(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】スイッチング素子駆動回路
(51)【国際特許分類】
H02M 1/08 20060101AFI20241008BHJP
H03K 17/16 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H03K17/16 F
(21)【出願番号】P 2021083884
(22)【出願日】2021-05-18
【審査請求日】2023-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐太
(72)【発明者】
【氏名】牧田 真治
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-057072(JP,A)
【文献】特開2014-233043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御端子及び出力端子を備え、前記制御端子への駆動信号の供給及び供給停止に応じてスイッチングされオン状態及びオフ状態に状態が遷移し、前記出力端子から前記駆動信号の供給及び供給停止に応じて立ち上がり、かつ立ち下がる波形の信号を出力するスイッチング素子(44U)に供給する駆動信号を生成する駆動信号生成部(22U)と、
前記駆動信号生成部と前記制御端子との間に配置されて、前記出力端子から出力される波形の信号のスルーレートを調整するスルーレート調整部(32U)と、
前記スイッチング素子(44U)がオン状態、またはオフ状態に遷移する際の遷移時間
が、最大遷移時間(t
L)と最小遷移時間(t
S)との
間で拡散数(n)の回数だけ変化するように、前記波形が立ち上がる際、及び立ち下がる際の各々のスルーレート
を調整するように前記スルーレート調整部(32U)を制御する制御部(30U)と、
を含
み、
前記最大遷移時間(t
L
)と前記最小遷移時間(t
S
)との差分(ΔT)は、前記拡散数(n)を含む値を被除数、前記スイッチング素子のスイッチングによって生じる電磁ノイズの特定周波数(f
1
)を含む値を徐数とした商である、
スイッチング素子駆動回路。
【請求項2】
前記特定周波数(f
1)は、低減対象の前記電磁ノイズにおける中心周波数(f
m)を被除数、自然数で表された次数の2倍から1を減算した値を徐数とした場合の商であり、
前記遷移時間を前記最小遷移時間(t
S)と前記最大遷移時間(t
L)との間で変化させる回数である拡散数(n)は、前記中心周波数(f
m)と前記低減対象の周波数範囲(106)の下限値との差であると共に前記周波数範囲の上限値と前記中心周波数(f
m)との差である周波数差分(Δf)の2倍値を被除数、前記特定周波数(f
1)と前記周波数差分(Δf)との差を徐数とした商であり、
前記最大遷移時間(t
L)と前記最小遷移時間(t
S)との差分(ΔT)は、前記拡散数(n)に1を加算した値を被除数、前記特定周波数(f
1)の2倍値を徐数とした商であり、
前記制御部(30U)は、前記遷移時間が前記最小遷移時間(t
S)と前記最大遷移時間(t
L)との間で前記拡散数(n)の回数で変化するように前記スルーレート調整部(32U)を制御する請求項1に記載のスイッチング素子駆動回路。
【請求項3】
前記特定周波数f
1は、前記中心周波数f
mと前記次数mとによって下記の式(1)で表され、
前記拡散数nは、前記周波数差分Δfと前記特定周波数f
1とによって下記の式(2)で表され、
前記最大遷移時間t
Lと前記最小遷移時間t
Sとの差分ΔTは、前記拡散数nと前記特定周波数f
1とによって下記の式(3)で表される請求項2に記載のスイッチング素子駆動回路。
【請求項4】
前記制御部(30U)は、前記スイッチング素子(44U)のスイッチング毎に、前記遷移時間が前記最小遷移時間(t
S)と前記最大遷移時間(t
L)との間で前記拡散数(n)に応じて等間隔に変化するように前記スルーレート調整部(32U)を制御する請求項2又は3に記載のスイッチング素子駆動回路。
【請求項5】
前記次数は1で、前記特定周波数(f
1)と前記中心周波数(f
m)とが一致する請求項2~4のいずれか1項に記載のスイッチング素子駆動回路。
【請求項6】
前記スイッチング素子(42U、44U)は、上段スイッチング素子(42U)と下段スイッチング素子(44U)とが相補的にオンオフし、
前記制御部(30U)は、前記上段スイッチング素子(42U)がオン又はオフになる場合と、前記下段スイッチング素子(44U)がオン又はオフになる場合とで、前記遷移時間が変化する範囲が異なるように前記スルーレート調整部(32U)を制御する請求項1~5のいずれか1項に記載のスイッチング素子駆動回路。
【請求項7】
前記スイッチング素子(42U、44U)は、回転電機(12)の巻線に印加する電圧をスイッチングによって生成し、
前記制御部(30U)は、前記回転電機(12)における電気角の半周期毎に前記遷移時間が変化するように前記スルーレート調整部(32U)を制御する請求項6に記載のスイッチング素子駆動回路。
【請求項8】
前記制御部(30U)は、所定期間内での前記上段スイッチング素子(42U)の前記遷移時間の平均と、前記下段スイッチング素子(44U)の前記遷移時間の平均とが等しくなるように、前記スルーレート調整部(32U)を制御する請求項6又は7に記載のスイッチング素子駆動回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子のゲートを駆動するスイッチング素子駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)、MOSFET(金属酸化物半導体電界効果トランジスタ) などのスイッチング素子のゲートを駆動するスイッチング素子駆動回路では、スイッチングによって生じる電磁ノイズであるスイッチングノイズの低減が求められている。
【0003】
スイッチング素子のスイッチングノイズを低減するには、スイッチングノイズの周波数を分散させることが効果的とされている。そして、スイッチングノイズの周波数は、スイッチング素子のドレインソース間電圧が0から立ち上がった状態である電圧振幅に達するまでの時間、又はドレインソース間電圧が電圧振幅から0になるまでの時間である遷移時間の長さが影響する。
【0004】
下記特許文献1には、遷移時間におけるドレインソース間電圧の変化率であるスルーレートを拡散的に変化させることにより、遷移時間を、基準値Δtを中心として、Δt-αからΔt+αまで変化させるスイッチング素子の駆動装置の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に係る発明は、スルーレートの拡散による遷移時間の変化と、スイッチングノイズの低減との関係が明確でないことから、スルーレートの拡散のし方によってはスイッチングノイズ低減の効果が認められない周波数帯域が存在するという問題があった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みて創作されたものであり、スイッチングノイズの低減が効果的な条件に基づいてスイッチング素子のスルーレートを制御するスイッチング素子駆動回路を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明に係るスイッチング素子駆動回路は、制御端子及び出力端子を備え、前記制御端子への駆動信号の供給及び供給停止に応じてスイッチングされオン状態及びオフ状態に状態が遷移し、前記出力端子から前記駆動信号の供給及び供給停止に応じて立ち上がり、かつ立ち下がる波形の信号を出力するスイッチング素子(44U)に供給する駆動信号を生成する駆動信号生成部(22U)と、前記駆動信号生成部と前記制御端子との間に配置されて、前記出力端子から出力される波形の信号のスルーレートを調整するスルーレート調整部(32U)と、前記スイッチング素子(44U)がオン状態、またはオフ状態に遷移する際の遷移時間の最大遷移時間(tL)と最小遷移時間(tS)との差分が、前記スイッチング素子のスイッチングによって生じる電磁ノイズの特定周波数(f1)の逆数に比例する場合、前記波形が立ち上がる際、及び立ち下がる際の各々のスルーレートが前記最大遷移時間(tL)と前記最小遷移時間(tS)との間で変化するように前記スルーレート調整部(32U)を制御する制御部(30U)と、を含んでいる。
【0009】
この様に構成することで、スイッチングノイズの低減が効果的な条件に基づいてスイッチング素子のスルーレートを制御することにより、スイッチングノイズを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係るスイッチング素子駆動回路を備えたインバータの一例を示したブロック図である。
【
図2】スイッチング素子のゲートに設けられたゲートドライバの構成の一例を示したブロック図である。
【
図3】制御部の具体的な構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】ドレインソース間電圧の波形の一例を示した説明図である。
【
図5】遷移時間を拡散的に変化させた場合のドレインソース間電圧の波形を示した説明図である。
【
図7】遷移時間を変化させる回数に係る数である拡散数の説明図である。
【
図8】(A)は、低減対象の周波数範囲と、低減対象の周波数範囲の中心周波数と、中心周波数と低減対象の周波数範囲の下限値との差であると共に周波数範囲の上限値と中心周波数との差である周波数差分の説明図であり、(B)は、中心周波数と特定周波数との関係を示した概略図である。
【
図9】本実施形態に係るスイッチング素子駆動回路の処理の一例を示したフローチャートである。
【
図10】周波数範囲の中心周波数と、特定周波数と、周波数差分との関係の一例を示した概略図である。
【
図11】(A)は、遷移時間を5つに変化させた場合のV
ds波形の一例を示した概略図であり、(B)は、遷移時間を等差で変化させた場合の各々の拡散時間の長短の関係を示した概略図である。
【
図12】(A)は、式(4)においてm=2とした場合の周波数範囲と、中心周波数と、特定周波数との関係の一例を示した概略図であり、(B)は、式(4)においてm=1とした場合の周波数範囲と、中心周波数と、特定周波数との関係の一例を示した概略図である。
【
図13】上段のスイッチング素子と下段のスイッチング素子とが相補的にオンオフし、上段のスイッチング素子がオン又はオフになる場合と、下段のスイッチング素子がオン又はオフになる場合とで、遷移時間が変化する範囲が異なるように操作部を制御して駆動信号の電流値を変化させる場合の説明図である。
【
図14】回転電機における電気角の半周期毎に遷移時間が変化するように操作部を制御して駆動信号の電流値を変化させる場合の説明図である。
【
図15】所定期間内での上段のスイッチング素子の遷移時間の平均と下段のスイッチング素子の遷移時間の平均とが等しくなるように、操作部を制御して駆動信号の電流値を変化させる場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施形態]
【0012】
以下、本実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係るスイッチング素子駆動回路を備えたインバータ10の一例を示したブロック図である。インバータ10は、例えば車載のバッテリである直流電源80から供給される直流電圧を、例えばU相、V相およびW相の三相交流電圧に変換してモータ12へと出力する三相インバータである。
【0013】
図1に示したように、本実施形態に係るインバータ10は、MOSFET等のスイッチング素子42U、42V、42W、44U、44V、44Wを備え、モータ12のステータのコイルに供給する電力を、スイッチング素子42U、42V、42W、44U、44V、44Wをオンオフさせるスイッチングによって生成する。例えば、スイッチング素子42U、44UはU相のコイルに、スイッチング素子42V、44VはV相のコイルに、スイッチング素子42W、44WはW相のコイルに、各々供給する電力のスイッチングを行う。
【0014】
スイッチング素子42U、42V、42Wの各々のドレインは、直流電源80の正極(+)に接続されており、スイッチング素子42U、42V、42Wの各々のソースは、スイッチング素子44U、44V、44Wの各々のドレインに接続されている。また、スイッチング素子44U、44V、44Wの各々のソースは、直流電源80の負極(-)に接続されている。
【0015】
スイッチング素子42Uのソースとスイッチング素子44Uのドレインとが接続されるノード46Uはモータ12のU相コイルに接続されている。一例として、スイッチング素子42Uがオンになると共にスイッチング素子44Uがオフになると、ノード46Uを介してモータ12のU相コイルに直流電源80の電力が供給される。同時に、一例として、スイッチング素子42Wがオフになると共にスイッチング素子44Wがオンになると、U相コイルに流れた電流がモータ12のコイルの中性点を経由してW相コイルを流れる。当該電流はスイッチング素子42Wのソースとスイッチング素子44Wのドレインとが接続されるノード46Wとスイッチング素子44Wを介して直流電源80の負極(-)に流れる。U相コイルとW相コイルとが通電されることにより、U相コイルとW相コイルとに磁界が生じる。
【0016】
スイッチング素子42Vのソースとスイッチング素子44Vのドレインとが接続されるノード46Vはモータ12のV相コイルに接続されている。一例として、スイッチング素子42Vがオンになると共にスイッチング素子44Vがオフになると、ノード46Vを介してモータ12のV相コイルに直流電源80の電力が供給される。同時に、一例として、スイッチング素子42Uがオフになると共にスイッチング素子44Uがオンになると、V相コイルに流れた電流がモータ12のコイルの中性点を経由してU相コイルを流れる。当該電流はノード46Uとスイッチング素子44Uを介して直流電源80の負極(-)に流れる。V相コイルとU相コイルとが通電されることにより、V相コイルとU相コイルとに磁界が生じる。
【0017】
また、一例として、スイッチング素子42Wがオンになると共にスイッチング素子44Wがオフになると、ノード46Wを介してモータ12のW相コイルに直流電源80の電力が供給される。同時に、一例として、スイッチング素子42Vがオフになると共にスイッチング素子44Vがオンになると、W相コイルに流れた電流がモータ12のコイルの中性点を経由してV相コイルを流れる。当該電流はノード46Vとスイッチング素子44Vを介して直流電源80の負極(-)に流れる。W相コイルとV相コイルとが通電されることにより、W相コイルとV相コイルとに磁界が生じる。
【0018】
上述のように、スイッチング素子42U、42V、42W、44U、44V、44W(以下、「スイッチング素子42U~44W」と略記)のスイッチングにより、モータ12のコイルに磁界が発生する相を切り替えることにより、モータ12のコイルには永久磁石等で構成されたロータ(回転子)を回転させるいわゆる回転磁界が発生する。実際のモータの回転制御では、スイッチング素子42U~44Wの各々を小刻みにオンオフさせるPWM(パルス幅変調)制御により、三相交流様の電圧を生成してモータ12の各相のコイルに印加する。
【0019】
一例として、スイッチング素子42U~44Wがn型MOSFETの場合、ゲートに正電圧の駆動信号が印加されることによりオンとなる。
図1に示したように、本実施形態では、スイッチング素子42U~44Wの各々には、駆動信号の電流値を制御するゲートドライバ20U、20V、20W、22U、22V、22W(以下、「ゲートドライバ20U~22W」と略記)が各々接続されている。また、ゲートドライバ20U~22Wの各々は、車両ECU(Electronic Control Unit)等の上位の制御装置(図示せず)に接続されている。ゲートドライバ20U~22Wの各々は、上位の制御装置から入力された駆動信号を増幅すると共に、増幅した駆動信号を可変抵抗器により電流値を調整してスイッチング素子42U~44Wの各々のゲートに印加する。
【0020】
図2は、スイッチング素子44Uのゲートに設けられたゲートドライバ22Uの構成の一例を示したブロック図である。上述のように、ゲートドライバ20U~22Wは、スイッチング素子42U~44Wの各々に設けられているが、代表例としてゲートドライバ22Uを説明し、その他のゲートドライバについては説明を省略する。
【0021】
図2に示したように、ゲートドライバ22Uは、スイッチング素子44Uの出力端子の電圧である出力端子電圧(ドレインソース間電圧V
ds)を時間情報に対応付けて検出する端子間電圧検出部24Uと、端子間電圧検出部24Uの検出信号を、後述する制御部30Uで処理可能な形式の信号に変換する検出処理部28Uと、上位の制御装置から入力される遷移時間目標値及び検出処理部28Uの出力に基づきスイッチング素子44Uのゲートに印加する駆動信号の制御演算を行う制御部30Uと、ゲート駆動能力を変化させる操作部32Uと、を備えている。端子間電圧検出部24Uは、例えば、制御部30Uの制御クロックを用いて時間情報を検出する。
【0022】
検出処理部28Uは、例えば、端子間電圧検出部24Uの検出信号がアナログ信号である場合、制御部30Uで処理可能なデジタル信号に変換する一種のA/Dコンバータを含む回路である。
【0023】
操作部32Uは、制御部30Uからの制御により抵抗値を変化させてスイッチング素子44Uのゲートに印加する駆動信号の電流値を変化させる可変抵抗器である。操作部32Uは、スイッチング素子44Uのゲートに印加する正電圧の駆動信号の電流値を変化させる可変抵抗器32UOと、スイッチング素子44Uのゲートに印加する負電圧の駆動信号の電流値を変化させる可変抵抗器32UFとを含む。
【0024】
操作部32Uには、上位の制御装置からアンプ34U及び反転回路の一種である相補型MOS36Uを介して駆動信号が入力される。上位の制御装置から入力された駆動信号は、アンプで増幅された後、相補型MOS36Uで正負が反転される。上位の制御装置から入力される駆動信号の正負の態様によっては、相補型MOS36Uを省略してもよい。
【0025】
図3は、制御部30Uの具体的な構成の一例を示すブロック図である。制御部30Uは、一種のコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)30UB、ROM(Read Only Memory)30UA、RAM(Random Access Memory)30UC、及び入出力ポート30UDを備える。
【0026】
制御部30Uでは、CPU30UB、ROM30UA、RAM30UC、及び入出力ポート30UDがアドレスバス、データバス、及び制御バス等の各種バスを介して互いに接続されている。入出力ポート30UDには、各種の入出力機器として、検出処理部28U、操作部32U、及び上位の制御装置400等が各々接続されている。
【0027】
ROM30UAには、遷移時間目標値に基づいて電圧スルーレート(以下、「スルーレート」と略記)を算出する演算プログラム及び算出したスルーレートに基づいて操作部32Uを操作するための指令を生成する制御指令プログラム等がインストールされている。本実施形態では、CPU30UBが演算プログラムを実行することにより、スルーレートを算出する。また、CPU30UBは、制御指令プログラムにより、操作部32Uを操作するための指令を生成する。RAM30UCは、データを一時的に記憶する記憶部であり、例えば、検出処理部28Uから入力されたデータ等が保持される。
【0028】
次に、制御部30UのCPU30UBが演算プログラム及び制御指令プログラムを実行することで実現される各種機能について説明する。CPU30UBが演算プログラム及び制御指令プログラムを実行することで、CPU30UBは、
図3に示すように、スルーレートを算出する演算部300A及び操作部32Uを操作するための指令を生成する制御指令部300Bとして機能する。
【0029】
図4は、スイッチング素子のソースから出力されるドレインソース間電圧V
dsの波形の一例を示した説明図である。
図4に示したようにドレインソース間電圧V
dsは、1のPWM周期T
sにおいて、遷移時間t
rで0から電圧振幅Aになり、オン時間T
onで電圧振幅Aの状態を維持し、遷移時間t
fで電圧振幅Aから0になる。
【0030】
遷移時間tr及び遷移時間tfは、各々の定義は上記のように異なるが、本実施形態では、遷移時間tr及び遷移時間tfの各々は、互いに等しいものとする。
【0031】
そして、スルーレートSRは、ドレインソース間電圧Vdsの遷移時間trにおける変化率だから、A/trとなる。
【0032】
図4に示したように、ドレインソース間電圧V
dsは台形波であるが、t
r=t
fの条件下、フーリエ変換によって正弦波の合成として下記の式(1)のように表現できる。下記の式(1)のうち、|sin(π・t
r・f)/π・t
r・f|は、スルーレートSRに依存する因数である。
【0033】
【0034】
図5は、遷移時間をt
r1、t
r2、t
r3(t
r2>t
r1>t
r3)のように、拡散的に変化させた場合のドレインソース間電圧V
dsの波形を示した説明図である。
図5に示したように、V
ds波形には、遷移時間t
r1、t
r2、t
r3の各々に係る抽出波形1、2、3が含まれる。抽出波形1、2、3の各々は、PWM周期T
sの3倍の周期毎に観測される。従って、式(1)におけるスルーレートSRに依存する因数は、遷移時間t
r1、t
r2、t
r3に係る項の和を、遷移時間t
r1、t
r2、t
r3に係る波形が出現する周期である3T
sの3で除算した値となる。その結果、遷移時間を遷移時間t
r1、t
r2、t
r3の3つに拡散させた場合のドレインソース間電圧V
dsの波形の式は、下記の式(2)のようになる。
【0035】
【0036】
同様に、遷移時間をn個に拡散させると、ドレインソース間電圧Vdsの波形の式は、下記の式(3)のようになる。
【0037】
【0038】
図6は、遷移時間の変化を示した説明図である。本実施形態では、最も短い最小遷移時間t
Sと、最も長い最大遷移時間t
Lとを設け、例えば、1のスイッチング素子44UがPWM制御によりオンオフされる毎に遷移時間をt
sとt
Lとの間で変化させる。
図6では、遷移時間をt
Sとt
Lとの間で、t
S、t
1、t
2、t
3、…、t
n、t
Lのようにn+2個に変化させている。本実施形態では、
図6に示したように遷移時間を変化させることを、遷移時間の拡散と称する。
【0039】
遷移時間の拡散により、スイッチング素子のスイッチングによって生じるスイッチングノイズの周波数及び位相が変化する。かかる変化により、周波数及び位相が異なるスイッチングノイズの波形同士が干渉することにより、干渉による弱め合いが生じ、スイッチングノイズの強度が低下する。
【0040】
遷移時間は、スイッチング素子のスルーレートに応じて変化し、スルーレートは、スイッチング素子のゲートに印加する駆動信号の電流値に応じて変化する。例えば、駆動信号の電流値を大きくすると、スルーレートが大きくなり、遷移時間は短くなる。また、駆動信号の電流値を小さくすると、スルーレートが小さくなり、遷移時間は長くなる。本実施形態では、後述するように、駆動信号の電流値を制御することにより、遷移時間を拡散させる。
【0041】
図7は、遷移時間を変化させる回数に係る数である拡散数の説明図である。拡散数は、遷移時間を最小遷移時間t
Sと最大遷移時間t
Lとの間で変化させる回数である。具体的には、
図6に示したように、遷移時間をt
Sとt
Lとの間で、t
S、t
1、t
2、t
3、…、t
n、t
Lのようにn+2個に変化させた場合、拡散数はnとなる。本実施形態では、最大遷移時間t
Lと最小遷移時間t
Sとの差を拡散幅ΔTとする。また、遷移時間を等差で変化させる場合、等差である時間差を拡散刻みΔtとする。本実施形態では、遷移時間をt
Sとt
Lとの間で少なくとも1回はt
S及びt
Lとは異なる遷移時間を設定するので、拡散数nは1以上の自然数となる。
【0042】
図8(A)は、低減対象の周波数範囲106と、低減対象の周波数範囲106の中心周波数f
mと、中心周波数f
mと低減対象の周波数範囲の下限値との差であると共に周波数範囲の上限値と中心周波数f
mとの差である周波数差分Δfの説明図である。
【0043】
中心周波数f
mは、遷移時間の拡散によって低減したいスイッチングノイズの所望の周波数である。本実施形態に係る遷移時間の拡散によるスイッチングノイズの低減が効果的なスイッチングノイズの周波数は、
図8(A)に示したようなノイズ低減周波数範囲104に限定される。ノイズ低減周波数範囲104から外れた周波数では、干渉による弱め合いが生じず、遷移時間の拡散によって変化した周波数の最小公倍数に相当する周波数の波形が重なり合う、干渉による強め合いが生じ、スイッチングノイズが低減されない場合がある。
【0044】
図8(A)には、遷移時間拡散を行わない場合のスイッチングノイズのスペクトラム100と、遷移時間拡散を行った場合のスイッチングノイズのスペクトラム102とが示されている。遷移時間の拡散により、スペクトラム102は、遷移時間の拡散を行わなかったスペクトラム100に比してスイッチングノイズのレベルは低減しているが、レベルの低減に効果的な周波数の範囲は、周波数範囲106を中心とした範囲である。
【0045】
本実施形態では、低減対称となる周波数範囲106の中心周波数f
mを所望の周波数として定義し、中心周波数f
mとは別に、干渉による弱め合いが生じてスイッチングノイズの低減効果が期待できる周波数である特定周波数f
1を中心周波数f
mから下記の式(4)を用いて算出する。式(4)中のmは、1以上の自然数である任意の次数である。
図8(B)は、中心周波数f
mと特定周波数f
1との関係を示した概略図である。
図8(B)に示したように、特定周波数f
1近傍の周波数においても干渉による弱め合いが生じてスイッチングノイズの低減効果が生じている。後述するように、下記の式(4)において、m=1とすると、中心周波数f
mと特定周波数f
1とが一致する。
【0046】
【0047】
さらに、遷移時間の拡散幅ΔTは、特定周波数f1と拡散数nとによって、下記の式(5)のように定義される。式(5)に示したように、最大遷移時間tLと、最小遷移時間tSと、の差分である拡散幅ΔTは、特定周波数f1の逆数に比例する。式(5)に示したように、拡散幅ΔTは、拡散数nに1を加算した値を被除数、特定周波数f1の2倍値を徐数とした商である。
【0048】
【0049】
本実施形態では、遷移時間におけるスルーレートが変化するように操作部32Uを制御して、駆動信号の電流値を変化させることにより、遷移時間を最小遷移時間tSと最大遷移時間tLとの間で変化させる。スルーレートは、スイッチング素子のゲートに印加する駆動信号の電流値を大きくすれば高くなり、駆動信号の電流値を小さくすれば低下する。駆動信号の電流値とスルーレートとの相関性は、例えば、実機を用いた実験等を通じて決定する。
【0050】
さらに、拡散数nは、下記の式(6)で定義される。拡散数nは、周波数差分Δfの2倍値を被除数、特定周波数f1と周波数差分Δfとの差を徐数とした商である。
【0051】
【0052】
周波数差分Δfは、下記の式(7)で定義される。
【0053】
【0054】
特定周波数f1は、上述の式(5)より、下記の式(8)として表されるので、周波数差分Δfは、下記の式(9)のようになる。
【0055】
【0056】
【0057】
図9は、本実施形態に係るスイッチング素子駆動回路の処理の一例を示したフローチャートである。
図9に示した処理は、例えば、モータ12への電力供給と共に開始される。具体的には、上位の制御装置400からモータ12への電力供給に伴う処理開始の指令が入力されると開始される。そして、ステップ100では、遷移時間を設定する。設定する遷移時間は、最小遷移時間t
S及び最大遷移時間t
Lを含めた最小遷移時間t
Sと最大遷移時間t
Lとの間であり、具体的には、上位の制御装置400から入力された遷移時間目標値に基づいて設定する。
【0058】
ステップ102では、設定した遷移時間に応じた目標スルーレートを算出する。前述のように、スルーレートは、遷移時間におけるドレインソース間電圧Vdsの変化量であるから、目標スルーレートは、電圧振幅Aを遷移時間で除算して得た値となる。
【0059】
ステップ104では、駆動信号の電流値を算出する。本実施形態では、スルーレートと駆動信号の電流値との相関関係が予め明らかであることを前提としている。ステップ104では、かかる相関関係に基づいて駆動信号の電流値を設定する。
【0060】
ステップ106では、ステップ104で設定した駆動信号の電流値に従って駆動信号を生成し、スイッチング素子44Uのゲートに印加する。
【0061】
ステップ108では、端子間電圧検出部24Uにより、スイッチング素子44Uの出力端子電圧であるドレインソース間電圧Vdsの時系列での変化を検出する。
【0062】
ステップ110では、ステップ108で検出したドレインソース間電圧Vdsの時系列での変化に基づいて、実際のスルーレートである実スルーレートを算出する。
【0063】
ステップ112では、実スルーレートとステップ102で算出した目標スルーレートとを比較して、目標スルーレートに対する実スルーレートの差異が所定の閾値範囲内であるか否かを判定する。一例として、目標スルーレートと実スルーレートとの差分が、目標スルーレートの10%程度であれば、ステップ112では肯定判定をする。ステップ112で、目標スルーレートに対する実スルーレートの差異が所定の閾値範囲内の場合は手順をステップ114に移行し、目標スルーレートに対する実スルーレートの差異が所定の閾値範囲を超える場合は、手順をステップ102に移行する。
【0064】
ステップ114では、処理を終了するか否かを判定する。
図9に示した処理は、例えば、モータ12への電力供給が停止されると共に終了する。ステップ114では、上位の制御装置400からモータ12への電力供給の停止に伴って、処理停止の指令が入力されると、処理終了の判定をして処理を終了する。
【0065】
ステップ114で、処理終了の判定をしないかった場合は、手順をステップ116に移行する。
【0066】
ステップ116では、遷移時間が変更されるか否かを判定する。具体的には、例えば、上位の制御装置400から新たな遷移時間目標値が入力されたか否かを判定し、新たな遷移時間目標値が入力された場合は手順をステップ118に移行し、新たな遷移時間目標値が入力されなかった場合は手順をステップ106に移行する。
【0067】
ステップ118では、新たな遷移時間を設定して手順をステップ102に移行する。そして、ステップ102での目標スルーレートの算出からステップ112の目標スルーレートに対する実スルーレートの差異が所定の閾値範囲内であるか否かの判定までの一連の手順を実行する。
【0068】
図9に示した処理では、目標スルーレートに対する実スルーレートの差異が所定の閾値範囲内であるか否かを判定したが、これに限定されない。例えば、ステップ110で実際の遷移時間である実遷移時間を算出し、ステップ100で設定した遷移時間と算出した実遷移時間との差異が所定の閾値範囲内であるか否かを判定してもよい。
【0069】
図9に示した処理は、スイッチングノイズを低減したい周波数範囲106の中心周波数f
mに基づき、上述の式(4)~(9)の関係を用いて、拡散数n、特定周波数f
1、最大遷移時間t
Lと最小遷移時間t
Sとの差分である拡散幅ΔT及び周波数差分Δfを設定する。拡散数n、特定周波数f
1、最大遷移時間t
Lと最小遷移時間t
Sとの差分である拡散幅ΔT及び周波数差分Δfの各々は、式(4)~(9)に各々示したように、互いに密接不可分な関係を有する。本実施形態では、式(4)~(9)の関係を満たすことを条件に、様々な態様で遷移時間を設定することができる。以下、
図10~15を用いて説明する。
【0070】
図10は、周波数範囲106Aの中心周波数f
mと、特定周波数f
1と、周波数差分Δfとの関係の一例を示した概略図である。本実施形態では、式(4)により中心周波数f
mから特定周波数f
1を設定し、式(6)、(7)を用いて拡散数n及び周波数差分Δfを決定する。一例として、拡散数nを任意の自然数として設定し、設定した拡散数nと、式(4)を用いて算出した特定周波数f
1とに基づいて、式(7)によって周波数差分Δfを算出する。そして、式(5)を用いて最大遷移時間t
Lと最小遷移時間t
Sとの差分である拡散幅ΔTを決定する。又は、周波数差分Δfを式(4)~(9)に矛盾しない範囲で任意に設定し、設定した周波数差分Δfと、式(4)を用いて算出した特定周波数f
1とに基づいて、式(6)によって拡散数nを算出してもよい。
【0071】
図11(A)は、遷移時間を5つに変化させた場合のV
ds波形の一例を示した概略図であり、
図11(B)は、遷移時間を等差で変化させた場合の各々の拡散時間の長短の関係を示した概略図である。遷移時間を、
図11(B)に示したように、最小遷移時間t
S2から最大遷移時間t
L2まで、平均遷移時間t
aveを中心値として等差な拡散刻みΔtで5つに変化させる。そして、5つに変化させた遷移時間を、
図11(A)に示したように、ランダムに適用することにより、スイッチングノイズのレベルを低減することができる。スイッチングノイズの周波数は遷移時間に相関するので、遷移時間のランダムな拡散により、周波数及び位相が異なるスイッチングノイズの波形同士の干渉による弱め合いが生じ、スイッチングノイズの強度が低下する。
【0072】
図12(A)は、上述の式(4)においてm=2とした場合の周波数範囲106Bと、中心周波数f
mと、特定周波数f
1との関係の一例を示した概略図であり、
図12(B)は、上述の式(4)においてm=1とした場合の周波数範囲106Cと、中心周波数f
mと、特定周波数f
1との関係の一例を示した概略図である。
【0073】
図12(A)に示したように、式(4)においてm=2とすると、f
1=f
m/3となり、上述の式(7)から、周波数差分Δf
3は、下記の式(10)のようになる。
【0074】
【0075】
また、
図12(B)に示したように、式(4)においてm=1とすると、f
1=f
mとなり、上述の式(7)から、周波数差分Δf
1は、下記の式(11)のようになる。
【0076】
【0077】
式(10)、(11)が示すように、拡散数nが同一な場合、m=1の場合の周波数差分Δf1は、m=2の場合の周波数差分Δf3に比して、3倍の値となる。その結果、m=1の場合の周波数範囲106Cは、m=2の場合の周波数範囲106Bの3倍の広がりを有し、スイッチングノイズを低減できる周波数範囲が拡大する。
【0078】
図13は、例えば、上段のスイッチング素子42Uと下段のスイッチング素子44Uとが相補的にオンオフし、スイッチング素子42Uがオン又はオフになる場合と、スイッチング素子44Uがオン又はオフになる場合とで、遷移時間が変化する範囲が異なるように操作部32Uを制御して駆動信号の電流値を変化させる場合の説明図である。
【0079】
図13に示した例では、モータ12の駆動時に、モータ相電流の波形が反転するモータ12における電気角の半周期毎に、上段のスイッチング素子42Uと下段のスイッチング素子44Uとが相補的にオンオフする場合を示す。かかる場合において、スイッチング素子42Uのターンオン又はターンオフと、44Uのターンオン又はターンオフとでは拡散幅ΔTが異なっている。その結果、出力端子電圧(V
ds)の波形は、
図13の下段に示したように変化する。
【0080】
図13では、例えば、スイッチング素子42UがPWM制御でオンになる区間110での遷移時間は、中心値taを挟んで最小遷移時間ta-Δtから最大遷移時間ta+Δtまで変化し、かかる場合の拡散幅ΔTは、2Δtとなる。
【0081】
また、
図13では、例えば、スイッチング素子44UがPWM制御でオンになる区間112での遷移時間は、中心値taを挟んで最小遷移時間ta-2Δtから最大遷移時間ta+2Δtまで変化し、かかる場合の拡散幅ΔTは、4Δtとなる。
【0082】
図13に示したように、区間110と区間112とで拡散幅ΔTが各々異なるようにすることで、ゲートドライバ20U、22Uの各々における遷移時間の拡散数nを例えばn=1にした場合でも、インバータ10のU相を構成するスイッチング素子42U、44Uの全体では、遷移時間をta-2Δtからta+2Δtまで5つに変化させたことになり、実質的には拡散数nをn=3にした場合と同様のスイッチングノイズの低減効果が期待できる。
【0083】
従って、
図13に示した遷移時間の設定によれば、各々のゲートドライバ42U、44Uにおける拡散数を抑制することによりゲートドライバ42U、44Uの制御負荷を軽減すると共に、発生するスイッチングノイズの周波数を拡散させてスイッチングノイズ同士の干渉による弱め合いの効果を高め、スイッチングノイズを低減することが可能となる。
【0084】
図13では、区間110で遷移時間をta-Δt、ta及びta+Δtに、区間112で遷移時間をta-2Δt、ta及びta+2Δtに、各々変化させたが、区間110で遷移時間をta-2Δt、ta及びta+2Δtに、区間112で遷移時間をta-Δt、ta及びta+Δtに、各々変化させてもよい。
【0085】
図14は、モータ12における電気角の半周期毎に遷移時間が変化するように操作部32Uを制御して駆動信号の電流値を変化させる場合の説明図である。
図14に示した例では、上段のスイッチング素子42Uと下段のスイッチング素子44Uとで各々異なる拡散幅とし、電気角半周期毎にスルーレートが変化するように操作部32Uを制御する。
【0086】
図14では、例えば、スイッチング素子42Uがオンになる区間114Aでは、遷移時間をta、スイッチング素子44Uがオンになる区間116Aでは、遷移時間をta-2Δtとし、後続する区間114Bでは同ta-Δt、区間116Bでは同ta+2Δt、区間114Cでは同ta+Δt、区間116Cでは同taとする。従って、区間114Aから区間116Cまでの一連の制御において、遷移時間を5つに変化させたことになるが、区間114A~116Cの各々の区間においては、各々のスイッチング素子が1の遷移時間でスイッチングするように操作部32Uを制御するので、制御負荷を軽減することができる。
【0087】
その結果、各々のゲートドライバ42U、44Uの制御負荷を軽減すると共に、発生するスイッチングノイズの周波数を拡散させてスイッチングノイズ同士の干渉による弱め合いの効果を高め、スイッチングノイズを低減することが可能となる。
【0088】
図15は、所定期間内での上段のスイッチング素子42Uの遷移時間の平均と下段のスイッチング素子44Uの遷移時間の平均とが等しくなるように、操作部32Uを制御して駆動信号の電流値を変化させる場合の説明図である。
【0089】
図15では、例えば、スイッチング素子42UがPWM制御でオンになる区間118での遷移時間は、中心値taを挟んで最小遷移時間ta-Δtから最大遷移時間ta+Δtまで変化し、かかる場合の遷移時間の平均はtaとなる。
【0090】
また、
図15では、例えば、スイッチング素子44UがPWM制御でオンになる区間120での遷移時間は、中心値taを挟んで最小遷移時間ta-2Δtから最大遷移時間ta+2Δtまで変化し、かかる場合の遷移時間の平均はtaとなる。
【0091】
図15では、区間118で遷移時間をta-Δt、ta及びta+Δtに、区間120で遷移時間をta-2Δt、ta及びta+2Δtに、各々変化させたが、区間118で遷移時間をta-2Δt、ta及びta+2Δtに、区間120で遷移時間をta-Δt、ta及びta+Δtに、各々変化させてもよい。
【0092】
このように、所定期間内での上段のスイッチング素子42Uの遷移時間の平均と下段のスイッチング素子44Uの遷移時間の平均とが等しくなるようにすることにより、スイッチング素子42U、44Uの各々の発熱が不均一になることを防ぎ、インバータ10の回路の保護を図ることができる。
【0093】
以上説明したように、本実施の形態によれば、遷移時間の拡散により、スイッチング素子のスイッチングによって生じるスイッチングノイズの周波数及び位相を変化させ、スイッチングノイズの波形同士の干渉による弱め合いが生じることにより、スイッチングノイズの強度を低下させる。
【0094】
遷移時間を拡散させるには、スイッチング素子のスルーレートを拡散させるが、遷移時間の変化とスイッチングノイズの低減との相関性が明確でないと、遷移時間を拡散させてもスイッチングノイズの低減効果は薄い。しかしながら、本実施形態では、式(4)~(9)に示したように、拡散数n、特定周波数f1、最大遷移時間tLと最小遷移時間tSとの差分である拡散幅ΔT及びスイッチングノイズの低減に効果的な周波数範囲を示す周波数差分Δfの各々の密接不可分な関係に基づいて、スイッチング素子の遷移時間を制御する。
【0095】
その結果、スイッチングノイズの低減が効果的な条件に基づいてスイッチング素子のスルーレートを制御することが可能となる。
【符号の説明】
【0096】
10…インバータ、12…モータ、22U…ゲートドライバ、30U…制御部、32U…操作部、42U、44U…スイッチング素子、106、106A、106B、106C…周波数範囲、ΔT…拡散幅、Δf、Δf1、Δf2…周波数差分、SR…スルーレート
Vds…ドレインソース間電圧、f1…特定周波数、fm…中心周波数、n…拡散数、tL…最大遷移時間、tS…最小遷移時間、tf、tr…遷移時間