を取得し(ステップS2)、舵角が、作業車両100が圃場内で行う作業の切り替わりを表す所定角以上であるか否かを判断する(ステップS3)。舵角が所定角未満である場合(ステップS3:NO)、ステップS2の処理に戻る。したがって、舵角が所定角以上になるまで、ステップS2,S3の処理が繰り返される。
【0040】
舵角が所定角以上である場合(ステップS3:YES)、切替し回数をインクリメントし(ステップS4)、作業の切り替わりを検出する(ステップS5)。図3に示すように、圃場内を走行する作業車両100は、圃場の縁の近傍に到達すると、進路を折り返して、今までの進行方向とは正反対に走行する。圃場の縁は、圃場と公道や私道(例えば2つの圃場間に位置する農道など)の境界であってもよいし、自分の圃場と他人の圃場との境界であってもよい。
【0041】
より詳しくは、作業車両100が作業開始位置STを起点に作業開始位置STから遠ざかるように横方向に走行し、作業車両100が圃場の縁の近傍に到達すると、まず、進行方向を右方向に90度切替し(即ち右折し)、横方向に走行した第1距離より短い第2距離を縦方向に走行する。これにより、切替し回数が1回になる。そして、作業車両100は第2距離を走行し終えると、進行方向を右方向に90度切替し、再び横方向に走行する。これにより、切替し回数が2回になる。
【0042】
このように、作業車両100が進路を折り返す際には、作業車両100は2度の切替しによって進路を折り返す。このような切替し回数はGPS56の位置情報では通信周期の関係上、正確に計測することができない。ここで、作業車両100によっては、圃場の縁で折り返す前までは肥料や薬剤等の散布物を散布し、圃場の縁で折り返した後は農作物等の種を圃場にまくことがある。この場合、横方向から縦方向への走行に進路を変更する1度目の切替しによって、次の横方向の走行では別の作業が発生すると想定することができる。すなわち、散布物の散布から種まきに作業が切り替わると想定することができる。したがって、舵角が所定角以上である場合には、作業の切り替わりを検出することができる。
【0043】
作業の切り替わりを検出すると、HVECU44は移動距離を算出する(ステップS6)。HVECU44は、車速センサ50が検出した車速と走行時間とに基づいて、走行情報の1つである移動距離を算出することができる。移動距離を算出すると、HVECU44は移動距離が所定値未満であるか否かを判断する(ステップS7)。当該所定値は縦方向の移動距離を表している。移動距離が所定値以上である場合(ステップS7:NO)、HVECU44は、作業車両100の走行方向が横方向であると判断でき、横方向の平均車速と平均消費電力を算出する(ステップS8)。
【0044】
作業車両100の走行情報としての車速や消費電力は圃場の粘度や刈取対象の種類等によって一時的に上昇することもあれば、下降することもある。このため、HVECU44は平均車速と平均消費電力を算出する。平均車速は、例えば作業車両100の横方向の走行中における車速の推移と車速の検出回数に基づいて、算出することができる。平均消費電力は、例えばバッテリ34の作業開始位置STにおけるSOCと作業車両100の切替し時におけるSOCとの差として算出することができる。平均消費電力を前回の切替し時におけるSOCと今回の切替し時におけるSOCとの差として算出してもよい。
【0045】
一方、移動距離が所定値未満である場合(ステップS7:YES)、HVECU44は、作業車両100の走行方向が縦方向であると判断でき、縦方向の平均車速と平均消費電力を算出する(ステップS9)。縦方向の平均車速と平均消費電力の算出は、基本的に、横方向の平均車速と平均消費電力の算出と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0046】
平均車速と平均消費電力を算出すると、HVECU44は、作業内容を特定する(ステップS10)。作業車両100の場合、乗用車と異なり、作業車両100が牽引する作業機24の種類が変わることにより平均車速が変化する。同様に、作業機24の種類が変わることにより、作業機24を駆動するために消費する平均消費電力も変化する。したがって、ステップS8の処理により、横方向の平均車速と平均消費電力が算出されると、横方向の平均車速と平均消費電力に応じた作業機24の種類を特定することができる。これにより、HVECU44は作業内容を特定することができる。なお、ステップS9の処理により、縦方向の平均車速と平均消費電力が算出された場合、例えば作業内容を作業の切り替わり中として特定してもよい。
【0047】
作業内容を特定すると、HVECU44は圃場での作業を終了したか否かを判断する(ステップS11)。例えば、切替し回数が圃場一面に相当する切替し回数を表す所定回数に到達したか否かによって、HVECU44は圃場での作業を終了したか否かを判断する。切替し回数が所定回数に到達していない場合、HVECU44は圃場での作業を終了していないと判断する(ステップS11:NO)。この場合、ステップS2に戻り、HVECU44は後続の処理を繰り返す。
【0048】
一方、切替し回数が所定回数に到達している場合、HVECU44は圃場での作業を終了したと判断し(ステップS11:YES)、上述した各処理を終了する。例えば、図3に示すように、作業終了位置GLに作業車両100が到達して右方向(又は左方向)に1度切替せば、HVECU44は圃場での作業を終了したと判断することができる。
【0049】
このように、作業車両100がGPS56を備えているか否かに関わらず、圃場内では、HVECU44は、作業車両100の舵角を取得し、該舵角が所定角以上である場合に、作業車両100が圃場内で行う作業の切り替わりを検出する。これにより、圃場内ではGPS56の位置情報を使用しなくても、作業の切り替わりを精度良く検出することができる。
【0050】
また、HVECU44はバッテリECUが特定した作業車両100の稼働時間を取得することにより、作業車両100が稼働する季節を推定することができる。例えば、稼働時間が所定時間以上であれば、日照時間が長いと想定され、季節が夏であると推定することができる。これにより、ステップS10で特定した作業内容に数種類の可能性があれば、夏に行われる作業内容に絞り込むことができ、作業内容の特定精度を高めることができる。
【0051】
さらに、特定した作業内容に基づいて、HVECU44は作業車両100を安全な場所まで退避させる退避走行の退避走行モードを変更してもよい。例えば、圃場が田圃(たんぼ)であり、作業車両100の走行中にHVECU44が作業車両100の車両異常として漏電ダイアグを検出した場合、田圃に水が張っていない季節であれば、HVECU44は作業車両100を停止させ、作業者に作業車両100からの退避を警告音などで報知してもよい。一方で、田圃に水が張っている季節であれば、田圃には漏電による電気的な危険性が発生する可能性がある。このため、HVECU44は作業車両100を停止させずに退避走行に移行する。これにより、作業者は作業車両100からの降車を躊躇する。
【0052】
また、作業車両100がEV型又はPEV(Plug-in Electric Vehicle:プラグイン電気自動車)型の電動農業車両である場合、エンジン10を有しないため、SOCが枯渇すると、作業車両100が作業の途中で停止することがある。また、この場合、作業車両100が圃場内から圃場外への退場が困難になるおそれもある。しかしながら、EVECUが平均消費電力を算出して管理することで、SOCの枯渇を回避することができ、作業途中での作業車両100の停止を抑制することができ、また、圃場内から圃場外への円滑な退場も確保することができる。
【0053】
(第2実施形態)
図4から図6を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。なお、図4(a)及び(b)において、図2と同一の処理には同一の符号を付して破線で示し、詳細な説明を省略する。
【0054】
まず、図4(a)に示すように、上述したステップS11において、HVECU44が圃場での作業を終了したと判断した場合、公道用の駆動力マップに変更して(ステップS21)、処理を終了する。より詳しくは、HVECU44はPTO機構26の駆動力マップを圃場用の駆動力マップから公道用の駆動力マップに変更する。
【0055】
公道用の駆動力マップは、図5に示すように、PTO軸の回転速度を第1速から第4速のどの回転速度に調整しても、駆動力が0(ゼロ)となるマップである。一方、詳細は後述するが、圃場用の駆動力マップは、PTO軸の回転速度を第1速から第4速のいずれかの回転速度に調整すると、調整した回転速度に応じた駆動力を出力するマップである。なお、駆動力マップは,事前に一定の回転速度を入力とした時に出力される作業車両100の車速とPTO機構26の駆動力を作業内容毎に記録することによって作成することができる。駆動力マップはHVECU44のROMに格納されて管理される。
【0056】
これにより、作業車両100が圃場での作業を終了して圃場内から圃場外へ退場して公道を走行しても、PTO機構26の駆動力が発生せず、作業機24は作動しない。これにより、公道走行中に作業者が操作部46におけるPTO変速レバーを誤って操作しても、作業機24が散布物や泥などをまき散らすことを回避することができる。また、作業機24を作動させないことで、作業車両100の近傍を歩行する歩行者に危険が及ぶことも回避できる。
【0057】
また、図4(b)に示すように、上述したステップS1において、HVECU44が圃場での作業を開始したと判断した直後に、圃場用の作業内容別の駆動力マップに変更してから(ステップS22)、ステップS2以後の処理を実行する。より詳しくは、HVECU44はPTO機構26の駆動力マップを公道用の駆動力マップから圃場用の作業内容別の駆動力マップに変更してから、ステップS2以後の処理を実行する。HVECU44は、圃場用の作業内容別の駆動力マップに変更する際、ステップS10の処理で特定した作業内容に基づいて、特定した作業内容に応じた駆動力マップを選択する。
【0058】
圃場用の駆動力マップは、図6(a)乃至(c)に示すように、PTO機構26に含まれるPTO軸の回転速度を第1速から第4速のいずれかの回転速度に調整すると、調整した回転速度に応じた駆動力を出力するマップである。例えば、特定した作業内容がPTO軸の回転速度の繊細な調整が求められる第1の作業内容である場合、図6(a)に示すように、HVECU44は第1の作用内容に応じた駆動力マップを選択する。第1の作業内容としては、例えば野菜の収穫などがある。
【0059】
例えば、特定した作業内容がPTO軸の回転速度の急峻な調整が求められる第2の作業内容である場合、図6(b)に示すように、HVECU44は第2の作用内容に応じた駆動力マップを選択する。第2の作業内容としては、例えば圃場の耕耘などがある。一方、上述した第1の作業内容や第2の作業内容と異なる通常の作業に相当する第3の作用内容である場合には、図6(c)に示すように、HVECU44は第3の作用内容に応じた駆動力マップを選択する。第2の作業内容としては、例えば肥料や薬剤といった散布物の散布などがある。このように、第2実施形態によれば、特定した作業内容に応じて、PTO機構26に含まれるPTO軸の駆動力を動的に制御することができる。
【0060】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0061】
例えば、GPS56に代えて、圃場に入場した際に作業車両100に搭乗する作業者に押下してもらうボタンスイッチを操作部46に含めてもよい。この場合、HVECU44はステップS1の処理でボタンスイッチの押下を検出した場合に、圃場での作業開始を判断してもよい。また、上述した実施形態では、HVECU44、エンジンECU30、モータECU38など複数のECUが連携して各種の制御や処理を行ったが、1つのECUが単独で上述した各種の制御や処理を行ってもよい。さらに、上述した実施形態では、所定角の一例として90度を用いて説明したが、所定角は90度に限定されず、例えば88度や92度、またこれらの角度の範囲などであってもよい。
【符号の説明】
【0062】
10 エンジン(原動機)
12 モータ(原動機)
24 作業機
26 PTO機構(駆動機構)
44 HVECU(制御装置)
48 舵角センサ
50 車速センサ
52 電流センサ
54 電圧センサ
56 GPS
100 作業車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6