(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】情報処理装置、作業員評価方法および作業員評価プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
G05B23/02 301Z
(21)【出願番号】P 2021120840
(22)【出願日】2021-07-21
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘高
(72)【発明者】
【氏名】坪田 孝志
(72)【発明者】
【氏名】石田 元彦
【審査官】渡邊 捷太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-034849(JP,A)
【文献】特開2020-149452(JP,A)
【文献】特開2007-206386(JP,A)
【文献】特開2020-106574(JP,A)
【文献】特開2020-035331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの操業に関する作業ごとに評価対象とする第1の作業員の脳波データおよび前記第1の作業員の評価基準とする第2の作業員の脳波データを取得する取得部と、
前記第1の作業員の脳波データおよび前記第2の作業員の脳波データの比較結果に基づいて前記第1の作業員を評価する評価部と、
を有し、
前記評価部は、前記第1の作業員の脳波データで第1の変化が観測されてから第2の変化が観測されるまでの第1の時間差と、前記第2の作業員の脳波データで前記第1の変化が観測されてから前記第2の変化が観測されるまでの第2の時間差との比較結果に基づいて前記第1の作業員を評価す
る、情報処理装置。
【請求項2】
前記評価部は、前記第1の作業員の脳波データで観測される前記第1の時間差および前記第2の作業員の脳波データで観測される前記第2の時間差のギャップが大きくなるに従って前記第1の作業員の評価を低くし、前記ギャップが小さくなるに従って前記第1の作業員の評価を高くする、請求項
1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記評価対象とする新人作業員の脳波データおよび前記評価基準とするベテラン作業員の脳波データを取得し、
前記評価部は、前記新人作業員の脳波データで観測される前記第1の時間差および前記ベテラン作業員の脳波データで観測される前記第2の時間差のギャップが大きくなるに従って前記新人作業員の習熟度を低く評価し、前記ギャップが小さくなるに従って前記新人作業員の習熟度を高く評価する、請求項
2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記取得部は、前記評価対象とするベテラン作業員の脳波データおよび前記評価基準とする新人作業員の脳波データを取得し、
前記評価部は、前記ベテラン作業員の脳波データで観測される前記第1の時間差および前記新人作業員の脳波データで観測される前記第2の時間差のギャップが大きくなるに従って前記ベテラン作業員の集中度を低く評価し、前記ギャップが小さくなるに従って前記ベテラン作業員の集中度を高く評価する、請求項
2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
プラントの操業に関する作業ごとに評価対象とする第1の作業員の脳波データおよび前記第1の作業員の評価基準とする第2の作業員の脳波データを取得する取得部と、
前記第1の作業員の脳波データおよび前記第2の作業員の脳波データの比較結果に基づいて前記第1の作業員を評価する評価部と、
を有し、
前記評価部は、前記第2の作業員の脳波データで観測される第1の変化が前記第1の作業員の脳波データで観測されるか否かにより、前記第1の作業員を評価する
、情報処理装置。
【請求項6】
プラントの操業に関する作業ごとに評価対象とする第1の作業員の脳波データおよび前記第1の作業員の評価基準とする第2の作業員の脳波データを取得する取得部と、
前記第1の作業員の脳波データおよび前記第2の作業員の脳波データの比較結果に基づいて前記第1の作業員を評価する評価部と、
を有し、
前記評価部は、前記第1の作業員の脳波データまたは前記第2の作業員の脳波データで刺激の後に観測される第1の変化に後続して現れる第2の変化のパターンに基づいて前記第1の作業員または前記第2の作業員の慣れを評価する
、情報処理装置。
【請求項7】
前記評価部は、前記第1の作業員の脳波データまたは前記第2の作業員の脳波データで観測される第2の変化が、前記第1の変化の後の状態に固定される第1のパターン、前記刺激の前の状態に慣性を伴いつつ回復する第2のパターン、あるいは前記刺激の前の状態に戻る第3のパターンのうちいずれに対応するのかに基づいて、前記第1の作業員または前記第2の作業員の慣れの度合いを評価する、請求項
6に記載の情報処理装置。
【請求項8】
プラントの操業に関する作業ごとに評価対象とする第1の作業員の脳波データおよび前記第1の作業員の評価基準とする第2の作業員の脳波データを取得し、
前記第1の作業員の脳波データおよび前記第2の作業員の脳波データの比較結果に基づいて前記第1の作業員を評価する、
処理をコンピュータが実行
し、
前記評価する処理は、前記第1の作業員の脳波データで第1の変化が観測されてから第2の変化が観測されるまでの第1の時間差と、前記第2の作業員の脳波データで前記第1の変化が観測されてから前記第2の変化が観測されるまでの第2の時間差との比較結果に基づいて前記第1の作業員を評価する、作業員評価方法。
【請求項9】
プラントの操業に関する作業ごとに評価対象とする第1の作業員の脳波データおよび前記第1の作業員の評価基準とする第2の作業員の脳波データを取得し、
前記第1の作業員の脳波データおよび前記第2の作業員の脳波データの比較結果に基づいて前記第1の作業員を評価する、
処理をコンピュータに実行させ
、
前記評価する処理は、前記第1の作業員の脳波データで第1の変化が観測されてから第2の変化が観測されるまでの第1の時間差と、前記第2の作業員の脳波データで前記第1の変化が観測されてから前記第2の変化が観測されるまでの第2の時間差との比較結果に基づいて前記第1の作業員を評価する、作業員評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、作業員評価方法および作業員評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
作業員の能力向上の側面から、業種や分野に関わらず、様々な取り組みが行われている。例えば、作業時にセンサを用いて作業員から測定されるセンサデータと、閾値等の評価基準とを比較することにより作業員を評価する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-149452号公報
【文献】特開2007-206386号公報
【文献】特開2020-106574号公報
【文献】特開2020-35331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の評価基準は、評価基準を設定する設定者の主観に委ねられるので、客観性に欠ける。このような評価基準に従って作業員が評価される場合、公正な評価結果を得るのは難しい。
【0005】
そこで、一つの側面では、プラントの作業員の公正評価を実現できる情報処理装置、作業員評価方法および作業員評価プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一側面にかかる情報処理装置は、プラントの操業に関する作業ごとに評価対象とする第1の作業員の脳波データおよび前記第1の作業員の評価基準とする第2の作業員の脳波データを取得する取得部と、前記第1の作業員の脳波データおよび前記第2の作業員の脳波データの比較結果に基づいて前記第1の作業員を評価する評価部と、を有する。
【0007】
一側面にかかる作業員評価方法では、プラントの操業に関する作業ごとに評価対象とする第1の作業員の脳波データおよび前記第1の作業員の評価基準とする第2の作業員の脳波データを取得し、前記第1の作業員の脳波データおよび前記第2の作業員の脳波データの比較結果に基づいて前記第1の作業員を評価する、処理をコンピュータが実行する。
【0008】
一側面にかかる作業員評価プログラムは、プラントの操業に関する作業ごとに評価対象とする第1の作業員の脳波データおよび前記第1の作業員の評価基準とする第2の作業員の脳波データを取得し、前記第1の作業員の脳波データおよび前記第2の作業員の脳波データの比較結果に基づいて前記第1の作業員を評価する、処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
一実施形態によれば、プラントの作業員の公正評価を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】情報処理装置の利用シーンの一例を示す図である。
【
図2】情報処理装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図5】第1の時間差および第2の時間差の一例を示す図である。
【
図6】作業員評価処理の手順を示すフローチャートである。
【
図7】第1の時間差および第2の時間差の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本願に係る情報処理装置、作業評価方法および作業評価プログラムの実施形態について説明する。各実施形態には、あくまで1つの例や側面を示すに過ぎず、このような例示により数値や機能の範囲、利用シーンなどは限定されない。そして、各実施形態は、矛盾のない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
【0012】
(利用シーン)
図1は、情報処理装置10の利用シーンの一例を示す図である。
図1に示す情報処理装置10は、プラント1の作業員3の能力向上に資する教育や訓練を支援する側面から、作業員3を評価する作業員評価機能を提供するものである。
【0013】
プラント1は、石油、石油化学、化学、ガスなどを用いた各種プラントの一例であり、生成物を得るためのさまざまな施設を備える工場等を含む。生成物の例は、LNG(液化天然ガス)、樹脂(プラスチック、ナイロン等)、化学製品等である。施設の例は、工場施設、機械施設、生産施設、発電施設、貯蔵施設、石油、天然ガス等を採掘する井戸元における施設等である。
【0014】
プラント1には、プラントにおける生産工程、いわゆるプロセスを制御するプロセス制御システムが構築され得る。このようなプロセス制御システムの例として、DCS(Distributed Control Systems)やPLC(Programmable Logic Controller)などが挙げられる。例えば、DCSを例に挙げれば、プラント1のフィールドには、センサなどの測定機器やアクチュエータなどの操作機器などがフィールド機器(不図示)として設置される。これらのフィールド機器を制御するコントローラがプロセスの制御単位である制御ループ、例えば測定、制御演算および操作などのループごとに分散して配置される。
【0015】
例えば、プラント1の操業は、オペレータと呼ばれる作業員3を介して実施され得る。例えば、フィールド機器の定期点検や故障検出、故障箇所の特定作業などの屋外の作業では、作業員3は、プラント1に設置される温度センサや流量計等の測定機器で得られる温度や圧力等の実測値に基づいてプラント1の動作の傾向を把握する。このように把握されるプラント1の動作の傾向に応じて、作業員3は、プラント1に設置されるバルブやヒータ等の操作機器を操作する。このようにしてプラント1の運転操作が実施される。
【0016】
この他、作業員3は、監視ルーム2等でプラント1の運転状態を監視する監視作業を実施する。例えば、監視作業には、プロセス制御システムおよび作業員3の間のHMI(Human Machine Interface)として機能するアラーム機能が搭載されたコンピュータ装置が用いられる。なお、監視ルーム2は、プラント1の近傍に設置されてもよく、まったく別の場所に設置されてもよい。
【0017】
アラーム機能には、プロセスデータをリアルタイムで監視し、異常な状態および故障が検出された際に作業員3に対する通知を行う機能が含まれ得る。ここで言う「プロセスデータ」には、測定値(Process Variable:PV)、設定値(Setting Variable:SV)、操作量(Manipulated variable:MV)などが含まれ得る。また、「プロセスデータ」には、出力する測定値の種類(例えば、圧力、温度、流量など)の情報も含まれ得る。
【0018】
このようなアラームが通知される場合、作業員3は、アラームの種類に応じて各種の行動、例えば原因調査行動、あるいはアラームを解除する際に実施されるチェック行動などを実施する。
【0019】
ここで、作業員3には、脳波データを測定するセンサ装置(不図示)が装着され得る。例えば、センサ装置は、ヘッドセット型、あるいはイヤホン型などの脳波測定装置により実現されてよい。このようなセンサ装置により、運転操作や監視作業などの作業時における作業員3の脳波データが測定される。例えば、監視作業時には、アラームの表示や鳴動などの刺激に対する知覚および認識に対応する脳波波形の変化を含む脳波データが測定される。また、プラント1の運転操作時には、操作機器に行われた操作というイベントに対する知覚および認識に対応する脳波波形の変化を含む脳波データが測定される。さらに、センサ装置には、当該センサ装置により測定される脳波データを他の装置、例えば情報処理装置10などへ伝送する通信機能も搭載され得る。この場合、センサ装置は、IoT(Internet of Things)デバイスとしても機能し得る。
【0020】
このようなセンサ装置を介して、情報処理装置10には、作業員3の脳波データが収集される。例えば、評価対象とする第1の作業員の脳波データの例として、情報処理装置10は、新人作業員3Aに装着されたセンサ装置から、新人作業員3Aの脳波データを取得することができる。一方、リファレンスとする第2の作業員の脳波データの例として、情報処理装置10は、ベテラン作業員3Bに装着されたセンサ装置から、ベテラン作業員3Bの脳波データを取得することができる。
【0021】
これら新人作業員3Aの脳波データおよびベテラン作業員3Bの脳波データを比較することにより、情報処理装置10には、新人作業員3Aを評価する。その上で、情報処理装置10は、新人作業員3Aの評価結果を任意の出力先へ出力することができる。このような出力先のあくまで一例として、本実施形態に係る作業員評価機能の提供を受けるユーザ端末50を例に挙げる。例えば、ユーザ端末50は、プラント1の関係者全般、例えば評価対象である本人、その指導員や評価者、さらには、プラント1の管理者などにより使用され得る。なお、ユーザ端末50も、プラント1の近傍に設置されてもよく、まったく別の場所に設置されてもよい。
【0022】
以上のように、情報処理装置10は、ベテラン作業員3Bの脳波データを評価基準として新人作業員3Aの脳波データを評価する。このため、評価基準として閾値等が用いられる場合のように、評価基準を設定する設定者の主観に委ねられないので、客観性が損なわれるのを抑制できる。したがって、情報処理装置10によれば、プラント1の作業員3の公正評価を実現できる。
【0023】
(情報処理装置10の機能構成)
図2は、情報処理装置10の機能構成例を示すブロック図である。
図2には、情報処理装置10が有する機能に対応するブロックが模式化されている。
図2に示すように、情報処理装置10は、通信インタフェイス部11と、記憶部13と、制御部15とを有する。なお、
図2には、上記の作業員評価機能に関連する機能部が抜粋されているに過ぎず、図示以外にも既存のコンピュータがデフォルトまたはオプションで装備する機能部が情報処理装置10に備わることとしてもよい。
【0024】
通信インタフェイス部11は、情報処理装置10と、他の装置、例えば作業員3に装着されるセンサ装置30やユーザ端末50との間の通信を制御する通信制御部の一例に対応する。あくまで一例として、通信インタフェイス部11は、LAN(Local Area Network)カードなどのネットワークインタフェイスカードにより実現され得る。例えば、通信インタフェイス部11は、センサ装置30から作業員3の脳波データを受け付けたり、また、ユーザ端末50から作業員3の評価リクエストを受け付けたりする。また、通信インタフェイス部11は、作業員3の評価結果をユーザ端末50へ出力する。
【0025】
記憶部13は、各種のデータを記憶する機能部である。あくまで一例として、記憶部13は、情報処理装置10の内部、外部または補助のストレージにより実現される。例えば、記憶部13は、第1の脳波データ13Aと、第2の脳波データ13Bとを記憶する。これら第1の脳波データ13Aおよび第2の脳波データ13B以外にも、記憶部13には、フィールド機器に対する操作履歴やアラーム機能により通知されるアラームに関する履歴などの他のデータが記憶されることを妨げない。
【0026】
第1の脳波データ13Aおよび第2の脳波データ13Bは、いずれも作業員3の脳波データである。ここで言う「脳波データ」とは、脳波に対応する電気信号の波形、例えば信号強度の時系列データを指す。
【0027】
以下、脳波データのあくまで一例として、センサ装置30により測定される脳波のオリジナル波形を用いる例を挙げるが、周波数解析や独立成分分析などにより得られる解析結果、例えばパワースペクトルや周波数帯域別の時間波形が用いられることとしてもよい。
【0028】
第1の脳波データ13Aは、評価対象とされる作業員3の脳波データである。その一方で、第2の脳波データ13Bは、リファレンスとされる作業員3の脳波データである。例えば、新人作業員3Aの習熟度を評価する場合、新人作業員3Aの脳波データを評価対象に設定する一方で、ベテラン作業員3Bの脳波データをリファレンスに設定することができる。
【0029】
図3は、第1の脳波データ13Aの一例を示す図である。
図4は、第2の脳波データ13Bの一例を示す図である。
図3及び
図4には、新人作業員3Aの脳波データを評価対象とする一方で、ベテラン作業員3Bの脳波データをリファレンスとする例が示されている。
図3及び
図4に示す通り、第1の脳波データ13Aおよび第2の脳波データ13Bは、作業員ID(Identification)、作業コードおよび脳波データが対応付けられたデータとすることができる。
【0030】
ここで、「作業員ID」とは、作業員3を識別する識別情報の一例に対応する。例えば、新人作業員3Aには、
図3に示すように、上一桁の番号が「2」である作業員IDが付与される一方で、ベテラン作業員3Bには、
図4に示すように、上一桁の番号が「1」である作業員IDが付与される例が示されている。例えば、新人作業員3Aおよびベテラン作業員3Bは、作業員3の勤続年数や経験年数などの期間を基準として分類することとしてもよいし、プラント1、あるいはオペレータに関する資格の有無を基準として分類してもよい。この他、プラント1の指導員や評価者、管理者などの決定権者により、作業員3を新人作業員3Aまたはベテラン作業員3Bに手動で分類させることもできる。
【0031】
また、「作業コード」とは、作業員3により行われる作業を識別する識別情報の一例に対応する。このような作業の例として、プラント1の運転操作や監視作業などの各種の作業を挙げることができ、これらの作業が作業コードにより識別される。
【0032】
さらに、「脳波データ」とは、新人作業員3Aまたはベテラン作業員3Bの脳波波形のデータを指す。あくまで一例として、新人作業員3Aの脳波データおよびベテラン作業員3Bの脳波データは、バイナリファイルとして保存されることとしてよい。
【0033】
なお、第1の脳波データ13Aおよび第2の脳波データ13Bは、
図3及び
図4に示す例に限定されず、他の項目、例えば脳波の測定または取得の日時やセンサ装置30の識別情報などが含まれてよい。
【0034】
また、
図3及び
図4には、各データがテーブル形式で格納される場合を例示したが、これはあくまで一例であり、そのデータ構造はリレーショナルデータベースに限定されない。例えば、XML(Extensible Markup Language)などのマークアップ言語によりタグ形式で記述されるデータであってもよいし、CSV(Comma-Separated Values)などのようにカンマや改行により記述されるデータであってもよい。
【0035】
制御部15は、情報処理装置10の全体制御を行う処理部である。例えば、制御部15は、ハードウェアプロセッサが実行するプロセスにより実現され得る。
図2に示すように、制御部15は、取得部15Aと、評価部15Bと、出力部15Cとを有する。
【0036】
取得部15Aは、作業員3の脳波データを取得する処理部である。1つの側面として、センサ装置30から取得された脳波データが新人作業員3Aの脳波データである場合、取得部15Aは、センサ装置30から取得された脳波データを記憶部13に記憶される第1の脳波データ13Aに追加する。他の側面として、センサ装置30から取得された脳波データがベテラン作業員3Bの脳波データである場合、取得部15Aは、センサ装置30から取得された脳波データを記憶部13に記憶される第2の脳波データ13Bに追加する。なお、取得部15Aは、脳波データをリアルタイムで取得することともしてもよいし、バッチ処理で取得することとしてもよい。
【0037】
評価部15Bは、評価対象とする作業員3を評価する処理部である。あくまで一例として、評価部15Bは、新人作業員3Aの脳波データで知覚に対応する変化が観測されてから認知に対応する変化が観測されるまでの第1の時間差を算出する。ここで言う「知覚」とは、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、体性感覚、平衡感覚など、それぞれの感覚情報をもとに、対象物や事象を自覚することを指す。1つの側面として、知覚は、刺激後に現れる第1の脳波変化として測定され得る。また、「認知」とは、知覚を行ったのちに、状況を判断・理解・解釈することを指す。1つの側面として、認知は、第1の脳波変化に引き続いて起こる第2の脳波変化として測定され得る。以下、脳波の波形上で観測される波形の変化であって知覚に対応する変化のことを「知覚変化」と記載する一方で、認知に対応する変化のことを「認知変化」と記載する場合がある。さらに、評価部15Bは、ベテラン作業員3Bの脳波データで知覚変化が観測されてから認知変化が観測されるまでの第2の時間差を算出する。その上で、評価部15Bは、第1の時間差および第2の時間差の比較結果に基づいて新人作業員3Aを評価する。
【0038】
より詳細には、評価部15Bは、ユーザ端末50から作業員3の評価リクエストを受け付けることができる。例えば、評価リクエストの受付時には、評価対象とする新人作業員3Aの指定、例えば作業員IDの指定の他、作業の種別の指定、例えば作業コードの指定を受け付けることができる。これにより、どの作業員を評価するのか、さらには、どのような種類の作業に対する評価を実行するのかを指定させることができる。
【0039】
その後、評価部15Bは、記憶部13に記憶された第1の脳波データ13Aのうち、評価リクエストで指定された作業員IDに対応する新人作業員3Aの脳波データを取得する。続いて、評価部15Bは、新人作業員3Aの脳波データから、知覚変化が開始するタイミングおよび認知変化が開始するタイミングの時間差を第1の時間差として算出する。
【0040】
このように第1の時間差が算出される処理と前後するタイミング、あるいは第1の時間差が算出される処理と並行して、評価部15Bは、M(自然数)人のベテラン作業員3Bの第2の時間差を代表する第2の時間差の代表値を算出する。
【0041】
例えば、評価部15Bは、M人のベテラン作業員3Bごとに、次のようにして、第2の時間差を算出する。すなわち、評価部15Bは、記憶部13に記憶された第2の脳波データ13Bのうち、M人のベテラン作業員3Bの中から選択中であるベテラン作業員3Bの脳波データを取得する。続いて、評価部15Bは、ベテラン作業員3Bの脳波データから、知覚変化が開始するタイミングおよび認知変化が開始するタイミングの時間差を第2の時間差として算出する。そして、M人のベテラン作業員3Bごとに第2の時間差が算出されると、評価部15Bは、M人のベテラン作業員3Bの第2の時間差に任意の統計処理を実行することにより、M人のベテラン作業員3Bの第2の時間差を代表する代表値を算出する。このとき、評価部15Bは、統計処理の例として、平均値、中央値または最頻値を算出する処理を実行することができる。
【0042】
ここで、知覚変化および認知変化の検出には、既知の任意のアルゴリズムを用いることができるが、あくまで一例として、事象関連電位に基づいて知覚変化が開始するタイミングおよび認知変化が開始するタイミングを検出することができる。
【0043】
例えば、評価対象とする作業の例として監視作業を例に挙げれば、アラームの通知が表示により実現される場合、視覚刺激によって惹起される視覚誘発電位を知覚変化の検出に用いることができる。また、アラームの通知が音声や音響により実現される場合、聴覚刺激によって惹起される聴覚誘発電位を知覚変化の検出に用いることができる。さらに、認知変化の検出には、刺激から300ms後のPositive電位変化、いわゆるP300を用いることができる。なお、ここでは、監視作業を例に挙げたが、プラント1の運転操作の作業のように、操作が外部刺激となる場合、体性感覚誘発電位を知覚変化および認知変化の検出に用いることとすればよい。
【0044】
このように事象関連電位に基づいて知覚変化および認知変化を検出する場合、評価部15Bは、作業員3に刺激が与えられるタイミングを補助情報として用いることができる。以下、作業員3に刺激が与えられるタイミングのことを「刺激発生タイミング」と記載する場合がある。例えば、監視作業の例で言えば、アラーム機能によりアラームが通知されるタイミングを取得することとすればよい。
【0045】
あくまで一例として、知覚変化が開始するタイミングおよび認知変化が開始するタイミングは、次のような機械学習モデルを生成することにより実現できる。以下、知覚変化が開始するタイミングおよび認知変化が開始するタイミングの各々のことを「知覚変化開始タイミング」および「認知変化開始タイミング」と記載する場合がある。これら知覚変化開始タイミングおよび認知変化開始タイミングは、あくまで一例として、刺激発生タイミングからの経過時間として表現することができる。
【0046】
例えば、作業員3の脳波データおよび刺激発生タイミングを入力として知覚変化開始タイミングを出力する機械学習モデルを生成する場合を例に挙げる。この場合、機械学習モデルの訓練には、作業員3の脳波データおよび刺激発生タイミングと、正解ラベルの知覚変化開始タイミングとが対応付けられた訓練データを含むデータセットを用いることができる。このようなデータセットの下、学習フェイズでは、作業員3の脳波データおよび刺激発生タイミングを機械学習モデルの説明変数とし、ラベルを機械学習モデルの目的変数とし、任意の機械学習のアルゴリズム、例えばディープラーニングなどにしたがって機械学習モデルを訓練できる。これにより、訓練済みの機械学習モデルが得られる。このような訓練済みの機械学習モデルによれば、作業員3の脳波データおよび刺激発生タイミングが入力された場合、知覚変化開始タイミングを出力することができる。なお、作業員3の脳波データおよび刺激発生タイミングを入力として認知変化開始タイミングを出力する機械学習モデルも、上記の訓練方法と同様にして生成することができる。
【0047】
さらに、評価部15Bは、知覚変化および認知変化の検出に必ずしも脳波のオリジナル波形を用いずともかまわない。例えば、評価部15Bは、知覚変化および認知変化が優位に現れる周波数帯域の時間波形、例えば13~32Hzに対応するβ波、あるいは25~140Hzに対応するγ波を知覚変化および認知変化の検出に用いることができる。
【0048】
図5は、第1の時間差および第2の時間差の一例を示す図である。
図5には、新人作業員3Aの脳波データのうち知覚変化に対応する部分の波形WA1と認知変化に対応する部分の波形WA2が模式的に示されている。さらに、波形WA1には、知覚変化開始タイミングT
3A1が示されると共に、波形WA2には、認知変化開始タイミングT
3A2が示されている。この例によれば、知覚変化開始タイミングT
3A1および認知変化開始タイミングT
3A2の差、例えばT
3A2-T
3A1を計算することにより、第1の時間差TL1を算出できる。
【0049】
さらに、
図5には、ベテラン作業員3Bの脳波データのうち知覚変化に対応する部分の波形WB1と認知変化に対応する部分の波形WB2が模式的に示されている。さらに、波形WB1には、知覚変化開始タイミングT
3B1が示されると共に、波形WB2には、認知変化開始タイミングT
3B2が示されている。この例によれば、知覚変化開始タイミングT
3B1および認知変化開始タイミングT
3B2の差、例えばT
3B2-T
3B1を計算することにより、第2の時間差TL2を算出できる。
【0050】
その上で、評価部15Bは、第1の時間差TL1および第2の時間差TL2の代表値のギャップGに基づいて新人作業員3Aを評価する。このようなギャップGを新人作業員3Aの評価に用いるのは、次のような側面があるからである。例えば、監視作業を例に挙げれば、新人作業員3Aおよびベテラン作業員3Bの間では、アラームの通知が知覚されてから原因調査行動などの対処が認知されるまでに差が現れるからである。つまり、ベテラン作業員3Bが新人作業員3Aよりも監視作業に習熟していることが一因となって、ベテラン作業員3Bの知覚および認知の時間差である第2の時間差は、新人作業員3Aの知覚および認知の時間差である第1の時間差よりも短い傾向が明らかである。
【0051】
このことから、評価部15Bは、ギャップGが小さくなるに連れて新人作業員3Aの習熟度が高いと評価する一方で、ギャップGが大きくなるに連れて新人作業員3Aの習熟度が低いと評価することができる。例えば、評価部15Bは、新人作業員3Aの評価の例として、任意の数値範囲、例えば0~10、あるいは0~100などに正規化された習熟度を算出することができる。
【0052】
出力部15Cは、作業員3の評価結果を出力する処理部である。あくまで一例として、出力部15Cは、評価部15Bにより評価された新人作業員3Aの習熟度をユーザ端末50へ出力する。ここでは、評価結果の出力先の例として、ユーザ端末50を例に挙げたが、これに限定されない。例えば、出力部15Cは、新人作業員3Aの習熟度を記憶部13に保存させることとしてもよいし、情報処理装置10外部のデータベースサーバへ出力することとしてもよい。この他、出力部15Cは、作業員3の評価結果を入力として各種の処理、例えば人事評価や能力給の計算などを実行するアプリケーション、あるいはサービスを出力先とすることもできる。これらアプリケーションおよびサービスは、必ずしも情報処理装置10により実行されずともよく、外部のサーバ装置などにより実行されることとしてもよい。
【0053】
(処理の流れ)
図6は、作業員評価処理の手順を示すフローチャートである。
図6には、あくまで一例として、作業員3の評価リクエストを受け付けた場合に処理が開始される例を挙げるが、これに限定されない。例えば、センサ装置30から新人作業員3Aの脳波データが取得されることを契機に自動的に処理が開始されることとしてもよいし、定期時刻、例えば18時や24時などにそれまでに取得された新人作業員3Aの脳波データごとにバッチ処理が実行されてもよい。
【0054】
図6に示すように、作業員3の評価リクエストを受け付けると(ステップS101)、評価部15Bは、次のような処理を実行する。すなわち、評価部15Bは、記憶部13に記憶された第1の脳波データ13Aのうち、ステップS101で受け付けられた評価リクエストで指定された作業員IDに対応する新人作業員3Aの脳波データを取得する(ステップS102)。
【0055】
続いて、評価部15Bは、ステップS102で取得された新人作業員3Aの脳波データから、知覚変化が開始するタイミングおよび認知変化が開始するタイミングの時間差を第1の時間差として算出する(ステップS103)。
【0056】
また、評価部15Bは、M人のベテラン作業員3Bに対応する回数の分、ステップS104およびステップS105の処理を実行する。すなわち、評価部15Bは、記憶部13に記憶された第2の脳波データ13Bのうち、M人のベテラン作業員3Bの中から選択中であるベテラン作業員3Bの脳波データを取得する(ステップS104)。
【0057】
続いて、評価部15Bは、ステップS104で取得されたベテラン作業員3Bの脳波データから、知覚変化が開始するタイミングおよび認知変化が開始するタイミングの時間差を第2の時間差として算出する(ステップS105)。
【0058】
そして、M人のベテラン作業員3Bごとに第2の時間差が算出されると、評価部15Bは、M人のベテラン作業員3Bの第2の時間差に統計処理を実行することにより、M人のベテラン作業員3Bの第2の時間差を代表する代表値を算出する(ステップS106)。
【0059】
その上で、評価部15Bは、第1の時間差TL1および第2の時間差TL2の代表値のギャップGに基づいて新人作業員3Aを評価する(ステップS107)。その後、出力部15Cは、ステップS107で評価された新人作業員3Aの習熟度をユーザ端末50へ出力し(ステップS108)、処理を終了する。
【0060】
(効果)
上述してきたように、情報処理装置10は、プラント1の操業に関する作業ごとに評価対象とする第1の作業員の脳波データおよび第1の作業員の評価基準とする第2の作業員の脳波データを取得する。そして、情報処理装置10は、第1の作業員の脳波データおよび第2の作業員の脳波データの比較結果に基づいて第1の作業員を評価する。このため、ベテラン作業員3Bの脳波データを評価基準として新人作業員3Aの脳波データを評価するといった相対評価が可能となる。このため、評価基準として閾値等が用いられる場合のように、評価基準を設定する設定者の主観に委ねられないので、客観性が損なわれるのを抑制できる。したがって、情報処理装置10によれば、プラント1の作業員3の公正評価を実現できる。
【0061】
また、情報処理装置10は、第1の作業員の脳波データで第1の変化が観測されてから第2の変化が観測されるまでの第1の時間差と、第2の作業員の脳波データで第1の変化が観測されてから第2の変化が観測されるまでの第2の時間差との比較結果に基づいて第1の作業員を評価する。このため、情報処理装置10によれば、新人作業員3Aおよびベテラン作業員3Bの間で知覚および認知の時間差を評価軸として評価することができるので、あくまで一例として、新人作業員3Aの習熟度やベテラン作業員3Bの集中度の評価などが可能になる。
【0062】
さらに、情報処理装置10は、新人作業員3Aの脳波データで観測される第1の時間差およびベテラン作業員3Bの脳波データで観測される第2の時間差のギャップが大きくなるに従って新人作業員3Aの習熟度を低く評価し、ギャップが小さくなるに従って新人作業員3Aの習熟度を高く評価する。このため、情報処理装置10によれば、新人作業員3Aの習熟度を定性的に評価できる。
【0063】
(応用例)
上記の実施形態は一例を示したものであり、種々の応用が可能である。
【0064】
(1)ベテラン作業員3Bの集中度の評価
上記の実施形態では、新人作業員3Aの習熟度を評価する側面から、新人作業員3Aを評価対象とする一方で、ベテラン作業員3Bをリファレンスとする例を挙げたが、これに限定されない。例えば、ベテラン作業員3Bの集中度を評価する側面から、ベテラン作業員3Bを評価対象とする一方で、新人作業員3Aをリファレンスとすることもできる。
【0065】
図7は、第1の時間差および第2の時間差の他の一例を示す図である。
図7には、ベテラン作業員3Bの脳波データのうち知覚変化に対応する部分の波形WB3と認知変化に対応する部分の波形WB4が模式的に示されている。さらに、波形WB3には、知覚変化開始タイミングT
3B3が示されると共に、波形WB4には、認知変化開始タイミングT
3B4が示されている。この例によれば、知覚変化開始タイミングT
3B3および認知変化開始タイミングT
3B4の差、例えばT
3B4-T
3B3を計算することにより、第1の時間差TL3を算出できる。
【0066】
さらに、
図7には、新人作業員3Aの脳波データのうち知覚変化に対応する部分の波形WA3と認知変化に対応する部分の波形WA4が模式的に示されている。さらに、波形WA3には、知覚変化開始タイミングT
3A3が示されると共に、波形WA4には、認知変化開始タイミングT
3A4が示されている。この例によれば、知覚変化開始タイミングT
3A3および認知変化開始タイミングT
3A4の差、例えばT
3A4-T
3A3を計算することにより、第2の時間差TL4を算出できる。
【0067】
その上で、評価部15Bは、第1の時間差TL3および第2の時間差TL4の代表値のギャップG2に基づいてベテラン作業員3Bの集中度を評価する。
【0068】
ここで、新人作業員3Aがベテラン作業員3Bよりも緊張感を持って作業に取り込むことが背景となって、新人作業員3Aの知覚および認知の時間差である第2の時間差は、ベテラン作業員3Bの知覚および認知の時間差である第1の時間差よりも短くなる傾向が現れる場合がある。
【0069】
このことから、評価部15Bは、ベテラン作業員3Bの脳波データで観測される第1の時間差および新人作業員3Aの脳波データで観測される第2の時間差のギャップG2が大きくなるに従ってベテラン作業員3Bの集中度を低く評価し、ギャップG2が小さくなるに従ってベテラン作業員3Bの集中度を高く評価することもできる。例えば、評価部15Bは、ベテラン作業員3Bの評価の例として、任意の数値範囲、例えば0~10、あるいは0~100などに正規化された集中度を算出することができる。
【0070】
このように、上記の実施形態に係る応用例によれば、ベテラン作業員3Bの集中度を定性的に評価できる。
【0071】
(2)β波に基づく集中度の評価
上記(1)の他、評価部15Bは、β波の強度を用いて、作業員3の集中度の評価に用いることができる。例えば、作業者3の脳波データのうち13~32Hzの周波数帯域に対応するβ波は、集中力が高まるに従って観測され易くなる傾向がある。このことから、作業者3の脳波データで観測されるβ波の強度が高くなるに従って作業員3の集中度を高く評価し、作業者3の脳波データで観測されるβ波の強度が低くなるに従って作業員3の集中度を低く評価することができる。
【0072】
このようなβ波の強度に基づく集中度の評価は、上記(1)と組み合わせて実施することもできる。例えば、ベテラン作業員3Bの集中度を評価する際、ベテラン作業員3Bの脳波データで観測されるβ波の強度が閾値以上でない場合、上記(1)に基づいて集中度を算出する一方で、β波の強度が閾値以上である場合、β波の強度から集中度を算出する。これにより、ベテラン作業員3Bが慣れにより集中力が低下している可能性が高い場合、新人作業員3Aの脳波データをリファレンスとしてベテラン作業員3Bの集中度を算出することができる。その一方で、ベテラン作業員3Bが慣れにより集中力が低下していない可能性が高い場合、β波の強度から集中度を算出することができる。このため、ベテラン作業員3Bが慣れにより集中力が低下している状況に絞り込んで上記(1)を適用することが可能になる。
【0073】
(3)知覚漏れによる評価
例えば、評価部15Bは、ベテラン作業員3Bの脳波データで観測される知覚変化が新人作業員3Aの脳波データで観測されるか否かにより、新人作業員3Aを評価することもできる。このとき、ベテラン作業員3Bの脳波データで観測される知覚変化が新人作業員3Aの脳波データで観測される場合、ベテラン作業員3Bのみが気づき得る暗黙知が新人作業員3Aにより獲得された可能性が高い。この場合、評価部15Bは、新人作業員3Aの習熟度を高く評価することができる。一方、ベテラン作業員3Bの脳波データで観測される知覚変化が新人作業員3Aの脳波データで観測されない場合、ベテラン作業員3Bのみが気づき得る暗黙知が新人作業員3Aにより獲得されていない可能性が高い。この場合、評価部15Bは、新人作業員3Aの習熟度を低く評価することができる。
【0074】
(4)認知変化のパターンに基づく慣れの評価
評価部15Bは、刺激に対する初期応答、すなわち平静からの変化を知覚変化ととらえたとき、上記の初期応答の後の認知変化のパターンに基づいて作業員3の慣れを評価することもできる。
【0075】
図8は、認知変化のパターンの一例を示す図である。
図8には、刺激に対する初期応答後に分岐する3つの認知変化のパターンP1~P3が模式的に示されている。
図8に示す認知変化のパターンP1は、初期応答後の状態に固定される「恒常活性」である。また、認知変化のパターンP2は、刺激前の状態に慣性を伴いつつ回復する「振動」である。さらに、認知変化のパターンP3は、刺激前の状態に戻る「適応」である。
【0076】
このような3つの認知変化のパターンP1~P3の分類の下、作業員3の脳波データがいずれのパターンに対応するかにより慣れを評価できる。例えば、評価部15Bは、作業員3の脳波データと、3つの認知変化のパターンP1~P3との間で波形の類似度を算出する。そして、認知変化のパターンP1の類似度が最高である場合、評価部15Bは、慣れの度合いを「低」と評価する。また、認知変化のパターンP2の類似度が最高である場合、評価部15Bは、慣れの度合いを「中」と評価する。また、認知変化のパターンP3の類似度が最高である場合、評価部15Bは、慣れの度合いを「高」と評価する。
【0077】
(5)時間差以外の評価軸
上記の実施形態では、知覚および認知の時間差を評価軸として作業員3を評価する例を挙げたが、これ以外の評価軸を用いて作業員3を評価することもできる。例えば、ベテラン作業員3Bが新人作業員3Aよりも監視作業に習熟していることが一因となって、ベテラン作業員3Bの脳波データには、新人作業員3Aの脳波データよりも認知変化に対応する波形が明瞭に現れる傾向がある。監視作業を例に挙げれば、ベテラン作業員3Aは、新人作業員3Aに比べて、アラームの知覚後に当該アラームの種類から当該種類のアラームに対応する対処、例えば原因調査行動やチェック行動を明瞭に認知できている可能性が高い。このことから、新人作業員3Aを評価対象として新人作業員3Aの習熟度を評価する場合、評価部15Bは、新人作業員3Aの脳波データの認知変化で観測される振幅、例えば最小値の変位および最大値の変位の差と、ベテラン作業員3Bの脳波データの認知変化で観測される振幅とのギャップが大きくなるに従って新人作業員3Aの習熟度を低く評価し、ギャップが小さくなるに従って新人作業員3Aの習熟度を高く評価することもできる。なお、ここでは、認知変化における振幅を評価軸に用いる例を挙げたが、知覚変化における振幅を評価軸に用いることもできる。
【0078】
(6)脳波データ
上記の実施形態および上記の応用例では、異なる作業員の脳波データが比較される例を挙げたが、同一の作業員の脳波データを比較することもできる。例えば、同一の作業員3を対象とし、オペレータ業務1年目に測定された脳波データと、オペレータ業務N年目に測定された脳波データとを比較することにより、当該作業員3の成長度を評価することもできる。この場合、オペレータ業務N年目に測定された脳波データを評価対象とする一方でオペレータ業務1年目に測定された脳波データをリファレンスとする。そして、評価部15Bは、1年目の脳波データにおける知覚および認知の時間差から、N年目の脳波データにおける知覚および認知の時間差を減算する。このとき、減算値が大きくなるに従って作業員3の成長度を高く評価する一方で、減算値が小さくなるに従って作業員3の成長度を低く評価することができる。
【0079】
<適用例>
上記の実施形態は一例を示したものであり、種々の適用が可能である。
【0080】
(1)システム
上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0081】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散や統合の具体的形態は図示のものに限られない。つまり、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。
【0082】
さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPU(Central Processing Unit)および当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0083】
(2)ハードウェア
次に、情報処理装置10のハードウェア構成例を説明する。
図9は、ハードウェア構成例を説明する図である。
図9に示すように、情報処理装置10は、通信装置10a、HDD(Hard Disk Drive)10b、メモリ10c、プロセッサ10dを有する。また、
図8に示した各部は、バス等で相互に接続される。
【0084】
通信装置10aは、ネットワークインタフェイスカードなどであり、他のサーバとの通信を行う。HDD10bは、
図2に示した機能を動作させるプログラムやDBを記憶する。
【0085】
プロセッサ10dは、
図2に示した各処理部と同様の処理を実行するプログラムをHDD10b等から読み出してメモリ10cに展開することで、
図2等で説明した各機能を実行するプロセスを動作させる。例えば、このプロセスは、情報処理装置10が有する各処理部と同様の機能を実行する。具体的には、プロセッサ10dは、取得部15A、評価部15Bおよび出力部15C等と同様の機能を有するプログラムをHDD10b等から読み出す。そして、プロセッサ10dは、取得部15A、評価部15Bおよび出力部15C等と同様の処理を実行するプロセスを実行する。
【0086】
このように、情報処理装置10は、プログラムを読み出して実行することでパラメータ算出方法を実行するコンピュータとして動作する。また、情報処理装置10は、媒体読取装置によって記録媒体から上記プログラムを読み出し、読み出された上記プログラムを実行することで上記の実施形態と同様の機能を実現することもできる。なお、この他の実施形態でいうプログラムは、情報処理装置10によって実行されることに限定されるものではない。例えば、他のコンピュータまたはサーバがプログラムを実行する場合や、これらが協働してプログラムを実行するような場合にも、本発明を同様に適用することができる。
【0087】
このプログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することができる。また、このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO(Magneto-Optical disk)、DVD(Digital Versatile Disc)などのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することができる。
【符号の説明】
【0088】
10 情報処理装置
11 通信インタフェイス部
13 記憶部
13A 第1の脳波データ
13B 第2の脳波データ
15 制御部
15A 取得部
15B 評価部
15C 出力部