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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20241008BHJP
   H02P 6/15 20160101ALI20241008BHJP
【FI】
H02P27/08
H02P6/15
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021090356
(22)【出願日】2021-05-28
(65)【公開番号】P2022182669
(43)【公開日】2022-12-08
【審査請求日】2024-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】平野 晃佑
(72)【発明者】
【氏名】小柳 博之
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-148722(JP,A)
【文献】特開2020-137217(JP,A)
【文献】特開2013-038912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
H02P 6/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源から入力される直流電流を交流電流に変換してモータに出力するインバータの変調率を算出し、前記変調率に応じて前記インバータのPWM制御及び矩形波制御の何れを選択して実行する第1制御部と、
前記第1制御部が前記PWM制御を実行中、前記モータに要求されるトルク、前記モータの電流実効値、及び前記モータの電流進角の関係を示す第1進角制御データに基づき、前記モータに要求されるトルクに応じて前記モータの電流実効値及び電流進角を制御する第2制御部とを有し、
前記第2制御部は、
前記第1進角制御データに基づき前記モータの電流実効値及び電流進角を制御中、前記モータまたは前記電源の状態に関する所定条件が満たされた場合、前記第1進角制御データより弱め界磁側の電流進角における前記関係を示す第2進角制御データに基づき、前記モータに要求されるトルクに応じて前記モータの電流実効値及び電流進角を制御し、
前記第2進角制御データに基づき前記モータの電流実効値及び電流進角を制御中、前記第1進角制御データに基づき前記モータの電流実効値及び電流進角を制御する場合の前記変調率を予測し、
予測した前記変調率が閾値以上である場合、前記第1進角制御データに基づき前記モータの電流実効値及び電流進角を制御し、
予測した前記変調率が閾値未満である場合、前記第2進角制御データに基づく前記モータの電流実効値及び電流進角の制御を継続する、
制御装置。
【請求項2】
前記第2制御部は、
前記モータに要求されるトルクから、前記第1進角制御データ及び前記第2進角制御データの各々に対応した前記モータのインダクタンス及び電流指令値をそれぞれ算出し、
前記モータのインダクタンス及び電流指令値により前記モータに印加される電圧の振幅を算出し、
前記電圧の振幅と、前記電源の電圧を昇圧する昇圧コンバータから前記インバータに入力される入力電圧との比から前記変調率を予測する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記第2制御部は、前記モータのインダクタンス、電流指令値、及び抵抗値により前記電圧の振幅を算出する、
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記第2制御部は、前記インバータのスイッチング動作のデッドタイムによる前記電圧の変化分により前記電圧を補正する、
請求項2または3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記第2制御部は、前記第1進角制御データに基づき前記モータの電流実効値及び電流進角を制御する場合より前記モータの損失を増加させるとき、前記第2進角制御データに基づき前記モータの電流実効値及び電流進角を制御する、
請求項1乃至4の何れかに記載の制御装置。
【請求項6】
前記第2制御部は、前記第1進角制御データに基づき前記モータの電流実効値及び電流進角を制御する場合より前記モータの効率を増加させるとき、前記第2進角制御データに基づき前記モータの電流実効値及び電流進角を制御する、
請求項1乃至4の何れかに記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばハイブリッド車や電気自動車などの電動車両には、車輪を駆動するモータ、モータに三相交流電流を出力するインバータ、及び、インバータを制御するECU(Electronic Control Unit)などの制御装置が搭載される。ECUはインバータの変調率に応じてPWM(Pulse Width Modulation)制御及び矩形波制御を使い分ける。
【0003】
また、ECUは、モータのトルク指令に基づいて、モータの電流実効値が最小となるように電流進角を制御する。このとき、ECUは、例えばモータやインバータの損失が小さくなるように変調率に応じて電流進角を補正する(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-50427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようにECUが電流進角を弱め界磁側に制御すると、トルク指令値及び回転数の関係を示すマップにおいて、PWM制御を適用可能な領域は増加するが、矩形波制御を適用可能な領域は減少する。ここでモータの効率はPWM制御の場合より矩形波制御の場合のほうが高くなる。
【0006】
このため、弱め界磁側の電流進角制御が実行されているとき、インバータのスイッチング制御がPWM制御から矩形波制御に切り替わる適切なタイミングで進角制御を電流最適進角制御に戻す必要がある。しかし、電流進角が弱め界磁側に進角するほど、インバータの変調率は低下して高精度に変調率を算出することが難しくなる。
【0007】
そこで本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、モータの電流進角を適切なタイミングで制御することができる制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に記載の制御装置は、電源から入力される直流電流を交流電流に変換してモータに出力するインバータの変調率を算出し、前記変調率に応じて前記インバータのPWM制御及び矩形波制御の何れを選択して実行する第1制御部と、前記第1制御部が前記PWM制御を実行中、前記モータに要求されるトルク、前記モータの電流実効値、及び前記モータの電流進角の関係を示す第1進角制御データに基づき、前記モータに要求されるトルクに応じて前記モータの電流実効値及び電流進角を制御する第2制御部とを有し、前記第2制御部は、前記第1進角制御データに基づき前記モータの電流実効値及び電流進角を制御中、前記モータまたは前記電源の状態に関する所定条件が満たされた場合、前記第1進角制御データより弱め界磁側の電流進角における前記関係を示す第2進角制御データに基づき、前記モータに要求されるトルクに応じて前記モータの電流実効値及び電流進角を制御し、前記第2進角制御データに基づき前記モータの電流実効値及び電流進角を制御中、前記第1進角制御データに基づき前記モータの電流実効値及び電流進角を制御する場合の前記変調率を予測し、予測した前記変調率が閾値以上である場合、前記第1進角制御データに基づき前記モータの電流実効値及び電流進角を制御し、予測した前記変調率が閾値未満である場合、前記第2進角制御データに基づく前記モータの電流実効値及び電流進角の制御を継続する。
【0009】
上記の構成において、前記第2制御部は、前記モータに要求されるトルクから、前記第1進角制御データ及び前記第2進角制御データの各々に対応した前記モータのインダクタンス及び電流指令値をそれぞれ算出し、前記モータのインダクタンス及び電流指令値により前記モータに印加される電圧の振幅を算出し、前記電圧の振幅と、前記電源の電圧を昇圧する昇圧コンバータから前記インバータに入力される入力電圧との比から前記変調率を予測してもよい。
【0010】
上記の構成において、前記第2制御部は、前記モータのインダクタンス、電流指令値、及び抵抗値により前記電圧の振幅を算出してもよい。
【0011】
上記の構成において、前記第2制御部は、前記インバータのスイッチング動作のデッドタイムによる前記電圧の変化分により前記電圧を補正してもよい。
【0012】
上記の構成において、前記第1進角制御データに基づき前記モータの電流実効値及び電流進角を制御する場合より前記モータの損失を増加させるとき、前記第2進角制御データに基づき前記モータの電流実効値及び電流進角を制御してもよい。
【0013】
上記の構成において、前記第2制御部は、前記第1進角制御データに基づき前記モータの電流実効値及び電流進角を制御する場合より前記モータの効率を増加させるとき、前記第2進角制御データに基づき前記モータの電流実効値及び電流進角を制御してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、モータの電流進角を適切なタイミングで制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】モータシステムの一例を示す構成図である。
図2】モータの電流進角及びトルク指令値の関係の一例を示す図である。
図3】モータの回転数及びトルク指令値の関係の一例を示す図である。
図4】スイッチング制御部の制御切り替え動作の一例を示すフローチャートである。
図5】PWM制御の一例を示すフローチャートである。
図6】モータの電流実効値及び電流進角の算出処理の一例を示すフローチャートである。
図7】矩形波制御の一例を示すフローチャートである。
図8】効率最適進角制御または損失増加進角制御への切り替え制御の一例を示すフローチャートである。
図9】電流最適進角制御への切り戻し制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(モータシステムの構成)
図1は、モータシステム9の一例を示す構成図である。モータシステム9は、例えばハイブリッド車や電気自動車などの電動車両に搭載される。モータシステム9は、電源回路1、モータ2、直流電源3、電圧センサ40、回転位置センサ41、電流センサ42、アクセルセンサ43、ブレーキセンサ44、バッテリセンサ45、及びECU5を有する。
【0017】
モータ2は不図示の車輪を駆動する。モータ2は、例えばブラシレスモータであり、ステータに三相の巻線20a,20b,20cを有する。三相の巻線20a,20b,20cには、電源回路1から出力された三相交流電流が流れる。
【0018】
回転位置センサ41は、例えばレゾルバであり、モータ2の回転子の回転位置を検出して、その検出値をECU5に出力する。電流センサ42は、巻線20b,20cに流れる三相交流電流の各電流値をそれぞれ検出し、その検出値をECU5に出力する。
【0019】
電源回路1は、インバータ10、昇圧コンバータ11、及びフィルタコンデンサ14,15を含む。電源回路1は、直流電源3とモータ2の間に電気的に接続されている。直流電源3は電源の一例であり、例えばリチウムイオン電池である。
【0020】
インバータ10は、直流電源3から入力される直流電流によりモータ2をそれぞれ駆動する。インバータ10は直流電流を三相交流電流に変換してモータ2に出力する。
【0021】
インバータ10は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)101a~101c,102a~102c及び還流ダイオード103a~103c,104a~104cを含む。IGBT101a,102aは、モータ2の巻線20aにそれぞれ接続される上アーム及び下アームである。IGBT101b,102bは、モータ2の巻線20bにそれぞれ接続される上アーム及び下アームである。IGBT101c,102cは、モータ2の巻線20cにそれぞれ接続される上アーム及び下アームである。
【0022】
還流ダイオード103a~103c,104a~104cはIGBT101a~101c,102a~102cにそれぞれ並列接続されている。還流ダイオード103a~103c,104a~104cには、三相の巻線20a,20b,20cから回生電流が流れる。また、還流ダイオード103a~103c,104a~104cは、IGBT101a~101c,102a~102cがオフ制御されたときに生ずるサージ電圧が流れる。
【0023】
IGBT101a~101cのコレクタ端子は直流電源3の正極端子に接続され、IGBT101a~101cのエミッタ端子は、IGBT102a~102cのコレクタ端子にそれぞれ接続されている。IGBT102a~102cのエミッタ端子は直流電源3の負極端子に接続されている。
【0024】
IGBT101a~101c,102a~102cのゲート端子には、ECU5からスイッチング信号S1a~S1c,S2a~S2cがそれぞれ入力される。IGBT101a~101c,102a~102cは、スイッチング信号S1a~S1c,S2a~S2cによりそれぞれオンオフされる。これにより、インバータ10は直流電源3の直流電流から三相交流電流を生成してモータ2に出力する。なお、インバータ10は、IGBT101a~101c,102a~102cに代えて、他種のトランジスタを含んでもよい。
【0025】
昇圧コンバータ11は、直流電源3とインバータ10の間に電気的に接続されている。昇圧コンバータ11は、直流電源3からインバータ10に印加される電圧を昇圧する。
【0026】
昇圧コンバータ11は、リアクトル12、IGBT110,111、及び還流ダイオード112,113を含む。IGBT110,111は直列接続されている。IGBT110のコレクタ端子はインバータ10のIGBT101a~101cのコレクタ端子に接続され、IGBT110のエミッタ端子はIGBT111のコレクタ端子に接続されている。IGBT111のエミッタ端子は直流電源3の負極端子及びIGBT102a~102cのエミッタ端子に接続されている。
【0027】
リアクトル12の一端はIGBT110,111の接続点に接続され、リアクトル12の他端は直流電源3の正極端子に接続されている。リアクトル12は、IGBT110,111のスイッチング動作に従って直流電源3から入力されるエネルギーを蓄積して放出する。
【0028】
還流ダイオード112,113はIGBT110,111にそれぞれ並列接続されている。還流ダイオード112,113は、IGBT110,111がオフ制御されたときに直流電源3の直流電流を流す。
【0029】
IGBT110,111のゲート端子には、ECU5からスイッチング信号S1u,S2uがそれぞれ入力される。IGBT110,111は、スイッチング信号S1u,S2uによりそれぞれオンオフされる。これにより、昇圧コンバータ11は直流電圧を昇圧する。なお、昇圧コンバータ11は、IGBT110,111に代えて他種のトランジスタを含んでもよい。
【0030】
フィルタコンデンサ14は直流電源3と並列接続されている。フィルタコンデンサ14は、直流電源3と昇圧コンバータ11を互いに接続する供給ラインLp,Lnの間に接続されている。フィルタコンデンサ14は、昇圧コンバータ11から直流電源3に加わる電圧変動を平滑化する。
【0031】
直流電源3にはバッテリセンサ45が並列接続されている。バッテリセンサ45は直流電源3の出力電圧及び出力電流を検出し、その検出値はECU5に出力する。
【0032】
フィルタコンデンサ15はインバータ10と並列接続されている。フィルタコンデンサ15は、インバータ10から直流電源3に加わる電圧変動を平滑化する。フィルタコンデンサ15には、昇圧コンバータ11により昇圧された入力電圧VHが印加される。
【0033】
電圧センサ40は、フィルタコンデンサ15の両端間に接続され、フィルタコンデンサ14に印加されている入力電圧VHを検出する。電圧センサ40は、入力電圧VHの検出値をECU5に出力する。
【0034】
アクセルセンサ43は車両のアクセルペダル(不図示)の踏み込み量を検出し、その検出値をECU5に出力する。ブレーキセンサ44は車両のブレーキペダル(不図示)の踏み込み量を検出し、その検出値をECU5に出力する。
【0035】
ECU5は、例えばCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ及びメモリなどを有するコンピュータであり、モータ2の状態に応じて電源回路1の動作を制御する。ECU5は、車両制御部50、スイッチング制御部51、進角制御部52、電源制御部53、及び格納部54を有する。なお、ECU5は制御装置の一例である。
【0036】
車両制御部50、スイッチング制御部51、進角制御部52、及び電源制御部53は、例えばプロセッサを駆動するプログラムにより形成される機能であるが、これに限定されず、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specified Integrated Circuit)などのハードウェアで実現される回路であってもよい。なお、車両制御部50、スイッチング制御部51、進角制御部52、及び電源制御部53は、互いに独立したコンピュータであってもよい。
【0037】
格納部54は、例えばメモリなどの記憶回路である。格納部54は、電流最適進角制御マップデータ510、効率最適進角制御マップデータ511、損失増加進角制御マップデータ512、電流指令マップデータ513a~513c、及びインダクタンスマップデータ514a~514cを格納する。
【0038】
車両制御部50は、アクセルセンサ43及びブレーキセンサ44の各検出値から、モータ2に要求されるトルク(以下、要求トルクと表記)を算出する。車両制御部50は、要求トルクをスイッチング制御部51及び進角制御部52に通知する。スイッチング制御部51及び進角制御部52は要求トルクをトルク指令値に設定する。
【0039】
電源制御部53は、バッテリセンサ45の検出値から直流電源3に充電可能な上限電力値Winを算出する。電源制御部53は、例えば直流電源3の充電容量と出力電圧及び出力電流から上限電力値Winを算出する。電源制御部53は、上限電力値Winを進角制御部52に通知する。
【0040】
スイッチング制御部51は、第1制御部の一例であり、インバータ10の変調率Kaを算出し、変調率Kaに応じてインバータ10のPWM制御及び矩形波制御の何れを選択して実行する。スイッチング制御部51は、例えばモータ2のd軸電圧及びq軸電圧とインバータ10の入力電圧VHから変調率Kaを算出する。
【0041】
スイッチング制御部51は、PWM制御を実行中、一例として変調率Kaが0.78以上である場合、インバータ10の制御をPWM制御から矩形波制御に切り替える。また、スイッチング制御部51は、矩形波制御の実行中、一例として変調率Kaが0.70以下である場合、インバータ10の制御を矩形波制御からPWM制御に切り替える。
【0042】
スイッチング制御部51は、PWM制御を実行中、モータ2の巻線20a~20cの電圧が正弦波状となるようにスイッチング信号S1a~S1c,S2a~S2cを生成し、インバータ10のIGBT101a~101c,102a~102cに出力する。PWM制御には、正弦波PWM制御と過変調PWM制御が含まれる。
【0043】
スイッチング制御部51は、正弦波PWM制御の場合、IGBT101a~101c,102a~102cが、正弦波状の電圧指令値と搬送波(例えば三角波)との電圧比較の結果に従ってオンオフされるようにスイッチング信号S1a~S1c,S2a~S2cのデューティ比を制御する。この結果、上アームのIGBT101a~101cのオン期間と、下アームのIGBT101a~101cのオン期間とを合わせた所定の制御周期内で巻線20a~20cの電圧の基本波成分が正弦波状交流電圧となる。これにより、変調率Kaは0.61まで高めることができる。
【0044】
スイッチング制御部51は、過変調制御の場合、正弦波PWM制御と同様に正弦波状の電圧指令値と搬送波(例えば三角波)との電圧比較の結果に従ってスイッチング信号S1a~S1c,S2a~S2cのデューティ比を制御する。ただし、電圧指令値が搬送波よりも大きくなる領域で比較的大きなデューティ比の矩形パルスが生成されるため、正弦波状の基本波成分の振幅を拡張することができる。これにより変調率Kaは0 .61~0.78の範囲で高めることができる。
【0045】
スイッチング制御部51は、矩形波制御の場合、所定の制御周期内においてIGBT101a~101c,102a~102cのハイレベル及びローレベルの各期間の比が1:1である1パルス分の矩形波としてスイッチング信号S1a~S1c,S2a~S2cを生成する。矩形波制御では、巻線20a~20cの電圧の基本波成分の振幅が固定されるため、電力演算によって推定したトルクとトルク指令値との偏差に基づく、矩形波パルスの電圧位相が制御される。これにより、変調率Kaは0.78まで高められる。
【0046】
また、スイッチング制御部51は、要求トルクに応じて入力電圧VHの目標値を算出し、昇圧コンバータ11が直流電源3の電圧を昇圧するように昇圧コンバータ11のIGBT110,111をオンオフ制御する。
【0047】
進角制御部52は、第2制御部の一例であり、スイッチング制御部51がPWM制御を実行中、電流最適進角制御マップデータ510に基づき、モータ2の要求トルクに応じてモータ2の電流実効値及び電流進角を制御する。進角制御部52は、格納部54から電流最適進角制御マップデータ510を読みだす。
【0048】
電流最適進角制御マップデータ510は、モータ2の要求トルク、モータ2の電流実効値、及びモータ2の電流進角の関係を示す第1進角制御データの一例である。進角制御部52は、電流最適進角制御マップデータ510を用いることにより、モータ2のトルクが要求トルクを満たす電流実効値が最小となるように電流進角を制御することができる。この電流最適進角制御マップデータ510に基づく進角制御を「電流最適進角制御」と表記する。
【0049】
進角制御部52は、電流最適進角制御を実行中、モータ2の状態に関する所定条件が満たされた場合、効率最適進角制御マップデータ511に基づき、モータ2の要求トルクに応じてモータ2の電流実効値及び電流進角を制御する。進角制御部52は、格納部54から効率最適進角制御マップデータ511を読みだす。
【0050】
効率最適進角制御マップデータ511は、電流最適進角制御マップデータ510より弱め界磁側の電流進角における、モータ2の要求トルク、モータ2の電流実効値、及びモータ2の電流進角の関係を示す第2進角制御データの一例である。進角制御部52は、効率最適進角制御マップデータ511を用いることにより、電流最適進角制御を実行する場合よりモータ2の効率が増加するように電流進角を制御することができる。この効率最適進角制御マップデータ511に基づく進角制御を「効率最適進角制御」と表記する。
【0051】
進角制御部52は、電流最適進角制御を実行中、直流電源3の状態に関する所定条件が満たされた場合、損失増加進角制御マップデータ512に基づき、モータ2の要求トルクに応じてモータ2の電流実効値及び電流進角を制御する。進角制御部52は、格納部54から損失増加進角制御マップデータ512を読みだす。
【0052】
損失増加進角制御マップデータ512は、電流最適進角制御マップデータ510より弱め界磁側の電流進角における、モータ2の要求トルク、モータ2の電流実効値、及びモータ2の電流進角の関係を示す第2進角制御データの一例である。進角制御部52は、損失増加進角制御マップデータ512を用いることにより、電流最適進角制御を実行する場合よりモータ2の損失が増加するように電流進角を制御することができる。この損失増加進角制御マップデータ512に基づく進角制御を「損失増加進角制御」と表記する。
【0053】
進角制御部52は、効率最適進角制御または損失増加進角制御を実行中、電流最適進角制御を実行した場合の変調率Ksを予測する。進角制御部52は、電流指令マップデータ513a~513c及びインダクタンスマップデータ514a~514cを変調率Ksの予測に用いる。
【0054】
電流指令マップデータ513a~513cは、モータ2のトルク指令値及び電流指令値の関係を示す。電流指令値はd軸及びq軸の各指令値を含む。電流指令マップデータ513aは電流最適進角制御の実行時のトルク指令値及び電流指令値の関係を示す。電流指令マップデータ513aは電流最適進角制御の実行時のトルク指令値及び電流指令値の関係を示す。電流指令マップデータ513bは効率最適進角制御の実行時のトルク指令値及び電流指令値の関係を示す。電流指令マップデータ513cは損失増加進角制御の実行時のトルク指令値及び電流指令値の関係を示す。
【0055】
インダクタンスマップデータ514a~514cは、モータ2のトルク指令値及びインダクタンスの関係を示す。インダクタンスにはd軸及びq軸の各インダクタンスが含まれる。インダクタンスマップデータ514aは電流最適進角制御の実行時のトルク指令値及びインダクタンスの関係を示す。インダクタンスマップデータ514bは効率最適進角の実行時のトルク指令値及びインダクタンスの関係を示す。インダクタンスマップデータ514cは損失増加進角制御の実行時のトルク指令値及びインダクタンスの関係を示す。なお、電流指令マップデータ513a~513c及びインダクタンスマップデータ514a~514cは予め数値シミュレーションや実験結果により生成される。
【0056】
(進角制御の例)
図2は、モータ2の電流進角(deg.)及びトルク指令値(N・m)の関係の一例を示す図である。点線は、モータ2からトルク指令値に応じたトルクを出力させるときのモータ2の電流実効値を示す。
【0057】
進角制御部52は、電流最適進角制御を実行中、電流最適ラインLaに沿ってトルク指令値に基づき電流実効値及び電流進角を制御する。電流最適ラインLaが示すトルク指令値、電流実効値、及び電流進角の関係は電流最適進角制御マップデータ510に登録されている。
【0058】
また、進角制御部52は、効率最適進角制御を実行中、電流最適ラインLaの弱め界磁側(図2の紙面右側)の効率最適ラインLbに沿ってトルク指令値に基づき電流実効値及び電流進角を制御する。効率最適ラインLbが示すトルク指令値、電流実効値、及び電流進角の関係は効率最適進角制御マップデータ511に登録されている。
【0059】
また、進角制御部52は、損失増加進角制御を実行中、電流最適ラインLa及び効率最適ラインLbの弱め界磁側の損失増加ラインLcに沿ってトルク指令値に基づき電流実効値及び電流進角を制御する。損失増加ラインLcが示すトルク指令値、電流実効値、及び電流進角の関係は損失増加進角制御マップデータ512に登録されている。
【0060】
進角制御部52は、通常、電流最適ラインLaに沿って電流最適進角制御を行う。例えば進角制御部52は、トルク指令値Tm*に対応するように電流最適ラインLa上の動作点Paでモータ2を動作させる。進角制御部52は、モータ2の状態に関する所定条件が満たされた場合、モータ2の動作点を電流最適ラインLa上の動作点Paから効率最適ラインLb上の動作点Pbに変更する。また、進角制御部52は、直流電源3の状態に関する所定条件が満たされた場合、モータ2の動作点を電流最適ラインLa上の動作点Paから損失増加ラインLc上の動作点Pcに変更する。
【0061】
このように、進角制御部52が弱め界磁側に進角を進めると、モータ2のd軸電流がマイナス方向に増加することによりd軸電圧が低下するため、変調率Kaが小さくなる。
【0062】
図3は、モータ2の回転数(rpm)及びトルク指令値(N・m)の関係の一例を示す図である。トルク指令値の上限値Tmaxはモータ2の回転数に応じて決定される。回転数が所定値以上となる領域では、回転数が増加するほどトルク指令値の上限値Tmaxは低下する。
【0063】
PWM制御領域Saは、PWM制御の適用可能領域であり、矩形波制御領域Sbは矩形波制御の適用可能領域である。電流最適進角制御が実行されている場合、符号G1aで示されるように、ラインTaがPWM制御領域Sa及び矩形波制御領域Sbの境界となる。
【0064】
効率最適進角制御が実行されている場合、符号G1bで示されるように、ラインTbがPWM制御領域Sa及び矩形波制御領域Sbの境界となる。損失増加進角制御が実行されている場合、符号G1cで示されるように、ラインTcがPWM制御領域Sa及び矩形波制御領域Sbの境界となる。
【0065】
PWM制御領域Saは、電流最適進角制御の場合に最も狭く、損失増加進角制御の場合に最も広くなる。矩形波制御領域Sbは、PWM制御領域Saとは逆に、電流最適進角制御の場合に最も広く、損失増加進角制御の場合に最も狭くなる。すなわち、進角制御部52が電流進角を弱め界磁側に進めるほど、PWM制御領域Saは拡張し、矩形波制御領域Sbは縮小する。
【0066】
ここでモータ2の効率はPWM制御の場合より矩形波制御の場合のほうが高くなる。このため、スイッチング制御部51がPWM制御を実行している場合、進角制御部52は、効率最適進角制御または損失増加進角制御を実行中、インバータ10のスイッチング制御がPWM制御から矩形波制御に切り替わる適切なタイミングで進角制御を電流最適進角制御に戻す必要がある。しかし、電流進角が弱め界磁側に進角するほど、インバータ10の変調率は低下して高精度に変調率を算出することが難しくなる。
【0067】
そこで、進角制御部52は、効率最適進角制御または損失増加進角制御の実行中電流最適進角制御を実行する場合の変調率Ksを予測する。なお、以降の説明では、進角制御部52が予測した変調率Ksを予測変調率Ksと表記する。進角制御部52は、予測変調率Ksが閾値Kth以上である場合、電流最適進角制御を実行し、予測変調率Ksが閾値Kth未満である場合、効率最適進角制御または損失増加進角制御を継続する。
【0068】
このため、進角制御部52は、電流最適進角制御の実行する場合にインバータ10のスイッチング制御がPWM制御から矩形波制御に切り替わる適切なタイミングで進角制御を効率最適進角制御または損失増加進角制御から電流最適進角制御に戻すことができる。したがって、ECU5はモータ2の電流進角を適切なタイミングで制御することができる。
【0069】
(予測変調率Ksの算出例)
進角制御部52は、電流指令マップデータ513a~513c及びインダクタンスマップデータ514a~514cを用いて予測変調率Ksを算出する。
【0070】
Ks=Vamp/VH ・・・(1)
【0071】
進角制御部52は、上記の式(1)から予測変調率Ksを算出する。式(1)においてVampは、電流最適進角制御を実行する場合にインバータ10からモータ2に印加される電圧の振幅の予測値(以下、予測電圧振幅と表記)である。
【0072】
Vamp=Vd_s×cos(φi_s)+Vq_s×sin(φi_s)
・・・(2)
φi_s=atan(Vq_s/Vd_s) ・・・(3)
【0073】
進角制御部52は、上記の式(2)からモータ2の予測電圧振幅Vampを算出する。式(2)において、Vd_s及びVq_sは、それぞれ、電流最適進角制御を実行する場合のモータ2のd軸電圧及びq軸電圧の各予測値(以下、予測d軸電圧及び予測q軸電圧と表記)である。
【0074】
φi_sは電流最適進角制御を実行する場合のモータ2のd軸電圧の基準位相の予測値(以降、予測d軸基準電圧位相と表記)である。進角制御部52は、上記の式(3)から予測d軸基準電圧位相φi_sを算出する。
【0075】
Vd_s=Vd-ω・Lq_s・IqC_s+ω・Lq・IqC・・・(4)
Vq_s=Vq+ω・Ld_s・IdC_s-ω・Ld・IdC・・・(5)
【0076】
進角制御部52は、上記の式(4)から予測d軸電圧Vd_sを算出し、上記の式(5)から予測q軸電圧Vq_sを算出する。以下に式(4)及び式(5)内の各パラメータについて説明する。
【0077】
Vd及びVqは、それぞれ、モータ2のd軸電圧及びq軸電圧である。進角制御部52は、例えばスイッチング制御部51からPWM制御における電圧指令値のフィードバック制御のパラメータを取得してd軸電圧Vd及びq軸電圧を算出する。また、ωはモータ2の三相交流電流の電気角周波数である。進角制御部52は、スイッチング制御部51から三相交流電流の位相を取得して、位相から電気角周波数を算出する。
【0078】
Ld及びLqは、それぞれ、モータ2のd軸インダクタンス及びq軸インダクタンスである。進角制御部52は、トルク指令値からインダクタンスマップデータ514bまたはインダクタンスマップデータ514cに基づきd軸インダクタンスLd及びq軸インダクタンスLqを算出する。このとき、進角制御部52は、効率最適進角制御を実行中、インダクタンスマップデータ514bを用い、損失増加進角を実行中、インダクタンスマップデータ514cを用いる。なお、進角制御部52は、これに限定されず、トルク指令値から所定の算出式に従ってd軸インダクタンスLd及びq軸インダクタンスLqを算出してもよい。
【0079】
Ld_s及びLq_sは、それぞれ、進角制御部52が電流最適進角制御を実行する場合のモータ2のd軸インダクタンス及びq軸インダクタンスの予測値(以下、予測d軸インダクタンスLd_s及び予測q軸インダクタンスLq_sと表記)である。進角制御部52は、トルク指令値からインダクタンスマップデータ514aに基づき予測d軸インダクタンスLd_s及び予測q軸インダクタンスLq_sを算出する。なお、進角制御部52は、これに限定されず、トルク指令値から所定の算出式に従って予測d軸インダクタンスLd_s及び予測q軸インダクタンスLq_sを算出してもよい。
【0080】
IdC及びIqCは、それぞれ、モータ2のd軸電流指令値及びq軸電流指令値である。進角制御部52は、トルク指令値から電流指令マップデータ513bまたは電流指令マップデータ513cに基づきd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCを算出する。このとき、進角制御部52は、効率最適進角制御を実行中、電流指令マップデータ513bを用い、損失増加進角を実行中、電流指令マップデータ513cを用いる。なお、進角制御部52は、これに限定されず、トルク指令値から所定の算出式に従ってd軸電流指令値及びq軸電流指令値を算出してもよい。
【0081】
IdC_s及びIqC_sは、それぞれ、進角制御部52が電流最適進角制御を実行する場合のモータ2のd軸電流指令値及びq軸電流指令値の予測値(以下、予測d軸電流指令値及び予測q軸電流指令値と表記)である。進角制御部52は、トルク指令値から電流指令マップデータ513aに基づき予測d軸電流指令値IdC_s及び予測q軸電流指令値IqC_sを算出する。なお、進角制御部52は、これに限定されず、トルク指令値から所定の算出式に従って予測d軸電流指令値IdC_s及び予測q軸電流指令値IqC_sを算出してもよい。
【0082】
このように、進角制御部52は、トルク指令値から、電流最適進角制御を実行した場合の予測d軸電流指令値IdC_s及び予測q軸電流指令値IqC_sと、効率最適進角制御または損失増加進角制御を実行している場合のd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCとそれぞれを算出する。ここで、予測d軸電流指令値IdC_s及び予測q軸電流指令値IqC_sは、電流最適進角制御マップデータ510に対応したモータ2の電流指令値の一例である。また、d軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCは、効率最適進角制御マップデータ511または損失増加進角制御マップデータ512に対応したモータ2の電流指令値の一例である。
【0083】
また、進角制御部52は、トルク指令値から、電流最適進角制御を実行した場合の予測d軸インダクタンスLd_s及び予測q軸インダクタンスLq_sと、効率最適進角制御または損失増加進角制御を実行している場合のd軸インダクタンスLd及びq軸インダクタンスLqとそれぞれを算出する。ここで、予測d軸インダクタンスLd_s及び予測q軸インダクタンスLq_sは、電流最適進角制御マップデータ510に対応したモータ2のインダクタンスの一例である。また、d軸インダクタンスLd及びq軸インダクタンスLqは、効率最適進角制御マップデータ511または損失増加進角制御マップデータ512に対応したモータ2のインダクタンスの一例である。
【0084】
さらに進角制御部52は、予測d軸インダクタンスLd_s及び予測q軸インダクタンスLq_sと、d軸インダクタンスLd及びq軸インダクタンスLqと、予測d軸電流指令値IdC_s及び予測q軸電流指令値IqC_sと、d軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCとにより予測電圧振幅Vampを算出する。予測電圧振幅Vampは、モータ2に印加される電圧の振幅の一例である。進角制御部52は、予測電圧振幅Vampと、入力電圧VHとの比から予測変調率Ksを算出する。
【0085】
したがって、以下に述べるように電圧方程式から予測変調率Ksを算出する場合と比べると、効率最適進角制御または損失増加進角制御の実行中のd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqC及びd軸インダクタンスLd及びq軸インダクタンスLqが算出に用いられることで、電流センサ42のオフセット誤差の影響などを抑制し、高精度に予測変調率Ksを算出することができる。
【0086】
Vd_s=-ω×Lq_s×IqC_s ・・・(6)
Vq_s=ω×Ld_s×IdC_s+ω×φa ・・・(7)
【0087】
進角制御部52は、上記の例とは異なり、予測d軸電圧Vd_s及び予測q軸電圧Vq_sを例えば電圧方程式である上記の式(6)及び式(7)からそれぞれ算出することができる。ここでφaはモータ2の誘起電圧定数である。
【0088】
Vd_s’=-ω×Lq_s×(IqC_s-10) ・・・(8)
Vq_s’=ω×Ld_s×(IdC_s-10)+ω×φa ・・・(9)
【0089】
一例として電流センサ42のオフセット誤差を10(A)であると仮定すると、誤差を除いた正確な予測d軸電圧Vd_s’及び予測q軸電圧Vq_s’は上記の式(8)及び式(9)によりそれぞれ表される。
【0090】
ΔVd’=Vd_s-Vd_s’=ω×Lq_s×10 ・・・(10)
【0091】
したがって、予測d軸電圧Vd_sの誤差ΔVd’は上記の式(10)から算出することができる。
【0092】
Vd=-ω×Lq×(IqC-10) ・・・(11)
Vd_s=Vd-ω・Lq_s・IqC_s+ω・Lq・IqC
=-ω×Lq×(IqC-10)-ω・Lq_s・IqC_s+ω・Lq・IqC
=ω×Lq×10-ω・Lq_s・IqC_s ・・・(12)
【0093】
また、上記の式(4)において、d軸電圧Vdは、電流センサ42のオフセット誤差を反映したd軸電流指令値IdCから上記の式(11)により近似的に表される。したがって、予測d軸電圧は、式(4)のd軸電圧Vdから上記の式(12)により表される。
【0094】
ΔVd=Vd_s-Vd_s=ω×Lq_s×10-ω×Lq×10
=ω×(Lq_s-Lq)×10 ・・・(13)
【0095】
したがって、予測d軸電圧Vd_sの誤差ΔVdは上記の式(13)から算出することができる。ここで、ω×(Lq_s-Lq)×10<ω×Lq×10が成立するため、上記の式(4)により算出される予測d軸電圧Vd_sは、上記の式(6)により算出される予測d軸電圧Vd_s’より高精度である。また、上記の式(5)により算出した予測q軸電圧Vq_sのほうが、上記の式(7)により算出する予測q軸電圧Vq_s’より高精度となる。なお、式(7)の誘起電圧定Φaは温度により変動するため、誘起電圧定Φaによっても予測q軸電圧Vq_s’の精度は低くなる。
【0096】
したがって、進角制御部52は、電流最適進角制御を実行した場合の予測d軸電流指令値IdC_s及び予測q軸電流指令値IqC_sと予測d軸インダクタンスLd_s及び予測q軸インダクタンスLq_sだけでなく、実行中の効率最適進角制御または損失増加進角制御におけるd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCとd軸インダクタンスLd及びq軸インダクタンスLqを用いて予測変調率Ksを算出することで、電流センサ42のオフセット誤差を相殺して精度を向上することができる。
【0097】
(予測変調率Ksの他の算出例)
進角制御部52は、上記の式(4)及び式(5)に、モータ2のモータ抵抗及びインバータ10のスイッチング動作のデッドタイムに関する演算を追加することにより、さらに高精度に予測変調率Ksを算出してもよい。なお、本例では、モータ2のモータ抵抗及びインバータ10のスイッチング動作のデッドタイムの両方に関する演算を予測d軸電圧Vd_s及び予測q軸電圧Vq_sの算出に用いる例を挙げるが、何れか一方に関する演算だけを算出に用いてもよい。
【0098】
Vd_s=Vd-ω・Lq_s・IqC_s+ω・Lq・IqC+R・IdC_s
-R・IdC+DTd_s-DTd ・・・(14)
Vq_s=Vq-ω・Ld_s・IdC_s-ω・Ld・IdC+R・IqC_s
-R・IqC+DTq_s-DTq ・・・(15)
【0099】
進角制御部52は、例えば上記の式(14)及び式(15)により予測d軸電圧Vd_s及び予測q軸電圧Vq_sをそれぞれ算出する。Rはモータ2の巻線2a~2cの電気抵抗値(モータ抵抗)である。抵抗値Rはモータ2の抵抗値の一例である。また、DTd及びDTqは、それぞれ、インバータ10のデッドタイムに応じたd軸電圧Vd及びq軸電圧Vqの各補正値(以下、d軸電圧補正値及びq軸電圧補正値と表記)である。
【0100】
DTd=VH/2×3(1/2)×Td/T×2×cos(Φi) ・・・(16)
DTq=VH/2×3(1/2)×Td/T×2×sin(Φi) ・・・(17)
Φi=atan(IqC/IdC) ・・・(18)
【0101】
進角制御部52は、上記の式(16)及び式(17)からd軸電圧補正値DTd及びq軸電圧補正値DTqをそれぞれ算出する。また、Φiはモータ2のd軸電流の基準位相(以下、d軸電流基準位相と表記)である。進角制御部52は、上記の式(18)からd軸電流基準位相Φiを算出する。
【0102】
また、Tdはインバータ10のデッドタイムである。Tは、インバータ10のPWM制御に用いられるキャリア信号の周波数の逆数(つまり周期)である。進角制御部52は、スイッチング制御部51からキャリア信号の周波数を取得してその逆数Tを算出する。
【0103】
DTd_s=VH/2×3(1/2)×Td/T×2×cos(Φi_s)・・・(19)
DTq_s=VH/2×3(1/2)×Td/T×2×sin(Φi_s)・・・(20)
Φi_s=atan(IqC_s/IdC_s) ・・・(21)
【0104】
DTd_s及びDTq_sは、それぞれ、進角制御部52が電流最適進角制御を実行する場合のインバータ10のデッドタイムTdに応じたd軸電圧Vd及びq軸電圧Vqの各補正値の予測値(以下、予測d軸電圧補正値及び予測q軸電圧補正値と表記)である。進角制御部52は、上記の式(19)及び式(20)から予測d軸電圧補正値DTd_s及び予測q軸電圧補正値DTq_sをそれぞれ算出する。
【0105】
Φi_sは電流最適進角制御を実行する場合のモータ2のd軸電流の基準位相の予測値(以下、予測d軸電流基準位相と表記)である。進角制御部52は、上記の式(21)から予測d軸電流基準位相Φi_sを算出する。
【0106】
このように、進角制御部52は、モータ2の抵抗値Rを用いて予測d軸電圧Vd_s及び予測q軸電圧Vq_sを算出し、予測d軸電圧Vd_s及び予測q軸電圧Vq_sから式(2)に基づき予測電圧振幅Vampを算出する。このため、進角制御部52は、モータ2の抵抗値Rによる電圧変化分を予測d軸電圧Vd_s及び予測q軸電圧Vq_sに反映することができる。
【0107】
また、進角制御部52は、インバータ10のスイッチング動作のデッドタイムによるd軸電圧Vd及びq軸電圧Vqの変化分によりd軸電圧Vd及びq軸電圧Vqを補正する。このため、進角制御部52は、デッドタイムによるd軸電圧Vd及びq軸電圧Vqの変化分を予測d軸電圧Vd_s及び予測q軸電圧Vq_sに反映することができる。なお、上述したモータ2のモータ抵抗及びインバータ10のスイッチング動作のデッドタイムに関する演算は、上記の式(6)及び式(7)の電圧方程式にも適用することができる。
【0108】
(スイッチング制御部の制御切り替え動作)
図4は、スイッチング制御部51の制御切り替え動作の一例を示すフローチャートである。スイッチング制御部51は、ECU5の起動時、PWM制御を選択する(ステップSt1)。これにより初期状態においてPWM制御が実行される。
【0109】
次にスイッチング制御部51はPWM制御を実行中であるか否かを判定する(ステップSt2)。スイッチング制御部51はPWM制御を実行中である場合(ステップSt2のYes)、変調率Kaを算出する(ステップSt3)。このとき、スイッチング制御部51は、上記の式(3)と同様にd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値からモータ2の電圧位相を算出して、上記の式(2)と同様に電圧位相から電圧振幅を算出する。さらにスイッチング制御部51は、上記の式(1)と同様に電圧振幅及び入力電圧VHから変調率Kaを算出する。
【0110】
次にスイッチング制御部51は、変調率Kaが0.78以上であるか否かを判定する(ステップSt4)。変調率Kaが0.78以上である場合(ステップSt4のYes)、スイッチング制御部51は矩形波制御を選択する(ステップSt5)。これにより矩形波制御が実行される。また、変調率Kaが0.78未満である場合(ステップSt4のNo)、スイッチング制御部51はPWM制御を継続する。
【0111】
次にスイッチング制御部51は、例えば不図示のイグニッションスイッチのオンオフ状態から処理を終了するか否かを判定する(ステップSt6)。スイッチング制御部51が処理を終了すると判定した場合(ステップSt6のYes)、処理は終了する。また、スイッチング制御部51が処理を継続すると判定した場合(ステップSt6のNo)、再びステップSt2以降の各処理が実行される。
【0112】
また、スイッチング制御部51は、矩形波制御を実行中である場合(ステップSt2のNo)、変調率Kaを算出する(ステップSt7)。
【0113】
Vd_est=Vd-ω×Lq×IqC+ω×Lq×Iq ・・・(22)
Vq_est=Vq+ω×Ld×IdC-ω×Ld×Id ・・・(23)
【0114】
このとき、スイッチング制御部51は、上記の式(22)及び式(23)から推定d軸電圧指令値Vd_est及び推定q軸電圧指令値Vq_estを算出する。式(22)及び式(23)はPWM制御を実行中の電圧方程式と矩形波制御を実行中の電圧方程式の差分から導出される。ここで、Iq及びIdは、それぞれ、モータ2のd軸電流及びq軸電流である。なお、式(22)及び式(23)中の他のパラメータは上述したとおりである。
【0115】
スイッチング制御部51は、上記の式(3)と同様に推定d軸電圧指令値Vd_est及び推定q軸電圧指令値Vq_estからモータ2の電圧位相を算出して、上記の式(2)と同様に電圧位相から電圧振幅を算出する。さらにスイッチング制御部51は、上記の式(1)と同様に電圧振幅及び入力電圧VHから変調率Kaを算出する。
【0116】
次にスイッチング制御部51は、変調率Kaが0.7以下であるか否かを判定する(ステップSt8)。変調率Kaが0.7以下である場合(ステップSt8のYes)、スイッチング制御部51はPWM制御を選択する(ステップSt9)。これによりPWM制御が実行される。また、変調率Kaが0.7より大きい場合(ステップSt8のNo)、スイッチング制御部51は矩形波制御を継続する。その後、ステップSt6の処理が実行される。
【0117】
このようにスイッチング制御部51は、インバータ10の変調率Kaを算出し、変調率Kaに応じてインバータ10のPWM制御及び矩形波制御の何れを選択して実行する。なお、PWM制御及び矩形波制御の選択のための変調率Kaの判定値(0.78及び0.7)は一例であり、インバータ10の設計に応じて定められる。
【0118】
(PWM制御)
図5は、PWM制御の一例を示すフローチャートである。スイッチング制御部51は、PWM制御を選択中、以下のステップSt11~St17の各処理を周期的に実行する。
【0119】
進角制御部52は、トルク指令値に基づきモータ2の電流実効値及び電流進角を算出する(ステップSt11)。電流実効値及び電流進角の算出処理は後述する。なお、進角制御部52は、電流実効値及び電流進角をスイッチング制御部51に通知する。
【0120】
次にスイッチング制御部51は、モータ2の電流実効値及び電流進角からd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCを算出する(ステップSt12)。ここで、電流実効値は、d軸電流指令値IdCの二乗とq軸電流指令値IqCの二乗との和の平方根を3の平方根で除算した値に相当し、電流進角値は、d-q座標系においてd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCに基づく電流ベクトルのq軸に対する角度(進角値)である。この関係に基づいて、スイッチング制御部51は、電流実効値及び電流進角値からd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCを算出する。
【0121】
次にスイッチング制御部51は、電流センサ42の検出値から三相交流電流の各電流値(例えばu相とv相)を取得する(ステップSt13)。次にスイッチング制御部51は、モータ2の電気角を用いて三相交流電流の各電流値を3相-2相変換することによりd軸電流Id及びq軸電流Iqを算出する(ステップSt14)。このとき、スイッチング制御部51は、回転位置センサ41の検出値から電気角を算出する。
【0122】
次にスイッチング制御部51は、d軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCとd軸電流Id及びq軸電流Iqのそれぞれの差分をフィードバック制御することによりモータ2のd軸電圧指令値VdC及びq軸電圧指令値VqCを算出する(ステップSt15)。次にスイッチング制御部51は、モータ2の電気角を用いてd軸電圧指令値VdC及びq軸電圧指令値VqCを2相-3相変換することによりモータ2の三相交流電圧の各相(u相、v相、及びw相)の電圧指令値を算出する(ステップSt16)。
【0123】
次にスイッチング制御部51は、各相の電圧指令値に基づき、インバータ10に出力するスイッチング信号S1a~S1c,S2a~S2cとしてPWM信号を生成する(ステップSt17)。このとき、スイッチング制御部51は、電圧指令値からPWM信号のデューティ演算を行う。
【0124】
スイッチング制御部51は、符号G2で示されるように、時間軸において、三角波状に変化するキャリア信号を生成して、正弦波状に変化する各相の電圧指令値とキャリア信号の信号値を比較する。キャリア信号は、PWM信号(スイッチング信号S1a~S1c,S2a~S2c)のオンオフタイミングを決めるための信号であり、キャリア信号の信号値が電圧指令値以上である場合、PWM信号はオフとなり、キャリア信号の信号値が電圧指令値未満である場合、PWM信号はオフとなる。
【0125】
スイッチング制御部51は、PWM信号がオンとなる時間Ton、及びPWM信号がオフとなる時間Toffを算出する。この時間Ton,ToffによりPWM信号のデューティ比が決定される。このようにしてイPWM制御処は実行される。
【0126】
(電流実効値及び電流進角の算出)
図6は、モータ2の電流実効値及び電流進角の算出処理の一例を示すフローチャートである。本処理は、上記のステップSt11において実行される。
【0127】
進角制御部52は、損失増加進角制御を実行中であるか否かを判定する(ステップSt111)。進角制御部52は、損失増加進角制御を実行中である場合(ステップSt111のYes)、格納部54から損失増加進角制御マップデータ512を読み出す(ステップSt112)。
【0128】
また、進角制御部52は、損失増加進角制御を実行中ではない場合(ステップSt111のNo)、効率最適進角制御を実行中であるか否かを判定する(ステップSt114)。進角制御部52は、効率最適進角制御を実行中である場合(ステップSt114のYes)、格納部54から効率最適進角制御マップデータ511を読み出す(ステップSt115)。
【0129】
また、進角制御部52は、効率最適進角制御を実行中ではない場合(ステップSt114のNo)、電流最適進角制御を実行中であると判定し、格納部54から電流最適進角制御マップデータ510を読み出す(ステップSt116)。
【0130】
次に進角制御部52は、電流最適進角制御マップデータ510、効率最適進角制御マップデータ511、及び損失増加進角制御マップデータ512のうち、格納部54から読み出したマップデータからトルク指令値に応じたモータ2の電流実効値及び電流進角を算出する(ステップSt113)。これにより、進角制御部52は、電流最適進角制御マップデータ510に基づき電流最適ラインLaに沿って電流実効値及び電流進角を制御し、効率最適進角制御マップデータ511に基づき効率最適ラインLbに沿って電流実効値及び電流進角を制御し、損失増加進角制御マップデータ512に基づき損失増加ラインLcに沿って電流実効値及び電流進角を制御する。
【0131】
(矩形波制御)
図7は、矩形波制御の一例を示すフローチャートである。スイッチング制御部51は、矩形波制御を選択中、以下のステップSt21~St25の各処理を周期的に実行する。
【0132】
スイッチング制御部51は、電流センサ42の検出値から三相交流電流の各電流値(例えばu相とv相)を取得する(ステップSt21)。次にスイッチング制御部51は、モータ2の電気角を用いて三相交流電流の各電流値を3相-2相変換することによりd軸電流Id及びq軸電流Iqを算出する(ステップSt22)。このとき、スイッチング制御部51は、回転位置センサ41の検出値から電気角を算出する。
【0133】
次にスイッチング制御部51は、d軸電流Id及びq軸電流Iqからモータ2の出力トルクを推定する(ステップSt23)。このとき、スイッチング制御部51は、d軸電流Id及びq軸電流Iqから所定の算出式から出力トルクを算出してもよいし、d軸電流Id及びq軸電流Iqと出力トルクの関係を示すマップデータから出力トルクを算出してもよい。
【0134】
次にスイッチング制御部51は、推定した出力トルクとトルク指令値の差分が減少するようにフィードバック制御を行うことによりモータ2の電圧位相指令値を算出する(ステップSt24)。電圧位相指令値は、d-q座標系においてモータ2に印加される電圧のq軸に対する角度の指令値である。
【0135】
次にスイッチング制御部51は、インバータ10に出力するスイッチング信号S1a~S1c,S2a~S2cとして、電圧位相指令値に応じた矩形波信号を生成する(ステップSt25)。矩形波信号は、所定の制御周期内においてオン期間及びオフ期間の比が1:1である1パルス分の矩形波である。つまり、矩形波信号がオンとなる時間Tonと、矩形波信号がオフとなる時間Toffの間隔が実質的に一定となる。インバータ10のIGBT101a~101c,102a~102cに矩形波信号のスイッチング信号S1a~S1c,S2a~S2cが入力されることにより、モータ2の各巻線2a~2cには上記の制御周期を1周期とする正弦波状の電圧が印加される。
【0136】
(効率最適進角制御または損失増加進角制御への切り替え制御)
図8は、効率最適進角制御または損失増加進角制御への切り替え制御の一例を示すフローチャートである。本制御処理は、例えば所定の周期ごとに実行される。
【0137】
進角制御部52は、直流電源3の上限電力値Winを閾値THwと比較する(ステップSt31)。これにより進角制御部52は、直流電源3にモータ2の回生電力を充電できるか否かを判定する。
【0138】
進角制御部52は、上限電力値Winが閾値THw以下である場合(ステップSt31のYes)、回生電力がモータ2及びインバータ10の損失として消費されるように損失増加進角制御を実行する(ステップSt32)。これにより進角制御部52は、図2の損失増加ラインLcに沿ってモータ2の実効電流値及び電流進角を制御する。なお、上限電力値Win≦閾値THwの条件は、直流電源3の状態に関する条件の一例であるが、これに限定されない。
【0139】
また、進角制御部52は、上限電力値Winが閾値THwより大きい場合(ステップSt31のNo)、回転位置センサ41の検出値からモータ2の回転数Nを算出する(ステップSt33)。進角制御部52は、回転数Nが、モータ2の効率(燃費)が所定値以上となる下限値Nmin以上かつ上限値Nmax以下の範囲内にあるか否かを判定する(ステップSt34)。ここで、上限値Nmax及び下限値Nminは予めシミュレーションや実験などにより定められる。
【0140】
進角制御部52は、Nmin≦N≦Nmaxが成立する場合(ステップSt34のYes)、効率最適進角制御を実行する(ステップSt35)。これにより進角制御部52は、図2の効率最適ラインLbに沿ってモータ2の実効電流値及び電流進角を制御する。なお、Nmin≦N≦Nmaxの条件は、モータ2の状態に関する条件の一例であるが、これに限定されない。
【0141】
進角制御部52は、N<NminまたはN>Nmaxが成立する場合(ステップSt34のNo)、電流最適進角制御を実行する(ステップSt36)。これにより進角制御部52は、図2の電流最適ラインLaに沿ってモータ2の実効電流値及び電流進角を制御する。すなわち、ステップSt31及びステップSt33の何れの条件も満たされない通常の状態において、進角制御部52は電流最適進角制御を実行する。
【0142】
このように進角制御部52はモータ2または直流電源3の状態に関する条件に応じて進角制御の種類を切り替える。損失増加進角制御が実行された場合、モータ2及びインバータ10の損失は、電流最適進角制御が実行された場合より増加するため、直流電源3にモータ2の回生電力が充電されることが防止される。また、効率最適進角制御が実行された場合、モータ2の効率が、電流最適進角制御が実行された場合より増加する。
【0143】
(電流最適進角制御への切り戻し制御)
図9は、電流最適進角制御への切り戻し制御の一例を示すフローチャートである。本制御処理は、例えば所定の周期ごとに実行される。
【0144】
進角制御部52は、スイッチング制御部51がPWM制御を実行中であるか否かを判定する(ステップSt41)。進角制御部52は、矩形波制御が実行中である場合(ステップSt41のNo)、矩形波制御を継続するため、処理を終了する。
【0145】
また、進角制御部52は、PWM制御が実行中である場合(ステップSt41のYes)、損失増加進角制御を実行中であるか否かを判定する(ステップSt42)。進角制御部52は、損失増加進角制御を実行中である場合(ステップSt42のYes)、電流最適進角を実行する場合の予測変調率Ksを算出する(ステップSt43)。このとき、進角制御部52は、電流最適進角制御用及び損失増加進角制御用の電流指令マップデータ513a,513c及びインダクタンスマップデータ514a,514cを用いて上記の式(1)により予測変調率Ksを算出する。
【0146】
また、進角制御部52は、損失増加進角制御を実行していない場合(ステップSt42のNo)、効率最適進角制御を実行中であるか否かを判定する(ステップSt44)。効率最適進角制御を実行中ではない場合(ステップSt44のNo)、処理は終了する。
【0147】
進角制御部52は、効率最適進角制御を実行中である場合(ステップSt44のYes)、電流最適進角を実行する場合の予測変調率Ksを算出する(ステップSt45)。このとき、進角制御部52は、電流最適進角制御用及び効率最適進角制御用の電流指令マップデータ513a,513b及びインダクタンスマップデータ514a,514bを用いて上記の式(1)により予測変調率Ksを算出する。
【0148】
次に進角制御部52は、予測変調率Ksを閾値Kthと比較する(ステップSt46)。閾値Kthは、一例として0.707である。閾値Kthは、例えばインバータ10のIGBT101a~101c,102a~102cのスイッチング回数の減少により、効率最適進角制御の最適な進角が変化する変調率Ka、または損失増加進角制御の損失の目標値が変化する変調率Kaとしてもよいが、これに限定されない。
【0149】
進角制御部52は、予測変調率Ksが閾値Kth以上である場合(ステップSt46のYes)、電流最適進角制御においてインバータ10のスイッチング制御がPWM制御から矩形波制御に切り替わる可能性が高いと判断して、電流最適進角制御を実行する(ステップSt47)。このため、図3に示される矩形波制御領域Sbが広がり、モータ2の効率が増加する。
【0150】
また、進角制御部52は、予測変調率Ksが閾値Kth未満である場合(ステップSt46のNo)、電流最適進角制御においてインバータ10のスイッチング制御がPWM制御から矩形波制御に切り替わる可能性が低いと判断して、効率最適進角制御または損失増加進角制御を継続して処理を終了する。このようにして進角制御部52は、効率最適進角制御または損失増加進角制御の実行中、電流最適進角制御への切り戻し制御を行う。
【0151】
このように、進角制御部52は、予測変調率Ksが閾値Kth以上である場合、電流最適進角制御を実行し、予測変調率Ksが閾値Kth未満である場合、効率最適進角制御または損失増加進角制御を継続する。このため、進角制御部52は、電流最適進角制御を実行する場合にインバータ10のスイッチング制御がPWM制御から矩形波制御に切り替わる適切なタイミングで進角制御を効率最適進角制御または損失増加進角制御から電流最適進角制御に戻すことができる。したがって、ECU5はモータ2の電流進角を適切なタイミングで制御することができる。
【0152】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0153】
1 電源回路
2 モータ
5 ECU(制御装置)
10 インバータ
11 昇圧コンバータ
51 スイッチング制御部(第1制御部)
52 進角制御部(第2制御部)
510 電流最適進角制御マップデータ(第1進角制御データ)
511 効率最適進角制御マップデータ(第2進角制御データ)
512 損失増加進角制御マップデータ(第2進角制御データ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9