(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】電子写真感光体、プロセスカートリッジ、及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 5/05 20060101AFI20241008BHJP
G03G 5/047 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
G03G5/05 101
G03G5/047
(21)【出願番号】P 2021082267
(22)【出願日】2021-05-14
【審査請求日】2024-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆彰
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-184700(JP,A)
【文献】特開2000-267317(JP,A)
【文献】特開平11-174695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/05
G03G 5/047
G03G 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体と、
前記導電性基体上に設けられ、電荷発生材料とビニル系共重合体とを含有し、前記ビニル系共重合体が、塩素を有する構成単位とアシルオキシ基を有する構成単位と芳香族ポリカルボン酸構造を有する構成単位とを含み、全構成単位に対する前記塩素を有する構成単位の割合が80質量%以上であり、全構成単位に対する前記芳香族ポリカルボン酸構造を有する構成単位の割合が0.5質量%以上である、電荷発生層と、
前記電荷発生層上に設けられ、電荷輸送材料と結着樹脂とを含有する電荷輸送層と、
を有する電子写真感光体。
【請求項2】
前記塩素を有する構成単位の割合は、前記ビニル系共重合体を構成する全構成単位に対し88質量%以下である、請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記塩素を有する構成単位の割合は、前記ビニル系共重合体を構成する全構成単位に対し80質量%以上87質量%以下である、請求項2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
導電性基体と、
前記導電性基体上に設けられ、電荷発生材料とビニル系共重合体とを含有し、前記ビニル系共重合体が、塩素を有する構成単位とアシルオキシ基を有する構成単位と芳香族ポリカルボン酸構造を有する構成単位とを含み、30℃のテトラヒドロフラン100質量部に対する前記ビニル系共重合体の溶解度が10質量部以下である、電荷発生層と、
前記電荷発生層上に設けられ、電荷輸送材料と結着樹脂とを含有する電荷輸送層と、
を有する電子写真感光体。
【請求項5】
前記ビニル系共重合体を構成する全構成単位に対する前記芳香族ポリカルボン酸構造を有する構成単位の割合をA質量%とし、前記ビニル系共重合体に対する前記電荷発生材料の含有量をC質量%としたとき、A/Cの値が3.00×10
-3以上1.40×10
-2以下である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記塩素を有する構成単位が下記一般式(1)で表され、前記アシルオキシ基を有する構成単位が下記一般式(2)で表される、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【化1】
[前記一般式(1)中、R
11~R
13はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、前記一般式(2)中、R
21~R
23はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R
24は炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。]
【請求項7】
前記一般式(1)中のR
11~R
13がいずれも水素原子であり、前記一般式(2)中のR
21~R
23がいずれも水素原子、R
24がメチル基である、請求項6に記載の電子写真感光体。
【請求項8】
前記芳香族ポリカルボン酸構造を有する構成単位が、フタル酸構造を有する構成単位である、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の電子写真感光体を備え、
画像形成装置に着脱するプロセスカートリッジ。
【請求項10】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、
前記電子写真感光体の表面を帯電する帯電手段と、
帯電した前記電子写真感光体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、
トナーを含む現像剤により、前記電子写真感光体の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、
前記トナー像を記録媒体の表面に転写する転写手段と、
を備える画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体、プロセスカートリッジ、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、導電性支持体上に、少なくとも、電荷発生層および電荷輸送層からなる積層型感光層を有する電子写真感光体において、電荷発生層に、2個以上のカルボキシル基を分子中に有する多塩基酸化合物からなる吸湿剤が含まれていることを特徴とする電子写真感光体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
導電性基体上に電荷発生層及び電荷輸送層がこの順に設けられた電子写真感光体は、例えば、導電性基体上に電荷発生層を形成した後、溶剤を含む電荷輸送層形成用塗布液を電荷発生層上に塗布し、乾燥させることで、電荷輸送層を形成する。そして、電荷発生層が電荷発生材料とビニル系共重合体とを含有する場合、電荷発生層上に電荷輸送層形成用塗布液を塗布すると、電荷輸送層形成用塗布液中の溶剤によって電荷発生層中のビニル系共重合体の一部が溶解することがある。
【0005】
そして、電荷輸送層形成用塗布液を電荷発生層上に塗布する工程においては、一般的に浸漬塗布法が用いられる。浸漬塗布法では、外周面に電荷発生層が形成された導電性基体を、導電性基体の軸方向一端が下方に向いた状態で、電荷輸送層形成用塗布液に浸漬し、引き上げる。それにより、電荷発生層上に電荷輸送層形成用塗布液が付着する。
そのため、導電性基体の軸方向において、下方側の端部と上方側の端部とでは、電荷発生層上に電荷輸送層形成用塗布液が付着した時間が異なる。それにより、電子写真感光体の軸方向一端と多端とで電気特性に差が出ることがあり、電気特性の中でも感度に差が出ることによって、その差が画像濃度差として表れることがある。
【0006】
本発明は、電荷発生層が電荷発生材料とビニル系共重合体とからなり、ビニル系共重合体が塩素を有する構成単位とアシルオキシ基を有する構成単位とマレイン酸に由来する構成単位とからなる場合、全構成単位に対する塩素を有する構成単位の割合が80質量%未満である場合、全構成単位に対する前記芳香族ポリカルボン酸構造を有する構成単位の割合が0.5質量%未満である場合、又はテトラヒドロフラン100質量部に対するビニル系共重合体の溶解度が10質量部超えである場合に比べ、電子写真感光体の軸方向における画像濃度差が抑制される電子写真感光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための具体的手段には、下記の態様が含まれる。
【0008】
<1>
導電性基体と、
前記導電性基体上に設けられ、電荷発生材料とビニル系共重合体とを含有し、前記ビニル系共重合体が、塩素を有する構成単位とアシルオキシ基を有する構成単位と芳香族ポリカルボン酸構造を有する構成単位とを含み、全構成単位に対する前記塩素を有する構成単位の割合が80質量%以上であり、全構成単位に対する前記芳香族ポリカルボン酸構造を有する構成単位の割合が0.5質量%以上である、電荷発生層と、
前記電荷発生層上に設けられ、電荷輸送材料と結着樹脂とを含有する電荷輸送層と、
を有する電子写真感光体。
<2>
前記塩素を有する構成単位の割合は、前記ビニル系共重合体を構成する全構成単位に対し88質量%以下である、<1>に記載の電子写真感光体。
<3>
前記塩素を有する構成単位の割合は、前記ビニル系共重合体を構成する全構成単位に対し80質量%以上87質量%以下である、<2>に記載の電子写真感光体。
【0009】
<4>
導電性基体と、
前記導電性基体上に設けられ、電荷発生材料とビニル系共重合体とを含有し、前記ビニル系共重合体が、塩素を有する構成単位とアシルオキシ基を有する構成単位と芳香族ポリカルボン酸構造を有する構成単位とを含み、30℃のテトラヒドロフラン100質量部に対する前記ビニル系共重合体の溶解度が10質量部以下である、電荷発生層と、
前記電荷発生層上に設けられ、電荷輸送材料と結着樹脂とを含有する電荷輸送層と、
を有する電子写真感光体。
【0010】
<5>
前記ビニル系共重合体を構成する全構成単位に対する前記芳香族ポリカルボン酸構造を有する構成単位の割合をA質量%とし、前記ビニル系共重合体に対する前記電荷発生材料の含有量をC質量%としたとき、A/Cの値が3.00×10-3以上1.40×10-2以下である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
<6>
前記塩素を有する構成単位が下記一般式(1)で表され、前記アシルオキシ基を有する構成単位が下記一般式(2)で表される、<1>~<5>のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【0011】
【0012】
前記一般式(1)中、R11~R13はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、前記一般式(2)中、R21~R23はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R24は炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。
<7>
前記一般式(1)中のR11~R13がいずれも水素原子であり、前記一般式(2)中のR21~R23がいずれも水素原子、R24がメチル基である、<6>に記載の電子写真感光体。
<8>
前記芳香族ポリカルボン酸構造を有する構成単位が、フタル酸構造を有する構成単位である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
<9>
<1>~<8>のいずれか1つに記載の電子写真感光体を備え、
画像形成装置に着脱するプロセスカートリッジ。
<10>
<1>~<8>のいずれか1つに記載の電子写真感光体と、
前記電子写真感光体の表面を帯電する帯電手段と、
帯電した前記電子写真感光体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、
トナーを含む現像剤により、前記電子写真感光体の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、
前記トナー像を記録媒体の表面に転写する転写手段と、
を備える画像形成装置。
【発明の効果】
【0013】
<1>に係る発明によれば、電荷発生層が電荷発生材料とビニル系共重合体とからなり、ビニル系共重合体が塩素を有する構成単位とアシルオキシ基を有する構成単位とマレイン酸に由来する構成単位とからなる場合、全構成単位に対する塩素を有する構成単位の割合が80質量%未満である場合、又は全構成単位に対する前記芳香族ポリカルボン酸構造を有する構成単位の割合が0.5質量%未満である場合に比べ、電子写真感光体の軸方向における画像濃度差が抑制される電子写真感光体が提供される。
<2>に係る発明によれば、塩素を有する構成単位の割合が88質量%を超える場合に比べ、感度の高い電子写真感光体が提供される。
<3>に係る発明によれば、塩素を有する構成単位の割合が80質量%未満又は87質量%超えである場合に比べ、電子写真感光体の軸方向における画像濃度差の抑制と高い感度とを両立する電子写真感光体が提供される。
【0014】
<4>に係る発明によれば、電荷発生層が電荷発生材料とビニル系共重合体とからなり、テトラヒドロフラン100質量部に対するビニル系共重合体の溶解度が10質量部超えである場合に比べ、電子写真感光体の軸方向における画像濃度差が抑制される電子写真感光体が提供される。
【0015】
<5>に係る発明によれば、A/Cの値が3.00×10-3未満である場合に比べ、電子写真感光体の軸方向における画像濃度差が抑制される電子写真感光体が提供される。
<6>、<7>、又は<8>に係る発明によれば、ビニル系共重合体が塩素を有する構成単位とアシルオキシ基を有する構成単位とマレイン酸に由来する構成単位とからなる場合に比べ、電子写真感光体の軸方向における画像濃度差が抑制される電子写真感光体が提供される。
【0016】
<9>又は<10>に係る発明によれば、ビニル系共重合体が塩素を有する構成単位とアシルオキシ基を有する構成単位とマレイン酸に由来する構成単位とからなる場合に比べ、電子写真感光体の軸方向における画像濃度差が抑制される電子写真感光体を備えたプロセスカートリッジ又は画像形成装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る電子写真感光体の層構成の一例を示す概略部分断面図である。
【
図2】本実施形態に係る画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
【
図3】本実施形態に係る画像形成装置の他の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0019】
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0020】
[電子写真感光体]
(第一実施形態)
第一実施形態に係る電子写真感光体(以下「感光体」ともいう)は、導電性基体と、導電性基体上に設けられ、電荷発生材料とビニル系共重合体とを含有する電荷発生層と、電荷発生層上に設けられ、電荷輸送材料と結着樹脂とを含有する電荷輸送層と、を有する。
そして、ビニル系共重合体は、塩素を有する構成単位(以下「塩素含有成分」ともいう)と、アシルオキシ基を有する構成単位(以下「アシルオキシ成分」ともいう)と、芳香族ポリカルボン酸構造を有する構成単位(以下「芳香族ポリカルボン酸成分」ともいう)と、を含む。そして、ビニル系共重合体における、全構成単位に対する塩素含有成分の割合が80質量%以上であり、全構成単位に対する芳香族ポリカルボン酸成分の割合が0.5質量%以上である。
【0021】
ここで、「塩素含有成分(すなわち、塩素を有する構成単位)」は、塩素原子を有し、かつ、アシルオキシ基及び2以上のカルボキシ基を有さない構成単位であり、その他の置換基(例えばアルキル基等)を有していてもよい。また、「アシルオキシ成分(すなわち、アシルオキシ基を有する構成単位)」は、アシルオキシ基を有し2以上のカルボキシ基を有さない構成単位であればよく、その他の置換基(例えばアルキル基等)を有していてもよい。また、「芳香族ポリカルボン酸成分(すなわち、芳香族ポリカルボン酸構造を有する構成単位)」は、芳香族ポリカルボン酸構造を有する構成単位であればよく、カルボキシ基以外の置換基(例えばアルキル基等)を有していてもよい。
【0022】
第一実施形態に係る感光体は、上記構成であることにより、感光体の軸方向における画像濃度差が抑制される。その理由は以下のように推測される。
前記の通り、導電性基体に設けられた電荷発生層上に電荷輸送層を形成する場合、一般的には、浸漬塗布法により電荷輸送層形成用塗布液を電荷発生層上に塗布し、乾燥させることで、電荷輸送層を形成する。このとき、電荷発生層に含まれるビニル系共重合体の一部が電荷輸送層形成用塗布液中の溶剤によって溶解することがある。浸漬塗布法では、電荷発生層上に電荷輸送層形成用塗布液が付着した時間が、導電性基体の軸方向における下方側の端部と上方側の端部とで異なる。そのため、感光体の軸方向一端と他端とで感度に差が出ることがあり、その感度の差が画像濃度差として表れることがある。
【0023】
これに対して、第一実施形態では、ビニル系共重合体における、全構成単位に対する塩素含有成分の割合が80質量%以上であり、全構成単位に対する芳香族ポリカルボン酸成分の割合が0.5質量%以上である。塩素含有成分の割合が80質量%以上であり、かつ、芳香族ポリカルボン酸成分の割合が0.5質量%以上であることで、ビニル系共重合体が電荷輸送層形成用塗布液中の溶剤に溶解しにくくなると考えられる。
具体的には、ビニル系共重合体が芳香族ポリカルボン酸成分を含むことで、芳香族ポリカルボン酸成分の代わりにマレイン酸等の脂肪族ポリカルボン酸に由来する構成単位を含む場合に比べ、ビニル系共重合体の化合物安定性が高く、ビニル系共重合体が溶剤に溶解しにくくなる。また、芳香族ポリカルボン酸成分の割合が0.5質量%未満である場合に比べても、同様に、ビニル系共重合体が芳香族ポリカルボン酸成分を0.5質量%以上含むことで、ビニル系共重合体が溶剤に溶解しにくくなる。さらに、ビニル系共重合体が塩素含有成分を80質量%以上含むことで、80質量%未満である場合に比べ、ビニル系共重合体の硬度が高くなり、溶剤に溶解しにくくなると考えられる。
【0024】
そして、ビニル系共重合体が溶剤に溶解しにくいことで、浸漬塗布法において電荷発生層上に電荷輸送層形成用塗布液が付着した時間が導電性基体の軸方向における下方側の端部と上方側の端部とで異なっていても、感度の差が出にくく、それに起因する感光体の軸方向における画像濃度差が抑制されると推測される。
以上の理由により、第一実施形態に係る感光体は、感光体の軸方向における画像濃度差が抑制されると推測される。
【0025】
なお、電荷発生層の結着樹脂が溶剤に溶解しやすいことで、感度の高い感光体が得られやすくなることもある。具体的には、電荷発生層中の結着樹脂が電荷輸送層形成用塗布液中の溶剤によって溶解することで、電荷発生層と電荷輸送層との界面に電荷発生材料が存在しやすくなる。そして、電荷発生層と電荷輸送層との界面に存在する電荷発生材料が多いほど、感光体の感度は高くなりやすくなる。
これに対して、第一実施形態では、ビニル系共重合体が溶剤に溶解しにくくても、高い感度が得られる。その理由は定かではないが、以下のように推測される。具体的には、まず、ビニル系共重合体に含まれるアシルオキシ成分がビニル系共重合体中における電荷発生材料の分散性を高めると考えられる。加えて、第一実施形態では、アシルオキシ成分と芳香族ポリカルボン酸成分とを組み合わせて用いていることにより、ビニル系共重合体中における電荷発生材料の分散性がさらに高まると考えられる。そして、ビニル系共重合体中における電荷発生材料の分散性が高まることで、ビニル系共重合体が溶剤に溶解しにくくても、電荷輸送層との界面近傍に電荷発生材料が分散し、それにより高い感度が得られると推測される。つまり、第一実施形態に係る感光体は、高い感度を得つつ、感光体の軸方向における画像濃度差が抑制される。
【0026】
(第二実施形態)
第二実施形態に係る感光体は、導電性基体と、導電性基体上に設けられ、電荷発生材料とビニル系共重合体とを含有する電荷発生層と、電荷発生層上に設けられ、電荷輸送材料と結着樹脂とを含有する電荷輸送層と、を有する。
そして、ビニル系共重合体は、塩素含有成分と、アシルオキシ成分と、芳香族ポリカルボン酸成分と、を含み、30℃のテトラヒドロフラン100質量部に対する前記ビニル系共重合体の溶解度(以下「THF溶解度」ともいう)が10質量部以下である。
【0027】
第二実施形態に係る感光体は、上記構成であることにより、電子写真感光体の軸方向における画像濃度差が抑制される。その理由は以下のように推測される。
前記の通り、導電性基体に設けられた電荷発生層上に電荷輸送層を形成する場合、一般的には、浸漬塗布法により電荷輸送層形成用塗布液を電荷発生層上に塗布し、乾燥させることで、電荷輸送層を形成する。このとき、電荷発生層に含まれるビニル系共重合体の一部が電荷輸送層形成用塗布液中の溶剤によって溶解することがある。浸漬塗布法では、電荷発生層上に電荷輸送層形成用塗布液が付着した時間が、導電性基体の軸方向における下方側の端部と上方側の端部とで異なる。そのため、電子写真感光体の軸方向一端と他端とで感度に差が出ることがあり、その感度の差が画像濃度差として表れることがある。
【0028】
これに対して、第二実施形態では、ビニル系共重合体が芳香族ポリカルボン酸成分を含み、かつ、THF溶解度が10質量部以下である。そのため、ビニル系共重合体が溶剤に溶解しにくいと考えられる。
そして、ビニル系共重合体が溶剤に溶解しにくいことで、浸漬塗布法において電荷発生層上に電荷輸送層形成用塗布液が付着した時間が導電性基体の軸方向における下方側の端部と上方側の端部とで異なっていても、感度の差が出にくく、それに起因する電子写真感光体の軸方向における画像濃度差が抑制されると推測される。
以上の理由により、第二実施形態に係る感光体は、電子写真感光体の軸方向における画像濃度差が抑制されると推測される。
【0029】
そして、第二実施形態では、ビニル系共重合体が溶剤に溶解しにくくても、高い感度が得られる。具体的には、ビニル系共重合体に含まれるアシルオキシ成分がビニル系共重合体中における電荷発生材料の分散性を高め、アシルオキシ成分と芳香族ポリカルボン酸成分とを組み合わせて用いることでビニル系共重合体中における電荷発生材料の分散性がさらに高まると考えられる。そして、ビニル系共重合体中における電荷発生材料の分散性が高まることで、ビニル系共重合体が溶剤に溶解しにくくても、電荷輸送層との界面近傍に電荷発生材料が分散し、それにより高い感度が得られると推測される。つまり、第二実施形態に係る感光体は、高い感度を得つつ、感光体の軸方向における画像濃度差が抑制される。
【0030】
以下、第一実施形態に係る感光体及び第二実施形態に係る感光体のいずれにも該当する感光体を「本実施形態に係る感光体」と称して説明する。ただし、本発明の感光体の一例は、第一実施形態に係る感光体及び第二実施形態に係る感光体の少なくとも一方に該当する感光体であればよい。
【0031】
以下、本実施形態に係る電子写真感光体について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る電子写真感光体7Aの層構成の一例を示す概略部分断面図である。
図1に示す電子写真感光体7Aは、導電性基体4上に、下引層1、電荷発生層2及び電荷輸送層3がこの順序で積層された構造を有する。そして、電荷発生層2及び電荷輸送層3が感光層5を構成している。
【0032】
なお、下引層1は、必要に応じて設けられる層である。つまり、電子写真感光体7Aは、導電性基体4上に直接(つまり、下引層1を介さずに)電荷発生層2が設けられていてもよい。
また、電子写真感光体7Aは、必要に応じてその他の層を設けてもよい。その他の層としては、例えば、電荷輸送層3上に更に設けられる保護層等が挙げられる。
【0033】
以下、本実施形態に係る電子写真感光体の各層について詳細に説明する。なお、符号は省略して説明する。
【0034】
(導電性基体)
導電性基体としては、例えば、金属(アルミニウム、銅、亜鉛、クロム、ニッケル、モリブデン、バナジウム、インジウム、金、白金等)又は合金(ステンレス鋼等)を含む金属板、金属ドラム、及び金属ベルト等が挙げられる。また、導電性基体としては、例えば、導電性化合物(例えば導電性ポリマー、酸化インジウム等)、金属(例えばアルミニウム、パラジウム、金等)又は合金を塗布、蒸着又はラミネートした紙、樹脂フィルム、ベルト等も挙げられる。ここで、「導電性」とは体積抵抗率が1013Ωcm未満であることをいう。
【0035】
導電性基体の表面は、電子写真感光体がレーザプリンタに使用される場合、レーザ光を照射する際に生じる干渉縞を抑制する目的で、中心線平均粗さRaで0.04μm以上0.5μm以下に粗面化されていることが好ましい。なお、非干渉光を光源に用いる場合、干渉縞防止の粗面化は、特に必要ないが、導電性基体の表面の凹凸による欠陥の発生を抑制するため、より長寿命化に適する。
【0036】
粗面化の方法としては、例えば、研磨剤を水に懸濁させて支持体に吹き付けることによって行う湿式ホーニング、回転する砥石に導電性基体を圧接し、連続的に研削加工を行うセンタレス研削、陽極酸化処理等が挙げられる。
【0037】
粗面化の方法としては、導電性基体の表面を粗面化することなく、導電性又は半導電性粉体を樹脂中に分散させて、導電性基体の表面上に層を形成し、その層中に分散させる粒子により粗面化する方法も挙げられる。
【0038】
陽極酸化による粗面化処理は、金属製(例えばアルミニウム製)の導電性基体を陽極とし電解質溶液中で陽極酸化することにより導電性基体の表面に酸化膜を形成するものである。電解質溶液としては、例えば、硫酸溶液、シュウ酸溶液等が挙げられる。しかし、陽極酸化により形成された多孔質陽極酸化膜は、そのままの状態では化学的に活性であり、汚染され易く、環境による抵抗変動も大きい。そこで、多孔質陽極酸化膜に対して、酸化膜の微細孔を加圧水蒸気又は沸騰水中(ニッケル等の金属塩を加えてもよい)で水和反応による体積膨張でふさぎ、より安定な水和酸化物に変える封孔処理を行うことが好ましい。
【0039】
陽極酸化膜の膜厚は、例えば、0.3μm以上15μm以下が好ましい。この膜厚が上記範囲内にあると、注入に対するバリア性が発揮される傾向があり、また繰り返し使用による残留電位の上昇が抑えられる傾向にある。
【0040】
導電性基体には、酸性処理液による処理又はベーマイト処理を施してもよい。
酸性処理液による処理は、例えば、以下のようにして実施される。先ず、リン酸、クロム酸及びフッ酸を含む酸性処理液を調製する。酸性処理液におけるリン酸、クロム酸及びフッ酸の配合割合は、例えば、リン酸が10質量%以上11質量%以下の範囲、クロム酸が3質量%以上5質量%以下の範囲、フッ酸が0.5質量%以上2質量%以下の範囲であって、これらの酸全体の濃度は13.5質量%以上18質量%以下の範囲がよい。処理温度は例えば42℃以上48℃以下が好ましい。被膜の膜厚は、0.3μm以上15μm以下が好ましい。
【0041】
ベーマイト処理は、例えば90℃以上100℃以下の純水中に5分から60分間浸漬すること、又は90℃以上120℃以下の加熱水蒸気に5分から60分間接触させて行う。被膜の膜厚は、0.1μm以上5μm以下が好ましい。これをさらにアジピン酸、硼酸、硼酸塩、燐酸塩、フタル酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等の被膜溶解性の低い電解質溶液を用いて陽極酸化処理してもよい。
【0042】
(下引層)
下引層は、例えば、無機粒子と結着樹脂とを含む層である。
【0043】
無機粒子としては、例えば、粉体抵抗(体積抵抗率)102Ωcm以上1011Ωcm以下の無機粒子が挙げられる。
これらの中でも、上記抵抗値を有する無機粒子としては、例えば、酸化錫粒子、酸化チタン粒子、酸化亜鉛粒子、酸化ジルコニウム粒子等の金属酸化物粒子がよく、特に、酸化亜鉛粒子が好ましい。
【0044】
無機粒子のBET法による比表面積は、例えば、10m2/g以上がよい。
無機粒子の体積平均粒径は、例えば、50nm以上2000nm以下(好ましくは60nm以上1000nm以下)がよい。
【0045】
無機粒子の含有量は、例えば、結着樹脂に対して、10質量%以上80質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以上80質量%以下である。
【0046】
無機粒子は、表面処理が施されていてもよい。無機粒子は、表面処理の異なるもの、又は、粒子径の異なるものを2種以上混合して用いてもよい。
【0047】
表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、界面活性剤等が挙げられる。特に、シランカップリング剤が好ましく、アミノ基を有するシランカップリング剤がより好ましい。
【0048】
アミノ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
シランカップリング剤は、2種以上混合して使用してもよい。例えば、アミノ基を有するシランカップリング剤と他のシランカップリング剤とを併用してもよい。この他のシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピル-トリス(2-メトキシエトキシ)シラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
表面処理剤による表面処理方法は、公知の方法であればいかなる方法でもよく、乾式法又は湿式法のいずれでもよい。
【0051】
表面処理剤の処理量は、例えば、無機粒子に対して0.5質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0052】
ここで、下引層は、無機粒子と共に電子受容性化合物(アクセプター化合物)を含有することが、電気特性の長期安定性、キャリアブロック性が高まる観点からよい。
【0053】
電子受容性化合物としては、例えば、クロラニル、ブロモアニル等のキノン系化合物;テトラシアノキノジメタン系化合物;2,4,7-トリニトロフルオレノン、2,4,5,7-テトラニトロ-9-フルオレノン等のフルオレノン化合物;2-(4-ビフェニル)-5-(4-t-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、2,5-ビス(4-ナフチル)-1,3,4-オキサジアゾール、2,5-ビス(4-ジエチルアミノフェニル)-1,3,4オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物;キサントン系化合物;チオフェン化合物;3,3’,5,5’テトラ-t-ブチルジフェノキノン等のジフェノキノン化合物;等の電子輸送性物質等が挙げられる。
特に、電子受容性化合物としては、アントラキノン構造を有する化合物が好ましい。アントラキノン構造を有する化合物としては、例えば、ヒドロキシアントラキノン化合物、アミノアントラキノン化合物、アミノヒドロキシアントラキノン化合物等が好ましく、具体的には、例えば、アントラキノン、アリザリン、キニザリン、アントラルフィン、プルプリン等が好ましい。
【0054】
電子受容性化合物は、下引層中に無機粒子と共に分散して含まれていてもよいし、無機粒子の表面に付着した状態で含まれていてもよい。
【0055】
電子受容性化合物を無機粒子の表面に付着させる方法としては、例えば、乾式法、又は、湿式法が挙げられる。
【0056】
乾式法は、例えば、無機粒子をせん断力の大きなミキサ等で攪拌しながら、直接又は有機溶媒に溶解させた電子受容性化合物を滴下、乾燥空気や窒素ガスとともに噴霧させて、電子受容性化合物を無機粒子の表面に付着する方法である。電子受容性化合物の滴下又は噴霧するときは、溶剤の沸点以下の温度で行うことがよい。電子受容性化合物を滴下又は噴霧した後、更に100℃以上で焼き付けを行ってもよい。焼き付けは電子写真特性が得られる温度、時間であれば特に制限されない。
【0057】
湿式法は、例えば、攪拌、超音波、サンドミル、アトライター、ボールミル等により、無機粒子を溶剤中に分散しつつ、電子受容性化合物を添加し、攪拌又は分散した後、溶剤除去して、電子受容性化合物を無機粒子の表面に付着する方法である。溶剤除去方法は、例えば、ろ過又は蒸留により留去される。溶剤除去後には、更に100℃以上で焼き付けを行ってもよい。焼き付けは電子写真特性が得られる温度、時間であれば特に限定されない。湿式法においては、電子受容性化合物を添加する前に無機粒子の含有水分を除去してもよく、その例として溶剤中で攪拌加熱しながら除去する方法、溶剤と共沸させて除去する方法が挙げられる。
【0058】
なお、電子受容性化合物の付着は、表面処理剤による表面処理を無機粒子に施す前又は後に行ってよく、電子受容性化合物の付着と表面処理剤による表面処理と同時に行ってもよい。
【0059】
電子受容性化合物の含有量は、例えば、無機粒子に対して0.01質量%以上20質量%以下がよく、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下である。
【0060】
下引層に用いる結着樹脂としては、例えば、アセタール樹脂(例えばポリビニルブチラール等)、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、カゼイン樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン-アルキッド樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂等の公知の高分子化合物;ジルコニウムキレート化合物;チタニウムキレート化合物;アルミニウムキレート化合物;チタニウムアルコキシド化合物;有機チタニウム化合物;シランカップリング剤等の公知の材料が挙げられる。
下引層に用いる結着樹脂としては、例えば、電荷輸送性基を有する電荷輸送性樹脂、導電性樹脂(例えばポリアニリン等)等も挙げられる。
【0061】
これらの中でも、下引層に用いる結着樹脂としては、上層の塗布溶剤に不溶な樹脂が好適であり、特に、尿素樹脂、フェノール樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂及びポリビニルアセタール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂と硬化剤との反応により得られる樹脂が好適である。
これら結着樹脂を2種以上組み合わせて使用する場合には、その混合割合は、必要に応じて設定される。
【0062】
下引層には、電気特性向上、環境安定性向上、画質向上のために種々の添加剤を含んでいてもよい。
添加剤としては、多環縮合系、アゾ系等の電子輸送性顔料、ジルコニウムキレート化合物、チタニウムキレート化合物、アルミニウムキレート化合物、チタニウムアルコキシド化合物、有機チタニウム化合物、シランカップリング剤等の公知の材料が挙げられる。シランカップリング剤は前述のように無機粒子の表面処理に用いられるが、添加剤として更に下引層に添加してもよい。
【0063】
添加剤としてのシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピル-トリス(2-メトキシエトキシ)シラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0064】
ジルコニウムキレート化合物としては、例えば、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセト酢酸エチル、ジルコニウムトリエタノールアミン、アセチルアセトネートジルコニウムブトキシド、アセト酢酸エチルジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムオキサレート、ジルコニウムラクテート、ジルコニウムホスホネート、オクタン酸ジルコニウム、ナフテン酸ジルコニウム、ラウリン酸ジルコニウム、ステアリン酸ジルコニウム、イソステアリン酸ジルコニウム、メタクリレートジルコニウムブトキシド、ステアレートジルコニウムブトキシド、イソステアレートジルコニウムブトキシド等が挙げられる。
【0065】
チタニウムキレート化合物としては、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネート、チタンアセチルアセトネート、ポリチタンアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル、チタントリエタノールアミネート、ポリヒドロキシチタンステアレート等が挙げられる。
【0066】
アルミニウムキレート化合物としては、例えば、アルミニウムイソプロピレート、モノブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムブチレート、ジエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等が挙げられる。
【0067】
これらの添加剤は、単独で、又は複数の化合物の混合物若しくは重縮合物として用いてもよい。
【0068】
下引層は、ビッカース硬度が35以上であることがよい。
下引層の表面粗さ(十点平均粗さ)は、モアレ像抑制のために、使用される露光用レーザ波長λの1/(4n)(nは上層の屈折率)から1/2までに調整されていることがよい。
表面粗さ調整のために下引層中に樹脂粒子等を添加してもよい。樹脂粒子としてはシリコーン樹脂粒子、架橋型ポリメタクリル酸メチル樹脂粒子等が挙げられる。また、表面粗さ調整のために下引層の表面を研磨してもよい。研磨方法としては、バフ研磨、サンドブラスト処理、湿式ホーニング、研削処理等が挙げられる。
【0069】
下引層の形成は、特に制限はなく、周知の形成方法が利用されるが、例えば、上記成分を溶剤に加えた下引層形成用塗布液の塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥し、必要に応じて加熱することで行う。
【0070】
下引層形成用塗布液を調製するための溶剤としては、公知の有機溶剤、例えば、アルコール系溶剤、芳香族炭化水素溶剤、ハロゲン化炭化水素溶剤、ケトン系溶剤、ケトンアルコール系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤等が挙げられる。
これらの溶剤として具体的には、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、ベンジルアルコール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、クロロベンゼン、トルエン等の通常の有機溶剤が挙げられる。
【0071】
下引層形成用塗布液を調製するときの無機粒子の分散方法としては、例えば、ロールミル、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、コロイドミル、ペイントシェーカー等の公知の方法が挙げられる。
【0072】
下引層形成用塗布液を導電性基体上に塗布する方法としては、例えば、ブレード塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、浸漬塗布法、ビード塗布法、エアーナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法が挙げられる。
【0073】
下引層の膜厚は、例えば、好ましくは15μm以上、より好ましくは20μm以上50μm以下の範囲内に設定される。
【0074】
(中間層)
図示は省略するが、下引層と感光層との間に中間層をさらに設けてもよい。
中間層は、例えば、樹脂を含む層である。中間層に用いる樹脂としては、例えば、アセタール樹脂(例えばポリビニルブチラール等)、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、カゼイン樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン-アルキッド樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂等の高分子化合物が挙げられる。
中間層は、有機金属化合物を含む層であってもよい。中間層に用いる有機金属化合物としては、ジルコニウム、チタニウム、アルミニウム、マンガン、ケイ素等の金属原子を含有する有機金属化合物等が挙げられる。
これらの中間層に用いる化合物は、単独で又は複数の化合物の混合物若しくは重縮合物として用いてもよい。
【0075】
これらの中でも、中間層は、ジルコニウム原子又はケイ素原子を含有する有機金属化合物を含む層であることが好ましい。
【0076】
中間層の形成は、特に制限はなく、周知の形成方法が利用されるが、例えば、上記成分を溶剤に加えた中間層形成用塗布液の塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥、必要に応じて加熱することで行う。
中間層を形成する塗布方法としては、浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法が用いられる。
【0077】
中間層の膜厚は、例えば、好ましくは0.1μm以上3μm以下の範囲に設定される。なお、中間層を下引層として使用してもよい。
【0078】
(電荷発生層)
電荷発生層は、電荷発生材料と、結着樹脂として塩素含有成分とアシルオキシ成分と芳香族ポリカルボン酸成分とを含むビニル系共重合体と、を含む層であり、必要に応じて他の成分を含んでもよい。
以下、塩素含有成分とアシルオキシ成分と芳香族ポリカルボン酸成分とを含むビニル系共重合体を、「特定共重合体」ともいう。
【0079】
-電荷発生材料-
電荷発生材料としては、ビスアゾ、トリスアゾ等のアゾ顔料;ジブロモアントアントロン等の縮環芳香族顔料;ペリレン顔料;ピロロピロール顔料;フタロシアニン顔料;酸化亜鉛;三方晶系セレン等が挙げられる。
【0080】
これらの中でも、電荷発生材料としては、電荷発生能が高い「フタロシアニン顔料」が好ましい。フタロシアニン顔料としては、金属フタロシアニン顔料、無金属フタロシアニン顔料が挙げられる。具体的には、例えば、フタロシアニン顔料としては、特開平5-263007号公報、特開平5-279591号公報等に開示されたヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料;特開平5-98181号公報等に開示されたクロロガリウムフタロシアニン顔料;特開平5-140472号公報、特開平5-140473号公報等に開示されたジクロロスズフタロシアニン顔料;特開平4-189873号公報等に開示されたチタニルフタロシアニン顔料等が挙げられる。
【0081】
そして、これらの中でも、フタロシアニン顔料としては、電荷発生能の点からヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料及びクロロガリウムフタロシアニン顔料から選択される少なくとも1種が好ましく、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料がより好ましい。
【0082】
なお、電荷発生材料の中でも特に電荷発生能の高いフタロシアニン系顔料(その中でも特に電荷発生能の高い、クロロガリウムフタロシアニン及びヒドロキシガリウムフタロシアニンの少なくとも一種)を用いた場合、電荷発生能が高いがゆえに、電荷発生層中に電荷トラップが存在すると蓄積される電荷量も多くなり、ポジゴーストが起こりやすくなる。しかしながら、本実施形態では、前述のように、結着樹脂として特定共重合体を用いることで、生成される電荷トラップの量が少なくなっている。そのため、電荷発生材料としてフタロシアニン系顔料を用いても、またその中でも特にクロロガリウムフタロシアニン及びヒドロキシガリウムフタロシアニンの少なくとも一種を用いても、ポジゴーストが抑制されると推測される。
【0083】
ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料の中でも、V型のヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料が好ましい。
特に、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料としては、例えば、600nm以上900nm以下の波長域での分光吸収スペクトルにおいて、810nm以上839nm以下の範囲に最大ピーク波長を有するヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料がより優れた分散性が得られる観点から好ましい。
【0084】
また、上記の810nm以上839nm以下の範囲に最大ピーク波長を有するヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料は、平均粒径が特定の範囲であり、且つ、BET比表面積が特定の範囲であることが好ましい。具体的には、平均粒径が0.20μm以下であることが好ましく、0.01μm以上0.15μm以下であることがより好ましい。一方、BET比表面積が45m2/g以上であることが好ましく、50m2/g以上であることがより好ましく、55m2/g以上120m2/g以下であることが特に好ましい。平均粒径は、体積平均粒径(d50平均粒径)でレーザ回折散乱式粒度分布測定装置(LA-700、堀場製作所社製)にて測定した値である。また、BET式比表面積測定器(島津製作所製:フローソープII2300)を用い窒素置換法にて測定した値である。
【0085】
ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料の最大粒径(一次粒子径の最大値)は、1.2μm以下であることが好ましく、1.0μm以下であることがより好ましく、より好ましくは0.3μm以下である。
【0086】
ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料は、平均粒径が0.2μm以下、最大粒径が1.2μm以下であり、且つ、比表面積値が45m2/g以上であることが好ましい。
【0087】
ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料は、CuKα特性X線を用いたX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角度(2θ±0.2°)が少なくとも7.3゜、16.0゜、24.9゜、28.0゜に回折ピークを有するV型であることが好ましい。
【0088】
電荷発生材料は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
電荷発生層全体に対する電荷発生材料の含有量としては、例えば30体積%以上80体積%以下が挙げられ、ポジゴースト抑制の観点から、40体積%以上70体積%以下が好ましく、50体積%以上60体積%以下がより好ましい。
【0089】
-特定共重合体-
特定共重合体は、塩素含有成分、アシルオキシ成分、及び芳香族ポリカルボン酸成分を含むビニル系共重合体である。
なお、第一実施形態においては、特定共重合体における全構成単位に対する塩素含有成分の割合が80質量%以上であり、全構成単位に対する芳香族ポリカルボン酸成分の割合が0.5質量%以上である。
なお、全構成単位に対する各構成単位の割合は、特定共重合体をNMRにより分析することで求められる。
【0090】
特定共重合体は、塩素含有成分、アシルオキシ成分、及び芳香族ポリカルボン酸成分を少なくとも含み、他の構成単位(例えば、ジオールに由来する構成単位等)を含んでもよい。ただし、他の構成単位の割合は、全構成単位に対し5モル%以下であることが好ましく、3モル%以下であることがより好ましく、1モル%以下であることがさらに好ましく、他の構成単位を含まないことが特に好ましい。すなわち、特定共重合体は、塩素含有成分、アシルオキシ成分、及び芳香族ポリカルボン酸成分からなる共重合体であることが特に好ましい。
【0091】
--塩素含有成分--
塩素含有成分は、前記の通り、塩素原子を有し、かつ、アシルオキシ基及び2以上のカルボキシ基を有さない構成単位である。
特定共重合体は、塩素含有成分を1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
塩素含有成分が有する塩素原子の数としては、例えば1以上5以下が挙げられ、1以上3以下が好ましく、1以上2以下がより好ましく、1であることがさらに好ましい。また、塩素含有成分は、塩素原子が直鎖に直接結合していることが好ましい。
塩素含有成分が有してもよい他の置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、塩素以外のハロゲン原子等が挙げられる。
塩素含有成分は、塩化ビニル又は塩化ビニル誘導体に由来する構成単位であることが好ましい。
また、塩素含有成分は、下記一般式(1)で表される構成単位であることが好ましい。
【0092】
【0093】
一般式(1)中、R11~R13はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。
【0094】
一般式(1)中のR11~R13は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上5以下のアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。
一般式(1)中のR11~R13は、互いに異なっていてもよく、同じ基であってもよい。
塩素含有成分は、その中でも、一般式(1)で表され、かつ、一般式(1)中のR11~R13がいずれも水素原子である構成単位が好ましい。
【0095】
--アシルオキシ成分--
アシルオキシ成分は、前記の通り、アシルオキシ基を有する構成単位である。
特定共重合体は、アシルオキシ成分を1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
アシルオキシ成分が有するアシルオキシ基の数としては、例えば1以上2以下が挙げられ、1つであることがより好ましい。また、アシルオキシ成分は、アシルオキシ基が直鎖に直接結合していることが好ましい。
アシルオキシ成分が有してもよい他の置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
アシルオキシ成分は、酢酸ビニル又は酢酸ビニル誘導体に由来する構成単位であることが好ましい。
また、アシルオキシ成分は、下記一般式(2)で表される構成単位であることが好ましい。
【0096】
【0097】
一般式(2)中、R21~R23はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R24は炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。
【0098】
一般式(2)中のR21~R23は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上5以下のアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。
一般式(2)中のR21~R23は、互いに異なっていてもよく、同じ基であってもよい。その中でも、一般式(2)中のR21~R23がいずれも水素原子であることが好ましい。
一般式(2)中のR24は、炭素数1以上5以下のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
アシルオキシ成分は、その中でも、一般式(2)で表され、かつ、一般式(2)中のR21~R23がいずれも水素原子であり、かつ、一般式(2)中のR24がメチル基である構成単位が好ましい。
【0099】
--芳香族ポリカルボン酸成分--
芳香族ポリカルボン酸成分は、前記の通り、芳香族ポリカルボン酸構造を有する構成単位である。
特定共重合体は、芳香族ポリカルボン酸成分を1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
芳香族ポリカルボン酸成分が有する芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられ、これらの中でもベンゼン環が好ましい。上記芳香環は、特定共重合体の主鎖に直接結合してもよく、アルキレン基等の連結基を介して結合してもよく、直接結合していることが好ましい。
【0100】
芳香族ポリカルボン酸成分が有するカルボキシ基の数としては、例えば2以上4以下が挙げられ、2以上3以下が好ましく、2であることがより好ましい。また、芳香族ポリカルボン酸成分は、2以上のカルボキシ基が芳香環に直接結合してもよく、アルキレン基等の連結基を介して結合してもよい。芳香族ポリカルボン酸成分は、2以上のカルボキシ基がすべて芳香環に直接結合していることが好ましい。
芳香族ポリカルボン酸成分が有してもよい他の置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0101】
芳香族ポリカルボン酸成分が有する芳香族ポリカルボン酸構造としては、例えば、フタル酸構造、イソフタル酸構造、テレフタル酸構造、ナフタレンジカルボン酸構造が挙げられ、これらの中でもフタル酸構造が好ましく、他の置換基を有さないフタル酸構造がより好ましい。
芳香族ポリカルボン酸成分は、芳香族ポリカルボン酸構造が特定共重合体の主鎖に直接結合したものであることが好ましく、フタル酸構造が特定共重合体の主鎖に直接結合したものであることがより好ましい。
芳香族ポリカルボン酸成分は、フタル酸、ビニルフタル酸、又はこれらの誘導体に由来する構成単位であることが好ましい。
芳香族ポリカルボン酸成分は、例えば下記式(3-1)で表される構成単位のように、特定共重合体の主鎖の末端に位置する構成単位であってもよく、例えば下記式(3-2)で表される構成単位のように、末端以外に位置する構成単位であってもよい。芳香族ポリカルボン酸成分は、特定共重合体の主鎖の末端に位置する構成単位であることが好ましい。
【0102】
【0103】
--各成分の組み合わせ--
特定共重合体は、塩素含有成分として一般式(1)で表される構成単位を含み、かつ、アシルオキシ成分として一般式(2)で表される構成単位を含む共重合体であることが好ましく、一般式(1)で表される構成単位と一般式(2)で表される構成単位とフタル酸構造を有する構成単位とを含む共重合体であることがより好ましい。
また、特定共重合体は、塩素含有成分として一般式(1)で表され一般式(1)中のR11~R13がいずれも水素原子である構成単位を含み、アシルオキシ成分として一般式(2)で表され一般式(2)中のR21~R23がいずれも水素原子であり一般式(2)中のR24がメチル基である構成単位を含む共重合体であることがさらに好ましく、一般式(1)で表され一般式(1)中のR11~R13がいずれも水素原子である構成単位と、一般式(2)で表され一般式(2)中のR21~R23がいずれも水素原子であり一般式(2)中のR24がメチル基である構成単位と、他の置換基を有さないフタル酸構造を有する構成単位と、を含む共重合体であることが特に好ましい。
【0104】
--各成分の割合--
塩素含有成分の割合は、感光体軸方向の画像濃度差抑制の観点から、特定共重合体の全構成成分に対し、80質量%以上であることが好ましく、82質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましい。
また、塩素含有成分の割合は、高い感度を得る観点から、特定共重合体の全構成成分に対し、88質量%以下であることが好ましく、87質量%以下であることがより好ましく、86質量%以下であることがさらに好ましい。
塩素含有成分の割合が87質量%以下であると、塩素含有成分の割合が高すぎる場合に比べてビニル系共重合体の硬度が高くなりすぎにくく、硬度が高すぎることに起因する電荷発生材料の分散性低下が起こりにくくなる。また、塩素含有成分の割合が87質量%以下であると、塩素含有成分の割合が高すぎる場合に比べて、相対的にアシルオキシ成分の割合が高くなり、電荷発生材料の分散性が得られやすくなる。その結果、電荷発生材料が電荷輸送層との界面付近に存在しやすくなり、高い感度が得られると推測される。
塩素含有成分の割合は、感光体軸方向の画像濃度差抑制と高感度とを両立する観点から、80質量%以上88質量%以下であることが好ましく、82質量%以上87質量%以下であることがより好ましく、85質量%以上86質量%以下であることがさらに好ましい。
【0105】
芳香族ポリカルボン酸成分の割合は、感光体軸方向の画像濃度差抑制の観点から、特定共重合体の全構成成分に対し、0.5質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることが好ましく、0.8質量%以上であることがより好ましい。
また、芳香族ポリカルボン酸成分の割合は、高い感度を得る観点から、特定共重合体の全構成成分に対し、2.5質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましい。
芳香族ポリカルボン酸成分の割合が2.0質量%以下であると、芳香族ポリカルボン酸成分の割合が高すぎる場合に比べて、相対的にアシルオキシ成分の割合が高くなり、電荷発生材料の分散性が得られやすくなる。その結果、電荷発生材料が電荷輸送層との界面付近に存在しやすくなり、高い感度が得られると推測される。
芳香族ポリカルボン酸成分の割合は、感光体軸方向の画像濃度差抑制と高感度とを両立する観点から、0.5質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。
【0106】
特定共重合体の全構成成分に対する芳香族ポリカルボン酸成分の割合をA質量%とし、特定共重合体に対する電荷発生材料の含有量をC質量%としたとき、A/Cの値は、感光体軸方向の画像濃度差抑制の観点から、3.00×10-3以上であることが好ましく、5.00×10-3以上であることがより好ましい。
またA/Cの値は、高い感度を得る観点から、1.40×10-2以下であることが好ましく、1.00×10-2以下であることがより好ましい。
A/Cの値は、感光体軸方向の画像濃度差抑制と高感度とを両立する観点から、3.00×10-3以上1.40×10-2以下であることが好ましく5.00×10-3以上1.00×10-2以下であることが好ましい。
上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定される値である。GPCによる分子量測定は、測定装置として東ソー(株)製GPC・HLC-8120GPCを用い、東ソー(株)製カラム・TSKgel SuperHM-M(15cm)を使用し、THF溶媒で行う。重量平均分子量及び数平均分子量は、この測定結果から単分散ポリスチレン標準試料により作製した分子量校正曲線を使用して算出する。
【0107】
30℃のテトラヒドロフラン100質量部に対する特定共重合体の溶解度(以下「THF溶解度」ともいう)は、感光体軸方向の画像濃度差抑制の観点から、10質量部以下であることが好ましく、8質量部以下であることがより好ましく、7.5質量部以下であることがさらに好ましい。
上記THF溶解度は、測定対象の重合体を30℃のテトラヒドロフランに入れ、5分間静置した後に、残った重合体の質量を測定することで求める。
【0108】
特定共重合体の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、各構成単位に対応するモノマーを、懸濁重合法等により重合させる方法が挙げられる。
【0109】
-その他の添加剤-
電荷発生層には、その他、周知の添加剤が含まれていてもよい。
【0110】
-電荷発生層の形成-
電荷発生層の形成は、特に制限はなく、周知の形成方法が利用されるが、例えば、上記成分を溶剤に加えた電荷発生層形成用塗布液の塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥し、必要に応じて加熱することで行う。
【0111】
電荷発生層形成用塗布液を調製するための溶剤としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、ベンジルアルコール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸n-ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、クロロベンゼン、トルエン等が挙げられる。これら溶剤は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いる。
【0112】
電荷発生層形成用塗布液中に粒子(例えば電荷発生材料)を分散させる方法としては、例えば、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、横型サンドミル等のメディア分散機や、攪拌、超音波分散機、ロールミル、高圧ホモジナイザー等のメディアレス分散機が利用される。高圧ホモジナイザーとしては、例えば、高圧状態で分散液を液-液衝突や液-壁衝突させて分散する衝突方式や、高圧状態で微細な流路を貫通させて分散する貫通方式等が挙げられる。
なお、この分散の際、電荷発生層形成用塗布液中の電荷発生材料の平均粒径を0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下、更に好ましくは0.15μm以下にすることが有効である。
【0113】
電荷発生層形成用塗布液を下引層上(又は中間層上)に塗布する方法としては、例えばブレード塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、浸漬塗布法、ビード塗布法、エアーナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法が挙げられる。
【0114】
電荷発生層の膜厚は、例えば、好ましくは0.05μm以上5.0μm以下、より好ましくは0.1μm以上2.0μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上1.0μm以下、特に好ましくは0.1μm以上0.5μm以下の範囲内に設定される。
【0115】
(電荷輸送層)
電荷輸送層は、電荷輸送材料と結着樹脂とを含む層である。電荷輸送層は、高分子電荷輸送材料を含む層であってもよい。
【0116】
電荷輸送材料としては、p-ベンゾキノン、クロラニル、ブロマニル、アントラキノン等のキノン系化合物;テトラシアノキノジメタン系化合物;2,4,7-トリニトロフルオレノン等のフルオレノン化合物;キサントン系化合物;ベンゾフェノン系化合物;シアノビニル系化合物;エチレン系化合物等の電子輸送性化合物が挙げられる。電荷輸送材料としては、トリアリールアミン系化合物、ベンジジン系化合物、アリールアルカン系化合物、アリール置換エチレン系化合物、スチルベン系化合物、アントラセン系化合物、ヒドラゾン系化合物等の正孔輸送性化合物も挙げられる。これらの電荷輸送材料は1種を単独で又は2種以上で用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0117】
電荷輸送材料としては、電荷移動度の観点から、下記一般式(a-1)で示されるトリアリールアミン系電荷輸送材料(以下「トリアリールアミン系電荷輸送材料(a-1)」ともいう)、トリアリールアミン系電荷輸送材料の一例である下記一般式(CT1)で示される電荷輸送材料(以下「ブタジエン系電荷輸送材料(CT1)ともいう)、及び下記一般式(CT2)で示される電荷輸送材料(以下「ベンジジン系電荷輸送材料(CT2)」ともいう)が好ましい。
また、電荷輸送材料として、ブタジエン系電荷輸送材料(CT1)とベンジジン系電荷輸送材料(CT2)とを併用してもよい。
【0118】
トリアリールアミン系電荷輸送材料(a-1)について説明する。
トリアリールアミン系電荷輸送材料(a-1)は、下記一般式(a-1)で示される電荷輸送材料である。
【0119】
【0120】
一般式(a-1)中、ArT1、ArT2、及びArT3は、各々独立に置換若しくは無置換のアリール基、-C6H4-C(RT4)=C(RT5)(RT6)、又は-C6H4-CH=CH-CH=C(RT7)(RT8)を示す。RT4、RT5、RT6、RT7、及びRT8は各々独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。
上記各基の置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基が挙げられる。また、上記各基の置換基としては、炭素数1以上3以下のアルキル基で置換された置換アミノ基も挙げられる。
【0121】
ブタジエン系電荷輸送材料(CT1)について説明する。
ブタジエン系電荷輸送材料(CT1)は、下記一般式(CT1)で示される電荷輸送材料である。
【0122】
【0123】
一般式(CT1)中、RC11、RC12、RC13、RC14、RC15、及びRC16は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のアルコキシ基、又は、炭素数6以上30以下のアリール基を表し、隣接する2つの置換基同士が結合して炭化水素環構造を形成してもよい。
n及びmは、各々独立に、0、1又は2を表す。
【0124】
一般式(CT1)において、RC11、RC12、RC13、RC14、RC15、及びRC16が表すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。これらの中でも、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0125】
一般式(CT1)において、RC11、RC12、RC13、RC14、RC15、及びRC16が表すアルキル基としては、炭素数1以上20以下(好ましくは1以上6以下、より好ましくは1以上4以下)の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。
直鎖状のアルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-イコシル基等が挙げられる。
分岐状のアルキル基として具体的には、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基、イソヘプチル基、sec-ヘプチル基、tert-ヘプチル基、イソオクチル基、sec-オクチル基、tert-オクチル基、イソノニル基、sec-ノニル基、tert-ノニル基、イソデシル基、sec-デシル基、tert-デシル基、イソウンデシル基、sec-ウンデシル基、tert-ウンデシル基、ネオウンデシル基、イソドデシル基、sec-ドデシル基、tert-ドデシル基、ネオドデシル基、イソトリデシル基、sec-トリデシル基、tert-トリデシル基、ネオトリデシル基、イソテトラデシル基、sec-テトラデシル基、tert-テトラデシル基、ネオテトラデシル基、1-イソブチル-4-エチルオクチル基、イソペンタデシル基、sec-ペンタデシル基、tert-ペンタデシル基、ネオペンタデシル基、イソヘキサデシル基、sec-ヘキサデシル基、tert-ヘキサデシル基、ネオヘキサデシル基、1-メチルペンタデシル基、イソヘプタデシル基、sec-ヘプタデシル基、tert-ヘプタデシル基、ネオヘプタデシル基、イソオクタデシル基、sec-オクタデシル基、tert-オクタデシル基、ネオオクタデシル基、イソノナデシル基、sec-ノナデシル基、tert-ノナデシル基、ネオノナデシル基、1-メチルオクチル基、イソイコシル基、sec-イコシル基、tert-イコシル基、ネオイコシル基等が挙げられる。
これらの中でも、アルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基等の低級アルキル基が好ましい。
【0126】
一般式(CT1)において、RC11、RC12、RC13、RC14、RC15、及びRC16が表すアルコキシ基としては、炭素数1以上20以下(好ましくは1以上6以下、より好ましくは1以上4以下)の直鎖状又は分岐状のアルコキシ基が挙げられる。
直鎖状のアルコキシ基として具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、n-トリデシルオキシ基、n-テトラデシルオキシ基、n-ペンタデシルオキシ基、n-ヘキサデシルオキシ基、n-ヘプタデシルオキシ基、n-オクタデシルオキシ基、n-ノナデシルオキシ基、n-イコシルオキシ基等が挙げられる。
分岐状のアルコキシ基として具体的には、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、tert-ペンチルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、sec-ヘキシルオキシ基、tert-ヘキシルオキシ基、イソヘプチルオキシ基、sec-ヘプチルオキシ基、tert-ヘプチルオキシ基、イソオクチルオキシ基、sec-オクチルオキシ基、tert-オクチルオキシ基、イソノニルオキシ基、sec-ノニルオキシ基、tert-ノニルオキシ基、イソデシルオキシ基、sec-デシルオキシ基、tert-デシルオキシ基、イソウンデシルオキシ基、sec-ウンデシルオキシ基、tert-ウンデシルオキシ基、ネオウンデシルオキシ基、イソドデシルオキシ基、sec-ドデシルオキシ基、tert-ドデシルオキシ基、ネオドデシルオキシ基、イソトリデシルオキシ基、sec-トリデシルオキシ基、tert-トリデシルオキシ基、ネオトリデシルオキシ基、イソテトラデシルオキシ基、sec-テトラデシルオキシ基、tert-テトラデシルオキシ基、ネオテトラデシルオキシ基、1-イソブチル-4-エチルオクチルオキシ基、イソペンタデシルオキシ基、sec-ペンタデシルオキシ基、tert-ペンタデシルオキシ基、ネオペンタデシルオキシ基、イソヘキサデシルオキシ基、sec-ヘキサデシルオキシ基、tert-ヘキサデシルオキシ基、ネオヘキサデシルオキシ基、1-メチルペンタデシルオキシ基、イソヘプタデシルオキシ基、sec-ヘプタデシルオキシ基、tert-ヘプタデシルオキシ基、ネオヘプタデシルオキシ基、イソオクタデシルオキシ基、sec-オクタデシルオキシ基、tert-オクタデシルオキシ基、ネオオクタデシルオキシ基、イソノナデシルオキシ基、sec-ノナデシルオキシ基、tert-ノナデシルオキシ基、ネオノナデシルオキシ基、1-メチルオクチルオキシ基、イソイコシルオキシ基、sec-イコシルオキシ基、tert-イコシルオキシ基、ネオイコシルオキシ基等が挙げられる。
これらの中でも、アルコキシ基としては、メトキシ基が好ましい。
【0127】
一般式(CT1)において、RC11、RC12、RC13、RC14、RC15、及びRC16が表すアリール基としては、炭素数6以上30以下(好ましくは6以上20以下、より好ましくは6以上16以下)のアリール基が挙げられる。
アリール基として具体的には、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、ビフェニリル基などが挙げられる。
これらの中でも、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基が好ましい。
【0128】
なお、一般式(CT1)において、RC11、RC12、RC13、RC14、RC15、及びRC16が表す上記各置換基は、さらに置換基を有する基も含む。この置換基としては、上記例示した原子および基(例えばハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基など)が挙げられる。
【0129】
一般式(CT1)において、RC11、RC12、RC13、RC14、RC15、及びRC16の隣接する二つの置換基同士(例えばRC11及びRC12同士、RC13及びRC14同士、RC15及びRC16同士)が連結した炭化水素環構造における、当該置換基同士を連結する基としては、単結合、2,2’-メチレン基、2,2’-エチレン基、2,2’-ビニレン基などが挙げられ、これらの中でも単結合、2,2’-メチレン基が好ましい。
ここで、炭化水素環構造として具体的には、例えば、シクロアルカン構造、シクロアルケン構造、シクロアルカンポリエン構造等が挙げられる。
【0130】
一般式(CT1)において、n及びmは、1であることが好ましい。
【0131】
一般式(CT1)において、電荷輸送能の高い感光層(電荷輸送層)形成の点から、RC11、RC12、RC13、RC14、RC15、及びRC16が水素原子、炭素数1以上20以下のアルキル基、又は炭素数1以上20以下のアルコキシ基を表し、m及びnが1又は2を表することが好ましく、RC11、RC12、RC13、RC14、RC15、及びRC16が水素原子を表し、m及びnが1を表すことがより好ましい。
つまり、ブタジエン系電荷輸送材料(CT1)は、下記構造式(CT1A)で示される電荷輸送材料(例示化合物(CT1-3))であることがより好ましい。
【0132】
【0133】
以下に、ブタジエン系電荷輸送材料(CT1)の具体例を示すが、これに限定されるわけではない。
【0134】
【0135】
なお、上記例示化合物中の略記号は、以下の意味を示す。また、置換基の前に付す番号は、ベンゼン環に対する置換位置を示している。
・CH3:メチル基
・OCH3:メトキシ基
【0136】
ブタジエン系電荷輸送材料(CT1)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0137】
ベンジジン系電荷輸送材料(CT2)について説明する。
ベンジジン系電荷輸送材料(CT2)は、下記一般式(CT2)で示される電荷輸送材料である。
【0138】
【0139】
一般式(CT2)中、RC21、RC22、及びRC23は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上10以下のアルキル基、炭素数1以上10以下のアルコキシ基、又は、炭素数6以上10以下のアリール基を表す。
【0140】
一般式(CT2)において、RC21、RC22、及びRC23が表すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。これらの中でも、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0141】
一般式(CT2)において、RC21、RC22、及びRC23が表すアルキル基としては、炭素数1以上10以下(好ましくは1以上6以下、より好ましくは1以上4以下)の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。
直鎖状のアルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
分岐状のアルキル基として具体的には、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基、イソヘプチル基、sec-ヘプチル基、tert-ヘプチル基、イソオクチル基、sec-オクチル基、tert-オクチル基、イソノニル基、sec-ノニル基、tert-ノニル基、イソデシル基、sec-デシル基、tert-デシル基等が挙げられる。
これらの中でも、アルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基等の低級アルキル基が好ましい。
【0142】
一般式(CT2)において、RC21、RC22、及びRC23が表すアルコキシ基としては、炭素数1以上10以下(好ましくは1以上6以下、より好ましくは1以上4以下)の直鎖状又は分岐状のアルコキシ基が挙げられる。
直鎖状のアルコキシ基として具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基等が挙げられる。
分岐状のアルコキシ基として具体的には、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、tert-ペンチルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、sec-ヘキシルオキシ基、tert-ヘキシルオキシ基、イソヘプチルオキシ基、sec-ヘプチルオキシ基、tert-ヘプチルオキシ基、イソオクチルオキシ基、sec-オクチルオキシ基、tert-オクチルオキシ基、イソノニルオキシ基、sec-ノニルオキシ基、tert-ノニルオキシ基、イソデシルオキシ基、sec-デシルオキシ基、tert-デシルオキシ基等が挙げられる。
これらの中でも、アルコキシ基としては、メトキシ基が好ましい。
【0143】
一般式(CT2)において、RC21、RC22、及びRC23が表すアリール基としては、炭素数6以上10以下(好ましくは6以上9以下、より好ましくは6以上8以下)のアリール基が挙げられる。
アリール基として具体的には、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
これらの中でも、アリール基としては、フェニル基が好ましい。
【0144】
なお、一般式(CT2)において、RC21、RC22、及びRC23が表す上記各置換基は、さらに置換基を有する基も含む。この置換基としては、上記例示した原子および基(例えばハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基など)が挙げられる。
【0145】
一般式(CT2)において、電荷輸送能の高い感光層(電荷輸送層)形成の点から、RC21、RC22、及びRC23が、各々独立に、水素原子、又は、炭素数1以上10以下のアルキル基を表すことが好ましく、RC21、及びRC23が水素原子を表し、RC22が炭素数1以上10以下のアルキル基(特に、メチル基)を表すことがより好ましい。
具体的には、ベンジジン系電荷輸送材料(CT2)は、下記構造式(CT2A)で示される電荷輸送材料(例示化合物(CT2-2))であることが特に好ましい。
【0146】
【0147】
以下に、ベンジジン系電荷輸送材料(CT2)の具体例を示すが、これに限定されるわけではない。
【0148】
【0149】
なお、上記例示化合物中の略記号は、以下の意味を示す。また、置換基の前に付す番号は、ベンゼン環に対する置換位置を示している。
・CH3:メチル基
・C2H5:エチル基
・OCH3:メトキシ基
・OC2H5:エトキシ基
【0150】
ベンジジン系電荷輸送材料(CT2)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0151】
高分子電荷輸送材料としては、ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリシラン等の電荷輸送性を有する公知のものが用いられる。特に、特開平8-176293号公報、特開平8-208820号公報等に開示されているポリエステル系の高分子電荷輸送材は特に好ましい。なお、高分子電荷輸送材料は、単独で使用してよいが、結着樹脂と併用してもよい。
【0152】
電荷輸送層に用いる結着樹脂は、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体、シリコーン樹脂、シリコーンアルキッド樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、スチレン-アルキッド樹脂、ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリシラン等が挙げられる。これらの中でも、結着樹脂としては、ポリカーボネート樹脂又はポリアリレート樹脂が好適である。これらの結着樹脂は1種を単独で又は2種以上で用いる。
なお、電荷輸送材料と結着樹脂との配合比は、質量比で10:1から1:5までが好ましい。
【0153】
電荷輸送層には、その他、周知の添加剤が含まれていてもよい。
【0154】
電荷輸送層の形成は、特に制限はなく、周知の形成方法が利用されるが、例えば、上記成分を溶剤に加えた電荷輸送層形成用塗布液の塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥、必要に応じて加熱することで行う。
【0155】
電荷輸送層形成用塗布液を調製するための溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;アセトン、2-ブタノン等のケトン類;塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類;テトラヒドロフラン、エチルエーテル等の環状又は直鎖状のエーテル類等の通常の有機溶剤が挙げられる。これら溶剤は、単独で又は2種以上混合して用いる。
【0156】
電荷輸送層形成用塗布液を電荷発生層の上に塗布する際の塗布方法としては、ブレード塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、浸漬塗布法、ビード塗布法、エアーナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法が挙げられる。
【0157】
電荷輸送層の膜厚は、例えば、好ましくは5μm以上50μm以下、より好ましくは10μm以上45μm以下、さらに好ましくは20μm以上42μm以下の範囲内に設定される。
【0158】
(保護層)
保護層は、必要に応じて感光層上に設けられる。保護層は、例えば、帯電時の感光層の化学的変化を防止したり、感光層の機械的強度をさらに改善する目的で設けられる。
そのため、保護層は、硬化膜(架橋膜)で構成された層を適用することがよい。これら層としては、例えば、下記1)又は2)に示す層が挙げられる。
【0159】
1)反応性基及び電荷輸送性骨格を同一分子内に有する反応性基含有電荷輸送材料を含む組成物の硬化膜で構成された層(つまり当該反応性基含有電荷輸送材料の重合体又は架橋体を含む層)
2)非反応性の電荷輸送材料と、電荷輸送性骨格を有さず、反応性基を有する反応性基含有非電荷輸送材料と、を含む組成物の硬化膜で構成された層(つまり、非反応性の電荷輸送材料と、当該反応性基含有非電荷輸送材料の重合体又は架橋体と、を含む層)
【0160】
反応性基含有電荷輸送材料の反応性基としては、連鎖重合性基、エポキシ基、-OH、-OR[但し、Rはアルキル基を示す]、-NH2、-SH、-COOH、-SiRQ1
3-Qn(ORQ2)Qn[但し、RQ1は水素原子、アルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を表し、RQ2は水素原子、アルキル基、トリアルキルシリル基を表す。Qnは1~3の整数を表す]等の周知の反応性基が挙げられる。
【0161】
連鎖重合性基としては、ラジカル重合しうる官能基であれば特に限定されるものではなく、例えば、少なくとも炭素二重結合を含有する基を有する官能基である。具体的には、ビニル基、ビニルエーテル基、ビニルチオエーテル基、ビニルフェニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、及びそれらの誘導体から選択される少なくとも一つを含有する基等が挙げられる。なかでも、その反応性に優れることから、連鎖重合性基としては、ビニル基、ビニルフェニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、及びそれらの誘導体から選択される少なくとも一つを含有する基であることが好ましい。
【0162】
反応性基含有電荷輸送材料の電荷輸送性骨格としては、電子写真感光体における公知の構造であれば特に限定されるものではなく、例えば、トリアリールアミン系化合物、ベンジジン系化合物、ヒドラゾン系化合物等の含窒素の正孔輸送性化合物に由来する骨格であって、窒素原子と共役している構造が挙げられる。これらの中でも、トリアリールアミン骨格が好ましい。
【0163】
これら反応性基及び電荷輸送性骨格を有する反応性基含有電荷輸送材料、非反応性の電荷輸送材料、反応性基含有非電荷輸送材料は、周知の材料から選択すればよい。
【0164】
保護層には、その他、周知の添加剤が含まれていてもよい。
【0165】
保護層の形成は、特に制限はなく、周知の形成方法が利用されるが、例えば、上記成分を溶剤に加えた保護層形成用塗布液の塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥し、必要に応じて加熱等の硬化処理することで行う。
【0166】
保護層形成用塗布液を調製するための溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル等のセロソルブ系溶剤;イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール系溶剤等が挙げられる。これら溶剤は、単独で又は2種以上混合して用いる。
なお、保護層形成用塗布液は、無溶剤の塗布液であってもよい。
【0167】
保護層形成用塗布液を感光層(例えば電荷輸送層)上に塗布する方法としては、浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法が挙げられる。
【0168】
保護層の膜厚は、例えば、好ましくは1μm以上20μm以下、より好ましくは2μm以上10μm以下の範囲内に設定される。
【0169】
[画像形成装置(及びプロセスカートリッジ)]
本実施形態に係る画像形成装置は、電子写真感光体と、電子写真感光体の表面を帯電する帯電手段と、帯電した電子写真感光体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、トナーを含む現像剤により電子写真感光体の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、トナー像を記録媒体の表面に転写する転写手段と、を備える。そして、電子写真感光体として、上記本実施形態に係る電子写真感光体が適用される。
【0170】
本実施形態に係る画像形成装置は、記録媒体の表面に転写されたトナー像を定着する定着手段を備える装置;電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を直接記録媒体に転写する直接転写方式の装置;電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を中間転写体の表面に一次転写し、中間転写体の表面に転写されたトナー像を記録媒体の表面に二次転写する中間転写方式の装置;トナー像の転写後、帯電前の電子写真感光体の表面をクリーニングするクリーニング手段を備えた装置;トナー像の転写後、帯電前に電子写真感光体の表面に除電光を照射して除電する除電手段を備える装置;電子写真感光体の温度を上昇させ、相対温度を低減させるための電子写真感光体加熱部材を備える装置等の周知の画像形成装置が適用される。
【0171】
中間転写方式の装置の場合、転写手段は、例えば、表面にトナー像が転写される中間転写体と、電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を中間転写体の表面に一次転写する一次転写手段と、中間転写体の表面に転写されたトナー像を記録媒体の表面に二次転写する二次転写手段と、を有する構成が適用される。
【0172】
本実施形態に係る画像形成装置は、乾式現像方式の画像形成装置、湿式現像方式(液体現像剤を利用した現像方式)の画像形成装置のいずれであってもよい。
【0173】
なお、本実施形態に係る画像形成装置において、例えば、電子写真感光体を備える部分が、画像形成装置に対して着脱されるカートリッジ構造(プロセスカートリッジ)であってもよい。プロセスカートリッジとしては、例えば、本実施形態に係る電子写真感光体を備えるプロセスカートリッジが好適に用いられる。なお、プロセスカートリッジには、電子写真感光体以外に、例えば、帯電手段、静電潜像形成手段、現像手段、転写手段からなる群から選択される少なくとも一つを備えてもよい。
【0174】
以下、本実施形態に係る画像形成装置の一例を示すが、これに限定されるわけではない。なお、図に示す主要部を説明し、その他はその説明を省略する。
【0175】
図2は、本実施形態に係る画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
本実施形態に係る画像形成装置100は、
図2に示すように、電子写真感光体7を備えるプロセスカートリッジ300と、露光装置9(静電潜像形成手段の一例)と、転写装置40(一次転写装置)と、中間転写体50とを備える。なお、画像形成装置100において、露光装置9はプロセスカートリッジ300の開口部から電子写真感光体7に露光し得る位置に配置されており、転写装置40は中間転写体50を介して電子写真感光体7に対向する位置に配置されており、中間転写体50はその一部が電子写真感光体7に接触して配置されている。図示しないが、中間転写体50に転写されたトナー像を記録媒体(例えば用紙)に転写する二次転写装置も有している。なお、中間転写体50、転写装置40(一次転写装置)、及び二次転写装置(不図示)が転写手段の一例に相当する。
【0176】
図2におけるプロセスカートリッジ300は、ハウジング内に、電子写真感光体7、帯電装置8(帯電手段の一例)、現像装置11(現像手段の一例)、及びクリーニング装置13(クリーニング手段の一例)を一体に支持している。クリーニング装置13は、クリーニングブレード(クリーニング部材の一例)131を有しており、クリーニングブレード131は、電子写真感光体7の表面に接触するように配置されている。なお、クリーニング部材は、クリーニングブレード131の態様ではなく、導電性又は絶縁性の繊維状部材であってもよく、これを単独で、又はクリーニングブレード131と併用してもよい。
【0177】
なお、
図2には、画像形成装置として、潤滑材14を電子写真感光体7の表面に供給する繊維状部材132(ロール状)、及び、クリーニングを補助する繊維状部材133(平ブラシ状)を備えた例を示してあるが、これらは必要に応じて配置される。
【0178】
以下、本実施形態に係る画像形成装置の各構成について説明する。
【0179】
-帯電装置-
帯電装置8としては、例えば、導電性又は半導電性の帯電ローラ、帯電ブラシ、帯電フィルム、帯電ゴムブレード、帯電チューブ等を用いた接触型帯電器が使用される。また、非接触方式のローラ帯電器、コロナ放電を利用したスコロトロン帯電器やコロトロン帯電器等のそれ自体公知の帯電器等も使用される。
【0180】
-露光装置-
露光装置9としては、例えば、電子写真感光体7表面に、半導体レーザ光、LED光、液晶シャッタ光等の光を、定められた像様に露光する光学系機器等が挙げられる。光源の波長は電子写真感光体の分光感度領域内とする。半導体レーザの波長としては、780nm付近に発振波長を有する近赤外が主流である。しかし、この波長に限定されず、600nm台の発振波長レーザや青色レーザとして400nm以上450nm以下に発振波長を有するレーザも利用してもよい。また、カラー画像形成のためにはマルチビームを出力し得るタイプの面発光型のレーザ光源も有効である。
【0181】
-現像装置-
現像装置11としては、例えば、現像剤を接触又は非接触させて現像する一般的な現像装置が挙げられる。現像装置11としては、上述の機能を有している限り特に制限はなく、目的に応じて選択される。例えば、一成分系現像剤又は二成分系現像剤をブラシ、ローラ等を用いて電子写真感光体7に付着させる機能を有する公知の現像器等が挙げられる。中でも現像剤を表面に保持した現像ローラを用いるものが好ましい。
【0182】
現像装置11に使用される現像剤は、トナー単独の一成分系現像剤であってもよいし、トナーとキャリアとを含む二成分系現像剤であってもよい。また、現像剤は、磁性であってもよいし、非磁性であってもよい。これら現像剤は、周知のものが適用される。
【0183】
-クリーニング装置-
クリーニング装置13は、クリーニングブレード131を備えるクリーニングブレード方式の装置が用いられる。
なお、クリーニングブレード方式以外にも、ファーブラシクリーニング方式、現像同時クリーニング方式を採用してもよい。
【0184】
-転写装置-
転写装置40としては、例えば、ベルト、ローラ、フィルム、ゴムブレード等を用いた接触型転写帯電器、コロナ放電を利用したスコロトロン転写帯電器やコロトロン転写帯電器等のそれ自体公知の転写帯電器が挙げられる。
【0185】
-中間転写体-
中間転写体50としては、半導電性を付与したポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ゴム等を含むベルト状のもの(中間転写ベルト)が使用される。また、中間転写体の形態としては、ベルト状以外にドラム状のものを用いてもよい。
【0186】
図3は、本実施形態に係る画像形成装置の他の一例を示す概略構成図である。
図3に示す画像形成装置120は、プロセスカートリッジ300を4つ搭載したタンデム方式の多色画像形成装置である。画像形成装置120では、中間転写体50上に4つのプロセスカートリッジ300がそれぞれ並列に配置されており、1色に付き1つの電子写真感光体が使用される構成となっている。なお、画像形成装置120は、タンデム方式であること以外は、画像形成装置100と同様の構成を有している。
【実施例】
【0187】
以下、実施例により本実施形態を詳細に説明するが、本実施形態は、これら実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」はすべて質量基準である。
【0188】
<実施例1>
酸化亜鉛(商品名:MZ 300、テイカ株式会社製)100質量部と、シランカップリング剤としてN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシランの10質量%のトルエン溶液を10質量部と、トルエン200質量部と、を混合して攪拌を行い、2時間還流を行った。その後10mmHgにてトルエンを減圧留去し、135℃で2時間焼き付け表面処理を行った。
【0189】
表面処理した酸化亜鉛:33質量部と、ブロック化イソシアネート(商品名:スミジュール3175、住友バイエルンウレタン社製):6質量部と、電子受容性化合物として下記構造式(AK-1)で示される化合物:1質量部と、メチルエチルケトン:25質量部と、を30分間混合し、その後ブチラール樹脂(商品名:エスレックBM-1、積水化学工業社製):5質量部と、シリコーンボール(商品名:トスパール120、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製):3質量部と、レベリング剤としてシリコーンオイル(商品名:SH29PA、ダウコーニング社製):0.01質量部と、を添加し、サンドミルにて3時間の分散を行い、下引層形成用塗布液を得た。
【0190】
【0191】
さらに、浸漬塗布法にて、下引層形成用塗布液を、直径30mm、長さ365mm、肉厚1mmのアルミニウム基材上に塗布し、180℃、30分の乾燥硬化を行い、厚さ25μmの下引層を得た。
【0192】
次に、電荷発生材料としてのヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料(HOGaPc)、結着樹脂としての下記特定共重合体(1)、及びアセトンからなる混合物を、容量100mLガラス瓶中に1.0mmφガラスビーズ(充填率50%)とともに入れてペイントシェーカーを用いて2.5時間分散処理し、電荷発生層形成用塗布液を得た。
特定共重合体(1):塩素含有成分として前記一般式(1)で表されR11~R13がいずれも水素原子である構成単位と、アシルオキシ成分として前記一般式(2)で表されR21~R23がいずれも水素原子でありR24がメチル基である構成単位と、芳香族ポリカルボン酸成分として他の置換基を有さないフタル酸構造のベンゼン環が主鎖に直接結合した構成単位と、からなり、各構成成分の割合が表1に示す値であるビニル系共重合体
なお、特定共重合体(1)の重量平均分子量及びTHF溶解度を併せて表1に示す。
【0193】
ここで、電荷発生層形成用塗布液中に含まれる、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料と特定共重合体(1)との合計に対して、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料の含有率を60質量%とし、電荷発生層形成用塗布液の固形分濃度を6.0質量%とした。
【0194】
なお、上記ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料は、Cukα特性X線を用いたX線回折スペクトルのブラッグ角度(2θ±0.2°)が少なくとも7.3゜、16.0゜、24.9゜、28.0゜の位置に回折ピークを有するV型のヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料(600nm以上900nm以下の波長域での分光吸収スペクトルにおける最大ピーク波長=820nm、平均粒径=0.12μm、最大粒径=0.2μm、比表面積値=60m2/g)である。
【0195】
得られた電荷発生層形成用塗布液を、下引層上に浸漬塗布し、150℃で5分間乾燥して、膜厚0.14μmの電荷発生層を形成した。
【0196】
次に、下記構造式(CT1A)で示される電荷輸送材料12質量部、下記構造式(CT2A)で示される電荷輸送材料28質量部、及びビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂(分子量4万)60質量部を、テトラヒドロフラン340重量部に加えて溶解し、電荷輸送層形成用塗布液を得た。
得られた電荷輸送層形成用塗布液を、電荷発生層上に浸漬塗布し、150℃、40分の乾燥を行うことにより膜厚40μmの電荷輸送層を形成した。
【0197】
【0198】
【0199】
以上の工程を経て、実施例1の電子写真感光体を得た。
【0200】
<実施例2~7>
電荷発生層形成用塗布液の調製において用いる結着樹脂として、特定共重合体(1)における各構成単位の割合を表1に示すように変更した特定共重合体(2)~(7)を用いた以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体を得た。
なお、特定共重合体(2)~(7)の重量平均分子量及びTHF溶解度を併せて表1に示す。
【0201】
<実施例8~14>
電荷発生層形成用塗布液の調製において用いる電荷発生材料の種類を、クロロガリウムフタロシアニン顔料(ClGaPc)に変更した以外は、実施例1~7と同様にして、それぞれ電子写真感光体を得た。
【0202】
<実施例15~21>
電荷発生層形成用塗布液の調製において用いる電荷発生材料の種類を、チタニルフタロシアニン顔料(TiOPc)に変更した以外は、実施例1~7と同様にして、それぞれ電子写真感光体を得た。
【0203】
<比較例1>
電荷発生層形成用塗布液の調製において用いる結着樹脂として、下記ビニル系共重合体(C1)を用いた以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体を得た。
ビニル系共重合体(C1):塩素含有成分として前記一般式(1)で表されR11~R13がいずれも水素原子である構成単位と、アシルオキシ成分として前記一般式(2)で表されR21~R23がいずれも水素原子でありR24がメチル基である構成単位と、その他のポリカルボン酸成分としてマレイン酸に由来する成分と、からなり、各構成成分の割合が表1に示す値であるビニル系共重合体
なお、ビニル系共重合体(C1)の重量平均分子量及びTHF溶解度を併せて表1に示す。
【0204】
<比較例2~7>
電荷発生層形成用塗布液の調製において用いる結着樹脂として、ビニル系共重合体(C1)における各構成単位の割合を表1に示すように変更したビニル系共重合体(C2)~(C7)を用いた以外は、比較例1と同様にして、電子写真感光体を得た。
なお、ビニル系共重合体(C2)~(C7)の重量平均分子量及びTHF溶解度を併せて表1に示す。
【0205】
<比較例8~9>
電荷発生層形成用塗布液の調製において用いる結着樹脂として、特定共重合体(1)における各構成単位の割合を表1に示すように変更した特定共重合体(8)~(9)を用いた以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体を得た。
なお、特定共重合体(8)~(9)の重量平均分子量及びTHF溶解度を併せて表1に示す。
【0206】
<比較例10>
電荷発生層形成用塗布液の調製において用いる結着樹脂として、下記ビニル系共重合体(C8)を用いた以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体を得た。
ビニル系共重合体(C8):塩素含有成分として前記一般式(1)で表されR11~R13がいずれも水素原子である構成単位と、アシルオキシ成分として前記一般式(2)で表されR21~R23がいずれも水素原子でありR24がメチル基である構成単位と、その他のポリカルボン酸成分としてヒドロキシブチルアクリレートに由来する成分と、からなり、各構成成分の割合が表1に示す値であるビニル系共重合体
【0207】
<比較例11>
電荷発生層形成用塗布液の調製において用いる結着樹脂として、ビニル系共重合体(C8)における各構成単位の割合を表1に示すように変更したビニル系共重合体(C9)を用いた以外は、比較例10と同様にして、電子写真感光体を得た。
なお、ビニル系共重合体(C9)の重量平均分子量及びTHF溶解度を併せて表1に示す。
【0208】
<比較例12~18>
電荷発生層形成用塗布液の調製において用いる電荷発生材料の種類を、クロロガリウムフタロシアニン顔料(ClGaPc)に変更した以外は、比較例1~7と同様にして、それぞれ電子写真感光体を得た。
【0209】
<比較例19~25>
電荷発生層形成用塗布液の調製において用いる電荷発生材料の種類を、チタニルフタロシアニン顔料(TiOPc)に変更した以外は、比較例1~7と同様にして、それぞれ電子写真感光体を得た。
【0210】
【0211】
<評価>
(画像濃度差の評価)
各例で得られた電子写真感光体を、電子写真方式の画像形成装置(富士ゼロックス社製:ApeosPort-V C7776)に搭載し、A3サイズの用紙に、画像濃度70%の全面ハーフトーン画像(シアン色の全面ハーフトーン画像)を1000枚出力した。なお、画像出力は全て10℃、15%RHの環境下で実施した。
1000枚目における全面ハーフトーン画像について、電子写真感光体の軸方向の一端及び多端に対応する領域それぞれ5箇所ずつについて、画像濃度計(X-Rite938:X-Rite社製)を用いて画像濃度を測定して平均し、その画像濃度差(すなわち、「一端の平均画像濃度」-「他端の平均画像濃度」の絶対値)を求め、以下の評価基準で判定した。結果を表2~3に示す。なお、G2までが許容される範囲である。
【0212】
-評価基準-
G0:0 ≦ 画像濃度差 ≦ 0.05
G1:0.05 < 画像濃度差 ≦ 0.1
G2:0.1 < 画像濃度差 ≦ 0.2
G3:0.2 < 画像濃度差 ≦ 0.25
G4:0.25 < 画像濃度差 ≦ 0.3
G5:0.3 < 画像濃度差 ≦ 0.35
G6:0.35 < 画像濃度差
【0213】
(感度の評価)
各例の電子写真感光体における感度の評価は、+800Vに電子写真感光体を帯電させたときの半減露光量として評価した。
具体的に、まず、静電複写紙試験装置(エレクトロスタティックアナライザーEPA-8100、川口電気社製)を用いて、温度20℃/相対湿度40%の環境下、各例の電子写真感光体を+800Vに帯電させた。その後、タングステンランプの光を、モノクロメーターを用いて800nmの単色光にし、電子写真感光体の表面上で1μW/cm2となるように、光量を調整して照射した。そして、帯電直後における電子写真感光体の表面電位Vo(V)が、光照射により2分の1となる半減露光量(μJ/cm2)を測定した。得られた半減露光量の値を、下記の基準で分類した。結果を表2~3に示す。
【0214】
G1:半減露光量が0.10μJ/cm2以下であった。
G2:半減露光量が0.10μJ/cm2超え0.13μJ/cm2以下であった。
G3:半減露光量が0.13μJ/cm2超え0.15μJ/cm2以下であった。
G4:半減露光量が0.15μJ/cm2超え0.18μJ/cm2以下であった。
G5:半減露光量が0.18μJ/cm2を超えていた。
【0215】
各例における、特定共重合体又はビニル系共重合体の全構成成分に対するポリカルボン酸成分の割合をA質量%とし、特定共重合体又はビニル系共重合体に対する電荷発生材料の含有量をC質量%としたときにおけるA/Cの値を、併せて表2~3に示す。
【0216】
【0217】
【0218】
上記結果から、本実施例の電子写真感光体は、比較例の電子写真感光体に比べ、電子写真感光体の軸方向における画像濃度差が抑制されていることがわかる。
【符号の説明】
【0219】
1 下引層、2 電荷発生層、3 電荷輸送層、4 導電性基体、5 感光層、7 電子写真感光体、7A 電子写真感光体、8 帯電装置、9 露光装置、11 現像装置、13 クリーニング装置、14 潤滑材、40 転写装置、50 中間転写体、100 画像形成装置、120 画像形成装置、131 クリーニングブレード、132 繊維状部材(ロール状)、133 繊維状部材(平ブラシ状)、300 プロセスカートリッジ