(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】焼入れ用治具
(51)【国際特許分類】
C21D 1/64 20060101AFI20241008BHJP
C21D 1/06 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
C21D1/64
C21D1/06 A
(21)【出願番号】P 2021088168
(22)【出願日】2021-05-26
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】式井 建太
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-111556(JP,U)
【文献】特開2019-070181(JP,A)
【文献】実開平03-106346(JP,U)
【文献】実開平01-110249(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/63 - 1/64
C21D 1/18 - 1/25
C21D 1/00
C21D 9/00 - 9/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却液が流れる冷却槽に浸漬されて用いられる焼入れ用治具であって、
第1部分と、前記第1部分よりも熱容量の大きい第2部分とを有するワークを配置する配置領域を有し、前記配置領域において前記ワークとの間で前記冷却液が流れる冷却流路を形成する本体部であって、前記冷却流路を流れる前記冷却液の流通方向において、前記第1部分よりも上流側に前記第2部分が位置する配置姿勢となるように前記ワークを保持する本体部と、
前記本体部の内部に形成され、前記冷却液を流通させるための内部流路であって、前記流通方向において、前記第2部分の前記上流側の端部と、前記第1部分の下流側の端部との間に配置される流路出口を有する内部流路と、を備え
、
前記冷却流路は、前記第1部分と前記本体部との間に形成される第1流路と、前記第2部分と前記本体部との間に形成される第2流路とを有し、
前記第2流路の流路断面積である第2流路断面積は、前記第1流路の前記流路断面積である第1流路断面積よりも小さく、
前記本体部は、前記第1流路を形成する第1壁と、前記第2流路を形成する第2壁とを有し、
前記第2壁は、前記配置領域側に向かって突出する突出部を有する、焼入れ用治具。
【請求項2】
請求項
1に記載の焼入れ用治具であって、
前記流路出口は、前記突出部に形成されている、焼入れ用治具。
【請求項3】
請求項
1または
2に記載の焼入れ用治具であって、
前記ワークは、前記第1部分と前記第2部分とが前記流通方向に並ぶ円環部を有し、
前記本体部は、
前記ワークを保持するための保持部と、
前記保持部が前記ワークを保持した場合、前記円環部の内側に配置される軸部であって、前記軸部の外周面を形成する前記第1壁と前記第2壁とを有する軸部と、を有する、焼入れ用治具。
【請求項4】
請求項
3に記載の焼入れ用治具であって、
前記第1部分は、前記流通方向において、前記円環部の中央位置から前記円環部の一端部までを占める部分であり、
前記第2部分は、前記流通方向において、前記中央位置から前記円環部の他端部までを占める部分であり、
前記流路出口は、前記第2部分に対向する位置に設けられている、焼入れ用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、焼入れ用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、焼入れ方法として、冷却液が貯留されている貯留槽にワークを浸漬して冷却する方法がある(例えば、特許文献1)。特許文献1では、複数のワークを冷却する場合に、ワークごとの冷却速度のばらつきを抑制するために、各ワークのまわりに冷却液の旋回流を発生させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、各ワークに熱容量が互いに異なる複数の部分がある場合には、冷却過程において、複数の部分間で温度差が生じ、ワークにひずみが生じるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
本開示の一形態によれば、冷却液が流れる冷却槽に浸漬されて用いられる焼入れ用治具が提供される。この焼入れ用治具は、第1部分と、前記第1部分よりも熱容量の大きい第2部分とを有するワークを配置する配置領域を有し、前記配置領域において前記ワークとの間で前記冷却液が流れる冷却流路を形成する本体部であって、前記冷却流路を流れる前記冷却液の流通方向において、前記第1部分よりも上流側に前記第2部分が位置する配置姿勢となるように前記ワークを保持する本体部と、前記本体部の内部に形成され、前記冷却液を流通させるための内部流路であって、前記流通方向において、前記第2部分の前記上流側の端部と、前記第1部分の下流側の端部との間に配置される流路出口を有する内部流路と、を備え、前記冷却流路は、前記第1部分と前記本体部との間に形成される第1流路と、前記第2部分と前記本体部との間に形成される第2流路とを有し、前記第2流路の流路断面積である第2流路断面積は、前記第1流路の前記流路断面積である第1流路断面積よりも小さく、前記本体部は、前記第1流路を形成する第1壁と、前記第2流路を形成する第2壁とを有し、前記第2壁は、前記配置領域側に向かって突出する突出部を有する。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、冷却液が流れる冷却槽に浸漬されて用いられる焼入れ用治具が提供される。この焼入れ用治具は、第1部分と、前記第1部分よりも熱容量の大きい第2部分とを有するワークを配置する配置領域を有し、前記配置領域において前記ワークとの間で前記冷却液が流れる冷却流路を形成する本体部であって、前記冷却流路を流れる前記冷却液の流通方向において、前記第1部分よりも上流側に前記第2部分が位置する配置姿勢となるように前記ワークを保持する本体部と、前記本体部の内部に形成され、前記冷却液を流通させるための内部流路であって、前記流通方向において、前記第2部分の前記上流側の端部と、前記第1部分の下流側の端部との間に配置される流路出口を有する内部流路と、を備える。この形態によれば、内部流路を流通する冷却液は、ワークからの熱伝導により温度上昇した本体部により温められるため、温度が上昇する。そして、第1部分のうちで少なくとも流路出口よりも下流にある部分の冷却には、流路出口から流出した温められた冷却液が合流した冷却流路の冷却液が用いられる。よって、第1部分の冷却速度を小さくすることができる。したがって、第1部分と第2部分との冷却速度の差を小さくし、冷却過程における第1部分と第2部分との温度差を小さくできる。これにより、冷却過程において生じるワークのひずみを小さくすることができる。
(2)上記形態の焼入れ用治具において、前記冷却流路は、前記第1部分と前記本体部との間に形成される第1流路と、前記第2部分と前記本体部との間に形成される第2流路とを有し、前記第2流路の流路断面積である第2流路断面積は、前記第1流路の前記流路断面積である第1流路断面積よりも小さくてもよい。この形態によれば、第2流路断面積が第1流路断面積と同じ場合に比べて、第2流路における冷却液の流速を大きくできる。よって、第2部分の冷却速度を大きくすることができる。したがって、第1部分と第2部分との冷却速度の差をさらに小さくし、冷却過程における第1部分と第2部分との温度差をさらに小さくでき、冷却過程において生じるワークのひずみをさらに小さくすることができる。
(3)上記形態の焼入れ用治具において、前記本体部は、前記第1流路を形成する第1壁と、前記第2流路を形成する第2壁とを有し、前記第2壁は、前記配置領域側に向かって突出する突出部を有してもよい。この形態によれば、突出部を形成することにより、流通方向に沿った面を有するワークを保持した場合に、第2流路断面積を第1流路断面積よりも小さくすることができる。
(4)上記形態の焼入れ用治具において、前記流路出口は、前記突出部に形成されていてもよい。この形態によれば、内部流路を流れることにより温度上昇した冷却液を第1部分近傍に流すことができる。よって、第1部分の冷却速度を小さくする効果を向上させることができる。したがって、冷却過程において生じるワークのひずみをさらに小さくすることができる。
(5)上記形態の焼入れ用治具において、前記ワークは、前記第1部分と前記第2部分とが前記流通方向に並ぶ円環部を有し、前記本体部は、前記ワークを保持するための保持部と、前記保持部が前記ワークを保持した場合、前記円環部の内側に配置される軸部であって、前記軸部の外周面を形成する前記第1壁と前記第2壁とを有する軸部と、を有してもよい。この形態によれば、第1部分と第2部分とを有する円環部を有するワークに好適な焼入れ用治具を実現することができる。
(6)上記形態の焼入れ用治具において、前記第1部分は、前記流通方向において、前記円環部の中央位置から前記円環部の一端部までを占める部分であり、前記第2部分は、前記流通方向において、前記中央位置から前記円環部の他端部までを占める部分であり、前記流路出口は、前記第2部分に対向する位置に設けられていてもよい。この形態によれば、第2部分に対向する位置に流路出口を設けることにより、第1部分の冷却に、温度上昇した冷却液を確実に用いることができる。これにより、冷却過程において生じるワークのひずみを小さくすることができる。
本開示は、焼入れ用治具以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、焼入れ方法、焼入れ装置等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図6】実施例と参考例における第1部分と第2部分との温度変化を示す図である。
【
図7】実施例と参考例における第1部分と第2部分との温度差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.実施形態:
図1は、焼入れ装置300の構成を示す模式図である。焼入れ装置300は、熱処理が行われた後のワーク200を急冷することにより、焼入れを行うための装置である。
図1に示すZ方向は、鉛直方向である。以下の説明において、+Z方向を上方向、-Z方向を下方向という場合がある。他の図についても、
図1と同様にZ方向を図示している。焼入れ装置300は、冷却槽301と、複数の治具ユニット110と、ベースプレート320とを備える。冷却槽301には、冷却液310が貯留されている。本実施形態において、冷却液310は、油である。冷却槽301の内部には、冷却槽301の内壁から離れた位置にZ方向に延びる隔壁302が設けられている。隔壁302は、間隔を空けて対向する2つの壁部を形成する形状を有する。冷却槽301の内壁と、隔壁302との間に、冷却液310に回流を生じさせるためのアジテータ303が設けられている。アジテータ303が回転することにより、冷却槽301の内壁と隔壁302との間には、下向きの流れが発生し、冷却槽301の底面で流れの向きが変更されることにより、2つの隔壁302の間には、上向きの流れが発生する。2つの隔壁302の間に、治具ユニット110に配置されたワーク200が配置される。よって、冷却槽301のうちで治具ユニット110およびワーク200が位置する領域の冷却液310には、上向きの流れが生じる。
【0009】
本実施形態では、Z方向に積層された複数の治具ユニット110が、ベースプレート320の上に配置された状態で、冷却液310に浸漬される。治具ユニット110は積層された状態で浸漬される態様に限られず、単体で浸漬されてもよい。1つの治具ユニット110には、複数のワーク200が配置される。
【0010】
図2は、治具ユニット110を+Z方向から視た平面図である。
図3は、治具ユニット110が有する焼入れ用治具100の斜視図である。
図4は、焼入れ用治具100の平面図である。
図5は、
図4のV-V断面図である。なお、
図2から
図5では、焼入れ用治具100と共に、ワーク200を示している。
図2に示すように、治具ユニット110は、フレーム111と、複数の焼入れ用治具100とを有する。フレーム111は、平面視において矩形の枠フレーム111aと、枠フレーム111aの内側を区画する棒フレーム111bとを有する。本実施形態では、棒フレーム111bが格子状に配置されることにより、合計12個の焼入れ治具配置領域111cが3行4列のマトリクス状に形成されている。なお、焼入れ治具配置領域111cの個数は、12に限れない。各焼入れ治具配置領域111cに焼入れ用治具100が配置されている。焼入れ用治具100は、フレーム111に固定されている。各ワーク200は各焼入れ用治具100に保持されて冷却槽301内に配置される。上記のように、焼入れ用治具100は、冷却液310が流れる冷却槽301に浸漬されて用いられる。
【0011】
図3に示すように、ワーク200は、円環部210と、外円環部220と、連結部230とを有するギヤである。ワーク200は、鋼製であり、浸炭が行われた後、焼入れ装置300を用いて焼入れされる。
【0012】
円環部210と外円環部220とは、中心軸CXを有する円環形状を有する。
図3では、省略されているが、円環部210の内周面には、中心軸CX方向に沿って延びる複数の溝が、周方向に並んで形成されている。円環部210の外周に外円環部220が配置されている。
図5に示すように、外円環部220の中心軸CX方向における長さは、円環部210の中心軸CX方向における長さよりも長い。外円環部220の外周面には、中心軸CX方向に対して傾斜した方向に延びる複数の溝が周方向に並んで形成されている。外円環部220の中心軸CX方向における中央部と、円環部210の中心軸CX方向の端部とが連結部230により連結されている。連結部230は、
図4に示すように、外周が外円環部220の内周面であり、内周が円環部210の外周面である円環形状を有する。連結部230には、中心軸CX方向に貫通する3つの貫通部230aが形成されている。なお、
図3では、外円環部220に形成された溝と、貫通部230aとは省略されている。
【0013】
焼入れ用治具100は、
図3に示す本体部10と、
図5に示す内部流路50とを有する。
図3に示すように、本体部10は、3つの保持部20と、軸部30とを有する。また、本体部10は、ワーク200を配置する配置領域PAを有する。配置領域PAは、後述する3つの第1保持部21の各々が有するワーク200と対向する端面21aを通る面の上方であって、軸部30の周囲の領域である。ワーク200は、円環部210の中心軸CXが軸部30の中心軸と概ね一致するように焼入れ用治具100に配置される。そこで、本実施形態では、円環部210の中心軸CXが、軸部30の中心軸と一致してワーク200が配置されている場合を例示して説明する。よって、軸部30の中心軸についても、円環部210の中心軸CXと同じ符号を用いて説明する。軸部30は、中心軸CXを有する円柱形状を有する。焼入れ用治具100は、中心軸CXがZ方向と概ね平行となる状態で使用されるため、本実施形態では、中心軸CXとZ方向とが一致している場合を例示して説明する。軸部30は、破線で示すワーク200の円環部210の内側に配置される部分である。ワーク200は、軸部30がワーク200の円環部210に挿通されるように、上方から焼入れ用治具100に配置される。
【0014】
保持部20は、第1保持部21と、第2保持部22とを有する。第1保持部21は、平板形状を有し、軸部30の中心軸CX方向における一端部を軸部30に接続された基部として、軸部30の径方向に延びる。3つの第1保持部21は、軸部30の周囲に等角度間隔で配置されている。第2保持部22は、第1保持部21のうちで軸部30から棒フレーム111bに至る途中の部分に配置されている。具体的には、
図5に示すように、第2保持部22は、ワーク200が配置された場合に、ワーク200の外円環部220の内側となる位置に配置されている。
図3に示すように、第2保持部22は、平面形状が概ね矩形の平板形状を有する。第2保持部22は、第2保持部22の厚み方向が第1保持部21の長軸方向と平行となるように、第1保持部21に固定されている。
図5に示すように、第2保持部22の+Z方向の端部は、第1保持部21の+Z方向の端部よりも、+Z方向に突出している。ワーク200は、連結部230が第2保持部22と当接するように配置される。つまり、第2保持部22により、ワーク200は、焼入れ用治具100に対して位置決めされる。
【0015】
図5に示すように、軸部30は、外周面を形成する第1壁31と、第2壁32とを有する。第1壁31は、ワーク200の第1部分211と対向する。第2壁32は、ワーク200の第2部分212と対向する。ワーク200が配置された焼入れ用治具100が冷却槽301に浸漬された場合、上記のように、冷却液310は、上向きの流通方向FDに沿って流れる。このため、配置領域PAにおいて、本体部10とワーク200との間で冷却液310が流れる、第1流路CH1と第2流路CH2とを有する冷却流路CHが形成される。具体的には、ワーク200の第1部分211と、第1壁31との間に第1流路CH1が形成され、ワーク200の第2部分212と、第2壁32との間に第2流路CH2が形成される。第2壁32は、突出部40を有する。突出部40は、第2壁32から、外方である配置領域PAに向かう方向に向かって突出している。突出部40は、
図4に示すように、軸部30の全周に形成されている。突出部40により、第2流路CH2の第2流路断面積は、第1流路CH1の第1流路断面積よりも小さくすることができる。ここで、第1流路断面積および第2流路断面積とは、流通方向FDにおける位置毎に算出される流路断面積の平均値である。第2流路断面積は、第1流路断面積よりも小さいため、後に詳述するように、第2流路CH2の流速を大きくし、第2部分212の冷却速度を大きくすることができる。
【0016】
図5に示すように、軸部30の内部には、冷却液310を流通させるための内部流路50が形成されている。内部流路50の流路入口51は、軸部30の中心軸CX方向における-Z方向の端部に形成されている。
図4に示すように、流路入口51の-Z方向から視た形状は、概ね円環形状であり、径方向に延びる複数の隔壁により、複数の部屋に区切られている。
図5に示すように、流路出口52は、突出部40に形成されている。流路出口52は、軸部30の径方向に向かって開口することで、配置領域PA、詳細には配置領域PAのうちでワーク200と本体部10との間の冷却流路CHに位置するように形成されている。
【0017】
焼入れ用治具100が冷却槽301に浸漬された場合、流路出口52は、流通方向FDにおいて、流路入口51よりも下流側に位置する。また、流路出口52は、第2壁32に形成されているため、流通方向FDにおいて、第1部分211の下流側の端部である第1端部213と、第2部分212の上流側の端部である第2端部214との間に位置する。本実施形態では、流路出口52は、第2部分212の側壁(詳細には、円環部210の側壁)と対向する。内部流路50を流通し、温められた冷却液310は、冷却流路CHに合流し、第1部分211の冷却に用いられる。これにより、後に詳述するように、焼入れにおいて、第1部分211の冷却速度を小さくすることができる。
【0018】
図5に示すように、円環部210は、第1部分211と、第2部分212とを有する。第2部分212の熱容量は、第1部分211の熱容量よりも大きい。本実施形態では、円環部210の中心軸CX方向における中央位置Pから一端部としての第1端部213までを占める部分が第1部分211であり、中央位置Pから他端部としての第2端部214までを占める部分が第2部分212である。第2部分212は、連結部230と連結する部分である。また、第2部分212の径方向の厚みは、第1部分211の径方向の厚みに対して厚い。このため、第2部分212の熱容量は、第1部分211の熱容量よりも大きい。
図5では、第1部分211と第2部分212との境界と、第2部分212と連結部230との境界を二点鎖線で示している。
【0019】
第2部分212の熱容量は、第1部分211の熱容量よりも大きいため、一般に、ワーク200は、流通方向FDにおいて、第2部分212が第1部分211の上流に位置するように配置される。本実施形態では、本体部10により、第1部分211と第2部分212とが流通方向FDに並び、第2部分212が第1部分211の上流に位置する配置姿勢となるように、ワーク200は保持される。これにより、第2部分212との熱伝導により温められた冷却液310が第1部分211の冷却に用いられる。このため、熱容量が小さく、第2部分212よりも冷却され易い第1部分211の冷却速度を小さくすることができる。よって、冷却工程における第1部分211と第2部分212との温度差を小さくすることができる。冷却工程における第1部分211と第2部分212との温度差が大きいと、温度差により生じる熱処理ひずみや、変態中に生じる変態ひずみが生じる。よって、冷却工程における第1部分211と第2部分212との温度差を小さくすることにより、ひずみを小さくし、焼入れ後のワーク200の寸法精度を向上させることができる。発明者らは、冷却工程における第1部分211と第2部分212との温度差に起因するひずみをさらに小さくために、焼入れ用治具100に工夫を施した。この工夫について、次に説明する。
【0020】
図5に示すように、本体部10の内部には、内部流路50が形成されている。内部流路50の流路出口52は、第1部分211よりも上流側に配置されている。ワーク200からの熱伝導により、軸部30の温度が上昇するため、軸部30の内部に形成された内部流路50を流通する冷却液310の温度は上昇する。温度が上昇した冷却液310は、流路出口52の下流に位置する第1部分211の冷却に用いられるため、第1部分211の冷却速度を下げることができる。よって、冷却工程における第1部分211と第2部分212との温度差を小さくすることができ、ひずみを小さくすることができる。焼入れ後のワーク200の寸法精度を向上させることができる。また、流路出口52は、突出部40に形成されているため、内部流路50を流通することにより温度が上昇した冷却液310を第1部分211近傍に流すことができる。よって、第1部分211の冷却速度を下げる効果をより向上させることができる。
【0021】
軸部30の外周に円環部210が配置されることにより、軸部30と円環部210との間には、冷却液310の流路である冷却流路CHが形成される。ここで、第2部分212と対向し、第2部分212との間で第2流路CH2を形成する第2壁32には、突出部40が形成されている。突出部40と第2部分212との間隔は、第1部分211と第1壁31との間隔よりも狭い。突出部40が形成されていることにより、第1部分211と第1壁31とにより形成される第1流路CH1の第1流路断面積よりも、第2流路CH2の第2流路断面積を小さくすることができる。よって、第1流路CH1の流速よりも第2流路CH2の流速を大きくすることができる。これにより、第2部分212の冷却速度を、第1部分211の冷却速度よりも大きくすることができる。よって、冷却工程における第1部分211と第2部分212との温度差を小さくすることができ、ひずみを小さくすることができる。
【0022】
図6は、実施例と参考例とのそれぞれにおける、ワーク200の第1部分211および第2部分212の温度変化を示す図である。
図6の横軸は、焼入れ開始時からの経過時間[s]である。縦軸は、温度[℃]である。参考例は、本実施形態に係る焼入れ用治具100の内部流路50および突出部40を有さない焼入れ用治具を用いて焼入れが行われた結果である。実施例は、本実施形態に係る焼入れ用治具100を用いて焼入れが行われた結果である。第1部分211の温度測定箇所は、
図5に示す第1測定点MP1である。第2部分212の温度測定箇所は、
図5に示す第2測定点MP2である。
図6に示すように、第2部分212の熱容量は、第1部分211の熱容量よりも大きいため、同じ時間で比較すると、第2部分212の温度は、第1部分211の温度よりも高い。第2部分212では、実施例の冷却速度が、参考例の冷却速度より大きい。また、第1部分211については、第1部分211と第2部分212との温度差が比較的大きい、0[s]から2[s]までの期間において、概ね、実施例の冷却速度が、参考例の冷却速度より小さい。
【0023】
図7は、実施例と参考例とのそれぞれにおける、ワーク200の第1部分211と第2部分212との温度差を示す図である。具体的には、温度差は、第2部分212の温度から第1部分211の温度を減じて算出されている。
図7の横軸は、時間[s]であり、縦軸は、温度差[℃]である。
図7は、
図6に示す結果について、縦軸を温度差とした図である。
図7に示すように、第1部分211と第2部分212との温度差が大きい、2[s]付近において、実施例の温度差は、参考例の温度差よりも30℃程度減少している。
図6および
図7に示すように、本実施形態に係る焼入れ用治具100を用いることにより、ワーク200の第1部分211と第2部分212との温度差を減少させることができる。
【0024】
以上、説明した実施形態によれば、焼入れ装置300は、本体部10と本体部10の内部に形成された内部流路50とを有する。本体部10がワーク200を保持した場合、内部流路50の流路出口52は、流通方向FDにおいて、第2部分212の第2端部214と、第1部分211の第1端部213との間に配置される。流路出口52よりも下流にある第1部分211の冷却には、内部流路50を流通して温度上昇した冷却液310が用いられる。よって、第1部分211の冷却速度を小さくすることができ、第1部分211と第2部分212との冷却速度の差を小さくし、冷却過程における第1部分211と第2部分212との温度差を小さくでき、冷却過程において生じるワーク200のひずみを小さくすることができる。
【0025】
本体部10と第2部分212との間に形成される第2流路CH2の第2流路断面積は、本体部10と第1部分211との間に形成される第1流路CH1の第1流路断面積よりも小さい。よって、第2流路CH2における流速は、第1流路CH1における流速よりも大きくなり、第1部分211と第2部分212との冷却速度の差をさらに小さくすることができる。冷却過程において生じるワーク200のひずみをさらに小さくすることができる。
【0026】
第2壁32は、配置領域PA側に向かって突出する突出部40を有する。これにより、第2流路CH2の流路断面積を第1流路CH1の流路断面積よりも小さくすることができる。また、流路出口52は、突出部40に形成されている。これにより、内部流路50を流れることにより温度上昇した冷却液310を第1部分211近傍に流すことができる。よって、第1部分211の冷却速度を小さくする効果を向上させることができる。したがって、冷却過程において生じるワークのひずみをさらに小さくすることができる。
【0027】
焼入れ用治具100は、保持部20と、ワーク200の円環部210の内側に配置される軸部30とを有する。軸部30は、外周面に第1壁31と第2壁32とを有する。これにより、第1部分211と第2部分212とを有する円環部210を有するワーク200に好適な焼入れ用治具100を実現することができる。
【0028】
流路出口52は、第2部分212に対向する位置に設けられている。これにより、第1部分211の冷却に、温度上昇した冷却液310を確実に用いることができ、冷却過程において生じるワーク200のひずみを小さくすることができる。
【0029】
B.他の実施形態:
(B1)上記実施形態では、突出部40が形成されることにより、第2流路CH2の流路断面積が小さくなっている。第2流路CH2の流路断面積を、第1流路CH1の流路断面積よりも小さくする構成は、突出部40に限られない。例えば、第1壁31と第2壁32とが、中心軸CX方向における下流に向かうにつれ、中心軸CXに向かって近づくように傾斜するテーパー面である構成とすることにより実現してもよい。
【0030】
(B2)上記実施形態では、ワーク200の第1部分211と第2部分212との境界は、中心軸CX方向における中央位置Pである。第1部分211と第2部分212との境界位置は、中央位置Pに限られない。例えば、円環部210の重心位置でもよい。
【0031】
(B3)上記実施形態では、流路出口52は、第2部分212に対向する位置に設けられている。流路出口52の位置は、第2部分212に対向する位置に限られない。流通方向FDにおいて、第2部分212の上流側の端部である第2端部214と、第1部分211の下流側の端部である第1端部213との間に配置されるとよい。この形態によれば、少なくとも流路出口52よりも下流にある第1部分211の冷却には、温度上昇した冷却液310が用いられるため、第1部分211の冷却速度を小さくすることができるからである。そして、流路出口52は、流通方向FDにおいて、第2部分212の上流側の端部である第2端部214と、第2部分212の下流側の端部との間、すなわち第2部分212に対向する位置に配置されるとさらによい。第1部分211の冷却に、温度上昇した冷却液310を確実に用いることができるからである。
【0032】
(B4)上記実施形態では、ワーク200は、円環部210を有するギヤであり、円環部210の内側に、内部流路50が形成された軸部30が配置される。焼入れ用治具100の形状は、軸部30を有する形状に限られない。ワーク200の第1部分211と第2部分212とを有する部分の形状に合わせた形状であればよい。例えば、上記実施形態における外円環部220に、第1部分211と第2部分212とが形成されている場合には、焼入れ用治具100を、外円環部220を囲む円環形状とするとよい。さらに、ワーク200は、ギヤに限られず、例えば、シャフトでもよい。ワーク200がシャフトである場合には、焼入れ用治具100の形状を、例えばシャフトを取り囲む円環形状とするとよい。ワーク200の形状に拘わらず、流通方向FDにおいて、第2端部214と第1端部213との間に内部流路50の流路出口52を配置することで、第1部分211の冷却速度を小さくすることができ、冷却過程において生じるワーク200のひずみを小さくすることができる。
【0033】
上記実施形態では、焼入れ用治具100は、浸炭焼入れに用いられる。焼入れ用治具100は、浸炭焼入れに限られず、冷却液に浸漬することによりワークを冷却する焼入れに適用することができる。また、冷却液は油に限られず、例えば水でもよい。
【0034】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0035】
10…本体部、20…保持部、21…第1保持部、21a…端面、22…第2保持部、30…軸部、31…第1壁、32…第2壁、40…突出部、50…内部流路、51…流路入口、52…流路出口、100…焼入れ用治具、110…治具ユニット、111…フレーム、111a…枠フレーム、111b…棒フレーム、111c…治具配置領域、200…ワーク、210…円環部、211…第1部分、212…第2部分、213…第1端部、214…第2端部、220…外円環部、230…連結部、230a…貫通部、300…焼入れ装置、301…冷却槽、302…隔壁、303…アジテータ、310…冷却液、320…ベースプレート、CH…冷却流路、CH1…第1流路、CH2…第2流路、CX…中心軸、FD…流通方向、MP1…第1測定点、MP2…第2測定点、P…中央位置、PA…配置領域