(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】車載装置制御システム
(51)【国際特許分類】
B60T 5/00 20060101AFI20241008BHJP
F16D 65/847 20060101ALI20241008BHJP
F16D 66/00 20060101ALI20241008BHJP
B60L 7/24 20060101ALI20241008BHJP
B60G 17/015 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B60T5/00 A
F16D65/847
F16D66/00 Z
B60L7/24 D
B60G17/015 C
(21)【出願番号】P 2021083787
(22)【出願日】2021-05-18
【審査請求日】2024-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 智宏
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-249788(JP,A)
【文献】特開2010-208436(JP,A)
【文献】特開2010-070151(JP,A)
【文献】特開2010-032054(JP,A)
【文献】特開2019-097361(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0131950(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111086498(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 5/00
F16D 65/847
F16D 66/00
B60L 7/24
B60G 17/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された車載装置を制御する車載装置制御システムであって、
前記車載装置が、流体給排装置と、前記車両の車輪に対応して設けられ、前記流体給排装置に接続された車高調整アクチュエータとを備えた車高調整装置を含み、
当該車載装置制御システムが、
前記車輪の回転を抑制する摩擦ブレーキの温度を推定するブレーキ温度推定部と、
前記ブレーキ温度推定部によって推定された前記摩擦ブレーキの温度が設定温度より高い場合には、前記流体給排装置を制御することにより前記車高調整アクチュエータに流体を供給して、前記車高を高くする車高アップ制御部と
を含む車載装置制御システム。
【請求項2】
前記車高アップ制御部が、前記車両がほぼ直進走行している場合において、前記ブレーキ温度推定部によって推定された前記摩擦ブレーキの温度が前記設定温度より高い場合に、前記車高を高くするものである請求項1に記載の車載装置制御システム。
【請求項3】
前記摩擦ブレーキが、前記車輪とともに回転可能な回転体に摩擦パッドを押付装置により押し付けることにより、前記車輪の回転を抑制するものであり、
前記ブレーキ温度推定部が、前記摩擦ブレーキの温度を、前回の前記摩擦ブレーキの温度に、設定時間の間における前記摩擦ブレーキにおける上昇温度を加えた温度として推定するものであり、
前記上昇温度を、前記設定時間の間に、前記摩擦ブレーキにおいて吸収されたエネルギである吸収エネルギから前記摩擦ブレーキにおいて放出されたエネルギである放出エネルギを引いた値を、前記回転体の重量と前記回転体の比熱との積で割った値として推定するものである請求項1または2に記載の車載装置制御システム。
【請求項4】
前記摩擦ブレーキが、前記車輪とともに回転可能な回転体に摩擦パッドを押付装置により押し付けることにより、前記車輪の回転を抑制するものであり、
前記車載装置が、報知装置を含み、
当該車載装置制御システムが、前記摩擦パッドの摩耗量を推定するパッド摩耗量推定部と、前記パッド摩耗量推定部によって推定された前記摩擦パッドの摩耗量が設定摩耗量より大きくなった場合に、前記報知装置にそのことを報知させる報知制御部とを含む請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車載装置制御システム。
【請求項5】
前記車載装置が、前記車両の駆動源に含まれる電動モータの回生制動により、前記車輪に回生制動力を付与する回生制動装置を含み、
前記摩擦ブレーキが、前記車輪とともに回転可能な回転体に摩擦パッドを押付装置により押し付けることにより、前記車輪の回転を抑制するものであり、
当該車載装置制御システムが、
前記摩擦パッドの摩耗量を推定するパッド摩耗量推定部と、
前記パッド摩耗量推定部によって推定された前記摩擦パッドの摩耗量が設定摩耗量より大きくなった場合と、前記ブレーキ温度推定部によって推定された前記摩擦ブレーキの温度が設定温度より高くなった場合との少なくとも一方の場合に、前記回生制動装置を制御することにより、前記回生制動力を大きくして、前記摩擦ブレーキによる摩擦制動力を小さくする回生協調制御部を含む請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車載装置制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された車載装置を制御する車載装置制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、摩擦ブレーキの摩擦パッドの摩耗の程度を検出するセンサを摩擦パッドに取り付け、そのセンサからの信号に基づいて摩擦パッドの摩耗の程度を取得すること、また、走行距離等に基づいて摩擦パッドの摩耗の程度を推定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、摩擦ブレーキの温度を推定し、効きの低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る車載装置制御システムにおいては、摩擦ブレーキの温度が推定され、その推定された温度が設定温度より高い場合に、車載装置としての車高調整装置が制御されて、車高が高くされる。その結果、摩擦ブレーキの温度上昇を抑制し、温度が高いことに起因する摩擦ブレーキの効きの低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明に係る車載装置制御システムが搭載された車両全体を概念的に示す図である。
【
図2】上記車両に搭載された車載装置としてのディスクブレーキの断面図である。
【
図3】上記車両に搭載された車載装置としての車高調整装置を概念的に示す図である。
【
図4】上記車載装置制御システムを概念的に示す図である。
【
図5】上記車載装置制御システムに記憶されたブレーキ冷却プログラムを表すフローチャートである。
【
図6】上記車載装置制御システムに記憶された別のブレーキ冷却プログラムを表すフローチャートである。
【
図7】(7A)上記車載装置制御システムに記憶されたパッド摩耗量報知プログラムを表すフローチャートである。(7B)上記パッド摩耗量報知プログラムの一部を表すフローチャートである。
【
図8】上記車載装置制御システムに記憶された回生制動力制御プログラムを表すフローチャートである。
【
図9】上記車載装置制御システムに記憶された回生協調制御プログラムを表すフローチャートである。
【
図10】上記車載装置制御システムに記憶された摩耗率取得マップを概念的に示す図である。
【
図11】上記摩擦ブレーキの温度を推定するために用いる式等を示す図である。
【発明の実施形態】
【0007】
以下、本発明の一実施形態である車載装置制御システムについて図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0008】
本車載装置制御システムが搭載された車両は、例えば、駆動源に電動モータを備えた車両であるハイブリッド車両とすることができる。本ハイブリッド車両において、
図1に示すように、駆動輪としての左右前輪2FL,2FRは、駆動用の電動モータである駆動用モータ6とエンジン8とを含む駆動装置10によって駆動される。駆動装置10の駆動力はドライブシャフト12,14を介して左右前輪2FL,2FRに伝達される。駆動装置10には、駆動用モータ6、エンジン8に加えて、バッテリ20,モータジェネレータ22,電力変換装置24,動力分割機構26等が含まれる。動力分割機構26には、駆動用モータ6,モータジェネレータ22,エンジン8が連結され、これらの制御により、出力部材28に駆動用モータ6の駆動トルクとエンジン8の駆動トルクとの少なくとも一方が伝達される。出力部材28に伝達された駆動力は、減速機、差動装置を介してドライブシャフト12,14に伝達される。
【0009】
電力変換装置24はインバータ等を含むものである。電力変換装置24における電流制御により、少なくとも、駆動用モータ6にバッテリ20から電気エネルギが供給されて回転させられる回転駆動状態と、回生制動によりバッテリ20に電気エネルギを充電する充電状態とに切り換えられる。充電状態においては、左右前輪2,4に回生制動トルクが加えられる。本実施例において、電力変換装置24、駆動用モータ6、バッテリ20等により回生制動装置30が構成される。
【0010】
本ハイブリッド車両は、
図4に示すように、回生制動装置30と摩擦制動装置32とを備えた車両制動装置34,車高調整装置36,転舵装置38等を含む。
摩擦制動装置32は、
図1に示すように、左右前輪2FL,2FRに設けられた摩擦ブレーキとしての液圧ブレーキ40FL,40FRのホイールシリンダ42FL,42FR、左右後輪44RL,44RRに設けられた液圧ブレーキ50RL,50RRのホイールシリンダ52RL,52RR、マスタシリンダ46、ホイールシリンダ42FL,42FR,52RL,52RRに制御した液圧を供給可能な液圧制御ユニット53等を含む。
以下、車輪位置を表す符号FL,FR,RL,RR、F,R等は、車輪位置を特定する必要がない場合、総称する場合には省略する。
【0011】
液圧ブレーキ40,50は、それぞれ、
図2に示すようにディスクブレーキであり、車輪2,44とともに回転可能な回転体としてのディスクロータ54の両側に位置するインナパッド56inおよびアウタパッド56outと、上述のホイールシリンダ42,52および駆動部材としてのキャリパ60を備えた押付装置58とを含む。ホイールシリンダ42,52の液圧によるピストン61の前進とキャリパ60の移動とにより、インナパッド56in、アウタパッド56outには、ホイールシリンダ42,52の液圧に応じた押付力が加えられる。インナパッド56in、アウタパッド56outとディスクロータ54とが摩擦係合させられ、液圧ブレーキ40,50が作動させられる。
【0012】
インナパッド56in,アウタパッド56outは、それぞれ、ディスクロータ54に摩擦係合する摩擦部材62と、摩擦部材62を保持する裏板63とを含み、摩擦部材62とディスクロータ54との摩擦係合により、摩擦部材62が摩耗する。
以下、インナパッド56in,アウタパッド56outを総称する場合に、これらを摩擦パッド56と称する場合がある。また、摩擦パッド56は、インナパッド56in、アウタパッド56outの摩擦部材62をいう場合もある。
【0013】
マスタシリンダ46は、マニュアル液圧源であり、運転者によって操作可能なブレーキ操作部材としてのブレーキペダル65等の操作に起因して液圧を発生させるものである。
液圧制御ユニット53は、ポンプ等の動力式液圧源67と、複数の電磁弁を備えた電磁弁群68とを含み、マスタシリンダ46において発生させられた液圧または動力式液圧源67において発生させられた液圧が、電磁弁群68に含まれる複数の電磁弁の制御により制御されて、ホイールシリンダ42,52に供給される。
【0014】
車両制動装置34は、コンピュータを主体とするブレーキECU70によって制御される。ブレーキECU70には、ホイールシリンダ42,52の液圧をそれぞれ検出するホイールシリンダ圧センサ72,前後左右の車輪2,44の回転速度をそれぞれ検出する車輪速度センサ74等が接続されるとともに、液圧制御ユニット53,回生制動装置30の電力変換装置24等が接続される。ブレーキECU70による液圧制御ユニット53,回生制動装置30の制御により、車輪2,44に加えられる制動力が制御される。ブレーキECU70においては、回生協調制御が行われるのであり、回生制動力と摩擦制動力との和が目標総制動力に近づくように、回生制動装置30と液圧制御ユニット53との少なくとも一方が制御される。
【0015】
ブレーキECU70において、
図9のフローチャートで表される回生協調制御プログラムがサイクルタイムΔt毎に実行される。
ステップ41(以下、S41と略称する。他のステップにおいても同様とする)において、目標総制動力が取得される。目標総制動力は、車両全体の制動力の目標値であり、例えば、ブレーキペダル65の操作状態に基づいて取得したり、カメラ等により認識された周辺の物体と本車両との相対位置関係に基づいて取得したりすること等ができる。S42において、回生制動力が制御される。回生制動力は、車両の走行速度、バッテリ20の充電状態等に基づき、効率よく充電可能な大きさに制御される。S43において、目標総制動力から回生制動力を引いた値に基づいて目標摩擦制動力が取得される。そして、S44において、目標摩擦制動力が得られるように、液圧制御ユニット53が制御される。
【0016】
車高調整装置36は、
図3に示すように、前後左右の各車輪2,44に対応して、それぞれ、車輪側部材と車体側部材との間に設けられた車高調整アクチュエータとしての流体アクチュエータ82FL,82FR、84RL,84RRと、流体給排装置86とが設けられる。本実施例においては、流体としてエアが用いられる。
【0017】
流体アクチュエータ82,84は、それぞれ、車体側部材と車輪側部材との間に直列に設けられたエアシリンダ87とショックアブソーバ88とを含む。エアシリンダ87は、車体側部材に設けられたシリンダ本体としてのチャンバ本体90と、チャンバ本体90に固定されたダイヤフラム91と、ダイヤフラム91およびショックアブソーバ88のシリンダ本体に上下方向に一体的に移動可能に設けられたエアピストン94とを含み、これらの内部が流体室としてのエア室(チャンバ)95とされる。ショックアブソーバ88は、車輪側部材に設けられたシリンダ本体と、車体側部材に連結されたピストンとを含む。
チャンバ95におけるエアの給排によりエアピストン94がチャンバ本体90に対して上下方向に相対移動させられ、それにより、ショックアブソーバ88においてシリンダ本体とピストンとが上下方向に相対移動させられるのであり、車輪側部材と車体側部材との間の距離である車高が変化させられる。
【0018】
エアシリンダ87のチャンバ95には、それぞれ、個別通路98および共通通路100を介して流体給排装置としてのエア給排装置86が接続される。個別通路98には、それぞれ、車高制御弁102が設けられる。車高制御弁102は常閉の電磁弁であり、開状態において、チャンバ95とエア給排装置86との双方向のエアの流れを許容し、閉状態において、チャンバ95からエア給排装置86へのエアの流れを阻止する。
【0019】
エア給排装置86は、ポンプ110、ポンプ110を駆動するポンプモータ112、排気弁114、タンク116等を含む。ポンプ110の吐出側には、共通通路100が接続され、共通通路100には、それぞれ、吐出弁122,ドライヤ124,流通制限装置126,流体圧センサとしてのエア圧センサ128等が設けられる。流通制限装置126は、互いに並列に位置する絞り126aと差圧弁126bとを含み、流通制限装置126によりポンプ110と流体アクチュエータ82,84との間のエアの流れが制限される。ポンプ110の吸収側には、吸入弁130,フィルタ132が設けられる。ポンプ110は、フィルタ132,吸入弁130を介してエアを大気から吸入する。
【0020】
排気弁114は共通通路100と大気との間に設けられる。排気弁114は常閉の電磁開閉弁であり、開状態にある場合に、流体アクチュエータ82,84のエアチャンバ95のエア又はポンプ110から吐出されたエアが大気に放出される。
タンク116は、常閉の電磁開閉弁であるタンク圧制御弁134を介して共通通路100に設けられる。タンク116には、ポンプ100から吐出されたエア又はチャンバ95から流出させられたエア等が蓄えられる。
エア圧センサ128は、タンク圧制御弁134が閉、4つの車高制御弁102のうちの1つが開の場合には、その開である1つの車高制御弁102に対応する流体シリンダ87のチャンバ95のエアの圧力を検出する。また、すべての車高制御弁102が閉、タンク圧制御弁134が開である場合には、タンク116の圧力であるタンク圧を検出する。
【0021】
車高調整装置36はコンピュータを主体とする車高調整ECU150によって制御される。車高調整ECU150には、エア圧センサ128、各車輪2,44についての車高をそれぞれ検出する車高センサ152等が接続されるとともに、ポンプモータ112,排気弁114,タンク圧制御弁134等を備えたエア給排装置86、車高制御弁102等が接続される。車高調整ECU150によるエア給排装置86と車高制御弁102との制御により、各車輪2,44についての車高がそれぞれ制御される。
【0022】
転舵装置38は、図示しない操舵輪である左右前輪2を転舵する転舵アクチュエータを含むものである。転舵装置38において、車両の自動運転状態においては、運転者による図示しない操舵操作部材としてのステアリングホイールの操舵によることなく左右前輪2が転舵され、車両のマニュアル運転状態においては、ステアリングホイールの操作によって左右前輪2が転舵される。
本転舵装置38に含まれる転舵アクチュエータは、コンピュータを主体とする転舵ECU170によって制御される。転舵ECU170には、左右前輪2の各々の転舵角をそれぞれ検出する転舵角センサ160,ステアリングホイールに運転者によって加えられる操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ162等が接続される。
【0023】
これらブレーキECU70,車高調整ECU150、転舵ECU170等は互いにCAN(Controller Area Network)180を介して接続され、通信可能とされている。また、CAN180には、ディスプレイ等の報知装置182が接続される。
【0024】
また、これらブレーキECU70、車高調整ECU150,転舵ECU170等により車載装置制御システムが構成され、車両正剛相異34(回生制動装置30、摩擦制動装置32)、車高調整装置36、転舵装置38、報知装置182等がそれぞれ車載装置に対応する。また、液圧制御ユニット53、エア給排装置86が車載装置に対応すると考えることもできる。
【0025】
以上のように構成された車両において、摩擦ブレーキ40,50の作用中に、前後左右の各車輪2,44の各々において摩擦ブレーキ40,50の温度(具体的には、摩擦ブレーキ40,50のディスクロータ54の温度)がそれぞれ推定され、その推定されたディスクロータ54の温度である推定温度Trがそれぞれ設定温度より高いか否か判定される。そして、推定温度Trが設定温度より高いと判定された場合には、その摩擦ブレーキが設けられた車輪についての車高が高くされる。それにより、摩擦ブレーキ40,50の温度上昇が抑制される。
【0026】
本実施例において、ディスクロータ54の今回の温度Trは、前回のディスクロータ54の温度T
beforeにサイクルタイムΔtの間のディスクロータ54の上昇温度ΔTrを加えた温度であると推定される。上昇温度ΔTrは、摩擦ブレーキ40,50の各々において、吸収されたエネルギである吸収エネルギQ
inから放出されたエネルギである放出エネルギQ
outを引いた値を、ディスクロータ54の摩擦パッド56と摩擦係合する部分の重量W
bと比熱Cとで割った温度として推定することができる。例えば、ディスクロータ54の推定温度Trは、
図11の(1)式に示すように推定することができる。
ΔTr=(Q
in-Q
out)/(W
b*C)
Tr=T
before+ΔTr・・・・(1)
【0027】
吸収エネルギQinは、(2)式に示すように、摩擦パッド56とディスクロータ54との間の摩擦力Fが為した仕事に基づいて推定されるようにしたり、(3)式に示すように、車両の運動エネルギの減少分に基づいて推定されるようにしたりすること等ができる。
【0028】
F=2*P*μ*Ab
Qin=F*V*(2πr/2πR)*Δt・・・・(2)
【0029】
(2)式に示すように、摩擦力Fは、摩擦ブレーキ40,50の各々におけるホイールシリンダ42,52の液圧Pにディスクロータ54と摩擦パッド56との摺動部の面積Abを掛け、ディスクロータ54と摩擦パッド56との間の摩擦係数μを掛けた値を2倍した値である。2倍するのは、インナパッド56inとディスクロータ54との間の摩擦力と、アウタパッド56outとディスクロータ54との間の摩擦力との和が、1つの摩擦ブレーキ40,50における摩擦力Fに対応するからである。ホイールシリンダ42,52の液圧Pは、ホイールシリンダ圧センサ72によって検出される。摩擦係数μは規格値が使用される。
【0030】
また、(2)式において、車両の走行速度VにサイクルタイムΔtを掛け、車輪の半径Rに対する摩擦パッド56とディスクロータ54との摺動部までの半径rの比率を掛けた値は、ディスクロータ54の摩擦パッド56と摩擦係合する部分の移動量であると考えることができる。そのため、摩擦力Fに移動量を掛けることにより、摩擦力Fが成した仕事が取得される。車両の走行速度Vは車輪速度センサ74の検出値に基づいて取得される。
【0031】
Qin={M*(Vbefore
2-V2)/2}*C1*C2*α*(1/2)・・・(3)
(3)式において、サイクルタイムΔtの間の車両の運動エネルギの減少分が摩擦ブレーキ40,50において吸収されたと推定される。なお、摩擦ブレーキ40,50において吸収されるエネルギは回生制動装置30において吸収されるエネルギを考慮して求めることが可能である。
【0032】
(3)式において、Mは、車両重量であり、Vbeforeは、前回(Δt前)の車両の走行速度であり、C1,C2は、それぞれ、走行抵抗損失係数、摺動部以外での熱損失係数である。
αは、前輪荷重の車両重量に対する比率である前輪荷重比αf、または後輪荷重の車両重量に対する比率である後輪荷重比αrであり、車両重量Mに前輪荷重比αfまたは後輪荷重比αrを掛けて2で割ることにより、前輪2、後輪44の各々における左右輪の一方の車輪の荷重が推定され得る。
【0033】
車両重量Mは、例えば、前後左右の各車輪2,44において、車輪側部材と車体側部材との間に、サスペンションスプリングであるコイルバネが設けられていない場合には、エア圧センサ128によって検出された左右前輪2の流体アクチュエータ82のチャンバ95のエア圧と左右後輪44の流体アクチュエータ84のチャンバ95のエア圧との合計に基づいて車両重量Mが推定される。
また、左右前輪2の流体アクチュエータ82のチャンバ95のエア圧の前輪2と後輪44とのエア圧の合計に対する比率が前輪荷重比αfに対応し、左右後輪44の流体アクチュエータ84のチャンバ95のエア圧の前輪2と後輪44とのエア圧の合計に対する比率が後輪荷重比αrに対応する。
一方、流体アクチュエータ82,84のチャンバ95のエア圧を検出できない場合には、車両重量Mは、標準的な値(例えば、搭乗者2名の場合を想定して予め求められた車両重量である標準重量Ms)を使用したり、積載荷重が大きい場合の値(例えば、設定荷重の荷物が後部に積載されている場合を想定して予め求められた車両重量である規定重量Mb)を使用したりすること等ができる。また、車両重量が標準重量Msである場合、規定重量Mbである場合の各々の前輪荷重比αf、後輪荷重比αrも予め求められている。
【0034】
放出エネルギQoutは、例えば、前回のディスクロータ54の温度と外気温度との差である温度差(Tbefore-Tatm)、熱伝達率hv等に基づいて推定することができる。
【0035】
以上のように、摩擦ブレーキ40,50の1つあたりの吸収エネルギQinを(2)式または(3)式に基づいて取得し、放出エネルギQoutを上述のように取得して、(1)式に代入することにより、ディスクロータ54の温度を推定することができる。
吸収エネルギQinについて、(2)式においては、摩擦パッド56とディスクロータ54との間の摩擦係数μの実際値は規定値とは異なることが多い。また、(3)式においては、車両重量M、前輪荷重αf、後輪荷重αrを精度よく取得することは困難である。そこで、これらを考慮して、適宜、吸収エネルギQinが取得される。
【0036】
ブレーキECU70において
図5のフローチャートで表されるブレーキ冷却プログラムがサイクルタイムΔt毎に実行される。本ブレーキ冷却プログラムは、摩擦ブレーキ40,50の作用中に実行される。
ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする)において、上述のように、前後左右の各車輪2,44の各々において摩擦ブレーキ40,50の各々のディスクロータ54の温度Trがそれぞれ推定され、S2において、推定温度Trがそれぞれ設定温度Tr0(例えば、300℃)より高いか否かが判定される。設定温度は、例えば、フェード現象により、摩擦ブレーキ40,50の効きが低下する可能性があると考えられる温度に基づいて決まる温度とすることができる。フェード現象が起きると考えられる温度は、摩擦パッド56の材料等で決まるため、摩擦パッド56の温度に基づいて決まる。一方、ディスクロータ54と摩擦パッド56とは互いに接触しているため、ディスクロータ54の温度Trと摩擦パッド56の温度Tpとはほぼ同じであると推定することができる(Tr=Tp)。
【0037】
S2の判定がNOである場合には、S3以降が実行されることはない。S2の判定がYESである場合には、S3において、走行速度Vが車輪速度センサ74の検出値に基づいて取得され、S4において、走行速度Vが設定速度V0より速いか否かが判定される。設定速度V0は、例えば、車高を高くした場合に、摩擦ブレーキ40,50の冷却効果が得られると考えられる速度とすることができる。
【0038】
S4の判定がYESである場合には、S5において操舵トルクJが取得され、S6において、操舵トルクJの絶対値が0より大きく、設定トルクJ0より小さいか否かが判定される。操舵トルクセンサ162によって検出された操舵トルクJは、CAN150を介する転舵ECU170との通信により、ブレーキECU70において取得される。設定トルクJ0は、例えば、操舵トルクが大きく、車両が設定状態以上で旋回していると考えられる場合の値とすることができる。設定状態とは、例えば、急旋回状態等、車高を高くすることが望ましくない旋回状態をいう。
【0039】
S6の判定がYESである場合には、S7においてブレーキECU70から車高調整ECU150に、摩擦ブレーキ40,50の温度が設定温度より高いと判定された車輪について、車高を設定上昇量高くする旨の指令が出力される。それにより、車高調整装置36において、その車輪についての車高が、設定上昇量高くされる。なお、車高は設定車高まで高くされるようにしてもよい。いずれにしても、冷却効果が得られる高さに車高が制御される。
【0040】
それに対して、S6の判定がNOである場合には、S8において、操舵トルクJが0であるか否かが判定される。判定がYESである場合には、運転者がステアリングホイールから手を放している状態(手放し状態)にあると推定されるため、S9において、手放し状態であることが報知装置182により報知される。手放し状態において車高を高くすることは望ましくないため、そのことが報知されるのである。そして、次に、本プログラムが実行された場合に、S5において取得された操舵トルクJの絶対値が0より大きい場合には、S6における判定がYESとなり、S7において、車高が高くされる。
【0041】
なお、S4において、走行速度Vに上限値を設け、走行速度Vが上限値より速い場合には、S4の判定がNOとなるようにすることができる。上限値より速い速度で走行している場合には、車高を高くすることは望ましくないからである。
【0042】
また、ブレーキECU70においては、
図6のフローチャートで表されるブレーキ冷却プログラムが実行されるようにすることができる。本プログラムと
図5のフローチャートで表される冷却プログラムとで同様の実行が行われるステップについては同じステップ番号を付して説明を省略する。
S4の判定がYESである場合には、S15において、転舵角センサ160により検出された転舵角φがCAN180を介して取得され、S16において、転舵角センサ160等に異常があるか否かが判定される。例えば、転舵角センサ160等のセンサが異常である場合には、CAN180を介してセンサ値等を受信できない場合がある。そのため、センサ値を受信できない場合等には、センサ等が異常であると判定されるのである。
S16における判定がNOである場合には、S17において、転舵角φの絶対値が0以上、設定角度φ0より小さいか否かが判定される。設定角度φ0は、例えば、ほぼ直進走行状態であると推定し得る大きさとすることができる。判定がYESである場合には、S18において、ブレーキECU70から車高調整ECU150に車高をアップする指令が出力される。
【0043】
それに対して、S16の判定がYESである場合には、S19において、報知装置182によりセンサ等が異常であることが報知され、車両が停止させられる。センサ等が異常である場合には、車両を走行させることが望ましくないからである。
【0044】
このように、本実施例においては、摩擦ブレーキ40,50の温度が高い場合には車高が高くされる。それにより、摩擦ブレーキ40,50の温度上昇を抑制し、効きの低下を抑制することができる。
また、摩擦ブレーキ40,50の温度が、吸収エネルギQin等に基づいて推定されるため、適切な時に、摩擦ブレーキ40,50を冷却することができ、効きの低下を良好に抑制することができる。
【0045】
さらに、本実施例においては、摩擦パッド56の摩耗量Dが推定され、摩耗量Dが設定摩耗量より大きくなった場合に、そのことが報知される。
【0046】
摩擦パッド56の摩耗量であるパッド摩耗量Dは、(4)式に示すように推定することができる。
D=Σd
d=Q
in*w/A
b・・・(4)
パッド摩耗量D、摩耗増加量d(m)は、インナパッド56inの摩耗量とアウタパッド56outの摩耗量との合計であり、(4)式において、wは、摩耗率(m
3/kg・m)である。摩耗率wは、ディスクロータ54の温度Trと車両の走行速度Vとに基づいて決まる値である。本実施例においては、
図10に示すように、ディスクロータ54の温度Trと車両の走行速度Vとを変化させて、それぞれにおける摩耗率wを実測してマップ化して予め記憶されている。摩耗率wは、ディスクロータ54の温度Trが高くなると大きくなる。
また、dは、サイクルタイムΔtの間の摩耗量である摩耗増加量であるため、dを累積して、パッド摩耗量Dが取得される。
【0047】
ブレーキECU70において、
図7Aのフローチャートで表される摩耗量報知プログラムがサイクルタイムΔt毎に実行される。S21において、摩耗量Dが推定され、S22において、推定された摩耗量Dが設定摩耗量D0より大きいか否かが判定される。判定がYESである場合には、S23において、そのことが報知装置182によって報知される。設定摩耗量D0は、例えば、交換することが望ましいと考えられる摩耗量とすることができる。
【0048】
また、摩耗量Dは、
図7Bのフローチャートで表される摩耗量推定プログラムに従って推定される。本プログラムにおいては、(3)式に基づいて吸収エネルギQ
inが推定されるが、(2)式に基づいて推定されるようにすることもできる。
S51において、エア圧センサ128によって検出された各流体アクチュエータ82,84のエア圧がCAN180を介して取得され、S52において、センサ等が正常であるか否かが判定される。判定がYESである場合には、S53において、これらの検出値に基づいて車両重量M,前輪荷重比αf、後輪荷重比αrが取得される。それに対して、S52の判定がNOである場合には、S54において、車両重量Mが、積載荷重が設定荷重より大きい場合の車両重量である規定重量Mbとされ、前輪荷重比αf、後輪荷重比αrは、それぞれ、規定重量Mbに応じて予め求められた値とされる。
例えば、通信異常、センサの異常等により、CAN180を介してエア圧センサ128の検出値等を取得することができない場合には、エア圧等が0になる場合があり、その場合には、S52の判定がNOとなる。
【0049】
そして、S55において、車輪速度センサ74の検出値に基づいて走行速度Vが取得され、摩擦ブレーキ40,50の温度が上述の場合と同様に推定され、これらに基づいて摩擦率wが取得される。そして、S56において、(4)式に基づいて、サイクルタイムΔtの間の摩擦パッドの摩耗量の増加分である摩耗増加量dが取得され、その累積値であるパッド摩耗量Dが取得される。
【0050】
このように、本実施例においては、パッド摩耗量Dが、摩擦ブレーキ40,50において吸収される吸収エネルギQin,摩耗率w等に基づいて推定される。その結果、車両の累積走行距離等に基づいて推定される場合に比較して、正確にパッド摩耗量Dを推定することができる。
また、センサ異常等の場合には、吸収エネルギQinは、車両重量Mを、積載荷重が大きい場合の規定重量Mbとして、取得される。吸収エネルギQinは実際値より大きい値となり、パッド摩耗量Dも実際値より大きい値に推定される。その結果、パッドの摩耗量Dが設定摩耗量D0に達したことが早めに報知される。
【0051】
なお、ブレーキECU70においては、
図8のフローチャートで表される回生制動力制御プログラムが実行されるようにすることができる。本プログラムと
図7のフローチャートで表される摩耗量報知プログラムとで同様の実行が行われるステップについては同じステップ番号を付して説明を省略する。
S21、22において、パッド摩耗量Dが取得され、設定摩耗量D0より大きいか否かが判定される。判定がYESである場合には、S33において、回生制動力が大きくされる。それに対して、ブレーキECU70においては、前述のように、回生協調制御が行われ、回生制動力と摩擦制動力との和が目標総制動力に近づくように、回生制動力と摩擦制動力との少なくとも一方が制御される。そのため、回生制動力が大きくされることにより、摩擦制動力を小さくすることができるのであり、それにより、摩擦パッド56の温度の上昇を抑制し、摩擦パッド56の摩耗を抑制することができる。
【0052】
なお、摩擦ブレーキ40,50の推定温度Trが設定温度Tr0より高い場合に、回生制動力が大きくされて、摩擦制動力が小さく(ホイールシリンダ42,52の液圧が低く)されるようにすることができる。ホイールシリンダ42,52の液圧が低くされることにより、摩擦ブレーキ40,50における吸収エネルギQinが小さくされ、摩擦ブレーキ40,50の温度上昇を抑制することができる。
また、回生制動力を制御する際に、エア圧センサ128の検出値に基づいて前輪荷重比αf、後輪荷重比αrを取得し、前輪荷重比αfが大きい場合には、回生制動力を積極的に大きくすることにより、車両全体の制動力を効果的に大きくすることができる。また、回生制動力を大きくすることにより、充電量を増やすことができる。
さらに、回生制動力は、パッド摩耗量Dの大小に関係なく、前輪荷重比αfに基づいて制御されるようにすることができる。
【0053】
上記実施例において、ブレーキECU70のS1を記憶する部分、実行する部分等によりブレーキ温度推定部、ブレーキ温度推定装置が構成され、S7を記憶する部分、実行する部分等により車高アップ制御部が構成され、S21を記憶する部分、実行する部分等によりパッド摩耗量推定部、パッド摩耗量推定装置が構成され、S23を記憶する部分、実行する部分等により報知装置制御部が構成される。また、ブレーキECU70の
図9のフローチャートで表される回生協調制御プログラムを記憶する部分、実行する部分等により回生協調制御部が構成される。
【0054】
なお、本車載装置制御システムは、ハイブリッド車両に限らず、電気自動車、燃料電池車両等に搭載することもできる。
また、車載装置制御システムにおいて、ブレーキECU70、車高調整ECU150、転舵ECU170等を別個に設けることは不可欠ではなく、これらを1つのECUとすることができる。
さらに、摩擦制動装置32の構造は問わない。また、液圧ブレーキ40,50に代えて電動ブレーキとしたり、ディスクブレーキ40,50に代えてドラムブレーキとしたりすること等ができる。
【0055】
また、車高調整装置36の構造は問わない。例えば、車体側部材と車輪側部材との間に流体アクチュエータと並列にコイルスプリングが設けられる場合があり、その場合には、車両重量、前輪荷重、後輪荷重は、例えば、車高センサの検出値と流体圧センサの検出値とに基づいて、換言すると、コイルスプリングの伸縮量と流体アクチュエータの各々の流体圧とに基づいて取得することができる。なお、車両の荷重は、前後左右の各車輪についての車高がほぼ同じであり、ほぼ車高が標準車高である場合の前後左右の各々の流体アクチュエータの流体圧の合計に基づいて取得することができ、前輪荷重、後輪荷重を取得することができる。
さらに、転舵角センサの代わりにステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサを用いることもできる等、その他、本発明は、上記実施例の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0056】
30:回生制動装置 32:摩擦制動装置 36:車高調整装置 38:転舵装置 40,50:摩擦ブレーキ 53:液圧制御ユニット 56:摩擦パッド 62:摩擦部材 70:ブレーキECU 72:ホイールシリンダ圧センサ 74:車輪速度センサ 80,82:流体アクチュエータ 86:エア給排装置 95:チャンバ 100:共通通路 102:車高制御弁 128エア圧センサ 150:車高調整ECU 160:操舵トルクセンサ 162:転舵角センサ 170:転舵ECU 182:報知装置
【特許請求可能な発明】
【0057】
(1)車両に搭載された車載装置を制御する車載装置制御システムであって、
前記車載装置が、流体給排装置と、前記車両の車輪に対応して設けられ、前記流体給排装置に接続された車高調整アクチュエータとを備えた車高調整装置を含み、
当該車載装置制御システムが、
前記車輪の回転を抑制する摩擦ブレーキの温度を推定するブレーキ温度推定部と、
前記ブレーキ温度推定部によって推定された前記摩擦ブレーキの温度が設定温度より高い場合には、前記流体給排装置を制御することにより前記車高調整アクチュエータに流体を供給して、前記車高を高くする車高アップ制御部と
を含む車載装置制御システム。
【0058】
例えば、摩擦ブレーキの温度が設定温度より高い場合は、車高を予め定められた設定上昇量高くしたり、予め定められた設定車高まで高くしたりすること等ができる。
また、設定温度は、例えば、フェード現象等に起因して摩擦ブレーキの効きが低下すると推測される温度に基づいて決まる温度とすることができる。具体的には、摩擦ブレーキの効きが低下すると推定される温度としたり、効きが低下する温度より設定温度低い温度としたりすること等ができる。設定温度は、摩擦ブレーキの摩擦パッドの摩耗率が高くなる温度に基づいて決まる温度としたりすること等ができる。これらフェードが生じる温度、摩擦パッドの摩耗率が高くなる温度は、摩擦パッドの材料等に基づいて決まる。
【0059】
(2)前記車高アップ制御部が、前記車両がほぼ直進走行している場合において、前記ブレーキ温度推定部によって推定された前記摩擦ブレーキの温度が前記設定温度より高い場合に、前記車高を高くするものである(1)項に記載の車載装置制御システム。
【0060】
車両が、設定状態を越えて旋回走行している場合に車高を高くするのは走行安定性の観点から望ましくない。そこで、設定状態以下の旋回走行中に、車高を高くすることが望ましい。設定状態の旋回走行とは、例えば、旋回半径が設定半径より小さい状態での旋回走行、転舵速度の絶対値が設定値より大きい状態での旋回走行等が該当する。
なお、旋回走行中には直進走行中より、車高上昇量を小さくすることができる。
【0061】
(3)前記車高アップ制御部が、前記車両の走行速度が設定速度より大きい場合において、前記温度推定部によって推定された前記摩擦ブレーキの温度が前記設定温度より高い場合に、前記車高を高くするものである(1)項または(2)項に記載の車載装置制御システム。
【0062】
(4)前記摩擦ブレーキが、前記車輪とともに回転可能な回転体に摩擦パッドを押付装置により押し付けることにより、前記車輪の回転を抑制するものであり、
前記ブレーキ温度推定部が、前記摩擦ブレーキの温度を、前回の前記摩擦ブレーキの温度に、設定時間の間における前記摩擦ブレーキにおける上昇温度を加えた温度として推定するものであり、
前記上昇温度を、前記設定時間の間に、前記摩擦ブレーキにおいて吸収されたエネルギである吸収エネルギから前記摩擦ブレーキにおいて放出されたエネルギである放出エネルギを引いた値を、前記回転体の重量と前記回転体の比熱との積で割った値として推定するものである(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載の車載装置制御システム。
【0063】
本車載装置制御システムにおいて、摩擦ブレーキの温度として回転体の温度が推定される。また。設定時間はサイクルタイムΔtとすることができる。
【0064】
(5)前記ブレーキ温度推定部が、前記吸収エネルギを、前記摩擦パッドと前記回転体との間に生じる摩擦力によって行われた仕事と、前記車両において発生させられた運動エネルギの減少分との少なくとも一方に基づいて推定するものである(4)項に記載の車載装置制御システム。
【0065】
(6)前記ブレーキ温度推定部が、前記車高調整アクチュエータの流体圧に基づいて前記車両重量を推定し、前記車両において発生させられた運動エネルギの減少分を取得して、前記吸収エネルギを推定するものである(5)項に記載の車載装置制御システム。
【0066】
車両重量、各車輪に加えられる荷重等は、車高調整アクチュエータの流体圧に基づいて推定することができる。また、流体圧を取得できない場合には、車両重量について予め定められた規格値を使用することができる。規格値は、積載重量が設定重量以上の場合の車両重量とすることができる。
【0067】
(7)前記ブレーキ温度推定部が、前記放出エネルギを、前回の前記摩擦ブレーキの温度から外気温度を引いた値に基づいて推定するものである(4)項ないし(6)項のいずれか1つに記載の車載装置制御システム。
摩擦ブレーキと外気との温度差が大きい場合は小さい場合より放出エネルギが大きくなる。
【0068】
(8)前記摩擦ブレーキが、前記車輪とともに回転可能な回転体に摩擦パッドを押付装置により押し付けることにより、前記車輪の回転を抑制するものであり、
前記車載装置が、報知装置を含み、
当該車載装置制御システムが、前記摩擦パッドの摩耗量を推定するパッド摩耗量推定部と、前記パッド摩耗量推定部によって推定された前記摩擦パッドの摩耗量が設定摩耗量より大きくなった場合に、前記報知装置にそのことを報知させる報知制御部とを含む(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載の車載装置制御システム。
【0069】
報知装置は、音や音声を発生させるものであっても、光を発するものであってもよい。報知装置は、ディスプレイを備えたものとすることができる。
【0070】
(9)前記パッド摩耗量推定部が、前記摩擦ブレーキにおいて設定時間の間に吸収されるエネルギである吸収エネルギと、前記ブレーキ温度推定部によって推定された前記摩擦ブレーキの温度に基づいて取得された摩耗率とに基づいて推定された前記摩擦パッドの摩耗増加量を累積して前記摩耗量を推定するものである(8)項に記載の車載装置制御システム。
【0071】
摩擦ブレーキの温度が高い場合は低い場合より摩耗率が大きくなる。そのため、摩擦ブレーキにおける吸収エネルギが同じであっても、摩擦ブレーキの温度が高い場合は低い場合より摩耗の進行が早くなり易い。
【0072】
(10)前記パッド摩耗量推定部が、前記吸収エネルギを、前記車両の運動エネルギの減少分に基づいて推定する場合に、車両重量を、前記車高調整アクチュエータの流体圧に基づいて取得するとともに、前記流体圧を取得できない場合に、前記車両重量を、積載荷重が設定荷重以上である場合の予め定められた規格重量として、前記摩擦パッドの摩耗量を推定するものである(9)項に記載の車載装置制御システム。
【0073】
車両重量を大きめの値とすることにより、推定された摩擦パッドの摩耗量は実際値より大きい値となる。それにより、摩擦パッドの交換時期を早めに報知することが可能となり、安全性を向上させることができる。
【0074】
(11)前記車載装置が、前記車両の駆動源に含まれる電動モータの回生制動により、前記車輪に回生制動力を付与する回生制動装置を含み、
前記摩擦ブレーキが、前記車輪とともに回転可能な回転体に摩擦パッドを押付装置により押し付けることにより、前記車輪の回転を抑制するものであり、
当該車載装置制御システムが、
前記摩擦パッドの摩耗量を推定するパッド摩耗量推定部と、
前記パッド摩耗量推定部によって推定された前記摩擦パッドの摩耗量が設定摩耗量より大きくなった場合と、前記ブレーキ温度推定部によって推定された前記摩擦ブレーキの温度が設定温度より高い場合との少なくとも一方の場合に、前記回生制動装置を制御することにより、前記回生制動力を大きくして、前記押付装置による前記摩擦パッドの前記回転体への押付力を小さくする回生協調制御部を含む(1)項ないし(10)項のいずれか1つに記載の車載装置制御システム。
【0075】
車両制動装置においては、回生協調制御が行われるのが普通である。そのため、回生制動力が大きくされれば、摩擦制動力が小さくされる。それにより、摩擦ブレーキの温度の上昇を抑制し、摩耗をし難くすることができる。
【0076】
(12)前記回生制動力制御部が、前記車両の前輪荷重と後輪荷重との比率に基づいて、前記回生制動力を制御するものである(11)項に記載の車載装置制御システム。
【0077】
前輪と後輪との少なくとも一方の駆動輪に加えられる荷重が大きい場合は小さい場合より回生制動力を大きくすることにより、車両全体の制動力を効果的に大きくすることができ、充電量を増やすことができる。
【0078】
(13)車両に搭載された車載装置を制御する車載装置制御システムであって、
前記車載装置が、
前記車両の車輪に対応して設けられ、前記車輪と一体的に回転可能な回転体に摩擦パッドを押付装置により押し付けることにより、前記車輪の回転を抑制する摩擦ブレーキと、前記押付装置による前記摩擦パッドの前記回転体への押付力を制御可能な押付力制御装置とを含む摩擦制動装置と、
前記車輪を駆動する電動モータの回生制動により、前記車輪に回生制動力を付与する回生制動装置と
を含み、
当該車載装置制御システムが、
前記摩擦ブレーキの温度を推定するブレーキ温度推定部と、
前記摩擦パッドの摩耗量を推定するパッド摩耗量推定部と、
前記パッド摩耗量推定部によって推定された前記摩擦パッドの摩耗量が設定摩耗量より大きい場合と、前記ブレーキ温度推定部によって推定された前記摩擦ブレーキの温度が設定温度より高い場合との少なくとも一方の場合に、前記回生制動装置を制御することにより前記回生制動力を大きくして、前記押付装置制御装置を制御することにより前記押付力を小さくする回生協調制御部と
を含む車載装置制御システム。
本項に記載の車載装置制御システムは、(1)項ないし(12)項のいずれか1つに記載の技術的特徴を採用することができる。
【0079】
(14)車両に搭載された車載装置を制御する車載装置制御システムであって、
前記車載装置が、
前記車両の前輪と後輪との少なくとも一方の駆動輪を駆動する電動モータの回生制動により、前記車輪に回生制動力を付与する回生制動装置と、
前記車両の前記前輪と前記後輪との各々についての車高を調整可能な車高調整アクチュエータを備え、前記車高調整アクチュエータにおいて流体を流出させたり流入したりすることにより前記車高を変化させる流体給排装置とを備えた車高調整装置と
を含み、
当該車載装置制御システムが、
前記前輪の前記車高調整アクチュエータにおける流体圧と前記後輪の前記車高調整アクチュエータにおける流体圧とを取得して、前記駆動輪に加えられる荷重を推定する荷重推定装置と、
前記荷重推定装置によって推定された前記駆動輪に加えられる荷重に基づいて前記回生制動装置を制御して、前記駆動輪に加えられる回生制動力を制御する回生制動力制御部と
を含む車載装置制御システム。
本項に記載の車載装置制御システムは、(1)項ないし(13)項のいずれか1つに記載の技術的特徴を採用することができる。
【0080】
(15)車両の車輪に設けられ、前記車輪の回転を抑制する摩擦ブレーキの温度を推定するブレーキ温度推定装置であって、
当該ブレーキ温度推定装置が、前回の摩擦ブレーキの温度に、設定時間の間に、前記摩擦ブレーキにおいて吸収されたエネルギである吸収エネルギから前記摩擦ブレーキにおいて放出されたエネルギである放出エネルギを引いた値に基づいて推定された温度上昇量を加えた温度を、今回の摩擦ブレーキの温度として推定するものであるブレーキ温度推定装置。
本項に記載のブレーキ温度推定装置には、(1)項ないし(14)項のいずれかの技術的特徴を採用することができる。
【0081】
(16)車両の車輪に設けられ、前記車輪と一体的に回転させられる回転体に摩擦パッドを押付装置により押し付けることにより、前記車輪の回転を抑制する摩擦ブレーキの前記摩擦パッドの摩耗量を推定するパッド摩耗量推定装置であって、
当該パッド摩耗量推定装置が、前記摩耗量を、前記摩擦ブレーキにおいて吸収されたエネルギである吸収エネルギと、前記摩擦ブレーキの温度に基づいて決まる摩耗率とに基づいて推定された前記パッド摩耗増加量を累積することにより推定するものであるパッド摩耗量推定装置。
本項に記載のパッド摩耗量推定装置には、(1)項ないし(15)項の何れかの技術的特徴を採用することができる。