(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】成形金型および成形金型の製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 3/26 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
B28B3/26 A
(21)【出願番号】P 2021105808
(22)【出願日】2021-06-25
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉井 耕嗣
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-184237(JP,A)
【文献】特開昭54-087763(JP,A)
【文献】特開2018-138348(JP,A)
【文献】特開2019-171627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 3/00-5/12
B28B 1/30-1/42
B33Y 10/00
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック質のハニカム構造体(H)の押出成形に用いられる成形金型(1,101,201)であって、
第1金属材料からなる第1板状部(10)と、
上記第1金属材料の硬度を上回る第2金属材料からなり上記第1板状部に接合された第2板状部(20)と、
を備え、
上記第1板状部には、上記第2板状部との接合面である第1接合面(11)と、上記第1接合面とは反対側の原料供給面(12)と、が設けられ、上記原料供給面から原料押出方向(D)に複数の原料供給穴(13)が延びており、
上記第2板状部には、上記第1板状部との接合面である第2接合面(21)と、上記第2接合面とは反対側の押出面(22)と、が設けられ、上記押出面に上記複数の原料供給穴に連通する格子状のスリット(23)が開口しており、
上記第2板状部は、上記複数の原料供給穴の中で成形原料(Ma)の導入速度が相対的に大きい第1供給穴(13A)に連通する上記スリットを有する高流速部(24)と、上記複数の原料供給穴の中で成形原料(Ma)の導入流速が相対的に小さい第2供給穴(13B)に連通する上記スリットを有する低流速部(25)と、を有し、上記原料押出方向の厚みについて上記高流速部が上記低流速部を上回るように構成されている、成形金型(1,101,201)。
【請求項2】
上記第2板状部は、上記複数の原料供給穴に導入前の成形原料(Ma)の流速分布に応じて、上記原料押出方向から見たときの中央部が上記高流速部とされ、上記中央部の外側を囲む外周部が上記低流速部とされている、請求項1に記載の成形金型。
【請求項3】
上記第1金属材料は、炭素鋼またはステンレス鋼であり、上記第2金属材料は、炭化タングステンを含有する超硬金属材料である、請求項1または2に記載の成形金型。
【請求項4】
上記第1金属材料は、炭素鋼またはステンレス鋼であり、上記第2金属材料は、クロム、鉄、ニッケル、コバルトを主成分とするハイエントロピー合金材料である、請求項1または2に記載の成形金型。
【請求項5】
上記第1金属材料は、炭素鋼またはステンレス鋼であり、上記第2金属材料は、コバルトまたはニッケルを主成分とする合金材料である、請求項1または2に記載の成形金型。
【請求項6】
上記スリットの内壁面には、Ti-C-N組成からなる耐摩耗性被膜(26)が設けられている、請求項1~4のいずれか一項に記載の成形金型。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の成形金型の製造方法であって、
上記第1板状部に上記第2板状部を接合する接合工程(S101)と、
上記接合工程で接合された上記第1板状部の上記原料供給面に上記複数の原料供給穴を加工する穴加工工程(S102)と、
上記接合工程で接合された上記第2板状部の上記押出面に上記スリットを加工するスリット加工工程(S103)と、
を有し、
上記接合工程は、上記第1板状部の上記第1接合面に金属積層造形法により上記第2金属材料の粉末を溶融凝固させて上記第2板状部を形成する工程である、成形金型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形金型と、成形金型を製造する製造方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、この種の成形金型としてハニカム構造体成形用口金と称されるものが開示されている。このハニカム構造体成形用口金は、厚み方向に貫通する裏孔を有する第一の板状部材と、ろう材により第一の板状部材に接合されており裏孔に連通する格子状のスリットを有する第二の板状部材と、を備えている。2つの板状部材はそれぞれが均一の厚みを有するように構成されている。
【0003】
セラミック質のハニカム構造体を製造する際、押出成形機から供給された成形原料を第一の板状部材の裏孔に導入し、この成形原料を格子状のスリットから押し出す押出成形を行う。このとき、スリットが硬質のセラミック材料である成形原料によって摩耗することを抑制するために、第二の板状部材が超硬合金からなるように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、押出成形機から供給される成形原料は、第一の板状部材の裏孔に導入される直前の段階で、中央部の速度が外周部よりも大きくなるような流速分布を形成する。このため、成形金型も外周部に比べて中央部の摩耗が進行し易くなる。そして、中央部の摩耗が進行すると抵抗が下がるため外周部よりも成形原料が流れ易くなる。その結果、スリットから押し出される成形体も中央部の流速が外周部に比べて早くなり、ハニカム構造体の品質が不安定になり易いという問題が生じ得る。このような問題は、成形原料の硬度が高まるほどに顕著になる。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、セラミック質のハニカム構造体の品質安定化を図るのに有効な押出成形技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
セラミック質のハニカム構造体(H)の押出成形に用いられる成形金型(1,101,201)であって、
第1金属材料からなる第1板状部(10)と、
上記第1金属材料の硬度を上回る第2金属材料からなり上記第1板状部に接合された第2板状部(20)と、
を備え、
上記第1板状部には、上記第2板状部との接合面である第1接合面(11)と、上記第1接合面とは反対側の原料供給面(12)と、が設けられ、上記原料供給面から原料押出方向(D)に複数の原料供給穴(13)が延びており、
上記第2板状部には、上記第1板状部との接合面である第2接合面(21)と、上記第2接合面とは反対側の押出面(22)と、が設けられ、上記押出面に上記複数の原料供給穴に連通する格子状のスリット(23)が開口しており、
上記第2板状部は、上記複数の原料供給穴の中で成形原料(Ma)の導入速度が相対的に大きい第1供給穴(13A)に連通する上記スリットを有する高流速部(24)と、上記複数の原料供給穴の中で成形原料(Ma)の導入流速が相対的に小さい第2供給穴(13B)に連通する上記スリットを有する低流速部(25)と、を有し、上記原料押出方向の厚みについて上記高流速部が上記低流速部を上回るように構成されている、成形金型(1,101,201)、
にある。
【発明の効果】
【0008】
上述の態様の成形金型は、セラミック質のハニカム構造体の押出成形に用いられるものであり、成形原料が供給される側に第1板状部を備え、ハニカム構造体が押し出される側に第2板状部を備える。この成形金型は、第1板状部の第1接合面と第2板状部の第2接合面とが互いに接合されることにより一体化されている。ハニカム構造体となる成形原料は、第1板状部の原料供給面から原料押出方向に延びる複数の原料供給穴を通じて成形金型の内部に導入される。この成形原料は、複数の原料供給穴に連通する格子状のスリットを経て、第2板状部の押出面からハニカム構造体として押し出される。
【0009】
第2板状部の高流速部は、複数の原料供給穴の中で成形原料の導入速度が相対的に大きい第1供給穴に連通するスリットを有する部位である。これに対して、第2板状部の低流速部は、複数の原料供給穴の中で成形原料の導入速度が相対的に小さい第2供給穴に連通するスリットを有する部位である。導入された成形原料による摩耗によって、スリットの幅が拡がったスリット摩耗部が、第1金属材料よりも硬質である第2金属材料からなる第2板状部に到達するまで延びる。
【0010】
ここで、第2板状部は、高流速部の原料押出方向の厚みが低流速部の原料押出方向の厚みよりも厚くなるように構成されている。本構成によれば、各スリットの摩耗の結果、第2供給穴に接続するスリットは、原料押出方向のスリット摩耗部長が第1供給穴に接続するスリットよりも長くなり、第1供給穴に接続するスリットは、原料押出方向のスリット摩耗部長が第2供給穴に接続するスリットよりも短くなる。したがって、第1供給穴における成形原料の流動抵抗を高くして第1供給穴に成形原料を流れにくくすることができる一方で、第2供給穴における成形原料の流動抵抗を低くして第2供給穴に成形原料を流れ易くすることができる。その結果、スリットから押し出されるハニカム構造体の速度分布を均一に制御することが可能になる。
【0011】
以上のごとく、上述の態様によれば、セラミック質のハニカム構造体の品質安定化を図るのに有効な押出成形技術を提供することができる。
【0012】
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】
図1の成形金型によって成形されたハニカム構造体の斜視図。
【
図4】
図1の成形金型の原料供給穴に導入前の成形原料の流速分布を示す図。
【
図5】
図4において成形金型から押し出される成形体の流速分布を示す図。
【
図6】
図1の成形金型によるハニカム構造体の成形処理のフローチャート。
【
図7】
図6中の第1ステップの接合工程にかかる第1金属板材の斜視図。
【
図8】
図6中の第1ステップの接合工程の様子を模式的に示す図。
【
図9】
図6中の第2ステップの穴加工工程においてワークの第1板状部に原料供給穴を加工する様子を示す斜視図。
【
図11】
図6中の第3ステップのスリット加工工程においてワークの第2板状部にスリットを加工する様子を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、成形金型の実施形態と、成形金型の製造方法の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。この成形金型は、例えば、自動車用の排ガス浄化触媒等に使用されるセラミック質のハニカム構造体を、セラミックス原料の押出成形により製造するハニカム構造体成形用金型として好適に使用される。
【0015】
なお、本明細書の図面では、特に断わらない限り、成形金型の横方向である第1方向を矢印Xで示し、成形金型の縦方向である第2方向を矢印Yで示し、成形金型の厚み方向(第1方向と第2方向の両方と直交する方向)である第3方向を矢印Zで示すものとする。
【0016】
(実施形態1)
図1に示されるように、実施形態1の成形金型1は、第3方向Zの平面視の外形が概ね矩形をなすように構成されている。
図2に示されるように、この成形金型1は、第1板状部10と、第1板状部10に接合された第2板状部20(
図1も参照)と、を備えている。このとき、成形金型1の厚み方向である第3方向Zは、第1板状部10と第2板状部20のそれぞれの厚み方向でもある。
【0017】
図2に示されるように、第1板状部10には、第2板状部との接合面である第1接合面11と、第1接合面11とは反対側の露出面である原料供給面12と、が設けられている。原料供給面12から原料押出方向Dに複数の原料供給穴13が延びている。原料押出方向Dは、第3方向Zに概ね一致している。複数の原料供給穴13は、同一形状であり、互いに平行で、且つ等間隔となるように配設されている。
【0018】
第2板状部20には、第1板状部10との接合面である第2接合面21と、第2接合面21とは反対側の露出面である押出面22と、が設けられている。押出面22は、第1板状部10の原料供給面12と概ね平行な面である。押出面22に複数の原料供給穴13に連通する格子状のスリット23(
図1および
図2を参照)が開口している。スリット23のスリット幅は、原料供給穴13の穴径を下回るように構成されている。スリット23は、原料供給穴13のうち穴径がテーパー状に絞られた絞り部13aに接続されている。
【0019】
本実施形態では、複数の原料供給穴13は第2板状部20まで到達していない一方で、スリット23は第1板状部10まで到達している。原料供給穴13とスリット23の境界が第1板状部10と第2板状部20との境界と一致していない。このため、第1板状部10には、原料供給穴13が形成された領域と、スリット23の一部が形成された領域と、の両方が存在する。これに対して、第2板状部20には、原料供給穴13が形成された領域が存在しない。
【0020】
なお、この成形金型1において、必要に応じて、原料供給穴13とスリット23の境界が第1板状部10と第2板状部20との境界と一致するような構造を採用することもできる。
【0021】
第2板状部20は、第1板状部10の第1金属材料の硬度を上回る第2金属材料からなる。一例として、本実施形態では、第1金属材料が炭素鋼またはステンレス鋼であり、第2金属材料が炭化タングステンを含有する超硬金属材料である。
【0022】
金属材料の硬度の指標として、例えばビッカース硬度を採用することができる。ビッカース硬度は、押込み硬さを示す既知の指標であり、概して、剛体を被試験体に押し込、そのときに被試験体に形成されるくぼみの面積を用いて算出される。このビッカース硬度に基づいて、被試験体が硬いか柔らかいかが判断される。また、硬度の指標としてはビッカース硬度のほか、ロックウェル硬度などの指標を用いることができる。
【0023】
第1金属材料である炭素鋼またはステンレス鋼は、加工し易い加工性能に優れた材料である。このような第1金属材料を使用することによって、加工精度が高く、且つ、加工に要するコストが抑えられた成形金型1を実現することができる。
【0024】
第2金属材料である、炭化タングステンを含有する超硬金属材料は、硬度が高く耐摩耗性に優れた材料である。このような第2金属材料を使用することによって、スリット23の金属摩耗が抑制された成形金型1を実現することができる。なお、この超硬金属材料に、バインダ金属として、コバルトやニッケルが含有されていてもよい。また、炭化タングステンに代えて、耐摩耗性および耐食性に優れたステライト、コルモノイ等の材料を使用してもよい。
【0025】
図3に示されるように、ハニカム構造体Hは、例えば、円柱状で、円筒外皮内をハニカム状のセル壁H1にて多数のセルCに区画して構成されている。セルCの形状や大きさは、任意に選択することができる。本形態では、一例として、セルCの形状を正方形とし、全領域で同一の大きさに設定している。必要に応じて、セルCの形状を、三角形以上の多角形又は複数の形状の組み合わせとしたり、セルCの大きさを、周方向に分割した複数の領域ごとに変更して、例えば、内周側と外周側とで異なるセル密度としたりすることもできる。
【0026】
第2板状部20のスリット23は、ハニカム構造体Hの正方形のセルCに対応した四角格子状である。このスリット23の形状は、原料押出方向Dについて一定であり、ハニカム構造体Hの最終形状を決定する。例えば、スリット31の格子間隔やスリット幅は、セルCのピッチやセル壁H1の厚みに応じて設定される。スリット31の高さは、特に制限されず、例えば、スリット23の格子間隔と同等程度に設定することができる。
【0027】
図4に示されるように、成形金型1を用いてハニカム構造体Hを押出成形する際、押出成形機Aから第1板状部10の原料供給面12に向けて粘土状の成形原料Maを押し出す。これにより、成形原料Maが複数の原料供給穴13に導入されて成形金型1の内部を原料押出方向Dである一方向に連続的に流動する。そして、スリット23を通過した成形原料Maが押出面22からハニカム構造体Hとして押し出される。
【0028】
なお、成形原料Maは特に限定されないが、一例として、焼成後にコージェライト、SiC等を生成するセラミックス原料を採用することができる。
【0029】
ここで、成形原料Maは、押出成形機Aから押し出されるときに、即ち、複数の原料供給穴13に導入される直前の段階では、成形機Aの壁面の影響や、押出に用いられるスクリューの影響により、中央部の方が外周部よりも流速Vaが速くなるような流速分布を形成することが想定される。そして、この流速分布の影響により、複数の原料供給穴13の中で成形原料Maの導入速度が相対的に大きい第1供給穴13Aと、複数の原料供給穴13の中で成形原料Maの導入速度が相対的に小さい(第1供給穴13Aよりも導入速度が小さい)第2供給穴13Bと、が形成される。このため、第2板状部20は、第1供給穴13Aの原料押出方向Dの下流側に位置する高流速部24と、第2供給穴13Bの原料押出方向Dの下流側に位置する低流速部25と、を有する(
図2及び
図4を参照)。高流速部24は、第1供給穴13Aに連通するスリット23を有し、低流速部25は、第2供給穴13Bに連通するスリット23を有する。
【0030】
成形原料Maが上記のような流速分布を形成する場合、第2板状部20の第3方向Zの厚みを均一にすると、中央部の第1供給穴13Aの方が外周部の第2供給穴13Bよりも摩耗が進行し易くなり、第2供給穴13Bに比べて成形原料Maの流動抵抗が下がる。このため、第1供給穴13Aの方に成形原料Maが流れ易くなり、スリット23から押し出される成形体Mbも、中央部の方が外周部よりも流速が速くなるような流速分布を形成する。このとき、成形体Mbがその中央部が外周部に対して原料押出方向Dに盛り上がるように押し出されると、ハニカム構造体Hの品質の安定化を図るのが難しい。
【0031】
そこで、本実施形態では、第2板状部20は、原料押出方向Dの厚みについて高流速部24が低流速部25を上回るように構成されている。すなわち、複数の原料供給穴13に導入前の成形原料Maの流速分布に応じて、第2板状部20を原料押出方向Dから見たときの中央部が高流速部24とされ、中央部の外側を環状に囲む外周部が低流速部25とされており、外周部から中央部に向かうにつれて原料押出方向Dの厚みが厚くなるように、即ち、中央部から外周部に向かうにつれて原料押出方向Dの厚みが薄くなるように構成されている。
【0032】
本構成の作用効果について、
図5を参照しながら説明する。
【0033】
図5に示されるように、スリット23のうち第1板状部10に形成されている領域は、各原料供給穴13は導入された成形原料Maによって摩耗する。このとき、第2板状部20の第2金属材料が第1板状部10の第1金属材料に比べて硬質であるため、各原料供給穴13の絞り部13a(各原料供給穴13のうち原料押出方向Dの下流側の部位)は、初期状態に比べると第2板状部20との境界である第2接合面21に到達するまで原料押出方向Dの下流側へと拡張される。これにより、各原料供給穴13は、
図5中の二点鎖線で示される初期状態から実線で示される摩耗状態へと変化する。
【0034】
ここで、本実施形態では、第2板状部20は、低流速部25の方が高流速部24よりも第3方向Zの厚みが薄くなるように構成されている。このため、第1板状部10の中央部の摩耗を外周部の摩耗に比べて抑制することができ、中央部の偏摩耗を防ぐことが可能になる。
【0035】
第2供給穴13Bは原料押出方向Dの穴長が第1供給穴13Aよりも長くなり、且つこの第2供給穴13Bに連通するスリット23は原料押出方向Dのスリット深さが第1供給穴13Aに連通するスリット23よりも短くなる。一方で、第1供給穴13Aは原料押出方向Dの穴長が第2供給穴13Bよりも短くなり、且つこの第1供給穴13Aに連通するスリット23は原料押出方向Dのスリット深さが第2供給穴13Bに連通するスリット23よりも長くなる。
【0036】
このとき、第2供給穴13Bよりも第1供給穴13Aの方が成形原料Maの流動抵抗が大きいことから、第2供給穴13Bに比べて第1供給穴13Aに成形原料Maが流れにくい。一方で、第1供給穴13Aよりも第2供給穴13Bの方が成形原料Maの流動抵抗が小さいことから、第1供給穴13Aに比べて第2供給穴13Bに成形原料Maが流れ易い。これにより、成形体Mbの流速Vbが中央部と外周部で概ね一定となるような速度分布を形成させることができる。スリット23から押し出される成形体Mb(ハニカム構造体H)の速度分布を均一に制御することによって、ハニカム構造体Hの品質の安定化させることが可能になる。
【0037】
次に、上記構成の成形金型1の製造方法について
図6~
図12を参照しながら説明する。
【0038】
図6に示されるように、実施形態1の製造方法は、第1ステップS101から第3ステップS103までを順次実行する方法である。なお、必要に応じて、少なくとも1つのステップを複数に分割してもよいし、別の1または複数のステップを追加してもよい。
【0039】
第1ステップS101は、第1板状部10に第2板状部20を接合する接合工程である。第2ステップS102は、第1ステップS101で接合された第1板状部10の原料供給面12に複数の原料供給穴13を加工する穴加工工程である。第3ステップS103は、第1ステップS101で接合された第2板状部20の押出面22にスリット23を加工するスリット加工工程である。
【0040】
(接合工程)
図7に示されるように、第1ステップS101の接合工程では、「金属積層造形法」と称される工法を利用する。板状部材である第1板状部10の第1接合面11に、金属積層造形法により第2金属材料の粉末を溶融凝固させて第2板状部20を形成させる。
【0041】
図8に示されるように、より詳しくは、この接合工程において、第1処理(P1)と第2処理(P2)を交互に繰り返し実行する。
【0042】
第1処理(P1)は、台座300の上面に第1板状部10を第1接合面11が上面となるようにセットし、第1板状部10の全体を覆うように第2金属材料の粉末301を充填する処理である。第2処理(P2)は、レーザ照射装置302を用いて、粉末301の所望の部位にレーザ光を走査し、粉末301を溶融凝固させる処理である。
【0043】
第2処理(P2)によれば、第1板状部10を第1接合面11に第2金属材料からなる金属層が形成される。このとき、レーザ照射装置302の1回のレーザ照射により形成される金属層の厚みは、例えば、0.05mm程度であり、金属層の厚みを増やすために、
粉末301の溶融凝固後に第1処理(P1)を再び行う。
【0044】
そして、金属層が所望の厚みになるまで、第1処理(P1)と第2処理(P2)を交互に繰り返す。これにより、第1板状部10に第2板状部20が接合されてなるワークWが形成される。このワークWは、原料供給穴13及びスリット23が形成される前のハニカム構造体Hである。
【0045】
なお、第1ステップS101の接合工程では、板状部材である第1板状部10の上に金属積層造形法によって第2板状部20の層を形成する工法に代えて、板状部材である第2板状部20の上に金属積層造形法によって第1板状部10の層を形成する別工法や、いずれも板状部材である第1板状部10と第2板状部20を溶着などによって互いに接合する別工法などを採用してもよい。
【0046】
(穴加工工程)
図9に示されるように、第2ステップS102の穴加工工程では、例えば、穴加工用の切削工具であるドリル303を使用するのが好ましい。ドリル303を回転状態で第1板状部10の原料供給面12に押し当てて押し込む。この加工を、必要な原料供給穴13の数だけ実行する。これにより、第1板状部10に予定数の複数の原料供給穴13を形成させることができる。
【0047】
本実施形態では、
図10に示されるように、各原料供給穴13においてドリル303の先端が第2板状部20の第2接合面21に達する手前の位置で穴加工を終了する。
【0048】
なお、第2ステップS102の穴加工工程では、ドリル303を使用して各原料供給穴13を形成する工法に代えて、既知の放電加工や電解加工などを利用した別の工法で各原料供給穴13を形成するようにしてもよい。
【0049】
(スリット加工工程)
図11に示されるように、第3ステップS103のスリット加工工程では、一例として、「型彫り放電加工」と称される工法を使用する。絶縁性のある加工液の中で、ワークWの第2板状部20の押出面22に電極304を向かい合わせて、電極304の放電フィン306から第2板状部20に微小な放電を何度も発生させる放電加工を行う。放電フィン306は、スリット23の形状に対応した形状をなしている。この放電加工により、
図12に示されるようなスリット23を形成させ、且つ、このスリット23を複数の原料供給穴13に連通させる。
【0050】
なお、第3ステップS103のスリット加工工程では、型彫り放電加工に代えて、切削加工刃でスリット23を形成する切削加工を使用してもよい。
【0051】
特に図示しないものの、電極材にワイヤ放電加工を施すことによって電極304を製作することが可能である。先ず、電極材にドリル303により放電ワイヤを通すための貫通穴を加工する。その後、貫通穴に放電ワイヤを通してその放電熱を利用して貫通穴を矩形断面の加工穴305に拡張させて放電フィン306を形成させる(
図11を参照)。このワイヤ放電加工に代えて、既知の放電加工や電解加工などを使用して電極304を製作してもよい。
【0052】
次に、上述の実施形態1の作用効果について説明する。
【0053】
上述の態様の成形金型1は、セラミック質のハニカム構造体Hの押出成形に用いられるものであり、成形原料Maが供給される側に第1板状部10を備え、ハニカム構造体Hが押し出される側に第2板状部20を備える。この成形金型1は、第1板状部10の第1接合面11と第2板状部20の第2接合面21とが互いに接合されることにより一体化されている。ハニカム構造体Hとなる成形原料Maは、第1板状部10の原料供給面12から原料押出方向Dに延びる複数の原料供給穴13を通じて成形金型1の内部に導入される。この成形原料Maは、複数の原料供給穴13に連通する格子状のスリット23を経て、第2板状部20の押出面22からハニカム構造体Hとして押し出される。
【0054】
第2板状部20の高流速部24は、第1供給穴13Aに連通するスリット23を有する部位あり、第2板状部20の低流速部25は、第2供給穴13Bに連通するスリット23を有する部位である。導入された成形原料Maによる摩耗によって、スリットの幅が拡がったスリット摩耗部が、第1金属材料よりも硬質である第2金属材料からなる第2板状部20に到達するまで延びる。
【0055】
ここで、第2板状部20は、高流速部24の原料押出方向Dの厚みが低流速部25の原料押出方向Dの厚みよりも厚くなるように構成されている。本構成によれば、各スリット23の摩耗の結果、第2供給穴13Bに接続するスリット23は、原料押出方向Dのスリット摩耗部長が第1供給穴13Aに接続するスリット23よりも長くなり、第1供給穴13Aに接続するスリット23は、原料押出方向Dのスリット摩耗部長が第2供給穴13Bに接続するスリット23よりも短くなる。したがって、第1供給穴13Aにおける成形原料Maの流動抵抗を高くして第1供給穴13Aに成形原料Maを流れにくくすることができる一方で、第2供給穴13Bにおける成形原料Maの流動抵抗を低くして第2供給穴13Bに成形原料Maを流れ易くすることができる。その結果、スリット23から押し出されるハニカム構造体Hの速度分布を均一に制御することが可能になる。
【0056】
したがって、上述の実施形態1によれば、セラミック質のハニカム構造体Hの品質安定化を図るのに有効な押出成形技術を提供することが可能になる。
【0057】
以下、上述の実施形態1に関連する他の実施形態について図面を参照しつつ説明する。他の実施形態において、上述の実施形態1の要素と同一の要素には同一の符号を付しており、当該同一の要素についての説明を省略する。
【0058】
(実施形態2)
実施形態2は、第2板状部20の第2金属材料について実施形態1のもの相違している。この実施形態2において、第2金属材料は、クロム、鉄、ニッケル、コバルトを主成分とするハイエントロピー合金材料である。第1金属材料は、実施形態1の場合と同様に、炭素鋼またはステンレス鋼である。
【0059】
その他の構成は、実施形態1と同様である。
【0060】
実施形態2で使用する第1金属材料と第2金属材料は、ともに加工性能に優れた材料である。このため、実施形態1の場合に比べて、加工精度が高く、且つ、加工に要するコストが抑えられた成形金型1を実現することができる。
【0061】
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0062】
(実施形態3)
実施形態3は、第2板状部20の第2金属材料について実施形態2のものと相違している。この実施形態3において、第2金属材料は、コバルトまたはニッケルを主成分とする合金材料である。第1金属材料は、実施形態1の場合と同様に、炭素鋼またはステンレス鋼である。
【0063】
その他の構成は、実施形態2と同様である。
【0064】
実施形態3で使用する第2金属材料は、実施形態2の場合よりも更に加工性能に優れた材料である。このため、実施形態2の場合に比べて、加工精度が高く、且つ、加工に要するコストが抑えられた成形金型1を実現することができる。
【0065】
その他、実施形態2と同様の作用効果を奏する。
【0066】
(実施形態4)
図13に示されるように、実施形態4の成形金型101は、スリット23の内壁面の全体に耐摩耗性被膜26が設けられている点で、実施形態1の成形金型1と相違している。耐摩耗性被膜26は、スリット23の内壁面に成膜されている。
【0067】
その他の構成は、実施形態1と同様である。
【0068】
実施形態4によれば、耐摩耗性被膜26の無い構造に比べて、スリット23の耐摩耗性を向上させることができる。耐摩耗性被膜26の種類は特に限定されないが、一例として、Ti-C-N組成からなるTiCN膜(炭窒化チタンコーティング)を採用することができる。このTiCN膜は、高硬度で低摩擦という特性をもち、しかも強い密着力をもつセラミックコーティング膜であるため、スリット23の被膜として使用するのに適している。
【0069】
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0070】
(実施形態5)
図14に示されるように、実施形態5の成形金型201は、スリット23の内壁面の全体に耐摩耗性被膜26が設けられているのに加えて、各原料供給穴13の内壁面の全体に耐摩耗性被膜15が設けられている点で、実施形態4の成形金型101と相違している。耐摩耗性被膜15は、各原料供給穴13の内壁面に成膜されている。
【0071】
その他の構成は、実施形態4と同様である。
【0072】
実施形態5によれば、耐摩耗性被膜15の無い構造に比べて、各原料供給穴13の耐摩耗性を向上させることができる。耐摩耗性被膜15の種類は特に限定されないが、成膜の材料に要するコストや成膜工程に要するコストを低く抑えるためには、耐摩耗性被膜26と同様のTiCN膜を採用するのが好ましい。
【0073】
その他、実施形態4と同様の作用効果を奏する。
【0074】
本発明は、上述の典型的な実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変形が考えられる。例えば、上述の実施形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0075】
上述の実施形態では、第2板状部20の中央部を高流速部24とし、第2板状部20の外周部を低流速部25とする場合について例示したが、第2板状部20における高流速部24と低流速部25の配置は、複数の原料供給穴13に導入前の成形原料Maの流速分布に応じて適宜に変更することができる。
【0076】
上述の実施形態では、ハニカム構造体Hを円柱状とした場合を示したが、ハニカム構造体Hの外形は、円形以外の形状、例えば、楕円形、レーストラック形状等とすることもできる。
【0077】
上記の成形金型1,101,201を用いて製造されたハニカム構造体Hは、例えば、自動車用の排ガス浄化触媒等において、触媒を担持させる担体として好適に用いることができる。また、成形金型1,101,201とその製造方法は、上述の各実施形態により限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0078】
1,101,201…成形金型、10…第1板状部、11…第1接合面、12…原料供給面、13…原料供給穴、13A…第1供給穴、13B…第2供給穴、20…第2板状部、21…第2接合面、22…押出面、23…スリット、24…高流速部、25…低流速部、26…耐摩耗性被膜、D…原料押出方向、H…ハニカム構造体、Ma…成形原料、S101…第1ステップ(接合工程)、S102…第2ステップ(穴加工工程)、S103…第3ステップ(スリット加工工程)